(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
微細加工技術の進展に伴い、光の波長レベルのピッチを有する微細構造パターンを形成することが可能となり、近年、光学分野では平板型光学素子の開発が進んでいる。例えばプロジェクタでは、偏光子は偏光ビームスプリッタや検光子としての利用のほか、偏光再利用のための反射型偏光子として利用される(非特許文献1参照。)。
【0003】
ワイヤグリッド型偏光子の機能について以下に簡単に述べる。
ワイヤグリッド型偏光子は、グリッドライン(金属細線)2の間隔または周期が波長よりもはるかに小さい場合には、グリッド方向に対して平行に偏光された電磁放射を反射し、直交する偏光の電磁放射を透過する偏光子として機能する(
図1および非特許文献2参照。)。
平行な導電ワイヤアレイによる無線波の偏光形成や、可視光よりも長波長に対応する赤外偏光子などは古くから知られてきた。そして、前述の微細加工技術の進展により、可視光にも対応できるようになり、実際に金属ナノ構造からなるワイヤグリッド偏光子を用いたプロジェクタなども開発されている(非特許文献3及び特許文献1参照。)。
【0004】
ワイヤグリッド偏光子のグリッドを形成する材料としては、可視光領域にて吸収が少ないという特性上、アルミニウム(Al)が主として利用されている。アルミニウムを主成分としたワイヤグリッド素子では、紫外光や可視光領域にて、透過側の透過率(TM透過率)を高く保ち、遮断側の透過率(TE透過率)を低くし、コントラスト(消光比のことであり、TM透過率とTE透過率の比である。)を高くすることができる。
【0005】
以下にワイヤグリッド偏光子の従来技術について述べる。
ワイヤグリッド偏光子の従来技術としては、特許文献1に開示されているような基板上にグリッド構造が形成されたワイヤグリッド素子がある。
また、環境によらず利用できるワイヤグリッド偏光子が望まれるが、一般的に耐久性に関する問題として、微細化したアルミニウムは水と反応し易く、腐食が生じ易いことが知られている。このような問題に対し、光学薄膜の保護膜のように、最表面にSiOxやSiNなどの透明誘電膜を厚めに設ける方法もあるが、保護膜の厚みが厚い場合にはグリッド間のスペースを他の材料が埋める構造となってしまい、ワイヤグリッド素子としての偏光子の機能が低下してしまう。また、耐食性を向上させるために積極的に他の物質を用いて被膜を設ける方法もある。しかしながら、別途、他の物質を用いた場合にはその工程による歩留まり低下や、コスト増につながる。
【0006】
例えば、特許文献2に記載の耐蝕性ワイヤグリッド偏光子及び製造法では、腐食防止のためにアルミニウムワイヤグリッドの側面に、アミノホスホネートなどの単分子膜を形成し、腐食防止効果をもたらすという報告がある。しかしながら、単分子膜形成は容易な技術ではなく、必ずしも面内に均一に形成されず、歩留まり低下が懸念される。また、単分子膜として、新たにアミノホスホネート等を利用することによる材料のコストが増加する。
【0007】
また、金属の腐食防止剤は市販されている。アルミ腐食防止剤は、三価のクロムを含んだ水溶液(他にNi、Coなどが含まれる場合もある)であり、アルミニウムの表面をエッチングしてアルミニウムの上にCrを主成分とする被膜を形成する。しかしながら、溶液を用いた場合には、厚みが0.1〜数百μmとなり、さらに濃度、温度や時間などの調整による均一性の制御が容易ではない。また、Crの酸化物によりワイヤグリッド偏光子としての特性も劣化してしまう。
【0008】
他のワイヤグリッド関連の技術としては、積層構造を微細化しワイヤグリッド素子とした従来例(例えば、特許文献3〜5参照。)、グリッド構造を合金で被覆する従来例(例えば、特許文献6参照。)などが挙げられる。しかしながら、特許文献3〜6に記載の従来例では構造や構成する材料が充分に検討されているとは言えず、信頼性や光学特性においてさらなる改善が求められている。
【0009】
さらに、金属グリッド構造に酸化被膜を設ける構造の従来例(例えば、特許文献7参照。)が例示できる。
しかしながら、特許文献7に示されるような酸化被膜では信頼性に対して、効果はあるが充分とはいえない。また、反応性イオンエッチングではなく、リフトオフプロセスを用いているため、高アスペクト比のワイヤグリッド形成はできず、その結果、高消光比をもつ、光学特性の優れた偏光子を提供できないという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は基板上に微細構造が形成された平板型光学素子の一つである、アルミニウムワイヤグリッド素子に関するものである。アルミニウムワイヤグリッド素子は、プロジェクタでは、偏光ビームスプリッタや検光子としての利用のほか、偏光再利用のための反射型偏光子として利用される。また、偏光画像撮像装置においては、撮像素子の前にワイヤグリッド素子を配置することにより、偏光画像を取得する。
【0015】
本発明に係るワイヤグリッド素子は、基板11と、該基板上11に周期的に配置されたグリッド構造12と、を備え、前記グリッド構造12は、アルミニウムを主成分とした材料からなるグリッドライン12aと、前記グリッドライン12aの上側を被覆するケイ素酸化物12bと、前記グリッドライン12aの側面を被覆するアルミニウム酸化物12cと、を有することを特徴とする。
また、上記課題を解決するために本発明に係るワイヤグリッド素子は、基板11と、該基板11上に周期的に配置されたグリッド構造12と、を備え、前記グリッド構造1は、アルミニウムを主成分とした材料からなるグリッドライン12aと、前記グリッドライン12aの上側を被覆する誘電体12bと、を有し、前記誘電体12bは、凸レンズ状の曲面構造を有することを特徴とする。
次に、本発明に係るワイヤグリッド素子ならびに該ワイヤグリッド素子を用いた偏光画像撮像装置及びプロジェクタについてさらに詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0016】
《ワイヤグリッド偏光子》
(第1の実施の形態)
本発明に係るワイヤグリッド素子の第1の実施の形態であるワイヤグリッド偏光子における構成例を
図2に示す。
図2(a)は断面模式図、
図2(b)は上面模式図である。
図2におけるサイズは図面作製上の便宜のためであり、実際のスケールは異なる。アルミニウムグリッドパターン方向に対して、入射TM偏光は透過し、入射TE偏光は反射もしくは吸収される。
【0017】
基板11はホウケイ酸ガラス基板であり、透明基板である。この透明基板11上にワイヤグリッド素子としての機能を示す周期的なライン状のグリッド構造(グリッドパターン)12が設けられ、このグリッド構造12の中心部であるグリッドライン12aはアルミニウム(Al)からなる。
グリッド構造12の上側(基板と反対側)の被覆層12bは厚み30nmのケイ素酸化物からなる。Alグリッド構造の両側面の被覆層12cは厚み約10nmのアルミニウム酸化物からなる。
また、グリッド構造12の(ライン配列方向)の周期は150nmであり、Alグリッド構造12の(ライン配列方向の)幅はグリッドライン12aと両側面のアルミニウム酸化物の領域とをあわせて70nm、基板11に対して垂直方向の高さは180nmである。
【0018】
本発明におけるワイヤグリッド偏光子の作製フローの一例を
図3(a)〜(e)に示す。
【0019】
<
図3(a)成膜、
図3(b)レジストパターニング>
まず、透明基板11上にAl12a及びケイ素酸化物(SiOx)12bをそれぞれ、例えば、180nm、30nmの厚さで連続的に成膜する。
その後、有機レジスト等を用い、例えば、150nmの周期、70nmの幅で有機レジストパターン13を形成する。
【0020】
<
図3(c)SiOxエッチング、
図3(d)Alエッチング>
続いて、RIEエッチング装置で、フッ素系ガスを用いてケイ素酸化物をドライエッチングし、有機レジストパターン13をケイ素酸化物12bに転写し、Alエッチングのハードマスクを形成する。
その後、金属用ドライエッチング装置で、塩素系ガスを用いて、ケイ素酸化物12bをマスクとしてAl12aをドライエッチングし、グリッド構造(12a,12bおよび12cの酸化前の状態)を形成する。
【0021】
<
図3(e)プラズマ酸化>
更に、同一エッチャー内で、連続して酸素ガスを用いてプラズマ酸化することにより、Alグリッド両側壁12cにアルミニウム酸化物を形成し(例えば、10nmの厚み)、耐食性の高いワイヤグリッド素子を形成することができる。
【0022】
本作製フローの特徴としては、下記(1)〜(3)が挙げられ、低コストで耐食性の高いワイヤグリッド素子を形成することができる。
(1)Al成膜に続けてSiOx成膜することにより、Alが大気に触れる時間が短く、また、Alがウエットプロセスにさらされることがない。よって、作製途中でのAlの劣化や腐食が起こり難い。
(2)Alのエッチングとプラズマ酸化を同一エッチング装置内で、連続的に行える。よって、基板を取り出して大気中に触れること無く、清浄なAlグリッド側面に緻密なアルミニウム酸化物を形成することができる。尚、Alエッチング後にエッチャーから基板を取り出した場合には、残留塩素と大気中の水分から酸が発生しAlを腐食する心配があるが、このような腐食を防ぐ効果もある。
(3)保護層であるアルミニウム酸化物は同一エッチング装置内で作製出来る為、特別な工程の増加もなく低コストで作製できる。
【0023】
本実施の形態におけるワイヤグリッドの構造についてさらに詳しく説明する。
図2に示す構造では、ケイ素酸化物12bとアルミニウム酸化物12cとに囲まれたAlグリッド構造の中心部であるグリッドライン12aは、大気と直接触れる箇所がないという特徴がある。したがって、アルミニウムからなるAlグリッドライン12aは基本的に、腐食を生じさせる元素と触れることはなく、化学反応することもない。
また、通常の酸化アルミニウム被膜のみの場合よりも、Alグリッド構造の上部をケイ素酸化物で被覆することにより、信頼性をより高めることができる。
【0024】
さらに、ケイ素酸化物はAlをドライエッチングする際のマスクとしても利用し、また、Alとケイ素酸化物は連続成膜できることから、Alを大気にさらす工程を極力減らすことができる。
また、アルミニウム酸化物に関しては、Alのドライエッチング工程と連続して行えることからエッチング箇所を大気にさらす前に酸素プラズマなどの簡易なプロセスにより形成できる。したがって、本実施の形態では、新たに保護膜材料を用意するなどのプロセスは不要であり、コストの増加に繋がらないという利点がある。
他の材料を用いた場合について述べる。
【0025】
(基板11)
基板11となるガラス素材としては、ホウケイ酸ガラス、合成石英、結晶化ガラス、極低膨張ガラスセラミックス、低膨張ガラス、光学ガラス、特殊ガラス、無アルカリガラス、白板ガラス、青板ガラスなどが挙げられる。いずれも基本的にAlを腐食する成分がAlグリッド構造に染み出すことはない。
通常、基板11の厚みは0.5〜1mm程度である。ホウケイ酸ガラスを用いた場合には、基板上に信頼性の高いワイヤグリッド素子が形成できる。このため、Siウエハ上に形成される結像素子とするような場合や他のデバイス等と積層するような場合、陽極接合によりウエハレベル同士で接合できるので、低コスト実装が可能になる。
【0026】
(グリッド構造12:アルミニウムグリッド12a、ケイ素酸化物12b、アルミニウム酸化物12c)
Alの成膜は、スパッタリング法、蒸着法などの真空成膜技術により形成できる。グリッド構造12を作製するためのパターン形成には、電子線描画等を用いた微細加工プロセスやアルミニウムを加工するドライエッチングプロセスが必要となる。
なお、アルミニウムが主成分であるとは、アルミニウムの原子比が98%以上であることを意味する。ワイヤグリッド素子としてのTM透過率を向上させる観点からは、純Al(Alが100%)であることが好ましいが、さらに耐久性を必要とする場合などには、SiやNd、Tiを2%以内の範囲で添加することもある。
【0027】
Alグリッド構造12の上部に形成されている上側被覆層12bを構成するケイ素酸化物については、基本的には化学組成としてSiOx(xは1.0〜2.0)と記載される。ケイ素酸化物は、二酸化ケイ素の化学量論的組成であるSiO
2と酸化ケイ素SiOとが混じりあった状態である。したがって、xとしては特に1.0〜2.0の範囲で限定されないが、光学的に透明である方が良いという点でx=2に近いことが好ましい。本実施の形態では、xはほぼ2であり、SiO
2がケイ素酸化物の大部分を占めている。
【0028】
Alグリッド構造の両側面の側面被覆層12cを構成するアルミニウム酸化物に関しても、酸化アルミニウム(アルミナ、化学量論的組成:Al
2O
3)と、AlOが混じりあった状態であるため、AlOxと記載される。このとき、前記xとしては1.0〜1.5程度である。本実施の形態では、xはほぼ1.5であり、Al
2O
3がアルミニウム酸化物の大部分を占めている。
【0029】
また、上記作製したワイヤグリッド素子に対して電子顕微鏡を用いて断面観察を行い、測長した結果、Alグリッドのピッチは150nm、Alライン幅は50nmであり、左右の側面に形成されたアルミニウム酸化物の厚みが各々10nmであった。即ち、アルミニウム酸化物もふくめたグリッド幅は70nmであった。
また、同様に上記作製したワイヤグリッド素子に対して電子顕微鏡を用いて断面観察を行い、測長した結果、Alの高さは180nmであり、その上側に形成されたケイ素酸化物の高さは30nmであった。
【0030】
さらに、ワイヤグリッド偏光子としての光学特性を評価した。波長550nmにて、TM透過率が85.0%、TE透過率が0.02%であり、消光比(TM透過率とTE透過率の比)は4250であった。また、高温高湿下(温度:85℃、湿度:85%RHの一定条件)にて、500時間放置し、試験前後にて光学特性を比較したが、大きな変化はなく、高温高湿下においても充分な耐食性をもつことを確認した。なお、100個の試料にて劣化を示す試料はなかった。
【0031】
また、計算機シミュレータを用いて、Alライン構造の側面はアルミニウム酸化物(Al
2O
3)とした上で、上側の材料がケイ素酸化物(SiO
2)である場合と、アルミニウム酸化物(Al
2O
3)である場合とについて、比較した。
図4(a)はAlライン構造の側面はAl
2O
3、上面はSiO
2が保護膜として形成された構造の断面模式図である。また、
図4(b)はAlライン構造の側面、および、上面がAl
2O
3を保護膜として形成された構造の断面模式図である。また、
図4(c)は、(a)および(b)におけるTM、TE透過率の波長依存性を示す。
【0032】
例えば、波長550nmにおける透過率値を具体的に比較してみると、
図4(a)に示す構成ではTM透過率が67.9%、TE透過率が0.019%、
図4(b)に示す構成ではTM透過率が66.4%、TE透過率が0.021%である。消光比は、
図4(a)に示す構成では3637、
図4(b)に示す構成では3224である。
なお、
図4(c)において右側の縦軸がTE透過率を表し、左側の縦軸がTM透過率を表す。また、
図4(c)中、減少していく曲線がTE透過率を表し、山型の曲線がTM透過率を表す。
【0033】
以上の計算機シミュレータによるシミュレーションによれば、本発明に対応する
図4(a)に示す構成の方が、
図4(b)に示す構成よりも、偏光子としての光学特性が良好であることがわかる。この計算において、アルミニウム酸化物を完全なAl
2O
3と仮定して計算したが、実際にはAlラインの側面においてはAl
2O
3よりもAlの成分は多い。同様の構造で測定値と計算値を比較した場合、測定値の方が計算値よりもTM透過率がより高くなっているのはこのためと考えられる。
【0034】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態と同様の構造にて、Alの代わりにAl−Si(Siの原子比1%)を用い、ホウケイ酸ガラス基板の代わりに石英基板を用いて
図5に示す構造とした。
グリッド構造12の上側(基板と反対側)の被覆層12bは厚み30nmのケイ素酸化物からなる。Al−Siグリッド構造の両側面の被覆層12cは厚み約20nmのアルミニウム酸化物からなる。
また、Al−Siグリッド(ライン配列方向)12の周期は200nmであり、Al−Siラインの(ライン配列方向の)幅はグリッドライン12aと両側面のアルミニウム酸化物の領域とをあわせて110nm、基板に対して垂直方向の高さは200nmである。
【0035】
本実施の形態も第1の実施の形態と同様に、ワイヤグリッドを形成する金属Al−Siの側面のアルミニウム酸化物、および上部のケイ素酸化物がAl−Siに対して保護膜として働き、充分な耐久性を示すことを確認した。
【0036】
(第3の実施の形態)
本発明に係るワイヤグリッド素子の第3の実施の形態であるワイヤグリッド偏光子における構成例を
図6に示す。
図6(a)は断面模式図、
図6(b)は上面模式図である。
図6におけるサイズは図面作製上の便宜のためであり、実際のスケールは異なる。アルミニウムグリッドパターン方向に対して、入射TM偏光は透過し、入射TE偏光は反射もしくは吸収される。
【0037】
基板11はホウケイ酸ガラス基板であり、透明基板である。この透明基板11上にワイヤグリッド素子としての機能を示す周期的なライン状のグリッド構造(グリッドパターン)12が設けられ、このグリッド構造12の中心部であるグリッドライン12aはアルミニウム(Al)からなる。
Alグリッド(ライン配列方向)12の周期は150nmであり、グリッドライン12aの(ライン配列方向の)幅は60nm、基板に対して垂直方向の高さは210nmである。
また、グリッド構造の上側(基板と反対側)の被覆層12bは厚み50nmのケイ素酸化物またはケイ素窒化物等の誘電体からなり、最大高さ50nm、最小高さ20nmの凸状レンズ構造である。
【0038】
次に、本実施の形態における作製フローについて説明する。
まず、透明基板11上にAl12a及びケイ素酸化物(SiOx)12bをそれぞれ、例えば、210nm、60nmの厚さで連続的に成膜する。
その後、有機レジスト等を用い、例えば、150nmの周期、60nmの幅で有機レジストパターン13を形成する。
続いて、RIEエッチング装置で、フッ素系ガスを用いてケイ素酸化物をドライエッチングし、有機レジストパターン13をケイ素酸化物に転写し、Alエッチングのハードマスクを形成する。
その後、金属用ドライエッチング装置で、塩素系ガスを用いて、ケイ素酸化物をマスクとしてAlをドライエッチングし、Alからなるグリッド構造を形成する。
【0039】
ケイ素酸化物はAlをドライエッチングする際のマスクとしても利用し、また、Alとケイ素酸化物は連続成膜できることから、Alを大気にさらす工程を極力減らすことができる。
他の材料を用いた場合について述べる。
【0040】
(基板11)
基板11となるガラス素材としては、ホウケイ酸ガラス、合成石英、結晶化ガラス、極低膨張ガラスセラミックス、低膨張ガラス、光学ガラス、特殊ガラス、無アルカリガラス、白板ガラス、青板ガラスなどが挙げられる。いずれも基本的にAlを腐食する成分がAlグリッド構造に染み出すことはない。
通常、基板11の厚みは0.5〜1mm程度である。ホウケイ酸ガラスを用いた場合には、基板上に信頼性の高いワイヤグリッド素子が形成できる。このため、Siウエハ上に形成される結像素子とするような場合や他のデバイス等と積層するような場合、陽極接合によりウエハレベル同士で接合できるので、低コスト実装が可能になる。
【0041】
(グリッド構造12:アルミニウムグリッドライン12a、誘電体12b)
Alの成膜は、スパッタリング法、蒸着法などの真空成膜技術により形成できる。グリッド構造を作製するためのパターン形成には、電子線描画等を用いた微細加工プロセスやアルミニウムを加工するドライエッチングプロセスが必要となる。
なお、アルミニウムが主成分であるとは、アルミニウムの原子比が98%以上であることを意味する。ワイヤグリッド素子としてのTM透過率を向上させる観点からは、純Al(Alが100%)であることが好ましいが、さらに耐久性を必要とする場合などには、SiやNd、Tiを2%以内の範囲で添加することもある。
【0042】
Alグリッド構造12の上部に形成されている上側被覆層12bを構成するケイ素酸化物については、基本的には化学組成としてSiOx(xは1.0〜2.0)と記載される。ケイ素酸化物は、二酸化ケイ素の化学量論的組成であるSiO
2と酸化ケイ素SiOとが混じりあった状態である。したがって、xとしては特に1.0〜2.0の範囲で限定されないが、光学的に透明である方が良いという点でx=2に近いことが好ましい。本実施の形態では、xはほぼ2であり、SiO
2がケイ素酸化物の大部分を占めている。
Alグリッド構造12の上部に形成されている上側被覆層12bを構成するケイ素窒化物については、化学量論的組成であるSi
3N
4から、Nが欠乏することもあるが、ケイ素酸化物の場合と同様に光学的に透明である方が良いという点で、化学量論的組成に近いことが好ましい。
【0043】
上記作製したワイヤグリッド素子に対して電子顕微鏡を用いて断面観察を行い、測長した結果、Alグリッドのピッチは150nm、Alライン幅は60nmであった。
また、同様に上記作製したワイヤグリッド素子に対して電子顕微鏡を用いて断面観察を行い、測長した結果、Alの高さは210nmであり、その上側に形成されたケイ素酸化物は凸レンズ形状であり、凸状箇所の最大高さは50nm、最小高さは20nmであった。
【0044】
さらに、ワイヤグリッド偏光子としての光学特性を評価した。波長550nmにて、TM透過率が85.0%、TE透過率が0.02%であり、消光比(TM透過率とTE透過率の比)は4250であった。
【0045】
なお、ケイ素酸化物が上部にて凸状の曲面構造である場合と、平坦である場合とを光学シミュレーションにより比較すると、凸状の曲面構造の方が、TM透過率が高くなることが判明している。光が入射した際に、ケイ素酸化物の層が平坦である場合には光は屈折率変化の影響を急激に受けるため、反射が生じやすいが、凸形状である場合には、光は次第に屈折率変化の影響を受けるため、反射抑制効果があり、TM透過率が高まる。
【0046】
計算例を以下に示す。
図7は、第3の実施の形態におけるワイヤグリッド偏光子のシミュレーションを行った構造であり、
図7(a)は第3の実施の形態に基づく構造、
図7(b)は従来の構造である。ワイヤグリッドを形成するAlラインのピッチは150nm、高さは210nm、幅は60nmとした。
図7(a)では、Alラインの上に誘電体層のSiO
2が存在する。SiO
2層の上部の凸部は高さ30nmの曲面であり、その下に高さt1の誘電体層が存在する構造である。
図7(b)は平坦なSiO
2層(厚みt2)がAlラインの上に存在する構造である。各々の構造において、SiO
2層の厚みt1、およびt2を変化させた場合の計算結果として、TM透過率の波長依存性を
図8に示す。
【0047】
図7(a)における構造においては、t
1が増加するほど、TM透過率が高くなる。この場合、消光比は若干低下するが、高いTM透過率が光学素子とて必要な特性である場合が多く、TM透過率が数%でも高い光学素子を利用することが、撮像装置やプロジェクタでは好ましい。一方、
図7(b)における構造においては、t
2が増加するほど、TM透過率は低くなる。
なお、
図8(a)及び
図8(b)において、曲線を横切る矢印の方向の順に膜厚t
1,t
2は0,20,40,60nmと変化している。
以上より、上記第3の実施の形態の構造においては、凸構造をもちながら、TM透過率も高くすることができる。
【0048】
(第4の実施の形態)
本実施の形態では、第3の実施の形態と同様の構造にて、Alグリッドライン12aの高さを180nmに変更し、ホウケイ酸ガラス基板の代わりに石英基板を用いて
図9に示す構造とした。
【0049】
本実施の形態も第3の実施の形態と同様に、ケイ素酸化物がAlワイヤグリッド構造に対して、反射抑制構造として働き、透過率としてもTM透過率が87%、TE透過率は0.02%であった。
【0050】
(第5の実施の形態)
本実施の形態では、第3の実施の形態と同様の構造にて、Alグリッドライン12aの幅は40nmとし、グリッド構造12の両側壁部12cは酸化させることにより、10nmの幅のアルミニウム酸化物を形成し
図10に示す構造とした。
ケイ素酸化物がAlワイヤグリッド構造に対して、反射抑制構造として働き、透過率としてもTM透過率が89%、TE透過率は0.03%であった。
信頼性の点では、
図10の構造は、Alラインの上面および、側壁などの側面全体が誘電体により被覆され、大気中の水分の浸入を防ぐようになっている。したがって、信頼性が高いワイヤグリッド素子構造となっている。
【0051】
《偏光画像撮像装置》
第1の実施の形態のワイヤグリッド素子を二次元アレイ状に作製するとともに、偏光画像撮像装置を作製した。模式図を
図11に示す。
偏光画像撮像装置では、撮像素子(受光素子)22が図示の如く横方向および縦方向にそれぞれ等間隔で二次元配列され、各撮像素子の手前(受光面側)に領域ごとに偏光軸が異なるワイヤグリッド素子21が二次元配置されている。
【0052】
複数の領域のそれぞれにおいて、ワイヤグリッド素子21の一辺の大きさは約5μmである。また、複数の領域のうち、
図11中において黒の点線で囲われた領域である縦横2×2の4つの領域において、各々の領域はそれぞれ偏光軸が異なり、異なる偏光成分の光を取り出す一組の偏光子アレイとなっている。これらの4つの領域を、多数配置したワイヤグリッド偏光子アレイを透過した偏光成分が、領域ごとに撮像素子(例えば、CCD等。)にて受光されるため、偏光情報を画像として得ることができる。
【0053】
このような場合に、ワイヤグリッドは偏光フィルタとして機能しているが、偏光画像撮像装置は、車載利用など、環境として過酷な環境下においても利用される。本発明のワイヤグリッド素子では、そのような場合においても充分利用可能である。
【0054】
なお、撮像素子の偏光軸やそれらの配列、撮像素子の配列などは限定されない。
ワイヤグリッドの基板としてホウケイ酸ガラスを用いた場合には、ガラス基板上に信頼性の高いワイヤグリッド素子が形成できるので、Siウエハ上に形成される結像素子とする場合や他のデバイス等と積層するような場合、陽極接合によりウエハレベル同士で接合できるので、低コスト実装が可能になる。
【0055】
《プロジェクタ》
本プロジェクタにかかる実施の形態は、上述したワイヤグリッド素子を偏光子31として利用したプロジェクタである。プロジェクタは、画像を鮮明に投射することが必要とされ、偏光分離素子の機能が低下すると画像品質に影響する。本実施の形態においては、高温高湿下においても光学特性が変化することのない耐久性のあるワイヤグリッド素子を利用しているため、プロジェクタの画像が劣化することはない。
【0056】
図12に3板式液晶プロジェクタの表示部中心の構成を示す。光源からの光は波長分離(ダイクロイック)ミラーを通して、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3つのパネル用に分けられ、表示用に使用している液晶パネルに裏面から各々光が照射される。パネルを透過した光は、ダイクロイッククロスプリズム34により、3つの光が1つに集められ、最終的にパネルの映像は投射レンズ35で拡大投射される。コンデンサレンズ33は、棚珪酸ガラスからなるレンズであり、光源からの光を効率的に集光するために用いられる。LCライトバルブ32により光源からの光の変調を行う。
ここで、本発明におけるワイヤグリッド素子は、LCOSなどの空間光変調器を用いたプロジェクタにも利用できる。
以上、本発明におけるワイヤグリッド素子の偏光子としての利用について述べたが、偏光分離素子としての利用においても、ワイヤグリッド素子は充分に機能を保つ。
【0057】
上記のように、本発明を説明するために具体例として実施の形態を示してきたが、本発明はこれらの実施の形態にとどまることなく応用できることは言うまでもない。
なお、上記第3及び第4の実施の形態においてAlラインの側壁に誘電体層が形成されていてもよい。従来例と異なり、凸状の誘電体層が効果につながっている。
また、ワイヤグリッド素子として平面上に一方向のみならず、二方向、もしくは、ランダムに配置した場合でも有用である。ワイヤグリッドのグリッド箇所を構成する材料として、Alのみの場合や、Alを主成分としながら、SiやTi(チタン)、Nd(ネオジウム)、Cs(セシウム)などの添加物が入った材料においても、本発明の構成は適用できる。また、上記実施の形態では、TE光成分は主に反射される反射型のワイヤグリッド素子について述べたが、光吸収層を新たに用意した反射抑制型のワイヤグリッド素子についても同様に適用できる。
なお、ケイ素酸化物及び/またはアルミニウム酸化物の厚みについて、耐久性を向上させるという観点で説明したが、これらの厚みを制御することにより、ワイヤグリッド素子の偏光子としての光学特性も制御できる。