(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機系接着剤層の厚みは50μm以上であり、前記静電チャック部と前記加熱部材との間に配置されるスペーサのヤング率は10GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
前記加熱部材と前記温度調整用ベース部との間の熱伝達率は、前記加熱部材と前記静電チャック部との間の熱伝達率より小さいことを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1の静電チャック装置では、静電チャック部の裏面に、直接、ヒータをスクリーン印刷し焼き付けた構造であった。
スクリーン印刷では、ヒータの厚さの調整が難しく、また印刷されたヒータ自体の固有抵抗率の面内でのバラツキを生じ易いことより、面内でのヒータの発熱のバラツキを生じ、結果としてウエハの面内および、個体間での温度のバラツキを生じる問題を有していた。
また、特許文献2の静電チャック装置では、温度調整用ベース部の表面のうねりが大きい場合、温度調整用ベース部とヒータエレメントとの間の有機系接着剤層の厚みにもバラツキが生じてしまう、という問題点があった。
このように、従来の静電チャック装置では、静電チャック部上に載置されるウエハの面内温度分布のバラツキが大きくなり易かった。したがって、静電チャック部上に載置されるウエハ等の板状試料が、十分な面内温度の均一性を得ることができない、という問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、板状試料の吸着面の面内温度の均一性に優れた、静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の装置によれば、静電チャック部上に載置される板状試料の吸着面の面内温度の均一性が向上することを知見し、本発明を完成するに到った。
すなわち、静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部の、静電チャック部側に位置する面の一部または全体を、シート状またはフィルム状の絶縁材により被覆する。そして、この絶縁材の上側面であって載置面側の面に、薄板状の加熱部材を接着する。更に、静電チャック部と温度調整用ベース部とを、液状の接着剤を硬化した絶縁性の有機系接着剤層を介して、接着し一体化する。本発明ではこのような構造により、加熱部材と静電チャック部との間隔、及び、加熱部材と温度調整用ベース部との間隔を、均一化することができ、その結果、静電チャック部上に載置される板状試料の吸着面の面内温度の均一性が向上することができる。
【0010】
すなわち、本発明の静電チャック装置は、板状試料を載置する載置面である一つの主面を有し、かつ静電吸着用内部電極を内蔵する静電チャック部と、前記静電チャック部の温度を調整する温度調整用ベース部と、を備え、前記温度調整用ベース部の、前記静電チャック部側に位置する面の一部または全体は、シート状またはフィルム状の絶縁材に
より、前記絶縁材と実質的に同じ形状の、第1接着剤層
を介して被覆され、前記絶縁材の、前記載置面側に位置する面には、薄板状の加熱部材が前記加熱部材と実質的に同じ形状の、第2接着剤層を介して接着され、前記静電チャック部と前記温度調整用ベース部とが、液状の接着剤を硬化した、第3接着剤層としての絶縁性の有機系接着剤層を介して、接着により一体化されたことを特徴とする。
【0011】
この静電チャック装置では、温度調整用ベース部の静電チャック部側の面の一部または全体をシート状またはフィルム状の絶縁材により被覆し、この絶縁材の載置面側の面に薄板状の加熱部材を接着し、静電チャック部と温度調整用ベース部とを液状の接着剤を硬化した絶縁性の有機系接着剤層を介して接着一体化する。この構造により、絶縁材、加熱部材、及び有機系接着剤層により、加熱部材と静電チャック部の載置面との間隔、及び、加熱部材と温度調整用ベース部との間隔を、精度良く維持できる。この構造により、接着剤層の厚みのバラツキに起因する板状試料の面内温度の均一性が低下する虞が無くなる。よって静電チャック部に載置される板状試料の吸着面の面内温度の均一性が向上し、さらには板状試料間の温度均一性も向上する。
【0012】
本発明の静電チャック装置において、前記加熱部材は、非磁性金属からなる厚みが0.2mm以下の、薄板状のヒータエレメントであることが好ましい。
【0013】
本発明の静電チャック装置において、前記絶縁材の厚みのバラツキは、10μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の静電チャック装置において、前記有機系接着剤層のショア硬度はA90以下、かつ熱伝導率は0.15W/mk以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の静電チャック装置において、有機系接着剤層の厚みは50μm以上であり、前記静電チャック部と前記加熱部材との間に配置されるスペーサのヤング率は10GPa以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の静電チャック装置において、前記加熱部材と前記温度調整用ベース部との間の熱伝達率は、前記加熱部材と前記静電チャック部との間の熱伝達率より小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の静電チャック装置は、温度調整用ベース部の静電チャック部側の面の一部または全体をシート状またはフィルム状の絶縁材により被覆し、この絶縁材の載置面側の面に薄板状の加熱部材を接着し、静電チャック部と温度調整用ベース部とを液状の接着剤を硬化した絶縁性の有機系接着剤層を介して接着一体化する。この構造により、加熱部材と静電チャック部の載置面との間隔、及び、加熱部材と温度調整用ベース部との間隔を、精度良く維持することができる。したがって、接着剤層の厚みのバラツキに起因する板状試料の面内温度の均一性の低下が無くなり、静電チャック部に載置される板状試料の吸着面の面内温度の均一性を向上させることができる。
また、複数の板状試料を順次載置面上に載置して、これらの板状試料に順次各種処理を施す場合においても、これら板状試料間の温度均一性を向上させることができ、板状試料間の製品バラツキを小さくすることができる。
【0018】
本発明では、加熱部材を、非磁性金属からなる厚みが0.2mm以下の薄板状のヒータエレメントすることが好ましく、このような構造としたとき、本発明の静電チャック装置を高周波雰囲気中にて用いた場合においても、ヒータエレメントが高周波により自己発熱する虞が無い。したがって、このヒータエレメントのパターンを板状試料に反映され難くすることができ、板状試料の面内温度を、所望の温度パターンに維持することができる。
本発明では、絶縁材の厚みのバラツキを10μm以下とすることが好ましく、このような構造としたとき、加熱部材と温度調整用ベース部との間隔のバラツキを10μm以下に抑えることができ、加熱部材と温度調整用ベース部との間隔を精度良く維持することができる。
【0019】
本発明では、有機系接着剤層のショア硬度をA90以下とし、かつ熱伝導率を0.15W/mk以上とすることが好ましく、このような構造としたとき、この有機系接着剤層により静電チャック部と温度調整用ベース部との熱膨張差に起因する変形を抑制することができ、間隔を精度良く維持することができ、その結果、加熱部材と静電チャック部の一主面(二主面のうちの一方の主面)である載置面との間の熱伝導を向上させることができる。
本発明では、有機系接着剤層の厚みを50μm以上、かつ静電チャック部と加熱部材との間に配置されるスペーサのヤング率を10GPa以下とすることが好ましい。さらに、スペーサの熱膨張率が、有機系接着剤の熱膨張率の50%〜200%の範囲であることが好ましい。
このような構造としたとき、静電チャック部の載置面に載置される板状試料の各種処理時の温度上昇による面内温度分布を均一化することができる。
【0020】
本発明では、加熱部材と温度調整用ベース部との間の熱伝達率を、加熱部材と静電チャック部との間の熱伝達率より小さくすることが好ましく、このような構造としたとき、加熱部材から発生した熱を静電チャック部に流れ易くするとともに、温度調整用ベース部に流れ難くすることができる。したがって、加熱部材から発生した熱を静電チャック部を介して板状試料に効率よく伝達することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、半導体製造プロセスにおける半導体ウエハ等の板状試料を静電気力により吸着固定する際に好適に用いられ、板状試料の吸着面の面内温度の均一性に優れた静電チャック装置に関する。
本発明の静電チャック装置を実施するための形態について、図面に基づき以下に説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。発明を逸脱しない範囲で、数や位置や大きさや数値などの変更や省略や追加をする事ができる。また説明を容易にするために、図に使用された寸法や比率が実際のものとは異なることがある。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。この静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2を所望の温度に調整する、ある程度厚みのある円板状の温度調整用ベース部3と、温度調整用ベース部3の静電チャック部2側の面の一部を被覆するシート状またはフィルム状の絶縁材4と、この絶縁材4の静電チャック部2側の面に接着された薄板状のヒータエレメント5と、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とを接着一体化する液状の接着剤を硬化させた絶縁性の有機系接着剤層6と、静電チャック部2とヒータエレメント5との間隔を一定の間隔に維持するスペーサ7とにより構成されている。
【0024】
静電チャック部2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面である載置板11と、この載置板11の下面に位置し、載置板11と一体化されることで載置板11を支持する支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に設けられた静電吸着用内部電極13と、この静電吸着用内部電極13の周囲に設けられて静電吸着用内部電極13を絶縁する絶縁材層14と、支持板12を貫通するようにして設けられており、静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加する給電用端子15と、により構成されている。
前記載置板11の載置面には、円柱状であって上面がR加工された、すなわち上面端部が丸く面取りされた、直径が板状試料の厚みより小さい突起部16が複数個形成されている。これらの突起部16により、載置される板状試料Wを支える構成になっている。突起部の形状は板状試料Wを支えることができれば良く、任意で選択できる。例えば円柱でも良く、四角柱やその他の柱状形状でも良く、それ以外の任意の形状でも良い。
【0025】
これら載置板11及び支持板12の材料や形状は、任意で選択できる。載置板11及び支持板12は、重ね合わせた時に互いに向き合う2つの面の形状が同一形状である円板状の板またはその他の類似の形状であることが好ましい。互いに向き合う2つの面のサイズは同じであっても異なっていても良い。載置板11及び支持板12の具体例は、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al
2O
3)焼結体、及び窒化アルミニウム(AlN)焼結体等の、機械的な強度を有し、かつ腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性及び絶縁性を有するセラミックス焼結体からなる板を含む。載置板11及び支持板12の厚さは任意で選択できるが、載置板11の厚さは0.3mm〜2mmであることが好ましく、0.5mm〜0.7mmであることがより好ましい。支持板12の厚さは1mm〜6mmであることが好ましく、2mm〜4mmであることがより好ましい。
【0026】
静電吸着用内部電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で載置される板状試料Wを載置板11の載置面に固定するための、静電チャック用電極として用いられる。静電吸着用内部電極13は、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整して使用される。
この静電吸着用内部電極13は任意の材料で形成してよい。しかしながら静電吸着用内部電極13は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al
2O
3−TaC
―)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al
2O
3−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)等の、高融点金属により形成されることが好ましい。
【0027】
静電吸着用内部電極13の厚みは、特に限定されるものではない。しかしながら、1μm以上かつ50μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以上かつ35μm以下であり、特に好ましくは5μm以上かつ20μm以下であることが好ましい。その理由は、厚みが1μmを下回ると、面積抵抗が大きくなりすぎて充分な導電性を確保することができない場合があり、一方、厚みが50μmを越えると、この静電吸着用内部電極13と載置板11及び支持板12との間の熱膨張率差に起因して、この静電吸着用内部電極13と載置板11及び支持板12との接合界面にクラックが入る可能性があるからである。
このような好ましい厚さの静電吸着用内部電極13は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により、容易に形成することができる。形状も任意で選択できるが、コストおよび生産性の側面よりスクリーン印刷がより好ましい。静電吸着用内部電極の外径は、搭載面2の外径より1mm以上小さくし、かつ、載置板11上にWを均一に吸着させる静電吸着力を発現させるために、出来るだけWと同等の形状が好ましい。
【0028】
絶縁材層14は、静電吸着用内部電極13を囲みかつ閉じ込めることで、腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極13を保護するとともに、載置板11と支持板12との境界部を、すなわち静電吸着用内部電極13の外側の外周部領域を、接合により一体化する。載置板11及び支持板12を構成する材料と同一組成を有するか、または主成分が同一の絶縁材料により構成されることが好ましい。
【0029】
給電用端子15は、静電吸着用内部電極13に直流電圧を印加するために設けられた棒状体である。例えば円柱であっても四角柱であっても良い。給電用端子15は、静電チャック部2内に固定される給電用端子15aと、この給電用端子15aに接合により一体化されることで給電用端子15aと電気的に接続されておりかつ温度調整用ベース部3、絶縁碍子17及び有機系接着剤層6により固定される給電用端子15bと、により構成されている。給電用端子15のサイズは任意で選択できるが、例えば円柱であるとき断面の直径が1mm〜5mmであることが好ましい。1mmよりも小さいと15aと15bの位置あわせ難しくなり、導通の出来ない場合がある。また5mmより大きいとヒータエレメント5の貫通部が大きくなり、発熱体の無い面積が増えるため、均熱特性が悪化する場合がある。給電用端子15の位置は任意で選択できるが、静電吸着用内部電極13内の位置に少なくとも1箇所配置されることが好ましい。
【0030】
この給電用端子15の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であればよく、特に制限されるものではない。
例えば、給電用端子15aは、熱膨張係数が静電吸着用内部電極13及び支持板12の熱膨張係数に近似したものが好ましい。例えば、静電吸着用内部電極13と同一組成である、または類似組成である導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、及びコバール合金等の金属材料が好適に用いられる。
【0031】
一方、給電用端子15bは、熱膨張係数が後述する温度調整用ベース部3及び有機系接着剤層6に近似したものが好ましい。例えば給電用端子15bは、温度調整用ベース部3と同一組成であることが好ましいか、または類似組成である金属材料、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS) 、及びチタン(Ti)等が給電用端子15bに好適に用いられる。
【0032】
この給電用端子15は、給電用端子15を部分的に囲む絶縁碍子17により、温度調整用ベース部3に対して絶縁されている。
そして、この給電用端子15は、支持板12に接合により一体化される。さらに、載置板11と支持板12とは、静電吸着用内部電極13及び絶縁材層14により接合により一体化される。このようにして静電チャック部2は構成されている。
【0033】
静電チャック部2の厚み、すなわち、これら載置板11、支持板12、静電吸着用内部電極13及び絶縁材層14の合計の厚みは任意で選択できるが、1mm以上かつ6mm以下であることが好ましい。その理由は、静電チャック部2の厚みが1mmを下回ると、静電チャック部2の機械的強度を確保することができない場合があり、また、ヒーターエレメントの形状がWの温度分布に反映され、Wの面内温度均一性が低下し好ましくない。
一方、静電チャック部2の厚みが6mmを上回ると、載置板11と支持板12とを合わせた静電チャック部2の熱容量が大きくなり過ぎてしまい、その結果、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化し、複数のヒータエレメントにてWの温度を面内でゾーン別調整する場合、ゾーン間での温度制御幅が低下し好ましく無い場合がある。
【0034】
温度調整用ベース部3は、静電チャック部2の下側に設けられる。この静電チャック部2の温度を調整することで載置板11の載置面を所望の温度に制御するとともに、高周波発生用電極であることも兼ね備える。
この温度調整用ベース部3内には、水や有機溶媒等の冷却用媒体を循環させる流路21を形成することができる。この流路により上記の載置板11上に載置される板状試料Wの温度を所望の温度に維持することができる。流路の形状は任意に選択して良い。
【0035】
この温度調整用ベース部3を構成する材料は任意に選択できる。熱伝導性、導電性、及び加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はなく使用できる。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、及びステンレス鋼(SUS) 等が好適に用いられる。厚みは任意で選択できるが、20mm〜60mmであることが好ましい。20mm以下の場合は、流路22の施工が難しくなる場合がある。60mm以上の場合、重さが重くなる為、半導体製造装置への搭載の作業性が劣る場合がある。
この温度調整用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0036】
絶縁材4は、シート状またはフィルム状の、耐熱性及び絶縁性を有する樹脂である。この絶縁性樹脂は任意で選択でき、例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂等が挙げられる。
この絶縁材4の厚みは任意で選択できるが、5μm〜100μmであることが好ましい。形状も任意で選択できるが、ベース部3とヒータエレメント5の電気的絶縁が取れる形状であることが好ましい。また面内の厚みのバラツキは10μm以内であることが好ましい。
絶縁材4の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、厚みの大小により温度分布に高低の差が生じる。その結果、絶縁材4の厚み調整による温度制御に悪影響を及ぼすので、好ましくない。
【0037】
絶縁材4は、厚みの均一な耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着剤層22(第1接着剤層)により、温度調整用ベース部3の、静電チャック部2側に位置する面に接着及び固定されている。
この接着剤層22の厚さは任意で選択できるが、10μm〜100μmであることが好ましい。また面内の厚みのバラツキは10μm以内であることが好ましい。
ここで、接着剤層22の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、絶縁材4と温度調整用ベース部3との面内間隔に10μmを超えるバラツキが生じ、その結果、絶縁材4の厚み調整による温度制御に悪影響を及ぼす可能性があるので、好ましくない。
接着剤層22の種類は任意に選択できるが、アクリル接着剤、エポキシ接着剤、又は、シリコーン接着剤などであることが好ましい。
【0038】
ヒータエレメント5は任意で選択することができる。好ましくは幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させた形状の、2つの端部を有する連続パターンを少なくとも一つ有する。存在する連続パターンの数は一つであってもよく、2、3又は4などであっても良い。このヒータエレメント5の両端部には給電用端子31が接続される。この給電用端子31は、絶縁碍子32により温度調整用ベース部3に対して絶縁されている。
このヒータエレメント5は、印加電圧を制御することにより、載置板11の突起部16上に静電吸着により固定されている板状試料Wの面内温度分布を、精度良く制御する。
【0039】
このヒータエレメント5の材料や条件は任意で選択できる。好ましくは、厚みが0.2mm以下であって、0.01mm以上の、一定の厚みを有する非磁性金属薄板であることが好ましい。例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、及びモリブデン(Mo)薄板等を、フォトリソグラフィー法により、所望のヒーターパターンにエッチング加工することでヒータエレメント5を形成できる。
ここで、ヒータエレメント5の厚みを0.2mm以下とした理由は、厚みが0.2mmを超えると、ヒータエレメント5のパターン形状が板状試料Wの温度分布として反映され、ヒータエレメント部と接着層の熱伝道率の差異に起因する、Wの温度バラツキの要因となる。また更に、エッチング厚さの増加にともない、厚さ方向でのヒータ幅のばらつきが生じたりする。例えば、エッチングによるヒータ断面は台形状となり、ヒータエレメントの厚さの増加にともない、台形の底辺と上辺の寸法差が増加したりするので、好ましくない。
【0040】
また、ヒータエレメント5を厚みが0.2mm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板で形成することにより、静電チャック装置1を高周波雰囲気中にて用いた場合においても、ヒータエレメント5が高周波により自己発熱しない。したがって、板状試料Wの面内温度を所望の一定温度または一定の温度パターンに維持することが容易となる。
また、一定の厚みの非磁性金属薄板を用いてヒータエレメント5を形成することにより、ヒータエレメント5の厚みが加熱面全域で一定となり、さらに発熱量も加熱面全域で一定となる。よって、静電チャック部2の載置面における温度分布を均一化することができる。
【0041】
このヒータエレメント5は、絶縁材4と同様に、厚みの均一な耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着剤層23(第2接着剤層)により、絶縁材4の静電チャック部2側に位置する面に接着及び固定されている。
この接着剤層23の面内の厚みは任意で選択できるが、10〜100μmであることが好ましい。形状も任意で選択できるが、ヒータエレメント5と同等形状か絶縁材4と同等形状であることが好ましい。厚みのバラツキは10μm以内が好ましい。
接着剤層23の面内の厚みのバラツキが10μmを超えると、ヒータエレメント5と絶縁材4との面内間隔に10μmを超えるバラツキが生じる。その結果、絶縁材4の厚み調整による温度制御に悪影響を及ぼすので、好ましくない。
接着剤層23の種類は任意に選択できるが、アクリル接着剤、エポキシ接着剤、又はシリコーン接着剤などであることが好ましい。
【0042】
有機系接着剤層6(第3接着剤層)は、液状の有機系接着剤を硬化した、絶縁性かつ有機系の接着剤層である。静電チャック部2と、温度調整用ベース部3、絶縁材4及びヒータエレメント5の組み合わせとを、互いに対向させた状態で、これらを接着により一体化した、絶縁性かつ有機系の接着剤層である。
【0043】
この有機系接着剤層6の厚みは200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。有機系接着剤層6の厚みの下限は任意で選択できるが、一般的には20μm以上である。
ここで、有機系接着剤層6の厚みを200μm以下とした理由は、厚みが200μmを超えると、液状の有機系接着剤の硬化収縮に伴う厚みの変化が大きくなり過ぎてしまうからである。その為、得られた有機系接着剤層6に硬化収縮に起因するボイドが発生し、接着強度が低下すると共に、この接着剤層の熱伝達率が低下する。そして、その結果、静電チャック部の昇温性能及び冷却性能が低下するからである。
【0044】
この有機系接着剤層6のショア硬度は、A90以下であることが好ましく、より好ましくはA70以下である。下限は任意で選択できるが、一般的にはA20以上である。
有機系接着剤層6のショア硬度をA90以下とした理由は、ショア硬度がA90を超えると、硬くなり過ぎてしまい、静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間の応力を緩和することが難しくなるからである。
【0045】
この有機系接着剤層6を構成する絶縁性かつ有機系の接着剤は任意で選択してよい。例を挙げれば、アクリル系接着剤が好ましい。アクリル系接着剤の例としては、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、及びこれらの重合体あるいは共重合体が挙げられる。
これらの中でも、特に、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸エステル、及び、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル等が好適に用いられる。
【0046】
前記アクリル系接着剤は、酢酸ビニルまたは酪酸ビニルを1体積%以上かつ50体積%以下、好ましくは10体積%以上かつ40体積%以下、さらに好ましくは20体積%以上かつ30体積%以下含有することが好ましい。
酢酸ビニルまたは酪酸ビニルを1体積%以上かつ50体積%以下含有することで、アクリル系接着剤の柔軟性が向上し、その結果、静電チャック部2と、温度調整用ベース部3、絶縁材4及びヒータエレメント5との間の応力がさらに緩和される。
【0047】
有機系接着剤層6の熱伝導率は、0.15W/mk以上であることが好ましく、より好ましくは0.2W/mk以上であり、さらに好ましくは0.25W/mk以上である。上限は任意に選択できるが、一般的には5W/mk以下である。
ここで、熱伝導率が0.15W/mkを下回ると、ヒータエレメント5から静電チャック部2への熱伝達が難しくなる。その結果、静電チャック部2に載置される板状試料Wの吸着面の面内温度の均一性が低下し、板状試料W間の温度均一性も低下するので好ましくない。また、板状試料Wの昇温および冷却速度が低下し好ましく無い。
【0048】
スペーサ7は、ヒータエレメント5と静電チャック部2との間に設けられて、これらの間隔を所定の間隔に保持する。スペーサ7により、ヒータエレメント5と静電チャック部2との間隔を、すなわち静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間隔を、所定の間隔に保持することができる。
このスペーサ7は、ヒータエレメント5及び絶縁材4と同様に、接着剤層により接着されている。具体的には、厚みの均一な耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着剤層24(第4接着剤層)により、ヒータエレメント5の静電チャック部2側に位置する面に、スペーサ7は接着及び固定されている。
接着剤層24の厚みは任意で選択できるが、10〜100μmであることが好ましい。形状も任意で選択できるが、円形もしくは正方形であることが好ましい。接着剤層24の種類は任意に選択できるが、アクリル、エポキシ、シリコーンなどの接着剤であることが好ましい。
【0049】
このスペーサ7のヤング率は、10GPa以下であることが好ましく、より好ましくは1MPa以上かつ10GPa以下である。
ここで、スペーサ7のヤング率を10GPa以下とした理由は以下の理由である。スペーサ7のヤング率が10GPaを超えると、有機系接着剤層6を形成する際に、液状の有機系接着剤の硬化収縮時にスペーサ7に硬化収縮時の応力が集中する。その結果、ボイドの発生及び接着剤層の剥離が生じるので好ましくない。
【0050】
この静電チャック装置1では、ヒータエレメント5と温度調整用ベース部3との間の熱伝達率は、ヒータエレメント5と静電チャック部2との間の熱伝達率より小さい。
この静電チャック装置1では、ヒータエレメント5と温度調整用ベース部3との間の熱伝達率を、ヒータエレメント5と静電チャック部2との間の熱伝達率より小さくしたことにより、ヒータエレメント5から発生した熱は静電チャック部2に向かって流れる。この特徴により、ヒータエレメント5から発生した熱は、温度調整用ベース部3に向かっては流れ難くなる。これにより、ヒータエレメント5から発生した熱は静電チャック部2を介して板状試料Wに効率よく伝達することが可能になる。
【0051】
次に、この静電チャック装置1の製造方法の例について説明する。
(静電チャック部の形成)
まず、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al
2O
3−SiC)複合焼結体により、板状の載置板11及び支持板12を作製する。この場合、炭化ケイ素粉体及び酸化アルミニウム粉体を含む混合粉体を所望の形状に成形し、その後、例えば1600℃〜2000℃の温度で、非酸化性雰囲気下で、好ましくは不活性雰囲気下にて、所定時間焼成することにより、載置板11及び支持板12を得ることができる。
【0052】
次いで、支持板12に、給電用端子15aを嵌め込み保持するための固定孔を、少なくとも1ヶ所形成する。
次いで、給電用端子15aを、支持板12の固定孔に密着固定し得る大きさ、及び形状となるように作製する。この給電用端子15aの作製方法は任意で選択できる。例えば、給電用端子15aを導電性複合焼結体とした場合、導電性セラミックス粉体を、所望の形状に成形して、その後加圧焼成する方法等が挙げられる。
導電性セラミックス粉体としては任意の材料を選択できる。静電吸着用内部電極13と同様の材質からなる導電性セラミックス粉体であることが好ましい。
また、給電用端子15aを金属とした場合、高融点金属を用い、これを研削法、及び粉体治金等の金属加工法等により、所望の形に形成する方法等が挙げられる。そして給電用端子15aを支持板12の固定孔に嵌め込む。
【0053】
次いで、給電用端子15aが嵌め込まれた支持板12の表面の所定領域に、給電用端子15aに接触するように、上記の導電性セラミックス粉体等の導電材料を有機溶媒に分散した静電吸着用内部電極形成用塗布液を塗布する。そして塗膜を乾燥して、静電吸着用内部電極形成層とする。
この時に使用される塗布法としては、均一な厚さに塗布することができる点で、スクリーン印刷法が望ましい。また他の方法としては、蒸着法あるいはスパッタリング法により上記の高融点金属の薄膜を成膜する方法や、上記の導電性セラミックスあるいは高融点金属からなる薄板を配設して静電吸着用内部電極形成層とする方法等がある。
【0054】
また、支持板12上であって、静電吸着用内部電極形成層を形成した領域以外の領域には、絶縁性、耐腐食性、及び耐プラズマ性を向上させるために、載置板11及び支持板12と同一組成または主成分が同一の粉体材料を含む絶縁材層14を形成する。この絶縁材層14は任意の方法により形成できる。例えば、載置板11及び支持板12と同一組成または主成分が同一の絶縁材料粉体を、有機溶媒に分散した塗布液を、上記所定領域にスクリーン印刷等で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0055】
次いで、支持板12上の静電吸着用内部電極形成層及び絶縁材層の上に載置板11を重ね合わせる。次いで、これらを高温、高圧下にてホットプレスして、一体化する。このホットプレスにおける雰囲気は任意で選択できるが、真空、あるいはAr、He、N
2等の不活性雰囲気が好ましい。また、この時の圧力や温度は任意で選択できるが、圧力が5〜10MPaが好ましく、温度は1600℃〜1850℃が好ましい。
【0056】
このホットプレスにより、静電吸着用内部電極形成層は焼成されて、導電性複合焼結体からなる静電吸着用内部電極13となる。同時に、支持板12及び載置板11は、絶縁材層14を介して接合一体化される。
また、給電用端子15aは、高温及び高圧下でのホットプレスで再焼成されることにより、支持板12の固定孔に密着固定される。
そして、これら接合体の上下面、外周を任意の方法により機械加工し、およびガス穴等を必要に応じて機械加工により形成し、静電チャック部2とする。
【0057】
(ベース部の形成)
一方、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、及びステンレス鋼(SUS) 等からなる金属材料に、機械加工を施すことにより、この金属材料の内部に水を循環させる流路等を形成する。さらに、給電用端子15b及び絶縁碍子17を嵌め込み保持するための固定孔と、給電用端子31及び絶縁碍子32を嵌め込み保持するための固定孔とを形成し、温度調整用ベース部3を得る。
この温度調整用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面には、アルマイト処理を施すか、あるいはアルミナ等の絶縁膜を成膜することが好ましい。
【0058】
(ヒータエレメントの形成)
チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、またはモリブデン(Mo)薄板等の、厚みが0.2mm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板を用意する。この薄板を、厚みの均一な、耐熱性及び絶縁性を有する所定の形状パターンの、シート状またはフィルム状の接着剤(接着剤23)を用いて、絶縁材4として使用される材料に密着させる。そして、この非磁性金属薄板をフォトリソグラフィー法により所望のヒーターパターンにエッチング加工し、ヒータエレメント5とする。このとき、接着剤層23及び絶縁材4はエッチングされない。
【0059】
次いで、前記温度調整用ベース部3の静電チャック部2側に位置する面を、例えばアセトンなどを用いて脱脂、及び洗浄する。この面の所定位置に、耐熱性及び絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着剤層22を貼着する。
次いで、この接着剤層22上に、ヒータエレメント5が接着された前記絶縁材4を配置し、絶縁材4と接着剤層22を接着する。なおこの絶縁材4は、この接着剤層22と同一形状かつ平面形状のポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、又はアクリル樹脂等からなる、シート状またはフィルム状の、耐熱性及び絶縁性を有する樹脂である。
【0060】
(スペーサの配置)
シート状のスペーサ材7とシート状の接着剤24を貼着し、必要に応じ所定の形状に形成した、スペーサを、前記エレメント5上の任意の位置に接着及び固着する。なお、スペーサのスペーサ材と接着剤24は同じ形状である。
【0061】
(静電チャック部とベース部との接着)
次いで、絶縁材4、ヒータエレメント5、スペーサ7、及び接着剤層を有する温度調整用ベース部3上に、絶縁性かつ有機系の接着剤を塗布する。接着剤は任意で選択でき、例えば、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、及びこれらの重合体あるいは共重合体等の、アクリル系接着剤が挙げられる。この絶縁性かつ有機系の接着剤の塗布量は、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とがスペーサ7等により一定の間隔を保持した状態で接合一体化できるように、所定量の範囲内とする。所定量とはスペーサ7を介してできる接着部空間体積以上の接着剤量をさす。この接着剤の塗布方法は任意で選択でき、例えば、ヘラ等を用いて手動で塗布する他、バーコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。温度調整用ベース部3上の所定領域に精度良く形成する必要があることから、スクリーン印刷法を用いることが好ましい。
【0062】
塗布後、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とを、絶縁性かつ有機系の接着剤を介して重ね合わせる。この際、給電用端子15b及び絶縁碍子17と、給電用端子31及び絶縁碍子32を、温度調整用ベース部3中に予め穿孔された給電用端子収容孔に挿入し嵌め込む。
次いで、静電チャック部2の下面と温度調整用ベース部3上の接着剤層24との間隔がスペーサ7の厚みになるまで適度な圧力を加えて落し込み、押し出された余分の接着剤を除去する。
【0063】
以上により、静電チャック部2と、絶縁材4、ヒータエレメント5及びスペーサ7を含む温度調整用ベース部3とが、有機系接着剤層6を介して接合一体化された、本実施形態の静電チャック装置1が得られることとなる。
【0064】
このようにして得られた静電チャック装置1は、静電チャック部2と、絶縁材4、ヒータエレメント5及びスペーサ7を含む温度調整用ベース部3とを、有機系接着剤層6を介して接着一体化したので、ヒータエレメント5と静電チャック部2の載置面との間隔、及びヒータエレメント5と温度調整用ベース部3との間隔を、精度良く維持することができる。したがって、接着剤層の厚みのバラツキに起因する板状試料の面内温度の均一性の低下が無くなり、静電チャック部2に載置される板状試料Wの吸着面の面内温度の均一性を向上させることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
「実施例1」
(静電チャック装置の作製)
(静電チャック部の形成)
載置板11及び、中央に給電用端子を有する支持板12を、接合一体化することにより、静電チャック部2を得た。
具体的には、内部に絶縁材層14により周囲を絶縁され、厚み15μmの静電吸着用内部電極13が埋設された、
図1に示される載置板11と支持板12を有する静電チャック部2を作製した。
この静電チャック部2の載置板11は、炭化ケイ素を8質量%含有する酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は310mm、厚みは3mmの円板状であった。
【0067】
また、支持板12も載置板11と同様、炭化ケイ素を8質量%含有する酸化アルミニウム−炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は310mm、厚みは5.0mmの円板状であった。
【0068】
この接合体に機械加工を施し、直径298mm、厚み4.5mmの円盤形とした。この後、この載置板11の静電吸着面を、高さが50μmの多数の突起部16を形成することで、凹凸面とし、これらの突起部16の頂面を板状試料Wの保持面とした。接合体はこの形状により、凹部(吸着面の突起部以外の箇所)と静電吸着された板状試料Wとの間に形成される溝に冷却ガスを流すことができるように形成された。
【0069】
(温度調整用ベース部の形成)
直径350mm、高さ30mmの円盤状のアルミニウム製の温度調整用ベース部3を、機械加工により作製した。この温度調整用ベース部3の内部には冷媒を循環させる流路21を形成した。また給電用端子及び絶縁碍子の為の複数の貫通孔を形成した。
(スペーサの形成)
厚み75μmのシート状ポリイミド樹脂を、スペーサ材として用いた。このシート(高さ:75μm)とエポキシシート接着剤(接着剤層24)(高さ:25μm)とを用いてラミネート加工することで、厚み100μmの積層構造とし、これを幅(縦横)2mm角の正方形に切り出し、スペーサ7と接着剤層24(第4接着剤層)の積層体を作製した。
【0070】
(ヒータエレメントの形成)
厚みが0.1mm、直径が300mmのチタン(Ti)薄板を用意した。この薄膜を絶縁材4(シート状のポリイミド樹脂)上に接着剤23(第2接着剤層)を用いて接着した。その後、このチタン(Ti)薄板をフォトリソグラフィー法により以下に述べるような所望のヒーターパターンにより薄板のみをエッチング加工して、ヒータエレメント5とした。
このヒータエレメント5の形状は、円板状の薄板を同心円状に4分割して、すなわち、中心の円形エレメント部を取り囲むサイズの異なる3つのドーナッツ形状のエレメント部が形成されるように分割して、4つの分割エレメント部とし、これらの分割エレメント部各々の投入電流量を個々に調整可能な構造とした。
【0071】
(第1接着剤層の形成)
前記温度調整用ベース部3の静電チャック部2側に位置する面を、アセトンを用いて脱脂、洗浄した。その後、この処理された面の所定位置に、シート状であってベース3とヒータ5が電気的に絶縁できる形状のシート状のエポキシ接着剤を貼着し、接着剤層22(第1接着剤層)とした。
(絶縁材の設置)
次いで、この接着剤層22上に、前記絶縁材4を配置した。絶縁材4と接着剤層22は、ほぼ同じ形状である。このようにしてヒータエレメント5、接着剤及び絶縁材4の組み合わせが、接着剤層22によりベース部3に接着された。
【0072】
(スペーサの配置)
前述のスペーサ7と接着剤24にて、予め形成されたスペーサ積層体を、ヒータエレメント5上の所定の位置に接着し、スペーサを固定した。
【0073】
(第3接着剤層の形成)
次いで、得られた温度調整用ベース部3上に、スクリーン印刷法によりアクリル系接着剤を塗布した。
(静電チャック部とベース部の積層)
その後、静電チャック部2と温度調整用ベース部3とを、前記アクリル系接着剤を介して重ね合わせた。重ね合わせた後、給電用端子15b及び絶縁碍子17と、給電用端子31及び絶縁碍子32を、温度調整用ベース部3中に穿孔された給電用端子収容孔に挿入し嵌め込んだ。
次いで、静電チャック部2の下面と温度調整用ベース部3上の接着剤層24との間隔がスペーサ7の厚みになるまで適度な圧力を加えて落し込み、押し出された余分の接着剤を除去し、実施例1の静電チャック装置を作製した。
この静電チャック部2と温度調整用ベース部3との間に形成されたアクリル系接着剤層のショア硬度はA60であった。
【0074】
(評価)
上記静電チャック装置の(1)耐電圧性、及び(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性のそれぞれについて評価した。
【0075】
(1)耐電圧性
温度調整用ベース部3とヒータエレメント5との間に印加する電圧を、1kVから1kVずつ段階的に上昇させて電圧の最大値を10kVとした。各電圧における漏れ電流を測定した。
その結果、最大電圧である10kVを印加した場合の漏れ電流は10μA以下であり、極めて良好な耐電圧性を示していた。
【0076】
(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性
(評価a)
a.静電チャック部2の載置面に直径300mm、厚さ0.775mmのシリコンウエハを静電吸着させ、温度調整用ベース部3の流路に20℃の冷却水を循環させながら、シリコンウエハの中心温度が60℃となるまで、ヒータエレメント5の各分割エレメント部に通電した。このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を
図2に示す。
図2によれば、シリコンウエハの表面温度は、60±1.5℃の範囲で良好に制御されていることが分かった。
【0077】
(評価b)
b.次に、評価aの実験に引き続いて、ヒータエレメント5のドーナッツ型の最外周の分割エレメント部の通電量を更に増加させて、シリコンウエハ外周部の温度が60℃から80℃となるように昇温速度3℃/秒にて昇温させた。このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を
図3に示す。
図3によれば、シリコンウエハの最外周の表面温度は、80±2.0℃の範囲で良好に制御されていることが分かった。
【0078】
(評価c)
さらに、
c.評価bの実験に引き続いて、ヒータエレメント5の最外周のドーナッツ型の分割エレメント部の通電のみを停止し、シリコンウエハ外周部の温度を40℃にまで降温させた。このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を
図4に示す。
図4によれば、シリコンウエハの最外周の表面温度は、40±1.0℃の範囲で良好に制御されていることが分かった。
上記の評価a〜cの測定結果によれば、シリコンウエハの面内温度が±2.0℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。
【0079】
「比較例1」
(静電チャック装置の作製)
実施例1と同様に、静電チャック部、及び温度調整用ベース部を製造した。静電チャック部の支持板表面に、実施例1に形成されたものと同じ材質であって同じ形状のヒータエレメントをシート接着剤23を介して接着した。温度調整用ベース部3表面上に、実施例1で使用されたものと同じ形状及び材料であるポリイミド樹脂製の絶縁材4を、シート状の接着剤22を使用して接着した。更に、静電チャック部及び温度調整用ベース部の両者を、ショア硬度D50のアクリル接着剤を介して重ね合わせた。これら条件以外は、実施例1に準じて、比較例の静電チャック装置は作製された。比較例1が実施例1と異なる点は、ヒータ5がチャック部2側に接着されており、加熱部材が直接静電チャック部の支持板上に形成された点である。
【0080】
(評価)
比較例の静電チャック装置を、実施例に準じて評価した。
その結果、(1)耐電圧性については、10kVまたは4kVの電圧を印加した場合の漏れ電流が10μA以下であり、極めて良好な耐電圧性を示していた。
しかしながら、(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性では、シリコンウエハの面内温度が±3℃の範囲となっており、面内温度の均一性が低下していることが分かった。