(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のシート材からなるシート束を切断可能なシート束切断装置であって、該シート束切断装置は、切断幅方向に延在する一縁に刃先を有する板状の切断刃を備え、前記一縁には、突き刺しおよび引き切りが可能な刃先線となる稜線を有して切断方向に突出する複数の突出刃先部と、隣接する前記突出刃先部の間に前記突出刃先部の隣接する突出先端の離間距離(Ly)と前記突出刃先部を形成する基部の幅(Lx)との距離比(Lx/Ly)が0.10〜0.40に形成された直線状底部とを有し、前記シート束の切断を、前記切断刃に切断方向の荷重を付与し、かつ前記切断刃を切断幅方向に往復移動することで行うことを特徴とするシート束切断装置。
前記突出刃先部は前記直線状底部との直交方向において前記直線状底部から前記突出先端までの突出量が0.05〜1.0mmに形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート束切断装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述した通り、本発明の重要な特徴は、特定形状とした切断刃にある。この切断刃の詳細を説明する前に、本発明で適用するシート束切断装置の全体構成を、
図1と
図2を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明のシート束切断装置の一例(以下、切断装置1という。)であって、その構成を示す構成図である。また、
図2は、
図1に示す切断装置1によりシート束を切断する途中状態を示す側面図である。なお、本発明でいうシート束は、例えば画像印刷等がなされた複数のシート材を、単に積層したり、中折りしたりして、束状もしくは冊子状の形態になしたものである。また、シート束において、通常は、その背部に対して平行位置となる小口部や直交位置となる側縁部が切断対象とされる。
【0016】
切断装置1は、フレームベース9に対して、シート束Sを載置する載置台6と、載置台6との間でシート束Sを押圧する押圧手段5と、切断刃2を切断幅方向に往復移動させる往復移動手段3と、切断刃2を切断方向に移動させるとともに、その反対の復帰方向にも移動させる切断方向移動手段4と、切断刃2に切断方向の荷重を加えるための荷重負荷手段(錘10など)と、シート束Sの切断時に切断刃2の突出刃先部2aを受ける受け部材7と、を有して構成されている。また、載置台6の両側にはシート束Sの幅方向をガイドするガイド部材8を設け、シート束Sを矢印11で示す方向から整列して挿入することができる。
【0017】
切断刃2の往復移動手段3は、切断刃2を取り付ける切断刃保持部材3aと、切断幅方向がスライド方向となるように設けられ、スライド側に切断刃保持部材3aを取り付けるとともに、固定側に切断刃2を切断方向に移動する切断方向移動手段4を取り付けるリニアスライダ3bと、切断刃保持部材3aに係合して切断刃保持部材3aを切断幅方向に移動させるための偏芯カム3cと、切断方向移動手段4に取り付けられ、偏芯カム3cの回転軸に連結して偏芯カム3cを回転駆動させるモータ3dとを有して構成されている。
【0018】
この往復移動手段3により、切断刃2を有する切断刃保持部材3aを、モータ3dの1回転により切断幅方向に1往復だけ移動することができる。また、切断刃2の往時および復時の移動量は、簡易な手段によって設定できる。具体的には、偏芯カム3cの回転軸の偏芯量を、例えば10mmに設定すると切断刃2を20mmの移動量で切断幅方向に往復移動させることができ、例えば5mmに設定すると切断刃2を10mmの移動量で切断幅方向に往復移動させることができる。また、切断刃2の切断幅方向への往復移動は、切断刃2に作用する切断抵抗の程度に応じてモータ3dの回転数を変動させて制御することができる。
【0019】
切断刃2の切断方向移動手段4は、切断刃2を有する往復移動手段3におけるリニアスライダ3bの固定側を取り付けるスライドフレーム4aと、切断幅方向においてスライドフレーム4aの両側に一対で設けられ、スライド側にスライドフレーム4aを取り付けるとともに、固定側にフレームベース9を取り付ける一対のリニアスライダ4bと、スライドフレーム4aの切断方向の後進側に設けられ、スライドフレーム4aの切断方向の前進側に設けられ、シート束の載置台6の載置面に当接可能な当て面4eを有するストッパ4dと、前記スライドフレーム4aを切断方向および復帰方向へ移動可能なモータなどの駆動源(図示せず)を有して構成されている。
【0020】
切断刃2に切断方向への荷重を負荷する荷重負荷手段は、具体的には錘10の他、上述した往復移動手段3や切断方向移動手段4を構成する切断刃2とともに移動する各部材の自重を利用している。また、錘10は、これを収納するための錘収納部4cを前記スライドフレーム4aの上部に設けている。
【0021】
シート束を載置台6との間で押圧する押圧手段5は、シート束のシート面に接触させる押板5aと、フレームベース9に取り付けられる固定フレーム5bと、固定フレーム5bに設けたタップ孔にねじ込まれて先端部が押板5aに係合するボルト部材5cとを有して構成されている。シート束を載置台6との間で押圧することでシート束の位置や姿勢を固定する場合は、ボルト部材5cを回転させて押板5aを前進させればよい。逆に、シート束の押圧を解除する場合は、ボルト部材5cを反対方向に回転させて押板5aを後進させればよい。
【0022】
なお、シート束の押圧力は、切断時にシート束が位置ずれを生じない程度であって、シート束のシート面に押圧による皺や傷などを生じない程度に設定すればよい。このようなシート束の押圧動作は、例えばボルト部材5cにモータなどの駆動源を連結することで自動化が可能である。また、シート束の押圧手段は、バネなどの弾性体、電動シリンダなどのなどの圧力負荷機器、カムや梃子などの機械機構などを用いて構成できる。
【0023】
上述した構成を有する切断装置1におけるシート束の切断は、切断刃2に対して荷重負荷手段により切断方向へ荷重を加えながら、切断刃2を往復移動手段3によりシート束の幅方向すなわち切断幅方向に往復移動し、かつ切断刃2を切断方向移動手段4により切断方向すなわちシート束に向かって移動し、切断刃2がシート束の最下に位置するシート材を通過して刃先を受ける受け部材7に達することで行われる。切断刃2のこうした一連の移動により、シート束は、その最上のシート材から順に、1枚あるいは複数のシート材がミシン目状に部分切断されると同時に引き切られて全幅切断され、この繰り返しによって終にはシート束全体が全幅切断される。この後、切断刃2は切断方向移動手段4により復帰方向へ移動され、待機位置へ戻される。
【0024】
次に、本発明において特に重要な技術的特徴について詳述する。
本発明においては、シート束に対する突出刃先部の突き刺し形態を適正化した、切断刃の構造に特徴がある。具体的には、当該切断刃は、切断幅方向に延在する一縁に刃先を有する板状の切断刃であって、前記一縁には、突き刺しおよび引き切りが可能な刃先線となる稜線を有して切断方向に、つまりシート束に向かう方向に突出する複数の突出刃先部と、隣接する前記突出刃先部の間に形成された直線状底部とを有する。すなわち、突出刃先部と直線状底部の組合せ構造を有する切断刃を適用することにより、シート束への突き刺し量を規制することができ、切断刃に対する切断方向の荷重が低減されるため、上述した課題を解決することができる。
【0025】
上述した本発明に係る切断刃について、具体例を挙げて詳述する。
図3および
図4は、本発明において適用可能な切断刃の一例であって、
図1に示す切断刃2の突出刃先部2aを含む切断幅方向に延在する前記一縁の要部の拡大図である。
図4は切断刃2の斜視図であって、その幅方向の一端部の近傍を示す図である。また、
図3は中央部近傍における2つの突出刃先部とその間に形成された直線状底部を示す図である。なお、
図3では、切断刃2となる板材の板面を正面、板材を刃先側から厚さが解るように見た、つまり切断装置に装着したときにシート束側から見た、一縁の面を下面、板材を長手方向(切断幅方向)から厚さが解るように見た一縁の面を側面と称する。よって、
図3(a)が正面、
図3(b)が線分PPによる側面の断面、
図3(c)が線分QQによる側面の断面、
図3(d)が下面を示す図となる。
【0026】
また、
図3に示す二点鎖線は、被切断材であるシート束の最上に位置するシート材面の位置の例を示す線である。よって、
図3は、最上のシート材に対して切断刃2の突出刃先部が突き刺さった状態を例示している。また、
図3に示す切断刃2の場合、直線状底部100の直線状部に切断の営みが可能な稜線を形成してある。よって、
図3(c)で示す直線状底部100は、鋭利な稜線に相当する刃先角を有している。
【0027】
図3に示す切断刃2は、板材からなり、切断幅方向(
図3(a)中では水平方向)に延在する一縁に刃先を有し、切断幅方向に往復移動しながら切断方向(
図3(a)中では下方向)へ移動することによって切断を営むことができる。切断刃2の刃先において、
図3(a)に頂部80、90で示す2つの突出刃先部は、切断方向に向かって頂部80、90が突出先端の頂点となって突き刺しが可能となっている。これら突出刃先部は、正面から見ると、全体形状としては二等辺三角形状の突出刃に形成されている。突出刃先部を二等辺三角形状に形成することは好適であり、切断幅方向のいずれの方向に対しても同じ剪断角を画成できるため、往復移動によって同じ態様の引き切りが可能となる。なお、本発明における突出刃先部の突出先端は、前記頂部のような鋭角的形状に限らず、シート束に対する突き刺しが可能であれば曲線形状を有していてもよい。
【0028】
頂部80で示す突出刃先部は、突出先端となる頂部80と、突出刃先部の基点となる2つの基部81、82と、これらがなす2つの稜線83、84とで、切断方向へ突出する三角状の突出刃に形成されている。同様に、頂部90で示す突出刃先部は、突出先端となる頂部90と、突出刃先部の基点となる2つの基部91、92と、これらがなす2つの稜線93、94とで、切断方向へ突出する三角状の突出刃に形成されている。
【0029】
上述した2つの隣接する突出刃先部の間には、直線状部を有する直線状底部100を有し、該直線状底部100はその両端が基部81、91と合致し、突出刃先部に対して屈曲的に連続して形成されている。この場合、基部81、91を結ぶ直線状の箇所が、直線状底部100の直線状部に相当する。本発明においては、被切断材であるシート束の最上に位置するシート面に対し、直線状底部100の直線状部が平行に位置するように配置すると好適である。
【0030】
前記直線状底部100は、突出刃先部に対してR部を設けて弧状に連続するように形成し、これにより切断中の応力集中を緩和するようにもできる。場合によっては、段差を設けるようにして、突出刃先部の基部の機械的強度を確保することもできる。上述の突出刃先部の基部81、91は、前記R部を設ける場合などでは、稜線と直線状部の双方を延長したときの交点に相当し、両側の交点を結ぶ直線状の箇所が直線状底部の直線状部に相当すると解される。
【0031】
また、頂部80で示す突出刃先部は、側面から見た
図3(b)および下面から見た
図3(d)を参照すると、頂部80から連なる峰85を形成する2つの面(すくい面)と、その反対面になる逃げ面86とを有し、該峰85と該逃げ面86とで刃先角をなす。同様に、頂部90で示す突出刃先部は、頂部90から連なる峰95を形成する2つの面(すくい面)と、その反対面になる逃げ面とを有し、該峰95と前記逃げ面とで刃先角をなす。隣接する突出刃先部のいずれの逃げ面も、直線状底部100を画成する
図3(c)で示す面102と同一の平面として連続に形成される。すなわち、切断刃2の場合、逃げ面86および面102で示す板状の側面は、一体の平面に形成されている。
【0032】
ここで、切断刃の刃先に係る角度の呼称について、
図3(a)に示す頂部80を有する突出刃先部を例に挙げて説明する。頂部80と2つの基部81、82を結んだ2つの直辺が交差して画成する角度は、突出刃先部の頂角と呼ぶ。また、該頂角との関係で、式(A)「剪断角=90−頂角/2」で決まる角度は、剪断角と呼ぶ。また、
図3(b)に示す峰85と逃げ面86で画成される角度は、頂部80を有する突出刃先部の刃先角と呼ぶ。
【0033】
本発明において用いる切断刃では、上述した刃先角は10〜30度が望ましく、より望ましくは15〜25度である。
シート束に対して突き刺さった突出刃先部の頂部80、90すなわち突出先端の近傍には、すくい面によってシート束を切り分ける負荷が生じて作用し、楔効果を生じて突出刃先部が逃げるように逃げ面の方向に弾性的に撓む。この撓み量は、刃先角が30度を超えると大きくなりやすく、当該突出刃先部の軌跡と、他の突出刃先部の軌跡との間に生じる差分が大きくなってしまうため、切断した箇所の毛羽立ちや、切断粉の多量発生など、実用上問題とされる不具合を発生しやすいからである。また、刃先角が10度未満では、突出刃先部の機械的強度が低下し、突出先端の欠損や、突出刃先部がその基部から折損しやすくなるからである。
【0034】
上述した切断刃2を用いてシート束を切断する場合において、切断刃2の刃先に係る挙動を詳述する。
切断刃2が切断方向に移動してシート束に達すると、まず最直近に位置するシート束の最上にあるシート材(図示せず)に対し、突出刃先部の突出先端すなわち頂点80、90が接触して引っ掛かる。そして、切断刃2に対して切断方向に付与された荷重により、突出刃先部の頂点80、90がシート材に突き刺さっていく。このとき、シート束の最上付近は、突出刃先部の頂点80とこれに続く稜線83、84により、また頂点90とこれに続く稜線93、94により、部分的に突き刺し切断されることになる。
【0035】
また、前記突き刺し動作とほぼ同時に、突き刺さった突出刃先部が切断幅方向へ移動され、この動作によってシート束の最上付近が稜線83、84、また稜線93、94によって引き切られることになる。こうした引き切り動作の開始後は、切断方向に加えられた荷重により、切断刃2の突出刃先部はシート束を引き切りながら、さらに下方に位置するシート材に対して突き刺さっていく。
【0036】
本発明者らが特許文献1で開示した切断刃の場合、切断刃に加わる切断方向の荷重により、突出刃先部がシート束に突き刺さる。この場合、シート束への突き刺さり量は、突出刃先部の形状や荷重の大きさによって大きく異なってしまう。シート束の切断を繰り返したとき、突き刺さり量が過少であると、突出刃先部の突出先端に負荷が集中することで摩耗が加速的に進むため、突き刺し性能が早期に損なわれて切断所要時間の増加を早めてしまう。また、突き刺さり量が過多であると、突出刃先部に過大な負荷を受けることとなり、突出先端の摩耗のみならず異常変形や欠けを生じてしまう場合がある。よって、どちらの場合であっても、摩耗などにより、所定の切断品位や切断寿命の維持が難くなる。
【0037】
このような場合、上述した本発明における切断刃であれば、隣接する突出刃先部の間に形成された直線状底部により、突出刃先部のシート束への突き刺さり量を所定量に規制することができる。具体的には、突出刃先部の突出先端の直線状底部の直線状部までの垂直距離(刃丈)を、
図3に示す切断刃2でいえば頂点80から直線状底部100までの垂直距離であるが、所定の突き刺さり量となるように形成しておけばよい。
【0038】
この構成により、突出刃先部がシート束に対して所定を超えて突き刺さろうとしても、直線状底部100の直線状部がシート束に当接するため、突出刃先部の突き刺さり量が過多になることを防ぎ、所定量に規制することができる。直線状底部100の直線状部がシート束に当接したとき、切断刃2に加えた切断方向の荷重により、当接した該直線状部に刃圧が生じる。このとき、該直線状部によってシート束に対する接触面積が大きくなっているため切断抵抗が大きいものとなるので、切断刃2のシート束へのさらなる突き刺さりを防止できる。そして、切断刃2のさらなる突き刺さりを防止しながら、切断幅方向へ移動する切断刃2によってシート束の引き切りを行うことができる。加えて、切断刃に加える切断方向の荷重が常識的範囲で適正量を超えた場合であっても、上述したように直線状底部100の直線状部によって切断刃2のさらなる突き刺さりに抗することができ、突出刃先部のシート束への突き刺さり量を所定量に規制することができる。
【0039】
よって、刃先線となる複数の突出刃先部の間に直線状底部を形成する構成を有する本発明における切断刃の適用により、シート束への突出刃先部の突き刺さり量を適正に制御でき、突出刃先部の突出先端付近の摩耗が加速的に進むようなことがなくなり、このため当初の切断所要時間を長く維持できるようになって、切断刃の切断寿命を延長することができる。
【0040】
本発明においては、上述した当該直線状底部の機能がより確実に発揮されるように、当該直線状底部の直線状部分の長さを、上述した切断刃2でいえば直線状底部100の長さを、1mm以上に形成しておくことが望ましい。なお、該直線状部分の長さが1mm未満であると、シート束の硬さや弾力性などの性状も関係するものの、該直線状底部が当接したシート材を突き破ってしまい、突出刃先部が所定を超えてシート束に突き刺さってしまう可能性がある。このような事象を生じる可能性のあるシート束を切断対象とする場合は、突出刃先部の隣接する突出先端の離間距離を1.5mm以上、より望ましくは2mm以上に形成するとよい。当該離間距離を長くできると、突出刃先部の突出先端の頂角が確保しやすく、故に機械的強度を有しやすい。
【0041】
また、
図3に示す切断刃2における直線状底部100の直線状部のように、本発明における切断刃は、直線状底部の直線状部に対して、シート束の切断幅方向に沿って切断の営みが可能な刃先線となる稜線を形成することができる。このとき、
図3に示す切断刃2の場合、
図3(c)で示す面102が逃げ面となり、面101がすくい面となる。
【0042】
上述のように直線状底部に切断の営みが可能な刃先線となる稜線を有する場合であっても、突出刃先部よりも直線状底部の直線状部に形成した該稜線の切断抵抗が大きくなる。よって、シート束に当接した該稜線により、突出刃先部のシート束に対する突き刺しが抑止され、突出刃先部の突き刺し量を適正に制御することができる。また、直線状底部の直線状部が刃先線となっていることで、シート束の切断に加担することができる。すなわち、直線状底部の直線状部に形成した該稜線により、新たに押し切り効果が得られるとともに、引き切りにも加担することができる。
【0043】
また、切断刃の突出刃先部は直線状底部との直交方向において、上述した切断刃2でいえば、直線状底部100から突出先端である頂点80までの突出量、つまり突出刃先部の刃丈(高さ)が0.05〜1.0mmに形成されていることが望ましい。一般に、例えば感熱紙などの薄紙では厚さが0.08mm程度であることから、該刃丈が0.05mm未満であると、切断刃の1往復動作中に1枚のシート材が切断できない可能性があり、切断端の毛羽立ちや紙粉発生などが懸念される。より好適な該刃丈の下限値は、被切断材(1枚のシート材)の厚さを超えて、例えば1枚の厚さが100μm未満のような前記感熱紙などのシート材の場合は0.1mm、厚さが250μm以下の一般普通紙などのシート材の場合は0.3mm、厚さが250μmを超えるようなシールやラベルなどのシート材の場合は0.4mmである。
【0044】
一方、上述の刃丈が1.0mmを超えると、突出刃先部がその基部近くまで突き刺さり難くなって直線状底部がシート束に当接し難くなる。そのため、直線状底部を設ける効果が十分に発揮できない場合がある。本発明者らの検討によれば、突出刃先部の突出先端をなす頂角を60〜160度(刃先がシート束となす剪断角で考えれば60〜10度)に形成した場合、上述した厚さが250μm以下のシート材の場合に好適な刃丈の上限値は0.5mmであり、厚さが250μmを超えるシート材の場合に好適な刃丈の上限値は0.7mmである。
【0045】
本発明において、突出刃先部の突出先端の最上のシート材に対する喰い付きや突き刺しの効果を高めるためには、突出先端の頂角をより小さく鋭角化する(剪断角でいえばより大きくする)ことが望ましい。突き刺し効果を高めることにより、引き切りへの偏重による突出先端に対する過分な摺動負荷が抑制されるため、突出先端の摩耗の進行を緩やかにできる。
【0046】
ただし、突出先端の頂角を小さくし過ぎると剪断角が大きくなり過ぎて、引き切りにおける切断抵抗の増加につながるばかりでなく、機械的強度の低下によって折損などが生じやすくなる。従って、当該頂角は、刃丈や被切断材の特質を考慮の上、60〜160度(剪断角でいえば60〜10度)、より望ましくは80〜140度(剪断角でいえば50〜20度)に設定することが望ましく、引き切り効果を重視する用途であれば100〜120度(剪断角でいえば40〜30度)が好適である。
【0047】
また、隣接する突出刃先部の間隔は、上述した切断刃2でいえば2つの頂点80、90の距離(刃ピッチ)は、少なくとも2mm以上であることが望ましい。2mm未満に設定した場合、上述したように刃丈を必要量に設定すると、直線状底部の直線状部分の長さが不十分となって上述した不具合を生じやすくなる。
【0048】
例えば、刃ピッチを2mmとし、有効な切断長さ(刃渡り)を標準A4サイズの長手方向の長さに相当する300mmとすると、突出刃先部の総数は約150個となる。この場合、1刃当りの刃圧を3Nに設定すると、切断刃において切断を営む刃先全体に作用する全刃圧は約450Nとなる。つまり、刃ピッチが小さいほど突出刃先部の個数が増えるので、1刃当りの刃圧が小さくても全刃圧が増加し、切断負荷が増加してしまう。切断負荷が大きくなると、切断刃に加える切断方向の荷重を増やすこととなり、切断刃の駆動源の高出力化が必要となる。また、切断時にシート束を保持する押圧力の増加も必要となるため、切断装置のコンパクト性を損ね、製造コストにも影響してしまう。
【0049】
上述した刃ピッチは、シート束への突出刃先部による刃圧を小さくして突出刃先に対する負荷を減少させると、切断品位向上や切断寿命延長などの効果が期待できるため、できる限り大きくするのがよいが、刃ピッチが大きくなった分だけ切断装置が大型化する。よって、本発明においては切断装置のコンパクト化を考慮し、刃ピッチの上限値を20mmとし、これ以下であることが望ましい。例えば、刃ピッチが20mmである場合は、切断刃の切断幅方向への往復移動量を20mmを超え25mm以下の範囲に設定すると、よりコンパクトな切断装置を得ることができる。
【0050】
本発明に係る切断刃に形成する突出刃先部において、2つの突出刃先部の隣接する突出先端の離間距離(Ly)と、その突出刃先部の付け根に当たり、その突出刃先部を形成する基部の幅(Lx)との距離比(Lx/Ly)を0.10〜0.40に形成するとよい。ここでいう基部の幅とは、
図3(a)において示せば、頂部80を有する突出刃先部を形成する2つの基部81、82の間の距離に対応し、あるいは、頂部90を有する突出刃先部を形成する2つの基部91、92の間の距離に対応する。このように形成された切断刃は、直線状部は十分な長さを有し、突出刃先部は十分な機械的強度を有し、突出刃先部によるシート束の突き刺しや引き切りが効果的に行えるものとなる。また、前記距離比(Lx/Ly)を0.20〜0.35に形成するとさらに効果的になる。例えば、後述する切断刃の突出刃先部は、隣接する突出先端の離間距離(ピッチ)を2.5mm、突出量(刃丈)を0.3mm、突出先端(頂点)の頂角を100度に設定して形成した。その切断刃において、前記距離比(Lx/Ly)は0.29となり、形成可能な直線状部の長さは1.7mmとなる。
【0051】
また、本発明においては、刃先に作用する1刃当りの荷重(刃圧)を0.2〜5Nに設定すると好適である。例えば、紙類からなるシート束の切断を行ったところ、0.1〜0.2mmの突き刺し量で切断することができた。なお、本発明者らは、(刃丈,刃ピッチ)=(0.3mm,5mm)と(0.3mm,2.5mm)の場合を比較し、いずれの組合せであっても1枚のシート材の厚みが0.1mm未満でも品位よく切断できることを確認した。また、突出刃先部が喰い付いたとき、前者つまり刃ピッチが大きい方が、最上のシート材が切断幅方向に引っ張られて動くようなことがなくなることを確認した。
【0052】
本発明において、上述した切断刃を構成するために、刃物材として好適な材質かつ所望寸法の板材を用いることができる。材質としては、例えば、刃物用鋼製、高速度工具鋼製、粉末高速度工具鋼製などの板材、さらに材質によっては窒化クロム被覆やダイヤモンドライクカーボン被覆などの強化を施したもの、超硬合金の焼結材でなる板材、セラミックス製の板材、刃材と胴材を溶接した一般に使用されるメタルバンドソーと類似構造の板材などが使用できる。また、板材の厚さは、突き刺しや切断箇所への入り込みを考慮すると、2mm以下が望ましく、例えば0.3mm、0.7mm、1.2mmなど、より薄い板材が好適である。
【0053】
また、上述した切断刃の成形においては、すくい面を形成する側の刃先形状は当該平板面に対し、例えば突出刃の対応形状を有するフォーミング砥石による研磨やワイヤーカットや研削などによる加工手段を適用し、成形することができる。また、逃げ面を形成する側の刃先形状は、切断時の摺動抵抗低減や良好な切断面品位を得るために、平面研磨などを適用して可能な限り円滑に成形することが望ましい。
【0054】
以下、本発明に係る好ましい構成につき、適宜
図1〜
図3を参照して説明しておく。
図1に示す切断装置1において、切断刃2を切断幅方向に往復移動させること、つまり、切断幅方向において一方向に移動させた切断刃2を所定位置で転じて反対方向に移動させることは、切断刃2の切断幅方向の長さを短縮できる利点がある。なぜならば、切断刃2の切断幅方向の長さを短くしても、往復移動によって切断刃2の切断幅方向の長さ以上の移動量が得られるからである。
【0055】
従って、切断刃2の切断幅方向の有効長さ、すなわち、切断刃2の切断の営みが可能な刃先線の刃渡り(Lc)は、切断するシート束の幅寸法(Ls)と切断刃2の往時移動量(X)および復時移動量(X)との関係において、式:Lc>Ls−2Xを満足するように、シート束の幅寸法から切断刃2の往復移動量を差し引いた値よりも大きく設定すればよい。例えば、A4規格のシート束の長手方向(縦方向)を切断する場合、シート束の幅寸法(Ls)は297mmであり、切断刃2の往復移動量(2X)を20mmに設定した場合は、切断刃2の刃先線の刃渡り(Lc)は少なくとも277mmを超えていればよい。このような構成によれば、切断装置の軽量化やコンパクト化には有利である。
【0056】
また、切断刃2の往時および復時の各移動量は、突出刃先部2aの刃先ピッチの1倍を超えて10倍以下に設定することが望ましい。より望ましくは2〜5倍に設定し、隣接する突出刃先部2aの切断軌跡を適度に重複させて切断を確実にすることである。具体的には、上述したように突出刃先部2aの刃先ピッチの好適範囲が2〜20mmであることから、該刃先ピッチとの関係において切断刃2の往時および復時の各移動量は、2mmを超え200mmが望ましく、より望ましくは4〜100mmの範囲に設定することである。これにより、シート束の寸法規格に適するコンパクトな切断装置を、簡易な構造で得ることができる。
【0057】
なお、切断刃2の前記移動量を2mm以下に設定した場合、刃先ピッチとの関係においてシート束の切断が不完全になる場合がある。加えて、切断刃2の切断幅方向への往復移動の周期が小さくなると、周囲に不快感を与えるような振動や騒音が発生する場合がある。また、切断刃2の前記移動量を100mmを超えて設定した場合、切断刃2の切断幅方向への往復移動機構が大型化し、コンパクト性を損ねてしまう場合がある。
【0058】
また、切断刃2に加える切断方向の荷重(Cw)は、突出刃先部の個数(Cp)および上述した刃圧(Cf)と、式:Cw=Cf×Cpが成立する関係にあって、切断刃2の突出刃先部2aの形状や個数、切断刃2を切断幅方向に往復移動させる駆動力の大きさ、切断するシート束の切断長さ、厚さ、材質、シート束の切断所要時間など、各種因子との関係を考慮して設定することが望ましい。本発明においては、上述した通り、刃圧を0.2〜5Nに設定することが望ましいため、該荷重Cwは0.2Cp〜5Cp(単位:N)となる。実用的には、駆動源の出力、装置構造としての機械的強度、装置のコンパクト性などを考慮すべきであり、該荷重を200〜600Nの範囲に制御することが望ましい。
【0059】
また、切断刃2に切断方向の荷重を加える手段は、
図1に示す切断装置1のように、自重を直接の負荷荷重とする錘10を用いる手段の他、例えば、スライドフレーム4aに相当する部材を電動シリンダや梃子式レバーなどで押圧し、この押圧力を負荷荷重として用いる手段や、モータの回転力を偏芯カムによって直線運動に変換する際の押圧力を負荷荷重として用いる手段など、多様な荷重負荷機構が採用できる。なお、切断刃2の場合、これに対する切断方向の荷重は、切断刃2がシート束に突き刺さるときの負荷に相当し、切断刃2の自重や、切断刃2とともに移動する支持部材などの自重を含んでよい。
【0060】
また、切断装置1において、切断刃2の突出刃先部2aを受ける受け部材7は、切断刃2が切断方向の最下となる位置に達したときに、突出刃先部2aの突出先端が受け部材7の受け面に当接するか、もしくは、突出刃先部2aの突出先端が前記受け面に僅かに喰い込む程度の位置に設定するのがよい。また、受け部材7の前記受け面の材質としては、例えば、塩化ビニール、ウレタン、天然ゴムといった樹脂やゴムなどでなるものが使用でき、望ましくは市販のカッティングマットに適用されている材質であって、例えばポリプロピレンなどが好適である。
【実施例】
【0061】
図1に示す切断装置1と同様の構成を有するシート束切断装置を実際に製作(発明装置)し、シート束の切断を行った。切断試験材は、一般的に使用されるA4規格(縦297mm、横210mm)の普通紙(株式会社リコー、PPC用紙タイプ600、厚さ約90μm)を40枚を重ね、冊子様としたシート束を用いた。切断対象は、シート束の縦方向(切断幅297mm)とした。なお、発明装置に係る呼称は
図1〜
図3を参照する。
【0062】
発明装置に装着する切断刃2は、厚さ0.7mmのJIS規定SKH51製の板材に、クロムナイトライド・コーティングを施したものを用いた。また、突出刃先部2aは、刃ピッチを2.5mm、刃丈を0.3mm、正面から見た三角状の頂点の頂角を100度(剪断角は40度になる)、側面から見た刃先角を15度とし、前記頂点(突出先端)はR0.1mm以下に研磨して鋭利性を確保した。隣接する突出刃先部2aの間には、1.7mmの直線状部を有する直線状底部100を設け、該直線状部には刃先線となる刃先角15度の稜線を形成した。切断刃2の全幅を305mmとし、刃渡りとしては少なくとも前記切断幅を超える300mmを確保した。切断刃2の切断幅方向への往時および復時の各移動量は、刃ピッチの2倍となる5mm(往復幅10mm)に設定した。突出刃先部2aに作用する刃圧を3Nに設定し、これに基いて切断刃2に加える切断方向の荷重の基準値を400Nに設定し、該荷重に係る各部材の自重を調整し、駆動源の出力を制御した。
【0063】
上述した構成を有する発明装置を用い、前記切断試験材を切断する切断試験を繰り返し行った。その結果、通常の切断寿命とされる繰り返し切断回数(5万回)まで達しても、突出刃先部2aの突出先端(
図3に示す頂点80、90に相当する)の摩耗が加速的に進むことがなかった。また、前記切断試験材の切断所要時間は、当初からほとんど増加することがなく、5万回到達時に測定した突出刃先部2aの突出先端の摩耗量は0.2mm程度であった。また、切断試験材の切断面は、5万回到達時でも実用的に不具合とされる状態は認められず良好な切断品位を有していた。
【0064】
また、本発明の効果を確認するため、上述した発明装置を用いて行った切断試験を、従来装置を用いて同様に実施した。
従来装置は、切断装置本体に発明装置を用い、該発明装置で用いた切断刃2に替えて、隣接する突出刃先部の間にシート束からの離間方向に窪む曲線状底部を有する切断刃を用いたものである。すなわち、発明装置と従来装置の構成上の相違点は、切断刃において、隣接する突出刃先部の間に直線状底部を有する(発明装置)か、曲線状底部を有する(従来装置)か、に限られる。また、切断刃に係る上述した各所寸法、設定した刃圧や荷重、往復移動量は、すべて同様とした。
【0065】
上述した構成を有する従来装置を用い、発明装置と同様の切断試験を繰り返し行った。その結果、従来装置では、突出刃先部の突出先端の摩耗が加速的に進み、繰り返し切断回数3万回に達した頃には切断所要時間が実用性を損ねるほどに増加した。このとき測定した突出先端の摩耗量は0.3mm程度であった。引き続き切断試験を繰り返したところ、次第にシート束の切断が不完全になったため、繰り返し切断回数5万回に到ることなく、切断試験を中止した。
【0066】
以上より、発明装置および従来装置を用いた切断試験の結果より、本発明のシート束切断装置は、切断刃の突出刃先部の間に形成された直線状底部の効果により、突出刃先部の摩耗が抑制され、少なくとも繰り返し切断回数5万回までは実用的な切断所要時間でシート束を切断でき、従来装置よりも切断寿命を延長できることが確認された。