特許第6048896号(P6048896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048896窒化物半導体素子用基板とその製造方法、および赤色発光半導体素子とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048896
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子用基板とその製造方法、および赤色発光半導体素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20161219BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20161219BHJP
   H01L 33/24 20100101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L33/32
   H01L33/24
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-531567(P2014-531567)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2013070903
(87)【国際公開番号】WO2014030516
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2015年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-184347(P2012-184347)
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康文
(72)【発明者】
【氏名】小泉 淳
(72)【発明者】
【氏名】寺井 慶和
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−282942(JP,A)
【文献】 特開2006−005044(JP,A)
【文献】 特開2000−091703(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0106222(US,A1)
【文献】 古川直樹,OMVPE法によるEu添加GaNの大気圧成長と高輝度赤色発光ダイオードへの応用,大阪大学工業会誌テクノネット,2012年 7月,pp. 7-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/18−21/20、21/205−21/31、
21/34−21/36、21/365、21/469、
21/84−21/86、33/00、
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属窒化物を用いた窒化物半導体素子用基板の製造方法であって、
金属窒化物を母材として、前記母材上に所定の形状のマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された前記母材上に、選択成長法を用いて、前記母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成されるように、前記母材と同じ材質の立体構造を成長させる立体構造成長工程と、
前記立体構造のアンドープ層の側面上に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、希土類元素が前記金属窒化物の金属元素と置換するように添加された活性層を成長させる活性層成長工程と
を備えており、
前記活性層成長工程において、活性層の成長条件を制御することにより、所望する高指数面の活性層を成長させる
ことを特徴とする窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項2】
金属窒化物を用いた窒化物半導体素子用基板の製造方法であって、
金属窒化物を母材として、前記母材上に所定の形状のマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された前記母材上に、選択成長法を用いて、前記母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成されるように、前記母材と同じ材質の立体構造を成長させる立体構造成長工程と、
前記立体構造のアンドープ層の側面上に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、希土類元素が前記金属窒化物の金属元素と置換するように添加された活性層を成長させる活性層成長工程と
を備えており、
前記立体構造成長工程において、立体構造の成長条件を制御することにより、立体構造のアンドープ層の側面に所望する高指数面の活性層を形成させることを特徴とする窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項3】
前記活性層成長工程において、活性層の成長条件を制御することにより、所望する高指数面の活性層を成長させる
ことを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項4】
前記活性層の成長条件の制御が、成長温度により行われることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項5】
前記立体構造の成長条件の制御が、成長温度により行われることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項6】
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全に覆うように前記立体構造を成長させる
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項7】
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全には覆わないように前記立体構造を成長させて、Siを意図的に活性層に添加する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項8】
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全に覆うように前記立体構造を成長させた後、Siを意図的に活性層に添加する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項9】
前記金属窒化物が、GaNであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項10】
前記活性層成長工程において添加される希土類元素が、Euであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項11】
さらに、形成された前記活性層をマスクするマスク工程を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法。
【請求項12】
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子の製造方法であって、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母材として、前記母材上に所定の形状のマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された前記母材上に、選択成長法を用いて、前記母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成されるように、前記母材と同じ材質の立体構造を成長させる立体構造成長工程と、
前記立体構造のアンドープ層の側面上に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、EuまたはPrがGa、InあるいはAlと置換するように添加された活性層を成長させる活性層成長工程と
を備えていることを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全に覆うように前記立体構造を成長させる
ことを特徴とする請求項12に記載の赤色発光半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記活性層成長工程において、成長温度を制御することにより、所望する指数面を有する前記活性層を成長させることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の赤色発光半導体素子の製造方法。
【請求項15】
前記活性層成長工程において添加される元素が、Euであることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の赤色発光半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子用基板とその製造方法、および赤色発光半導体素子とその製造方法に関し、さらに、前記窒化物半導体素子用基板を用いた窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などの窒化物半導体は、青色発光デバイスを構成する半導体材料として注目されており、近年では、GaNにインジウム(In)を高濃度添加することにより、緑色さらには赤色発光デバイスを実現できると期待されている。しかし、高In組成になるに従い、In組成の揺らぎやピエゾ電界効果が顕著になるため、窒化物半導体を用いた赤色発光デバイスの実現には至っていないのが現状である。
【0003】
一方、窒化物半導体のワイドギャップに着目し、GaNを添加母体として、希土類元素のユーロピウム(Eu)やプラセオジム(Pr)が添加された半導体が赤色発光デバイスとして有望視されている。
【0004】
このような状況下、本発明者らは、世界に先駆けてEuまたはPr添加GaNを活性層とする赤色発光ダイオード(LED)の実現に成功した(特許文献1)。
【0005】
そして、このような赤色発光ダイオードの実現により、既に開発されている青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードと併せて、同一基板上に窒化物半導体を用いた光の三原色の発光ダイオードを集積化することが可能となるため、小型で高精細なフルカラーディスプレイや、現在の白色LEDには含まれていない赤色領域の発光が加えられたLED照明などの分野への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2010/128643 A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した赤色発光ダイオードの光出力は、現状では50μW程度に留まっており、実用化には発光強度(光出力)の更なる向上が求められている。
【0008】
赤色発光ダイオードの光出力を向上させるためには、Euの添加濃度を可能な限り増大させることが必要である。
【0009】
しかし、従来は、図6に示すように、サファイア基板11の(0001)面上にGaNバッファ層12、およびアンドープGaN層13を成長させて、表面が(0001)面である母材テンプレート10を作製し、その表面にEu添加GaN層30の(0001)面を成長させていたため、Euの添加濃度を大きくした場合、Eu3+のイオン半径が置換されるGa3+のイオン半径に比べて1.5倍大きいことから結晶成長表面の荒れを招き、光出力を向上させることができなかった。
【0010】
一方、サファイア基板を(0001)面よりも高指数面に切り出して、この上に高指数面のアンドープGaN層を成長させた母材テンプレートを用いることにより、高指数面のEu添加GaN層を成長させると、不純物添加特性を向上させる結合手の密度が増加してEuの取り込みが促進されるため、光出力の向上を図ることが期待できる。しかし、このような加工にはコストが掛かるため、赤色発光半導体素子の製造コストを大きく上昇させ、一般的には使用することができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、サファイア基板を高指数の面に切り出すという高価な加工を必要とすることなく、高い発光強度(光出力)を備えた赤色発光半導体素子を安価に製造することができる赤色発光半導体素子の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題の解決について以下のように検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明者は、(0001)面のアンドープGaN層が形成された従来の安価な母材テンプレート上に、予め、(0001)面よりも高指数面のGaN層(アンドープ)を成長させ、この上にEu添加GaN層を成長させることができれば、高指数面に切り出された基板を用いてEu添加GaN層を成長させた場合と同様に、高指数面のEu添加GaN層を成長させることができ、高い発光強度(光出力)を備えた赤色発光半導体素子を安価に製造することができると考えた。
【0014】
そして、検討の結果、選択成長法を適用することにより、(0001)面のアンドープGaN層上に、側面に(0001)面よりも高指数の面が形成されたGaN立体構造を成長させることができ、この側面の高指数面を利用してEu添加GaN層を成長させた場合、高指数面に特異な不純物添加特性を利用してEu添加濃度を向上させることができ、高い光出力を得ることができることを見出した。
【0015】
具体的には、図1に示すように、サファイア基板11の(0001)面上にGaNバッファ層12、およびアンドープGaN層13を成長させた従来の母材テンプレート10(図1(a))の表面にSiOマスク層14を設けた(図1(b))後、アンドープGaN層13およびSiOマスク層14の上にGaN立体構造20を成長させた(選択成長法)(図1(c))。
【0016】
そして、このGaN立体構造20の側面に、アンドープGaN層13の(0001)面に比べてより高指数面である{1−101}ファセット面が形成されていることを確認した(図2)。
【0017】
なお、SiがEuとともに添加されるとEuの赤色発光を得ることができないため、上記においてGaN立体構造20は、SiOマスク層14が完全に覆われる状態まで成長させた。
【0018】
そして、このGaN立体構造20の側面に形成された{1−101}ファセット面上に{1−101}面のEu添加GaN層30を成長させることにより、従来よりも光出力が向上することを確認した。
【0019】
その後、本発明者が、さらに、前記したGaN立体構造の{1−101}ファセット面上にEu添加GaN層を成長させるより好ましい条件について、種々の実験と検討を行ったところ、成長温度の僅かな違いによりEu添加GaN層の成長面が大きく変化し、光出力が飛躍的に向上するという予想もしない結果が得られた。
【0020】
即ち、図3に示すように、成長温度が940℃の場合にはGaN立体構造20の側面と同じ{1−101}面が形成されていたのに対して、960℃の場合には{2−201}面、980℃の場合には{3−301}面と、成長温度を僅かに変えることだけでGaN立体構造20の側面に比べてより高指数のファセット面が形成された。
【0021】
これは、Euの添加により成長速度が遅くなることに加えて、成長温度の変化に応じてEu添加GaN層の成長モードが変化したため、異なる指数面が形成されたものと推測される。
【0022】
そして、このような{2−201}面や{3−301}面のEu添加GaN層における光出力は、前記した{1−101}における光出力に比べ、さらに飛躍的に向上していることが分かった。
【0023】
以上のように、本発明者は、選択成長法を適用して母材上のアンドープGaN上に高指数面の側面を有するGaN立体構造を成長させ、その後、このGaN立体構造の高指数面上に成長条件を制御してEu添加GaN層を成長させることにより、従来よりも光出力が向上した赤色発光半導体素子を提供できることを見出した。
【0024】
このように光出力が向上した理由としては、高指数面のEu添加GaN層を成長させることにより、前記した結合手の密度の増加に加え、さらに、基板と平行かつストライプ方向と垂直な方向に成長することで、SiOマスク上で基板に拘束されないEu添加GaN層が成長し、Eu添加GaN層が変形することによってイオン半径の大きなEuに起因する歪みが緩和されて、Euの取り込みがより促進されて(即ち、Eu添加濃度が向上)、光出力の向上がもたらされたものと考えられる。
【0025】
そして、このような高い光出力のデバイス特性に優れた赤色発光ダイオードの実現により、「赤・緑・青」の光の三原色の発光ダイオードを実用化レベルで集積化することが可能となるため、小型かつ高精細な高出力の発光ダイオードを用いたフルカラーディスプレイを実現することができる。
【0026】
また、現在の白色LEDには含まれていない赤色領域の強度の高い発光を加えることにより、現在赤色LEDとして使用されているAlGaInP系LEDの代替のみならず、周囲の温度によって発光波長が変化しないという希土類元素の特性を生かした高輝度LED照明が可能となる。
【0027】
なお、以上においては、選択成長法を適用する面として(0001)面を挙げて説明してきたが、(0001)面に限定されず、他の指数面であっても上記の効果と同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、母材としてGaN、添加元素としてEuを挙げて説明してきたが、特許文献1の場合と同様に、母材としてはGaNに限定されず、InN、AlNまたはこれらの混晶(InGaN、AlGaN等)を母材としても、上記の効果と同様の効果を得ることができる。
【0029】
また、添加元素もEuに限定されず、Prを添加元素としても上記の効果と同様の効果を得ることができる。即ち、これらの元素は外殻電子が内殻電子により遮蔽されており、殻内遷移に伴う発光が590nm以上の波長であり、これがNTSC色域、HDTV色域に限定されず、赤みが感じられる光であるため、Euに限定されず、Prであってもよい。
【0030】
以上のように、本発明者は、赤色発光半導体素子の作製において、選択成長法を適用して母材のアンドープGaN上に高指数面の側面を有するGaN立体構造を成長させ、その後、このGaN立体構造の高指数面上にEu添加GaN層を成長させることにより、光出力がより向上した赤色発光半導体素子を安価に提供できることを見出した。そして、成長温度など、Eu添加GaN層の成長条件を変化させることにより、種々に高指数面化されたEu添加GaN層を得ることができることを見出した。
【0031】
そして、本発明者は、これらの技術により作製された半導体素子は上記した赤色発光半導体素子としての使用に限定されず、他の窒化物半導体素子の作製時の基板として好ましく使用できることに思い至った。
【0032】
即ち、GaNやInNなどの窒化物は、大きなワイドギャップを有しており、このワイドギャップを利用することにより、種々の用途に適した窒化物半導体素子を提供することができるが、用途に適した特性を充分に発揮させるためには、その特性に対応した指数面、特に高指数面の窒化物層を基板上に形成させる必要がある。
【0033】
一方、本発明者は、上記したように、窒化物半導体素子の一種である赤色発光半導体素子の光出力を向上させる技術を検討する中で、選択成長法を適用して高指数面の側面を有するGaN立体構造を成長させると共に、GaN立体構造の高指数面上にEu添加GaN層を成長させることにより、所望する高指数面のEu添加GaN層を安価に形成することができることを見出した。
【0034】
即ち、(0001)面のアンドープGaN層上に、選択成長法を適用して、側面に(0001)面よりも高指数の面が形成されたGaN立体構造を成長させ、この側面の高指数面を利用してEu添加GaN層を成長させた場合、その成長条件を制御することにより、高指数面のEu添加GaN層を成長させることができるという予想もしなかった結果を得ることに成功した。
【0035】
このため、上記技術を用いて活性層の成長条件を制御することにより、広い範囲に亘って所望の指数面のGaN層を得ることができ、種々の用途に適した特性の窒化物半導体素子用基板を提供することができる。
【0036】
さらに、所望する高指数面の活性層は、活性層の成長条件の制御だけでなく、選択成長における成長条件を制御することによっても得られると考えられる。
【0037】
そして、Euの基本的な化学的性質や蒸気圧は他の希土類元素においても大きく相違しないため、Euに替えて他の希土類元素を用いても同様に高指数面を成長させることができ、また、GaN層に替えて他の窒化物層を用いても同様に高指数面を成長させることができる。
【0038】
また、母材上に形成するマスクの形状やサイズは、適宜設定することができるが、前記したSiがEuとともに添加された場合のように、希土類元素とともにSiが添加されることによる影響を避ける必要がある場合には、マスクが完全に覆われるように立体構造を成長させることが好ましい。
【0039】
なお、上記とは逆に、マスクで完全に覆わずに立体構造を成長させて、Siを意図的に活性層に添加して、活性層の発光を防止するなど、希土類元素とともにSiが添加されることによる影響を利用してもよい。
【0040】
なお、マスクで完全に覆った後、立体構造の成長に際して、希土類元素とともにSiを意図的に添加して、活性層の発光を防止するなど、希土類元素とともにSiを添加することによる影響を利用してもよい。
【0041】
上記のように作製された窒化物半導体素子用基板は、予め高指数面を切り出す加工などが不要であり、安価に提供することができる。
【0042】
請求項1〜請求項15に記載の発明は、以上の知見に基づく発明である。
【0043】
即ち、請求項1に記載の発明は、
金属窒化物を用いた窒化物半導体素子用基板の製造方法であって、
金属窒化物を母材として、前記母材上に所定の形状のマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された前記母材上に、選択成長法を用いて、前記母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成されるように、前記母材と同じ材質の立体構造を成長させる立体構造成長工程と、
前記立体構造のアンドープ層の側面上に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、希土類元素が前記金属窒化物の金属元素と置換するように添加された活性層を成長させる活性層成長工程と
を備えており、
前記活性層成長工程において、活性層の成長条件を制御することにより、所望する高指数面の活性層を成長させる
ことを特徴とする窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0044】
本請求項の発明においては、活性層の成長に際して、その成長条件を制御することにより、所望する高指数面の活性層を成長させることができ、このような高指数面の活性層を成長させた窒化物半導体素子用基板を用いることにより、種々の用途に適した特性を備えた窒化物半導体素子を安価に製造することができる。
【0045】
請求項2に記載の発明は、
金属窒化物を用いた窒化物半導体素子用基板の製造方法であって、
金属窒化物を母材として、前記母材上に所定の形状のマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された前記母材上に、選択成長法を用いて、前記母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成されるように、前記母材と同じ材質の立体構造を成長させる立体構造成長工程と、
前記立体構造のアンドープ層の側面上に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、希土類元素が前記金属窒化物の金属元素と置換するように添加された活性層を成長させる活性層成長工程と
を備えており、
前記立体構造成長工程において、立体構造の成長条件を制御することにより、立体構造のアンドープ層の側面に所望する高指数面の活性層を形成させることを特徴とする窒化物半導体素子用基板の製造方法である。。
【0046】
母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成された立体構造を成長させる条件を制御することによっても、所望する高指数面の活性層を形成させることができ、このような高指数面の活性層を成長させた窒化物半導体素子用基板を用いることにより、種々の用途に適した特性を備えた窒化物半導体素子を安価に製造することができる。
【0047】
請求項3に記載の発明は、
前記活性層成長工程において、活性層の成長条件を制御することにより、所望する高指数面の活性層を成長させる
ことを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0048】
立体構造を成長させる条件を制御すると共に、活性層の成長に際して、その成長条件を制御することにより、より高指数面の活性層を成長させることができる。
【0049】
請求項4に記載の発明は、
前記活性層の成長条件の制御が、成長温度により行われることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0050】
請求項5に記載の発明は、
前記立体構造の成長条件の制御が、成長温度により行われることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0051】
活性層の成長条件の制御や立体構造の成長条件の制御において、成長温度は容易に制御することができるため成長条件の制御方法として好ましい。
【0052】
請求項6に記載の発明は、
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全に覆うように前記立体構造を成長させる
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0053】
マスク材としては、SiOやSiNなどを使用することができるが、SiOマスク材は、安価で入手も容易であるため好ましい。
【0054】
母材上に形成するマスクの形状やサイズは、適宜設定することができるが、前記したSiがEuとともに添加された場合のように、希土類元素とともにSiが添加されることによる影響を避ける必要がある場合には、マスクが完全に覆われるように立体構造を成長させることが好ましい。
【0055】
請求項7に記載の発明は、
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全には覆わないように前記立体構造を成長させて、Siを意図的に活性層に添加する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0056】
マスクで完全には覆わず、一部を露出させた状態で立体構造を成長させて、Siを意図的に活性層に添加して、活性層の発光を防止するなど、希土類元素と共にSiが添加されることによる影響を利用することにより、活性層の特性を幅広く制御することができる。
【0057】
請求項8に記載の発明は、
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全に覆うように前記立体構造を成長させた後、Siを意図的に活性層に添加する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0058】
マスクを完全に覆うように立体構造を成長させた後、Siを意図的に活性層に添加して、活性層の発光を防止するなど、希土類元素と共にSiを添加することによる影響を利用することによっても、活性層の特性を幅広く制御することができる。
【0059】
請求項9に記載の発明は、
前記金属窒化物が、GaNであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0060】
窒化物半導体を形成する金属窒化物の内でも、GaNは一般的に使用されているため成長条件が既によく分かっており、また、安価に入手することができる。
【0061】
請求項10に記載の発明は、
前記活性層成長工程において添加される希土類元素が、Euであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0062】
Euは、前記した赤色発光半導体素子の製造にも用いられているため活性層の成長条件が既によく分かっており、また、安価に入手することができる。
【0063】
請求項11に記載の発明は、
さらに、形成された前記活性層をマスクするマスク工程を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子用基板の製造方法である。
【0064】
例えば、Eu添加GaN層を活性層とする窒化物半導体素子用基板上に窒化物半導体を形成すると活性層が赤色発光するように、窒化物半導体に対して活性層が影響を与える場合がある。このような恐れがある場合には、活性層をマスクすることにより、窒化物半導体に対する活性層の影響を防止することができる。
【0065】
なお、マスクとしては、前記したSiOやSiNなどを使用することができる。
【0072】
請求項12に記載の発明は、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を用いた赤色発光半導体素子の製造方法であって、
GaN、InN、AlNまたはこれらのいずれか2つ以上の混晶を母材として、前記母材上に所定の形状のマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクが形成された前記母材上に、選択成長法を用いて、前記母材よりも高指数面のアンドープ層が側面に形成されるように、前記母材と同じ材質の立体構造を成長させる立体構造成長工程と、
前記立体構造のアンドープ層の側面上に、有機金属気相エピタキシャル法を用いて、EuまたはPrがGa、InあるいはAlと置換するように添加された活性層を成長させる活性層成長工程と
を備えていることを特徴とする赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0073】
本請求項の発明においては、母材上にマスクを設けて選択成長法を用いて母材と同じ材質からなる立体構造を成長させることにより、立体構造のアンドープ層の側面に母材よりも高指数面の層を形成させることができる。
【0074】
そして、立体構造の側面に形成された高指数面上に、有機金属気相エピタキシャル法(OMVPE法)を用いてEu添加GaN層などの活性層を成長させることにより、高い光出力の赤色発光半導体素子を得ることができる。
【0075】
請求項13に記載の発明は、
前記マスクがSiO製のマスクであり、
前記マスクを完全に覆うように前記立体構造を成長させる
ことを特徴とする請求項12に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0076】
マスク材としては、SiOやSiNなどを使用することができるが、SiOマスク材は、安価で入手も容易であるため好ましい。
【0077】
母材上に形成するマスクの形状やサイズは、適宜設定することができるが、前記したように、SiがEuとともに添加されると赤色発光を得ることができなくなるため、マスクが完全に覆われるように立体構造を成長させることが好ましい。
【0078】
また、請求項14に記載の発明は、
前記活性層成長工程において、成長温度を制御することにより、所望する指数面を有する前記活性層を成長させることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0079】
前記したように、本発明者は形成された立体構造の側面にEu添加GaN層などの活性層を成長させた場合、成長温度の僅かな違いにより活性層の成長面が大きく変化して、光出力が飛躍的に向上するという予想もしない結果を得た。
【0080】
この結果は、母材の指数面に基づいて選択成長法を適用して立体構造を成長させ、さらに、立体構造の側面にEuやPrが添加された活性層を成長させた場合、成長温度を僅かに制御するだけで、広い範囲に亘って所望する指数面の活性層が得られることを示している。そして、このように所望する指数面の活性層を成長させることにより、所望の高い光出力の赤色発光半導体素子を得ることができる。
【0081】
本発明者の知る範囲において、このような知見は未だ知られていない。
【0082】
なお、成長温度を制御することにより活性層の成長モードを変えること以外に、他の制御方法により活性層の成長モードを変えることも考えられるが、成長温度は容易に制御することができるため、活性層の成長モードを制御する方法として好ましい。
【0083】
また、請求項15に記載の発明は、
前記活性層成長工程において添加される元素が、Euであることを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の赤色発光半導体素子の製造方法である。
【0084】
Euは、Prに比べて赤色発光効率が高いため、添加元素としてより好ましい。また、Euはカラーテレビの赤色蛍光体としての実績もあり、Prに比べてEu化合物の入手も容易である。
【0085】
なお、具体的なEu源としては、例えば、Eu[C(CH等の一般式Eu[C(CHR](R:アルキル基)で示されるEu化合物、Eu[C(CHH]、Eu{N[Si(CH、Eu(C、Eu(C1119等を挙げることができるが、これらの内でも、Eu{N[Si(CHやEu(C1119は、反応装置内での蒸気圧が高く、効率的な添加を行うことができるため好ましい。
【発明の効果】
【0088】
本発明によれば、所望の指数面を有する窒化物半導体素子用基板および窒化物半導体素子を容易かつ安価に提供することができ、また、高い発光強度(光出力)を備えた赤色発光半導体素子を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】本発明に係る赤色半導体の製造工程を模式的に説明する図である。
図2】選択成長法により形成されたGaN立体構造の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】本発明に係る赤色半導体の製造方法において形成されたEu添加GaN層の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】本発明に係る赤色半導体の構成を模式的に示す図である。
図5】赤色発光半導体素子のフォトルミネッセンスの測定結果の一例を示す図である。
図6】従来の赤色発光半導体素子の構成を模式的に示す図である。
図7】赤色発光半導体素子のX線吸収端近傍構造スペクトルの測定結果の一例を示す図である。
図8】SiOマスク層が完全には覆われていない赤色発光半導体素子の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0091】
1.赤色発光半導体素子の製造
図1は、本実施の形態に係る赤色発光半導体素子の製造工程を模式的に示す図であり、10は母材テンプレートであり、サファイア基板11、GaNバッファ層12、およびアンドープGaN層13より構成されている。また、14はSiOマスク層である。
【0092】
(1)母材テンプレートの作製
最初に、厚さが430μmの(0001)面サファイア基板11を用意し、有機溶媒に浸して超音波洗浄し、さらに塩酸と超純水を混合した洗浄液、アンモニア水、超純水の順に浸して洗浄した。
【0093】
次に、サファイア基板11をMOVPE装置内にセットし、GaNバッファ層12およびアンドープGaN層13をサファイア基板11の(0001)面上に成長させた。
【0094】
具体的には、サファイア基板11をパスボックスに導入して窒素ガスで置換した後に、グローブボックス内の石英サセプタトレイにサファイア基板11を載置し、石英反応管のサセプタにセットした。
【0095】
その後、純化した水素ガスを石英反応管に導入し、圧力を大気圧状態に保持して、アンモニア(NH)ガスを流しながらサファイア基板11を475℃まで昇温させ、トリメチルガリウム(TMGa)を供給することにより、GaNバッファ層12を85秒間成長させた。
【0096】
その後、さらに、サファイア基板11を1150℃まで昇温させ、アンドープGaN層13を30分間成長させて、図1(a)に示す母材テンプレート10を作製した。
【0097】
なお、上記に替えて、予め上記の構造が形成された市販の母材テンプレートを用いることもできる。
【0098】
(2)マスク層の形成
次に、作製された母材テンプレート10をMOVPE装置から取り出し、電子ビーム蒸着法を用いて、膜厚100nmのSiOマスク層14をアンドープGaN層13の上に形成させて、図1(b)に示す選択成長用基板を作製した。
【0099】
具体的には、フォトリソグラフィーを用いてアンドープGaN層13に対して<11−20>方向に5μm幅のストライプ形状にフォトレジストの窓を間隔5μmにて形成した後、フッ化水素酸によりSiOマスク層14をエッチングすることにより、選択成長用基板を作製した。
【0100】
(3)GaN立体構造の形成
作製した選択成長用基板をMOVPE装置の反応管内へ導入し、成長圧力70kPa、成長温度960℃の雰囲気下、NHおよびTMGaを供給して、選択成長法により、図1(c)に示すようなGaN立体構造20を成長させた。
【0101】
このとき、次工程であるEu添加GaN層の形成において、Eu添加GaN層にSiが添加されると発光させることができないため、アンドープGaN層13およびSiOマスク層14がGaN立体構造20により完全に覆われるようにGaN立体構造20を成長させる必要がある。
【0102】
本実施例においては、GaN立体構造20の成長を以下の3段階に分けて行うことにより、GaN立体構造20によりSiOマスク層14を完全に覆った。即ち、最初の0.5時間はNHを1.5slm、TMGaを1.03sccm供給し、次の0.5時間はNHを3.0slm、TMGaを2.06sccm供給し、最後の1.0時間はNHを4.5slm、TMGaを3.09sccm供給して、GaN立体構造20の成長を行った。
【0103】
成長したGaN立体構造20の断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、図2に示すように、GaN立体構造20の側面には{1−101}ファセット面が形成されており、また、SiOマスク層14が完全に覆われていることが確認できた。
【0104】
(4)Eu添加GaN層の形成
次に、1.5slmのNHを反応管に流しながら、成長圧力70kPaの雰囲気下、
1.03sccmのTMGa、およびEu(DPM)(トリスジピバロイルメタナトユウロピウム)をキャリアガスに水素を用いて、キャリアガス流量1.5slmとして150℃に保持して反応管に供給することにより、GaN立体構造20の{1−101}ファセット面上にEu添加GaN層30を40分間成長させて、図1(d)に示す赤色発光半導体素子を得た。
【0105】
なお、このとき、成長温度を3点に分けて、成長温度940℃でEu添加GaN層を成長させた実施例1の赤色発光半導体素子、成長温度960℃でEu添加GaN層を成長させた実施例2の赤色発光半導体素子、および成長温度980℃でEu添加GaN層を成長させた実施例3の赤色発光半導体素子を得た。
【0106】
形成されたそれぞれのEu添加GaN層30の断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、図3に示すように、実施例1(成長温度940℃)ではGaN立体構造20に現れた側面の{1−101}ファセット面が保たれたまま成長していた。
【0107】
これに対して、実施例2(成長温度960℃)では、GaN立体構造20の成長温度と同じ成長温度でEu添加GaN層30を成長させたにも拘わらず、Euの添加によりGaN立体構造20の側面の傾きが約75°と大きくなって、より高指数の{2−201}ファセット面が現れていることが分かった。
【0108】
また、実施例3(成長温度980℃)の場合には、GaN立体構造20の側面の傾きが約80°とさらに大きくなって、さらに高指数の{3−301}ファセット面が現れていることが分かった。
【0109】
なお、このとき、図3に示すように、実施例2(成長温度960℃)、実施例3(成長温度980℃)、いずれの場合においても、GaN立体構造20の先端部分では、(0001)面が出現している。
【0110】
以上より、選択成長法を適用してGaN立体構造を形成させることにより、その側面に(0001)面よりも高指数面である{1−101}ファセット面を形成させることができ、さらに、Eu添加により僅かな温度制御を行うだけで、さらに高指数面である{2−201}ファセット面や{3−301}ファセット面を容易に形成させることができることが確認でき、Eu添加GaN層の形成に際してその成長条件を変化させることにより、図4に示すように、GaN立体構造20の{1−101}側面上に{n−n01}面30が形成され、GaN立体構造の側面に種々の指数面の活性層を形成できることが分かる。
【0111】
2.光出力(フォトルミネッセンス)の評価
実施例2の赤色発光半導体素子について、He−Cdレーザー励起によるフォトルミネッセンス(PL)測定を行った(10K)。測定結果を図5に示す。なお、図5において、横軸は波長(nm)、縦軸はPL強度(a.u.)である。
【0112】
なお、図5には、従来の方法、即ち、図6に示すように、母材テンプレートの平坦なアンドープGaN層13上にEu添加GaN層30を成長させることにより作製された赤色発光半導体素子を比較例1として、同様に測定を行った結果を併せて示した。
【0113】
図5より、実施例2の赤色発光半導体素子と比較例1の赤色発光半導体素子とではスペクトル形状が異なり、Euの発光中心を示す赤色発光のピークの強度比も異なっていることが分かる。即ち、実施例2の赤色発光半導体素子においては一つのピークが支配的になって、比較例1の赤色発光半導体素子に比べてPL強度(光出力)が大きく向上していることが分かる。
【0114】
このように一つのピークが支配的になっていることは、比較例1の赤色発光半導体素子においては数多く存在していた発光中心の種類が、実施例2の赤色発光半導体素子のように高指数面を使用することにより、発光中心の形成されやすさに違いが生じて、発光中心の形成が制御されていることを示している。
【0115】
これは、実施例2の赤色発光半導体素子と比較例1の赤色発光半導体素子とでは、発光中心へのエネルギー輸送効率が異なり、それぞれ特定の発光中心が優先的に励起されたためであると考えられる。
【0116】
そして、図5では、さらに、Eu原子周りの歪みが緩和されたことを示すピークの波長の長波長側へのシフトも観察されている。
【0117】
これは、実施例2の赤色発光半導体素子と比較例1の赤色発光半導体素子とでは、表面の異なる結晶面方位により表面付近における歪みの様子に違いが生じてEu周辺局所構造が変化したことにより、Eu3+イオンの準位に違いを生じさせて上記のピークシフトが生じたものと考えられる。
【0118】
3.SiOマスク層の影響についての評価
次に、Eu添加GaN層30の形成に際して、SiOマスク層14がGaN立体構造20により覆われていることの有無による赤色発光への影響をX線吸収端近傍構造スペクトルにより評価した。
【0119】
具体的には、上記と同様に、実施例2の赤色発光半導体素子を用いてX線吸収端近傍構造スペクトルを測定した。測定結果を図7に示す。なお、図7において、横軸は光子エネルギー(eV)、縦軸は蛍光X線強度(a.u.)である。
【0120】
なお、図7には、図8に示すSiOマスク層14がGaN立体構造20により完全には覆われていないGaN立体構造20上にEu添加GaN層30を形成して作製した赤色発光半導体素子を用いて比較例2として、同様に測定した結果を併せて示した。
【0121】
図7より、比較例2の場合、二価のEuイオンを持つEuSと同様なエネルギー位置に吸収ピークが示されていることから、二価のEuイオンとしてEuが添加されていることが分かる。これは、SiOマスク層14のSiがEu添加GaN層30に混入していることを示している。このため、この構造では、フォトルミネッセンスを測定しても、赤色発光しない二価のEuのため赤色発光が観察されていない。
【0122】
これに対して、実施例2の場合には、三価のEuイオンを持つEuClと同様なエネルギー位置に吸収ピークが示されていることから、三価のEuイオンとしてEuが添加されていることが分かり、SiOマスク層14をGaN立体構造20で覆うことにより、SiのEu添加GaN層30への混入が防止されていることが分かる。このことは、図5に示したフォトルミネッセンスにおいて、赤色発光を示していることからも分かる。
【0123】
そして、この結果より、SiOマスク層を完全に覆ってGaN立体構造を形成させる必要があることが分かる。
【0124】
以上の通り、本発明を適用することにより、母材のアンドープGaN上に高指数面の側面を有するGaN立体構造を成長させ、その後、このGaN立体構造の高指数面上にEu添加GaN層を成長させることにより、光出力がより向上した赤色発光半導体素子を安価に得ることができる。
【0125】
そして、この技術を窒化物半導体素子用基板の製造に適用することにより、広い範囲に亘って所望の指数面の活性層を有する窒化物半導体素子用基板を得ることができるため、種々の用途に適した特性の窒化物半導体素子を安価に提供することができる。
【0126】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0127】
10 母材テンプレート
11 サファイア基板
12 GaNバッファ層
13 アンドープGaN層
14 SiOマスク層
20 GaN立体構造
30 Eu添加GaN層
図1
図4
図5
図6
図7
図8
図2
図3