(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族炭化水素と分子酸素とを含むガス流を気相反応器内に配置された多数の反応管を通過させることにより無水フタル酸を製造するための気相酸化反応器の制御方法であって、
前記ガス流1m3当たりの前記芳香族炭化水素が占める質量が91〜110g/m3(STP)であり、
前記反応管のそれぞれが、少なくとも1つの触媒床を含み、且つその温度が熱伝達媒体により制御可能であり、
少なくとも1つの制御パラメータを測定し、該制御パラメータの制御のための修正パラメータの変化を決定し、
前記少なくとも1つの制御パラメータが無水フタル酸収率を含み、且つ前記修正パラメータが前記熱伝達媒体の温度であり、
前記修正パラメータが該修正パラメータの最初の上昇の時から経時的に単調上昇して365日の期間内に少なくとも2K増大し、
触媒寿命の少なくとも90%にわたって、30日の期間内での前記修正パラメータの変化の最大値を0.4Kに制限することを特徴とする制御方法。
前記反応管が、ガス流の流れ方向に連続して配置された少なくとも2つの触媒層を含み、その隣接する触媒層における触媒活性が互いに異なる請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
無水フタル酸(PA)は、固定床反応器中でo−キシレン及び/又はナフタレン等の芳香族炭化水素の接触気相酸化により工業的に製造される。一般に、酸素含有ガスと酸化されるべき出発材料の混合物は触媒床のある管中を通過する。温度制御のために、その管は溶融塩等の熱伝達媒体に囲まれている。
【0003】
反応の過剰な熱が熱伝達媒体により除去されるにもかかわらず、局所的な温度極大(ホットスポット)が、触媒床中の、その触媒床の残りの部位よりも高い温度となる部分に現れる可能性がある。全ての場合、これらのホットスポットは出発材料の総燃焼等の副反応、又は大変な困難を伴わなければ反応生成物から除去し得ない望ましくない副産物の形成等の副反応をもたらす。
【0004】
o−キシレンの無水フタル酸への酸化におけるホットスポット温度は、一般に400と500℃の間の範囲にある。500℃を超えるホットスポット温度はo−キシレンからCO、CO
2及び水への全酸化を増加させ、触媒の損傷につながる。低すぎるホットスポット温度はo−キシレンの不十分な変換、及びフタリド等の製品品質を損なわせる破壊的な部分酸化製品(disruptive underoxidation products)の高すぎる含有量に関連付けられる。ホットスポットの温度はガス流のo−キシレン負荷、その触媒のガス流での負荷、触媒の寿命、反応器内及び塩浴内における伝熱条件、及び塩浴温度を含む一連のパラメータに依存する。
【0005】
塩浴温度は気相酸化反応器の運転のための重要な修正パラメータである。過酸化又は全酸化が僅かな程度でのみ進み、且つ製品品質が部分酸化製品によって最小の程度でしか損なわれない場合、正しく設定されている。過度に高い塩浴温度はPA収率の低下と触媒劣化の加速をもたらし;過度に低い塩浴温度は貧弱な製品品質を結果としてもたらす。
【0006】
現代の工場設備では、塩浴温度は、所望の運転状態を正確に遵守することを目的とする、コンピュータに基づくプロセス制御系により制御される。数学的モデルを用いて、無水フタル酸収率、芳香族炭化水素の転化、ホットスポット温度及び/又は反応生成物における少なくとも1種の部分酸化生成物含量等の制御パラメータの変化の影響が評価される。1つ以上の制御パラメータの測定値が、制御パラメータの制御のための修正的介入を決定するために用いられる。塩浴温度に加えて、重要な修正パラメータは酸化されるべき炭化水素でのガス流の負荷とガス流の体積流量とを含む。
【0007】
気相酸化のために用いられる触媒又は触媒系の活性は運転時間の増大と共に低下する。ホットスポット領域における熱応力の効果の一つは、同じ部位での触媒の失活である。未転化の炭化水素又は部分的に酸化された中間体の多くの割合が、さらに下流の触媒床の領域に入る。反応は反応器出口に向かってますますシフトし、ホットスポットは下流へと移行する。下流触媒層は、一般により活発になっているが選択性は低下するので、望ましくない過酸化や他の副反応が増大する。全体的に、生成物の収率又は選択性は運転時間と共に低下する。
【0008】
触媒の不活化は、一般に触媒上を基本的に一定の毎時空間速度で、熱伝達媒体の温度を上昇させることにより限られた程度に相殺され得る。
【0009】
PA触媒の寿命は一般に約5年であり、この期間内にPA収率は最大6質量%低下する;M.Galantowicz et al.in B. Delmon,G.F.Froment(eds.), Catalyst Deactivation 1994,Studies in Surface Science and Catalysis 88, Elsevier,591−596頁参照。一般に、塩浴温度は触媒寿命の間に40K上昇する;G.C. Bond, J. Chem. Tech. Biotechnol. 68、1997年、6−13参照。数年の触媒寿命期間にわたり塩浴温度を制御するために、従来技術は、特に高い触媒毎時空間速度のために、僅かな情報のみを与える。
【0010】
DE2948163(日本触媒)の開示によれば、PA収率は、83g/m
3(STP)のo−キシレン負荷した二層触媒上で、370℃の塩浴温度で2カ月後に113.8質量%である。12カ月後、同じo−キシレン負荷であるが375℃の塩浴温度において、PA収率は112.7質量%へと減少した。この場合における塩浴温度は10カ月の期間内で5Kまで、すなわち、平均0.5K/月で上昇した。
【0011】
Anastasov, Chemical Engineering and Processing 42(2003)449−460には、BASFの04−26V
2O
5/TiO
2触媒の不活化を検討している。50g/m
3のo−キシレン負荷(STP)で、360℃の塩浴温度で8.5カ月後に79.9モル%のPA収率が、同じo−キシレン負荷であるが370℃の塩浴温度で24カ月後に80.7モル%へと上昇した。塩浴温度はこの場合15.5カ月の期間内で10Kまで、すなわち、平均0.65K/月で上昇した。したがって、1年あたり数ケルビンまでの塩浴温度の大幅な上昇はo−キシレンのPAへの酸化においては習慣的である。
【0012】
無水フタル酸の合成のための塩浴反応器の温度制御のための制御された方法は、DE4109387(Buna AG)に初めて記載された。その方法は、ホットスポット温度及び反応器入口でのo−キシレン濃度等の実験的に決定されたパラメータからの最適な塩浴温度の決定を含んでいる。触媒老化挙動は触媒の見かけの活性化エネルギーを用いる線形アプローチで考慮される。その後、塩浴温度がそれぞれの場合において決定された最適塩浴温度に応じて調節される。運転条件に依存して、これは塩浴温度の上昇又は低下を生じさせる。例えば、282日後に376℃の塩浴温度で43g/m
3(STP)のo−キシレン負荷で、1470日後に塩浴温度は42g/m
3の類似のo−キシレン負荷で388℃に上昇した。これは0.3K/月の塩浴温度の平均上昇に相当する。1470日の運転時間後に決定された最適塩浴温度は383℃であり、従って、5K低かった。5Kの塩浴温度の低下後、PA収率は65.5から71.8モル%へと上昇した。o−キシレン濃度は最適な塩浴温度を決定するための計算式に含まれている。しかしながら、その実施例で報告されたo−キシレン負荷は21−43g/m
3(STP)で比較的低い。加えて、記載されたその方法の不具合は、塩浴温度を非常に頻繁に調節しなければならないことである。
【0013】
EP2009520(Honeywell International Inc.)には、PAの製造のための多変数プロセス制御系が開示されている。触媒の性能に依存する最初のパラメータと、二番目のパラメータとして、反応管内のいくつかの位置での温度とが測定される。動的モデルを用いることにより温度は自動的に調整される。その方法は、触媒の経年劣化を補償するための温度プロファイルの動的な調整を可能にすると言われている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
“触媒寿命”は反応器の起動の終了から、すなわち、本質的に安定した生産状態の達成から、反応器の運転停止及び使用済み触媒の交換までの期間を意味すると理解される。触媒寿命は一般に数年である。
【0020】
使用される反応器は、好ましくは、塩浴冷却式管状反応器である。塩浴の形態で熱伝達媒体は管束の周囲を流れる。個々の触媒充填管は上部管板と下部管板で終わりとなる。反応ガスは一般に上部から下方へと、すなわち、重力の方向にその管中を流れる;しかしながら、逆の流れ方向もまた考えられる。その反応器のジャケットには、熱伝達媒体がその反応器から抜き取られ、循環ポンプを通過した後にその反応器に戻し供給される離隔リングチャネルがある。循環した熱伝達媒体のサブストリームは、例えば、飽和蒸気が生成される冷却器を通過する。その反応器の内部には、一般に、管束の領域における熱伝達媒体に輻流成分を付与するためにバッフルプレートがあっても良い。
【0021】
熱伝達媒体は、反応ガスとの関係で並流又は向流のいずれかで管状反応器を通過してもよい。
【0022】
本発明によれば、熱伝達媒体の温度は、30日間の期間内に0.5Kの最大値で上昇する。特定の時間xにおける熱伝達媒体の温度が、例えばT
xである場合、時間(x+30日)の温度は、(T
x+0.5K)の最大値である。熱伝達媒体の温度の変化は段階的であるか、あるいは連続的であっても良いが、好ましくは連続的である。時間に関する熱伝達媒体の温度変化の導関数(すなわち、時間の関数としての温度曲線の勾配)は、好ましくは0.5K/30日より大きいことはない。
【0023】
修正パラメータ、すなわち、熱伝達媒体の温度の最初の増大の時から、修正パラメータは好ましくは単調に増加する時間の関数である。換言すれば、修正パラメータは最初の増大から一定に保たれるか、あるいは経時的に増加する。換言すれば、最初の増大から、熱伝達媒体の温度は好ましくは二度と低下しない。
【0024】
触媒の失活を部分的に補償するために、一般に、修正パラメータは365日の期間内で少なくとも2K増大する。
【0025】
用いられる制御パラメータは無水フタル酸収率である。これは、o−キシレン等の使用される純粋な炭化水素の質量又は量(炭化水素の供給×炭化水素の純度)に対する形成された無水フタル酸の質量又は量を意味するとして理解される。もちろん、芳香族炭化水素の転化、ホットスポット温度、及びフタリド等の反応生成物中の少なくとも1種の部分酸化生成物の含量等、さらなる制御パラメータを測定することも可能である。
【0026】
塩浴温度は一般にコンピュータに基づくプロセス制御系によって制御される。ある制御ユニットでは、修正パラメータの変化が1以上の制御パラメータに及ぼす影響が、数学的モデル又はアルゴリズムとして記録される。1以上の制御パラメータの測定値が制御パラメータを制御するための修正的介入を決定するために用いられる。本発明を実施するために用いることができる好適なモデル及びプログラムは、当業者によく知られている。
【0027】
熱伝達媒体の温度に加えて、さらなる修正パラメータを変化させることができる。これらは、酸化されるべき炭化水素でのガス流の負荷及びそのガス流の体積流量を含む。
【0028】
熱を除去するため、熱伝達媒体はポンプで冷却器を介して循環される。冷却器は蒸気回路の蒸気の過熱器として構成されてもよい。熱伝達媒体の温度は循環速度及び/又は発生する蒸気量の変更により影響され得る。
【0029】
本発明に係る方法は単一の触媒を用いて実施可能であるが、反応管が、ガス流の流れ方向に連続して配置された少なくとも2つの触媒層であって、その触媒の活性が隣接する触媒層で異なる触媒層を含むことが好ましい。
【0030】
触媒層は、本発明の文脈において、本質的に均一な活性を有する、すなわち、活性材料、活性材料含量及び充填密度の本質的に均一な組成(反応器の充填において不可避の変動を無視する)を有する触媒床であると考えられる。したがって、連続した触媒層は、存在する触媒の活性において異なる。当業者であれば、以下に説明するように、触媒活性を制御するための各種手段を認識している。
【0031】
触媒又は触媒層の活性は、テストプラントで同一条件下(特に、触媒容積、ガス空間速度(GHSV)又は空気率、熱伝達媒体の温度、ガス流の炭化水素負荷に関して)において測定されたその転化を意味するものと理解される。触媒又は触媒層の転化が高いと、その活性も高い。この方法は、活性の比較のために、又は相対的な触媒活性の決定のために、特に好適である。
【0032】
複数の触媒層が用いられる場合、活性勾配の様々な構成が可能である。好ましい実施形態では、触媒の活性は1つの触媒層から次へと、ガス入口に最も近い触媒層からガス出口に最も近い触媒層へとガス流の流れ方向に常に増加する。
【0033】
他の好ましい実施の形態では、ガス流はガス流の流れ方向で3つ以上の連続する触媒層を通過する;この場合、触媒の活性は、1つの触媒層から次へとガス流の流れ方向で少なくとも3つの触媒層の連続に亘って増大する。例えば、最上流触媒層として、より活性の低い触媒層が下流に隣接する、比較的短く、高い活性触媒層を設けることが可能である。この、より活性の低い触媒層には、活性が段階的に上昇するさらなる層が隣接しても良い。
【0034】
異なる触媒層、好ましくは全ての触媒の触媒活性材料を用いる場合のその触媒の触媒活性材料は、好ましくは、少なくとも酸化バナジウムおよび二酸化チタンを含む。
【0035】
酸化バナジウム及び二酸化チタンを基礎とする気相酸化触媒の活性の制御方法は当業者に公知である。例えば、その触媒活性材料は、促進剤として、その触媒の活性及び選択性に影響を与える化合物を含んでもよい。その活性を制御する更なる手段は、触媒の合計質量における活性材料又はV
2O
5含量の割合の変化により構成されており、より高い活性材料又はV
2O
5含量はより高い活性を引き起こし、その逆もまた同様である。
【0036】
本発明に係る方法において使用される触媒は、一般に、触媒活性材料が不活性支持体にシェルの形態で施されている卵殻触媒である。
【0037】
典型的には、二酸化チタンはアナターゼ型で用いられる。二酸化チタンは、好ましくは15〜60m
2/gの、特に15〜45m
2/gの、より好ましくは13〜28m
2/gのBET表面積を有する。使用される二酸化チタンは、単一の二酸化チタン、又は二酸化チタンの混合物からなっていてもよい。後者の場合には、BET表面積の値は、個々の二酸化チタンの寄与の加重平均として決定される。使用される二酸化チタンは、有利には、例えば、5〜15m
2/gのBET表面積を有するTiO
2及び15〜50m
2/gのBET表面積を有するTiO
2の混合物からなる。
【0038】
触媒活性材料は、好ましくは、触媒活性材料の総量に対して1〜40質量%の酸化バナジウム(V
2O
5として算定)及び60〜99質量%の二酸化チタン(TiO
2として算定)を含む。好ましい実施の形態では、触媒活性材料は、さらに、最大1質量%のセシウム化合物(Csとして算定)、最大1質量%のリン化合物(Pとして算定)及び最大10質量%の酸化アンチモン(Sb
2O
3として算定)を含んでもよい。触媒活性材料の組成に関するすべての数値は、例えば、450℃で1時間のその触媒の焼成後の、それらの焼成状態に基づくものである。
【0039】
好適なバナジウム源は、特に五酸化バナジウム又はメタバナジン酸アンモニウムである。
【0040】
好適なアンチモン源は、種々の酸化アンチモン、特に三酸化アンチモンである。一般的には、0.1〜10μmの平均粒径(粒度分布の最大値)を有する三酸化アンチモンが使用される。最初の触媒に用いられる酸化アンチモン源は、より好ましくは0.5〜5μmの、特に1〜4μmの平均粒径を有する粒子状三酸化アンチモンである。
【0041】
さらに、バナジウム及びアンチモンは、バナジウム・アンチモン酸塩化合物の形態で用いられてもまたよい。少なくとも1つの層の活性材料に組み込まれたアンチモン酸バナジウムは、所望のバナジウム及びアンチモン化合物を反応させることにより製造され得る。酸化物の直接反応により混合酸化物又はアンチモン酸バナジウムを得ることが好ましい。アンチモン酸バナジウムはV/Sbの異なるモル比を有してもよく、任意にさらなるバナジウム又はアンチモン化合物を含んでもまたよく、さらなるバナジウム又はアンチモン化合物を有する混合物中で用いられてもよい。
【0042】
有用なリン源は、特にリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸アンモニウム又はリン酸エステル、及び特にリン酸二水素アンモニウムを含む。有用なセシウム源は、カルボン酸塩、特に、酢酸塩、マロン酸塩若しくはシュウ酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩又は硝酸塩等の、酸化物若しくは水酸化物又は酸化物へと熱転換可能な塩を含む。
【0043】
セシウム及びリンの任意的付加に加えて、触媒の活性及び選択性に、その活性を低下させ、あるいは増大させる等により促進剤として影響を与える多数の他の酸化物化合物が、その触媒活性材料中に少量で存在してもよい。そのような促進剤の例は、アルカリ金属酸化物を、特に、上述の酸化セシウムとは別に、酸化リチウム、酸化カリウム及び酸化ルビジウム、酸化タリウム(I)、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化スズ、酸化銀、酸化銅、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化セリウムを含む。
【0044】
加えて、上述の促進剤のうち、ニオブ及びタングステンの酸化物が、好ましくは、触媒活性材料に対して0.01〜0.50質量%の量で添加剤として有用である。
【0045】
用いられる不活性支持体材料は、芳香族炭化水素からアルデヒド、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物への酸化のための卵殻触媒の製造の際に有利に用いられるような、石英(SiO
2)、磁器、酸化マグネシウム、二酸化スズ、炭化ケイ素、ルチル、アルミナ(Al
2O
3)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸セリウム又はこれらの支持体材料の混合物等の実質的に全ての先行技術の支持体材料で良い。支持体材料は、一般的に無孔性である。“無孔性”の表現は、“技術的に不活性な孔量とは別の無孔性”の意味で理解されるべきである。なぜなら、理想的にはあらゆる細孔も含むべきではないが、少量の孔が支持体材料中に存在するであろうことは技術的に不可避であるからである。強調されるべき有利な支持体材料は、特に、ステアタイト及び炭化ケイ素である。支持体材料の形態は、一般に、本発明のプレ触媒及び卵殻触媒にとって重要ではない。例えば、触媒支持体は、球、リング、タブレット、スパイラル、管、押出物又は破砕物の形態で使用することができる。これらの触媒の寸法は、通常、芳香族炭化水素の気相部分酸化用卵殻触媒の製造のために一般に用いられる触媒支持体に対応する。ステアタイトは、好ましくは、3〜6mmの直径を有する球の形態で、又は5〜9mmの外径、3〜8mmの長さ及び1〜2mmの壁厚を有するリングの形態で用いられる。
【0046】
卵殻触媒の(複数の)層は、任意に上述の促進剤要素源を流動性の維持のために含む、TiO
2及びV
2O
5の懸濁液のスプレー塗布によって適宜に施される。塗布の前に、懸濁固形物の凝集物を粉砕し、且つ均一な懸濁液を得るために、懸濁液は好ましくは十分に長期間、例えば、2〜30時間、特に、12〜25時間、攪拌される。懸濁液は、通常、20〜50質量%の固形分含有量がある。懸濁媒体は、一般に水性であり、例えば、水そのもの又はメタノール、エタノール、イソプロパノール、ホルムアミド等の水混和性有機溶媒を含む水性混合物である。
【0047】
一般に、有機バインダー、好ましくは、有利にはアクリル酸/マレイン酸、酢酸ビニル/ビニルラウレート、酢酸ビニル/アクリレート、スチレン/アクリレート及び酢酸ビニル/エチレンの水性懸濁物形態でのコポリマーがその懸濁液に添加される。そのバインダーは、例えば、35〜65質量%の固形分含有量の水性分散物として市販されている。そのような使用されるバインダー分散物の量は、その懸濁液の質量に対して一般に2〜45質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは7〜20質量%である。
【0048】
支持体は、例えば、上昇するガス流、特に空気流における流動床装置中で流動化される。その装置は、通常、嵌め込まれた管を介して流動化ガスが底部又は頂部から導入される円錐形又は球形の容器で構成されている。懸濁液はノズルを介して頂部から、側部から、又は底部から流動床内にスプレーされる。中間に配置されるか、あるいは嵌め込まれた管の周りに同心円状に配置された上昇管を用いることが有利である。上昇管の中では、支持体粒子を上方へと輸送するより高いガス速度がある。外側リングでは、ガス速度は流動化速度よりも僅かに高い。したがって、粒子は垂直のサイクルで移動する。好適な流動床装置は、DE−A4006935等に記載されている。
【0049】
触媒活性材料での触媒支持体の被覆の際、20〜500℃の被覆温度が一般に採用され、被覆は大気圧下で、又は減圧下で実施されうる。一般に、被覆は0〜200℃で、好ましくは20〜150℃で、特に60〜120℃で実施される。
【0050】
触媒活性材料はまた2以上の層で施され得る。その場合、例えば、内側の層は最大15質量%までの酸化アンチモン含量を有し、外側の層は50〜100%まで低減した酸化アンチモン含量を有する。一般に、触媒の内層はリンを含有し、外層はリンが少ないか、あるいはリンを有しない。
【0051】
触媒活性材料の層の厚さは、一般に0.02〜0.2mmであり、好ましくは0.05〜0.15mmである。触媒中の活性材料含量は、一般に5〜25質量%であり、通常7〜15質量%である。
【0052】
したがって、200℃超〜500℃の温度で得られたプレ触媒の熱処理の結果として、バインダーは熱分解及び/又は燃焼の結果としてその施された層から漏れ出る。熱処理は、好ましくは気相酸化反応器中でその場で実施される。
【0053】
触媒は、溶融塩等の熱伝達媒体を用いて反応温度に外部からサーモスタットで調温される反応管へと導入される。したがって、ガス流は、一般に750〜5000h
-1の空間速度で、一般に300〜450℃、好ましくは320〜420℃、及びより好ましくは340〜400℃の温度に、且つ一般に0.01〜0.25MPa(0.1〜2.5bar)のゲージ圧、好ましくは0.03〜0.15MPa(0.3〜1.5bar)のゲージ圧を備える触媒床を通過する。
【0054】
一般に、ガス流は、酸化されるべき芳香族炭化水素と共に、酸素とは別に分子酸素を含み、且つ好適な反応減速材及び/又は希釈剤(蒸気、二酸化炭素及び/又は窒素等)もまた含み得るガスの混合により得られる。分子酸素を含むガスは、一般に1〜100モル%、好ましくは2〜50モル%及びより好ましくは10〜30モル%の酸素、0〜30モル%及び好ましくは0〜10モル%の蒸気、並びに0〜50モル%及び好ましくは0〜1モル%の二酸化炭素、残りの窒素を含む。
【0055】
酸化されるべき炭化水素でのガス流の負荷は、一般に30〜150g/m
3(STP)、好ましくは80〜110g/m
3(STP)のガスである。炭化水素は好ましくはo−キシレン、ナフタレン又はそれらの混合物であり、特にo−キシレンである。
【0056】
ガス流量は、一般に3.0〜4.5m
3(STP)/h及び管であり、好ましくは3.5〜4.2m
3(STP)/h及び管である。
【0057】
反応管中に存在する触媒床の2以上の区域を、好ましくは2つの区域を異なる反応温度にサーモスタットで調温することができる。その異なる反応温度のために、例えば、別々の塩浴を備える反応器を用いることが可能である。代わりになるべきものとして、気相酸化はまた、一つの反応温度で複数の温度区域に分割することなく行うことができる。
【0058】
本発明を、以下の実施例によって詳細に示す。
【実施例】
【0059】
以下の触媒を、WO2007/116018に記載された説明に従って調整した。活性材料の組成(質量%)及び(触媒の総質量に対する)活性材料含量に関する全ての数字は、その焼成状態に基づくものである。すなわち、450℃で1時間の焼成後のものである。
【0060】
触媒KL1:
活性材料含量:9.1%。活性材料の組成:7.1%V
2O
5、1.8%Sb
2O
3、0.38%Cs、16m
2/gのBET表面積を有する残りのTiO
2。
【0061】
触媒KL2:
活性材料含量:8.5%。活性材料の組成:7.95%V
2O
5、2.7%Sb
2O
3、0.31%Cs、18m
2/gのBET表面積を有する残りのTiO
2。
【0062】
触媒KL3:
活性材料含量:8.5%。活性材料の組成:7.1%V
2O
5、2.4%Sb
2O
3、0.10%Cs、17m
2/gのBET表面積を有する残りのTiO
2。
【0063】
触媒KL4:
活性材料含量:9.1%。活性材料の組成:20%V
2O
5、0.38%P、23m
2/gのBET表面積を有する残りのTiO
2。
【0064】
無水フタル酸へのo−キシレンの触媒酸化は、塩浴中で冷却された、管の内径が25mmである15105管状反応器で実施した。温度プロファイルを記録するために、いくつかの反応管は熱電対を備えていた。0〜100g/m
3(STP)のo−キシレン(約99質量%の純度)を有する、単位時間あたり4.0m
3(STP)の空気を、その管に通過させた。反応器出口ガスでPA収率を測定し、100%のo−キシレンに対する質量%(転化したo−キシレン(kg)あたりのPA収率(kg))で記録する。
【0065】
例1a(本発明に係らない)
KL1/KL2/KL3/KL4 床長分布128cm/67cm/58cm/58cm(反応器の長さ330cm)
288日の運転時間後に、塩浴温度は一定のo−キシレン負荷で上昇した。塩浴温度は288−391日、391−463日及び463−688日のそれぞれの場合に直線的に増大した。688日後、塩浴温度は350.6℃であった。この期間内にPA収率は113.9から112.6%に減少した。全体的に、これは0.37K/月(1月=30日)の塩浴温度の上昇及び1.2質量%(by mass/a)のPA収率の低下に相当する。
【0066】
【表1】
【0067】
時間に対する塩浴温度のプロファイル及び時間に対する収率プロファイルのさらに詳細な分析により、以下の表が得られる:
【0068】
【表2】
【0069】
0及び0.5K/30日の間の塩浴温度の上昇は、明らかに特に有利である。塩浴温度がより急速に上昇する場合、PA収率は著しくより急速に低下する。
【0070】
例1b(本発明に係る)
KL1/KL2/KL3/KL4 床長分布130cm/88cm/58cm/44cm(反応器の長さ340cm)
この例では、189日の運転時間後に塩浴温度が上昇した。694日後、塩浴温度は352.7℃であった。この期間内にPA収率は114.3から112.2%に低下し、同時にo−キシレン負荷は91〜95g/m
3(STP)に増大した。全体的に、これは0.36K/月の塩浴温度の増大及び1.5質量%(by mass/a)のPA収率の低下に相当する。
【0071】
【表3】
【0072】
例2(本発明に係らない)
KL1/KL2/KL3/KL4 床長分布121.5cm/80cm/60cm/58cm(反応器の長さ340cm)
この例では、塩浴温度は一定のo−キシレン負荷で314日後に上昇した。614日後、塩浴温度は352.0℃だった。PA収率はこの期間内に113.4から110.6%に低下した。全体的に、これは0.54K/月の塩浴温度の上昇及び3.4質量%(by mass/a)のPA収率の低下に相当する。
【0073】
【表4】
【0074】
時間に対する塩浴温度のプロファイル及び時間に対するその収率プロファイルのより詳細な分析により、以下の表が得られる:
【0075】
【表5】
【0076】
塩浴温度がより急速に増大するほど、より急速にPA収率は低下する。驚くべきことに、塩浴温度を低下させることでは、PA収率を再び増大させることができない。逆に、安定的なo−キシレン負荷と共に塩浴温度を低下させると、実際には収率の一層の低下をもたらす。