特許第6048982号(P6048982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048982グアニジン架橋を有する人工ヌクレオシドおよびオリゴヌクレオチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048982
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】グアニジン架橋を有する人工ヌクレオシドおよびオリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/067 20060101AFI20161212BHJP
   C07H 19/167 20060101ALI20161212BHJP
   C07H 21/02 20060101ALI20161212BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20161212BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20161212BHJP
【FI】
   C07H19/067CSP
   C07H19/167
   C07H21/02
   C12N15/00 AZNA
   C12N15/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2014-536921(P2014-536921)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013075370
(87)【国際公開番号】WO2014046212
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2015年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-208906(P2012-208906)
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-22360(P2013-22360)
(32)【優先日】2013年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 聡
(72)【発明者】
【氏名】壽 悠太朗
(72)【発明者】
【氏名】脇 玲子
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/052436(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/068795(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/026824(WO,A1)
【文献】 Chemical Communications,2010年,Vol.46,No.29,p.5283-5285
【文献】 Chemical Communications,2007年,No.36,p.3765-3767
【文献】 化学工業,2012年 1月 1日,Vol.63, No.1,p.42-48
【文献】 J. Synth. Org. Chem.,1999年,Vol.57,No.11,p.969-980
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 19/067
C07H 19/167
C07H 21/02
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式IまたはIIで表される化合物またはその塩:
【化1】
(式IまたはII中、
は、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいプリン−9−イル基または2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を表し、ここで、該α群は、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、およびハロゲン原子からなり;
、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【化2】
を表し;そして
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいアシル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいシリル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいリン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、および/または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]を表す)。
【請求項2】
前記式IまたはIIにおいて、前記Bが、6−アミノプリン−9−イル基、2,6−ジアミノプリン−9−イル基、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル基、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル基、2,6−ジメトキシプリン−9−イル基、2,6−ジクロロプリン−9−イル基、6−メルカプトプリン−9−イル基、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、または4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である、請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項3】
前記式IまたはIIにおいて、前記Bが、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である、請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項4】
以下の式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドまたはその薬理学上許容される塩:
【化3】
(式I’またはII’中、
は、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいプリン−9−イル基または2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を表し、ここで、該α群は、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、およびハロゲン原子からなり;
、R12、およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【化4】
を表し、そしてR14は、水素原子を表し;そして
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいアシル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいシリル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいリン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、および/または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]を表す)。
【請求項5】
前記式I’またはII’において、前記Bが、6−アミノプリン−9−イル基、2,6−ジアミノプリン−9−イル基、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル基、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル基、2,6−ジメトキシプリン−9−イル基、2,6−ジクロロプリン−9−イル基、6−メルカプトプリン−9−イル基、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、または4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である、請求項4に記載のオリゴヌクレオチドまたはその薬理学上許容される塩。
【請求項6】
前記式I’またはII’において、前記Bが、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である、請求項4に記載のオリゴヌクレオチドまたはその薬理学上許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工ヌクレオシドおよびオリゴヌクレオチドに関し、より詳細には、グアニジン架橋を有する人工ヌクレオシドおよびオリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸医薬による疾病の治療法として、アンチセンス法、アンチジーン法、アプタマーを用いる方法、siRNAを用いる方法などがある。このうち、アンチセンス法は、疾病に関わるmRNAと相補的なオリゴヌクレオチド(アンチセンス鎖)を外部から導入し、二重鎖を形成させることにより、病原RNAの翻訳過程を阻害し、疾病の治療や予防を行う手法である。siRNAを用いる方法もアンチセンス法に類似しており、生体に投与した二重鎖RNAによりmRNAからタンパク質への翻訳を阻害する。一方、アンチジーン法は、病原RNAを転写するDNA部位に対応する三重鎖形成オリゴヌクレオチドを外部から導入することによりDNAからRNAへの転写を抑制する。また、アプタマーは、短い核酸分子(オリゴヌクレオチド)であるため、疾病の原因となるタンパク質などの生体成分と結合することにより機能を発揮する。
【0003】
こうした核酸医薬の素材として、種々の人工核酸が開発されているが、未だ切札となるべき分子が存在しない。例えば、これまでに開発されてきた核酸医薬の素材として、ホスホロチオエート(Phosphorothioate:S−PO)型オリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、2’,4’−ブリッジド(架橋)核酸(bridged nucleic acid)(BNA)/2’,4’−ロックト核酸(locked nucleic acid)(LNA)(特許文献1から4および非特許文献1から4)などがある。S−オリゴは、サイトメガロウイルスに対するアンチセンス医薬品として、既に米国で上市されている。これは、高いヌクレアーゼ耐性を有するものの、標的核酸鎖との結合親和性が低いという難点を有しており、改善が必要である。これまでに開発されている2’,4’−BNA/LNAは、いずれも標的核酸鎖との結合親和性が高く、これからの核酸医薬の素材として最も期待される分子である。しかしながら、ヌクレアーゼに対する耐性が十分ではなく、生体内での安定性という点で改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第98/39352号
【特許文献2】国際公開第2005/021570号
【特許文献3】国際公開第2003/068795号
【特許文献4】国際公開第2011/052436号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. Wahlestedtら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2000年,97巻,10号,5633-5638頁
【非特許文献2】Y. Hariら、Bioorg. Med. Chem.,2006年,14巻,1029-1038頁
【非特許文献3】K. Miyashitaら、Chem. Commun.,2007年,3765-3767頁
【非特許文献4】S.M.A. Rahmanら、J. Am. Chem. Soc.,2008年,130巻,14号,4886-4896頁
【非特許文献5】M. Kuwaharaら、Nucleic Acids Res.,2008年,36巻,13号,4257-4265頁
【非特許文献6】S. Obikaら、Bioorg. Med. Chem.,2001年,9巻,1001-1011頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、標的核酸に対する高い結合親和性および特異性を有し、高いヌクレアーゼ耐性を示すオリゴヌクレオチド用の核酸分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、2’,4’−BNA/LNAの架橋構造にグアニジンを導入した核酸を含むオリゴヌクレオチドが、特にDNAに対する高い結合親和性および特異性を有し、高いヌクレアーゼ耐性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下の式IまたはIIで表される化合物またはその塩:
【0009】
【化1】
【0010】
(式IまたはII中、
は、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいプリン−9−イル基または2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を表し、ここで、該α群は、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、およびハロゲン原子からなり;
、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【0011】
【化2】
【0012】
を表し;そして
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいアシル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいシリル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいリン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、および/または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]を表す)を提供する。
【0013】
1つの実施態様では、上記式IまたはIIにおいて、上記Bは、6−アミノプリン−9−イル基、2,6−ジアミノプリン−9−イル基、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル基、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル基、2,6−ジメトキシプリン−9−イル基、2,6−ジクロロプリン−9−イル基、6−メルカプトプリン−9−イル基、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、または4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である。
【0014】
1つの実施態様では、上記式IまたはIIにおいて、上記Bは、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である。
【0015】
本発明はまた、以下の式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドまたはその薬理学上許容される塩:
【0016】
【化3】
【0017】
(式中、
は、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいプリン−9−イル基または2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を表し、ここで、該α群は、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、およびハロゲン原子からなり;
、R12、およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【0018】
【化4】
【0019】
を表し、そしてR14は、水素原子を表し;そして
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいアシル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいシリル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいリン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、および/または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]を表す)を提供する。
【0020】
1つの実施態様では、上記式I’またはII’において、上記Bは、6−アミノプリン−9−イル基、2,6−ジアミノプリン−9−イル基、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル基、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル基、2,6−ジメトキシプリン−9−イル基、2,6−ジクロロプリン−9−イル基、6−メルカプトプリン−9−イル基、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、または4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である。
【0021】
1つの実施態様では、上記式I’またはII’において、上記Bは、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、標的核酸に対する高い結合親和性および特異性を有し、高いヌクレアーゼ耐性を示すオリゴヌクレオチド用の核酸分子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】5’−d(TTTTTTTTXT)−3’の配列の各種オリゴヌクレオチドを3’−エキソヌクレアーゼで処理した場合の、未反応のオリゴヌクレオチドの割合の経時変化を示すグラフである。
図2】5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列の各種オリゴヌクレオチドを3’−エキソヌクレアーゼで処理した場合の、未反応のオリゴヌクレオチドの割合の経時変化を示すグラフである。
図3】グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体およびLNAを含むオリゴヌクレオチドの、完全相補配列を有するDNA標的鎖(フルマッチ型)および1塩基ミスマッチを有するDNA標的鎖(ミスマッチ型)のそれぞれに対するTm曲線を示すグラフである。
図4】化合物57(A〜D)および化合物61(E〜H)のHuH−7細胞内の動態を示す顕微鏡写真であり、A,Eは位相差像; B,FはAlexa Fluor 488 (オリゴヌクレオチド)の蛍光像; C,GはHoechst 33342 (核) の蛍光像; D,HはLysoTracker(リソソーム)の蛍光像である。
図5】化合物57のHuH−7細胞内の動態を示す顕微鏡写真であって、図4A〜Dについて図4Bの矢印で示す領域について拡大した写真(A〜D)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本明細書中で用いられる用語を定義する。
【0025】
本明細書において、用語「炭素数1から6の直鎖アルキル基」は、炭素数1から6の任意の直鎖アルキル基をいい、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、またはn−ヘキシル基をいう。
【0026】
本明細書において、用語「炭素数1から6の直鎖アルコキシ基」は、炭素数1から6の任意の直鎖アルキル基を有するアルコキシ基を包含する。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基などが挙げられる。
【0027】
本明細書において、用語「炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基」は、炭素数1から6の任意の直鎖アルキル基を有するアルキルチオ基を包含する。例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基などが挙げられる。
【0028】
本明細書において、用語「炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基」は、炭素数1から6の任意の直鎖アルキル基を1つあるいは炭素数1から6の同一のまたは異なる任意の直鎖アルキル基を2つ有するアミノ基を包含する。例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジエチルアミノ基などが挙げられる。
【0029】
本明細書において、用語「分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基」は、炭素数1から7の任意の直鎖アルキル基、同一のまたは異なる分岐鎖を有する炭素数3から7の任意の分岐鎖アルキル基、炭素数3から7の任意の環状アルキル基および炭素数4から7のこれらの組み合わせを包含する。例えば、炭素数1から7の任意の直鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、およびn−ヘプチル基が挙げられ、同一のまたは異なる分岐鎖を有する炭素数3から7の任意の分岐鎖アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基などが挙げられ、そして炭素数3から7の任意の環状アルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0030】
本明細書において、用語「分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基」は、炭素数2から7の任意の直鎖アルケニル基、炭素数2から7の任意の分岐鎖アルケニル基、炭素数3から7の任意の環状アルケニル基および炭素数4から7のこれらの組み合わせを包含する。例えば、炭素数2から7の任意の直鎖アルケニル基としては、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基などが挙げられ、炭素数3から7の任意の分岐鎖アルケニル基としては、イソプロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチル−2−ブテニル基などが挙げられ、そして炭素数3から7の任意の環状アルケニル基としては、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
【0031】
本明細書において、用語「ヘテロ原子を含んでいてもよいアリール基」は、炭化水素のみで構成された炭素数6から12の任意の芳香族炭化水素化合物、および炭素数6から12の任意の環構造のうち、当該環構造を構成する1以上の炭素原子が同種または異種のヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子)で置換された任意の複素芳香族化合物を包含する。炭化水素のみで構成された炭素数6から12の芳香族炭化水素化合物としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、アズレニル基などが挙げられ、そして当該複素芳香族化合物としては、ピリジン環、ピロリン環、キノリン環、インドリン環、イミダゾリン環、フリン環、チオフェン環などが挙げられる。ピリジン環としては、例えば、ピリミジン環、ピペリジン環、キノリン環、アクリジン環が挙げられる。
【0032】
本明細書において、用語「ヘテロ原子を含んでいてもよいヘテロアリール部分を有するアラルキル基」は、炭化水素のみで構成された炭素数5から12の任意の芳香族炭化水素化合物、および炭素数5から12の任意の環構造のうち、当該環構造を構成する1以上の炭素原子が同種または異種のヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子)で置換された任意の複素芳香族化合物を包含する。用語「ヘテロ原子を含んでいてもよいヘテロアリール部分を有するアラルキル基」の例としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、3−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基、ピリジルメチル基、インドリルメチル基、フリルメチル基、チエニルメチル基、ピロリルメチル基、2−ピリジルエチル基、1−ピリジルエチル基、3−チエニルプロピル基などが挙げられる。
【0033】
本明細書において、用語「アシル基」の例としては、脂肪族アシル基および芳香族アシル基が挙げられる。具体的には、脂肪族アシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、バレリル基、イソバレリル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、3−メチルノナノイル基、8−メチルノナノイル基、3−エチルオクタノイル基、3,7−ジメチルオクタノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、1−メチルペンタデカノイル基、14−メチルペンタデカノイル基、13,13−ジメチルテトラデカノイル基、ヘプタデカノイル基、15−メチルヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、1−メチルヘプタデカノイル基、ノナデカノイル基、アイコサノイル基およびヘナイコサノイル基のようなアルキルカルボニル基;スクシノイル基、グルタロイル基、アジポイル基のようなカルボキシ化アルキルカルボニル基;クロロアセチル基、ジクロロアセチル基、トリクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基のようなハロゲン原子で置換された炭素数1から6のアルキル基で置換されたカルボニル基;メトキシアセチル基のような炭素数1から6のアルコキシアルキルカルボニル基;(E)−2−メチル−2−ブテノイル基のような不飽和アルキルカルボニル基が挙げられる。また、芳香族アシル基の例としては、ベンゾイル基、α−ナフトイル基、β−ナフトイル基のようなアリールカルボニル基;2−ブロモベンゾイル基、4−クロロベンゾイル基のようなハロゲノアリールカルボニル基;2,4,6−トリメチルベンゾイル基、4−トルオイル基のような炭素数1から6のアルキル基で置換されたアリールカルボニル基;4−アニソイル基のような炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたアリールカルボニル基;2−カルボキシベンゾイル基、3−カルボキシベンゾイル基、4−カルボキシベンゾイル基のようなカルボキシ化アリールカルボニル基;4−ニトロベンゾイル基、2−ニトロベンゾイル基のようなニトロ化アリールカルボニル基;2−(メトキシカルボニル)ベンゾイル基のような炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたカルボニル化アリールカルボニル基;4−フェニルベンゾイル基のようなアリール化アリールカルボニル基などが挙げられる。
【0034】
本明細書において、用語「シリル基」の例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、メチルジ−t−ブチルシリル基、トリイソプロピルシリル基のようなトリ炭素数1から6のアルキル基で置換されたシリル基;ジフェニルメチルシリル基、ブチルジフェニルブチルシリル基、ジフェニルイソプロピルシリル基、フェニルジイソプロピルシリル基のような1から2個のアリール基で置換された炭素数1から6の3つのアルキル基で置換されたシリル基などが挙げられる。
【0035】
本明細書において、用語「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
【0036】
本明細書において、「核酸合成のアミノ基の保護基」、「核酸合成の水酸基の保護基」、「核酸合成の保護基で保護された水酸基」、「核酸合成の保護基で保護されたリン酸基」、および「核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基」内に記載される用語「保護基」とは、核酸合成の際に安定してアミノ基、水酸基、リン酸基またはメルカプト基を保護し得るものであ。具体的には、酸性または中性条件で安定であり、加水素分解、加水分解、電気分解、および光分解のような化学的方法により開裂し得る保護基のことをいう。このような保護基としては、炭素数1から6のアルキル基;炭素数1から6のアルケニル基;アシル基;テトラヒドロピラニル基またはテトラヒドロチオピラニル基;テトラヒドロフラニル基またはテトラヒドロチオフラニル基;シリル基;炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたメチル基;炭素数1から6のアルコキシ基で置換された炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたメチル基;ハロゲン原子で置換された炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたメチル基;炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたエチル基;ハロゲン原子で置換されたエチル基;1から3個のアリール基で置換されたメチル基;炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン原子および/またはシアノ基で置換された1から3個のアリール基で置換されたメチル基;炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたカルボニル基;ハロゲン原子、炭素数1から6のアルコキシ基および/またはニトロ基で置換されたアリール基;ハロゲン原子および/または炭素数1から6の3個のアルキル基で置換されたシリル基で置換された炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたカルボニル基;アルケニルオキシカルボニル基;炭素数1から6のアルコキシ基および/またはニトロ基で置換されたアリール基で置換されていてもよいアラルキルオキシカルボニル基;が挙げられる。
【0037】
より具体的には、テトラヒドロピラニル基またはテトラヒドロチオピラニル基としては、テトラヒドロピラン−2−イル基、3−ブロモテトラヒドロピラン−2−イル基、4−メトキシテトラヒドロピラン−4−イル基、テトラヒドロチオピラン−4−イル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラン−4−イル基などが挙げられる。テトラヒドロフラニル基またはテトラヒドロチオフラニル基としては、テトラヒドロフラン−2−イル基、テトラヒドロチオフラン−2−イル基が挙げられる。炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたメチル基としては、メトキシメチル基、1,1−ジメチル−1−メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、ブトキシメチル基、t−ブトキシメチル基などが挙げられる。炭素数1から6のアルコキシ基で置換された炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたメチル基としては、2−メトキシエトキシメチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換された炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたメチル基としては、2,2,2−トリクロロエトキシメチル基、ビス(2−クロロエトキシ)メチル基などが挙げられる。炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたエチル基としては、1−エトキシエチル基、1−(イソプロポキシ)エチル基などが挙げられる。ハロゲン原子で置換されたエチル基としては、2,2,2−トリクロロエチル基などが挙げられる。1から3個のアリール基で置換されたメチル基としては、ベンジル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、α−ナフチルジフェニルメチル基、9−アンスリルメチル基などが挙げられる。「炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン原子および/またはシアノ基で置換された1から3個のアリール基で置換されたメチル基」としては、4−メチルベンジル基、2,4,6−トリメチルベンジル基、3,4,5−トリメチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−メトキシフェニルジフェニルメチル基、4,4’−ジメトキシトリフェニルメチル基、2−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、4−クロロベンジル基、4−ブロモベンジル基、4−シアノベンジル基などが挙げられる。炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基などが挙げられる。「ハロゲン原子、炭素数1から6のアルコキシ基および/またはニトロ基で置換されたアリール基」としては、4−クロロフェニル基、2−フロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基などが挙げられる。「ハロゲン原子およびまたは3個の炭素数1から6のアルキル基で置換されたシリル基で置換された炭素数1から6のアルコキシ基で置換されたカルボニル基」としては、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、2−トリメチルシリルエトキシカルボニル基などが挙げられる。アルケニルオキシカルボニル基としては、ビニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基などが挙げられる。「炭素数1から6のアルコキシ基および/またはニトロ基で置換されたアリール基で置換されていてもよいアラルキルオキシカルボニル基」としては、ベンジルオキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、2−ニトロベンジルオキシカルボニル基、4−ニトロベンジルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0038】
「核酸合成の水酸基の保護基」としては、脂肪族アシル基;芳香族アシル基;1から3個のアリール基で置換されたメチル基;炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン原子および/またはシアノ基で置換された1から3個のアリール基で置換されたメチル基;またはシリル基;が挙げられる。「核酸合成の保護基で保護された水酸基」の保護基としては、脂肪族アシル基;芳香族アシル基;1から3個のアリール基で置換されたメチル基;ハロゲン原子、炭素数1から6のアルコキシ基および/またはニトロ基で置換されたアリール基;炭素数1から6のアルキル基;または炭素数1から6のアルケニル基;が挙げられる。「核酸合成のアミノ基の保護基」としては、アシル基、ベンゾイル基が挙げられる。「核酸合成の保護基で保護されたリン酸基」の「保護基」としては、炭素数1から6のアルキル基および/またはシアノ基で置換された炭素数1から6のアルキル基;アラルキル基;ニトロ基および/またはハロゲン原子で置換されたアリール基で置換されたアラルキル基;炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、またはニトロ基で置換されたアリール基;2−シアノエチル基;2,2,2−トリクロロエチル基;ベンジル基;2−クロロフェニル基;または4−クロロフェニル基;が挙げられる。「核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基」の「保護基」としては、脂肪族アシル基または芳香族アシル基、ベンゾイル基が挙げられる。
【0039】
本明細書において、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から6のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]で表される基のうち、RがOR4aそしてRがNR5aとして表すことができる基は、「ホスホロアミダイト基」という。ホスホロアミダイト基としては、例えば、式−P(OCCN)(N(iPr))で表される基、または式−P(OCH)(N(iPr))で表される基が挙げられる。ここで、iPrはイソプロピル基を表す。
【0040】
本明細書において、用語「人工ヌクレオシド」および「ヌクレオシド類縁体」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖とが結合した「ヌクレオシド」のうち非天然型のもの(すなわち、天然のヌクレオシドではなく、かつ人為的にのみ製造することができるヌクレオシド)、ならびに、プリンおよびピリミジン以外の芳香族複素環および芳香族炭化水素環でプリンまたはピリミジン塩基との代用が可能なもの(例えば、ピリドン、ヒドロキシベンゼン、アミノピリジンなどが挙げられるが、特に限定されない)と糖とが結合したものいう。
【0041】
本明細書において、用語「人工オリゴヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド類縁体」とは、同一または異なる「ヌクレオシド」または「ヌクレオシド類縁体」がリン酸ジエステル結合で2から50個結合した「オリゴヌクレオチド」の非天然型誘導体をいう。そのような類縁体としては、例えば、糖部分が修飾された糖誘導体;リン酸ジエステル部分がチオエート化されたチオエート誘導体;末端のリン酸部分がエステル化されたエステル体;プリン塩基上のアミノ基がアミド化されたアミド体、糖部分が修飾された糖誘導体が挙げられる。
【0042】
本明細書において、用語「式IまたはIIで表される化合物の塩」とは、本発明の式IまたはIIで表される化合物の塩をいう。そのような塩としては、例えば、式IまたはIIで表される化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;式IまたはIIで表される化合物のアンモニウム塩のような無機塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩等のアミン塩;式IまたはIIで表される化合物のフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン原子化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;式IまたはIIで表される化合物のメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような炭素数1から6のアルカンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;および、式IまたはIIで表される化合物のグリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩を挙げることができる。
【0043】
本明細書において、用語「式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドの薬理学上許容される塩」としては、本発明の式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチド類縁体の塩をいう。そのような塩としては、例えば、式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドのアンモニウム塩のような無機塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩等のアミン塩;式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドのフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン原子化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドのメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような炭素数1から6のアルカンで置換されたスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;および、式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有するオリゴヌクレオチドのグリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩を挙げることができる。
【0044】
以下、本発明について詳述する。
【0045】
本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドおよびヌクレオチドまたはその塩は、以下の式IまたはII:
【0046】
【化5】
【0047】
(式IまたはII中、
は、α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいプリン−9−イル基または2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基を表し、ここで、該α群は、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、およびハロゲン原子からなり;
、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【0048】
【化6】
【0049】
を表し;そして
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいアシル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいシリル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいリン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、および/または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]を表す)で表される構造を有する。
【0050】
上記式IまたはIIにおいて、Bは、プリン塩基(すなわち、プリン−9−イル基)またはピリミジン塩基(すなわち、2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基)である。これらの塩基は、水酸基、炭素数1から6の直鎖アルキル基、炭素数1から6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、炭素数1から6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1から6の直鎖アルキルアミノ基、およびハロゲン原子からなるα群より選択される任意の置換基を1以上有していてもよい。
【0051】
上記の塩基(B)の具体例としては、6−アミノプリン−9−イル基(アデニニル基)、2,6−ジアミノプリン−9−イル基、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル基、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基(グアニニル基)、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル基、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル基、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル基、2,6−ジメトキシプリン−9−イル基、2,6−ジクロロプリン−9−イル基、6−メルカプトプリン−9−イル基、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(シトシニル基)、4−アミノ−2−オキソ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(ウラシリル基)、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(チミニル基)、および4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基が挙げられる。
【0052】
中でも、Bは、安全で効果的な核酸医薬への応用という観点から、以下の構造式:
【0053】
【化7】
【0054】
でそれぞれ表される、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(チミニル基)、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(シトシニル基)、6−アミノプリン−9−イル基(アデニニル基)、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル基(グアニニル基)、4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基、および2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(ウラシリル基)が好適であり、特に、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル基(チミニル基)が好適である。また、オリゴヌクレオチドの合成の際には、水酸基が保護基により保護されていることが好ましい。
【0055】
上記式IまたはIIにおいて、R、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【0056】
【化8】
【0057】
を表し、好ましくは、水素原子またはメチル基である。「アミノ基の保護基」としては、アセチル基、第三級ブトキシカルボニル(Boc)基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基などが挙げられる。
【0058】
上記式IまたはIIにおいて、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよくそしてヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいアシル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいシリル基、該α群から選択される任意の置換基を1以上有していてもよいリン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、−P(R)R[式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1から5のアルコキシ基、炭素数1から5のアルキルチオ基、炭素数1から6のシアノアルコキシ基、および/または炭素数1から6のアルキル基で置換されたアミノ基を表す]を表す。
【0059】
本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドは、2’,4’−BNA/LNAの架橋構造にグアニジンが導入されている。グアニジンは正の電荷を有するため、例えば、リン酸ジエステル部のアニオン反発抑制(静電相互作用)および水和効果の増強による標的核酸に対する二重鎖形成能の向上、ならびに酵素耐性能の向上が期待される。
【0060】
本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドから、2’,4’−架橋型人工ヌクレオチドを容易に調製することができる。例えば、2’,4’−架橋型人工ヌクレオチドの三リン酸化は、非特許文献5に記載の方法に従って容易に行われ得る。
【0061】
本発明のオリゴヌクレオチドまたはその薬理学上許容される塩は、以下の式I’またはII’で表されるヌクレオシド構造を少なくとも1つ含有する:
【0062】
【化9】
【0063】
(式中、B、R、およびRは、上記式IおよびIIについて定義されるものと同様である)。
【0064】
上記式I’またはII’において、R、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、アミノ基の保護基、または
【0065】
【化10】
【0066】
を表し、好ましくは、水素原子またはメチル基であり、そしてR14は、水素原子を表す。
【0067】
本発明のオリゴヌクレオチドは、上記ヌクレオシド構造を、任意の位置に少なくとも1つ有する。1つのオリゴヌクレオチドに含有される上記ヌクレオシド構造の数および位置は、特に限定されず、目的に応じて適宜設計され得る。数が多いほど、オリゴヌクレオチドは、標的核酸に対する高い結合親和性および特異性を有し、二重鎖および三重鎖の形成速度が速く、高いヌクレアーゼ耐性を示す。本明細書中では、本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシド、および本発明のオリゴヌクレオチドに含まれる上記ヌクレオシド構造を総称して、「グアニジン架橋型人工核酸」または「グアニジン架橋型核酸」とも称する。
【0068】
このようなヌクレオシド構造を含むオリゴヌクレオチドおよびその類縁体は、上述のように糖部の架橋により固定された構造を有するため、各種ヌクレアーゼに対して分解されにくく、生体への投与後、長時間生体内に存在することができる。さらに、糖部の架橋上に存在するカチオン性グアニジンに起因する静電作用を介して、例えば、mRNAと安定な二重鎖を形成して病因となるタンパク質の生合成を阻害し、あるいはゲノム中の二重鎖DNAとの間で三重鎖を形成してmRNAへの転写を阻害する。また、感染したウイルスの増殖を抑えることも可能となる。
【0069】
これらのことから、本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドを用いて合成されたオリゴヌクレオチドおよびその類縁体は、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤をはじめとした、特定の遺伝子の働きを阻害して疾病を治療する医薬品(アンチセンス分子など)としての有用性が期待される。
【0070】
特に、アンチセンス法では、相補センス鎖RNAに対する結合親和性および生体内DNA分解酵素への耐性の両方が必要とされる。一般的に、核酸は、一本鎖状態では、糖部の構造が絶えずDNA二重鎖に近い形と、DNA−RNA二重鎖やRNA二重鎖に近い形との間で揺らいでいることが知られている。一本鎖核酸が相補的なRNA鎖と二重鎖を形成する場合、その糖部構造は固定される。そこで、本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドでは、糖部を予め二重鎖を形成する場合の状態に固定されているため、目的のRNA鎖と二重鎖を形成しやすく、安定に存在させることができる。また、核酸二重鎖は、水分子のネットワークと呼ばれる鎖のようにつながった水和水により安定化されていることも知られている。本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドでは、グアニジンを有するため、例えば、静電相互作用および水和効果による二重鎖形成能の向上、ならびに酵素耐性能の向上が期待される。さらに、グアニジンを架橋部に導入することによりカチオンの位置が固定され、静電相互作用および水和効果の増強も期待される。本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドでは、分子中にグアニジニウム基由来の正電荷を有するため、天然の核酸やこれまでに知られている人工核酸に比べて、細胞への取り込み効率が向上でき、さらに標的核酸に対するハイブリッド形成速度の向上もまた期待される。これらによりアンチセンス効果の増強および体内残存時間の増大が見込まれ、投与量を減らすことによる副作用の軽減とコストの削減が可能である。
【0071】
本発明のオリゴヌクレオチドおよびその類縁体は、例えば、賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常用いられる補助剤を配合して、非経口投与製剤またはリポソーム製剤とすることができる。また、例えば、当該技術分野で通常用いられる医薬用担体を配合して、液剤、クリーム剤、軟膏剤などの局所用の製剤を調製できる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドおよびその類縁体の合成を、実施例に基づいてさらに詳しく説明する。
【0073】
以下の実施例では、水素核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルは日本電子株式会社製JNM−ECS400型(400MHz)を用い、テトラメチルシラン(0.00ppm)、クロロホルム−d(7.26ppm)、メタノール−d(3.30ppm)を内部標準として測定した。分裂様式は一重項,二重項,三重項,多重項,AB四重項,二重四重項をそれぞれs,d,t,m,AB,ddと略した。炭素核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルはJNM−ECS400型(100MHz)を用い、クロロホルム−d(77.0ppm)、メタノール−d(49.0ppm)を内部標準として測定した。リン核磁気共鳴(31P−NMR)は、日本電子株式会社製JNM−ECS400型(161.8MHz)を用い、5%リン酸−重水溶液(0.00ppm)を外部標準として測定した。質量分析(FAB−MS)は日本電子株式会社製JMS−600型、同JMS−700型、同JMS−D300型を用いて測定した。シリカゲルクロマトグラフィーの吸着剤は富士シリシア化学株式会社製PSQ−100B(ave.0.110mm)を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィーの吸着剤は富士シリシア化学富士株式会社製PSQ−60B(平均0.060mm)を用いた。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は株式会社島津製作所製SHIMADZU LC−10ATVP,SHIMADZU SPD−10AVP,SHIMADZU CTO−10VPを用いた。HPLC分析カラムにはWaters XBridgeTM OST C18 2.5μm(4.6×50mm)を、分取カラムにはWaters XBridgeTM OST C18 2.5μm (10×50mm)を用いた。Tm測定は株式会社島津製作所製SHIMADZU UV−1650B、 SHIMADZU UV−1650PC を用いて行った。MALDI−TOF−MSはBruker社製Daltonics(登録商標)Autoflex II TOF/TOFを用いて測定した。
【0074】
塩化メチレン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ピリジンはカルシウムヒドリドで乾燥した後に、蒸留し反応溶媒および塩基として使用した。その他の試薬類については、特に記載のない限り、市販のものをそのまま使用した。
【0075】
(実施例1)ヌクレオシド類縁体(化合物8)の合成
【0076】
【化11】
【0077】
(1)化合物5の合成
【0078】
【化12】
【0079】
Nishida, M.ら、Chem. Commun.、2010年、第46巻,p.5283-5285.に記載の方法に従い、D−グルコースから15工程で化合物1を合成した。
【0080】
得られた化合物1(2.00mg,3.86mmol)のメタノール溶液50mLに窒素気流下、塩化ニッケル(36mg,0.28mmol)を加えた後、0℃にて水素化ホウ素ナトリウム(600mg,15.4mmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。セライトで濾過を行った後に溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール)により精製し、化合物2(1.47g,81%)を白色アモルファスとして得た(上記工程a)。
【0081】
得られた化合物2の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CD3OD) δ : 1.60 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.61, 2.93 (2H, AB, J = 14.0 Hz), 3.54, 3.61 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.70 (1H, t, J = 6.0 Hz, 9.0 Hz), 4.19 (1H, d, J = 6.0 Hz), 4.58, 4.61 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.65, 4.81 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.89 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.30-7.43 (10H, m), 7.53 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0082】
次いで、得られた化合物2(576mg,1.23mmol)のジクロロメタン溶液10mLに、窒素気流下、0℃にて9−フルオレニルメトキシカルボニルイソシアナート(350mg,1.23mmol)のジクロロメタン溶液(4mL)を加えて0℃にて15分間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=80:1)により精製し、化合物3(638mg,69%)を白色固体として得た(上記工程b)。
【0083】
得られた化合物3の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CDCl3) δ : 1.57 (3H, d, J = 1.0 Hz), 3.57, 3.69 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.65 (1H, t, J = 7.5 Hz), 3.91, 4.24 (2H, AB, J = 12.0 Hz), 4.16 (1H, d, J = 7.5Hz), 4.22 (1H, t, J = 7.0 Hz), 4.46 (2H, d, J = 7.0 Hz), 4.53 (2H, s), 4.68, 4.77 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.88 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.19-7.44 (15H, m), 7.55 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.78 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.12 (1H, s), 8.29 (1H, s), 9.98 (1H, s)。
【0084】
次いで、得られた化合物3(335mg,0.45mmol)のジクロロメタン溶液5mLに、窒素気流下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(103mg,0.54mmol)を加え、室温にて6時間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=80:1)により精製し、化合物4(268mg,83%)を黄白色固体として得た(上記工程c)。
【0085】
得られた化合物4の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CD3OD) δ : 1.35 (3H, s), 3.11, 3.45 (2H, AB, J = 13.5 Hz), 3.69, 3.83 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.28 (2H, d, J = 6.5 Hz), 4.30 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.32 (1H, t, J = 6.5 Hz), 4.38 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.48, 4.71 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.51, 4.57 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.91 (1H, s), 7.23-7.85 (19H, m)。
【0086】
得られた化合物4(971mg,1.36mmol)のジクロロメタン溶液8mLに、窒素気流下、ジエチルアミン(2mL)を加え室温にて5時間撹拌した。次いで、溶媒留去した後、ヘキサンで洗浄することで化合物5(609mg,91%)を白色固体として得た(上記工程d)。
【0087】
得られた化合物5の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CD3OD) δ : 1.37 (3H, s), 3.12, 3.46 (2H, AB, J = 14.0 Hz), 3.60, 3.86 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.25 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.44 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.50, 4.71 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.51, 4.59 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.89 (1H, s), 7.24-7.80 (10H, m), 7.89 (1H, s)。
【0088】
(2)化合物8の合成
【0089】
【化13】
【0090】
上記で得られた化合物5(551mg,1.12mmol)のジクロロメタン溶液12mLに、窒素気流下、室温にてトリエチルアミン(0.68mL,4.93mmol)を加えた後に、0℃にて無水酢酸(0.23mL,2.47mmol)を加え、室温にて2時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体(616mg)のイソプロパノール溶液10mLに炭酸カリウム(400mg,2.89mmol)を加えて室温にて6日間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体(517mg)のイソプロパノール溶液10mLに、水素気流下、水酸化パラジウムカーボン(1.40g)を加えて室温にて26時間撹拌した。反応液を濾過して得られたろ液の溶媒を留去することで化合物6(319mg,80%)を白色固体として得た(上記工程e)。
【0091】
得られた化合物6の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CD3OD) δ : 1.87 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.21 (3H, s), 3.45, 3.54 (2H, AB, J = 14.5 Hz), 3.71, 3.86 (2H, AB, J = 12.0 Hz), 4.23 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.61 (1H, d, J = 6.5 Hz), 5.85 (1H, s), 8.10 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0092】
得られた化合物6(219mg,0.62mmol)のピリジン溶液7mLに、窒素気流下、0℃にて4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(630mg,1.86mmol)を加え、室温にて20時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=40:1→5:1)により精製し、化合物7(267mg,66%)を白色アモルファスとして得た(上記工程f)。
【0093】
得られた化合物7の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CD3OD) δ : 1.87 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.21 (3H, s), 3.45, 3.54 (2H, AB, J = 14.5 Hz), 3.71, 3.86 (2H, AB, J = 12.0 Hz), 4.23 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.61 (1H, d, J = 6.5 Hz), 5.85 (1H, s), 8.10 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0094】
得られた化合物7(131mg,0.21mmol)のジクロロメタン溶液2mLに、窒素気流下、ジイソプロピルエチルアミン(146μL,0.84mmol)を加えた後、0℃にて2−シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミジト(96μL,0.43mmol)を加え、室温にて14時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をジクロロメタン、ヘキサンにより再沈殿を行うことで精製し、化合物8(110mg,61%)を白色アモルファスとして得た(上記工程g)。
【0095】
得られた化合物8の物性データは、以下のとおりであった:31P-NMR (CDCl3) δ : 149.94, 151.37。
【0096】
(実施例2)オリゴヌクレオチド類縁体の合成および精製
実施例1で得られた化合物8を用いて、オリゴヌクレオチド類縁体(化合物9から13:以下の表1に示す)を、DNA/RNAオリゴヌクレオチド自動合成機nS−8(株式会社ジーンデザイン製)により0.2μmolスケールのCPG担体を用いて合成した。化合物8のアセトニトリル溶液(0.1M)のカップリング時間は16分間で行い、それ以外は天然のDNA合成と同条件にて行った。活性化剤は5−エチルチオ−1H−テトラゾール(0.5M)を用いた。合成したオリゴヌクレオチドは28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した後に、55℃にて12時間かけて塩基部の保護基を除去した。得られた粗成績体を逆相簡易カラム(Sep−Pak@Plus C18 Environmental Cartridges, Waters社)により精製し、さらに逆相HPLC精製を行った。
【0097】
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物9から13)の精製および純度確認は逆相HPLCにより以下の条件で行った。
移動相
A液:0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液,pH7.0
B液:0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液:アセトニトリル=1:1,pH7.0
グラジエント:
分析5−9%MeCN(30分)、分取5−9%MeCN(30分):化合物9
分析4−8%MeCN(30分)、分取4−8%MeCN(30分):化合物10
分析3−7%MeCN(30分)、分取3−7%MeCN(30分):化合物11
分析4−8%MeCN(30分)、分取4−8%MeCN(30分):化合物12
分析7−11%MeCN(30分)、分取7−11%MeCN(30分):化合物13
使用カラム:
分析 Waters XBridgeTMOST C18 2.5 μm(4.6×50mm)
分取 Waters XBridgeTM OST C18 2.5 μm(10×50mm)
流速:
分析 1.0mL/分
分取 4.5mL/分
カラム温度:50℃
検出:UV(254nm)
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物9から13)の分子量は、飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)により決定した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から明らかなように、飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)による分子量測定の結果が理論値とよい一致を示したことから、それぞれ目的とするオリゴヌクレオチドが得られたことを確認した。
【0100】
比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物14:以下の表2、配列番号1)、およびウレア架橋型人工核酸2’,4’−BNA/LNA(5−メチル−2’−O,4’−C−メチレンウリジン(非特許文献6に従って合成)を含有するオリゴヌクレオチド類縁体(化合物15から18:以下の表3)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し、精製した。
【0101】
(実施例3)融解温度(Tm)の測定
実施例2で得られた各種オリゴヌクレオチド(化合物8を用いて製造したオリゴヌクレオチド類縁体の化合物9から12、天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドの化合物14、およびウレア架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体の化合物15から18)と標的鎖(5’−AGCAAAAAACGC−3’:配列番号2)とをアニーリング処理して二重鎖を形成させた後、二重鎖の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0102】
具体的には、NaCl 100mM、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)10mM、オリゴヌクレオチド4μM、および標的鎖4μMを含むサンプル溶液(130μL)を沸騰水浴で加熱した後、10時間かけて室温まで冷却した。分光光度計(Shimadzu,UV−1650PC)のセル室内に結露防止のために窒素気流を通し、サンプル溶液を5℃まで徐々に冷却し、さらに5分間5℃に保った後、測定を開始した。90℃まで毎分0.5℃の割合で温度を緩やかに上昇させ、0.1℃上昇する毎に260nmにおける紫外部吸収を測定した。なお、温度上昇による濃度変化を防止するため、セルは蓋付きのものを用いた。結果をTm値および修飾単位あたりのTm値差にて表2に示す。Tm値が高いほど、二重鎖形成能が高いことを示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2から明らかなように、架橋構造およびカチオンの効果により二重鎖形成能が向上するという予想に反して、二重鎖形成能は天然のDNAとほぼ同程度であった。また、オリゴヌクレオチドへの人工核酸の導入割合が多いほど、Tm値の上昇が見られた。したがって、本発明のヌクレオチド類縁体は、アンチセンス法に適するオリゴヌクレオチドの合成に有用であると考えられる。
【0105】
架橋部のカチオンによる効果を精査するべく、よりカチオンの効果が表れやすい低塩濃度条件(NaClを含まないこと以外は上記サンプル溶液と同じ組成の溶液を使用)でのTm測定を行った。比較対象として、ウレア架橋型人工核酸(化合物15から18)のTm値も測定した。結果を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3から明らかなように、RNAを標的とする場合のTm値にはあまり差がみられなかった。一方、DNAを標的とする場合、ウレア架橋型人工核酸の場合は人工核酸の導入数を増やすにつれてTm値が低下するのに対して、グアニジン架橋型人工核酸を導入した場合にはそのようなTm値の低下が見られなかった。このことから、架橋部のカチオンはDNAとの二重鎖の安定化に影響を与えることが示唆された。
【0108】
(実施例4)ヌクレオシド類縁体(化合物28)の合成
【0109】
【化14】
【0110】
(1)化合物20の合成
【0111】
【化15】
【0112】
化合物19をShrestha, A.R.ら、J. Org. Chem.、2011年、第76巻, p.9891-9899に記載の化合物7の調製手順に従って入手した。窒素気流下、化合物19(2.86g,4.10mmol)のジクロロメタン溶液(40mL)に、氷冷下にてピリジン(1.65mL,20.5mmol)およびトリフルオロメタンスルホン酸無水物(1.37mL,8.20mmol)を加え、氷冷条件で1時間撹拌した。水を加えて酸を潰した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた粗成績体を黄色油状物質として得、フラッシュクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1→2:1)により簡易精製し、粗成績体を淡黄色アモルファスとして得た。続いて、窒素気流下、粗成績体(1.96g,2.34mmol)のジメチルホルムアミド溶液(80mL)にアジ化ナトリウム(0.23g,3.60mmol)を加えて撹拌した。48時間後、溶媒留去した後水を加え、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた粗成績体をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製し、化合物20(1.71g,66%)を白色アモルファスとして得た(上記工程a)。
【0113】
得られた化合物20の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ : 0.99 (9H, s), 1.58 (3H, s), 3.63, 3.69 (2H, AB, J = 10.5 Hz), 3.69, 3.91 (2H, AB, J = 10.5 Hz), 3.91 (1H, dd, J = 7.2 Hz, 5.4 Hz), 4.23 (1H, d, J = 5.4 Hz), 4.47, 4.53 (2H, AB, J = 11.4 Hz), 4.57, 4.75 (2H, AB, J = 11.4 Hz), 6.03 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.23-7.60 (20H, m), 8.70 (1H,s)。
【0114】
(2)化合物24および25の合成
【0115】
【化16】
【0116】
得られた化合物20(622mg,0.85mmol)のメタノール溶液8mLに、窒素気流下、塩化ニッケル(11mg,0.085mmol)を加え、氷冷下にて水素化ホウ素ナトリウム(64mg,1.7mmol)を加え室温にて10分撹拌した。反応液をろ過して溶媒留去した後、水を加え酢酸エチルで抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒留去し粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:トリエチルアミン=200:1)により精製し、化合物21(456mg,76%)を白色固体として得た(上記工程b)。
【0117】
得られた化合物21の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CDCl3) δ : 1.04 (9H, s), 1.63 (3H, d, J = 1.5 Hz), 3.59, 3.66 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.67 (1H, dd, J = 5.5 Hz, 9.0 Hz), 3.79, 3.99 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.06 (1H, d, J = 5.5 Hz), 4.55, 4.58 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.67, 4.76 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.81 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.19-7.61 (21H, m), 7.95 (1H, s)。
【0118】
得られた化合物21(50mg,0.071mmol)のジクロロメタン溶液1mLに、窒素気流下、N,N’−ジ−(tert−ブトキシカルボニル)チオウレア(30.4mg,0.11mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(9μL,0.035mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(21mg,0.11mmol)を加え室温にて3時間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒留去し粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製し、化合物22(58mg,86%)を白色固体として得た(上記工程c)。
【0119】
得られた化合物22の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CDCl3) δ : 1.04
(9H, s), 1.42 (9H, s), 1.46(9H, s), 1.72 (3H, d, J = 1.0 Hz), 3.57, 3.96 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.73, 3.78 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.25 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.57, 4.65 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.59, 4.61 (2H, AB, J = 9.0 Hz), 4.89 (1H, q, J = 8.0 Hz), 5.98 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.20-7.69 (22H, m), 8.93 (1H, d, J = 8.0 Hz), 11.34 (1H,s)。
【0120】
得られた化合物22(106mg,0.11mmol)のテトラヒドロフラン溶液1mLに、窒素気流下、フッ化テトラn−ブチルアンモニウム(0.14mL,0.14mmol)を加え室温にて4.5時間撹拌した。次いで、溶媒留去し得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、化合物23(80mg,定量)を白色固体として得た(上記工程d)。
【0121】
得られた化合物23の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CDCl3) δ : 1.42 (9H, s), 1.50 (9H, s), 1.75 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.05 (1H, dd, J = 3.5 Hz, 9.0 Hz), 3.57, 3.62 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.68 (1H, dd, J = 11.0 Hz, 9.0 Hz), 3.84 (1H, dd, J = 11.0 Hz, 3.5 Hz), 4.35 (1H, d, J = 7.5 Hz), 4.51, 4.72 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.58, 4.62 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.87 (1H, q, J = 7.5 Hz), 6.07 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.26-7.52 (11H, m), 7.88 (1H, s), 9.05 (1H, d, J = 7.5 Hz), 11.39 (1H,s)。
【0122】
得られた化合物23(850mg,1.20mmol)のジクロロメタン溶液12mLに、窒素気流下、ピリジン(0.29mL,3.59mmol)を加え、0℃にてトリフロオロメタンスルホン酸無水物(0.3mL,1.78mmol)を加えて0℃にて3時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。窒素気流下、粗成績体のジクロロメタン溶液8mLにトリエチルアミン2mLを加えて、室温にて27時間撹拌した。次いで、溶媒留去し得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、化合物24(644mg,77%)を黄白色アモルファスとして得た(上記工程e)。
【0123】
化合物24(57mg,0.082mmol)のテトラヒドロフラン溶液1mLに、35%塩酸(0.3mL)を加え、室温にて40分間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重層水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去することで化合物25(44mg,定量)を白色固体として得た(上記工程e’)。
【0124】
得られた化合物25の物性データは、以下のとおりであった:H-NMR (CD3OD) δ : 1.54 (3H, d, J = 1.0 Hz), 3.53, 3.70 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.90, 3.97 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.16 (1H, s), 4.60, 4.66 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.62 (2H, s), 4.78 (1H, s), 5.66 (1H, s), 7.27-7.38 (m, 10H), 7.50 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0125】
(2)化合物28の合成
【0126】
【化17】
【0127】
上記で得られた化合物24(644mg,0.93mmol)のメタノール溶液10mLに、水素気流下、水酸化パラジウムカーボン(900mg)を加え、室温にて14時間撹拌した。次いで、反応液を濾過して得られたろ液の溶媒を留去することで、化合物26の粗成績体を得た(上記工程f)。
【0128】
化合物26の粗成績体(354mg)のピリジン溶液7mLに、窒素気流下、0℃にて4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(469mg,1.38mmol)を加え、室温にて12時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、化合物27(442mg,58%)を白色固体として得た(上記工程g)。
【0129】
得られた化合物27の物性データは、以下のとおりであった:1H-NMR (CD3OD) δ : 1.42 (18H, s), 1.49 (3H, s), 3.39-3.55 (4H, m), 3.73 (6H, s), 4.39 (1H, s), 4.57 (1H, s), 5.51 (1H, s), 6.83 (4H, d, J = 9.0 Hz), 7.17-7.44 (m, 9H), 7.77 (1H, s)。
【0130】
得られた化合物27(141mg,0.17mmol)のアセトニトリル溶液2mLに、窒素気流下、N,N−ジイソプロピルアンモニウムテトラゾリド(39mg,0.23mmol)と2−シアノエチルN,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホロジアミダイト(73μL,0.23mmol)を加え、室温にて3時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に水を加えてクエンチした後酢酸エチルで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。溶媒を留去して得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:2)により精製し、化合物28(148mg,86%)を白色アモルファスとして得た(上記工程h)。
【0131】
得られた化合物28の物性データは、以下のとおりであった:31P-NMR (CDCl3) δ : 148.78, 149.48, 149.78。
【0132】
(実施例5)オリゴヌクレオチド類縁体の合成および精製
実施例4で得られた化合物28を用いて、10merのオリゴヌクレオチド類縁体(化合物29から32:以下の表4に示す)を、DNA/RNAオリゴヌクレオチド自動合成機nS−8(株式会社ジーンデザイン製)により0.2μmolスケールのCPG担体を用いて合成した。化合物28のアセトニトリル溶液(0.1M)のカップリング時間は8分間で行い、それ以外は天然のDNA合成と同条件にて行った。活性化剤は5−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−テトラゾール(0.25M)を用いた。合成したオリゴヌクレオチドは28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した。得られた化合物29から31の粗成績体については、逆相簡易カラム(Sep−Pak@Plus C18 Environmental Cartridges, Waters社)により精製し、続いてトリフルオロ酢酸(TFA)50%で24時間処理した後に逆相HPLC精製を行った。得られた化合物32の粗成績体については、逆相簡易カラム(Sep−Pak@Plus C18 Environmental Cartridges, Waters社)により精製し、さらに逆相HPLC精製を行った。
【0133】
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物29から32)の精製および純度確認は実施例2と同様に行った。
【0134】
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物29から32)の分子量は、MALDI−TOF−MASS測定により決定した。結果を表4に示す。
【0135】
【表4】
【0136】
比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物33:以下の表5に示す)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し精製した。
【0137】
(実施例6)融解温度(Tm)の測定
実施例5で得られた各種オリゴヌクレオチド(化合物28を用いて製造したオリゴヌクレオチド類縁体の化合物29から31、および天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドの化合物33)と以下の表5および6に記載の標的鎖(10merのポリAおよび配列番号3〜5)とをアニーリング処理して複合体を形成させた後、複合体の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0138】
具体的には、NaCl 100mM、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)10mM、オリゴヌクレオチド4μM、および標的鎖4μMを含むサンプル溶液(130μL)を沸騰水浴で加熱した後、10時間かけて室温まで冷却した。分光光度計(Shimadzu,UV−1650PC)のセル室内に結露防止のために窒素気流を通し、サンプル溶液を0℃まで徐々に冷却し、さらに5分間0℃に保った後、測定を開始した。80℃まで毎分0.5℃の割合で温度を緩やかに上昇させ、0.1℃上昇する毎に260nmにおける紫外部吸収を測定した。なお、温度上昇による濃度変化を防止するため、セルは蓋付きのものを用いた。表5は、種々の数のグアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体のポリAに対するハイブリッド形成能をTm値および修飾単位あたりのTm値差にて表す。表6は、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体および天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドの種々の標的鎖に対するハイブリッド形成能をTm値にて表す。
【0139】
【表5】
【0140】
【表6】
【0141】
表5から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドはRNAに対する複合体形成能のみならずDNAに対する複合体形成能も優れていた。また、オリゴヌクレオチドへの人工核酸の導入割合が多いほど、Tm値の上昇が見られた。したがって、本発明のグアニジン架橋型人工核酸は、アンチセンス法に適するオリゴヌクレオチドの合成に有用であると考えられる。
【0142】
表6から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドはミスマッチ認識能も有していた。グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドは、天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドと比べても、望ましい標的鎖(すなわち、ポリA)への複合体形成能が優れていた。このため、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドは、配列非特異的に複合体を形成するおそれがないことがわかった。
【0143】
(実施例7)オリゴヌクレオチド類縁体の二重鎖形成能の評価
実施例4で得られた化合物28を用いて、種々の塩基からなる9merのオリゴヌクレオチド類縁体(化合物34:以下の表7に示す)を、合成したオリゴヌクレオチドを28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した後に、55℃にて12時間かけて塩基部の保護基を除去した以外は、実施例5と同様にして合成および精製した。比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物35:以下の表7に示す)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し精製した。
【0144】
化合物34および35のオリゴヌクレオチドについて、各オリゴヌクレオチドを標的鎖5’-GTGATATGC−3’とアニーリング処理して二重鎖を形成させた後、二重鎖の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。標的鎖へのアニーリングおよびTm値の測定を、実施例6と同様に行った。Tm値の結果を表7に示す。
【0145】
【表7】
【0146】
表7から明らかなように、種々の塩基からなる配列に設計した場合も、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物34)は、ポリT配列の場合と同様に、RNAおよびDNAの両方に関し、二重鎖形成能が優れていた。
【0147】
(実施例8)オリゴヌクレオチド類縁体の三重鎖形成能の評価
【0148】
【化18】
【0149】
実施例4で得られた化合物28を用いて、15merのオリゴヌクレオチド類縁体(化合物36:上記「X」がグアニジン架橋型人工核酸であり、下線を付与したCは、2’−デオキシ5−メチルシチジンである。以下の表8にも示す)を、合成したオリゴヌクレオチドを28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した後に、55℃にて12時間かけて塩基部の保護基を除去した以外は、実施例5と同様にして合成および精製した。比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物37:上記「X」が天然型のヌクレオシドであり、下線を付与したCは、2’−デオキシ5−メチルシチジンである。以下の表8にも示す)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し精製した。
【0150】
標的鎖5’−GGCAAAAAGAYAGAGAGACGC−3’(配列番号6)およびその相補鎖の5’−GCGTCTCTCTZTCTTTTTGCC−3’(配列番号7)を含む標的DNA二重鎖は以下のように調製した。5’−GGCAAAAAGAYAGAGAGACGC−「C18−スペーサー」−GCGTCTCTCTZTCTTTTTGCC−3’(配列番号6のオリゴヌクレオチド鎖の3’末端と配列番号7のオリゴヌクレオチド鎖の5’末端とをリンカーとして「C18スペーサー」にて連結した鎖)を、リンカー部の合成に18−O−ジメトキシトリチルヘキサエチレングリコールおよび1−[(2−シアノエチル)−(N,N−ジイソプロピル)]−ホスホロアミダイト(Glen Research社製)を用いたこと以外は標準的なホスホロアミダイトプロトコルにて合成し精製し、目的の標的DNA二重鎖を得た。ここで、YおよびZは塩基対を形成し得る組合せであり、以下のとおりである:YがAであり、かつZがTである;YがTであり、かつZがAである;YがGであり、かつZがCである;またはYがCであり、かつZがGである。
【0151】
化合物36および37のオリゴヌクレオチドについて、各オリゴヌクレオチドを標的二重鎖とアニーリング処理して三重鎖を形成させた後、三重鎖の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0152】
具体的には、カコジル酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)10mM、KCl 100mM、およびMgCl 50mM、オリゴヌクレオチド1.89μM、および標的二重鎖1.89μMを含むサンプル溶液(130μL)を沸騰水浴で加熱した後、10時間かけて室温まで冷却した。分光光度計(Shimadzu,UV−1650PC)のセル室内に結露防止のために窒素気流を通し、サンプル溶液を5℃まで徐々に冷却し、さらに20分間5℃に保った後、測定を開始した。90℃まで毎分0.5℃の割合で温度を緩やかに上昇させ、0.1℃上昇する毎に260nmにおける紫外部吸収を測定した。なお、温度上昇による濃度変化を防止するため、セルは蓋付きのものを用いた。Tm値の結果を表8に示す。Tm値が高いほど、三重鎖形成能が高い。
【0153】
【表8】
【0154】
表8から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物36)は、望ましい標的二重鎖(YがAであり、かつZがTである)に対する三重鎖形成能が優れていた。
【0155】
(実施例9)オリゴヌクレオチド類縁体のヌクレアーゼ耐性の評価
5’−d(TTTTTTTTXT)−3’の配列のXがそれぞれ以下に示す通りである、10merの各種オリゴヌクレオチドを調製した。すなわち、以下の各種オリゴヌクレオチドを調製した:実施例1のヌクレオシド類縁体(化合物8)を用いて製造した、Xがグアニジン架橋型人工核酸であるオリゴヌクレオチド類縁体(すなわち「化合物13」);実施例4のヌクレオシド類縁体(化合物28)を用いて製造した、Xがグアニジン架橋型人工核酸であるオリゴヌクレオチド類縁体(すなわち「化合物32」);XがLNA−T(チミンLNA)であるオリゴヌクレオチド(株式会社ジーンデザイン製:化合物38);XがDNA−T(チミンDNA)であるオリゴヌクレオチド(10merのオリゴdT、すなわち「化合物33」);およびXにS−オリゴ(酸化剤の代わりに硫化剤としてD−1,4−ジチオトレイトール(DDTT、ChemGene社製)を用いたこと以外は標準的なホスホロチオアート合成のプロトコルに従い、合成および精製した)を用いて標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って合成し精製したオリゴヌクレオチド(化合物39:陽性コントロールとして使用)。
【0156】
ヌクレアーゼ耐性の評価は、以下のように行った。各種オリゴヌクレオチド(750pmol)のいずれかを含む緩衝液100μL[50mM Tris・HCl(pH8.0)、10mM MgCl]に、3’−エキソヌクレアーゼ(Crotalus admanteus venom phosphodiesterase:CAVP、Pharmacia Biotech社製)0.175μgを加えて混合し、37℃でインキュベートし、反応開始後一定の時間ごとに反応液の一部を取り出した。取り出した反応液を90℃にて2分間加熱して酵素を失活させ、オリゴヌクレオチドの残量をHPLCにより定量した。HPLC条件は以下のとおりである:グラジエント6−12%MeCN(15分);流速0.8mL/分;カラム温度50℃。オリゴヌクレオチドの残量を未反応のオリゴヌクレオチドの割合(%)として算出し、反応時間に対してプロットした。結果を図1に示す。
【0157】
図1は、5’−d(TTTTTTTTXT)−3’の配列の各種オリゴヌクレオチドを3’−エキソヌクレアーゼで処理した場合の、未反応のオリゴヌクレオチドの割合の経時変化を示すグラフである。図1の縦軸は、ヌクレアーゼ処理に対して未反応のオリゴヌクレオチドの割合(%)を示し、横軸は、ヌクレアーゼ処理時間(分)を示す。図1の記号は以下を表す:四角、天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物33);丸、LNAを含有するオリゴヌクレオチド(化合物38);三角、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物32);×、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物13);および逆三角、S−オリゴを含有するオリゴヌクレオチド(化合物39)。
【0158】
図1から明らかなように、化合物13は、ヌクレアーゼ処理の20分後でも50%以上が未反応のまま残存しており、分解されにくかった。化合物32は、化合物13に比べると未反応のオリゴヌクレオチドの残存割合が低かった。しかし、化合物32は、ヌクレアーゼ処理の10分後にはほぼ分解される化合物38(LNAを含有するオリゴヌクレオチド)に比べると、分解されにくかった。
【0159】
(実施例10)オリゴヌクレオチド類縁体のヌクレアーゼ耐性の評価
5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列のXがグアニジン架橋型人工核酸であるオリゴヌクレオチド類縁体である、9merのオリゴヌクレオチド(化合物40)を、以下のように調製した。
【0160】
化合物32(3330pmol)を含む緩衝液40μL[50mM Tris・HCl(pH8.0)、10mM MgCl]に3’−エキソヌクレアーゼ(Crotalus admanteus venom phosphodiesterase:CAVP、Pharmacia Biotech社製)(0.2μg)を加えて混合し、37℃にて3時間インキュベートした。次いで、90℃にて2分間加熱して酵素を失活させた後、HPLCにて精製を行った。得られたオリゴヌクレオチドについて、飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)による分子量測定値(2743.07)が理論値(2743.83)とよい一致を示したことから、目的とするオリゴヌクレオチドが得られたことを確認した。
【0161】
5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列のXがLNAであるオリゴヌクレオチド(株式会社ジーンデザイン製:化合物41)を比較のために用いた。
【0162】
ヌクレアーゼ耐性の評価は、各種オリゴヌクレオチド(750pmol)のいずれかを含む緩衝液100μLに3’−エキソヌクレアーゼ0.08μgを添加した以外は、実施例9と同様に行った。結果を図2に示す。
【0163】
図2は、5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列の各種オリゴヌクレオチドを3’−エキソヌクレアーゼで処理した場合の、未反応のオリゴヌクレオチドの割合の経時変化を示すグラフである。図2の縦軸は、ヌクレアーゼ処理に対して未反応のオリゴヌクレオチドの割合(%)を示し、横軸は、ヌクレアーゼ処理時間(分)を示す。図2の記号は以下を表す:丸、LNAを含有するオリゴヌクレオチド(化合物41);および三角、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物40)。
【0164】
図2から明らかなように、化合物40(グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド)は、ヌクレアーゼ処理の20分後でも80%が未反応のまま残存していた。これに対し、化合物41(LNAを含有するオリゴヌクレオチド)は、ヌクレアーゼ処理の20分後には未反応のオリゴヌクレオチドはほとんど残っていなかった。このように、実施例4のグアニジン架橋型ヌクレオシド類縁体(化合物28)のような5員環グアニジン架橋型人工核酸を3’末端に含有するオリゴヌクレオチドは、極めて高いヌクレアーゼ耐性能を示した。
【0165】
(実施例11)オリゴヌクレオチド類縁体の融解温度(Tm)の測定
以下の表9に記載する化合物33(10merのオリゴdTからなる天然型オリゴヌクレオチド);化合物29〜31、42および43(化合物28のグアニジン架橋型核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体);ならびに化合物44〜48(LNA−Tを含有するオリゴヌクレオチド)について、10merのポリAにアニーリング処理して複合体を形成させた後、複合体の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0166】
化合物29〜31、42および43は、逆相簡易カラムによる精製後のTFA処理にTFA50%に代えてTFA75%を用いたこと以外は実施例5に記載のように合成および精製した。化合物44〜48は、株式会社ジーンデザイン製である。
【0167】
複合体形成およびTm値の測定については、KCl 200mM、カコジル酸カリウム緩衝液(pH6.8)20mM、オリゴヌクレオチド4μM、および標的鎖4μMを含むサンプル溶液(130μL)を用いた以外は、実施例6と同様に行った。結果を表9に示す。表9は、天然型オリゴヌクレオチドおよび種々の数のLNAを含有するオリゴヌクレオチドと比較して、種々の数のグアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体のポリAに対するハイブリッド形成能をTm値および修飾単位あたりのTm値差にて表す。
【0168】
【表9】
【0169】
表9から明らかなように、RNAを標的とした場合、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体は、天然型オリゴヌクレオチドと比較して十分に高い結合親和性を示した。さらに、人工核酸の導入数が3残基以下の場合は、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体は、LNAを含有するオリゴヌクレオチドと同程度のTm値であったが、グアニジン架橋型人工核酸を5残基導入したオリゴヌクレオチドは、LNAを5残基導入した場合よりも高い結合親和性を示すことが明らかとなった。1残基当たりのTm値の上昇を比較すると、LNAを導入した場合は、導入数によらずTm値の上昇は6℃から7℃である一方で、グアニジン架橋型人工核酸を導入した場合は、導入数を増やすにつれて1残基当たりのTm値の上昇が大きくなることが明らかとなった。このことから、架橋構造による結合親和性への影響は相加的であるのに対し、グアニジン由来のカチオンによる結合親和性への影響は相乗的であることが示唆された。また、DNAを標的とした場合、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチドは極めて高い結合親和性を示し、天然型オリゴヌクレオチドやLNAを含むオリゴヌクレオチドよりもはるかに高い結合親和性を有することが明らかとなった。
【0170】
(実施例12)オリゴヌクレオチド類縁体の標的塩基認識能の評価
表9のグアニジン架橋型人工核酸が5残基導入されているオリゴヌクレオチド類縁体(化合物43)およびLNAが5残基導入されているオリゴヌクレオチド(化合物48)について、完全相補配列を有するDNA標的鎖(フルマッチ型)および1塩基ミスマッチを有するDNA標的鎖(ミスマッチ型)のそれぞれに対する結合親和性を評価した。標的鎖の配列は、フルマッチ型:5’−(AAAAAAAAAA)−3’、ミスマッチ型:5’−(AAAAATAAAA)−3’である。結合親和性は、実施例11と同様に、アニーリング処理して複合体を形成させた後、複合体の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより評価した。
【0171】
結果を図3に示す。図3は、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体およびLNAを含むオリゴヌクレオチドの、完全相補配列を有するDNA標的鎖(フルマッチ型)および1塩基ミスマッチを有するDNA標的鎖(ミスマッチ型)のそれぞれに対するTm曲線を示す。図3の縦軸は、260nmの吸光度を表し、横軸は、温度(℃)を表す。グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体(化合物43)のミスマッチ型(細い一重線)およびフルマッチ型(細い一重破線)ならびにLNAを含むオリゴヌクレオチド(化合物48)のミスマッチ型(太い一重線)およびフルマッチ型(太い一重破線)に対するそれぞれの結果を示す。
【0172】
図3から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体(化合物43)は、ミスマッチ型標的鎖に対するTm値はフルマッチ型標的鎖に対するTm値に比較して十分低く、そのTm値の低下は、LNAを含むオリゴヌクレオチド(化合物48)の場合と同程度であった。このことから、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチドは、標的塩基認識能を損なうことなく、標的鎖との非常に高い結合親和性を有することが明らかとなった。
【0173】
(実施例13)グアニジン架橋型人工核酸(以下、GuNAと称することがある)の細胞内動態に関する評価
(1)蛍光標識GuNA修飾オリゴヌクレオチド(F−GuNA−ODN)の合成と同定
まず、実施例4で得られた化合物28、天然型ヌクレオシド、および後述の蛍光修飾のためのアミダイト体を用いて、DNA/RNAオリゴヌクレオチド自動合成機nS−8(株式会社ジーンデザイン製)により、オリゴヌクレオチド類縁体を合成した。合成したオリゴヌクレオチド類縁体は表10に示す化合物53から57の前駆体(化合物49)になる化合物である。この前駆体(化合物49)の構造を以下に示す。
【0174】
【化19】
【0175】
オリゴヌクレオチドの自動合成において、チミジンアミダイト体(型番:T111081)とチミジンCPG固相担体(型番:T361010)、CapA(型番:L840020−06)、CapB(型番:L850020−06)、酸化剤(型番:L860020−06)は全てSAFC(登録商標) Proligo(登録商標) Reagentsより入手した。アセトニトリル(型番:018−14451)とデブロッキング溶液(型番:042−28921)は和光純薬工業株式会社より購入した。活性化剤は0.25M 5−エチルチオ−1H−テトラゾール/ドライアセトニトリル(製造元コード:30−3140−52,Glen Research社製)を用いた。化合物28のアセトニトリル溶液(0.1M)のカップリング時間は20分間で行い、また、化合物28を3塩基連続してオリゴヌクレオチドに導入する場合、3塩基目のみダブルカップリングを行った。それ以外は天然のDNA合成と同条件にて行った。
【0176】
なお、蛍光修飾については、蛍光剤のアミダイト体を用いてオリゴヌクレオチドに導入した場合、後の75%トリフルオロ酢酸(TFA)での処理時に蛍光剤が加水分解するおそれがある。そこで、まずは、構造式を以下に示すアミダイト体 Thiol−Modifer C6 S−S (製造元コード:10−1936−90, Glen Research)をDNA自動合成機によりオリゴヌクレオチドの5’末端側に付加して、保護基ジメトキシトリチル基(DMTr基)を脱保護せずに終了することにより、蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜57)の前駆体(化合物49)を得た。なお、アミダイト体 Thiol−Modifer C6 S−Sのジスルフィド結合は75%TFAに対し、十分な耐性があることが確認されている。
【0177】
【化20】
【0178】
比較のために、化合物28に代えてウレア架橋型人工核酸2’,4’−BNA/LNA(5−メチル−2’−O,4’−C−メチレンウリジンを含有するオリゴヌクレオチド類縁体(化合物58から61:以下の表10に示す)(株式会社ジーンデザイン製)を購入して用いた。このオリゴヌクレオチド類縁体の前駆体(化合物50)の構造を以下に示す。
【0179】
【化21】
【0180】
得られた前駆体(化合物49)を28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出し、NAP−10カラム(コード番号:17−0854−01, GE Healthcare)を用いてアンモニアを除去し、RP−HPLCにより精製し、凍結乾燥した。RP−HPLCはShimadzu LC−10ATVP, ShimadzuSPD−10AVP, ShimadzuCTO−10VPを用い、以下に示す条件で行った。
移動相
A液:0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液,pH7.0
B液 80%アセトニトリル/0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液
グラジエント:
B液濃度: 0−100%(80分)
使用カラム:
Waters XBridgeTM OST C18 2.5μm(10×50mm 製品番号:186003954);
流速:
3.0mL/分
カラム温度:50℃
検出:UV(254nm)
【0181】
次に、75%トリフルオロ酢酸を添加し、6時間室温にて処理することにより、上記のように精製された前駆体(化合物49)からBoc基とDMTr基の脱保護を行った後、NAP−10カラムでトリフルオロ酢酸を除去し、凍結乾燥して脱保護された前駆体(化合物50)を得た。
【0182】
上記の脱保護された前駆体(化合物50)について、Thiol−Modifer C6 S−Sのプロトコルに従い、100mM DTT/TE緩衝液(pH7.0)を添加して2時間室温にてジスルフィド結合を還元し、SH基を生成した。得られた還元後の前駆体(化合物51)をRP−HPLC(B液: 50%アセトニトリル/0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液; グラジエント: B液濃度0−50%/25分) にて精製し、分取した。得られた還元後の前駆体(化合物51)の構造を以下に示す。
【0183】
【化22】
【0184】
上記、還元によりSH基が生成され、精製された前駆体(化合物51)に、構造式を以下に示すAlexa Fluor 488 C5 マレイミド(製品コード:A−10254, Life technologies社製)を前駆体(化合物51)に対して10等量添加し、室温にて一晩反応させてSH基とマレイミドを結合した(Nucleic Acids Research, 36, 2764−2776, 2008)。
【0185】
【化23】
【0186】
その後、RP−HPLC(B液:50%アセトニトリル/0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液; グラジエント: B液濃度0−50%/25分)にて精製し、蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物52:化合物53〜61)を得た。なお、このうち、化合物54〜57が蛍光標識GuNA修飾オリゴヌクレオチド(F−GuNA−ODN)である。得られた蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物52)の構造を以下に示す。
【0187】
【化24】
【0188】
合成した蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)の精製および純度確認は実施例2と同様に行った。
【0189】
合成した蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)の質量分析は、MALDI−TOF−MS(SpiralTOF JMS−S3000, JEOL)により行った。結果を表10に示す。
【0190】
【表10】
【0191】
(2)蛍光標識GuNA修飾オリゴヌクレオチドF−GuNA−ODNのヒト肝癌細胞(HuH−7)への導入とその細胞内動態の観察
まず、前準備として、細胞観察用のガラスボトムディッシュ(品種コード:3970−035, Iwaki)のガラス部分に100μg/mLコラーゲン/塩酸(pH 3.0)(Cellmatrix Type I−C, 新田ゼラチン株式会社製)を1mL添加することにより、コラーゲンコーティングを行った。
【0192】
これを室温にて30分静置後、コラーゲンを除去し、リン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄後、室温にて1時間乾燥した。次に、4.5×10個のHuH−7細胞(JCRB細胞バンクより購入した(細胞番号:JCRB0403))を播種し、フェノールレッド不含培地10%FBS/DMEM(製品番号:08490−05, ナカライテスク株式会社製)下で一晩培養を行い(5%CO)、その後、上記(1)で得られた蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)を、それぞれ500nMの濃度で添加した。
【0193】
蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)の添加後、さらに12時間培養を続け、その後、培養されたHuH−7細胞をハンクス平衡塩類溶液(HBSS, 製品番号:14025−092,Life technologies社製)で1回洗浄し、プロトコルに従ってHoechst 33342(製品番号:H3570,Life technologies社製)とLysoTracker(登録商標) Red DND−99(カタログ番号:L−7528,Life technologies社製)を用いて核とリソソームを染色した。その後、ハンクス平衡塩類溶液を2mL添加し、落射型蛍光顕微鏡(BZ−9000,株式会社キーエンス製)を用いて蛍光像を取得した。なお、対物レンズは40×位相差レンズ (S Plan Fluor, 株式会社ニコン製)を用いた。
【0194】
各蛍光剤の検出フィルターセットと露光時間を以下に示す。
Alexa Fluor 488: Ex 470/40nm, DM 495nm, BA 535/50nm (GFP−B, 株式会社キーエンス製), 5秒
Hoechst 33342: Ex 360/40nm, DM 400nm, BA 460/50nm (DAPI−B、株式会社キーエンス製), 2秒
LysoTracker(登録商標) Red DND−99: Ex 540/25 nm, DM 565 nm, BA 605/55 nm (TRITC, 株式会社キーエンス製), 1.2秒
【0195】
蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)をHuH−7細胞に導入した結果、化合物28を6残基導入した化合物57と2’,4’−BNA/LNAを6残基導入した化合物61の2種類のオリゴヌクレオチドを添加した場合に細胞内において特に強い蛍光発光が観察された。その他のオリゴヌクレオチドについては、これらと比較すれば蛍光発光が弱かった。化合物57(A〜D)および化合物61(E〜H)のHuH−7細胞内の動態を示す顕微鏡写真を図4に示す。A,Eは位相差像; B,FはAlexa Fluor 488 (オリゴヌクレオチド)の蛍光像; C,GはHoechst 33342 (核) の蛍光像; D,HはLysoTracker(リソソーム)の蛍光像である(スケールバー50μm)。化合物28を6残基導入した化合物57のオリゴヌクレオチドを用いた場合は強い蛍光発光が確認された(図4B)。これに対し、2’,4’−BNA/LNAを6残基導入した化合物61のオリゴヌクレオチドを用いた場合、ある程度の蛍光発光を示したものの、化合物28を用いた化合物57より蛍光発光が弱かった(図4F)。これは、化合物57では、化合物28を6残基導入することにより、細胞への導入効率が高められ、さらにオリゴヌクレオチド全体の荷電が変化して細胞表面への吸着効率が高められている結果であると考えられる。これに対し、化合物61では2’,4’−BNA/LNAを6残基導入することにより、細胞への導入効率が高められているものの、荷電が変化していないため細胞表面への吸着効率が高められておらず、その分、化合物57と比較すれば蛍光発光が弱かったと考えられる。
【0196】
次に、化合物57のHuH−7細胞内の動態を示す顕微鏡写真であって、図4A〜Dについて図4Bの矢印で示す領域について拡大した写真(A〜D)を図5に示す。得られた蛍光発光の細胞内での局在を詳細に観察すると、添加したオリゴヌクレオチドは核内には存在せず、細胞質内の小胞内に多く蓄積しており、リソソーム内にも多数存在していることも明らかとなった。
【0197】
以上のことから、負の電荷を帯びるオリゴヌクレオチドに対し、正の電荷を帯びるグアニジノ基を付与させることによりオリゴヌクレオチド全体の電荷を変化させることは、オリゴヌクレオチド自体の細胞導入効率を向上させる有用な手法であることが証明された。
【0198】
なお、従来はドラッグデリバリーシステムを用いずに、オリゴヌクレオチドを細胞内に導入することは、酵素耐性や細胞透過性の面から困難とされていた。これらを改善するための手法としては、オリゴヌクレオチドのリン酸骨格にホスホロチオエート修飾を施す手法が汎用されている。しかしながら、ホスホロチオエート修飾においては、リン原子上に生じるキラリティの問題から、生産面、安全面、薬効低下が懸念材料となっていた。今回、ホスホロチオエート修飾を施すことなく細胞内透過性を高められたことから、本発明のグアニジン架橋を有する人工ヌクレオシドおよびオリゴヌクレオチドがこれらの欠点を克服し、核酸の医薬品化に貢献できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明によれば、標的核酸に対する高い結合親和性および特異性を有し、高いヌクレアーゼ耐性を示すオリゴヌクレオチド用の核酸分子を提供することができる。このような核酸分子は、疾病の新たな治療法や予防法として期待されているアンチセンス法、アンチジーン法、アプタマーを用いる方法、siRNAを用いる方法などに用いる核酸医薬の素材として大いに貢献することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]