(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052950
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】オフアクシスデジタルホログラフィーにおける物体波の正確な復元のための装置
(51)【国際特許分類】
G03H 1/22 20060101AFI20161219BHJP
G01B 9/021 20060101ALI20161219BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20161219BHJP
G03H 1/04 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
G03H1/22
G01B9/021
G01N21/45 A
G03H1/04
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-16770(P2012-16770)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-54336(P2013-54336A)
(43)【公開日】2013年3月21日
【審査請求日】2014年12月2日
(31)【優先権主張番号】11179946.6
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・キナム
【審査官】
南 宏輔
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−526815(JP,A)
【文献】
米国特許第06262818(US,B1)
【文献】
米国特許第06809845(US,B1)
【文献】
国際公開第2004/094942(WO,A2)
【文献】
特開2003−294412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/00−5/00
G01B 9/021
G01N 21/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の像を表すデジタルホログラムを作成するための方法であって、
コヒーレント測定光線及び第1コヒーレント参照光線を生成する工程と、
前記第1コヒーレント参照光線との干渉を避けるように調整した第2コヒーレント参照光線を生成する工程と、
前記コヒーレント測定光線により前記対象物を照射し、前記対象物によって反射された前記コヒーレント測定光線を光センサーに誘導する工程と、
第1コヒーレント参照光線の光軸に対して90°以外の角度で配置された第1ミラーに前記第1コヒーレント参照光線を誘導し、前記第1ミラーによって反射された前記第1コヒーレント参照光線を前記光センサーに誘導し、
前記第2コヒーレント参照光線の光源から前記光センサーまでの経路が前記第1コヒーレント参照光線の光源から前記光センサーのまでの経路と異なる長さを有するように、前記第2コヒーレント参照光線を第2ミラーに誘導し、前記第2ミラーによって反射された前記第2コヒーレント参照光線を前記光センサーに誘導し、
前記コヒーレント測定光線と前記第1及び第2コヒーレント参照光線とで前記光センサー上に干渉縞を生成させる、工程と、
前記光センサーを読み取り、前記光センサー上に生成された前記干渉縞を表すデジタル信号を得る工程と、
デジタルホログラムを得るために前記デジタル信号を処理する工程と、
前記デジタルホログラムを空間周波数領域に変換するフーリエ変換を行い、DC項と、前記コヒーレント測定光線と前記第1コヒーレント参照光線との干渉による第1像項及び第1共役像項と、前記コヒーレント測定光線と前記第2コヒーレント参照光線との干渉による第2像項及び第2共役像項と、を含む二次元スペクトルを得る工程と、
前記二次元スペクトルに濾波を行い、それぞれ前記対象物の像を表す項である前記第1像項及び前記第2像項を得る工程と、
前記空間周波数領域を表す平面において前記第1像項を示す領域の中心を通る横軸に平行な線と縦軸に平行な線とで画される象限のうちで前記DC項に重複する象限を、前記空間周波数領域を表す平面において前記第2像項を示す領域の中心を通る横軸に平行な線と縦軸に平行な線とで画される象限のうちで前記重複する象限に対応する象限によって置き換える工程と、を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記DC項と重複する前記第2像項の象限は、前記DC項と重複する前記第1像項の象限に対応する前記第2像項の象限とは、異なる象限である
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法において、
前記第1コヒーレント参照光線及び前記第2コヒーレント参照光線が互いに垂直に偏光されている
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記第1コヒーレント参照光線及び第2コヒーレント参照光線が同一の光源によって生成され、互いに垂直な偏光器によって処理される
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法において、
前記第2コヒーレント参照光線が、該第2コヒーレント参照光線の軸に垂直に配置された前記第2ミラーを介して誘導される
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法において、
前記第1像項の実数部分の絶対値が前記第1像項の虚数部分の絶対値に等しい
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法によって得られるデジタルホログラムによって表される対象物の像を復元するための方法であって、前記デジタルホログラムに対して参照波としての平面波のデジタル表現処理が行われ、前記復元がデジタル式に実行される方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記対象物を表す像をデジタル式に処理して、デジタル高さマップを得る
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
対象物を表すデジタルホログラムを作成するための装置であって、
コヒーレント測定光線、第1コヒーレント参照光線、及び、前記第1コヒーレント参照光線との干渉を避けるように調整された第2コヒーレント参照光線を生成するように構成された光源と、
光センサーと、
前記第1コヒーレント参照光線の光軸に対してπ/2以外の角度で配置された第1ミラーと、
対象物を保持する保持器と、
前記光センサーに接続されており、前記光センサーを読み取り、前記光センサー上に投影された干渉縞を表すデジタル信号を与えるための読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段と、
前記コヒーレント測定光線を前記光源から前記保持器に保持された前記対象物に誘導し、前記対象物によって反射された前記コヒーレント測定光線を前記光センサーに誘導し、
前記第1コヒーレント参照光線を前記光源から前記第1ミラーに誘導し、前記第1ミラーによって反射された前記第1コヒーレント参照光線を前記光センサーに誘導し、
前記第2コヒーレント参照光線の光源から前記光センサーまでの経路が前記第1コヒーレント参照光線の光源から前記光センサーのまでの経路と異なる長さを有するように、前記第2コヒーレント参照光線を前記光源から第2ミラーに誘導し、前記第2ミラーによって反射された前記第2コヒーレント参照光線を前記光センサーに誘導し、
前記コヒーレント測定光線と前記第1及び第2コヒーレント参照光線とによって前記光センサーに干渉縞を生成するように構成された光学誘導部と、を備え、
前記読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段は、
前記デジタル信号を処理してデジタルホログラムを得る工程と、
前記デジタルホログラムを空間周波数領域に変換するフーリエ変換を行って、DC項と、前記コヒーレント測定光線と前記第1コヒーレント参照光線との干渉による第1像項及び第1共役像項と、前記コヒーレント測定光線と前記第2コヒーレント参照光線との干渉による第2像項及び第2共役像項と、を含む二次元スペクトルを得る工程と、
前記二次元スペクトルに濾波を行い、前記第1像項及び第2像項を得る工程と、を実行するように構成されており、
前記読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段は、前記空間周波数領域を表す平面において前記第1像項を示す領域の中心を通る横軸に平行な線と縦軸に平行な線とで画される象限のうちで前記DC項に重複する象限を、前記空間周波数領域を表す平面において前記第2像項を示す領域の中心を通る横軸に平行な線と縦軸に平行な線とで画される象限のうちで前記重複する象限に対応する象限によって置き換えるように構成されている
ことを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置において、
前記DC項と重複する前記第2像項の象限は、前記DC項と重複する前記第1像項の象限に対応する前記第2像項の象限とは、異なる象限である
ことを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の装置において、
前記光学誘導部が、前記第1コヒーレント参照光線の経路上に第1偏光器、前記第2コヒーレント参照光線の経路上に第2偏光器を備え、
前記第1及び第2偏光器は互いに90度回転した配置関係である
ことを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれかにに記載の装置において、
前記第2ミラーは、前記第2コヒーレント参照光線の軸に垂直に配置されている
ことを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項9から請求項12のいずれかに記載の装置において、
前記光学誘導部が第1光軸及び第2光軸を有するビームスプリッターを備え、
前記光源が前記第1光軸上に配置され、
前記第1ミラーは前記第1光軸上の前記光源と反対側に配置され、
前記光センサーは前記第2光軸上に配置され、
前記保持器は前記対象物を前記光センサーと反対側の第2光軸上に配置するように構成されている
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイム三次元測定のため、デジタルホログラフィック顕微鏡によるデジタルホログラフィーを使用した振幅及び定量的位相のイメージング(画像化)に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルホログラフィーは通常の撮像技術とは異なり、振幅画像だけではなく位相画像を記録するために効果的な手段である。
デジタルホログラフィーの主な長所は明らかに、単一画像だけで対象をリアルタイム三次元(3D)測定することに源を発している。さらに、デジタルホログラフィーは、標本(被測定物)が厳密に焦点位置に配置されていない、又は、光学システムが収差を含んでいるような場合であっても、物体波の振幅及び位相の復元を可能にする。
【0003】
これらの長所により、最近では、デジタルホログラフィーは工業及び科学分野、特に、生細胞の振幅及び位相像がリアルタイムで観測されることが望まれる生物医学の分野で広く使われている。工業製品の製造において、デジタルホログラフィーは表面形状測定的(トポグラフィカル)及び断層撮影法的な製品のリアルタイム検査により製品の処理量を大幅に向上させることができる。
【0004】
デジタルホログラフィーの原理は2段階の処理、すなわち記録及び復元に基づいた従来のホログラフィー(立体写真術)に基づいている。記録処理において、被測定物からの散乱波は参照波と干渉し、その干渉縞が感光性の媒体に記録される。すなわち、「ホログラム」を生成する。記録処理の後、対像物像の復元は対像物が無い状態でホログラムを同一の参照波で照らすことによって行われる。
【0005】
これと同様に、デジタルホログラフィーは従来のホログラフィーと同様な手順を含むが、記録媒体としてビデオカメラ又は光センサーを使用する。さらに、デジタルホログラムは数値計算的像復元を可能にし、そこにおいて物理的復元波が仮想的にシミュレーションされ、物体波は数値計算的な波の伝搬によって回復可能となる。
【0006】
デジタルホログラフィー(DH:Digital Holography)は光学的な構成、すなわち参照波と測定波との間の配置関係に基づいてオフアクシスDH(off-axis DH)とインラインDH(in-line DH)とに分類される。DC項(零次回折)及び二重像項(物体波の共役)が物体波項と重なるのを避けるために、オフアクシスDHは、参照波と測定波との間の傾き角の差を利用した空間変調及び空間濾波技術を使用する。オフアクシスDHによれば、インラインDHで必要になるようなDC項や共役項の影響を排除するための労力を要することなく、ホログラムから標本の振幅画像及び位相画像を復元することができる。
【0007】
一方、インラインDHは通常、位相シフト等の他の技術を採用して、ホログラムから物体波のみを抽出する。インラインDHの基本的特質として、像の明瞭な復元を可能にする一方、リアルタイム測定能力等の本来的にホログラフィック顕微鏡の主な利点であるべき長所において劣っている。最近では、この制限を克服するために、空間位相シフト装置に基づいた平行光路長シフティングDH(parallel optical-path-length-shifting DH)がリアルタイム測定法として提案されている。
しかしながら、この方法はCCDカメラ又は光センサーの利用可能な画素の数によって制限される。
【0008】
工業及び科学分野によって最も広く使用されているオフアクシスDHにおいて、
図1に示されているように、参照ミラーの傾きによって生ずる像の空間変調がデジタルホログラムに導入されており、それは空間周波数領域における物体波を抽出するための濾波処理に使用される。
図1に図示されている構成はレーザー光源等の光源1、ビームスプリッター3、光源1とビームスプリッター3の間に位置する集光レンズ2、参照ミラー5、第1対物レンズ4、結像レンズ6、光センサー7、第2対物レンズ8、及びサンプル保持器9を備える。
【0009】
光源1は第1参照光線10を放射する。
第1参照光線10は集光レンズ2、ビームスプリッター3、第1対物レンズ4を通過して参照ミラー5で反射され、さらに第1対物レンズ4介してビームスプリッター3に戻る。
参照光線はビームスプリッター3で結像レンズ6の方へ逸らされ、光学センサー7に入射する。さらに、光源1は測定光線11を放射する。測定光線11は集光レンズ2を通過してビームスプリッター3で逸らされ、第2対物レンズ8を通過し、サンプル9に当たり、サンプル9で反射され、第2対物レンズ8、ビームスプリッター3、結像レンズ6を再び通過し、最終的にセンサー7に入射して、第1参照光線10とともに干渉縞を形成する。
【0010】
インラインデジタルホログラフィーや位相シフトデジタルホログラフィー等の他の構成と比較したときのオフアクシス構成の主要な長所は単一のホログラムにより物体波を取得する能力である。
干渉縞を含むデジタルホログラムをオフアクシス幾何配置によって取得した後、ホログラムにフーリエ変換を施すことによって空間周波数領域への変換を行い、二次元スペクトルを得て、前記空間周波数領域においては異なる干渉項が良好に分離される。
図5Aの中央に図示されているDC項のスペクトルは参照波及び物体波に対する強度を表している(非干渉項)。
【0011】
干渉項の空間周波数は像の中心に対して対称に位置する。
それらの中心からの距離は入射傾斜角に依存し、それはこれらの干渉項からのDC項の完全な分離を確実にするために十分に大きくなければならない。そして、DC項と干渉項とを分離できることにより、空間周波数領域において不要な項が濾波により取り除かれ、物体波だけを抽出及び取得することができる。
しかしながら、空間周波数は高解像度カメラを使用しても制限されてしまう。
濾波の後、参照波としての平面波によるホログラムの数値計算的な復元によって対像物の振幅及び位相像が得られる。
【0012】
より具体的には、従来技術は、対像物の像を表すデジタルホログラムを作成するための方法であって、
光源によりコヒーレント測定光線及び第1コヒーレント参照光線を生成する工程と、
前記測定光線により前記対像物を照射し、前記対像物によって反射された前記測定光線を光センサーに誘導する工程と、
第1参照光線の光軸に対して90°以外の角度で配置されている第1ミラーに前記第1参照光線を誘導し、前記第1ミラーによって反射された前記第1参照光線を前記光センサーに誘導して、前記測定光線と前記第1参照光線とで前記光センサー上に干渉縞を生成する工程と、
前記光センサーを読み取り、前記光センサー上に生成された前記干渉項を表すデジタル信号を得る工程と、
前記デジタル信号を処理してデジタルホログラムを得る工程と、
前記デジタルホログラムを空間周波数領域に変換するフーリエ変換を行って、DC項、第1像項、及び第1共役像項を含む二次元スペクトルを得る工程と、
結果として生じたスペクトルに濾波を行って前記対像物を表す項を得る工程と、を含む方法を開示している。
【0013】
オフアクシスDHにおいて最も重要な手順は、物体波以外の不要なDC項(零次)及び二重像項(共役波)等を排除して、デジタルホログラムから高品質の物体波を得るための空間濾波処理である。
【0014】
T. M. KreisはホログラムからDC項を抑制するための簡易な方法を開示している(T. M. Kreis及びW. P. P. Juptner、「Suppression of the dc term in digital holography」Opt. Eng. 36、2357-2360、1997)。
この方法はデジタルホログラムからの平均強度の減算に基づいており、それは復元された像から、いわゆるDC項の除去だけを可能にする。
この方法はホログラムからDC項を減少させる簡易な方法であるが、多くの場合、十分な結果が得られない。
というのも、例えば、多くの場合、ホログラム面において物体波の強度が一定でないので、物体波によって生ずるDC項はこの方法によって排除することができない。
【0015】
E. Cucheは帯域通過フィルターの形式で使用される空間濾波として知られている改善した手法を提案している(E. Cucheら、「Spatial filtering for zero-order and twin-image elimination in digital off-axis holography」Appl. Opt. 39 (23)、4070-4075、2000)。
【0016】
Cucheらの米国特許第6262818号は2つの方法で空間濾波方法を導入している。
1つの方法はFFTを使用した空間周波数領域における帯域濾波方法であり、もう1つの方法は4−f系に基づいた光学空間濾波方法である。
これらの方法は、DC項が濾波によって抑制されるようにDC項と所望の項とが十分に分離しているという重要な仮定に依存する。
しかしながら、それらはまた2つの側面によって制限される。
1つはスペクトルの特定の一部だけが利用可能であるということであり、もう1つは空間濾波が多くの場合、所望の次数を選択するために人手による介入が必要であるということである。
【0017】
Kimらの米国特許第6809845号は付加的な像を使用した効果的な濾波を達成するためのもう1つの方法を開示している。
この方法においては、システムにおいてホログラムに加えて参照波強度及び物体波強度が取得され、それらは単純な減算によってホログラムのDC項を除去するために使用される。
しかしながら、この方法はビーム遮断器等の付加的なハードウェアを必要とし、かつホログラム以外に2つの像を記録しなければならない。
しかもこの場合、環境条件及びシステムパラメータが一定に保たれるということを前提条件としている。
【0018】
最近では、非線形復元技術が導入されている(N. Pavillonら「Suppression of the zero-order term in off-axis digital holography through nonlinear filtering」Appl. Opt. 48 (34)、H186-H195、2009)。
この技術は、零次スペクトルと物体波スペクトルとが重なり合っている場合であっても、オフアクシスDHMにおける零次を含まない正確な復元を可能にする。
非線形濾波技術はデジタルホログラムに対する2つの現実的な仮定の下で上手く作用する。
1つめの仮定は、物体波のスペクトルがフーリエ領域の象限(quadrant)に限定されなければならないことであり、2つめの仮定は、物体波の強度が参照波の強度より大幅に小さくなければならないことである。
しかしながら、物体波の強度が小さいと干渉縞のビジビリティを低下させ、さらには他の誤差の原因となる信号対雑音比(SNR)の低下を引き起こす可能性がある。これは、この方法の効果が実際の応用において制限される可能性があることを意味する。
【0019】
一方、反復的な手順による波面復元中に得られる情報を利用することによる零次項の抑制が開示されている(N. Pavillonら「Iterative method for zero-order suppression in off-axis digital holography」Opt. Express 18 (15)、15318-15331、2010)。
結果として、この方法は対像物の事前の知識を必要とせずにDC項の抑制を可能にする。しかしながら、この技術は、その本質的特性上、許容可能な誤差レベルに達するまでにどうしても計算時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6,262,818号
【特許文献2】米国特許第6,809,845号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】T. M. Kreis and W. P. P. Juptner, "Suppression of the dc term in digital holography," Opt. Eng. 36, 2357-2360, 1997
【非特許文献2】E. Cuche et al., "Spatial filtering for zero-order and twin-image elimination in digital off-axis holography," Appl. Opt. 39 (23), 4070-4075, 2000.
【非特許文献3】N. Pavillon et al., "Suppression of the zero-order term in off-axis digital holography through nonlinear filtering," Appl. Opt. 48 (34), H186-H195, 2009.
【非特許文献4】N. Pavillon et al., "Iterative method for zero-order suppression in off-axis digital holography," Opt. Express 18 (15), 15318-15331, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、物体波の復元を可能にする方法及び装置を提供することにあり、このとき、ホログラムのフーリエ変換によって得られる二次元スペクトルにおけるDC項が第1像項に重なることによって生じるアーティファクトをDC項に重なっていない物体波を示す対応部分によって置き換える。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的は上述のものと同様な方法であって、
前記第1参照光線との干渉を避けるように適合した第2コヒーレント参照光線を生成する工程と、
前記第2参照光線を第1ミラーに誘導するとともに前記第1ミラーによって反射された前記光線を光センサーに誘導する工程であって、ただしこのとき、前記第2参照光線の光源から前記光センサーまでの経路が前記第1参照光線の経路と異なる長さを有する工程と、
空間周波数領域におけるフーリエ変換の二次元スペクトルにおいて第2像項及び該第2像項の共役をもたらす工程と、
前記DC項と重なる前記第1像項の部分を前記第2像項の対応する部分によって置き換える工程と、をさらに含む方法によって達成される。
【0024】
本方法は、DC項を示す部分と重なる物体波を示す部分を、DC項と重ならない物体波を示す対応部分によって置き換えることにより、従来技術の欠点を回避する。
【0025】
上述の方法に加え、本発明はまた、
対像物を表すデジタルホログラムを作成するための装置であって、
コヒーレント測定光線及び第1コヒーレント参照光線を生成するように構成された光源と、
光センサーと、
それの光軸に対して90°以外の角度で配置された第1ミラーと、
対像物を保持する保持器と、
前記光センサーに接続された読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段であって、前記光センサーを読み取り、前記光センサー上に投影された干渉縞を表すデジタル信号を得るための手段と、
前記測定光線を前記光源から前記保持器に保持された前記対像物に誘導し、前記対像物によって反射された前記測定光線を前記光センサーに誘導し、前記第1参照光線を前記光源から前記第1ミラーに誘導し、前記第1ミラーによって反射された前記第1参照光線を前記光センサーに誘導し、それによって前記光学センサーに干渉縞を生成する光学誘導部と、を備え、
前記読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段は、前記デジタル信号を処理してデジタルホログラムを求め、前記デジタルホログラムを空間周波数領域に変換するフーリエ変換を行ってDC項、第1像項、及び第1共役像項を含む二次元スペクトルを求め、結果として生じたスペクトルに濾波を行って前記対像物を表す項を得るように構成されており、
前記光源は、前記第1参照光線と干渉しない第2コヒーレント参照光線を発射し、
前記光学誘導部は、前記第1参照光線の経路とは異なる第2経路を介して前記第2参照光線を前記第1ミラーに誘導し、前記第1ミラーによって反射された前記光線を前記光センサーに誘導するように構成されており、
前記読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段は前記DC項と重なる前記第1像項の部分を前記第2像項の対応する部分によって置き換えるように構成されている装置に関する。
【0026】
第1の好ましい実施形態は上述のものと同様な方法であって、
前記第1像項に重なってくる前記DC項の部分を前記第2像項の対応する部分で置き換える工程が、
前記像の前記デジタル表現に対し空間周波数領域へのフーリエ変換を行う工程と、
2つの物体波を表すもの残るように前記像の結果として生じる空間周波数スペクトルに空間周波数濾波を行う工程と、
前記2つの物体波を表す成分に逆フーリエ変換を行う工程と、
前記物体波を表すものに前記2つの参照光線を適用する工程と、
結果として生じた前記像にフーリエ変換を行う工程と、
前記第1像の重複スペクトル部分を前記第2像の対応する部分によって置き換える工程と、
前記第1像のスペクトル領域に逆フーリエ変換を行う工程と、によって行われる方法である。
【0027】
項を置き換えるための他の方法を排除するものではないが、上述の好ましい方法はこの置き換えを実行するための効率的な方法を提供する。
【0028】
同様な考察は上述したものと同様な装置にも当てはまり、この場合、読み取りおよび読み取ったデータを使ってその後の演算を行う手段は上述した工程によってDC項に重なる第1像項の部分を第2像項の対応する部分によって置き換えるように構成される。
上述したように、本発明のメインクレームは第1及び第2の参照光線が互いに干渉しないことを必要とする。
そのような光線を生成するために複数の可能な方法があるが、好ましい実施形態において、第1参照光線及び第2参照光線は互いに垂直方向に偏光される。
この垂直偏光は、2つの参照光線であって、互いに干渉しないが、どちらの参照光線も測定光線と干渉することが可能な2つの参照光線から成る光線の組を与える。
【0029】
他の実施方法を排除するものではないが、好ましくは、本実施形態は第1及び第2の参照光線が同一の光源によって生成され、両方の参照光線が互いに垂直な偏光器によって処理される方法によって実施される。
【0030】
同様な長所は、光学誘導部が、第1参照光線の経路上の第1偏光器と、第2参照光線の経路上の第2偏光器と、を備え、前記第1及び第2偏光器が互いに90度回転した配置関係にある装置によって達成される。
第2参照光線と測定光線の間の干渉縞が第1参照光線と測定光線の間の参照縞とは異なるように、第1及び第2の参照光線は、相互干渉を回避するための上記要件に加えて、互いに異なる特性を有さなければならない。
【0031】
好ましい実施形態において、この異なる特性は第2参照光線の軸に垂直に配置された第2ミラーを介して第2参照光線を誘導することによって達成される。
この実施形態はまた、第2参照光線の軸に垂直に配置された第2ミラーを備え、光学誘導部が第2参照光線を該第2ミラーを介して誘導するように構成されている装置を提供する。
【0032】
本発明は、第1像項に重なってくるDC項の部分をDC項に重複していない第2像項の対応する部分によって置き換えるための良好な解決を与えるが、この置き換え前の重複部分は置き換えられるために十分に小さくなければならない。
詳細には、この部分は光線が持つ全エネルギー(スペクトルの総和)の半分を超えてはならない。
この条件を達成するために、もう1つの好ましい実施形態は第1像項の実数部分の絶対値が第1像項の虚数部分の絶対値に等しいという特徴を有する。
【0033】
魅力的な構造の実施において、光学誘導部は第1光軸及び第2光軸を有するビームスプリッターを備え、光源は前記第1光軸上に配置され、参照ミラーは、光源と反対側の第1光軸上に配置され、光センサーは前記第2光軸上に配置され、保持器は対像物を光センサーと反対側の第2光軸上に配置するように構成されている。
【0034】
上述のクレームはホログラムの作成に関する。
本発明の長所を最大に活かすため、本発明はまた、対像物を表す像の復元方法を提供する。
ここで、好ましい実施形態は上述の方法で得られるデジタルホログラムによって表される対像物の像を復元するための方法であって、前記デジタルホログラムが参照波として平面波を使用したデジタル表現として与えられ、前記復元がデジタル式(離散的)に実行される方法を提供する。
【0035】
もう1つの好ましい実施形態は、デジタル高さマップを得るために対像物を表す像がデジタル処理される方法を提供する。
本発明はまた、光コヒーレントトモグラフィーに適用することができる。
対応する方法において、測定光線は少なくとも部分的に対像物を貫通するとともに該対像物内において散乱された散乱光を生じるように調整されており、該散乱光は第1及び第2の測定光線の両方と結合されて、光センサー上に干渉縞を形成する。
【0036】
本方法は対像物の表層から情報を収集することを可能にする。
また、本発明は干渉法に適用することができる。その場合、例えば、測定光線並びに第1及び第2の参照光線が対像物上で合焦するようにし、DC項に重なる第1像項の部分を第2像項の対応する部分によって置き換えるにあたって、2つの参照波を像に適用することが省略される。
【0037】
本発明の上述及び他の目的、特徴、及び長所は以下の詳細な説明及び付随する図面からより完全に理解されるだろう。付随する図面は図解のためだけに示されたものであり、本発明を制限するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】オフアクシスデジタルホログラフィーのための従来技術の構成を示している図である。
【
図2】典型的なオフアクシスデジタルホログラフィーのための復元手順のフローチャートである。
【
図3】本発明のオフアクシスDHの光学的構成を示している図である。
【
図4】低コヒーレンス光源を用いた場合の
図3に対応する図である。
【
図5A】従来技術において、ホログラムの空間周波数の内容を示している図である。
【
図5B】本発明において、ホログラムの空間周波数の内容を示している図である。
【
図6】
図2に相当するフローチャートにおいて、2つの参照波が適用されている場合を示す図。
【
図8A】従来技術において、オフアクシスDHのデジタルホログラムである。
【
図8B】
図8Aに示されたホログラムの空間スペクトルであり、図中の四角は物体波を含む四半分を示している。
【
図9】物体波の空間スペクトルであり、図中の点線の円は物体波の空間周波数成分を示している。
【
図11A】本発明のオフアクシスDHのデジタルホログラムである。
【
図12】本発明によって抽出された物体波の空間スペクトルである。
【
図13A】本発明に従って復元された2D強度画像である。
【
図13B】本発明に従って復元された3D高さマップである。
【
図14】本発明をトモグラフィーへ適用した際の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1はオフアクシスDHデジタルホログラフィーの典型的な従来技術の構成を示している。
この構成において、ホログラムはコヒーレント物体波(O)とコヒーレント参照波(R)との間の干渉によって得られる。そして、二次元(2D)強度分布(IH:Intensity Distribution)は以下のように表すことができる。
【0041】
ここで、R
*及びO
*は両波の複素共役を示している。
【0042】
ホログラムを記録した後、復元された波(Ψ)は、以下に示されるように、ホログラムを復元波Uで照らすことによって得られる。
【0044】
式(2)の最初の2つの項はDC項とも呼ばれる回折の零次を形成する。
第3及び第4の項は干渉項によって生成され、それらは対像物の2つの共役すなわち二重像を生成する。
第3項(R
*OU)は物体側における(対物面における)仮想像を生成し、第4項(RO
*U)はホログラムの反対側(像面)に位置する実像を生成する。
【0045】
ホログラムを参照波と同じ波(U=R)で照らして復元を行った場合、式(2)の第3項は物体波に参照強度を掛けたもの(|R|
2O)と同じものになる。
また、U=R
*の場合、第4項は共役物体波に参照強度を掛けたもの(|R|
2O
*)と同じものになる。
【0046】
物体波の復元のためには、式(2)に示される元のホログラムから第3項だけが抽出されなければならない。
オフアクシスDHの場合、空間周波数領域におけるホログラムの二次元スペクトルはフーリエ変換によって得ることができる。したがって、干渉の異なる項は空間変調によって良好に分離されるので、抽出は容易に実行することができる。すなわち、式(2)の不要な項は帯域通過濾波又は非線形濾波等の複数の技術を使用して取り除くことができ、第3項だけを抽出及び取得することができる。
【0047】
図2は典型的なオフアクシスDHの復元手順を示している。
しかしながら、先に述べたように、ホログラムから抽出された物体波はさらに、DC項と物体波項との間の重複領域によって生ずるノイズを含んでいる。
さらに、非線形濾波法は実際の応用において、それの動作条件によって制限を受ける。
【0048】
本発明は、オフアクシスDHにおいて正確な物体波を抽出するための新規で効果的な空間濾波技術を提供する。
この新規の空間濾波技術は、単一の像における2つのデジタルホログラムの同時取得に基づいており、それらは、明確な空間変調によって分離することができる。
言い換えると、通常単一の参照波を使用する典型的なオフアクシスDHとは異なり、異なる空間変調方向を有する2つの参照波(R
1及びR
2)がデジタルホログラムを記録するために用いられる。
【0049】
この結果、各参照波は物体波に対するそれぞれの干渉縞を生成することができる。
ここで、2つの参照波の間の干渉は、2つのホログラムを含む上記像に含まれてはならない。
これは実際には、例えば、
図3及び
図4に示されているように、相互に直交するよう偏光された参照光を使用する又は低コヒーレンス光源を使用することによって実施することができる。
【0050】
図3は
図1の構成と実質的に同様であるが、第1対物レンズ4と参照ミラー5の間に第2ビームスプリッター15が配置されている構成を示している。さらに、第2ビームスプリッター15に光学的に接続されている第2参照ミラー16が備えられている。
この構成は測定光線11及び第1参照光線10だけではなく、第2参照光線12を扱うことを可能にする。
ここで、第2参照光線は第2ビームスプリッター15を介して第2ミラー16に誘導され、3つの光線10、11及び12が全て画像センサー7に入射することを可能にする。
これは、2つの干渉縞、すなわち測定光線11と第1参照光線10とによる第1干渉縞、及び測定光線と第2参照光線12とによる第2干渉縞が現れることを可能にする。
2つの参照光線10、12の相互干渉を抑制するために、これらの光線は、好ましくは、例えば、偏光ビームスプリッターを第2ビームスプリッター15として使用することによって垂直に偏光される。
【0051】
図4は、参照光線間の相互干渉を避けるために他の特徴を利用している実施形態の構成を図示している。
この実施形態において、光源は低コヒーレンス光源21である。この光源からの低コヒーレンス光は、その本質的な特徴により、干渉を制限することができる。
図4に図示されたこの実施形態の構成は前述の実施形態の構成と等価であるが、第2参照ミラー16が二つの参照波間の干渉を避けるように配置されており、そして、当然のことながら、低コヒーレンス光源を使用している。
【0052】
結果として、この方法の2つのホログラムを含む像(I
2H)は以下のように表すことができる。
【0054】
式(2)と同様に、式(3)の最初の4つの項は空間周波数領域における零次回折(すなわちDC項)を意味する。
第5項及び第6項はR
1による干渉項であり、それらの空間周波数は空間周波数領域における像の中心に対して対称に位置する。
一方、第7項及び第8項はR
2による干渉項であり、それらの空間周波数も対称に位置している。この場合、これらの4つの干渉項はR
1とR
2の異なる空間変調の結果として、空間周波数領域において空間的に分離することができる。この方法において、各項は参照ミラーの傾斜の調節により空間周波数領域の象限に位置することが好ましく、そして、それはハードウェア的に熟練の技を要する作業ではない。
実際、典型的なオフアクシスDHにおいて物体波を抽出するための主な困難は、
図5Aに示されているように、空間周波数領域におけるDC項と干渉項(物体波及びそれの共役)の間の重複領域によって生ずる。
【0055】
しかしながら、本発明では、像が同一の物体波を記録する2つのホログラムを含むので、第1ホログラムにおけるDC項と物体波の間の重複領域は第2ホログラムにおける物体波の非重複領域によって置き換えることができる。
例えば、
図5Bに示されているように、R
1*Oの重複領域(物体波(R
1*O)周波数内容の左下四半分)はR
2*Oの非重複領域によって置き換えることができる。
これは、参照波の空間変調周波数は領域の対角軸に存在するとしてもよく、重複部分のほとんどは物体波の空間周波数内容のDC項と物体波の間の1つの象限に配置されるという事実に基づいている。
【0056】
実際には、この処理は、(各参照波と同じである)各復元波を帯域通過濾波された各物体波に乗算した後に実行することができる。
言い換えると、2つの物体波は、それぞれ2つの参照波を使用して得ることができる。
それらは理論的に同一であるが、重複領域のために僅かに異なる。そして、これらの2つの物体波を用い、一方の物体波の重複領域の空間周波数成分が他方の物体波の非重複領域の空間周波数成分によって置き換えられる。
ほとんどの場合、重複領域は、参照波の小さい空間変調成分や高い空間周波成分を有する高剛性対象物の場合を除き、物体波の空間周波数コンテンツの一象限であるので、この方法はより良好な振幅及び位相情報を与えることができる。
【0057】
最悪の場合でも、この方法は他の方法に比べ重複誤差を減らすことができる。
結果として、オフアクシスDHにおけるもう1つの参照波の使用は第2ホログラムの生成を可能にする。
この第2ホログラムは第1ホログラムにおけるDC項と物体波の間の重複領域を第2ホログラムにおける空間周波数領域の非重複領域と置き換えるための付加的な物体波を与えるこができる。
【0058】
この新規の濾波方法を使用してホログラム面にて正確な物体波を取得した後、この波を、スカラー回折理論に基づく数値計算的にホログラム面から対物面に伝搬させて戻す。
フレネル近似を利用することにより、復元された物体波(Ψ
O)はホログラム面における物体波(Ψ
H)から次のように計算することができる。
【0060】
ここで、λは波長であり、dはホログラム面と対像物平面の間の距離である。
(x
O,y
O)及び(x
H,y
H)はそれぞれ、対像物平面及びホログラム面の二次元座標である。
F{ }は空間領域における2Dフーリエ変換を示す。
Aは任意の数であり、参照波及び復元波の振幅によって決まる。
結果として生ずる波(Ψ
O)から、対像物の振幅及び位相像が分解され、最終的に位相像から3D表面高さマップが得られる。
【0061】
図6は本発明において2つの参照波を用いて正確な物体波を復元するための全手順を示している。
本発明の効果を実証するために、帯域通過濾波に基づいた典型的な空間濾波技術と2つの参照波を用いる新規の濾波技術とによりオフアクシスDHのシミュレーションを実行した。
デジタルホログラムを生成するために、
図7A及び7Bに示されている電子回路画像(181×181画素)を使用した。
図7Aは回路の2D強度画像を示しており、
図7Bは3D高さマップを表している。
多義性問題を避けるために高さの最大値は100nmであると仮定した。
対像物平面とホログラム面との間の距離は2mmとした。
【0062】
典型的なオフアクシスDHでは、干渉に単一の参照波のみを使用し、
図8Aに示されているようなデジタルホログラムがホログラム面上に得られた。
このホログラムにおいては、傾斜した参照波を用いて干渉項を空間的に変調した。そして、デジタルホログラムは、
図8Bに示されているように、2Dフーリエ変換を適用してDC項、物体波、及びそれの共役項を分解することができた。
物体波(R
*O)を含む四半分は左下四半分である。
【0063】
ホログラムから物体波を抽出するために、物体波を含む四半分には帯域通過濾波だけを行い、空間変調周波数を除去するため、参照波と同一である復元波を濾波される項に適用した。
図9は物体波の空間スペクトルを示している。
図9に示されているように、DC項は、濾波された領域のうちの点線の円の外側において加算されており、これが物体波の空間周波数成分の大部分である。
DC項を除去するために、このスペクトラムにさらなる帯域通過濾波を適用することができるが、先に述べたように、それは物体波の利用可能なスペクトルを制限し、多くの場合、所望の精度レベルを選定するには人手による介入を必要とする。
【0064】
物体波を濾波した後、最後の工程は式(4)を使用して物体波を数値計算的に伝搬させることである。
結果として、
図10A及び10Bに示されているような2D強度画像及び3D高さマップが復元された。
なお、数値計算的な伝搬中に画像エッジによって生ずる回折効果を取り除くために画像エッジに対してアポダイゼーションを行った。
図10A及び10Bは、主に残ったDC項によって生ずる、復元された像中のいくつかのアーティファクトを表示している。
【0065】
一方、本発明の新規のオフアクシスDHによって得られた像は2つのホログラムを含んでおり、それは
図11Aに示すように、異なる空間変調による2つの識別可能な干渉を意味する。
【0066】
空間周波数領域に、2つの物体波項(R
1*O及びR
2*O)及びそれらの共役(R
1O
*及びR
2O
*)項が現れる。
左下の四半分は第1参照波(R
1*O)に相当する物体波を含み、左上の四半分は第2参照波(R
2*O)に相当する物体波を含む。すなわち、2つの物体波スペクトルを使用することにより、各参照波を復元波として適用した後に、R
1*Oにおける左下四半分の上部のDC項は、該DC項を含まないR
2*Oにおける左上四半分の上部によって置き換える。この手順によってDC項が排除されるので、
図12に示されているように、結果として生ずる物体波の空間スペクトルはDC項による影響を受けない。
【0067】
図13は、本発明の新規の技術によって抽出した物体波を使った数値解析によって復元した2D強度画像及び3D高さマップを示している。
図10A及び10Bに示されている従来の方法によって復元された像と比べると、本発明による像はより良好な品質を有し、
図10A及び10Bに現れているアーティファクトを全く含まないことがわかる。
【0068】
最後に、
図14は本発明の特徴をトモグラフィーに適用した状態を図示している。このような状況におけるトモグラフィーにおいて、対像物の表層に関する物理的情報が得られる。
ここで、用語「トモグラフィー」はこの用語のより一般的な使用とは異なる意味なのであって、すなわち、貫通性の放射線によって人体を調査したり、貫通性放射線の光源及びその検出器に対して人体を回転させるといった手順や処理を意味するのではない。
【0069】
本発明においては、ある程度の深さまでしか浸透せず、表層内で散乱されるような特性を有する光が利用される。
散乱された光には上述の実施形態における反射された光線に対するものと同様な処理がなされる。
【0070】
本発明の上述された手順は、コンピュータ可読プログラムを実行するCPU、ROM、及びRAMを有するコンピュータによって実行することができる。プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0071】
上述された本発明から、本発明の実施形態が多様な様式で変更可能であることは明白であるだろう。そのような変形は本発明の範囲から逸脱する見なされるものではない。すなわち、当業者に明白なそのような変更は以下の請求の範囲に含まれるものである。
【0072】
本願は2011年9月2日に出願された欧州特許出願第11179946.6号に基づき、その優先権を主張し、その開示内容は全て本願に参照として取り込まれる。