【0024】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
−Li含有遷移金属複合酸化物粉体の作製−
まず、金属原子が所定量になるように硝酸ニッケル、必要に応じて硝酸コバルト、硝酸マンガン、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウムを純水に溶解した金属塩溶液を作製する。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル数が0.9〜1.1:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、場合によってはCo、Mn、Al、Mgを含むスラリーを作製する。
次に、前記スラリーを、例えば、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、場合によってはCo、Mn、Al、Mgを含む粉体を得る。
次に、前記粉体がNiを全金属量に対して70%以上90%以下含む場合は、例えばローラーハースキルンを用いて、当該粉体を880℃で2時間焼成後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却する。また、前記粉体がNiを全金属量に対して50%以上70%未満含む場合は、例えばローラーハースキルンを用いて、当該粉体を900℃で2時間焼成後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却する。
次に、得られた焼成物を、例えばロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、Li含有遷移金属複合酸化物粉体を得る。
【実施例】
【0028】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0029】
−Li含有遷移金属複合酸化物粉体の作製−
(実施例1〜
7、9〜23、比較例1〜14、参考例1〜3
、9)
まず、Ni、Mn、Co原子のモル比がそれぞれ8:1:1になるように硝酸ニッケル、硝酸マンガン、硝酸コバルトを純水に溶解した金属塩溶液を作製した。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル比が1.04:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、Co及びMnを含むスラリーを作製した。次に、前記スラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、Co及びMnを含む粉体を得た。次に、ローラーハースキルンを用いて、当該粉体を室温から880℃まで1時間かけて昇温し、2時間保持することで焼成を行った後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却した。次に、得られた焼成物を、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、パルベライザーにおける解砕強度を調整し3種類の粒度のLi含有遷移金属複合酸化物粉体Aを得た。
【0030】
(実施例24〜25、比較例15、参考例4)
Ni、Mn原子のモル比がそれぞれ8:2になるように硝酸ニッケル、硝酸マンガンを純水に溶解した金属塩溶液を作製した。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル比が1.02:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、Mnを含むスラリーを作製した。次に、前記スラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、Mnを含む粉体を得た。次に、ローラーハースキルンを用いて、当該粉体を室温から880℃まで1時間かけて昇温し、2時間保持することで焼成を行った後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却した。次に、得られた焼成物を、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、Li含有遷移金属複合酸化物粉体Bを得た。
【0031】
(実施例26〜27、比較例16、参考例5)
Ni、Co、Al原子のモル比がそれぞれ8:1:1になるように硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸アルミニウムを純水に溶解した金属塩溶液を作製した。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル比が1.00:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、Co、Alを含むスラリーを作製した。次に、前記スラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、Co、Alを含む粉体を得た。次に、ローラーハースキルンを用いて、当該粉体を室温から880℃まで1時間かけて昇温し、2時間保持することで焼成を行った後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却した。次に、得られた焼成物を、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、Li含有遷移金属複合酸化物粉体Cを得た。
【0032】
(実施例28〜29、比較例17、参考例6)
Ni、Co、Mg原子のモル比がそれぞれ8:1:1になるように硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マグネシウムを純水に溶解した金属塩溶液を作製した。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル比が1.04:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、Co、Mgを含むスラリーを作製した。次に、前記スラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、Co、Mgを含む粉体を得た。次に、ローラーハースキルンを用いて、当該粉体を室温から880℃まで1時間かけて昇温し、2時間保持することで焼成を行った後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却した。次に、得られた焼成物を、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、Li含有遷移金属複合酸化物粉体Dを得た。
【0033】
(実施例30〜31、比較例18、参考例7)
Ni、Mn、Co原子のモル比がそれぞれ5:3:2になるように硝酸ニッケル、硝酸マンガン、硝酸コバルトを純水に溶解した金属塩溶液を作製した。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル比が1.04:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、Mn、Coを含むスラリーを作製した。次に、前記スラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、Mn、Coを含む粉体を得た。次に、ローラーハースキルンを用いて、当該粉体を室温から900℃まで1時間かけて昇温し、2時間保持することで焼成を行った後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却した。次に、得られた焼成物を、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、Li含有遷移金属複合酸化物粉体Eを得た。
【0034】
(実施例32〜33、比較例19、参考例8)
Ni、Co、Al、Mg原子のモル比がそれぞれ5:3:1:1になるように硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウムを純水に溶解した金属塩溶液を作製した。次に、炭酸リチウムを、リチウムと前記金属元素合計とのモル比が1.04:1になるように純水に添加して分散させた溶液を撹拌しながら前記金属塩溶液を滴下し、Li、Ni、Co、Al、Mgを含むスラリーを作製した。次に、前記スラリーを、三流体ノズルを有するマイクロミストドライヤーを用いて噴霧乾燥し、Li、Ni、Co、Al、Mgを含む粉体を得た。次に、ローラーハースキルンを用いて、当該粉体を室温から900℃まで1時間かけて昇温し、2時間保持することで焼成を行った後、1時間かけて700℃まで降温して2時間保持した後、3時間かけて室温まで冷却した。次に、得られた焼成物を、ロールミルとパルベライザーを用いて解砕し、Li含有遷移金属複合酸化物粉体Fを得た。
【0035】
−無機セラミックス粉の準備−
実施例で用いるために、市販の無機セラミックス粉を適宜ジェットミルで粉砕し所定の粒度の物を作製した。粒度はレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック)で測定し、得られた粒度分布曲線における体積累積頻度50%の粒径を平均粒径とした。なお、比較例3で用いたAl
2O
3は本機での測定範囲より小さい粒度であったため、走査型電子顕微鏡で観察したところ0.01μm程度であった。
【0036】
−小粒径のLi含有遷移金属複合酸化物の作製−
比較例で用いるために、前記パルベライザーで粉砕後のLi含有遷移金属複合酸化物の粉体を、さらにジェットミルで粉砕し比較例で添加用の小粒径のLi含有遷移金属複合酸化物を作製した。
【0037】
(評価)
−Li含有遷移金属複合酸化物組成の評価−
各Li含有遷移金属複合酸化物中の金属含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)で測定し、各金属の組成を測定した。また、リチウム含有量はイオンクロマト法で、酸素含有量はLECO法で測定した。
実施例1〜
7、9〜23、比較例1〜14、参考例1〜3
、9で用いたLi含有遷移金属複合酸化物Aの組成はLi
1.04Ni
0.80Mn
0.10Co
0.10O
2.15であった。
実施例24〜25、比較例15、参考例4で用いたLi含有遷移金属複合酸化物Bの組成はLi
1.02Ni
0.80Mn
0.20O
2.12であった。
実施例26〜27、比較例16、参考例5で用いたLi含有遷移金属複合酸化物Cの組成はLi
1.00Ni
0.80Co
0.10Al
0.10O
2.04であった。
実施例28〜29、比較例17、参考例6で用いたLi含有遷移金属複合酸化物Dの組成はLi
1.04Ni
0.80Co
0.10Mg
0.10O
2.07であった。
実施例30〜31、比較例18、参考例7で用いたLi含有遷移金属複合酸化物Eの組成はLi
1.04Ni
0.50Mn
0.30Co
0.20O
2.12であった。
実施例32〜33、比較例19、参考例8で用いたLi含有遷移金属複合酸化物Fの組成はLi
1.04Ni
0.50Co
0.30Al
0.10Mg
0.10O
2.16であった。
【0038】
−平均粒径の評価−
大粒径のLi含有遷移金属複合酸化物の粒度分布、及び、小粒径のLi含有遷移金属複合酸化物の粒度分布(比較例のみ)を、それぞれレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック)によって測定し、得られた粒度分布曲線における体積累積頻度50%の粒径を平均粒径とした。
【0039】
−正極活物質の作製−
上述のLi含有遷移金属複合酸化物の粉体に、上述の無機セラミックス粉(実施例及び比較例)或いは上述の小粒径のLi含有遷移金属複合酸化物(比較例)を添加し、ボールミルを用いて混合することで、リチウムイオン電池用正極活物質を作製した。
【0040】
−電池特性の評価−
正極活物質96wt%、PVDF1.6wt%、カーボンブラック2.4wt%を秤量し、PVDFをN−メチルピロリドンに溶解したものに、正極活物質とカーボンブラックを混合したものを添加して得られたスラリーをAl箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。対極をLi金属、電解液に1M−LiPF6をEC−DMC(1:1)に溶解したものを用いて評価用の2032型コインセルを作製した。25℃恒温槽中で、充放電電圧範囲は3.0V〜4.3Vとし、すべてのサイクルで充電は0.1Cで行い、放電は1サイクル目と21サイクル目は0.1Cで行い、その他のサイクルは1Cで行った。2サイクル目1Cにおける放電容量を1サイクル目0.1Cにおける放電容量で除して初期レート特性、22サイクル目1Cにおける放電容量を21サイクル目0.1Cにおける放電容量で除して21サイクル後のレート特性を算出した。
これらの結果を表1、2に示す。
【0041】
【0042】
【表2】
【0043】
(評価結果)
表1及び2は、ベースとなる大粒径のLi含有遷移金属複合酸化物の組成によって整理されている。なお、参考例1〜8は、ベースとなる大粒子のみのサンプルである。正極活物質は、一般に組成によって特性が異なる。例えば、Niが多い方が容量は高いが、レート、サイクル経過後のレートが悪くなるという特徴を有している。
ベースとなる大粒径のLi含有遷移金属複合酸化物の組成ごとに比較した場合、セラミックス粒子添加により、1サイクル目の容量はほぼ変わらずに、サイクル経過後のレートが向上していることがわかる。また、同じ組成の小粒径のLi含有遷移金属複合酸化物粒子を添加した場合、初回のレートはわずかに改善が見られるものの、サイクル経過後は、添加しない場合より大きく劣化していることがわかる。
また、実施例1〜
7、9〜33
、参考例9は、いずれも、Li含有遷移金属複合酸化物、及び、平均粒子径が0.02〜1μmで10〜1000wtppmの無機セラミックスを含むため、電池特性がいずれも良好であった。
また、比較例1〜19は、いずれも、小粒子として無機セラミックスを含まない、或いは、小粒子として無機セラミックスを含むが、その平均粒子径が0.02〜1μm且つ10〜1000wtppmの範囲外であったため、電池特性の少なくともいずれかが不良であった。