特許第6051750号(P6051750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6051750ポリオレフィン多孔質中空糸膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051750
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多孔質中空糸膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/26 20060101AFI20161219BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20161219BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20161219BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20161219BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20161219BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B01D71/26
   B01D69/08
   C08K5/134
   C08L23/00
   D01F6/46 A
   D01F6/04 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-221223(P2012-221223)
(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2013-91059(P2013-91059A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2015年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-221981(P2011-221981)
(32)【優先日】2011年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】末岡 加奈
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武史
(72)【発明者】
【氏名】上西 理玄
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−011506(JP,A)
【文献】 特開2009−202112(JP,A)
【文献】 特開2000−290850(JP,A)
【文献】 特開平08−225495(JP,A)
【文献】 特開2003−012946(JP,A)
【文献】 特公平07−096627(JP,B2)
【文献】 特開平11−227020(JP,A)
【文献】 特開昭61−042303(JP,A)
【文献】 特開昭57−066114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00−71/82
B01D53/22
C02F1/44
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと、下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を含有するポリオレフィン多孔質中空糸膜であって、
下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤の含有量が、前記ポリオレフィン100質量部に対して0.03質量部以上、かつ、0.5質量部以下である、ポリオレフィン多孔質中空糸膜。
【化1】
【請求項2】
前記ポリオレフィンがポリエチレンである請求項1に記載のポリオレフィン多孔質中空糸膜。
【請求項3】
ポリオレフィンと、下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を用いて、溶融賦形・延伸法によりポリオレフィン多孔質中空糸膜を製造する方法であって、
前記ポリオレフィン100質量部に対する下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤の比率を0.03質量部以上、かつ、0.5質量部以下とする、ポリオレフィン多孔質中空糸膜の製造方法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン多孔質中空糸膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食用、医療用、浄水、下排水等の工業用分野等の分離精製用途の分離膜としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンを使用して形成したポリオレフィン多孔質中空糸膜が知られている。特に、溶融賦形・延伸法で製膜されたポリオレフィン多孔質中空糸膜は、比較的安価でクリーンであり、製膜性が優れることから広く使用されている。
【0003】
一方、特に浄水、下排水のろ過に使用する分離膜としては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等によって薬品洗浄が可能な分離膜が求められる。また、原子力発電所、火力発電所等の復水処理膜としても、優れた耐酸化劣化性を有する分離膜が求められる。
しかし、ポリオレフィン多孔質中空糸膜は、薬品洗浄や殺菌剤として使用される次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素等の酸化剤に対して充分な耐久性を有していないため、これら酸化剤を使用する用途に使用すると、経時的に機械的特性が低下する問題がある。
【0004】
ポリオレフィン多孔質中空糸膜の耐酸化劣化性を向上させる方法としては、例えば、多孔質中空糸膜の微細孔表面に、テトラキシ[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−pクレゾール等の酸化防止剤を薄く塗布する方法が知られている(特許文献1)。しかし、該方法で得られるポリオレフィン多孔質中空糸膜でも酸化防止剤自身の酸化分解により、酸化防止剤量が経時的に低下し、経時的な酸化劣化による機械的特性の低下を充分に抑制することは困難である。
また、特許文献1に記載の酸化防止剤は、水に溶解しやすい。よって、例えば、産業排水や浄水など処理水の用途によっては、その被処理水に一定量以上の酸化防止剤が溶出することが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−96627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた耐酸化劣化性を有し、経時的な機械的特性の低下が抑制され、さらには、水への溶出が少ない酸化防止剤を含有したポリオレフィン多孔質中空糸膜、及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜は、ポリオレフィンと、下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を含有するポリオレフィン多孔質中空糸膜であって、下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤の含有量が、前記ポリオレフィン100質量部に対して0.03質量部以上、かつ、0.5質量部以下である
【0008】
【化1】
【0009】
また、本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜では、前記ポリオレフィンがポリエチレンであることが好ましい。
【0010】
また、本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜の製造方法は、ポリオレフィンと、前記式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤を用いて、溶融賦形・延伸法によりポリオレフィン多孔質中空糸膜を製造する方法であって、前記ポリオレフィン100質量部に対する前記式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤の比率を0.03質量部以上、かつ、0.5質量部以下とする
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜は、優れた耐酸化劣化性を有することで、経時的な機械的特性の低下を抑制でき、水への溶出が少ない酸化防止剤を含有している。
本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜の製造方法によれば、優れた耐酸化劣化性を有することで、経時的な機械的特性の低下を抑制でき、さらに水への溶出が少ない酸化防止剤を含有しているポリオレフィン多孔質中空糸膜を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ポリオレフィン多孔質中空糸膜]
本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜(以下、単に「多孔質中空糸膜」ということがある。)は、ポリオレフィンを使用して形成され、多孔質化された多孔質中空糸膜である。
【0013】
ポリオレフィンとしては、オレフィン系単量体の単独重合体又は共重合体が挙げられる。なかでも、溶融賦形した後に延伸多孔化する溶融賦形・延伸法による製膜により適していることから、高結晶性であるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1が好ましく、耐酸化劣化性が向上することから、ポリエチレンが特に好ましい。
【0014】
また、本発明の多孔質中空糸膜は、下式(1)で表されるフェノール系酸化防止剤(トリス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパノアート](C88124)、分子量(Mw):1326。以下、「酸化防止剤(1)」という。)を含有することを特徴とする。酸化防止剤(1)は、多孔質中空糸膜の製膜時に、ポリオレフィンに酸化防止剤(1)を練り込むことで膜中に含有させてもよく、ポリオレフィンを製膜し、多孔質化した後に酸化防止剤(1)を塗布することで、多孔質中空糸膜の表層に含有させてもよい。なかでも、多孔質中空糸膜から酸化防止剤(1)が脱落し難く、耐酸化劣化性をより長期間維持できることから、酸化防止剤(1)は多孔質中空糸膜の膜中に含有させることが好ましい。
【0015】
【化2】
【0016】
本発明の多孔質中空糸膜中の酸化防止剤(1)の含有量は、耐酸化劣化性が向上し、経時的な機械的特性の低下が抑制されやすくなることから、ポリオレフィン100質量部に対して、0.03質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。また、前記酸化防止剤(1)の含有量は、過剰に含有すると製膜性が低下し、多孔質化が困難になると共にコスト高となることを踏まえると、ポリオレフィン100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下がさらに好ましい。
【0017】
本発明の多孔質中空糸膜は、酸化防止剤(1)に加えて、他の酸化防止剤を含有してもよい。他の酸化防止剤は特に限定されず、酸化防止剤(1)以外のフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機硫黄系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤等が挙げられる。他の酸化防止剤としては、ポリオレフィンに幅広く使用され、よりラジカル捕捉機能が高いとされる2,6−ジ−t−ブチル−pフェノールのBHT構造を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート[Irganox1076]、テトラキシ[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート]メタン[Irganox1010]等が挙げられる。
本発明の多孔質中空糸膜中の他の酸化防止剤の含有量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0〜1質量部が好ましく、0〜0.5質量部がより好ましい。
【0018】
本発明の多孔質中空糸膜の膜表面は、濁質除去の水処理用ろ過膜としての使用により適した膜となることから、エタノールや親水化剤等の親水化剤溶液を付与して親水化処理が施されていることが好ましい。酸化防止剤(1)や他の酸化防止剤を膜の表層に含有させる場合は、前記親水化剤溶液に溶解させ、親水化剤とともに塗布することで膜の表層に含有させてもよい。
【0019】
本発明の多孔質中空糸膜の膜厚、孔径、空孔率等は特に限定されない。濁質除去の水処理用ろ過膜として高効率膜モジュールを設計しやすいことから、膜厚20〜200μm、孔径0.01〜5μm、空孔率20〜90%の多孔質中空糸膜が好ましい。
多孔質中空糸膜の孔径は、バブルポイント法により測定される。
多孔質中空糸膜の空孔率は、膜と細孔部に含浸したブタノールの重量を容積値に換算する重量法により測定される。
【0020】
本発明の多孔質中空糸膜の用途としては、例えば、浄水、下排水のろ過、原子力、火力発電所等の復水処理膜等が挙げられる。
【0021】
[ポリオレフィン多孔質中空糸膜の製造方法]
本発明の多孔質中空糸膜は、溶融賦形・延伸法により製造されることが好ましい。溶融賦形・延伸法による多孔質中空糸膜の製造方法では、以下の紡糸工程、延伸工程を施す。
紡糸工程:溶融したポリオレフィンを紡糸ノズルから円筒状に吐出し、冷却固化して多孔質中空糸膜前駆体(未延伸中空糸)を得る。
延伸工程:前記多孔質中空糸膜前駆体(未延伸中空糸)を延伸することで多孔質化し、多孔質中空糸膜を得る。
【0022】
紡糸工程:
酸化防止剤(1)をポリオレフィンに練り込む場合は、最終的に含有させようとする比率よりも多い比率で酸化防止剤(1)をポリオレフィンペレットに塗布し、ポリオレフィン及び酸化防止剤(1)がともに溶融する温度で溶融混練し、水冷固化した後に所定の大きさに切断し、乾燥してマスターバッチペレットを作製する。その後、マスターバッチペレットと、酸化防止剤(1)を添加していないポリオレフィンペレットをドライブレンドし、酸化防止剤(1)の含有比率を調整したポリマーペレットを得る。
中空糸製造用の二重管構造を有する紡糸ノズルから溶融ポリマーを押出して円筒状に吐出、冷却固化し、溶融紡糸することで、多孔質中空糸膜前駆体(未延伸中空糸)を得る。
紡糸温度は、ポリオレフィンの融点より20℃以上高く、かつ100℃を超えない温度とすることが好ましい。また、高配向結晶化しやすくなるため、ドラフト比100〜10000で紡糸することが好ましい。
【0023】
延伸工程:
例えば、多孔質中空糸膜前駆体(未延伸中空糸)を加熱したローラーで熱処理後、冷延伸、熱延伸、熱セットを行う方法が挙げられる。
熱処理の温度は、80〜125℃が好ましい。熱処理が125℃を超えると、ポリオレフィンの融点に近くなり過ぎて部分溶融が始まるおそれがある。熱処理が80℃未満であると、結晶化度等の向上が計れず、延伸多孔化による開孔が不十分となるおそれがある。
熱処理後、多孔質中空糸膜前駆体(未延伸中空糸)は40℃以下に冷却する。
冷延伸は、比較的低い温度下で膜の構造破壊を起こさせ、ミクロなクレーズを発生させる工程である。冷延伸の温度は、0℃から、使用するポリオレフィンの融点より50℃以上低い温度までの範囲内(例えば、ポリエチレンを使用する場合は0〜80℃。)の比較的低温下で行うことが好ましい。前記範囲外の温度で冷延伸を行うと、ミクロなクレーズの発生が減少し、細孔が減少するおそれがある。
熱延伸は、冷延伸で発生させたミクロなクレーズを拡大させ、細孔を形成する工程である。熱延伸は、比較的高温下で行うことが好ましいが、用いるポリオレフィンの融点を超えない温度(例えば、ポリエチレンの場合は80〜125℃。)で行う。
熱セットの温度は、延伸温度以上、使用するポリオレフィンの融点以下が好ましい。
延伸倍率は、目的とする孔径に応じて適宜決定すればよく、工程安定性の点から、延伸前の多孔質中空糸膜前駆体の長さに対して3〜7倍が好ましい。
【0024】
前述したように、従来のポリオレフィン多孔質中空糸膜は、表面に酸化防止剤が塗布されていても充分な耐酸化劣化性を得ることは困難である。これは、酸化防止剤のラジカル捕捉能が充分に高くないこと、及びポリオレフィン多孔質中空糸膜を水中に浸漬し、通水する際に酸化防止剤が膜から脱落し、水中に溶出することが要因であると考えられる。
これに対し、本発明のポリオレフィン多孔質中空糸膜に使用する酸化防止剤(1)は、従来の酸化防止剤に比べて、ヒンダードフェノール基をより多く有するため、ラジカル捕捉能がより高い。また、酸化防止剤(1)は、従来の酸化防止剤に比べて高分子量であるため、高分子マトリックスとなって拡散速度が遅いので膜から脱落して水中に溶出し難い。そのため、優れた耐酸化劣化性を長期間維持でき、経時的に機械的特性が低下することを抑制できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
ポリオレフィンである高密度ポリエチレン(プライムポリマー製Hizex2200J)ペレット100質量部に対し、酸化防止剤(1)である「T−1266A」(ADEKA製、分子量(Mw):1326、ヒンダードフェノール基数:3、融点:174〜183℃)を2質量部添加し、それらが溶融する200℃で溶融混練し、水冷固化した後に切断し、乾燥してマスターバッチペレットを得た。該マスターバッチペレットに、高密度ポリエチレン(プライムポリマー製Hizex2200J)ペレットを加えてドライブレンドし、酸化防止剤(1)の比率を、ポリオレフィン100質量部に対して0.3質量部となるように調整した混合物を得た。
2つの円管が同心円状に配置された中空糸用紡糸ノズルを用いて、前記混合物を吐出量14.3g/分・ホール、吐出温度160℃、巻取速度170m/分で溶融紡糸し、ノズルから吐出された溶融樹脂に冷却風をあてて冷却固化し、外径約470μmの多孔質中空糸膜前駆体を巻き取り機に巻き取った。
前記多孔質中空糸膜前駆体に対し、113℃の熱ローラーを使用して熱処理した後、室温(25℃)で冷延伸倍率(多孔質中空糸膜前駆体の冷延伸前の長さに対する冷延伸時の長さ)が2.0倍となるように冷延伸し、引き続き114℃の加熱炉中で熱延伸倍率(多孔質中空糸膜前駆体の冷延伸前の長さに対する熱延伸時の長さ)が5.0倍になるように熱延伸し、さらに115℃の加熱炉中で熱セットすることで、総延伸倍率(冷延伸前の多孔質中空糸膜前駆体の長さに対する熱セット後の多孔質中空糸膜の長さ)を4.0倍として、外径390μm、膜厚55μmの多孔質中空糸膜Aを巻き取り機に巻き取った。
耐酸化劣化性評価として溶液浸漬する前には、得られた多孔質中空糸膜Aをエタノールに浸漬して親水化処理を施し、膜中のエタノールを水で置換して使用した。
【0026】
比較
酸化防止剤(1)の含有量を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜Bを得て、親水化処理を施して、膜中のエタノールを水で置換した。
【0027】
[比較例1]
酸化防止剤(1)の代わりに、酸化防止剤(1)よりも低分子量でヒンダードフェノール基の数が少ないヒンダードフェノール系酸化防止剤である「Irganox1076」(オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASFジャパン製、分子量(Mw):531、ヒンダードフェノール基数:1、融点:50〜55℃)を使用した以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜Cを得て、親水化処理を施して、膜中のエタノールを水で置換した。
【0028】
[比較例2]
酸化防止剤を使用せず、高密度ポリエチレンペレットのみで紡糸、延伸した以外は実施例1と同様にして多孔質中空糸膜Dを得て、親水化処理を施して、膜中のエタノールを水で置換した。
【0029】
[参考例]
酸化防止剤(1)の代わりに、酸化防止剤(1)よりもヒンダードフェノール基の数が多いヒンダードフェノール系酸化防止剤である「Irganox1010」([テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン]、BASFジャパン製、分子量(Mw):1178、ヒンダードフェノール基数:4、融点110〜125℃)を使用した以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜Eを得て、親水化処理して、膜中のエタノールを水で置換した。
【0030】
[耐酸化劣化性の評価方法]
得られた多孔質中空糸膜の引張破断伸度を測定した後、該多孔質中空糸膜を40℃、500質量ppm濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH調整なし)中に浸漬し、10日後に引き上げて純水で洗浄し、空気中で1昼夜風乾した後に再度引張破断伸度を測定した。そして、下式(2)により伸度維持率X(単位:%)を算出した。
X=E10d/E×100 ・・・(2)
ただし、式(2)中、Eは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬する前の初期の引張破断伸度であり、E10dは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10日間浸漬し、洗浄して風乾した後の引張破断強度である。
【0031】
(引張破断伸度の測定)
引張破断強度は、乾燥状態の多孔質中空糸膜から50mm長の試験片を切り出し、該試験片について、エー・アンド・ディ製のテンシロン UCT−1T型を使用して、室温(25℃)において、引張速度50mm/分の条件で延伸して破断した時の伸度を測定した。
実施例、比較例及び参考例における酸化防止剤の種類、分子量、ヒンダードフェノール基数、融点及び含有量、並びに耐酸化劣化性(伸度維持率)の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、酸化防止剤(1)を使用した実施例1の多孔質中空糸膜Aは、酸化防止剤(1)の代わりに他のヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用した比較例1の多孔質中空糸膜C、及び酸化防止剤を使用していない多孔質中空糸膜Dに比べて、伸度維持率Xが高く、優れた耐酸化劣化性が得られ、経時的に機械的強度が低下することが抑制された。
【0034】
[実施例3]
実施例1で得られた多孔質中空糸膜Aの酸化防止剤の残存量を測定した。その後、該多孔質中空糸膜Aを40℃の超純水中に浸漬し、12日後に引き上げて空気中で1昼夜風乾し、再度酸化防止剤の残存量を測定した。そして、下式(3)により酸化防止剤の残存率Y(単位:%)を算出した。
Y=R12d/R×100(%)・・・(3)
ただし、式(3)中、Rは、超純水に浸漬する前の初期の酸化防止剤の残存量であり、R12dは、超純水に12日間浸漬し、風乾した後の酸化防止剤の残存量である。
【0035】
(酸化防止剤の定量)
次亜塩素酸水中に浸漬し、所定時間経過後に取り出した後の多孔質中空糸膜0.3gと、アセトン30mLとを投入した耐圧容器を、60℃の恒温槽に入れ、3時間加温した。さらに、該耐圧容器を室温で15時間以上静置して、多孔質中空糸膜中の酸化防止剤をアセトン中に抽出した。得られた溶液のアセトンを蒸発させた後、アセトニトリル3gを加え、高速液体クロマトグラフで酸化防止剤の残存量を測定した。
【0036】
(高速液体クロマトグラフ条件)
移動相:アセトニトリル100%、
流量:1mL/分、
カラム:Develosil C8−5(直径4.6mm×長さ250mm)、
カラム温度:40℃、
注入量:5μL、
検出波長:UV210nm。
【0037】
[比較例3、4]
実施例1で得られた多孔質中空糸膜Aに代えて、比較例3では、前記比較例1で得られた多孔質中空糸膜Cの酸化防止剤の残存量を、比較例4では、前記参考例で得られた多孔質中空糸膜Eの酸化防止剤の残存率を、それぞれ測定した。
実施例3及び比較例3、4における酸化防止剤の残存率の測定結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、酸化防止剤(1)を使用した実施例3の多孔質中空糸膜Aは、酸化防止剤(1)の代わりに他のヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用した比較例3及び4の多孔質中空糸膜C及びEに比べて、酸化防止剤の残存率が高く、酸化防止剤(1)が水へ溶出しにくかった。このように、耐酸化劣化性を有する酸化防止剤(1)は長期的に含有され続けるため、結果として、多孔質中空糸膜の耐酸化劣化性が向上する。