【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、前記触媒粒子は、白金、コバルト、マンガンの構成比(モル比)が、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.39:0.04〜0.33であり、前記触媒粒子についてのX線回折分析において、2θ=27°近傍に現れるCo−Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下であり、更に、少なくとも触媒粒子の表面にフッ素化合物が担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒である。
【0009】
本発明は、比較的初期活性に優れるPt−Co触媒を基本とし、ここにマンガンを添加した3元系触媒である。そして、その金属相の構成としてCo−Mn合金相を一定量以下に制限すること、及び、フッ素化合物からなる撥水剤を含有することを特徴とするものである。以下、これらの特徴と共に本発明に係る触媒について説明する。
【0010】
本発明において、Pt−Co−Mn3元系触媒を適用するのは、本発明者等によるスクリーニング試験の結果、マンガン添加により従来のPt−Co触媒以上の活性を発揮する可能性があるからである。これは、Pt−Co触媒に第3の金属元素としてマンガンを添加することで、酸素分子の4電子還元機能がより効率的に発揮され触媒活性が向上することによるものと考察される。そして、Pt−Co触媒以上の初期活性を発揮させるため、白金、コバルト、マンガンの構成比は、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.39:0.04〜0.33とする。マンガンはある程度の添加が要求されるが、過剰添加は却って活性を低下させる。コバルト、マンガンの構成比が上記範囲を逸脱すると、従来のPt−Co触媒と同等程度或いはそれ以下の活性となるため構成比の設定が必要となる。尚、コバルト、マンガンの構成比のより好ましい範囲は、Pt:Co:Mn=1:0.06〜0.26:0.09〜0.33であり、この範囲で最大の初期活性を示す。
【0011】
そして、マンガンは添加すればそれで良いというわけではなく、触媒粒子を構成する他の構成元素(白金、コバルト)との関係において所定の存在形態にあることが要求される。即ち、Pt−Co−Mn3元系触媒における触媒粒子を構成する金属相としては、部分的にPt相が残存している可能性はあるものの、基本的に各金属が相互に合金化した合金相が主体となる。この合金相としては、Mn−Pt合金相(MnPt
3)、Co−Pt合金相(CoPt
3)、Mn−Co合金相(MnCo)が考えられる。これらの合金相の種類、存在量は、触媒の製造工程により相違すると考えられる。
【0012】
本発明者等は、各合金相の触媒活性に対する影響を検討したところ、触媒粒子中にMn−Co合金相が存在する場合、初期活性が大きく低下しマンガン添加の効果が消失する。この要因については明確ではないが、Pt−Co−Mn3元系触媒の活性種はMn−Pt合金相、Co−Pt合金相であると推察され、添加したMn及びCoがPtと合金化せずにMn−Co合金相となった場合、前記の活性種が形成され難くなるためと考えられる。
【0013】
そこで、本発明ではMn−Co合金相の存在量を制限するため、触媒粒子についてのX線回折分析における、Co−Mn合金のピーク強度を規制する。具体的には、2θ=27°近傍に現れるCo−Mn合金のピーク強度比が、2θ=40°近傍に現れるメインピークを基準として0.15以下とする。Mn−Co合金相の存在量を示すピーク比を0.15以下とするのは、上記の通り、Mn−Co合金相は触媒活性に好ましくない影響を及ぼすことから、好適な触媒を得るための上限を明確にするためである。従って、このピーク比は0であっても良く、むしろ好ましい。
【0014】
Mn−Co合金相の存在量規定のためにX線回折分析の結果を用いるのは、X線回折分析は比較的簡易な分析方法でありながら、触媒粒子の状態を正確に測ることができ、基準ピークを適切に設定することにより定量性も有するからである。上記の通り、本発明では、基準ピークとして、2θ=40°〜41°で現れるメインピーク(Pt、MnPt
3、CoPt
3の合成ピーク)を用い、Mn−Co合金相のピークは2θ=27°近傍のピークを適用する。尚、Mn−Co合金相のピークは、33°近傍、43°近傍、52°近傍、76°近傍でも現れるときがある。但し、2θ=27°近傍のピークが、Mn−Co合金相の有無に対して感受性が高いことから、このピークが適用される。
【0015】
また、触媒粒子を構成する合金相の分布に関しては、上記の通りMn−Co合金相を低減させた分、Mn−Pt合金相(MnPt
3)及びCo−Pt合金相(CoPt
3)を形成させたものが好ましい。これらの合金相は、酸素分子の4電子還元作用を有し活性向上に寄与する。X線回折分析では、これらの合金相はいずれも2θ=24°、32°、41°付近に現れるが、2θ=32°近傍で現れるピークにより判定するのが好ましい。この2つの合金相に由来するピークは、Mn−Pt合金相のピークとCo−Pt合金相ピークとの合成であり分離が困難である。そこで、これらの合金相形成の確認としてこの合成ピーク強度に判断することが好ましい。そして、好ましいピーク強度は、2θ=32°近傍で現れるピーク強度が、2θ=40°〜41°で現れるメインピークを基準として0.13以上であるものが好ましい。尚、このピーク強度比の好ましい上限値は、0.23程度となる。
【0016】
ところで、以上説明した、白金、コバルト、マンガンの構成比の設定、及び、Mn−Co合金相の規制は、触媒の初期活性の向上に寄与する構成である。初期活性の向上は、触媒特性の改善においてまず優先される事項であり、初期活性を高めることで長時間の使用に対しても活性を保持することができる。もっとも、初期活性向上のみで耐久性に優れた触媒とすることはできず、耐久性の確保は経時的な活性の落ち込みを抑制することで達成される。
【0017】
この耐久性向上の課題に関し、触媒の経時的な活性低下の要因としては、触媒粒子の粗大化等いくつか考えられる。ここで本発明者等は、それらの中で触媒粒子を構成する金属(白金、コバルト、マンガン)の溶出による劣化に着目した。この劣化機構は、カソード側の燃料電池反応において生成する水が介在する各金属の電気化学的溶解による消失である。上記したように、カソード側の触媒は、高温、酸性雰囲気、高電位負荷といった雰囲気に晒されており、ここに水が存在すると金属の溶解・溶出が加速される。
【0018】
そこで、本発明では、触媒粒子の表面にC−F結合を有するフッ素化合物からなる撥水層を形成することとした。C−F結合という高い結合力を有するフッ素化合物は安定性が高く、撥水性等の特異な性質を有することが知られている。本発明では、触媒にこのフッ素化合物からなる撥水層を形成し、生成した水を速やかに触媒粒子表面から排出させ、水が介在する触媒金属の溶解を抑制することで活性低下を防ぐこととしている。
【0019】
この撥水層を構成するフッ素化合物としては、撥水性高分子材料であるフッ素樹脂、フッ素系界面活性剤等がある。例えば、テフロン(登録商標)として知られる、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)や、ナフィオン(登録商標)として知られているパーフルオロスルホン酸系ポリマ、フッ化アクリレートとして知られているパーフルオロアクリル酸エステルが挙げられる。また、フッ素系界面活性剤としてパーフルオロブタンスルホン酸基(PFBS)系の界面活性剤も効果がある。
【0020】
本発明において、撥水層を形成するフッ素化合物の担持量は、触媒全体の質量を基準として3〜20質量%となるようにしたものが好ましい。3質量%未満では効果がなく、20質量パーセント%を超えると電極反応促進という触媒本来の機能が発揮できなくなるからである。より好ましくは、8〜20質量%である。
【0021】
尚、撥水層は全ての触媒粒子について全面に対して形成されている必要はなく、部分的なもので良い。また、触媒粒子のみに形成されていても良いが、担体に対してフッ素化合物が担持されていても触媒活性に影響は生じない。
【0022】
本発明において、触媒粒子は、平均粒径2〜20nmのものが好ましい。2nm未満は長時間の活性持続特性が明確に得られなくなるからであり、20nmを超えると触媒の初期活性が十分に得られなくなるからである。また、担体である炭素粉末は、比表面積が250〜1200m
2/gの炭素粉末を適用するのが好ましい。250m
2/g以上とすることで、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒粒子を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることができる一方、1200m
2/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の浸入しにくい超微細孔(約20Å未満)の存在割合が高くなり触媒粒子の利用効率が低くなるからである。
【0023】
また、本発明に係る触媒は、固体高分子形燃料電池の電極としての性能を考慮し、触媒粒子の担持密度を30〜70%とするのが好ましい。ここでの担持密度とは、担体に担持させる触媒粒子質量(担持させた白金、コバルト、マンガンの合計質量)の触媒全体の質量に対する比をいう。
【0024】
次に、本発明に係る固体高分子形燃料電池の触媒の製造方法について説明する。本発明に係る触媒の製造にあたっては、基本的工程は一般的な合金触媒の製造方法に準じ、担体に触媒粒子となる金属を担持し、適宜に乾燥した後に熱処理を行い担持した金属の合金化を行う。但し、本発明に係る触媒は、触媒粒子中でMn−Co合金相が過剰に形成するのを抑制することが要求される。
【0025】
この触媒粒子中の合金相の調整について、本発明では、触媒金属の担持工程において、まず、白金のみが担持された触媒を用意し、これにコバルト及びマンガンを担持することを必須とする。触媒金属の担持には、構成金属を担体に同時に担持することが一般的でありまた効率的でもあるが(特許文献1の実施例を参照)、このような同時担持ではMn−Co合金相が本発明の規定値を超えて形成される。白金触媒をまず用意し(製造し)、別途コバルト及びマンガンを担持することでMn−Co合金相の形成が抑制される要因は明確ではないが、このようにすることで白金とコバルト、白金とマンガンとの合金化が容易となり、Mn−Pt合金相(MnPt
3)及びCo−Pt合金相(CoPt
3)の形成が優先されるためと考える。
【0026】
白金触媒の準備については、従来の白金触媒の製造方法によるものを用意すれば良い。市販の白金触媒を利用しても良い。通常、白金触媒は担体に白金塩溶液を接触(含浸、滴下)させた後、還元処理して白金粒子を形成して製造される。
【0027】
白金触媒へのコバルト及びマンガンの担持も、それ自体は一般的な方法による。白金触媒にコバルト及びマンガンの金属塩溶液を接触させ、還元処理して白金粒子の近傍に金属状態のコバルト及びマンガンを析出させる。コバルトの金属塩溶液としては塩化コバルト6水和物、硝酸コバルト、酢酸コバルト4水和物等が使用でき、マンガンの金属塩溶液としては塩化マンガン4水和物、硝酸マンガン6水和物、酢酸マンガン4水和物等が使用できる。このときの白金触媒と金属塩溶液の接触の順序は、特に限定されることはなく、いずれかの金属塩溶液を先に接触させても良いし、コバルト、マンガンの金属塩溶液の混合液と白金触媒とを接触させても良い。
【0028】
尚、コバルト及びマンガンの担持量は、白金触媒の担持量を考慮しつつ、上記のコバルト及びマンガンの構成比の範囲内で設定した比率となるように、金属塩溶液の濃度及び量を設定すれば良い。但し、後述の酸化性溶液による処理を行う場合には、コバルト及びマンガンの担持量を、設定した構成比に対して、コバルトでは1.5〜5倍程度、マンガンでは1.5〜3倍程度では上乗せすると良い。
【0029】
白金触媒へのコバルト及びマンガンの担持後は、必要に応じて乾燥した後、熱処理して各金属を合金化する。ここで合金化のための熱処理温度は700〜1100℃とする。700℃未満の熱処理では合金化、特に、Mn−Pt合金相とCo−Pt合金相の形成が不十分であり活性に乏しい触媒となる。また、熱処理温度は高いほど合金化が進行しやすく、Mn−Pt合金相とCo−Pt合金相の形成も促進されるが、1100℃を超える熱処理は、触媒粒子の粗大化が懸念されること、及び、設備的にも困難となることからこれを上限とした。この熱処理は非酸化性雰囲気で行うのが好ましく、特に還元雰囲気(水素ガス雰囲気等)で行うのが好ましい。
【0030】
上記熱処理工程を経た触媒は、Mn−Co合金相が低減されMn−Pt合金相及びCo−Pt合金相の形成が促進された触媒粒子を備え、初期活性に優れたPt−Co−Mn3元系触媒となる。
【0031】
そして、触媒粒子表面に撥水層を形成する。この処理は、上記で製造したPt−Co−Mn3元系触媒をフッ素化合物溶液に浸漬し、フッ素化合物溶液の溶媒を揮発又は蒸発して除去することでフッ素化合物を触媒に担持させるものである。ここで、フッ素化合物溶液は、上記のフッ素化合物を溶解することのできる溶媒にフッ素化合物を溶解させたものであり、溶媒はフッ素系溶剤でも、非フッ素系溶剤いずれでも良い。このとき、フッ素化合物溶液のフッ素含有量が、触媒に担持させるフッ素量と等しくなるように、溶媒及びフッ素化合物量を調整する。
【0032】
フッ素化合物担持のための浸漬処理について、その浸漬時間は1〜48時間として、攪拌しつつ行うのが好ましい。フッ素化合物溶液の温度は、30〜150℃とするが、溶媒の種類により選定する。そして、浸漬後は、触媒が分散するフッ素化合物溶液を乾燥機等で加温し、溶媒が全て消失するまで保持する。
【0033】
以上の処理により、本発明に係る触媒を製造することができる。尚、上記製造工程において、合金化の熱処理後、フッ素化合物担持前の触媒について、少なくとも1回酸化性溶液に接触させることが好ましい。本発明に係る触媒の触媒粒子では、コバルト及びマンガンの比率が重要であるが、その調整をそれらの担持工程のみで行うのは困難な場合がある。そこで、コバルト、マンガンの担持工程では予定の比率より多目に担持し、酸化性溶液で処理することでコバルト、マンガンを溶出させ担持量を調整することができる。
【0034】
この処理工程で使用する酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸等の溶液が好ましい。これらの酸化性溶液の濃度は、0.1〜1mol/Lとするのが好ましく、溶液に触媒を浸漬するのが好ましい。酸化性溶液処理の条件としては、接触時間は、1〜10時間が好ましく、処理温度は、40〜90℃が好ましい。尚、酸化性溶液処理は、触媒を酸化性溶液に1回接触させる場合のみならず、複数回繰り返し行っても良い。また、複数回の酸処理を行う場合には、処理ごとに溶液の種類を変更しても良い。