【実施例】
【0072】
以下、本発明の2’,4’−架橋型人工ヌクレオシドおよびその類縁体の合成を、実施例に基づいてさらに詳しく説明する。
【0073】
以下の実施例では、水素核磁気共鳴(
1H−NMR)スペクトルは日本電子株式会社製JNM−ECS400型(400MHz)を用い、テトラメチルシラン(0.00ppm)、クロロホルム−d(7.26ppm)、メタノール−d
4(3.30ppm)を内部標準として測定した。分裂様式は一重項,二重項,三重項,多重項,AB四重項,二重四重項をそれぞれs,d,t,m,AB,ddと略した。炭素核磁気共鳴(
13C−NMR)スペクトルはJNM−ECS400型(100MHz)を用い、クロロホルム−d(77.0ppm)、メタノール−d
4(49.0ppm)を内部標準として測定した。リン核磁気共鳴(
31P−NMR)は、日本電子株式会社製JNM−ECS400型(161.8MHz)を用い、5%リン酸−重水溶液(0.00ppm)を外部標準として測定した。質量分析(FAB−MS)は日本電子株式会社製JMS−600型、同JMS−700型、同JMS−D300型を用いて測定した。シリカゲルクロマトグラフィーの吸着剤は富士シリシア化学株式会社製PSQ−100B(ave.0.110mm)を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィーの吸着剤は富士シリシア化学富士株式会社製PSQ−60B(平均0.060mm)を用いた。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は株式会社島津製作所製SHIMADZU LC−10AT
VP,SHIMADZU SPD−10A
VP,SHIMADZU CTO−10
VPを用いた。HPLC分析カラムにはWaters XBridge
TM OST C18 2.5μm(4.6×50mm)を、分取カラムにはWaters XBridge
TM OST C18 2.5μm (10×50mm)を用いた。Tm測定は株式会社島津製作所製SHIMADZU UV−1650B、 SHIMADZU UV−1650PC を用いて行った。MALDI−TOF−MSはBruker社製Daltonics(登録商標)Autoflex II TOF/TOFを用いて測定した。
【0074】
塩化メチレン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、ピリジンはカルシウムヒドリドで乾燥した後に、蒸留し反応溶媒および塩基として使用した。その他の試薬類については、特に記載のない限り、市販のものをそのまま使用した。
【0075】
(実施例1)ヌクレオシド類縁体(化合物8)の合成
【0076】
【化11】
【0077】
(1)化合物5の合成
【0078】
【化12】
【0079】
Nishida, M.ら、Chem. Commun.、2010年、第46巻,p.5283-5285.に記載の方法に従い、D−グルコースから15工程で化合物1を合成した。
【0080】
得られた化合物1(2.00mg,3.86mmol)のメタノール溶液50mLに窒素気流下、塩化ニッケル(36mg,0.28mmol)を加えた後、0℃にて水素化ホウ素ナトリウム(600mg,15.4mmol)を加え、室温にて10分間撹拌した。セライトで濾過を行った後に溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール)により精製し、化合物2(1.47g,81%)を白色アモルファスとして得た(上記工程a)。
【0081】
得られた化合物2の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CD
3OD) δ : 1.60 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.61, 2.93 (2H, AB, J = 14.0 Hz), 3.54, 3.61 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.70 (1H, t, J = 6.0 Hz, 9.0 Hz), 4.19 (1H, d, J = 6.0 Hz), 4.58, 4.61 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.65, 4.81 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.89 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.30-7.43 (10H, m), 7.53 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0082】
次いで、得られた化合物2(576mg,1.23mmol)のジクロロメタン溶液10mLに、窒素気流下、0℃にて9−フルオレニルメトキシカルボニルイソシアナート(350mg,1.23mmol)のジクロロメタン溶液(4mL)を加えて0℃にて15分間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=80:1)により精製し、化合物3(638mg,69%)を白色固体として得た(上記工程b)。
【0083】
得られた化合物3の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CDCl
3) δ : 1.57 (3H, d, J = 1.0 Hz), 3.57, 3.69 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.65 (1H, t, J = 7.5 Hz), 3.91, 4.24 (2H, AB, J = 12.0 Hz), 4.16 (1H, d, J = 7.5Hz), 4.22 (1H, t, J = 7.0 Hz), 4.46 (2H, d, J = 7.0 Hz), 4.53 (2H, s), 4.68, 4.77 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.88 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.19-7.44 (15H, m), 7.55 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.78 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.12 (1H, s), 8.29 (1H, s), 9.98 (1H, s)。
【0084】
次いで、得られた化合物3(335mg,0.45mmol)のジクロロメタン溶液5mLに、窒素気流下、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(103mg,0.54mmol)を加え、室温にて6時間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=80:1)により精製し、化合物4(268mg,83%)を黄白色固体として得た(上記工程c)。
【0085】
得られた化合物4の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CD
3OD) δ : 1.35 (3H, s), 3.11, 3.45 (2H, AB, J = 13.5 Hz), 3.69, 3.83 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.28 (2H, d, J = 6.5 Hz), 4.30 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.32 (1H, t, J = 6.5 Hz), 4.38 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.48, 4.71 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.51, 4.57 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.91 (1H, s), 7.23-7.85 (19H, m)。
【0086】
得られた化合物4(971mg,1.36mmol)のジクロロメタン溶液8mLに、窒素気流下、ジエチルアミン(2mL)を加え室温にて5時間撹拌した。次いで、溶媒留去した後、ヘキサンで洗浄することで化合物5(609mg,91%)を白色固体として得た(上記工程d)。
【0087】
得られた化合物5の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CD
3OD) δ : 1.37 (3H, s), 3.12, 3.46 (2H, AB, J = 14.0 Hz), 3.60, 3.86 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.25 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.44 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.50, 4.71 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.51, 4.59 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.89 (1H, s), 7.24-7.80 (10H, m), 7.89 (1H, s)。
【0088】
(2)化合物8の合成
【0089】
【化13】
【0090】
上記で得られた化合物5(551mg,1.12mmol)のジクロロメタン溶液12mLに、窒素気流下、室温にてトリエチルアミン(0.68mL,4.93mmol)を加えた後に、0℃にて無水酢酸(0.23mL,2.47mmol)を加え、室温にて2時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体(616mg)のイソプロパノール溶液10mLに炭酸カリウム(400mg,2.89mmol)を加えて室温にて6日間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体(517mg)のイソプロパノール溶液10mLに、水素気流下、水酸化パラジウムカーボン(1.40g)を加えて室温にて26時間撹拌した。反応液を濾過して得られたろ液の溶媒を留去することで化合物6(319mg,80%)を白色固体として得た(上記工程e)。
【0091】
得られた化合物6の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CD
3OD) δ : 1.87 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.21 (3H, s), 3.45, 3.54 (2H, AB, J = 14.5 Hz), 3.71, 3.86 (2H, AB, J = 12.0 Hz), 4.23 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.61 (1H, d, J = 6.5 Hz), 5.85 (1H, s), 8.10 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0092】
得られた化合物6(219mg,0.62mmol)のピリジン溶液7mLに、窒素気流下、0℃にて4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(630mg,1.86mmol)を加え、室温にて20時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=40:1→5:1)により精製し、化合物7(267mg,66%)を白色アモルファスとして得た(上記工程f)。
【0093】
得られた化合物7の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CD
3OD) δ : 1.87 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.21 (3H, s), 3.45, 3.54 (2H, AB, J = 14.5 Hz), 3.71, 3.86 (2H, AB, J = 12.0 Hz), 4.23 (1H, d, J = 6.5 Hz), 4.61 (1H, d, J = 6.5 Hz), 5.85 (1H, s), 8.10 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0094】
得られた化合物7(131mg,0.21mmol)のジクロロメタン溶液2mLに、窒素気流下、ジイソプロピルエチルアミン(146μL,0.84mmol)を加えた後、0℃にて2−シアノエチルジイソプロピルクロロホスホロアミジト(96μL,0.43mmol)を加え、室温にて14時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をジクロロメタン、ヘキサンにより再沈殿を行うことで精製し、化合物8(110mg,61%)を白色アモルファスとして得た(上記工程g)。
【0095】
得られた化合物8の物性データは、以下のとおりであった:
31P-NMR (CDCl
3) δ : 149.94, 151.37。
【0096】
(実施例2)オリゴヌクレオチド類縁体の合成および精製
実施例1で得られた化合物8を用いて、オリゴヌクレオチド類縁体(化合物9から13:以下の表1に示す)を、DNA/RNAオリゴヌクレオチド自動合成機nS−8(株式会社ジーンデザイン製)により0.2μmolスケールのCPG担体を用いて合成した。化合物8のアセトニトリル溶液(0.1M)のカップリング時間は16分間で行い、それ以外は天然のDNA合成と同条件にて行った。活性化剤は5−エチルチオ−1H−テトラゾール(0.5M)を用いた。合成したオリゴヌクレオチドは28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した後に、55℃にて12時間かけて塩基部の保護基を除去した。得られた粗成績体を逆相簡易カラム(Sep−Pak@Plus C18 Environmental Cartridges, Waters社)により精製し、さらに逆相HPLC精製を行った。
【0097】
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物9から13)の精製および純度確認は逆相HPLCにより以下の条件で行った。
移動相
A液:0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液,pH7.0
B液:0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液:アセトニトリル=1:1,pH7.0
グラジエント:
分析5−9%MeCN(30分)、分取5−9%MeCN(30分):化合物9
分析4−8%MeCN(30分)、分取4−8%MeCN(30分):化合物10
分析3−7%MeCN(30分)、分取3−7%MeCN(30分):化合物11
分析4−8%MeCN(30分)、分取4−8%MeCN(30分):化合物12
分析7−11%MeCN(30分)、分取7−11%MeCN(30分):化合物13
使用カラム:
分析 Waters XBridge
TMOST C18 2.5 μm(4.6×50mm)
分取 Waters XBridge
TM OST C18 2.5 μm(10×50mm)
流速:
分析 1.0mL/分
分取 4.5mL/分
カラム温度:50℃
検出:UV(254nm)
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物9から13)の分子量は、飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)により決定した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から明らかなように、飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)による分子量測定の結果が理論値とよい一致を示したことから、それぞれ目的とするオリゴヌクレオチドが得られたことを確認した。
【0100】
比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物14:以下の表2、配列番号1)、およびウレア架橋型人工核酸2’,4’−BNA/LNA(5−メチル−2’−O,4’−C−メチレンウリジン(非特許文献6に従って合成)を含有するオリゴヌクレオチド類縁体(化合物15から18:以下の表3)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し、精製した。
【0101】
(実施例3)融解温度(Tm)の測定
実施例2で得られた各種オリゴヌクレオチド(化合物8を用いて製造したオリゴヌクレオチド類縁体の化合物9から12、天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドの化合物14、およびウレア架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体の化合物15から18)と標的鎖(5’−AGCAAAAAACGC−3’:配列番号2)とをアニーリング処理して二重鎖を形成させた後、二重鎖の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0102】
具体的には、NaCl 100mM、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)10mM、オリゴヌクレオチド4μM、および標的鎖4μMを含むサンプル溶液(130μL)を沸騰水浴で加熱した後、10時間かけて室温まで冷却した。分光光度計(Shimadzu,UV−1650PC)のセル室内に結露防止のために窒素気流を通し、サンプル溶液を5℃まで徐々に冷却し、さらに5分間5℃に保った後、測定を開始した。90℃まで毎分0.5℃の割合で温度を緩やかに上昇させ、0.1℃上昇する毎に260nmにおける紫外部吸収を測定した。なお、温度上昇による濃度変化を防止するため、セルは蓋付きのものを用いた。結果をTm値および修飾単位あたりのTm値差にて表2に示す。Tm値が高いほど、二重鎖形成能が高いことを示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2から明らかなように、架橋構造およびカチオンの効果により二重鎖形成能が向上するという予想に反して、二重鎖形成能は天然のDNAとほぼ同程度であった。また、オリゴヌクレオチドへの人工核酸の導入割合が多いほど、Tm値の上昇が見られた。したがって、本発明のヌクレオチド類縁体は、アンチセンス法に適するオリゴヌクレオチドの合成に有用であると考えられる。
【0105】
架橋部のカチオンによる効果を精査するべく、よりカチオンの効果が表れやすい低塩濃度条件(NaClを含まないこと以外は上記サンプル溶液と同じ組成の溶液を使用)でのTm測定を行った。比較対象として、ウレア架橋型人工核酸(化合物15から18)のTm値も測定した。結果を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3から明らかなように、RNAを標的とする場合のTm値にはあまり差がみられなかった。一方、DNAを標的とする場合、ウレア架橋型人工核酸の場合は人工核酸の導入数を増やすにつれてTm値が低下するのに対して、グアニジン架橋型人工核酸を導入した場合にはそのようなTm値の低下が見られなかった。このことから、架橋部のカチオンはDNAとの二重鎖の安定化に影響を与えることが示唆された。
【0108】
(実施例4)ヌクレオシド類縁体(化合物28)の合成
【0109】
【化14】
【0110】
(1)化合物20の合成
【0111】
【化15】
【0112】
化合物19をShrestha, A.R.ら、J. Org. Chem.、2011年、第76巻, p.9891-9899に記載の化合物7の調製手順に従って入手した。窒素気流下、化合物19(2.86g,4.10mmol)のジクロロメタン溶液(40mL)に、氷冷下にてピリジン(1.65mL,20.5mmol)およびトリフルオロメタンスルホン酸無水物(1.37mL,8.20mmol)を加え、氷冷条件で1時間撹拌した。水を加えて酸を潰した後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた粗成績体を黄色油状物質として得、フラッシュクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1→2:1)により簡易精製し、粗成績体を淡黄色アモルファスとして得た。続いて、窒素気流下、粗成績体(1.96g,2.34mmol)のジメチルホルムアミド溶液(80mL)にアジ化ナトリウム(0.23g,3.60mmol)を加えて撹拌した。48時間後、溶媒留去した後水を加え、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒留去後、得られた粗成績体をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製し、化合物20(1.71g,66%)を白色アモルファスとして得た(上記工程a)。
【0113】
得られた化合物20の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (300MHz, CDCl
3) δ : 0.99 (9H, s), 1.58 (3H, s), 3.63, 3.69 (2H, AB, J = 10.5 Hz), 3.69, 3.91 (2H, AB, J = 10.5 Hz), 3.91 (1H, dd, J = 7.2 Hz, 5.4 Hz), 4.23 (1H, d, J = 5.4 Hz), 4.47, 4.53 (2H, AB, J = 11.4 Hz), 4.57, 4.75 (2H, AB, J = 11.4 Hz), 6.03 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.23-7.60 (20H, m), 8.70 (1H,s)。
【0114】
(2)化合物24および25の合成
【0115】
【化16】
【0116】
得られた化合物20(622mg,0.85mmol)のメタノール溶液8mLに、窒素気流下、塩化ニッケル(11mg,0.085mmol)を加え、氷冷下にて水素化ホウ素ナトリウム(64mg,1.7mmol)を加え室温にて10分撹拌した。反応液をろ過して溶媒留去した後、水を加え酢酸エチルで抽出した。次いで、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒留去し粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:トリエチルアミン=200:1)により精製し、化合物21(456mg,76%)を白色固体として得た(上記工程b)。
【0117】
得られた化合物21の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CDCl
3) δ : 1.04 (9H, s), 1.63 (3H, d, J = 1.5 Hz), 3.59, 3.66 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.67 (1H, dd, J = 5.5 Hz, 9.0 Hz), 3.79, 3.99 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.06 (1H, d, J = 5.5 Hz), 4.55, 4.58 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.67, 4.76 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 5.81 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.19-7.61 (21H, m), 7.95 (1H, s)。
【0118】
得られた化合物21(50mg,0.071mmol)のジクロロメタン溶液1mLに、窒素気流下、N,N’−ジ−(tert−ブトキシカルボニル)チオウレア(30.4mg,0.11mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(9μL,0.035mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(21mg,0.11mmol)を加え室温にて3時間撹拌した。次いで、0℃にて水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒留去し粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製し、化合物22(58mg,86%)を白色固体として得た(上記工程c)。
【0119】
得られた化合物22の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CDCl
3) δ : 1.04
(9H, s), 1.42 (9H, s), 1.46(9H, s), 1.72 (3H, d, J = 1.0 Hz), 3.57, 3.96 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.73, 3.78 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.25 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.57, 4.65 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.59, 4.61 (2H, AB, J = 9.0 Hz), 4.89 (1H, q, J = 8.0 Hz), 5.98 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.20-7.69 (22H, m), 8.93 (1H, d, J = 8.0 Hz), 11.34 (1H,s)。
【0120】
得られた化合物22(106mg,0.11mmol)のテトラヒドロフラン溶液1mLに、窒素気流下、フッ化テトラn−ブチルアンモニウム(0.14mL,0.14mmol)を加え室温にて4.5時間撹拌した。次いで、溶媒留去し得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、化合物23(80mg,定量)を白色固体として得た(上記工程d)。
【0121】
得られた化合物23の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CDCl
3) δ : 1.42 (9H, s), 1.50 (9H, s), 1.75 (3H, d, J = 1.0 Hz), 2.05 (1H, dd, J = 3.5 Hz, 9.0 Hz), 3.57, 3.62 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.68 (1H, dd, J = 11.0 Hz, 9.0 Hz), 3.84 (1H, dd, J = 11.0 Hz, 3.5 Hz), 4.35 (1H, d, J = 7.5 Hz), 4.51, 4.72 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.58, 4.62 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.87 (1H, q, J = 7.5 Hz), 6.07 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.26-7.52 (11H, m), 7.88 (1H, s), 9.05 (1H, d, J = 7.5 Hz), 11.39 (1H,s)。
【0122】
得られた化合物23(850mg,1.20mmol)のジクロロメタン溶液12mLに、窒素気流下、ピリジン(0.29mL,3.59mmol)を加え、0℃にてトリフロオロメタンスルホン酸無水物(0.3mL,1.78mmol)を加えて0℃にて3時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。窒素気流下、粗成績体のジクロロメタン溶液8mLにトリエチルアミン2mLを加えて、室温にて27時間撹拌した。次いで、溶媒留去し得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、化合物24(644mg,77%)を黄白色アモルファスとして得た(上記工程e)。
【0123】
化合物24(57mg,0.082mmol)のテトラヒドロフラン溶液1mLに、35%塩酸(0.3mL)を加え、室温にて40分間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重層水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去することで化合物25(44mg,定量)を白色固体として得た(上記工程e’)。
【0124】
得られた化合物25の物性データは、以下のとおりであった:H-NMR (CD
3OD) δ : 1.54 (3H, d, J = 1.0 Hz), 3.53, 3.70 (2H, AB, J = 10.0 Hz), 3.90, 3.97 (2H, AB, J = 11.0 Hz), 4.16 (1H, s), 4.60, 4.66 (2H, AB, J = 11.5 Hz), 4.62 (2H, s), 4.78 (1H, s), 5.66 (1H, s), 7.27-7.38 (m, 10H), 7.50 (1H, d, J = 1.0 Hz)。
【0125】
(2)化合物28の合成
【0126】
【化17】
【0127】
上記で得られた化合物24(644mg,0.93mmol)のメタノール溶液10mLに、水素気流下、水酸化パラジウムカーボン(900mg)を加え、室温にて14時間撹拌した。次いで、反応液を濾過して得られたろ液の溶媒を留去することで、化合物26の粗成績体を得た(上記工程f)。
【0128】
化合物26の粗成績体(354mg)のピリジン溶液7mLに、窒素気流下、0℃にて4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(469mg,1.38mmol)を加え、室温にて12時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に飽和重曹水を加えてクエンチした後、反応液をジクロロメタンで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、溶媒を留去して粗成績体を得た。得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、化合物27(442mg,58%)を白色固体として得た(上記工程g)。
【0129】
得られた化合物27の物性データは、以下のとおりであった:
1H-NMR (CD
3OD) δ : 1.42 (18H, s), 1.49 (3H, s), 3.39-3.55 (4H, m), 3.73 (6H, s), 4.39 (1H, s), 4.57 (1H, s), 5.51 (1H, s), 6.83 (4H, d, J = 9.0 Hz), 7.17-7.44 (m, 9H), 7.77 (1H, s)。
【0130】
得られた化合物27(141mg,0.17mmol)のアセトニトリル溶液2mLに、窒素気流下、N,N−ジイソプロピルアンモニウムテトラゾリド(39mg,0.23mmol)と2−シアノエチルN,N,N’,N’−テトライソプロピルホスホロジアミダイト(73μL,0.23mmol)を加え、室温にて3時間撹拌した。次いで、0℃にて反応液に水を加えてクエンチした後酢酸エチルで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。溶媒を留去して得られた粗成績体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:2)により精製し、化合物28(148mg,86%)を白色アモルファスとして得た(上記工程h)。
【0131】
得られた化合物28の物性データは、以下のとおりであった:
31P-NMR (CDCl
3) δ : 148.78, 149.48, 149.78。
【0132】
(実施例5)オリゴヌクレオチド類縁体の合成および精製
実施例4で得られた化合物28を用いて、10merのオリゴヌクレオチド類縁体(化合物29から32:以下の表4に示す)を、DNA/RNAオリゴヌクレオチド自動合成機nS−8(株式会社ジーンデザイン製)により0.2μmolスケールのCPG担体を用いて合成した。化合物28のアセトニトリル溶液(0.1M)のカップリング時間は8分間で行い、それ以外は天然のDNA合成と同条件にて行った。活性化剤は5−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−テトラゾール(0.25M)を用いた。合成したオリゴヌクレオチドは28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した。得られた化合物29から31の粗成績体については、逆相簡易カラム(Sep−Pak@Plus C18 Environmental Cartridges, Waters社)により精製し、続いてトリフルオロ酢酸(TFA)50%で24時間処理した後に逆相HPLC精製を行った。得られた化合物32の粗成績体については、逆相簡易カラム(Sep−Pak@Plus C18 Environmental Cartridges, Waters社)により精製し、さらに逆相HPLC精製を行った。
【0133】
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物29から32)の精製および純度確認は実施例2と同様に行った。
【0134】
合成したオリゴヌクレオチド類縁体(化合物29から32)の分子量は、MALDI−TOF−MASS測定により決定した。結果を表4に示す。
【0135】
【表4】
【0136】
比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物33:以下の表5に示す)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し精製した。
【0137】
(実施例6)融解温度(Tm)の測定
実施例5で得られた各種オリゴヌクレオチド(化合物28を用いて製造したオリゴヌクレオチド類縁体の化合物29から31、および天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドの化合物33)と以下の表5および6に記載の標的鎖(10merのポリAおよび配列番号3〜5)とをアニーリング処理して複合体を形成させた後、複合体の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0138】
具体的には、NaCl 100mM、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)10mM、オリゴヌクレオチド4μM、および標的鎖4μMを含むサンプル溶液(130μL)を沸騰水浴で加熱した後、10時間かけて室温まで冷却した。分光光度計(Shimadzu,UV−1650PC)のセル室内に結露防止のために窒素気流を通し、サンプル溶液を0℃まで徐々に冷却し、さらに5分間0℃に保った後、測定を開始した。80℃まで毎分0.5℃の割合で温度を緩やかに上昇させ、0.1℃上昇する毎に260nmにおける紫外部吸収を測定した。なお、温度上昇による濃度変化を防止するため、セルは蓋付きのものを用いた。表5は、種々の数のグアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体のポリAに対するハイブリッド形成能をTm値および修飾単位あたりのTm値差にて表す。表6は、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体および天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドの種々の標的鎖に対するハイブリッド形成能をTm値にて表す。
【0139】
【表5】
【0140】
【表6】
【0141】
表5から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドはRNAに対する複合体形成能のみならずDNAに対する複合体形成能も優れていた。また、オリゴヌクレオチドへの人工核酸の導入割合が多いほど、Tm値の上昇が見られた。したがって、本発明のグアニジン架橋型人工核酸は、アンチセンス法に適するオリゴヌクレオチドの合成に有用であると考えられる。
【0142】
表6から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドはミスマッチ認識能も有していた。グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドは、天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチドと比べても、望ましい標的鎖(すなわち、ポリA)への複合体形成能が優れていた。このため、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチドは、配列非特異的に複合体を形成するおそれがないことがわかった。
【0143】
(実施例7)オリゴヌクレオチド類縁体の二重鎖形成能の評価
実施例4で得られた化合物28を用いて、種々の塩基からなる9merのオリゴヌクレオチド類縁体(化合物34:以下の表7に示す)を、合成したオリゴヌクレオチドを28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した後に、55℃にて12時間かけて塩基部の保護基を除去した以外は、実施例5と同様にして合成および精製した。比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物35:以下の表7に示す)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し精製した。
【0144】
化合物34および35のオリゴヌクレオチドについて、各オリゴヌクレオチドを標的鎖5’-GTGATATGC−3’とアニーリング処理して二重鎖を形成させた後、二重鎖の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。標的鎖へのアニーリングおよびTm値の測定を、実施例6と同様に行った。Tm値の結果を表7に示す。
【0145】
【表7】
【0146】
表7から明らかなように、種々の塩基からなる配列に設計した場合も、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物34)は、ポリT配列の場合と同様に、RNAおよびDNAの両方に関し、二重鎖形成能が優れていた。
【0147】
(実施例8)オリゴヌクレオチド類縁体の三重鎖形成能の評価
【0148】
【化18】
【0149】
実施例4で得られた化合物28を用いて、15merのオリゴヌクレオチド類縁体(化合物36:上記「X」がグアニジン架橋型人工核酸であり、下線を付与したCは、2’−デオキシ5−メチルシチジンである。以下の表8にも示す)を、合成したオリゴヌクレオチドを28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出した後に、55℃にて12時間かけて塩基部の保護基を除去した以外は、実施例5と同様にして合成および精製した。比較のために、天然型のヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物37:上記「X」が天然型のヌクレオシドであり、下線を付与したCは、2’−デオキシ5−メチルシチジンである。以下の表8にも示す)も、標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って同様に合成し精製した。
【0150】
標的鎖5’−GGCAAAAAGAYAGAGAGACGC−3’(配列番号6)およびその相補鎖の5’−GCGTCTCTCTZTCTTTTTGCC−3’(配列番号7)を含む標的DNA二重鎖は以下のように調製した。5’−GGCAAAAAGAYAGAGAGACGC−「C18−スペーサー」−GCGTCTCTCTZTCTTTTTGCC−3’(配列番号6のオリゴヌクレオチド鎖の3’末端と配列番号7のオリゴヌクレオチド鎖の5’末端とをリンカーとして「C18スペーサー」にて連結した鎖)を、リンカー部の合成に18−O−ジメトキシトリチルヘキサエチレングリコールおよび1−[(2−シアノエチル)−(N,N−ジイソプロピル)]−ホスホロアミダイト(Glen Research社製)を用いたこと以外は標準的なホスホロアミダイトプロトコルにて合成し精製し、目的の標的DNA二重鎖を得た。ここで、YおよびZは塩基対を形成し得る組合せであり、以下のとおりである:YがAであり、かつZがTである;YがTであり、かつZがAである;YがGであり、かつZがCである;またはYがCであり、かつZがGである。
【0151】
化合物36および37のオリゴヌクレオチドについて、各オリゴヌクレオチドを標的二重鎖とアニーリング処理して三重鎖を形成させた後、三重鎖の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0152】
具体的には、カコジル酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)10mM、KCl 100mM、およびMgCl
2 50mM、オリゴヌクレオチド1.89μM、および標的二重鎖1.89μMを含むサンプル溶液(130μL)を沸騰水浴で加熱した後、10時間かけて室温まで冷却した。分光光度計(Shimadzu,UV−1650PC)のセル室内に結露防止のために窒素気流を通し、サンプル溶液を5℃まで徐々に冷却し、さらに20分間5℃に保った後、測定を開始した。90℃まで毎分0.5℃の割合で温度を緩やかに上昇させ、0.1℃上昇する毎に260nmにおける紫外部吸収を測定した。なお、温度上昇による濃度変化を防止するため、セルは蓋付きのものを用いた。Tm値の結果を表8に示す。Tm値が高いほど、三重鎖形成能が高い。
【0153】
【表8】
【0154】
表8から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物36)は、望ましい標的二重鎖(YがAであり、かつZがTである)に対する三重鎖形成能が優れていた。
【0155】
(実施例9)オリゴヌクレオチド類縁体のヌクレアーゼ耐性の評価
5’−d(TTTTTTTTXT)−3’の配列のXがそれぞれ以下に示す通りである、10merの各種オリゴヌクレオチドを調製した。すなわち、以下の各種オリゴヌクレオチドを調製した:実施例1のヌクレオシド類縁体(化合物8)を用いて製造した、Xがグアニジン架橋型人工核酸であるオリゴヌクレオチド類縁体(すなわち「化合物13」);実施例4のヌクレオシド類縁体(化合物28)を用いて製造した、Xがグアニジン架橋型人工核酸であるオリゴヌクレオチド類縁体(すなわち「化合物32」);XがLNA−T(チミンLNA)であるオリゴヌクレオチド(株式会社ジーンデザイン製:化合物38);XがDNA−T(チミンDNA)であるオリゴヌクレオチド(10merのオリゴdT、すなわち「化合物33」);およびXにS−オリゴ(酸化剤の代わりに硫化剤としてD−1,4−ジチオトレイトール(DDTT、ChemGene社製)を用いたこと以外は標準的なホスホロチオアート合成のプロトコルに従い、合成および精製した)を用いて標準的なホスホロアミダイトプロトコルに従って合成し精製したオリゴヌクレオチド(化合物39:陽性コントロールとして使用)。
【0156】
ヌクレアーゼ耐性の評価は、以下のように行った。各種オリゴヌクレオチド(750pmol)のいずれかを含む緩衝液100μL[50mM Tris・HCl(pH8.0)、10mM MgCl
2]に、3’−エキソヌクレアーゼ(Crotalus admanteus venom phosphodiesterase:CAVP、Pharmacia Biotech社製)0.175μgを加えて混合し、37℃でインキュベートし、反応開始後一定の時間ごとに反応液の一部を取り出した。取り出した反応液を90℃にて2分間加熱して酵素を失活させ、オリゴヌクレオチドの残量をHPLCにより定量した。HPLC条件は以下のとおりである:グラジエント6−12%MeCN(15分);流速0.8mL/分;カラム温度50℃。オリゴヌクレオチドの残量を未反応のオリゴヌクレオチドの割合(%)として算出し、反応時間に対してプロットした。結果を
図1に示す。
【0157】
図1は、5’−d(TTTTTTTTXT)−3’の配列の各種オリゴヌクレオチドを3’−エキソヌクレアーゼで処理した場合の、未反応のオリゴヌクレオチドの割合の経時変化を示すグラフである。
図1の縦軸は、ヌクレアーゼ処理に対して未反応のオリゴヌクレオチドの割合(%)を示し、横軸は、ヌクレアーゼ処理時間(分)を示す。
図1の記号は以下を表す:四角、天然型ヌクレオシドを含有するオリゴヌクレオチド(化合物33);丸、LNAを含有するオリゴヌクレオチド(化合物38);三角、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物32);×、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物13);および逆三角、S−オリゴを含有するオリゴヌクレオチド(化合物39)。
【0158】
図1から明らかなように、化合物13は、ヌクレアーゼ処理の20分後でも50%以上が未反応のまま残存しており、分解されにくかった。化合物32は、化合物13に比べると未反応のオリゴヌクレオチドの残存割合が低かった。しかし、化合物32は、ヌクレアーゼ処理の10分後にはほぼ分解される化合物38(LNAを含有するオリゴヌクレオチド)に比べると、分解されにくかった。
【0159】
(実施例10)オリゴヌクレオチド類縁体のヌクレアーゼ耐性の評価
5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列のXがグアニジン架橋型人工核酸であるオリゴヌクレオチド類縁体である、9merのオリゴヌクレオチド(化合物40)を、以下のように調製した。
【0160】
化合物32(3330pmol)を含む緩衝液40μL[50mM Tris・HCl(pH8.0)、10mM MgCl
2]に3’−エキソヌクレアーゼ(Crotalus admanteus venom phosphodiesterase:CAVP、Pharmacia Biotech社製)(0.2μg)を加えて混合し、37℃にて3時間インキュベートした。次いで、90℃にて2分間加熱して酵素を失活させた後、HPLCにて精製を行った。得られたオリゴヌクレオチドについて、飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)による分子量測定値(2743.07)が理論値(2743.83)とよい一致を示したことから、目的とするオリゴヌクレオチドが得られたことを確認した。
【0161】
5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列のXがLNAであるオリゴヌクレオチド(株式会社ジーンデザイン製:化合物41)を比較のために用いた。
【0162】
ヌクレアーゼ耐性の評価は、各種オリゴヌクレオチド(750pmol)のいずれかを含む緩衝液100μLに3’−エキソヌクレアーゼ0.08μgを添加した以外は、実施例9と同様に行った。結果を
図2に示す。
【0163】
図2は、5’−d(TTTTTTTTX)−3’の配列の各種オリゴヌクレオチドを3’−エキソヌクレアーゼで処理した場合の、未反応のオリゴヌクレオチドの割合の経時変化を示すグラフである。
図2の縦軸は、ヌクレアーゼ処理に対して未反応のオリゴヌクレオチドの割合(%)を示し、横軸は、ヌクレアーゼ処理時間(分)を示す。
図2の記号は以下を表す:丸、LNAを含有するオリゴヌクレオチド(化合物41);および三角、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド(化合物40)。
【0164】
図2から明らかなように、化合物40(グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド)は、ヌクレアーゼ処理の20分後でも80%が未反応のまま残存していた。これに対し、化合物41(LNAを含有するオリゴヌクレオチド)は、ヌクレアーゼ処理の20分後には未反応のオリゴヌクレオチドはほとんど残っていなかった。このように、実施例4のグアニジン架橋型ヌクレオシド類縁体(化合物28)のような5員環グアニジン架橋型人工核酸を3’末端に含有するオリゴヌクレオチドは、極めて高いヌクレアーゼ耐性能を示した。
【0165】
(実施例11)オリゴヌクレオチド類縁体の融解温度(Tm)の測定
以下の表9に記載する化合物33(10merのオリゴdTからなる天然型オリゴヌクレオチド);化合物29〜31、42および43(化合物28のグアニジン架橋型核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体);ならびに化合物44〜48(LNA−Tを含有するオリゴヌクレオチド)について、10merのポリAにアニーリング処理して複合体を形成させた後、複合体の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより、オリゴヌクレオチドのハイブリッド形成能を調べた。
【0166】
化合物29〜31、42および43は、逆相簡易カラムによる精製後のTFA処理にTFA50%に代えてTFA75%を用いたこと以外は実施例5に記載のように合成および精製した。化合物44〜48は、株式会社ジーンデザイン製である。
【0167】
複合体形成およびTm値の測定については、KCl 200mM、カコジル酸カリウム緩衝液(pH6.8)20mM、オリゴヌクレオチド4μM、および標的鎖4μMを含むサンプル溶液(130μL)を用いた以外は、実施例6と同様に行った。結果を表9に示す。表9は、天然型オリゴヌクレオチドおよび種々の数のLNAを含有するオリゴヌクレオチドと比較して、種々の数のグアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体のポリAに対するハイブリッド形成能をTm値および修飾単位あたりのTm値差にて表す。
【0168】
【表9】
【0169】
表9から明らかなように、RNAを標的とした場合、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体は、天然型オリゴヌクレオチドと比較して十分に高い結合親和性を示した。さらに、人工核酸の導入数が3残基以下の場合は、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体は、LNAを含有するオリゴヌクレオチドと同程度のTm値であったが、グアニジン架橋型人工核酸を5残基導入したオリゴヌクレオチドは、LNAを5残基導入した場合よりも高い結合親和性を示すことが明らかとなった。1残基当たりのTm値の上昇を比較すると、LNAを導入した場合は、導入数によらずTm値の上昇は6℃から7℃である一方で、グアニジン架橋型人工核酸を導入した場合は、導入数を増やすにつれて1残基当たりのTm値の上昇が大きくなることが明らかとなった。このことから、架橋構造による結合親和性への影響は相加的であるのに対し、グアニジン由来のカチオンによる結合親和性への影響は相乗的であることが示唆された。また、DNAを標的とした場合、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチドは極めて高い結合親和性を示し、天然型オリゴヌクレオチドやLNAを含むオリゴヌクレオチドよりもはるかに高い結合親和性を有することが明らかとなった。
【0170】
(実施例12)オリゴヌクレオチド類縁体の標的塩基認識能の評価
表9のグアニジン架橋型人工核酸が5残基導入されているオリゴヌクレオチド類縁体(化合物43)およびLNAが5残基導入されているオリゴヌクレオチド(化合物48)について、完全相補配列を有するDNA標的鎖(フルマッチ型)および1塩基ミスマッチを有するDNA標的鎖(ミスマッチ型)のそれぞれに対する結合親和性を評価した。標的鎖の配列は、フルマッチ型:5’−(AAAAAAAAAA)−3’、ミスマッチ型:5’−(AAAAATAAAA)−3’である。結合親和性は、実施例11と同様に、アニーリング処理して複合体を形成させた後、複合体の50%が解離する温度であるTm値を測定することにより評価した。
【0171】
結果を
図3に示す。
図3は、グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体およびLNAを含むオリゴヌクレオチドの、完全相補配列を有するDNA標的鎖(フルマッチ型)および1塩基ミスマッチを有するDNA標的鎖(ミスマッチ型)のそれぞれに対するTm曲線を示す。
図3の縦軸は、260nmの吸光度を表し、横軸は、温度(℃)を表す。グアニジン架橋型人工核酸を含有するオリゴヌクレオチド類縁体(化合物43)のミスマッチ型(細い一重線)およびフルマッチ型(細い一重破線)ならびにLNAを含むオリゴヌクレオチド(化合物48)のミスマッチ型(太い一重線)およびフルマッチ型(太い一重破線)に対するそれぞれの結果を示す。
【0172】
図3から明らかなように、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチド類縁体(化合物43)は、ミスマッチ型標的鎖に対するTm値はフルマッチ型標的鎖に対するTm値に比較して十分低く、そのTm値の低下は、LNAを含むオリゴヌクレオチド(化合物48)の場合と同程度であった。このことから、グアニジン架橋型人工核酸を含むオリゴヌクレオチドは、標的塩基認識能を損なうことなく、標的鎖との非常に高い結合親和性を有することが明らかとなった。
【0173】
(実施例13)グアニジン架橋型人工核酸(以下、GuNAと称することがある)の細胞内動態に関する評価
(1)蛍光標識GuNA修飾オリゴヌクレオチド(F−GuNA−ODN)の合成と同定
まず、実施例4で得られた化合物28、天然型ヌクレオシド、および後述の蛍光修飾のためのアミダイト体を用いて、DNA/RNAオリゴヌクレオチド自動合成機nS−8(株式会社ジーンデザイン製)により、オリゴヌクレオチド類縁体を合成した。合成したオリゴヌクレオチド類縁体は表10に示す化合物53から57の前駆体(化合物49)になる化合物である。この前駆体(化合物49)の構造を以下に示す。
【0174】
【化19】
【0175】
オリゴヌクレオチドの自動合成において、チミジンアミダイト体(型番:T111081)とチミジンCPG固相担体(型番:T361010)、CapA(型番:L840020−06)、CapB(型番:L850020−06)、酸化剤(型番:L860020−06)は全てSAFC(登録商標) Proligo(登録商標) Reagentsより入手した。アセトニトリル(型番:018−14451)とデブロッキング溶液(型番:042−28921)は和光純薬工業株式会社より購入した。活性化剤は0.25M 5−エチルチオ−1H−テトラゾール/ドライアセトニトリル(製造元コード:30−3140−52,Glen Research社製)を用いた。化合物28のアセトニトリル溶液(0.1M)のカップリング時間は20分間で行い、また、化合物28を3塩基連続してオリゴヌクレオチドに導入する場合、3塩基目のみダブルカップリングを行った。それ以外は天然のDNA合成と同条件にて行った。
【0176】
なお、蛍光修飾については、蛍光剤のアミダイト体を用いてオリゴヌクレオチドに導入した場合、後の75%トリフルオロ酢酸(TFA)での処理時に蛍光剤が加水分解するおそれがある。そこで、まずは、構造式を以下に示すアミダイト体 Thiol−Modifer C6 S−S (製造元コード:10−1936−90, Glen Research)をDNA自動合成機によりオリゴヌクレオチドの5’末端側に付加して、保護基ジメトキシトリチル基(DMTr基)を脱保護せずに終了することにより、蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜57)の前駆体(化合物49)を得た。なお、アミダイト体 Thiol−Modifer C6 S−Sのジスルフィド結合は75%TFAに対し、十分な耐性があることが確認されている。
【0177】
【化20】
【0178】
比較のために、化合物28に代えてウレア架橋型人工核酸2’,4’−BNA/LNA(5−メチル−2’−O,4’−C−メチレンウリジンを含有するオリゴヌクレオチド類縁体(化合物58から61:以下の表10に示す)(株式会社ジーンデザイン製)を購入して用いた。このオリゴヌクレオチド類縁体の前駆体(化合物50)の構造を以下に示す。
【0179】
【化21】
【0180】
得られた前駆体(化合物49)を28%アンモニア水溶液を用いてCPG担体から切り出し、NAP−10カラム(コード番号:17−0854−01, GE Healthcare)を用いてアンモニアを除去し、RP−HPLCにより精製し、凍結乾燥した。RP−HPLCはShimadzu LC−10AT
VP, ShimadzuSPD−10A
VP, ShimadzuCTO−10
VPを用い、以下に示す条件で行った。
移動相
A液:0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液,pH7.0
B液 80%アセトニトリル/0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液
グラジエント:
B液濃度: 0−100%(80分)
使用カラム:
Waters XBridge
TM OST C18 2.5μm(10×50mm 製品番号:186003954);
流速:
3.0mL/分
カラム温度:50℃
検出:UV(254nm)
【0181】
次に、75%トリフルオロ酢酸を添加し、6時間室温にて処理することにより、上記のように精製された前駆体(化合物49)からBoc基とDMTr基の脱保護を行った後、NAP−10カラムでトリフルオロ酢酸を除去し、凍結乾燥して脱保護された前駆体(化合物50)を得た。
【0182】
上記の脱保護された前駆体(化合物50)について、Thiol−Modifer C6 S−Sのプロトコルに従い、100mM DTT/TE緩衝液(pH7.0)を添加して2時間室温にてジスルフィド結合を還元し、SH基を生成した。得られた還元後の前駆体(化合物51)をRP−HPLC(B液: 50%アセトニトリル/0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液; グラジエント: B液濃度0−50%/25分) にて精製し、分取した。得られた還元後の前駆体(化合物51)の構造を以下に示す。
【0183】
【化22】
【0184】
上記、還元によりSH基が生成され、精製された前駆体(化合物51)に、構造式を以下に示すAlexa Fluor 488 C5 マレイミド(製品コード:A−10254, Life technologies社製)を前駆体(化合物51)に対して10等量添加し、室温にて一晩反応させてSH基とマレイミドを結合した(Nucleic Acids Research, 36, 2764−2776, 2008)。
【0185】
【化23】
【0186】
その後、RP−HPLC(B液:50%アセトニトリル/0.1M酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液; グラジエント: B液濃度0−50%/25分)にて精製し、蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物52:化合物53〜61)を得た。なお、このうち、化合物54〜57が蛍光標識GuNA修飾オリゴヌクレオチド(F−GuNA−ODN)である。得られた蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物52)の構造を以下に示す。
【0187】
【化24】
【0188】
合成した蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)の精製および純度確認は実施例2と同様に行った。
【0189】
合成した蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)の質量分析は、MALDI−TOF−MS(SpiralTOF JMS−S3000, JEOL)により行った。結果を表10に示す。
【0190】
【表10】
【0191】
(2)蛍光標識GuNA修飾オリゴヌクレオチドF−GuNA−ODNのヒト肝癌細胞(HuH−7)への導入とその細胞内動態の観察
まず、前準備として、細胞観察用のガラスボトムディッシュ(品種コード:3970−035, Iwaki)のガラス部分に100μg/mLコラーゲン/塩酸(pH 3.0)(Cellmatrix Type I−C, 新田ゼラチン株式会社製)を1mL添加することにより、コラーゲンコーティングを行った。
【0192】
これを室温にて30分静置後、コラーゲンを除去し、リン酸緩衝生理食塩水で1回洗浄後、室温にて1時間乾燥した。次に、4.5×10
5個のHuH−7細胞(JCRB細胞バンクより購入した(細胞番号:JCRB0403))を播種し、フェノールレッド不含培地10%FBS/DMEM(製品番号:08490−05, ナカライテスク株式会社製)下で一晩培養を行い(5%CO
2)、その後、上記(1)で得られた蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)を、それぞれ500nMの濃度で添加した。
【0193】
蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)の添加後、さらに12時間培養を続け、その後、培養されたHuH−7細胞をハンクス平衡塩類溶液(HBSS, 製品番号:14025−092,Life technologies社製)で1回洗浄し、プロトコルに従ってHoechst 33342(製品番号:H3570,Life technologies社製)とLysoTracker(登録商標) Red DND−99(カタログ番号:L−7528,Life technologies社製)を用いて核とリソソームを染色した。その後、ハンクス平衡塩類溶液を2mL添加し、落射型蛍光顕微鏡(BZ−9000,株式会社キーエンス製)を用いて蛍光像を取得した。なお、対物レンズは40×位相差レンズ (S Plan Fluor, 株式会社ニコン製)を用いた。
【0194】
各蛍光剤の検出フィルターセットと露光時間を以下に示す。
Alexa Fluor 488: Ex 470/40nm, DM 495nm, BA 535/50nm (GFP−B, 株式会社キーエンス製), 5秒
Hoechst 33342: Ex 360/40nm, DM 400nm, BA 460/50nm (DAPI−B、株式会社キーエンス製), 2秒
LysoTracker(登録商標) Red DND−99: Ex 540/25 nm, DM 565 nm, BA 605/55 nm (TRITC, 株式会社キーエンス製), 1.2秒
【0195】
蛍光標識修飾オリゴヌクレオチド類縁体(化合物53〜61)をHuH−7細胞に導入した結果、化合物28を6残基導入した化合物57と2’,4’−BNA/LNAを6残基導入した化合物61の2種類のオリゴヌクレオチドを添加した場合に細胞内において特に強い蛍光発光が観察された。その他のオリゴヌクレオチドについては、これらと比較すれば蛍光発光が弱かった。化合物57(A〜D)および化合物61(E〜H)のHuH−7細胞内の動態を示す顕微鏡写真を
図4に示す。A,Eは位相差像; B,FはAlexa Fluor 488 (オリゴヌクレオチド)の蛍光像; C,GはHoechst 33342 (核) の蛍光像; D,HはLysoTracker(リソソーム)の蛍光像である(スケールバー50μm)。化合物28を6残基導入した化合物57のオリゴヌクレオチドを用いた場合は強い蛍光発光が確認された(
図4B)。これに対し、2’,4’−BNA/LNAを6残基導入した化合物61のオリゴヌクレオチドを用いた場合、ある程度の蛍光発光を示したものの、化合物28を用いた化合物57より蛍光発光が弱かった(
図4F)。これは、化合物57では、化合物28を6残基導入することにより、細胞への導入効率が高められ、さらにオリゴヌクレオチド全体の荷電が変化して細胞表面への吸着効率が高められている結果であると考えられる。これに対し、化合物61では2’,4’−BNA/LNAを6残基導入することにより、細胞への導入効率が高められているものの、荷電が変化していないため細胞表面への吸着効率が高められておらず、その分、化合物57と比較すれば蛍光発光が弱かったと考えられる。
【0196】
次に、化合物57のHuH−7細胞内の動態を示す顕微鏡写真であって、
図4A〜Dについて
図4Bの矢印で示す領域について拡大した写真(A〜D)を
図5に示す。得られた蛍光発光の細胞内での局在を詳細に観察すると、添加したオリゴヌクレオチドは核内には存在せず、細胞質内の小胞内に多く蓄積しており、リソソーム内にも多数存在していることも明らかとなった。
【0197】
以上のことから、負の電荷を帯びるオリゴヌクレオチドに対し、正の電荷を帯びるグアニジノ基を付与させることによりオリゴヌクレオチド全体の電荷を変化させることは、オリゴヌクレオチド自体の細胞導入効率を向上させる有用な手法であることが証明された。
【0198】
なお、従来はドラッグデリバリーシステムを用いずに、オリゴヌクレオチドを細胞内に導入することは、酵素耐性や細胞透過性の面から困難とされていた。これらを改善するための手法としては、オリゴヌクレオチドのリン酸骨格にホスホロチオエート修飾を施す手法が汎用されている。しかしながら、ホスホロチオエート修飾においては、リン原子上に生じるキラリティの問題から、生産面、安全面、薬効低下が懸念材料となっていた。今回、ホスホロチオエート修飾を施すことなく細胞内透過性を高められたことから、本発明のグアニジン架橋を有する人工ヌクレオシドおよびオリゴヌクレオチドがこれらの欠点を克服し、核酸の医薬品化に貢献できることがわかる。