(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転する研磨テーブル上の研磨面に研磨対象の基板を押圧して基板上の導電膜を研磨し、研磨中に研磨テーブルに設置された渦電流センサにより導電膜の厚さを監視する研磨監視方法であって、
基板上の導電膜を砥粒を含んだ研磨液で研磨中に渦電流センサの出力信号を取得し、前記基板上の導電膜の研磨中であって渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号を用いて渦電流センサの出力調整量を算出し、該出力調整量を用いて前記基板上の導電膜の研磨中であって渦電流センサの上方に基板が存在する時の出力信号を補正して基板上の導電膜の厚さを監視することを特徴とする研磨監視方法。
前記渦電流センサの出力信号は、該渦電流センサのコイルを含む電気回路のインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を座標と定義したときに、導電膜の厚さが小さくなるに従って座標系の原点と前記座標との距離が短くなるような位置に前記座標を回転および移動させた座標として表されることを特徴とする請求項1記載の研磨監視方法。
前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、前記渦電流センサの上方に基板保持用のトップリングが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする請求項1記載の研磨監視方法。
前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、前記渦電流センサの上方に研磨面のドレッシング用のドレッサが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする請求項6記載の研磨監視方法。
前記渦電流センサの出力信号は、該渦電流センサのコイルを含む電気回路のインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を座標と定義したときに、導電膜の厚さが小さくなるに従って座標系の原点と前記座標との距離が短くなるような位置に前記座標を回転および移動させた座標として表されることを特徴とする請求項8記載の研磨装置。
前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、前記渦電流センサの上方に基板保持用のトップリングが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする請求項8記載の研磨装置。
前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、前記渦電流センサの上方に研磨面のドレッシング用のドレッサが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする請求項13記載の研磨装置。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲しながら段差がより大きくなるので、配線層数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理しなければならない。また光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面を平坦化処理する必要がある。
【0003】
従って、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨装置を用いて、セリア(CeO
2)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッドに供給しつつ半導体ウエハなどの基板を研磨パッドに摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
上述したCMPプロセスを行う研磨装置は、研磨パッドを有する研磨テーブルと、半導体ウエハ(基板)を保持するためのトップリング又は研磨ヘッド等と称される基板保持装置とを備えている。このような研磨装置は、半導体ウエハ(基板)の表面に形成されたバリア膜や金属膜などの導電膜を研磨する研磨工程に広く用いられている。研磨工程の終点検知や、研磨中における研磨条件の変更は、導電膜の厚さに基づいて決定されるため、研磨装置は、一般に、研磨中の導電膜の厚さを検出する膜厚検出器を備えている。膜厚検出器の代表的な装置として渦電流センサが挙げられる。
【0005】
渦電流センサは、研磨テーブル内に配置されており、基板の研磨中に、研磨テーブルの回転に伴い渦電流センサが基板の下方を通過している間基板上の導電膜に渦電流を誘起させ、この渦電流の磁界に起因するインピーダンスの変化から導電膜の厚さを検出するように構成されている。
図17は、半導体ウエハ(基板)の研磨を開始してから半導体ウエハ上の導電膜がクリアされる(無くなる)までの研磨時間(t)と渦電流センサの信号値との関係を示す図である。
図17に示すように、半導体ウエハの研磨開始直後は、導電膜が厚いため、渦電流センサの出力は高くなるが、研磨が進行するにつれて導電膜が薄くなるため、渦電流センサの信号値が低下していく。そして、導電膜がクリアされる(無くなる)と、渦電流センサの信号値が一定になる。この信号値が一定になった時点(特異点)を検出することにより、研磨終点に到達したことを判断することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、渦電流センサの周囲温度、研磨パッドへの水染みなどの使用環境の変化や、渦電流センサそのものの経時変化などにより、渦電流センサの出力信号の値がドリフト(平行移動)することがある。このように渦電流センサの出力信号の値がドリフトすると、
図17に示すように、実線から点線のようにグラフそのものが上方に略平行に移動する。この場合でも、特異点は同じように平行移動するので、研磨終点を検出することは可能である。しかしながら、導電膜を一部残して所定の厚みで研磨を停止する、または,低圧・低回転速度など異なる研磨条件に切り換えようとする場合、信号の値(Z2)を見て特徴点として検出する必要がある。このように信号の値に応じて特徴点を検知する場合、ドリフトによって渦電流センサの出力信号の値と膜厚との対応関係がずれてしまうので、検出すべき研磨時間に誤差が生じてしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、研磨装置の稼働率を低下させることなく渦電流センサの較正を行うことができ、精度の高い膜厚監視を可能とする研磨監視方法および研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の研磨監視方
法は、回転する研磨テーブル上の研磨面に研磨対象の基板を押圧して基板上の導電膜を研磨し、研磨中に研磨テーブルに設置された渦電流センサにより導電膜の厚さを監視する研磨監視方法であって、基板上の導電膜を
砥粒を含んだ研磨液で研磨中に渦電流センサの出力信号を取得し、
前記基板上の導電膜の研磨中であって渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号を用いて渦電流センサの出力調整量を算出し、該出力調整量を用いて
前記基板上の導電膜の研磨中であって渦電流センサの上方に基板が存在する時の出力信号を補正して基板上の導電膜の厚さを監視することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、回転する研磨テーブル上の研磨面に研磨対象の基板を押圧して基板上の導電膜を研磨する研磨工程を開始し、この研磨中の渦電流センサの出力信号を取得する。そして、渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号を用いて渦電流センサの出力調整量を算出する。渦電流センサの出力信号は、使用環境の変化や渦電流センサそのものの経時変化などによりドリフト(平行移動)することがあるが、前記出力調整量を用いて渦電流センサの上方に基板が存在する時の出力信号を補正することにより、ドリフト量に相当する分を出力信号から取り除くことができる。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの出力信号は、該渦電流センサのコイルを含む電気回路のインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を座標と定義したときに、導電膜の厚さが小さくなるに従って座標系の原点と前記座標との距離が短くなるような位置に前記座標を回転および移動させた座標として表されることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記出力信号の補正は、前記座標系の原点を移動させることにより行うことを特徴とする。
本発明によれば、渦電流センサのコイルを含む電気回路のインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を表す座標系の原点を平行移動させることにより、ドリフト量に相当する分を出力信号から取り除くことができる。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記補正により移動した座標系の原点と前記インピーダンスの座標との距離から前記導電膜の厚さを監視することを特徴とす
る。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、前記出力信号の補正は、前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のN回転数の平均値を使用することを特徴とする。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、
前記渦電流センサの上方に基板保持用のトップリングが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、
前記渦電流センサの上方
に研磨面のドレッシング用のドレッ
サが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする。
本発明によれば、渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、研磨面上または上方に何も存在していない時の出力信号のみを用いる。これにより、渦電流センサに影響を及ぼさない範囲の信号のみを用いることができる。
【0019】
本発明の研磨装置は、研磨面を有し回転する研磨テーブルと、前記研磨面に
砥粒を含んだ研磨液を供給する研磨液供給手段と、研磨対象の基板を前記研磨面に押圧して基板上の導電膜を研磨するトップリングと、前記研磨テーブル内に設置された渦電流センサと、前記渦電流センサの出力信号に基づいて導電膜の厚さを監視するモニタリング装置とを備え、前記モニタリング装置は、基板上の導電膜を
砥粒を含んだ研磨液で研磨中に渦電流センサの出力信号を取得し、
前記基板上の導電膜の研磨中であって渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号を用いて渦電流センサの出力調整量を算出し、該出力調整量を用いて
前記基板上の導電膜の研磨中であって渦電流センサの上方に基板が存在する時の出力信号を補正して基板上の導電膜の厚さを監視することを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの出力信号は、該渦電流センサのコイルを含む電気回路のインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分を座標と定義したときに、導電膜の厚さが小さくなるに従って座標系の原点と前記座標との距離が短くなるような位置に前記座標を回転および移動させた座標として表されることを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記出力信号の補正は、前記座標系の原点を移動させることにより行うことを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記補正により移動した座標系の原点と前記インピーダンスの座標との距離から前記導電膜の厚さを監視することを特徴とする。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、前記出力信号の補正は、前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のN回転数の平均値を使用することを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、
前記渦電流センサの上方に基板保持用のトップリングが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする。
本発明の好ましい態様によれば、前記渦電流センサの上方に基板が存在しない時の出力信号のうち、
前記渦電流センサの上方
に研磨面のドレッシング用のドレッ
サが存在しない領域からの出力信号のみを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体ウエハ等の基板上の導電膜の研磨工程中における渦電流センサの出力信号値に基づいて、渦電流センサの較正をソフトウエア上で行うことができる。したがって、研磨装置の稼働率を低下させることなく、精度の高い膜厚監視を継続的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る研磨監視方法および研磨装置の実施形態について
図1乃至
図16を参照して詳細に説明する。なお、
図1から
図16において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨テーブル1と、研磨対象物である半導体ウエハWを保持して研磨テーブル上の研磨パッドに押圧するトップリング10とを備えている。研磨テーブル1は、テーブル軸1aを介してその下方に配置される研磨テーブル回転モータ(図示せず)に連結されており、テーブル軸1aの回りに回転可能になっている。研磨テーブル1の上面には研磨パッド2が貼付されており、研磨パッド2の表面が半導体ウエハWを研磨する研磨面2aを構成している。研磨テーブル1の上方には研磨液供給ノズル3が設置されており、この研磨液供給ノズル3によって研磨テーブル1上の研磨パッド2に研磨液(スラリ)が供給されるようになっている。
図1に示すように、研磨テーブル1の内部には、渦電流センサ50が埋設されている。
【0025】
トップリング10は、トップリングシャフト11に接続されており、トップリングシャフト11は、トップリングヘッド12に対して上下動するようになっている。トップリングシャフト11の上下動により、トップリングヘッド12に対してトップリング10の全体を上下動させ位置決めするようになっている。トップリングシャフト11は、トップリング回転モータ(図示せず)の駆動により回転するようになっている。トップリングシャフト11の回転により、トップリング10がトップリングシャフト11の回りに回転するようになっている。
【0026】
トップリング10は、その下面に半導体ウエハなどの半導体ウエハWを保持できるようになっている。トップリングヘッド12はトップリングヘッドシャフト13を中心として旋回可能に構成されており、下面に半導体ウエハWを保持したトップリング10は、トップリングヘッド12の旋回により基板の受取位置から研磨テーブル1の上方に移動可能になっている。トップリング10は、下面に半導体ウエハWを保持して半導体ウエハWを研磨パッド2の表面(研磨面)に押圧する。このとき、研磨テーブル1およびトップリング10をそれぞれ回転させ、研磨テーブル1の上方に設けられた研磨液供給ノズル3から研磨パッド2上に研磨液を供給する。研磨液には砥粒としてセリア(CeO
2)やシリカ(SiO
2)を含んだ研磨液が用いられる。このように、研磨液を研磨パッド2上に供給しつつ、半導体ウエハWを研磨パッド2に押圧して半導体ウエハWと研磨パッド2とを相対移動させてウエハ上の金属膜等の導電膜を研磨する。金属膜としてはCu膜、W膜、Ta膜、Ti膜等が挙げられる。
【0027】
図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2をドレッシングするドレッシング装置20を備えている。ドレッシング装置20は、ドレッサアーム21と、ドレッサアーム21の先端に回転自在に取り付けられたドレッサ22と、ドレッサアーム21の他端に連結される揺動軸23と、揺動軸23を中心にドレッサアーム21を揺動(スイング)させる駆動機構としてのモータ(図示せず)とを備えている。ドレッサ22の下部はドレッシング部材22aにより構成され、ドレッシング部材22aは円形のドレッシング面を有しており、ドレッシング面には硬質な粒子が電着等により固定されている。この硬質な粒子としては、ダイヤモンド粒子やセラミック粒子などが挙げられる。ドレッサアーム21内には、図示しないモータが内蔵されており、このモータによってドレッサ22が回転するようになっている。揺動軸23は図示しない昇降機構に連結されており、この昇降機構によりドレッサアーム21が下降することでドレッシング部材22aが研磨パッド2の研磨面2aを押圧してドレッシングするようになっている。ドレッシング装置20は、ウエハの研磨が行われていないときに研磨パッド2をドレッシングすることができ、またウエハの研磨中にも研磨パッド2をドレッシングすることができるようになっている。
【0028】
図2は、研磨テーブル1と渦電流センサ50と半導体ウエハWとの関係を示す平面図である。
図2に示すように、渦電流センサ50は、トップリング1に保持された研磨中の半導体ウエハWの中心Cwを通過する位置に設置されている。符号C
Tは研磨テーブル1の回転中心である。例えば、渦電流センサ50は、半導体ウエハWの下方を通過している間、通過軌跡(走査線)上で連続的に半導体ウエハWの導電膜の厚さを検出できるようになっている。
【0029】
次に、本発明に係る研磨装置が備える渦電流センサ50について、
図3から
図6を用いてより詳細に説明する。
図3は、渦電流センサ50の構成を示す図であり、
図3(a)は渦電流センサ50の構成を示すブロック図であり、
図3(b)は渦電流センサ50の等価回路図である。
図3(a)に示すように、渦電流センサ50は、検出対象の金属膜等の導電膜mfの近傍にセンサコイル60を配置し、そのコイルに交流信号源52が接続されている。ここで、検出対象の導電膜mfは、例えば半導体ウエハW上に形成されたCu,Al,Au,Wなどの薄膜である。センサコイル60は、検出用のコイルであり、検出対象の導電膜に対して、例えば0.5〜5.0mm程度の近傍に配置される。
【0030】
渦電流センサには、導電膜mfに渦電流が生じることにより、発振周波数が変化し、この周波数変化から導電膜を検出する周波数タイプと、インピーダンスが変化し、このインピーダンス変化から導電膜を検出するインピーダンスタイプとがある。即ち、周波数タイプでは、
図3(b)に示す等価回路において、渦電流I
2が変化することで、インピーダンスZが変化し、信号源(可変周波数発振器)52の発振周波数が変化すると、検波回路54でこの発振周波数の変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。インピーダンスタイプでは、
図3(b)に示す等価回路において、渦電流I
2が変化することで、インピーダンスZが変化し、信号源(固定周波数発振器)52から見たインピーダンスZが変化すると、検波回路54でこのインピーダンスZの変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。
【0031】
インピーダンスタイプの渦電流センサでは、信号出力X、Y、位相、合成インピーダンスZ、が後述するように取り出される。周波数F、またはインピーダンスX、Y等から、導電膜の測定情報が得られる。渦電流センサ50は、
図1に示すように研磨テーブル1の内部の表面付近の位置に内蔵することができ、研磨対象の半導体ウエハに対して研磨パッドを介して対面するように位置し、半導体ウエハ上の導電膜に流れる渦電流から導電膜の変化を検出することができる。
【0032】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて具体的に説明する。交流信号源52は、1〜50MHz程度の固定周波数の発振器であり、例えば水晶発振器が用いられる。そして、交流信号源52により供給される交流電圧により、センサコイル60に電流I
1が流れる。導電膜mfの近傍に配置されたセンサコイル60に電流が流れることで、この磁束が導電膜mfと鎖交することでその間に相互インダクタンスMが形成され、導電膜mf中に渦電流I
2が流れる。ここでR1はセンサコイルを含む一次側の抵抗であり、L
1は同様にセンサコイルを含む一次側の自己インダクタンスである。導電膜mf側では、R2は渦電流損に相当する抵抗であり、L
2はその自己インダクタンスである。交流信号源52の端子a,bからセンサコイル側を見たインピーダンスZは、渦電流I
2によって発生する磁力線の影響で変化する。
【0033】
図4は、本発明の渦電流センサにおいて用いられているセンサコイルの構成例を示す概略図である。
図4に示すように、渦電流センサのセンサコイル60は、導電膜に渦電流を形成するためのコイルと、導電膜の渦電流を検出するためのコイルとを分離したもので、ボビン71に巻回された3個のコイル62,63,64により構成されている。ここで中央のコイル62は、交流信号源52に接続される発振コイルである。この発振コイル62は、交流信号源52より供給される電圧の形成する磁界により、近傍に配置される半導体ウエハW上の導電膜mfに渦電流を形成する。ボビン71の導電膜側には、検出コイル63が配置され、導電膜に形成される渦電流により発生する磁界を検出する。発振コイル62を挟んで検出コイル63の反対側にはバランスコイル64が配置されている。
【0034】
コイル62,63,64は、同じターン数のコイルにより形成され、検出コイル63とバランスコイル64とは互いに逆相に接続されている。導電膜が検出コイル63の近傍に存在すると、導電膜中に形成される渦電流によって生じる磁束が検出コイル63とバランスコイル64とに鎖交する。このとき、検出コイル63のほうが導電膜に近い位置に配置されているので、両コイル63,64に生じる誘起電圧のバランスが崩れ、これにより導電膜の渦電流によって形成される鎖交磁束を検出することができる。
【0035】
図5は、渦電流センサの詳細な構成を示す模式図である。交流信号源52は、水晶発振器からなる固定周波数の発振器を有しており、例えば、1〜50MHzの固定周波数の交流電流をセンサコイル60に供給する。交流信号源52で形成された交流電流は、バンドパスフィルタ120を介してセンサコイル60に供給される。センサコイル60の端子から出力された信号は、ブリッジ回路121および高周波アンプ123を経て、cos同期検波回路125およびsin同期検波回路126からなる同期検波部105に送られる。そして、同期検波部105によりインピーダンスの抵抗成分と誘導リアクタンス成分とが取り出される。
【0036】
同期検波部105から出力された抵抗成分と誘導リアクタンス成分からは、ローパスフィルタ127,128により不要な高周波成分(例えば5KHz以上の高周波成分)が除去され、インピーダンスの抵抗成分としての信号Xと誘導リアクタンス成分としての信号Yとがそれぞれ出力される。モニタリング装置(
図6参照)は、渦電流センサ50の出力信号X,Yを、回転処理、平行移動処理などで処理し、モニタリング信号としての距離Z(後述する)を算出する。そして、この距離Zの変化に基づいて膜厚の変化を監視する。なお、渦電流センサの出力信号X,Yに対する回転処理や平行処理などの所定の処理は、渦電流センサ50にて電気的に行ってもよく、またはモニタリング装置にて計算により行ってもよい。
【0037】
図6は、渦電流センサ50を備えた研磨装置の要部構成を示す図であり、
図6(a)は渦電流センサ50の制御部を含む全体構成を示す図であり、
図6(b)は渦電流センサ部分の拡大断面図である。
図6(a)に示すように、研磨装置の研磨テーブル1は矢印で示すようにその軸心まわりに回転可能になっている。研磨テーブル1内には、渦電流センサ50におけるセンサコイル60が埋め込まれている。センサコイル60は、交流信号源および同期検波回路を含むプリアンプ一体型のセンサコイルから構成されている。センサコイル60の接続ケーブルは、研磨テーブル1のテーブル軸1a内を通り、テーブル軸1aの軸端に設けられたロータリジョイント150を経由して、モニタリング装置55に接続されている。モニタリング装置55は制御装置(コントローラ)56に接続されている。
【0038】
図6(b)に示すように、研磨テーブル1に埋め込まれた渦電流センサ50の研磨パッド側の端面には4フッ化エチレン樹脂などのフッ素系樹脂のコーティングCを有することで研磨パッドをはがす場合に、研磨パッドと渦電流センサが共にはがれてこないようにできる。また渦電流センサの研磨パッド側の端面は研磨パッド2近傍のSiCなどの材料で構成された研磨テーブル1の面(研磨パッド側の面)からは0〜0.05mm凹んだ位置に設置され、研磨時にウエハに接触することを防止している。この研磨テーブル面と渦電流センサ面の位置の差はできる限り小さい方が良いが実際の装置では0.02mm前後に設定することが多い。またこの位置調整にはシム(薄板)151mによる調整やネジによる調整手段が取られる。
【0039】
次に、
図1乃至
図6に示すように構成された渦電流センサを備えた研磨装置において、研磨中の半導体ウエハ上の導電膜の膜厚を監視する方法について説明する。
図7(a)は、渦電流センサ50が半導体ウエハWの表面(被研磨面)を走査(スキャン)するときの軌跡と渦電流センサ50の出力との関係を示す。
図7(a)に示すように、渦電流センサ50は、研磨テーブル1の回転に伴い半導体ウエハWの下方を通過している間、半導体ウエハWの導電膜mfに反応して所定の信号値を出力するようになっている。
図7(b)は、研磨テーブル1の回転と渦電流センサ50の出力の関係を示す図である。
図7(b)において、横軸は研磨時間(t)であり、縦軸は渦電流センサ50の出力値である。
図7(b)に示すように、渦電流センサ50がウエハ内の領域(A)にあるときには、半導体ウエハ上の導電膜mfに反応した概略方形パルス状の出力となり、渦電流センサ50がウエハ外の領域(B)にあるときには、一定レベルの低出力となる。
【0040】
次に、
図7に示す渦電流センサ50の出力に基づいて半導体ウエハW上の導電膜の膜厚を検出する原理を説明する。
図3(b)に示す回路において、交流信号源52から高周波の交流電流I
1をセンサコイル60に流すと、センサコイル60に誘起された磁力線が導電膜中を通過する。これにより、センサ側回路と導電膜側回路との間に相互インダクタンスが発生し、導電膜には渦電流I
2が流れる。この渦電流I
2は磁力線を発生し、これがセンサ側回路のインピーダンスを変化させる。渦電流センサは、このセンサ側回路のインピーダンスの変化から導電膜の膜厚を検出する。
【0041】
図3(b)に示すセンサ側回路と導電膜側回路には、それぞれ次の式が成り立つ。
R
1I
1+L
1dI
1/dt+MdI
2/dt=E (1)
R
2I
2+L
2dI
2/dt+MdI
1/dt=0 (2)
ここで、Mは相互インダクタンスであり、R
1はコイル1を含むセンサ側回路の等価抵抗であり、L
1はコイル1を含むセンサ側回路の自己インダクタンスである。R
2は渦電流損に相当する等価抵抗であり、L
2は渦電流が流れる導電膜の自己インダクタンスである。
【0042】
ここで、I
n=A
ne
jωt(正弦波)とおくと、上記式(1),(2)は次のように表される。
(R
1+jωL
1)I
1+jωMI
2=E (3)
(R
2+jωL
2)I
2+jωMI
1=0 (4)
これら式(3),(4)から、次の式が導かれる。
I
1=E(R
2+jωL
2)/{(R
1+jωL
1)(R
2+jωL
2)+ω
2M
2}
=E/{(R
1+jωL
1)+ω
2M
2/(R
2+jωL
2)} (5)
【0043】
したがって,センサ側回路のインピーダンスΦは、次の式で表される。
Φ=E/I
1
={R
1+ω
2M
2R
2/(R
22+ω
2L
22)
+jω{L
1−ω
2L
2M
2/(R
22+ω
2L
22)} (6)
ここで、Φの実部(抵抗成分)、虚部(誘導リアクタンス成分)をそれぞれX,Yとおくと、上記式(6)は、次のようになる。
Φ=X+jωY (7)
【0044】
図8は、研磨時間とともに変化するX,Yを、XY座標系上にプロットすることで描かれるグラフを示す図である。
図8の座標系はY軸を縦軸とし、X軸を横軸とした座標系である。点T∞の座標は、膜厚が無限大であるとき、すなわち、R
2が0のときのX,Yの値であり、点T0の座標は、基板の導電率が無視できるものとすれば、膜厚が0であるとき、すなわち、R
2が無限大のときのX,Yの値である。X,Yの値から位置決めされる点Tnは、膜厚が減少するに従って、円弧状の軌跡を描きながら点T0に向かって進む。なお、
図8に示す記号kは結合係数であり、次の関係式が成り立つ。
M=k(L
1L
2)
1/2 (8)
【0045】
図9は、
図8のグラフ図形を反時計回りに90度回転させ、さらに平行移動させたグラフを示す図である。すなわち、座標X,Yで表される点を、XY座標上の原点Oを中心として反時計周りに回転させ、さらに、回転させた座標を移動させ、原点Oと座標X,Yとの距離が膜厚の減少とともに短くなるようなグラフを生成する。なお、
図9に示すグラフに対して、さらに増幅などの処理が施されることもある。
図9には、
図8のグラフを反時計回りに90°回転させる場合を示したが、回転の角度は勿論90°に限らない。たとえば、モニタリングしたい膜厚の上限に対するY座標が膜厚0の点のY座標と等しくなるように、回転角度を調節することが行われる。
図9に示すように、膜厚が減少するに従って、X,Yの値から位置決めされる点Tnは円弧状の軌跡を描きながら点T0に向かって進む。このとき、XY座標系の原点Oから点Tnまでの距離Z(=(X
2+Y
2)
1/2)は、点T∞の近傍を除いて、膜厚が減少するに従って小さくなる。したがって、渦電流センサ50の出力信号をモニタリング装置55に送ることにより、モニタリング装置55は導電膜の厚さに応じて変化するモニタリング信号としての距離Zを算出する。そして、モニタリング装置55により、予め、経験や試験により距離Zと膜厚との関係を把握しておけば、距離Zを監視することにより、研磨中の膜厚変化が分かる。
【0046】
図10は、渦電流センサの出力信号の値がドリフト(平行移動)した場合を示す図である。渦電流センサの周囲温度、研磨パッドへの水染みなどの使用環境の変化や、渦電流センサそのものの経時変化などにより、渦電流センサ50の出力信号の値がドリフト(平行移動)することがある。すなわち、
図10に示すように、渦電流センサ50の出力信号の値は、実線で示す円弧状の曲線から点線で示す円弧状の曲線のようにドリフトすることがある。このように渦電流センサの出力信号の値がドリフトすると、XY座標系の原点Oからの距離Zが変化することになる。その結果、渦電流センサの出力信号の値と膜厚との対応関係がずれてしまう。
【0047】
そこで、本実施形態においては、モニタリング装置55により渦電流センサ50の出力信号を較正し、正確な膜厚変化を監視する。
次に、渦電流センサ50の出力信号を研磨中に較正しつつ半導体ウエハ上の導電膜の膜厚変化を監視する方法について説明する。
図11は、渦電流センサ50の出力信号を較正しつつ半導体ウエハ上の導電膜の膜厚変化を監視する処理フローの一態様を示す図である。
図11に示すように、ステップ1において、半導体ウエハWをトップリング10により保持し、研磨テーブル1およびトップリング10をそれぞれ回転させ、半導体ウエハWを研磨パッド2に押圧してウエハ上の導電膜を研磨する研磨工程を開始する。このとき、渦電流センサ50は、
図7に示すように、研磨テーブル1の回転に伴いウエハ内の領域(A)とウエハ外の領域(B)を通過するが、ステップ2において、モニタリング装置55は、渦電流センサ50がウエハ外の領域(B)にあるときのデータを取得する。この場合、研磨開始後、研磨テーブル1が1回転以上回転した後におけるウエハ外の領域(B)のデータを取得し、その後、研磨テーブル1がN回転(Nは整数)までデータを取得し続ける。そして、ステップ3において、N回転数までの渦電流センサ50のウエハ外の領域(B)の出力値の平均値に基づいて、ドリフト量(補正量)を算出する。
なお、ウエハ外の領域とは、トップリングの領域以外、ドレッサの領域以外、アトマイザ等の領域以外であり、研磨テーブル(研磨パッド)上に何も存在していない領域である。
【0048】
図12は、ドリフト量(補正量)を算出するステップを説明するための図である。
図12の円弧状の曲線に示すように、渦電流センサ50の出力信号の値は、実線から点線のようにドリフトすることがあるが、このドリフト量(補正量)を以下の式により算出する。
ΔXa=X11−X1,ΔYa=Y11−Y1
ここで、X11,Y11は、渦電流センサ50のウエハ外の領域(B)の出力値の平均値であり、X1,Y1は、補正用基準信号値である。補正用基準信号値は、導電膜の膜厚が0となったときに類似する値である。
次に、ステップ4において、ステップ3で算出したドリフト量(補正量)を登録(保存)する。そして、ステップ5において、登録されたドリフト量(補正量)に相当する分だけ、XY座標系の原点Oを平行移動する。
【0049】
図13は、ドリフト量(補正量)に相当する分だけXY座標系の原点Oを平行移動するステップを説明するための図である。
図13に示すように、XY座標系の原点Oを実線から点線のように平行移動する。すなわち、実線で示すX軸,Y軸をΔXa,ΔYaだけ平行移動して点線で示すX軸,Y軸とする。そして、点線で示すXY座標系の原点Oからの距離Zを算出する。そして、モニタリング装置55により距離Zを監視することにより研磨中の膜厚変化が分かる。
【0050】
図14は、渦電流センサ50の出力信号を較正しつつ半導体ウエハ上の導電膜の膜厚変化を監視する処理フローの他の態様を示す図である。渦電流センサの出力値のドリフトは、上述のような距離Zに基づく膜厚監視方法以外の他の方法にも影響を与える。例えば、特許文献1の
図13には、基準点(中心点)を通る基準線と、渦電流センサの出力信号(X成分,Y成分)と基準点(中心点)とを結ぶ線との角度の変化から研磨中の膜厚の変化を監視する方法が示されている。この方法は、センサコイル端部と導電性膜との間の距離が異なる条件下で取得されたインピーダンスの抵抗成分(X成分)とリアクタンス成分(Y成分)とを直交座標軸上に表示し、導電性膜の膜厚毎の前記抵抗成分および前記リアクタンス成分からなる座標を結ぶ予備測定直線同士が交差する交点である基準点(中心点)を求め、前記インピーダンスの座標と前記基準点(中心点)の座標とを結ぶ本番測定直線の成す角度から導電性膜の膜厚を検出するようにしたものである。この方法は、研磨パッドの厚さの変化によらず、膜厚の変化を精度良く監視することができるという利点を有している。しかしながら、この方法においても、渦電流センサの出力値の経時的変化により角度が変化し、渦電流センサの出力信号の値と膜厚との対応関係がずれてしまう。
【0051】
図15は、渦電流センサの出力信号の値がドリフト(平行移動)した場合を示す図である。
図15の円弧状の曲線に示すように、渦電流センサ50の出力信号の値は、渦電流センサそのものの経時変化などにより、実線から点線のようにドリフトすることがある。このように渦電流センサの出力信号の値がドリフトすると、基準点(中心点)を通る基準線と、渦電流センサの出力信号(X成分,Y成分)と基準点(中心点)とを結ぶ線との角度(Angle)がAngle1からAngle2のように変化することになる。ここで、基準点とは、センサコイル端部と導電性膜との間の距離が異なる条件下で取得されたインピーダンスの抵抗成分(X成分)とリアクタンス成分(Y成分)とを直交座標軸上に表示し、導電性膜の膜厚毎の前記抵抗成分および前記リアクタンス成分からなる座標を結ぶ予備測定直線同士が交差する交点である基準点のことである。
【0052】
そこで、本実施形態においては、
図14に示すように、ステップ1の研磨工程の開始からステップ4のドリフト量(補正量)の登録までの工程を行う。ステップ1からステップ4までの工程は、
図11に示す処理フローと同様である。
図14に示す処理フローにおいては、ステップ5において、登録されたドリフト量(補正量)に相当する分だけ、基準点をシフトする。
【0053】
図16は、基準点を補正量分シフトするステップを説明するための図である。
図16に示すように、基準点を矢印で示すように補正量分(ΔXa,ΔYa)だけシフトする。次に、ステップ6において、補正後の基準点を用いてインピーダンス曲線の角度(Angle)を算出する。すなわち、補正後の基準点(中心点)を通る基準線と、渦電流センサの出力信号(X成分,Y成分)と基準点(中心点)とを結ぶ線との角度(Angle)を算出することにより、導電膜の膜厚を検出することができる。このように、渦電流センサの出力信号の値のドリフト量を検出し、基準点をドリフト量に相当する分だけシフトすることで、ドリフト前後の角度(Angle)を同一の値に保つことができる。
【0054】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。