特許第6050512号(P6050512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6050512二次電池用正極活物質コーティング溶液とこの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050512
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質コーティング溶液とこの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20161212BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161212BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/36 C
   H01M4/505
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-539538(P2015-539538)
(86)(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公表番号】特表2015-531991(P2015-531991A)
(43)【公表日】2015年11月5日
(86)【国際出願番号】KR2014009194
(87)【国際公開番号】WO2015047024
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0117032
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2014-0130375
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ドン・クウォン・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ボム・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ソク・ノ
(72)【発明者】
【氏名】ウク・ジャン
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/057289(WO,A1)
【文献】 特開2007−039266(JP,A)
【文献】 特表2013−539167(JP,A)
【文献】 特開2013−093167(JP,A)
【文献】 特開2010−218838(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0226985(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0253042(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール系溶媒内に金属前駆体及びキレート剤を分散させて混合溶液を製造する段階;
前記混合溶液を1次加熱する段階;及び
前記混合溶液を2次加熱する段階を含む二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法であって
前記コーティング溶液は、金属前駆体から脱離された金属とグリコール系溶媒及びキレート剤が結合された金属有機化合物を含む金属グリコレート溶液であり、
前記1次加熱段階は、110から230℃の温度条件下で5から20時間の間実施し、
前記2次加熱段階は、150から300℃の温度で1から5時間の間実施することを特徴とする二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項2】
前記グリコール系溶媒はエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリエチレングリコールからなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項3】
前記金属前駆体はMg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ir、Ni、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、La及びCeからなる群から選択された金属を少なくとも一つ以上含有するアセテート、ヒドロキシド、ニトラート、ニトリド、スルファート、スルフィド、アルコキシド及びハライドからなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項4】
前記金属前駆体はアルミニウムアセテート、ジルコニウムニトリドまたはマンガンアセテートであることを特徴とする請求項3に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項5】
前記キレート剤は、クエン酸、EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)、シュウ酸及びグルコン酸からなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項6】
前記金属前駆体:グリコール系溶媒:キレート剤の含量比(重量部)は、1:1から500:0.1から20であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項7】
前記混合溶液の製造時に添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項8】
前記添加剤は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びグリコ酸からなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を含むことを特徴とする請求項7に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項9】
前記添加剤は、前記金属前駆体の全体1重量部に対し0.1から20重量部で含むことを特徴とする請求項7に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項10】
前記2次加熱段階は、170から250℃の温度で1から5時間の間実施することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項11】
前記1次及び2次加熱段階は、非活性ガス雰囲気下で実施することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
【請求項12】
前記金属グリコレート溶液は、下記化学式(1)から(3)で表される化合物からなる群から選択された少なくとも一つの金属有機化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極活物質粒子コーティング用溶液の製造方法。
[化1]
M(C (1)
[化2]
M(C(8−n)) (2)
[化3]
M(C(8−n))(C) (3)
(前記式で、Mは金属前駆体から脱離された金属であって、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ir、Ni、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、La及びCeからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属であり、nは1から4の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安全性及び容量特性が改善された二次電池用正極活物質を製造するための二次電池用正極活物質コーティング溶液とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器及び自動車に対する使用の増加に伴い、これらのエネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。二次電池としては、現在、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が永く、自己放電率が低いリチウム二次電池が実用化され広く用いられている。
【0003】
リチウム二次電池は、正極活物質、負極活物質、分離膜及び電解液に大きく区分され得る。具体的に、前記負極活物質は、主成分として炭素材料を用いており、これ以外に、リチウム金属、硫黄化合物、ケイ素化合物、スズ化合物などを用いようとする研究が活発に行われている。また、前記正極活物質は、層状構造のリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)が主に用いられており、それ以外にも層状の結晶構造を有するリチウム金属化合物(前記金属は、マンガン、コバルト、ニッケルなどを含む)や、スピネル結晶構造を有するリチウム含有マンガン酸化物(LiMnO、LiMn)、またはリチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)などが実用化されている。
【0004】
一方、前記正極活物質の成分中で寿命特性及び充放電効率に優れて現在最も広く用いられているLiCoOの場合、構造的安全性が低く、原料価格が高くて環境汚染などを誘発するとの点で高容量の電気自動車への適用に限界がある。また、前記LiCoOの代替材料として研究されているLiMnO、LiMnなどのリチウムマンガン酸化物の場合、熱的安全性に優れて価格が低廉な反面、電気伝導度が低く、容量が小さくて高温特性が劣悪であり、高温での電極劣化が急速に起こるとの欠点があり、前記リチウム含有ニッケル酸化物の場合、高い放電容量の電池特性を有する反面、簡単な固相反応などで合成が難しく、サイクル特性が低いとの欠点がある。
【0005】
よって、現在用いられている正極活物質に比べて、高温安全性に優れて製造コストが低く、サイクル特性に優れた新たな正極活物質の開発が急がれる実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した問題点を解決するために、本発明では、正極活物質の製造時に正極活物質の表面で充放電効率を向上させることができる二次電池用正極活物質コーティング溶液の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明では、前記方法により製造された正極活物質コーティング溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的に、本発明では、
グリコール系溶媒内に金属前駆体及びキレート剤を分散させ混合溶液を製造する段階;
前記混合溶液を1次加熱する段階;及び
前記混合溶液を2次加熱する段階;を含む二次電池用正極活物質コーティング溶液の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明では、前記方法により製造された二次電池用正極活物質コーティング溶液を提供する。
【0010】
前記二次電池用正極活物質コーティング溶液は、金属グリコレートコーティング溶液であることが特徴である。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、グリコール系溶媒の存在下で金属前駆体化合物とキレート剤を混合加熱することにより、二次電池用正極活物質の表面に充放電効率を向上させることができる均一な厚さの金属酸化物コーティング層を形成することができる正極活物質コーティング溶液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例4に従って製造された金属酸化物コーティング層を含む正極活物質の表面に対するFE−SEM(Field−Emission Scanning Electron Microscope)写真である。
図2】本発明の実施例5に従って製造された金属酸化物コーティング層を含む正極活物質の表面に対するFE−SEM写真である。
図3】本発明の実施例6に従って製造された金属酸化物コーティング層を含む正極活物質の表面に対するFE−SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
最近、リチウムイオン二次電池の正極を高電圧で用いようとする要求が増大している状況であり、これにより、高温安全性に優れて製造コストが低く、容量及びサイクル特性に優れた正極活物質を製造するための方法に対する研究が台頭している。その一例として、熱安全性及びサイクル特性を改善するために、従来の乾式または湿式コーティング法を用いて正極活物質の表面に金属酸化物をコーティングする方法が提案されている。しかし、既存の方法では、均一な厚さに金属酸化物をコーティングし難いため、その改善程度が未だ充分でない実情である。例えば、前記乾式コーティング法は、工程が簡単で、コストが安いとの長点がある反面、正極活物質の表面上に均一な厚さの金属酸化物コーティング層を形成し難いとの短点がある。前記湿式コーティング法は、均一な厚さの金属酸化物コーティング層の形成は可能であるが、電池特性を悪化させ得る陰イオンが金属酸化物コーティング層の表面に残存するだけでなく、充放電効率をより向上させることができる均一な厚さの金属酸化物層を形成(コーティング)し難いとの短点がある。
【0015】
よって、本発明では、既存のコーティング方法等の短点を改善すると同時に、二次電池用正極活物質の表面上に充放電効率を向上させ得る均一な厚さの金属酸化物コーティング層を形成することができる正極活物質コーティング溶液の製造方法と、このような方法によって製造されたコーティング溶液との提供を図る。特に、本発明の方法によって製造されたコーティング溶液の場合、一般的な湿式コーティング溶媒に存在して電池特性を悪化させていた陰イオンを含んでいないので、正極の充放電効率をより向上させることができる。
【0016】
具体的に、本発明の一具現例では、
グリコール系溶媒内に金属前駆体及びキレート剤を分散させて混合溶液を製造する段階;
前記混合溶液を1次加熱する段階;及び
前記混合溶液を2次加熱する段階を含む二次電池用正極活物質コーティング溶液の製造方法を提供する。
【0017】
先ず、本発明の方法において、前記グリコール系溶媒は、加熱過程時に金属前駆体から脱離された金属と結合(反応)し、金属有機化合物を形成する反応物の役割として添加される成分である。前記グリコール系溶媒の代表的な例としては、沸点が120から400℃の範囲である溶媒、例えば、エチレングリコール(bp 197℃)、プロピレングリコール(bp 188℃)、ジエチレングリコール(bp 245℃)、トリエチレングリコール(bp 285℃)及びポリエチレングリコールからなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を挙げることができ、これらに特に制限されはしない。このとき、前記グリコール系溶媒として沸点が120℃未満の溶媒を用いる場合、金属前駆体から脱離された金属との結合反応が起こらないため、金属有機化合物を形成し難いとの短所がある。
【0018】
このとき、本発明の方法において、前記金属前駆体は通常の金属であって、特に制限はないが、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ir、Ni、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、La及びCeからなる群から選択された金属を少なくとも一つ以上含有するアセテート(acetate)、ヒドロキシド(hydroxide)、ニトラート(nitrate)、ニトリド(nitride)、スルファート(sulfate)、スルフィド(sulfide)、アルコキシド(alkoxide)及びハライド(halide)からなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を含むことができる。より具体的に、前記金属前駆体の代表的な例としては、アルミニウムアセテート、ジルコニウムニトリド、またはマンガンアセテートを挙げることができる。
【0019】
また、本発明の方法において、前記キレート剤は、前記金属前駆体から金属が容易に脱離して前記グリコール系溶媒と金属の結合がより容易に行われ得るように添加する成分であって、その代表的な例として、クエン酸(citric acid)、EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)、シュウ酸(oxalic acid)及びグルコン酸(gluconic acid)からなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0020】
また、本発明の方法において、前記金属前駆体:グリコール系溶媒:キレート剤の含量比(重量部)は、1:1から500:0.1から20、具体的に1:1から100:0.1から20であることが好ましい。
【0021】
もし、前記グリコール系溶媒の含量が1重量部未満の場合は、金属前駆体から遊離される金属がグリコール系溶媒と全て反応できず、金属前駆体の状態で残存する問題点がある。また、グリコール系溶媒の含量が500重量部を超過する場合は、反応後、加熱段階で反応に参加しない大量のグリコール溶媒を蒸発させ除去する必要があるので、エネルギー及びグリコール溶媒の消耗が多く、溶媒の蒸発過程で副反応が発生する可能性があるとの短点がある。また、前記キレート剤の含量が0.1重量部未満の場合、キレート剤の効果が充分に発揮できないとの問題があり、20重量部を超過する場合は、多量のキレート剤が優先的に金属前駆体と反応しつつグリコール溶媒と金属前駆体との反応を阻害し、所望の金属有機化合物の生成収率が低下され得る。
【0022】
また、本発明の方法において、前記混合溶液を製造するとき、添加剤をさらに含むことができる。
【0023】
前記添加剤は、金属前駆体から脱離された金属とグリコール系溶媒との反応を促進させる触媒成分として含まれ、金属酸化物の生成効率を向上させることができる。前記添加剤は、加熱段階で全て蒸発、除去され、追ってコーティング層内に残留しない成分が好ましい。前記添加剤の代表的な例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリコ酸などからなる群から選択された単一物または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0024】
前記添加剤は、前記金属前駆体の全体1重量部に対して0.1から20重量部で含むことができる。もし、前記添加剤の含量が20重量部を超過する場合、副反応が誘発され、副産物が多量に生成される可能性がある。
【0025】
また、本発明の方法において、前記1次加熱段階は、反応が開始される温度であるグリコール系溶媒の沸点以下の温度または沸点以上の温度で行うことが好ましい。具体的に、前記1次加熱段階は100から300℃、具体的に110から230℃の温度条件下で1から48時間、具体的に5から20時間の間行うことができる。前記1次加熱段階は、金属前駆体の金属が全てグリコール溶媒と反応し、金属有機化合物を生成する時点を終結時点に設定して実施することができる。
【0026】
前記1次加熱後の混合溶媒の粘度は、約1から1000CPS(Centipoise)程度であってよく、具体的にグリコール系溶媒と似た粘度を有することができる。
【0027】
また、本発明の方法では、前記1次加熱後に冷却工程のような時間的な間隔を置かずに2次加熱段階を直ぐに実施することができる。このとき、前記2次加熱する段階は、グリコール系溶媒の沸点付近又はそれ以上の温度で行うことが好ましい。具体的に、前記2次加熱段階は、100から300℃、具体的に170から250℃の温度条件下で1から5時間の間実施することができる。例えば、前記グリコール系溶媒としてエチレングリコールを用いる場合、2次加熱する段階は、約180℃以上の温度で1から5時間の間実施することができる。
【0028】
前記2次加熱段階での終結時点は、反応物として用いられたグリコール系溶媒が充分に除去され金属グリコレート溶液を形成するときまで実施することができる。したがって、前記2次加熱する段階は、「加熱濃縮」の段階と称することができる。このとき、前記金属グリコレート溶液は、1から15,000CPS(Centipoise)、具体的に200から5,000CPS、より具体的に1,000から3,000CPSの粘度を有することができる。
【0029】
本発明の方法において、前記1次及び2次加熱段階は、Arなどの非活性ガス雰囲気下で実施することができる。
【0030】
このように、本発明の2次加熱段階によって金属グリコレート溶液を製造する場合、金属コーティング層を含む正極活物質の製造時にコーティング溶液の濃度を容易に調節することができ、よって、コーティング溶液の濃度に応じてコーティング条件を制御し、コーティング効能を向上させることができる。
【0031】
すなわち、本発明では、グリコール系溶媒(例えば、エチレングリコール)と金属前駆体及びキレート(例えば、クエン酸)を混合して混合溶液を製造した後、この混合溶液を加熱(濃縮)する間、下記反応式のようにグリコール系溶媒及びキレート剤の水素が脱離されつつ、グリコール系溶媒及びキレート剤の酸素が金属前駆体から脱離された金属イオンと互いに配位結合を形成することになる。その結果、金属前駆体から脱離された金属とグリコール系溶媒及びキレート剤が互いに結合しつつ、下記化学式(1)から(3)で表される金属有機化合物(metal organo−compound)を主成分として含む金属グリコレートコーティング溶液が得られる。
[反応式]
2Mn+ + n(C+ (C(8−n)n− → M(C + M(C(8−n)
[化1]
M(C (1)
[化2]
M(C(8−n)) (2)
[化3]
M(C(8−n))(C) (3)
(前記式で、Mは金属前駆体から脱離された金属であって、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ir、Ni、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、La及びCeからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属であり、nは1から4の整数である。)
【0032】
また、本発明のまた他の一具現例では、前記方法によって製造された金属有機化合物を含む金属グリコレートコーティング溶液、すなわち正極活物質コーティング溶液を提供する。より具体的に、本発明では、金属前駆体から脱離された金属とグリコール系溶媒及びキレート剤が結合された下記化学式(1)から(3)で表される金属有機化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの金属有機化合物成分を含む金属グリコレートコーティング溶液を提供することができる。
【0033】
[化4]
M(C (1)
[化5]
M(C(8−n)) (2)
[化6]
M(C(8−n))(C) (3)
(前記式で、Mは金属前駆体から脱離された金属であって、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ir、Ni、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、La及びCeからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属であり、nは1から4の整数である。)
【0034】
このように、本発明の方法によって製造された正極活物質コーティング溶液は、前記化学式(1)から(3)で表される2種以上の金属有機化合物を含むことにより、正極活物質の表面に均一な厚さの2種以上の金属酸化物層を塗布することができる。さらに、本発明の正極活物質コーティング溶液の場合、一般的な湿式コーティング溶媒に存在する陰イオンが存在しないので、正極活物質の表面で電池特性を悪化させ得る陰イオンの影響を最小限に抑えつつ、多様な金属酸化物コーティング層を形成することができる。
【0035】
また、本発明では、前記本発明の金属グリコレートコーティング溶液を用いて均一な厚さの金属酸化物コーティング層が形成された二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0036】
このとき、前記金属酸化物コーティング層の場合、本発明の金属グリコレートコーティング溶液を有機溶媒に希釈させた後と、通常の湿式ミキシング法を用いて正極活物質と混合して形成することができる。
【0037】
このとき、前記正極活物質は、通常のリチウム二次電池に使用可能なものであれば特に制限されず、例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、LiNi1−yCo、LiCo1−yMn、LiNi1−yMn(0≦y≦1)、Li(NiMnCo)O(0<a<2、0<b<2、0<c<2、a+b+c=2)、LiMn2−zNi、LiMn2−zCo(0<z<2)、LiCoPO及びLiFePOからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらのうち2種以上の混合物を用いることができる。また、このような酸化物の他に硫化物(sulfide)、セレン化物(selenide)及びハロゲン化物(halide)なども用いられてよい。
【0038】
また、本発明では、正極集電体、及び前記正極集電体上に塗布された前記コーティング溶液が表面にコーティングされた二次電池用正極活物質を含む二次電池用正極を提供する。
【0039】
前記正極集電体は、一般に3から500μmの厚さに製作される。このような正極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてよい。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態が可能である。
【0040】
また、本発明の一実施形態では、前記正極活物質を含む正極と、負極、分離膜、及びリチウム塩含有非水電解液からなるリチウム二次電池を提供する。
【0041】
前記負極は、例えば、負極集電体上に負極活物質を含んでいる負極合剤を塗布した後、乾燥して製造され、前記負極合剤には、必要に応じて前記で説明したところのような導電材、バインダー、充填剤などの成分が含まれてよい。
【0042】
前記負極集電体は、一般に3から500μmの厚さに製作する。このような負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム−カドミウム合金などが用いられてよい。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態に用いられてよい。
【0043】
前記分離膜は、正極と負極との間に介在され、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が用いられる。分離膜の気孔直径は、一般に0.01から10μmであり、厚さは一般に5から300μmである。
【0044】
このような分離膜としては、例えば、耐化学性及び疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー;ガラス繊維またはポリエチレンなどで作られたシートや不織布などが用いられる。電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合は、固体電解質が分離膜を兼ねることもできる。
【0045】
前記リチウム塩含有非水系電解液は電解液とリチウム塩とからなり、前記電解液には、非水系有機溶媒または有機固体電解質などが用いられる。
【0046】
前記非水系有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカルボネート、エチレンカルボネート、ブチレンカルボネート、ジメチルカルボネート、ジエチルカルボネート、ガンマ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカルボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒が用いられてよい。
【0047】
前記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン(agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合剤などが用いられてよい。
【0048】
前記リチウム塩は、前記非水系電解質に溶解され易い物質であって、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB1010、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSONLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4−フェニルホウ酸リチウム、イミドなどが用いられてよい。
【0049】
また、電解液には、充放電特性、難燃性などの改善を目的として、例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノン、N,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2−メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが添加されてもよい。場合によっては、不燃性を与えるため、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒をさらに含ませることもでき、高温保存特性を向上させるため、二酸化炭酸ガスをさらに含ませることもできる。
【0050】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は、いくつかの他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記で詳述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【実施例】
【0051】
(実施例1.正極活物質コーティング溶液の製造)
200gのエチレングリコール(C)溶液内に20gのアルミニウムアセテート(Al(C)と20gのクエン酸(C)を分散した後、攪拌して混合溶液を製造した。前記混合溶液を攪拌しつつ141℃の温度で5時間の間1次加熱した後、180℃の温度で混合溶液が濃縮(約1000CPS)されるまで1時間の間2次加熱し、下記式(1a)及び(2a)のように表される金属有機化合物を主成分として含む正極活物質コーティング液(1)を製造した。
[化7]
Al(C (1a)
[化8]
Al(C) (2a)
【0052】
(実施例2.正極活物質コーティング溶液の製造)
200gのエチレングリコール(C)溶液内に40gのジルコニウムニトリド(ZrN)と10gのクエン酸(C)を分散した後、攪拌して混合溶液を製造した。前記混合溶液を攪拌しつつ150℃の温度で5時間の間1次加熱した後、180℃の温度で混合溶液が濃縮(約1000CPS)されるまで1時間の間2次加熱し、下記式(1b)及び(3a)のように表される金属有機化合物を主成分として含む正極活物質コーティング液(2)を製造した。
[化9]
Zr(C (1b)
[化10]
Zr(C)(C) (3a)
【0053】
(実施例3.正極活物質コーティング溶液の製造)
400gのエチレングリコール(C)溶液内に70gのマンガンアセテート(Mn(CH)と20gのクエン酸(C)と5gのホルムアルデヒドを分散した後、攪拌して混合溶液を製造した。前記混合溶液を攪拌しつつ140℃の温度で4時間の間1次加熱した後、180℃の温度で混合溶液が濃縮(約1000CPS)されるまで1時間の間2次加熱し、下記式(1c)及び(2c)のように表される金属有機化合物を主成分として含む正極活物質コーティング液(3)を製造した。
[化11]
Mn(C (1c)
[化12]
Mn(C) (2c)
(前記式で、mは1から3の整数である。)
【0054】
(実施例4.金属酸化物コーティング層を含む正極活物質の製造)
エタノール8gに前記実施例1で製造した化学式(1)の正極活物質コーティング溶液2gを添加して攪拌しつつ、正極活物質(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)O)50gを添加してペースト状態に撹拌した。攪拌されたペーストを180℃で2時間乾燥した後、800℃の空気中で1時間熱処理し、約0.2重量%のアルミニウムオキシド層が被覆された正極活物質粒子を製造した。
【0055】
製造された正極活物質の表面に対するFE−SEM(Field−Emission Scanning Electron Microscope)及びEDS(Energy Dispersive Spectrometer)分析の結果を下記表1に表した(図1参照)
【0056】
【表1】
【0057】
図1を検討してみると、FE−SEMイメージでスペクトル4と表記した部分に対する元素含量をEDSで分析した。その結果、正極材Ni、Mn、Coが酸化物の形で存在することが分かり、コーティング物質であるAlが0.49重量%と分析された。さらに、FE−SEMイメージで正極活物質の表面が非常にきれいなことを確認することができ、このことからAlが非常に均一にコーティングされていることが分かる。
【0058】
(実施例5.金属酸化物コーティング層を含む正極活物質の製造)
エタノール8gに前記実施例2で製造した正極活物質コーティング溶液2gを添加して攪拌しつつ、正極活物質(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)O)50gを添加してペースト状態に撹拌した。攪拌されたペーストを180℃で2時間乾燥した後、500℃の空気中で1時間熱処理し、約0.2重量%のジルコニウムオキシド層が被覆された正極活物質粒子を製造した。
【0059】
製造された正極材の表面に対するFE−SEM及びEDS分析の結果を下記表2に表した(図2参照)。
【0060】
【表2】
【0061】
図2を検討してみると、FE−SEMイメージでスペクトル11と表記した部分に対する元素含量をEDSで分析した。その結果、正極材Ni、Mn、Coが酸化物の形で存在することが分かり、コーティング物質であるZrが0.72重量%と分析された。さらに、FE−SEMイメージで正極活物質の表面が非常にきれいなことを確認することができ、このことからZrが非常に均一にコーティングされていることが分かる。
【0062】
(実施例6.金属酸化物コーティング層を含む正極活物質の製造)
エタノール8gに前記実施例3で製造した正極活物質コーティング溶液2gを添加して攪拌しつつ、正極活物質(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)O)50gを添加してペースト状態に撹拌した。攪拌されたペーストを180℃で2時間乾燥した後、700℃の空気中で1時間熱処理し、約0.2重量%のマンガンオキシド層が被覆された正極活物質粒子を製造した。
【0063】
製造された正極材の表面に対するFE−SEM及びEDS分析の結果を表3に表した(図3参照)。
【0064】
【表3】
【0065】
図3を検討してみると、FE−SEMイメージでスペクトル6と表記した部分に対する元素含量をEDSで分析した。その結果、正極材Ni、Mn、Coが酸化物の形で存在することが分かり、コーティング物質であるMnが11.61重量%でCo 10.45重量%と比較すると、マンガンコーティングによって約1重量%でMnがコーティングされていることが分かった。さらに、FE−SEMイメージで正極活物質の表面が非常にきれいなことを確認することができ、このことからMnが非常に均一にコーティングされていることが分かる。
図1
図2
図3