(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053641
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】難燃性シラン架橋性樹脂組成物、その製造方法、成形品、電線・ケーブルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20161219BHJP
C08K 5/372 20060101ALI20161219BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20161219BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20161219BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20161219BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20161219BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20161219BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20161219BHJP
H01B 7/29 20060101ALI20161219BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20161219BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K5/372
C08K5/3445
C08J3/24 ACES
C08J3/22
H01B3/44 F
H01B3/44 G
H01B3/44 P
H01B3/44 D
H01B13/00 Z
H01B7/02 F
H01B7/34 A
H01B7/34 B
H01B13/00 511Z
C08K3/20
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-172743(P2013-172743)
(22)【出願日】2013年8月22日
(65)【公開番号】特開2015-40266(P2015-40266A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】澤田 由香
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 倫正
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大
(72)【発明者】
【氏名】小島 学
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰治
(72)【発明者】
【氏名】大菅 秀幸
【審査官】
今井 督
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−286903(JP,A)
【文献】
特開2002−042574(JP,A)
【文献】
特開2010−174157(JP,A)
【文献】
特開2012−057075(JP,A)
【文献】
特開2011−049116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00
C08K 3/00− 13/08
H01B 1/00− 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂および/またはエチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体からなる樹脂成分100質量部に対して、チオエーテル系酸化防止剤(ただし、ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物を除く。)40〜100質量部およびベンゾイミダゾール系酸化防止剤40〜120質量部を含む樹脂組成物(A)を、シラングラフト樹脂組成物(B)100質量部に対して、70〜110質量部含有してなる難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)であって、
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂から選択され、
前記シラングラフト樹脂組成物(B)が、遊離ラジカル発生剤によりシランカップリング剤のシリル原子に置換する少なくとも1つの重合性基が合成樹脂にグラフト化したシラングラフト樹脂を含み、前記合成樹脂が、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とから選択されるポリオレフィン系樹脂、および/または、エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体である、
難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
【請求項2】
前記樹脂組成物(A)が、前記樹脂成分100質量部に対し、金属水和物を、0を超え100質量部以下含有する請求項1に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂が、DSCでの融点が130〜170℃である請求項1または2に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
【請求項4】
前記エチレン系共重合体が、該エチレン系共重合体中における前記置換エチレン成分の含有量が10〜50質量%であって、MFR(JIS K6922準拠、温度190℃、荷重2.16kgf)が0.1〜5g/10分である請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
【請求項5】
前記チオエーテル系酸化防止剤がペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)であり、前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤が2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
【請求項6】
ポリオレフィン系樹脂および/またはエチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体からなる樹脂成分100質量部に対して、チオエーテル系酸化防止剤(ただし、ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物を除く。)40〜100質量部およびベンゾイミダゾール系酸化防止剤40〜120質量部を含む樹脂組成物(A)を、シラングラフト樹脂組成物(B)100質量部に対して、70〜110質量部配合する、難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)の製造方法であって、
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂から選択され、
前記シラングラフト樹脂組成物(B)が、遊離ラジカル発生剤によりシランカップリング剤のシリル原子に置換する少なくとも1つの重合性基が合成樹脂にグラフト化したシラングラフト樹脂を含み、前記合成樹脂が、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とから選択されるポリオレフィン系樹脂、および/または、エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体である、
難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を押出成形してなる成形品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を導体上に押出成形することにより被覆層が形成されてなる電線・ケーブル。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を、導体上に押出成形した後、該成形された難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を架橋する、電線・ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
、難燃性シラン架橋性樹脂組成物、その製造方法、成形品、電線・ケーブルおよびその製造方法に関する。
詳しくは、押出成形機を用いて、シラングラフト樹脂組成物と混合することにより、良好な耐熱性、機械特性、難燃性を有する樹脂組成物、ならびにその成形品を提供するものであり、特に、自動車、電気・電子機器などに使用される電線・ケーブルの被覆材料として好適である。
【背景技術】
【0002】
難燃性シラン架橋性オレフィン系樹脂組成物は、土建・電販、電気・電子機器などに使用される耐熱性が要求される成型品や電線・ケーブルの被覆材料として用いられており、近年は、自動車の成型品や電線・ケーブルにも用いられている。
従来、難燃性シラン架橋性オレフィン系樹脂組成物を製造する際、オレフィン系樹脂に難燃剤の金属水酸化物、シランカップリング剤、シラン架橋(縮合)触媒を一括混練して製造されていたが、この方法だと、金属水酸化物中の水分で、シランカップリング剤が加水分解し、加水分解で生成したゲル状物質が成形品の表面に現れ、凹凸を形成して外観が悪くなることから、シランカップリング剤をグラフト重合させたオレフィン系樹脂であるシラングラフトバッチを製造し、これに難燃剤を含む樹脂成分からなる難燃剤バッチ、シラン架橋触媒を含む樹脂成分からなる触媒バッチを加えて製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
一方、耐熱性を改良するために、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を使用すること、さらには、これらに加えて、これらの酸化防止剤を多量使用すると樹脂表面にこれらが析出する(ブルーム)のを防ぐために、酸化亜鉛や硫化亜鉛からなるブルーム防止剤(特許文献2参照)、銅害防止剤(導体の銅などの金属に被覆した場合に、被覆部分の樹脂成分の劣化を防止するため、金属や金属イオンをキレートして不活性化するためのキレート化剤、いわゆる金属不活性剤)(特許文献3参照)を使用することが提案(特許文献2、3参照)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−297453号公報
【特許文献2】特開2008−303251号公報
【特許文献3】特開2010−174157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らによれば、シラングラフトバッチに、難燃剤バッチと触媒バッチを加える方法においても、これらの各バッチを最終的に混合する押出機内で溶融混練の際に、オレフィン系樹脂に金属水酸化物を配合した難燃剤バッチによって分散不良が発生し易いという問題がある。
特許文献1を例に挙げると、オレフィン系樹脂とシランカップリング剤から構成されるシラングラフトバッチの比重は、シランカップリング剤を含まないオレフィン系樹脂そのものと変わらないが、オレフィン系樹脂と金属水酸化物から構成される難燃剤バッチの比重は、金属水酸化物の配合量が増加するに従って、シラングラフトバッチの約1.5〜2倍となり、押出機のホッパーで混合しても、押出機シリンダーへの移送にズレや偏りが発生する。
さらに、金属水酸化物の配合量が多い難燃剤バッチは流動性や引張特性が悪く、押出機内で、シラングラフトバッチと均一に分散できなかった場合は、難燃性シラン架橋性オレフィン系樹脂組成物の難燃性や引張特性を低下させてしまう場合もある。
【0006】
この問題を解決する方法としては、押出機内での溶融混練時間を長くすること、溶融混練性向上させるスクリューを使用することなどが考えられるが、押出機内でシラングラフトバッチと触媒バッチの反応が進行するため、成形品の外観が悪化する問題が発生する。
また、シラングラフトバッチと難燃剤バッチの比重差を小さくすることも有効であるが、難燃性と耐熱性のバランスがとれなくなる問題が発生する。
シラングラフトバッチと難燃剤バッチの比重差が小さい場合、所望する難燃性を得るために、難燃バッチの比率を増加させる必要があり、結果として、触媒バッチと反応するシラングラフトバッチの比率が減少し、難燃性シラン架橋性オレフィン系樹脂組成物の耐熱性が低下する問題が発生する。
【0007】
一方、耐熱性については、特許文献2で使用されているようなヒンダードフェノール系酸化防止剤やセミヒンダードフェノール系酸化防止剤では、自動車のワイヤーハーネス等のように、長期耐熱性が要求される部品に使用される場合は、不十分であり、特許文献3に記載されているようなフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、金属酸化物やさらには銅害防止剤の併用では、上記の各バッチの混合、それに派生する問題が残ったままである。
【0008】
従って、本発明は、機械特性に優れ、かつ混練性や押出性等の造粒性に優れた樹脂組成物を提供することを課題とするものであり、さらには、難燃性シラン架橋性樹脂組成物を製造するためのシラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と混合して使用する樹脂組成物に適した樹脂組成物であって、押出成形機を用いて、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と混合することにより、良好な耐熱性、機械特性、難燃性を有し、ゲル化が抑えられた難燃性シラン架橋性樹脂組成物、その製造方法、優れた耐熱性、機械特性、難燃性、外観を有する成形品、電線・ケーブルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、特定の樹脂と特定の酸化防止剤を使用することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、上記課題は、以下の手段により達成された。
【0010】
(1)ポリオレフィン系樹脂および/またはエチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体からなる樹脂成分100質量部に対して、チオエーテル系酸化防止剤(ただし、ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物を除く。)40〜100質量部およびベンゾイミダゾール系酸化防止剤40〜120質量部を含む樹脂組成物(A)を、シラングラフト樹脂組成物(B)100質量部に対して、70〜110質量部含有してなる難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)であって、
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂から選択され、
前記シラングラフト樹脂組成物(B)が、遊離ラジカル発生剤によりシランカップリング剤のシリル原子に置換する少なくとも1つの重合性基が合成樹脂にグラフト化したシラングラフト樹脂を含み、前記合成樹脂が
、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とから選択されるポリオレフィン系樹脂
、および/または
、エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体である、
難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
(2)前記樹脂組成物(A)が、前記樹脂成分100質量部に対し、金属水和物を、0を超え100質量部以下含有する(1)に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
(3)前記ポリプロピレン系樹脂が、DSCでの融点が130〜170℃である(1)または(2)に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
(4)前記エチレン系共重合体が、該エチレン系共重合体中における前記置換エチレン成分の含有量が10〜50質量%であって、MFR(JIS K6922準拠、温度190℃、荷重2.16kgf)が0.1〜5g/10分である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
(5)前記チオエーテル系酸化防止剤がペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)であり、前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤が2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)。
(6)ポリオレフィン系樹脂および/またはエチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体からなる樹脂成分100質量部に対して、チオエーテル系酸化防止剤(ただし、ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物を除く。)40〜100質量部およびベンゾイミダゾール系酸化防止剤40〜120質量部を含む樹脂組成物(A)を、シラングラフト樹脂組成物(B)100質量部に対して、70〜110質量部配合する、難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)の製造方法であって、
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂から選択され、
前記シラングラフト樹脂組成物(B)が、遊離ラジカル発生剤によりシランカップリング剤のシリル原子に置換する少なくとも1つの重合性基が合成樹脂にグラフト化したシラングラフト樹脂を含み、前記合成樹脂が
、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とから選択されるポリオレフィン系樹脂
、および/または
、エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体である、
難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)の製造方法。
(7)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を押出成形してなる成形品。
(8)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を導体上に押出成形することにより被覆層が形成されてなる電線・ケーブル。
(9)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を、導体上に押出成形した後、該成形された難燃性シラン架橋性樹脂組成物(C)を架橋する、電線・ケーブルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、機械特性に優れ、かつ混練性や押出性等の造粒性に優れた樹脂組成物を提供することが可能となり、さらには、難燃性シラン架橋性樹脂組成物を製造するためのシラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と混合して使用する樹脂組成物に適した樹脂組成物であって、押出成形機を用いて、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と混合することにより、良好な耐熱性、機械特性、難燃性を有し、ゲル化が抑えられた難燃性シラン架橋性樹脂組成物、その製造方法、優れた耐熱性、機械特性、難燃性、外観を有する成形品、電線・ケーブル、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の樹脂組成物(以後、難燃剤もしくは酸化防止剤バッチとも称す)は、難燃性シラン架橋性樹脂組成物を製造するのに好適な樹脂組成物であり、難燃性シラン架橋性樹脂組成物に着色および機械特性向上、耐熱性向上、難燃性向上を付与することができる。
すなわち、本発明の上記樹脂組成物は、好ましくは、難燃性シラン架橋性樹脂組成物製造用樹脂組成物である。
最初に、本発明の樹脂組成物である、難燃剤もしくは酸化防止剤バッチから説明する。
【0013】
<<樹脂組成物(難燃剤もしくは酸化防止剤バッチ)>>
本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチは、ポリオレフィン系樹脂および/またはエチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体からなる樹脂成分100質量部に対して、チオエーテル系酸化防止剤10〜100質量部およびベンゾイミダゾール系酸化防止剤10〜120質量部含む。
【0014】
<樹脂成分>
難燃剤もしくは酸化防止剤バッチは、樹脂成分として(a)ポリオレフィン系樹脂、(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体を含む。
(a)ポリオレフィン系樹脂、(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体は、難燃剤もしくは酸化防止剤バッチにおける樹脂組成物のベース樹脂として好適であり、押出機内で、シラングラフト樹脂組成物(以後、シラングラフトバッチと称す)および、シラン架橋(縮合)触媒を含む触媒バッチと溶融混練する際に良分散するものが好ましい。
【0015】
本発明における(a)ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンの単独重合または異なった種類のオレフィンとの共重合体であり、酸変性ポリオレフィンも包含するものである。
一方、(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体も、酸変性のエチレン系共重合体も含むものであるが、(a)ポリオレフィン系樹脂とは、置換エチレンをモノマー成分として含む(ただし酸変性でのモノマーは置換エチレンとは区別する)点で異なる。
【0016】
(a)ポリオレフィン系樹脂におけるモノマー成分が、エチレン、プロピレン、プロピレン以外のα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−へキセン、1−オクテンなど)からなる樹脂であり、例えば、ポリエチレン系樹脂(ホモポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体)、ポリプロピレン系樹脂(ホモポリプロピレン、ポリプロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体など)が代表的である。
【0017】
(a)ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンが好ましく、なかでもエチレン・プロピレンランダム共重合体が好ましい。
【0018】
(a)ポリオレフィン系樹脂のMFRは、エチレン成分を50質量%より多く含むポリオレフィン、すなわち、ポリエチレン系樹脂(ホモポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体)では、MFR(JIS K7210準拠、温度190℃、荷重2.16kgf)0.1〜5g/10分、プロピレン成分を50質量より多く含むポリオレフィン、すなわち、ポリプロピレン系樹脂(ホモポリプロピレン、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体)では、MFR(JIS K7210準拠、温度230℃、荷重2.16kgf)0.1〜10g/10分のものが好ましい。
【0019】
特に、(a)ポリオレフィン系樹脂は、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と組み合わせた難燃性シラン架橋性樹脂組成物の機械特性の向上、耐熱性を維持させることができる点から、DSCでの融点が130〜170℃の範囲にあるポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0020】
本発明における(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体は、置換エチレンをモノマー成分として含むが、該置換エチレンの置換基としては、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリール基、カルバモイル基、カルボキシル基、アシル基などが好ましく、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基がより好ましい。
置換エチレンとしては、具体的には、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられ、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルが好ましい。
【0021】
従って、(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0022】
(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体のMFRは、MFR(JIS K7210準拠、温度190℃、荷重2.16kgf)0.1〜5g/10分のものが好ましい。
特に、(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体としては、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と組み合わせた難燃性シラン架橋性樹脂組成物の難燃性を向上させることができる点から、エチレン系共重合体における置換エチレン成分の含有量が10〜50質量%であるエチレン系共重合体が好ましい。
置換エチレン成分の含有量が50質量%以上であるエチレン−置換エチレン共重合体を使用した場合、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と組み合わせた難燃性シラン架橋性樹脂組成物の難燃性を向上させることができる反面、耐熱性を低下させる可能性がある。
【0023】
<酸化防止剤>
本発明では、チオエーテル系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤を併用して使用する。これにより樹脂組成物は、難燃性シラン架橋性樹脂組成物に優れた耐熱性(耐熱寿命)を付与することができる。
【0024】
チオエーテル系酸化防止剤としては、−S−もしくは−SHを分子内に有する化合物(ただし、ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物は、本願発明においては、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤に分類する)であり、R−S−R’またはR−SHで表される化合物が好ましい。なお、ここで、RおよびR’は各々独立に、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を表す。
チオエーテル系酸化防止剤のうち、好ましいものは、下記一般式(I)または(II)で表される化合物である。
【0025】
【化1】
【0026】
式中、R
1〜R
3は各々独立に、アルキル基を表す。
該アルキル基の炭素数は8〜20が好ましく、例えば、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシルが挙げられる。
【0027】
具体的には、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)などが挙げられる。
【0028】
上記一般式(I)または(II)で表される化合物のうち、一般式(I)で表される化合物が好ましく、中でも、難燃性シラン架橋性樹脂組成物に優れた耐熱性(耐熱寿命)を付与する点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0029】
ここで、チオエーテル系酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチの中に配合されている状態で、成形機、例えば、100〜200℃に設定された押出機などで、シラングラフトバッチであるシラングラフト樹脂組成物と溶融・混練するため、常温で液状のものや100℃以下の融点のものが好ましい。
【0030】
チオオエーテル系酸化防止剤の配合量は、前記(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体100質量部に対して10〜100質量部であり、好ましくは40〜60質量部である。
【0031】
本発明で使用するベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、少なくともベンゾイミダゾール骨格を有する化合物であり、2位または4〜7位のいずれかにメルカプト基もしくはメルカプト基の金属塩を有する化合物が好ましい。例えば、2−メルカプトベンツイミダゾール、2−メルカプトメチルベンツイミダゾール、4−メルカプトメチルベンツイミダゾール、5−メルカプトメチルベンツイミダゾールやこれらの亜鉛塩などが挙げられる。
【0032】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の好ましい化合物を、金属塩を形成していない化学式で示すと、以下の一般式(III)で表すことができる。
【0033】
【化2】
【0034】
式中、R
4は置換基を表し、nは0、1〜4の整数を表す。ここで、nが2〜4のとき、複数のR
4は互いに同一でも異なってもよい。R
5は水素原子または置換基を表す。
R
4における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられ、アルキル基またはアルコキシ基が好ましい。R
5における置換基としてはアルキル基が好ましい。
nは0または1が好ましい。ここで、nが1の場合、5位または6位にR
4が置換するのが好ましい。
R
4は水素原子が好ましい。
【0035】
一般式(III)で表される化合物としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシイミダゾール、2−メルカプト−5−アミノイミダゾール、2−メルカプト−5−ニトロイミダゾール、2−メルカプト−5−スルホイミダゾール、2−メルカプト−5−カルボキシイミダゾールが挙げられる。
【0036】
本発明において、上記メルカプト基が金属塩を形成したものが好ましく、該金属塩としては亜鉛塩が好ましい。
【0037】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、チオオエーテル系酸化防止剤と併用することで、難燃性シラン架橋性樹脂組成物に優れた耐熱性(耐熱寿命)を付与する以外に、併用するチオオエーテル系酸化防止剤の揮発、移行などを防止することができ、本発明ではそれらに加えて、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチを作製する際に、そのベース樹脂である(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体に、多量のチオエーテル系酸化防止剤を練り込むことが可能となるために必要な成分である。
【0038】
チオエーテル系酸化防止剤は、常温で液状のものや30〜70℃の低融点のものが多いため、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチのベース樹脂である(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体と混練する場合、ベース樹脂を溶融させるのに時間がかかったり、溶融したベース樹脂にはじかれて所定量練り込むことができなかったりする。
これは、チオエーテル系酸化防止剤が、ベース樹脂より早く溶融してしまうこと、ベース樹脂との相溶性が低いことが原因であり、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、溶融混練時において、チオエーテル系酸化防止剤をその表面に保持するような挙動を示し、さらに、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の融点が250℃以上と高いため、ベース樹脂に対して無機物のように混練することができる。
【0039】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の配合量は(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体100質量部に対して10〜120質量部であり、好ましくは40〜60質量部である。
【0040】
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチに多量のチオエーテル系酸化防止剤を練り込むために有効である反面、その配合量が、(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体100質量部に対して150質量部以上になると、成形機、例えば、100〜200℃に設定された押出機などで、シラングラフトバッチであるシラングラフト樹脂組成物と組み合わせた難燃性シラン架橋性樹組成物の機械特性の低下がみられる。
【0041】
本発明においては、上記のチオエーテル系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤以外に、他の酸化防止剤を併用しても構わない。
他の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が挙げられ、本発明では、さらにこの酸化防止剤を組み合わせるのが好ましい。
フェノール系酸化防止剤は、フェノール骨格の2位に第三級アルキル基を有するものが好ましく、2位と6位の両方に第三級アルキル基を有するものがさらに好ましい。
ここで、第三級アルキル基は、t−ブチル基、t−ペンチル基が好ましく、t−ブチル基が特に好ましい。
【0042】
フェノール系酸化防止剤は、例えば、トリス〔(3,5−ジ−t−ブチル−4−ビドロキシベンジル)イソシアルレート、〕、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、3,9−ビス〔2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンなどを挙げることができる。
これらのうち、テトラキス〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが特に好ましい。
【0043】
フェノール系酸化防止剤の配合量は、前記(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。
【0044】
<金属水和物>
本発明において、金属水和物とは、水酸化金属のように水酸基を有する金属以外に、水和した金属をも包含するものである。
金属水和物の配合により、本発明の樹脂組成物を難燃性とすることができ、しかもシラングラフトバッチであるシラングラフト樹脂組成物と本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチを混合することで、難燃性シラン架橋性樹脂組成物の難燃性を自由に調整することができる。
しかも、シラングラフトバッチであるシラングラフト樹脂組成物と本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチにおける樹脂組成物間の比重差が小さくすることが可能となり、成形機、例えば、押出機への移送時のズレや偏りが発生しにくくなる。
【0045】
金属水和物としては、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、合成樹脂類との相溶性向上、難燃性シラン架橋性樹脂組成物の機械特性向上などの点から、脂肪酸やシランカップリング剤で表面処理されたものでも良い。
【0046】
金属水和物の配合量は、前記(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体100質量部に対して0〜100質量部が好ましく、50〜100質量部がより好ましい。
金属水和物の配合量が150質量部を超える場合は、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチの流動性や機械特性が低下するため、成形装置内でシラングラフトバッチと均一に分散できなかった場合は、難燃性シラン架橋性樹脂組成物の機械特性を低下させてしまう。
【0047】
<その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチには、電線、ケーブルなどにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、分散剤、顔料などを本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ適宜配合することができる。
なかでも、金属不活性化剤(銅害防止剤)を使用することが好ましい。
【0048】
金属不活性化剤(銅害防止剤)は、トリアゾール系化合物、N,N’−ジアシルヒドラジン化合物、ジヒドラジド化合物などが挙げられる。金属不活性化剤としては、例えば、(株)ADEKAの重金属不活性化剤アデカスタブCDAシリーズなどが挙げられる。具体的には、CDA−1、CDA−6、CDA−10などが挙げられる。特に好ましいものは、高い耐熱性向上効果を有するなどの観点から、CDA−10〔N,N−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン〕である。
【0049】
金属不活性化剤(銅害防止剤)の配合量は、前記(a)ポリオレフィン系樹脂および/または(b)エチレンと置換エチレンからなるエチレン系共重合体100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、2〜15質量部がより好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、二軸押出機などの通常用いられる混練装置で溶融混練することができる。
【0051】
<<難燃性シラン架橋性樹脂組成物>>
本発明の難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、少なくとも本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチを用いて製造される。
ここで、難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、必ずしもシラノ基で架橋している必要はなく、架橋は難燃性シラン架橋性樹脂組成物を用いて、成形品を形成した後に架橋してもよい。このため、本発明では、「架橋性」として表記している。
【0052】
本発明では、難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチを混合、好ましくは混練して製造されるものであり、シラングラフト樹脂組成物100質量部に対して、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチ70〜110質量部を配合する。
本発明においては、特に好ましくは、難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチおよびシラン架橋(縮合)触媒を含む触媒バッチを配合する。
【0053】
<シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)>
シラングラフト
樹脂組成物は、合成樹脂、シランカップリング剤、遊離ラジカル発生剤から得られてなり、必要によっては難燃剤をさらに含んでもよい。
合成樹脂は、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチで使用するベース樹脂であるポリオレフィン系樹脂やエチレンと置換エチレンからなる共重合体などの熱可塑性樹脂や、スチレン系、ブタジエン系などの熱可塑性ラストマー、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンターポリマー、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムが挙げられ、またこれらの酸変性の熱可塑性樹脂もしくはゴムであっても構わない。ここで、酸変性は、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体によるものが好ましい。
本発明で使用する合成樹脂は上記の各樹脂を単独で使用してもよく、またこれらの樹脂の混合物であっても構わない。
合成樹脂は、ポリオレフィン系樹脂やエチレンと置換エチレンからなる共重合体が好ましく、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチで挙げた樹脂が好ましい。
【0054】
シラングラフト樹脂組成物において、合成樹脂は、シランカップリング剤と遊離ラジカル発生剤でシランカップリング剤のシリル原子に置換する少なくとも1つの重合性基、すなわち末端二重結合を有する基が、グラフト化されて、シラングラフト樹脂が形成されている。
【0055】
シランカップリング剤は、シリル原子に少なくとも1つの、ビニル基や末端二重結合を有するアルキル基やフェニル基が結合したものが好ましく、シリル原子に置換する残りの基が、加水分解可能な基、具体的には、アルコキシ基、アシルオキシ基が好ましい。
シランカップリング剤の具体例として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやノルマルヘキシルトリメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
これらのシランカップリング剤は、単独もしくは2種類以上併用しても良い。
【0056】
シラングラフト樹脂の形成に使用されるシランカップリング剤の配合量は、使用される合成樹脂100質量部に対し、0.3〜5質量部が好ましい。
【0057】
シラングラフト樹脂の形成に使用される遊離ラジカル発生剤は、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、t−ブチルパーベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが挙げられる。
【0058】
シラングラフト樹脂の形成に使用される遊離ラジカル発生剤の配合量は、使用される合成樹脂100質量部に対し、0.02〜0.2質量部が好ましい。
【0059】
本発明では、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)に難燃剤を使用してもよく、難燃剤としては、金属水和物やハロゲン系難燃剤などが挙げられる。
金属水和物としては、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、合成樹脂類との相溶性向上、得られる難燃性シラン架橋性樹脂組成物の機械特性向上などの点から、脂肪酸やシランカップリング剤で表面処理されたものでも良い。
ハロゲン系難燃剤としては、塩素化パラフィン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビスペンタブロモベンゼンなどが挙げられ、これら以外に、三酸化アンチモン、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛などの難燃助剤の添加も可能である。
【0060】
シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)には、これら以外に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤などの添加剤が配合されていても構わない。
【0061】
難燃剤の配合量は、シラングラフト樹脂100質量部に対し、15〜200質量部が好ましい。特に、難燃剤に金属水和物を使用する場合は、50〜200質量部が好ましく、100〜150質量部がより好ましい。
【0062】
<シラン架橋(縮合)触媒を含む触媒バッチ>
シラン架橋(縮合)触媒を含む触媒バッチは、合成樹脂とシラン架橋触媒(シラン縮合触媒)を少なくとも含む。
合成樹脂は、シラングラフト樹脂を形成する前の合成樹脂と同じ樹脂が好ましい。
【0063】
シラン架橋触媒は、錫、亜鉛、バリウム、カルシウム等の金属カルボン酸塩や、チタン酸エステルなどが挙げられる。
具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、カプリル酸錫、カプリル亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステルなどが挙げられる。
これらシラン架橋触媒の中でも、シランカップリング剤との反応性の点から、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチドが好ましい。
【0064】
シラン架橋触媒の配合量は、シラン架橋(縮合)触媒を含む触媒バッチに含まれる樹脂100質量部に対し、0.3〜5質量部が好ましい。
【0065】
難燃性シラン架橋性樹脂組成物を構成するシラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)の比重は1.2〜1.4が好ましく、触媒バッチの比重は0.9〜1.1が好ましく、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)と触媒バッチの混合比率は、質量比で、シラングラフトバッチ/触媒バッチ=100/1〜100/10が好ましく、100/5が特に好ましい。
このようなシラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)としては、Cogegum GFR Series (SOLVAY Plastics)などが上市されており、これらには、その用途に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤などの添加剤が配合されている。
【0066】
<難燃性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法>
本発明における難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、シラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)100質量部に対して、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチ70〜110質量部を配合して製造される。
難燃性シラン架橋性樹脂組成物の架橋は、押出機を使用して成形された後 の段階で蒸気や水に常温〜95℃の温度範囲で48時間以内さらすことにより架橋するのが好ましい。
【0067】
本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチが50質量部未満では、得られた難燃性シラン架橋性樹脂組成物の耐熱性(耐熱寿命)や機械特性の向上がみられない。
一方、本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチが120質量部を超えると、得られた難燃性シラン架橋性樹脂組成物中において、架橋に関係するシラングラフト樹脂組成物(シラングラフトバッチ)の量が不足し、耐熱性(熱変形)や難燃性が低下する。
【0068】
また、本発明の難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、引張強度10MPa以上、かつ160℃×7日後の引張強度残率と伸び残率が70%以上、かつ酸素指数が32以上である。
このような特性を有する難燃性シラン架橋性樹脂組成物樹脂組成物は、自動車、電気・電子機器などに使用される電線・ケーブルの被覆材料として好適である。
【0069】
<<成形品、電線・ケーブル>>
本発明の樹脂組成物である難燃剤もしくは酸化防止剤バッチを用いて製造された難燃性シラン架橋性樹脂組成物は、押出機を使用して、所望の形状に成形して、各種の成形品を製造したり、導体・被覆層の周囲に押出被覆して、電線・ケーブルを製造することができる。
本発明の電線・ケーブルにおける導体径や導体の材質、被覆層の厚さなどは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。
また、導体と被覆層、被覆層と被覆層の間に中間層や遮蔽層を設けるなど多層構造をとってもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0071】
[
調製例1〜
6、比較
調製例1〜4]
調製例1〜
6および比較
調製例1〜4の樹脂組成物を形成する材料の構成を下記表1に示した。また、使用した材料の詳細は下記の通りである。
【0072】
(1)ポリプロピレン樹脂
PB222A (商品名 サンアロマー社製;ランダムポリプロピレン、融点147℃、MFR0.7g/10分)
(2)エチレン−酢酸ビニル共重合体
エバフレックスV−5274R 〔商品名 三井・デュポンポリケミカル社製;酢酸ビニル成分含有量17質量%、MFR0.8g/分(JIS K6922準拠、温度190℃、荷重2.16kgf)〕
(3)フェノール系酸化防止剤
イルガノックス1010 (商品名 BASF社製)
(4)チオエーテル系酸化防止剤
アデカスタブAO−412S (商品名 ADEKA社製)
(5)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤
ノクラックMBZ (商品名 大内新興化学社製)
(6)金属不活性化剤(銅害防止剤)
イルガノックスMD1024 (商品名 BASF社製)
(7)水酸化マグネシウム
キスマ5A (商品名 協和化学社製)
【0073】
なお、上記各防止剤は、以下の化合物である。
【0074】
【化3】
【0075】
[樹脂組成物ペレットの製造]
下記表1に示す配合処方に従い、1.7リットルのバンバリーミキサーを用いて110℃で溶融混合し、混合物を排出し、押出機を通して造粒して、
調製例1〜
6および比較
調製例1〜4の樹脂組成物ペレットを得た。なお、配合量は全て質量部で表す。
【0076】
調製例1〜
6および比較
調製例1〜4で得られた樹脂組成物について、下記の基準で「樹脂組成物の混練性」、「樹脂組成物の押出性」および「樹脂組成物の引張特性」について比較・評価した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0077】
ここで、
調製例1〜
6の樹脂組成物の比重は、順に、1.08、1.11、1.30、1.27、1.39、1.41であり、比較
調製例1〜4の比重は、順に1.22、1.39、1.41、1.27であった。
【0078】
(樹脂組成物の混練性)
1.7リットルバンバリーミキサーを用いて樹脂組成物を混練する際に、混練時間が20分を超えるもの、もしくは押出後の樹脂組成物の排出時に樹脂組成物の変色やヤケ・発泡が見られた場合を「×」、多少の変色やヤケ・発泡はあるが実用上問題ない場合を「△」、変色やヤケ・発泡がない場合を「○」として樹脂組成物の混練性を判定した。
【0079】
(樹脂組成物の押出性)
1.7リットルバンバリーミキサーを用いて混練した樹脂組成物を、押出機を用いて造粒する際に、押出機から出た樹脂組成物ストランドに発泡や外観異常が見られた場合、および、ストランドの引取りが困難な場合を「×」、多少の発泡や外観異常はあるが実用上問題ない場合を「△」、発泡や外観異常がない場合を「○」として樹脂組成物の押出性を判定した。
【0080】
(樹脂組成物の引張特性)
引張特性の評価は、樹脂組成物のペレットを、温度を110℃〜130℃に設定した押出機を用いて2mm径のストランドを作成し、テンシロン引張試験機を用い、23±5℃の室温にて標線間隔50mm、引張速度200mm/分で試験を実施し、樹脂組成物の引張伸びと強さを測定した。引張伸びが200%以上の場合、および、引張強さが15MPa以上の場合を「○」、引張伸びが200%以上か引張強さが15MPa以上かのどちらか一方を満たす場合を「△」、引張伸びが200%に満たない場合、および、引張強さが15MPaに満たない場合を「×」として樹脂組成物の引張特性を判定した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1の
調製例1〜
6に示した樹脂組成物は、いずれも混練性・押出性に優れ、引張特性も良好な結果となった。
【0083】
一方で、表1の比較
調製例1においては、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を含有していないことから、チオエーテル系酸化防止剤を保持できず、混練時間が長く樹脂のヤケが見られた。
比較
調製例2では、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を大量に含有していることから、混練後の押出ストランド表面に外観異常が見られ、引張伸びが著しく低い結果となった。
比較
調製例3では、チオエーテル系酸化防止剤を含有していないことから、特性が悪化した。
比較
調製例4では、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤量に比べてチオエーテル系酸化防止剤を大量に含有していることから、チオエーテル系酸化防止剤を保持できず、混練時に樹脂や添加剤が混練設備内で滑ってしまい、混練が不可能であった。
【0084】
[実施例
1〜5、比較例
1および
2]
実施例
1〜5ならびに比較例
1および
2の絶縁電線を形成する材料の構成を下記表2に示した。また、使用した材料の詳細は下記の通りである。
【0085】
(8)シラングラフトバッチ A(比重1.40g/cm
3)
Cogegum GFR350 (商品名 Solvay Speciallity Polymers社製)
(9)シラングラフトバッチ B(比重1.35g/cm
3)
Cogegum GFR340HP (商品名 Solvay Speciallity Polymers社製)
(10)触媒バッチ
CT/7 LR−UV (商品名 Solvay Speciallity Polymers社製)
【0086】
[絶縁電線の製作]
絶縁電線は、上記
調製例で得
た樹脂組成物(
調製例1、
3、
5)、比較
調製例で得た樹脂組成物(比較
調製例1、2)と、上記シラングラフトバッチおよび触媒バッチを下記表2に示す配合処方に従い押出機のホッパーで混合して、温度を110℃〜130℃に設定した押出機を用いて、断面積が3.0mm
2の銅からなる導体上に0.7mmの厚さで押出被覆して製造した。
なお、表2には、樹脂組成物に含まれるポリプロピレン、エチレン共重合体、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、イミダゾール系酸化防止剤、銅害防止剤、水酸化マグネシウムの量を示した。
【0087】
実施例
1〜5、比較例
1および
2で得られた絶縁電線について、下記の基準で「難燃性」、「耐熱性」、「引張伸び」、及び、「引張強さ」について比較・評価した。結果を下記表2に示す。
【0088】
(難燃性)
電線を45度に固定し、バーナーで着火して燃焼させ、30秒後にバーナーを離し、自消性が認められた場合を「◎」、電線を水平に固定し、バーナーで着火して燃焼させ、30秒後にバーナーを離し、自消性が認められた場合を「○」、いずれも自消性が認められなかった場合を「×」として判定した。
【0089】
(耐熱性)
電線を所定の温度に設定したギヤオーブンで240時間加熱した後、20mm径のマンドレルに3回巻付け、絶縁体表面などにクラックが生じず、かつ3kVの電圧を1分間加えた際に絶縁破壊が見られない加熱温度が180℃以上の場合を「◎」、150℃以上の場合を「○」、120℃未満の場合を「×」として判定した。
【0090】
(引張特性)
絶縁電線を150mmの長さに切り出し、導体を取り除いて絶縁被覆材のみの管状試験片をし、テンシロン引張試験機を用い、23±5℃の室温にて、標線間隔50mm、引張速度200mm/分で試験を実施し、引張強さおよび引張伸びを測定した。
引張強さが15.0MPa以上の場合を「◎」、引張強さが10.0MPa以上15.0MPa未満の場合を「○」、引張強さが7.5MPa以上10.0MPa未満の場合を「△」、7.5MPaに満たない場合を「×」として絶縁被覆材の引張強さを判定した。
引張伸びが200%以上の場合を「◎」、引張伸びが120%以上200%未満の場合を「○」、引張伸びが110%以上120%未満の場合を「△」、引張伸びが110%に満たない場合を「×」として絶縁被覆材の引張伸びを判定した。
【0091】
【表2】
【0092】
表2の実施例
1〜5に示した樹脂組成物は、いずれも難燃性・耐熱性・押出性に優れ、引張特性も良好な結果となった。
【0093】
一方で、表2の比較例
1では、十分な引張強度および耐熱性が得られず、比較例
2では、十分な耐熱性や難燃性が得られなかった。