特許第6053223号(P6053223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6053223固体高分子形燃料電池用の触媒及びその製造方法
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  • 特許6053223-固体高分子形燃料電池用の触媒及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053223
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用の触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20161219BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20161219BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20161219BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 27/12 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20161219BHJP
   B01J 23/89 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   H01M4/90 M
   H01M8/10
   H01M4/86 H
   H01M4/88 K
   B01J27/12 M
   B01J33/00 D
   B01J37/02 101Z
   B01J37/08
   B01J37/12
   !B01J23/89 M
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-500245(P2015-500245)
(86)(22)【出願日】2014年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2014053122
(87)【国際公開番号】WO2014126077
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-27758(P2013-27758)
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】石田 稔
(72)【発明者】
【氏名】中島 仁
(72)【発明者】
【氏名】松谷 耕一
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−512163(JP,A)
【文献】 特開平4−141236(JP,A)
【文献】 特開2011−150867(JP,A)
【文献】 特開2007−209979(JP,A)
【文献】 特表2009−523066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−4/98
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、
前記触媒粒子は、白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.39:0.04〜0.33であり、
前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo−Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であり、
更に、少なくとも触媒粒子の表面に、C−F結合を有するフッ素化合物が担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項2】
触媒全体の質量を基準として、3〜20質量%のフッ素化合物が担持されている請求項1記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項3】
フッ素化合物は、フッ素樹脂、フッ素系界面活性剤である請求項1又は請求項2記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項4】
触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=32°近傍に現れるCoPt合金のピーク及びMnPt合金のピーク比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.13以上である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項5】
触媒粒子の担持密度は、30〜70%である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用の触媒。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法であって、
炭素粉末担体上に白金粒子が担持されてなる白金触媒に、コバルト及びマンガンを担持する工程と、
前記担持工程によりコバルト及びマンガンが担持された白金触媒を700〜1100℃で熱処理する工程と、
前記熱処理工程後の触媒と、フッ素化合物を含む溶液とを接触させて前記触媒にフッ素化合物からなる撥水層を形成する工程と、
含む固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項7】
熱処理後の触媒を少なくとも1回酸化性溶液に接触させ、触媒粒子表面のコバルト及びマンガンを溶出させる工程を含む請求項6記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項8】
酸化性溶液は、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸である請求項7記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項9】
酸化性溶液との接触処理は、処理温度を40〜90℃とし、接触時間を1〜10時間とする請求項7又は請求項8記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の触媒に関する。特に、固体高分子形燃料電池のカソード(空気極)での使用に有用な触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、他の形式の燃料電池と比較して動作温度が低くかつコンパクトであるという利点があり、これらのメリットから、家庭用、自動車用の電源として有望視されている。固体高分子形燃料電池は、水素極及び空気極と、これらの電極に挟持される固体高分子電解質膜とからなる積層構造を有する。そして、水素極へは水素を含む燃料が、空気極へは酸素又は空気がそれぞれ供給され、各電極で生じる酸化、還元反応により電力を取り出すようにしている。また両電極は、電気化学的反応を促進させるための触媒と固体電解質との混合体が一般に適用されている。
【0003】
上記の電極を構成する触媒として、触媒金属として貴金属、特に、白金を担持させた白金触媒が従来から広く用いられている。触媒金属としての白金は、燃料極及び水素極の双方における電極反応を促進させる上で高い活性を有するからである。
【0004】
ここで、触媒コストの低減のため白金使用量を低減しつつ触媒活性を確保するため、触媒金属として白金と他の金属との合金を適用する白金合金触媒についての検討例が近年になって増えている。この白金合金触媒としては、白金とコバルトとの合金を触媒粒子とするPt−Co触媒が、白金使用量を低減しながらも白金触媒以上の活性を発揮し得るものとして知られている。また、前記Pt−Co触媒を更に改良するため、第3の合金元素を合金化する3元系合金触媒も報告されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−150867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体高分子形燃料電池の実用化のために要求される特性としては、初期活性が良好であることに加えて、耐久性、即ち、触媒活性の持続特性が挙げられる。触媒は、時間経過と共に生じる活性低下(失活)を避けることができないが、失活までの時間を増大させることは燃料電池の実用化に向けて必須といえる。特に、固体高分子形燃料電池のカソード触媒は、80℃程度の比較的高温下で、強い酸性雰囲気に晒され、更に高電位負荷を受けるという厳しい条件下にて使用されるため、耐久性能の向上は実用化に向けて大きな課題となっていた。
【0007】
Pt−Co触媒をはじめとする白金合金触媒は、これまでコスト低減や初期活性の観点ではある程度の検討がなされた触媒である。しかし、近年の燃料電池の普及が現実的なものとなっていることを考えれば、耐久性の更なる改善が必要といえる。そこで本発明は、白金と他の金属とを合金化した固体高分子形燃料電池用の合金触媒について、初期活性に優れると共に耐久性が改善されたものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、前記触媒粒子は、白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.39:0.04〜0.33であり、前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo−Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であり、更に、少なくとも触媒粒子の表面にフッ素化合物が担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒である。
【0009】
本発明は、比較的初期活性に優れるPt−Co触媒を基本とし、ここにマンガンを添加した3元系触媒である。そして、その金属相の構成としてCo−Mn合金相を一定量以下に制限すること、及び、フッ素化合物からなる撥水剤を含有することを特徴とするものである。以下、これらの特徴と共に本発明に係る触媒について説明する。
【0010】
本発明において、Pt−Co−Mn3元系触媒を適用するのは、本発明者等によるスクリーニング試験の結果、マンガン添加により従来のPt−Co触媒以上の活性を発揮する可能性があるからである。これは、Pt−Co触媒に第3の金属元素としてマンガンを添加することで、酸素分子の4電子還元機能がより効率的に発揮され触媒活性が向上することによるものと考察される。そして、Pt−Co触媒以上の初期活性を発揮させるため、白金、コバルト、マンガンの構成比は、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.39:0.04〜0.33とする。マンガンはある程度の添加が要求されるが、過剰添加は却って活性を低下させる。コバルト、マンガンの構成比が上記範囲を逸脱すると、従来のPt−Co触媒と同等程度或いはそれ以下の活性となるため構成比の設定が必要となる。尚、コバルト、マンガンの構成比のより好ましい範囲は、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.26:0.09〜0.33であり、この範囲で最大の初期活性を示す。
【0011】
そして、マンガンは添加すればそれで良いというわけではなく、触媒粒子を構成する他の構成元素(白金、コバルト)との関係において所定の存在形態にあることが要求される。即ち、Pt−Co−Mn3元系触媒における触媒粒子を構成する金属相としては、部分的にPt相が残存している可能性はあるものの、基本的に各金属が相互に合金化した合金相が主体となる。この合金相としては、Mn−Pt合金相(MnPt)、Co−Pt合金相(CoPt)、Mn−Co合金相(MnCo)が考えられる。これらの合金相の種類、存在量は、触媒の製造工程により相違すると考えられる。
【0012】
本発明者等は、各合金相の触媒活性に対する影響を検討したところ、触媒粒子中にMn−Co合金相が存在する場合、初期活性が大きく低下しマンガン添加の効果が消失する。この要因については明確ではないが、Pt−Co−Mn3元系触媒の活性種はMn−Pt合金相、Co−Pt合金相であると推察され、添加したMn及びCoがPtと合金化せずにMn−Co合金相となった場合、前記の活性種が形成され難くなるためと考えられる。
【0013】
そこで、本発明ではMn−Co合金相の存在量を制限するため、触媒粒子についてのX線回折分析における、Co−Mn合金のピーク強度を規制する。具体的には、2θ=27°近傍に現れるCo−Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下とする。Mn−Co合金相の存在量を示すピーク比を0.15以下とするのは、上記の通り、Mn−Co合金相は触媒活性に好ましくない影響を及ぼすことから、好適な触媒を得るための上限を明確にするためである。従って、このピーク比は0であっても良く、むしろ好ましい。
【0014】
Mn−Co合金相の存在量規定のためにX線回折分析の結果を用いるのは、X線回折分析は比較的簡易な分析方法でありながら、触媒粒子の状態を正確に測ることができ、基準ピークを適切に設定することにより定量性も有するからである。上記の通り、本発明では、基準ピークとして、2θ=40°〜41°で現れるメインピーク(Pt、MnPt、CoPtの合成ピーク)を用い、Mn−Co合金相のピークは2θ=27°近傍のピークを適用する。尚、Mn−Co合金相のピークは、33°近傍、43°近傍、52°近傍、76°近傍でも現れるときがある。但し、2θ=27°近傍のピークが、Mn−Co合金相の有無に対して感受性が高いことから、このピークが適用される。
【0015】
また、触媒粒子を構成する合金相の分布に関しては、上記の通りMn−Co合金相を低減させた分、Mn−Pt合金相(MnPt)及びCo−Pt合金相(CoPt)を形成させたものが好ましい。これらの合金相は、酸素分子の4電子還元作用を有し活性向上に寄与する。X線回折分析では、これらの合金相はいずれも2θ=24°、32°、41°付近に現れるが、2θ=32°近傍で現れるピークにより判定するのが好ましい。この2つの合金相に由来するピークは、Mn−Pt合金相のピークとCo−Pt合金相ピークとの合成であり分離が困難である。そこで、これらの合金相形成の確認としてこの合成ピーク強度に判断することが好ましい。そして、好ましいピーク強度は、2θ=32°近傍で現れるピーク強度が、2θ=40°〜41°で現れるメインピークを基準として0.13以上であるものが好ましい。尚、このピーク強度比の好ましい上限値は、0.23程度となる。
【0016】
ところで、以上説明した、白金、コバルト、マンガンの構成比の設定、及び、Mn−Co合金相の規制は、触媒の初期活性の向上に寄与する構成である。初期活性の向上は、触媒特性の改善においてまず優先される事項であり、初期活性を高めることで長時間の使用に対しても活性を保持することができる。もっとも、初期活性向上のみで耐久性に優れた触媒とすることはできず、耐久性の確保は経時的な活性の落ち込みを抑制することで達成される。
【0017】
この耐久性向上の課題に関し、触媒の経時的な活性低下の要因としては、触媒粒子の粗大化等いくつか考えられる。ここで本発明者等は、それらの中で触媒粒子を構成する金属(白金、コバルト、マンガン)の溶出による劣化に着目した。この劣化機構は、カソード側の燃料電池反応において生成する水が介在する各金属の電気化学的溶解による消失である。上記したように、カソード側の触媒は、高温、酸性雰囲気、高電位負荷といった雰囲気に晒されており、ここに水が存在すると金属の溶解・溶出が加速される。
【0018】
そこで、本発明では、触媒粒子の表面にC−F結合を有するフッ素化合物からなる撥水層を形成することとした。C−F結合という高い結合力を有するフッ素化合物は安定性が高く、撥水性等の特異な性質を有することが知られている。本発明では、触媒にこのフッ素化合物からなる撥水層を形成し、生成した水を速やかに触媒粒子表面から排出させ、水が介在する触媒金属の溶解を抑制することで活性低下を防ぐこととしている。
【0019】
この撥水層を構成するフッ素化合物としては、撥水性高分子材料であるフッ素樹脂、フッ素系界面活性剤等がある。例えば、テフロン(登録商標)として知られる、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)や、ナフィオン(登録商標)として知られているパーフルオロスルホン酸系ポリマ、フッ化アクリレートとして知られているパーフルオロアクリル酸エステルが挙げられる。また、フッ素系界面活性剤としてパーフルオロブタンスルホン酸基(PFBS)系の界面活性剤も効果がある。
【0020】
本発明において、撥水層を形成するフッ素化合物の担持量は、触媒全体の質量を基準として3〜20質量%となるようにしたものが好ましい。3質量%未満では効果がなく、20質量パーセント%を超えると電極反応促進という触媒本来の機能が発揮できなくなるからである。より好ましくは、8〜20質量%である。
【0021】
尚、撥水層は全ての触媒粒子について全面に対して形成されている必要はなく、部分的なもので良い。また、触媒粒子のみに形成されていても良いが、担体に対してフッ素化合物が担持されていても触媒活性に影響は生じない。
【0022】
本発明において、触媒粒子は、平均粒径2〜20nmのものが好ましい。2nm未満は長時間の活性持続特性が明確に得られなくなるからであり、20nmを超えると触媒の初期活性が十分に得られなくなるからである。また、担体である炭素粉末は、比表面積が250〜1200m/gの炭素粉末を適用するのが好ましい。250m/g以上とすることで、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒粒子を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることができる一方、1200m/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の浸入しにくい超微細孔(約20Å未満)の存在割合が高くなり触媒粒子の利用効率が低くなるからである。
【0023】
また、本発明に係る触媒は、固体高分子形燃料電池の電極としての性能を考慮し、触媒粒子の担持密度を30〜70%とするのが好ましい。ここでの担持密度とは、担体に担持させる触媒粒子質量(担持させた白金、コバルト、マンガンの合計質量)の触媒全体の質量に対する比をいう。
【0024】
次に、本発明に係る固体高分子形燃料電池の触媒の製造方法について説明する。本発明に係る触媒の製造にあたっては、基本的工程は一般的な合金触媒の製造方法に準じ、担体に触媒粒子となる金属を担持し、適宜に乾燥した後に熱処理を行い担持した金属の合金化を行う。但し、本発明に係る触媒は、触媒粒子中でMn−Co合金相が過剰に形成するのを抑制することが要求される。
【0025】
この触媒粒子中の合金相の調整について、本発明では、触媒金属の担持工程において、まず、白金のみが担持された触媒を用意し、これにコバルト及びマンガンを担持することを必須とする。触媒金属の担持には、構成金属を担体に同時に担持することが一般的でありまた効率的でもあるが(特許文献1の実施例を参照)、このような同時担持ではMn−Co合金相が本発明の規定値を超えて形成される。白金触媒をまず用意し(製造し)、別途コバルト及びマンガンを担持することでMn−Co合金相の形成が抑制される要因は明確ではないが、このようにすることで白金とコバルト、白金とマンガンとの合金化が容易となり、Mn−Pt合金相(MnPt)及びCo−Pt合金相(CoPt)の形成が優先されるためと考える。
【0026】
白金触媒の準備については、従来の白金触媒の製造方法によるものを用意すれば良い。市販の白金触媒を利用しても良い。通常、白金触媒は担体に白金塩溶液を接触(含浸、滴下)させた後、還元処理して白金粒子を形成して製造される。
【0027】
白金触媒へのコバルト及びマンガンの担持も、それ自体は一般的な方法による。白金触媒にコバルト及びマンガンの金属塩溶液を接触させ、還元処理して白金粒子の近傍に金属状態のコバルト及びマンガンを析出させる。コバルトの金属塩溶液としては塩化コバルト6水和物、硝酸コバルト、酢酸コバルト4水和物等が使用でき、マンガンの金属塩溶液としては塩化マンガン4水和物、硝酸マンガン6水和物、酢酸マンガン4水和物等が使用できる。このときの白金触媒と金属塩溶液の接触の順序は、特に限定されることはなく、いずれかの金属塩溶液を先に接触させても良いし、コバルト、マンガンの金属塩溶液の混合液と白金触媒とを接触させても良い。
【0028】
尚、コバルト及びマンガンの担持量は、白金触媒の担持量を考慮しつつ、上記のコバルト及びマンガンの構成比の範囲内で設定した比率となるように、金属塩溶液の濃度及び量を設定すれば良い。但し、後述の酸化性溶液による処理を行う場合には、コバルト及びマンガンの担持量を、設定した構成比に対して、コバルトでは1.5〜5倍程度、マンガンでは1.5〜3倍程度では上乗せすると良い。
【0029】
白金触媒へのコバルト及びマンガンの担持後は、必要に応じて乾燥した後、熱処理して各金属を合金化する。ここで合金化のための熱処理温度は700〜1100℃とする。700℃未満の熱処理では合金化、特に、Mn−Pt合金相とCo−Pt合金相の形成が不十分であり活性に乏しい触媒となる。また、熱処理温度は高いほど合金化が進行しやすく、Mn−Pt合金相とCo−Pt合金相の形成も促進されるが、1100℃を超える熱処理は、触媒粒子の粗大化が懸念されること、及び、設備的にも困難となることからこれを上限とした。この熱処理は非酸化性雰囲気で行うのが好ましく、特に還元雰囲気(水素ガス雰囲気等)で行うのが好ましい。
【0030】
上記熱処理工程を経た触媒は、Mn−Co合金相が低減されMn−Pt合金相及びCo−Pt合金相の形成が促進された触媒粒子を備え、初期活性に優れたPt−Co−Mn3元系触媒となる。
【0031】
そして、触媒粒子表面に撥水層を形成する。この処理は、上記で製造したPt−Co−Mn3元系触媒をフッ素化合物溶液に浸漬し、フッ素化合物溶液の溶媒を揮発又は蒸発して除去することでフッ素化合物を触媒に担持させるものである。ここで、フッ素化合物溶液は、上記のフッ素化合物を溶解することのできる溶媒にフッ素化合物を溶解させたものであり、溶媒はフッ素系溶剤でも、非フッ素系溶剤いずれでも良い。このとき、フッ素化合物溶液のフッ素含有量が、触媒に担持させるフッ素量と等しくなるように、溶媒及びフッ素化合物量を調整する。
【0032】
フッ素化合物担持のための浸漬処理について、その浸漬時間は1〜48時間として、攪拌しつつ行うのが好ましい。フッ素化合物溶液の温度は、30〜150℃とするが、溶媒の種類により選定する。そして、浸漬後は、触媒が分散するフッ素化合物溶液を乾燥機等で加温し、溶媒が全て消失するまで保持する。
【0033】
以上の処理により、本発明に係る触媒を製造することができる。尚、上記製造工程において、合金化の熱処理後、フッ素化合物担持前の触媒について、少なくとも1回酸化性溶液に接触させることが好ましい。本発明に係る触媒の触媒粒子では、コバルト及びマンガンの比率が重要であるが、その調整をそれらの担持工程のみで行うのは困難な場合がある。そこで、コバルト、マンガンの担持工程では予定の比率より多目に担持し、酸化性溶液で処理することでコバルト、マンガンを溶出させ担持量を調整することができる。
【0034】
この処理工程で使用する酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸等の溶液が好ましい。これらの酸化性溶液の濃度は、0.1〜1mol/Lとするのが好ましく、溶液に触媒を浸漬するのが好ましい。酸化性溶液処理の条件としては、接触時間は、1〜10時間が好ましく、処理温度は、40〜90℃が好ましい。尚、酸化性溶液処理は、触媒を酸化性溶液に1回接触させる場合のみならず、複数回繰り返し行っても良い。また、複数回の酸処理を行う場合には、処理ごとに溶液の種類を変更しても良い。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明に係る高分子固体電解質型燃料電池用の触媒は、Pt−Co触媒にマンガンを添加する3元系触媒の形態を採用しつつ、コバルト及びマンガンの構成比率を限定し、更に、触媒粒子中の合金相を特定することで初期活性に優れたものとなっている。そして、少なくとも触媒粒子表面について、フッ素化合物からなる撥水層を形成したことで、触媒金属の電気化学的溶解を抑制して耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例1、比較例1、2の各触媒のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0037】
第1実施形態:撥水層を有するPt−Co−Mn3元系触媒を製造し、触媒初期活性及び耐久性の評価を行った。触媒製造の基本工程は下記の通りである。
【0038】
[触媒金属の担持]
市販の白金触媒を用意しこれにコバルト、マンガンを担持した。白金触媒は、炭素微粉末(比表面積約900m/g)を担体とする白金担持率46.5質量%の白金触媒を5g(白金換算で2.325g(11.92mmol)用意した。この白金触媒を、塩化コバルト(CoCl・6HO)と塩化マンガン(MnCl・4HO)をイオン交換水100mLに溶解させた金属塩溶液に浸漬し、マグネティックスターラーにて攪拌した。そして、この溶液に濃度1質量%の水素化ホウ素ナトリウム(SBH)溶液500mLを滴下し攪拌して還元処理し、白金触媒にコバルト、マンガンを担持した。その後、ろ過・洗浄・乾燥した。
【0039】
[合金化熱処理]
触媒金属を担持した触媒について合金化のための熱処理を行った。本実施形態では、100%水素ガス中で熱処理温度を900℃として30分の熱処理を行った。
【0040】
[酸化性溶液による処理]
合金化熱処理後の触媒について酸化性溶液処理を行った。この処理は、熱処理後の触媒を、0.2mol/Lの硫酸水溶液中80℃にて2時間処理した後、濾過・洗浄・乾燥した。その後1.0mol/Lの硝酸水溶液(溶存酸素量0.01cm/cm(STP換算))中70℃にて2時間処理した後、濾過・洗浄・乾燥した。
【0041】
[撥水層の形成]
そして、製造したPt−Co−Mn3元系触媒について、フッ素化合物溶液にて処理して撥水層を形成した。フッ素化合物溶液として市販のフッ素樹脂材料(商品名:EGC−1700、住友スリーエム(株)製、フッ素樹脂含有量1〜3%))20mLを、溶剤であるハイドロフルオロエーテル(商品名:HFE−7100:住友スリーエム(株)製)20mLに溶解させたものを使用した。この処理では、触媒5gを上記フッ素化合物溶液に浸漬して60℃で5時間攪拌した後、乾燥機にて60℃で保持し、溶剤が完全になくなるまで蒸発させた。この処理により、フッ素化合物が触媒に担持され撥水層を有する触媒が製造された(実施例1)。
【0042】
実施例2:フッ素化合物溶液として、市販のフッ化エチレンプロピレン樹脂(商品名:テフロン(登録商標)FEP−120J:三井・デュポンフルオロケミカル社製)を使用した。この処理では、触媒3.4gを上記フッ素化合物溶液に浸漬して60℃で1晩攪拌した後、乾燥機にて60℃で保持し、溶剤が完全になくなるまで蒸発させた。その後、N中340℃で30分加熱した。この処理により、フッ素化合物が触媒に担持され撥水層を有する触媒が製造された。
【0043】
参考例1:上記の触媒製造工程において、熱処理後のPt−Co−Mn3元系触媒について、フッ素化合物溶液による処理を行わないものを用意した。即ち、白金、コバルト、マンガンの構成比及び合金相の状態は最適化しつつ、撥水層を形成しないものを用意した。
【0044】
比較例1:また、実施例1に対する比較例として、マンガンを添加しない従来のPt−Co触媒を製造した。この比較例は、白金触媒をコバルト塩のみを含む溶液に浸漬して製造した。
【0045】
比較例2:触媒金属の担持工程について、白金、コバルト、マンガンを同時に担持することでPt−Co−Mn3元系触媒を製造した。炭素担体(比表面積約900m/g)を5g用意し、これを所定量のPtジニトロジアミン硝酸溶液(Pt(NO(NH)、塩化コバルト(CoCl・6HO)、塩化マンガン(MnCl・4HO)をイオン交換水100mLに溶解させた金属塩溶液に浸漬し、マグネティックスターラーにて攪拌した。そして、この溶液に濃度1質量%の水素化ホウ素ナトリウム(SBH)溶液500mLを滴下し攪拌して還元処理し、炭素担体に白金、コバルト、マンガンを担持した。その後、ろ過・洗浄・乾燥し、水素気流下900℃にて30分熱処理することで合金化させた。
【0046】
以上製造した触媒について、触媒粒子の白金、コバルト、マンガンの比率を測定すると共に、フッ素化合物溶液による処理を行った触媒(実施例1)について、フッ素化合物の担持量の測定を行った。これらの測定は、触媒をICP分析して、各金属、及び、カーボン担体の質量比を測定しそれらの測定値を基に算出した。
【0047】
また、各触媒についてX線回折分析を行い、触媒粒子の構成を検討した。X線回折装置は、JEOL製JDX-8030を用いた。試料は微粉末状にしてガラス製セルに入れ、X線源としてCu(kα線)、管電圧40kV、管電流30mA,2θ=20〜90°までスキャン速度7°/min、ステップ角度0.1°で行った。
【0048】
図1は、各触媒のX線回折パターンを示す。図1から、全ての触媒で見られる2θ=40°付近に現れるピークは、金属Pt、CoPt、MnPt(実施例1)の合成ピークである。そして、実施例1についての2θ=32°付近(32〜34°)のピークは、金属Ptに影響されないMnPtとCoPtとの合成ピークである。一方、比較例2においては、各実施例・比較例にはほとんど見られないピークが2θ=27°付近で見られるが、これはCo−Mn合金に由来するものと考えられる。
【0049】
次に、実施例1、2、参考例1、比較例1、2の触媒について、初期性能試験を行った。この性能試験は、Mass Activityを測定することにより行った。実験には単セルを用い、プロトン伝導性高分子電解質膜を電極面積5cm×5cm=25cm2のカソード及びアノード電極で挟み合わせた膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)を作製し評価した。前処理として、水素流量=1000mL/min、酸素流量=1000mL/min、セル温度=80℃、アノード加湿温度=90℃、カソード加湿温度=30℃の条件にて電流/電圧曲線を引いた。その後、本測定として、Mass Activityを測定した。試験方法は0.9Vでの電流値(A)を測定し、電極上に塗布したPt重量からPt1gあたりの電流値(A/g-Pt)を求めてMass Activityを算出した。表1にその結果を示す。尚、表1には、図1の各触媒のX線回折パターンから算出したCo−Mn合金(2θ=27°近傍)のピーク強度比、MnPtとCoPt(2θ=32°近傍)のピーク強度比も示している。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から、実施例及び参考例のPt−Co−Mn3元系触媒は、比較例1のPt−Co触媒を基準としたとき、いずれも良好な初期活性を発揮する。これはマンガンを添加するとともに、触媒粒子の構成(Co−Mn相の生成量)を適正にしたことによるものと考えられる。実施例と参考例とを比較すると、フッ素化合物を担持した実施例はわずかに初期活性が優れているが、大差はない。そして、比較例2のようにCo−Mn相が多く生成する場合、Pt−Co触媒(比較例1)よりも初期活性が劣ることが確認された。
【0052】
次に、実施例1、2、参考例1、比較例1について、耐久性評価のための耐久試験を行った。耐久試験は、触媒からカソード電極(空気極)を製造して燃料電池を構成し、カソードのセル電位を三角波で掃引する加速劣化試験を行い、劣化後の発電特性を測定した。加速劣化は、650-1050mVの間を掃引速度40mV/sで20時間掃引して触媒粒子表面をクリーニングし、その後、650-1050mVの間を掃引速度100mV/sで20時間、40時間、68時間掃引させて劣化させた。各条件で劣化後の触媒についてMass Activityを測定した。この加速劣化試験後の評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から、撥水層を形成した実施例1及び実施例2の触媒は、従来のPt−Co触媒(比較例1)に対して加速劣化後の活性の落ち込みが抑制されている。尚、参考例1の撥水層のない触媒については、比較例1のPt−Co触媒よりも劣っていた。この要因について考察するに、今回の耐久試験における過酷な電位条件(650-1050mV)では、金属(コバルト及び/又はマンガン)の溶出がPt−Co触媒よりも進行し易いためであると考えられる。この点、参考例1は初期活性は優れていたことから(表1)、触媒開発にあたっては、初期活性のみではなく耐久性も考慮した検討が肝要であることが確認できる。
【0055】
第2実施形態:ここでは、第1実施形態と同様の工程で、フッ素化合物の担持量を変化させて触媒を製造し、初期活性を評価した。フッ素化合物の担持量は、フッ素化合物溶液について溶媒に溶解させるフッ素樹脂材料の量を調整して変化させた。それ以外の処理条件は、第1実施形態と同様である。そして、第1実施形態と同様にMass Activityを測定した。この結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
第1実施形態から、フッ素化合物の担持の効果は、初期活性の向上にはなく耐久性の確保にあることが確認されている。表3から、フッ素化合物の担持量が20%を超えて過剰となると、初期活性が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、固体高分子形燃料電池の電極触媒として、初期発電特性を向上させつつ、の耐久性の改善をも達成することができる。本発明は、燃料電池の普及に資するものであり、ひいては環境問題解決の基礎となるものである。
図1