(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。本実施形態における濃度測定装置は、少なくとも照射部〜集光部が内蔵されたプローブが生体の所定部位(例えば指や手首)に装着されるウェアラブルな測定装置である。本実施形態では、濃度測定装置が、生体に含有されている所定成分の濃度として、皮膚の真皮層に含まれているグルコース濃度を測定する場合を例に挙げて説明する。但し、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけではないことは勿論である。
【0026】
1.第1実施形態
1−1.構成
図1は、第1実施形態における第1濃度測定装置1Aの機能構成の一例を示すブロック図である。第1濃度測定装置1Aは、主要な構成として、第1光学装置3Aと、制御部100と、操作部200と、表示部300と、音出力部400と、通信部500と、記憶部600とを有して構成される。
【0027】
第1光学装置3Aは、多波長光源10と、分岐部20と、第1照射部30Aと、第2照射部30Bと、反射鏡40と、第1集光部50Aと、第2集光部50Bと、第1中継部60Aと、第2中継部60Bと、第1光強度検出部70Aと、第2光強度検出部70Bとを有して構成される。本実施形態では、第1照射部30Aから第1光強度検出部70Aに至るまでの光の経路を「第1光経路」と称し、第2照射部30Bから第2光強度検出部70Bに至るまでの光の経路を「第2光経路」と称する。
【0028】
また、本実施形態において、第1照射部30A及び第1集光部50Aがプローブに内蔵され、当該プローブが生体である被検者の所定部位(指や手首)に装着される。プローブは例えばクリップタイプやパッチタイプ等として構成してよい。また、第2光経路は、後述する装置関数時間分解波形を求めるための光経路であるから、第1光経路と同一部材で構成すると好適である。すなわち、第2照射部30B、第2集光部50B、第2中継部60B及び第2光強度検出部70Bは、それぞれ第1照射部30A、第1集光部50A、第1中継部60A及び第1光強度検出部70Aと同一部材で構成する。また、第2中継部60Bは、第1中継部60Aと同一長さで構成する。
【0029】
多波長光源10は、複数の波長のパルス光を生成して出力可能に構成された光源であり、例えば多波長半導体レーザーを有して構成される。多波長光源10は、制御部100から出力される光源制御信号に基づいて、指示された波長のパルス光を生成して出射する。また、多波長光源10は、パルス光を出射した後、光強度の検出タイミングを指示するためのトリガー信号を第1光強度検出部70A及び第2光強度検出部70Bにそれぞれ出力する。
【0030】
分岐部20は、多波長光源10から出力されたパルス光を分岐させる光分岐器であり、例えばハーフミラーを有して構成される。分岐部20によって分岐された光のうちの一方の光は、第1測定光として第1照射部30Aによって生体に照射される。また、分岐された光のうちの他方の光は、第2測定光として第2照射部30Bによって反射鏡40に照射される。
【0031】
人間の皮膚は、大きく分けて、表皮層、真皮層及び皮下組織層の3層で構成されている。その中でも、真皮層は毛細血管が発達しており、血中のグルコース濃度に追随するように真皮層のグルコース濃度が変化する。そこで、本実施形態では、真皮層に含まれているグルコース濃度を測定することで、被検者の血糖値を見積もることを目的とする。
【0032】
第1集光部50Aは、第1照射部30Aから生体に向けて第1測定光が照射されることによる生体からの出射光を集光する。具体的には、第1測定光が生体に照射された場合の後方散乱光(以下、簡潔に「散乱光」と称す。)を出射光として集光し、第1中継部60Aに導く。第2集光部50Bは、第2照射部30Bから反射鏡40に向けて第2測定光が照射されることによる反射鏡40からの反射光を集光する。これらの集光部は、生体からの散乱光又は反射鏡40からの反射光を入光する入光部とも言える。
【0033】
第1中継部60Aは、第1集光部50Aで集光された散乱光を第1光強度検出部70Aに中継する中継器である。また、第2中継部60Bは、第2集光部50Bで集光された反射光を第2光強度検出部70Bに中継する中継器である。これらの中継部は、例えば光ファイバーを有して構成される。
【0034】
第1光強度検出部70Aは、第1中継部60Aによって中継された生体からの散乱光の光強度を検出する検出器である。また、第2光強度検出部70Bは、第2中継部60Bによって中継された反射鏡40からの反射光の光強度を検出する検出器である。これらの光強度検出部は、例えば光電管や光電子増倍管、各種のフォトダイオード、ストリークカメラ等を有して構成され、検出した光強度を含む光検出信号を制御部100に出力する。第1光強度検出部70Aは、生体からの散乱光を検出する検出部に相当する。また、第2光強度検出部は、測定光を検出する測定光検出部に相当する。
【0035】
制御部100は、記憶部600に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って、濃度測定装置の各部や光学装置を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサーを有して構成される。
【0036】
制御部100は、主要な機能部として、光源制御部110と、観測散乱光時間分解波形取得部120と、装置関数時間分解波形取得部130と、散乱光時間分解波形修正部140と、濃度算出部150とを有する。但し、これらの機能部は、一実施例として記載したものに過ぎず、必ずしもこれら全ての機能部を必須構成要素としなければならないわけではない。
【0037】
光源制御部110は、多波長光源10によるパルス光の生成を制御する。具体的には、パルス光の波長及びパルス光の生成を指示するための光源制御信号を多波長光源10に出力し、複数の波長でのパルス光を多波長光源10に生成させて出射させる。
【0038】
観測散乱光時間分解波形取得部120は、第1光強度検出部70Aから出力される生体からの散乱光の光強度を示す光検出信号に基づいて、散乱光時間分解波形を演算して取得する。観測散乱光時間分解波形取得部120によって取得される散乱光時間分解波形(以下、「観測散乱光時間分解波形」と称す。)は測定系誤差が重畳された時間分解波形となる。観測散乱光時間分解波形取得部120は第1取得部に相当する。
【0039】
理想的には、生体に照射するパルス光である測定光は、完全なインパルス形状の(デルタ関数とみなせる)光であることが望まれる。しかし、多波長光源10によって生成されるパルス光は実際には一定のパルス幅を有する。また、理想的には、光強度検出部の応答特性もインパルスの応答特性を示すことが望まれるが、実際には光強度検出部の時間分解能もまた有限である。これら測定光の照射系や散乱光の検出系に起因する測定系誤差が、観測散乱光時間分解波形取得部120によって取得される散乱光時間分解波形に重畳することになる。
【0040】
装置関数時間分解波形取得部130は、第2光強度検出部70Bから出力される反射鏡40からの反射光の光強度を示す光検出信号に基づいて、装置関数時間分解波形を演算して取得する。多波長光源10から出射されたパルス光である測定光は、第1光経路と略同一の経路として構成された第2光経路を通って第2光強度検出部70Bに入光する。但し、第2光経路では、生体の代わりに反射鏡40に測定光を照射する。この場合、装置関数時間分解波形取得部130によって取得される時間分解波形(以下、「装置関数時間分解波形」と称す。)は、上記の測定系誤差を表す時間分解波形となる。なお、測定系誤差を関数近似したものは装置関数と呼ばれる。装置関数時間分解波形取得部130は第2取得部に相当する。
【0041】
散乱光時間分解波形修正部140は、観測散乱光時間分解波形取得部120によって取得された観測散乱光時間分解波形を、装置関数時間分解波形取得部130によって取得された装置関数時間分解波形を用いて修正する。観測散乱光時間分解波形取得部120によって取得される観測散乱光時間分解波形は、生体からの散乱光の時間分解波形と装置関数時間分解波形とのコンボリューション(畳み込み)となっている。そこで、散乱光時間分解波形修正部140は、観測散乱光時間分解波形を装置関数時間分解波形でデコンボリューション(逆畳み込み)するデコンボリューション処理を行うことで、測定系誤差が補償された散乱光時間分解波形を得る。
【0042】
測定系誤差は、装置の使用環境(例えば温度)や使用時間等によって変化し得る。従って、装置関数時間分解波形取得部130が任意のタイミングで装置関数時間分解波形を取得することで、測定系誤差を随時、正しく補償できるようになる。装置関数時間分解波形取得部130が装置関数時間分解波形を取得することは、一種のキャリブレーションを行うことに相当すると言える。散乱光時間分解波形修正部140によって修正された散乱光時間分解波形のことを「修正散乱光時間分解波形」と称し、「R(t)」と表記する。散乱光時間分解波形修正部140はデコンボリューション処理部として機能する。
【0043】
濃度算出部150は、散乱光時間分解波形修正部140によって修正された散乱光時間分解波形を用いて、皮膚の真皮層に含有されているグルコース濃度を算出する。濃度算出部150は、散乱光時間分解波形及び装置関数時間分解波形を用いて、生体に含有されている所定成分の濃度を算出する算出部に相当する。
【0044】
生体に入射した測定光は、その散乱特性のために様々な経路を辿り、反射光(散乱光)として出射したところを第1集光部50Aで集光される。このとき、光子(フォトン)が生体を辿った経路は様々である。つまり、散乱光として捕捉される光は、辿った経路が異なる光子を含む光となるため、時間軸で考えた場合、捕捉される光子数の時間分布の波形で表される。この時間分布の波形が、散乱光時間分解波形である。第1光強度検出部70Aに到達した光は、その検出時刻によって、生体内の所定部位(皮膚の各層)を選択的に通過してくると考えることができる。すなわち、生体内を伝播した光子の伝播経路が光散乱係数により特徴付けられ、その光路に沿った光強度変化が光吸収係数によって特徴付けられると考えられる。
【0045】
散乱光時間分解波形において、早い時刻に検出された光ほど表面から浅い部分のみを通ってきており、逆に遅い時刻に検出された光ほど表面から深い領域まで到達してきている。このように異なる検出時刻における検出光の強度は、異なる経路分布を経てきた光成分に対応する。つまり、ある検出時刻の光強度には、その時刻に応じた光経路分布中の吸光情報が含まれている。従って、時間分解波形の検出時刻毎の光経路を実測により予め求めておけば、逆問題解法により、光吸収係数の分布を演算することができる。
【0046】
上記の原理に基づき、濃度算出部150は、散乱光時間分解波形修正部140によって演算された修正散乱光時間分解波形をもとに、皮膚内部の各層の光吸収係数を算出し、当該光吸収係数を用いて、皮膚の真皮層のグルコース濃度を算出する。グルコース濃度の算出に係る算出式等については後述する。
【0047】
操作部200は、例えばボタンスイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたボタンの信号を制御部100に出力する。この操作部200の操作により、各種データの入力や、グルコース濃度の測定開始指示といった各種指示入力がなされる。
【0048】
表示部300は、制御部100から出力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置であり、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成される。表示部300には、濃度算出部150によって算出されたグルコース濃度等の情報が表示される。
【0049】
音出力部400は、制御部100から出力される音出力信号に基づく音出力を行う音出力装置であり、例えばスピーカー等を有して構成される。音出力部400からは、グルコース濃度測定に係る音声ガイダンスやアラーム音等が音出力される。
【0050】
通信部500は、制御部100の制御に従って、装置内部で利用される情報を外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。通信部500の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、クレイドルと呼ばれる充電器と兼用の中間装置を介して接続する形式、近距離無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。
【0051】
記憶部600は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリー)を有して構成され、制御部100のシステムプログラムや、散乱光時間分解波形取得機能、濃度測定機能といった各種機能を実現するための各種プログラム、各種データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0052】
記憶部600には、プログラムとして、制御部100によって読み出され、第1濃度測定処理(
図5参照)として実行される第1濃度測定プログラム610が記憶されている。第1濃度測定プログラム610は、散乱光時間分解波形修正処理(
図5参照)として実行される散乱光時間分解波形修正プログラム610Aをサブルーチンとして含む。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0053】
また、記憶部600には、データとして、例えば、モデルデータ620と、時間分解波形対応データ630と、修正散乱光時間分解波形データ640と、成分吸収情報データ650と、層別光吸収係数データ660と、測定濃度データ670とが記憶される。
【0054】
モデルデータ620は、モンテカルロシミュレーション等のシミュレーション処理を行うことで生成されたモデルに係るデータであり、そのデータ構成の一例を
図2に示す。モデルデータ620には、候補波長と、伝播光路長分布と、無吸収時散乱光強度時間特性とが対応付けて記憶されている。
【0055】
候補波長は、複数の波長の中から選択され、成分濃度の算出において使用するパルス光の波長の候補である。皮膚の主成分について光吸収スペクトルの直交性が高くなる波長を候補波長として選択すると効果的である。具体的には、皮膚の真皮層の主成分である水、たんぱく質、脂質及びグルコースの光吸収スペクトルの直交性が高くなる波長を候補波長として選択すると好適である。
【0056】
例えば、グルコースの光吸収係数は、波長が1600nm(ナノメートル)のときに極大となり、水の光吸収係数は、波長が1450nmのときに極大となる。そのため、1450nmや1600nmといった皮膚の主成分の吸収スペクトルの直交性が高くなる波長について伝播光路長分布及び散乱光時間分解波形を求めるようにすると好適である。
【0057】
伝播光路長分布は、入射光子数が「N
in」のときのパルス光の光子の伝播光路長を、例えばモンテカルロシミュレーションにより求めたモデルである。具体的には、モンテカルロ法を利用したシミュレーション(モンテカルロシミュレーション)を行うことで、入射光子数が「N
in」の場合における皮膚の各層の伝播光路長分布「L
m(t)」を算出する。
【0058】
より詳細には、予め光吸収係数がゼロの皮膚モデルを構成し、当該皮膚モデルの各層において光子が次に進む点までの距離及び方向を、単位時間毎に乱数を用いて繰り返し行う。このシミュレーションを所定数の光子について行い、光強度検出部に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を、分類された層毎に算出することで、例えば
図2に示すような皮膚の層別の伝播光路長分布「L
m(t)」を得る。
【0059】
無吸収時散乱光強度時間特性は、光吸収係数がゼロ、入射光子数が「N
in」のときの散乱光強度を、例えばモンテカルロシミュレーションにより求めたモデルである。具体的には、上記の光吸収係数がゼロの皮膚モデルについて、当該皮膚モデルに測定光を照射した場合に光強度検出部において検出される光子の個数を単位時間毎に算出することで、
図2に示すような無吸収時散乱光強度時間特性「N(t)」を得る。縦軸の散乱光強度は、光強度検出部において検出される光子の個数(光子数)と同義である。
【0060】
時間分解波形対応データ630は、2種類の時間分解波形を対応付けて記憶したデータであり、そのデータ構成の一例を
図3に示す。時間分解波形対応データ630には、候補波長と、観測散乱光時間分解波形と、装置関数時間分解波形とが対応付けて記憶される。この時間分解波形対応データ630は、散乱光時間分解波形修正部140が散乱光時間分解波形を演算するために用いられる。
【0061】
修正散乱光時間分解波形データ640は、散乱光時間分解波形修正部140によって演算された修正散乱光時間分解波形が記憶されたデータであり、そのデータ構成の一例を
図4に示す。散乱光時間分解波形データには、候補波長と、修正散乱光時間分解波形「R(t)」とが対応付けて記憶される。
【0062】
濃度算出部150は、モデルデータ620に記憶された伝播光路長分布「L
m(t)」及び無吸収時散乱光時間分解波形「N(t)」と、修正散乱光時間分解波形データ640に記憶された修正散乱光時間分解波形「R(t)」とを用いて、皮膚の真皮層のグルコース濃度を算出する。
【0063】
成分吸収情報データ650は、皮膚の真皮層が含有する成分に係る吸収情報が記憶されたデータである。具体的には、例えば、水、たんぱく質、脂質及びグルコースの4成分の光吸収係数やモル吸光係数が吸収情報として記憶されている。これらの吸収情報は、予め測定を行って記憶部600に記憶させておく必要がある。成分吸収情報データ650は、皮膚の真皮層のグルコース濃度を算出するために用いられる。
【0064】
層別光吸収係数データ660は、皮膚の表皮層、真皮層及び皮下組織層それぞれの光吸収係数のデータである。これらの値は、真皮層の各成分の成分濃度を算出する際に、所定の連立方程式を解くことで算出する。この層別光吸収係数の具体的な算出方法については後述する。
【0065】
測定濃度データ670は、濃度算出部150によって算出された生体に含有されている所定成分の濃度の算出結果が記憶されたデータである。例えば、皮膚の真皮層のグルコース濃度がこれに含まれる。
【0066】
1−2.処理の流れ
図5は、制御部100が記憶部600に記憶されている第1濃度測定プログラム610に従って実行する第1濃度測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0067】
最初に、制御部100は、濃度の測定タイミングであるか否かを判定する(ステップA1)。糖尿病患者を被検者として血糖値を定期的に測定することを想定し、測定タイミングとしては、例えば所定時間間隔毎のタイミング(例えば3時間に1回)を設定しておくなどすることができる。また、糖尿病患者がいつでも血糖値を確認できるように、操作部200を介してユーザーによって測定実行指示操作がなされたタイミングを測定タイミングとして濃度の測定を行うこととしてもよい。
【0068】
測定タイミングであると判定したならば(ステップA1;Yes)、制御部100は、記憶部600に記憶されている散乱光時間分解波形修正プログラム610Aに従って、散乱光時間分解波形修正処理を実行する。
【0069】
散乱光時間分解波形修正処理では、制御部100は、予め定められた候補波長それぞれについて、ループAの処理を実行する(ステップA3〜A15)。ループAの処理では、光源制御部110が、当該候補波長のパルス光を多波長光源10に生成して出射させるために、光源制御信号を多波長光源10に出力する(ステップA7)。
【0070】
次いで、観測散乱光時間分解波形取得部120が、観測散乱光時間分解波形演算処理を行う(ステップA9)。具体的には、第1光強度検出部70Aから出力される光検出信号に基づいて、生体からの散乱光の光強度を解析する処理を行って、散乱光時間分解波形を取得する。そして、取得した散乱光時間分解波形を観測散乱光時間分解波形として、記憶部600の時間分解波形対応データ630に記憶させる。
【0071】
また、装置関数時間分解波形取得部130が、装置関数時間分解波形演算処理を行う(ステップA11)。具体的には、第2光強度検出部70Bから出力される光検出信号に基づいて、反射鏡40からの反射光の光強度を解析する処理を行って、装置関数時間分解波形を取得する。そして、取得した装置関数時間分解波形を、記憶部600の時間分解波形対応データ630に観測散乱光時間分解波形と対応付けて記憶させる。
【0072】
次いで、散乱光時間分解波形修正部140が、デコンボリューション処理を行う(ステップA13)。具体的には、時間分解波形対応データ630に対応付けて記憶された観測散乱光時間分解波形を装置関数時間分解波形でデコンボリューションする。デコンボリューションを実現するためのアルゴリズムとしては、従来公知のアルゴリズムを適用することが可能である。
【0073】
本願発明者が行った実験によれば、ルーシー・リチャードソン法を用いてデコンボリューションを行うことで、散乱光時間分解波形を高い精度で修正可能であることを確認した。散乱光時間分解波形修正部140は、デコンボリューション処理で求めた時間分解波形を、修正散乱光時間分解波形として記憶部600の修正散乱光時間分解波形データ640に記憶させる。
【0074】
その後、制御部100は、次の候補波長へと処理を移行する。そして、全ての候補波長についてステップA7〜A13の処理を行ったならば、制御部100は、ループAの処理を終了する(ステップA15)。
【0075】
次いで、濃度算出部150が、濃度算出処理を行う(ステップA17)。濃度算出処理では、複数の候補波長の中から、皮膚の主成分数と同数の波長を選定する。真皮層の主成分は、水、たんぱく質、脂質及びグルコースの4成分である。そのため、候補波長の中から4つの波長「(λ
1、λ
2、λ
3、λ
4)」を選定する。
【0076】
また、生体の層数と同数の異なる時刻を選定する。皮膚は、表皮層、真皮層及び皮下組織層の3層でなる。そのため、異なる3つの時刻「t
k=(t
1、t
2、t
3)」を選定する。選定する3つの時刻「t
k=(t
1、t
2、t
3)」は、皮膚の各層の伝播光路長分布がピークを示す時刻とすると好適である。つまり、測定光の照射時刻に、
図2に示す皮膚の各層の伝搬光路長分布において光路長がそれぞれ極大となる時刻を加算した時刻を算出して選定時刻とすると良い。
【0077】
上記のように選定した4つの波長「(λ
1、λ
2、λ
3、λ
4)」それぞれについて、次式(1)及び(2)に従って、選定した3つの時刻「t
k=(t
1、t
2、t
3)」に係る連立方程式を解くことで、表皮層の光吸収係数「μ
a1」、真皮層の光吸収係数「μ
a2」及び皮下組織層の光吸収係数「μ
a3」を算出する。
【数1】
【数2】
【0078】
但し、式(1)において、「μ
am」は層別の光吸収係数を表し、添え字の「m」は皮膚の層の番号を表す。便宜的に、表皮層の番号を「m=1」、真皮層の番号を「m=2」、皮下組織層の番号を「m=3」とする。つまり、「μ
a1」は表皮層の光吸収係数であり、「μ
a2」は真皮層の光吸収係数であり、「μ
a3」は皮下組織層の光吸収係数である。「M」は皮膚の層数であり、本実施形態では「M=3」である。
【0079】
また、「L
m(t)」は、皮膚の第m層における伝播光路長分布を示している。例えば、「L
m(t
1)」は、時刻「t
1」において検出される光子が第m層を伝播した距離の総和を示す。また、「N
in」は、パルス光の光子の総数(入射光子数)であり、既知である。「I
in」は、パルス光の強度(入射光強度)であり、既知である。
【0080】
本明細書では詳細な説明を省略するが、式(1)は、時刻「t」において検出される散乱光強度「R(t)」を、次式(3)のように近似的に書き表すことができることに基づいて導出される式である。
【数3】
【0081】
式(3)において、「L´
m(t)」は、皮膚の第m層を伝播した距離の1光子あたりの平均値である。伝播距離の総和「L
m(t)」を「N´(t)」で除算した値であり、次式(4)で与えられる。
【数4】
式(4)を用いて式(3)を変形すると、式(1)が導出される。
【0082】
式(2)の連立方程式を解くに際しては、3つの選定時刻「t
k=(t
1、t
2、t
3)」それぞれにおける皮膚の各層の伝播光路長「L
m(t
k)」、無吸収時散乱光強度「N(t
k)」及び修正散乱光強度「R(t
k)」が必要となる。これらの値は、モデルデータ620に記憶された伝播光路長分布「L
m(t)」及び無吸収時散乱光時間分解波形「N(t)」と、修正散乱光時間分解波形データ640に記憶された修正散乱光時間分解波形「R(t)」とに選定時刻「t
k」を代入することでそれぞれ算出することができる。
【0083】
4つの選定波長「(λ
1、λ
2、λ
3、λ
4)」のそれぞれについて式(2)の連立方程式を解くことで、表皮層の光吸収係数「μ
a1」、真皮層の光吸収係数「μ
a2」及び皮下組織層の光吸収係数「μ
a3」を算出したならば、これらの算出値を記憶部600の層別光吸収係数データ660に記憶させる。
【0084】
次いで、上記の層別光吸収係数を用いて、皮膚の真皮層の成分濃度を算出する。成分の総数が「N個」である場合の各成分の体積分率「c
vi」を求める式は、次式(5)で与えられる。
【数5】
【0085】
真皮層の主成分は、水、たんぱく質、脂質及びグルコースの4成分である(N=4)。そのため、式(5)を4成分の式として書き表すと、次式(6)のようになる。この式(6)に従って、水、たんぱく質、脂質及びグルコースそれぞれの体積分率を算出する。
【数6】
【0086】
但し、「μ
ai」は成分別の光吸収係数を表しており、添え字の「i」は成分の記号を表している。便宜的に、水を「i=w」、たんぱく質を「i=p」、脂質を「i=l」、グルコースを「i=g」と表記する。つまり、「μ
aw」、「μ
ap」、「μ
al」及び「μ
ag」は、それぞれ水、たんぱく質、脂質及びグルコースの光吸収係数を示す。これらの光吸収係数は波長毎に異なり、4つの選定波長「(λ
1、λ
2、λ
3、λ
4)」それぞれに対応する光吸収係数が「μ
aw(λ
1)〜μ
aw(λ
4)」、「μ
ap(λ
1)〜μ
ap(λ
4)」、「μ
al(λ
1)〜μ
al(λ
4)」及び「μ
ag(λ
1)〜μ
ag(λ
4)」である。これらの値は吸収情報として記憶部600の成分吸収情報データ650に予め記憶されている。
【0087】
「c
vi」は成分別の体積分率を表しており、添え字の「i」は上記と同じである。つまり、「c
vw」、「c
vp」、「c
vl」及び「c
vg」は、それぞれ水、たんぱく質、脂質及びグルコースの体積分率を示す。これらの体積分率は未知数である。4つの選定波長「(λ
1、λ
2、λ
3、λ
4)」について先に算出しておいた真皮層(i=2)の光吸収係数「μ
a2(λ
1)」、「μ
a2(λ
2)」、「μ
a2(λ
3)」及び「μ
a2(λ
4)」と、上記の吸収情報とを用いれば、式(6)の連立方程式を解くことができる。従って、各成分の体積分率「c
vw」、「c
vp」、「c
vl」及び「c
vg」を算出できる。
【0088】
各成分の体積分率「c
vw」、「c
vp」、「c
vl」及び「c
vg」を算出したならば、公知の変換式に従って体積分率を重量体積濃度等に変換することで、真皮層の各成分の成分濃度を算出する。そして、例えば真皮層のグルコース濃度を測定濃度データ670として記憶部600に記憶させる。
【0089】
濃度算出処理を行った後、制御部100は、算出した真皮層のグルコース濃度を表示部300に表示させる制御を行う(ステップA19)。そして、処理を終了するか否かを判定し(ステップA21)、処理を継続すると判定した場合は(ステップA21;No)、ステップA1に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップA21;Yes)、第1濃度算出処理を終了する。
【0090】
1−3.作用効果
第1濃度測定装置1Aにおいて、多波長光源10によって生成されたパルス光である測定光は分岐部20で分岐され、第1測定光が第1照射部30Aによって生体に照射される。観測散乱光時間分解波形取得部120は、第1光強度検出部70Aによって検出された生体からの散乱光の光強度に基づいて、観測散乱光時間分解波形を取得する。その一方で、分岐部20で分岐された第2測定光は反射鏡40に照射される。装置関数時間分解波形取得部130は、第1光強度検出部70Aの検出時に第2光強度検出部70Bにより検出された反射鏡40からの反射光の光強度に基づいて装置関数時間分解波形を取得する。これにより、散乱光時間分解波形の取得と、装置関数時間分解波形の取得とを同時に行うことができる。
【0091】
散乱光時間分解波形修正部140は、観測散乱光時間分解波形取得部120によって取得された観測散乱光時間分解波形を装置関数時間分解波形取得部130によって取得された装置関数時間分解波形でデコンボリューション処理することで、測定系誤差が補償された散乱光時間分解波形を取得する。従って、装置関数時間分解波形の取得は、一種のキャリブレーションとも言える。そして、濃度算出部150は、散乱光時間分解波形修正部140によって演算された修正散乱光時間分解波形を用いて、皮膚の真皮層のグルコース濃度を算出する。
【0092】
本実施形態における濃度測定手法は非侵襲式であり、生体の所定部位に装置を装着した状態で観測散乱光時間分解波形及び装置関数時間分解波形の取得を同時に行うことができる。装着した状態で装置関数時間分解波形の取得が可能ということは、装着した状態でキャリブレーションが可能であるということである。また、グルコース濃度の測定タイミングとしては、定期的なタイミングや、ユーザーによって測定実行指示操作がなされたタイミング等を設定しておくことができ、所望のタイミングでグルコース濃度を測定して、その測定結果をユーザーに報知することが可能となる。
【0093】
1−4.変形例
上記の実施形態で説明した第1光学装置3Aを
図6のように構成してもよい。具体的には、
図6の第1光学装置3Aでは、第2光経路に反射鏡40が設けられておらず、分岐部20で分岐された第2測定光が第2集光部50B及び第2中継部60Bを介して第2光強度検出部70Bに導光されるように構成されている。反射鏡40を用いずに測定光を直接受光する点が、
図1の第1光学装置3Aと異なる。
【0094】
2.第2実施形態
本発明を適用可能な実施形態は、上述した第1実施形態に限定されるわけではない。
以下、本発明を適用した第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成要素や、フローチャートの同一のステップについては、同一の符号を付して、再度の説明を省略する。
【0095】
2−1.構成
図7は、第2実施形態における第2濃度測定装置1Bの構成の一例を示すブロック図である。第2濃度測定装置1Bは、第2光学装置3Bと、制御部100と、操作部200と、表示部300と、音出力部400と、通信部500と、記憶部600とを有して構成される。
【0096】
第2光学装置3Bは、多波長光源10と、照射部30と、反射鏡40と、集光部50と、中継部60と、光強度検出部70と、反射鏡進退機構80とを有して構成される。本実施形態では、照射部30、反射鏡40、集光部50及び反射鏡進退機構80がプローブに内蔵され、当該プローブが生体である被検者の所定部位(指や手首)に装着される。
【0097】
照射部30は、多波長光源10によって生成されたパルス光である測定光を生体又は反射鏡40に照射する。反射鏡進退機構80によって反射鏡40が照射部30と生体間に挿入されている場合は、反射鏡40で反射された反射光が集光部50で集光される。他方、反射光が退避している場合は、生体で散乱された散乱光が集光部50で集光される。
【0098】
集光部50は、生体からの散乱光又は反射鏡40からの反射光を集光する。
中継部60は、集光部50で集光された光を光強度検出部70に導光する。
光強度検出部70は、中継部60を介して導光された散乱光又は反射光の光強度を検出する。
【0099】
反射鏡進退機構80は、制御部100から出力される反射鏡進退制御信号に従って、反射鏡40を照射部30と生体間に挿入/退避させる制御を行う。この反射鏡進退機構80としては、例えば超小型のアクチュエーターによって反射鏡40をスライド式に挿入/退避させるスライド機構を採用することができる。本実施形態では、反射鏡40が測定光を光強度検出部70に導光する導光部に相当し、反射鏡進退機構80は、この導光部を照射部30と生体間に挿入する導光部挿入機構に相当する。
【0100】
制御部100は、主要な機能部として、光源制御部110と、観測散乱光時間分解波形取得部120と、装置関数時間分解波形取得部130と、散乱光時間分解波形修正部140と、濃度算出部150と、反射鏡進退制御部160とを有する。
【0101】
反射鏡進退制御部160は、反射鏡進退機構80による反射鏡40の進退動作を制御する。具体的には、装置関数時間分解波形の取得タイミングにおいて、反射鏡40を挿入させるための反射鏡挿入制御信号を反射鏡進退機構80に出力して、照射部30と生体間に反射鏡40を挿入させる。そして、装置関数時間分解波形を取得した後は、反射鏡40を退避させるための反射鏡退避制御信号を反射鏡進退機構80に出力して、挿入させた反射鏡40を退避させる。
【0102】
記憶部600には、プログラムとして、制御部100によって読み出され、第2濃度測定処理(
図8参照)として実行される第2濃度測定プログラム612が記憶されている。第2濃度測定プログラム612は、装置関数時間分解波形取得処理(
図9参照)として実行される装置関数時間分解波形取得プログラム612Aと、観測散乱光時間分解波形取得処理(
図10参照)として実行される観測散乱光時間分解波形取得プログラム612Bとをサブルーチンとして含む。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0103】
また、記憶部600には、データとして、例えば、モデルデータ620と、修正散乱光時間分解波形データ640と、成分吸収情報データ650と、層別光吸収係数データ660と、測定濃度データ670と、装置関数時間分解波形データ680と、観測散乱光時間分解波形データ690とが記憶される。
【0104】
装置関数時間分解波形データ680には、装置関数時間分解波形取得処理を行うことで取得された装置関数時間分解波形が記憶される。
観測散乱光時間分解波形データ690には、観測散乱光時間分解波形取得処理を行うことで取得された観測散乱光時間分解波形が記憶される。
【0105】
2−2.処理の流れ
図8は、制御部100が記憶部600に記憶されている第2濃度測定プログラム612に従って実行する第2濃度測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0106】
最初に、制御部100は、成分濃度の測定タイミングであるか否かを判定する(ステップA1)。そして、測定タイミングであると判定したならば(ステップA1;Yes)、制御部100は、濃度の算出を所定回数(例えば3回)実行したか否かを判定する(ステップB3)。
【0107】
濃度の算出を所定回数実行したと判定した場合は(ステップB3;Yes)、制御部100は、記憶部600に記憶されている装置関数時間分解波形取得プログラム612Aに従って、装置関数時間分解波形取得処理を行う(ステップB5)。
【0108】
図9は、装置関数時間分解波形取得処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、反射鏡進退制御部160は、反射鏡40の挿入を指示する反射鏡挿入制御信号を反射鏡進退機構80に出力して、反射鏡40を照射部30と生体間に挿入させる制御を行う(ステップC1)。
【0109】
次いで、制御部100は、各候補波長それぞれについてループBの処理を行う(ステップC3〜C9)。ループBの処理では、光源制御部110が、当該候補波長のパルス光の生成を指示する光源制御信号を多波長光源10に出力して、当該候補波長のパルス光を生成して出射させるように制御する(ステップC5)。
【0110】
次いで、装置関数時間分解波形取得部130が、装置関数時間分解波形演算処理を行う(ステップC7)。具体的には、光強度検出部70から出力される光検出信号に基づいて、反射鏡40からの反射光の光強度を解析する処理を行って、装置関数時間分解波形を演算・取得する。そして、取得した装置関数時間分解波形を、装置関数時間分解波形データ680として記憶部600に記憶させる。
【0111】
制御部100は、各候補波長それぞれについてステップC5及びC7の処理を行ったならば、ループBの処理を終了する(ステップC9)。次いで、反射鏡進退制御部160が、反射鏡40の退避を指示する反射鏡退避制御信号を反射鏡進退機構80に出力して、ステップC1で挿入させた反射鏡40を退避させる制御を行う(ステップC11)。そして、制御部100は、装置関数時間分解波形取得処理を終了する。
【0112】
図8に戻り、装置関数時間分解波形取得処理を行った後、又は、ステップB3においてまだ濃度の算出を所定回数実行していないと判定した場合は(ステップB3;No)、制御部100は、記憶部600に記憶されている観測散乱光時間分解波形取得プログラム612Bに従って観測散乱光時間分解波形取得処理を行う(ステップB7)。
【0113】
図10は、観測散乱光時間分解波形取得処理の流れを示すフローチャートである。
制御部100は、各候補波長それぞれについてループCの処理を行う(ステップD1〜D7)。ループCの処理では、光源制御部110が、当該候補波長のパルス光の生成を指示する光源制御信号を多波長光源10に出力して、当該候補波長のパルス光を生成して出射させるように制御する(ステップD3)。
【0114】
その後、観測散乱光時間分解波形取得部120が、観測散乱光時間分解波形取得処理を行う(ステップD5)。具体的には、光強度検出部70から出力される光検出信号に基づいて、生体からの散乱光の光強度を解析する処理を行って観測散乱光時間分解波形を取得する。そして、取得した観測散乱光時間分解波形を、観測散乱光時間分解波形データ690として記憶部600に記憶させる。
【0115】
制御部100は、各候補波長それぞれについてステップD3及びD5の処理を行ったならば、ループCの処理を終了する(ステップD7)。そして、制御部100は、観測散乱光時間分解波形取得処理を終了する。
【0116】
図8に戻り、観測散乱光時間分解波形取得処理を行った後、散乱光時間分解波形修正部140は、デコンボリューション処理を行う(ステップB9)。具体的には、観測散乱光時間分解波形データ690に記憶されている観測散乱光時間分解波形を、装置関数時間分解波形データ680に記憶されている装置関数時間分解波形でデコンボリューションする演算を行う。そして、その演算結果を修正散乱光時間分解波形データ640として記憶部600に記憶させる。
【0117】
制御部100は、デコンボリューション処理を行った後、ステップA17へと移行する。以降の処理は、第1濃度測定処理と同じである。
【0118】
ステップA1において測定タイミングではないと判定した場合は(ステップA1;No)、制御部100は、操作部200を介してユーザーによって装置関数時間分解波形の取得指示操作がなされたか否かを判定する(ステップB11)。取得指示操作がなされなかったと判定した場合は(ステップB11;No)、ステップA1に戻る。また、取得指示操作がなされたと判定した場合は(ステップB11;Yes)、制御部100は、
図9で説明した装置関数時間分解波形取得処理を行う(ステップB5)。そして、制御部100は、ステップA1に戻る。
【0119】
2−3.作用効果
第2濃度測定装置1Bでは、反射鏡進退機構80により反射鏡40が照射部30と生体間に挿入された際に光強度検出部70によって検出された光強度に基づいて、装置関数時間分解波形取得部130が装置関数時間分解波形を取得する。従って、1つの光経路で時分割に装置関数時間分解波形を取得することが可能となる。濃度測定と同時に装置関数時間分解波形を得ることはできないが、濃度測定に使用する光経路に係る装置関数時間分解波形を取得できるため、測定部品に係る測定系誤差をより精確に表した装置関数時間分解波形を得ることが可能である。
【0120】
また、第2濃度測定装置1Bでは、濃度の算出回数に基づいて、反射鏡進退機構80による反射鏡40の進退、及び、装置関数時間分解波形取得部130による装置関数時間分解波形の取得を実行させる。具体的には、濃度の算出回数が所定回数(例えば3回)に達した場合に、反射鏡40の挿入及び装置関数時間分解波形の取得を実行させる。これにより、定期的に装置関数時間分解波形を更新することが可能となる。
【0121】
また、第2濃度測定装置1Bでは、操作部200を介して装置関数時間分解波形の取得指示操作がなされた場合にも装置関数時間分解波形の取得を実行することにしているため、ユーザーは所望のタイミングで散乱光時間分解波形を修正するためのデータを最新のデータに更新させることができる。
【0122】
2−4.変形例
第2実施形態では、濃度の算出回数に基づいて、反射鏡進退機構80による反射鏡40の進退、及び、装置関数時間分解波形取得部130による装置関数時間分解波形の取得を実行させることとして説明したが、これに代えて、濃度の最後の算出からの経過時間に基づいて行うこととしてもよい。
【0123】
具体的には、例えば、濃度の最後の算出からの経過時間を計測しておき、経過時間が所定時間(例えば2時間)に達した場合に、反射鏡進退機構80による反射鏡40の挿入、及び、装置関数時間分解波形取得部130による装置関数時間分解波形の取得を実行させることとしてもよい。
【0124】
3.他の実施例
3−1.光源
上記の実施形態で説明した光源は多波長光源である必要はなく、1種類の波長のパルス光を生成する光源を複数配置することとしてもよい。また、光源はパルス光を繰り返し発生する光源であってもよい。この場合は、光強度検出部70において光強度を一定時間分積算し、光強度の積算値を光検出信号に含めて制御部100に出力するようにすると好適である。
【0125】
3−2.光強度の検出
測定光の強度が微弱である場合は、フォトンカウンティング検出によって光子の数を計数することによって光強度の検出を行うこととしてもよい。
【0126】
3−3.光吸収係数の算出
上記の実施形態では、式(2)に従って皮膚の各層の光吸収係数を算出するものとして説明した。しかし、式(2)ではなく、式(1)を積分型に発展させた次式(7)を用いて皮膚の各層の光吸収係数を算出することとしてもよい。
【数7】
【0127】
3−4.成分濃度の算出
上記の実施形態では、光吸収係数と体積分率との関係により定まる式(5)及び(6)に従って、皮膚の真皮層の各成分の濃度を算出した。しかし、モル吸光係数とモル濃度との関係により定まる次式(8)及び(9)に従って、皮膚の真皮層の各成分の濃度を算出することとしてもよい。
【数8】
【数9】
【0128】
また、これら以外にも、光吸収係数や各成分の濃度を算出するための手法として、例えば、主成分分析やPLS(Partial Least Squares)法などの多変量解析に基づく手法を用いてもよい。
【0129】
3−5.その他
濃度測定の対象成分を血糖値として説明したが、血糖値に限らず、他の成分を対象としてもよいことは勿論である。また、測定対象の生体は人間ばかりでなく、動物であってもよいことは勿論である。