(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表示処理部が、前記間隔から前記観察可能深度を算出するための計算式または前記間隔と前記観察可能深度とを対応させた対応表に基づいて、前記観察可能深度を算出する請求項1に記載の光音響計測装置。
前記表示処理部が、前記被検体の計測部位における音速、前記測定光の強度およびパルス幅、並びに前記音響波検出部の検出面上の音響部材の有無のうち少なくとも1つに基づいて、前記観察可能深度を補正する請求項1から4いずれか1項に記載の光音響計測装置。
前記表示処理が、前記光音響画像中の前記観察可能深度よりも深い領域のアーチファクト領域を非表示にする処理である請求項1から5いずれか1項に記載の光音響計測装置。
前記表示処理部が、非表示とされた前記アーチファクト領域のうち前記観察領域に隣接する一部の領域を、当該装置の操作者の指定により表示可能とする請求項8に記載の光音響計測装置。
被検体に測定光を出射する光出射部と、該光出射部に並設され、前記測定光の出射によって前記被検体内に生じた光音響波を検出する音響波検出部とを有するプローブが着脱可能な装着部、
前記音響波検出部により検出された前記光音響波に基づいて光音響画像を生成する画像生成部、および
前記光音響画像中の被検体表面に相当する位置から、前記測定光の当接平面上の到達領域と前記音響波検出部との間隔に応じた観察可能深度までの観察領域を明確化する表示処理を、前記光音響画像に施す表示処理部を備える信号処理装置。
前記表示処理部が、前記間隔から前記観察可能深度を算出するための計算式または前記間隔と前記観察可能深度とを対応させた対応表に基づいて、前記観察可能深度を算出する請求項10に記載の信号処理装置。
前記表示処理部が、当該信号処理装置に着脱可能なプローブに予め記憶されている、前記観察可能深度を特定するための情報を該プローブの当該信号処理装置への装着時に取得し、当該情報に基づいて前記観察可能深度を算出する請求項10または11に記載の信号処理装置。
前記表示処理部が、当該信号処理装置に着脱可能なプローブに予め記憶されている前記観察可能深度の値を該プローブの当該信号処理装置への装着時に取得し、当該値を使用して前記表示処理を施す請求項10に記載の信号処理装置。
前記表示処理部が、前記被検体の計測部位における音速、前記測定光の強度およびパルス幅、並びに前記音響波検出部の検出面上の音響部材の有無のうち少なくとも1つに基づいて、前記観察可能深度を補正する請求項10から13いずれか1項に記載の信号処理装置。
前記表示処理が、前記光音響画像中の前記観察可能深度よりも深い領域のアーチファクト領域を非表示にする処理である請求項10から14いずれか1項に記載の信号処理装置。
前記表示処理部が、非表示とされた前記アーチファクト領域のうち前記観察領域に隣接する一部の領域を、当該装置の操作者の指定により表示可能とする請求項17に記載の信号処理装置。
被検体に測定光を出射する光出射部と、該光出射部に並設された、前記測定光の出射によって前記被検体内に生じた光音響波を検出する音響波検出部とを有するプローブによって検出された前記光音響波に基づいて光音響画像を生成し、および
前記光音響画像中の被検体表面に相当する位置から、前記測定光の当接平面上の到達領域と前記音響波検出部との間隔に応じた観察可能深度までの観察領域を明確化する表示処理を、前記光音響画像に施す信号処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本願発明者らは、光出射部と音響波検出部が並設されたプローブを使用した場合、測定光が入射する被検体の表面部分で生じた光音響波が、被検体表面を伝って他の信号と一緒に音響波検出部により検出され、アーチファクト(虚像)の発生原因となることを見出した。このようなアーチファクトの存在は、計測対象からの光音響信号を観察する際の妨げになる場合もある。しかし、被検体表面を伝う上記のような光音響波は必ず生じるものであり、アーチファクトを完全に発生しないように光音響計測を行うことは難しい。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、光音響計測において、測定光が入射する被検体の表面部分で生じた光音響波に起因するアーチファクトが発生したとしても、光音響画像の観察のし易さを向上させることを可能とする光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の光音響計測装置は、
被検体に測定光を出射する光出射部と、光出射部に並設された、測定光の出射によって被検体内に生じた光音響波を検出する音響波検出部とを有するプローブ、
音響波検出部により検出された光音響波に基づいて光音響画像を生成する画像生成部、および
光音響画像中の被検体表面に相当する位置から、測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に応じた観察可能深度までの観察領域を明確化する表示処理を、光音響画像に施す表示処理部を備える。
【0011】
本発明において、「当接平面」とは、プローブの先端(つまり、被検体と接触するプローブ表面と音響波検出部の中心軸との交点)を通り音響波検出部の検出面に平行な平面を意味する。また、「到達領域」とは、当接平面と測定光が交わる領域を意味する。
【0012】
そして、本発明の光音響計測装置において、表示処理部は、上記間隔から観察可能深度を算出するための計算式または上記間隔と観察可能深度とを対応させた対応表に基づいて、観察可能深度を算出することが好ましい。
【0013】
また、本発明の光音響計測装置において、プローブは、表示処理部を有する装置本体に着脱可能であり、観察可能深度を特定するための情報を記憶した記憶部を有し、表示処理部は、プローブの装置本体への装着時に記憶部から取得された上記情報に基づいて観察可能深度を算出することが好ましい。
【0014】
或いは、本発明の光音響計測装置において、プローブは、表示処理部を有する装置本体に着脱可能であり、当該プローブ固有の上記間隔に応じた観察可能深度の値を記憶した記憶部を有し、表示処理部は、プローブの装置本体への装着時に記憶部から取得された観察可能深度の値を使用して表示処理を施すことが好ましい。
【0015】
また、本発明の光音響計測装置において、表示処理部は、被検体の計測部位における音速、測定光の強度およびパルス幅、並びに音響波検出部の検出面上の音響部材の有無のうち少なくとも1つに基づいて、観察可能深度を補正することが好ましい。
【0016】
また、本発明の光音響計測装置において、表示処理は、観察可能深度を線で表示する処理、又は観察領域を強調表示する処理であることが好ましい。
【0017】
或いは、本発明の光音響計測装置において、表示処理は、光音響画像中の観察可能深度よりも深い領域のアーチファクト領域を非表示にする処理であることが好ましい。この場合、表示処理部は、非表示とされたアーチファクト領域のうち観察領域に隣接する一部の領域を、当該装置の操作者の指定により表示可能とすることが好ましい。
【0018】
本発明の信号処理装置は、
被検体に測定光を出射する光出射部と、光出射部に並設された、測定光の出射によって被検体内に生じた光音響波を検出する音響波検出部とを有するプローブが着脱可能な装着部、
音響波検出部により検出された光音響波に基づいて光音響画像を生成する画像生成部、および
光音響画像中の被検体表面に相当する位置から、測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に応じた観察可能深度までの観察領域を明確化する表示処理を、光音響画像に施す表示処理部を備える。
【0019】
そして、本発明の信号処理装置において、表示処理部は、上記間隔から観察可能深度を算出するための計算式または上記間隔と観察可能深度とを対応させた対応表に基づいて、観察可能深度を算出することが好ましい。
【0020】
また、本発明の信号処理装置において、表示処理部は、当該信号処理装置に着脱可能なプローブに予め記憶されている、前記観察可能深度を特定するための情報をプローブの当該信号処理装置への装着時に取得し、当該情報に基づいて観察可能深度を算出することが好ましい。
【0021】
或いは、本発明の信号処理装置において、表示処理部は、当該信号処理装置に着脱可能なプローブに予め記憶されている観察可能深度の値をプローブの当該信号処理装置への装着時に取得し、当該値を使用して表示処理を施すことが好ましい。
【0022】
また、本発明の信号処理装置において、表示処理部は、被検体の計測部位における音速、測定光の強度およびパルス幅、並びに音響波検出部の検出面上の音響部材の有無のうち少なくとも1つに基づいて、観察可能深度を補正することが好ましい。
【0023】
また、本発明の信号処理装置において、表示処理は、観察可能深度を線で表示すること、観察領域を強調表示する処理であることが好ましい。
【0024】
或いは、本発明の信号処理装置において、表示処理は、光音響画像中の観察可能深度よりも深い領域のアーチファクト領域を非表示にする処理であることが好ましい。この場合、表示処理部は、非表示とされたアーチファクト領域のうち観察領域に隣接する一部の領域を、当該装置の操作者の指定により表示可能とすることが好ましい。
【0025】
本発明の信号処理方法は、被検体に測定光を出射する光出射部と、光出射部に並設された、測定光の出射によって被検体内に生じた光音響波を検出する音響波検出部とを有するプローブによって検出された光音響波に基づいて光音響画像を生成し、および
光音響画像中の被検体表面に相当する位置から、測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に応じた観察可能深度までの観察領域を明確化する表示処理を、光音響画像に施す。
【発明の効果】
【0026】
本発明の光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法は、測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に基づいて、光音響画像中の観察領域とアーチファクト領域の境界を求めている。上記間隔と光音響画像中の上記境界の位置とは相関を有するため、予め上記間隔が分かれば、光音響画像中の観察領域の範囲を特定することができ、観察領域を明確化する表示処理が可能となる。この結果、光音響計測において、測定光が入射する被検体の表面部分で生じた光音響波に起因するアーチファクトが発生したとしても、光音響画像の観察のし易さを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0029】
「第1の実施形態」
まず、第1の実施形態の光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法について説明する。
図1は本実施形態の光音響計測装置の構成を示す概略図であり、
図2のAおよびBはプローブの構成を示す概略図である。図の2Aは正面から見たときのプローブの断面図であり、Bは側面から見たときのプローブの断面図である。
【0030】
本実施形態の光音響計測装置10は、例えば光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成機能を有する。具体的には
図1に示されるように、本実施形態の光音響計測装置10は、プローブ(探触子)11、超音波ユニット12、レーザユニット13、表示部14および入力部15を備えている。
【0031】
<プローブ>
プローブ11は、被検体に向けて超音波を照射したり、被検体M内を伝搬する音響波Uを検出したりする。すなわち、プローブ11は、被検体Mに対する超音波の照射(送信)、および被検体Mから反射して戻って来た反射超音波(反射音響波)の検出(受信)を行うことができる。さらにプローブ11は、被検体M内の吸収体がレーザ光を吸収することにより被検体M内に発生した光音響波の検出も行うことができる。なお本明細書において、「音響波」とは超音波および光音響波を含む意味である。ここで、「超音波」とはプローブにより送信された弾性波およびその反射波を意味し、「光音響波」とは測定光の照射による光音響効果により被検体M内に発生した弾性波を意味する。また吸収体としては、例えば血管、金属部材等が挙げられる。プローブ11はケーブル40で超音波ユニット12と接続されている。
【0032】
本実施形態のプローブ11は、例えば
図1並びに
図2のAおよびBに示されるように、振動子アレイ20、複数の光ファイバ素線41aが束ねられたバンドルファイバ41、振動子アレイ20を挟むように配置された2つの光出射部42およびこれらを包含する筺体11aを備える。
【0033】
振動子アレイ20は、例えば一次元または二次元に配列された複数の超音波振動子(或いは音響波検出素子)から構成される。本実施形態において、振動子アレイ20または超音波振動子のそれぞれが、本発明の音響波検出部に相当する。超音波振動子は、例えば、圧電セラミクス、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子フィルムから構成される圧電素子である。超音波振動子は、音響波Uを受信した場合にその受信信号を電気信号に変換する機能を有し、超音波振動子で発生した電気信号は後述する受信回路21に出力される。プローブ11は、セクタ走査対応、リニア走査対応、コンベックス走査対応等の中から撮像部位に応じて選択される。
【0034】
バンドルファイバ41は、レーザユニット13からのレーザ光を光出射部42にまで導く。バンドルファイバ41は、特に限定されず、石英ファイバ等の公知のものを使用することができる。バンドルファイバ41は、出射側において光ファイバ素線41aごとに分岐し、光出射部42に接続される。
【0035】
光出射部42は、バンドルファイバ41によって導光されたレーザ光を被検体Mに照射する部分である。
図1および
図2のBに示されるように、本実施形態では2つの光出射部42が、振動子アレイ20を挟んで対向するように、振動子アレイ20のエレベーション方向(振動子アレイのアレイ方向に垂直かつ検出面に平行な方向)の両側に配置されている。光出射部42としては例えば導光板を使用することができる。導光板は、例えばアクリル板や石英板の表面に特殊な加工を施して、一方の端面から入れた光を他方の端面から均一に面発光させる板である。振動子アレイ20の両側の被検体表面を均一に照明するため、振動子アレイ20のアレイ方向の幅と導光板の幅は同程度の長さであることが好ましい。また、導光板の入射端あるいは出射端に拡散板を設けてもよい。
【0036】
<レーザユニット>
レーザユニット13は、例えばレーザ光を発するQスイッチによる固体レーザ光源を有し、被検体Mに照射する測定光Lとしてレーザ光を出力する。レーザユニット13は、例えば、超音波ユニット12の制御部34からのトリガ信号を受けてレーザ光を出力するように構成されている。レーザユニット13は、レーザ光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を出力することが好ましい。例えば本実施形態では、レーザユニット13の光源はQスイッチを使用したアレキサンドライトレーザである。
【0037】
レーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の吸収体の光吸収特性によって適宜決定される。例えば計測対象が生体内のヘモグロビンである場合(つまり、血管を撮像する場合)には、一般的にはその波長は近赤外波長域に属する波長であることが好ましい。近赤外波長域とはおよそ700〜850nmの波長域を意味する。しかしながら、レーザ光の波長は当然これに限られるものではない。また、レーザ光は、単波長でもよいし、複数の波長(例えば750nmおよび800nm)を含んでもよい。さらに、レーザ光が複数の波長を含む場合には、これらの波長の光は、同時に被検体Mに照射されてもよいし、交互に切り替えられながら照射されてもよい。レーザユニット13は、アレキサンドライトレーザの他、同様に近赤外波長域のレーザ光を出力可能なYAG−SHG−OPOレーザやTi−Sapphireレーザとすることもできる。
【0038】
<超音波ユニット>
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換部22、受信メモリ23、光音響画像生成部24、表示処理部25、表示制御部30および制御部34を有する。超音波ユニット12が本発明における信号処理部に相当する。
【0039】
制御部34は、光音響計測装置10の各部を制御するものであり、本実施形態ではトリガ制御回路(図示省略)を備える。トリガ制御回路は、例えば光音響計測装置の起動の際に、レーザユニット13に光トリガ信号を送る。これによりレーザユニット13で、フラッシュランプが点灯し、レーザロッドの励起が開始される。そして、レーザロッドの励起状態は維持され、レーザユニット13はパルスレーザ光を出力可能な状態となる。
【0040】
そして、制御部34は、その後トリガ制御回路からレーザユニット13へQswトリガ信号を送信する。つまり、制御部34は、このQswトリガ信号によってレーザユニット13からのパルスレーザ光の出力タイミングを制御している。また本実施形態では、制御部34は、Qswトリガ信号の送信と同時にサンプリングトリガ信号をAD変換部22に送信する。サンプリングトリガ信号は、AD変換部22における光音響信号のサンプリングの開始タイミングの合図となる。このように、サンプリングトリガ信号を使用することにより、レーザ光の出力と同期して光音響信号をサンプリングすることが可能となる。
【0041】
受信回路21は、プローブ11で検出された光音響信号を受信する。受信回路21で受信された光音響信号はAD変換部22に送信される。
【0042】
AD変換部22は、受信回路21が受信した光音響信号をサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換部22は、例えば外部から入力する所定周波数のADクロック信号に基づいて、所定のサンプリング周期で受信した光音響信号をサンプリングする。
【0043】
受信メモリ23は、AD変換部22でサンプリングされた光音響信号を記憶する。そして、受信メモリ23は、プローブ11によって検出された光音響信号のデータを光音響画像生成部24に出力する。
【0044】
光音響画像生成部24は、例えば受信メモリ23に格納された上記光音響データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で互いに加算して1ライン分のデータを再構成し、各ラインの光音響データに基づいて断層画像(光音響画像)のデータを生成する。なお、この光音響画像生成部24は、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。光音響画像生成部24は、上記のようにして生成された光音響画像のデータを表示処理部25に出力する。
【0045】
表示処理部25は、光音響画像の上側の観察領域(血管等の計測対象からの信号が識別可能で、主に観察の対象となる領域)を明確化する表示処理を光音響画像に施す。これにより、光音響計測装置の操作者は、光音響画像の下側にアーチファクト領域が現れても観察領域を観察しやすくなる。
【0046】
例えば
図3は、血管Vから生じた光音響波と、測定光が入射する被検体表面で生じた光音響波とが検出される様子を示す概略図である。測定光Lを被検体Mに照射した際、理想的には血管Vからの光音響波U1のみを検出したいのであるが、実際には測定光Lが入射する被検体表面部分44で発生した光音響波U2も検出される。この光音響波U2がアーチファクト(虚像)の原因となる。光音響波U2が発生してから検出されるまでの時間は、光出射部42と振動子アレイ20(または個々の超音波振動子以下同じ)との間隔、より詳細には、測定光Lの当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に依存する。つまり、光出射部42と振動子アレイ20との間隔が大きい程、光音響波U2が被検体中を伝わる距離が長いため、光音響波U2が発生してから検出されるまでの時間は長くなる。
【0047】
そして、光音響波U2が発生してから検出されるまでの時間は、光音響画像中のアーチファクト領域の現れる範囲に影響する。
図4のA〜Fは、光出射部42(導光板)と振動子アレイ20との間隔W1に依存して、観察領域R1およびアーチファクト領域R2の大きさの変化を示す図である。具体的には、
図4のA〜Dは、被検体表面で生じた光音響波U2に起因してアーチファクト領域R2が発生した光音響画像Pを示す図である。また、
図4のEおよびFはそれぞれ、
図4のAおよびDの光音響画像Pを生成した時の光出射部42と振動子アレイ20の位置関係を示す概略図である。
図4から、光出射部42と振動子アレイ20との間隔W1が大きい程、観察領域R1およびアーチファクト領域R2の境界Bが下がることが分かる。これは、光音響画像Pの上下方向は、時間軸に相当し、光出射部42と振動子アレイ20との間隔W1が大きい程、光音響波U2の信号が入り込む時間が遅くなるためである。なお、本実施形態では、両領域の境界が、例えば、画像データのチャンネル総数に対するアーチファクトが現れたチャンネル数の割合が50%となる深さラインであるとして説明するが、この数値自体は適宜変更可能である。
【0048】
そこで、本発明では、上記境界を観察可能深度と定義し、光音響画像Pの上端Eから観察可能深度までの領域を観察領域と定義し、そして観察可能領域よりも深い領域をアーチファクト領域と定義し、光音響画像を観察する際に、より重要度の高い観察領域を明確化することで、光音響画像の観察のし易さを向上させる。
【0049】
観察領域を明確化する手順は例えば以下の通りである。まず、表示処理部25は、光出射部42と振動子アレイ20との間隔W1の値を取得し、この間隔W1の値に応じた観察可能深度(例えば光音響画像上での長さ或いはその長さに相当するピクセル数)を算出する。その後、表示処理部25は、光音響画像生成部24で生成された光音響画像の上端から観察可能深度までを観察領域として所定の表示処理を行う。本実施形態では、観察可能深度を線で表示する表示処理が施されている(
図4のA〜D)。
【0050】
上記間隔W1の値を取得する方法は、予め光音響計測装置10またはプローブ11の内部に記憶されている上記間隔W1の値を取得する方法でもよいし、装置の操作者が入力部15を用いて入力した上記間隔W1の値を取得する方法でもよい。また、上記間隔W1の値から観察可能深度を算出する方法としては、例えば、上記間隔W1から観察可能深度を算出するための計算式に基づいて観察可能深度を算出する方法を採用することができる。なお、本実施形態のように音響波検出部が複数の素子から構成される場合には、上記間隔W1として、代表の素子と光出射部42との間隔を用いてもよいし、各素子と光出射部42との間隔の平均値を用いてもよい。本発明者らは、上記間隔W1および観察可能深度には所定の相関性があることを見出した。
図5は、
図4のEやFのように光出射部42と振動子アレイ20の位置を変化させた場合における、光出射部42と振動子アレイ20との間隔W1および観察可能深度のその関係を示すグラフである。例えば、この場合には、上記間隔W1および観察可能深度はほぼ線形性の関係を有すると認められるため、
図5のグラフを最小二乗法で近似して得られた計算式を持っていれば、上記操作者がどのような値を入力してきても対応可能である。また、上記間隔W1の値から観察可能深度を算出する方法としては、上記間隔W1と観察可能深度とを対応させた対応表に基づいて観察可能深度を算出する方法を採用することもできる。
【0051】
なお、
図5において、間隔W1がゼロであるとは、
図4のEのように、光出射部42と振動子アレイ20とが接触している状態(換言すれば、両者の物理的な空間がゼロである状態)を指す。しかし、本発明において、「光出射部42と振動子アレイ20の間隔」の定義の仕方は、上記のような方法に限定されない。例えば、
図4のA〜Fおよび
図5において光出射部42の光軸と振動子アレイ20の中心軸との距離を「光出射部42と振動子アレイ20の間隔」として上記手順で計算式を導出してもよい。「光出射部42と振動子アレイ20の間隔」を数値化する場合に、どこを基準にするかは、例えば
図5のグラフの切片に影響するだけであり、どこを基準にしても、結果的には採用した基準に応じた計算式が導出されるからである。つまり、例えば
図4のA〜Fおよび
図5のような場合において、「光出射部42と振動子アレイ20の間隔」として、両者の物理的な空間の距離を用いても、または上記光軸と上記中心軸との距離を用いても、観察可能深度を算出する際に「測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔」を考慮していることに変わりはない。
【0052】
また、光出射部42の出射端における光軸が当接平面に対して傾いている場合には、次のようにして「測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔」を定義することができる。例えば
図6のAのように検出面になにも装着されていない場合には、検出面と振動子アレイ20の中心軸との交点をP1とし、測定光Lの到達領域におけるエネルギープロファイルをガウス分布で近似したときの最大点をP2とする。この際、上記点P1が、当接平面が通るプローブの先端となる。そして、この点P1および点P2の距離W2を「到達領域と音響波検出部との間隔」とすることができる。また、例えば
図6のBのように音響レンズ等の音響部材19が検出面に装着されている場合には、音響部材19の被検体と接触する表面と振動子アレイ20の中心軸との交点をP3とし、測定光Lの到達領域におけるエネルギープロファイルをガウス分布で近似したときの最大点をP4とする。この際、上記点P3が、当接平面が通るプローブの先端となる。そして、この点P3および点P4の距離W3を「到達領域と音響波検出部との間隔」とすることができる。
【0053】
さらに、表示処理部25は、被検体Mの計測部位における音速、測定光の強度およびパルス幅、並びに音響波検出部の検出面上の音響部材の有無のうち少なくとも1つに基づいて、観察可能深度を補正することが好ましい。基本的に、観察可能深度は、光音響波U2が発生してから検出されるまでの時間によって定まる。しかしながら、被検体Mの計測部位における音速が遅くなると、光音響波U2が伝搬する距離は一定でも、光音響波U2が検出される時刻が遅くなるため、光音響画像上の実際の観察可能深度は、光出射部42と振動子アレイ20の間隔のみを考慮して求めた一次的な観察可能深度よりも深くなる。また、測定光Lの強度が大きくなるまたはパルス幅が短くなると、バックグラウンドのノイズはそれほど影響を受けないが、アーチファクト信号が大きくなり相対的にアーチファクト信号が優勢となる領域が増加するため、光音響画像上の実際の観察可能深度は、一次的な観察可能深度よりも浅くなる。また、音響波検出部の検出面に装着される音響レンズ等の音響部材が検出面上にあると、その音響部材の音響インピーダンスによっては、光音響画像上の実際の観察可能深度は、一次的な観察可能深度からずれてくる。観察可能深度を補正する方法としては、観察可能深度を算出するための計算式中の係数を上記音速やパルス幅等の各要素に応じて変更する方法や、上記各要素を項目として含む対応表を使用して観察可能深度を算出する方法を採用することができる。
【0054】
表示制御部30は、表示処理部25によって所定の表示処理が施された光音響画像データに基づいて、光音響画像をディスプレイ装置等の表示部14に表示させる。表示制御部30は、プローブ11が二次元配列した振動子アレイを有することまたはプローブ走査により、複数の光音響画像が取得された場合には、例えば、それらの光音響画像に基づいてボリュームデータを作成し、三次元画像として合成画像を表示部14に表示させることもできる。
【0055】
以下、
図7を用いて光音響計測の工程を説明する。
図7は、第1の実施形態における光音響計測の工程を示すフロー図である。まず、光音響計測装置10の操作者は、仕様として定められているプローブ11の「光出射部と振動子アレイの間隔」の値を確認し、その値を装置10に入力しておく。上記操作者は、プローブ11を持ち、その先端を被検体に当てる。その後、測定光Lが光出射部42から出射し、測定光Lが被検体に照射される(STEP1)。測定光の照射に起因して発生した光音響波をプローブ11で検出し、その信号に基づいて光音響画像が生成される(STEP2)。一方、表示処理部25は、上記操作者によって入力された上記間隔の値に基づいて観察可能深度を求め、観察領域を明確化する表示処理を光音響画像に施す(STEP3)。その後、表示処理された光音響画像は、表示制御部30に送られ、表示部14に表示される(STEP4)。そして、計測を続行する場合には、STEP1〜4が繰り返され、そうでなければ終了する(STEP5)。
【0056】
以上のように、本実施形態の光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法は、測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に基づいて、光音響画像中の観察領域とアーチファクト領域の境界を算出している。上記間隔と光音響画像中の上記境界の位置とは相関を有するため、予め上記間隔が分かれば、光音響画像中の観察領域の範囲を特定することができ、観察領域を明確化する表示処理が可能となる。この結果、光音響計測において、測定光が入射する被検体の表面部分で生じた光音響波に起因するアーチファクトが発生したとしても、光音響画像の観察のし易さを向上させることが可能となる。
【0057】
<設計変更>
上記第1の実施形態では、観察可能深度を線で表示する表示処理について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、表示処理として、各領域の色度、明度または彩度を変えて観察領域をアーチファクト領域に比べて強調する方法を採用することができる。例えば、
図8では、アーチファクト領域R2を観察領域R1と異なる色および/または観察領域R1よりも暗い色で表示する(例えば、観察領域R1を赤を基調とする色で表示し、アーチファクト領域R2をグレースケールで表示する)ことにより、観察領域R1を相対的に強調している。
【0058】
また、
図9のAのように、例えば表示処理として、
図9のBに示すアーチファクト領域R2を光音響画像Pから削除する(つまり、表示画像としてアーチファクト領域R2を表示しない)方法を採用することもできる。なお、この場合、操作者が、アーチファクト領域を含めて観察可能深度近傍の領域を確認したい場合も考えられるため、非表示とされたアーチファクト領域R2のうち観察領域R1に隣接する一部の領域を、当該操作者の指定により表示可能とすることが好ましい。例えば、操作者が観察領域R1の下端にカーソルを合わせてドラッグすると、ドラッグした分だけ非表示とされたアーチファクト領域R2が表示されるという態様が考えられる。
【0059】
また、上記第1の実施形態では、光出射部と振動子アレイの間隔に基づいて観察可能深度を算出する場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、操作者が観察可能深度の値そのものを入力し、表示処理部25がその値をそのまま使用したりまたはその値を補正して使用したりする態様でもよい。或いは、表示処理部25が取得する情報は、観察可能深度を特定するための情報であれば特に制限されず、例えば
図6に示されるようなx(光出射部42の出射端における光軸の位置から振動子アレイの中心軸までの距離)、y(光出射部42の出射端における光軸の位置から当接平面までの距離)およびθ(当接平面と測定光の光軸とが成す角度)でもよい。x、yおよびθが得られれば、光出射部と振動子アレイの間隔が得られ、これからさらに観察可能深度が得られる。
【0060】
また、上記第1の実施形態では、表示処理部が常に表示処理を行う場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、操作者が入力部15を使用して、表示処理部25の動作のONおよびOFF(つまり、表示処理の要否)を選択できるように構成してもよい。また、画像に表示処理が施されている場合には、そのことが操作者に分かるように、画像に表示処理が施されていることを表すアイコン等の表示を表示部14に表示してもよい。
【0061】
「第2の実施形態」
次に、第2の実施形態の光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法について説明する。
図10は本実施形態の光音響計測装置の構成を示す概略図であり、
図11は、第2の実施形態における光音響計測の工程を示すフロー図である。本実施形態は、プローブ11が装置本体に着脱可能な構成であり、プローブ11に光出射部と振動子アレイの間隔が予め記憶されている点で、第1の実施形態と異なる。したがって、第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0062】
本実施形態の光音響計測装置10は、
図10に示されるように、プローブ11、超音波ユニット12、レーザユニット13、表示部14および入力部15を備えている。
【0063】
プローブ11および装置本体としての超音波ユニット12は、コネクタ45を介して着脱可能な構成を有する。プローブ11は、記憶部43を有し、記憶部43には、当該プローブ11固有の光出射部42と振動子アレイ20の間隔の値が予め記憶されている。
【0064】
表示処理部25は、プローブ11が超音波ユニット12に装着されたときに、記憶部43に記憶されている上記間隔の値を読み出し、その値に基づいて観察可能深度を算出する。
【0065】
以下、
図11を用いて光音響計測の工程を説明する。まず、光音響計測装置10の操作者は、例えば複数種類のプローブの中から計測に使用するプローブ11を選択し、プローブ11を超音波ユニット12に装着する(STEP1)。このとき、記憶部43と表示処理部25が接続され、表示処理部25は、当該プローブ11中の記憶部43から上記間隔の値を読み取る(STEP2)。そして、操作者がそのプローブの先端を被検体に当てた後、測定光Lが光出射部42から出射し、測定光Lが被検体に照射される(STEP3)。測定光の照射に起因して発生した光音響波をプローブ11で検出し、その信号に基づいて光音響画像が生成される(STEP4)。一方、表示処理部25は、読み取った上記間隔の値に基づいて観察可能深度を算出し、観察領域を明確化する表示処理を光音響画像に施す(STEP5)。その後、表示処理された光音響画像は、表示制御部30に送られ、表示部14に表示される(STEP6)。そして、計測を続行する場合には、STEP3〜6が繰り返され、そうでなければ終了する(STEP7)。
【0066】
以上のように、本実施形態の光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法も、測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔に基づいて、光音響画像中の観察領域とアーチファクト領域の境界を算出している。したがって、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0067】
さらに、本実施形態では、プローブ自身が光出射部42と振動子アレイ20の間隔の値を記憶しており、その値がプローブの装着に連動して自動で表示処理部25に読み取られるため、操作者がその値を入力する手間を省くことができる。また、複数種類のプローブを用途に合わせて使い分ける場合には、プローブごとにその値を変更する手間を省くことができる。また、第1の実施形態で説明したものと同様の設計変更が可能である。さらには、記憶部43は、プローブ固有の上記間隔に応じた観察可能深度の値を記憶してもよい。その場合、表示処理部25は、プローブ11が超音波ユニット12に接続されたときに記憶部43から観察可能深度を読み出し、読み出した観察可能深度の値を使用して表示処理を施してもよい。
【0068】
「第3の実施形態」
次に、第3の実施形態の光音響計測装置並びにそれに利用される信号処理装置および信号処理方法について説明する。
図12は本実施形態の光音響計測装置の構成を示す概略図である。本実施形態は、光音響画像に加えて超音波画像も生成する点で、第2の実施形態と異なる。したがって、第2の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0069】
本実施形態の光音響計測装置10は、
図12に示されるように、プローブ11、超音波ユニット12、レーザユニット13、表示部14および入力部15を備えている。
【0070】
<超音波ユニット>
本実施形態の超音波ユニット12は、
図10に示す光音響計測装置の構成に加えて、超音波画像生成部29および送信制御回路33を備える。
【0071】
本実施形態では、プローブ11は、光音響信号の検出に加えて、被検体に対する超音波の出力(送信)、及び送信した超音波に対する被検体からの反射超音波(反射音響波)の検出(受信)を行う。超音波の送受信を行う超音波振動子としては、本発明における振動子アレイ20を使用してもよいし、超音波の送受信用に別途プローブ11中に設けられた新たな超音波振動子を使用してもよい。また、超音波の送受信は分離して行ってもよい。例えばプローブ11とは異なる位置から超音波の送信を行い、その送信された超音波に対する反射超音波をプローブ11で受信してもよい。
【0072】
制御部34は、超音波画像の生成時は、送信制御回路33に超音波送信を指示する旨の超音波送信トリガ信号を送る。送信制御回路33は、このトリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。プローブ11は、超音波の送信後、被検体からの反射超音波を検出する。
【0073】
プローブ11が検出した反射超音波は、受信回路21を介してAD変換部22に入力される。制御部34は、超音波送信のタイミングに合わせてAD変換部22にサンプリングトリガ信号を送り、反射超音波のサンプリングを開始させる。AD変換部22は、反射超音波のサンプリング信号を受信メモリ23に格納する。光音響信号のサンプリングと、反射超音波のサンプリングとは、どちらを先に行ってもよい。
【0074】
超音波画像生成部29は、プローブ11の振動子アレイ20で検出された反射超音波(そのサンプリング信号)に基づいて、再構成処理、検波処理および対数変換処理等の信号処理を施して、超音波画像のデータを生成する。画像データの生成には、光音響画像生成部24における画像データの生成と同様に、遅延加算法などを用いることができる。超音波画像生成部29は、上記のようにして生成された超音波画像のデータを表示制御部30に出力する。
【0075】
表示制御部30は、例えば、光音響画像と超音波画像とを別々に、またはこれらの合成画像を表示部14に表示させる。表示制御部30は、例えば光音響画像と超音波画像とを重畳することで画像合成を行う。
【0076】
本実施形態では、光音響計測装置は、光音響画像に加えて超音波画像を生成する。したがって、第2の実施形態の効果に加えて、超音波画像を参照することで、光音響画像では画像化することができない部分を観察することができる。
【0077】
<設計変更>
第3の実施形態においても、第1の実施形態で説明したものと同様の設計変更が可能である。さらに上記第3の実施形態では、超音波画像には観察領域を明確化する表示処理を施さない場合について説明したが、本発明はこれに限られない。測定光の当接平面上の到達領域と音響波検出部との間隔および測定光の出射タイミングに基づいて、光音響画像中の観察領域とアーチファクト領域の境界を求め、光音響画像中の観察領域の範囲を特定し、その観察領域と同一領域の超音波画像を明確化することも可能である。