(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053113
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ETEMにおけるサンプルを評価研究する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20161219BHJP
H01J 37/18 20060101ALI20161219BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20161219BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20161219BHJP
G01N 23/04 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 E
H01J37/20 F
H01J37/18
H01J37/26
H01J37/28 C
G01N23/04
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-168726(P2012-168726)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2013-41823(P2013-41823A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】11176445.2
(32)【優先日】2011年8月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】スタン ヨハン ピーテル コーニングス
(72)【発明者】
【氏名】ステファン クヤヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ペトラス ヒュベルタス フランシスカス トロンペナールス
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−106468(JP,A)
【文献】
特開2010−192126(JP,A)
【文献】
特開2008−108429(JP,A)
【文献】
特開2003−187735(JP,A)
【文献】
特開2000−040483(JP,A)
【文献】
米国特許第04950901(US,A)
【文献】
X.F. Zhang et al.,Imaging gas-solid interactions in an atomic resolution environmental TEM,MICROSCOPY TODAY,2006年 9月,September 2006,pages16-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227、
H01J 37/00−37/02、37/05、37/09−37/21、
37/24−37/244、37/252−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気可能なサンプルチャンバ内のサンプルを評価研究する方法であって、
前記評価研究の少なくとも一部は、制御された圧力および温度の活性雰囲気下で実施され、その結果、前記サンプルは、化学的反応または物理的変化を示し、
前記サンプルチャンバは、前記サンプルをサンプル位置に保持するサンプルホルダを備え、
前記サンプルホルダは、前記サンプルチャンバの温度とは異なる温度に前記サンプルの温度を制御する手段を備え、
前記サンプルホルダの一部は、前記サンプルチャンバの温度を有し、前記サンプルホルダの一部は、前記サンプルの温度を有し、
前記サンプルホルダにわたる熱勾配は、気体圧力、気体温度、および気体流によって影響され、その結果、前記サンプル位置は、気体圧力、気体温度、および気体流の関数となり、
前記評価研究は、
前記サンプルチャンバに前記サンプルを導入するステップと、
前記サンプルを所望の温度にするステップと、
ある気体圧力および温度で、前記サンプルを前記活性雰囲気に暴露するステップと、
前記化学的反応または物理的変化が開始した際に、前記サンプルの画像を取得するステップであって、前記画像は、関連する視野、関連する取得時間、および関連する解像度を示すステップと、
を有し、
前記サンプルを前記活性雰囲気に暴露する前に、前記サンプルは、不活性雰囲気に暴露され、該不活性雰囲気では、前記サンプルに化学的または物理的活性が生じず、前記不活性雰囲気は、気体圧力、気体流、および気体温度を有し、
前記不活性雰囲気の前記気体温度、気体流、および気体圧力は、前記不活性雰囲気に暴露された際と、前記活性雰囲気に暴露された際との前記サンプルホルダにわたる熱勾配が相互に十分に近くなるレベルに制御され、
前記画像の取得時間の間の、前記サンプル位置の前記視野に対するドリフトは、前記画像の解像度の10倍未満であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記画像は、帯電粒子ビーム、光ビーム、もしくはX線ビームを用いて取得され、または走査型プローブ顕微鏡を用いて取得されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルの温度は、100℃を超える温度に保持されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプルの温度は、−20℃未満の温度に保持されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルホルダは、環境制御型透過型電子顕微鏡用、または環境制御型走査透過型電子顕微鏡用の、側部入口型のサンプルホルダであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記不活性雰囲気の前記気体温度、気体流、および気体圧力は、前記サンプルの前記視野に対するドリフトが1nm/s未満となるレベルに制御されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気可能なサンプルチャンバ内のサンプルを評価研究する方法に関し、
前記評価研究の少なくとも一部は、制御された圧力および温度の活性雰囲気下で実施され、その結果、前記サンプルは、化学的反応または物理的変化を示し、
前記サンプルチャンバは、前記サンプルをサンプル位置に保持するサンプルホルダを備え、
前記サンプホルダは、前記サンプルチャンバの温度とは異なる温度に前記サンプルの温度を制御する手段を備え、
前記サンプルホルダの一部は、前記サンプルチャンバの温度を有し、前記サンプルホルダの一部は、前記サンプルの温度を有し、
前記サンプルホルダにわたる熱勾配は、気体圧力、気体温度、および気体流によって影響され、その結果、前記サンプル位置は、気体圧力、気体温度、および気体流の関数となり、
前記評価研究は、
前記サンプルチャンバに前記サンプルを導入するステップと、
前記サンプルを所望の温度にするステップと、
ある気体圧力および温度で、前記サンプルを前記活性雰囲気に暴露するステップと、
前記化学的反応または物理的変化が開始した際に、前記サンプルの画像を取得するステップであって、前記画像は、関連する視野、関連する取得時間、および関連する解像度を示すステップと、
を有する。
【背景技術】
【0002】
そのような方法は、X.F.Zhangら、Microscopy Today、2006年9月、p16−p18、「原子解像環境制御型TEMにおける気体−固体相互作用の画像化」で知られている。
【0003】
環境制御型(environmental)透過型電子顕微鏡(ETEM)では、しばしば、従来の透過型電子顕微鏡(TEM)において用いられる高真空圧力(<10
4mbar、より典型的には<10
7mbar)下でサンプルを研究すると同時に、例えば、10
-2mbarから100mbarの間の圧力においてサンプルが研究できる。化学的反応ガスを使用することにより、例えば、触媒内の反応を評価研究することができる。
【0004】
ETEMの主な用途は、生物学的サンプルのような、脱水処理をしていないウェットサンプルの研究である。これらの研究は、0℃から37℃の間の温度で実施されることが好ましく、通常、評価研究の間、ガス組成または温度の変化が生じないことが必要である。
【0005】
別のETEMの主要用途は、気体−固体相互作用の研究である。そのような研究には、これに限られるものではないが、気体と触媒の間の相互作用、気体とマトリクス材料との間の相互作用などが含まれる。これらの研究では、しばしば、気体の導入により、サンプルと気体の間で反応が開始され、反応が開始する瞬間から、サンプルが観察される。
【0006】
公知文献の第18頁、第2欄には、実際のin-situ加熱電子顕微鏡実験における主要な関心事象として、気体の導入によって生じるサンプルのドリフトオフ(drift off)が評価されている。Zhangは、気体の注入によって生じ得る温度変化または温度変動が、サンプルのサポートの熱膨脹または熱収縮を誘導すると主張している。実験から、例えば、側部入口型のサンプル加熱ホルダ、例えば米国Gatan社(Gatan Inc. Pleasanton, CA94588)で製造、市販されているホルダ(Gatan 628 Single Tilt Heating Holedr)を使用した場合、気体を導入した際に、サンプルホルダにわたる温度勾配の変化によって、熱膨張/熱収縮の変化が発生し、これにより位置的なドリフトが生じる。TEMの解像度は、0.1nmまたはこれ以下であり、熱勾配の微小な変化によっても、画像取得中にドリフトが生じ、画像が不鮮明になることに留意する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】X.F.Zhangら、Microscopy Today、「原子解像環境制御型TEMにおける気体−固体相互作用の画像化」、2006年9月、p.16−p.18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ドリフトレート(drift rate)は、高真空条件からサンプルが初めて気体に晒された瞬間に、最大となることに留意する必要がある。その後、しばらくして、ドリフトは消失する。しかしながら、特に、反応の開始が最も大きな関心事象である場合などには、しばしば、待機することを選択できない場合がある。
【0009】
公知文献によれば、ドリフトは、容易に1時間を超えて継続する場合があり得る。
【0010】
その後、文献の項目は、ファーニス(furnice)の形態の特殊なサンプルホルダに言及する。しかしながら、そのようなサンプルホルダは、利用可能な分析方法を著しく制限する。
【0011】
取得画像の解像度に対してドリフトが制限因子とならないようにしたまま、活性雰囲気下でサンプルを評価研究する方法に対して要望がある。
【0012】
本発明の目的は、前記問題の解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的のため、本発明による方法は、
前記サンプルを前記活性雰囲気に暴露する前に、前記サンプルは、不活性雰囲気に暴露され、該不活性雰囲気では、前記サンプルに化学的または物理的活性が生じず、前記不活性雰囲気は、気体圧力、気体流、および気体温度を有し、
前記不活性雰囲気の前記気体温度、気体流、および気体圧力は、前記不活性雰囲気に暴露された際と、前記活性雰囲気に暴露された際との前記サンプルホルダにわたる熱勾配が相互に十分に近くなるレベルに制御され、
前記画像の取得時間の間の、前記サンプル位置の前記視野に対するドリフトは、前記画像の解像度の10倍未満であり、好ましくは前記画像の解像度の2倍未満であり、より好ましくは前記画像の解像度よりも小さいという特徴を有する。
【0014】
本発明は、従来技術では、サンプルは、最初、例えば10
-4mbarのような高真空に晒されるという洞察に基づくものである。この結果、サンプルホルダの第1の熱平衡が生じる。化学的に活性な気体が導入されると、サンプルホルダにわたって温度勾配が生じ、第2の熱平衡への変化が生じる。本願発明者らは、最初のサンプルホルダの不活性ガスへの暴露により、ホルダにわたって同様のまたはほぼ同様の熱平衡が生じ、ドリフトが小さくなることを把握した。最初に、同様の熱容量、温度および流れを有する不活性ガスが導入され、次にこれが化学的活性ガスと置換されると、切り替え中(反応開始の瞬間)のドリフトは、十分に小さく維持され、ドリフトによる不鮮明化が無視でき、あるいはほぼ無視できる画像を得ることができる。
【0015】
この方法は、排気可能なサンプルチャンバ内でサンプルを検査する、いかなる機器でも使用することができ、これには、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、もしくは集束イオンビーム機器(FIB)のような帯電粒子機器、STEM、TEM、SEM、および/もしくはFIBカラムを備える機器、光学およびX線機器のようなフォトニック機器、ならびに走査型トンネル顕微鏡(STM)のような走査型プローブ顕微鏡(SPM)などが含まれる。
【0016】
本方法は、サンプルが100℃を超える温度、好ましくは500℃を超える温度、より好ましくは1000℃を超える温度に加熱され、サンプルホルダにわたって大きな温度勾配が生じ得る機器、または−20℃未満の温度、好ましくは−137℃未満に冷却され、サンプルホルダにわたって大きな温度勾配が生じ得る機器に、特に好適である。
【0017】
好適実施例では、本方法は、透過型電子顕微鏡または走査透過型電子顕微鏡用の側部(side)入口型のサンプルホルダに使用される。この非対称設計は、ドリフトが生じ易いためである。
【0018】
STEMまたはTEMにおいて、側部入口型のサンプルホルダのドリフトは、視野に対して1nm/秒未満であることが好ましく、特に0.2nm/秒未満であることがより好ましく、0.1nm/秒未満であることが最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による(E)TEMを概略的に示した図である。
【
図2】(E)TEM用の側部入口型の加熱ホルダを概略的に示した図である。
【
図3】サンプル研究の際のフローチャートを概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明について説明する。図面において、対応する特徴物には、同じ参照符号が使用される。
【0021】
図1には、本発明による環境制御型透過型電子顕微鏡(ETEM)を概略的に示す。
【0022】
ETEMは、ハウジング120を有し、このハウジングは、真空ポンプ122により、真空管121を介して排気される。高電圧ケーブル109は、電子源101と高電圧電子機器(図示されていない)を接続する。電子源は、軸100に沿って電子ビームを発生する。アライメントコイル102は、電子ビームを整列させ、開口103は、ビームを制限し、コンデンサレンズ104は、電子源の画像を形成する。その後、対物レンズ105は、サンプル位置111に平行電子ビームを形成する。
【0023】
サンプルは、サンプルの上部で軌跡を描く集束ビームにより照射されることに留意する必要がある。これは、走査透過型電子顕微鏡と称される。
【0024】
サンプル(図示されていない)は、側部入口型のサンプルホルダ112により、サンプル位置111に配置される。次に、レンズ106は、蛍光スクリーン107上にサンプルの拡大画像を形成し、これは窓108を介して観測することができる。スクリーン107は、しばしば格納式または折り畳み式であり、従って、光軸から排除することができる。次に、例えば、折り畳み式スクリーンの下側に取り付けられたダイレクト電子検出器110に、電子が衝突する。
【0025】
配管115を介して、サンプルチャンバ119に活性気体が供給される。制御式リークバルブ116は、サンプルチャンバに導入される気体量を制御する。配管117は、サンプルチャンバから気体を除去し、バルブ118は、バルブ116を介して気体入口と協働して、サンプルチャンバ内の気体圧力を調節する。不活性ガスを供給する第2の気体入口、および関連のリークバルブは、示されていない。
【0026】
入口および出口配管におけるバルブは、フィードバックループで制御されても良いことに留意する必要がある。フィードバックの信号は、例えば、圧力測定装置(図示されていない)または残留ガス分析器(図示されていない)によって得られる。
【0027】
気体絞り113および114は、顕微鏡の残りの部分に流入する気体の量を制限し、これにより、例えば、ガン領域を高真空レベルに保持したまま、サンプルチャンバ内の圧力を高めることができる。気体絞りは、ダイアフラムの開口の形態を有し、あるいはこれらは、気体に対しては不透過性であり電子に対しては透過性の薄膜の形態を有する。配管123および124を介した差動排気により、電子源および投射チャンバは、高真空のまま維持される。差動排気の第1の段階は、しばしば、対物磁極片のホールを介して生じる。しばしば、より多くの排気絞りが使用等され、中央真空ポンプ122による排気は、必ずしも必要ではないことに留意する必要がある。ただし、この場合、専用の真空ポンプによる差動排気は、行っても良い。
【0028】
CCDもしくはCMOS検出器のようなダイレクト電子検出器、または例えば、CCDカメラおよび光ファイバと組み合わされた蛍光スクリーンを有する別のタイプの検出のような、検出器110上の画像は、100ms未満、例えば50msで画像化される。より短い取得時間(露光時間)を使用しても良いが、データ転送および信号対ノイズ比の双方が問題となる。市販のアドバンスタイプのETEMの場合、画像の解像度は、50pm(1/20nm)まで低下する。前述の条件下(取得時間1/20秒、解像度1/20nm)では、ドリフトが例えば、1nm/sよりも大きい場合、画像の実効解像度は、ドリフトによって制限される。ある実験では、1秒を超える取得時間が使用され、その後、例えば1nm/sのドリフトによって、例えば1nmまで画像解像度が抑制される。
【0029】
2以上の気体入口を有するETEMが知られている。例えば、米国HillsboroのFEI社によって製造されている市販のTitan ETEMは、4つの気体入口を備える。
【0030】
また、排気絞り113、114、配管123、124、ならびに関連するバルブ116、118を備える気体入口115、および気体出口117は、通常のETEMの特性を有することに留意する必要がある。ただし、機器の残りの部分は、標準的なTEM(非環境制御型のTEM)と等しく、または類似の特徴を有する。
【0031】
また、ETEMは、例えば、球面収差や色収差の補正用、および/またはエネルギーフィルタ用の、多くのタイプの検出器およびコレクタを備えても良いことに留意する必要がある。
【0032】
図示されたリークバルブの代わりに、マスフロー制御器、(自動)リークバルブ、または気体流を調節することが可能な、他のいかなる種類のバルブを使用しても良い。また、2つまたは3つの気体入口の代わりに、気体混合ユニットを有する一つの気体入口を使用しても良い。
【0033】
図2には、(E)TEM用の側部入口型の加熱ホルダを概略的に示す。加熱ホルダ200のAA’の右側に対する部分は、標準的なホルダと機械的に似通っている。(E)TEMとの位置決めおよびインターロックに使用される、ピン202
aおよび202
bのようなピンの位置および寸法、ならびにロッド214の直径を含む、正確な寸法は、加熱ホルダが使用される(E)TEMに依存する。AA’の右側では、サンプルホルダは、標準的なTEMホルダと類似しているが、電気的接続206を有する点で異なる。AA’の左側では、ホルダは、熱絶縁体208、ベース210、および先端212を有する。参照面216は、ホルダが(E)TEMに支持される面である。
【0034】
先端212は、ヒータを介して加熱され、サンプル担体を保持する凹部を有する。凹部は、例えば、標準的な3mmのグリッドである。これにより、サンプル担体に取り付けられたサンプルは、ホルダ上に配置され、(E)TEMの光軸に対して配置される。
【0035】
ホルダは、参照面216で(E)TEMに支持されるため、ロッド、熱絶縁体、ベース、および先端の長さは、ドリフトにつながるような、先端の温度による影響を受けないことに留意する必要がある。
【0036】
ヒータは、例えば、加熱炉または抵抗ワイヤヒータであり、先端に高温が付与される。熱電対が備えられ、温度調整されても良い。ヒータおよび熱電対のために必要となる4本の配線は、ベース210と一体化された真空気密貫通接続に接続される。熱絶縁体208は、例えば、薄壁セラミック管であり、ベース210およびロッド214に溶接される。絶縁体208およびロッド214の双方は、中空であり、このため電気コネクタ206への電気的な接続が可能となる。ロッドは、低熱膨張率の熱伝導性材料で構成されることが好ましい。これと、熱絶縁体208の低い熱伝導性(使用材料および管の薄壁による)とにより、熱勾配のほとんどは、熱絶縁体にわたって生じる。先端およびベースが加熱された場合でも、ロッド214にわたる温度勾配および熱膨張は、低くなる。また、熱絶縁体208を介した熱伝導は、低く抑えられるため、先端の加熱は、比較的小さなパワーで十分となる。この方法では、市販のホルダは、1000℃を超える先端温度に達する。
【0037】
高温における異なる部分の熱負荷は、材料を介した熱伝導、および例えば、サンプルチャンバ内での赤外反射から生じる輻射によるものである。真空下では、気体を介した伝導が存在しない。しかしながら、例えば1mbarまたはそれ以上の加圧下では、気体は、ホルダにわたる熱勾配に影響し、先端に冷却効果を及ぼすとともに、ロッドに加熱効果を及ぼす。その結果、先端の温度は、変化し易くなり、先端から参照面までの膨脹が変化する。
【0038】
セラミック管を介した熱伝導を達成すること、ならびにロッド、セラミック管およびベースの組み合わせの膨張係数をできる限り小さく維持することに関して、多大な労力が費やされてきたものの、高真空から約1mbarの気体圧力まで変化すると、例えば、1μmまたはそれ以上の膨脹は、避けられないことに留意する必要がある。現在のところ、市販の(E)TEMは、高真空では100pm未満の解像度を有し、15mbarの圧力では、150pm未満の解像度を有する。従って、1μmの膨脹は、解像度よりも著しく大きなオーダーであり、連続画像の視野と同じ特徴を維持することも難しい。
【0039】
図3には、サンプルを評価研究する際のフローチャートを概略的に示す。
【0040】
ステップ301では、サンプルがサンプルチャンバに導入される。これは、側部入口型のホルダ112に取り付けられても良いが、ロードロック機構によって導入されても良い。この場合、サンプルを含む先端が機器に導入され、マニピュレータに結合され、マニピュレータが加熱される。そのようなロードロック機構を有するTEM(ただし非加熱式)は、欧州特許出願公開第EP09174548号に記載されている。
【0041】
ステップ302では、サンプルチャンバ内に不活性ガスが導入される。そのような不活性ガスは、通常、希ガスまたは窒素の群から選定されるが、これは、サンプルと反応しない、またはサンプルとの反応が無視できる、いかなるガスを含んでも良い。サンプルチャンバは、ステップ301の前に、予め不活性ガスで充填されていても良いことに留意する必要がある。ステップ301および302は、従って、相互互換性がある。
【0042】
ステップ303では、サンプルが所望の温度にされる。これは、周囲温度を超える温度であっても良く、あるいは周囲温度未満の温度であっても良い。加熱は、抵抗加熱方式で行われても良く、あるいはレーザによる加熱を使用しても良い。また、他の種類の加熱方式、例えばRF加熱方式を使用しても良い。冷却は、先端を、液体窒素のような冷却源に接続することによって行われても良く、これは米国特許第7420184号に記載されている。あるいはサンプルホルダは、微小冷却ユニットを備えても良く、これは、H.J.M.ter Brakeらの「低温検出器および電子機器を冷却するマイクロマシン化ジュール−トムソンクーラ」、space optics、2008年10月14−17日、第7回国際会議のプロシーディングに記載されている。あるいは、サンプルホルダは、ペルティエクーラに接続されても良い。
【0043】
ステップ304では、サンプルは、安定なドリフトのない位置に置かれる。
【0044】
ステップ303における、サンプルを所望の温度にすることは、ステップ302におけるサンプルを不活性ガスに暴露するステップの前に実施されても良いが、その場合、サンプルは、不活性ガスに暴露した状態のまま、熱平衡に達する必要があることに留意する必要がある。
【0045】
ステップ305では、画像の取得が開始される。評価研究には、しばしばプロセスを観察することが含まれるため、これは、一連の画像を含む。サンプルを活性雰囲気に暴露する前に1枚(参照画像)が採取され、サンプルを活性雰囲気に暴露した際に始まる化学反応または物理的変化の開始から、1もしくは2枚以上が採取されることが好ましい。
【0046】
ステップ306では、サンプルが活性雰囲気に暴露され、これにより化学反応または物理的変化が開始される。評価研究は、しばしば、長時間にわたって画像を取得する工程を含む。
【0047】
反応は、化学的活性気体に対するサンプルの暴露の結果として生じる、化学反応であっても良い。特に関心となる事象は、気体と触媒の化学反応である。反応は、相変化のような物理的変化であっても良い。例えば、固体上に成長する気相からのウィスカの成長、または気体に対する暴露の結果生じる表面構造の変化がある。
【0048】
加熱サンプルを例に本発明について説明したが、別の検査領域として、例えば、アモルファス(非晶質)氷が安定な温度での生物学的サンプルの検査があることに留意する必要がある:137℃を超える温度では、アモルファス氷は別の種類の氷に変化し、氷ニードルが生じ、サンプルが変化(損傷)する。そのようなサンプルのETEMの実験、例えば冷凍サンプルのエッチングが行われる際、加熱サンプルの場合と同様の問題が生じる。この場合、まず、(冷凍)サンプルは、希ガスまたは窒素のような不活性雰囲気に暴露される。また、室温未満の温度での、他のETEM実験も想定される。
【0049】
さらに、電子顕微鏡のみに関して、本発明について説明したが、当業者には、例えば、X線顕微鏡、光学顕微鏡、または走査型プローブ顕微鏡(走査型トンネル顕微鏡および関連する顕微鏡を含む)において、本発明を用いる際には、変更が必要があることは明らかであることに留意する必要がある。そのような技術では、より高い圧力が許容されるため、熱平衡に対する気体の影響がより顕著になる場合がある。