特許第6052279号(P6052279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6052279-ベータアルミナ質焼結体とその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052279
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ベータアルミナ質焼結体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/113 20060101AFI20161219BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20161219BHJP
   H01B 13/00 20060101ALN20161219BHJP
   H01M 10/39 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   C04B35/10 A
   !H01B1/06 A
   !H01B13/00 Z
   !H01M10/39 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-502155(P2014-502155)
(86)(22)【出願日】2013年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2013054225
(87)【国際公開番号】WO2013129211
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年8月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-43515(P2012-43515)
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】光井 彰
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭51−027869(JP,B1)
【文献】 特公昭52−012395(JP,B1)
【文献】 特開平07−065857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/113
H01B 1/06
H01M 10/39
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaOとAlとを主成分とするベータアルミナ質焼結体であって、ベータアルミナ結晶相と、RNbO(R:Li、NaおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素)結晶相と、を含有し、
前記ベータアルミナ質焼結体の化学組成が酸化物基準で、NaOを8〜15質量%、Nbを5〜30質量%、NiOが1〜10質量%、残部がAlからなることを特徴とするベータアルミナ質焼結体。
【請求項2】
前記ベータアルミナ結晶相中にβ"アルミナ結晶相を含む請求項1記載のベータアルミナ質焼結体。
【請求項3】
前記RNbOのRがNaである請求項1又は2記載のベータアルミナ質焼結体。
【請求項4】
ベータアルミナ粉末とRNbO(R:Li、NaおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素)粉末とを混合し、混合物を成形、焼成することを含み、
前記ベータアルミナ粉末中に、NiOを含有することを特徴とする請求項1に記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼成において焼成温度が1450℃未満である請求項記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記ベータアルミナ粉末中に、β"アルミナを含有する請求項又は記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記RNbOのRがNaである請求項4〜6のいずれかに記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池(二次電池)用の固体電解質として利用できるベータアルミナ質焼結体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Na−S電池、Na−溶融塩電池などの蓄電池の固体電解質として、高いナトリウムイオン導電性(以下、単にイオン導電性と略す)を示すベータアルミナ質焼結体が用いられている。ベータアルミナには、化学組成がNaO・xAl(x=9〜11)で表されるβアルミナと、NaO・xAl(x=5〜7)で表されるβ”アルミナの2種類の結晶形がある。以下、本明細書においてベータアルミナは、βアルミナとβ”アルミナとを総称するものとして使用する。これらのうちβ”アルミナの方が、結晶構造内のナトリウムイオン含有量が高く、また、相対的にイオン導電性が高いため、固体電解質用途に多用されている。一方、β”アルミナは、準安定物質であるため、その結晶構造を維持しにくいことが知られている。
【0003】
ベータアルミナは、その結晶形に関係なく難焼結性であるため、密度の高い緻密な焼結体を得るためには、焼成温度は1600℃以上の高温が必要である。ベータアルミナには、高温で揮散しやすい成分であるNaOを必須成分として含んでおり、焼成温度の低温化が望まれている。
【0004】
従来、ベータアルミナの焼成においては、焼成温度を下げる方法として、液相焼結が提案されていた。液相焼結では、比較的低温で液相となる焼結助剤を添加して焼成する。焼結助剤の選択が適切でないと、粒子間同士で異常粒成長が起こり、かえって焼結体の緻密化が阻害され、機械的強度が低下するおそれがある。また、焼結助剤は焼成後には、結晶相として焼結体内に残存し、焼結体の耐久性等に影響を及ぼす場合がある。
【0005】
特許文献1には、β”アルミナの安定化剤であるLiOを、焼結体全体に対する重量比で0.5〜0.75wt%添加することにより、液相焼結において焼成温度を1450℃まで低下でき、かつ、緻密な焼結体が得られる方法が提案されている。しかし、安定化剤としてLiOを用いた焼結体は、長期間使用する際の耐久性が不十分である。
【0006】
特許文献2には、焼結助剤としてBi、CuO又はPbOを添加することにより、ベータアルミナの焼成温度を1300〜1400℃と低下させ、NaOの揮散を抑制する方法が提案されている。しかしこの方法では、焼結体の相対密度が最大で94%であり、緻密で機械的強度が高いベータアルミナ質焼結体が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特開平7−65857号公報
【特許文献2】日本特開平2−229755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、焼成過程におけるNaOの揮散を抑制し、緻密でイオン導電性が高く、耐久性に優れたベータアルミナ質焼結体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、焼結助剤としてRNbO(R:Li、NaおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素)をベータアルミナ粉末に添加することで、ベータアルミナ質焼結体の焼成温度を低下できることを見出し、また、固体電解質として好適な緻密で機械的強度に優れ、イオン導電性の高いベータアルミナ質焼結体が得られることを見出した。さらに、最適な安定化剤を併用すると異常粒成長の抑制効果が高まることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
[1]NaOとAlとを主成分とするベータアルミナ質焼結体であって、ベータアルミナ結晶相と、RNbO(R:Li、NaおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素)結晶相と、を含有し、前記ベータアルミナ質焼結体の化学組成が酸化物基準で、NaOを8〜15質量%、Nbを5〜30質量%、NiOが1〜10質量%、残部がAlからなることを特徴とするベータアルミナ質焼結体。
[2]前記ベータアルミナ結晶相中にβ"アルミナ結晶相を含む上記[1]記載のベータアルミナ質焼結体。
[3]前記RNbOのRがNaである上記[1]又は[2]記載のベータアルミナ質焼結体
【0011】
]ベータアルミナ粉末とRNbO(R:Li、NaおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素)粉末とを混合し、混合物を成形、焼成することを含み、前記ベータアルミナ粉末中に、NiOを含有することを特徴とする上記[1]記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
]前記焼成において焼成温度が1450℃未満である上記[]記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
]前記ベータアルミナ粉末中に、β"アルミナを含有する上記[]又は[]記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法。
]RNbOのRがNaである上記[]〜[]のいずれかに記載のベータアルミナ質焼結体の製造方法

【発明の効果】
【0012】
本発明のベータアルミナ質焼結体の製造方法によると、焼成温度を1450℃未満にできる。そのため、焼成過程中におけるNaOの揮散を抑制できる。また、含有成分の揮散が抑制されるため、昇温時間や保持時間を長く設定して炉内の温度を均一にして焼成でき、製品の品質安定性に優れる。さらに、焼結体中で異常粒成長が抑えられるため、緻密でイオン導電性が高いベータアルミナ質焼結体が得られる。これは蓄電池(二次電池)用の固体電解質として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の焼結体破断面のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明のベータアルミナ質焼結体はベータアルミナ結晶相を含む焼結体であり、その中には、RNbO結晶相とベータアルミナ結晶相が含まれる。
【0016】
本発明のベータアルミナ質焼結体中に含まれるRNbO結晶相は、ベータアルミナ粒子の粒界の結合強化材として働くため、高寿命で信頼性の高い固体電解質の製造を実現できる。RNbO結晶相の元となるRNbO粉末は低融点の焼結助剤であり、焼成時は液相状態となりベータアルミナの焼結を促進する。液相状態にあるRNbOは、ベータアルミナ結晶粒子間を埋めて、緻密な焼結体となるように働く。
【0017】
前記RNbOのアルカリ金属元素(R)としては、Na元素の場合に上記の作用を最もよく発揮するため、ベータアルミナ質焼結体中にNaNbO結晶相が存在すること、又は焼結助剤としてNaNbO粉末を用いることが好ましい。
【0018】
本発明のベータアルミナ質焼結体中において、ベータアルミナ結晶相は、少量のβアルミナ結晶相を含んでいてもよいが、β”アルミナ結晶相が大半を占めることがイオン導電性の点で好ましい。イオン導電性を高めるためには、β”アルミナ結晶相のみからなることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のベータアルミナ質焼結体中には、β”アルミナ結晶構造を安定に維持する安定化剤を含むことが好ましい。安定化剤は、結晶構造維持だけでなく焼成過程、特に液相が存在する過程において異常粒成長を防ぐ効果を有することが好ましい。
【0020】
安定化剤としては、NiOが、β”アルミナ結晶構造を維持するだけでなく、焼結時に異常粒成長を防止し、焼結体を緻密にできるため好ましい。また、NiOは焼結体中のベータアルミナ結晶相中に存在することがより好ましく、β”アルミナ結晶構造内に存在することがさらに好ましい。
【0021】
なお、前記結晶相は、X線回折装置を用いた同定により、その存在を確認できる。
【0022】
本発明のベータアルミナ質焼結体の化学組成は、酸化物基準で、NaOが8〜15質量%、Nbが5〜30質量%、残部がAlからなることが好ましい。
【0023】
そして、本発明のベータアルミナ質焼結体は、安定化剤としてNiOを含み、化学組成が、酸化物基準で、NaOが8〜15質量%、Nbが5〜30質量%、NiOが1〜10質量%、残部がAlからなることがより好ましい。
【0024】
以下に、各化学成分について前記範囲に限定している理由を説明する。
【0025】
酸化ナトリウム(NaO)は、ベータアルミナ相を形成するために必須な成分である。その含有量は、8〜15質量%が好ましい。8質量%未満では、ベータアルミナ相が十分に生成せず、15質量%を超えると、結晶相中に過剰のアルミン酸ナトリウムが残存し、イオン導電性が低下する。含有量は、9〜14質量%がより好ましく、10〜13質量%がさらに好ましい。
【0026】
酸化ニオブ(Nb)は、RNbO相の原料である。含有量は、5〜30質量%が好ましい。5質量%未満では、緻密な焼結体が得られない。また、30質量%を超えると、イオン導電性が低下する。緻密でイオン導電性を高めるため含有量は、6.5〜28質量%がより好ましく、8〜25質量%がさらに好ましい。
【0027】
酸化ニッケル(NiO)は、β”アルミナ結晶構造の安定化剤である。含有量は、1〜10質量%が好ましい。1質量%未満および10質量%を超では、β”アルミナ結晶構造が不安定になる。また焼結時に異常粒成長の原因となり、緻密な焼結体でかつイオン導電性が高いものが得られない。そのため含有量は、3〜6.5質量%がより好ましく、4.5〜5.5質量%がさらに好ましい。
【0028】
酸化アルミニウム(Al)は、ベータアルミナ相を形成する必須成分である。その含有量は、他の成分との合計量が100質量%となるように調整される。
前記化学組成は、蛍光X線分析法により定量的に測定できる。
【0029】
また、本発明のベータアルミナ質焼結体は、相対密度を97%以上、開気孔率を0.5体積%以下とすることが、緻密化を達成するため好ましい。開気孔率は0.3体積%以下であることがより好ましい。相対密度が高くなること、特に開気孔率が低くなるほど、イオン導電性および機械的強度が向上し、固体電解質として、より好ましいものとなる。前記相対密度および開気孔率はアルキメデス法により求められる。
【0030】
次に、本発明の実施形態のベータアルミナ質焼結体を製造する方法について説明する。なお、ここでは、RNbOとしてNaNbOを、安定化剤としてNiOを用いているが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施形態のベータアルミナ質焼結体は、ベータアルミナ粉末とNaNbO粉末を混合し、混合物を成形し、焼成して製造される。
【0032】
ベータアルミナ粉末は以下のようにして合成する。炭酸ナトリウム(NaCO)粉末、アルミナ(Al)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末を用意する。これらの原料粉末をNaCO、AlおよびNiOの合計質量(NaCO+Al+NiO)に対して、NaCOが15〜17質量%、Alが78〜80質量%、NiOが5〜7質量%となるように、所定の割合で秤量し、ボールミルなどを用いて混合して、混合粉末を得る。なお、使用する原料粉末は、焼結体がベータアルミナ結晶相となるものであれば、特に限定されない。
【0033】
前記混合粉末は、アルミナるつぼなどの耐熱容器に入れ、大気中1000〜1300℃で仮焼し、NiOを安定化剤としたベータアルミナ粉末を合成する。このときの保持時間は例えば1〜10時間がよい。なお、炭酸ナトリウム中のCO成分は仮焼中に飛散する。
【0034】
一方、NaNbO粉末は以下のようにして合成する。炭酸ナトリウム(NaCO)粉末と酸化ニオブ(Nb)粉末を用意する。これらの原料粉末をNaCOとNbの合計質量(NaCO+Nb)に対して、NaCOが28〜29質量%、Nbが71〜72質量%となるように所定の割合で秤量し、ボールミルなどを用いて混合して、混合粉末を得る。なお、使用する原料粉末は、以下の仮焼工程でNaNbOの化学組成になるものであれば、特に限定されない。
【0035】
得られた混合粉末は、アルミナるつぼなどの耐熱容器に入れ、大気中800〜1000℃で仮焼し、NaNbO粉末を合成する。このときの保持時間は1〜10時間程度がよい。なお、炭酸ナトリウム中のCO成分は仮焼中に飛散する。
【0036】
上のようにして合成した、ベータアルミナ粉末とNaNbO粉末とを、ベータアルミナ粉末とNaNbO粉末の合計質量に対してベータアルミナ粉末が50〜93質量%、NaNbO粉末が7〜50質量%となるように所定の割合で秤量する。このとき、NaNbOが7質量%未満では、緻密な焼結体が得られない。また、NaNbOが50質量%超では、焼結体のイオン導電性が低下する。ベータアルミナ粉末の含有量が70〜88質量%でNaNbOの含有量が12〜30質量%であることが、緻密化と、高イオン導電性を示す点で好ましく、ベータアルミナ粉末の含有量が78〜86質量%でNaNbOの含有量が14〜22質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
秤量後、粉末を平均粒径が10μm以下、好ましくは2μm以下になるまで湿式で混合および粉砕し、その後、乾燥することで混合粉末を得る。粉末の平均粒径を小さくすることで、緻密な焼結体を製造できる。本明細書において、平均粒径は、レーザ回折法により測定した値をいうものとする。なお、粉砕の方法には特に制限はなく、例えばボールミル、アトライター、ビーズミル又はジェットミル等を用いて粉砕できる。
【0038】
また、ベータアルミナ粉末とNaNbO粉末との混合粉末は、ベータアルミナ粉末とNaNbO粉末を別々に合成して混合することなく、以下のようにして同時に合成できる。まず、炭酸ナトリウム(NaCO)粉末、アルミナ(Al)粉末、酸化ニッケル(NiO)粉末と酸化ニオブ(Nb)粉末を用意する。これらの原料粉末をNaCO、Al、NiOおよびNbの合計質量(NaCO+Al+NiO+Nb)に対して、NaCOが16〜25質量%、NiOが3〜6質量%、Nbが7〜35質量%、残部がAlとなるように、所定の割合で秤量し、ボールミルなどを用いて混合して、混合粉末を得る。
【0039】
前記混合粉末を、アルミナるつぼなどの耐熱容器に入れ、大気中1000〜1300℃で仮焼し、ベータアルミナ粉末とNaNbO粉末の混合粉末を合成する。このときの保持時間は例えば1〜10時間が好ましい。また、このときの仮焼温度は、1000℃以上であれば、反応が十分進行し、この粉末を用いた焼結体の密度を十分高くできる。さらに、1300℃以下であれば粉末の固さを適切にでき、粉砕にかかる時間を短くできるため好ましい。仮焼温度はより好ましくは、1000〜1200℃の温度範囲であり、十分に反応が進みかつ粉砕時間が比較的短時間となる良好な混合粉末が得られる。得られた混合粉末を前述と同様に平均粒径が10μm以下、好ましくは2μm以下になるまで湿式で粉砕し、その後、乾燥することで混合粉末を得られる。
【0040】
このようにして得られたベータアルミナ粉末とNaNbO粉末との混合粉末を、所定形状に成形して成形体を得る。成形の方法は特に制限されず、一般的な成形法が使用できる。例えば、静水圧プレスにより100〜200MPaの加圧力をかけて成形できる。また、混合粉末に有機バインダを加えた混合物を混練し、これをプレス成形、押出成形又はシート成形等により所定形状に成形できる。成形により得られる形状にも特に制限はなく、用途に応じて種々の形状にできる。
【0041】
前記成形体を、大気中で1450℃未満の温度で1〜12時間加熱して焼成する。焼成温度が低すぎると、NaNbOの溶解による液相焼結の効果が十分でなく、緻密な焼結体が得られない。一方、高すぎると、NaOが揮散するため好ましくない。したがって、焼成温度は1350℃以上1450℃未満が好ましく、1375〜1425℃がさらに好ましい。
【0042】
最高温度での保持時間は特に制限はないが、例えば1〜12時間、好ましくは2〜5時間である。焼成雰囲気も特に制限されず、例えば、大気雰囲気、酸素雰囲気、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気、水素又は水素と窒素の混合雰囲気等の還元性雰囲気を選択できる。中でも大気雰囲気が比較的簡単な電気炉の設備で済むため好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1〜4は本発明の実施例であり、例5と6は比較例である。
【0044】
<焼結体の作製>
例1〜4においては、炭酸ナトリウム(NaCO)粉末(関東化学社製、特級)とαアルミナ(Al)粉末(住友化学社製、商品名:AKP50)と酸化ニッケル(NiO)粉末(高純度化学研究所社製、3N品)とを、それぞれ15.4質量%、78.9質量%および5.7質量%の割合で秤量した。これを乾式ボールミルにて24時間混合した。
【0045】
得られた混合粉末を、アルミナるつぼに入れ、大気中1250℃で5時間仮焼し、NiOを安定化剤としたベータアルミナ粉末を合成した。室温まで冷却した仮焼粉末を850μm目開きのメッシュを通して解砕し粒度を整えた。
【0046】
一方、炭酸ナトリウム(NaCO)粉末と酸化ニオブ(Nb)粉末(高純度化学研究所社製、3N/1マイクロメートル品)とを、それぞれ28.5質量%および71.5質量%の割合で秤量し、乾式ボールミルにて24時間混合した。
【0047】
得られた混合粉末を、アルミナるつぼに入れ、大気中950℃で5時間仮焼し、NaNbO粉末を合成した。室温まで冷却した仮焼粉末を850μm目開きのメッシュを通して解砕し粒度を整えた。
【0048】
得られたベータアルミナ粉末とNaNbO粉末を表1に示す混合粉末の組成になるように秤量し、エタノールを分散剤とし、イットリア安定化ジルコニア製のボール(ニッカトー社製、商品名:YTZボール)を用いて、湿式ボールミルで96時間混合粉砕を行った。その後、スラリーを乾燥し、例1〜4の混合粉末を得た。
【0049】
例5においては、例1〜4の場合と同じ方法でベータアルミナ粉末を合成し、解砕してベータアルミナ粉末を得た。
【0050】
そして、例1〜4の混合粉末と例5のベータアルミナ粉末とを、それぞれ室温で180MPaの静水圧プレスをかけて成形した後、大気中において1400℃で2時間加熱して焼成した。
【0051】
例6においては、原料粉末とその組成は、炭酸ナトリウム(NaCO)粉末、αアルミナ(Al)粉末と炭酸リチウム(LiCO)粉末(純正化学社製、特級)とを、それぞれ14.1質量%、84.2質量%および1.7質量%の割合とした。これを例5と同様の方法で焼成を行った。なお、焼成温度は1500℃とした。
【0052】
例1〜5について、得られた焼結体の化学組成を、蛍光X線分析装置(リガク社製、装置名:RIX3000)を用いて分析した。表1に、ベータアルミナとNaNbO粉末の混合割合、および焼結体の蛍光X線分析による化学組成分析の結果から得た焼結体の組成を示す。蛍光X線分析の結果は、NaO、Al、NbおよびNiOの合計質量を100質量%としたときの各成分の割合(質量%)である。なお、得られた焼結体においては、NaO、Al、NbおよびNiOの4成分以外の物質の含有量の合計は、焼結体全体の1質量%未満であった。
【0053】
【表1】
【0054】
例1〜6で得られた焼結体について、構成する結晶相と特性(相対密度、開気孔率、導電率および大気中30日間放置後の外観)を、それぞれ以下に示すようにして測定した。これらの結果を表2に示す。
【0055】
<物性等の測定・評価方法>
(a)結晶相
結晶相の確認は、X線回折装置(リガク社製、装置名:RINT2000)により同定した。
(b)相対密度および開気孔率
焼結体の嵩密度および開気孔率は、JIS R1634で定めるアルキメデス法によって測定した。嵩密度の理論密度に対する比を相対密度とした。例1〜5においては、ベータアルミナを3.36g/cm、NaNbOを4.44g/cmとし、例1〜5の理論密度を、表1に示すそれぞれの混合粉末の組成の割合を用いて算出した。例6においては、理論密度には3.21g/cmを用いた。
(c)導電率
焼結体のイオン導電性は、複素インピ−ダンスプロット法で25℃および110℃における導電率を測定した。
(d)大気中30日間放置後の外観
得られた焼結体について、大気下30日間放置前後の外観を観察した。
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、緻密でイオン導電性が高いベータアルミナ質焼結体を安定して作製できる。そして、このベータアルミナ質焼結体を、蓄電池用固体電解質として使用すると、長寿命で信頼性の高い蓄電池を作製できる。
導電種としてNaを他のアルカリ金属イオン、例えばLiに置き換えても、同様に緻密で高いイオン導電性を有するベータアルミナ質焼結体を作製できる。この場合、例えば全固体リチウムイオン電池用の固体電解質として利用できる。
なお、2012年2月29日に出願された日本特許出願2012−043515号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1