特許第6052033号(P6052033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JNC株式会社の特許一覧 ▶ JNC石油化学株式会社の特許一覧

特許6052033負の誘電率異方性を示す液晶性化合物、液晶組成物および液晶表示素子
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052033
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】負の誘電率異方性を示す液晶性化合物、液晶組成物および液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 309/06 20060101AFI20161219BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20161219BHJP
   C09K 19/42 20060101ALI20161219BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20161219BHJP
   C09K 19/32 20060101ALI20161219BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20161219BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20161219BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C07D309/06CSP
   C09K19/34
   C09K19/42
   C09K19/30
   C09K19/32
   C09K19/54 C
   C09K19/54 B
   C09K19/12
   G02F1/13 500
【請求項の数】12
【全頁数】93
(21)【出願番号】特願2013-85729(P2013-85729)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-241397(P2013-241397A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-98635(P2012-98635)
(32)【優先日】2012年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】藤森 さや香
【審査官】 井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−314385(JP,A)
【文献】 特開2000−008040(JP,A)
【文献】 特開2001−072626(JP,A)
【文献】 特表2010−528129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)において、
1およびY2の一方はフッ素であり、他の一方はCF2HまたはCF3であり;
Gは、式(pr−1)または式(pr−2)で表される環であり;
【化2】
1〜A3は、独立して1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;
aおよびRbは、独立して水素または炭素数1〜20のアルキルであり、前記アルキルにおいて、少なくとも1つの−CH2−は−O−、−S−または−CO−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−(CH22−は−CH=CH−で置き換えられてもよく;
0およびZ1〜Z3は、独立して単結合、−(CH22−、−CH=CH−、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−または−OCO−であり;
j、mおよびnは0〜2の整数であり、j、mおよびnの合計は0、1または2であり、jが2のとき、複数ある−A1−Z1−は相互に同一でも異なってもよく、mが2のとき、複数ある−A2−Z2−は相互に同一でも異なってもよく、nが2のとき、複数ある−Z3−A3−は相互に同一でも異なってもよく、
ただし、mが0であり、Y1がCF2HまたはCF3であり、Y2がフッ素であり、かつZ0が単結合であるとき、Gは式(pr−1)で表される環である。]
【請求項2】
式(1)中、Z0およびZ1〜Z3が単結合である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(1)中、mが0である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
式(1−1−1)または式(1−2−1)で表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【化3】
[式(1−1−1)または式(1−2−1)中、RaおよびRbは、それぞれ式(1)中の同一記号と同義であり、Y2は、CF2HまたはCF3であり、jは、1または2である。]
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を含有する液晶組成物。
【請求項6】
式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有する請求項5に記載の液晶組成物。
【化4】
[式(2)〜(4)において、
1は、炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよく;
1は、フッ素、塩素、−OCF3、−OCF2H、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF2CF2H、または−OCF2CFHCF3であり;
環B1、環B2および環B3は、独立して1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−3,6−ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり;
11およびZ12は、独立して−(CH22−、−(CH24−、−COO−、−CF2O−、−OCF2−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2O−または単結合であり;
1およびL2は、独立して水素またはフッ素である。]
【請求項7】
式(5)で表される化合物をさらに含有する請求項5または6に記載の液晶組成物。
【化5】
[式(5)において、
2は、炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよく;
2は、−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nであり;
環C1、環C2および環C3は、独立して1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−3,6−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり、前記1,4−フェニレンにおいて、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよく;
13は、−(CH22−、−COO−、−CF2O−、−OCF2−、−C≡C−、−CH2O−または単結合であり;
3およびL4は、独立して水素またはフッ素であり;
oは、0、1または2であり、pは、0または1であり、oが2のとき、2つの環C2は、同一であっても、異なっていてもよく、oおよびpの和は、0、1または2である。]
【請求項8】
式(6)〜(11)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有する請求項5に記載の液晶組成物。
【化6】
[式(6)〜(11)において、
3およびR4は、独立して炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよく;
環D1、環D2、環D3および環D4は、独立して1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−3,6−ジイル、またはデカヒドロ−2,6−ナフタレンであり、前記1,4−フェニレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
14、Z15、Z16およびZ17は、独立して−(CH22−、−COO−、−CH2O−、−OCF2−、−OCF2(CH22−または単結合であり;
5およびL6は、独立してフッ素または塩素であり;
q、r、s、t、uおよびvは、独立して0または1であり、
r、s、tおよびuの和は、1または2である。]
【請求項9】
式(12)〜(14)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有する請求項5〜8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【化7】
[式(12)〜(14)において、
5およびR6は、独立して炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよく;
環E1、環E2および環E3は、独立して1,4−シクロヘキシレン、ピリミジン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、3−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;
18およびZ19は、独立して−C≡C−、−COO−、−(CH22−、−CH=CH−または単結合である。]
【請求項10】
光学活性化合物および重合可能な化合物の群から選択される少なくとも1種をさらに含有する請求項5〜9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項11】
酸化防止剤および紫外線吸収剤の群から選択される少なくとも1種をさらに含有する請求項5〜10のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれか1項に記載の液晶組成物を含む液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な液晶性化合物、液晶組成物および液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、負の誘電率異方性の値(Δε)を有する液晶性化合物、この化合物を含有する液晶組成物、およびこの液晶組成物を含む液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性化合物を用いた表示素子は、時計、電卓、ワードプロセッサ等のディスプレイに広く利用されている。これらの表示素子は、液晶性化合物の光学異方性および誘電率異方性等の特性を利用する。
【0003】
液晶相には、ネマチック液晶相、スメクチック液晶相、コレステリック液晶相があり、ネマチック液晶相が最も広く利用されている。表示方式としては、例えば、動的散乱(DS)モード、配向相変形(DAP)モード、ゲスト/ホスト(GH)モード、ねじれネマチック(TN)モード、超ねじれネマチック(STN)モード、双安定ねじれネマチック(BTN)モード、薄膜トランジスタ(TFT)モード、垂直配向(VA)モード、複数配向分割型垂直配向(MVA)モード、光学補償ベンド(OCB)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、高分子支持配向(PSA)モードがある。
【0004】
これらの表示方式で用いられる液晶性化合物には、室温を中心とする広い温度範囲で液晶相を有すること、表示素子が使用される条件下で充分に安定であること、表示素子を駆動させるのに充分な特性を有すること、が要求される。しかしながら、現在のところ単一の化合物でこれらの条件を満たす液晶性化合物は見いだされていない。
【0005】
このため、数種類から数十種類の液晶性化合物を混合することにより、上記条件を充たす液晶組成物を調製している。この液晶組成物を構成する液晶性化合物に望まれる条件は、次のとおりである。
【0006】
(1)熱、光などに対する高い安定性。
(2)高い透明点(液晶相−等方相の相転移温度)。
(3)ネマチック相、スメクチック相などの液晶相の低い下限温度、
特にネマチック相の低い下限温度。
(4)適切な光学異方性。
(5)大きな誘電率異方性。
(6)適切な弾性定数。
(7)他の液晶性化合物との優れた相溶性。
【0007】
近年、液晶表示素子の最大の問題点である視野角の狭さを克服する表示方式として、表示方式の中でも、IPS、VA、OCB、PSA等のモードが注目されている。これらモードの液晶表示素子の中でも、特にIPSモードやVAモードの液晶表示素子は、視野角の広さに加えて、応答性にも優れ、さらに高コントラストな表示が得られるため、開発が盛んに行われている。これら表示方式の液晶表示素子に使用される液晶組成物の特徴は、誘電率異方性の値が負である点にある。そして、誘電率異方性の値が負に大きい液晶組成物は、その液晶組成物を含む液晶表示素子の駆動電圧を低くできることが知られている(非特許文献1)。そのため、液晶組成物の構成成分である液晶性化合物についても、より大きな負の誘電率異方性の値を有することが求められている。
【0008】
これまでに、2,3−ジフルオロフェニレン骨格を有する化合物において、負の誘電率異方性の絶対値を大きくするための試みがなされてきた。例えば、2,3−ジフルオロフェニレン骨格を有する化合物に、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル骨格を導入した化合物が報告されている(特許文献1)。化合物(b)は、化合物(a)と比較して負に大きな誘電率異方性を示す。
【0009】
【化1】
【0010】
さらに、負の誘電率異方性を示す化合物としては、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン骨格を有する化合物(15)が一般的に知られている(非特許文献3)。負の誘電率異方性の絶対値をさらに大きくするため、分子の側方位にトリフルオロメチルを結合させた化合物(16);分子の側方位にジフルオロメチルを結合させた、化合物(17)、化合物(18)および化合物(19)が報告されている(特許文献2、非特許文献2、非特許文献3、特許文献3および特許文献4)。
【0011】
【化2】
【0012】
IPSモードやVAモード等の液晶表示素子の駆動電圧を低下させるために、誘電率異方性の値がさらに負に大きい液晶性化合物、この化合物を含有する液晶組成物、およびこの液晶組成物を含む液晶表示素子が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−008040号公報
【特許文献2】特開平8−040953号公報
【特許文献3】国際公開第2000/039063号パンフレット
【特許文献4】特開2005−314385号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Mol. Cryst. Liq. Cryst., 12, 57 (1970)
【非特許文献2】Synlett. 1999, No.4, 389-396
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 4216-4235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、誘電率異方性の値(Δε)が負に大きい液晶性化合物、この化合物を含有する液晶組成物、およびこの液晶組成物を含む液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、下記構造を有する液晶性化合物が負に大きな誘電率異方性の値(Δε)を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、式(1)で表される化合物に関する。
【化3】
[式(1)において、Y1およびY2の一方はフッ素であり、他の一方はCF2HまたはCF3であり;Gは、式(pr−1)または式(pr−2)で表される環であり;
【化4】
1〜A3は、独立して1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;RaおよびRbは、独立して水素または炭素数1〜20のアルキルであり、前記アルキルにおいて、少なくとも1つの−CH2−は−O−、−S−または−CO−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−(CH22−は−CH=CH−で置き換えられてもよく;Z0およびZ1〜Z3は、独立して単結合、−(CH22−、−CH=CH−、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−または−OCO−であり;j、mおよびnは0〜2の整数であり、j、mおよびnの合計は0、1または2であり、jが2のとき、複数ある−A1−Z1−は相互に同一でも異なってもよく、mが2のとき、複数ある−A2−Z2−は相互に同一でも異なってもよく、nが2のとき、複数ある−Z3−A3−は相互に同一でも異なってもよく、ただし、mが0であり、Y1がCF2HまたはCF3であり、Y2がフッ素であり、かつZ0が単結合であるとき、Gは式(pr−1)で表される環である。]
式(1)中、Z0およびZ1〜Z3は単結合であることが好ましい。
式(1)中、mは0であることが好ましい。
本発明の化合物は、式(1−1−1)または式(1−2−1)で表されることが好ましい。
【化5】
[式(1−1−1)または式(1−2−1)中、RaおよびRbは、それぞれ式(1)中の同一記号と同義であり、Y2は、CF2HまたはCF3であり、jは、1または2である。]
【0018】
また、本発明は、式(1)で表される化合物を含有する液晶組成物に関する。
本発明の液晶組成物は、後述する式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有することが好ましい。本発明の液晶組成物は、後述する式(5)で表される化合物をさらに含有することも好ましい。本発明の液晶組成物は、後述する式(6)〜(11)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有することも好ましい。本発明の液晶組成物は、後述する式(12)〜(14)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物をさらに含有することも好ましい。
本発明の液晶組成物は、光学活性化合物および重合可能な化合物の群から選択される少なくとも1種をさらに含有することも好ましく、酸化防止剤および紫外線吸収剤の群から選択される少なくとも1種をさらに含有することも好ましい。
【0019】
また、本発明は、この液晶組成物を含む液晶表示素子に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、誘電率異方性の値(Δε)が負に大きい液晶性化合物、この化合物を含有する液晶組成物、およびこの液晶組成物を含む液晶表示素子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の誘電率異方性の値(Δε)が負に大きい液晶性化合物、この化合物を含有する液晶組成物、およびこの液晶組成物を含む液晶表示素子について、具体例を示しながら詳細に説明する。
【0022】
本明細書における用語の使い方は、次のとおりである。
「液晶性化合物」は、ネマチック相またはスメクチック相等の液晶相を有する化合物、および液晶相を有しないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。
「液晶表示素子」は、液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。
「液晶表示素子」を、「表示素子」または「素子」と略すことがある。
【0023】
「透明点」は、液晶性化合物そのものを試料として測定される物性値であって、液晶性化合物における液晶相(例:ネマチック相、スメクチック相)−等方相の相転移温度である。
【0024】
「液晶相の下限温度」は、液晶性化合物そのものを試料として測定される物性値であって、液晶性化合物における結晶相−液晶相(例:ネマチック相、スメクチック相)の相転移温度である。
【0025】
「ネマチック相の上限温度」は、液晶組成物におけるネマチック相−等方相の相転移温度、または液晶性化合物と母液晶との混合物の測定値から外挿法により算出される(液晶性化合物における)ネマチック相−等方相の相転移温度であり、「上限温度」と略すことがある。
【0026】
「ネマチック相の下限温度」は、液晶組成物におけるネマチック相−結晶相もしくはネマチック相−スメクチック相の相転移温度、または液晶性化合物と母液晶との混合物の測定値から外挿法により算出される(液晶性化合物における)ネマチック相−結晶相もしくはネマチック相−スメクチック相の相転移温度であり、「下限温度」と略すことがある。
【0027】
式(i)で表される化合物(iは式番号を示す。)を、「化合物(i)」と略すことがある。式(1)の説明において、A1〜A3を総称して単に「環A」ということがある。各式の説明において、六角形で囲まれたB1、C1、D1およびE1等の記号は、それぞれ環B1、環C1、環D1および環E1等に対応する。環D1等において複数の同一記号を同一の式または異なった式に記載しているが、これらはそれぞれが同一でもよく、異なってもよい。
【0028】
各式の説明において、「少なくとも1つの…は…で置き換えられてもよく(い)」の「少なくとも1つの」は、位置だけでなく個数についても任意であることを示す。例えば、「少なくとも1つのAはB、CまたはDで置き換えられてもよい」という表現は、任意のAがBで置き換えられる場合、任意のAがCで置き換えられる場合、および任意のAがDで置き換えられる場合に加えて、複数のAがB〜Dの少なくとも2つで置き換えられる場合をも含む。
【0029】
具体的には、「アルキルにおいて、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−(CH22−は−CH=CH−で置き換えられてもよい」という場合には、無置換のアルキルのほか、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニル、アルケニルオキシアルキルおよびアルコキシアルケニルが含まれる。
【0030】
CH3(CH23−において、少なくとも1つの−CH2−を−O−、−S−または−CO−で置き換えた基の例は、CH3(CH22O−、CH3−O−(CH22−、CH3−O−CH2−O−、CH3(CH22S−、CH3−S−(CH22−、CH3−S−CH2−S−、CH3(CH22CO−、CH3−CO−(CH22−およびCH3−CO−CH2−CO−である。
【0031】
CH3(CH23−において、少なくとも1つの−(CH22−を−CH=CH−で置き換え、さらに少なくとも1つの−CH2−を−O−、−S−または−CO−で置き換えてもよい基の例は、CH3−CH=CH−CH2−、CH2=CH−CH2−O−およびCH3−S−CH=CH−である。
【0032】
なお、本発明においては、化合物の安定性を考慮して、連続する2つの−CH2−が−O−で置き換えられて、−O−O−等の基になることは好ましくない(例えば、酸素と酸素とが隣接したCH3−O−O−CH2−よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH3−O−CH2−O−の方が好ましい。)。また、アルキルにおける末端の−CH2−が−O−で置き換えられることも好ましくない(例えば、HO−CH2−CH2−よりも、CH3−O−CH2−の方が好ましい。)。
【0033】
1.負の誘電率異方性を示す液晶性化合物
1−1.本発明の液晶性化合物の構造
本発明の液晶性化合物は、式(1)で表される。
【0034】
【化6】
【0035】
式(1)において、各記号の意味は以下のとおりである。
【0036】
〈ベンゼン環上の置換基Y1およびY2
1およびY2の一方はフッ素であり、他の一方はCF2HまたはCF3である。すなわち、Y1がフッ素であり、Y2がCF2HまたはCF3であるか、あるいは、Y1がCF2HまたはCF3であり、Y2がフッ素である。
【0037】
〈テトラヒドロピラン環G〉
Gは、式(pr−1)または式(pr−2)で表される環である。
【0038】
【化7】
【0039】
〈A1、A2およびA3(A1〜A3)〉
1〜A3は、独立して1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンである。
環Aの少なくとも2つが1,4−シクロヘキシレンであるときは、化合物(1)は、上限温度が高く、光学異方性が小さく、そして粘度が小さい。環Aの少なくとも1つが1,4−フェニレンであるときは、化合物(1)は、光学異方性が比較的大きく、そして配向秩序パラメーター(orientational order parameter)が大きい。環Aの少なくとも2つが1,4−フェニレンであるときは、化合物(1)は、光学異方性が大きく、液晶相の温度範囲が広く、そして上限温度が高い。
【0040】
〈末端基RaおよびRb
aおよびRbは、独立して水素または炭素数1〜20のアルキルであり、前記アルキルにおいて、少なくとも1つの−CH2−は−O−、−S−または−CO−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−(CH22−は−CH=CH−で置き換えられてもよい。以下、前記アルキルにおいてこれらの置き換えがなされた基を「置換アルキル」ともいう。
【0041】
aおよびRbは、同一ではないことが好ましい。RaおよびRbが同一でなければ、化合物(1)が液晶相を発現しやすく、液晶組成物に対する化合物(1)の溶解性が高くなる傾向にある。
【0042】
上記置換アルキルとしては、例えば、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルコキシ、アルキルチオ、アルキルチオアルコキシ、アシル、アシルアルキル、アシルオキシ、アシルオキシアルキル、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルアルキル、アルケニル、アルケニルオキシ、アルケニルオキシアルキルおよびアルコキシアルケニルが挙げられる。
【0043】
アルキルおよび上記置換アルキルは、分岐鎖よりも、直鎖の方が好ましい。アルキルおよび上記置換アルキルが、分岐鎖であっても、光学活性を有するときは好ましい。
【0044】
aおよびRbのいずれか一方または双方が直鎖であるときは、化合物(1)は、液晶相の温度範囲が広く、そして粘度が小さい。RaおよびRbのいずれか一方または双方が分岐鎖であるときは、化合物(1)は、他の液晶性化合物との相溶性がよい。
【0045】
aおよびRbのいずれか一方または双方が光学活性基であるときは、化合物(1)は、キラルドーパントとして有用である。この化合物を液晶組成物に添加することによって、素子に発生するリバース・ツイスト・ドメイン(Reverse twisted domain)を防止することができる。RaおよびRbがいずれも光学活性基でないときは、化合物(1)は、液晶組成物の成分として有用である。
【0046】
aおよびRbは、独立してアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニルまたはアルケニルオキシであることが好ましく;独立してアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキルまたはアルケニルであることがより好ましく;独立してアルキルまたはアルコキシであることがさらに好ましい。
【0047】
アルキルの炭素数は、通常1〜20、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜5である。アルキルの具体的な例は、−CH3、−C25、−C37、−C49、−C510、−C613、−C715および−C817である。
【0048】
アルコキシの炭素数は、通常1〜19、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜4である。アルコキシの具体的な例は、−OCH3、−OC25、−OC37、−OC49、−OC511、−OC613および−OC715である。
【0049】
アルコキシアルキルの炭素数は、通常2〜19、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜4である。アルコキシアルキルの具体的な例は、−CH2OCH3、−CH2OC25、−CH2OC37、−(CH22OCH3、−(CH22OC25、−(CH22OC37、−(CH23OCH3、−(CH24OCH3および−(CH25OCH3である。
【0050】
アルケニルの炭素数は、通常2〜20、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜5である。アルケニルの具体的な例は、−CH=CH2、−CH=CHCH3、−CH2CH=CH2、−CH=CHC25、−CH2CH=CHCH3、−(CH22CH=CH2、−CH=CHC37、−CH2CH=CHC25、−(CH22CH=CHCH3、−(CH23CH=CH2、−CH=CHC49、−CH2CH=CHC37および−(CH22CH=CHC25である。
【0051】
アルケニル中の−CH=CH−の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。−CH=CHCH3、−CH=CHC25、−CH=CHC37、−CH=CHC49、−(CH22CH=CH2、−(CH22CH=CHCH3および−(CH22CH=CHC25等の奇数位に二重結合を有するアルケニルでは、トランス配置が好ましい。−CH2CH=CH2、−CH2CH=CHCH3、−CH2CH=CHC25、−(CH23CH=CH2および−CH2CH=CHC37等の偶数位に二重結合を有するアルケニルでは、シス配置が好ましい。好ましい立体配置を有するアルケニル化合物は、高い上限温度または液晶相の広い温度範囲を有する。Mol. Cryst. Liq. Cryst., 1985, 131, 109およびMol. Cryst. Liq. Cryst., 1985, 131, 327に詳細な説明がある。
【0052】
アルケニルオキシの炭素数は、通常2〜19、好ましくは2〜7である。アルケニルオキシの具体的な例は、−OCH2CH=CH2、−OCH2CH=CHCH3および−OCH2CH=CHC25である。
【0053】
aおよびRbの好ましい具体的な例は、−CH3、−C25、−C37、−C49、−C510;−OCH3、−OC25、−OC37、−OC49、−OC511;−CH2OCH3、−(CH22OCH3および−(CH23OCH3;−CH=CH2、−CH=CHCH3、−CH2CH=CH2、−CH=CHC25、−CH2CH=CHCH3、−(CH22CH=CH2、−CH=CHC37、−CH2CH=CHC25、−(CH22CH=CHCH3および−(CH23CH=CH2;−OCH2CH=CH2、−OCH2CH=CHCH3および−OCH2CH=CHC25である。
【0054】
aおよびRbのより好ましい具体的な例は、−CH3、−C25、−C37、−C49および−C510;−OCH3、−OC25、−OC37、−OC49および−OC511;−CH2OCH3;−CH=CH2、−CH=CHCH3、−CH2CH=CH2、−CH=CHC25、−CH2CH=CHCH3、−(CH22CH=CH2、−CH=CHC37、−CH2CH=CHC25、−(CH22CH=CHCH3および−(CH23CH=CH2である。
【0055】
〈結合基Z0、Z1、Z2およびZ3(Z0〜Z3
0〜Z3は、独立して単結合、−(CH22−、−CH=CH−、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−または−OCO−であり;独立して単結合、−(CH22−、−CH=CH−、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−または−OCH2−であることが好ましく;単結合、−CH=CH−、−CF2O−または−OCF2−であることがより好ましく;単結合であることが特に好ましい。なお、−CH=CH−等の二重結合に関する立体配置は、シスよりもトランスが好ましい。
【0056】
0〜Z3が単結合、−(CH22−、−CH=CH−、−CF2O−または−OCF2−であるときは、化合物(1)の粘度が小さい。Z0〜Z3が単結合、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−、−OCH2−または−CH=CH−であるときは、化合物(1)の粘度がより小さい。Z0〜Z3が−CH=CH−であるときは、化合物(1)の液晶相の温度範囲が広く、そして弾性定数比K33/K11(K33:ベンド弾性定数、K11:スプレイ弾性定数)が大きい。Z0〜Z3が単結合であるときは、化合物(1)の合成が容易である。
【0057】
〈−Ai−Zi−(i:1、2または3)の繰返し数〉
jは0〜2の整数であり、mは0〜2の整数であり、nは0〜2の整数である。j、mおよびnの合計は0、1または2である。すなわち、本発明の化合物(1)は、2〜4の環を有する化合物であるため、合成が容易であり、液晶組成物への溶解性が高い。j、mおよびnの合計は、好ましくは1または2である。mは好ましくは0である。
【0058】
jが2のとき、複数ある−A1−Z1−は相互に同一でも異なってもよい。
mが2のとき、複数ある−A2−Z2−は相互に同一でも異なってもよい。
nが2のとき、複数ある−Z3−A3−は相互に同一でも異なってもよい。
【0059】
ただし、mが0であり、Y1がCF2HまたはCF3であり、Y2がフッ素であり、かつZ0が単結合であるとき(要件A)、Gは式(pr−1)で表される環である。要件Aが満たされる場合、Gが式(pr−1)で表される環であるときは、Gが式(pr−2)で表される環であるときに比べ、本発明の化合物(1)は、上限温度および誘電率異方性の絶対値が共に大きくなる。
【0060】
1−2.本発明の化合物(1)の具体例
本発明の化合物(1)を具体的に示すと、式(1−1)〜(1−4)のとおりである。式(1−1)および(1−3)は、式(1)においてGが式(pr−1)で表される環である場合であり、式(1−2)および(1−4)は、式(1)においてGが式(pr−2)で表される環である場合である。
【0061】
【化8】
【0062】
式(1−1)〜(1−4)中、Y1およびY2は、CF2HまたはCF3であり;A1〜A3、RaおよびRb、Z0およびZ1〜Z3、ならびにj、mおよびnは、式(1)中の同一記号と同義である。ただし、式(1−4)において、mが0であり、かつZ0が単結合である構造は含まれない。
【0063】
本発明の化合物(1)としては、特に式(1−1−1)または式(1−2−1)で表される化合物が好ましい。
【0064】
【化9】
【0065】
式(1−1−1)または式(1−2−1)中、RaおよびRbは、それぞれ式(1)中の同一記号と同義であり、Y2は、CF2HまたはCF3であり、jは、1または2である。
【0066】
本発明の化合物(1)としては、また、式(1−2−2)、式(1−3−1)、式(1−3−2)または式(1−4−1)で表される化合物も好ましい。
【0067】
【化10】
【0068】
式(1−2−2)、式(1−3−1)、式(1−3−2)および式(1−4−1)中、Ra、Rb、A2、A3およびZ0は、それぞれ式(1)中の同一記号と同義であり、ただしZ0は単結合ではなく、Y1およびY2は、CF2HまたはCF3であり、jは、1または2である。
【0069】
1−3.本発明の化合物(1)の性質
本発明の化合物(1)は、テトラヒドロピラン環、および側方位にフッ素とジフルオロメチルまたはトリフルオロメチルとを有するベンゼン環を併せ持つことで、大きな負の誘電率異方性を示す。大きな負の誘電率異方性を示す液晶性化合物は、IPSモードまたはVAモード用途の液晶組成物のしきい値電圧を下げるために有用な成分である。
【0070】
また、本発明の化合物(1)は、液晶性化合物として必要な一般的物性、具体的には、熱および光に対する安定性、比較的高い透明点、適切な光学異方性、他の液晶性化合物との優れた相溶性、ならびに比較的小さな粘度を有し、優れた物性バランスを有する液晶性化合物である。
【0071】
例えば、本発明の化合物(1)は、素子が通常使用される条件下において、物理的および化学的に極めて安定である。したがって、本発明の化合物(1)を含有する液晶組成物は、素子が通常使用される条件下で安定である。また、本発明の液晶組成物を低い温度で保管しても、本発明の化合物(1)が当該温度でスメクチック相であること、または当該温度で結晶が析出することはない。
【0072】
本発明では、上述したように、式(1)の末端基RaおよびRb、A1〜A3、結合基Z0〜Z3、ベンゼン環上の置換基Y1およびY2、ならびに化合物(1)が有する環の数を適切に選択することによって、化合物(1)の誘電率異方性および光学異方性の値等の物性を調整することが可能である。
【0073】
1−4.本発明の化合物(1)の合成
本発明の化合物(1)は、有機合成化学における手法を適切に組み合わせることにより、合成することができる。出発物質に目的の末端基、環および結合基を導入するには、公知の一般的な有機合成法を採用することができる。代表的な合成方法は、『新実験化学講座 14 有機化合物の合成と反応(1978年)丸善』または『第四版 実験化学講座 19〜26 有機合成I〜VIII(1991)丸善』に記載の方法が挙げられる。
【0074】
以下では、本発明の化合物(1)に含まれうる結合基、式(pr−1)または式(pr−2)で表される環、置換基Y1およびY2を有するベンゼン環等を形成する方法の例を、スキームを適宜用いて説明する。ただし、本発明の化合物(1)の合成方法は、以下のスキームに限定されるわけではない。
【0075】
1−4−1.結合基の形成
式(1)における結合基Z0、Z1、Z2およびZ3を形成する方法の例を、スキームを用いて以下に示す。このスキームにおいて、MSG1またはMSG2は、1価の有機基である。複数のMSG1またはMSG2は、同一であってもよいし、異なってもよい。化合物(1A)〜(1F)は、本発明の化合物(1)に相当する。
【0076】
【化11】
【0077】
(I)単結合の生成
アリールホウ酸(21)と公知の方法で合成される化合物(22)とを、炭酸塩水溶液およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等の触媒の存在下で反応させて、化合物(1A)を合成する。
【0078】
また、公知の方法で合成される化合物(23)にn−ブチルリチウムを、次いで塩化亜鉛を反応させ、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等の触媒の存在下で化合物(22)を反応させることによっても、化合物(1A)を合成することができる。
【0079】
(II)−COO−と−OCO−の生成
化合物(23)にn−ブチルリチウムを、次いで二酸化炭素を反応させて、カルボン酸(24)を合成する。カルボン酸(24)と公知の方法で合成されるフェノール化合物(25)とを、DCC(1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)およびDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)の存在下で脱水させて、−COO−を有する化合物(1B)を合成する。この方法によって、−OCO−を有する化合物も合成することもできる。
【0080】
(III)−CF2O−と−OCF2−の生成
化合物(1B)をローソン試薬等の硫黄化剤で処理して、化合物(26)を合成する。化合物(26)をフッ化水素ピリジン錯体およびNBS(N−ブロモスクシンイミド)でフッ素化し、−CF2O−を有する化合物(1C)を合成する。M. Kuroboshi et al., Chem. Lett., 1992,827.を参照。化合物(1C)は、化合物(26)をジエチルアミノサルファートリフルオリド(DAST)でフッ素化しても合成することができる。W. H. Bunnelle et al., J. Org. Chem. 1990, 55, 768.を参照。この方法によって、−OCF2−を有する化合物も合成することもできる。Peer. Kirsch et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 1480.に記載の方法によって、これらの結合基を生成させることも可能である。
【0081】
(IV)−CH=CH−の生成
化合物(22)をn−ブチルリチウムで処理した後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のホルムアミドと反応させて、アルデヒド(27)を合成する。公知の方法で合成されるホスホニウム塩(28)をカリウムtert−ブトキシド等の塩基で処理して発生させたリンイリドを、アルデヒド(27)に反応させて、化合物(1D)を合成する。反応条件によってはシス体が生成するので、必要に応じて公知の方法によりシス体をトランス体に異性化する。
【0082】
(V)−(CH22−の生成
化合物(1D)をパラジウム/炭素等の触媒の存在下で水素化することにより、化合物(1E)を合成する。
【0083】
(VI)−CH2O−または−OCH2−の生成
化合物(27)を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤で還元して、化合物(29)を合成する。化合物(29)を臭化水素酸等でハロゲン化して、化合物(30)を合成する。炭酸カリウム等の存在下で、化合物(30)を化合物(25)と反応させて、化合物(1F)を合成する。
【0084】
1−4−2.式(pr−1)または式(pr−2)で表される環の形成
式(pr−1)または式(pr−2)で表される環を有する化合物(テトラヒドロピラン化合物)は、例えば、以下の〈1〉および〈2〉の方法によって、合成することができる。
〈1〉(1−1)−COClを有する化合物(31)を反応原料として、オキセタン化合物(34)を合成し、(1−2)このオキセタン化合物(34)と−CH2−COOHを有する化合物(35)または−CH2−COOtBuを有する化合物(37)とを反応原料として、ラクトン化合物(36)を合成し、(1−3)このラクトン化合物(36)を反応原料として、テトラヒドロピラン化合物(41)を得る方法。
〈2〉(2−1)−CH2−CHOを有する化合物(42)を反応原料として、ラクトン化合物(45)を合成し、(2−2)このラクトン化合物(45)を反応原料として、テトラヒドロピラン化合物(41)を得る方法。
【0085】
1−4−2−1.上記方法〈1〉について
以下のスキームにおいて、MSG3またはMSG4は1価の有機基である。
(1−1)オキセタン化合物の合成法
合成中間体となるオキセタン化合物(34)の合成法の一例を、以下に示す。
【0086】
【化12】
【0087】
化合物(32)は、化合物(31)とLDA(リチウムジイソプロピルアミド)とを反応させた後、さらに酢酸エチルを反応させることによって合成する。これらの反応は、テトラヒドロフラン溶媒中、−65℃以下の温度で行った後、室温までゆっくり昇温させることが好ましい。出発物である化合物(31)は、有機合成化学の方法に従って容易に合成することができる。
【0088】
化合物(33)は、化合物(32)と水素化ホウ素ナトリウムとを反応させることによって合成する。この反応は、エタノール溶媒中、室温から50℃までの間の温度で行うことが好ましい。
【0089】
化合物(33)を、テトラヒドロフラン溶媒中、−5℃から5℃の間の温度で、n−ブチルリチウムと反応させた後、さらにp−塩化トルエンスルホニルを反応させる。次いで、n−ブチルリチウムを加えた後、反応液の温度を沸点までゆっくり昇温することによって、化合物(34)を合成する。これらの反応は、各反応の間を充分にあけ、各試薬の当量を丁度1当量用いることが好ましい。
【0090】
(1−2)ラクトン化合物の合成法
合成中間体となるラクトン化合物(36)の合成法の一例を、以下に示す。
【0091】
【化13】
【0092】
方法A:化合物(35)とn−ブチルリチウムとを反応させた後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の共存下、さらに化合物(34)を反応させる。テトラヒドロフラン溶媒中、n−ブチルリチウムとの反応では−65℃以下の温度で、化合物(34)との反応では−65℃以下の温度で行うことが好ましい。この反応にて得られる生成物を、p−トルエンスルホン酸一水和物存在下、加熱還流することで、化合物(36)が得られる。この反応は、トルエン溶媒中で行うことが好ましい。化合物(35)は、有機合成化学の方法に従って容易に合成することができる。
【0093】
さらに、合成中間体となるラクトン化合物(36)の合成法の一例を、以下に示す。
【0094】
【化14】
【0095】
方法B:化合物(38)は、化合物(37)とLDA(リチウムジイソプロピルアミド)とを反応させた後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の共存下、さらに化合物(34)を反応させることによって合成する。この反応は、テトラヒドロフラン溶媒中、−65℃以下の温度で行うことが好ましい。次いで、化合物(38)をジクロロメタン溶媒中、トリフルオロ酢酸と室温で反応させることによって、化合物(36)を合成する。化合物(37)は、有機合成化学の方法に従って容易に合成することができる。
【0096】
(1−3)テトラヒドロピラン化合物の合成法
テトラヒドロピラン化合物(41)の合成法の一例を、以下に示す。
【0097】
【化15】
【0098】
化合物(40)は、化合物(36)とDIBAL(水素化ジイソプロピルアルミニウム)との反応によって合成する。この反応は、トルエン等の溶媒中、−50℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0099】
化合物(41)は、化合物(40)をジクロロメタン溶媒中、トリエチルシランおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の共存下、−50℃以下の温度で反応させることによって合成する。
【0100】
1−4−2−2.上記方法〈2〉について
(2−1)ラクトン化合物の合成法
合成中間体となるラクトン化合物(45)の合成法の一例を、以下に示す。
【0101】
【化16】
【0102】
化合物(43)は、化合物(42)とシクロヘキシルアミンとの反応によって合成する。この反応は、ジエチルエーテル溶媒中、炭酸カリウム等の塩基の存在下、室温から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。出発物である化合物(42)は、有機合成化学の方法に従って容易に合成することができる。
【0103】
化合物(44)は、化合物(43)にアクリル酸エチルを付加させた後、酸性条件下、脱保護することによって合成する。この反応は、アクリル酸エチル自身を溶媒として用いることが好ましいが、化合物(43)やアクリル酸エチルと反応しないトルエン等を溶媒として使用してもよい。アクリル酸エチルの重合を防ぐため、ヒドロキノン等の重合禁止剤を共存させることが好ましい。この反応は、通常のガラス反応器を用いる場合は室温から溶媒の沸点までの間の温度で行うが、ステンレス製オートクレーブ等の耐圧反応器を用いる場合は溶媒の沸点以上の温度で行うこともできる。付加反応が充分に進行した後、シュウ酸等の酸を添加することにより、シクロヘキシルアミンを脱離させ、化合物(44)を合成する。
【0104】
化合物(45)は、化合物(44)の環化反応によって合成する。この反応は、イソプロパノール溶媒中、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下、室温程度の温度で行うことが好ましい。反応を促進させるために塩酸等の酸を添加してもよい。
【0105】
(2−2)テトラヒドロピラン化合物の合成法
テトラヒドロピラン化合物(41)の合成法の一例を、以下に示す。
【0106】
【化17】
【0107】
化合物(47)は、化合物(45)と有機リチウム試薬(46)との反応によって合成する。この反応は、テトラヒドロフラン溶媒中、−30℃以下の温度で行うことが好ましい。
化合物(41)は、化合物(47)をジクロロメタン溶媒中、トリエチルシランおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の共存下、−50℃以下の温度で反応させることによって合成する。
【0108】
1−4−3.置換基Y1およびY2を有するベンゼン環の形成
1−4−3−1.置換基Y1およびY2がフッ素およびCF2Hの組の場合
式(1)において、置換基Y1およびY2がフッ素およびCF2Hである組の場合の化合物(1)を合成する方法の例を、下記のスキームに示す。以下のスキームにおいて、MSG5またはMSG6は1価の有機基である。
【0109】
【化18】
【0110】
3−フルオロベンゼン誘導体(51)は、例えば、特開昭58−126823号公報、特開昭58−121225号公報、特開昭59−016840号公報、または特開昭59−042329号公報に開示の方法で合成される。
【0111】
化合物(52)は、例えば、3−フルオロベンゼン誘導体(51)にsec−ブチルリチウム等の有機リチウム試薬、次いでジメチルホルムアミドまたはホルミルピペリジンを反応させて合成する。これらの反応は、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)等の溶媒中、−100℃から室温までの間の温度で行うことが好ましい。
【0112】
化合物(53)は、化合物(52)にDAST等のフッ素化剤を反応させることによって合成する。この反応は、ハロゲン系炭化水素溶媒(例:ジクロロメタン)等の溶媒中、−100℃から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。
【0113】
次に、式(1)中の置換基Y1およびY2がフッ素およびCF2Hである組の場合において、置換基Y1およびY2を有するベンゼン環に直結する結合が−OCO−、−OCF2−または−OCH2−である化合物(60)〜(62)に関する合成法の例を示す。当該結合が−(CH22−、−CH=CH−、−COO−、−CF2O−、−CH2O−である化合物についても、有機合成化学の方法に従って容易に合成することができる。
【0114】
まず始めに、中間体となるフェノール化合物(58)の合成例を示す。
【0115】
【化19】
【0116】
化合物(55)は、化合物(54)に順次水素化ナトリウムおよびクロロメチルメチルエーテル(MOMCl)を反応させて合成する。これらの反応は、テトラヒドロフラン溶媒中、−20℃から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。
【0117】
化合物(56)は、化合物(55)にsec−ブチルリチウム等の有機リチウム試薬、次いでジメチルホルムアミドまたはホルミルピペリジンを反応させて合成する。これらの反応は、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)等の溶媒中、−100℃から室温までの間の温度で行うことが好ましい。
【0118】
化合物(57)は、化合物(56)にDAST等のフッ素化剤を反応させることによって合成する。この反応は、ハロゲン系炭化水素溶媒(例:ジクロロメタン)等の溶媒中、−100℃から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。
【0119】
フェノール化合物(58)は、化合物(57)の脱保護にて合成する。この反応は、アルコール溶媒(例:エタノール)等の溶媒中、2M塩酸等希塩酸を室温から溶媒の沸点までの間の温度で反応させることで行うことが好ましい。
【0120】
【化20】
【0121】
化合物(60)〜(62)は、上述の結合基を生成する方法において化合物(25)の代わりにフェノール化合物(58)を使用することにより、それぞれ合成することができる。
【0122】
2が単結合でA2が1,4−フェニレンである化合物、またはZ3が単結合でA3が1,4−フェニレンである化合物(72)および(75)は、以下の方法で合成することができる。1,4−フェニレンに代えて1,4−シクロヘキシレンである化合物についても、有機合成化学の方法に従って容易に合成することができる。
【0123】
【化21】
【0124】
化合物(64)は、n−ブチルリチウムを用いて化合物(63)をリチオ化した後、ホウ酸トリメチル等のホウ酸エステルを反応させ、さらに塩酸、硫酸等で加水分解して合成する。これらの反応は、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)等の溶媒中、−100℃から室温までの間の温度で行うことが好ましい。
【0125】
化合物(65)は、化合物(64)を過酸化水素水または過酢酸等の過酸化物を作用、酸化することで合成する。これらの反応は、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、あるいはカルボン酸(例:蟻酸、酢酸)中において、−20℃から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。
【0126】
化合物(69)は、上記で説明した化合物(54)から化合物(58)を合成する反応ルートにおいて、化合物(54)の代わりに化合物(65)を使用し、同一の反応操作を適用することで合成する。
【0127】
化合物(70)は、化合物(69)にピリジン、トリエチルアミン等の塩基の存在下、無水トリフルオロメタンスルホン酸を反応することにより合成する。これらの反応は、ハロゲン系炭化水素溶媒(例:ジクロロメタン)等の溶媒中、−20℃から室温までの間の温度で行うことが好ましい。
【0128】
化合物(72)は、化合物(70)とホウ酸化合物(71)とを反応させることによって合成する。これらの反応は、芳香族系炭化水素溶媒(例:トルエン)、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル)等の溶媒中、燐酸カリウム、炭酸カリウム等の塩基の存在下、金属触媒を用いて室温から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。金属触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウムカーボンが用いられる。
【0129】
化合物(75)は、上記で説明した化合物(69)から化合物(72)を合成する反応ルートにおいて、化合物(69)および化合物(71)の代わりに化合物(58)および化合物(74)を使用し、同一の反応操作を適用することにより合成する。
【0130】
1−4−3−2.置換基Y1およびY2がフッ素およびCF3の組の場合
式(1)において、置換基Y1およびY2がフッ素およびCF3である組の場合の化合物(1)を合成する方法の例を、下記のスキームに示す。
【0131】
【化22】
【0132】
3−フルオロベンゼン誘導体(51)は、例えば、特開昭58−126823号公報、特開昭58−121225号公報、特開昭59−016840号公報、または特開昭59−042329号公報に開示の方法で合成される。
【0133】
化合物(76)は、3−フルオロベンゼン誘導体(51)にsec−ブチルリチウム等の有機リチウム試薬、次いでヨウ素を反応させて合成する。これらの反応は、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)等の溶媒中、−100℃から室温までの間の温度で行うことが好ましい。
【0134】
化合物(77)は、Qing−Yun Chen等のJ.Chem.Soc., Chem.Commun.,1989,705記載の方法に従い、化合物(76)にヨウ化第1銅存在下でフルオロスルホニルジフルオロ酢酸メチルを反応させることによって合成する。この反応は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒中、60℃から溶媒の沸点までの間の温度で行うことが好ましい。
【0135】
次に、式(1)中の置換基Y1およびY2がフッ素およびCF3である組の場合において、mおよびnが0であり、フッ素側の基(Rb)がアルコキシであり、トリフルオロメチル側の基(Z0)が−CH=CH−である化合物に関する合成法の例を示す。
【0136】
【化23】
【0137】
化合物(79)は、例えば、Synlett 1999,No.4,389−396に記載の化合物(78)にn−ブチルリチウム、次いでN−ホルミルピペリジンを反応させて合成する。これらの反応は、エーテル系炭化水素溶媒(例:ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)等の溶媒中、−100℃から室温までの間の温度で行うことが好ましい。
【0138】
化合物(81)は、化合物(79)へGrignard試薬(80)を作用させた後、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒存在下に、得られるアルコール体の脱水反応を行うことで合成する。
【0139】
化合物(82)は、N,N−ジメチルホルムアミド中、フッ化セシウムまたはテトラブチルアンモニウムフルオリドのテトラヒドロフラン(THF)溶液を化合物(81)に作用することで合成する。
【0140】
2.液晶組成物
本発明の液晶組成物は、本発明の化合物(1)を成分Aとして含有する。本発明の液晶組成物は、化合物(1)を1種のみ含有してもよく、化合物(1)を2種以上含有してもよい。
【0141】
本発明の液晶組成物は、液晶組成物の全質量に対して、成分Aを0.1〜99質量%の割合で含有することが好ましく、より好ましくは1〜99質量%、さらに好ましくは2〜98質量%である。成分Aの含有量が前記範囲にあると、液晶組成物の優良な特性(例:しきい値電圧、液晶相の温度範囲、誘電率異方性の値、光学異方性の値、粘度)を発現させる点で好ましい。
【0142】
本発明の液晶組成物は、成分Aのみの組成物、または成分Aと本明細書中で特に成分名を示していないその他の成分との組成物でもよい。また、本発明の液晶組成物は、種々の特性を発現させるため、以下に説明する成分B、成分C、成分Dおよび成分Eの群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含有してもよい。
【0143】
成分Bは、後述する式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物である。成分Cは、後述する式(5)で表される化合物である。成分Dは、後述する式(6)〜(11)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物である。成分Eは、後述する式(12)〜(14)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0144】
なお、式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物とは、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、および式(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物を意味する。他の例においても同様である。
【0145】
本発明の液晶組成物は、用途に応じて、光学活性化合物および重合可能な化合物の群から選択される少なくとも1種をさらに含有してもよく、酸化防止剤および紫外線吸収剤の群から選択される少なくとも1種をさらに含有してもよい。
【0146】
本発明の液晶組成物を構成する各成分は、各元素の同位体元素からなる類縁体であっても、その化学的および物理的特性に大きな差異はない。
【0147】
〈成分B〉(化合物(2)〜(4))
本発明の液晶組成物は、式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物(成分B)を含有してもよい。成分Bは、誘電率異方性の値が正であり、熱安定性および化学的安定性が非常に優れているので、TFTにて駆動するTNモード用途またはIPSモード用途の液晶組成物を調製する場合に好適に用いられる。
【0148】
【化24】
【0149】
式(2)〜(4)において、各記号の意味は以下のとおりである。
1は、炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよい。
【0150】
1は、フッ素、塩素、−OCF3、−OCF2H、−CF3、−CF2H、−CFH2、−OCF2CF2H、または−OCF2CFHCF3である。
【0151】
環B1、環B2および環B3は、独立して1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−3,6−ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレンである。
【0152】
11およびZ12は、独立して−(CH22−、−(CH24−、−COO−、−CF2O−、−OCF2−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2O−または単結合である。
1およびL2は、独立して水素またはフッ素である。
【0153】
成分Bを用いる場合における成分Bの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、通常1〜99質量%、好ましくは10〜97質量%、より好ましくは40〜95質量%である。また、成分Bとともに成分Eをさらに含有させることにより、液晶組成物の粘度を調整することができる。この場合の成分Eの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、通常1〜99質量%、好ましくは10〜97質量%、より好ましくは30〜95質量%である。
【0154】
〈成分C〉(化合物(5))
本発明の液晶組成物は、式(5)で表される化合物(成分C)を含有してもよい。成分Cは、誘電率異方性の値が正で非常に大きいので、TNモード、STNモードまたはIPSモード用途の液晶組成物を調製する場合に好適に用いられる。成分Cを含有させることにより、液晶組成物のしきい値電圧を小さくすること、粘度の調整および光学異方性の値の調整をすること、ならびに液晶相の温度範囲を広げることができる。さらに、急峻性の改良にも利用できる。
【0155】
【化25】
【0156】
式(5)において、各記号の意味は以下のとおりである。
2は、炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよい。
【0157】
2は、−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nである。
環C1、環C2および環C3は、独立して1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−3,6−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり、前記1,4−フェニレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよい。
【0158】
13は、−(CH22−、−COO−、−CF2O−、−OCF2−、−C≡C−、−CH2O−または単結合である。
3およびL4は、独立して水素またはフッ素である。
【0159】
oは、0、1または2であり、pは、0または1である。oが2のとき、2つの環C2は、同一であっても、異なっていてもよい。oおよびpの和は、0、1または2である。
【0160】
成分Cを用いる場合における成分Cの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、通常0.1〜99.9質量%、好ましくは10〜97質量%、より好ましくは40〜95質量%である。成分Cの含有量が前記範囲にある液晶組成物は、TNモード、STNモードまたはIPSモード用途の液晶組成物として好ましい。
【0161】
〈成分D〉(化合物(6)〜(11))
本発明の液晶組成物は、式(6)〜(11)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物(成分D)を含有してもよい。成分Dは、VAモードおよびPSAモード用途等の、誘電率異方性の値が負の液晶組成物を調製する場合に好適に用いられる。また、成分Dを混合することにより、弾性定数をコントロ−ルし、液晶組成物の電圧透過率曲線を制御することが可能となる。
【0162】
【化26】
【0163】
式(6)〜(11)において、各記号の意味は以下のとおりである。
3およびR4は、独立して炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよい。
【0164】
環D1、環D2、環D3および環D4は、独立して1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、テトラヒドロピラン−3,6−ジイル、またはデカヒドロ−2,6−ナフタレンであり、前記1,4−フェニレンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよい。
【0165】
14、Z15、Z16およびZ17は、独立して−(CH22−、−COO−、−CH2O−、−OCF2−、−OCF2(CH22−または単結合である。
5およびL6は、独立してフッ素または塩素である。
【0166】
q、r、s、t、uおよびvは、独立して0または1である。
r、s、tおよびuの和は、1または2である。
【0167】
化合物(6)は、二環化合物であるので、主としてしきい値電圧の調整、粘度の調整または光学異方性の値の調整の効果がある。化合物(7)および化合物(8)は、三環化合物であるので、上限温度を高くする、ネマチック相の温度範囲を広くする、しきい値電圧を低くする、光学異方性の値を大きくする等の効果がある。化合物(9)〜(11)は、しきい値電圧を低くする等の効果がある。
【0168】
成分Dの含有量を増加させると、液晶組成物のしきい値電圧が低くなるが、粘度が大きくなるので、液晶組成物のしきい値電圧の要求を充たす限り、その含有量を少なくすることが好ましい。しかしながら、成分Dの誘電率異方性の絶対値は5程度である。したがって、充分な電圧駆動をさせるには、成分Dの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50〜95質量%である。この場合、成分Aの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、2〜40質量%であることが好ましい。成分Dの含有量が前記範囲にある液晶組成物は、VAモードまたはPSAモード用途の液晶組成物として好ましい。
【0169】
一方、成分Dを誘電率異方性の値が正の液晶組成物に混合する場合は、その含有量は、液晶組成物の全質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0170】
〈成分E〉(化合物(12)〜(14))
本発明の液晶組成物は、式(12)〜(14)で表される化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物(成分E)を含有してもよい。成分Eは、誘電率異方性の絶対値が小さく、中性に近い化合物である。成分Eを用いることにより、しきい値電圧、液晶相の温度範囲、誘電率異方性の値、光学異方性の値、および粘度等を調整することができる。
【0171】
【化27】
【0172】
式(12)〜(14)において、各記号の意味は以下のとおりである。
5およびR6は、独立して炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数2〜10のアルケニルであり、前記アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CH2−は−O−で置き換えられてもよい。。
【0173】
環E1、環E2および環E3は、独立して1,4−シクロヘキシレン、ピリミジン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、3−フルオロ−1,4−フェニレン、または2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。
【0174】
18およびZ19は、独立して−C≡C−、−COO−、−(CH22−、−CH=CH−または単結合である。
【0175】
化合物(12)は、主として粘度または光学異方性の値を調整する効果がある。化合物(13)および化合物(14)は、上限温度を高くする等のネマチック相の温度範囲を広げる効果、または光学異方性の値を調整する効果がある。
【0176】
成分Eの含有量を増加させると、液晶組成物の粘度が小さくなるが、液晶組成物のしきい値電圧が高くなるので、液晶組成物のしきい値電圧の要求を充たす限り、その含有量を多くすることが好ましい。
【0177】
MVAモードまたはPSAモード用途の液晶組成物を調製する場合、成分Eの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。TNモード、STNモードまたはIPSモード用途の液晶組成物を調製する場合、成分Eの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。これらの場合、成分Aの含有量は、液晶組成物の全質量に対して、1〜40質量%であることが好ましい。
【0178】
〈成分B〜成分Eの具体例の例示〉
成分Bのうち、式(2)で表される化合物の好適例として式(2−1)〜(2−16)で表される化合物が挙げられ、式(3)で表される化合物の好適例として式(3−1)〜(3−112)で表される化合物が挙げられ、式(4)で表される化合物の好適例として式(4−1)〜(4−54)で表される化合物が挙げられる。
【0179】
【化28】
【0180】
【化29】
【0181】
【化30】
【0182】
【化31】
【0183】
【化32】
【0184】
【化33】
【0185】
【化34】
【0186】
【化35】
【0187】
式中、R1およびX1は、式(2)〜(4)中のR1およびX1と同義である。
【0188】
成分Cのうち、式(5)で表される化合物の好適例として、式(5−1)〜(5−64)で表される化合物が挙げられる。
【0189】
【化36】
【0190】
【化37】
【0191】
【化38】
【0192】
式中、R2およびX2は、式(5)中のR2およびX2と同義である。
【0193】
成分Dのうち、式(6)〜(11)で表される化合物の好適例として、それぞれ式(6−1)〜(6−6)、式(7−1)〜(7−15)、式(8−1)、式(9−1)〜(9−3)、式(10−1)〜(10−11)、および式(11−1)〜(11−10)で表される化合物が挙げられる。
【0194】
【化39】
【0195】
【化40】
【0196】
式中、R3およびR4は、式(6)〜(11)中のR3およびR4と同義である。
【0197】
成分Eのうち、式(12)〜(14)で表される化合物の好適例として、それぞれ式(12−1)〜(12−11)、式(13−1)〜(13−19)、および式(14−1)〜(14−6)で表される化合物が挙げられる。
【0198】
【化41】
【0199】
【化42】
【0200】
式中、R5およびR6は、式(12)〜(14)中のR5およびR6と同義である。
【0201】
〈光学活性化合物〉
本発明の液晶組成物は、光学活性化合物を1種または2種以上含有してもよい。光学活性化合物として、公知のキラルド−プ剤が挙げられる。このキラルド−プ剤は、液晶のらせん構造を誘起して必要なねじれ角を調整し、逆ねじれを防ぐ等の効果を有する。キラルド−プ剤としては、例えば、式(Op−1)〜(Op−13)で表される光学活性化合物が挙げられる。
【0202】
【化43】
【0203】
本発明の液晶組成物に光学活性化合物を添加することにより、ねじれのピッチを調整することができる。ねじれのピッチは、TFTモードおよびTNモード用途の液晶組成物であれば40〜200μmの範囲に調整することが好ましく;STNモード用途の液晶組成物であれば6〜20μmの範囲に調整することが好ましく;BTNモード用途の液晶組成物であれば1.5〜4μmの範囲に調整することが好ましい。また、ピッチの温度依存性を調整する目的で、2種以上の光学活性化合物を添加してもよい。
【0204】
〈重合可能な化合物〉
本発明の液晶組成物は、重合可能な化合物(ただし、上述した成分A〜成分Eに該当する化合物を除く。)を1種または2種以上添加して、PSAモード用途の液晶組成物として使用することもできる。また、重合可能な化合物を添加する場合、重合開始剤を用いることが好ましい。これらの場合、重合可能な化合物の含有量は、液晶組成物の全質量に対して、0.1〜2質量%であることが好ましい。
【0205】
重合可能な化合物としては、例えば、アクリロイル、メタクリロイル、ビニル、ビニルオキシ、プロペニルエーテル、ビニルケトン、オキシラニルおよびオキセタニル等の重合可能な基を有する化合物が挙げられる。重合可能な化合物は、好ましくは光重合開始剤等の適切な重合開始剤の存在下で、UV照射等により重合する。
【0206】
重合のための適切な条件、重合開始剤の適切な種類および適切な量は、当業者には既知であり、各文献に記載されている。例えば光重合開始剤であるIrgacure 651(登録商標;BASF)、Irgacure 184(登録商標;BASF)、またはDarocure 1173(登録商標;BASF)が、ラジカル重合に対して適切である。
【0207】
〈酸化防止剤および紫外線吸収剤〉
本発明の液晶組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤の群から選択される少なくとも1種をさらに含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ヒンダートアミン系光安定化剤が挙げられる。
【0208】
〈その他の成分〉
本発明の液晶組成物は、メロシアニン系、スチリル系、アゾ系、アゾメチン系、アゾキシ系、キノフタロン系、アントラキノン系、テトラジン系等の二色性色素などの染料を添加して、ゲスト・ホスト(GH)モード用途の液晶組成物として使用することもできる。
【0209】
〈液晶組成物の調製方法およびその特性〉
本発明の液晶組成物を調製する場合、例えば、成分Aの誘電率異方性の値を考慮して各種成分を選択することができる。本発明の液晶組成物は、大きな誘電率異方性の値を有し、しきい値電圧が低い。前記組成物は、適切な光学異方性の値を有し、適切な弾性定数K33を有する。ここで「適切な」とは、本発明の液晶組成物を含む液晶表示素子の動作モードに応じて、例えば、光学異方性および弾性定数の好適範囲が適宜決定されることを意味する。前記組成物は、粘度が低い。前記組成物は、ネマチック相の温度範囲が広く、すなわち、ネマチック相の上限温度が高く、ネマチック相の下限温度が低い。
【0210】
液晶組成物の調製は、公知の方法、例えば必要な成分を高温度下で溶解させる方法等により、一般に調製される。また、用途に応じて当業者によく知られている添加物(例:光学活性化合物、重合可能な化合物、重合開始剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料)を添加して、各種モード用途の液晶組成物を調製することができる。添加物は当業者によく知られており、上述した化合物の他、各種文献に詳細に記載されている。
【0211】
3.液晶表示素子
本発明の液晶表示素子は、上述した液晶組成物を含む。本発明の液晶表示素子は、応答時間が短く、消費電力および駆動電圧が小さく、コントラスト比が大きく、高い電圧保持率を有し、広い温度範囲で使用可能であり、よって液晶プロジェクター、液晶テレビ等に用いることができる。
【0212】
本発明の液晶組成物は、複屈折制御のECB(electrically controlled birefringence)モード素子、導電剤を添加させた液晶組成物を用いたDS(dynamic scattering)モード素子、ネマチック液晶をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematic curvilinear aligned phase)素子、液晶組成物中に三次元の網目状高分子を形成して作製したポリマ−分散型液晶表示素子(PDLCD)、例えばポリマ−ネットワ−ク液晶表示素子(PNLCD)にも、使用することができる。
【実施例】
【0213】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によっては制限されない。特に断りのない限り、「%」は「質量%」であることを意味する。
実施例等で得られた化合物は、1H−NMR分析で得られる核磁気共鳴スペクトル、およびガスクロマトグラフィー(GC)分析で得られるガスクロマトグラム等により同定した。まず、分析方法について説明をする。
【0214】
1H−NMR分析〕
測定装置として、DRX−500(ブルカーバイオスピン(株)製)を用いた。測定は、実施例等で製造したサンプルを、CDCl3等のサンプルが可溶な重水素化溶媒に溶解させ、室温で、500MHz、積算回数24回の条件で行った。なお、化学シフトδ値のゼロ点の基準物質としては、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。また、核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、dqはカルテットのダブレット、brはブロードであることを意味する。
【0215】
〔GC分析〕
測定装置として、GC−14B型ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製)を用いた。カラムは、キャピラリーカラムCBP1−M25−025((株)島津製作所製;長さ25m、内径0.22mm、膜厚0.25μm;固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。キャリアーガスとしてはヘリウムを用い、流量は1ml/分に調整した。試料気化室の温度を280℃、検出器(FID)部分の温度を280℃に設定した。試料はトルエンに溶解して、1%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。
【0216】
記録計として、C−R6A型Chromatopac((株)島津製作所製)またはその同等品を用いた。得られたガスクロマトグラムには、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積値が示されている。
【0217】
なお、試料の希釈溶媒としては、例えば、クロロホルム、ヘキサンを用いてもよい。また、カラムとしては、キャピラリーカラムDB−1(Agilent Technologies Inc.製;長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、HP−1(Agilent Technologies Inc.製;長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Rtx−1(Restek Corporation製;長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、BP−1(SGE International Pty. Ltd製;長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)等を用いてもよい。
【0218】
ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は、成分化合物の割合に相当する。一般には、分析サンプルの成分化合物の質量%は、分析サンプルの各ピークの面積%と完全に同一ではない。しかしながら、本発明において上述したカラムを用いる場合には、実質的に補正係数は1であるので、分析サンプル中の成分化合物の質量%は、分析サンプル中の各ピークの面積%に対応をしている。
【0219】
〔液晶性化合物等の物性値の測定試料〕
実施例等で得られた液晶性化合物の物性値を測定する試料としては、液晶性化合物そのものを試料とする場合、液晶性化合物を母液晶と混合して試料とする場合、の2つの方法を用いた。
【0220】
液晶性化合物を母液晶と混合した試料を用いる後者の場合には、以下の方法で測定を行った。まず、得られた液晶性化合物15%と母液晶85%とを混合して試料を調製した。得られた試料の測定値から、下記式に示す外挿法に従って、外挿値を計算した。この外挿値を、得られた液晶性化合物の物性値とした。ただし、液晶性化合物と母液晶との混合割合が前記場合であっても、25℃でスメクチック相であるとき、または25℃で結晶が析出するときは、液晶性化合物と母液晶との混合割合(液晶性化合物:母液晶)を10%:90%、5%:95%、1%:99%の順に変更していき、25℃でスメクチック相でなくなったときの組成、または25℃で結晶が析出しなくなったときの組成で、試料の物性値を測定し、下記式に従って外挿値を求めて、これを液晶性化合物の物性値とした。
【0221】
【数1】
【0222】
母液晶として、以下の母液晶Aを測定に用いた。
【0223】
【化44】
【0224】
上記5つの化合物を混合し、ネマチック相を有する母液晶Aを調製した。ネマチック相を有する母液晶Aの物性(測定方法は以下に記載した。)は、以下のとおりであった:上限温度(TNI)=74.6℃、誘電率異方性の値(Δε)=−1.3、光学異方性の値(Δn)=0.087.なお、これらの物性値を測定する試料としては、母液晶Aそのものを用いた。
【0225】
〔液晶性化合物等の物性値の測定方法〕
実施例等で得られた液晶性化合物および液晶組成物の物性値の測定は、後述する方法で行った。これら測定方法の多くは、日本電子機械工業会規格(Standard of Electric Industries Association of Japan)EIAJ・ED−2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法である。また、測定に用いたTN素子またはVA素子には、TFTを取り付けなかった。
【0226】
測定値のうち、液晶性化合物そのものを試料として得られた値と、液晶組成物そのものを試料として得られた値の場合は、そのままの値を実験データとして記載した。測定値のうち、液晶性化合物を母液晶と混合した試料として得られた値の場合は、外挿法で得られた外挿値を記載した。
【0227】
〈相構造および転移温度(℃)〉
相構造および転移温度は、下記(1)および(2)の方法で測定した。
(1)偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に試料(液晶性化合物)を置き、3℃/分の速度で加熱しながら相状態およびその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
(2)パーキンエルマー社製走査熱量計DSC−7システムまたはDiamond DSCシステムを用いて、3℃/分速度で昇降温し、試料(液晶性化合物)の相変化に伴う、吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿法により求め(on set)、転移温度を決定した。
【0228】
以下、結晶はCと表した。結晶の区別がつく場合は、それぞれC1またはC2と表した。また、スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。等方性液体(アイソトロピック)はIsoと表した。スメクチック相の中で、スメクチックB相またはスメクチックA相の区別がつく場合は、それぞれSBまたはSAと表した。転移温度の表記として、例えば、「C 50.0 N 100.0 Iso」とは、結晶からネマチック相への転移温度(CN)が50.0℃であり、ネマチック相から等方性液体への転移温度(NI)が100.0℃であることを示す。他の表記も同様である。相転移温度の単位は、全て℃である。
【0229】
〈ネマチック相の上限温度(TNI;℃)〉
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に試料(液晶組成物、または液晶性化合物と母液晶との混合物)を置き、1℃/分の速度で加熱しながら偏光顕微鏡で観察した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を、ネマチック相の上限温度とした。上述したように、ネマチック相の上限温度を、単に「上限温度」と略すことがある。
【0230】
〈誘電率異方性の値(Δε;25℃で測定)〉
誘電率異方性の値(Δε)は、以下の方法によって測定した。
よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させた後、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板から、間隔(セルギャップ)が20μmであるVA素子を組み立てた。
【0231】
同様の方法で、ガラス基板上にポリイミドの配向膜を形成した。得られたガラス基板の配向膜にラビング処理をした後、2枚のガラス基板の間隔が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子を組み立てた。
【0232】
得られたVA素子に試料(液晶組成物、または液晶性化合物と母液晶との混合物)を入れ、0.5V(1kHz、サイン波)を印加して、液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。また、得られたTN素子に試料(液晶組成物、または液晶性化合物と母液晶との混合物)を入れ、0.5V(1kHz、サイン波)を印加して、液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値(Δε)は、Δε=ε‖−ε⊥の式から計算した。
【0233】
〈光学異方性の値(Δn;25℃で測定)〉
光学異方性の値(Δn)の測定は、25℃の温度下で、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行った。主プリズムの表面を一方向にラビングした後、試料(液晶組成物、または液晶性化合物と母液晶との混合物)を主プリズムに滴下した。屈折率(n‖)は、偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率(n⊥)は、偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値(Δn)は、Δn=n‖−n⊥の式から計算した。
【0234】
〔液晶性化合物の実施例〕
[実施例1]5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(1−5−11)の合成
【0235】
【化45】
【0236】
〈第1工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、1−エトキシ−3−フルオロベンゼン(No.1)14.5g(103mmol)をTHF150mlに溶解した。−70℃以下の温度で、この溶液にs−ブチルリチウム(1.02M シクロヘキサン溶液)100ml(102mmol)を滴下し、1時間攪拌した後、トリメチルシリルクロリド14.0ml(110mmol)のTHF50ml溶液を滴下した。1時間攪拌した後、反応液を氷冷した塩化アンモニウム水溶液300mlへ注ぎ分液した。水層をヘキサン100mlで2回抽出し、有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:400g、溶離液:ヘプタン)にて処理した後、減圧蒸留(136℃、50mmHg)することにより、1−エトキシ−3−フルオロ−2−トリメチルシリルベンゼン(No.2)14.1g(66.2mmol,収率64モル%)を得た。
【0237】
〈第2工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、第1工程にて得られた1−エトキシ−3−フルオロ−2−トリメチルシリルベンゼン(No.2)6.0g(28.2mmol)をTHF60mlに溶解し、−70℃以下に冷却した。この溶液にs−ブチルリチウム(1.08M シクロヘキサン溶液)28.7ml(31.0mmol)を滴下し、−70℃以下にて1時間攪拌した後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)2.6ml(33.4mmol)のTHF10ml溶液を滴下した。−70℃以下にて1時間攪拌した後、反応液を氷冷した塩化アンモニウム水溶液50mlへ注ぎ分液した。水層を酢酸エチル50mlで2回抽出し、有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。この結果、4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルベンズアルデヒド(No.3)6.7g(27.9mmol,収率99モル%)を得た。
【0238】
〈第3工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、メトキシメチルトリフェニルホスフィンクロライド14.4g(42.0mmol)のTHF35ml懸濁液に、カリウム−t−ブトキシド4.7g(42.0mmol)を−40℃以下で少しずつ加えた。−40℃以下で1時間攪拌した後、第2工程にて得られた4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルベンズアルデヒド(No.3)6.2g(25.8mmol)のTHF100ml溶液を滴下した。室温まで昇温し、5時間攪拌した後、反応液を水200mlへ注ぎ、酢酸エチル50mlを加え分液した。水層を酢酸エチル50mlで2回抽出し、有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=95/5(体積比))にて精製後、減圧下にて溶媒を留去し中間体を得た。この中間体をトルエン30mlに溶解し、蟻酸9mlを加えて1時間加熱還流した。室温まで放冷した反応液を飽和重曹水100mlへ注ぎ分液し、水層をトルエン50mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下にて溶媒を留去し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)アセトアルデヒド(No.4)3.6g(14.1mmol,収率55モル%)を得た。
【0239】
〈第4工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、第3工程で得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)アセトアルデヒド(No.4)3.6g(14.1mmol)をDMF50mlに溶解した。氷冷下にて反応液にOxone10.4g(16.9mmol)を添加した後、室温にて3時間攪拌した。次いで反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液100mlへ注ぎ、酢酸エチル50mlを加えて分液した。水層を酢酸エチル50mlで2回抽出し、有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=50/50(体積比))、再結晶(ヘプタン/トルエン=75/25(体積比))により精製し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)酢酸(No.5)1.7g(6.3mmol,収率45モル%)を得た。
【0240】
〈第5工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、第4工程で得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)酢酸(No.5)1.7g(6.3mmol)をTHF20mlに溶解した。この溶液を0℃に冷やし、n−ブチルリチウム(1.67M n−ヘキサン溶液)7.7ml(12.8mmol)を滴下し、次いで反応液を室温まで昇温し30分攪拌した。次いで反応液を−70℃に冷却し、特開2000−8040号公報に記載の方法によって得た2−(トランス−4−プロピル−シクロヘキシル)−オキセタン(No.6)1.15g(6.3mmol)のTHF3ml溶液、続いて三フッ素化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.94ml(7.5mmol)のTHF3ml溶液を滴下した。反応液を室温まで昇温した後、10%蟻酸水溶液100mlへ注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル100mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))にて精製し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−(トリメチルシリル)フェニル)−5−ヒドロキシ−5−(4−プロピルシクロヘキシル)−ペンタン酸(No.7)2.46g(5.7mmol,収率91モル%)を得た。
【0241】
〈第6工程〉
第5工程にて得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−(トリメチルシリル)フェニル)−5−ヒドロキシ−5−(4−プロピルシクロヘキシル)−ペンタン酸(No.7)2.46g(5.7mmol)をトルエン25mlに溶解し、p−トルエンスルホン酸一水和物1.08g(5.7mmol)を添加し、1時間加熱還流した。室温まで放冷した反応液を飽和重曹水へ注いだ後に分液し、水層をトルエン20mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:50g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))にて精製し、3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オン(No.8)1.7g(4.7mmol,収率82モル%)を得た。
【0242】
〈第7工程〉
第6工程で得られた3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オン(No.8)1.7g(4.7mmol)をTHF40mlに溶解し、−70℃以下に冷却した。水素化ジイソブチルアルミニウム(1.01M トルエン溶液)10.2ml(10.3mmol)を加え、−70℃にて2時間撹拌した。反応液を氷冷した10%蟻酸水溶液80mlへ注ぎ、分液した。水層をトルエン50mlで2回抽出し、有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下にて溶媒を留去し、3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オール(No.9)1.7g(4.7mmol,収率99モル%)を得た。
【0243】
〈第8工程〉
第7工程で得られた3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オール(No.9)1.74g(4.7mmol)をジクロロメタン30mlに溶解した。−70℃でトリエチルシラン2.4ml(15.1mmol)のジクロロメタン5ml溶液、続いて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体1.9ml(15.1mmol)のジクロロメタン5ml溶液を滴下した。室温まで昇温した後に2時間攪拌し、反応液を氷水50mlへ注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン10mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:50g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=95/5(体積比))、再結晶(ヘプタン/エタノール=50/50(体積比))により精製し、5−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.10)1.15g(3.3mmol,収率73モル%)を得た。
【0244】
〈第9工程〉
第8工程で得られた5−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.10)1.05g(3.0mmol)をTHF30mlに溶解し、−70℃に冷却した。s−ブチルリチウム(1.08M シクロヘキサン溶液)3.8ml(4.1mmol)を滴下し、−70℃にて1時間攪拌した。次いでN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)0.32ml(4.0mmol)のTHF3ml溶液を滴下し、−70℃にて2時間攪拌した。反応液を氷水100mlに注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル50mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:30g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))にて精製し、5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ホルミルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.11)0.96g(2.5mmol,収率85モル%)を得た。
【0245】
〈第10工程〉
第9工程で得られた5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ホルミルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.11)0.96g(2.5mmol)をジクロロメタン10mlに溶解し氷冷した。ジエチルアミノサルファートリフルオリド(DAST)0.73ml(5.5mmol)を添加した後、室温にて4時間攪拌した。反応液を飽和重曹水50mlに注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン20mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:30g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=95/5(体積比))、再結晶(エタノール)にて精製し、5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(1−5−11)0.5g(1.25mmol,収率62モル%)を得た。
【0246】
1H−NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下のとおりであり、得られた化合物(1−5−11)が、5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピランであることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl3である。
【0247】
化学シフトδ(ppm);7.19(t,1H)、7.03(t,1H,J=53.6,CF2H)、6.65(d,1H)、4.05(q,2H)、3.99(dq,1H)、3.37(t,1H)、3.09−3.04(m,2H)、1.99(t,2H)、1.78−0.90(m,19H)、0.88(t,3H)
得られた化合物(1−5−11)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度:SB 62.6 N 66.2 Iso.
【0248】
[実施例2]2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(1−4−11)の合成
【0249】
【化46】
【0250】
〈第1工程〉
実施例1の第1工程と同様にして、1−エトキシ−3−フルオロ−2−トリメチルシリルベンゼン(No.22)14.1g(66.2mmol,収率64モル%)を得た。
【0251】
〈第2工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、第1工程にて得られた1−エトキシ−3−フルオロ−2−トリメチルシリルベンゼン(No.22)4.0g(18.8mmol)をTHF30mlに溶解し、−70℃以下に冷却した。この溶液にs−ブチルリチウム(1.08M シクロヘキサン溶液)19.0ml(20.5mmol)を滴下し、−70℃以下にて1時間攪拌した後、5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オン3.84gのTHF10mlを滴下した。−70℃以下にて1時間攪拌した後、反応液を氷冷した塩化アンモニウム水溶液50mlへ注いだ後に分液し、水層をトルエン50mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オール(No.23)4.5g(10.3mmol,収率60モル%)を得た。
【0252】
〈第3工程〉
第2工程で得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オール(No.23)4.0g(9.2mmol)をジクロロメタン80mlに溶解した。−60℃でトリエチルシラン3.0ml(18.4mmol)のジクロロメタン5ml溶液、続いて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.3ml(18.4mmol)のジクロロメタン5ml溶液を滴下した。室温まで昇温した後に2時間攪拌し、反応液を氷水150mlへ注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン20mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をTHF10mlに溶解し、0℃でフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム9.2ml(9.2mmol)を滴下した。10分間撹拌した後、ゆっくりと室温まで昇温した。反応液を氷水150mlへ注いだ後に分液し、水層をトルエン50mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:80g、溶離液:ヘプタン)により精製し、2−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.24)1.9g(5.5mmol,収率60モル%)を得た。
【0253】
〈第4工程〉
第3工程で得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.24)1.4g(3.2mmol)をTHF70mlに溶解し、−70℃に冷却した。s−ブチルリチウム(1.08M シクロヘキサン溶液)3.6ml(3.8mmol)を滴下し、−70℃にて1時間攪拌した。次いでN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)0.36ml(3.8mmol)のTHF1.0ml溶液を滴下し、−70℃にて2時間攪拌した。反応液を氷冷した塩化アンモニウム水溶液100mlへ注いだ後に分液し、水層をトルエン50mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:20g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=9/1(体積比))にて精製し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ホルミルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.25)0.57g(1.5mmol,収率48モル%)を得た。
【0254】
〈第5工程〉
第4工程で得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ホルミルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.25)0.57g(1.5mmol)をジクロロメタン10mlに溶解し氷冷した。ジエチルアミノサルファートリフルオリド(DAST)0.4ml(3.0mmol)のジクロロメタン1.4ml溶液を添加した後、室温にて4時間攪拌した。反応液を氷冷した飽和重曹水50mlに注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン20mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:15g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=20/1(体積比))、再結晶(ヘプタン/ソルミックス(登録商標)A−11)にて精製し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(1−4−11)0.29g(0.72mmol,収率48モル%)を得た。
【0255】
1H−NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下のとおりであり、得られた化合物(1−4−11)が、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピランであることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl3である。
【0256】
化学シフトδ(ppm);7.49(t,1H)、7.04(t,1H,J=53.8,CF2H)、6.70(d,1H)、4.51(q,1H)、4.15(dq,1H)、4.07(q,2H)3.34(t,1H)、1.95−1.99(m,1H)、1.88−1.91(m,1H)、1.78−0.80(m,23H)
得られた化合物(1−4−11)の相転移温度は以下のとおりであった。
相転移温度:SB 92.3 N 96.1 Iso.
【0257】
[実施例3]5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−2−(4−プロピル−シクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン(1−15−15)の合成
【0258】
【化47】
【0259】
〈第1工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、実施例1の第4工程で得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−トリメチルシリルフェニル)酢酸(No.5)1.94g(7.2mmol)をTHF25mlに溶解した。溶液を0℃に冷やし、n−ブチルリチウム(1.67M n−ヘキサン溶液)8.6ml(14.4mmol)を滴下し、次いで反応液を室温まで昇温し30分攪拌した。次いで反応液を−70℃に冷却し、特開2000−8040号公報に記載の方法によって得た2−(トランス−4−プロピル−シクロヘキシル)シクロヘキシル−オキセタン(No.26)1.9g(7.2mmol)のTHF15ml溶液、続いて三フッ素化ホウ素ジエチルエーテル錯体1.08ml(8.6mmol)のTHF3ml溶液を滴下した。反応液を室温まで昇温した後、10%蟻酸水溶液100mlへ注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル150mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))にて精製し、2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−(トリメチルシリル)フェニル)−5−ヒドロキシ−5−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−ペンタン酸(No.27)2.89g(5.4mmol,収率75モル%)を得た。
【0260】
〈第2工程〉
第1工程にて得られた2−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−(トリメチルシリル)フェニル)−5−ヒドロキシ−5−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−ペンタン酸(No.27)2.89g(5.4mmol)をトルエン50mlに溶解し、p−トルエンスルホン酸一水和物1.03g(5.4mmol)を添加し、1時間加熱還流した。室温まで放冷した反応液を飽和重曹水へ注いだ後に分液し、水層をトルエン50mlにて2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:50g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))にて精製し、3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン−2−オン(No.28)1.9g(4.3mmol,収率79モル%)を得た。
【0261】
〈第3工程〉
第2工程で得られた3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン−2−オン(No.28)1.9g(4.3mmol)をTHF150mlに溶解し、−70℃以下に冷却した。水素化ジイソブチルアルミニウム(1.01M トルエン溶液)9.4ml(9.5mmol)を加え、−70℃にて2時間撹拌した。反応液を氷冷した10%蟻酸水溶液100mlへ注ぎ、分液した。水層を酢酸エチル100mlで2回抽出し、有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下にて溶媒を留去し、3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン−2−オール(No.29)1.86g(4.2mmol,収率98モル%)を得た。
【0262】
〈第4工程〉
第3工程で得られた3−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−6−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン−2−オール(No.29)1.86g(4.2mmol)をジクロロメタン50mlに溶解した。−70℃でトリエチルシラン1.34ml(8.4mmol)のジクロロメタン5ml溶液、続いて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体1.06ml(8.4mmol)のジクロロメタン5ml溶液を滴下した。室温まで昇温した後に2時間攪拌し、反応液を氷水50mlへ注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン20mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:50g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=95/5(体積比))、再結晶(ヘプタン/エタノール=50/50(体積比))により精製し、5−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン(No.30)1.3g(3.0mmol,収率71モル%)を得た。
【0263】
〈第5工程〉
第4工程で得られた5−(4−エトキシ−2−フルオロフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン(No.30)1.3g(3.0mmol)をTHF130mlに溶解し、−70℃に冷却した。s−ブチルリチウム(1.06M シクロヘキサン溶液)3.4ml(3.6mmol)を滴下し、−70℃にて1時間攪拌した。次いでN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)0.28ml(3.6mmol)のTHF2ml溶液を滴下し、−70℃にて2時間攪拌した。反応液を氷水80mlに注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル50mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:50g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))にて精製し、5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ホルミルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン(No.31)1.1g(2.4mmol,収率73モル%)を得た。
【0264】
〈第6工程〉
第5工程で得られた5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ホルミルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン(No.31)1.1g(2.4mmol)をジクロロメタン10mlに溶解し氷冷した。ジエチルアミノサルファートリフルオリド(DAST)0.63ml(4.8mmol)を添加した後、室温にて終夜攪拌した。反応液を飽和重曹水50mlに注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン20mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:50g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=95/5(体積比))、再結晶(ヘプタン)にて精製し、5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピラン(1−15−15)0.6g(1.25mmol,収率52モル%)を得た。
【0265】
1H−NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下のとおりであり、得られた化合物(1−15−15)が、5−(4−エトキシ−2−フルオロ−3−ジフルオロメチルフェニル)−2−(4−プロピルシクロヘキシル)シクロヘキシル−テトラヒドロピランであることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl3である。
【0266】
化学シフトδ(ppm);7.18(t,1H)、7.02(t,1H,J=53.7,CF2H)、6.65(d,1H)、4.06(q,2H)、3.98(dq,1H)、3.37(t,1H)、3.09−3.02(m,2H)、1.99(t,2H)、1.77−0.89(m,29H)、0.87(t,3H)
得られた化合物(1−15−15)の相転移温度は、以下のとおりであった。
相転移温度:C 72.5 SB 241.5 N 248.2 Iso.
【0267】
[比較例1]2−(4−エトキシ−3−フルオロ−2−ジフルオロメチルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.36)の合成
【0268】
【化48】
【0269】
〈第1工程〉
窒素雰囲気下の反応器中、4−エトキシ−3−フルオロブロモベンゼン(No.32)2.77g(12.6mmol)をTHF40mlに溶解し、−70℃以下に冷却した。この溶液にn−ブチルリチウム(1.65M n−ヘキサン溶液)7.6ml(12.6mmol)を滴下し、−70℃以下にて1時間攪拌した後、5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オン2.36g(10.5mmol)のTHF溶液10mlを滴下した。−70℃以下にて1時間攪拌した後、反応液を氷冷した塩化アンモニウム水溶液50mlへ注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル50mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=75/25(体積比))にて精製し、2−(4−エトキシ−3−フルオロフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オール(No.33)3.0g(8.2mmol,収率78モル%)を得た。
【0270】
〈第2工程〉
第1工程で得られた2−(4−エトキシ−3−フルオロフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン−2−オール(No.33)3.0g(8.2mmol)をジクロロメタン30mlに溶解した。−70℃でトリエチルシラン2.6ml(16.5mmol)のジクロロメタン5ml溶液、続いて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.1ml(16.5mmol)のジクロロメタン5ml溶液を滴下した。室温まで昇温した後に3時間攪拌し、反応液を氷水50mlへ注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン20mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100g、溶離液:ヘプタン)、再結晶(ヘプタン/エタノール=50/50(体積比)により精製し、2−(4−エトキシ−3−フルオロフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.34)1.3g(3.7mmol,収率45モル%)を得た。
【0271】
〈第3工程〉
第2工程で得られた2−(4−エトキシ−3−フルオロフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.34)1.3g(3.7mmol)をTHF25mlに溶解し、−70℃に冷却した。s−ブチルリチウム(1.08M シクロヘキサン溶液)3.8ml(4.1mmol)を滴下し、−70℃にて1時間攪拌した。次いでN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)0.34ml(4.4mmol)のTHF1ml溶液を滴下し、−70℃にて3時間攪拌した。反応液を氷冷した塩化アンモニウム水溶液50mlへ注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル30mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:20g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=9/1(体積比))にて精製し、2−(4−エトキシ−3−フルオロ−2−ホルミルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.35)0.7g(1.7mmol,収率46モル%)を得た。
【0272】
〈第4工程〉
第3工程で得られた2−(4−エトキシ−3−フルオロ−2−ホルミルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.35)0.7g(1.7mmol)をジクロロメタン10mlに溶解し氷冷した。ジエチルアミノサルファートリフルオリド(DAST)0.45ml(3.4mmol)のジクロロメタン2ml溶液を添加した後、室温にて終夜攪拌した。反応液を飽和重曹水30mlに注いだ後に分液し、水層をジクロロメタン10mlで3回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をTHF3ml/メタノール3ml混合溶媒に溶解し、氷冷した。水素化ホウ素ナトリウム64mg(1.7mmol)を添加した後、室温にて1時間攪拌した。反応液を水10mlへ注いだ後に分液し、水層を酢酸エチル10mlで2回抽出した。有機層を合わせて水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下にて溶媒を留去した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:15g、溶離液:ヘプタン/酢酸エチル=90/10(体積比))、再結晶(ヘプタン/エタノール=50/50(体積比))にて精製し、2−(4−エトキシ−3−フルオロ−2−ジフルオロメチルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピラン(No.36)0.35g(0.88mmol,収率52モル%)を得た。
【0273】
1H−NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下のとおりであり、得られた化合物(No.36)が、2−(4−エトキシ−3−フルオロ−2−ジフルオロメチルフェニル)−5−(4−プロピルシクロヘキシル)テトラヒドロピランであることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl3である。
【0274】
化学シフトδ(ppm);7.27(d,1H)、7.10(t,1H,J=53.8,CF2H)、7.03(t,1H)、4.60(d,1H)、4.14(dq,1H)、4.09(q,2H)、3.34(t,1H)、1.98−0.99(m,22H)、0.87(t,3H)
得られた化合物(No.36)の相転移温度は以下のとおりであり、ネマチック相は観測されなかった。
相転移温度:C 100.6 Iso.
【0275】
〔液晶性化合物の物性〕
(1)85%の母液晶Aと、15%の液晶性化合物(1−5−11)とからなる試料(液晶組成物)を調製した。この試料の物性は、以下のとおりであった。上限温度(TNI)=73.5℃;誘電率異方性の値(Δε)=−2.53;光学異方性の値(Δn)=0.0858。母液晶Aおよび上記試料の物性値と液晶性化合物の混合比とから、外挿法により算出した液晶性化合物(1−5−11)の物性値は、以下のとおりであった。上限温度(TNI)=67.3℃;誘電率異方性の値(Δε)=−9.16;光学異方性の値(Δn)=0.079。
【0276】
(2)上記(1)において、液晶性化合物の種類および混合割合を表1に記載したとおりに変更したこと以外は上記(1)と同様にして、試料(液晶組成物)を調製し、物性評価を行った。
物性の評価結果を表1に示す。
【0277】
【表1】
【0278】
液晶性化合物(1−5−11)および液晶性化合物(1−4−11)は、三環化合物である化合物(No.36)と比較して、上限温度(TNI)および誘電率異方性の値(Δε)の絶対値が大きくなることがわかった。
【0279】
[合成例]
前記の合成法、実施例1〜3を応用することによって、下記の化合物(1−1−1〜1−20−12)を合成することができる。実施例1〜3による化合物(1−4−11、1−5−11および1−15−15)も列挙した。
【0280】
【化49】
【0281】
【化50】
【0282】
【化51】
【0283】
【化52】
【0284】
【化53】
【0285】
【化54】
【0286】
【化55】
【0287】
【化56】
【0288】
【化57】
【0289】
【化58】
【0290】
【化59】
【0291】
【化60】
【0292】
【化61】
【0293】
【化62】
【0294】
【化63】
【0295】
【化64】
【0296】
【化65】
【0297】
【化66】
【0298】
【化67】
【0299】
【化68】
【0300】
【化69】
【0301】
【化70】
【0302】
【化71】
【0303】
〔液晶組成物の実施例〕
実施例により本発明の液晶組成物を詳細に説明する。本発明は下記の実施例によって限定されない。実施例における化合物は、下記の表2の定義に基づいて記号により表した。表2において、1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の全質量に基づいた質量百分率(質量%)である。最後に、組成物の物性値をまとめた。物性は、先に記載した方法にしたがって測定し、測定値を外挿することなくそのまま記載した。
【0304】
【表2】
【0305】
[実施例4]
実施例4の液晶組成物の組成は、以下のとおりであった。
3−HDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−11) 4%
3−HHDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−15−15) 4%
3−HH−O1 (12−1) 8%
5−HH−O1 (12−1) 4%
3−HH−4 (12−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 16%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 21%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 7%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 14%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 17%
液晶組成物の物性値は、以下のとおりであった。
NI=76.4℃;Δn=0.083;Δε=−4.4;η=35.4mPa・s.
【0306】
[実施例5]
実施例5の液晶組成物の組成は、以下のとおりであった。
3−HDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−11) 3%
3−HdhB(2F,3CF2H)−O2 (1−4−11) 3%
3−HB−O1 (12−5) 15%
3−HH−4 (12−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 7%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
3−HHB−1 (13−1) 6%
液晶組成物の物性値は、以下のとおりであった。
NI=79.3℃;Δn=0.088;Δε=−3.1;η=28.9mPa・s.
【0307】
[実施例6]
実施例6の液晶組成物の組成は、以下のとおりであった。
3−HdhB(2F,3CF2H)−O2 (1−4−11) 4%
3−HHDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−15−15) 4%
3−HH−4 (12−1) 6%
3−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 22%
5−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 22%
2−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 3%
4−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
5−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
2−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
3−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
V−HHB−1 (13−1) 6%
3−HHB−3 (13−1) 6%
3−HHEBH−5 (14−6) 3%
液晶組成物の物性値は、以下のとおりであった。
NI=83.6℃;Δn=0.099;Δε=−3.9;η=34.4mPa・s.
また、上記組成物100質量部に光学活性化合物(Op−5)(本化合物は、発明を実施するための形態に例示したものである。)を0.25質量部添加したときのピッチは、60.5μmであった。
【0308】
[実施例7]
実施例7の液晶組成物の組成は、以下のとおりであった。
3−HDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−11) 4%
3−HdhB(2F,3CF2H)−O2 (1−4−11) 3%
2−BEB(F)−C (5−14) 5%
3−BEB(F)−C (5−14) 4%
4−BEB(F)−C (5−14) 12%
1V2−BEB(F,F)−C (5−15) 16%
3−HB−O2 (12−5) 10%
3−HH−4 (12−1) 3%
3−HHB−F (3−1) 3%
3−HHB−1 (13−1) 8%
3−HHB−O1 (13−1) 4%
3−HBEB−F (3−37) 4%
3−HHEB−F (3−10) 3%
5−HHEB−F (3−10) 4%
3−H2BTB−2 (13−17) 4%
3−H2BTB−3 (13−17) 4%
3−H2BTB−4 (13−17) 4%
3−HB(F)TB−2 (13−18) 5%
液晶組成物の物性値は、以下のとおりであった。
NI=80.6℃;Δn=0.138;Δε=23.0;η=37.3mPa・s.
【0309】
[実施例8]
実施例8の液晶組成物の組成は、以下のとおりであった。
3−HDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−11) 3%
3−HHDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−15−15) 3%
1V2−BEB(F,F)−C (5−15) 6%
3−HB−C (5−1) 18%
2−BTB−1 (12−10) 10%
5−HH−VFF (12−1) 30%
3−HHB−1 (13−1) 4%
VFF−HHB−1 (13−1) 8%
VFF2−HHB−1 (13−1) 11%
3−H2BTB−2 (13−17) 3%
3−H2BTB−4 (13−17) 4%
液晶組成物の物性値は、以下のとおりであった。
NI=76.2℃;Δn=0.119;Δε=8.9;η=10.6mPa・s.
【0310】
[実施例9]
実施例9の液晶組成物の組成は、以下のとおりであった。
3−HDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−11) 2%
3−HdhB(2F,3CF2H)−O2 (1−4−11) 2%
3−HHDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−15−15) 2%
5−HB−CL (2−2) 3%
7−HB(F)−F (2−3) 7%
3−HH−4 (12−1) 9%
3−HH−EMe (12−2) 23%
3−HHEB−F (3−10) 8%
5−HHEB−F (3−10) 8%
3−HHEB(F,F)−F (3−12) 10%
4−HHEB(F,F)−F (3−12) 5%
4−HGB(F,F)−F (3−103) 3%
5−HGB(F,F)−F (3−103) 6%
2−H2GB(F,F)−F (3−106) 4%
3−H2GB(F,F)−F (3−106) 5%
5−GHB(F,F)−F (3−109) 3%
液晶組成物の物性値は、以下のとおりであった。
NI=73.1℃;Δn=0.067;Δε=9.1;η=25.7mPa・s.
【0311】
〔液晶組成物の使用例〕
液晶組成物の組成として、以下の使用例を挙げることができる。
[使用例1]
3−HdhB(2F,3CF2H)−O2 (1−4−11) 4%
3−HdhB(2F,3CF3)−O2 (1−4−18) 3%
3−HB−O1 (12−5) 15%
3−HH−4 (12−1) 4%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 10%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 10%
6−HEB(2F,3F)−O2 (6−6) 6%
【0312】
[使用例2]
3−HDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−11) 4%
5−BDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−17) 3%
2−HH−5 (12−1) 3%
3−HH−4 (12−1) 15%
3−HH−5 (12−1) 4%
3−HB−O2 (12−5) 12%
3−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 15%
5−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 15%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 5%
2−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 3%
3−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
5−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 5%
3−HHB−1 (13−1) 4%
3−HHB−O1 (13−1) 3%
【0313】
[使用例3]
3−HdhB(2F,3CF2H)−O2 (1−4−11) 4%
5−H2dhB(2F,3CF2H)−O2 (1−8−31) 3%
3−HB−O1 (12−5) 12%
3−HH−4 (12−1) 5%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 9%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
3−HHB−1 (13−1) 6%
【0314】
[使用例4]
3−HdhB(2F,3CF3)−O2 (1−4−18) 4%
5−H2dhB(2F,3CF2H)−O2 (1−8−31) 3%
2−HB−C (5−1) 5%
3−HB−C (5−1) 12%
3−HB−O2 (12−5) 12%
2−BTB−1 (12−10) 3%
3−HHB−F (3−1) 4%
3−HHB−1 (13−1) 8%
3−HHB−O1 (13−1) 5%
3−HHB−3 (13−1) 12%
3−HHEB−F (3−10) 2%
5−HHEB−F (3−10) 4%
2−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F)−F (3−2) 7%
5−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F,F)−F (3−3) 5%
【0315】
[使用例5]
3−HHDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−15−15) 3%
5−BDhB(2F,3CF2H)−O2 (1−5−17) 2%
5−HB−CL (2−2) 16%
3−HH−4 (12−1) 12%
3−HH−5 (12−1) 4%
3−HHB−F (3−1) 4%
3−HHB−CL (3−1) 3%
4−HHB−CL (3−1) 4%
3−HHB(F)−F (3−2) 10%
4−HHB(F)−F (3−2) 9%
5−HHB(F)−F (3−2) 9%
7−HHB(F)−F (3−2) 8%
5−HBB(F)−F (3−23) 4%
1O1−HBBH−5 (14−1) 3%
5−HHBB(F,F)−F (4−6) 3%
3−HH2BB(F,F)−F (4−15) 3%
4−HH2BB(F,F)−F (4−15) 3%
【産業上の利用可能性】
【0316】
本発明の化合物は、誘電率異方性の値(Δε)が負に大きい液晶性化合物であり、前記化合物を含有することにより、種々の表示方式において低電圧駆動を可能とする液晶組成物、およびこの液晶組成物を用いた液晶表示素子を提供することができる。