(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048813
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】再溶解用消耗電極
(51)【国際特許分類】
B22D 23/10 20060101AFI20161212BHJP
C22B 9/187 20060101ALI20161212BHJP
C22B 9/20 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
B22D23/10 531
C22B9/187 A
C22B9/20
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2012-277917(P2012-277917)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-121712(P2014-121712A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塔山 拓朗
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−155628(JP,A)
【文献】
特開昭52−123904(JP,A)
【文献】
特開2000−144273(JP,A)
【文献】
特開2000−109940(JP,A)
【文献】
特開平09−241767(JP,A)
【文献】
特開2006−213971(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第1094123(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 23/10,27/02
C22B 9/18, 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱体でなる再溶解用消耗電極において、前記再溶解用消耗電極の外周面には複数の凸部が配列された領域と、複数の凹部が配列された領域とが設けられ、前記複数の凹部が形成された領域は周方向に連続したリング状の領域であり、前記複数の凹部が形成された領域が前記外周面に少なくとも2つ設けられていることを特徴とする再溶解用消耗電極。
【請求項2】
前記凸部および前記凹部は、直方体状であることを特徴とする請求項1に記載の再溶解用消耗電極。
【請求項3】
前記凸部および前記凹部は、楕円状または半球状であることを特徴とする請求項1に記載の再溶解用消耗電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空アーク再溶解(以下、VARという)やエレクトロスラグ再溶解(以下、ESRという)に用いられる再溶解用の消耗電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高清浄度鋼、チタン等のインゴットの製造には、非汚染雰囲気下で溶融できるVAR、ESRと呼ばれる消耗電極式アーク溶解が一般的に用いられている。
この消耗電極式アーク溶解は、るつぼ内に吊り下げた消耗電極に給電してアークを発生させ、そのアーク熱により消耗電極から溶融滴下した溶湯を凝固させる鋳造方法である。
【0003】
この鋳造方法で用いる消耗電極は、所定組成の溶湯を鋳込んで母材を作製して得ることができる。そして、例えばVARでは、消耗電極と溶解プールとの間のアーク加熱を利用し、消耗電極を下端から再溶解することによりインゴットを得ることができる。この方法で得たインゴットは、これによって不純物を除去したり、未溶解を防止したり、成分組成の均一化を図ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した消耗電極は、所定組成の溶湯を鋳型に鋳込んで母材を得るときに、冷却過程で表面に割れが発生する場合がある。この場合には、消耗電極の表面の割れ部を除去するために、旋削等の切削加工を施す工程が必要となり、大幅な歩留低下や工数の上昇を招く。
【0005】
また、消耗電極は、次工程の溶解のために、スタブと呼ばれる把持用部材と溶接により接合される。そして、スタブと消耗電極の溶接は、消耗電極が円柱体であるということから、スタブと消耗電極とを回転させながら溶接されるのが一般的である。
スタブと消耗電極の溶接が不十分であると、溶解中に溶接部が高温に曝され、溶接強度が低下してしまい、消耗電極の残材がスタブから剥がれてインゴット中に落下する虞がある。この場合には、インゴットに混入した非健全部を切断除去したり、再度消耗電極式アーク溶解したりする工程が必要となり、大幅な歩留低下や工数の増加を招く。
【0006】
本発明の目的は、円柱体でなる再溶解用の消耗電極において、消耗電極鋳造時に生じる消耗電極の表面割れの問題を解決し、さらに、スタブと消耗電極との溶接作業性を向上させることができる、新規な再溶解用の消耗電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、再溶解用の消耗電極表面の割れ、およびスタブと消耗電極との溶接作業性の問題を検討し、消耗電極の本体の外周面に特定の形状を採用することで、歩留向上と工数削減を同時に達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、円柱体でなる再溶解用消耗電極において、前記再溶解用消耗電極の外周面には複数の凸部が配列された領域と、複数の凹部が配列された領域とが設けられ、前記複数の凹部が形成された領域は周方向に連続したリング状の領域であり、前記複数の凹部が形成された領域が前記外周面に少なくとも2つ設けられている再溶解用消耗電極の発明である。
前記凸部および前記凹部は、直方体状であることが好ましく、楕円状または半球状であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スタブとの溶接作業性を損なうことなく再溶解用の消耗電極の歩留向上を達成することができ、例えば、高清浄度鋼やチタン等のインゴットの製造に有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の再溶解用消耗電極の表面形状の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の再溶解用消耗電極の外周面に配列される凸部の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の再溶解用消耗電極の形状寸法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重要な特徴は、円柱体でなる再溶解用の消耗電極の外周面に、特定の形状を採用したことにある。
本発明の再溶解用消耗電極の一例を模式的に表したものを
図1に示す。本発明の再溶解用消耗電極1は、円柱体でなる本体の外周面に複数の凸部2を配列している。これは、再溶解用消耗電極1の表面積を増加させて、鋳造時の外部との熱交換を促進するためである。本発明の再溶解用消耗電極1は、円柱体でなる本体の外周面に複数の凸部2を配列することにより、再溶解用消耗電極作製の鋳造時に、外部との冷却が促進され、速やかに強固な凝固膜を成長させることが可能となり、表面割れを抑制することができ、歩留向上に寄与する。
本発明の再溶解用消耗電極1は、その表面積を、凹凸部のない円柱体の表面積Sに対して、1.01S〜1.20Sにすることが好ましい。再溶解用消耗電極1の表面積が1.01Sより小さいと、鋳造時の外部との熱交換が促進されず、表面割れを抑制することが困難になる。一方、再溶解用消耗電極1の表面積が1.20Sを超えると、再溶解用消耗電極1と鋳型との摩擦抵抗が増大し、抜塊が困難になる。
【0012】
上述したように、スタブと再溶解用消耗電極1の溶接は、再溶解用消耗電極1が円柱体でなるということから、再溶解用消耗電極1を2対のローラ上に配置して回転させながらスタブと溶接されるのが一般的である。上記の目的で再溶解用消耗電極1の表面積を増加させるために、再溶解用消耗電極1の全面に凸部2を設けてしまうと、再溶解用消耗電極1の受けとなる2対のローラと再溶解用消耗電極1との回転がスムーズに行えなくなる。その結果、溶接の作業性が低下することに加え、溶接が確実に行えず、溶接強度が低下してしまうという問題が生じる場合がある。
本発明の再溶解用消耗電極1は、複数の凹部3が配列された領域を設ける。そして、これら複数の凹部3が形成された領域を周方向に連続したリング状の領域とし、少なくとも2つ設ける。これにより、本発明の再溶解用消耗電極1は、その表面積を増加させることができ、表面割れの問題を解決することができる上、溶接時に用いる2対のローラとの接触が円滑になり、再溶解用消耗電極1の回転をスムーズにすることができ、溶接作業性の改善が可能となり、溶接強度が確保できる。
【0013】
本発明の再溶解用消耗電極1の本体の外周面に配列する凸部2および凹部3は、その表面積を増加させることできるものであればどのような形状でもよく、直方体状、楕円状および半球状のものを適用することができる。再溶解用消耗電極を得るための鋳型を造型する観点からは、できるだけ簡素な形状がよく、直方体状の凸部および凹部とすることが好ましく、
図2に示すような楕円状または半球状がより好ましい。
また、本発明の再溶解用消耗電極1の本体の外周面に配列する凸部2および凹部3は、外周面と曲面で接続するか、または面取りを施して接続することが好ましい。これにより、鋳型および再溶解用消耗電極に発生する熱応力を緩和することができ、抜塊時や冷却時に表面割れを抑制できる。
本発明の再溶解用消耗電極1の本体の外周面に配列する凸部2および凹部3は、
図1に示すように、円柱体の長手方向および円周方向に沿って規則的に配列させることが好ましい。これにより、再溶解用消耗電極1の外周面を均一に冷却することができ、表面割れの抑制が可能となる。
本発明の再溶解用消耗電極1は、
図1に示す凸部2および凹部3が得られるように円筒の内壁面に凹部および凸部を形成して造型された鋳型に所定組成の溶湯を鋳込むことで得ることができる。
【実施例】
【0014】
図3に示す再溶解用消耗電極1を得るために、先ず、
図3に示す凸部2および凹部3を相対的に反転させて形成した鋳型を用意した。この鋳型を用いて鋳造を行い、3tonの再溶解用消耗電極1を作製した。鋳造後に得られた再溶解用消耗電極1の表面を目視により観察を行なったところ、その表面には割れ等の欠陥が発生していないことを確認できた。
次に、得られた再溶解用消耗電極1とスタブとを回転させながら溶接した。溶接作業中には、再溶解用消耗電極1の回転をスムーズに行うことができ、再溶解用消耗電極1とスタブとの溶接を確実に行うことができた。
次に、スタブを溶接した再溶解用消耗電極1をるつぼ内に吊り下げ、再溶解用消耗電極1に給電してアークを発生させ、そのアーク熱により再溶解用消耗電極1から溶融滴下した溶湯を凝固させ、インゴットを作製した。このとき、再溶解用消耗電極1は、スタブから剥がれることなく、正常に鋳造することができ、溶接性が確保されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0015】
1 再溶解用消耗電極
2 凸部
3 凹部