(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油脂分の含有率が8〜16重量%で、かつ全固形分の含有率が30〜50重量%である起泡性水中油型乳化物であって、カゼインナトリウム及び乳化剤を含み、上記カゼインナトリウムの含有率が0.8〜2.0重量%であり、上記乳化剤が、水相に含まれるものとして、HLB7以下の高級脂肪酸モノグリセリド、HLB7以下のショ糖脂肪酸エステル、及び、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの中から選ばれる1種以上、及び、油相に含まれるものとして、HLB7以下の高級脂肪酸モノグリセリド、HLB7以下のショ糖脂肪酸エステル、及び、HLB3〜4のレシチンの中から選ばれる1種以上を含み、最適起泡状態におけるオーバーラン値が200%以上である、起泡性水中油型乳化物。
【背景技術】
【0002】
起泡性水中油型乳化物は、そのホイップのしやすさから、ホイップクリームとも称され、製菓、製パン等のトッピングやフィリング材料として利用されている。
標準的な起泡性水中油型乳化物は、油脂分を40重量%以上の高含有率で含むため、安定した乳化状態を容易に保つことができ、ホイップ性、及び、ホイップドクリームの保形性に優れている。
また、起泡性水中油型乳化物をホイップした後に冷凍保存しておき、使用時に解凍してそのまま用いることも、従来から行われている。この場合、ケーキの調製時の作業効率を向上させ、生産性を高めることができる。
【0003】
近年、消費者の健康意識の向上や節約志向の高まりなどから、低脂肪の起泡性水中油型乳化物が要望されている。
一方、起泡性水中油型乳化物のおいしさは、クリームの濃厚感や、起泡による口当たりの良さ(ふわふわ感や、後切れの良さなど)などによって感じられる。
このうち、クリームの濃厚感は、油脂分が高いほど、強く感じられる傾向がある。
また、起泡による口当たりの良さも、油脂分の量によって影響される。水中油型乳化物を撹拌によって起泡させることは、空気泡を乳化物の中に取り込ませることを意味する。よって、油脂分の量が多いほど、油中水型に変換させやすく、起泡性や保形性が良好になる。
したがって、既存の高脂肪の起泡性水中油型乳化物の原料組成に対して、単純に油脂分の量だけを減らした場合には、クリームの濃厚感や、起泡による口当たりの良さが低下して、おいしさが損なわれるとともに、ホイップドクリームの保形性が損なわれる。
つまり、起泡性水中油型乳化物の低脂肪化は、ホイップドクリームの調製時の起泡性(ホイップ性)及び造花性、及び、ホイップドクリームのおいしさ及び保形性を損なう傾向がある。
【0004】
上述の背景下において、従来、起泡性水中油型乳化物の低脂肪化は、単純に油脂分の量だけを減らすのではなく、糖質等の量を増やして、油脂分以外の原料の起泡を促進させることによって行ってきた。
例えば、特許文献1に、油脂分を8〜25重量%含み、さらに全固形分が35〜70重量%となるように糖質により調整してなる低脂肪起泡性水中油型乳化脂が、記載されている。また、特許文献1に、この乳化脂中の糖質の好ましい割合がおおよそ5〜60%であることが記載されている。さらに、特許文献1に、実施例3として、油脂分9.1%、全固形分62.8%で、かつオーバーランが130%である乳化脂が記載されている。
特許文献1の水中油型乳化脂は、油脂分が少ない点で、起泡性を油脂分に依存する起泡性乳化脂とは全く異なるものであり、全固形分及び糖質の量を調整することによって、油脂分以外の原料の起泡を促進させ、低脂肪に起因する起泡の不十分さや、クリームの濃厚感(風味の濃厚感)の薄さを補っている。
しかし、特許文献1の水中油型乳化脂は、糖質の高い含量に由来する摂食後の後切れの悪さ(いわゆる、食感の重さ)という問題を有し、嗜好性の点で改善の余地があった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態に限定されるものではない。
本明細書中、「起泡性水中油型乳化物」とは、乳化剤を用いて、水相の中に、乳脂肪、植物脂肪等の油成分からなる油相(油滴)を安定して分散させてなるものであり、かつ、撹拌によって起泡を生じさせることのできるものである。
また、本明細書中、「起泡性水中油型乳化物」の語は、起泡前の状態、及び、起泡後の状態の両方を包含する概念を有する。例えば、起泡前の液状の乳化物、ホイップ後の無定形の乳化物、及び、造花させた摂食の対象となる乳化物(いわゆる、ホイップドクリーム)のいずれも、起泡性水中油型乳化物の概念に包含される。
本発明の乳化物の原料として用いられる油脂の例としては、ラード、乳脂、魚油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。
油脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
本発明の乳化物中の油脂分の含有率は、好ましくは8〜22重量%、より好ましくは10〜20重量%、さらに好ましくは10〜16重量%、特に好ましくは12〜16重量%である。該含有率が8重量%未満では、起泡性、造花性及び保形性が低下することがある。該含有率が22重量%を超えると、本発明の目的の一つである低脂肪を十分に達成することができない。油脂分の含有率を調整することによって、風味、食感、栄養分等を調整することができる。
本明細書中、「油脂」、「油脂分」の語は、各々、「乳化物の調製前の原料である油脂」、「調製された乳化物中の油脂成分」を意味する。
【0012】
本発明の乳化物の原料として用いられるカゼインナトリウムとしては、カゼインナトリウムの市販品を用いることができる。
本発明の乳化物中のカゼインナトリウムの含有率は、好ましくは0.8〜4.0重量%、より好ましくは0.8〜3.0重量%、特に好ましくは1.0〜2.0重量%である。該含有率が0.8重量%以上であると、起泡性、造花性及び保形性が、より向上する。該含有率が4.0重量%以下であると、カゼインナトリウムの過剰な添加による風味の悪化を確実に避けることができる。
【0013】
本発明の乳化物の原料として用いられる乳化剤としては、起泡性水中油型乳化物の原料として市販されている乳化剤を用いることができる。
乳化剤の種類及び添加量は、本発明の乳化物を構成する他の原料の種類及び添加量に応じて、適宜、定めることができる。
本発明の乳化物中の乳化剤の含有率は、乳化物のオーバーラン値を200%以上にすることができ、かつ、乳化物の風味等を損なわないものであればよい。
具体的には、本発明の乳化物中の乳化剤の含有率は、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.3〜3重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%、特に好ましくは0.7〜1.5重量%である。該含有率が0.1重量%未満では、乳化物を構成する原料の種類及び添加量を適宜選択しても、乳化物のオーバーラン値を200%以上にすることが困難である。該含有率が5重量%を超えると、乳化剤のコストが増大するうえ、乳化物の風味を損なうことがある。
【0014】
乳化剤の好ましい例としては、起泡性、造花性、保形性などの観点から、HLB7以下の高級脂肪酸モノグリセリド、HLB7以下のショ糖脂肪酸エステル(以上、油相と水相のいずれでも使用可能)、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(以上、水相のみに使用可能)、レシチン(HLB:3〜4)(以上、油相のみに使用可能)等が挙げられる。
これらの乳化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明では、起泡性、造花性、保形性などの観点から、水相と油相のいずれについても、2種以上の乳化剤を組み合わせて用いることが好ましい。
本発明の乳化物中のカゼインナトリウムの含有率が0.8〜4.0重量%である場合の、乳化物の種類及び添加量(乳化物中の含有率;重量%)の好ましい一例として、HLB7以下の高級脂肪酸モノグリセリド0.01〜1.0重量%、HLB7以下のショ糖脂肪酸エステル0.01〜1.0重量%、HLB9以上のポリグリセリン酸脂肪酸エステル0.01〜0.2重量%、及び、レシチン(HLB:3〜4)0.01〜0.2重量%の組み合わせが挙げられる。この場合、高級脂肪酸モノグリセリド及びショ糖脂肪酸エステルは、各々、油相用としてHLBが小さいもの(例えば、4以下のもの)と、水相用としてHLBが大きいもの(例えば、6〜7のもの)を併用することができる。
【0015】
本発明の乳化物の原料として用いられる他の原料(ただし、水以外のもの)の例としては、糖質(例えば、砂糖、水飴、粉飴、果糖、ぶどう糖、異性化糖や、これらの液糖などのシロップ類など)、糖アルコール(例えば、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチュロース、トレハロースなど)、乳固形分含有物質(例えば、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、練乳類など)、呈味食品(糖質、糖アルコール及び乳固形分含有物質以外の呈味の作用を有する固形状、ペースト状もしくは液状の食品;例えば、コーヒー、卵、豆乳、果汁など)、その他の食品または食品添加物(例えば、増粘多糖類、セルロース、無機塩類、香料など)などが挙げられる。
他の原料は、目的とする本発明の乳化物の種類に応じて、適宜、1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0016】
本発明において、他の原料として、糖質と糖アルコールのいずれか一方または両方を用いることが好ましい。
本発明の乳化物中の糖質または糖アルコールの含有率(水を含む場合は固形分換算の値;糖質と糖アルコールを併用する場合はこれらの合計の含有率)は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜35重量%、特に好ましくは15〜30重量%である。該含有率が5重量%以上であると、起泡性、造花性、保形性、風味の濃厚感、及び、後切れ(食感)を、より向上させることができる。該含有率が40重量%以下であると、水の量を十分に確保することができるので、水中油型乳化物を容易に調製することができる。
【0017】
また、本発明において、他の原料として乳固形分含有物質を用いることが好ましい。
乳固形分含有物質は、本発明の乳化物の風味の向上などの観点から、糖質と併用することが好ましい。
本発明の乳化物中の乳固形分含有物質の含有率(水を含む場合は、固形分換算の値)は、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜6重量%、特に好ましくは1.5〜3重量%である。該含有率が0.5重量%以上であると、乳に由来する風味によって、本発明の乳化物の風味が、より良好になる。該含有率が10重量%以下であると、糖質などの他の原料の量を十分に確保することができるので、本発明が目的とする水中油型乳化物を容易に調製することができる。
【0018】
本発明の乳化物中の、油脂、カゼインナトリウム、乳化剤、糖質、糖アルコール、乳固形分含有物質、及び水以外の原料(例えば、呈味食品、セルロース、香料など)の合計の含有率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは2重量%以下である。該含有率が10重量%以下であると、糖質などの他の原料の量を十分に確保することができるので、本発明が目的とする水中油型乳化物を容易に調製することができる。
【0019】
本発明の乳化物における「全固形分」とは、水以外のすべての成分をいう。
本発明の乳化物中の全固形分の含有率は、30〜60重量%、好ましくは30〜50重量%である。該含有率が30重量%未満では、起泡性、造花性、保形性、風味の濃厚感、及び、歯切れ(食感)が悪化する。該含有率が60重量%を超えると、摂食後の口溶けが悪くなる。
本発明の乳化物中の水の含有率は、40〜70重量%、より好ましくは50〜70重量%である。ここでの水には、乳固形分含有物質等が水を含む場合における当該乳固形分含有物質等の水も含まれる。
【0020】
次に、本発明の乳化物の製造方法について説明する。
本発明の乳化物の製造方法(以下、本発明の方法ともいう。)は、(A)油脂分及び乳化剤の一部を含む、油相を形成するための材料(以下、油相形成材料ともいう。)を調製する油相材料調製工程と、(B)カゼインナトリウム及び乳化剤の残部を含む、水相を形成するための材料(以下、水相形成材料ともいう。)を調製する水相材料調製工程と、(C)工程(A)で得られた油相形成材料と、工程(B)で得られた水相形成材料を混合して撹拌し、予備乳化物を得る混合工程と、(D)工程(C)で得られた予備乳化物を均質化処理して、起泡性水中油型乳化物を得る均質化処理工程、を含む。
本発明の乳化物の製造方法は、工程(C)と工程(D)の間、または、工程(D)の後に、(E)予備乳化物(均質化処理前)または乳化物(均質化処理後)を加熱して殺菌する加熱殺菌工程を含むことができる。
以下、各工程を詳しく説明する。
【0021】
[工程(A);油相材料調製工程]
工程(A)は、油脂分及び乳化剤の一部を含む油相形成材料を調製する工程である。
本発明の方法で用いられる乳化剤の全量中の工程(A)で用いられる乳化剤の割合は、工程(D)で得られる乳化物の乳化状態を良好にする観点から、好ましくは40〜95重量%、より好ましくは50〜90重量%、さらに好ましくは60〜85重量%、特に好ましくは70〜80重量%である。
工程(A)で用いられる乳化剤の好ましい例としては、HLB5以下の高級脂肪酸モノグリセリド、HLB5以下のショ糖脂肪酸エステル、レシチン(HLB:3〜4)等が挙げられる。
【0022】
[工程(B);水相材料調製工程]
工程(B)は、カゼインナトリウム及び乳化剤の残部を含む水相形成材料を調製する工程である。
本発明の方法で用いられる乳化剤の全量中の工程(B)で用いられる乳化剤の割合は、工程(D)で得られる乳化物の乳化状態を良好にする観点から、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは15〜40重量%、特に好ましくは20〜30重量%である。
工程(B)で用いられる乳化剤の好ましい例としては、HLBが5を超え、7以下であるショ糖脂肪酸エステル、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0023】
[工程(C);混合工程]
工程(C)は、工程(A)で得られた油相形成材料と、工程(B)で得られた水相形成材料を混合して撹拌し、予備乳化物を得る工程である。
油相形成材料と水相形成材料の混合方法としては、油相形成材料に水相形成材料を加える方法、水相形成材料に油相形成材料を加える方法、容器内に油相形成材料と水相形成材料を同時に投入する方法、等が挙げられる。
油相形成材料と水相形成材料の混合物は、特定の液温下で撹拌させることによって、予備乳化物になる。
撹拌時の混合物の液温は、工程(D)で得られる乳化物の乳化状態を良好にする観点から、好ましくは55〜80℃、より好ましくは60〜75℃、特に好ましくは65〜70℃である。
撹拌時間は、予備乳化物を形成させることができれば良く、撹拌速度(rpm)によっても異なるが、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上、さらに好ましくは3分間以上、特に好ましくは4分間以上である。撹拌時間が1分間未満では、予備乳化物を得ることが困難なことがある。撹拌時間の上限は、処理の効率の観点から、好ましくは20分間、より好ましくは15分間である。
予備乳化によって、工程(D)において、水相中に均一な大きさの油滴を形成させることができる。
【0024】
[工程(D);均質化処理工程]
工程(D)は、工程(C)で得られた予備乳化物を均質化処理して、起泡性水中油型乳化物を得る工程である。
均質化処理は、均質化処理機(ホモゲナイザー)を用いることによって行うことができる。
均質化処理における均質圧力は、水相中に適度な大きさの油滴を形成させる観点から、好ましくは10MPa以上、より好ましくは14MPa以上、特に好ましくは18MPa以上である。均質圧力の上限は、均質圧力を過度に大きくしても、乳化物の乳化状態のさらなる向上が望めない観点から、好ましくは、40MPa、より好ましくは30MPaである。
均質化処理時の予備乳化物の液温は、均質化処理の効率等の観点から、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜90℃、特に好ましくは70〜80℃である。
なお、工程(D)は工程(C)で得られた予備乳化物を後述の工程(E)で加熱殺菌処理をした後に行うこともできる。
【0025】
[工程(E);加熱殺菌工程]
工程(E)は、工程(C)で得られた予備乳化物、または工程(D)で得られた乳化物を加熱して殺菌する工程である。
工程(E)は、均質化処理の前に加熱すれば、均質化処理を効率的に行える観点から、好ましくは、工程(C)と工程(D)の間で行われる。
加熱温度は、殺菌を十分に行なう等の観点から、好ましくは65〜140℃である。加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、好ましくは3秒(例えば、140℃の場合)〜30分間(例えば、65℃の場合)である。
加熱殺菌後の乳化物は、例えば10℃以下に冷却して、保存される。
【0026】
本発明の乳化物の評価は、ホイップ性(例えば、最適起泡状態に到達する時間、オーバーラン値)、及び、ホイップ後の乳化物の性質(例えば、造花性、保形性)によって行う。
最適起泡状態に到達する時間とは、本発明の乳化物を撹拌して起泡させた場合における、撹拌開始時から最適起泡状態に到達した時までの時間である。該時間は、乳化物の温度や撹拌手段の種類等によって変化するものであるが、同一の条件(乳化物の温度、撹拌手段の種類等)下で、複数の種類の乳化物について該時間を測定することによって、当該複数の種類の乳化物の間で、ホイップ性の優劣を相対的に評価することができる。
最適起泡状態とは、起泡によって乳化物が最大の体積を有するに至った状態をいう。
【0027】
オーバーラン値とは、容器内に、該容器の容量と同じ容量の最適起泡状態の乳化物を収容した場合の乳化物の重量を「A」とし、容器内に、該容器の容量と同じ容量の起泡前の乳化物を収容した場合の乳化物の重量を「B」とした場合において、
(B−A)×100/A
の式を用いて算出される値である。
なお、本発明で規定しているオーバーラン値は、乳化物の温度を5℃に冷却した状態で、常温常圧(20℃、1気圧)下で測定されたオーバーラン値のことをいう。オーバーラン値は、乳化物の温度、及び、雰囲気(温度、圧力)によって若干、変動する。
【0028】
造花性とは、ホイップ後の乳化物を所望の形状(例えば、花を模した形状)に形成させる際に、崩れや欠けがないことである。
保形性とは、所望の形状(例えば、花を模した形状)に形成させたホイップ後の乳化物(換言すると、造花させた乳化物)を、冷蔵、冷凍等の所定の保存条件下で保存し、その後、解凍等によって保存を終了させた場合において、保存前の形状が、保存後においても、崩れや欠けがなく、保たれることである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。本発明は、実施例によって限定されるものではない。以下の実施例におけるオーバーラン値は、5℃に冷却した乳化物を、20℃、1気圧の雰囲気下で測定したものである。
[実施例1]
植物油脂(パーム核硬化油、融点:40℃)13重量部の中に、HLB4の高級脂肪酸モノグリセリド0.25重量部、HLB2.9の高級脂肪酸モノグリセリド0.23重量部、HLB1のショ糖脂肪酸エステル0.23重量部、及び、HLB3のレシチン0.08重量部を溶解して、油相形成材料を調製した。
また、水52.62重量部の中に、砂糖12重量部、水飴(固形分:75.6重量%)10重量部、粉飴7重量部、脱脂粉乳2重量部、食塩0.08重量部、カゼインナトリウム1.7重量部、HLB6のショ糖脂肪酸エステル0.17重量部、HLB14.5のポリグリセリン脂肪酸エステル0.08重量部、セルロース0.28重量部、増粘多糖類0.081重量部、及び、香料0.2重量部を溶解して、水相形成材料を調製した。
【0030】
次に、油相形成材料と水相形成材料を65〜70℃で混合し、混合物を得た。この混合物を、プロペラ撹拌機(製品名:ホモミクサーMARKII、プライミクス社製、撹拌速度:5500rpm)を用いて、70℃で5分間撹拌し、予備乳化物を得た。
この予備乳化物を、直接加熱殺菌機を用いて、130℃、4秒間で加熱して殺菌した。
その後、予備乳化物を、均質化処理機(製品名:ホモゲナイザーH70、三和機械社製)を用いて、70〜80℃の温度下で20MPaの均質圧力にて均質化処理し、本発明の乳化物を得た。この乳化物を直ちに10℃以下に冷却した。
冷却後の乳化物を分析したところ、油脂分の割合が13重量%であり、全固形分の割合が44.2重量%であった。
さらに、この乳化物を卓上ホイッパー(製品名:ホバートミキサー、ホバート社製)によって撹拌し、起泡させたところ、撹拌開始から17分後に最適起泡状態に達した。オーバーラン値は240%であった。
また、このホイップ済みの乳化物を、ホイップ袋を用いて絞ったところ、造花性が良好であった。絞って得られた成形物(造花させた乳化物)を5℃の冷蔵庫内で72時間冷蔵したところ、冷蔵後の成形物は、形状に変化がなく、また、風味(濃厚感等)及び食感(後切れ等)も変化がなく良好であった。
【0031】
[実施例2]
実施例1で得られた乳化物(卓上ホイッパーによる撹拌前のもの)を、無菌フィルターで処理したエアーと共にモンドミキサー(モンドミックス社製)にて490rpmの回転数で連続的に処理し、ホイップ済みの乳化物を得た。
ホイップ済みの乳化物を分析したところ、油脂分の割合が13重量%であり、全固形分の割合が44.2重量%であった。オーバーラン値は240%であった。
また、ホイップ済みの乳化物を5℃の冷蔵庫内で72時間冷蔵したところ、冷蔵後の乳化物は、冷蔵前に比べて、形状に変化がなく、また、風味(濃厚感等)及び食感(後切れ等)も変化がなく良好であった。
【0032】
[実施例3]
実施例2で得られたホイップ済みの乳化物を、該乳化物の内部の温度が−18℃になるまで凍結した。この乳化物について、−18℃での凍結状態を3週間保った後、5℃の冷蔵庫内に48時間保って解凍させた。解凍後の乳化物を分析したところ、油脂分の割合が13重量%であり、全固形分の割合が43.2重量%であった。オーバーラン値は240%であった。解凍後の乳化物は、実施例2におけるホイップ済みの乳化物に比べて、形状に変化がなく、また、風味(濃厚感等)及び食感(後切れ等)も変化がなく良好であった。解凍後の乳化物について、離水も見られなかった。
【0033】
[比較例1]
カゼインナトリウム1.7重量部の代わりに水1.7重量部を用いた以外は実施例1と同様にして、乳化物を得た。
この乳化物を分析したところ、油脂分の割合が13重量%であり、全固形分の割合が41.5重量%であった。
また、この乳化物を、ホイッパーを用いて撹拌したところ、撹拌開始から17分が経過しても、起泡が不十分であり、ホイップに適する状態に至らなかった。つまり、最適起泡状態に到達せず、造花性が全くなかった。