特許第6053724号(P6053724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053724
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】イオン交換樹脂及び金属の吸着分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 45/00 20060101AFI20161219BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20161219BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20161219BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B01J45/00
   B01J20/22 B
   C22B3/06
   C22B3/42
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-131673(P2014-131673)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-7601(P2016-7601A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年5月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】久保田 富生子
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−216966(JP,A)
【文献】 特開2013−189675(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/091805(WO,A1)
【文献】 特開平07−100371(JP,A)
【文献】 特開2004−233278(JP,A)
【文献】 特開平05−097715(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/025558(WO,A1)
【文献】 特開平06−080594(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103055819(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101785991(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 45/00
B01J 20/22
C22B 3/06
C22B 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、ニッケル、スカンジウム及び希土類元素から選択される1以上の金属を含む酸性溶液をイオン交換樹脂に通液することで前記金属を前記イオン交換樹脂に吸着することと、
前記イオン交換樹脂に吸着した金属を回収することとを含み、
前記イオン交換樹脂は、担体上に下記一般式(I)で表されるアミド誘導体を有し、
前記担体は、3−アミノプロピルシリカゲル及び/又は3−(エチレンジアミノ)プロピルシリカゲルを含む、金属の吸着分離方法。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。Rは水素原子又はアルキル基を示す。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。)
【請求項2】
前記アミド誘導体がグリシンアミド誘導体である、請求項1に記載の金属の吸着分離方法。
【請求項3】
前記酸性溶液は、ニッケル酸化鉱を高温加圧酸浸出して得た酸浸出液であり、該酸浸出液に含まれる金属を前記イオン交換樹脂に吸着し、
前記イオン交換樹脂に吸着した金属を回収する、請求項1又は2に記載の金属の吸着分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂及び金属の吸着分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトや希土類金属は、有価金属として知られ、産業で様々な用途として用いられている。コバルトは、二次電池の正極材のほか、航空機のジェットエンジン等に使用されるスーパーアロイ(高強度耐熱合金)等で用いられている。希土類金属は、蛍光体材料、ニッケル水素電池の負極材、モーターに搭載される磁石の添加剤、液晶パネルやハードディスクドライブに使用されるガラス基板の研磨剤等に用いられている。
【0003】
近年、省エネルギーが強く推進されており、自動車業界においては、従来のガソリン車から、コバルトや希土類金属を使用した二次電池を搭載したハイブリッド車や電気自動車への移行が急速に進んでいる。また、照明器具においては、従来の蛍光管から、ランタン、セリウム、イットリウム、テルビウム及びユーロピウムといった希土類金属を使用した効率の良い三波長蛍光管への移行が急速に進んでいる。上記のコバルトや希土類金属は希少資源であり、そのほとんどを輸入に頼っている。
【0004】
しかし、アナログ放送用のブラウン管テレビの蛍光体には、イットリウム、ユーロピウムが用いられていたものの、近年では、液晶テレビへの移行に伴い、大量のブラウン管が使用済み製品として廃棄されている。また、二次電池や三波長蛍光管等の急速に普及している製品も将来的には使用済み製品として大量に廃棄物になることが容易に予想できる。このように、希少資源であるコバルトや希土類金属を使用済み製品からリサイクルせずに廃棄物にすることは資源節約や資源セキュリティーの観点から好ましくない。最近ではこのような使用済み製品からコバルトや希土類金属といった有価金属を効果的に回収する方法を確立することが強く望まれている。
【0005】
<二次電池からのコバルトの回収>
ところで、上記の二次電池として、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等が挙げられ、これらの正極剤には、希少金属であるコバルトの他にマンガンが使用されている。そして、リチウムイオン電池の正極材においては、高価なコバルトに替わって安価なマンガンの比率を高くする傾向にある。最近では使用済み電池から有価金属の回収が試みられており、回収法の一つとして使用済み電池を炉に投入して溶解させ、メタルとスラグに分離してメタルを回収する乾式法がある。しかし、この方法ではマンガンはスラグに移行するため、コバルトのみしか回収できない。
【0006】
その他、使用済み電池を酸に溶解して沈澱法、溶媒抽出法、電解採取等の分離方法を用いて金属を回収する湿式法も知られている。例えば、沈澱法では、コバルトとマンガンを含む溶液のpHを調整し、硫化剤を添加してコバルトの硫化澱物を得る方法や酸化剤を添加することでマンガンの酸化物澱物を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法では、共沈が発生する等の課題があり、コバルトとマンガンとを完全に分離することは難しい。
【0007】
また、電解採取法によってコバルトをメタルとして回収しようとした場合、高濃度のマンガンが存在する系では陽極表面にマンガン酸化物が析出し、陽極の劣化が促進されることが知られている。また、特有の着色した微細なマンガン酸化物が電解液中に浮遊し、電解採取で使用する濾布の目詰まりや、マンガン酸化物によるコバルトメタルの汚染を生じる等、安定した操業が難しい。
【0008】
また、溶媒抽出法を用いてコバルトを回収しようとした場合、酸性抽出剤が広く用いられている。しかし、前述したように、最近ではリチウムイオン電池の正極剤に多くのマンガンが使用されていることから、電池の溶解液は高濃度のマンガンが存在し、このような系からコバルトを選択的かつ効果的に抽出する効果的な抽出剤は無い状況である。
【0009】
使用済み電池のリサイクルの他、現在コバルトを生産するために行われているコバルト製錬では原料がニッケル酸化鉱等のニッケル鉱石であるが、ニッケル酸化鉱にはコバルトに比してマンガンの比率が高く、その存在比率はコバルトの5〜10倍程度であり、コバルトを製錬するにあたり、マンガンとの分離は大きな課題となっている。
【0010】
<三波長蛍光管及びブラウン管からの希土類金属の回収>
また、上記で挙げた三波長蛍光管に用いられる蛍光体には、ランタン、セリウム、イットリウム、テルビウム及びユーロピウムといった希土類金属の混合物が用いられる。さらに、ブラウン管用蛍光体にはイットリウム、ユーロピウムが高い比率の亜鉛とともに含まれて用いられる。
【0011】
希土類金属の混合物から特定の希土類金属を回収する方法として、鉱酸等の酸に溶解した液から溶媒抽出法によって回収する方法が一般的に用いられている。希土類金属の相互分離には、例えばリン系の抽出剤である商品名PC88A(大八化学製)を用いた工業的な例がある。しかし、この抽出剤には構造中にリンを含んでいるため、工業的に使用する際は排水中に移行する抽出剤やその劣化物が公共用水域を汚染させないための高度な廃水処理が必要となる。国内の特定地域によっては水質汚濁法で規定される総量規制の対象となるため工業的な規模で使用する際には懸念点となる。
【0012】
リンを含まない抽出剤として、カルボン酸系の抽出剤(例えば、2−メチル−2−エチル−1−ヘプタン酸:ネオデカン酸)が実用化している。しかし、この抽出剤は、中性以上の高いpH領域でしか抽出が進まないため、上述のような酸性溶液を対象とする場合、中和剤を多く必要とし、コストの増加が懸念される。さらに、カルボン酸系の抽出剤の抽出能力は前述のリン系の抽出剤よりも低く過大な設備が必要となりコストを上昇する問題もある。
【0013】
このような問題を解決するために、ジグリコールアミド酸の骨格を持つDODGAAと呼ばれる抽出剤が開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この抽出剤を用いると、非特許文献1に示すように、希土類金属の中でも重希土類金属と呼ばれるイットリウム(Y)、ルテチウム(Lu)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)は、中希土類金属と呼ばれるジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、ガドリニウム(Gd)、ユーロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)とともに抽出される傾向が強いため、希土類金属の相互分離には適さない。また、DODGAAでは、軽希土類金属と呼ばれるプロメチウム(Pm)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)の抽出率が低い。また、特に生産量が少なく高価なユーロピウム(Eu)も他の希土類金属から選択的に回収することはできない。このように、希土類金属を相互分離できる抽出剤、さらには、軽希土類金属を効率よく抽出できる抽出剤は見出されていなかった。
【0014】
この課題を解決するために、特定のアミド誘導体を用いて上記特許文献2で分離が困難だった軽希土類を効率よく分離することが提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。このアミド誘導体を用いると、高濃度のマンガンから少量のコバルトを抽出できる等、従来の抽出剤になかった顕著な特性が得られる。さらに、上記アミド誘導体は、希土類元素の中で他の希土類元素と異なる挙動を取ることで知られているスカンジウムを特異的に抽出できるという特徴も持つ。このため、例えば、ニッケル酸化鉱中に含有される少量のスカンジウムを、ニッケル酸化鉱を酸浸出した溶液から回収するのに適する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−234130号公報
【特許文献2】特開2007−327085号公報
【特許文献3】特開2013−216966号公報
【特許文献4】特開2013−189675号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】K. Shimojo, H. Naganawa, J. Noro, F. Kubota and M. Goto; Extraction behavior and separation of lanthanides with a diglycol amic acid derivative and a nitrogen-donor ligand; Anal. Sci., 23, 1427-30, 2007 Dec.
【0017】
ところで、例えば、上記のニッケル酸化鉱を酸浸出した酸溶液の場合、酸溶液に含まれるスカンジウム濃度は、数〜数十mg/l程度であり、極めて希薄である。上記アミド誘導体を溶媒抽出処理に付した場合、酸溶液に含まれるスカンジウム濃度が極めて希薄であることから、溶媒抽出処理のために多量の抽出剤が必要となる。さらに多量の抽出剤に応じて抽出槽や貯液槽などの設備規模もそれだけ拡大し、必要な設備投資がかさむことが課題となる。
【0018】
そして、一般に、溶媒抽出処理する場合、抽出剤と酸溶液との混合比や液温度等の条件を一定に維持しないと抽出特性が変動し安定した操業が困難になる傾向があり、細かな操業管理が必要となる。また、抽出操作中に空気が巻き込まれると、溶液に含有された鉄イオンが酸化されてクラッドと呼ばれる介在物を生成し、溶媒抽出操業が阻害される懸念もある。特に、上記のニッケル酸化鉱を酸浸出した酸溶液には2価の鉄イオンが数g/l以上の高濃度に含まれることが多く、酸溶液に含まれる2価の鉄イオンの濃度をできるだけ低く抑えてから溶媒抽出工程に付することが好ましい。
【0019】
このように、ニッケル酸化鉱から微量金属を回収する等の場合、大量の原料を処理し、かつ、この処理の際、細かな操業管理を行う必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、ニッケル酸化鉱から微量金属を回収する等の場合のように、大量の原料から微量金属を効率よく回収する系を提供することを目的とする。
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、原料の酸浸出液に含まれる金属を、担体上に下記一般式(I)で表されるアミド誘導体を有する樹脂に吸着し、その樹脂に吸着した金属を回収することで上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0022】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0023】
(1)本発明は、担体上に下記一般式(I)で表されるアミド誘導体を有するイオン交換樹脂である。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。Rは水素原子又はアルキル基を示す。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。)
【0024】
(2)また、本発明は、前記アミド誘導体がグリシンアミド誘導体である、(1)に記載のイオン交換樹脂である。
【0025】
(3)また、本発明は、前記担体が1級アミン及び/又は2級アミンを含む、(1)又は(2)に記載のイオン交換樹脂である。
【0026】
(4)また、本発明は、コバルト、ニッケル、スカンジウム及び希土類元素から選択される1以上の金属を、(1)から(3)のいずれかに記載の樹脂に吸着し、前記樹脂に吸着した金属を回収する、金属の吸着分離方法である。
【0027】
(5)また、本発明は、ニッケル酸化鉱を高温加圧酸浸出して得た酸浸出液に含まれる金属を、(1)から(3)のいずれかに記載の樹脂に吸着し、前記樹脂に吸着した金属を回収する、金属の吸着分離方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、ニッケル酸化鉱から微量金属を回収する等の場合のように、大量の原料から微量金属を効率よく回収する系を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1に係るイオン交換樹脂を用いたときの抽出後液のpHと樹脂への吸着率との関係を示す図である。
図2】実施例2に係るイオン交換樹脂を用いたときの抽出後液のpHと樹脂への吸着率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0031】
<イオン交換樹脂>
本発明のイオン交換樹脂は、担体上に下記一般式(I)で表されるアミド誘導体を有する。本発明ではアミドの骨格にアルキル基を導入することによって、親油性を高め、コバルト、ニッケル、スカンジウム及びその他の希土類元素から選択される1以上の金属を吸着する際の官能基として用いることができる。
【化2】
【0032】
イオン交換樹脂の種類は、ニッケル酸化鉱等の酸浸出液に含まれる微量金属(コバルト、ニッケル、スカンジウム及びその他の希土類元素から選択される1以上の微量金属)を好適に吸着し、その後の処理でその樹脂に吸着した金属を好適に回収できるものであれば特に限定できるものでない。
【0033】
イオン交換樹脂等のような固体抽出剤は、物理的に安定して取り扱うことができ、簡単な装置で操業でき、操業条件の変動にも比較的安定して分離が行えるという利点を有する。また、イオン交換による反応は、溶媒抽出法のような抽出剤と溶液を混合するような物理的動きが少なく、また、イオン交換樹脂と溶液との接触は、一般に密閉されたカラム内で行われることが多いので、空気等の巻き込みを防止し、その結果クラッドの生成が抑制され操業が安定的に行われるという特徴もある。
【0034】
〔アミド誘導体〕
式中、置換基R及びRは、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。R及びRにおいて、アルキル基は、直鎖であっても分鎖であってもよい。また、R及びRにおいて、アルキル基の炭素数は特に限定されるものでないが、5以上11以下であることが好ましい。
【0035】
は水素原子又はアルキル基を示す。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。
【0036】
上記アミド誘導体の種類は、コバルト、ニッケル、スカンジウム及びその他の希土類元素から選択される1以上の金属を吸着できるものであれば特に限定されるものでないが、簡便に製造できる点で、グリシンアミド誘導体であることが好ましい。アミド誘導体がグリシンアミド誘導体である場合、上記のグリシンアミド誘導体は、次の方法によって合成できる。
まず、NHR(R,Rは、上記の置換基R,Rと同じ)で表される構造のアルキルアミンに2−ハロゲン化アセチルハライドを加え、求核置換反応によりアミンの水素原子を2−ハロゲン化アセチルに置換することによって、2−ハロゲン化(N,N−ジ)アルキルアセトアミドを得る。
【0037】
次に、グリシン又はN−アルキルグリシン誘導体に上記2−ハロゲン化(N,N−ジ)アルキルアセトアミドを加え、求核置換反応によりグリシン又はN−アルキルグリシン誘導体の水素原子の一つを(N,N−ジ)アルキルアセトアミド基に置換する。これら2段階の反応によってグリシンアルキルアミド誘導体を合成できる。
【0038】
また、グリシンをヒスチジン、リジン、アスパラギン酸に置き換えれば、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体を合成できる。
【0039】
グリシンアルキルアミド誘導体、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体による抽出挙動は、対象とするマンガンやコバルト等の錯安定定数から、グリシン誘導体を用いた結果の範囲内に収まると考えられる。
【0040】
〔担体〕
担体は、上記のアミド誘導体を結合でき、かつ、吸着させようとする酸性溶液に化学的に安定し、カラムや溶液中に投入された際に物理的に影響を受けず、吸着操作中に劣化しない固体材料であれば特に限定されるものではない。化学的安定性等の観点から、担体は、1級アミン及び/又は2級アミンを含むことが好ましい。特に、対象となる微量金属を選択的に吸着できるようにするため、担体は、1級アミンを含むものであることがより好ましい。
【0041】
そして、担体の具体例として、3−アミノプロピルシリカゲル、3−(エチレンジアミノ)プロピルシリカゲル等が挙げられる。
【0042】
<有価金属の樹脂への吸着>
上記のイオン交換樹脂等を用いて有価金属イオンを吸着する手法として、目的の有価金属イオンを含む酸性溶液を調整しながら、この酸性溶液を上記のイオン交換樹脂等に接触するバッチ法又はレジン-イン-パルプ法と呼ばれる方法のほか、上記のイオン交換樹脂等をカラムに充填し、このカラムに上記酸性溶液を通液して接触させるカラム法等が挙げられる。これらの手法を用いることで、上記のイオン交換樹脂等の置換基R及びRに目的の有価金属イオンを選択的に吸着させることができる。
【0043】
[コバルトの吸着]
コバルトとマンガンを含有する酸性溶液からコバルトを効率的に吸着する際、酸性溶液のpHは、3.5以上5.5以下であることが好ましく、4.0以上5.0以下であることがより好ましい。pHが3.5未満であると、コバルトを十分に吸着できない可能性がある。pHが5.5を超えると、コバルトだけでなく、マンガンも吸着される可能性がある。
【0044】
[スカンジウムの吸着]
スカンジウムを含有する酸性溶液からスカンジウムを吸着する際、酸性溶液のpHは、0.5以上2.5以下であることが好ましく、1.0以上2.0以下であることがより好ましく、1.5以上2.0以下であることがさらに好ましい。pHが0.5未満であると、スカンジウムを十分に吸着できない可能性がある。pHが2.5を超えると、例えば、酸性溶液がニッケル酸化鉱を酸浸出して得た酸性溶液である場合、スカンジウムだけでなく、酸性溶液に含まれるアルミニウム、亜鉛、ニッケル、コバルト等も吸着される可能性があり、後工程での精製が必要となる等、手間が増大し得る。
【0045】
[ユーロピウムの吸着]
ユーロピウム、イットリウム等の複数種類の希土類金属と、亜鉛とを含有する酸性水溶液からユーロピウムを吸着する際、酸性溶液のpHは、2.0以上3.0以下であることが好ましい。pHが2.0未満であると、ユーロピウムを十分に抽出できない可能性がある。pHが3.0を超えると、ユーロピウムだけでなく、イットリウムをはじめとした他の希土類金属も吸着される可能性がある。
【0046】
[希土類元素(軽希土類元素)の吸着]
本発明のイオン交換樹脂等は、軽希土類元素や中希土類元素の方が重希土類元素よりも吸着しやすい特徴がある。このため、特に重希土類元素と軽希土類元素の両方を含有する溶液のpHを調整しながら、本発明のイオン交換樹脂と接触させることにより、溶液から軽希土類元素を選択的に吸着させることができ、結果として、軽希土類元素と重希土類元素とを分離できる。また、溶液が中希土類元素をさらに含有する場合、下記<有価金属の樹脂からの回収>に記載の手法にて上記のイオン交換樹脂等から回収した溶離液を、例えば、上記一般式(I)で表されるアミド誘導体を含有する有機溶媒を用いて溶媒抽出に付することにより、軽希土類元素と中希土類元素とを好適に分離できる。
【0047】
重希土類元素と軽希土類元素を含有する酸性溶液から軽希土類元素を吸着する際、酸性溶液のpHは、1.7以上2.7以下であることが好ましい。pHが1.7未満であると、軽希土類元素を十分に吸着できない可能性がある。pHが2.7を超えると、軽希土類元素だけでなく、重希土類元素も吸着される可能性がある。
【0048】
本発明の樹脂が従来のイオン交換樹脂等や溶媒抽出用の抽出剤とは異なる吸着あるいは抽出の挙動をとるメカニズムは不明であるが、本発明のイオン交換樹脂の構造上の特徴によって、従来得られなかった効果を奏するものと考えられる。
【0049】
<有価金属の樹脂からの回収>
有価金属イオンを吸着した後のイオン交換樹脂は、従来から公知の方法で知られているように、純水等でイオン交換樹脂を洗浄して表面に付着する上記酸性溶液の一部を除去し、次いで上記酸性水溶液よりpHを低く調整した溶離液を通液することで、目的の有価金属イオンをイオン交換樹脂から回収できる。
【0050】
溶離液は、上記酸性水溶液よりpHを低く調整したものであれば特に限定されるものでないが、例えば、硝酸、塩酸、硫酸を希釈した水溶液等が挙げられる。また、イオン交換樹脂と溶離液との接触時間、すなわちカラムへの通液時間等を適宜変更することで、目的の有価金属イオンを濃縮することもできる。
【0051】
また、通液速度及び液温度は、平衡到達時間が有価金属の種類、濃度によって変化するため、有価金属イオンの酸性水溶液、条件によって適宜設定すればよい。金属イオンを含有する酸性水溶液のpHも、有価金属の種類によって適宜調整できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0053】
<アミド誘導体を有するイオン交換樹脂の調製>
[実施例1]
本発明に係るイオン交換樹脂を構成するアミド誘導体の一例として、2つの2−エチルヘキシル基を導入したN−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノカルボニルメチル]グリシン(N−[N,N−Bis(2−ethylhexyl)aminocarbonylmethyl]glycine)(あるいはN,N−ジ(2−エチルヘキシル)アセトアミド−2−グリシン(N,N−di(2−ethylhexyl)acetamide−2−glycine)ともいい、以下「D2EHAG」という。)を用いた。D2EHAGの化学式は、上記特許文献3に記載されている。
【0054】
D2EHAGを有するイオン交換樹脂を次のようにして調製した。
(1)クロロアセチルクロリド4.37g(担持させるシリカゲルのアミンに対して3当量に相当)とトリエチルアミン(TEA)1.32gとを分取し、これにジクロロメタン(DCM)70mlを加えて溶解した。
(2) (1)で得た溶解液に、3−アミノプロピルシリカゲル10gを加え、室温に維持しながら一昼夜撹拌した。
(3)撹拌後、生成物を濾過し、メタノールを加えて洗浄した。
(4)洗浄後、乾燥し約10gの薄い黄色を呈した中間体シリカゲルを得た。なお、物量から算出した回収率は約92%だった。
(5)グリシン5.85g (上記と同じくシリカゲルのアミンに対して6当量に相当)と水酸化ナトリウム3.15gにメタノール溶液70mlを加えて混合し、上記(4)の中間シリカゲル8gにゆっくり添加する。
(6)60℃に維持しながら15時間かけて反応させる。
(7)得た反応生成物に酢酸エチル、メタノール、アセトン、水を順次加えて洗浄し、乾燥する。
(8)上記(1)〜(7)を経ることで、7.94gの生成物(グリシンアセトアミノプロピルシリカゲル)を得た。この生成物を実施例1に係るイオン交換樹脂とする。なお、生成物の回収率は96%程度であった。
【0055】
[実施例2]
3−アミノプロピルシリカゲルを3−(エチレンジアミノ)プロピルシリカゲルにしたこと以外は、実施例1と同じ手法にて、実施例2に係るイオン交換樹脂(グリシンアセト(エチレンジアミノ)プロピルシリカゲル)を得た。
【0056】
なお、アミド誘導体として、グリシンアミド誘導体の他にノルマル−メチルグリシン誘導体、ヒスチジンアミド誘導体等も知られているが、これらも上記グリシンアミド誘導体の場合と同様に担体上に官能基として担持させ、イオン交換樹脂とすることができる。
【0057】
<評価>
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ディスプロシウム(Dy)、ランタン(La)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)をそれぞれ1×10−4mol/l含み、pHを0.7、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.3及び3.7に調整した8種類の酸性溶液を準備した。pHは、濃度が0.2mol/lである硫酸、硫酸アンモニウム及びアンモニアを用いて調整した。
【0058】
続いて、実施例1に係るイオン交換樹脂については、上記酸性溶液50mlと、実施例1に係るイオン交換樹脂0.5dry−gとをビーカーに入れ、25℃に維持し、スターラーを用いて1時間撹拌した。また、実施例2に係るイオン交換樹脂については、上記酸性溶液50mlと、実施例2に係るイオン交換樹脂0.3dry−gとをビーカーに入れ、25℃に維持し、スターラーを用いて1時間撹拌した。
【0059】
1時間撹拌後、イオン交換樹脂と吸着後液とを濾紙を用いて固液分離し吸着後液のpHを測定した。次いで少量の純水を用いてイオン交換樹脂を掛け水洗浄し、吸着後液と洗浄水とを合わせて新たな吸着後液として体積を測定し、誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて始液に含有した成分の吸着後液での濃度を測定した。そして測定結果から、吸着前後での酸性溶液の物量変化からイオン交換樹脂への吸着率(分配)を(1−吸着後の物量/吸着前の物量)で定義し、求めた。実施例1についての結果を表1及び図1に示し、実施例2についての結果を表2及び図2に示す。図1及び図2の横軸は、酸性溶液のpHであり、縦軸は、各種金属元素の抽出率(単位:−)である。
【0060】
【表1】
【表2】
【0061】
表1、2及び図1、2から、実施例のイオン交換樹脂を用いると、酸性溶液のpHを好適に調整することで、コバルト、ニッケル、スカンジウム及び希土類元素から選択される1以上の金属を選択的に吸着できることが確認された。また、この結果から、ニッケル酸化鉱を高温加圧酸浸出して得た酸浸出液に含まれる金属(コバルト、ニッケル、スカンジウム及び希土類元素から選択される1以上の金属)を選択的に吸着できるともいえる。
図1
図2