特許第6052188号(P6052188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6052188-シリコン単結晶ウェーハの熱処理方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052188
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶ウェーハの熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20161219BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20161219BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01L21/324 X
   C30B29/06 B
   C30B33/02
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-6236(P2014-6236)
(22)【出願日】2014年1月16日
(65)【公開番号】特開2015-135872(P2015-135872A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 洋之
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−344823(JP,A)
【文献】 特開2008−135773(JP,A)
【文献】 特開2012−153548(JP,A)
【文献】 特開2003−086595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
C30B 29/06
C30B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶ウェーハに酸化性雰囲気下で熱処理を行う方法であって、
前記熱処理を行う際の熱処理温度、前記熱処理を行う前の前記シリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度、及び前記熱処理を行う前の前記シリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズの3者の相関関係から求められる条件に基づいて熱処理を行う方法であり、
前記3者の相関関係が、下記の関係式で表されることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
T≧37.5[Oi]+1.74Lvoid+890
(ここで、T:熱処理温度(℃)、[Oi]:熱処理を行う前のシリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度(ppma−JEIDA)、Lvoid:熱処理を行う前のシリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズ(nm)である。)
【請求項2】
前記シリコン単結晶ウェーハとして、Interstitial−Siに起因する欠陥を含まないシリコン単結晶から切り出されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
【請求項3】
前記熱処理温度は900℃以上1,200℃以下であり、熱処理時間は1分以上180分以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
【請求項4】
前記シリコン単結晶ウェーハとして、前記酸素濃度が8ppma−JEIDA以下のものを用いることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
【請求項5】
前記シリコン単結晶ウェーハとして、窒素がドープされていないか、もしくは5×1015atoms/cm以下の窒素がドープされたシリコン単結晶から切り出されたものを用いることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
【請求項6】
前記シリコン単結晶ウェーハとして、厚さが0.1mm以上20mm以下のものを用いることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
【請求項7】
前記Voidサイズとして、シミュレーションから求められたVoidサイズを適用することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化性雰囲気下でのシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの高集積化に伴い、シリコン(Si)単結晶ウェーハの高品質要求が厳しくなっている。ここでいう高品質とは、デバイスが動作する領域で欠陥が無いことである。メモリーやロジックなど従来大量に製造されてきたデバイスの多くは、ウェーハの表面近傍で動作するので、表面近傍の無欠陥化がなされてきた。それらを達成できるウェーハとして、エピタキシャルウェーハ、アニールウェーハ、無欠陥結晶から切り出されたPW(ポリッシュドウェーハ)などがある。
【0003】
しかし最近では省エネルギーの観点から、パワーデバイスなどが注目されている。このデバイスをSi結晶で作製する場合、大量の電気を流すために、ウェーハの厚み方向に電気を流す場合が多くなってきた。従って、表層近傍だけでなく、ウェーハの内部においても無欠陥化が必要となってきている。これを達成するために、例えばエピタキシャルウェーハにおいてエピタキシャル層の厚さをデバイスとして使う厚さまで厚く積む、ということは可能である。しかしながらこれは非常に高コストであり、現実的ではない。そこで結晶を育成する段階でGrown−in欠陥を無くし、結晶全体を無欠陥化した無欠陥結晶からウェーハを切り出すことが有効である。
【0004】
Grown−in欠陥には、格子点のSi原子が欠落したVacancy(空孔)タイプのVoid欠陥と、格子間にSi原子が入り込んだInterstitial−Si(格子間Si、以下I−Siと表記することがある)タイプの転位クラスタ欠陥の2種類存在することが知られている。このGrown−in欠陥の形成状態は、単結晶の成長速度やシリコン融液から引上げられた単結晶の冷却条件により違いが生じる。
【0005】
例えば成長速度を比較的大きく設定して単結晶を育成した場合には、Vacancyが優勢になることが知られている。このVacancyが凝集して集まった空洞状の欠陥はVoid欠陥と呼ばれ、検出のされ方によって呼称は異なるが、FPD(Flow Pattern Defect)、COP(Crystal Originated Particle)あるいはLSTD(Laser Scattering Tomography Defect)などとして検出される。これらの欠陥が例えばシリコン基板上に形成される酸化膜に取り込まれると、酸化膜の耐圧不良の原因となるなど、電気的な特性を劣化させると考えられている。
一方で成長速度を比較的低速に設定して単結晶を育成した場合には、I−Siが優勢になることが知られている。このI−Siが凝集して集まると、転位ループなどがクラスタリングしたと考えられるLEP(Large Etch Pit=転位クラスタ欠陥)が検出される。この転位クラスタ欠陥が生じる領域にデバイスを形成すると、電流リークなど重大な不良を起こすと言われている。
【0006】
そこでVacancyが優勢となる条件とI−Siが優勢となる条件との中間的な条件で結晶を育成すると、VacancyやI−Siが無い、もしくはVoid欠陥や転位クラスタ欠陥を形成しない程度の少量しか存在しない、無欠陥領域が得られる。このような無欠陥結晶を得る方法としては、例えば特許文献1に示されるような炉内温度や成長速度の制御による方法が提案されている。しかしながら、無欠陥結晶は一般に成長速度が遅いので生産性は相対的に低いという問題がある。
【0007】
更にCZ結晶において無欠陥領域を判定する手段は種々あるが、その中のひとつに酸素析出物がある。これはCZシリコン結晶中に存在する酸素が、熱処理を加えると酸素析出物(SiO)を形成するものである。この酸素析出反応はVacancyが存在すると進みやすくなる特性があるので、欠陥領域によって酸素析出物の生成状況が異なることを利用して、欠陥領域を判定するものである。
近年パワーデバイスやRFデバイスをはじめとして、メモリーやロジックなど様々なデバイスで低酸素品の需要が高まってきている。これは酸素があると低温熱処理でドナー化してしまい抵抗率が変化してしまうこと、デバイスプロセスが綺麗になったため従来行ってきたウェーハ内部に酸素析出物を形成して重金属不純物をゲッタリングするという技術が不要になってきていること、などのためである。一方、低酸素濃度化することにより、前述の酸素析出物による欠陥評価が難しくなり、無欠陥領域の判定が難しくなってきているという問題点もある。
【0008】
以上のような無欠陥結晶における問題点を解決する手段のひとつが、成長速度を速くすることが可能なVacancy−rich領域で結晶を育成することである。しかしこの領域においてはVacancyが凝集したVoid欠陥が発生する。そこでこれらのVoid欠陥を消滅させる技術が過去に開示されている。
【0009】
特許文献2、3では非酸化性熱処理+酸化熱処理でVoid欠陥を消滅させる技術が開示されている。これらの技術では、まず非酸化性熱処理を施すことにより、ウェーハ表層近傍の酸素を外方拡散させ、空洞状のVoid欠陥の内壁に存在している内壁酸化膜を溶解させる。その後酸化熱処理を行い、表面に形成された酸化膜からI−Siをウェーハ内部に注入してVoid欠陥を埋めるという技術である。特許文献4では処理の順序を逆にした酸化熱処理+非酸化性熱処理という技術が開示されている。
これらの技術によってVoid欠陥を消滅させることは可能であるが、これらの技術では2段階の熱処理が必要であり高コストである。また表層近傍のVoid欠陥しか消すことができないという問題点がある。
また特許文献5では、1,300℃で酸化熱処理する方法が開示されている。これは単段の熱処理ではあるが、1,300℃という高温のため、難易度が高く、ウェーハ汚染やスリップ転位発生の問題もある。
【0010】
以上の技術では酸素濃度の影響が明確化されていない。酸素濃度の影響を明記したものとしては、例えば特許文献6がある。これは複数のVoid欠陥が連結した形態を増加させることで、熱処理で消えやすくする技術である。しかし、この技術では非酸化性熱処理を行っており、以下に述べる酸化熱処理とは方向が異なり、酸素濃度を増加させたり、冷却速度を遅くしたりする方向が良いとなっている。
【0011】
これらに対し特許文献7では、酸化熱処理の場合には、酸素濃度が低ければ1,200℃以下の比較的低温の処理のみでVoid欠陥が消滅することが開示され、公知技術となっている。これはシリコン結晶中の酸素固溶限(平衡濃度)が例えば1,200℃では約8ppma−JEIDAであり、これより酸素濃度が低い場合には、Voidの内壁酸化膜が上述の特許文献2、3のように非酸化性熱処理を行わなくとも、溶解するためと考えられる。同時に表面に酸化膜が形成されI−Siが注入されるので、酸化熱処理をしただけで、特別な工程を必要とせずにVoidを消滅させることができるわけである。
【0012】
特許文献8ではこの技術を応用し、低酸素シリコンウェーハに酸化熱処理しVoid欠陥を消滅させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献8にはVoid欠陥のサイズに関する記載がない。また、特許文献9でも同様の技術が開示されており、こちらはVoidサイズが記載されているが、100nmと大きく、サイズ依存性については触れられていない。後述するがVoidサイズが大きいと酸化熱処理をしてもVoid欠陥が完全には消えないため、これらの技術ではVoid欠陥を消しきれないという問題がある。またこれらの技術はともに中性子照射品が対象であり、この回復熱処理を兼ねるためか熱処理温度が高めである上、処理時間が長めである。このため低コスト化という点では問題があり、更にはウェーハ汚染やスリップ転位発生の面でも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−157996号公報
【特許文献2】特開平11−260677号公報
【特許文献3】WO2000/012786号公報
【特許文献4】特開2013−89783号公報
【特許文献5】WO2003/056621号公報
【特許文献6】特開2000−272996号公報
【特許文献7】WO2004/073057号公報
【特許文献8】特開2006−344823号公報
【特許文献9】特開2010−265143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、酸化性雰囲気下での熱処理によって、低コストで、効率的、かつ確実にシリコン単結晶ウェーハのVoid欠陥や微小な酸素析出核を消滅させるシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明では、シリコン単結晶ウェーハに酸化性雰囲気下で熱処理を行う方法であって、
前記熱処理を行う際の熱処理温度、前記熱処理を行う前の前記シリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度、及び前記熱処理を行う前の前記シリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズの3者の相関関係から求められる条件に基づいて熱処理を行うシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法を提供する。
【0016】
このような熱処理方法であれば、酸化性雰囲気下での熱処理によって、低コストで、効率的、かつ確実にシリコン単結晶ウェーハのVoid欠陥や微小な酸素析出核を消滅させることができる。
【0017】
またこのとき、前記3者の相関関係が、下記の関係式で表されるものであることが好ましい。
T≧37.5[Oi]+1.74Lvoid+890
(ここで、T:熱処理温度(℃)、[Oi]:熱処理を行う前のシリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度(ppma−JEIDA)、Lvoid:熱処理を行う前のシリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズ(nm)である。)
【0018】
このような関係式を満たす熱処理温度、酸素濃度、Voidサイズとすることで、確実にVoid欠陥を消滅させることが可能である。
【0019】
またこのとき、前記シリコン単結晶ウェーハとして、Interstitial−Siに起因する欠陥を含まないシリコン単結晶から切り出されたものを用いることが好ましい。
【0020】
このようなシリコン単結晶ウェーハを用いれば、Interstitial−Siに起因する欠陥を含まず、かつ本発明の熱処理方法によってVoid欠陥が消滅した無欠陥のシリコン単結晶ウェーハを得ることができる。
【0021】
またこのとき、前記熱処理温度は900℃以上1,200℃以下であり、熱処理時間は1分以上180分以下であることが好ましい。
【0022】
このような熱処理温度であれば、電気的な特性に影響を与えるサイズのVoid欠陥を消滅させることができ、かつスリップ転位の発生を抑制することができる。
また、このような熱処理時間であれば、熱処理を行うのに十分であり、コストの増加を抑制することができる。
【0023】
またこのとき、前記シリコン単結晶ウェーハとして、前記酸素濃度が8ppma−JEIDA以下のものを用いることが好ましい。
【0024】
このような酸素濃度であれば、Void欠陥の消滅に必要な熱処理温度を下げることができるため、コストを下げることができる上、高温になるほど発生しやすい熱処理時のスリップ転位の発生を抑制することができる。
【0025】
またこのとき、前記シリコン単結晶ウェーハとして、窒素がドープされていないか、もしくは5×1015atoms/cm以下の窒素がドープされたシリコン単結晶から切り出されたものを用いることが好ましい。
【0026】
窒素がドープされていなくとも上記条件を満たせばVoid欠陥は消滅するが、窒素がドープされたものであれば、スリップ転位に対する耐性を向上させ、Voidサイズを小さくすることができる。
【0027】
またこのとき、前記シリコン単結晶ウェーハとして、厚さが0.1mm以上20mm以下のものを用いることが好ましい。
【0028】
このような厚さであれば、容易にウェーハの形状を保つことができ、また熱処理時間が長くなり過ぎないため、コストの増加を抑制することができる。
【0029】
またこのとき、前記Voidサイズとして、シミュレーションから求められたVoidサイズを適用することもできる。
【0030】
これにより、より簡便に熱処理の条件を求めることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法であれば、酸化性雰囲気下での熱処理によって、低コストで、効率的、かつ確実に、スリップ転位の発生を抑制しながらシリコン単結晶ウェーハのVoid欠陥や微小な酸素析出核を消滅させることができる。
また、I−Siに起因する欠陥を含まないウェーハを用いることで、Void、I−Siの両方に起因する欠陥を含まない無欠陥のシリコン単結晶ウェーハを得ることができる。このようなウェーハであれば、特に、メモリー・CPU・パワーデバイスなど半導体デバイスの基板として用いられる無欠陥ウェーハとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】[実験]において各温度((a)1,150℃、(b)1,100℃、(c)1,050℃、(d)1,000℃)での熱処理時のVoid欠陥消滅条件を酸素濃度とVoidサイズに対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上述のように、酸化性雰囲気下での熱処理によって、低コストで、効率的、かつ確実にシリコン単結晶ウェーハのVoid欠陥や微小な酸素析出核を消滅させることができる熱処理方法の開発が求められていた。
【0034】
酸化熱処理によってVoid欠陥が消滅するかどうかが、熱処理温度とウェーハの酸素濃度に関係することは特許文献7により公知であるが、実際にはウェーハのVoidサイズが大きいと酸化熱処理をしてもVoid欠陥が完全には消えないという問題があった。
本発明者らはこの点に着目し、鋭意検討を重ねた結果、Void欠陥を消滅させることができる酸化熱処理の条件には、熱処理温度とウェーハの酸素濃度だけではなく、ウェーハ中のVoidサイズも関係していることに想到し、これら3者の相関関係から求められる条件に基づいて熱処理を行うことで上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0035】
即ち、本発明は、シリコン単結晶ウェーハに酸化性雰囲気下で熱処理を行う方法であって、
前記熱処理を行う際の熱処理温度、前記熱処理を行う前の前記シリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度、及び前記熱処理を行う前の前記シリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズの3者の相関関係から求められる条件に基づいて熱処理を行うシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法である。
【0036】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書中、単に「酸素濃度」と言う場合、これは「熱処理前のシリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度」を示し、単に「Voidサイズ」と言う場合、これは「熱処理前のシリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズ」を示す。
【0037】
後述するが、各種サンプルを用意し酸化熱処理における熱処理温度、熱処理時間、酸素濃度、Voidサイズを振って実験を行い、Void欠陥消滅条件を求めたところ、Void欠陥が消滅するかどうかは、熱処理温度と酸素濃度とVoidサイズに依存していることが判った。
また上記の実験から、Void欠陥は、熱処理温度が高ければ消滅しやすく、酸素濃度が低いほど、またはVoidサイズが小さいほど消滅しやすいことが判った。一方で、熱処理時間には大きく影響されることは無かった。これはI−Siの拡散係数が比較的大きいので、数分程度でI−Siがウェーハの内部まで拡散するためと考えられる。従って、熱処理温度、酸素濃度、Voidサイズの3者の相関関係から求められる条件に基づいて熱処理を行うことが非常に有効である。
【0038】
これら3者の関係を具体的に数式で表すと、以下の式で表すことができる。
T≧37.5[Oi]+1.74Lvoid+890 (1)
また、この式を[Oi]、Lvoidを表す式に変形すると、以下の式となる。
[Oi]≦0.0267T−0.0464Lvoid−23.7 (2)
Lvoid≦0.575T−21.5[Oi]−510 (3)
ここで、Tは熱処理温度(℃)であり、[Oi]は熱処理を行う前のシリコン単結晶ウェーハ中の酸素濃度(ppma−JEIDA)であり、Lvoidは熱処理を行う前のシリコン単結晶ウェーハ中のVoidサイズ(nm)である。
【0039】
なお、酸素濃度を表す単位は各種あるので、ここでは「ppma−JEIDA」を用いている。これを比較的広く用いられている「atoms/cm−ASTM’79」に変換すると、[Oi](ppma−JEIDA)=[Oi]’(atoms/cm−ASTM’79)/(8×1016)となる。従って、単位として「atoms/cm−ASTM’79」を用いる場合には、上記式(1)〜(3)の[Oi]に[Oi]’/(8×1016)を代入して用いればよい。
【0040】
上記式(1)は、熱処理温度を、酸素濃度とVoidサイズから求められる温度以上に設定して熱処理すること、
上記式(2)は、酸素濃度を、熱処理温度とVoidサイズから求められる濃度以下に制御すること、
上記式(3)は、Voidサイズを、熱処理温度と酸素濃度から求められるサイズ以下に制御すること、
をそれぞれ意味しており、本発明の熱処理方法は、具体的には、これらのいずれかを満たす処理もしくは制御を行えばよい。
【0041】
この条件を満たした熱処理温度、酸素濃度、Voidサイズとすることで確実にVoid欠陥を消滅させることが可能である。更にこの関係を応用すれば、例えば酸素濃度を低めに制御し、かつVoidサイズを小さめに制御することで、熱処理温度を下げられる。熱処理温度を低温化できれば、コストを下げることができる上、高温になるほど発生しやすい熱処理時のスリップ転位の発生を抑制することも可能である。
【0042】
本発明の熱処理方法ではVoid欠陥を消滅させることは可能であるが、I−Siに起因する欠陥を消滅させることはできない。従って、シリコン単結晶ウェーハとして、I−Siに起因する欠陥を含まないシリコン単結晶から切り出されたものを用いることが好ましい。
【0043】
単結晶において、Void欠陥が発生する領域より低速成長側には、OSFの核が発生する領域(OSF領域)があり、更に低速側には無欠陥領域がある。無欠陥領域にはVacancyが多く含まれる領域(Nv領域)とI−Siが多く含まれる領域(Ni領域)があり、Nv領域には微小な酸素析出物の核が含まれる部分がある。更に低速側にI−Si起因の欠陥が発生するI−rich領域がある。
本発明の熱処理方法では、OSF核や微小酸素析出核も消滅可能と考えられる。従って、本発明の熱処理方法が有効に適用されるシリコン単結晶は、上述したI−rich領域を除く、Void欠陥発生領域、OSF領域、Nv領域、Ni領域が対象の領域である。
つまり、本発明の熱処理方法ではVoid欠陥発生領域の改善はもちろんであるが、OSF領域やNv領域の改善効果も期待できる。従ってI−Siに起因する欠陥が無い領域では、全ての領域で本発明の熱処理方法が有効である。
【0044】
本発明の熱処理方法において、熱処理温度は900℃以上1,200℃以下であることが好ましい。熱処理温度が900℃以上であれば、電気的な特性に影響を与えるサイズのVoid欠陥を消滅させることができる。また、熱処理温度を1,200℃以下とすることで、コストを抑え、またスリップ転位の発生を抑制することができる。また、1,150℃以下であれば、スリップ転位の発生を更に抑制することができるため、1,150℃以下とすることがより好ましい。
【0045】
また、熱処理時間は、用いるウェーハの厚さにもよるが、1分以上180分以下であることが好ましい。先にも述べたようにI−Siの拡散は比較的速く、1分で通常のウェーハ厚さ1mm弱の拡散距離が得られるので、熱処理時間は1分程度で十分である。一方で熱処理時間が長くなると、コストが増加するので180分を上回る処理時間は必要ない。
【0046】
また、シリコン単結晶ウェーハとしては、酸素濃度が8ppma−JEIDA以下のものを用いることが好ましい。これは、前述の好ましい熱処理温度である1,200℃の酸素固溶限が約8ppma−JEIDAであり、それを超える酸素濃度ではより高温での処理が必要になるためである。また、酸素濃度が6ppma−JEIDA以下のものを用いることがより好ましい。これは、1,150℃の酸素固溶限が約6ppma−JEIDAであり、1,150℃以下であれば、スリップ転位の発生を更に抑制できるためである。また酸素濃度の下限はなく、上述の式からも判るように酸素濃度が低ければ低いほど、Void欠陥の消滅に必要な熱処理温度を下げることができるため、コストを下げることができる上、高温になるほど発生しやすい熱処理時のスリップ転位の発生を抑制することができる。また、CZ結晶から切り出したウェーハに限らず、FZ結晶のように酸素をほとんど含まない結晶から切り出したウェーハにおいても、本発明の熱処理方法を用いることが可能である。
【0047】
本発明の熱処理方法に用いられるシリコン単結晶ウェーハは、抵抗率を制御するためのドーパントを除いて、故意に不純物をドープした結晶でない、一般的な結晶から切り出されたものであることが好ましい。一般的な結晶であっても、上記の条件を満たす低酸素濃度であればVoid欠陥が消滅するからである。
【0048】
一方で窒素をドープすると、スリップ転位に対する耐性が向上することが知られている。また窒素をドープすると欠陥形成温度帯が低温化し、Voidサイズが小さくなりやすい。従って、本発明の熱処理方法においては、抵抗率を制御するためのドーパントに加え、窒素を故意にドープした結晶から切り出したシリコン単結晶ウェーハを用いることも好ましい。
このとき、窒素をドープする量としては、5×1015atoms/cm以下であることが好ましい。シリコン結晶における窒素の固溶限が15乗台と言われているため、上記の濃度以下とすることで、窒素の高濃度ドープによって結晶が有転位化する恐れがない。一方で窒素濃度が低い方は、いくら低くてもよい。なぜなら窒素ドープしない場合であっても問題なく本発明の熱処理方法を用いることができるからである。
【0049】
また本発明の熱処理方法において、シリコン単結晶ウェーハとしては、厚さが0.1mm以上20mm以下のものを用いることが好ましい。本発明の熱処理方法においては、ウェーハが薄くなっても全く問題無いが、0.1mm以上であれば、ウェーハの形状を保つのが容易であるため好ましい。
一方で、前述のようにコストなどの面から熱処理は1,200℃以下、180分以下で行うのが好ましい。1,200℃、180分の熱処理でのI−Siの拡散距離は10mm程度である。酸化膜は表面と裏面との両面に形成され、そこからI−Siが供給されるので、1,200℃、180分の熱処理を行っても20mm程度のウェーハ厚さまでしか改質ができない。従って、前述の熱処理温度、熱処理時間内でウェーハ全体のVoid欠陥を消滅させるためには、ウェーハの厚さが20mm以下のものを用いることが好ましい。
【0050】
また、本発明の熱処理方法に用いられるシリコン単結晶ウェーハの表面状態は、例えば研磨面、エッチング面、ラップ面、研削面、スライス面など、シリコンウェーハ製造工程で用いられる範囲の面状態であればよい。本発明の熱処理方法においては、酸化膜が形成されればよいので、特に表面の状態を気にする必要がない。熱処理炉に入れるために洗浄などは必要ではあるが、その他に特殊な表面処理などは必要でなく、ウェーハを製造する工程のどこででも熱処理が可能である。従って、シリコンウェーハ製造工程で用いられるどこかの面状態で熱処理を行えばよい。
【0051】
また、本発明の熱処理方法において、Voidサイズは、例えばTEMやSEMによって直接観察して求めることが理想的である。しかし、育成した結晶毎にそれらの評価を行うのは簡単ではない。
そこで、Voidサイズとして、シミュレーションから求められたVoidサイズを適用してもよい。これにより、実際にVoidサイズを測定する手間を省き、より簡便に熱処理の条件を求めることができる。
【0052】
なお、シミュレーションの方法は様々であり、計算に用いる値も複数の値が報告されている場合が多い。従って、各々のシミュレーションから求められたVoidサイズが一致するとは限らない。
そこで、シミュレーションを用いる場合は、シミュレーションから求められたVoidサイズを、TEMやSEM等による観察で得られたVoidサイズ(実測値)で補正して用いることが好ましい。このようにすれば、現実のVoidサイズをより正確に反映することができ、またシミュレーションの方法が違っていても、計算が妥当であれば、比較が可能となる。
【0053】
また、本発明の熱処理方法は、酸化性雰囲気下で行う方法であり、酸素含有雰囲気であればよくこのときの酸素流量等は特に限定されない。
【0054】
以上のように、本発明のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法であれば、酸化性雰囲気下での熱処理によって、低コストで、効率的、かつ確実に、スリップ転位の発生を抑制しながらシリコン単結晶ウェーハのVoid欠陥や微小な酸素析出核を消滅させることができる。
また、I−Siに起因する欠陥を含まないウェーハを用いることで、Void、I−Siの両方に起因する欠陥を含まない無欠陥のシリコン単結晶ウェーハを得ることができる。このようなウェーハであれば、特に、メモリー・CPU・パワーデバイスなど半導体デバイスの基板として用いられる無欠陥ウェーハとして好適である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[実験]
CZ法もしくは磁場印加CZ(MCZ)法を用いて、直径が200mmもしくは300mmを少し超える太さのシリコン単結晶を育成した。このとき酸素濃度及びVoidサイズを振って結晶を育成した。酸素濃度は結晶の回転数、ルツボの回転数、炉内の圧力、パージのために流しているArガスの流量などを変えて制御した。一方でVoidサイズは、窒素ドープの有無に加え、炉内部品の構造や成長速度を制御して変化させた。このときI−Siに起因する欠陥が含まれないように結晶成長条件を調整した。
【0057】
この結晶を円筒研削して所望の太さの円柱状のブロックに加工した後、ブロックから厚さ約1.2mmのウェーハ状サンプルを切り出した。なお、このとき、サンプルは1箇所につき隣接する位置で3枚ずつ切り出し、このうち1枚は熱処理前の酸素濃度や、FPD・LEP・LSTDの有無、Voidサイズの測定用のサンプル(以下、測定用サンプルと称する)とし、他の2枚は実際に後述のような熱処理を行い、熱処理後のFPD・LSTDを測定するサンプル(以下、熱処理用サンプルと称する)とした。また、サンプルはウェーハ内での面内分布も含めて35水準用意した。このうち5水準は窒素をドープしたものであり、その濃度は4〜12×1013atoms/cmであった。
【0058】
測定用サンプルを高輝度平面研削した後、FT−IR法によって酸素濃度を求めた。このとき測定用サンプルの酸素濃度は、0.4〜12.2ppma−JEIDA(0.3〜9.8×1017atoms/cm−ASTM’79)の間であった。更に、測定用サンプルをフッ酸、硝酸、酢酸からなる混酸でミラーエッチングした。次に、フッ酸、硝酸、酢酸、水からなる選択性のあるエッチング液に測定用サンプルを揺動せず放置し選択エッチングを行った。これらの測定用サンプルにはFPDは観察されるが、LEPは観察されず、I−Siに起因する欠陥が無いことが確認できた。
【0059】
更に、これらの測定用サンプルを劈開して赤外散乱トモグラフMO441(レイテック社製)にてLSTDを観察した。なお、MO441では表面から深さ約400μmまで観察した。赤外散乱トモグラフでは光学系の高感度化により、サイズ20nmまで欠陥を検出可能である。また赤外散乱法において、欠陥から散乱される強度は欠陥体積の2乗、欠陥サイズの6乗に比例する。この特徴を利用すれば欠陥サイズを求めることが可能である。しかしながら、散乱光強度が欠陥サイズの6乗に比例するため、小さな欠陥を見る場合と大きな欠陥を見る場合とでのダイナミックレンジが大きすぎて、全サイズに渡ってのサイズ比較評価が難しい。
【0060】
そこで本手法では、ボロンコフ氏がはじめに提唱し(V.V.Voronkov;Journal of Crystal Growth,59(1982)625〜643参照)発展したシリコン単結晶中のGrown−in欠陥の理解に基づき、界面で導入された点欠陥が坂道拡散や対消滅の末に過飽和となった欠陥量を求め、それが凝集する過程を計算した。このGrown−in欠陥のサイズシミュレーションにより求めた欠陥サイズを、多数点のSEM観察を行い平均Voidサイズが明確になっているサンプルで規格化してVoidサイズを求め、赤外散乱トモグラフの散乱光強度でこれを検証し、最終的なVoidサイズとして求めた。その結果、今回の測定用サンプルではVoidサイズが21nmから111nmまで振れていた。なお、シミュレーションにより求めた欠陥サイズは球体を仮定した直径として求めた。
以上のようにして、ウェーハ内での面内分布も含めて35水準の測定用サンプルの熱処理前の酸素濃度及びVoidサイズを測定した。
【0061】
次に、上述の熱処理用サンプルを用いて実際に熱処理を行った。
まず、熱処理の前処理として、2枚の熱処理用サンプルを高輝度平面研削した後、それぞれ4分割し上述の混酸によりミラーエッチングした。エッチング後、熱処理用サンプルをドライ酸素3L/minの酸化性雰囲気で熱処理した。このとき、熱処理温度及び熱処理時間は、(a)1,150℃で30分又は60分、(b)1,100℃で30分又は60分、(c)1,050℃で60分又は120分、(d)1,000℃で60分又は120分、の4×2=8パターンとした。
【0062】
熱処理したサンプルは表面に酸化膜が形成されているので、フッ酸にてこれを除去した。
その後、測定用サンプルと同様に、表面を混酸にてミラーエッチングした後、選択エッチングを行いFPDの観察を行った。熱処理をしていない測定用サンプルに比較して、FPDが消えているものがあった。次に、このサンプルを劈開し、MO441でLSTDの有無を確認した。ここでも熱処理をしていない測定用サンプルに比較して、LSTDが消えているものが確認された。
表面状態はエッチング面であるが、特に問題なく酸化処理で欠陥が消滅した。FPDが消滅しているケースとLSTDが消滅しているケースは基本的に同じ傾向であった。ただ、FPDの方が消滅しやすい傾向が見られた。これは、FPDは表層数十μmを観察しているのに対し、LSTDはウェーハ内部まで観察しているためと考えられる。一方、各熱処理温度で熱処理時間を2水準振っているが、欠陥が消滅するかどうかは熱処理時間にはほとんど依存していなかった。
【0063】
以上の結果を、横軸に酸素濃度、縦軸にVoidサイズをとって、欠陥が消滅した場合を○、残存した場合を×としてプロットしたものを図1の(a)〜(d)に示す。なお、FPDは表層近傍しか見ていないので、図1ではLSTDの結果を示している。また、熱処理時間による依存は無かったので、各熱処理温度(a)〜(d)では熱処理時間が60分のものの結果のみを示している。
【0064】
図1の各温度でVoid欠陥が消滅した条件を見ると、酸素濃度が低いほど、またVoidサイズが小さいほど消滅しやすいことが判る。また1,150℃から1,000℃と温度が下がるほど、消滅し難くなっていることが判る。
ここで、Void欠陥が消滅する過程を考えると、はじめに内壁酸化膜が消え、次にI−SiがVoid欠陥を埋める。内壁酸化膜が消えるかどうかは、先に述べたように、酸素濃度が熱処理温度での酸素固溶限より下回っているかどうかである。つまり消滅するかどうかの温度依存性は、酸素固溶限によって決まると考えられる。
【0065】
酸素固溶限は幾つか報告があるが、例えば[Oi]=2.65×10exp[−1.035/{k(T+273)}]と記述される。ここで、kはボルツマン定数で8.62×10−5である。この式を用いると1,150℃で約6ppma−JEIDA、1,000℃で約2ppma−JEIDAとなる。従ってこの温度範囲であれば温度と酸素との間には、おおよそT∝37.5[Oi]の関係が成り立つことになる。これを元に図1の(a)〜(d)の消滅する条件を求めると、T≧37.5[Oi]+1.74Lvoid+890が求められる。これを酸素濃度について求めると[Oi]≦0.0267T−0.0464Lvoid−23.7、Voidサイズについて求めるとLvoid≦0.575T−21.5[Oi]−510が得られる。
【0066】
以上の実験から、酸化によりVoid欠陥が消滅するかどうかが、熱処理温度、酸素濃度、Voidサイズの3つの関係で決まるということが明らかとなった。
【0067】
[実施例1]
上述の実験で用意したブロックのうち、直径が300mm、酸素濃度が3.2ppma−JEIDA、Voidサイズが38nmである窒素をドープしていないブロックの部分からウェーハを切り出し、厚さが775μmのポリッシュドウェーハ(PW=研磨面)を作製した。測定した酸素濃度[Oi]及びVoidサイズLvoidを関係式に代入して必要な熱処理温度を求めると、
T≧37.5×3.2+1.74×38+890=1,076
となった。この求めた熱処理温度に基づいて、ウェーハにドライ酸素3L/minの酸化性雰囲気下、1,150℃にて、30分熱処理を行った。
熱処理後に酸化膜を除去した後、このウェーハをMO441で欠陥観察した結果、LSTDは検出されなかった。
【0068】
[実施例2]
ルツボの外径が概略660mmである結晶引上げ装置を用いて、直径が概略200mmの結晶をMCZ法により育成した。この結晶には窒素をドープした。この結晶の隣接する位置から1.2mm厚さのウェーハを2枚切り出した。ウェーハを切り出した位置での窒素濃度は8×1013atoms/cmであった。切り出したウェーハのうち1枚を両面研削した後、FT−IRにて酸素濃度を測定したところ、2.8ppma−JEIDAであった。この測定用のウェーハをフッ酸、硝酸、酢酸からなる混酸にてミラーエッチングした後、劈開してMO441にて観察しところ、LSTDが検出されそのサイズは40nmであった。測定した酸素濃度[Oi]及びVoidサイズLvoidを関係式に代入して必要な熱処理温度を求めると、
T≧37.5×2.8+1.74×40+890=1,065
となった。切り出したウェーハのうちもう1枚を平面研削した後、ミラーエッチングし、上記のようにして求めた熱処理温度に基づいて、このウェーハにドライ酸素3L/minの酸化性雰囲気下、1,100℃にて、30分熱処理を行った。
熱処理後に酸化膜を除去した後、このウェーハをMO441で欠陥観察した結果、LSTDは検出されなかった。
【0069】
[比較例1]
ルツボの外径が概略660mmである結晶引上げ装置を用いて、直径が概略200mmの結晶をMCZ法により育成した。この結晶には窒素をドープした。この結晶の隣接する位置から1.2mm厚さのウェーハを2枚切り出した。ウェーハを切り出した位置での窒素濃度は7×1013atoms/cmであった。切り出したウェーハのうち1枚を平面研削した後、ミラーエッチングし、酸素濃度及びVoidサイズの測定を行わず、ドライ酸素3L/minの酸化性雰囲気下、1,150℃にて、30分熱処理を行った。
熱処理後に酸化膜を除去した後、このウェーハをMO441で欠陥観察した結果、LSTDが検出された。
【0070】
確認のため、切り出したウェーハのうちもう1枚を両面研削した後、FT−IRにて酸素濃度を測定したところ、11.2ppma−JEIDAであった。この測定用のウェーハをフッ酸、硝酸、酢酸からなる混酸にてミラーエッチングした後、劈開してMO441にて観察しところ、LSTDが検出され、そのサイズは22nmと非常に小さいものであった。測定した酸素濃度[Oi]及びVoidサイズLvoidを関係式に代入して必要な熱処理温度を求めると、
T≧37.5×11.2+1.74×22+890=1,348
であり、熱処理温度を1,150℃とした熱処理でLSTDが消えなかったのは、相関関係から求められる熱処理温度を満たさなかったためであることが示唆された。
【0071】
以上のことから、本発明のシリコン単結晶ウェーハの熱処理方法であれば、酸化性雰囲気下での熱処理によって、低コストで、効率的、かつ確実にシリコン単結晶ウェーハのVoid欠陥や微小な酸素析出核を消滅させられることが明らかとなった。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1