(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のスパッタ装置にて基板と向かい合う領域には、ターゲット表面そのものであるターゲット領域と、2つのターゲット表面に挟まれる領域である非ターゲット領域とが含まれる。ターゲット領域と非ターゲット領域とでは、そこで生成されるプラズマの状態が相互に異なるため、基板においては、ターゲット領域と向かい合う部分と、非ターゲット領域と向かい合う部分とで、到達するスパッタ粒子の状態、すなわち、到達するスパッタ粒子の量や、スパッタ粒子に含まれる酸素の量が異なる。結果として、基板に形成されたIGZO膜の面内では、IGZO膜に求められる電気的な特性がばらついてしまう。
【0005】
IGZO膜がチャネル層として用いられる場合には、ゲート酸化膜との界面を構成するIGZO膜の状態により、薄膜トランジスタの特性が大きく左右される。そのため、チャネル層であるIGZO膜にて上述のようなばらつきが生じていると、複数の薄膜トランジスタの各々の動作が基板の面内にてばらついてしまう。なお、こうした問題は、薄膜の形成材料がIGZOである場合に限らず、基板と対向する領域に並べられた複数のエロージョン領域を用いたスパッタによって、1つの基板に各種の半導体膜や導電性あるいは絶縁性の無機酸化物膜が形成される場合にも共通する。
【0006】
本開示の技術は、無機酸化物膜と無機酸化物膜以外の他の膜との境界にて無機酸化物膜の特性がばらつくことを抑えられる無機酸化物膜の形成装置、及び、IGZO膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の一態様では、1つの無機酸化物膜が界面層とバッファ層との積層体として設定される。前記無機酸化物膜の形成装置は、前記無機酸化物膜の形成される形成領域に前記界面層を形成する第1カソード装置と、前記形成領域に前記バッファ層を形成する第2カソード装置と、を備える。この際に、前記形成領域と向かい合う領域が対向領域として設定される。そして、前記第1カソード装置は、第1のエロージョン領域を
前記形成領域と向かい合う状態で前記対向領域で走査する走査部を備え、前記第2カソード装置は、前記対向領域の全体にわたり
前記形成領域と向かい合う状態で隙間を空けて並べられた複数の第2のエロージョン領域を形成する。
【0008】
対向領域の全体にわたり隙間を空けて並べられた複数のターゲットによって無機酸化物膜が形成されるときには、エロージョン領域の走査によって無機酸化物膜が形成される構成に比べて、単位時間あたりの成膜量は高められる。一方で、ターゲット表面間の隙間とターゲット表面とでは、そこで生成されるプラズマの状態が相互に異なるため、これらの間では無機酸化物としての特性にもばらつきが生じる。
【0009】
この点で、本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の一態様によれば、第1カソード装置と第2カソード装置とが、1つの無機酸化物膜の形成に用いられる。このうち、第1カソードでは、ターゲットに形成されるエロージョン領域が対向領域で走査され、これによって界面層が形成される。1つのエロージョン領域が対向領域で走査される構成であれば、界面層の形成に際し、エロージョン領域間の隙間そのものが形成されない。また、2つ以上のエロージョン領域が対向領域で走査される構成であれば、界面層の形成に際し、エロージョン領域間の隙間が基板に対して固定されない。そのため、対向領域に並べられた複数のターゲットによって界面層が形成される構成と比べて、無機酸化物膜を形成する材料の量や構成元素の分布が界面層でばらつくことが抑えられる。結果として、無機酸化物膜と無機酸化物膜以外の他の膜との境界にて無機酸化物膜の特性がばらつくことが抑えられる。
【0010】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様では、前記走査部は、前記対向領域に対して前記第1のエロージョン領域を通過させる。
エロージョン領域が対向領域で走査される際には、エロージョン領域の走査が開始されるときに、既に、走査方向におけるエロージョン領域の端部が対向領域内に配置されることもある。一方で、エロージョン領域の端部が対向領域内に配置された状態からエロージョン領域の走査が開始されると、エロージョン領域の端部が配置された部分とそれ以外の部分とでは、エロージョン領域の走査速度などが相互に異なる。
【0011】
この点で、本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様によれば、走査方向におけるエロージョン領域の端部が、走査方向における対向領域の一端から他端まで走査される。このように、エロージョン領域の走査が開始される際に、エロージョン領域が対向領域に配置されない走査、すなわち、走査方向におけるエロージョン領域の端部が対向領域の一端から他端まで走査される構成であれば、エロージョン領域の走査速度などが対向領域の全体で均一になる。それゆえに、走査方向における形成領域の一端から他端までにわたって、無機酸化物膜の状態がばらつくことが抑えられる。
【0012】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様は、前記第1カソード装置は、走査方向における長さが前記対向領域よりも短い第1ターゲットを備え、前記走査部は、前記第1ターゲットの走査によって前記第1のエロージョン領域を走査する。
【0013】
基板とターゲットとの間の隙間では、基板と向かい合うターゲットの大きさが大きくなるほど、スパッタに用いられるガスの分布の均一性が得られ難く、また、スパッタされた粒子との反応に用いられるガスの分布の均一性も得られ難くなる。この点で、本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様によれば、走査方向における第1ターゲットの長さが、走査方向における対向領域の長さ以上である構成と比べて、スパッタに用いられるガスの分布が均一になる。また、スパッタされた粒子との反応に用いられるガスの分布も均一になる。そのため、基板に形成される無機酸化物膜の状態のばらつきがより抑えられる。
【0014】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様では、前記第1カソード装置は、走査方向に沿って並べられた複数の第1ターゲットを備え、前記走査部は、前記複数の第1ターゲットの各々に形成される前記第1のエロージョン領域に前記対向領域を通過させる。
【0015】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様によれば、第1ターゲットが1つである構成と比べて、第1カソード装置による界面層の形成速度が高められる。
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様は、前記第1カソード装置は、スパッタガスと反応ガスとを供給するガス供給部を更に備える。そして、前記走査部は、前記第1のエロージョン領域が形成される第1ターゲットの走査によって前記第1のエロージョン領域を走査し、且つ、前記第1ターゲットとともに前記ガス供給部を走査する。
【0016】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様によれば、ガス供給部が第1ターゲットとともに走査されるため、対向領域に対する第1ターゲットの位置が変わっても、第1ターゲットの周りにおけるスパッタガス及び反応ガスの濃度が変わりにくくなる。それゆえに、第1ターゲットから放出される粒子の状態、及び、粒子と反応ガスとの反応性が変わりにくくなるため、無機酸化物膜の状態のばらつきがより抑えられる。
【0017】
本開示の技術における無機酸化物膜の形成装置の他の態様では、前記無機酸化物膜は、インジウムを含むインジウム含有酸化物半導体膜であり、前記界面層は、5nm以上50nm以下である。
【0018】
本開示の技術におけるIGZO膜の形成方法の一態様では、1つのIGZO膜が界面層とバッファ層との積層体として設定され、前記IGZO膜の形成される形成領域と向かい合う領域が対向領域として設定される。そして、第1のエロージョン領域を
前記形成領域と向かい合う状態で前記対向領域で走査して5nm以上50nm以下の前記界面層を形成すること、前記対向領域の全体にわたり
前記形成領域と向かい合う状態で隙間を空けて並べられた複数の第2のエロージョン領域によって前記バッファ層を形成すること、を含む。
【0019】
本願発明者らは、インジウム含有酸化物半導体膜をチャネル層として用いた薄膜トランジスタについて鋭意研究する中で、以下のことを見出した。すなわち、対向領域でのエロージョン領域の走査によって形成される界面層の割合が、インジウム含有酸化物半導体膜にて大きくなるほど、閾値電圧のばらつきは抑えられる一方で、界面層の厚さが50nm以上においては、閾値電圧のばらつきが略一定であることを見出した。
【0020】
本開示の技術における一態様によれば、対向領域でのエロージョン領域の走査によって形成される界面層の厚さが5nm以上50nm以下であるため、インジウム含有酸化物半導体膜をチャネル層として用いた場合に、複数の薄膜トランジスタ間における閾値電圧のばらつきが基板の面内で抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
図1から
図8を参照して無機酸化物膜の形成装置の第1実施形態であるスパッタ装置の構成を説明する。以下では、スパッタ装置の全体構成、スパッタ装置の備える第1スパッタ処理室の構成、第2スパッタ処理室の構成、及び、スパッタ装置によって形成された薄膜の適用例である薄膜トランジスタの構成の順に説明する。
【0023】
[スパッタ装置の全体構成]
図1を参照してスパッタ装置の全体構成を説明する。
図1に示されるように、スパッタ装置10は、搬出入処理室11、前処理室12、第1スパッタ処理室13、及び、第2スパッタ処理室14を備え、各処理室11〜14の間には、隣り合う処理室の間を連通、あるいは、遮断するゲートバルブ15が取り付けられている。各処理室11〜14には、処理室11〜14内を排気する排気部16が搭載され、各処理室11〜14の内部は、排気部16によって所定の圧力に減圧される。
【0024】
スパッタ装置10の底壁には、処理室11〜14が並ぶ方向である連結方向に沿って延びる成膜レーン10aと、連結方向に沿って延びる回収レーン10bとが形成されている。成膜レーン10aと回収レーン10bとは、連結方向と直交する幅方向にて離れて配置され、例えば、連結方向に沿って延びるレールと、所定の間隔を空けてレールに配置された複数のローラーと、各ローラーを自転させる複数のモーター等を備える。成膜レーン10aは、スパッタ装置10内に搬入された基板Sを搬出入処理室11から第2スパッタ処理室14に向けて搬送し、回収レーン10bは、第2スパッタ処理室14から搬出入処理室11に向けて基板Sを搬送する。基板Sは、例えば、紙面の手前に向かって延びる矩形状のガラス基板であり、基板Sの幅は、紙面の上下方向に沿って2200mmであり、紙面の手前側に向かって2500mmである。
【0025】
搬出入処理室11は、成膜前の基板Sをスパッタ装置10の外部から搬入し、前処理室12から搬入された成膜後の基板Sをスパッタ装置10の外部に搬出する。搬出入処理室11では、成膜前の基板Sが搬出入処理室11に搬入されるとき、及び、成膜後の基板Sが搬出されるときに、室内が大気圧の状態とされる。また、搬出入処理室11では、成膜前の基板Sが前処理室12に搬出されるとき、及び、成膜後の基板Sが前処理室12から搬入されるときに、室内が排気部16によって所定の圧力に減圧される。
【0026】
前処理室12は、搬出入処理室11から搬入された基板Sに対して所定の処理、例えば、加熱処理や洗浄処理を行い、第1スパッタ処理室13から搬入された成膜後の基板Sを搬出入処理室11に搬出する。なお、スパッタ装置10は、前処理室12を備えていない構成でもよい。
【0027】
第1スパッタ処理室13は、第1カソード装置20を備え、前処理室12から搬入された成膜前の基板Sに酸化物半導体層、例えば、界面層のを所定の厚さで形成し、成膜後の基板Sを第2スパッタ処理室14に搬出する。第2スパッタ処理室14は、第2カソード装置30を備え、第1スパッタ処理室13から搬入された成膜後の基板Sに対して、バッファ層を所定の厚さで更に形成し、成膜後の基板Sを第1スパッタ処理室13に搬出する。バッファ層は、主たる構成元素として界面層と同一の元素を含み、界面層とは異なる不純物などが含まれてもよい。このように、スパッタ装置10は、第1カソード装置20と第2カソード装置30とによって、無機酸化物膜の一例であるIGZO膜を形成する。なお、第2スパッタ処理室14には、成膜後の基板Sを成膜レーン10aから回収レーン10bに移動させるレーン変更部が搭載されている。
【0028】
[第1スパッタ処理室の構成]
図2から
図5を参照して第1スパッタ処理室13の構成をより詳しく説明する。
図2に示されるように、第1スパッタ処理室13は、連結方向に沿って延びる箱状をなす真空槽13aを備え、真空槽13aの底部には、成膜レーン10aの一部と、回収レーン10bの一部とが、幅方向にて並んで配置されている。成膜レーン10aと回収レーン10bとの各々では、枠状をなすトレイTに嵌め込まれた基板Sが搬送される。
【0029】
成膜レーン10aは、前処理室12から搬入された基板Sを連結方向に沿って搬送し、基板Sに対するIGZO膜の形成が開始されてから終了されるまでの間は、真空槽13a内に形成された成膜レーン10aの途中で、基板Sの位置を固定する。
【0030】
真空槽13aにて連結方向に沿って延びる2つの側壁のうち、成膜レーン10aに近い側壁である成膜側側壁13bには、第1カソード装置20が搭載され、成膜側側壁13bと向かい合う側壁である排気側側壁13cには、排気部16が搭載されている。成膜側側壁13bと成膜レーン10aとの間には、マスク41が、成膜レーン10aでの位置が固定された状態の基板Sと向かい合う位置に固定されている。
【0031】
第1カソード装置20は、基板Sと向かい合う第1ターゲット21と、第1ターゲット21における基板Sと向かい合わない面に取り付けられたバッキングプレート22とを備える。第1ターゲット21は、紙面と直交する1つの方向である高さ方向の長さが、基板Sにおける高さ方向の長さよりも長い。第1ターゲット21における連結方向の長さは、例えば、基板Sにおける連結方向の長さの10分の1以上5分の1以下である。
【0032】
本実施形態では、基板Sにおいて界面層及びバッファ層の形成される領域が形成領域として設定され、その形成領域が基板Sにおける第1カソード装置20側の全面として設定されている。また、位置が固定された基板Sの法線方向にて、形成領域と向かい合う領域が対向領域として設定されている。第1ターゲット21の高さ方向における両端部は、対向領域からはみ出し、第1ターゲット21の高さ方向における中央部は、対向領域に含まれている。
【0033】
第1ターゲット21の形成材料には、IGZOが主成分として用いられる。なお、主成分であるIGZOは、例えば、第1ターゲット21の形成材料における95質量%を占め、好ましくは99質量%以上を占めている。
【0034】
バッキングプレート22には、バッキングプレート22を通して第1ターゲット21に電力を供給するターゲット電源23が接続されている。バッキングプレート22に対して第1ターゲット21とは反対側には、磁気回路24が搭載され、磁気回路24は、第1ターゲット21における基板Sと向かい合う面である表面に磁場を形成する。磁気回路24は、第1ターゲット21の表面における連結方向及び高さ方向の略全体にわたる磁場を第1ターゲット21の表面に形成する。
【0035】
第1カソード装置20は、成膜側側壁13bの延びる方向である連結方向に沿って第1カソード装置20の位置を変えることで、エロージョン領域21a(第1のエロージョン領域)の位置を変える走査部としてのターゲット走査部25を備える。すなわち、連結方向が、エロージョン領域21aの走査方向である。ターゲット走査部25は、例えば、真空槽13aの底部にて、連結方向に沿って延びるレールと、所定の間隔を空けてレールに配置された複数のローラーと、各ローラーを自転させる複数のモーター等を備える。ターゲット走査部25は、モーターの回転によってローラーを自転させることで、レールにおける前処理室12に近い端部である基端部から第2スパッタ処理室14に近い先端部へ第1ターゲット21、バッキングプレート22、及び、磁気回路24を往動させる。また、ターゲット走査部25は、レールの先端部から基端部へ第1ターゲット21、バッキングプレート22、及び、磁気回路24を復動させる。なお、以下では、レールにおける基端部をターゲット走査部25の基端部とし、レールにおける先端部をターゲット走査部25の先端部とする。
【0036】
図3に示されるように、第1ターゲット21の外周には、絶縁物で形成されて環状をなすフローティングシールド26が取り付けられ、フローティングシールド26における高さ方向に沿って延びる側面には、高さ方向に沿って延びる箱状をなすガス供給部27が取り付けられている。ガス供給部27における基板Sと向かい合う面には、ガス供給部27の壁部を貫通する複数のガス供給孔27aが形成されている。ガス供給部27には、ガス供給部27内にスパッタガスと反応ガスとを供給するガス供給源28が接続されている。ガス供給源28は、例えば、スパッタガスであるアルゴンガスと、反応ガスである酸素ガスとをガス供給部27内に供給する。
【0037】
ガス供給部27は、第1ターゲット21に連結されているため、第1ターゲット21とともに連結方向における位置を変える。そのため、真空槽13a内にアルゴンガスと酸素ガスとを供給するガス供給孔が固定された構成と比べて、第1ターゲット21の周りでのアルゴンガスの濃度、及び、酸素ガスの濃度が変わりにくい。
【0038】
第1カソード装置20では、ガス供給部27が、アルゴンガス及び酸素ガスを第1ターゲット21の周りに供給した後、ターゲット電源23が、バッキングプレート22を通して第1ターゲット21に電力を供給する。これにより、第1ターゲット21の表面がプラズマ中の正イオンによってスパッタされることによって、第1ターゲット21から基板Sに向けてIGZO膜の形成材料FMが放出される。そして、第1ターゲット21の表面においてプラズマ密度が特に高くなる部分、すなわち、第1ターゲット21の表面における法線方向に沿った磁場が0となる(B⊥=0)部分において、形成材料FMの放出される領域であるエロージョン領域21aが形成される。
【0039】
図4に示されるように、第1カソード装置20から基板Sに向けた形成材料FMの放出が開始されてから終了されるまで、ターゲット走査部25は、連結方向における第1ターゲット21の位置を変える。これにより、基板Sの表面に対するエロージョン領域21aの位置は、基板Sから見て連続しながら変わる。
【0040】
しかも、ターゲット走査部25は、連結方向における両端部にて、固定された基板Sにおける連結方向の長さよりも長い。これにより、第1カソード装置20は、ターゲット走査部25における基端部に位置するときに、第1ターゲット21のエロージョン領域21aと基板Sとが向かい合わない。また、第1カソード装置20は、ターゲット走査部25における先端部に位置するときにも、第1ターゲット21のエロージョン領域21aと基板Sとが向かい合わない。結果として、第1カソード装置20は、ターゲット走査部25における中央部に位置するときに、第1ターゲット21のエロージョン領域21aと基板Sとが向かい合う。つまり、エロージョン領域21aは、基板Sと向かい合わない非対向領域から、連結方向における他の非対向領域まで移動する間に、形成領域と向かい合う対向領域を通り越す。
【0041】
更に、ターゲット電源23は、第1カソード装置20がターゲット走査部25における基端部に位置するときから、先端部に位置するときまで、第1ターゲット21に電力を供給し続ける。
【0042】
つまり、基板Sに対するIGZO膜の形成が開始されたときには、第1ターゲット21は、ターゲット走査部25における基端部に位置し、第1ターゲット21は、基板Sとは向かい合わない非対向領域に位置している。そして、IGZO膜の形成が進むにつれて、ターゲット走査部25は、ターゲット走査部25における基端部から先端部に向けて第1ターゲット21の位置を変える。すなわち、第1ターゲット21は、非対向領域から基板Sと向かい合う対向領域に移動する。基板Sに対するIGZO膜の形成が終了されるときには、第1ターゲット21は、ターゲット走査部25における先端部に位置し、第1ターゲット21は、IGZO膜の形成が開始されたときとは異なる非対向領域に位置している。
【0043】
このように、IGZO膜が形成される間では、第1ターゲット21がスパッタされながら、非対向領域、対向領域、及び、非対向領域の順に移動する。このとき、第1ターゲット21のエロージョン領域21aが、基板Sから見て基板Sの連結方向における一端から他端まで連続して位置を変える。それゆえに、連結方向にて複数のターゲットが並べられた構成と比べて、基板Sの連結方向における一端から他端までにわたって、第1ターゲット21から放出される形成材料FMの状態、すなわち、基板Sに向けて放出される形成材料FMの量のばらつきを抑えることができる。結果として、基板Sに形成されたIGZO膜の面内では、厚さのばらつきが抑えられる。
【0044】
エロージョン領域21aが対向領域で走査される際には、エロージョン領域21aの走査が開始されるときに、既に、連結方向におけるエロージョン領域21aの端部が対向領域内に配置されることもある。一方で、エロージョン領域21aの端部が対向領域内に配置された状態からエロージョン領域21aの走査が開始されると、エロージョン領域21aの端部が配置された部分とそれ以外の部分とでは、エロージョン領域21aの走査速度やエロージョン領域21aの滞在する時間などが相互に異なる。
【0045】
この点で、本実施形態では、連結方向におけるエロージョン領域21aの端部が、連結方向における対向領域の一端から他端まで走査される。このように、エロージョン領域21aの走査が開始される際に、エロージョン領域21aが対向領域に配置されない走査、すなわち、連結方向におけるエロージョン領域21aの端部が対向領域の一端から他端まで走査される構成であれば、エロージョン領域21aの走査速度やエロージョン領域の滞在する時間などが対向領域の全体で均一になる。それゆえに、連結方向における形成領域の一端から他端までにわたって、IGZO膜の状態がばらつくことが抑えられる。
【0046】
しかも、第1ターゲット21の位置が変わっても、第1ターゲット21の周りでの酸素ガスの濃度が変わりにくいため、第1ターゲット21から放出された形成材料FMと反応する酸素の量、及び、第1ターゲット21の表面が酸化される度合いも変わりにくい。それゆえに、基板S上に形成されたIGZO膜に含まれる酸素の量が、IGZO膜の面内で変わりにくい。
【0047】
このように、第1カソード装置によれば、基板Sに形成されるIGZO膜の面内での厚さのばらつきだけでなく、IGZO膜に含まれる酸素の分布、ひいては、IGZO膜に含まれる原子の分布のばらつきを抑えることができる。すなわち、IGZO膜の状態が面内にてばらつくことが抑えられる。
【0048】
図5に示されるように、真空槽13a内に固定されたマスク41は、成膜レーン10aの途中で基板Sが固定されるとき、トレイTにおける第1ターゲット21と向かい合う面の全体を覆い、且つ、トレイTに嵌め込まれた基板Sは覆わない。そのため、第1ターゲット21から放出された形成材料FMは、基板Sの表面には付着するものの、トレイTには付着しにくくなる。それゆえに、トレイTが、大気圧の状態と減圧された状態とを繰り返す搬出入処理室11に基板Sとともに搬入されても、トレイTに付着した形成材料FMがスパッタ装置10内で剥がれ落ちることが抑えられる。
【0049】
これに対し、成膜レーンにて搬送されている基板に対してIGZO膜の形成が行われる構成では、真空槽の連結方向の全体にわたるマスクを取り付けなければ、トレイに対する形成材料の付着を抑えることが難しい。そのため、第1スパッタ処理室の構成が複雑になることに加え、トレイがマスクとは向かい合わない状態にならないようにトレイの搬送が行われなければ、トレイには、ターゲットから放出された形成材料が付着してしまう。それゆえに、トレイには形成材料が付着しやすくなる。こうしてトレイに付着した形成材料は、トレイが大気圧雰囲気と減圧雰囲気とに交互に曝されることによって、トレイから剥がれ落ちる。結果として、スパッタ装置10内には、基板に付着する微小な異物であるパーティクルが生じてしまう。
【0050】
[第2スパッタ処理室の構成]
図6及び
図7を参照して第2スパッタ処理室14の構成をより詳しく説明する。
図6に示されるように、第2スパッタ処理室14は、連結方向に沿って延びる箱状をなす真空槽14aを備え、真空槽14aの底部には、成膜レーン10aの一部と、回収レーン10bの一部とが、幅方向にて並んで配置されている。成膜レーン10aと回収レーン10bとの各々では、第1スパッタ処理室13と同様、枠状をなすトレイTに嵌め込まれた基板Sが搬送される。
【0051】
成膜レーン10aは、第1スパッタ処理室13から搬入された基板Sを連結方向に沿って搬送し、基板Sに対するIGZO膜の形成が開始されてから終了されるまでの間は、真空槽14a内に形成された成膜レーン10aの途中で、基板Sの位置を固定する。
【0052】
真空槽14aにて連結方向に沿って延びる2つの側壁のうち、成膜レーン10aに近い側壁である成膜側側壁14bには、第2カソード装置30が搭載され、成膜側側壁14bと向かい合う側壁である排気側側壁14cには、排気部16が搭載されている。成膜側側壁14bと成膜レーン10aとの間には、マスク42が、位置が固定された状態の基板Sと向かい合う位置に固定されている。
【0053】
第2カソード装置30は、基板Sに向かい合う複数の第2ターゲット31と、各第2ターゲット31の基板Sと向かい合わない面に取り付けられた複数のバッキングプレート32とを備える。複数の第2ターゲット31は、隣り合う第2ターゲット31と連結方向にて相互に離れて配置されている。各第2ターゲット31は、第1スパッタ処理室13の第1ターゲット21と同様、高さ方向の長さが、基板Sにおける高さ方向の長さよりも長い。各第2ターゲット31の高さ方向における両端部は、対向領域からはみ出し、第2ターゲット31の高さ方向における中央部は、対向領域に含まれている。各第2ターゲット31における連結方向の長さは、例えば、第1スパッタ処理室13の第1ターゲット21と同様、基板Sにおける連結方向の長さの10分の1以上5分の1以下である。成膜側側壁14bには、成膜側側壁14bの略全体を覆う数の第2ターゲット31が、連結方向にて並んで固定されている。各第2ターゲット31の形成材料には、第1スパッタ処理室13の第1ターゲット21同様、IGZOが主成分として用いられる。
【0054】
各バッキングプレート32には、バッキングプレート32を通して各第2ターゲット31に電力を供給するターゲット電源33が1つずつ接続されている。各バッキングプレート32に対して第2ターゲット31とは反対側には、各第2ターゲット31の表面に磁場を形成する磁気回路34が1つずつ搭載されている。
【0055】
図7に示されるように、第1カソード装置20の第1ターゲット21と同様、各第2ターゲット31の外周には、絶縁物で形成されて環状をなすフローティングシールド35が取り付けられている。各フローティングシールド35は、隣り合うフローティングシールド35と連結方向にて離れて配置されている。成膜側側壁14bには、成膜側側壁14bの外側面と内側面との間を貫通する複数のガス供給孔14dが形成され、各ガス供給孔14dにおける内側面での開口部は、内側面におけるフローティングシールド35間に形成される隙間に開口している。内側面におけるフローティングシールド35間に形成された隙間には、例えば、高さ方向での位置が異なり、且つ、連結方向での位置が重なる2つのガス供給孔14dが開口している。
【0056】
各ガス供給孔14dには、ガス供給孔14dを通して真空槽14a内にスパッタガスと反応ガスとを供給するガス供給源36が接続されている。ガス供給源36は、第1スパッタ処理室13のガス供給源28と同様、スパッタガスであるアルゴンガスと、反応ガスである酸素ガスとを真空槽14a内に供給する。そのため、例えば、ガス供給孔が1つのみ形成された構成と比べて、各第2ターゲット31の周りでの酸素ガスの濃度が、第2ターゲット31ごとに異なることを抑えられる。それゆえに、各第2ターゲット31から放出された形成材料FMと反応する酸素の量、及び、第2ターゲット31の表面が酸化される度合いも第2ターゲット31ごとに異なることが抑えられる。結果として、基板S上に形成されたIGZO膜に含まれる酸素の量が、IGZO膜の面内で変わりにくい、すなわち、IGZO膜に含まれる酸素の分布、ひいては、IGZO膜に含まれる原子の分布のばらつきを抑えることができる。
【0057】
第2スパッタ処理室14では、ガス供給源36が、アルゴンガス及び酸素ガスを第2ターゲット31の周りに供給した後、各ターゲット電源33が、各々の接続されたバッキングプレート32を通して第2ターゲット31に電力を供給する。つまり、複数の第2ターゲット31の各々に対して異なるターゲット電源33から同時に電力が供給される。これにより、各第2ターゲット31の表面がプラズマ中の正イオンによってスパッタされることによって、各第2ターゲット31から同じ基板Sに向けてIGZO膜の形成材料FMが放出される。結果として、第2カソード装置30では、第2ターゲット31の表面においてプラズマ密度が特に高くなる部分、すなわち、第2ターゲット31の表面における法線方向に沿った磁場が0となる(B⊥=0)部分において、形成材料FMの放出される領域であるエロージョン領域31a(第2のエロージョン領域)が形成される。エロージョン領域31aが各第2ターゲット31の表面に形成されることによって、複数のエロージョン領域31aが同時に基板Sと向かい合う。そのため、基板Sと向かい合うエロージョン領域が1つである構成と比べて、IGZO膜を形成する速度が高くなる。
【0058】
なお、第2スパッタ処理室14内に固定されたマスク42は、第1スパッタ処理室13内に固定されたマスク41と同様、成膜レーン10aの途中で位置が固定されたトレイTにおける第2ターゲット31と向かい合う面の全体を覆い、且つ、トレイTに嵌め込まれた基板Sは覆わない。そのため、第2ターゲット31から放出された形成材料FMは、基板Sの表面には付着するものの、トレイTには付着し難くなる。
【0059】
[薄膜トランジスタ]
図8を参照してスパッタ装置10によって形成されたIGZO膜の適用例を説明する。
図8に示されるように、スパッタ装置10の形成するIGZO膜は、界面層とバッファ層とからなる積層体であって薄膜トランジスタのチャネル層として用いられる。薄膜トランジスタ50は、例えば、ガラス基板51上に形成されたゲート電極52と、ゲート電極52を覆うゲート絶縁膜53とを備える。ゲート絶縁膜53上には、IGZO膜であるチャネル層54が形成され、チャネル層54上には、ソース電極55とドレイン電極56とが形成されている。つまり、薄膜トランジスタ50は、ボトムゲートトップコンタクト型のトランジスタである。なお、チャネル層54が形成される場合には、ゲート電極52とゲート絶縁膜53とが、スパッタ装置10内に搬入されるガラス基板51上に形成されている。そして、スパッタ装置10にて、界面層とバッファ層とが、ゲート絶縁膜53上に順に形成されることによって1つのチャネル層54が形成される。
【0060】
薄膜トランジスタ50では、ゲート電極52に電圧が印加されることによって、チャネル層54におけるゲート絶縁膜53との界面の近くに空乏層が形成された後、閾値電圧Vthを超える電圧がゲート電極52に印加されることによって電流が流れる。空乏層がチャネル層54におけるゲート絶縁膜53との界面に略均一に形成されるためには、チャネル層54内にて、チャネル層54の厚さが略等しいだけでなく、チャネル層54を形成する原子の分布が略均一であることが好ましい。チャネル層54での原子の分布のばらつきが大きくなると、空乏層の形成状態が面内でばらつくため、同一のIGZO膜からチャネル層54が形成された薄膜トランジスタ50であっても、閾値電圧Vthがばらついてしまう。特に、各薄膜トランジスタ50の閾値電圧Vthが動作時間とともに変わるときに、薄膜トランジスタ50ごとに閾値電圧Vthの変化量が異なってしまう。
【0061】
図9には、例えば、ゲート電圧10V、温度120℃の条件にて、2時間にわたってバイアスストレスをかけた後の閾値電圧の変動量の差が、界面層の厚さごとに示されている。なお、閾値電圧の差には、複数の薄膜トランジスタ50における変動量の最大値と最小値との差が用いられている。
【0062】
図9に示されるように、本願発明者らは、ゲート絶縁膜53上に形成される界面層の厚さが5nm以上であるときに、界面層の厚さが5nm未満であるときと比べて、複数の薄膜トランジスタ50での閾値電圧Vthのばらつきが小さくなることを見出した。また、本願発明者らは、閾値電圧Vthのばらつきは、界面層の厚さが5nm以上であることによって、薄膜トランジスタ50の歩留まりとして許容されるレベルに到達し、且つ、界面層の厚さが50nmよりも大きくなって以降は、界面層の厚さをそれ以上大きくしても、略一定に保たれることを見出した。つまり、界面層の厚さが5nm以上50nm以下とされることで、同一のIGZO膜から形成された複数の薄膜トランジスタ50にて閾値電圧Vthがばらつくことが抑えられる。
【0063】
そのため、スパッタ装置10によって、例えば、厚さが100nmであるIGZO膜が形成されるときには、IGZO膜は、第1スパッタ処理室13にて5nm以上50nm以下の厚さで形成され、残りの厚さ分が、第2スパッタ処理室14で形成されることが好ましい。これにより、チャネル層54におけるゲート絶縁膜53との界面では、形成材料の量及び原子の分布におけるばらつきが抑えられ、且つ、それ以外の領域では、高い成膜速度でチャネル層54が形成される。すなわち、スパッタ装置10によれば、IGZO膜の特性と、IGZO膜の生産性との両方が高められる。
【0064】
なお、第2スパッタ処理室14のように、連結方向にて複数の第1ターゲット21が並ぶスパッタ装置では、ターゲットに対する磁気回路の位置を連結方向にて変えたり、磁気回路に対するターゲットの位置を連結方向にて変えたりする構成とすることもできる。こうした構成によれば、ターゲットあるいは磁気回路の位置が変わることにより、基板Sから見て、ターゲットとターゲットとの境界の位置が変わる。そのため、基板Sに形成されたIGZO膜の全体では、IGZO膜の厚さや原子の分布におけるばらつきを抑えることが可能ではある。しかしながら、IGZO膜の単位厚さや単位面積あたりでは、その単位厚さにおけるIGZO膜が形成されたときのターゲットの位置や磁気回路の位置によって、IGZO膜に含まれる原子の分布がばらついてしまう。
【0065】
以上説明したように第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)IGZO膜では、少なくとも絶縁膜との界面を構成する部分にて、複数のエロージョン領域が同時に形成されるカソード装置を用いて1つのIGZO膜を形成する構成と比べて、IGZO膜の形成材料FMの量や構成元素の分布がばらつくことが抑えられる。結果として、IGZO膜の状態が絶縁膜との界面にてばらつくことが抑えられる。
【0066】
(2)ターゲット走査部25が、非対向領域から、対向領域を通って他の非対向領域まで位置を変える。そのため、基板Sから見て、基板Sの連結方向における基板Sの一端から他端までにわたって、第1カソード装置20から放出される形成材料FMの状態が変わりにくくなる。それゆえに、基板Sの連結方向における一端から他端までにわたって、IGZO膜の厚さのばらつきが抑えられる。
【0067】
(3)連結方向における第1ターゲット21の長さが、基板Sの連結方向の全体と重なる構成と比べて、スパッタに用いられるガスが、第1ターゲット21に対して供給されやすくなる。そのため、基板Sに対する第1ターゲット21の位置が変わっても、第1ターゲット21から放出される形成材料FMの状態がかわりにくくなり、基板Sに形成されるIGZO膜の状態のばらつきがより抑えられる。
【0068】
(4)ガス供給部27が第1ターゲット21とともに基板Sに対する位置を変えるため、基板Sに対する第1ターゲット21の位置が変わっても、第1ターゲット21の周りにおけるアルゴンガスの濃度が変わりにくくなる。それゆえに、第1ターゲット21から放出されるスパッタ粒子の状態が変わりにくくなるため、基板Sに放出される形成材料FMの状態がより抑えられる。
【0069】
(5)しかも、ガス供給部27からは、アルゴンガスに加えて酸素ガスも供給されるため、第1ターゲット21の周りにおける酸素ガスの濃度も変わりにくくなる。それゆえに、基板Sに対する第1ターゲット21の位置によってIGZO膜に到達する形成材料FMに含まれる酸素の量がばらつくことが抑えられる。結果として、IGZO膜の面内における原子の分布がばらつくことを抑えられる。
【0070】
(6)第1カソード装置20がチャネル層54となるIGZO膜を5nm以上50nm以下の厚さでゲート絶縁膜53の上に形成する。そのため、同一のIGZO膜をチャネル層として用いた複数の薄膜トランジスタ50にて、閾値電圧Vthのばらつきを抑えられる。
【0071】
[第2実施形態]
図10及び
図11を参照して無機酸化物膜の形成装置の第2実施形態としてのスパッタ装置の構成を説明する。第2実施形態のスパッタ装置は、第1実施形態のスパッタ装置と比べて、第1スパッタ処理室の備えるカソード装置の構成が異なる。そのため、以下では、第1スパッタ処理室のカソード装置について特に詳しく説明する。また、
図10及び
図11では、第1実施形態と同様の構成に対して第1実施形態と同一の符号が付されている。
【0072】
図10に示されるように、第1スパッタ処理室13における成膜側側壁13bには、第1ターゲットユニット60が搭載されている。第1ターゲットユニット60は、連結方向にて並んで配置された2つの第1ターゲット21と、各第1ターゲット21の裏面に取り付けられたバッキングプレート22とを備える。各バッキングプレート22には、1つのターゲット電源23が接続され、各バッキングプレート22に対して第1ターゲット21と反対側には、磁気回路24が1つずつ搭載されている。
【0073】
図11に示されるように、各第1ターゲット21の外周には、フローティングシールド26が取り付けられている。各フローティングシールド26における高さ方向に沿って延びる側面のうち、他のフローティングシールド26と向かい合わない側面には、第1実施形態のフローティングシールド26と同様、高さ方向に沿って延びる箱状をなすガス供給部27が1つずつ取り付けられている。また、各フローティングシールド26における高さ方向に沿って延びる側面のうち、他のフローティングシールド26に向かい合う側面の間には、高さ方向に沿って延びる箱状をなす1つのガス供給部27が取り付けられている。3つのガス供給部27には、アルゴンガス及び酸素ガスを各ガス供給部27に供給するガス供給源28が接続されている。
【0074】
つまり、第1ターゲットユニット60は、第1実施形態における第1カソード装置20を2つ備え、第1ターゲットユニット60では、2つの第1カソード装置20が、高さ方向に沿って延びるガス供給部27によって連結方向にて接続されている。
【0075】
基板SにIGZO膜が形成されるときには、ガス供給部27が第1ターゲット21の周りにアルゴンガス及び酸素ガスを供給する。そして、各ターゲット電源23がバッキングプレート22を通して第1ターゲット21に電力を供給することにより、真空槽13a内にプラズマが生成される。これにより、各第1ターゲット21の表面には、プラズマ中の正イオンによってスパッタされるエロージョン領域21a(第1のエロージョン領域)が形成される。
【0076】
基板Sに対するIGZO膜の形成が開始されたときには、2つの第1ターゲット21は、ターゲット走査部25の基端部に位置し、2つの第1ターゲット21は、基板Sとは向かい合わない非対向領域に位置している。そして、IGZO膜の形成が進むにつれて、ターゲット走査部25は、ターゲット走査部25の基端部から先端部に向けて2つの第1ターゲット21の位置を変える。すなわち、2つの第1ターゲット21は、非対向領域から基板Sと向かい合う対向領域に移動する。基板Sに対するIGZO膜の形成が終了されるときには、2つの第1ターゲット21は、ターゲット走査部25の先端部に位置している。すなわち、2つの第1ターゲット21は、IGZO膜の形成が開始されたときとは異なる非対向領域に位置している。
【0077】
このように、第1実施形態と同様、IGZO膜が形成される間では、2つの第1ターゲット21がスパッタされながら、非対向領域、対向領域、及び、非対向領域の順に移動する。このとき、各第1ターゲット21のエロージョン領域21aが、基板Sから見て、基板Sの連結方向における一端から他端まで連続して位置を変える。それゆえに、基板Sの面内では、到達するIGZO膜の形成材料FMの量のばらつきが抑えられ、IGZO膜の厚さにおけるばらつきが抑えられる。
【0078】
しかも、本実施形態では、2つの第1ターゲット21がスパッタされるため、各第1ターゲット21から放出される形成材料FMの量が同一である前提では、第1ターゲット21が1つである構成と比べて、IGZO膜の形成速度が凡そ2倍になる。
【0079】
以上説明したように、第2実施形態のスパッタ装置によれば、第1実施形態のスパッタ装置によって得られる効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(7)2つの第1ターゲット21のエロージョン領域21aにおける連結方向の位置が、基板Sから見て連結方向の一端から他端に向けて連続して変わる。そのため、IGZO膜の面内における厚さ及び構成元素の分布のばらつきを抑えながら、IGZO膜の形成速度を高めることができる。
【0080】
[第3実施形態]
図12を参照して無機酸化物膜の形成装置の第3実施形態としてのスパッタ装置の構成を説明する。第3実施形態のスパッタ装置は、第1実施形態のスパッタ装置と比べて、第1スパッタ処理室の備える第1カソード装置の構成が異なる。そのため、以下では、第1カソード装置について特に詳しく説明する。また、
図12では、第1実施形態と同様の構成に対して第1実施形態と同一の符号が付されている。
【0081】
図12に示されるように、第1スパッタ処理室13における成膜側側壁13bには、第1カソード装置70が搭載されている。第1カソード装置70は、成膜側側壁13bの略全体に拡がる1つの第1ターゲット71と、第1ターゲット71の裏面に取り付けられたバッキングプレート72とを備える。第1ターゲット71における連結方向の長さは、基板Sにおける連結方向の長さよりも長く、第1ターゲット71における高さ方向の長さは、基板Sにおける高さ方向の長さよりも長い。そのため、基板Sは、連結方向及び高さ方向の全体にて、第1ターゲット71と重なっている。
【0082】
バッキングプレート72には、ターゲット電源23が接続され、バッキングプレート72に対して第1ターゲット71とは反対側には、第1ターゲット71の表面に磁場を形成する1つの磁気回路74が搭載されている。磁気回路74は、例えば、第1ターゲット71における連結方向の長さの10分の1以上5分の1以下にわたり、且つ、第1ターゲット71の高さ方向の長さの略全体にわたる磁場を第1ターゲット71の表面に形成する。
【0083】
磁気回路74には、連結方向における磁気回路74の位置を変える走査部としての磁気回路走査部75が接続されている。磁気回路走査部75は、例えば、第1実施形態のターゲット走査部25と同様、真空槽13aの底部に、連結方向に沿って延びるレールと、所定の間隔を空けてレールに配置された複数のローラーと、各ローラーを自転させる複数のモーター等を備える。磁気回路走査部75は、モーターの回転によってローラーを自転させることで、磁気回路74をレールにおける前処理室12に近い端部である基端部から第2スパッタ処理室14に近い端部である先端部へ往動させる。また、磁気回路走査部75は、レールの先端部から基端部へ磁気回路74を復動させる。なお、以下では、レールの基端部を磁気回路走査部75の基端部とし、レールの先端部を磁気回路走査部75の先端部とする。
【0084】
真空槽13aには、ガス供給源76が接続され、ガス供給源76は、真空槽13a内にアルゴンガスと酸素ガスとを供給する。
基板SにIGZO膜が形成されるときには、ガス供給源76が真空槽13a内にアルゴンガス及び酸素ガスを供給する。そして、ターゲット電源73がバッキングプレート72を通して第1ターゲット71に電力を供給することにより、真空槽13a内にプラズマが生成される。これにより、第1ターゲット71の表面における磁気回路74と重なる領域には、プラズマ中の正イオンによってスパッタされるエロージョン領域71a(第1のエロージョン領域)が形成される。
【0085】
基板Sに対するIGZO膜の形成が開始されたときには、磁気回路74は、磁気回路走査部75の基端部に位置し、第1ターゲット71のエロージョン領域71aは、基板Sとは向かい合わない非対向領域に位置している。そして、IGZO膜の形成が進むにつれて、磁気回路走査部75は、磁気回路走査部75の基端部から先端部に向けて磁気回路74の位置を変える。すなわち、第1ターゲット71のエロージョン領域71aは、非対向領域から基板Sと対向する対向領域に位置する。基板Sに対するIGZO膜の形成が終了されるときには、磁気回路74は、磁気回路走査部75の先端部に位置している。すなわち、第1ターゲット71のエロージョン領域71aは、IGZO膜の形成が開始されたときとは異なる非対向領域に位置している。
【0086】
これにより、第1実施形態と同様、連結方向におけるエロージョン領域71aの位置が、基板Sから見て連結方向の一端から他端に向けて連続して変わるため、IGZO膜の面内における厚さ及び原子の分布のばらつきが抑えられる。
【0087】
なお、上記各実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・スパッタ装置10の処理対象である基板Sの大きさは、上述した大きさに限らない。すなわち、紙面の上下方向に沿う幅、及び、紙面の手前側に向かう幅が、上述の基板Sよりも小さくてもよいし、大きくてもよい。
【0088】
・スパッタガスには、アルゴンガス以外の希ガス、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、及び、キセノンガスが用いられてもよい。また、反応ガスには、酸素ガス以外の酸素を含むガスであって、ターゲット21,31から放出されたスパッタ粒子を酸化することのできるガスが用いられてもよい。
【0089】
・第1カソード装置20は、IGZO膜を5nm未満の厚さ、あるいは、50nmを超える厚さで基板S上に形成してもよい。こうした構成によっても、IGZO膜の一部が第1カソード装置20によって形成される以上、IGZO膜の厚さ及び原子の分布におけるばらつきを抑えることは可能である。特に、第1カソード装置20によって形成されるIGZO膜の厚さが、5nmに満たない厚さ、例えば、1nm程度であったとしても、複数の薄膜トランジスタ間における閾値電圧のばらつきが基板Sの面内で少なからず抑えられる。
【0090】
・スパッタ装置10では、ボトムゲートボトムコンタクト型の薄膜トランジスタに適用されるIGZO膜が形成されてもよい。この場合であっても、第1カソード装置20を用いて形成されるIGZO膜の厚さが5nm以上50nm以下とされることによって、ゲート絶縁膜との界面に形成されるチャネル層にて、面内における原子の分布のばらつきを抑えることができる。
【0091】
・界面層は、無機酸化物膜と絶縁膜との界面を含む層に限らず、無機酸化物膜とソース電極及び無機酸化物膜とドレイン電極とを含む層であってもよい。無機酸化物膜と電極との界面を含む界面層が、第1のエロージョン領域の走査によって形成されるときには、無機酸化物膜と電極との接触抵抗などの電気的な特性のばらつきが抑えられる。なお、界面層は、無機酸化物膜と絶縁膜との界面を含む層と、無機酸化物膜とソース電極及び無機酸化物膜とドレイン電極とを含む層との双方であってもよい。
【0092】
・ターゲット21,31の形成材料には、IGZO以外の酸化物半導体、例えば、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化インジウム、及び、チタン酸ストロンチウム等が用いられてもよい。
【0093】
・ターゲット21,31の形成材料には、IGZO以外のインジウム含有酸化物半導体、すなわち、酸化インジウム亜鉛スズ(IZTO)、酸化インジウム亜鉛アンチモン(IZAO)、酸化インジウムスズ亜鉛(ITZO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、及び、酸化インジウムアンチモン(IAO)等が用いられてもよい。なお、これらIGZO以外のインジウム含有酸化物半導体が薄膜トランジスタのチャネル層として用いられた場合であっても、界面層の厚さを5nm以上50nm以下とすることによって、IGZO膜と同様の効果が得られることが本願発明者らによって認められている。
【0094】
・ターゲット21,31の形成材料には、金属、金属化合物、及び、半導体等が用いられてもよい。ターゲット21,31の形成材料に単体の金属や半導体が用いられる場合には、ターゲット21,31から放出された形成材料FMと、反応ガスから生成されたプラズマとの反応によって、酸化物半導体膜や無機酸化物膜の形成が可能である。
【0095】
・ターゲット21,31の形成材料には、IGZOに限らず、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、及び、酸化アルミニウム等の無機酸化物が用いられてもよい。
・ターゲット21,31の形成材料が、上述のような酸化物半導体である場合には、スパッタガスのみによって半導体膜を形成することが可能ではある。ただし、反応性スパッタによって酸化物半導体膜が形成される場合に、半導体膜の構成元素、特に酸素の含有量、及び、面内での分布がばらつきやすくなる。そのため、上述の第1実施形態から第3実施形態に記載のスパッタ装置10によって得られる効果は、スパッタ装置10にて反応性スパッタによって半導体膜が形成される場合に特に顕著になる。なお、こうした効果は、ターゲット21,31の形成材料が、酸化物半導体である場合に限らず、無機酸化物である場合であっても同様に得ることができる。
【0096】
・第1スパッタ処理室13、及び、第2スパッタ処理室14は、成膜レーン10aを搬送されている基板Sに向けて形成材料FMが放出される構成でもよい。ただし、上述のように、スパッタ装置10内にパーティクルが生じることを抑える上では、第1スパッタ処理室13、及び、第2スパッタ処理室14は、各処理室13,14の所定の位置にて固定された基板Sに対して成膜する構成であることが好ましい。
【0097】
・第1スパッタ処理室13、第2スパッタ処理室14では、回収レーン10bを搬送されている基板Sに向けて形成材料FMの放出が行われてもよい。これにより、回収レーン10bに配置された基板Sに対してもIGZO膜を形成することができる。
【0098】
・第2スパッタ処理室14では、各ターゲット31と、各ターゲット31におけるバッキングプレート32が接合された面である裏面に配置された磁気回路34とが、相対的な位置を変える構成であってもよい。この場合には、各ターゲット31と各磁気回路34との相対的な位置は、基板Sから見て連結方向における一端から他端までの一部で変わる。
【0099】
・第1実施形態から第3実施形態では、第1スパッタ処理室13で形成されるエロージョン領域21a,71aが、複数回にわたって、基板Sから見て基板Sの連結方向における一端から他端まで連続して位置を変えてもよい。こうした構成であっても、エロージョン領域21a,71aが、基板Sから見て連結方向における一端から他端まで連続して位置を変える以上は、基板Sに形成される薄膜の厚さのばらつきを抑えることができる。
【0100】
・第2カソード装置30は、複数のターゲット31と、各ターゲット31の裏面に1つずつ配置された複数の磁気回路34を備える構成に限らず、1つのターゲットと、1つのターゲットの裏面に配置された複数の磁気回路とを備える構成でもよい。この場合、ターゲットは、連結方向及び高さ方向にて基板Sの全体と重なる大きさであればよい。また、各磁気回路は、ターゲットにおける高さ方向の全体と重なり、複数の磁気回路は、ターゲットの裏面に連結方向にて並んで配置される構成であればよい。こうした構成によれば、第2カソード装置では、1つのターゲットの表面には、ターゲットの表面における法線方向に沿った磁場が0となる(B⊥=0)部分が、磁気回路と同じ数だけ形成される。すなわち、第2カソード装置では、複数の第2のエロージョン領域が、同時に形成される。そのため、上述の第2カソード装置30と同様、エロージョン領域から放出される形成材料FMの量が略同一である前提では、第2のエロージョン領域が1つである構成と比べて、薄膜の形成速度を高めることができる。
【0101】
また、第2カソード装置は、複数のターゲットと、複数の磁気回路とを備え、各ターゲットの裏面に複数の磁気回路が配置される構成でもよい。
・第1実施形態、及び、第2実施形態では、第1カソード装置20がガス供給部27を備えていない構成でもよく、この場合、ガス供給源28が、真空槽13aの所定の位置に形成されたガス供給孔に接続された構成であればよい。また、真空槽13aには、第2スパッタ処理室14と同様、複数のガス供給孔が、成膜側側壁13bにおける連結方向や高さ方向において所定の間隔を空けて形成されていることが好ましい。こうした構成によれば、ガス供給孔が真空槽に1つだけ形成された構成と比べて、第1ターゲット21の位置が変わっても、第1ターゲット21の周囲に供給されるガスの濃度が変わることを抑えられる。
【0102】
・第2実施形態では、2つの第1カソード装置20が、ガス供給部27によって相互に接続されていなくともよい。例えば、各第1カソード装置20のフローティングシールド26における高さ方向に沿って延びる側面の両方にガス供給部が取り付けられ、各第1カソード装置20は、連結方向にて離間して搭載されてもよい。
【0103】
・第1実施形態及び第2実施形態では、ガス供給部27がフローティングシールド26に取り付けられた構成でなくともよい。この場合には、ガス供給部27は、ターゲット部走査部とは異なる走査部によって、第1ターゲット21とともに基板Sに対する位置を変える構成としてもよい。こうした構成によれば、ガス供給部27がフローティングシールド26に取り付けられた構成と同等の効果を得ることができる。
【0104】
・第1実施形態及び第2実施形態では、第1ターゲット21の連結方向における長さは、上述した長さに限らず適宜変更可能である。要は、第1ターゲット21の連結方向における長さは、基板Sに対する第1のエロージョン領域の位置が、基板Sから見て連結方向の一端から他端までにわたって連続して変えることの可能な長さであればよい。
【0105】
・第1実施形態から第3実施形態では、ターゲット31の連結方向における長さは、上述した長さに限らず適宜変更可能である。要は、複数のターゲット31が、成膜側側壁14bの連結方向にて配置可能な長さであればよい。
【0106】
・第3実施形態では、磁気回路74によって形成される磁場における連結方向の長さは、上述した長さに限らず適宜変更可能である。要は、磁場の連結方向における長さは、基板Sに対する第1のエロージョン領域の位置が、基板Sから見て連結方向の一端から他端までにわたって連続して変えることの可能な長さであればよい。
【0107】
・第2実施形態では、第1スパッタ処理室13には、各第1ターゲット21のエロージョン領域21aが、基板Sから見て、基板Sの連結方向における一端から他端まで連続して位置を変える構成であれば、3つ以上の第1カソード装置20が搭載されていてもよい。
【0108】
・第1スパッタ処理室13に搭載される複数の第1カソード装置20では、各第1ターゲット21に形成されるエロージョン領域21aが基板Sに対して同時に向かい合わなくともよい。例えば、各第1カソード装置20のエロージョン領域21aが、基板Sから見て、基板Sの連結方向における一端から他端までにわたって順に位置を変える構成でもよい。この場合、各エロージョン領域21aが、基板Sと個別に向かい合う構成でもよいし、各エロージョン領域21aが、基板Sと個別に向かい合う状態と、他のエロージョン領域21aと同時に基板Sと向かい合う状態との両方を有する構成でもよい。
【0109】
・第1実施形態及び第2実施形態におけるターゲット走査部25は、連結方向における対向領域のみでエロージョン領域21aの位置を変える構成でもよい。あるいは、連結方向における2つの非対向領域のうちのいずれか一方と、対向領域とにおいてエロージョン領域21aの位置を変える構成でもよい。こうした構成であっても、基板Sの連結方向における一端あるいは他端の一部を除く基板Sの略全体では、基板Sに形成される薄膜の厚さがばらつくことを抑えることは可能である。
【0110】
・
図13に示されるように、スパッタ装置は、クラスター型のスパッタ装置80として具体化されてもよい。この場合には、スパッタ装置80は、搬送ロボット81Rが搭載された搬送室81と、搬送室81に連結される以下の処理室を備える構成とすることができる。すなわち、搬送室81には、成膜前の基板をスパッタ装置80の外部から搬入し、成膜後の基板をスパッタ装置80の外部に搬出する搬出入処理室82と、基板に対して所定の処理を行う前処理室83とを備える。また、スパッタ装置80は、第1カソード装置20が搭載された第1スパッタ処理室84と、第2カソード装置30が搭載された第2スパッタ処理室85とを備える。なお、スパッタ装置80は、前処理室83を備えていない構成でもよい。
【0111】
・スパッタ装置10の備える第1カソード装置20と第2カソード装置30とは、1つの真空槽中に搭載されてもよい。
・第1実施形態から第3実施形態のスパッタ装置10では、上述した各処理室が、連結方向にて、搬出入処理室11、前処理室12、第2スパッタ処理室14、及び、第1スパッタ処理室13の順に並んでもよい。こうした構成であっても、第1スパッタ処理室13にて形成された界面層が、第2スパッタ処理室14で形成されたバッファ層と、絶縁膜とによって挟まれる構成であれば、絶縁膜との界面におけるIGZO膜の状態がばらつくことを抑えることができる。
【0112】
なお、バッファ層を形成した後に、界面層を形成する構成であれば、基板S上に形成されたチャネル層に対してゲート絶縁膜が積層される薄膜トランジスタにおいても、ゲート絶縁膜との界面にて、チャネル層となるIGZO膜の状態がばらつくことを抑えられる。ちなみに、チャネル層上にゲート絶縁膜が積層される薄膜トランジスタには、トップゲートボトムコンタクト型の薄膜トランジスタ、及び、トップゲートトップコンタクト型の薄膜トランジスタが含まれる。
【0113】
また、
図13に示されるクラスター型のスパッタ装置80であれば、バッファ層を形成した後に界面層を形成する場合には、第1スパッタ処理室84と第2スパッタ処理室85との配置を変えてもよい。あるいは、第1スパッタ処理室84と第2スパッタ処理室85との配置を変えることなく、搬送ロボット81Rが、第2スパッタ処理室85に基板Sを搬送した後に、成膜後の基板Sを第1スパッタ処理室84に搬送すればよい。