【発明が解決しようとする課題】
【0010】
人の皮膚感覚の閾値の測定装置として、特許文献1〜3の測定装置があるが、いずれも、被験者の皮膚に外部刺激を与えたときの感覚閾値が、どの程度であるかを測定しているに過ぎない。そのため、測定結果は、例えば末梢神経が損傷した場合の感覚閾値を評価することに利用できるものの、他に応用することは難しい。また、特許文献1の感覚閾値測定装置の使用にあたっては、JIS規格によって測定条件が厳密に規定されているため、医師または専門の技術者でないと測定できない。例えば、指先に接触させるプローブの位置が、皮膚の厚い部分にあってはならず、指紋の中心位置以外でなければならない。また、指先にプローブを当てた時の静止状態における皮膚の凹み深さが1.5±0.8mmでなければならないなど、測定条件が極めて煩雑である。
【0011】
特許文献2の荷重測定装置は、可動テーブルをステッピングモータで一定速度で下降させて測定針を皮膚に押付け、被験者が測定針による刺激を感知したときの測定針の荷重を、微小加重変換器の荷重測定部で測定して感覚閾値としている。そのため、例えば足裏の感覚閾値を特定する場合には、多数の測定点において測定針による刺激付与を繰り返し行う必要があり、末梢神経障害の有無、およびその程度を特定するのに多くの時間がかかってしまう。
【0012】
特許文献3の感覚識別装置は、例えば医師がケース全体を片手で持った状態で、プローブの突端を所定の力で皮膚に押付け、その状態のままプローブを引きずって被験者に感覚認識があるか否かを検査する。そのため、プローブの皮膚に対する押付け力や引きずり速度を一定にすることが難しく、さらにプローブを引きずるときにノイズが含まれやすいので、大まかな感覚閾値を判定するのには適していても、感覚閾値を正確に測定する用途には適さない。
【0013】
特許文献4の糖尿病足を検査するための検査機器は、検査機器から送信されてきた画像を医師が解析して神経障害の度合を診断するが、この検査機器は、足裏の感覚が殆どない、あるいは足裏の感覚が全くない患者を検査対象にして、足裏に創傷があるかないかを検査しているに過ぎない。そのため、自覚症状がない糖尿病の初期段階において、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを特定し、糖尿病の可能性を判定することはできない。
【0014】
糖尿病の初期段階の診療は、外来での診療が主体となるが、診察現場で足裏における神経障害(感覚障害)を定量評価することに関して、評価(検査)の手法が簡便であること、評価に要する時間が短時間で済むこと、専門的な知識や技術を要することなく誰もが正確に検査を行えることなどが望まれる。しかし、上記のような従来の測定装置は、測定条件が煩雑で測定に多くの時間がかかり、専門知識を有する医師あるいは技術者でないと測定装置を使用できないなど、誰もが手軽に感覚閾値を測定できない点に改善の余地があった。
【0015】
足裏の皮膚感覚を刺激して足裏における神経障害を定量的に評価する場合には、皮膚感覚をどのように刺激するかが評価を左右する要因となる。この種の感覚検査においては、特許文献1にも見られるように、刺激強度を知覚不能な微小刺激から、徐々に刺激強度を強めながら、被験者に対して繰り返し刺激を与え、どの時点で刺激を認識できたかによって、皮膚感覚の閾値を特定する上昇法と、逆に刺激強度を徐々に弱める下降法とがあり、さらに、この両者を併用する極限法とが知られている。さらに、刺激強度をランダムに変化させる恒常刺激法が知られている。極限法は、より少ない刺激付与数で閾値を測定できる利点を持つが、馴化や期待による測定誤差を含みやすい。その点、刺激強度をランダムに変化させる恒常刺激法の場合には、馴化や期待の影響を排除できるが、測定に多くの時間を要するため、短い診察時間で感覚障害を評価するのには適しておらず、外来での診療を実現するには極限法を採る以外にない。
【0016】
足裏の皮膚感覚を刺激して足裏における神経障害を的確に評価するには、健常者と同じ条件の刺激を被験者に与えても、適正な評価を得ることはできない。これは、糖尿病の神経障害を明確に把握するには、被験者に対する感覚刺激の提示強度の範囲が、健常者よりはるかに広い範囲になるからである。例えば、被験者に対する感覚刺激の刺激強度をプローブの移動距離で規定する場合、健常者では5μmから100μmの範囲内でプローブを移動させることで検査を行える。しかし、本発明者が行った臨床試験では、糖尿病に由来する神経障害を発症している被験者の場合には、5μmから1600μmを越える範囲の刺激強度を与えねばならないことが判っている。このことは、糖尿病に由来する神経障害の程度を満遍なく評価するには、刺激強度の変化範囲を健常者よりはるかに広く設定しなければならないことを意味している。そのため、神経障害の程度を的確に評価するには、先に述べた極限法であっても評価に要する時間が長くなり、外来での診療に適さないものとなる。
【0017】
本発明者は、上記の知見に基づいて検討を重ねた結果、糖尿病の患者群から得られた足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出される年齢補正係数を用いて刺激強度の変化幅を決定することにより、より少ない刺激付与回数で感覚閾値を決定でき、さらに、得られた感覚閾値から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを特定できることを見出し、本発明を提案するに至ったものである。
【0018】
本発明の目的は
、皮膚感覚閾値を定量的に測定し、測定結果から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定できる
皮膚感覚の評価装置、および
皮膚感覚の評価方法を提供することにある。
本発明の目的は、より少ない刺激付与回数で神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定でき、従って、評価に要する時間が短時間で済み、さらに専門的な知識や技術を要することなく誰もが正確に検査を行える、外来での診察に適した
皮膚感覚の評価装置と、
皮膚感覚の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る
皮膚感覚の評価装置は、
皮膚感覚閾値を測定する測定装置Aと、測定装置Aの測定結果から感覚閾値を特定し、さらに、特定された感覚閾値から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを評価する主制御部Bとを備えている。測定装置Aは、
人体皮膚に移動刺激を与えるプローブ4と、プローブ4を移動操作するプローブ駆動構造3と、移動刺激を認識した被験者によって操作される入力スイッチ5と、プローブ駆動構造3の駆動状態を制御する駆動制御部51とを備えている。主制御部Bには、患者群の
人体皮膚に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶させてある。駆動制御部51は、前記基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次刺激付与状態と、2次刺激付与状態と、3次刺激付与状態とを順次行って感覚閾値を測定するように構成してある。1次刺激付与状態においては、プローブ4による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する。2次刺激付与状態においては、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。3次刺激付与状態においては、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。主制御部Bは、測定された感覚閾値と前記既知の基準データとを比較評価して
、神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。
【0020】
プローブ駆動構造3は、前後へ往復スライド自在に案内支持されるテーブル11と、テーブル11を往復操作する駆動構造13と、移動テーブル11に設けたプローブ固定部40とを含む。プローブ固定部40を第1テーブル11の移動方向に移動させて、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定し、測定された感覚閾値と前記基準データとを主制御部Bで評価する。
【0021】
プローブ駆動構造3は、前後および左右へ往復スライド自在に案内支持される第1テーブル11および第2テーブル12と
、第1テーブル11を往復操作する第1駆動構造13と、第1テーブル11に設けられて第2テーブル12を往復操作する第2駆動構造14と、第2テーブル12に設けたプローブ固定部40とで構成する。プローブ固定部40に装着したプローブ4を第1テーブル11の移動方向と、第2テーブル12の移動方向に個別に移動させて、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定する。測定された感覚閾値と前記基準データとを主制御部Bで評価する。
【0022】
プローブ駆動構造3が、往復スライド自在に案内支持される移動テーブル11と、基台1に設けられて移動テーブル11を往復操作する駆動構造13と、移動テーブル11に設けたプローブ固定部40とで構成する。プローブ固定部40に装着したプローブ4の移動方向に沿う姿勢と、プローブ4の移動方向と直交する姿勢とに被験者の姿勢を変更して、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を
人体皮膚に付与する。
【0023】
評価装置は
、神経障害の有無と神経障害の程度に関する主制御部Bの判定結果を表示する表示手段55を備えている。
【0024】
第1駆動構造13を構成するモーター23と、第2駆動構造14を構成するモーター33のそれぞれを、振動を遮断する防振構造28・38を介してブラケット27・37に固定する。前記各モーター23・33の回転動力を、ボールねじ軸21・31と、第1テーブル11および第2テーブル12に固定した雌ねじ体22・32とで往復動作に変換して、第1テーブル11および第2テーブル12を前後および左右へ往復スライド操作する。
【0025】
本発明に係る皮膚感覚の評価方法は、接触窓8に臨むように人体皮膚を近接させる検査準備過程と、駆動制御部51の制御手順に従って作動するプローブ駆動構造3でプローブ4を移動操作し、被験者が人体皮膚に移動刺激を感じたときに入力スイッチ5を操作して感覚閾値を測定する刺激測定過程と、測定された感覚閾値を主制御部B
が評価する評価過程とを含む。主制御部Bには、患者群の人体皮膚に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶されている。刺激測定過程における駆動制御部51は、まず、前記基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、プローブ4による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する1次刺激付与状態により測定を行なう。次に、1次刺激付与状態で得られた大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する2次刺激付与状態により測定を行なう。また、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態により感覚閾値の測定を行なう。つまり、1次刺激付与状態、2次刺激付与状態、3次刺激付与状態とを記載順に行う。評価過程においては、主制御部Bが、測定された感覚閾値と前記既知の基準データとを比較評価して、神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。
【0026】
刺激測定過程において、1次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、4次刺激付与状態に移行して最大の強度の移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。4次刺激付与状態において被験者の刺激反応があった場合に、最大移動刺激を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態を行う。
【0027】
刺激測定過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、
人体皮膚に前後の移動刺激と左右の移動刺激を与え、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定する。
【0028】
刺激測定過程において足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれに、移動刺激を個別に与えて感覚閾値を測定する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の評価装置においては、プローブ4をプローブ駆動構造3で移動操作して、被験者の
人体皮膚に移動刺激を与え、被験者が操作する入力スイッチ5の出力信号に基づき、移動刺激に対する感覚閾値を測定する。また、感覚閾値を測定する過程では、予め用意してある既知の感覚閾値の基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次から3次の各刺激付与状態を経て感覚閾値を測定し、得られた感覚閾値と前記基準データとを主制御部Bで比較評価して
、神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。
【0030】
以上のように、本発明の評価装置によれ
ば、年齢データを入力したのち評価装置を作動させるだけで、プローブ4をプローブ駆動構造3で自動的に移動操作して、被験者に対して設定されたとおりの移動刺激を、設定された手順で正確に与えることができる。従って、被験者に対する移動刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定でき
る。また、一連の測定および評価は自動的に行なわれるので、
人体皮膚における感覚閾値を測定し評価するのに、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除でき
る。
【0031】
また、1次刺激付与状態において大まかな感覚閾値を仮設定したのち、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして変化幅が小さな移動刺激(2次刺激)を付与して、感覚閾値をより詳細に測定するので、より少ない刺激付与回数で感覚閾値を正確に決定できる。従って、充分な時間をかけることが難しい外来診察において、感覚閾値の評価に要する時間を大幅に減少して、短時間で感覚閾値を測定し評価することが可能となる。なお、3次刺激付与を行うのは、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した大まかな感覚閾値の測定に、何らかの誤差あるいは誤認が含まれている可能性があり、再度、大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定し直すためである。
【0032】
第1テーブル11および第2テーブル12と、これらのテーブル11・12を駆動する第1、第2の駆動構造13・14などでプローブ駆動構造3を構成すると、
人体皮膚に前後の移動刺激と左右の移動刺激を的確に与えることができる。このように、プローブ4を2方向へ個別に移動させて、2方向の移動刺激に対する被験者の知覚の有無を測定すると、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、
人体皮膚に加わるせん断方向への移動刺激に対する感覚閾値を測定できる。さらに、
人体皮膚の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果が得られるうえ、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定することができる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより
、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に特定できる。
【0033】
1個の移動テーブル11のみを駆動するプローブ駆動構造3によれば、評価装置の全体構造を著しく簡素化してコンパクト化できるので、診察室や待合室などの狭い場所で使用するのに好適な評価装置を提供できる。また、評価装置の構造を簡素化できる分だけ全体コストを削減して、評価装置の導入費用を低コスト化できる利点もある。さらに、被験者の姿勢をプローブ4の移動方向に沿う姿勢と、プローブ4の移動方向と直交する姿勢とに変更するだけで、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を
人体皮膚に付与できるので、2個のテーブル11・12を駆動する形態のプローブ駆動構造3と同様に、
人体皮膚の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果が得られる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより
、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に特定できる。
【0034】
評価装置に表示手段55が設けてあると、主制御部Bで比較し評価した判定結果を表示手段55で明示して、被験者に提示しながら神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを詳細に説明できる。例えば、判定結果が10段階に分けてある場合には、外来担当の医療者に対しては10段階の評価のうちのどの評価段階であるかを明示したうえで、さらに、各評価段階に応じて「僅かな神経障害があります」、あるいは「やや強い神経障害があります」と被験者向けの評価結果を表示して提示できる。
【0035】
第1駆動構造13および第2駆動構造14のモーター23・33を、主制御部Bのスタートボタンの操作で起動させて、一連の移動刺激を自動的に与える測定装置によれば、スタートボタンをオン操作するだけで、プローブ4を予め設定された手順に従って駆動して、被験者に対して予め設定されたとおりの移動刺激を正確に与えることができる。因みに、感覚閾値の測定は、単一の部位へさまざまな強度の刺激を何度も与え、さらに他の部位でも同じ手順を繰り返すという手間のかかる作業となる。そのため、時間に制約のある臨床現場では実施するのが困難となる。しかし、上記のように両駆動構造13・14の動作を駆動制御部51で制御して、被験者に対する移動刺激の付与、および被験者の感覚閾値の記録などを自動化すると、専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除でき
る。
【0036】
本発明に係る評価方法においては、検査準備過程と、刺激測定過程と、評価過程とを経て、
人体皮膚の感覚閾値の測定と、測定結果の評価を行うようにした。刺激測定過程では、予め用意してある既知の感覚閾値の基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次から3次の各刺激付与状態を経て感覚閾値を測定し決定できるようにした。また、評価過程においては、前段の過程で得られた感覚閾値と基準データとを主制御部Bで比較評価して
、神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定できるようにした。
【0037】
以上のように、本発明に係る評価方法によれば
、年齢データを入力したのち、刺激測定過程をスタートさせることで、プローブ4をプローブ駆動構造3で自動的に移動操作して、被験者に対して設定されたとおりの移動刺激を、設定された手順で正確に与えることができる。従って、被験者に対する移動刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定でき
、人体皮膚における感覚閾値を定量的に測定し、測定結果から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定できる。また、一連の測定および評価は自動的に行なわれるので、
例えば、足裏における感覚閾値を測定し評価するのに、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除でき
る。
【0038】
また、1次刺激付与状態において大まかな感覚閾値を仮設定したのち、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして変化幅が小さな移動刺激(2次刺激)を付与して、感覚閾値をより詳細に測定するので、より少ない刺激付与回数で感覚閾値を正確に決定できる。従って、充分な時間をかけることが難しい外来診察において、感覚閾値の評価に要する時間を大幅に減少して、短時間で感覚閾値を測定し評価することが可能となる。なお、3次刺激付与を行うのは、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した大まかな感覚閾値の測定に、何らかの誤差あるいは誤認が含まれている可能性があり、再度、大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定し直すためである。
【0039】
刺激測定過程において、1次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、4次刺激付与状態に移行して最大の強度の移動刺激を付与して感覚閾値を測定するのは、まず、最大の強度の移動刺激に対して被験者の刺激反応があるかないかを確認するためである。また、最大の強度の移動刺激に対して被験者の刺激反応があった場合には、最大移動刺激を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態に移行して、感覚閾値を確実に測定し特定するためである。このように、4次刺激付与状態を用意しておくことにより、最大の強度の移動刺激に対して被験者の刺激反応がない状態、すなわち感覚脱失であることと、極めて重度の感覚障害があることとを特定して、とくに感覚障害の程度が高い場合の神経障害を明確に評価できる。
【0040】
刺激測定過程において、
人体皮膚に前後の移動刺激と左右の移動刺激を与え、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定すると、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、
人体皮膚に加わるせん断方向への移動刺激に対する感覚閾値を測定できる。さらに、
人体皮膚の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果と、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定することができる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより
、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に評価できる。
【0041】
刺激測定過程において足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3の感覚閾値を測定するのは、これらの測定対象部位に、機械的な移動刺激を感知する皮膚内の感覚受容器が高密度に分布しているからであり、感覚刺激に対する閾値もそれぞれ異なっているからである。また、他の部位を測定対象部位とする場合に比べて、先の各部位の感覚閾値をより確実に測定して、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを評価しやすいからである。