【実施例】
【0051】
抗ガン剤投与により生じる副作用に対する、ALA類投与による副作用低減効果を確認するため、ラットに対してシスプラチンおよびALAを投与し、ラットへの影響について確認した。
【0052】
ラットは、6週齢のSDラット(雄)を44匹、日本エスエルシー株式会社より購入した。購入後、7日間馴化させてから実験に使用した。
【0053】
実験期間は全16日間とし、実験群をALAの投与条件により、下記のI〜Vの5群に分けた。ネガティブコントロール群(I群)を除く全ての実験群において、シスプラチン(CDDP)を、実験開始から第6日目に投与した。CDDPの投与量は、8.0mg/kg体重とし、各ラットの腹腔内へ投与した。なお、ネガティブコントロール群として、I群にはシスプラチンの代わりに生理食塩水を投与した。また、III群、VI群、V群については、下記スケジュールに沿って、ALAをも投与した。一方、ポジティブコントロール群(II群)には、ALAを投与しなかった。なお、III群、IV群、V群のALAの投与は、ALA塩酸塩10mg/kg体重+クエン酸第一鉄ナトリウム15.7mg/kg体重(蒸留水、重炭酸ナトリウムに溶解)を1日1回経口投与することにより行った。
【0054】
(I群〜V群のALA投与条件)
I群(ネガティブコントロール群):実験開始より第6日目において、生理食塩水を投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=4
II群(ポジティブコントロール群):実験開始より第6日目において、CDDPを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=10
III群(「前投与群」):実験開始日より第5日目までの計5日間ALAを投与した。また、第6日目においてCDDPを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=10
IV群(「後投与群」):実験開始より第6日目において、ALAを投与し、その後に、CDDPを投与した。また、第6日目〜第15日目までの10日間ALAを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=9
V群(「全投与群」):実験開始日より第15日目までの15日間、ALAを投与した。なお、第6日目においては、ALAを投与し、その後に、CDDPを投与した。n=9
【0055】
実験開始日より第15日目までの15日間において、2日に1度、採血を行った。また、ラットの毛つや、便状態、活動度についての観察を実施した。また、第16日目に、各ラットの解剖を行い、腎臓を摘出した。摘出後に腎臓の切片を作成し、HE染色後、顕微鏡下で観察した。
【0056】
本実験期間における各実験群のラットの生存率を
図1に示す。
図1に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、実験開始日より第9日目に生存率の低下が見られた。これに対して、ALAを投与した群(III群、IV群、V群)では、抗ガン剤による副作用により生存率の低下の開始時期が遅れた。また、ALAを投与した群(III群、IV群、V群)では、第16日目までの生存率の低下を抑制できたことが示されている。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(V群)が、もっとも生存率が高かった。しかし、「前投与群」(III群)や「後投与群」(IV群)であっても、抗ガン剤の副作用に対する一定の抑制効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用による生存率の低下に関して、ALAの投与による確実な治療効果および予防効果が示された。
【0057】
第16日目において各ラットより解剖にて摘出した腎臓をホルマリンにて固定後、切片を作成し、HE染色にて腎臓の状態を確認した。腎臓のHE染色像を
図2に示す。
図2に示されるように、ALAの投与は、抗ガン剤の副作用による腎臓への障害を軽減している。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(V群)が最も効果的であった。しかし、「前投与群」(III群)および「後投与群」(IV群)でも一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用による腎臓への障害に関して、確実な治療効果および予防効果が示された。
【0058】
また、I群〜V群における各ラットの毛つや、便状態、および、活動度に関する評価を下記表1に示す。なお、実験開始日より第9日目から第13日目まで副作用が強く観察された。このため、第9日目、第11日目、第13日目の状態を点数化して評価した。ここで、毛つやは皮膚症状に関する副作用を評価するものである。便状態は、消化管系に関する副作用を評価するものである。活動度は全身症状に関する副作用を評価するものであり、特に倦怠感に関する副作用を評価するものである。
【0059】
なお、各項目は、マウス毎に下記基準にて評価し、第9日目、第11日目、第13日目の3日分を足した数値を評価対象のマウスの数で除したものである。
(毛つや)
5:非常に良い、4:通常状態、3:やや悪い、2:悪い、1:死亡
(便状態)
5:通常便、4:便が少ない、3:下痢ぎみ、2:下痢、1:死亡
(活動度)
5:通常状態、4:動きが弱い、3:ほとんど動かず、2:動かず、1:死亡
(総合評価)
5:非常に良い、4:通常状態、3:やや悪い、2:悪い、1:死亡
【0060】
【表1】
【0061】
表1より明らかなように、ALA投与は抗ガン剤により生じる様々な副作用に対して軽減作用があることが示された。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(V群)が最も良好な結果を示した。しかし、「前投与群」(III群)や「後投与群」(IV群)においても、一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用に関して、ALAの投与による確実な治療効果及び予防効果が示された。
【0062】
抗ガン剤投与による腎臓への副作用(腎毒性)に対する、ALA類投与による副作用低減効果を確認するため、ラットに対してシスプラチンおよびALAを投与し、ラットの血清クレアチニン、尿素窒素値(BUN)、尿タンパクへの影響について確認した。なお、血清クレアチニンおよび尿素窒素値(BUN)は、血液サンプルから測定した。また、尿タンパクは、尿サンプルから測定した。
また、全身症状に対する副作用であり、かつ、消化管系に関する副作用でもある体重減少についても同時に観察した。
【0063】
ラットは、6週齢のSDラット(雄)を46匹、日本エスエルシー株式会社より購入した。購入後、7日間馴化させた。馴化期間終了時点において、各ラットの体重測定、採血、及び、採尿を行った。また、その翌日より44匹にて実験を開始した。なお、馴化後の測定において血清クレアチニン、尿素窒素値(BUN)、および、尿タンパクの値の悪い2個体を実験より排除した。
【0064】
本実験においては、ALAの投与条件により、実験群を下記のI〜IVの4群に分けた。それ以外は、実施例1と同様の方法により行った。
【0065】
I群(ネガティブコントロール群):実験開始より第6日目において、生理食塩水を投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=8
II群(ポジティブコントロール群):実験開始より第6日目において、CDDPを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=14
III群(「後投与群」):実験開始より第6日目においてALAを投与し、その後にCDDPを投与した。また、第6日目〜第15日目までの10日間ALAを投与した。それ以外は、通常飼育を行った。n=10
IV群(「全投与群」):実験開始日より第15日目までの15日間、ALAを投与した。なお、第6日目においては、ALAを投与し、その後にCDDPを投与した。n=11
【0066】
実験開始日、第6日目、第7日目、第9日目、第11日目、第13日目、および、第15日目に各ラットの体重を測定し、採血、および、採尿を実施した。採取した血液サンプルは、血清クレアチニン、尿素窒素値(BUN)の測定に使用した。また、採取した尿サンプルは、尿タンパクの測定に使用した。また、第16日目に、各ラットの解剖を行い、腎臓を摘出し観察した。
【0067】
本実験期間における各実験群のラットの体重変動を
図3に示す。
図3に示されるように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第1日目以降に体重の減少が見られた。これに対して、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用によって体重が減少するのが抑制された。さらに、ALAを投与した群(III群、IV群)では、第5日目以降、再度体重の上昇が認められた。実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(IV群)が最も効果的であるが、「後投与群」(III群)においても、一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の副作用である体重減少に関して、ALAの投与による確実な治療効果及び予防効果が示された。
【0068】
本実験期間における各実験群のラットの血清クレアチニン値の変動を
図4に示す。
図4に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第3日目以降に血清クレアチニン量の急激な増加が見られた。一方、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用による血清クレアチニン値は第5日目に若干の上昇を見せたが、ほとんどネガティブコントロール群と変わらない値を維持した。
【0069】
本実験期間における各実験群のラットの尿素窒素値(BUN)の変動を
図5に示す。
図5に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第3日目以降に尿素窒素値(BUN)の急激な増加が見られた。一方、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用による尿素窒素値は第5日目に若干の上昇を見せたが、ほとんどネガティブコントロール群と変わらない値を維持したことが示されている。
【0070】
本実験期間における各実験群のラットの尿タンパクの値の変動を
図6に示す。
図6に示すように、ポジティブコントロール群(II群)においては、抗ガン剤の副作用により、第1日目以降に尿タンパク値の急激な増加が見られた。一方、ALAを投与した群(III群、IV群)では、抗ガン剤による副作用による尿タンパクの値は、ネガティブコントロール群(I群)と比較して第3日目に若干の上昇を見せたが、ほとんどネガティブコントロール群と変わらない値を維持したことが示されている。
【0071】
図4〜
図6明らかなように、ALAは、抗ガン剤の副作用による腎臓のダメージを軽減することができる。
実験期間を通じてALAを投与した「全投与群」(IV群)が最も効果的であるが、「後投与群」(III群)においても、一定の効果が示された。したがって、抗ガン剤の腎臓への副作用に関して、ALAの投与による確実な治療効果及び予防効果が示された。
【0072】
第16日目に摘出した各ラットの腎臓の写真図を
図7に示す。血清クレアチニン値、尿素毒素値(BUN)、および、尿タンパクの値から実験期間中に腎機能に障害が生じたと判断できた個体の腎臓は、黄色く浮腫していた。
図7において、黄色く浮腫していた腎臓を矢印で示す。
【0073】
ALAの投与が、がん細胞に対する抗ガン剤の細胞毒性(抗ガン効果)に影響を与えないか検証した。
本実験においては、次のがん細胞を用いた。すなわち、T24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)および253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)である。また、抗ガン剤としては、シスプラチンを用いた。また、ALAとしては、ALA塩酸塩を用いた。また、ALAの投与においては、併せて、クエン酸第一鉄ナトリウムを投与した。
ALAとクエン酸第一鉄ナトリウムの濃度は、実施例1および実施例2において抗ガン剤の副作用軽減効果が得られた濃度(ALA塩酸塩:10mg/kg体重(約59.67μM)、クエン酸第一鉄ナトリウム:15.7mg/kg体重(約29.85μM))より約3.35倍高い濃度(ALA塩酸塩:200μM、クエン酸第一鉄ナトリウム:100μM)とした。なお、具体的には、実施例3の体重1kg当たりのALAとクエン酸第一鉄ナトリウムの濃度の量が、実施例1および実施例2における容積1リットル当たりのALAとクエン酸第一鉄ナトリウムの量の約3.35倍となるように計算した(なお、以下のシスプラチンについての約1.5倍も同様に計算した。)。
一方、シスプラチンの濃度は、実施例1および実施例2で使用した濃度(8mg/kg体重(約26.66μM))の約1.5倍の40μMを最大とする、2倍希釈系列(40μM、20μM、10μM、5μM、2.5μM、1.25μM、0μM)とした。
各濃度における細胞毒性を、下記I群〜IV群において比較した。
I群:「無添加群」、すなわち、ALAを一切投与しなかった群
II群:「前投与群」、すなわち、「前培養時」のみALAを投与した群
III群:「同時投与群」、すなわち、「シスプラチン投与時」にのみALAを投与した群
IV群:「全投与群」、すなわち、「前培養時」と「シスプラチン投与時」にALAを投与した群
なお、各群の意味は、以下において、さらに明確に説明される。
【0074】
本実験は、具体的には、下記のようにして行われた。
【0075】
(1)T24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)または253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)を、10cmディッシュを用いて、10%FBSを含むDMEM培地にてサブコンフルエンスの状態まで培養させた。その後、トリプシン処理により回収した。
(2)I群(無添加群)およびIII群(同時投与群)の試験群においては、(1)において回収した細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に50000cells/mlの密度となるように懸濁した。また、II群(前投与群)およびIV群(全投与群)の試験群においては、(1)において回収した細胞を、200μMのALA塩酸塩と、100μMのクエン酸第一鉄ナトリウムと、10%FBSとを含むDMEM培地に50000cells/mlの密度となるように懸濁した。
(3)続いて、(2)で得られた各懸濁液を、96−wellのマイクロプレートに1wellあたり100μlずつ分注し、37℃で24時間前培養した。
【0076】
(1)前培養後、それぞれのWellから培地を除去した。そして、I群(無添加群)およびII群(前投与群)には、各種濃度(40、20、10、5、2.5、1.25、0μM)のシスプラチンと10%FBSとを含むDMEM培地を加えて37℃のCO2インキュベーターで培養した。また、III群(同時投与群)およびIV群(全投与群)には、各種濃度(40、20、10、5、2.5、1.25、0μM)のシスプラチンと、200μMのALA塩酸塩と、100μMのクエン酸第一鉄ナトリウムと、10%FBSとを含むDMEM培地を加えて37℃のCO2インキュベーターで培養した。
(2)シスプラチン存在下で48時間培養後、各Wellに10μlのCell Counting Kit−8の基質であるWST−8(同仁化学研究所)を加えて、37℃で2時間発色反応を行なった。その後、各Wellについて、450nmの吸光度を測定することにより生存率を測定した。
なお、シスプラチンを含まない培地で培養した場合の吸光度を生存率100%とした。また、細胞を含まない培地にWST−8を加えて発色させた場合の吸光度を生存率0%とした。これにより、各Wellについて「細胞の生存率(%)」を計算した。そして、「細胞の死滅率(%)」を、次の式により、計算した。
【0077】
「細胞の死滅率(%)」=100−「細胞の生存率(%)」
【0078】
I〜IV群の細胞の死滅率を、
図8および
図9に示す。なお、細胞の死滅は、シスプラチンによる細胞の生存の阻害であるため、
図8及び
図9においては、「細胞の死滅率(%)」を「阻害率(%)」として記載している。
【0079】
図8は、シスプラチン投与によるT24細胞(ヒト移行細胞膀胱癌細胞)の死滅率(%)を示す。なお、I群〜IV群におけるT24細胞の50%阻害濃度(50%死滅濃度)(μM)は、それぞれ5.73μM(I群)、5.21μM(II群)、4.87μM(III群)、5.56μM(IV群)であった。
【0080】
図9は、シスプラチン投与による253J−BV細胞(ヒト尿路上皮癌細胞)の死滅率(%)を示す。なお、I群〜IV群における253J−BV細胞の50%阻害濃度(50%死滅濃度)(μM)は、それぞれ、3.92μM(I群)、3.92μM(II群)、2.80μM(III群)、2.89μM(IV群)であった。
【0081】
図8及び
図9が示すように、シスプラチンの抗がん効果に対して、ALAの投与は、その投与時期および投与期間に関わらず、ほとんど抗ガン剤の効果を減弱していないことが示された。v
【0082】
進行期の大腸がんで腸閉塞を起こした女性について、2009年8月19日(この時点で61歳)緊急手術をおこなった。手術時の所見によるとこぶし大の大腸がんがあり、がんを摘出し、腸閉塞を解除するも、多数の腹膜播種を認め余命3ヶ月の診断を受けた。
【0083】
手術後、抗ガン剤治療として、FOLFOX(5−FU、アイソボリン、エルプラットの3剤併用)およびFOLFIRI(5−FU、アイソボリン、カンプトの3剤併用)に加えてアバスチンなどの分子標的薬を併用した。そして、この抗がん剤治療と並行して、一日あたりアミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgとを、経口摂取した。
【0084】
その結果、手術後1年間は抗がん剤治療を続けることができた。1年後には、副作用のために抗ガン剤の投薬は断念したが、アミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgの経口摂取は継続し、告知された余命3ヶ月を大きく超え、1年半もの間、副作用が改善された状態で生存することができた。
【0085】
患者は副作用として強い貧血症状を呈していたので、副作用改善の指標として貧血改善効果を比較対象として選択した。(i)手術直前の2009年8月19日と、(ii)アミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムの摂取開始し約1年5ヵ月経過した2011年1月28日とにおける、赤血球数、ヘモグロビン値、白血球数を以下の表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
上記表から理解されるとおり、手術直前にはがん性貧血による赤血球数とヘモグロビンの減少と、炎症による白血球の増加がみられるが、(ii)の摂取開始から約1年5ヵ月後の時点ではアミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムとの投与により赤血球数とヘモグロビンが増加して抗ガン剤の投与の副作用としての貧血が改善していることがわかる。一方、白血球数は、正常値に落ちついた。抗ガン剤による強い副作用が出たことを考えると、造血系にも強いダメージが与えられたと考えられるが、貧血が改善しているという結果は驚異的で、腹膜播種を抱えながらも医者の余命3ヶ月の告知を大きく超えた1年半後もQOLが改善した生活を送ることができている。