(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非接触充電装置は主に小型情報通信機器の電源の充電用として用いられるため、小型・低背であることが必要とされる。これに対して、特許文献1に記載された構成によって非接触充電装置の小型化が図れるものの、情報通信機器の小型・低背化やコスト低減の要請に応えるためには、非接触充電装置のいっそうの小型化、簡略化が必要とされていた。また、位置決め・固定手段として永久磁石が用いられると、コイルヨークである磁性シートには伝送コイルから発生する磁束と永久磁石から発生する磁束が流れるため、コイルヨークが部分的に磁気飽和しやすくなる。小型化のために単純に永久磁石を磁性シートに近づけてしまうとかかる傾向が顕著になる。伝送コイルと近接する部分の磁性シートが磁気飽和してしまうと、磁気飽和した部分は透磁率が低下するのでコイルヨークとしての機能が十分得られず、充電装置の電力伝送効率が低下してしまう。したがって、非接触充電装置の小型化の際には、コイルヨークの磁気飽和の問題も考慮する必要があった。
【0008】
これらの点に鑑み、本発明は、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品等の小型・簡略化および効率等の特性改善に寄与しうる磁性シートを提供することを目的とする。また、かかる磁性シートを用いて、伝送コイル部品および非接触充電装置の小型化等を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁性シートは、
永久磁石を伝送コイルの内側に配置した非接触充電装置用の磁性シートであって、 前記磁性シートの一方の主面側に、前記主面の法線方向から見て
幅1mm以上の略環状の第1の凹部を備え、
前記第1の凹部に囲まれた部分は、前記永久磁石をと対向させた状態で、その外縁が前記永久磁石の外縁よりも1mm以上5mm以内の範囲内にあって、前記第1の凹部の底面と他方の主面との距離が、前記第1の凹部の深さよりも小さ
く、前記第1の凹部に囲まれた部分を磁気吸着部材とすることを特徴とする。ここで略環状とは、全体として環状と認識できればよく、完全な円環状の他、楕円や多角形の環状、環の一部が切れている構成、環の内外に凹凸がある形状も含む趣旨である。かかる構成によれば、例えば非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品において、略環状の第1の凹部に囲まれた部分を、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材として用いることができる。この場合、第1の凹部によって磁気ギャップが形成されているため、第1の凹部の外側の磁性シート部分の磁気飽和が抑制される。しかも、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材を、磁性シートの一部で構成できるため、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型化、簡略化が可能である。さらに、第1の凹部の底面と他方の主面との距離が、前記凹部の深さよりも小さくなるように凹部を形成することによって、特性の改善を図ることができる。
【0010】
また、前記磁性シートにおいて、前記第1の凹部が、略環状の開口部を有する第1の磁性層と、前記第1の磁性層に対置され、前記開口部に対応する位置に開口部がない第2の磁性層とによって構成され
、前記第1の磁性層と前記第2の磁性体層とが軟磁性合金薄帯で構成され、前記第2の磁性層の厚さが前記1の磁性体層と第2の磁性体層の合計厚さの1/4以上1/3以下であることが好ましい。かかる構成によれば、簡易な方法で第1の凹部を形成できるため、工程の簡略化、コストの低減に寄与する。
【0011】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層は、軟磁性合金薄帯を用いて構成され、前記第1の磁性層は前記軟磁性合金薄帯を複数重ね合せて構成され、前記第2の磁性層は前記軟磁性合金薄帯を一層のみ用いて構成されて
いて、前記第1の磁性層と前記2の磁性層に厚さが30μm以下の軟磁性合金薄帯であることが好ましい。かかる構成によれば、伝送コイル部品のよりいっそうの効率改善に寄与する。
【0012】
さらに、前記磁性シートにおいて、
前記第1の磁性層に前記第1の凹部に囲まれた部分とその外側の部分を接続する連結部を有し、もって、前前記第1の凹部が前記主面の法線方向から見てC字状
に形成されることが好ましい。かかる構成によれば第1の凹部に囲まれている部分と第1の凹部の外側の部分とが一体となるため、磁性シートの製造工程が簡略化される。
【0013】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記第1の凹部と同じ深さを有し、
前記第1の凹部に囲まれた部分の中心に向かい前記第1の凹部と前記磁性シートの外縁側とを連通させる第2の凹部を有
し、前記連結部の連結方向と前記第2の凹部の連通方向とが、前記第1の凹部に囲まれた部分の中心から見て180度の配置となることが好ましい。かかる構成によれば、略環状の第1の凹部を形成する際、該第1の凹部に相当する部分と第1の凹部の外側の部分とを一体で除去できるため、第1の凹部の形成工程を簡略化できる利点がある。
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の磁性シート。
【0014】
さらに、前記磁性シートにおいて、前記主面の法線方向から見て、前記第2の磁性層の外縁が前記第1の磁性層の外縁の内側にあることが好ましい。かかる構成によれば、磁性シートの使用量を減らすことができるとともに、磁性シートの薄い部分がはみ出すことを防ぎ、外縁部における剥離等の破損を防ぐことができる。
【0015】
本発明の非接触充電装置用の伝送コイル部品は、平面状コイルと、前記のいずれかの磁性シートとを備え、前記第1の凹部に囲まれた部分が、前記平面状コイルの巻回軸上に位置するように、前記磁性シートと前記平面状コイルとが対向して配置されたことを特徴とする。かかる構成によれば、磁気吸着部材の一部として使用可能な第1の凹部に囲まれた部分と、コイルヨーク等として機能する第1の凹部の外側の部分が一体で構成されているため、伝送コイル部品の小型化、簡略化が可能である。
【0016】
本発明の非接触充電装置は、二つの伝送コイル部品を対向させて前記伝送コイル部品間で電力伝送を行う非接触充電装置であって、前記伝送コイル部品の一方が前記コイル部品であり、前記伝送コイル部品の他方は、平面状コイルと、前記平面状コイルの内側に配置された
永久磁石とを有し、前記
永久磁石と、前記第1の凹部に囲まれた部分とが、対向して配置されていることを特徴とする。かかる構成によれば、磁性シートの一部である第1の凹部に囲まれた部分が磁気吸着部材として機能するため、磁気吸着部材に係る構成が簡略化され、非接触充電装置全体の小型化が可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型・簡略化および特性の改善に寄与しうる磁性シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る磁性シート、伝送コイル部品および非接触充電装置の実施形態を図を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施形態において説明する構成は、他の実施形態の趣旨を損なわない限りにおいて他の実施形態においても適用することが可能であり、その場合、重複する説明は適宜省略する。
【0020】
図1は二つの伝送コイル部品を対向させて前記伝送コイル部品間で電力伝送を行う非接触充電装置を示す断面図である。伝送コイル部品の一方が受電装置であり、他方が給電装置である。非接触充電装置の具体例は、例えば携帯通信端末とその充電器である。給電装置および/または受電装置に本発明に係る伝送コイル部品を適用する。受電装置には携帯端末など、受電機能を備えた電子機器本体の他、バッテリーユニット単体も含まれる。
【0021】
交流電源12に接続される給電装置14は回路部13を有する。回路部13は、交流電流を整流する整流回路、整流された直流電流を所定の周波数の高周波電流に変換するスイッチング回路を備える。給電装置14は、平面状コイル9と、平面状コイル9の内側に配置された磁気吸着部材10とを有する。回路部13から出力された高周波電流は一次伝送コイルである平面状コイル9に流れる。平面状コイル9は共振用コンデンサ(図示せず)に接続され、スイッチング回路によって変換される所定周波数と同じ周波数で共振する。給電装置14にはスイッチング回路の動作を制御するための制御回路を設けても良い。
【0022】
受電装置7は、二次伝送コイルである平面状コイル4と、前記平面状コイル4の後面側に配置されたコイルヨークとして磁性シート1とを備える。磁性シート1は、一方の主面側(
図1では平面状コイル4側)に、主面の法線方向から見て略環状の第1の凹部2を備える。なお、一次伝送コイルと対向する側を前面側、逆側を後面側と称することとする。二次伝送コイルである平面状コイル4に加えて共振用コンデンサを配置することで共振回路を構成できる。平面状コイル4には、整流回路(図示せず)を介して二次電池6が接続されており、電磁誘導によって平面状コイル4に誘起された誘導電流は整流回路で整流され、二次電池6が充電される。
【0023】
給電装置14および受電装置7は、例えば樹脂等の非磁性の筐体に収容される。かかる筐体はそれぞれ平坦面を有し、該平坦面同士を対向させて充電を行う。給電装置と受電装置とは、上述の永久磁石10
と磁気吸着部材を用いて互いに位置決め、固定される。例えば磁気吸着部
材は永久磁石からの磁束を誘導する磁気ヨークである。
図1に示す構成では、給電装置14側
に永久磁石を配置し、受電装置側では、磁性シート1に磁気吸着部材としての機能を持たせている。第1の凹部2に囲まれた部分3が、平面状コイル4の巻回軸上に位置するように、磁性シート1と平面状コイル4とが対向して配置されている。さらに、給電装置側の
永久磁石10と第1の凹部に囲まれた部分3とが対向して配置されており、これらの間の磁気的な吸着力によって給電装置14と受電装置7とが位置決め、固定される。第1の凹部2とそれに囲まれた部分3に係る構成については後述する。
【0024】
上記平面状コイル4、9は、その巻回軸が前記平坦面に垂直になるように(平面状のコイルの面が前記平坦面に平行になるように)筐体の内側に配置される。平面状コイル4、9の、前記平坦面の反対側(後面側)には、それぞれ磁性シート1、8が隣接して配置される。筐体内部には、例えば樹脂基板などの基板5、11が配置される。なお、磁性シートと磁気吸着部材の構成は、受電装置と給電装置とで互いに入れ替えて構成することも可能である。ただし、受電装置の小型化の要請が強いため、本願発明に係る磁性シートの構成は少なくとも受電装置側で用いることが好ましい。給電装置側の磁性シート8は受電側の磁性シート1と同じ材質の磁性体を用いてもよいが、別の材質のものを用いてもよい。また、受電側の基板5を省略して、磁性シート1を二次電池6に直接貼付してもよい。磁性シート1、8は、二次電池6等を設置した基板5、11と平面状コイル4、9との間において、その主面が平面状コイル4、9と重なるように、または覆うように配置される。したがって、渦巻き状に巻回された平面状コイル4、9によって発生した磁束が磁性シート1、8に収束して通るようになり、磁性シートが磁気ヨークまたは磁気シールドとして機能する。平面状コイル4、9の巻回軸方向に対置された磁性シート1、8の部分について、以下具体的に説明する。
【0025】
(磁性シートの第1の実施形態)
図2に、本願発明に係る磁性シートの一例として、上述の非接触充電装置の受電装置7に用いる磁性シートを示す。(a)は平面状の磁性シートを主面の法線方向から見た平面図、(b)は該磁性シートの中心を前記法線方向に切断した場合の断面図である。
図2に示す磁性シートは外形が矩形であり、その平坦な一方の主面の中央に略環状の第1の凹部2を有する。磁性シートの構成はかかる構成に限定されるものではない。例えば、磁性シートの外形は多角形、円形、楕円形、異形、さらにはそれらに凹凸をつけた形状など種々の構成を取ることができる。磁性シートを平面状コイルの後面側に配置して非接触充電装置用受電装置などの伝送コイル部品を構成する際、コイルヨークや磁気シールドとしての機能は主に第1の凹部の外側の部分が発揮する。そのため、非接触充電装置を構成する際には、かかる部分が給電側の平面コイルを覆うように、すなわち、磁性シート1の外縁が、給電側の平面コイルの外縁よりも外側になるような形状・配置にすることが好ましい。また、略環状の第1の凹部2も、図に示すような完全な円(真円)環状の他、楕円や正方形・長方形等の多角形の環状でもよい。また、後述するように、環の一部が切れている構成、環の内外に凹凸がある形状でもよい。但し、第1の凹部の形状は、対置される磁気吸着部材の端面形状や該磁気吸着部材の周囲に配置される平面状コイルの内形の相似形状とすることが好ましい。なお、この場合の相似とは、矩形の場合の角部分のアールや微小な凹凸などの相違にかかわらず、全体形状が相似形状であればよいという趣旨である。
【0026】
第1の凹部2に囲まれた部分3は、
図1に示すように、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品において永久磁石に対向配置される磁気吸着部材として機能させることができる。そのような場合でも、第1の凹部2が磁性シート1内の磁気ギャップとして機能し、第1の凹部2に囲まれた部分3と第1の凹部2の外側の部分との間の磁束の流れやそれによる第1の凹部2の外側の部分の磁気飽和を抑制することができる。第1の凹部の外形と内形とを異なる形状にすることも可能であるが、
図2に示す実施形態では、磁束が特定の部分に集中しないよう、第1の凹部の外形と内形をともに円形にしてある。第1の凹部の内形と外形とを異なるものにすることも可能であるが、第1の凹部2の幅は、凹部の延設方向に沿って一定であることがより好ましい。第1の凹部を形成することで磁気ギャップとしての機能が発揮されるが、該機能を高めるためには第1の凹部の幅は例えば1mm以上にするとよい。該幅は、より好ましくは1.5mm以上である。一方、第1の凹部の幅が大きくなりすぎると、磁気ヨークとして機能する部分が少なくなってしまうので、例えば5mm以下にするとよい。該間隔は、より好ましくは3mm以下である。
【0027】
第1の凹部2に底があることによって、完全に貫通している場合に比べて、給電装置からの磁束の後面側への漏れが抑制される。さらに、
図2に示す実施形態では、第1の凹部2の底面と他方の主面との距離d1が、第1の凹部2の深さd2よりも小さい。かかる構成によって、インダクタンスやQ値が向上し、伝送コイル部品やそれを用いた非接触充電装置の高効率化が図られる。第1の凹部2の底面と他方の主面との距離d1が、第1の凹部2の深さd2よりも大きいと、
永久磁石からの磁束が、第1の凹部2に囲まれた部分3から第1の凹部2の外側のシート部分へ流れやすくなり、第1の凹部2の外側のシート部分が磁気飽和しやすくなってしまう。
【0028】
第1の凹部2の形成方法は、これを特に限定するものではない。例えば全体を一体成形してもよいし、複数の部材を組み合わせて構成してもよい。
図2に示す実施形態では、第1の凹部2が、略環状の開口部を有するシート状の第1の磁性層1aと、第1の磁性層1aに対置され、前記開口部に対応する位置に開口部がないシート状の第2の磁性層1bとによって構成されている。一体成形で構成する場合に比べて、凹部を容易に形成することができる。第1の磁性層1aと第2の磁性層1bの外形寸法は同じにしてあり、それらの外縁が一致するように貼り合せてある。第2の磁性層1bは、第1の磁性層1aの環状の開口部に対応する部分以外には、開口部や切り欠き部を有していてもよいが、
図2に示す実施形態のように開口部のないベタの磁性層を用いることがより好ましい。なお、第1の磁性層1aと第2の磁性層1bとを貼り合せる場合など、磁性層間に接着層等の非磁性層が介在する場合には、第1の凹部2の底面と他方の主面との距離d1および第1の凹部2の深さd2は、かかる非磁性体の部分を除いた磁性体の部分で決定する。
【0029】
第1の凹部2を形成するための第1の磁性層1aについてさらに説明する。第1の磁性層1aは、環状の開口部以外の部分が同じ性状のシートで構成されている。例えば、第1の磁性層1a全体を同一の軟磁性合金薄帯から取り出す場合がこれに該当する。この場合、環状の開口部の内側および外側で第1の磁性層の厚さは実質的に一定である。そのため、磁性シート1において、第1の凹部2に囲まれた部分3の表面と、第1の凹部2の外側の部分の表面は同一平面上にあり、高さは一定となる。さらに、上述のように第1の磁性層の一部である、第1の凹部2に囲まれた部分3によって、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材を構成できる。したがって、磁気吸着部材の低背化を通じて、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型化が可能である。
【0030】
図2に示した磁性シートは
図1に示すような非接触充電装置に好適に用いられる。この場合、
図1に示すように、磁気吸着部材10と磁性シート1の対向方向から見て、
永久磁石10の対向面よりも第1の凹部に囲まれた部分3の対向面の方を大きくして、かかる対向方向から見て第1の凹部に囲まれた部分3が磁気吸着部材10全体を内側に包含する構成にすることがより好ましい。かかる構成によれば
永久磁石10からの磁束が第1の凹部の外側に流れることを、より効果的に抑制することができる。また、
永久磁石10の対向面よりも第1の凹部に囲まれた部分3の対向面の方を大きくすることで、受電装置と給電装置との位置ずれの許容量も増える。前記対向方向から見て第1の凹部に囲まれた部分3の外縁が
永久磁石の外縁よりも1mm以上外側になるような大小関係、配置にすることがより好ましい。但し、第1の凹部に囲まれた部分3の外縁が磁気吸着部材の外縁より大きくなりすぎると、対置するコイルとの重なりが大きくなってしまうので、実用上は第1の凹部に囲まれた部分3の外縁が
永久磁石の外縁から5mm以内の範囲になるように配置することが好ましい。
【0031】
磁性シートに用いる軟磁性体は、フェライト、ケイ素鋼板、ロール急冷により製造された軟磁性合金薄帯(以下、単に薄帯ともいう)およびこれらと樹脂の複合材などを用いることができる。渦電流損を低減し、充電の伝送効率を向上させるためには、軟磁性体を薄くすることが好ましい。この点、ロール急冷等により製造される軟磁性合金の薄帯が好適である。また、軟磁性合金薄帯によれば略環状の開口部の形成も容易である。具体的には高飽和磁束密度を有するFe系アモルファス薄帯、Co系アモルファス薄帯、Fe系ナノ結晶軟磁性合金薄帯、Co系ナノ結晶軟磁性合金薄帯などからなる厚さ50μm以下の薄帯を用いるとよい。このうち、Fe系ナノ結晶軟磁性合金薄帯などの微結晶軟磁性合金薄帯は高透磁率を有するため、第1の磁性層および第2の磁性層をかかる微結晶軟磁性合金薄帯で構成することが特に好ましい。薄帯の一枚の厚さは、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。ロール急冷等により製造される軟磁性合金薄帯を用いる場合、第1の磁性層および第2の磁性層はそれぞれ薄帯単層で構成してもよいし、複数の薄帯が樹脂等を介して積層された積層体でこれらの磁性層を構成してもよい。磁性層を積層体で構成することで磁気飽和もしにくくなる。磁性シートを軟磁性合金の薄帯で構成する場合、例えば2〜30層程度で構成すればよい。但し、コスト低減の観点からは薄帯の積層数は10層以下にすることがより好ましい。磁性シートに用いる全ての軟磁性体の厚さを足した厚さは500μm以下とすることができる。低背化のためには該厚さは300μm以下にするとよい。
【0032】
(磁性シートの第2の実施形態)
次に、
図3に、本願発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す。
図3は平面状の磁性シートの中心を、主面の法線方向に切断した場合の断面図である。
図2に示す実施形態と重複する構成の説明は省略する。
図3に示す実施形態は、第1の磁性層と第2の磁性層を、軟磁性合金薄帯を用いて構成した例である。第1の磁性層1aは複数の軟磁性合金薄帯1a(1)、1a(2)を重ね合せて構成され、第2の磁性層1bは軟磁性合金薄帯を一層のみ用いて構成されている。各軟磁性合金薄帯は同じ厚さのものを使用しているが、複数の軟磁性合金薄帯を重ね合せて第1の磁性層1aを構成することで、第1の磁性層1aよりも第2の磁性層1bを薄くし、第1の凹部2の底面と他方の主面との距離が、第1の凹部2の深さよりも小さくなるようにしてある。樹脂等を介して第1の磁性層を複層化することで、渦電流損失の低減にも寄与する。
図3に示す実施形態では、第1の磁性層1aは2層で構成されているが、それ以上でもよい。一方、第2の磁性層1bは1層の軟磁性合金薄帯シートで構成することが好ましい。同じ厚さの軟磁性合金薄帯シートを用い、第1の磁性層および第2の磁性層全体の厚さ(全層数)を一定にした場合、第2の磁性層を一層で構成する形態が、第1の凹部2の深さに比べて第1の凹部2の底面と他方の主面との距離を最も小さくできる構成である。
【0033】
(磁性シートの第3の実施形態)
次に、
図4に、本願発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す。
図4は平面状の磁性シートの中心を、主面の法線方向に切断した場合の断面図である。
図3に示す実施形態と重複する構成の説明は省略する。
図4に示す実施形態は、第2の磁性層1b’の大きさと第1の磁性層1aの大きさが異なる点が
図3に示す実施形態と異なる。
図4に示す実施形態では、磁性シートの主面の法線方向から見て、第2の磁性層1bの外縁が第1の磁性層1aの外縁の内側にある。第2の磁性層を第1の磁性層よりも小さくすることで、磁性層の使用量を減らし、コストの低減が可能である。また、第2の磁性層1bは第1の磁性層1aよりも薄く、強度が低い。したがって、第2の磁性層1bが第1の磁性層1aからはみ出さないような構成にすることで、磁性シートの端部での剥離や変形等の破損を抑制することができる。
図4に示す実施形態において、第2の磁性層の外形は第1の磁性層と同様に矩形であるが、第1の磁性層の外形と同形状である必要はない。例えば、第1の凹部の外形に合わせて円形にしてもよい。
【0034】
(磁性シートの第4の実施形態)
次に、
図5に、本願発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す。
図5は平面状の磁性シートを主面の法線方向から見た平面図である。
図5に示す実施形態では、第1の凹部2’が主面の法線方向から見てC字状をなしている点で
図2に示す実施形態と異なる。
図2に示す実施形態と重複する構成の説明は省略する。第1の凹部2に囲まれた部分3と、第1の凹部2’の外側の部分とが連結部15を介して接続されており、これらが一体で構成されている。第1の凹部2’に囲まれた部分3の形状は、連結部15が形成されている部分を除き全体として円形にしてあるが、円形以外の楕円形や多角形にすることも可能である。磁性シート1は全体を一体成形して形成することも可能であるが、
図5に示す実施形態では、
図2に示す実施形態と同様に、第1の凹部2’は、開口部を有する第1の磁性層と、第1の磁性層に対置され、前記開口部に対応する位置に開口部がない第2の磁性層とによって構成されている。
図5に示す実施形態では、第1の磁性層の開口部はC字状である。C字状の開口部以外の部分が一体のシートで構成されているため、C字状の開口部の内側および外側で第1の磁性層の厚さは実質的に一定である。そのため、磁性シート1において、第1の凹部2’に囲まれた部分3の表面と、第1の凹部2の外側の部分の表面は同一平面上にあり、高さは一定となる。第1の凹部2’に囲まれた部分3によって、永久磁石に対向配置される磁気吸着部材を構成できる点は上述の実施形態と同様である。
図5に示す実施形態では、さらに第1の磁性層に連結部15に相当する部分があることで、部品点数の低減、磁気吸着部材の低背化を通じて、非接触充電装置やそれに用いる伝送コイル部品の小型化、簡略化が可能である。また、製造工程が簡略化され、工数も低減されることから、量産性にも優れる。第1の凹部2’に囲まれた部分3と第1の凹部2’の外側の部分との間の磁束の流れを抑制する観点からは、連結部15の幅が第1の凹部2’に囲まれた部分3の外周全体に対する比で0.2以下、より好ましくは0.1以下になるようにするとよい。一方、連結部の幅が小さすぎると連結部の形成が困難になるため、前記比は0.01以上を確保することが好ましい。非接触充電装置用の場合であれば、連結部15の幅の絶対値の上限は、例えば6mm以下、より好ましくは5mmにするとよい。また、その下限は1mm以上にするとよい。なお、第1の凹部2’が主面の法線方向から見てC字状をなしていればよいので、連結部15は後述するラミネート加工中またはラミネート加工後にクラック等で分断されていても構わない。また、
図2〜4に示した実施形態において示した、第1の凹部に係る構成等が発揮する効果は、連結部15の有無にかかわらず発揮される。
【0035】
(磁性シートの第5の実施形態)
次に、
図6に、本願発明に係る磁性シートの他の実施形態を示す。
図6は平面状の磁性シートを主面の法線方向から見た平面図である。
図6に示す磁性シートは、第1の凹部2’と同じ深さを有し、第1の凹部2’と磁性シート1の外縁側とを連通させる第2の凹部16を有する点が
図5に示す実施形態と異なる。
図5に示す実施形態と重複する構成の説明は省略する。第2の凹部16は、その長手方向が第1の凹部2’の中心に向かう向きに配置されている。第2の凹部16が形成されていることで、第1の凹部2’は磁性シート1の外縁まで続く、平面方向にオープンな凹部となる。第1の凹部2’を、開口部を有する第1の磁性層と、第1の磁性層に対置され、前記開口部に対応する位置に開口部がない第2の磁性層とによって構成する場合、第2の凹部16を備えることで以下の効果を発揮する。例えば軟磁性合金薄帯から第1の磁性層を取り出す場合、第1の磁性層の、第1の凹部2’に対応する部分の薄帯は除去する必要がある。第1の凹部2’ に対応する部分がクローズした開口であると、かかる部分の薄帯の除去がしにくい。これに対して、第1の磁性層の外縁に対してオープンな開口であれば、第1の磁性層の外側の部分を除去する際に、かかる外側の部分とつながっている第1の凹部2’に対応する部分の薄帯も同時に除去でき、工程の簡略化が可能である。
【0036】
第2の凹部16の位置は連結部15と干渉しない位置であればよいが、第2の凹部16は、第1の凹部2’に囲まれた部分3を挟んで連結部15の反対側に配置されていることがより好ましい。例えば、磁性シートを母材から取り出すために、母材を一方向に引きはがす場合、第2の凹部と連結部が近すぎると開口部に対応する母材をスムーズに除去できない。これに対して、第2の凹部16を第1の凹部2’に囲まれた部分3を挟んで連結部15の反対側に配置することで、前記除去がしやすくなる。
図6に示す構成では、第2の凹部16の連通方向と連結部15の連結方向が同じ直線状に乗るような配置、すなわち第1の凹部2’に囲まれた部分3の中心からこれらを見た角度が180度になるような配置になっている。また、
図2〜4に示した実施形態において示した、第1の凹部に係る構成等が発揮する効果は、第2の凹部の有無にかかわらず発揮される。
【0037】
以上の実施形態に対して、さらにスリットを設けてもよい。例えば、少なくとも第1の磁性層に、第1の凹部の中心から放射状に形成されたスリットを設けることができる。
図1に示すような非接触充電装置の場合、平面状コイル9によって発生する磁束は、第1の磁性層1の径方向に流れる。そのため、第1の凹部の中心から放射状にスリットを設けることで、前記磁束とスリットの長手方向とが、略平行になっているため、スリット17によってかかる磁束による渦電流を抑制することができる。スリットは切れ目の形態で形成され、渦電流を阻害するものであればよい。また、スリットはその両端が第1の磁性層内に位置してもよいが、一端が第1の磁性層の外縁まで到達している構成の方がその形成が容易である。スリットの数はこれを特に限定するものではない。
【0038】
磁性シートを積層で構成する場合、各層は接着剤を用いて積層すればよい。さらに、積層等によって構成された磁性シートは、破損を防ぐために補強部材に固着されていることが好ましい。具体的には、樹脂シートなどで軟磁性合金薄帯をラミネート加工した磁性シートを用いることが好ましい。表裏二つの主面の一方に樹脂シートを設けても良いし、両方に設けても良い。上述の第1の磁性層と第2の磁性層間に、接着剤以外の樹脂シートを配置してもよい。第2の磁性層に軟磁性合金薄帯を用いる場合、第1の凹部の底面に接着剤および樹脂シートの少なくとも一方を配置することで軟磁性合金薄帯の露出が抑制される。
【0039】
上述の実施形態では、部品点数の削減、伝送コイル部品等に使用される際のハンドリング性等の観点から、主に第1の磁性層と第2の磁性層とを貼り合せて磁性シートを構成する例を示しているが、必ずしも伝送コイル部品を構成する前に第1の磁性層と第2の磁性層とを貼り合せる必要はない。例えば、第1の磁性層と第2の磁性層とを別体で準備しておき、伝送コイル部品を構成する際に、順次貼り合せてもよい。また、受電装置等の伝送コイル部品や非接触充電装置を構成する際に、第1の磁性層と第2の磁性層をそれぞれ別々の対象物に貼り付け、それらを近接または接触させることで、本願発明の形態を有する磁性シートが構成されてもよい。
【実施例】
【0040】
図6に示す形状を有する磁性シートを用いて伝送コイル部品を構成した。磁性シートの軟磁性体には微結晶軟磁性合金薄帯を用いた。微結晶軟磁性合金薄帯として日立金属株式会社製のファインメット(登録商標)(FT3M材、厚さ18μm)を使用した。第1の磁性層の層数および第2の磁性層の層数の異なる種々の磁性シート(No2、3、5〜7)を作製した。各薄帯は両面接着シート(厚さ10μm)を貼り付けて積層した。最上面に露出する薄帯には厚さ31μmのPET樹脂を貼り付けた。磁性シートの外形は正方形であり、縦、横が45mmである。第1の凹部の外径は25mm、内径は20mmである。連結部の幅及び第2の凹部の幅は4mmである。また、参考のために第2の磁性層を配置せずに、C字状の開口部を有する第1の磁性層のみで構成した磁性シート(No1、4)も用意した。得られた積層磁性シートと平面状コイルを組み合わせて受電側(二次側)の伝送コイル部品を構成した。平面状コイルは線径0.32mmの2パラ線を15ターン巻回して構成し、コイルの外形は40×20mmの矩形、内形は20mm×10mmの矩形とした。一方、給電側(一次側)の平面状コイルは、線径1mmのリッツ線を20ターン(10ターン、2段)巻回して構成し、コイルの外形は直径40mmの円形、内形は直径20mmの円形とした。なお、一次側の磁性シートにはフェライトを使用した。磁性シートと平面状コイルの中心を合わせて伝送コイル部品を構成し、給電側の伝送コイル部品と受電側の伝送コイル部品を
図1と同様に配置して、120kHzでインダクタンスLsとQ値を測定した。結果を表1に示す。第1の磁性層の厚さは、磁性体部分である軟磁性合金薄帯の厚さの合計であり、第1の凹部の深さに相当する。また、第2の磁性層の厚さも磁性体部分である軟磁性合金薄帯の厚さの合計であり、第1の凹部の底面と他方の主面との距離に相当する。なお、ここで言う、第1の凹部の底面と他方の主面との距離および第1の凹部の深さは、上述のように、磁性層間の接着層等の非磁性層の部分を除いた磁性体の部分で決定されるものである。
【0041】
【表1】
【0042】
総層数が3層のNo1〜3の結果を見ると、第2の磁性層を構成する層の数の方が少なく、第1の凹部の底面と他方の主面との距離が、第1の凹部の深さよりも小さいNo2の磁性シートは、第2の磁性層を構成する層の数の方が多く、第1の凹部の底面と他方の主面との距離が、第1の凹部の深さよりも大きいNo3の磁性シートに比べて、LsおよびQとも高いことがわかる。特に、No2の磁性シートは、全層を開口部のある軟磁性金属薄帯シートで構成したNo1の磁性シートに比べてもLsおよびQが優れている。同様に、総層数が4層のNo4〜7の結果を見ると、第1の凹部の底面と他方の主面との距離が、第1の凹部の深さよりも小さいNo5の磁性シートは、第1の凹部の底面と他方の主面との距離が第1の凹部の深さよりも大きいNo3の磁性シートや、第1の凹部の底面と他方の主面との距離が第1の凹部の深さと等しいNo6の磁性シートに比べて、LsおよびQとも高い。特に、No5の磁性シートは、全層を開口部のある軟磁性金属薄帯シートで構成したNo4の磁性シートに比べてもQが優れていることがわかる。
【0043】
なお、全層を開口部のないベタな軟磁性金属薄帯シートを用いて磁性シートを作製したところ、3層の場合はLsは15.3μH、Qは、34.8、4層の場合はLsは15.9μH、Qは33.1であった。すなわち、開口部のある軟磁性金属薄帯シートを用いて構成した表1の磁性シートはいずれもLsおよびQに優れており、第1の凹部自体の効果も確認することができた。