特許第6052176号(P6052176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052176
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20161219BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161219BHJP
   C01G 53/00 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/36 C
   H01M4/505
   !C01G53/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-528016(P2013-528016)
(86)(22)【出願日】2012年8月3日
(86)【国際出願番号】JP2012069902
(87)【国際公開番号】WO2013021955
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-172126(P2011-172126)
(32)【優先日】2011年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河里 健
(72)【発明者】
【氏名】角崎 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】曽 海生
(72)【発明者】
【氏名】滝本 康幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊夫
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−018743(JP,A)
【文献】 特開2002−279991(JP,A)
【文献】 特開2005−276454(JP,A)
【文献】 特開2010−080168(JP,A)
【文献】 特開2006−073482(JP,A)
【文献】 特開2006−066081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物の表面に、Alを含む金属酸化物(I)と、LiとSを含む化合物(II)とを含有する被覆層を有する粒子(III)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれるSとAlとの原子比率(S/Al)が、0.15〜0.19であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記粒子(III)の比表面積が0.1m/g以上3m/g未満であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
リチウムと遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物の表面に、Alを含む金属酸化物(I)と、LiとSを含む化合物(II)とを含有する被覆層を有する粒子(III)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれるSとAlとの原子比率(S/Al)が、0.012〜0.066であり、かつ粒子(III)の比表面積が3m/g以上10m/g以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記粒子(III)の平均粒子径は3〜30μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記化合物(II)が、LiSOおよびLiSO・HOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記Alの前記リチウム含有複合酸化物に対するモル比の値が、0.001〜0.03である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質とバインダーとを含むリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項8】
請求項7に記載の正極と、負極と、非水電解質とを含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法に関する。また本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に、リチウムイオン二次電池が広く用いられている。リチウムイオン二次電池用の正極活物質には、LiCoO、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiMn等の、リチウムと遷移金属等との複合酸化物(以下、リチウム含有複合酸化物ともいう。)が用いられている。
【0003】
また、携帯型電子機器や車載用のリチウムイオン二次電池には、小型化・軽量化が求められ、単位質量あたりの放電容量のさらなる向上や、充放電サイクルを繰り返した後に放電容量が低下しない特性(以下、サイクル特性ともいう。)のさらなる向上が望まれている。さらに、特に車載用の用途においては、高い放電レートで放電したときに放電容量が低下しない特性(以下、レート特性ともいう。)のさらなる向上が望まれている。このようなサイクル特性およびレート特性を向上させる方法として、リチウム含有複合酸化物粒子の表面に被覆層を設けるのが有効であることが、従来から知られている。
【0004】
特許文献1には、リチウムイオン二次電池用活物質の表面に、MXOの化学式で表される化合物を含む表面処理層を形成する方法が記載されている。なお、式中Mは、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ni、Co、Si、Ti、B、Al、Sn、Mn、Cr、Fe、V、Zr、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、XはP、S、W、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、kは2乃至4の範囲の数である。
【0005】
また特許文献2には、リチウム含有複合酸化物の表面に、LiSO、LiPO等のリチウム化合物が添着されたリチウムイオン二次電池用正極活物質が記載されている。前記リチウム化合物が、正極活物質の表面に存在することで、物理的な障壁として機能し、リチウム含有複合酸化物中のマンガンイオンの電解液中への溶解が抑制でき、2価の金属原子を含有する化合物(ZnO等)を含むことで、リチウム含有複合酸化物の表面付近のマンガン原子の価数を上昇させ得ることから、マンガンイオンの溶出がさらに抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本特許第4582990号公報
【特許文献2】日本特開2006−73482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、表面処理層の形成のために多量の水の乾燥を要し、大きな乾燥エネルギーを必要とするばかりでなく、乾燥時に正極活物質が凝集して粗大粒子を形成しやすいという問題があった。また、特許文献1の方法では、表面処理層を形成するための陽イオンと陰イオンの量が等量であり、AlPOからなる表面処理層が記載されているだけである。したがって、サイクル特性およびレート特性に優れたリチウムイオン二次電池用活物質を得ることが難しかった。
【0008】
さらに、特許文献2に記載された方法では、リチウム含有複合酸化物に加えてリチウム化合物を添加するため、アルカリが過剰となる。該アルカリが電解液中の溶媒であるカーボネートの分解触媒として作用するため、ガス発生の原因になるという問題もあった。また、2価の金属原子を含有する化合物を正極活物質に添着させたとしても、充分なサイクル特性は得られなかった。
【0009】
本発明は、前記した問題を解決するためになされたもので、高電圧で充電を行った場合でもサイクル特性およびレート特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極活物質と、そのような正極活物質を得るためのリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、並びにリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記[1]〜[8]の構成を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池を提供する。
[1] リチウムと遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物の表面に、Alを含む金属酸化物(I)と、LiとSを含む化合物(II)とを含有する被覆層を有する粒子(III)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれるSとAlとの原子比率(S/Al)が、0.15〜0.19であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[2] 前記粒子(III)の比表面積が0.1m/g以上3m/g未満であることを特徴とする[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[3] リチウムと遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物の表面に、Alを含む金属酸化物(I)と、LiとSを含む化合物(II)とを含有する被覆層を有する粒子(III)からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれるSとAlとの原子比率(S/Al)が、0.012〜0.066であり、かつ粒子(III)の比表面積が3m/g以上10m/g以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[4] 前記粒子(III)の平均粒子径は3〜30μmである、[1]〜[3]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[5] 前記化合物(II)が、LiSOおよびLiSO・HOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【0011】
[6] 前記Alの前記リチウム含有複合酸化物に対するモル比の値が、0.001〜0.03である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
[7] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質とバインダーとを含むリチウムイオン二次電池用正極。
[8] [7]に記載の正極と、負極と、非水電解質とを含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高電圧で充電を行った場合であっても、サイクル特性およびレート特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極活物質が得られる。
また、本発明の製造方法によれば、高電圧で充電を行った場合であっても、サイクル特性およびレート特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極活物質を、生産性よく製造できる。
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池用正極、およびこの正極を用いたリチウムイオン二次電池によれば、高電圧で充電を行った場合であっても、優れたサイクル特性およびレート特性が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1、実施例3、比較例1および比較例2で得られた正極活物質についてのXRD(X線回折)の測定結果を示すグラフである。
図2】実施例1で得られた正極活物質(1)についてのXPS(X線光電子分光)分析の測定結果(Al2P)を示すグラフである。
図3】実施例1で得られた正極活物質(1)についてのXPS分析の測定結果(S2P)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウムと遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物と、その表面に形成された被覆層を有する粒子(III)からなる。被覆層は、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物(I)と、LiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを有する化合物(II)とを含有する。
本発明の第1の態様では、粒子(III)における被覆層の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(非金属元素/金属元素)が0.10〜0.25であり、かつ粒子(III)の比表面積が0.1m/g以上3m/g未満であることが好ましい。
本発明の第2の態様では、粒子(III)における被覆層の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(非金属元素/金属元素)が0.01〜0.1であり、かつ粒子(III)の比表面積が3m/g以上10m/g以下である。
ここで、原子比率の分子となる非金属元素は、SおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素であり、分母となる金属元素は、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる金属元素であり、Liは含まない。
【0015】
本発明の正極活物質を構成するリチウム含有複合酸化物、被覆層、およびリチウム含有複合酸化物粒子の表面に被覆層が形成された粒子(III)からなる正極活物質について、以下に説明する。
<リチウム含有複合酸化物>
本発明におけるリチウム含有複合酸化物は、リチウムと遷移金属元素を含有する。遷移金属元素としては、例えば、Ni、Co、Mn、Fe、Cr、VおよびCuからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
リチウム含有複合酸化物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物(i)、下記式(2−1)で表される化合物(ii)、または下記式(3)で表わされる化合物(iii)が好ましい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。放電容量が高容量であるという点で、化合物(ii)が特に好ましく、下記式(2−2)で表わされる化合物が最も好ましい。
【0016】
(化合物(i))
化合物(i)は、下式(1)で表される化合物である。
Li(NiMnCo)Me …………(1)
ただし、式(1)中、MeはMg、Ca、Sr、BaおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、0.95≦a≦1.1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦b≦0.3、0.90≦x+y+z+b≦1.05である。
式(1)で表される化合物(i)の例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn0.5Ni0.5、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi1/3Co1/3Mn1/3が挙げられる。
【0017】
(化合物(ii))
化合物(ii)は、下式(2−1)で表される化合物である。式(2−1)で表される化合物の表記は、充放電や活性化等の処理を行う前の組成式である。ここで、活性化とは、酸化リチウム(LiO)、またはリチウムおよび酸化リチウムを、リチウム含有複合酸化物から取り除くことをいう。通常の活性化方法としては、4.4Vまたは4.6V(Li/Liの酸化還元電位との電位差として表わされる値である。)より大きな電圧で充電する電気化学的活性化法が挙げられる。また、硫酸、塩酸または硝酸等の酸を用いた化学反応を行うことにより、化学的に行う活性化方法が挙げられる。
【0018】
Li(LiMnMe´)O …………(2−1)
ただし、式(2−1)において、Me´は、Co、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、ZrおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、式(2−1)において、0.09<x<0.3、y>0、z>0、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1であり、かつ0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.2<(1+x)/(y+z)である。すなわち、式(2−1)で表わされる化合物は、Liの割合が、MnとMe´の合計に対して1.2倍モルを超える。また、式(2−1)はMnを特定量含む化合物である点も特徴とし、MnとMe´の総量に対するMnの割合は、0.4〜0.8が好ましく、0.55〜0.75がより好ましい。Mnが前記の範囲であれば、放電容量が高容量となる。ここで、qはFの割合を示すが、Fが存在しない場合にはqは0である。また、pは、x、y、zおよびqに応じて決まる値であり、1.9〜2.1である。
【0019】
リチウム含有複合酸化物が式(2−1)で表される化合物である場合、前記遷移金属元素の総モル量に対するLi元素の組成比は、1.25≦(1+x)/(y+z)≦1.75が好ましく、1.35≦(1+x)/(y+z)≦1.65がより好ましく、1.40≦(1+x)/(y+z)≦1.55が特に好ましい。この組成比が前記の範囲であれば、4.6V以上の高い充電電圧を印加した場合に、単位質量あたりの放電容量が高い正極材料が得られる。
【0020】
化合物(ii)としては、下式(2−2)で表される化合物がより好ましい。
Li(LiMnNiCo)O …………(2−2)
ただし、式(2−2)において、0.09<x<0.3、0.36<y<0.73、0<v<0.32、0<w<0.32、1.9<p<2.1、x+y+v+w=1である。
式(2−2)において、Mn、Ni、およびCo元素の合計に対するLi元素の組成比は、1.2<(1+x)/(y+v+w)<1.8である。1.35<(1+x)/(y+v+w)<1.65が好ましく、1.45<(1+x)/(y+v+w)<1.55がより好ましい。
化合物(ii)としては、Li(Li0.16Ni0.17Co0.08Mn0.59)O、Li(Li0.17Ni0.17Co0.17Mn0.49)O、Li(Li0.17Ni0.21Co0.08Mn0.54)O、Li(Li0.17Ni0.14Co0.14Mn0.55)O、Li(Li0.18Ni0.12Co0.12Mn0.58)O、Li(Li0.18Ni0.16Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.20Ni0.12Co0.08Mn0.60)O、Li(Li0.20Ni0.16Co0.08Mn0.56)O、またはLi(Li0.20Ni0.13Co0.13Mn0.54)Oが特に好ましい。
上記式(2−1)および(2−2)で表わされる化合物は、層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)であることが好ましい。また、遷移金属元素に対するLi元素の比率が高いため、X線源としてCuKα線を用いるXRD(X線回折)測定では、層状LiMnOと同様に、2θ=20〜25°の範囲にピークが観察される。
【0021】
(化合物(iii))
化合物(iii)は、下式(3)で表わされる化合物である。
Li(Mn2−xMe´´)O …………(3)
ただし、式(3)中、Me´´は、Co、Ni、Fe、Ti、Cr、Mg、Ba、Nb、AgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、0≦x<2である。化合物(iii)としては、LiMn、LiMn1.5Ni0.5、LiMn1.0Co1.0、LiMn1.85Al0.15、LiMn1.9Mg0.1が挙げられる。
【0022】
本発明におけるリチウム含有複合酸化物は粒子状である。粒子の形状は、球状、針状、板状等であり、特に限定されないが、充填性を高くできることから球状がより好ましい。また、これらの粒子が複数凝集した二次粒子を形成してもよく、この場合も、充填性を高くできる球状の二次粒子が好ましい。粒子の平均粒子径(D50)は0.03〜30μmが好ましく、0.04〜25μmがより好ましく、0.05〜20μmが特に好ましい。
本発明において、平均粒子径(D50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積カーブにおいて、50%となる点の粒子径である体積基準累積50%径を意味する。粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布、および累積体積分布曲線として求められる。粒子径の測定は、粉末を水媒体中に超音波処理等で充分に分散させ、例えば、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(装置名;Partica LA−950VII)を使用して粒度分布を測定することにより行なわれる。
【0023】
本発明におけるリチウム含有複合酸化物の平均粒子径(D50)は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
本発明におけるリチウム含有複合酸化物の比表面積は、0.1〜10m/gが好ましく、0.15〜5m/gが特に好ましい。リチウム含有複合酸化物の比表面積が0.1〜10m/gであると、放電容量が高く、緻密な正極電極層が形成できる。なお、比表面積は、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法を用いて測定した値である。
リチウム含有複合酸化物が化合物(i)および化合物(iii)である場合、比表面積は0.1〜3m/gが好ましく、0.2〜2m/gがより好ましく、0.3〜1m/gが特に好ましい。リチウム含有複合酸化物が化合物(ii)である場合、比表面積は1〜10m/gが好ましく、2〜8m/gがより好ましく、3〜6m/gが特に好ましい。
リチウム含有複合酸化物の製造方法としては、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前駆体とリチウム化合物を混合して焼成する方法、水熱合成法、ゾルゲル法、乾式混合法(固相法)、イオン交換法、ガラス結晶化法等を適宜用いることができる。なお、リチウム含有複合酸化物中に遷移金属元素が均一に含有されると、放電容量が向上するため、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前駆体(共沈組成物)とリチウム化合物とを混合して焼成する方法を用いることが好ましい。
【0024】
共沈法としては、具体的にアルカリ共沈法と炭酸塩共沈法が好ましい。本明細書において、アルカリ共沈法とは、反応溶液中に遷移金属塩水溶液と強アルカリを含有するpH調整液とを連続的に添加して遷移金属水酸化物を生成する方法である。炭酸塩共沈法とは、反応溶液中に遷移金属塩水溶液と炭酸塩水溶液とを連続的に添加して遷移金属炭酸塩を生成する方法である。
【0025】
本発明において、第1の態様ではアルカリ共沈法で得られる前駆体から製造したリチウム含有複合酸化物を用いることが好ましい。アルカリ共沈法で得られた前駆体は、粉体密度が高く、電池に高充填しやすい正極材が得られる。本発明において、第2の態様では炭酸塩共沈法で得られる前駆体から製造したリチウム含有複合酸化物を用いることが好ましい。炭酸塩共沈法で得られた前駆体は、多孔質で比表面積が高く、かつ放電容量が非常に高い正極材が得られる。
【0026】
アルカリ共沈法では反応溶液のpHは10〜12が好ましい。添加するpH調整液は強アルカリとして水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む水溶液が好ましい。さらに、反応溶液にアンモニア水溶液または硫酸アンモニア水溶液等を加えてもよい。
炭酸塩共沈法では反応溶液のpHは7〜9が好ましい。炭酸塩水溶液としては炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸水素カリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む水溶液が好ましい。さらに、反応溶液にアンモニア水溶液または硫酸アンモニア水溶液等を加えてもよい。
【0027】
<被覆層>
本発明における被覆層は、前記リチウム含有複合酸化物の粒子の表面に形成された層であり、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を有する金属酸化物(I)と、LiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを有する化合物(II)とを含有する。
本発明の第1の態様では、粒子(III)における被覆層の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(前記非金属元素/前記金属元素)が0.10〜0.25である。
本発明の第2の態様では、粒子(III)における被覆層の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(前記非金属元素/前記金属元素)が0.01〜0.10である。
ここで、「被覆」とは、リチウム含有複合酸化物粒子の表面の一部または全部に、化学的または物理的に吸着している状態をいい、そのように「被覆」している層を「被覆層」という。
【0028】
(金属酸化物(I))
本発明における金属酸化物(I)は、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む。前記金属元素としては、Al、Y、Ga、La、GdおよびErからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、AlおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
金属酸化物(I)としては、具体的に、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、Er、Yb等が挙げられる。これらの中でも、電気化学的に安定な酸化被膜を形成可能であり、後述するリチウムイオン二次電池の放電容量、レート特性およびサイクル特性に優れることから、Al、Y、Gd、またはErが好ましく、Alが特に好ましい。本発明における金属酸化物(I)としては、前記金属酸化物の1種でも2種以上を含有してもよい。
【0029】
(化合物(II))
本発明における化合物(II)は、LiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを含む。
化合物(II)としては、LiSO、LiBO、Li、またはこれらの水和物が好ましく、LiSO、またはLiSO・HOがより好ましい。化合物(II)としては、前記化合物の1種でも2種以上を含有してもよい。
さらに、被覆層には、NaSO、NaBO、NaSO、Na、NaBO、またはこれらの水和物を含有してもよい。
被覆層中の金属酸化物(I)は、結晶性であっても非晶質であってもよいが、非晶質であることが好ましい。ここで、非晶質とは、XRD測定において、被覆層に帰属されるピークが観察されないことをいう。理由は明確ではないが、被覆層が非晶質である場合、被覆層が電解液へ溶出しやすく、被覆層が犠牲層として働くためと考えられる。すなわち、被覆層が電解液へ溶出することで、リチウム含有複合酸化物表面のMn等の遷移金属元素の電解液への溶出が抑制され、サイクル特性が向上すると考えられる。
【0030】
一方、被覆層中のLiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを含む化合物(II)は、結晶性であることが好ましい。理由は明確ではないが、結晶性化合物の方がリチウムイオンの移動度が大きくなり、充放電に伴うリチウム拡散性が向上するので、充放電効率およびレート特性が向上すると考えられる。
さらに、被覆層は、化学的または物理的に吸着した微粒子の集合により形成されたものでもよい。微粒子の集合により被覆層が形成される場合、微粒子の平均粒子径は、0.1〜100nmが好ましく、0.1〜50nmがより好ましく、0.1〜30nmが特に好ましい。ここで、平均粒子径は、リチウム含有複合酸化物粒子の表面を被覆している微粒子の直径の平均値として表される。被覆層の形状および微粒子の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)のような電子顕微鏡により測定・評価することができる。
【0031】
本発明においては、このような被覆層により、リチウム含有複合酸化物と電解液との接触を減らすことができるため、リチウム含有複合酸化物の表面から電解液へのMn等の遷移金属元素の溶出を抑制でき、これによりサイクル特性が向上すると考えられる。また、被覆層により、リチウム含有複合酸化物の表面に電解液の分解生成物が付着するのを抑制でき、これによりレート特性が向上すると考えられる。
【0032】
<正極活物質である粒子(III)>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記リチウム含有複合酸化物粒子の表面が前記被覆層により被覆された構造を有する粒子(III)である。
粒子(III)の形状は、球状、膜状、繊維状、塊状等のいずれであってもよい。粒子(III)が球状である場合、粒子(III)の平均粒子径は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
被覆層は、リチウム含有複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。また、粒子(III)は、リチウム含有複合酸化物粒子の表面の一部または全部を、非晶質と結晶性の混合物からなる被覆層が被覆した粒子であることが好ましい。なかでも、金属酸化物(I)が非晶質であり、化合物(II)が結晶性の混合物がより好ましい。
【0033】
粒子(III)において、リチウム含有複合酸化物粒子の表面に被覆層が形成されていることは、例えば、粒子(III)を切断した後に断面を研磨し、X線マイクロアナライザー分析法(EPMA)で元素マッピングを行うことによって評価することができる。
粒子(III)において、原料の投入量から換算される被覆層中の前記金属元素の含有量(モル量)は、母材であるリチウム含有複合酸化物のモル量に対して、0.001〜0.03の割合であることが好ましい。0.005〜0.02の割合がより好ましく、0.01〜0.015の割合が特に好ましい。前記範囲であれば、放電容量が大きく、レート特性およびサイクル特性に優れた正極活物質が得られる。
粒子(III)の被覆層中に存在する金属元素の量(モル量)は、正極活物質である粒子(III)を酸に溶解し、ICP(高周波誘導結合プラズマ)測定を行うことによって測定することができる。なお、ICP測定によって、被覆層中に存在する金属元素の量を求めることができない場合には、後述する製造の際の水溶液中の金属元素の量等に基づいて算出してもよい。
【0034】
本発明の第1の態様では、前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(前記非金属元素/前記金属元素)は、0.10〜0.25である。この原子比率は、容量発現に寄与しない前記非金属元素を有する化合物(II)が少なく、優れたレート特性を示すことから、0.15〜0.20であることがより好ましい。比表面積は、高容量と高充填性を実現できる正極材が得られやすいことから、0.1m/g以上3m/g未満が好ましく、0.5m/g以上3m/g未満がより好ましく、1m/g以上3m/g未満が特に好ましい。
【0035】
本発明の第2の態様では、前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(前記非金属元素/前記金属元素)は、0.01〜0.1である。この原子比率は、容量発現に寄与しない前記非金属元素を有する化合物(II)が少なく、優れたレート特性を示すことから、0.01〜0.08であることがより好ましい。比表面積は、非常に高い容量と高耐久性を実現できる正極材が得られやすいことから、3m/g以上10m/g以下であり、3m/g以上8m/g以下がより好ましく、4m/g以上6m/g以下が特に好ましい。
【0036】
本発明において、粒子(III)の表面層5nmにおける前記原子比率(非金属元素/金属元素)は、XPS(X線光電子分光)分析により容易に分析される。XPS分析を用いることで、粒子の表面に極めて近い層に含有される元素の種類または元素の存在割合を分析できる。なお、XPS分析装置の例としては、PHI社製ESCA Model5500が挙げられる。
本発明において、XPS分析を用いて原子比率を算出する際には、高い感度で検出でき、かつできる限り他の元素のピークと重ならないピークを計算に用いるのが好ましい。具体的には、金属元素および非金属元素を分析する際には、感度の高い2Pのピークを用いるのが好ましい。
なお、本発明における粒子(III)において、二次粒子の内部に細孔が少ない場合と、多孔質で二次粒子の内部に多くの細孔を有する場合では、 LiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを含む化合物(II)の分布の仕方が異なると考えられる。
【0037】
本発明において第1の態様では、粒子(III)の比表面積が小さく内部に細孔が少ないと推測されるため、粒子(III)の二次粒子の表面に化合物(II)がより多く存在すると考えられる。
本発明において第2の態様では、粒子(III)の比表面積が大きく内部に細孔が多いと推測されるため、粒子(III)の二次粒子の表面よりも内部に化合物(II)が多く存在すると考えられる。
【0038】
本発明における粒子(III)においては、化合物(II)中の非金属元素が、粒子(III)の表面から中心方向に向かって濃度が減少する濃度勾配を有することが好ましい。これは、粒子(III)において、被覆層中の非金属元素が、リチウム含有複合酸化物の内部に拡散することで、リチウムの移動度が向上し、リチウムの脱挿入が容易になるためと考えられる。
粒子(III)において、非金属元素が濃度勾配を有していることは、例えば、アルゴンイオン等によってエッチングを行いながら、前記XPS分析することで確認することができる。
本発明における粒子(III)は、遊離Li比率を低減することができる。本明細書において、遊離Li比率とは、正極活物質1gに含まれるLi量に対する、水に溶出したLiOHおよびLiCOに含まれるLi量の合計をいう。
【0039】
遊離Li比率は、以下の手順によって求めることができる。
粒子(III)1gを水に分散、ろ過した後、ろ液の初期pHを測定する。次にろ液について塩酸等で滴定を行う。前記滴定において、初期pHからpH8.5までの滴定量がLiOHとLiCOの中和、pH8.5〜pH4.0の滴定量がLiCOの中和に対応すると仮定して、ろ過液に含まれるLiOHとLiCOの含有量が求める。
粒子(III)における遊離Li比率は、0.1〜1.0モル%が好ましく、0.2〜0.8モル%がより好ましい。遊離Li比率が前記範囲であれば、後述する導電材やバインダーとのスラリーを作成した際に、スラリーの粘度増加やゲル化が起こり難く、製造時の取扱いにおいて好ましい。
【0040】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、被覆層として金属酸化物(I)および化合物(II)を含み、表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(非金属元素/金属元素)を特定の範囲とすることで、放電容量、レート特性、およびサイクル特性が向上する。その理由は明確ではないが、被覆層中の化合物(II)がイオン結合を有する化合物であることから、例えば金属酸化物等のみでイオン結合化合物が存在しない被覆層に比べ、リチウムイオンの移動度が向上して電池特性が向上するものと推察される。さらに、前記化合物(II)は、リチウム含有複合酸化物中のリチウムを引き抜いて生成するため、リチウム等の過剰なアルカリが存在しないので、電解液溶媒の分解によるガス発生を抑制することができる。
【0041】
また、被覆層として金属酸化物(I)を含むことから、電気化学的に安定な酸化被膜を形成でき、後述する電解質として例えばLiPFを使用した場合、LiPFが分解して生成するHFを、被覆層中の金属酸化物(I)と反応させて消費させることができる。したがって、サイクル特性がより向上する。ここで、安定な酸化被膜とは、酸素との結合性が強い化合物を意味し、ギブズの自由エネルギー値で比較することができる。一般に、2価の金属酸化物よりも3価の金属酸化物の方が、ギブズの自由エネルギーの値は小さく(負に大きく)、より安定である。
さらに、リチウム含有複合酸化物の表面に電解液の分解生成物が付着することを抑制できるので、レート特性が向上すると考えられる。また、原子比率(非金属元素/金属元素)を特定の範囲とすることで、放電容量を下げることなく、レート特性、およびサイクル特性を向上させることができる。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造する方法は、特に限定されない。例えば、以下に示す方法で製造することができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウムと遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物の粉末と、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を有する陽イオン(p)を含み、SおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素を有する陰イオン(n)を含まない第1の水溶液とを接触させる第1の接触工程と、リチウム含有複合酸化物の粉末と、前記陰イオン(n)を含む第2の水溶液(ただし、該第2の水溶液は、前記陽イオン(p)を含んでもよく、含まなくてもよい。)とを接触させる第2の接触工程と、前記第1の接触工程および第2の接触工程の後、前記リチウム含有複合酸化物の処理粉末を250〜700℃に加熱する加熱工程とを備える。
そして、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液を合わせた水溶液全体において、|(前記第2の水溶液に含まれる前記陰イオンのモル数×前記陰イオンの価数)|/((前記第1の水溶液に含まれる前記陽イオンのモル数×前記陽イオンの価数)+(前記第2の水溶液に含まれる前記陽イオンのモル数×前記陽イオンの価数))が1未満であることを特徴とする。
【0043】
本明細書において、「粉末」とは個々の粒子の集合体を意味する。すなわち、本発明の第1および第2の接触工程においては、リチウム含有複合酸化物粒子が集合してなる粉末に、第1の水溶液または第2の水溶液を接触させる。
このような製造方法によれば、リチウム含有複合酸化物の粒子の表面に、前記金属酸化物(I)と化合物(II)を含有する被覆層を形成することができる。そして、高電圧で充電を行った場合であってもサイクル特性およびレート特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極活物質を、生産性よく製造できる。
【0044】
以下、各工程について説明する。
<第1の接触工程および第2の接触工程>
第1の接触工程は、リチウム含有複合酸化物の粉末と、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を有する陽イオン(p)を含む第1の水溶液とを接触させる。また、第2の接触工程では、リチウム含有複合酸化物の粉末と、SおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素を有する陰イオン(n)を含み、前記陽イオン(p)を含有しない第2の水溶液とを接触させる。
なお、後述するように、第1の接触工程と第2の接触工程とは別々の工程であってもよく、同じ工程であってもよい。すなわち、第1の水溶液と、第2の水溶液とを、リチウム含有複合酸化物に同時に接触させてもよく、予め第1の水溶液と第2の水溶液を混合させてから接触させてもよい。
【0045】
(リチウム含有複合酸化物)
リチウム含有複合酸化物としては、前記したリチウム含有複合酸化物を用いることができ、好ましい態様も同様である。
(第1の水溶液および第2の水溶液)
第1の接触工程で使用される第1の水溶液は、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を有する陽イオン(p)を含み、SおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素を有する陰イオン(n)を含まない。
【0046】
陽イオン(p)は、前記金属元素のイオンであるAl3+、Y3+、Ga3+、In3+、La3+、Pr3+、Nd3+、Gd3+、Dy3+、Er3+、Yb3+であっても、前記金属元素を有する錯イオンであってもよいが、後述する陰イオン(n)との反応性の点で、前記金属元素のイオンであることが好ましい。陽イオン(p)としては、安定な被膜を形成でき、陽イオンの分子量が小さく、後述するリチウムイオン二次電池の単位質量あたりの放電容量、レート特性、サイクル特性に優れることから、Al3+、またはY3+が好ましい。
さらに、第1の水溶液は、陽イオン(p)の他に、H、NHなどの、加熱により分解、蒸散する陽イオンを含んでいてもよい。なお、本明細書において、「加熱により分解、蒸散する」とは、後述する加熱工程で250〜700℃に加熱された場合に、分解して蒸散し、被覆層に残留しないことをいう。
【0047】
第2の接触工程に使用される第2の水溶液(ただし、第2の水溶液は、前記陽イオン(p)を含んでもよく、含まなくてもよい。)は、SおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素を有する陰イオン(n)を含有する。そのような陰イオン(n)としては、SO2−、SO2−、S2−、SO2−、SO2−、BO3−、BO、B2−、B等が挙げられる。これらの陰イオン(n)は、いずれも加熱によって分解、蒸散せず、安定な酸化状態であるSO2−、BO3−となる。
さらに、第2の水溶液は、前記非金属元素を有する陰イオン(n)の他に、OH、NO、CO2−などの、加熱によって分解、蒸散する陰イオンを含んでいてもよい。
【0048】
第1の水溶液は、前記金属元素を含む水溶性化合物(以下、水溶性化合物(1)ともいう。)を溶媒である蒸留水等(溶媒については、後述する。)に溶解させることにより得ることができる。また、第2の水溶液は、前記非金属元素を含む水溶性化合物(以下、水溶性化合物(2)ともいう。)を溶媒である蒸留水等(溶媒については、後述する。)に溶解させることにより得ることができる。
なお、上述の水溶性化合物における「水溶性」とは、25℃の蒸留水への溶解度(飽和溶液100gに溶けている溶質の質量[g])が2超であることをいう。溶解度が2超であると、水溶液中の水溶性化合物の量を多くすることができるため、効率よく被覆層を形成することができる。水溶性化合物の溶解度は5超であることがより好ましく、10超であると特に好ましい。
【0049】
水溶性化合物(1)としては、前記金属元素と加熱によって分解、蒸散する陰イオンとを組み合せた化合物が好ましく、前記金属元素の硝酸塩、塩化物等の無機塩、酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩等の有機塩または有機錯体、アンミン錯体等が挙げられる。これらの中でも、溶媒への溶解性が高く、かつ陰イオンが熱により分解しやすいことから、硝酸塩、有機酸塩、有機錯体、またはアンミン錯体が特に好ましい。
具体的には、水溶性化合物(1)として、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム、マレイン酸アルミニウム、硝酸イットリウム、ギ酸イットリウム、クエン酸イットリウム、酢酸イットリウム、またはシュウ酸イットリウムが好ましい。
【0050】
水溶性化合物(2)としては、前記陰イオンと加熱によって分解、蒸散する陽イオンとを組み合せた化合物が好ましく、HSO、HSO、H、HSO、HSO、HBO、HBO、H、HB等の酸、またはこれらのアンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。なかでも、pHが低くならないホウ酸、または前記アンモニウム塩が特に好ましい。
具体的には、水溶性化合物(2)として、ホウ酸、硫酸アンモニウム(NHSO)、硫酸アルミニウム、硫酸イットリウム、硫酸水素アンモニウム((NH)HSO)、ホウ酸アンモニウム((NHBO)、ホウ酸水素アンモニウム((NHHBO、または(NH)HBO)が好ましく、硫酸アンモニウム((NHSO)、硫酸アルミニウムがより好ましい。
【0051】
本発明においては、第1の水溶液と第2の水溶液とを合わせた水溶液全体で、第2の水溶液中のSまたはBを含む陰イオン(n)のモル数と価数をかけた値の合計の絶対値を、第1の水溶液中の前記金属元素を有する陽イオン(p)のモル数と価数をかけた値の合計に比べて小さくするために、前記金属元素を有し加熱によって分解、蒸散する陰イオンを持つ水溶性化合物(1)と、加熱によって分解、蒸散する陽イオンを持ち、前記非金属元素を有する水溶性化合物(2)とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0052】
また、本発明では、被覆層に含有される前記金属元素の量(モル量)を、母材であるリチウム含有複合酸化物のモル量に対して、0.001〜0.03の割合とすることが好ましい。そして、被覆層中の前記金属元素の量をこの範囲に制御するために、前記第1の水溶液中に含有される前記金属元素を有する陽イオン(p)の量(モル量)を、前記リチウム含有複合酸化物の量(モル量)に対して、0.001〜0.03の割合とすることが好ましい。前記リチウム含有複合酸化物に対する前記陽イオン(p)のモル比の値は、0.005〜0.02がより好ましく、0.01〜0.015が特に好ましい。
また、被覆層に含有される前記非金属元素の量を制御するため、前記第2の水溶液中に含有される前記陰イオン(n)の量(モル量)を、前記リチウム含有複合酸化物の量(モル量)に対して、0.001〜0.03の割合とすることが好ましい。前記リチウム含有複合酸化物に対する前記陰イオン(n)のモル比の値は、0.005〜0.02がより好ましく、0.01〜0.015が特に好ましい。
【0053】
第1の水溶液中に含有される陽イオン(p)の量(モル量)は、前述のICPなどを行うことによって測定することができる。また、第2の水溶液中に含有される陰イオン(n)の量(モル量)は、前述のICPやイオンクロマトグラフィーなどにより測定することができる。
さらに、本発明の製造方法においては、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液を合わせた水溶液全体において、{|(前記第2の水溶液に含まれる前記陰イオンのモル数×前記陰イオンの価数)|/((前記第1の水溶液に含まれる前記陽イオンのモル数×前記陽イオンの価数)+(前記第2の水溶液に含まれる前記陽イオンのモル数×前記陽イオンの価数)):以下、(Z)とする。}が1未満とする。なお、「||」は絶対値を示す。すなわち、陰イオンの価数は負の値となるが、(陰イオンのモル数×陰イオンの価数)の絶対値をとることで、(Z)の値を正数としている。(Z)の値は、0.1〜0.8の範囲とすることが好ましく、0.2〜0.6がより好ましく、0.3〜0.5が特に好ましい。
【0054】
第1の水溶液中および第2の水溶液中に含有される前記陽イオン(p)および前記陰イオン(n)の量を調整し、(Z)の値が1未満とすることで、前記粒子(III)の表面層5nm以内に含まれる元素の原子比率(前記非金属元素/前記金属元素)を、目的の範囲に調整することができる。
【0055】
例えば、リチウムイオン複合酸化物1モルに対して、1モル%(0.01モル)のAl3+を被覆層に含有させる場合、(Al3+のモル数×Al3+の価数)は、
0.01モル×(+3)=0.03となる。
また、例えば、リチウムイオン複合酸化物に対して、0.5モル%(0.005モル)のSO2−を被覆層に含有させる場合、(SO2−のモル数×SO2−の価数)の値は、
|0.005モル×(−2)|=0.01となる。
Al3+とSO2−の組み合わせの場合、加熱によって分解、蒸散せずに残留する陽イオンである(Al3+のモル数×Al3+の価数)は0.03であり、加熱によって分解、蒸散せずに残留する陰イオンである(SO2−のモル数×SO2−の価数)の絶対値である0.01の方が小さい。そして、(Z)の値は、0.01/0.03=0.33となる。
【0056】
本発明において、第1の水溶液および第2の水溶液の溶媒としては、蒸留水のような水を用いればよいが、水溶性化合物の溶解性を損なわない程度に、溶媒として水溶性アルコールやポリオールを添加してもよい。水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリンが挙げられる。
【0057】
水溶性アルコールとポリオールの合計の含有量としては、溶媒の全量に対して0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。安全面、環境面、取り扱い性、コストの点で優れているため、溶媒は水のみであることが好ましい。
さらに、第1の水溶液と第2の水溶液の少なくとも一方には、水溶性化合物の溶解度を調整するために、pH調整剤が含まれていてもよい。pH調整剤としては、加熱時に揮発または分解するものが好ましい。具体的には、酢酸、クエン酸、乳酸、ギ酸、マレイン酸、シュウ酸などの有機酸やアンモニアが好ましい。このような揮発または分解するpH調整剤を用いると、不純物が残留しにくいため、良好な電池特性が得られやすい。
【0058】
第1の水溶液および第2の水溶液のpHは、2〜12が好ましく、3〜11がより好ましく、4〜10が特に好ましい。pHが前記範囲にあれば、リチウム含有複合酸化物とこれらの水溶液とを接触させたときに、リチウム含有複合酸化物からのリチウムや遷移金属の溶出が少なく、またpH調整剤等の添加による不純物を少なくできるため、良好な電池特性が得られやすい。
【0059】
本発明の第1の接触工程および第2の接触工程における、リチウム含有複合酸化物と前記水溶液との接触方法としては、リチウム含有複合酸化物の粉末に所定の水溶液を添加して撹拌・混合する方法や、リチウム含有複合酸化物の粉末に所定の水溶液をスプレーコートする方法がある。後工程として、ろ過や洗浄工程が不要で生産性に優れ、かつリチウム含有複合酸化物粒子の表面に被覆層を均一に形成することができるので、前記水溶液をスプレーコートする方法がより好ましい。
なお、「所定の水溶液」とは、第1の接触工程においては第1の水溶液を、第2の接触工程においては第2の水溶液を意味する。以下の記載においても同様である。
【0060】
撹拌・混合する方法においては、リチウム含有複合酸化物の粉末を撹拌しながら、これに水溶液を添加し、水溶液中に含まれる水溶性化合物をリチウム含有複合酸化物の粉末の表面に接触させることが好ましい。撹拌装置としては、ドラムミキサーやソリッドエアー等の低剪断力の撹拌機を用いることができる。撹拌・混合しながら所定の水溶液とリチウム含有複合酸化物の粉末とを接触させることで、リチウム含有複合酸化物粒子の表面に被覆層がより均一に形成された粒子を得ることができる。
【0061】
本発明における接触工程においては、前記陽イオン(p)と前記陰イオン(n)との両方を含む水溶液をリチウム含有複合酸化物の粉末に接触させてもよく、また、前記陽イオン(p)と前記陰イオン(n)を別々の水溶液として、別々にリチウム含有複合酸化物の粉末に接触させてもよい。
すなわち、第1の接触工程と第2の接触工程は同工程であってもよく、別工程であってもよい。生産性の観点から、第1の接触工程と第2の接触工程は、同工程であることが好ましい。
【0062】
第1の水溶液と第2の水溶液をリチウム含有複合酸化物に別々に接触させる場合、接触させる順番としては、陽イオン(p)を接触させた後陰イオン(n)を接触させても、陰イオン(n)を接触させた後陽イオン(p)と接触させてもよい。また、陽イオン(p)と陰イオン(n)を交互に複数回ずつ接触させてもよく、さらに同時に接触させてもよい。陽イオン(p)と陰イオン(n)との反応が進みやすいと考えられることから、陰イオン(n)に次いで陽イオン(p)に接触させる順とし、リチウム含有複合酸化物の粉末に前記陰イオン(n)を接触させた後、前記陽イオン(p)を接触させることが特に好ましい。
【0063】
第1の水溶液および第2の水溶液における所定の水溶性化合物の濃度は、後工程で加熱により溶媒を除去する必要があることから、高濃度の方が好ましい。しかし、濃度が高すぎると粘度が高くなり、リチウム含有複合酸化物と水溶液との均一混合性が低下するため、水溶液に含まれる所定の水溶性化合物の濃度は、元素濃度換算で0.5〜30質量%が好ましく、2〜20質量%が特に好ましい。
なお、「所定の水溶性化合物」とは、第1の水溶液においては第1の水溶性化合物を、第2の水溶液においては第2の水溶性化合物を意味する。
【0064】
本発明の第1の接触工程および第2の接触工程においては、リチウム含有複合酸化物の粉末を所定の水溶液と接触させた後乾燥する。接触させる方法としてスプレーコートを行う場合、スプレーコートと乾燥は交互に行ってもよく、スプレーコートを行いながら同時に乾燥を行ってもよい。乾燥温度は40〜200℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
水溶液との接触および乾燥によって、リチウム含有複合酸化物が塊状となる場合には、粉砕することが好ましい。スプレーコートにおける水溶液の噴霧量は、リチウム含有複合酸化物1gに対して0.005〜0.1g/分が好ましい。
【0065】
<加熱工程>
本発明の製造方法においては、前記した第1の接触工程と第2の接触工程を行った後、加熱を行う。加熱により、目的とする正極活物質を得るとともに、水や有機成分等の揮発性の不純物を除去できる。
加熱は、酸素含有雰囲気下で行うことが好ましい。また、加熱温度は、250〜700℃が好ましく、350〜600℃がより好ましい。加熱温度が250℃以上であれば、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物(I)と、LiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを含む化合物(II)とを含有する被覆層を形成させやすい。さらに、残留水分のような揮発性の不純物が少なくなることから、サイクル特性の低下が抑制できる。また、加熱温度が700℃以下であれば、リチウム含有複合酸化物の内部に前記金属元素が拡散して、被覆層として機能しなくなることを防止できる。
リチウム含有複合酸化物粒子の表面に被覆層を非晶質として形成する場合、加熱温度は250℃〜550℃が好ましく、350〜500℃がより好ましい。加熱温度が550℃以下であれば、被覆層が結晶化しにくくなる。
加熱時間は、0.1〜24時間が好ましく、0.5〜18時間がより好ましく、1〜12時間が特に好ましい。加熱時間を前記範囲とすることで、リチウム含有複合酸化物粒子の表面に前記被覆層を効率よく形成できる。
加熱時の圧力は特に限定されず、常圧または加圧が好ましく、常圧が特に好ましい。
【0066】
本発明の製造方法によって得られる正極活物質は、リチウム含有複合酸化物の粒子の表面に、Al、Y、Ga、In、La、Pr、Nd、Gd、Dy、ErおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物(I)と、LiとSおよびBからなる群から選ばれる少なくとも1種の非金属元素とを含む化合物(II)とを含有する被覆層を有する粒子(III)である。そして、この被覆層は、本発明の製造方法において使用される第1の水溶液と第2の水溶液によって形成されるものである。
被覆層の詳細については、前記した本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の項に説明した通りである。
【0067】
本発明の製造方法によって得られる正極活物質においては、前記被覆層によってリチウム含有複合酸化物と電解液との接触が低減されているため、リチウム含有複合酸化物の表面から電解液へのMn等の遷移金属元素の溶出が抑制され、サイクル特性が向上すると考えられる。また、リチウム含有複合酸化物の表面に電解液の分解生成物が付着することを抑制できるので、レート特性が向上すると考えられる。
【0068】
すなわち、Liと前記非金属元素を含む化合物(II)と、前記金属元素を有する金属酸化物(I)とが被覆層中に共存する結果、電解質として例えばLiPFを使用する場合、LiPFが分解して生成するHFと金属酸化物(I)とが反応し、HFが消費されるため、サイクル特性が向上する。
また、前記(Z)の値を1未満とすることで、放電容量、レート特性、およびサイクル特性が向上している。その理由は明確ではないが、イオン結合性の化合物(II)が適量存在することで、リチウムイオンの移動度が向上して電池特性が向上すると推察される。
【0069】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、前記した本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質、導電材、およびバインダーを含む正極活物質層が、正極集電体上(正極表面)に形成されてなる。
【0070】
このようなリチウムイオン二次電池用正極を製造する方法としては、例えば、前記正極活物質、導電材およびバインダーを、正極集電板上に担持させる方法が挙げられる。このとき、導電材およびバインダーは、溶媒および/または分散媒中に分散することによってスラリーを調製するか、あるいは、溶媒および/または分散媒と混練した混錬物を調製した後、調製したスラリーまたは混錬物を正極集電板に塗布等により担持させることで製造できる。
導電材としては、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。
【0071】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等の不飽和結合を有する重合体およびその共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等のアクリル酸系重合体およびその共重合体等が挙げられる。
正極集電板としては、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔等が挙げられる。
【0072】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記した本発明のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、非水電解質とを含むものである。
負極は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。負極は、例えば、負極活物質を有機溶媒と混錬することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって製造できる。
負極集電板としては、例えばニッケル箔、銅箔等の金属箔を用いることができる。
負極活物質としては、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料、周期表14、15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタンおよび炭化ホウ素化合物等を用いることができる。
負極活物質の炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、フェノール樹脂やフラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化した有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等を用いることができる。
【0073】
周期表14族の金属としては、例えば、ケイ素またはスズであり、最も好ましくはケイ素である。
その他に負極活物質として用いることができる材料としては、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物や、Li2.6Co0.4N等の窒化物が挙げられる。
【0074】
非水電解液としては、有機溶媒と電解質とを適宜組み合わせて調製されたものを用いることができる。有機溶媒としては、電解液用の有機溶媒として公知のものを用いることができ、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いることができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、非水電解質として、電解質塩を含有させた固体電解質、高分子電解質、高分子化合物等に、電解質を混合または溶解させた固体状もしくはゲル状電解質等を用いることができる。
【0075】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよく、例えば、無機固体電解質および高分子固体電解質のいずれをも用いることができる。
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等を用いることができる。
高分子固体電解質としては、電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物を用いることができる。そして、この高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、および、ポリヘキサフルオロプロピレン、もしくは、これらの誘導体、混合物、および複合体を用いることができる。
【0076】
ゲル状電解質等としては、前記の非水電解液を吸収してゲル化するものであればよく、種々の高分子を用いることができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)などのフッ素系高分子等を使用できる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリルおよびポリアクリロニトリルの共重合体の他、ポリエチレンオキサイドおよびポリエチレンオキサイドの共重合体、同架橋体などのエーテル系高分子を使用できる。共重合モノマーとしては、例えば、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等を挙げることができる。
ゲル状電解質のマトリックスとしては、酸化還元反応に対する安定性の観点から、特にフッ素系高分子が好ましい。
電解質塩は、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能であり、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、CFSOLi、LiCl、LiBr等を用いることができる。
【0077】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等の形状を、用途に応じて適宜選択できる。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、高電圧で充電を行った場合であっても、サイクル特性およびレート特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極活物質を、生産性よく製造できる。また、本発明の製造方法では、ろ過や洗浄が不要であり、リチウム含有複合酸化物が塊になることがなく、撹拌等の取り扱いが容易であり、かつ乾燥時に凝集が起きにくいので、生産性が顕著に向上する。
さらに、本発明の製造方法で得られる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極、および、この正極を用いたリチウムイオン二次電池は、高電圧で充電を行った場合であっても、優れたサイクル特性およびレート特性が実現できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[リチウム含有複合酸化物(A)の合成例]
硫酸ニッケル(II)六水和物140.6g、硫酸コバルト(II)七水和物131.4g、硫酸マンガン(II)五水和物482.2gの混合物に蒸留水1245.9gを加え、前記化合物が均一に溶解した原料溶液を得た。また、硫酸アンモニウム79.2gに蒸留水320.8gを加えて均一に溶解させ、アンモニア溶液を得た。硫酸アンモニウム79.2gに蒸留水1920.8gを加えて均一に溶解させ、母液とした。さらに、水酸化ナトリウム400gに蒸留水600gを加えて均一に溶解させ、pH調整液を得た。
次いで、2Lのバッフル付きガラス製反応槽に前記母液を入れてマントルヒーターで50℃に加熱し、これにpH調整液を加えてpHを11.0に調整した後、反応槽内の溶液をアンカー型の撹拌翼で撹拌しながら、原料溶液を5.0g/分の速度で、アンモニア溶液を1.0g/分の速度でそれぞれ添加し、ニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物を析出させた。なお、原料溶液の添加中は、反応槽内のpHを11.0に保つようにpH調整液を添加した。また、析出した水酸化物が酸化しないように、反応槽内に窒素ガスを流量0.5L/分で流した。
【0079】
こうして得られたニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物から不純物イオンを取り除くために、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返し、洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が25μS/cm未満となった時点で洗浄を終了し、120℃で15時間乾燥させて前駆体を得た。
得られた前駆体のニッケル、コバルト、マンガンの含有量をICPにより測定したところ、それぞれ11.6質量%、10.5質量%、42.3質量%であった。ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が、0.172:0.156:0.672であることがわかった。
次に、この前駆体20gとリチウム含有量が26.9mol/kgの炭酸リチウム12.6gとを混合し、酸素含有雰囲気下900℃で12時間焼成して、リチウム含有複合酸化物の粉末を得た。以下、この粉末を、リチウム含有複合酸化物(A)と示す。
得られたリチウム含有複合酸化物(A)の組成は、Li(Li0.2Ni0.137Co0.125Mn0.538)Oとなる。このリチウム含有複合酸化物(A)の平均粒子径D50は5.9μmであり、BET法を用いて測定した比表面積は2.6m/gであった。
【0080】
[リチウム含有複合酸化物(B)の合成例]
硫酸ニッケル(II)六水和物197g、硫酸コバルト(II)七水和物105g、硫酸マンガン(II)五水和物452gの混合物に蒸留水1245gを加え、前記化合物が均一に溶解した原料溶液を得た。また、硫酸アンモニウム99gに蒸留水401gを加えて均一に溶解させ、アンモニア溶液を得た。炭酸ナトリウム1gに蒸留水1900gを加えて均一に溶解させ、母液とした。さらに、炭酸ナトリウム350gに蒸留水1850gを加えて均一に溶解させ炭酸塩水溶液を得た。
【0081】
次いで、2Lのバッフル付きガラス製反応槽に前記母液を入れてマントルヒーターで50℃に加熱し、反応槽内の溶液を2段傾斜パドル型の撹拌翼で撹拌しながら、原料溶液を5.0g/分の速度で、アンモニア溶液を0.5g/分の速度で6時間かけて添加し、ニッケル、コバルト、マンガンの複合炭酸塩を析出させた。なお、原料溶液の添加中は、反応槽内のpHを8.0に保つように炭酸塩水溶液を添加した。また、析出した遷移金属炭酸塩が酸化しないように、反応槽内に窒素ガスを流量0.5L/分で流した。
こうして得られたニッケル、コバルト、マンガンの複合炭酸塩から不純物イオンを取り除くために、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返し、洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm未満となった時点で洗浄を終了し、120℃で15時間乾燥させて前駆体を得た。
得られた前駆体のニッケル、コバルト、マンガンの含有量をICPにより測定したところ、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.245:0.126:0.629であった。また、前駆体に含まれる遷移金属の含有量をZINCON指示薬とEDTAによる逆滴定で求めたところ、8.23mol/kgであった。
【0082】
次に、この前駆体20gとリチウム含有量が26.9mol/kgの炭酸リチウム8.2gとを混合し、酸素含有雰囲気下850℃で16時間焼成して、リチウム含有複合酸化物の粉末を得た。以下、この粉末を、リチウム含有複合酸化物(B)と示す。
得られたリチウム含有複合酸化物(B)の組成は、Li(Li0.143Ni0.210Co0.108Mn0.539)Oとなる。このリチウム含有複合酸化物(A)の平均粒子径D50は11.2μmであり、BET法を用いて測定した比表面積は6.8m/gであった。
【0083】
[リチウム含有複合酸化物(C)の合成例]
原料溶液として硫酸ニッケル(II)六水和物260g、硫酸コバルト(II)七水和物17g、硫酸マンガン(II)五水和物470gの混合物に蒸留水1253gを加え、前記化合物が均一に溶解した原料溶液を用いた以外はリチウム含有複合酸化物(B)の合成例と同様に前駆体を得た。
得られた前駆体のニッケル、コバルト、マンガンの含有量をICPにより測定したところ、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比は、0.326:0.020:0.65.4であった。また、前駆体に含まれる遷移金属の含有量をZINCON指示薬とEDTAによる逆滴定で求めたところ、8.53mol/kgであった。
次に、この前駆体20gとリチウム含有量が26.9mol/kgの炭酸リチウム8.25gとを混合し、酸素含有雰囲気下850℃で16時間焼成して、リチウム含有複合酸化物の粉末を得た。以下、この粉末を、リチウム含有複合酸化物(C)と示す。
得られたリチウム含有複合酸化物(C)の組成は、Li(Li0.130Ni0.283Co0.017Mn0.569)Oとなる。このリチウム含有複合酸化物(C)の平均粒子径D50は11.2μmであり、BET法を用いて測定した比表面積は9.2m/gであった。
【0084】
(実施例1)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液7.0gに、蒸留水3.0gを加えて混合し、乳酸アルミニウム水溶液を調製した。また、硫酸アンモニウム((NHSO)0.77gに蒸留水9.23gを加えて混合し、硫酸アンモニウム水溶液を調製した。
次いで、前記リチウム含有複合酸化物(A)を撹拌しながら、その10gに対して、前記硫酸アンモニウム水溶液1gをスプレーコートした。さらに、撹拌されているリチウム含有複合酸化物(A)10gに対して前記乳酸アルミニウム水溶液1gをスプレーコートし、混合物を得た。ここで、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.33であった。
次いで、得られた混合物を、90℃で2時間乾燥した後に酸素含有雰囲気下400℃で8時間加熱し、リチウム含有複合酸化物(A)の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(1)を得た。正極活物質(1)の比表面積を表6に示す。
【0085】
次に、得られた正極活物質(1)について、後述の条件にてXRD測定を行った。測定されたXRDスペクトル(図1に示す)から、正極活物質(1)は層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)であることが確認された。また、2θ=20〜25°の範囲に層状LiMnOのピークが観察され、さらに非金属元素(S)を含む化合物(II)であるLiSOとLiSO・HOに帰属されるピークが観察された。一方、XRDスペクトルでは、Alを含む金属酸化物(I)に帰属されるピークは観察されなかった。XRDでピークが検出された化合物を表1に示す。
次に、得られた正極活物質(1)について、後述の条件にてXPS測定を行った。比較用試料として、Al、Al(SO、およびLiSOを用いて、正極活物質(1)のAl2PおよびS2Pのケミカルシフトを比較した。その結果、図2および図3に示すように、正極活物質(1)のAl2PおよびS2Pのケミカルシフトは、それぞれAlおよびLiSOのケミカルシフトと一致した。また、この測定結果から、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)を算出した。これらXPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0086】
(実施例2)
硫酸アンモニウム((NHSO)1.23gに蒸留水8.77gを加えて硫酸アンモニウム水溶液を調製した。そして、この硫酸アンモニウム水溶液をリチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした以外は実施例1と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(2)を得た。正極活物質(2)の比表面積を表6に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.53であった。
次に、得られた正極活物質(2)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表1に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0087】
(実施例3)
硫酸アンモニウム((NHSO)1.54gに蒸留水8.46gを加えて硫酸アンモニウム水溶液を調製した。そして、この硫酸アンモニウム水溶液をリチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした以外は実施例1と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(3)を得た。正極活物質(3)の比表面積を表6に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.67であった。
次に、得られた正極活物質(3)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。測定されたXRDスペクトルを図1に、XRDでピークが検出された化合物を表1に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0088】
(実施例4)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液7.0gに、蒸留水3.0gを加えて混合し、乳酸アルミニウム水溶液を調製した。また、硫酸アンモニウム((NHSO)1.54gに蒸留水8.46gを加えて混合し、硫酸アンモニウム水溶液を調製した。
次いで、前記リチウム含有複合酸化物(A)を撹拌しながら、その10gに対して、前記硫酸アンモニウム水溶液1gをスプレーコートした。次に、同様に撹拌されているリチウム含有複合酸化物(A)10gに対して前記乳酸アルミニウム水溶液2gをスプレーコートした。なお、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.33であった。
その後、実施例1と同様にして加熱し、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(4)を得た。正極活物質(4)の比表面積を表6に示す。
次に、得られた正極活物質(4)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表1に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0089】
(実施例5)
硝酸イットリウム六水和物4.47gに、蒸留水5.53g加えて混合し、硝酸イットリウム水溶液を調製した。また、硫酸アンモニウム((NHSO)0.77gに蒸留水9.23gを加えて混合し、硫酸アンモニウム水溶液を調製した。
次いで、前記リチウム含有複合酸化物(A)を撹拌しながら、その10gに対して、前記硫酸アンモニウム水溶液1gをスプレーコートした。次に、前記硝酸イットリウム水溶液1gをスプレーコートした。ここで、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Y3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.33であった。
その後、実施例1と同様にして加熱し、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にYとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(5)を得た。正極活物質(5)の比表面積を表6に示す。
次に、得られた正極活物質(5)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表1に、XPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Yは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0090】
(実施例6)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液7.0gに、蒸留水3.0gを加えて混合し、乳酸アルミニウム水溶液を調製した。また、ホウ酸(HBO)0.36gに蒸留水9.64gを加えて混合し、ホウ酸水溶液を調製した。
次いで、前記リチウム含有複合酸化物(A)を撹拌しながら、その10gに対して、前記調製されたホウ酸水溶液1gをスプレーコートした。次に、前記乳酸アルミニウム水溶液1gをスプレーコートした。なお、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(BO3−)の(Z)の値は、0.50であった。
その後、実施例1と同様にして加熱し、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとBを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(6)を得た。正極活物質(6)の比表面積を表6に示す。
次に、得られた正極活物質(6)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRD測定の結果を表1およびXPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0091】
(比較例1)
前記で得られたリチウム含有複合酸化物(A)に対して被覆処理(被覆層の形成)は行わず、そのまま比較例1の正極活物質(7)とした。正極活物質(7)の比表面積を表6に示す。
得られた正極活物質(7)について、XRD測定を実施例1と同様に行った。測定されたXRDスペクトル(図1に示す)から、正極活物質(7)は層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)であることが確認された。また、2θ=20〜25°の範囲に層状LiMnOのピークが観察された。
【0092】
(比較例2)
実施例1において、リチウム含有複合酸化物(A)に対して、硫酸アンモニウム水溶液のスプレーコートを行わず、乳酸アルミニウム水溶液1gのみをスプレーコートした。それ以外は実施例1と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(8)を得た。正極活物質(8)の比表面積を表6に示す。
次に、得られた正極活物質(8)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。測定されたXRDスペクトルを図1に、XRDでピークが検出された化合物を表1に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表2に示す。
なお、表2に示すように、正極活物質(8)についての原子比率(S2P/Al2P)の算出値は0.03となり、Sの存在が認められるが、これは、リチウム含有複合酸化物の合成の際に使用された成分の残留に由来するものと考えられる。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0093】
(比較例3)
硫酸アンモニウム((NHSO)2.65gに蒸留水7.35gを加えて硫酸アンモニウム水溶液を調製した。そして、この硫酸アンモニウム水溶液をリチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした以外は実施例1と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(9)を得た。正極活物質(9)の比表面積を表6に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物(A)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、1.15であった。
次に、得られた正極活物質(9)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表1に、XPS測定の結果を表2に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
(実施例7)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液6.29gに、硫酸アンモニウム((NHSO)0.35g蒸留水3.36gを加えて混合し、硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液を調製した。
次いで、前記で得られたリチウム含有複合酸化物(B)を撹拌しながら、その10gに対して、前記硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液2.15gをスプレーコートした。ここで、リチウム含有複合酸化物(B)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.167である。
次いで、得られた混合物を、90℃で2時間乾燥した後に酸素含有雰囲気下450℃で8時間加熱し、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(10)を得た。正極活物質(10)の比表面積を表6に示す。
次に、得られた正極活物質(10)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表3に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表4に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
次に、得られた正極活物質(10)について、後述の条件にて遊離アルカリ測定を行った。アルカリ測定の結果を表5に示す。
【0097】
(実施例8)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液6.29gに、硫酸アンモニウム((NHSO)1.05g蒸留水2.66gを加えて混合し、硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液を調製した。そして、この硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液をリチウム含有複合酸化物(B)にスプレーコートして接触させた以外は実施例7と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(11)を得た。正極活物質(11)の比表面積を表6に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物(B)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.500である。
次に、得られた正極活物質(11)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表3に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表4に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
次に、得られた正極活物質(11)について、後述の条件にて遊離アルカリ測定を行った。アルカリ測定の結果を表5に示す。
【0098】
(実施例9)
硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液をリチウム含有複合酸化物(C)にスプレーコートした以外は実施例7と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子(C)の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(12)を得た。正極活物質(12)の比表面積を表6に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物(C)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.167である。
次に、得られた正極活物質(12)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表3に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表4に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
次に、得られた正極活物質(12)について、実施例7と同様に遊離アルカリ測定を行った。アルカリ測定の結果を表5に示す。
【0099】
(実施例10)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液9.44gに、硫酸アンモニウム((NHSO)0.35g蒸留水0.21gを加えて混合し、硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液を調製した。そして、この硫酸アンモニウムと乳酸アルミニウムとを混合して得られた水溶液をリチウム含有複合酸化物(C)にスプレーコートした以外は実施例9と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlとSを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(13)を得た。正極活物質(13)の比表面積を表6に示す。
なお、リチウム含有複合酸化物(B)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.111である。
次に、得られた正極活物質(13)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表3に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表4に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであり、非金属元素(S)を含む化合物(II)はLiSOおよびLiSO・HOであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
次に、得られた正極活物質(13)について、実施例7と同様に遊離アルカリ測定を行った。アルカリ測定の結果を表5に示す。
【0100】
(比較例4)
アルミニウム(Al)含量が4.5質量%でpH4.6の原料乳酸アルミニウム水溶液6.29gに蒸留水3.71gを加えて混合し、乳酸アルミニウム水溶液を調製した。そして、この乳酸アルミニウム水溶液をリチウム含有複合酸化物(B)にスプレーコートした以外は実施例7と同様にして、リチウム含有複合酸化物粒子の表面にAlを含む被覆層を有する粒子(III)からなる正極活物質(14)を得た。正極活物質(14)の比表面積を表6に示す。
【0101】
なお、リチウム含有複合酸化物(B)にスプレーコートした陽イオン(Al3+)と陰イオン(SO2−)の(Z)の値は、0.833である。
次に、得られた正極活物質(14)について、XRD測定およびXPS測定を実施例1と同様に行った。XRDでピークが検出された化合物を表3に、非金属元素(S)と金属元素(Al)との原子比率(S2P/Al2P)およびXPS測定の結果を表4に示す。
XRDとXPSの測定結果から、被覆層に含有される金属元素(Al)を含む化合物はAlであることが確認された。また、Alは、XRDでは検出されなかったことから、非晶質であると考えられる。
次に、得られた正極活物質(14)について、実施例7と同様に遊離アルカリ測定を行った。アルカリ測定の結果を表5に示す。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
<遊離アルカリ測定>
正極材1gを蒸留水10gに分散して30分攪拌した後に、メンブレンフィルターでろ過した。ろ液に蒸留水をさらに60g追加してpHを測定した。この時のpHを初期pHとする。
次に蒸留水を加えたろ液について0.02mol/Lの塩酸で滴定を行い、初期pHからpH8.5までの滴定量がLiOHとLiCOの中和、pH8.5〜pH4.0の滴定量がLiCOの中和に対応すると仮定して、ろ過液に含まれるLiOHとLiCOの含有量を求めた。正極材1gに含まれるLi量に対する、ろ液中のLiOHに含まれるLi量の比率を遊離LiOH比率とした。正極材1gに含まれるLi量に対する、ろ液中のLiCOに含まれるLi量の比率を遊離LiCO比率とした。遊離LiOH比率と遊離LiCO比率の和を遊離Li比率とした。
<XRD測定>
XRD測定は、X線回折装置としてリガク社製の製品名RINT−TTR−IIIを用いた。X線源としては、CuKα線を用いた。測定条件は、電圧50kV、管電流300mA、走査軸2θ/θで、測定範囲2θ=20〜36°、サンプリング幅0.04°、スキャンスピード0.2°/分で行った。
<XPS測定>
試料は、カーボンテープ上に正極活物質を密に転写して作製した。XPS測定では、PHI社製X線光電子分光装置Model 5500(線源:AlKα、モノクロ入り)を用いて、C1sの低エネルギー側のピークをコンタミネーションとみなし284.8eVに揃えた。測定エリアは直径約800μmの円内である。測定条件は、ワイドスキャンのパルスエネルギーが93.9eV、ステップエネルギーが0.8eV、ナロースキャン(図2および図3)のパルスエネルギーが23.5eV、ステップエネルギーが0.05eVで行った。
【0107】
[正極体シートの製造]
実施例1〜6および比較例1〜3で得られた正極活物質(1)〜(9)と、導電材であるアセチレンブラック、およびポリフッ化ビニリデン(バインダー)を12.1質量%含む溶液(溶媒N−メチルピロリドン)を混合し、さらに、N−メチルピロリドンを添加してスラリーを調製した。このとき、正極活物質(1)〜(9)とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとは、82:10:8の質量比とした。
同様に、実施例7〜10および比較例4で得られた正極活物質(10)〜(14)とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとは、80:10:10の質量比とした。
次いで、このスラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)に、ドクターブレードを用いて片面塗工した。そして、120℃で乾燥した後、ロールプレス圧延を2回行い、正極体シートを作製した。ここで、正極活物質(1)〜(14)から得られた正極体シートを、それぞれ正極体シート1〜14とした。
【0108】
[リチウムイオン二次電池の製造]
前記で得られた正極体シート1〜14を正極に用い、ステンレス鋼製簡易密閉セル型のリチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。なお、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体には厚さ1mmのステンレス板を使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いた。さらに、電解液には、濃度1mol/dmのLiPF/EC(エチレンカーボネート)+DEC(ジエチルカーボネート)(1:1)溶液(LiPFを溶質とするECとDECとの体積比(EC:DEC=1:1)の混合溶液を意味する。)を用いた。
また、正極体シート1〜14を用いたリチウムイオン二次電池を、電池1〜14とした。
【0109】
[リチウムイオン二次電池の評価]
前記で製造された電池1〜9について、下記の評価を行った。
(初期容量)
正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.7Vまで充電し、正極活物質1gにつき50mAの負荷電流で2.5Vまで放電した。続いて、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流で2.5Vまで放電した。
このような充放電を行った電池1〜9について、引き続き充放電正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流で2.5Vまで放電した。このとき、4.6〜2.5Vにおける正極活物質の放電容量を4.6V初期容量とした。
(レート特性)
4.6V初期容量の評価後、充放電正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき1000mAの負荷電流で2.5Vまで高レート放電した。このとき、高レート放電での4.6〜2.5Vにおける正極活物質の放電容量を、4.6V初期容量で割った値を算出し、この値をレート維持率とした。
(サイクル特性)
充放電正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流で2.5Vまで高レート放電する充放電サイクルを50回繰り返した。このとき、4.6V充放電サイクル50回目の放電容量を、4.6V初期容量で割った値を算出し、この値をサイクル維持率とした。
【0110】
電池1〜9についての、前記4.6V初期容量、レート維持率、およびサイクル維持率の評価結果を、表7に示す。
【0111】
【表7】
【0112】
前記で製造された電池10〜14について、下記の評価を行った。
(初期容量)
正極活物質1gにつき20mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき20mAの負荷電流で2.0Vまで放電した。このとき、4.6〜2.0Vにおける正極活物質の放電容量を4.6V初期容量とした。
(サイクル特性)
次いで正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.5Vまで充電し、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で2.0Vまで高レート放電する充放電サイクルを100回繰り返した。このとき、4.5V充放電サイクル100回目の放電容量を、4.5V充放電サイクル初回の放電容量で割った値を算出し、この値をサイクル維持率とした。
電池10〜14についての、前記4.6V初期容量、およびサイクル維持率の評価結果を、表8に示す。
【0113】
【表8】
【0114】
表7から、実施例1〜6の正極活物質(1)〜(6)を用いたリチウム電池1〜6は、比較例1〜比較例3の正極活物質(7)〜(9)を用いたリチウム電池7〜9に較べて、高い初期容量を有するとともに、レート維持率に優れ、しかも90%以上という高いサイクル維持率を有することがわかる。
したがって、本発明の第1の態様のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて正極を作製し、この正極を適用してリチウムイオン二次電池を構成した場合には、初期容量が高く、また優れたレート維持率およびサイクル維持率が得られることがわかる。
表5から、実施例7〜10の正極活物質(10)〜(13)を用いたリチウム電池10〜13は、比較例4の正極活物質(14)に較べて、正極活物質を水に分散した場合のpHが低く、遊離Liの比率も低い。従って正極活物質(10)〜(13)は正極体シートを形成する工程においてスラリーの粘度上昇やスラリーのゲル化というような問題が発生しにくい。
表8から、実施例7〜10の正極活物質(10)〜(13)を用いたリチウム電池10〜13は、比較例4の正極活物質(14)を用いたリチウム電池14に較べて、初期容量は同程度であるが、高いサイクル維持率を有することがわかる。
したがって、本発明の第2の態様のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて正極を作製した場合はゲル化の問題が発生しにくく、この正極を適用してリチウムイオン二次電池を構成した場合には、優れたサイクル維持率が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、単位質量あたりの放電容量が高く、かつサイクル特性およびレート特性に優れるリチウムイオン二次電池用の正極活物質を得ることができる。この正極活物質は、携帯電話等の電子機器、車載用の小型・軽量なリチウムイオン二次電池用に利用できる。
なお、2011年8月5日に出願された日本特許出願2011−172126号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1
図2
図3