(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
研磨フィルムの研磨層において、局所的に表面から突出する、切れ刃としての砥粒の突出高さが不揃いであると、研磨時に研磨ムラやスクラッチが生ずる原因となる。また、バインダ樹脂が切れ刃を厚く覆っていると、切れ刃と被研磨物との接触が妨げられるとともに、バインダ樹脂と被研磨物との接触面積が大きくなって、研磨圧が十分に被研磨物に伝わらない。その結果、研磨できない問題が生じ得る。あるいは、当初は研磨できたとしても、研磨による摩擦熱によってバインダ樹脂が溶融、溶着し、切れ刃をいっそう覆ってしまうことで、次第に研磨ができなくなる問題が生じ得る。
【0006】
さらに、研磨フィルムによって研磨を高精度に行うためには、研磨層の製造工程において、砥粒の粒度分布の管理が重要となる。例えば、砥粒の粒子径が過剰に小さくなると、バインダ樹脂と砥粒との混合・分散工程や、塗料の塗工・乾燥工程において砥粒が凝集し、塗工の際に砥粒が多層に積み重なる。砥粒が積み重なると、研磨フィルム表面から突出する切れ刃は、突出高さが不揃いになるので、上述した研磨ムラやスクラッチが生ずる原因となる。また、従来の研磨フィルムの製造方法では、研磨層の内部に砥粒が多層に積み重なってしまうため、比較的高価な砥粒が多量に必要になる。研磨層の内部に深く埋め込まれた砥粒は、切れ刃としての機能を発揮できないので、省資源化の観点からも無駄である。
【0007】
これらの問題は、分散・混合工程において、砥粒、樹脂固形分、溶剤および分散剤の配
合比や、分散方法を調整し、さらに塗布量や塗工方法を調整する方法によって、ある程度緩和することができる。
【0008】
しかしながら、当該方法では、上述した問題を十分に解決することができない。例えば、砥粒(切れ刃)を研磨層の表面から均一な突出高さで突出させるこができない。砥粒を突出させるために、研磨層の最表面のバインダ樹脂を、薬品、紫外線、レーザ等で除去する方法が提案されているが、この方法は、長時間を要するとともに、高価であり、量産には向かない。また、この方法では、砥粒の上部のバインダ樹脂のみを除去することはできないので、砥粒の周囲のバインダ樹脂にダメージが生じ、研磨層からの砥粒の脱落が生じ得る。また、砥粒に対するバインダ樹脂の量を少なくする方法も考えられるが、それでは、フィルム表面の砥粒を保持する強度が得られない。砥粒保持強度が低下すると、研磨レートを下げざるを得ず、また、安定的な加工を行えない。
【0009】
また、従来の研磨フィルムの用途は、比較的柔らかい性状や、平坦な形状を有する被研磨物に限られる。例えば、半導体製造工程における、ウェハ端部の仕上研磨においては、被加工物(ウェハのエッジ部)の形状は鋭角なエッジを有するので、加工範囲が狭く、加工圧力が局所に集中する。このため、研磨フィルムの砥粒や塗工面を剥そうとする力が働く。また、ウェハの材質は、硬度の高い脆性材料(単結晶Si等)に、高硬度の、窒化膜や酸化膜が形成されたものであり、膜厚も不均一である。このため、砥粒(切れ刃)が、加工時の衝突によって欠けたり、脱落したりしやすい。このようなことから、研磨速度を上げると、あるいは、連続的な加工を行うと、砥粒の脱落やバインダ樹脂の剥離が生じ、ウェハ面に傷やスクラッチが生じることとなる。かかるウェハ端部の仕上研磨プロセスでは、エッジの直線性、平面との境界でのスクラッチの防止、エッジの面取り角度や面取り幅等の加工寸法、面粗さ、形状の再現性、安定性が高い精度で要求される。これらの要求は、ウェハ端部の仕上研磨プロセスに限られるものではない。このため、研磨フィルムの品質の向上が求められる。品質が向上すれば、研磨フィルムの用途も拡大できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
本発明の第1の形態は、研磨フィルムの製造方法として提供される。この製造方法は、基材フィルムを用意し、基材フィルムに、砥粒を含まない第1の塗料であって、バインダ樹脂を含む第1の塗料を塗工し、乾燥させて、第1の層を形成する第1の工程と、第1の層の上に、砥粒とバインダ樹脂とを含む第2の塗料を塗工し、乾燥させて、第2の層を形成する第2の工程と、第1の層および第2の層を加熱によってイミド化する第3の工程とを備える。
【0012】
かかる研磨フィルムの製造方法によれば、第1の層および第2の層のイミド化の過程で、砥粒の突出高さが揃った研磨フィルムを製造できる。かかる方法で製造された研磨フィルムは、研磨ムラやスクラッチの発生を抑制できる。しかも、かかる製造方法によれば、研磨フィルムの表面近くに砥粒が集中するので、研磨を好適に行える。また、砥粒が研磨フィルムの厚み方向に多層に積み重なることがないので、砥粒の量を低減できる。その結果、低コスト化、省資源化に資する。さらに、砥粒を上下からバインダ樹脂で挟み込んだ状態で、第1の層および第2の層がイミド化されるので、砥粒の保持強度が高く、また、第1の層および第2の層の強度も増す。このため、比較的硬い被研磨物を研磨可能になる。あるいは、加工圧力が集中する形状を有する被研磨物も好適に研磨できる。その結果、研磨フィルムの用途が拡大する。あるいは、研磨レートを向上できる。
【0013】
本発明の第2の形態として、第2の工程は、セパレータシートを第2の層の上に配置し
て、第1の層および第2の層が形成された基材フィルムをロール状に巻き取る工程を含んでもよい。また、第3の工程では、巻き取られた基材フィルムの第1の層および第2の層をイミド化してもよい。かかる方法によれば、イミド化のための設備を小型化することができる。また、一度に多量を処理できるので、単位量あたりの研磨フィルムの製造時間を短縮できる。巻き取られたフィルム間には、セパレータシートが介在するために、イミド化によるフィルム間での貼り付きや、貼り付きを引き剥がすことによる砥粒の脱落が生じることもない。
【0014】
本発明の第3の形態として、第3の工程は、真空ベーク炉で、200℃以上、かつ、350℃以下の範囲で、1時間以上、かつ、4時間以下加熱することによって行ってもよい。かかる方法によれば、第1の層および第2の層を効率的にイミド化できる。
【0015】
本発明の第4の形態として、用意される基材フィルムは、ポリイミドからなるものであってもよい。かかる方法によれば、PETなどを基材フィルムとして使用する従来の研磨フィルムよりも強度が高い研磨フィルムを製造できる。
【0016】
本発明の第5の形態として、上述した第4の形態において用意される基材フィルムは、完全にイミド化されていてもよい。かかる方法によれば、研磨フィルムの製造時において、強度が高い基材フィルムを扱うことになるので、基材フィルムの取り扱い性が向上する。
【0017】
本発明の第6の形態として、バインダ樹脂は、ポリイミドを含んでいてもよい。かかる方法によれば、第1の層および第2の層を好適にイミド化できる。
【0018】
本発明の第7の形態として、第1の塗料の乾燥後の塗工厚みは、砥粒の平均粒子径と同等以上、かつ、3倍以下の範囲にあってもよい。かかる方法によれば、第3の工程において、粒径の大きい砥粒が基材フィルム側に沈み込むための第1の層の好適な厚みを得ることができる。その結果、砥粒の突出高さを好適に揃えることができる。また、第1層が過剰な厚みで形成されることもない。
【0019】
本発明の第8の形態として、第2の層の乾燥後の厚みは、砥粒の平均粒子径の1/5以上、かつ、1/2以下の範囲にあってもよい。かかる方法によれば、切れ刃としての砥粒の被り厚さが好適に制御される。
【0020】
本発明の第9の形態として、用意される基材フィルムは、10μm以上、かつ、50μm以下の厚みを有していてもよい。かかる方法によれば、基材フィルムが十分な厚みを有することにより、基材フィルムの取り扱い性が向上する。また、基材フィルムが過剰に厚くならないので、研磨時において、非平坦な被研磨物の形状(例えば、エッジや曲面)にも好適に追従できる。
【0021】
本発明の第10の形態として、第1の塗料および第2の塗料の粘度は、溶剤によって、10000mPa・s/25℃以上、かつ、30000
mPa・s/25℃以下に調整されてもよい。第1の塗料に占める樹脂固形分の割合は、5wt%以上、かつ、50wt%以下であってもよい。第2の塗料の砥粒の割合は、第2の塗料の樹脂固形分に対して、5wt%以上、かつ、30wt%以下であってもよい。第2の塗料に占める、第2の塗料の樹脂固形分の割合は、10wt%以上、かつ、50wt%以下であってもよい。かかる方法によれば、粘度が好適に調整され、第1の塗料および第2の塗料の各成分の好適な分散性を得ることができる。また、第1の層における樹脂固形分の割合が好適に保たれるので、第1の層の好適な膜厚と、第1の塗料におけるバインダ樹脂の好適な分散性とを得ることができる。また、第2の層における樹脂固形分および砥粒の割合が好適に保たれるので、第2の層の好適な膜厚と、好適な砥粒保持強度と、第2の塗料におけるバインダ樹脂および砥粒の好適な分散性とを得ることができる。
【0022】
本発明の第11の形態として、第1の塗料に占める樹脂固形分の割合は、20wt%であることがより望ましい。第2の塗料の砥粒の割合は、第2の塗料の樹脂固形分に対して、15wt%であることがより望ましい。第2の塗料に占める、第2の塗料の樹脂固形分の割合は、18wt%であることがより望ましい。かかる方法によれば、第10の形態の効果をいっそう高めることができる。
【0023】
本発明の第12の形態として、上述した第10または第11の形態において、溶剤は、アルキルアミド溶媒であってもよい。かかる方法によれば、極性が高いので、バインダ樹脂や砥粒の分散性を高めることができる。
【0024】
本発明の第13の形態は、研磨フィルムとして提供される。この研磨フィルムは、基材フィルムと、基材フィルムの一方の面に形成された、砥粒とバインダ樹脂固形分とを含む表層とを備える。砥粒の全ては、表層の厚みのうちの、基材フィルムと反対側の半分の範囲内に位置する。かかる研磨フィルムによれば、砥粒の突出高さの不揃いを改善できる。したがって、研磨ムラやスクラッチの発生を抑制できる。また、砥粒の量を低減でき、低コスト化、省資源化に資する。また、砥粒の保持強度が高く、比較的硬い被研磨物を研磨可能になる。あるいは、加工圧力が集中する形状を有する被研磨物も好適に研磨できる。その結果、研磨フィルムの用途が拡大する。あるいは、研磨レートを向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
A.実施例:
A−1.研磨フィルム20の構成:
図1は、本発明の実施例としての研磨フィルム20の断面構成を示す。研磨フィルム20は、基材フィルム30と、第1の層40と、第2の層50とを備えている。第1の層40は、基材フィルム30の一方の面上に形成されている。第2の層50は、第1の層40の上に形成されている。第2の層50は、砥粒60を含んでいる。砥粒60の大部分は、第2の層50の内部に位置している。一部の砥粒60、より具体的には、粒径が相対的に大きい砥粒60の一部分は、第1の層40に沈み込んでいる。砥粒60の表面は、第2の層50に完全に被覆されていてもよいし、一部が第2の層50の表面から露出していてもよい。
【0027】
基材フィルム30は、研磨フィルム20に所要の強度を付与するとともに、研磨フィルム20の取り扱い性を向上させる。本実施例では、基材フィルム30は、ポリイミドからなる。ポリイミドを使用すれば、PETなどを基材フィルムとした従来の研磨フィルムよ
りも強度を高めることができる。
【0028】
かかる基材フィルム30には、ポリイミドに限らず、研磨時の摩擦熱に対する耐熱性、被研磨物の材質や形状に応じた強度、および、第1の層40の材質との十分な密着性を有する任意の樹脂材料を使用することができる。例えば、基材フィルム30には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドイミドなど、種々の熱硬化性樹脂を使用してもよい。
【0029】
本実施例では、基材フィルム30の厚みは、38μmである。基材フィルム30の厚みは、10μm以上とすることが望ましい。こうすれば、研磨フィルム20の製造時において、基材フィルム30にシワや破断が生じにくく、取り扱い性が向上する。また、基材フィルム30の厚みは、50μm以下とすることが望ましい。こうすれば、研磨フィルム20を用いた研磨時において、非平坦な被研磨物の形状(例えば、エッジや曲面)にも好適に追従できる。つまり、研磨フィルム20の用途を拡大できる。
【0030】
第1の層40および第2の層50は、砥粒60を保持する機能を有する。第1の層40は、第2の層50の下地層としても機能する。本実施例では、第1の層40および第2の層50は、ポリイミドからなる。ただし、第1の層40および第2の層50には、イミド化が可能な任意の樹脂材質を用いることができる。例えば、第1の層40および第2の層50には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドイミドなど、種々の熱硬化性樹脂を使用してもよい。第1の層40と第2の層50とには、密着性の観点から、同一の樹脂材料を使用することが望ましい。あるいは、同一の樹脂材料を含んでいるものを使用することが望ましい。例えば、第1の層40は、ポリイミドからなり、第2の層50は、ポリイミドおよびフィラーからなってもよい。フィラーは、ポリイミドと砥粒60との親和性を向上させる。フィラーとしては、例えば、シリカ粒子を用いることができる。また、第1の層40に、基材フィルム30と同一の材質を使用することによって、第1の層40と基材フィルム30との密着性を向上できる。
【0031】
本実施例では、第1の層40の厚みは、10μmである。第2の層50の厚みは、約3μmである。第2の層50の厚みは、砥粒60の平均粒子径の1/5以上とすることが望ましい。こうすれば、砥粒60の保持強度を好適なレベルで得ることができる。また、第2の層50の厚みは、砥粒60の平均粒子径の1/2以下とすることが望ましい。こうすれば、砥粒60が第2の層50に過剰に被覆されることがない。その結果、砥粒60の切れ刃としての機能を好適に得ることができる。
【0032】
砥粒60は、研磨材粒子であり、研磨の際に、第2の層50の表面側の部位が切れ刃として作用する。砥粒60としては、例えば、ダイヤモンド粒子、シリコンカーバイト(SiC)、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、酸化マンガン(MnO
2)などを使用できる。本実施例では、砥粒60は、工業用ダイヤモンド(多結晶ダイヤモンド)の粒子である。本実施例では、砥粒60の平均粒子径は、9μmである。ただし、砥粒60の平均粒子径は、0.1μm〜20μm程度で適宜設定可能である。
【0033】
本願において、砥粒60の粒子径は、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)によって測定する。測定装置には、マイクロトラックX100(日機装社製)を使用する。また、「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(D50)を意味する。
【0034】
上述した研磨フィルム20において、第1の層40と第2の層50との区分は、次に説明する研磨フィルム20の製造方法に基づいた概念的な区分であり、必ずしも、研磨フィルム20の製造後に両者を物理的に識別できるとは限らない。例えば、第1の層40と第2の層50とが、同じ材質からなる場合には、第1の層40と第2の層50との境界は、
実際には確認できない。このため、第1の層40および第2の層50を1つの表層70と捉えることもできる。
【0035】
図1に示すように、研磨フィルム20において、砥粒60の全ては、表層70の厚み(約13μm)方向のうちの、基材フィルム30と反対側の半分、つまり、表面側の半分の範囲に位置する。砥粒60は、表層70の表面付近に保持されている。つまり、複数個の砥粒60が基材フィルム30の厚み方向に積み重なった状態ではない。このため、砥粒60の各々は、その表面の全て、または、ほぼ全てが、表層70の樹脂材料と接触した状態で保持されている。したがって、研磨フィルム20は、砥粒60の保持強度が高く、比較的硬い被研磨物や、加工圧が大きくなる形状を有する被研磨物を研磨可能である。つまり、研磨フィルムの用途が拡大する。あるいは、研磨レートを向上できる。例えば、研磨フィルム20は、ウェハのベベル部やノッチ部の研磨にも好適に使用できる。しかも、表層70は、主にポリイミドで形成されるので、ポリエステルなどを用いた場合と比べて、砥粒60の保持強度がいっそう向上する。
【0036】
また、研磨フィルム20は、砥粒60が厚み方向に積み重ならないので、砥粒60の使用量を低減できる。その結果、低コスト化、省資源化に資する。さらに、研磨フィルム20は、砥粒60の各々の突出高さに大きなばらつきがない。このため、研磨時には、被研磨物に対して、砥粒60の突起がほぼ均一に接触するので、研磨ムラやスクラッチの発生を抑制できる。また、基材フィルム30と第1の層40との接触面上に砥粒60が存在しないので、基材フィルム30と第1の層40との密着性も高い。これらの研磨フィルム20の特徴は、後述する研磨フィルム20の製造方法によって実現される。
【0037】
また、研磨フィルム20は、強度の高いポリイミドを基材フィルム30の材質として使用しているので、基材自体の引張り強度や破断強度が高い。このため、研磨フィルム20は、汎用的に使用されてきたPET、PEN、PP、PEを基材とする場合と比べて、加工中に研磨テープが伸びる、あるいは、プロセスが安定しない、といった問題が生じることを抑制できる。かかる問題は、研磨フィルムの幅が小さいとき、例えば、10mm以下の場合に生じやすい。
【0038】
A−2.研磨フィルム20の製造方法:
図2は、上述した研磨フィルム20の製造工程を示す。
図3は、研磨フィルム20の製造装置200の概略構成を示す。
図2に示すように、研磨フィルム20の製造においては、まず、基材フィルム30を用意し、基材フィルム30の一方の面に第1の塗料80を塗工する(ステップS110)。
【0039】
基材フィルム30には、本実施例では、ポリイミドの一種としてのポミランN38(荒川化学製)を使用する。基材フィルム30には、予め完全にイミド化されたフィルムを使用することが望ましい。こうすれば、強度が高い基材フィルム30を扱うことになるので、基材フィルム30の取り扱い性が向上する。完全にイミド化されていることは、基材フィルム30を再度、イミド化して、その前後の重量を比較することによって行うことができる。例えば、基材フィルム30から、サンプルとして5cm
2の領域を切り出し、加熱温度300℃、加熱時間1時間の条件でイミド化する。その結果、重量変化およびイミド化の過程で生成される副生水の量から算出したイミド化率が70%以上のサンプルは、完全にイミド化しているといえる。
【0040】
第1の塗料80は、溶剤と、バインダ樹脂とを含む。このバインダ樹脂の樹脂固形分は、最終的に第1の層40の成分となる。バインダ樹脂は、そのままでは高粘度であるが、溶剤を添加することによって、第1の塗料80は、塗布に適した粘度に調整される。本実施例では、バインダ樹脂として、ポリイミド・シリカハイブリットワニスHBI−58(
荒川化学製)を使用する。溶剤には、例えば、アルキルアミド溶媒を使用することができる。アルキルアミド溶媒は、極性が高いので、有機物、無機物を問わず、溶質を好適に分散できる。本実施例では、アルキルアミド溶媒として、DMAc(ジメチルアセトアミド)を使用する。ただし、DMF(ジメチルホルムアミド)などを用いてもよい。
【0041】
本実施例では、第1の塗料80は、バインダ樹脂200gに対して、DMAc50gを溶解させ、撹拌し、真空容器内で脱泡および脱気して、作製される。この第1の塗料80に占めるバインダ樹脂の樹脂固形分の割合は、20wt%である。本実施例では、バインダ樹脂は、25000〜30000mPa・s/25℃で提供され、第1の塗料80の粘度は、溶剤の添加によって、10000〜20000mPa・s/25℃に調整される。
【0042】
作製された第1の塗料80は、基材フィルム30の一方の面に塗布される。本実施例では、コンマコータ方式によって、第1の塗料80は塗工される。具体的には、
図3に示すように、まず、ロール状に巻かれた基材フィルム30(ここでは、幅300mm、長さ約20m)を製造装置200にセットし(図示省略)、コンマロール220とコーティングロール230との間に基材フィルム30を順次送り出す。これにより、コータダム210に貯留された第1の塗料80が、基材フィルム30に塗工される。基材フィルム30の送り出し速度(塗布速度)は、例えば、0.5m/minとすることができる。
【0043】
塗布の厚みは、コンマロール220と基材フィルム30とのギャップ調整によって制御可能である。第1の塗料80の塗工厚みは、後述するステップS120の乾燥後において、砥粒60の平均粒子径と同等以上とすることが望ましい。こうすれば、後述するステップS170において、粒径の大きい砥粒60が基材フィルム30側に沈み込むための第1の層40の好適な厚みを得ることができる。また、第1の塗料80の塗工厚みは、後述するステップS120の乾燥後において、砥粒60の平均粒子径の3倍以下とすることが望ましい。こうすれば、第1の層40が不必要に過剰な厚みで形成されることがない。
【0044】
第1の塗料80を塗工すると、次に、
図2に示すように、塗工された第1の塗料80を乾燥させて、第1の層40を形成する(ステップS120)。本実施例では、乾燥温度130℃で2分間保持することによって、第1の塗料80を乾燥させる。具体的には、
図3に示すように、第1の塗料80が塗工された基材フィルム30は、ローラ240,250上を搬送され、基材フィルム30の搬送ラインの上方に設けられた温風ドライヤ260によって、順次、乾燥される。温風ドライヤ260の加熱範囲は、例えば、基材フィルム30の送り方向に1.0mの範囲とすることができる。
【0045】
第1の塗料80を乾燥させると、次に、
図2に示すように、第1の層40が形成された基材フィルム30を、ロール状に巻き取る(ステップS130)。
図3に示すように、基材フィルム30は、中空円筒状のコア270に巻き取られる。
【0046】
巻き取りを行うと、次に、
図2に示すように、巻き取った基材フィルム30を順次送り出し、第1の層40の上に、第2の塗料90を塗工する(ステップS140)。ステップS140における塗工は、製造装置200(
図3参照)を用いて、上記のステップS110と同様に行われる。なお、第1の塗料80を塗工するための設備と、第2の塗料90を塗工するための設備とは、個別に設けられているが、
図3では、図示を簡略化するために、共通の設備として表示している。
【0047】
第2の塗料90は、溶剤と、砥粒60と、バインダ樹脂とを含む。このバインダ樹脂の樹脂固形分は、最終的に第2の層50の成分となる。本実施例では、第2の塗料90に使用するバインダ樹脂は、第1の塗料80に使用するバインダ樹脂と同一種類である。本実施例では、溶剤およびバインダ樹脂として、第1の塗料80と同じものを用いる。また、
第2の塗料90は、第1の塗料80と同様に、粘度を調整され、また、撹拌し、真空容器内で脱泡および脱気して、作製される。本実施例では、第2の塗料90の砥粒60の割合は、第2の塗料90の樹脂固形分に対して15wt%である。また、第2の塗料90に占めるバインダ樹脂の樹脂固形分の割合は、18wt%である。
【0048】
上述した第1の塗料80および第2の塗料90の粘度は、10000mPa・s/25℃以上、かつ、30000
mPa・s/25℃以下とすることが望ましい。かかる範囲の粘度に調整すれば、第1の塗料80および第2の塗料90の各成分の好適な分散性を得ることができる。第1の塗料80に占める樹脂固形分の割合は、5wt%以上、かつ、50wt%以下とすることが望ましい。こうすれば、第1の層40の好適な膜厚と、第1の塗料80におけるバインダ樹脂の好適な分散性とを得ることができる。第2の塗料90の砥粒の割合は、第2の塗料90の樹脂固形分に対して、5wt%以上、かつ、30wt%以下とすることが望ましい。第2の塗料90に占める樹脂固形分の割合は、10wt%以上、かつ、50wt%以下とすることが望ましい。こうすれば、第2の層50の好適な膜厚と、好適な砥粒60の保持強度と、第2の塗料90におけるバインダ樹脂および砥粒60の好適な分散性とを得ることができる。また、従来の研磨フィルムと比べて、砥粒60の使用量を大幅に低減できる。
【0049】
第2の塗料90を塗工すると、次に、塗工された第2の塗料90を乾燥させて、第2の層50を形成する(ステップS150)。ステップS150における乾燥は、製造装置200(
図3参照)を用いて、上記のステップS120と同様に行われる。
【0050】
第2の塗料90を乾燥させると、次に、第1の層40および第2の層50が形成された基材フィルム30を、ロール状に巻き取る(ステップS160)。ステップS160における巻き取りは、製造装置200(
図3参照)を用いて、上記のステップS130と同様に行われる。ただし、ステップS160においては、
図4に示すように、セパレータシート75を第2の層50の上に配置して、第1の層40および第2の層50が形成された基材フィルム30の巻き取りが行われる。換言すれば、径方向に隣り合う基材フィルム30の間に、セパレータシート75が挟まれるように、巻き取りが行われる。
【0051】
かかるセパレータシート75には、後述するイミド化の工程(ステップS170)の温度条件において、性状変化しない種々の材料を使用することができる。例えば、セパレータシート75には、完全にイミド化されたポリイミド繊維からなる不織布や、シボ加工されたポリイミドフイルムを使用することができる。セパレータシート75には、不織布のように通気性を有するシートを使用することが望ましい。こうすれば、イミド化によって発生するガスや水分が抜けやすくなる。
【0052】
第1の層40および第2の層50が形成された基材フィルム30の巻き取りを行うと、最後に、
図2に示すように、当該基材フィルム30を真空ベーク炉内にセットし、第1の層40および第2の層50をイミド化する(ステップS170)。本実施例では、ベーク炉内を密閉し、真空引きした後に、温度を除々に上げ、250〜300℃の条件下で1〜2時間保持する。そして、窒素ガス、または、乾燥空気を供給し、常圧下で自然冷却する。かかる処理によれば、ポリイミド樹脂のイミド化(硬化反応)を常温、常圧の条件下よりも早く完了することができる。ステップS170の処理条件は、適宜設定すればよいが、200℃以上、350℃以下の範囲で、1時間以上、4時間以下加熱する条件とすれば、効率的な効果反応が得られるので、望ましい。
【0053】
ステップS170において、イミド化(熱硬化反応)は、第2の層50および熱伝導率が高い砥粒60の周辺から始まる。そして、先に硬化した第2の層50の膜が、砥粒60を第1の層40側に抑え込んだ状態で、徐々に第1の層40の全体がイミド化(硬化)す
ることで、第2の層50の表面の近くに、砥粒60の突出高さがほぼ揃うように、表層70(第1の層40および第2の層50)が形成される。
【0054】
ステップS170において、巻き取られた基材フィルム30は、
図3に示すように、巻き取り軸が水平方向を向いた状態で、ベーク炉290内にセットされることが望ましい。かかる状態でイミド化を行うことにより、巻き取られた基材フィルム30が熱膨張して、巻き緩みや巻きズレが生じることを抑制できる。このように、イミド化が行われると、研磨フィルム20が完成する。
【0055】
図5および
図6は、イミド化工程(ステップS170)の加熱条件の一例を示す。
図5は、1時間程度をかけて、加熱温度を250℃まで上昇させた後、巻き取られた基材フィルム30を約1時間加熱する条件を示す。
図6は、4時間程度をかけて、加熱温度を250℃まで上昇させた後、巻き取られた基材フィルム30を約1時間加熱する条件を示す。
図5に示す条件でイミド化を行った場合、イミド化対象の基材フィルム30にシワやタッキングは生じなかった。
図6に示す条件でイミド化を行った場合、イミド化対象の基材フィルム30にシワやタッキングが生じた。このことから、イミド化工程における、所定の加熱温度までの昇温時間は、1時間以下とすることが望ましい。
【0056】
かかる研磨フィルム20の製造方法によれば、上述した研磨フィルム20を好適に製造することができる。また、第1の層40および第2の層50が形成された基材フィルム30は、ロール状に巻き取られた状態でイミド化されるので、イミド化のための設備を著しく小型化できる。例えば、本実施例の方法によれば、研磨フィルム20を、数mの設置スペース内でイミド化できる。一方、第1の層40および第2の層50が形成された、長尺状態の基材フィルム30をコンベヤで搬送しながら加熱する連続式のアニール炉を使用して、1時間加熱し、その後、冷却する場合、搬送速度を0.5m/minとすれば、昇温および加熱に60m、冷却に30mの設置スペースを必要とする。
【0057】
しかも、研磨フィルム20の製造方法によれば、一度に多量を処理できるので、単位量あたりの研磨フィルム20の製造時間を短縮できる。さらに、第1の層40および第2の層50が形成された基材フィルム30間に、セパレータシート75を挟み込んでいるため、イミド化の際に、基材フィルム30の第2の層50と、その上に配置される基材フィルム30の裏面(第1の層40および第2の層50と反対側の面)とが貼り付くことを抑制できる。また、貼り付きを引き剥がす必要がないので、引き剥がしに伴い、砥粒60が第2の層50から脱落することも抑制できる。
【0058】
A−3.評価試験:
上述した研磨フィルム20を評価するために、いくつかの研磨フィルムのサンプルを製造した。
図7は、製造したサンプルの概要を示す。実施例1,2のサンプルは、
図2に示した方法で製造した研磨フィルム20であり、
図1に示した断面構成を有する。砥粒60の平均粒子径は、9μmである。第2の塗料90の砥粒60の割合は、第2の塗料90の樹脂固形分に対して15wt%であり、第2の塗料90に占めるバインダ樹脂(ポリイミド)の樹脂固形分の割合は、18wt%である。
【0059】
比較例1のサンプルは、従来の研磨フィルムである。比較例1には、基材フィルムとしてPET、バインダ樹脂としてポリエステルを使用した。この比較例1は、バインダ樹脂と砥粒と溶剤とを含む塗料を基材に塗布し、乾燥させることによって製造される。塗料に占める砥粒の割合は、60wt%である。比較例2,3は、
図2に示した方法のうちの、第1の層40の形成を省略して製造される点が実施例1,2と異なり、その他の点については、実施例1,2と同じである。
【0060】
これらのサンプルには、粒子形状が異なる2種類の砥粒を使用した。具体的には、実施例1、比較例1および比較例2のサンプルには、ブロッキータイプの砥粒を使用し、実施例2および比較例3のサンプルには、イレギュラータイプの砥粒を使用した。ブロッキータイプの砥粒の粒度分布は、D10が5.12μm、D50が6.84μm、D90が9.76μm、D95が11.20μmである。イレギュラータイプの砥粒の粒度分布は、D10が6.18μm、D50が8.14μm、D90が11.36μm、D95が12.86μmである。砥粒の最大粒子径は、いずれのタイプについても22.00μmである。イレギュラータイプの砥粒の粒度分布がシャープであるのに対して、ブロッキータイプの砥粒の粒度分布は、ブロードである。
【0061】
図8は、製造された比較例1〜3の断面構成を示す。
図8(A)に示すように、比較例1としての研磨フィルム320は、基材フィルム330と表層370とを備える。基材フィルム330の厚みは、50μmであり、表層370の厚みは、約20μmである。表層370には、砥粒360が、厚み方向に積み重なって、保持されている。砥粒360が凝集しているため、砥粒360の各々が表層370の樹脂材料と接触する面積は、研磨フィルム20(
図1参照)よりも小さい。このため、研磨フィルム20と比べて、砥粒360の保持力が低下する。また、基材フィルム330と表層370との境界上に砥粒360が存在することによって、研磨フィルム20と比べて、基材フィルム330と表層370との接着強度も低下する。また、砥粒360の大半は、研磨作用に寄与しない基材フィルム330側に位置している。
【0062】
図8(B)に示すように、比較例2,3としての研磨フィルム420は、基材フィルム430と表層470とを備える。基材フィルム430は、研磨フィルム20の基材フィルム30に相当し、表層470は、研磨フィルム20の第2の層50に相当する。つまり、研磨フィルム420は、研磨フィルム20の第1の層40に相当する層を有していない。表層470には、砥粒460が厚み方向に積み重ならない状態で保持されている。しかし、砥粒460の表面の一部は、基材フィルム430と接触するので、比較例1と同様に、研磨フィルム20と比べて、砥粒460の保持力や、基材フィルム430と表層470との接着強度が低下する。しかも、研磨フィルム20のように第1の層40が形成されていないため、砥粒460が基材フィルム430側に沈み込むことができない。その結果、粒径の大きい砥粒460と、粒径が小さい砥粒460との間で、砥粒460の突出高さが不揃いとなる。
【0063】
図9は、実施例2、比較例1,2(
図8参照)の観察結果を示す。
図9(A)は、実施例2の表面を示し、
図9(B)は、実施例2の断面を示す。
図9(A)および
図9(B)から、実施例2では、砥粒60の突出高さがほぼ揃っていることが確認できる。
図9(C)は、比較例1の表面を示す。
図9(C)から、比較例1では、砥粒360の量が多く、また、砥粒360が凝集していることを確認できる。
図9(D)は、比較例2の表面を示し、
図9(E)は、比較例2の断面を示す。
図9(D)および
図9(E)から、比較例2では、砥粒460の突出高さが不揃いになっていることが確認できる。なお、
図9(B)において、第1の層40および第2の層50と、基材フィルム30との境界線は、視認性を考慮して、強調表示している。
図9(E)についても同様である。
【0064】
図9に示すような表面や断面は、レーザ顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)によって観察することができる。断面を観察する場合には、樹脂包埋した研磨フィルムを機械研磨して、観察断面を作ることができる。樹脂包埋とは、試料としての研磨フィルムを安定的に保持するために、樹脂に埋め込むことをいう。
【0065】
図10は、
図8に示したサンプルについての研磨試験の結果を示す。この研磨試験では、直径200mmのシリコンウェハの外周(端面)部を研磨し、研磨レート(直径変化量
)と、表面粗さ指標値とを測定した。研磨試験は、以下のようにして行った。まず、研磨装置にウェハを水平に配置し、回転するテーブルに吸着・保持させる。次に、研磨フィルムを鉛直方向に微小送りさせながら、研磨フィルムをその後方からゴムパッドで押圧し、ウェハの端部に対して垂直に研磨フィルムを一定時間、押付けて、研磨する。そして、加工(研磨)前後のウェハ直径の変化と、加工時間とから研磨レートを求めた。
【0066】
かかる研磨試験の研磨条件は、以下のとおりである。
(1)研磨荷重(ゴムパッドの押付圧):12N
(2)ウェハ回転数:500rpm
(3)研磨時間:150秒
(4)シート送り速度:1mm/min、5mm/min、15mm/min
【0067】
図10に示すように、3つのシート送り速度のいずれの条件においても、実施例1,2(研磨フィルム20)は、比較例1〜3よりも、研磨レートが大きくなった。特に、シート送り速度が1mm/minの条件下では、従来の研磨フィルムである比較例1に対して、50%程度の研磨レートの向上を確認できた。このように、研磨レートが大きくなると、ウェハ1枚当たりの研磨に必要な研磨フィルム量が少なくなり、コストを低減でできる。
【0068】
また、実施例1,2の研磨フィルム20では、同等に近い研磨レートが得られた。これは、シャープ、ブロードのいずれの粒度分布を有する砥粒を使用しても、同等に近い性能が得られることを示している。つまり、本実施例の研磨フィルム20は、性能の向上のために、砥粒60の分級精度を高くする必要がない。したがって、研磨フィルム20の製造コストを低減できる。
【0069】
図11は、研磨試験における表面粗さ指標値の測定結果を示す。測定した粗さ指標値は、算術平均粗さRa(μm)および断面曲線の最大谷深さPv(μm)である。測定には、AFM(原子間力顕微鏡)を使用した。図示するように、実施例1,2は、従来品の比較例1と同等の良好な結果が得られた。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の組み合わせ、または、省略が可能である。