(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分光方向における前記回折格子の幅寸法は、前記凸レンズが設定されないときの幅寸法よりも小さくなるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の波長掃引光源。
【背景技術】
【0002】
波長掃引型レーザ光源は、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)光伝送などの光通信の分野で活用され、さらには、測定対象に対してレーザ光を照射して透過および反射を分析する分析装置等に適用されている。
【0003】
この波長掃引型レーザ光源は、例えば、ミクロンオーダーの空間分解能で生体表皮下の断層イメージを取得できる技術として知られている光コヒーレントトモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)に適用することが可能である。波長掃引型レーザ光源を用いたOCT用光源は、高速で波長を変化させることが必要であるとともに、発振スペクトルの幅を狭くすること、および、波長掃引範囲が広いことが必要である。上記OCTにおいて、高速の波長掃引が可能になると、高速の画像処理、血流観測、および酸素飽和濃度の変化等の動的解析ができる。また、上記OCTにおいては、発振スペクトルが狭線幅化するため、生体表皮下の観察可能な深度を深くすることができる(非特許文献1)。さらに、上記OCTでは、広範囲の波長掃引は高分解なイメージ取得ができる。
【0004】
高速で広帯域の走査が可能なレーザ光源として外部共振器型が一般に知られている。一般的な外部共振器型レーザは、半導体等の利得媒質と、外部ミラーとを配置し、これらが外部共振器を構成している。そして、利得媒質と外部ミラーとの間に設けられたバンドパスフィルターを利用して特定の波長のみを発振させている。バンドパスフィルターでは、透過波長を連続的に変化させてレーザ発振波長を連続的に掃引している。レーザ共振器内に備えられている波長分散素子と光ビームスキャナとの機能によって、バンドパスフィルターの透過波長は変化するように制御される。波長分散素子としては、例えば、回折格子やプリズムがある。光ビームスキャナとしては、ポリゴンミラー、ガルバノミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical System)、音響光学スキャナ、電気光学スキャナ等がある。
【0005】
ポリゴンミラーを用いた外部共振器型および波長走査型のレーザ光源100について知られている従来の構成について
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、ポリゴンミラーを用いた従来の外部共振器型および波長走査型のレーザ光源100の構成を示す図である。
図2は、レーザ光源100の回折格子104に入射する光の様子を説明するための図である。
【0006】
図1において、レーザ光源100は、利得媒質101およびその両端に配置された集光レンズ102、103を備える。集光レンズ102側には、ポリゴンミラー106を介して回折格子104が配置されている。集光レンズ103側には、出力結合鏡105から出力光d1が得られる。
【0007】
利得媒質101からの入射光はポリゴンミラー106の反射面において反射して、所定の回折格子方程式の条件を満たす入射角θで回折格子104に入射する。ポリゴンミラー106は、一定速度で、
図1に示した矢印の方向に回転するため、ポリゴンミラー106の反射面における発振光の入射角および反射角が回転と共に周期的に変化する。これにより、回折格子104への入射角θによって、回転とともに発振波長が変化する。
図1に示した構成では、出力結合鏡105と回折格子104との間で共振器が構成される。また、回折格子104およびポリゴンミラー106によってバンドパスフィルターが構成される。
【0008】
レーザ光源100では、
図2(a)および
図2(b)に示すように、回折格子104への入射角θの変化に応じて、回折格子104への入射位置も変化する。入射光は回折格子104面上をスキャンする。
【0009】
発振波長は、入射角θが変化すると変化するようになっているので、広範囲の波長掃引を実現するためには、入射角θの変化を大きくする必要がある。この場合には、回折格子104への光の入射位置も大きく変化することになる。つまり、広範囲の波長掃引を実現するためには、回折格子の面積を大きくする必要がある。
【0010】
一方、発振スペクトルの狭線幅化は、共振器内のバンドパスフィルターの狭線幅化によって実現することができる。バンドパスフィルターの狭線幅化は、回折格子104による空間的な波長の分散を大きくすることにより行われ、波長選択性が強まる。このためには、単位長さあたりの溝本数が多い回折格子を使用する必要がある。
【0011】
図1に示した構成の説明は、回折格子からの一次回折光が直接、光ビームスキャナであるポリゴンミラーへ帰還するリトロー配置を適用した場合であるが、リットマン配置についても知られている。リットマン配置では、回折格子からの一次回折光が直接光ビームスキャナに戻るのではなく、ミラーでの反射後に再度回折格子を経て、光ビームスキャナである電気光学スキャナに帰還するように配置されている。
【0012】
次に、一般的なリットマン配置の波長掃引型レーザ光源300の構成について
図3および
図4を参照して説明する。
図3は、一般的なリットマン配置の波長掃引型レーザ光源300の構成を示す図である。
図4は、波長掃引型レーザ光源300の回折格子304に入射する光の様子を説明するための図である。
【0013】
図3において、レーザ光源300は、利得媒質301およびその両端に配置された集光レンズ302、103を備える。集光レンズ302側には電気光学スキャナ306を介して回折格子304、端面鏡308が配置されている。集光レンズ303側には、出力結合鏡305から出力光d3が得られる。
【0014】
利得媒質301からの入射光は電気光学スキャナ306によって偏向され、所定の回折格子方程式の条件を満たす入射角で回折格子304に入射する。電気光学スキャナ306は、
図3に示した矢印の方向に周期的往復を行うよう入射光を偏向するので、回折格子304への入射角が偏向と共に周期的に変化する。これにより、回折格子304への入射角θによって、偏向とともに発振波長が変化する。
図3に示した構成では、出力結合鏡305と端面鏡308との間で共振器が構成される。また、回折格子304および電気光学スキャナ306によってバンドパスフィルターが構成される。
【0015】
波長掃引型レーザ光源300においても、
図4(a)および
図4(b)に示すように、回折格子304への入射角θの変化に応じて、回折格子304への入射位置も変化する。このため、波長掃引型レーザ光源300においても、前述の
図2のリトロー構成の場合と同様、広範囲の波長掃引を実現するには、面積が大きい回折格子を使用する必要がある。また、発振スペクトルの狭線幅化へは単位長さあたりの溝本数が多い回折格子を使用する必要がある。
【0016】
上記波長掃引型レーザ光源300に用いられる電気光学スキャナ309として、タンタル酸ニオブ酸リチウム(KTa
1−xNb
xO
3(0<x<1)、K
1−yLi
yTa
1−xNb
xO
3(0<x<1、0<y<1):以下KTNと示す)結晶を用いた新しい動作原理に基づくとともに、広角で、かつ低電圧動作の偏向現象を利用した光ビームスキャナが注目されている(非特許文献2)。
【0017】
近年、特定の電気光学効果を有する結晶において、電圧印加時に結晶内に空間電荷分布が形成され、それによる非一様な電界分布が屈折率の勾配を誘起し、この勾配に直交する光線の進路を屈曲させる現象が確認された。電気光学結晶に対してオーミック接触となるような電極を形成し、この電極に電圧が印加されると、電気光学結晶に電荷が注入され、空間電荷制御状態となって、結晶内部に電界の傾斜が生ずる。電界の傾斜は、屈折率の傾斜を生じさせ、結晶を透過する光のビームを偏向させることができる(特許文献1)。このような電気光学結晶においては、結晶内の全箇所が偏向作用を担うので、光線の伝搬経路上の各所でその作用が何度も行われ、偏向された光が結晶から出射する。このときに得られる偏向量は、結晶内の伝搬長におおむね比例することになるので、上述した既存のプリズム形状の光偏向器とその性質が全く異なる。そのため、電気光学結晶は、高速動作が可能で、かつ、偏向角が大きく変化する特長がある。
【0018】
電荷の注入により空間電荷制御状態を実現する場合には、電荷の電気光学結晶内での移動速度により光偏向器の応答速度が制限される。光偏向器への印加電圧の駆動周期が短くなるにつれ、直流電圧印加時における理想的な空間電荷制御状態とならなくなり、光偏向器からの出射光の偏向角が小さくなってしまう。このような、電荷の移動度による制約を解消するために、光偏向を行うための電圧印加に先立って、結晶内のトラップに電荷を捕獲させるための電圧を印加する方法が提案されている(特許文献2)。この特許文献2の方法は、電荷の注入と電界の傾斜とを同時に行う従来の方法に比べて、電荷の移動速度によって影響を受けることなく、電界の応答により光が偏向されるので、電気光学効果の応答周波数(〜GHz)に至るまで非常に高速な光偏向を行うことができる。
【0019】
結晶内のトラップに電荷をあらかじめ捕獲させる方式において、結晶内のトラップ密度Nが一様とし、かつ、電気光学結晶が2次の電気光学効果(カー効果)を持つ場合、結晶断面の屈折率の変化量Δn(x)は、下記式(1)で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
なお、式(1)において、V:光偏向のための駆動電圧、d:結晶厚、x:結晶厚方向の位置、e:電気素量、ε:誘電率、n:結晶の屈折率、g
11:電気光学定数、を示す。
【0022】
この場合、Δnはxの二次関数である。上記式(1)では、偏向現象は電気光学結晶への電圧の印加で屈折率変化が電界方向へ平行移動し、屈折率の高い方向に光が曲がるようになる。屈折率分布が線形であれば、ビームは発散したり、収束したりはしない。
結晶の中央付近で屈折率が高い二次関数の分布は、屈折率分布型凸レンズの屈折率分布である。これにより、電気光学結晶内のビームは、この屈折率のレンズ効果で収束するようになる。つまり、光偏向器を透過した光は偏向されると同時に集光され、焦点以降は発散する。
【0023】
電気光学結晶(KTN)の高速動作時は、上記(1)式に示したように、結晶断面の屈折率変化Δnは、結晶厚方向の位置xの二次関数となる。偏向現象はKTNへの電圧の印加で屈折率変化が電界方向へ平行移動し、屈折率の高い方向に光が曲がることに拠る。屈折率分布が線形であれば、ビームは発散したり、収束したりはしない。しかし、結晶の中央付近で屈折率が高い二次関数の分布は、屈折率分布型凸レンズの屈折率分布である。これにより、KTN結晶内のビームは、この屈折率のレンズ効果で収束するようになる。このように、チップ断面において屈折率分布が空間的に凸となり、KTN結晶チップ自体が偏向方向に対して、一軸性の凸レンズの機能を持つことになる。つまり、KTNスキャナを透過した光は偏向されると同時に集光され、焦点以降は発散する。
【0024】
一方、レーザ共振器での波長選択性を良好にするためには、回折格子へ平行光が入射されることが望ましい。回折格子の波長選択性を利用しているKTN波長可変光源では、KTNによる偏向角δによって回折格子への入射角θはθ−δに変じ、これに伴って選択波長λが、下記の回折格子公式(2)に従って変化する。
【0025】
【数2】
【0026】
なお、式(2)において、Λ:回折格子のピッチ、m:回折次数、を示す。
【0027】
回折格子へ発散や収束しての光が入射されることは、さまざまなθを有する光が入射されることに等しい。上記式(2)にてθが有限の幅を有するので、上記式(2)を満たすφも有限の幅を持つ。そのため、ある波長幅に存在する複数の波長が共振器に戻ることとなり、発振の選択波長性が劣化する。この結果、レーザの発振線幅が広くなり、十分なコヒーレンス長が得にくくなる。
【0028】
図5は、KTNスキャナ506と回折格子508と間にシリンドリカル凹レンズ511を配置し、KTNスキャナ506による凸レンズ効果を打ち消すことで、凹レンズ511からの平行光を回折格子508へ入射させるようにした非特許文献3の構成を示している。このような構成では、平行光は得られるものの、KTNスキャナ506内で集光が行われるので、外部のシリンドリカル凹レンズ511では、KTNスキャナ506への入射光よりも小さいビーム径を有する平行光が得られる。
【0029】
一方、偏向角は、シリンドリカル凹レンズ511によって大きくなる。すなわち、入射光よりも小さいビーム径の平行光により、シリンドリカル凹レンズ511が無い場合のものに比べて大きい偏向角が得られる。
【0030】
一般に、回折格子による波長選択性は、回折格子に入射するビーム径が大きいほど強くなる。従って、小さいビーム径を有する平行光では、回折格子の波長選択効果を損なってしまうことになる。また、偏向角が拡大されるので、大面積の回折格子および端面鏡を使用する必要がある。
【0031】
ここで、回析格子の波長選択性を強めるためには、単位長さあたりの溝本数が多い回折格子が必要となる。また、安定したレーザ発振のためには、広い波長帯域の光に対して一定でかつ、特定の次数で回折する光の回折効率が高いことが好ましい。
しかしながら、単位長さあたりの溝本数が多くなる程、格子形状の面内均一性の確保が困難となり得る。例えば特許文献3に記載の分光光学素子は、所望の特性を得るために多層膜の設計に合わせた構造となるように制御しなければならず、分光光学素子の製造時に高い精度が求められる。また、特許文献3に記載の分光光学素子は、40%以上もの高い1次回折効率を、入射光の波長依存性や偏光依存性の影響を小さくするのが困難であった。さらに、大面積の回折格子及び端面鏡が必要となる場合には、大型化に伴う部品のコストが増加する。
【発明を実施するための形態】
【0043】
<第1実施形態>
以下、本発明の波長掃引光源の第1実施形態について説明する。
【0044】
図6は、本実施形態の波長掃引光源600の構成例を示す図である。
この波長掃引光源600は、利得媒質601を励起させて共振器内で発振する光の波長を掃引する。
図6に示すように、波長掃引光源600は、集光効果を有し、かつ光を偏向させる光ビームスキャナ(電気光学スキャナ)606と、光ビームスキャナ606によって集光された光を平行光とするシリンドリカル凸レンズ(以下、単に「凸レンズ」という。)611と、凸レンズ611からの平行光の波長を選択する回析格子604とを備える。
【0045】
図1において、利得媒質601は、第1の集光レンズ603および第2の集光レンズ602の間に配置される。利得媒質601は、第2の集光レンズ602を経て、光ビームスキャナ606、凸レンズ611、回折格子604、および、端面鏡608によって構成される波長フィルタに結合されるようになっている。
【0046】
第1の集光レンズ603は、出力結合鏡605に相対して配置され、これにより、この実施形態の波長掃引光源600では、出力結合鏡605と端面鏡608とを両端とする光共振器が構成される。出力結合鏡605からは、この光共振器によるレーザ作用による出力光d6が出射される。
【0047】
回折格子604で回折された光のうち、端面鏡608によって光共振器内に帰還される波長が発振される。本実施形態では、光ビームスキャナ606の光ビームスキャン動作によって、回折格子604への入射角が変化するようになっている。この入射角の変化に伴い、光共振器内に帰還される波長も変化するので、連続的な波長掃引が行われる。
【0048】
光ビームスキャナ606は、電気光学スキャナであるので、可動部を介在することなく、波長を変化させる。すなわち、光ビームスキャナ606では、駆動電源609からの印加電圧を変えることにより、高速に波長を変化させることができる。
【0049】
本実施形態の凸レンズ611は、凸レンズ611を通過する平行光が回析格子604に対して同じ位置に入射するように、光ビームスキャナ606と回析格子604との間の共振器内に予め設定される。この場合、凸レンズ611の焦点距離は、光ビームスキャナ606が有するレンズ効果による焦点距離と等しくなるようになっている。なお、レンズ効果を有する光ビームスキャナ606として、例えば、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa
1−x Nb
xO
3 (0<x<1):KTN)、リチウムをドープした(K
1−yLi
yTa
1−xNb
xO
3(0<x<1、0<y<1))などがある。
【0050】
光ビームスキャナ606は、例えば特許文献1に開示されている電気光学結晶を用いる。この電気光学効果結晶内には、電圧印加による電界の大きさに応じて電荷が注入される。その結果として、結晶内には、その注入電荷によって形成される空間電荷分布、または、注入電荷がさらに電気光学結晶中に捕捉されることにより生成されるトラップ電荷分布が生じる。
そして、これらの電荷分布による非一様な電界分布が、屈折率の勾配を惹起し、この勾配に直交する光線の進路が屈曲する。このとき、結晶の中央付近では、屈折率が大きい非線形な屈折率分布が生じることになるので、光ビームスキャナ606を透過した光は偏向すると同時に集光し、焦点以降は発散する。
【0051】
ここで、凸レンズ611は、光ビームスキャナ606が有するレンズ効果による焦点距離f1と等しい焦点距離f2を有し、焦点位置からf2(=f1)の位置に配置される。
【0052】
この場合、一般に知られているレンズの焦点距離の定義からすると、凸レンズ611の透過光は、平行光となる。このとき、凸レンズ611は、光ビームスキャナ606のレンズとしての主点からおおよそ2f2(=2f1)の位置に配置されることになる。また、光ビームスキャナ606の偏向原点、および、レンズとしての主点は、ほぼ一致することになるので、光ビームスキャナ606で偏向されて凸レンズ611を透過した光線は、凸レンズ611を挟んで光ビームスキャナ606と反対側、おおよそ2f2(=2f1)の位置を通過することになる。この際の偏向角度は、偏向しない際の光軸に対して線対称となり、その大きさは変わらない。
【0053】
凸レンズ611の透過光はすべて、回析格子604上の同じ位置に入射して回折される。回折格子604への入射光は、光ビームスキャナ606での偏向に伴って入射角度自体は変化することになるが、回折格子604上の同じ位置に入射する。これは、回折格子604上で光が空間的に移動することはないことを意味する。これにより、回折格子604の幅寸法は、凸レンズ611からの入射光が有するビーム径と同じ大きさになる程度まで、小さくすることができる。この場合、回折格子604からの光を反射する端面鏡608も、回折格子604からの光が有するビーム径と同じ大きさになる程度まで、幅寸法を小さくすることができる。これにより、波長掃引光源600の小型化も実現できる。
【0054】
なお、
図6では、光ビームスキャナ606の外部に焦点がある場合について示してあるが、これに限られず、例えば、焦点が光ビームスキャナ606の内部となるようにしてもよい。
【0055】
仮に、光ビームスキャナ606のレンズとしての主点と偏向原点とが完全に一致しない場合であっても、前述した凹レンズを用いた従来の構成よりも十分に小さい回析格子604の幅寸法となるため、本実施形態の波長掃引光源600を適用することが可能になっている。
【0056】
次に、波長掃引光源600の実施例について、
図6および
図7を参照して説明する。
図7は、波長掃引光源600の回折格子604に入射する光の様子を説明するための図である。
【0057】
[実施例]
図6に示した波長掃引光源600は、1.3μm帯の波長可変光源となるように構築した。利得媒質601として、例えば半導体光増幅チップを用い、集光レンズ603として、例えば非球面レンズを用いた。そして、光ビームスキャナ606の偏向器として、電極間隔が例えば1.2mmのKTN光ビームスキャナを用いた。
【0058】
この実施例では、ビーム直径は1.0mmとし、この光線が電界に平行な直線偏光で入射する。光ビームスキャナ606の結晶長は4mmとした。光ビームスキャナ606の入出射端面は、反射膜と反射防止膜の両方を有しており、折り返し光路により入射光が偏向される距離は、12mmとなる。
【0059】
光ビームスキャナ606からの出射光は、平行光生成用の凸レンズ611を透過後、刻線数600mm-1、ブレーズ波長1.6μmの回折格子604に入射される。光ビームスキャナ606が駆動せずに、回折格子604への入射光がKTN結晶への入射角と平行に出射される際の回折格子604への入射角θは、53.1°に設定した。回折格子604によって回折した光のうち、端面鏡608によってレーザ共振器内に帰還される波長が発振される。
【0060】
光ビームスキャナ606には、一軸性の凸レンズの機能を持たせるために、正のDC電圧と負のDC電圧を、一定時間印加する。この印加電圧の振幅は、正電圧および負電圧ともに、同じ400Vとした。DC電圧を印加することにより、光ビームスキャナ606の結晶中に電子が注入される。光ビームスキャナ606のKTN結晶中には電子トラップが存在するため、DC電圧の印加後も結晶中にトラップに捕獲された電子が存在する。トラップされた電子の分布による非一様な電界分布が、結晶の中央付近で屈折率が高い非線形な屈折率分布を誘起し、凸レンズ効果を発生させる。上述の正負400VのDC電圧印加によるレンズの焦点距離は8.64mm、結晶出射端から焦点までの距離は5.75mmであった。
【0061】
集光された光は、焦点以降で発散することになるが、焦点距離8.64mmの凸レンズ611によって平行光となり、この平行光が回折格子604に入射する。
【0062】
DC電圧の印加後、光ビームスキャナ駆動用のAC電圧を印加していないときには、上記実施例の波長掃引光源600の構成によって、中心波長1320nmで光が発振した。
【0063】
光ビームスキャナ606に対し、振幅±400V、周波数200kHzの正弦波状のAC電圧を印加した場合、±50mrad(=±2.86°)の範囲の偏向が生じた。偏向原点の位置はKTN結晶出射端より、KTN結晶内部方向1.67mmの位置であった。この偏向に伴って、凸レンズ611および回折格子604への入射角は、
図7(a)で示した入射角から、
図7(b)で示した入射角となった。
【0064】
図7(a)はAC電圧の印加中において、振幅+400VのDC電圧印加時の回折格子604へ入射する光の様子を示してある。この場合、
図7(a)に示すように、掃引帯域の中で、最長波長が帰還可能な方向に光が回折される。
図7(a)に示すd7は、掃引帯域の中で最長波長時の回折格子からの回折光を示してある。
一方、
図7(b)はAC電圧印加中において、振幅−400VのDC電圧印加時の回折格子604へ入射する光の様子を示してある。この場合、
図7(b)に示すように、掃引帯域の中で、最短波長が帰還可能な方向に光が回折される。
図7(b)に示すd7は、掃引帯域の中で最短波長時の回折格子からの回折光を示してある。
【0065】
凸レンズ611の透過光は、偏向された光線の焦点を結び、かつその焦点から8.64mmの位置を透過した。
【0066】
一般に、電圧値に応じた光線の位置は、下記式(3)によって近似的に表されることが知られている。
【0068】
なお、式(3)において、f:凸レンズ611の焦点距離、a:偏向原点から凸レンズ611までの距離、b:凸レンズ611から光線がある一点を透過する位置までの距離、を示す。
【0069】
上記式(3)から、本実施例の波長掃引光源600では、f=8.64mm、a=16.06mm(=1.67+5.75+8.64)となるので、b=18.7mmとなる。
【0070】
したがって、結晶外の焦点から8.64mmの位置に凸レンズ611を配置した場合、凸レンズ611から16.06mmの位置で、すべての電圧値に応じた偏向後の光線が一点で交わることになる。
【0071】
この観点から、
図1に示した波長掃引光源600では、電圧値に応じた偏向後の光線が一点で交わるように、回折格子604を配置した。これによって、回折格子604への入射光は、光ビームスキャナ606のスキャンに応じて入射角のみが変化することになるが、回折格子604上を空間的に移動することにはならない。これにより、回折格子604の素子面積は、使用するビーム径の入射角を考慮した断面積を有するようにすればよい。また、端面鏡608の素子面積も回折格子604と同様に小さくすることができる。
【0072】
回折格子604上でビーム断面積が最も大きくなるのは、入射角が最も大きい場合である。
図7(a)の構成例では、この場合の入射角は、53.1°+2.86°となる。したがって、必要な回折格子604の幅は、1.79mmとなる。
【0073】
ここで、表1に、凸レンズ611を用いた本実施例の場合と、一般に知られている平行光生成法であるシリンドリカル凹レンズを用いた従来方式の場合との計算結果を示す。
【0075】
表1では、各々刻線数600mm-1の回折格子を用いて、100nmの波長掃引を行う場合の値を例示している。本実施形態の回折格子604は、本実施例で示した位置に配置している。従来方式では、回折格子はシリンドリカル凹レンズから10mmの位置に配置している。
【0076】
表1によると、従来方式では、凹レンズによって平行光を生成しているが、同時にスキャン角度も拡大されている。このために、回折格子への初期入射角度が大きくなる。
【0077】
また、従来方式の場合は、回折格子上を空間的に移動する分、必要な回折格子幅が大きくなってしまう。一方、本実施形態の場合は、ビーム断面の回折格子への射影の最大値で決まるので必要な回折格子幅は、1.79mmと大幅に小さくすることができる。
【0078】
回折光を反射する端面鏡についても、上述した回析格子と同様に、本実施例の波長掃引光源のように構成すれば、必要な幅を大きく低減することができる。
【0079】
以上説明したように、凸レンズ611によって、平行光線を生成し、かつ、それらの平行光線が一点を透過するようになるので、回折格子604の素子サイズを小さくすることができる。さらに、端面鏡608の素子サイズも小さくすることができる。
【0080】
すなわち、波長掃引光源600は、共振器内に凸レンズ611を配置することにより、共振器内での光ビームの平行光化と、偏向動作時の光ビームが一点を通過することを同時に実現できる。凸レンズ611を一つ設けることにより、回折格子604の素子面積を光ビームの断面積と同じ程度になるまで減少させることができる。また、回折格子604上での光ビームの空間的移動がなくなるので、端面鏡608についても素子面積を減少させることが可能である。回折格子604および端面鏡608の素子面積を小さくすることで、部品コストを大幅に低減することができる。さらに、回折格子604および端面鏡608の小型化に伴い、回折格子604の面内均一性という問題を解決することができる。したがって、広い波長帯域で安定したレーザ発振を行うことが可能となる。
【0081】
<第2実施形態>
第2実施形態の波長掃引光源800は、第1実施形態のものと異なり、第2の集光レンズ802と光ビームスキャナ806との間にシリンドリカル凹レンズ812を設けることによって、光ビームスキャナ806のスキャン効率を向上させるようにしたものである。
以下では、本実施形態の波長掃引光源800の構成について、第1実施形態のものとの差異を中心に説明する。
【0082】
図8は、本実施形態の波長掃引光源800の構成例を示す図である。
図6に示したものと同様に、波長掃引光源800は、利得媒質801と、2つの集光レンズ802、803と、回析格子804と、出力結合鏡805と、光ビームスキャナ806と、端面鏡808と、駆動用電源809とを備える。
図6に示したものと異なり、本実施形態では、シリンドリカル凹レンズ(以下、単に「凹レンズ」という。)812を備える。この凹レンズ812は、光ビームスキャナ806が有する凸レンズの集光方向と平行にレンズ効果を有するように配置する。
集光レンズ802によって平行光となった光は、この凹レンズ812によって、光ビームスキャナ806へ拡散しながら入射する。入射後は、光ビームスキャナ806のレンズ効果によって、集光されて出射する。
光ビームスキャナ806に拡散光が入射されるので、平行光が入射される場合に比べて、KTN結晶断面を大きく利用できる。光がより大きな屈折率変化の断面を透過するので、偏向効率が増大する。集光光として光ビームスキャナ806から出射されるには、光ビームスキャナ806が有する集光レンズとしてのレンズ効果が、凹レンズ812が有する拡散レンズとしてのレンズ効果より大きい必要がある。
【0083】
第1実施形態の実施例のものと同様に、光ビームスキャナ806のレンズの焦点距離は8.64mm、結晶出射端から焦点までの距離は5.75mmであった。この場合の凹レンズ812は焦点距離-20mmのものを用いた。光ビームスキャナ806から出射された光は、回折格子804との間で焦点を結ぶので、第1実施形態の実施例のものと同様に、凸レンズ811を用いて平行光とされる。そして、偏向動作中に回折格子804の使用面積が最小となる位置に回折格子804を配置した。
【0084】
このように凹レンズ812を配置することによって、スキャン効率を向上する。また、凸レンズ811によって、平行光線が一点を透過するようになるので、回折格子804および端面鏡808の素子サイズを大幅に低減することができる。