【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するため、まず、従来の2層構造のリベット型接点で生じる接点材料の剥離の要因について検討した。その結果、高容量の開閉接点特有の環境における酸素の挙動に着目した。
【0011】
接点同士の接触の際には、接点表面はその電気容量に応じたアーク熱・ジュール熱の負荷を受けるが、高容量の接点表面の場合、その温度は相当高温なものとなる。このとき、外部雰囲気(空気)中の酸素が接点材料に浸入することとなる。ここで、接点材料の主要構成金属であるAgは、酸素を容易に拡散させることができる金属であるため、浸入した酸素は接点材料中に拡散し、やがて接点材料とベース材料との接合界面に達することとなる。そして、接合界面に到達した酸素は、ベース材料を構成するCuと結合・酸化してCu酸化物を形成する。このCu酸化物は、接点材料(Ag)との結合力が弱いため、剥離を生じさせることとなる。
【0012】
また、酸素の影響としては、外部雰囲気から侵入するものの他、接点材料自体に含有されているものの影響も考えられる。これは、接点材料としてAg酸化物合金を適用する場合、分散する酸化物の酸素が、高温下で酸化物より解離し、接点材料中で拡散して接合界面に到達し酸化物を形成するというものである。
【0013】
本発明者等は、上記検討から、接点材料の剥離を抑制するためには、接点材料とベース材料との接合界面における酸化物形成を抑制することが有効であると考えた。もっとも、酸化物形成の要因が、外部雰囲気からの酸素によるものなのか、接点材料中の酸化物からの酸素によるものなのかは一義的なものではない。そして、接点の外部雰囲気を変更することは不可能であり、また、接点材料中の酸化物はAg酸化物合金における主要な構成であり、Ag酸化物合金を適用する場合において酸化物量を制限することは現実的ではない。
【0014】
そこで本発明者等は、接合界面における酸化物の形成抑制の手段として、接合界面への酸素の拡散を阻止するバリア層を設定することとし、更に、その構成材料としてAg合金を適用することが好ましいとして本発明に想到した。
【0015】
即ち、本発明は、頭部と、前記頭部より幅狭の足部よりなるリベット型接点において、前記頭部は、少なくとも上面がAg系接点材料よりなる接点材料層からなり、前記頭部の残部及び前記足部がCu又はCu合金よりなるベース材料からなり、前記接点材料層と前記ベース材料との接合界面に、Ag合金からなるバリア層を備えることを特徴とするリベット型接点である。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、少なくとも上面がAg系接点材料よりなる接点層からなる頭部と、頭部の残りの部分及び足部がCu又はCu合金よりなるベース材料で構成される2層構造を有するリベット型接点について、接点層とベース材料との接合界面にAg合金からなるバリア層を形成し3層構造とすることに特徴がある。
【0017】
そこで、本発明の特徴であるバリア層について説明する。本発明におけるAg合金からなるバリア層は、Ag合金の添加元素(Ag以外の構成元素)が優先的に酸素と結合し酸化物となることで、接合界面への酸素の到達を阻止しCu酸化物の生成を防止するものである。このバリア層を構成するAg合金は、接点材料(Ag系接点材料)及びベース材料(Cu)の双方に対して十分な接合力を有する。また、導電性・靭性も良好であることから、接点としての電気的特性を損なうことなく接合界面での酸化物生成を防止できる。
【0018】
この点、バリア層の構成材料としては、Ag合金ではなく酸素が拡散し難い材料を適用し、接合界面への酸素の移動そのものを無効化するものも考えられる。しかし、酸素拡散が全く生じない金属材料は種類が限られ、また、導電性・靭性に優れる上に接点材料及びベース材料の双方に対して十分な接合力を有するものは少ない。これに対し、本発明のような酸素を消費するAg合金からなるバリア層は、使用過程で酸化物を析出させることで接点材料に近いAg酸化物合金に変化する。これは、使用過程においてバリア層の耐摩耗性、耐溶着性が向上することを意味し、接点材料が磨耗したときのバックアップとして作用することができるというメリットもある。
【0019】
そして、バリア層となるAg合金は、AgにSn、In、Cu、Ni、Fe、Co、W、Mo、Zn、Cd、Te、Biの1種又は2種以上の卑金属元素を0.03〜20質量%添加してなるAg合金が好ましい。これらの卑金属の添加量が0.03%未満では、酸素を接合界面への到達を許すこととなる。また、20質量%を超えると、ベース材料との接合強度が不安定になる。尚、複数の添加元素がある場合は、それらの総量である。また、バリア層を構成するAg合金は、不可避不純物を含むことがある。
【0020】
ここで、バリア層を構成する「Ag合金」とは、Agと添加元素(卑金属)とが固溶した状態にある固溶合金と、固溶しきれなかった添加元素が一部析出した状態にある複合型の合金の双方を含む意義である。いずれの形態においても、添加元素が酸化することでバリア層としての機能が発揮される。
【0021】
バリア層を構成するAg合金の具体例としては、Agに0.5〜20質量%のCuを添加してなるAg合金(Ag−Cu合金)が挙げられる。Cuの添加量は、好ましくは3.0〜20質量%である。更に、Ag−Cu合金に0.03〜1.0質量%のNiを添加してなるAg合金も適用できる。
【0022】
また、バリア層を構成するAg合金について、Cu以外を添加するものとしては、AgにSn、In、Zn、Cdの少なくともいずれかを0.5〜20質量%添加してなるAg合金も適用できる。例えば、Agに1.0〜10質量%のSn及び0.5〜10質量%のInを添加してなるAg合金(Ag−Sn−In合金)が好適である。そして、Ag−Sn−In合金に、Ni、Teの少なくともいずれかを合計で0.01〜1.0質量%添加したAg合金、及び、Ag−Sn−In合金に、Fe、Co、Zn、Cu、Bi、Cdの少なくともいずれかを合計で0.01〜1.0質量%添加したAg合金も適用できる。
【0023】
更に、上記の他、AgにNi、Fe、Co、W、Moの少なくともいずれかを合計で0.03〜20質量%添加したAg合金も有用であると考えている。これらの添加元素はAgに対する固溶限が比較的低いため、一部の添加元素が単独で析出する複合型のAg合金となる。このとき、Niを添加元素とする場合には、Ni添加量の下限を0.03質量%とするのが好ましい。また、Fe、Co、W、Moを添加元素とする場合には、それらの合計添加量の下限を0.05質量%とするのが好ましい。
【0024】
そして、バリア層の厚さは、0.03mm〜0.3mmとするのが好ましい。0.03mm未満では、バリア層の酸素を捕捉する作用が不足して接合界面の酸化物形成を十分抑制できない。バリア層の厚さの上限については、特に制限はないが、接点の寸法を考慮し0.3mm程度とするのが好ましい。
【0025】
以上説明したバリア層を備える本発明のリベット型接点は、他の構成においては、従来の2層構造のリベット型接点と基本的に同様である。
【0026】
頭部の上面を形成する接点材料層は、Ag系接点材料からなり、具体的には、純AgやAg合金(Ag−Ni合金、Ag−Cu合金等)である。Ag合金としては、酸化物分散型のAg酸化物合金(Ag−SnO
2系合金、Ag−SnO
2−In
2O
3系合金、Ag−ZnO系合金等)も適用できる。尚、本発明は、接点材料としてAg酸化物合金を適用した場合において特に有用である。上述の通り、接点材料中の酸化物から酸素が拡散するおそれがあるからである。また、接点材料に接合され、主に足部を形成するベース材料は、Cu、Cu合金(Cu−Ni合金、Cu−Sn合金)が適用できる。
【0027】
尚、接点材料は、頭部の上面に接合されていれば良い。接点材料の好ましい厚さは、接点の負荷(定格電流等)によって調整することができ、低負荷のものについては0.1mm以上あれば良いが、ブレーカー等の高負荷(定格電流50A以上)のものについては1〜2mm程度必要となる。本発明の具体的な態様としては、頭部の上面部分のみを接点材料としたもの(
図1(a))の他、頭部全体を接点材料とし足部をベース材料で形成しても良い(
図1(b))。
【0028】
また、
図2のように、足部をベース材料で形成しつつ、足部形状として足部より大径の鍔部を形成する一方、頭部を接点材料で形成し、鍔部の下端面が頭部の下端面に対して略フラットになるように、足部を頭部に埋接した形状としても良い。このとき鍔部の最端部と足部起点との間の長さ(l)が、頭部の最端部と足部起点との間の長さ(L)に対してl<L(好ましくは0.4L≦l≦0.6L)としたものが好ましい。
【0029】
更に、バリア層の厚さは均一であることが好ましいが、形状については完全な平面である必要はない。即ち、
図1(a)のように略平坦な接合界面に沿ってバリア層が形成されていても良いが、
図3のように接合界面が円弧形状となりこれに沿ってバリア層が形成されていても良い。更に、接合界面が波打った状態であっても良い。
【0030】
本発明に係るリベット型接点を製造するためには、耐久性を確保するために、接点材料、バリア層となるAg合金、ベース材料のそれぞれが強固に接合された状態で、頭部と足部を有するリベット型接点に成形加工する必要がある。ここで、本発明に係るリベット型接点の製造方法としては、接点材料からなる第1ビレットと、Ag合金からなる第2ビレットと、ベース材料からなる第3ビレットと、を突き合わせて圧接して複合材を製造し、凹状の空間を有する接合パンチと、筒状の空間を有する接合ダイスとを組み合わせてリベット形状の空間を形成し、前記複合材を、前記接合ダイスの下部から前記接合パンチの空間に圧入し、前記接合パンチ内の空間に第1ビレットを充填し、頭部の少なくとも表層を構成する接点材料層を形成すると共に、接合パンチ内の残余の空間に第2ビレット及び第3ビレットを充填して、頭部の残部とバリア層と足部を形成させるものとする。
【0031】
本発明に係るリベット型接点の製造方法では、まず、接点材料からなる第1ビレットと、Ag合金からなる第2ビレットと、ベース材料からなる第3ビレットとを圧接して複合材とする。この複合材の製造工程は、本発明に係るリベット型接点を製造するために必須の工程である。第1ビレットと第2ビレットとを強固に接合することで、頭部の形成工程の際、接合面を第1ビレットの変形に追従させて第2ビレット及び第3ビレットも変形させることができる。この圧接時の荷重は、0.8〜3.0ton・fの強力な加工力で加工するのが好ましい。
【0032】
製造した複合材を、接合パンチと接合ダイスとの組合せにより形成される型に圧入することで、リベット型接点とすることができる。この成形工程では、接合パンチの空間に圧入された第1ビレットが接合パンチの壁面により変形しつつ頭部形状となり、複合材の各接合面がこの変形に追従して頭部の残部とバリア層及び足部が形成される。このときリベット型接点の形態は、第1ビレットの体積と接合パンチ内の空間容積との関係で調整することができ、第1ビレットの体積と接合パンチ内の空間容積より小さい場合、
図1(a)のような接点材料の層とバリア層とベース材料の3層からなる頭部が形成される。また、第1ビレットの体積が接合パンチ内の空間容積以上であれば、接合パンチ内の残余の空間が無いので頭部全体が接点材料で形成される(
図1(b))。この複合材の圧入における荷重は、第1ビレットを変形・加工できる荷重であれば良く、第1ビレットの接点材料の種類に応じて調整できる。
【0033】
以上の複合材の製造及び圧入による成形加工は、常温で行うことができる。そして、頭部と鍔部を形成したリベット型接点については、頭部適宜にプレス加工性を成型しても良い。この成型工程は、頭部の形状・寸法について厳密な規制が必要なときに有用である。