特許第6051283号(P6051283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6051283抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051283
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20161219BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 31/28 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61K31/197
   A61P39/00
   A61P7/06
   A61K31/22
   A61K31/28
   A61K33/06
   A61K33/26
   A61K33/30
   A61K45/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-189250(P2015-189250)
(22)【出願日】2015年9月28日
(62)【分割の表示】特願2013-538527(P2013-538527)の分割
【原出願日】2012年10月5日
(65)【公開番号】特開2016-6121(P2016-6121A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2015年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-225383(P2011-225383)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-225382(P2011-225382)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-81594(P2012-81594)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 京子
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 元夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 仁
(72)【発明者】
【氏名】執印 太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 啓史
(72)【発明者】
【氏名】福原 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】津田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】降幡 睦夫
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016753(JP,A)
【文献】 特許第5818906(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/197
A61K 31/22
A61K 31/28
A61K 33/06
A61K 33/26
A61K 33/30
A61K 45/00
A61P 7/06
A61P 39/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤であって、
下記式(I)で示される化合物
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
を含み、
前記抗ガン剤の副作用が、骨髄抑制に起因する貧血であることを特徴とする、
抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤であって、
前記予防剤及び/又は治療剤が、さらに一種又は二種以上の金属を含有する
ことを特徴とする抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項3】
請求項に記載の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤であって、
前記金属が、鉄、マグネシウム、及び、亜鉛からなる群から選択される
ことを特徴とする抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤であって、
抗ガン剤と併用する
ことを特徴とする、抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、ALA類を含む抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗ガン剤は手術、放射線療法と並ぶがんの三大治療法の一つであるが、しばしば重篤な副作用を引き起こす。一般論として、強力な抗ガン剤ほど強い副作用がある。そのため、抗ガン剤の使用に関し、医師や患者は過酷な選択を迫られる。
【0003】
このような背景から抗ガン剤の副作用を軽減する方法がいくつか提案されている。たとえば十全大補湯のような漢方薬を処方する方法、時間生物学に基づき抗ガン剤の投与のタイミングをコントロールする方法、抗ガン剤投与時に大量の輸液を行い臓器を保護する方法などが行われている。しかしながら、これらの方法によっても、抗ガン剤の副作用の軽減効果は十分でない。また、夜間の点滴や大量輸液などを行うには入院が必要となり、身体的にも医療経済的にもその負担は大きい。
【0004】
また、抗ガン剤の副作用を軽減する方法として、副作用を低減可能な薬剤の開発も進められている。このような薬剤として、脳虚血の治療剤であるエダラボンにシスプラチンの腎機能に対する副作用軽減作用が認められ、非常に注目された。しかしながら、この薬剤は、開発中に腎不全による死亡例を含む重篤な副作用が見つかり上市には至らなかった。
【0005】
そもそも、抗ガン剤の作用とは何であろうか。また、抗ガン剤の副作用が引き起こされるメカニズムとは、何であろうか。すでに多くの抗ガン剤が存在し、抗ガン剤の作用メカニズムが研究されている。多くの抗ガン剤はDNAの複製や細胞周期を阻害することで抗ガン作用を示す。このような抗ガン剤は、生育の早いがん細胞に、より強い生育抑制効果を示す。しかしながら一方で、正常細胞にも同様の生育抑制効果を示すため、正常細胞の中でも生育の早い毛根や腸管にも障害を示す。これが、抗ガン剤の副作用の原因となる。
【0006】
また、ある種の抗ガン剤は活性酸素種を発生することでがんを抑制、死滅させる。一方で、抗ガン剤により発生した活性酸素は少なからず正常細胞に害を示し、これが副作用の原因となる。この種の抗ガン剤の副作用を軽減する方法としては、抗酸化物質を与えることが考えられる。しかしながら、抗酸化物質は肝心の抗ガン剤の抗ガン効果を減じてしまうことは自明である。また、抗酸化物質は、この種の抗ガン剤の副作用の軽減はできても、他の種の抗ガン剤の副作用は軽減できないであろう。
【0007】
以上のように強い抗ガン剤ほど副作用が大きい。逆に言うと副作用の少ない抗ガン剤はあまり抗ガン効果がない。また、抗ガン剤の副作用を抑える薬剤は抗ガン剤の抗ガン効果をも抑えてしまう。このジレンマを抜ける夢の抗ガン剤として分子標的薬が、鳴り物入りで登場した。しかしながら、イレッサでの間質性肺炎の例を見るまでもなく、分子標的薬もその副作用の問題から免れていない。また、分子標的薬は例外なくきわめて高価である。
【0008】
このような背景から真に有効な抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の開発が、医師や患者から切望されてきた。また、真に有効な抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の開発が、高額の医療費にあえぐ社会的要請としても切望されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、有効な抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書において、ALAは、5−アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ−アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。ALAは、生体内の内在物質であり、ヘムの前駆体として知られている。ALAには様々な生理活性が知られており、がん等の診断や治療分野では、光動力学的治療(PDT、Photo Dynamic Therapy)や光動力学的診断(PDD、Photo Dynamic Diagnosis)において広く用いられている。ALAはヘム系化合物の共通前駆体であるが、がん細胞においては、ALAを投与してもヘムが生成されず、ヘム系化合物の前駆体であるプロトポルフィリンIX(PPIX)が蓄積することが知られている。蓄積したPPIXに光を照射すると蛍光を発するためにPDDが可能となる。また、酸素存在下では、蓄積したPPIXに光を照射すると、活性酸素を発生するのでPDTが可能となる。すなわち、ALAはPDTの増感剤として抗ガン剤と関連するにすぎないのであり、抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤としてのALAの使用は、全く予想だにできない。
【0011】
ALAは糖や脂質の代謝を向上させることが知られているが、抗ガン剤の副作用が糖や脂質の代謝に関係しているという報告はなく、抗ガン剤の副作用の予防や治療にALAが有効であるということは既存の情報から想像することはできない。
【0012】
本発明者は、鋭意検討を重ね、ALA類を含む抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を確立し、本発明を完成するに至った(もっとも、ALA類がなぜ抗ガン剤の副作用軽減に有効なのかについての厳密な機序の解明は今後の科学上の課題である。)。
【0013】
すなわち、本発明は、

抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤であって、
下記式(I)で示される化合物
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
又はその塩
を含む
ことを特徴とする抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤に関する。
【0014】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤は、さらに一種又は二種以上の金属を含有していてもよい。そのような金属は、鉄、マグネシウム、及び、亜鉛からなる群から選択されていてもよい。
【0015】
また、前記抗ガン剤の副作用としては、いかなる抗ガン剤の副作用であってもよい。例えば、前記抗ガン剤の副作用は、腎臓に関する副作用、皮膚症状に関する副作用、全身症状に関する副作用、又は、消化管系に関する副作用であってもよい。また、前記抗ガン剤の副作用は、あらゆる抗ガン剤の副作用から、血液又は骨髄に関する副作用を除いたものであってもよい。
【0016】
また、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤は抗ガン剤と併用することができる。
【0017】
また、本発明は、さらに、(1)上記式(I)で示される化合物を含む抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤と(2)抗ガン剤、とを組み合わせてなる、がん治療用医薬に関する。これらの薬剤は同時又は異時に投与することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を提供する。本発明において、治療とは、抗ガン剤の副作用を完全に除去することのみならず、副作用の症状を改善することをも含む。予防についても、同様に、副作用の症状を完全に生じさせないことのみならず、本発明の予防剤を投与しなければ生じるであろう副作用の症状をより穏かなものとすることを含む。本発明の薬剤を使用することにより、優れた抗ガン剤の副作用の予防効果及び/又は治療効果を得ることができる。
また、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を投与することで、例えば、重篤な副作用のために、患者に対して、抗ガン剤を投与することが全くできない場合や標準的な量の抗ガン剤を投与することができない場合においても、当該患者に対して、標準的な量の抗がん剤投与が可能となり得る。このように、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を投与することで、抗ガン剤の本来の効果を最大限引き出すことができ、患者のQOLの向上効果のみならず、患者の延命効果が期待し得る場合がある。
このように、本発明の薬剤は、抗ガン剤の治療を受ける患者にとって有益であるだけではなく、抗ガン剤の副作用によって生ずる社会的損失も軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、6週齢のSDラットにシスプラチンおよびALAを5つの投与条件により投与した際の、生存率の推移を投与条件ごとに示すグラフである。
図2図2は、6週齢のSDラットにシスプラチンおよびALAを5つの投与条件により投与した際の、実験開始日より16日目における腎臓のHE染色像である。
図3図3は、6週齢のSDラットに、シスプラチンおよびALAを4つの投与条件により投与した際の、体重の推移を投与条件ごとに示すグラフである。
図4図4は、6週齢のSDラットに、シスプラチンおよびALAを4つの投与条件により投与した際の、血清クレアチニンの推移を投与条件ごとに示すグラフである。
図5図5は、6週齢のSDラットに、シスプラチンおよびALAを4つの投与条件により投与した際の、尿素窒素(BUN)の推移を投与条件ごとに示すグラフである。
図6図6は、6週齢のSDラットに、シスプラチンおよびALAを4つの投与条件により投与した際の、尿タンパク値の推移を投与条件ごとに示すグラフである。
図7図7は、6週齢のSDラットに、シスプラチンおよびALAを4つの投与条件により投与した際の、実験開始日より16日目における腎臓を示す画像である。
図8図8は、T24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)に対するシスプラチンおよびALAの投与がT24細胞の生存に与える影響を示すグラフである。
図9図9は、253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)に対するシスプラチンおよびALAの投与が253J−BV細胞の生存に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤としては、ALA類を含有する抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤であれば特に制限されない。本発明の薬剤は、実施態様に応じて、適宜、抗ガン剤治療前に摂取することも、抗ガン剤治療と同時に摂取することも、抗ガン剤治療後に摂取することも、また、抗ガン剤副作用が生じた後に摂取することもできる。
【0021】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を用いることにより、抗ガン剤の副作用が軽減され、それ故に、場合によっては、抗ガン剤の投与量を増加させることができる
【0022】
また、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤は、抗ガン剤と組み合わせて、例えば合剤としても、また、キットとしても使用することもできる。
【0023】
本発明において、抗ガン剤は、特に制限されない。このような抗ガン剤の限定的ではない例としては、白金含有抗腫瘍剤(シスプラチンなど)を挙げることができる。
【0024】
本発明において、抗ガン剤の副作用とは、抗ガン剤による身体的な不具合全般を指す。抗ガン剤の副作用は多岐に渡る。そのような副作用の限定的ではない例としては、(1)ヘモグロビンの減少、溶血、貧血等の血液または骨髄に関する副作用、(2)脱力感、倦怠感、体重減少等の全身症状に関する副作用、(3)脱毛や発疹等の皮膚症状に関する副作用、(4)吐き気、悪心、便秘、下痢等の消
化管系に関する副作用、(5)腎不全等の腎臓に関する副作用(腎毒性)、を挙げることができる。
【0025】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤として用いる化合物は、ALA類である。本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩をいう。
【0026】
ALA誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、R1及びR2が水素原子の場合に相当する。
【化2】
【0027】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0028】
式(I)のR1におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0029】
式(I)のR2におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0030】
式(I)のR2におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0031】
式(I)のR2におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0032】
式(I)のR2におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0033】
好ましいALA誘導体としては、R1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R1とR2の組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0034】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0035】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、及び、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0036】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0037】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤は、過剰症を生じない範囲で、さらに金属を含有するものが好ましく、かかる金属としては、本発明の効果に害を及ぼさない限り金属化合物を有利に用いることができる。本発明における金属としては、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、コバルト、銅、クロム、モリブデンを挙げることができるが、鉄、亜鉛が好ましい。
【0038】
鉄化合物としては、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、硫化グリシン鉄等を挙げることができる。これらの中でも、クエン酸第一鉄やクエン酸第一鉄ナトリウムが好ましい。
【0039】
亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジエチレントリアミン五酢酸亜鉛ジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸亜鉛ジナトリウム、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛含有酵母、グルコン酸亜鉛を挙げることができる。
【0040】
上記金属は、それぞれ1種類又は2種類以上を用いることができ、金属の投与量としては、ALA類の投与量に対してモル比で、0.01〜10倍量、好ましくは0.1〜5倍量、より好ましくは、0.2〜2倍量を挙げることができる。
【0041】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤に含有されるALA類と金属は、ALA類と金属とを含む組成物としても、それぞれ単独でも投与することできるが、それぞれ単独で投与される場合でも同時に投与することが好ましい。しかし、厳密に、同時でなくともALA類と金属との投与が相加的効果あるいは相乗的効果を奏することができるように、両者間で相当の間隔をおかずに行われるものであってもよい。
【0042】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の投与経路としては、舌下投与も含む経口投与、あるいは吸入投与、点滴を含む静脈内投与、パップ剤等による経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができるが経口投与が一般的である。
ここで、投与の対象は、典型的にはヒトであるが、愛玩動物、実験動物、家畜など非ヒト動物である場合も含む。
【0043】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の剤型としては、上記経路投与に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0044】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。なお、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要があり、アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐこともできる。
【0045】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の量・頻度・期間としては、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を利用しようとする者の年齢、体重、症状等により異なるが、好ましい投与量の例としては、成人一人当たり、4μmol〜13100μmol、好ましくは7μmol〜4400μmmol、より好ましくは13μmol〜3100μmol、さらに好ましくは20μmol〜880μmolを挙げることができる。もっとも、上記、好ましい投与量の範囲は、例示であって、限定するものではない。
【0046】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の投与のタイミングとしては、抗ガン剤の投与を開始する少なくとも3日以上前から連続して本発明の薬剤を投与し、そして、抗ガン剤による治療継続中も本発明の薬剤の投与を続けるのがもっとも望ましい。しかし、抗ガン剤の投与を開始する時から本発明の薬剤の投与を開始し、そして、抗ガン剤による治療継続中も本発明の薬剤の投与を続けても、一定の効果が期待できる。さらには、抗ガン剤の投与を開始する前の期間にのみ本発明の薬剤を投与することでも、一定の効果が期待できる。
また、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を投与することで、例えば、重篤な副作用のために、患者に対して、抗ガン剤を投与することが全くできない場合や標準的な量の抗ガン剤を投与することができない場合においても、当該患者に対して、標準的な量の抗がん剤投与が可能となり得る。このように、本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤を投与することで、抗ガン剤の本来の効果を最大限引き出すことができ、患者のQOLの向上効果のみならず、患者の延命効果が期待し得る場合がある。
【0047】
本発明の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤は、他の既存の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤と組み合わせて使用することもできる。既存の抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤の例としては、点滴による電解質の大量投与や十全大補湯などの漢方薬などが挙げられる。これらの薬剤とALAの抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤に関するメカニズムはそれぞれ根本的に異なると考えられるため、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。
【0048】
なお、本明細書において用いられる用語は、別段の定義が与えられていない限り、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0049】
別段の定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】

抗ガン剤投与により生じる副作用に対する、ALA類投与による副作用低減効果を確認するため、ラットに対してシスプラチンおよびALAを投与し、ラットへの影響について確認した。
【0052】
ラットは、6週齢のSDラット(雄)を44匹、日本エスエルシー株式会社より購入した。購入後、7日間馴化させてから実験に使用した。
【0053】
実験期間は全16日間とし、実験群をALAの投与条件により、下記のI〜Vの5群に分けた。ネガティブコントロール群(I群)を除く全ての実験群において、シスプラチン(CDDP)を、実験開始から第6日目に投与した。CDDPの投与量は、8.0mg/kg体重とし、各ラットの腹腔内へ投与した。なお、ネガティブコントロール群として、I群にはシスプラチンの代わりに生理食塩水を投与した。また、III群、VI群、V群については、下記スケジュールに沿って、ALAをも投与した。一方、ポジティブコントロール群(II群)には、ALAを投与しなかった。なお、III群、IV群、V群のALAの投与は、ALA塩酸塩10mg/kg体重+クエン酸第一鉄ナトリウム15.7mg/kg体重(蒸留水、重炭酸ナトリウムに溶解)を1日1回経口投与することにより行った。
【0054】
(I群〜V群のALA投与条件)
I群(ネガティブコントロール群):実験開始より第6日目において、生理食塩水を投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=4
II群(ポジティブコントロール群):実験開始より第6日目において、CDDPを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=10
III群(「前投与群」):実験開始日より第5日目までの計5日間ALAを投与した。また、第6日目においてCDDPを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=10
IV群(「後投与群」):実験開始より第6日目において、ALAを投与し、その後に、CDDPを投与した。また、第6日目〜第15日目までの10日間ALAを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=9
V群(「全投与群」):実験開始日より第15日目までの15日間、ALAを投与した。なお、第6日目においては、ALAを投与し、その後に、CDDPを投与した。n=9
【0055】
実験開始日より第15日目までの15日間において、2日に1度、採血を行った。また、ラットの毛つや、便状態、活動度についての観察を実施した。また、第16日目に、各ラットの解剖を行い、腎臓を摘出した。摘出後に腎臓の切片を作成し、HE染色後、顕微鏡下で観察した。
【0056】
本実験期間における各実験群のラットの生存率を図1に示す。図1に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、実験開始日より第9日目に生存率の低下が見られた。これに対して、ALAを投与した群(III群、IV群、V群)では、抗ガン剤による副作用により生存率の低下の開始時期が遅れた。また、ALAを投与した群(III群、IV群、V群)では、第16日目までの生存率の低下を抑制できたことが示されている。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(V群)が、もっとも生存率が高かった。しかし、「前投与群」(III群)や「後投与群」(IV群)であっても、抗ガン剤の副作用に対する一定の抑制効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用による生存率の低下に関して、ALAの投与による確実な治療効果および予防効果が示された。
【0057】
第16日目において各ラットより解剖にて摘出した腎臓をホルマリンにて固定後、切片を作成し、HE染色にて腎臓の状態を確認した。腎臓のHE染色像を図2に示す。図2に示されるように、ALAの投与は、抗ガン剤の副作用による腎臓への障害を軽減している。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(V群)が最も効果的であった。しかし、「前投与群」(III群)および「後投与群」(IV群)でも一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用による腎臓への障害に関して、確実な治療効果および予防効果が示された。
【0058】
また、I群〜V群における各ラットの毛つや、便状態、および、活動度に関する評価を下記表1に示す。なお、実験開始日より第9日目から第13日目まで副作用が強く観察された。このため、第9日目、第11日目、第13日目の状態を点数化して評価した。ここで、毛つやは皮膚症状に関する副作用を評価するものである。便状態は、消化管系に関する副作用を評価するものである。活動度は全身症状に関する副作用を評価するものであり、特に倦怠感に関する副作用を評価するものである。
【0059】
なお、各項目は、マウス毎に下記基準にて評価し、第9日目、第11日目、第13日目の3日分を足した数値を評価対象のマウスの数で除したものである。
(毛つや)
5:非常に良い、4:通常状態、3:やや悪い、2:悪い、1:死亡
(便状態)
5:通常便、4:便が少ない、3:下痢ぎみ、2:下痢、1:死亡
(活動度)
5:通常状態、4:動きが弱い、3:ほとんど動かず、2:動かず、1:死亡
(総合評価)
5:非常に良い、4:通常状態、3:やや悪い、2:悪い、1:死亡
【0060】
【表1】
【0061】
表1より明らかなように、ALA投与は抗ガン剤により生じる様々な副作用に対して軽減作用があることが示された。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(V群)が最も良好な結果を示した。しかし、「前投与群」(III群)や「後投与群」(IV群)においても、一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用に関して、ALAの投与による確実な治療効果及び予防効果が示された。
【0062】
抗ガン剤投与による腎臓への副作用(腎毒性)に対する、ALA類投与による副作用低減効果を確認するため、ラットに対してシスプラチンおよびALAを投与し、ラットの血清クレアチニン、尿素窒素値(BUN)、尿タンパクへの影響について確認した。なお、血清クレアチニンおよび尿素窒素値(BUN)は、血液サンプルから測定した。また、尿タンパクは、尿サンプルから測定した。
また、全身症状に対する副作用であり、かつ、消化管系に関する副作用でもある体重減少についても同時に観察した。
【0063】
ラットは、6週齢のSDラット(雄)を46匹、日本エスエルシー株式会社より購入した。購入後、7日間馴化させた。馴化期間終了時点において、各ラットの体重測定、採血、及び、採尿を行った。また、その翌日より44匹にて実験を開始した。なお、馴化後の測定において血清クレアチニン、尿素窒素値(BUN)、および、尿タンパクの値の悪い2個体を実験より排除した。
【0064】
本実験においては、ALAの投与条件により、実験群を下記のI〜IVの4群に分けた。それ以外は、実施例1と同様の方法により行った。
【0065】
I群(ネガティブコントロール群):実験開始より第6日目において、生理食塩水を投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=8
II群(ポジティブコントロール群):実験開始より第6日目において、CDDPを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=14
III群(「後投与群」):実験開始より第6日目においてALAを投与し、その後にCDDPを投与した。また、第6日目〜第15日目までの10日間ALAを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=10
IV群(「全投与群」):実験開始日より第15日目までの15日間、ALAを投与した。なお、第6日目においては、ALAを投与し、その後にCDDPを投与した。n=11
【0066】
実験開始日、第6日目、第7日目、第9日目、第11日目、第13日目、および、第15日目に各ラットの体重を測定し、採血、および、採尿を実施した。採取した血液サンプルは、血清クレアチニン、尿素窒素値(BUN)の測定に使用した。また、採取した尿サンプルは、尿タンパクの測定に使用した。また、第16日目に、各ラットの解剖を行い、腎臓を摘出し観察した。
【0067】
本実験期間における各実験群のラットの体重変動を図3に示す。図3に示されるように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第1日目以降に体重の減少が見られた。これに対して、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用によって体重が減少するのが抑制された。さらに、ALAを投与した群(III群、IV群)では、第5日目以降、再度体重の上昇が認められた。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(IV群)が最も効果的であるが、「後投与群」(III群)においても、一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用である体重減少に関して、ALAの投与による確実な治療効果及び予防効果が示された。
【0068】
本実験期間における各実験群のラットの血清クレアチニン値の変動を図4に示す。図4に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第3日目以降に血清クレアチニン量の急激な増加が見られた。一方、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用による血清クレアチニン値は第5日目に若干の上昇を見せたが、ほとんどネガティブコントロール群と変わらない値を維持した。
【0069】
本実験期間における各実験群のラットの尿素窒素値(BUN)の変動を図5に示す。図5に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第3日目以降に尿素窒素値(BUN)の急激な増加が見られた。一方、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用による尿素窒素値は第5日目に若干の上昇を見せたが、ほとんどネガティブコントロール群と変わらない値を維持したことが示されている。
【0070】
本実験期間における各実験群のラットの尿タンパクの値の変動を図6に示す。図6に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第1日目以降に尿タンパク値の急激な増加が見られた。一方、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用による尿タンパクの値は、ネガティブコントロール群(I群)と比較して第3日目に若干の上昇を見せたが、ほとんどネガティブコントロール群と変わらない値を維持したことが示されている。
【0071】
図4図6明らかなように、ALAは、抗ガン剤の副作用による腎臓のダメージを軽減することができる。
実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(IV群)が最も効果的であるが、「後投与群」(III群)においても、一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の腎臓への副作用に関して、ALAの投与による確実な治療効果及び予防効果が示された。
【0072】
第16日目に摘出した各ラットの腎臓の写真図を図7に示す。血清クレアチニン値、尿素毒素値(BUN)、および、尿タンパクの値から実験期間中に腎機能に障害が生じたと判断できた個体の腎臓は、黄色く浮腫していた。図7において、黄色く浮腫していた腎臓を矢印で示す。
【0073】
ALAの投与が、がん細胞に対する抗ガン剤の細胞毒性(抗ガン効果)に影響を与えないか検証した。
本実験においては、次のがん細胞を用いた。すなわち、T24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)および253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)である。また、抗ガン剤としては、シスプラチンを用いた。また、ALAとしては、ALA塩酸塩を用いた。また、ALAの投与においては、併せて、クエン酸第一鉄ナトリウムを投与した。
ALAとクエン酸第一鉄ナトリウムの濃度は、実施例1および実施例2において抗ガン剤の副作用軽減効果が得られた濃度(ALA塩酸塩:10mg/kg体重(約59.67μM)、クエン酸第一鉄ナトリウム:15.7mg/kg体重(約29.85μM))より約3.35倍高い濃度(ALA塩酸塩:200μM、クエン酸第一鉄ナトリウム:100μM)とした。なお、具体的には、実施例3の体重1kg当たりのALAとクエン酸第一鉄ナトリウムの濃度の量が、実施例1および実施例2における容積1リットル当たりのALAとクエン酸第一鉄ナトリウムの量の約3.35倍となるように計算した(なお、以下のシスプラチンについての約1.5倍も同様に計算した。)。
一方、シスプラチンの濃度は、実施例1および実施例2で使用した濃度(8mg/kg体重(約26.66μM))の約1.5倍の40μMを最大とする、2倍希釈系列(40μM、20μM、10μM、5μM、2.5μM、1.25μM、0μM)とした。
各濃度における細胞毒性を、下記I群〜IV群において比較した。
I群:「無添加群」、すなわち、ALAを一切投与しなかった群
II群:「前投与群」、すなわち、「前培養時」のみALAを投与した群
III群:「同時投与群」、すなわち、「シスプラチン投与時」にのみALAを投与した群
IV群:「全投与群」、すなわち、「前培養時」と「シスプラチン投与時」にALAを投与した群
なお、各群の意味は、以下において、さらに明確に説明される。
【0074】
本実験は、具体的には、下記のようにして行われた。
【0075】
(1)T24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)または253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)を、10cmディッシュを用いて、10%FBSを含むDMEM培地にてサブコンフルエンスの状態まで培養させた。その後、トリプシン処理により回収した。
(2)I群(無添加群)およびIII群(同時投与群)の試験群においては、(1)において回収した細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に50000cells/mlの密度となるように懸濁した。また、II群(前投与群)およびIV群(全投与群)の試験群においては、(1)において回収した細胞を、200μMのALA塩酸塩と、100μMのクエン酸第一鉄ナトリウムと、10%FBSとを含むDMEM培地に50000cells/mlの密度となるように懸濁した。
(3)続いて、(2)で得られた各懸濁液を、96−wellのマイクロプレートに1wellあたり100μlずつ分注し、37℃で24時間前培養した。
【0076】
(1)前培養後、それぞれのWellから培地を除去した。そして、I群(無添加群)およびII群(前投与群)には、各種濃度(40、20、10、5、2.5、1.25、0μM)のシスプラチンと10%FBSとを含むDMEM培地を加えて37℃のCO2インキュベーターで培養した。また、III群(同時投与群)およびIV群(全投与群)には、各種濃度(40、20、10、5、2.5、1.25、0μM)のシスプラチンと、200μMのALA塩酸塩と、100μMのクエン酸第一鉄ナトリウムと、10%FBSとを含むDMEM培地を加えて37℃のCO2インキュベーターで培養した。
(2)シスプラチン存在下で48時間培養後、各Wellに10μlのCell Counting Kit−8の基質であるWST−8(同仁化学研究所)を加えて、37℃で2時間発色反応を行なった。その後、各Wellについて、450nmの吸光度を測定することにより生存率を測定した。
なお、シスプラチンを含まない培地で培養した場合の吸光度を生存率100%とした。また、細胞を含まない培地にWST−8を加えて発色させた場合の吸光度を生存率0%とした。これにより、各Wellについて「細胞の生存率(%)」を計算した。そして、「細胞の死滅率(%)」を、次の式により、計算した。
【0077】
「細胞の死滅率(%)」=100−「細胞の生存率(%)」
【0078】
I〜IV群の細胞の死滅率を、図8および図9に示す。なお、細胞の死滅は、シスプラチンによる細胞の生存の阻害であるため、図8及び図9においては、「細胞の死滅率(%)」を「阻害率(%)」として記載している。
【0079】
図8は、シスプラチン投与によるT24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)の死滅率(%)を示す。なお、I群〜IV群におけるT24細胞の50%阻害濃度(50%死滅濃度)(μM)は、それぞれ5.73μM(I群)、5.21μM(II群)、4.87μM(III群)、5.56μM(IV群)であった。
【0080】
図9は、シスプラチン投与による253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)の死滅率(%)を示す。なお、I群〜IV群における253J−BV細胞の50%阻害濃度(50%死滅濃度)(μM)は、それぞれ、3.92μM(I群)、3.92μM(II群)、2.80μM(III群)、2.89μM(IV群)であった。
【0081】
図8及び図9が示すように、シスプラチンの抗がん効果に対して、ALAの投与は、その投与時期および投与期間に関わらず、ほとんど抗ガン剤の効果を減弱していないことが示された。v
【0082】
進行期の大腸がんで腸閉塞を起こした女性について、2009年8月19日(この時点で61歳)緊急手術をおこなった。手術時の所見によるとこぶし大の大腸がんがあり、がんを摘出し、腸閉塞を解除するも、多数の腹膜播種を認め余命3ヶ月の診断を受けた。
【0083】
手術後、抗ガン剤治療として、FOLFOX(5−FU、アイソボリン、エルプラットの3剤併用)およびFOLFIRI(5−FU、アイソボリン、カンプトの3剤併用)に加えてアバスチンなどの分子標的薬を併用した。そして、この抗がん剤治療と並行して、一日あたりアミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgとを、経口摂取した。
【0084】
その結果、手術後1年間は抗がん剤治療を続けることができた。1年後には、副作用のために抗ガン剤の投薬は断念したが、アミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgの経口摂取は継続し、告知された余命3ヶ月を大きく超え、1年半もの間、副作用が改善された状態で生存することができた。
【0085】
患者は副作用として強い貧血症状を呈していたので、副作用改善の指標として貧血改善効果を比較対象として選択した。(i)手術直前の2009年8月19日と、(ii)アミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムの摂取開始し約1年5ヵ月経過した2011年1月28日とにおける、赤血球数、ヘモグロビン値、白血球数を以下の表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
上記表から理解されるとおり、手術直前にはがん性貧血による赤血球数とヘモグロビンの減少と、炎症による白血球の増加がみられるが、(ii)の摂取開始から約1年5ヵ月後の時点ではアミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムとの投与により赤血球数とヘモグロビンが増加して抗ガン剤の投与の副作用としての貧血が改善していることがわかる。一方、白血球数は、正常値に落ちついた。抗ガン剤による強い副作用が出たことを考えると、造血系にも強いダメージが与えられたと考えられるが、貧血が改善しているという結果は驚異的で、腹膜播種を抱えながらも医者の余命3ヶ月の告知を大きく超えた1年半後もQOLが改善した生活を送ることができている。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の薬剤は、抗ガン剤の副作用の予防剤及び/又は治療剤として有利に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9