特許第6050566号(P6050566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050566
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】試験測定機器
(51)【国際特許分類】
   G01R 23/16 20060101AFI20161212BHJP
   G01R 13/20 20060101ALI20161212BHJP
   G01R 13/32 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01R23/16 D
   G01R13/20 N
   G01R13/32 D
   G01R23/16 E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-95236(P2011-95236)
(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公開番号】特開2011-242388(P2011-242388A)
(43)【公開日】2011年12月1日
【審査請求日】2014年4月8日
(31)【優先権主張番号】12/779,732
(32)【優先日】2010年5月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391002340
【氏名又は名称】テクトロニクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・エフ・ターピン
(72)【発明者】
【氏名】キャサリン・エイ・エングホルム
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−286908(JP,A)
【文献】 特開2003−084037(JP,A)
【文献】 特開平07−013515(JP,A)
【文献】 特開2009−270896(JP,A)
【文献】 特開2006−186994(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0082982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 23/16
G01R 13/20
G01R 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数(RF)入力信号を受け、デジタル信号を発生するアナログ・デジタル変換器と、
上記デジタル信号からのデジタル・データをターゲット・イメージに変換し、コンピュータ・ビジョン技術を用いて、上記ターゲット・イメージの一部分が基準イメージに類似しているか否か判断することによって、上記ターゲット・イメージ内描写された特定変調規格による特定信号成分、上記ターゲット・イメージ内に描写された他の信号成分と区別して認識するプロセッサと
を具えた試験測定機器。
【請求項2】
上記ターゲット・イメージは、上記RF入力信号の密度又は振幅若しくはパワーを色で表したイメージであって、上記プロセッサは、特定の色に限定して、上記基準イメージに対する上記ターゲット・イメージの上記一部分の類似性を判断することを特徴とする請求項1記載の試験測定機器
【請求項3】
無線周波数(RF)入力信号を受け、デジタル信号を発生するアナログ・デジタル変換器と、
上記デジタル信号からのデジタル・データをターゲット・イメージに変換し、コンピュータ・ビジョン技術を用いて、上記ターゲット・イメージの一部分が基準イメージに類似しているか否か判断することによって、上記ターゲット・イメージ内に描写された特定変調規格による特定信号成分、上記ターゲット・イメージ内に描写された他の信号成分と区別して認識し、上記特定信号成分が認識されたときにトリガ信号を発生するトリガ検出器と、
上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からの上記デジタル・データを蓄積するメモリと
を具えた試験測定機器。
【請求項4】
上記ターゲット・イメージは、上記RF入力信号の密度又は振幅若しくはパワーを色で表したイメージであって、上記プロセッサは、特定の色に限定して、上記基準イメージに対する上記ターゲット・イメージの上記一部分の類似性を判断することを特徴とする請求項3記載の試験測定機器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験測定機器、特に、取込み信号の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人のテクトロニクス社製RSA6100シリーズ及びRSA3400シリーズの如き実時間スペクトラム・アナライザは、RF信号を実時間でトリガし、捕捉し、分析する。これら試験測定機器は、RF信号をシームレスに捕捉するので、従来の掃引型スペクトラム・アナライザ及びベクトル信号アナライザと異なり、特定の帯域幅内でデータを逃すことがない。
【0003】
経験豊富なユーザは、実時間スペクトラム・アナライザの表示を調べて、これら視覚的な様子に基づいて異なる形式の信号を認識できる。経験豊富なユーザは、信号の帯域幅、継続時間、振幅又はパワー、スペクトラムのローブの数及び形、その他の視覚的な手がかりを観察でき、この観察に基づいて、特定の変調規格に基づいて信号が変調されているか否かを判断できると共に、特定の送信器により信号を伝送できるかなどを判断できる。ユーザは、かかる情報を用いて、その信号に適切な測定を選択できる。


【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−329979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ユーザに信号の認識を要求することは、時間がかかり、ユーザにとって不便である。更に、いくつかの場合には、不慣れなユーザが信号を識別する必要があり、専門家の意見が得らない。
【0006】
上述の従来技術の欠点を克服するために、ユーザの関与なしに、信号を自動的に認識できる試験測定機器が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の概念は、次の通りである。
(1)入力信号を受け、デジタル信号を発生するアナログ・デジタル変換器と;上記デジタル信号からのデジタル・データをターゲット・イメージに変換し、コンピュータ・ビジョン技術を用いて上記ターゲット・イメージ内の描写された信号を認識するプロセッサとを具えた試験測定機器。
(2)上記プロセッサが上記デジタル・データを実時間で処理する概念1の試験測定機器。
(3)トリガ信号に応答して上記デジタル・データがメモリに蓄積された後に、上記プロセッサが上記デジタル・データを処理する概念1の試験測定機器。
(4)入力信号を受け、デジタル信号を発生するアナログ・デジタル変換器と;上記デジタル信号からのデジタル・データをターゲット・イメージに変換し、コンピュータ・ビジョン技術を用いて上記ターゲット・イメージ内に描写された信号を認識し、該信号が認識されたときにトリガ信号を発生するトリガ検出器と;上記トリガ信号に応答して上記デジタル信号からのデジタル・データを蓄積するメモリとを具えた試験測定機器。
(5)上記ターゲット・イメージ内の上記信号の場所が表示器上で識別される概念1の試験測定機器。
(6)上記ターゲット・イメージ内の上記信号の場所を用いて測定を行う概念1の試験測定機器。
(7)上記コンピュータ・ビジョン技術は、オブジェクト認識技術である概念1の試験測定機器。
(8)上記オブジェクト認識技術は、テンプレート・マッチングであり、上記プロセッサは、基準イメージに基づいて上記信号を認識する概念7の試験測定機器。
(9)上記コンピュータ・ビジョン技術は、イメージ処理技術である概念1の試験測定機器。
(10)上記ターゲット・イメージは、周波数スペクトラムを描写する概念1の試験測定機器。
(11)上記ターゲット・イメージは、スペクトログラムを描写する概念1の試験測定機器。
(12)上記ターゲット・イメージは、周波数対時間のグラフ、振幅又はパワー対時間のグラフ、位相対時間のグラフ、I/Q対時間のグラフ、アイ・ダイアグラム、コンスタレーション・ダイアグラム、コードグラム、相補的累積分布関数から成るグループから選択された視覚化を描写する概念1の試験測定機器。
(13)上記プロセッサは、上記ターゲット・イメージの部分が上記基準イメージに類似していると判断することにより、上記信号を認識する概念8の試験測定機器。
(14)上記プロセッサは、上記ターゲット・イメージの部分が上記基準イメージに類似していないと判断することにより、上記信号を認識する概念8の試験測定機器。
(15)上記プロセッサは、複数の基準イメージに基づいて上記信号を認識し、上記基準イメージの各々が上記信号の部分に対応する概念8の試験測定機器。
(16)上記プロセッサは、上記デジタル・データを複数のシーケンシャル・ターゲット・イメージに変換し、該複数のシーケンシャル・ターゲット・イメージ内の複数の信号を認識する概念8の試験測定機器。
(17)上記プロセッサは、上記基準イメージを上記現在のターゲット・イメージ又は以前のターゲット・イメージと交換することにより、上記基準イメージを周期的に更新する概念8の試験測定機器。
(18)蓄積された基準イメージのライブラリに基づいて上記プロセッサが上記基準イメージを判断する概念8の試験測定機器。
(19)上記プロセッサは、上記ターゲット・イメージの特定領域内の上記信号を検索する概念1の試験測定機器。
(20)上記プロセッサは、特定の振幅又はパワーを有する信号を検索する概念1の試験測定機器。
(21)上記試験測定機器器は、実時間スペクトラム・アナライザ、ベクトル信号アナライザ、掃引型スペクトラム・アナライザ及びオシロスコープから成るグループから選択された概念1の試験測定機器。
(22)上記ターゲット・イメージ内の上記信号の場所は、表示器上で識別される概念4の試験測定機器。
(23)上記ターゲット・イメージ内の上記信号の場所を用いて、測定を実行する概念4の試験測定機器。
(24)上記コンピュータ・ビジョン技術は、オブジェクト認識技術である概念4の試験測定機器。
(25)上記オブジェクト認識技術がテンプレート・マッチングであり、上記トリガ検出器が基準イメージに基づいて上記信号を認識する概念24の試験測定機器。
(26)上記コンピュータ・ビジョン技術がイメージ処理技術である概念4の試験測定機器。
(27)上記ターゲット・イメージが周波数スペクトラムを描写する概念4の試験測定機器。
(28)上記ターゲット・イメージがスペクトログラムを描画する概念4の試験測定機器。
(29)上記ターゲット・イメージは、周波数対時間のグラフ、振幅又はパワー対時間のグラフ、位相対時間のグラフ、I/Q対時間のグラフ、アイ・ダイアグラム、コンスタレーション・ダイアグラム、コードグラム、相補的累積分布関数から成るグループから選択された視覚化を描写する概念4の試験測定機器。
(30)上記トリガ検出器は、上記ターゲット・イメージの部分が上記基準イメージに類似していることを判断することにより、上記信号を認識する概念25の試験測定機器。
(31)上記トリガ検出器は、上記ターゲット・イメージの部分が上記基準イメージに類似していないことを判断することにより、上記信号を認識する概念25の試験測定機器。
(32)上記トリガ検出器が複数の基準イメージに基づいて上記信号を認識し、上記基準イメージの各々が上記信号の部分に対応する概念25の試験測定機器。
(33)上記トリガ検出器は、上記デジタル・データを複数のシーケンシャル・ターゲット・イメージに変換し、上記複数のシーケンシャル・ターゲット・イメージ内の複数の信号を認識する概念25の試験測定機器。
(34)上記トリガ検出器は、上記基準イメージを上記現在の又は以前のターゲット・イメージの部分と交換して、上記基準イメージを周期的に更新する概念25の試験測定機器。
(35)蓄積された基準イメージのライブラリに基づいて、上記トリガ検出器が上記基準イメージを決定する概念25の試験測定機器。
(36)上記トリガ検出器は、上記ターゲット・イメージの特定領域内の上記信号を検索する概念4の試験測定機器。
(37)上記トリガ検出器は、特定の振幅又はパワーを有する信号を検出する概念4の試験測定機器。
(38)上記試験測定機器器は、実時間スペクトラム・アナライザ、ベクトル信号アナライザ、掃引型スペクトラム・アナライザ及びオシロスコープから成るグループから選択された概念4の試験測定機器。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明は、入力信号を表すデジタル・データを処理してターゲット・イメージを発生し、コンピュータ・ビジョン技術を用いてターゲット・イメージ内に描写された信号を認識する試験測定機器を提供できる。本発明の実施例において、ターゲット・イメージ内の信号の場所は、表示器上で識別できる。他の実施例において、ターゲット・イメージ内の信号の場所を用いて、測定を実行できる。別の実施例において、信号が認識されると、トリガ信号を発生して、入力信号を表すデジタル・データをメモリ内に蓄積できる。
【0009】
本発明の目的、利点及びその他の新規な特徴は、添付図を参照した以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実時間スペクトラム・アナライザのブロック図である。
図2】本発明の実施例による動作を説明する流れ図である。
図3】ターゲット・イメージを示す図である。
図4】基準イメージを示す図である。
図5図4の基準イメージに図3のターゲット・イメージを相関させた結果を示す図である。
図6図5に示す結果の別の図である。
図7図3のターゲット・イメージ内で認識された信号の場所を示す図である。
図8】エッジ検出のアプリケーションの後の図3のターゲット・イメージを示す図である。
図9】ターゲット・イメージを示す図である。
図10図9のターゲット・イメージ内で認識された信号の場所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実時間スペクトラム・アナライザ100のブロック図である。実時間スペクトラム・アナライザ100は、無線周波数(RF)入力信号を受け、オプションとして、ミキサ105、局部発振器(LO)110及びフィルタ115を用いて、このRF入力信号をダウン・コンバージョンし、中間周波数(IF)信号を発生する。アナログ・デジタル変換器(ADC)120は、IF信号をデジタル化して、このIF信号を表すデジタル・データの連続ストリームを発生する。デジタル・データを2つのパスで処理する。第1パスにおいて、デジタル・データをプロセッサ125に入力する。このプロセッサ125は、「イメージ」と呼ばれるデータ構造にデジタル・データを変換し、オプションとして、このイメージに基づいて1つ以上の測定を行って、デジタル・データを実時間で分析する。第2パスにおいて、デジタル・データをメモリ135(実施例では、循環バッファにより構成)に入力すると共に、トリガ検出器140にも入力する。トリガ検出器140は、デジタル・データを実時間で処理して、処理したデータをユーザ指定トリガ条件と比較する。処理済みデジタル・データがトリガ条件を満足すると、トリガ検出器140がトリガ信号を発生し、メモリ135がデジタル・データのブロックを蓄積する。次に、プロセッサ125は、蓄積されたデジタル・データをイメージに変換し、オプションとして、そのイメージに基づいて1つ以上の測定を実行することにより、蓄積されたデータを分析する。イメージ又は任意の測定結果が表示器130上に表示されるか、蓄積装置(図示せず)に蓄積される。
【0012】
「イメージ」は、入力信号の種々の視覚化の任意の1つを描写するデータ構造である。係る視覚化の1つは、「周波数スペクトラム」である。周波数スペクトラムを形成するには、高速フーリエ変換、チャープZ変換などの周波数変換を用いて、デジタル・データのフレームを変換する。
【0013】
テクトロニクス社の実時間スペクトラム・アナライザは、「デジタル・フォスファ」又は「DPX(登録商標)」と呼ばれる技術を用いて、「DPXスペクトラム」と呼ばれる特殊な周波数スペクトラムを発生している。DPXスペクトラムを形成するには、デジタル・データの連続ストリームを一連の周波数スペクトラムに実時間で変換し、この周波数スペクトラムをデータベースに累積する。このデータベースは、振幅の特定場所又は「密度」と呼ばれるパワー対周波数の空間で入力信号が占める測定期間での時間に対する百分率の正確な測定結果を提供する。DPXスペクトラムが一般的に表示され、x軸が周波数で、y軸が振幅又はパワーで、パワー対周波数空間での各ポイントの色又は輝度が表すz軸が密度である。DPX取込み及び表示技術は、従来のスペクトラム・アナライザ及びベクトル信号アナライザが全く捕捉できない短期間又は希なイベントの如き信号の細部を捕捉する。DPXに関するより詳細な情報は、テクトロニクス社が2009年に発行した技術情報文献「DPX Acquisition Technology for Spectrum Analyzers Fundamentals(スペクトラム・アナライザ用DPX取込み技術の基本)」に記載されている。
【0014】
かかる視覚化の他のものは、「スペクトログラム」である。スペクトログラムを形成するには、周波数スペクトラムを表す一連の色付きラインにデジタル・データのフレームを変換し、各ラインを並べて配置してイメージを形成する。ここで、イメージの各「スライス」は、1つの周波数スペクトラムに対応する。スペクトログラムは、一般に、x軸が周波数であり、y軸が時間であり、時間対周波数空間内の異なる振幅又はパワーの値異なる色又は輝度で示すことによって表示される。スペクトログラムは、周波数及び振幅又はパワーの状態が時間に伴なってどのように変化するかに関する直感的な視覚化を提供する。
【0015】
図2は、本発明の実施例による動作を説明する流れ図である。プロセッサ125は、次のステップ処理により、デジタル・データを処理する。すなわち、ステップ1にて、デジタル・データを「ターゲット・イメージ」と呼ばれるイメージに変換する。ステップ2にて、コンピュータ・ビジョン技術を用いて、ターゲット・イメージ内に描写された信号を認識する。
【0016】
「コンピュータ・ビジョン」とは、人工システムの理論に基づき、イメージから情報を抽出することであり、即ち、コンピュータにより「調べる」ことである。コンピュータ・ビジョンのある特定アプリケーションは、「オブジェクト認識」であり、イメージが特定のオブジェクトを描画しているか否かを判断するタスクである。例として、キノン株式会社が販売しているEOS_50Dの如きデジタル・カメラは、オブジェクト認識を用いて、カメラの視野が形成したイメージが人間の顔を検出したかを自動的に判断している。これは、「顔検出」と呼ばれる機能である。
【0017】
種々のオブジェクト認識技術が存在する。「テンプレート・マッチング」と呼ばれるオブジェクト認識技術では、「ターゲット・イメージ」と呼ばれる第1イメージに対して、「基準イメージ」と呼ばれる第2イメージと類似な領域を検索する。この検索は、典型的には、2次元相関を用いて実行する。
【0018】
次に説明する例は、どのようにテンプレート・マッチングを用いて、ターゲット・イメージ内に描画される信号を認識するかを示している。図3は、入力信号のDPXスペクトラム300のイメージを示し、このイメージは、FMラジオ・バンドにおける多数の放送チャネルに対応するいくつかの周波数でのパワーを含んでいる。信号320、330及び335は、HD_Radio(商標)信号(特に、インバンド、オンチャネル(In-Band On-Channel)であり、IBOCと呼ばれる)であり、アナログ及びデジタルの両方である。また、信号305、310、315、325、340及び345は、アナログのみである。この例において、オブジェクトは、テンプレート・マッチングを用いており、HD信号のモデルとして信号330を用いて周波数スペクトラム300内に描写されたHD信号を認識する。よって、ターゲット・イメージは、周波数スペクトラム300のイメージであり、基準イメージは、HD信号330に対応する周波数スペクトラム300の部分、特に、図4に示すイメージ400である。
【0019】
ターゲット・イメージ300全体にわたって基準イメージ400を2次元相関相関させることにより、図5に示す結果500が生じる。最大ピーク530がHD信号330に対応し、これは、基準イメージ400と全く同じである。次に大きな2つのピーク520及び535は、他の2つのHD信号320及び335に対応し、これらは、基準イメージ400に類似するが同じではない。小さなピークは、非HD信号に対応し、基準イメージ400に類似しない。図6は、異なる視点からの相関500の結果である別の表示600を示す。種々の方法で、例えば、ピーク620、630及び635を相関しきい値650と比較して、これらピークを識別できる。相関しきい値650を超えたピークは「認識」すべき基準イメージ400に十分類似し、HD信号の場所を定めているとみなせる。
【0020】
実施例において、認識した信号の場所は、表示器130上で視覚的に識別される。例えば、図7に示す如く、ボックス720、730及び735は、周波数スペクトラム700内のHD信号の場所を示し、基準イメージ400に類似する程度は、ボックスのフレームの色又は輝度により示される。
【0021】
実施例において、コンピュータ・ビジョン技術の前に、種々のイメージ処理技術の任意の1つを基準イメージ及び/又はターゲット・イメージに適用することにより、コンピュータ・ビジョン技術の精度を高める。かかるイメージ処理技術の1つである「エッジ検出」を用いて、基準イメージ及びターゲット・イメージの特徴を検出し、より関係のない情報を濾波する一方、重要な構成特性を保護する。例えば、エッジ検出の後、図3に示す周波数スペクトラム300が図8に示すように現れる。信号内のノイズの支配に留意されたい。このノイズは、エッジ検出の前にスムージング又は濾波により除去できる。また、「アップリフト」表す各信号下のアーティファクトがノイズ・フロアーに影響する。
【0022】
実施例において、ターゲット・イメージは、図9に示すスペクトログラムを描写する。この場合、コンピュータ・ビジョン技術は、信号の大きなフィールドの中から類似信号のグループを認識するのに特に有用である。例えば、図10に示すように、コンピュータ・ビジョン技術を用いて、類似の帯域幅及び継続時間を有する信号を認識できるので、ホッピング信号1005及び1010の2つのシーケンスを認識できる。
【0023】
ターゲット・イメージは、上述のように周波数スペクトラム又はスペクトログラムを描写するのに限定されないが、一般的に、入力信号の任意の視覚化を描写していることが明らかである。この視覚化は、周波数領域、時間領域、変調領域、コード領域、統計領域の如き任意の領域で入力信号を描写できる。周波数領域の視覚化は、周波数スペクトラム、スペクトログラムなどを含む。時間領域視覚化は、周波数対時間、振幅又はパワー対時間、位相対時間、I/Q対時間、アイ・ダイアグラムなどのグラフを含む。変調領域視覚化は、コンスタレーション・ダイアグラムなどを含む。コード領域視覚化は、「コードグラム(codograms)」などを含む。統計領域視覚化は、相補的累積分布関数などのグラフを含む。
【0024】
実施例において、ターゲット・イメージ内で認識された信号の場所を用いて、測定を行なう。すなわち、ターゲット・イメージ内で認識された信号の場所が測定に渡され、この場所を用いて、例えば、ユーザがカーソルを配置して信号を手動で識別するのではなく、信号を自動的に識別できる。例えば、図3のHD信号320、330及び335を認識した後に、プロセッサ125が周波数スペクトラム300内のこれら信号の場所を用いて、チャネル間隔(認識した複数信号の水平中心の間の距離)、占有(認識した信号の各々の平均密度値)などを自動的に測定できる。同様に、図10のホッピング信号1005及び1010の2つのシーケンスを作るエネルギーの個別バーストを認識した後、プロセッサ125は、スペクトログラム1000内のエネルギーのバーストの場所を用いて、パルス帯域幅(エネルギーの各バーストの幅)、ホップ継続時間(エネルギーの各バーストの長さ)、送信器のオフ・タイム(同じグループにおけるエネルギーのあるバーストの底部とエネルギーの次のバーストの頂部の間の垂直距離)、ホップ幅(エネルギーの2つのバーストの中心の間の水平距離)などを自動的に測定する。ターゲット・イメージ内で認識された信号の場所を用いて、チャネル周波数、チャネル帯域幅、ピーク振幅、パルス・ホップ距離、繰り返しインターバルなどの実時間スペクトラム・アナライザで可能な他の測定の多くを自動化できることが明らかである。
【0025】
上述の実施例において、プロセッサ125は、1つの基準イメージに基づいて信号を認識する。代わりに、他の実施例において、プロセッサ125は、複数の基準イメージに基づいて信号を認識し、基準イメージの各々は、信号の部分に対応する。
【0026】
実施例において、プロセッサ125は、デジタル・データを複数のシーケンシャル・ターゲット・イメージに変換し、各ターゲット・イメージ内の信号を認識する。例えば、プロセッサ125は、第1ターゲット・イメージ内の第1信号、第2ターゲット・イメージ内の第2信号などを認識できる。代わりに、プロセッサ125は、特定数のターゲット・イメージ内の第1信号、次の特定数のターゲット・イメージ内の第2信号などを認識できる。この方法にて、プロセッサ125は、シーケンシャル試験パターンの如き信号の時間的進展を認識できる。
【0027】
実施例において、プロセッサ125は、ターゲット・イメージの特定領域内だけを検索する。例えば、ターゲット・イメージがスペクトログラムである場合、ターゲット・イメージの特定領域に検索を限定することは、時間対周波数空間における特定の周波数レンジ、特定の時間レンジ又は特定の領域に検索を限定することと等価である。
【0028】
上述の実施例において、プロセッサ125は、ターゲット・イメージの部分が基準イメージに類似していると判断することにより、信号を認識する。他の実施例において、プロセッサ125は、ターゲット・イメージの部分が基準イメージに類似していないと判断することにより、即ち、ターゲット・イメージの特定部分が期待通りに現れないと判断することにより、信号を認識する。
【0029】
実施例において、検索は、特定振幅又はパワーの信号に限定される。例えば、ターゲット・イメージがスペクトログラムであり、異なる振幅又はパワーの値が異なる色で示される場合、ターゲット・イメージは、特定の色の信号に限定される。
【0030】
種々の実施例において、基準イメージは、予め認識された信号のイメージ、ユーザが供給したイメージ、又は標準で定義されたイメージでもよい。種々の実施例において、基準イメージは、ユーザが特定してもよいし、標準で定義してもよいし、プロセッサ125が自動的に決定してもよい。
【0031】
実施例において、コマンド又はボタンを設けて、ユーザによって、プロセッサ125が基準イメージとして利用するためにイメージの一部を蓄積してもよい。
【0032】
実施例において、プロセッサ125は、基準イメージを現在又は以前のターゲット・イメージの部分と交換することによって基準イメージを周期的に更新する。例えば、新たなターゲット・イメージの各々によって、プロセッサ125が基準イメージを前のターゲット・イメージの特定部分、又はその前のターゲット・イメージの特定部分と交換するようにユーザが特定してもよい。他の例として、プロセッサ125が5秒ごとに基準イメージを最新のターゲット・イメージの特定部分と交換するようにユーザが特定してもよい。この方法において、プロセッサ125は、緩やかに進行する入力信号の変化を追跡して、突然の変化のみを認識するようにできる。
【0033】
実施例において、蓄積された基準イメージ(蓄積基準イメージ)のライブラリに基づいて、プロセッサ125が基準イメージを自動的に決定する。この場合、プロセッサ125は、蓄積基準イメージのライブラリに対して、信号を含むターゲット・イメージの部分を試験して、その信号が蓄積基準イメージの1つに類似であるかを判断する。この方法において、実時間スペクトラム・アナライザ100は、ユーザに未知の信号を自動的に識別できる。
【0034】
実施例において、トリガ検出器140は、次のステップを実行してデジタル・データを処理する。すなわち、(1)デジタル・データをターゲット・イメージに変換し、(2)コンピュータ・ビジョン技術を用いて、ターゲット・イメージ内に描写された信号を認識する。トリガ検出器140が信号を認識すると、トリガ検出器140がトリガ信号を発生する。上述の如く、トリガ信号により、メモリ135は、デジタル・データのブロックを蓄積する。蓄積されたデジタル・データをプロセッサ125により分析し、その結果を表示器130に表示するか、又は蓄積装置(図示せず)に蓄積できる。信号の認識において、トリガ検出器140は、プロセッサ125が用いた上述の技術を用いることができる。ユーザは、トリガ検出器140を用いて、従来のトリガ検出器のようにトリガ条件をパラメータ的に特定する(例えば、特定の振幅、周波数又はその他の特性でトリガする)のではなく、イメージが描写する信号の関心のある特徴でトリガできることが理解できよう。
【0035】
種々の実施例において、プロセッサ125及びトリガ検出器140は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれら2つの組合せで実現できるし、汎用マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、用途特定集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)などでもよい。
【0036】
上述の実施例では、実時間スペクトラム・アナライザについて説明したが、掃引型スペクトラム・アナライザ、ベクトル信号アナライザ及びオシロスコープの如く、入力信号をイメージに変換して、この入力信号が表すデジタル・データを処理する任意の試験測定機器に本発明の要旨を等しく適用できることが明らかであろう。
【0037】
本発明の実施例による試験測定機器は、ユーザが関与することなく信号を認識できるだけではなく、ユーザの能力よりも、迅速に、正確に、精密に、一貫性をもって信号を認識できることが明らかであろう。例えば、本発明の実施例による試験測定機器は、「密度プロファイル」と呼ばれる密度分布を有するDPXスペクトラム内に描写された信号を認識できる。これは、人間の目が信頼して識別するよりも正確に特定される。
【0038】
本発明が試験測定装置の分野で顕著な効果を奏することが上述から明らかであろう。本発明の特定実施例について図示し説明したが、本発明の要旨を逸脱することなく種々の変更をできることが理解できよう。
【符号の説明】
【0039】
100 実時間スペクトラム・アナライザ
105 ミキサ
110 局部発振器
115 フィルタ
120 アナログ・デジタル変換器
125 プロセッサ
130 表示器
135 メモリ
140 トリガ検出器
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