(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053103
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ワイドバンドギャップ半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/47 20060101AFI20161219BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20161219BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
H01L29/48 F
H01L29/48 P
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-91460(P2012-91460)
(22)【出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2013-222731(P2013-222731A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】木下 明将
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲司
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−359378(JP,A)
【文献】
特開2002−314099(JP,A)
【文献】
特開平10−321879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/47
H01L 21/329
H01L 29/86−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の高濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体基板と、前記半導体基板表面上に形成された、第1導電型の前記半導体基板よりも低濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体堆積膜と、前記半導体堆積膜上に形成された金属堆積膜と、前記半導体堆積膜の内部で前記金属堆積膜の付近に第2導電型領域が形成されているワイドバンドギャップ半導体装置において、
少なくとも前記金属堆積膜の深さ方向の下部位置の前記半導体堆積膜に、幅方向に所定間隔毎に複数の前記第2導電型領域を配置し、
前記半導体堆積膜の間隔を、深さ方向の上部位置から下部への深さにしたがい直線的に狭まった後に直線的に広くなる菱形の形状とすることで、当該半導体堆積膜が、深さ方向の上部位置の幅に対して、深さ方向の内部側の幅が異なることを特徴とするワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項2】
前記第2導電型領域は、平面からみてストライプ状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項3】
前記第2導電型領域は、深さ方向の不純物濃度分布が、任意の深さまで、当該任意の深さの不純物濃度の±90%の範囲の不純物濃度とし、任意の深さより深い部分では深さが増すにしたがって不純物濃度を低くしたことを特徴とする請求項1または2に記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項4】
一対の前記第2導電型領域間の前記半導体堆積膜の間隔は、最短部が1μm以上の幅を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項5】
一対の前記第2導電型領域間の前記半導体堆積膜の間隔は、最短部が4μm以下の幅を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項6】
前記半導体堆積膜が炭化珪素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項7】
前記半導体堆積膜が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項8】
前記金属堆積膜と前記半導体堆積膜との界面に形成されるショットキー障壁の高さが1.0eV以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項9】
前記金属堆積膜と前記半導体堆積膜との界面に形成されるショットキー障壁の高さが0.5eV以上1.0eV未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のワイドバンドギャップ半導体装置。
【請求項10】
第1導電型の高濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体基板と、前記半導体基板表面上に形成された、第1導電型の前記半導体基板よりも低濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体堆積膜と、前記半導体堆積膜上に形成された金属堆積膜と、前記半導体堆積膜の内部で前記金属堆積膜の付近に第2導電型領域が形成されているワイドバンドギャップ半導体装置において、
少なくとも前記金属堆積膜の深さ方向の下部位置の前記半導体堆積膜に、幅方向に所定間隔毎に複数の前記第2導電型領域を配置する工程と、
前記半導体堆積膜の間隔を、深さ方向の上部位置から下部への深さにしたがい直線的に狭まった後に直線的に広くなる菱形の形状とすることで、当該半導体堆積膜を、深さ方向の上部位置の幅に対して、深さ方向の内部側の幅が異なるように形成する工程と、
を含むことを特徴とするワイドバンドギャップ半導体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイドバンドギャップ半導体上に形成された金属およびワイドバンドギャップ半導体界面を有する装置において、ワイドバンドギャップ半導体と金属堆積膜の界面の一部がショットキー界面とされたワイドバンドギャップ半導体装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、大電流を制御するパワー半導体素子の材料としては、従来、シリコン単結晶が用いられている。パワー半導体素子にはいくつかの種類があり、用途に合わせてそれらが使い分けられているのが現状である。例えば、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は、電流密度は多く取れるものの高速でのスイッチングができず、バイポーラトランジスタは数kHzが、IGBTでは数十kHz程度の周波数がその使用限界である。
【0003】
一方、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)は、大電流は取れないものの、数MHzまでの高速で使用できる。市場では大電流と高速性を兼ね備えたパワーデバイスへの要求が強く、IGBTやパワーMOSFETはその改良に力が注がれ、現在では、ほぼ材料限界に近いところまで開発が進んでいる。パワー半導体素子の観点からの材料検討も行われ、炭化珪素(以下SiCと略す)が次世代のパワー半導体素子として、低オン電圧、高速・高温特性に優れた素子であることから、注目を集めている(例えば、下記非特許文献1参照。)。
【0004】
SiCは化学的に非常に安定な材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用できる。また、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きい。これは、またもう一つのワイドバンドギャップ半導体材料の窒化ガリウム(以下GaN)にもあてはまる。
【0005】
ワイドバンドギャップ半導体には、シリコンと同様に、金属を表面に堆積させることにより整流特性のあるショットキーバリアダイオードを製造できる。これらの理由から、ワイドバンドギャップ半導体を基板材料とした高耐圧で低オン抵抗のショットキーバリアダイオードが実現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Optimum Semiconductors for High−Power Electronics」,IEEE Transactions on Electron Devices(Vol.36,p.1811,1989)
【非特許文献2】「1200−V VBS Diode with Low Threshold Voltage and Low Leakage Current」,Materials Science Forum Vols.600−603(2009),pp939−942
【非特許文献3】「6.1.2 JBS Rectifier Structure:Reverse Leakage Model」,Silicon Carbide Power Divices:B.Jayant Baliga,p108
【非特許文献4】「4.3 DEPLETION REGION」,SEMICONDUCTOR DEVICES:S.M.Sze,p93−99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
理想的な整流特性を有するダイオードは、逆方向電圧を印加したときに電流は流れず、順方向電圧の印加に対しては抵抗を有しない。しかし、一般的に製造されるダイオードは逆方向電圧を印加すると微量の電流(リーク電流)が流れ、順方向にはいくらかの抵抗(オン抵抗)を有する。ショットキー界面を有する装置、例えばショットキーバリアダイオードはショットキーバリアハイト(障壁高さ)が大きいとリーク電流を抑えて耐圧を上げることができるが、オン抵抗が大きくなる。
【0008】
逆に、ショットキーバリアハイトが小さいとオン抵抗が小さくなるが、リーク電流が大きくなる。このように、逆方向電気特性のリーク電流と順方向電気特性のオン抵抗にはトレードオフの関係がある。これらの理由から、ショットキーバリアダイオード製造には用途に応じた金属が選択されるが、製造されたショットキーバリアダイオードのショットキーバリアハイトは、半導体の電子親和力と金属の仕事関数によって特徴付けられるため、必ずしも用途に最適なショットキーバリアダイオードを製造することができない。
【0009】
前述したように、ワイドバンドギャップ半導体ショットキーバリアダイオードであってもショットキーバリアハイトが低ければリーク電流が多くなる。この問題を解決する手段としてジャンクションバリアショットキー構造(以下JBS構造と略す)を採用したダイオードが利用されている。JBS構造は、第1導電型半導体のショットキー電極を第2導電型の半導体で挟むことによりショットキー界面部の第1導電型半導体を空乏化することによりリーク電流を抑えている。また、空乏層の厚さ(ショットキー界面から半導体基板方向に広がった空乏層の幅)が広くなればなるほどリーク電流は抑えられる。
【0010】
一般的なJBS構造は、ショットキー界面を形成している第1導電型半導体と第2導電型半導体を交互にストライプ上に配置した構造(例えば、非特許文献2参照。)になっており、深さ方向に対して一定の幅であることが一般的とされる。しかし、深さ方向に一定の幅であると、深い部分で電界集中が起こり耐圧の低下が起こる。
【0011】
また、JBS構造では第1導電型の領域を空乏化するときの電圧が低いほどリーク電流は低くなる(非特許文献3、p.108参照)。第2導電型領域をストライプ状に配置したJBS構造では、一次元モデルで示されるように空乏層の広がり方が第1導電型半導体の不純物濃度と、第2導電型半導体の不純物濃度によって決まってしまう(非特許文献4、p.93参照)。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、ワイドバンドギャップ半導体上のショットキー界面を有するJBS構造ダイオード装置において、オン抵抗を下げずにリーク電流を抑えることができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明のワイドバンドギャップ半導体装置は、第1導電型の高濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体基板と、前記半導体基板表面上に形成された第1導電型の前記半導体基板よりも低濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体堆積膜と、前記半導体堆積膜上に形成された金属堆積膜と、前記半導体堆積膜の内部で前記金属堆積膜の付近に第2導電型領域が形成されているワイドバンドギャップ半導体装置において、少なくとも前記金属堆積膜の深さ方向の下部位置の前記半導体堆積膜に、幅方向に所定間隔毎に複数の前記第2導電型領域を配置し、前記半導体堆積膜は、深さ方向の上部位置の幅に対して、深さ方向の内部側の幅が異なることを特徴とする。
【0014】
また、前記第2導電型領域は、平面からみてストライプ状に配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、前記半導体堆積膜の間隔は、深さ方向の上部位置から下部への深さにしたがい狭まった後に広くなる略菱形の形状とされたことを特徴とする。
【0016】
また、前記第2導電型領域は、深さ方向の不純物濃度分布が、任意の深さまで±90%の範囲の不純物濃度とし、任意の深さより深い部分では深さにしたがって不純物濃度を低くしたことを特徴とする。
【0017】
また、一対の前記第2導電型領域間の前記半導体堆積膜の間隔は、最短部が1μm以上の幅を有することを特徴とする。
【0018】
また、一対の前記第2導電型領域間の前記半導体堆積膜の間隔は、最短部が4μm以下の幅を有することを特徴とする。
【0019】
また、前記半導体堆積膜が炭化珪素であることを特徴とする。
【0020】
また、前記半導体堆積膜が窒化ガリウムであることを特徴とする。
【0021】
また、上記構成において、前記金属堆積膜と前記半導体堆積膜との界面に形成されるショットキー障壁の高さが1.0eV以上であることを特徴とする。
【0022】
また、上記構成において、前記金属堆積膜と前記半導体堆積膜との界面に形成されるショットキー障壁の高さが0.5eV以上1.0eV未満であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のワイドバンドギャップ半導体製造方法は、第1導電型の高濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体基板と、前記半導体基板表面上に形成された第1導電型の前記半導体基板よりも低濃度のワイドバンドギャップ半導体により形成される半導体堆積膜と、前記半導体堆積膜上に形成された金属堆積膜と、前記半導体堆積膜の内部で前記金属堆積膜の付近に第2導電型領域が形成されているワイドバンドギャップ半導体装置において、少なくとも前記金属堆積膜の深さ方向の下部位置の前記半導体堆積膜に、幅方向に所定間隔毎に複数の前記第2導電型領域を配置する工程と、前記半導体堆積膜を、深さ方向の上部位置の幅に対して、深さ方向の内部側の幅が異なるように形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
また、前記半導体堆積膜を、深さ方向の上部位置の幅に対して、深さ方向の内部側の幅を広く形成したことを特徴とする。
【0025】
また、前記半導体堆積膜を、深さ方向の上部位置の幅に対して、深さ方向の内部側の幅を狭く形成したことを特徴とする。
【0026】
また、前記半導体堆積膜を、深さ方向の上部位置から下部への深さにしたがい狭まった後に広くなる略菱形の形状に形成することを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、ワイドバンドギャップ半導体基板上のショットキー界面を有するJBS構造ダイオード装置において、オン抵抗を低減させる第2導電型半導体の領域を低減させつつ、リーク電流を抑えることができる。
【0028】
そして、半導体堆積膜の間隔は、最短部が1μm以上の幅を有するとオン電圧を抑えることができる。また、半導体堆積膜の間隔が、深さ方向の上部位置から下部にしたがい狭まった後に広くなる略菱形の形状とすることで、最も狭まった箇所での効果が良好な特性として現れる。また、半導体堆積膜の間隔が深さ方向に一度狭まり、さらに深くなるにつれて広がる構造で、最も第1導電型の領域の狭い深さから深い部分での第2導電型の濃度が薄くなる箇所での効果が良好な特性として現れる。また、ワイドバンドギャップ半導体堆積膜の間隔が深さ方向に一度狭まり、さらに深くなるにつれて広がる構造で、最も第1導電型の領域の狭い幅は1μm以上であるとオン電圧を低く抑えることができる。
【0029】
また、半導体堆積膜として炭化珪素(SiC)を利用すると上記効果が期待できる。また、半導体堆積膜として窒化ガリウム(GaN)を利用しても効果が期待できる。
【0030】
また、高耐圧JBS構造ダイオードを作製するためには、ショットキーバリアハイトは高い必要がある。ショットキーバリアハイトは1eV以上あれば高耐圧JBS構造ダイオードとしての動作が期待できる。
【0031】
また、電源で利用する程度の耐圧を持つJBS構造ダイオードを作製するためにはショットキーバリアハイトは適度の値である必要がある。ショットキーバリアハイトは0.5eV以上1eV未満であれば、例えば電源用JBS構造ダイオードとしての動作が期待できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ワイドバンドギャップ半導体上のショットキー界面を有するJBS構造ダイオード装置において、オン抵抗を下げずにリーク電流を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる炭化珪素JBSダイオードの断面構造図である。
【
図2】
図1のJBS構造の一例を示す断面拡大図である。
【
図3】本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である(その1)。
【
図4】本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である(その2)。
【
図5】本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である(その3)。
【
図6】本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である(その4)。
【
図7】本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である(その5)。
【
図8】本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である(その6)。
【
図9】ショットキー電極下のJBS構造部分の表面部のn領域の幅に対して、低濃度n型基板内の幅と耐圧、オン電圧の関係を示した図表である。
【
図10】本発明の第2実施形態にかかる炭化珪素JBSダイオードの断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるワイドバンドギャップ半導体装置およびその製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。
【0035】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる炭化珪素JBSダイオードの断面構造図である。この炭化珪素JBSダイオードは、高濃度の窒素がドーピングされた厚さ300μmの(0001)面を主面とする第1導電型(n型)の高濃度の炭化珪素基板1主面(表面)上に、低濃度の窒素がドーピングされた第1導電型(n型)の炭化珪素エピタキシャル層(ワイドバンドギャップ半導体堆積膜)2が第1の領域として形成される。これら炭化珪素基板1と、炭化珪素エピタキシャル層2は、ワイドバンドギャップ半導体により形成される。
【0036】
また、ショットキーメタル端の電界集中を避けるための高濃度のアルミニウムがイオン注入によりドーピングされた第2導電型(p型)の不純物領域3と、ジャンクションバリアショットキー(JBS)構造を形成するためのアルミニウムがイオン注入によりドーピングされた第2導電型(p型)の不純物領域4と、終端部でさらに電界を分散させるためのアルミニウムがイオン注入によりドーピングされたp型の不純物領域5とが炭化珪素エピタキシャル層2の内部に形成されており、Junction Termination Extension(JTE)構造となっている。
【0037】
p型の不純物領域3は、p型不純物領域5の内側に隣接して設けられ、金属堆積膜(ショットキー電極)9に接する。また、p型の不純物領域4は、不純物領域3の幅方向の内部に設けられ、不純物領域3と形状が異なり、金属堆積膜9に接する。金属堆積膜9の深さ方向の下部位置には、不純物領域4が幅方向に所定間隔毎に複数配置される。不純物領域3,4は、金属堆積膜9に接する。
【0038】
また、層間絶縁膜として酸化膜6が形成され、不純物領域3の一部と第2導電型(p型)半導体層で形成された不純物領域5の上部を覆うように形成されている。また、炭化珪素基板1の裏面に裏面電極7が形成され、高濃度のn型の炭化珪素基板1とオーミック接合8により接合している。n型の炭化珪素エピタキシャル層2上のショットキー界面には、ショットキー電極9が第2の領域として形成される。そして、ショットキー電極9に接するようにアルミニウムで形成された電極パッド10と、放電防止のためのポリイミド等の絶縁層11が形成されており、以上の各部によるショットキーバリアダイオードが構成されている。
【0039】
図2は、
図1のJBS構造の一例を示す断面拡大図である。第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層2の上部には、第2導電型の不純物領域4が周期的に配置されている。
図2に記載の第2導電型の不純物領域4は、深さ方向でみて下部の幅(ボトム幅)が広く、上部の幅(トップ幅)が狭く形成されており、断面は略台形状である。これにより、炭化珪素エピタキシャル層2は、第1電導型の深さ方向に対し、表面の幅LUよりも、第1導電型の低濃度の炭化珪素エピタキシャル層2内部側の幅LBの方が狭くなっている。
【0040】
これに限らず、表面の幅LUよりも、半導体堆積膜2内部側の幅LBの方を広く形成した逆台形状としてもよい(不図示)。また、表面の幅LUと、第1導電型の低濃度の炭化珪素エピタキシャル層2内部側の幅LBとの中間の深さ位置が最も幅広とされた略菱形状にすることもできる(不図示)。半導体装置の平面からみると、n型の炭化珪素エピタキシャル層2にp型の不純物領域4が所定間隔毎にストライプ状に形成される。
【0041】
本実施形態では、(0001)面を主面とする第1導電型(n型)の高濃度の炭化珪素基板1主面上に炭化珪素にエピタキシャル層を設けたショットキーバリアダイオードの構造について説明したが、(000−1)面基板にも同様に適用でき、例えば、窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも同様に適用できる。また、炭化珪素基板1上に製造されたショットキーバリアダイオードのショットキー界面(ショットキー電極9)を形成する金属としてチタン(Ti)を用いることができる。また、チタンに限らずショットキー界面を形成する物質であれば同様に適用できる。
【0042】
また、電界緩和構造としてp型で形成された不純物領域3、p型で形成された不純物領域5は、JTE構造を構造例としてあげたが、フローティングリミッティングリング(FLR)構造、フローティングプレート(FP)構造等のような電界緩和構造でも同様の効果を得ることができる。また、n型の炭化珪素基板1にp型の電界緩和領域を形成した構造を構造例としてあげたが、p型の炭化珪素基板にn型の電界緩和領域を形成した構造等のような異なる導電型を利用した構造でも同様の効果を得ることができる。
【0043】
(JBS構造ダイオードの製造工程)
図3〜8は、本発明の第1実施形態にかかるJBS構造ダイオードの製造工程を示す断面構造図である。はじめに、
図3に示すように、1×10
18cm
-3の窒素がドーピングされた厚さ300μmのエピタキシャル層のn型の炭化珪素基板1表面上に、1.8×10
16cm
-3の窒素がドーピングされた厚さ6μmの低濃度のn型の炭化珪素エピタキシャル層(n型ドリフト層)2を堆積する。
【0044】
つぎに、
図4に示すように、炭化珪素基板1に、イオン注入により炭化珪素エピタキシャル層2に、例えばアルミニウムを3×10
19cm
-3の濃度でアルミニウムを注入する。そして、炭化珪素エピタキシャル層2の表面層に終端構造用のp型不純物領域3を形成する。
【0045】
つぎに、
図5に示すように、炭化珪素基板1のおもて面に、JBS構造を形成するためのイオン注入用酸化膜マスク15を形成する。イオン注入用酸化膜マスク15は、不純物領域4を形成する箇所に対応する開口部15aを有する。また、イオン注入による原子の分布が横方向に広がることを利用するために、イオン注入用酸化膜マスク15の開口部15aにテーパーを形成することにより深さ方向の横の広がりを持たすことができる。例えば、n型の炭化珪素エピタキシャル層2に接触するイオン注入用酸化膜マスク15の開口部15aは、幅を2.5μmとし、上部が広く開口された87°のテーパー角を持つ形状にする。このイオン注入用酸化膜マスク15をマスクとして、炭化珪素エピタキシャル層2に、イオン注入により例えばアルミニウムを注入する。
【0046】
例えば、注入する不純物としてのアルミニウムの加速エネルギーとドーズ量について、はじめに、300keVで5×10
14個/cm
2、その後、200keVで3×10
14個/cm
2、150keVで3×10
14個/cm
2、100keVで2×10
14個/cm
2、50keVで3×10
14個/cm
2注入する。これにより、不純物領域4は、深さ0.5μmにおいて3×10
19cm
-3の濃度のボックスプロファイルで形成される。この不純物領域4は、深さ方向の濃度分布が、任意の深さ(例えば、0.5μmまで)±90%の範囲の濃度とし、任意の深さより深い部分では深さにしたがって濃度を低くする。
【0047】
また、イオン注入を行う角度を(0001)面に垂直な方向から傾けてイオンを注入することにより、イオン注入時のランダムな散乱とチャンネリング効果により注入深さと濃度を調整することができる。例えば、(0001)面に垂直な方向から10°傾けて前記条件でアルミニウムを注入すると、不純物領域4は、n型の炭化珪素エピタキシャル層2の表面から深さ0.5μmまでは3×10
19cm
-3の濃度のボックスプロファイルとなり、0.5μmより深い部分では指数単位で減少しながら1.0μmまでの深さまでp型を形成する量のアルミニウムが分布する。
【0048】
結果として、ジャンクションバリアショットキー(JBS)構造のp型で形成された不純物領域4が形成される。
図6に示すように、n型の炭化珪素エピタキシャル層2の表面側でn型領域の幅L1は幅2.5μmとなり、深さ方向にしたがいn型領域の幅は狭くなり深さ0.5μmの位置では幅L2は1.5μmとなる、さらに深い領域ではn型領域の幅は広くなり深さ1.0μmの位置でp型領域は無くなる。
図6に示す例では、不純物領域4の断面が略菱形状に形成されている。一対の不純物領域4間の炭化珪素エピタキシャル層2の間隔は、最短部が1μm以上、4μm以下の幅とすることが望ましい。
【0049】
つぎに、
図7に示すように、炭化珪素エピタキシャル層2に、イオン注入により、例えばアルミニウムを3×10
17cm
-3の濃度で注入し、炭化珪素エピタキシャル層2の表面層に終端構造用のp型の不純物領域5を形成する。その後、注入されたアルミニウムを活性化するために、Ar雰囲気中において、例えば、1650℃で240秒間の熱活性化処理を行う。
【0050】
つぎに、
図8に示すように、層間絶縁膜として、例えば、0.5μm厚の酸化膜6を不純物領域3の一部とp型で形成された不純物領域5の上部を覆うように形成する。また、炭化珪素基板1の裏面に、例えば、ニッケル(Ni)を50nmの厚さで堆積し、Ar雰囲気中で1100℃で2分間熱処理を行うことにより、裏面電極(オーミック電極)7が形成され、高濃度のn型の炭化珪素基板1とオーミック接合により接合する。
【0051】
また、n型の炭化珪素エピタキシャル層2上に、例えばチタン(Ti)を100nmの厚さで堆積し、Ar雰囲気中で500℃で5分間の熱処理を行うことによりショットキー電極9を形成する。最後に、アルミニウム(Al)で形成された、例えば5μmの厚さの電極パッド10と、放電防止のための、例えば8μmの厚さのポリイミドでできた絶縁層11を形成することにより、ショットキーバリアダイオードが出来上がる。
【0052】
図9は、ショットキー電極下のJBS構造部分の表面部のn領域の幅に対して、低濃度n型基板内の幅と耐圧、オン電圧(順方向電圧)の関係を示した図表である。JBS構造では、一般的に第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層2の領域を空乏化するときの電圧が低いほどリーク電流は低くなる。また、第2導電型の不純物領域4をストライプ状に配置したJBS構造では、一次元モデルで示されるように空乏層の広がり方が第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層2の不純物濃度と、第2導電型の不純物濃度によって決まる。
【0053】
そして、第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層2の深さ方向の幅を一定ではなく、深さ方向にしたがい狭くなる構造にすることにより、電界集中を緩和させることができる。このため、同じ面積の第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層2の領域を空乏化するための電圧が低くなるため、リーク電流が抑えられる効果が得られる。また、炭化珪素エピタキシャル層2の深さ方向の幅を広くする構造にした場合には、耐圧は下がるがオン抵抗を低減する効果が期待できる。
【0054】
図9に示すシミュレーションのように、金属堆積膜9の下に形成された第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層2の領域のトップ幅LUを2μmとし、ボトム幅LBを変化させたときの耐圧と順方向に400A/cm
2の電流を流したときの電圧(オン電圧)との関係を計算した結果、金属堆積膜9の下に形成された第2導電型の不純物領域4のボトム幅LBが金属堆積膜9の下に形成された第2導電型の不純物領域4のトップ幅LUよりも狭くなると耐圧は上がるが、オン電圧は抑えられることが示されている。
【0055】
高耐圧JBS構造ダイオードを得るためには、前記金属堆積膜と前記半導体堆積膜との界面に形成されるショットキー障壁の高さ(ショットキーバリアハイト)は高い必要があり、この実施の形態におけるショットキーバリアハイトは1eV以上あれば高耐圧JBS構造ダイオードとしての動作が期待できる。また、ショットキーバリアハイトが0.5eV以上1eV未満であれば、電源で利用する程度の耐圧を持ち、電源用JBS構造ダイオードとしての動作が期待できる。
【0056】
また、1000V以上の高耐圧ショットキーバリアダイオードのリーク電流を抑えつつ、オン抵抗を下げることができるため、チップ面積を小さくし、製品単価を下げることができる。また、定格の大きいダイオードの製造が可能となり、大電流を必要とする産業用電動機や新幹線電車などのインバータへの適用が可能になり、装置の高効率・小型化に寄与できる。
【0057】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。
図10は、本発明の第2実施形態にかかる炭化珪素JBSダイオードの断面構造図である。この第2実施形態は、ジャンクションバリアショットキー(JBS)構造のためのp型半導体層からなる不純物領域4の形状の他の例であり、その他の構造に関しては、第1実施形態と同様である。このため、第1実施形態と同一箇所には同一符号を付してある。
【0058】
図10において、不純物領域4の断面形状は、逆台形状とされ、n型の炭化珪素エピタキシャル層2は、表面側のn型領域の幅は、例えば2.5μmとなり、深さ方向にしたがいn型領域の幅は狭くなり1.0μmの位置でp型領域は無くなる。
【0059】
このような形状では、JBS構造部分の耐圧は低下するが、アバランシェ耐圧破壊を不純物領域5の耐圧構造部分より低い耐圧でショットキー電極9の下のJBS構造部で起こすことができるため、アバランシェ耐量を上げることができる効果を有する。このように、実施の形態2においても、実施の形態1同様の効果を得ることができる。
【0060】
以上説明した各実施形態では、ある終端構造を持つJBS構造のダイオードの断面図を用いて説明した。そして、本発明は、ワイドバンドギャップ半導体上に形成されたショットキー界面が存在する装置であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の構造、例えばショットキーバリアを利用するDMT(Depletion Mode Thyristor)構造や、TMBS(Trench MOS Barrier Schottky)構造を持つダイオードのようなショットキー接合を利用する装置についても同様に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明にかかるワイドバンドギャップ半導体装置およびその製造方法は、大電流を必要とする産業用電動機や新幹線車両などのインバータなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 第1導電型の炭化珪素基板(ワイドバンドギャップ半導体基板)
2 第1導電型の炭化珪素エピタキシャル層(半導体堆積膜)
3 第2導電型の不純物領域
4 第2導電型の不純物領域
5 第2導電型の不純物領域
6 酸化膜
7 裏面電極(オーミック電極)
9 ショットキー電極(金属堆積膜)
10 電極パッド
11 絶縁層
LB ボトム幅
LU トップ幅