特許第6053904号(P6053904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6053904非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6053904
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20161219BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
   H01M10/0566
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-233934(P2015-233934)
(22)【出願日】2015年11月30日
【審査請求日】2016年2月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥川 貴弘
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−227066(JP,A)
【文献】 特開2013−223957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン90体積%以上含む延伸フィルムである多孔質フィルムであって、
膜厚が20μm以下であり、
空隙率が20〜55%であり、
47mm×35mmの矩形状の穴を有する枠とプレートとの間に、前記穴の長辺がMDと平行になるように前記多孔質フィルムを配置し、前記多孔質フィルムを前記枠と前記プレートとで挟持し、前記穴の中心の上方から直径14.3mm、重さ11.9gの球を前記多孔質フィルム上に自由落下させたときの前記多孔質フィルムの裂けの有無を確認する落球試験を球の高さを変えながら、裂けが確認された落球試験の回数、および、裂けが確認されなかった落球試験の回数のいずれもが5回以上になるまで繰り返し、裂けが確認された落球試験の中で最低の球の高さが50cm以上150cm以下であることを特徴とする非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータと多孔質層とを備えることを特徴とする非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項3】
正極と、請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ、又は、請求項2に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなることを特徴とする、非水電解液二次電池用部材。
【請求項4】
請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ、又は、請求項2に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを備えることを特徴とする非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末、電気自動車などに用いる電池として広く使用されている。特に近年、リチウム二次電池は、電気自動車等に用いられるようになり、生産量が格段に伸びている。そうした中で、電池製造時の不具合、歩留まりの改善が求められている。
【0003】
このような歩留りの改善のために、非水電解液二次電池における正極と負極との間に配置されるセパレータとして、滑り性に優れたセパレータが求められている。円筒型、角型などの捲回型の非水電解液二次電池では、セパレータと正負極を重ね合わせ、ピンに捲回する。この後、渦巻状の電池要素をピンから抜く工程を経て、電池が組立てられる。この際、ピンと接触するセパレータの滑り性が悪ければ、ピンから電池要素を引き抜くことができない。また、引き抜き難ければ、電池の生産に影響する。そこで、ピンに対するセパレータの滑り性を向上させるために、特許文献1には、ピンに表面処理を施し、ピンの摩擦係数を低くする技術が開示され、特許文献2には、セパレータの静摩擦係数を低くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−070726号公報(2009年4月2日公開)
【特許文献2】特開2011−126275号公報(2011年6月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歩留りの改善のためには、セパレータには上記の滑り性だけでなく、切断加工性も求められる。切断加工性が悪いと、セパレータを所望のサイズにきれいに切断することができず、切断時にセパレータが意図しない方向に裂けたり、セパレータ切断装置の切断刃の交換頻度が多くなり生産量をロスしたりする。しかしながら、特許文献1,2には切断加工性について考慮されていない。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ピンに対する滑り性および切断加工性に優れた非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、直径14.3mm、重さ11.9gの球を落下させたときの裂けの発生する最低の球の高さと、ピンに対する滑り性および切断加工性とが相関していることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明に係る非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであって、膜厚が20μm以下であり、空隙率が20〜55%であり、直径14.3mm、重さ11.9gの球を前記多孔質フィルム上に落下させるとき、裂けが発生する最低の球の高さが50cm以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、上記の非水電解液二次電池用セパレータと多孔質層とを備える。
【0010】
また、本発明に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムと、多孔質層とを備える非水電解液二次電池用積層セパレータであって、前記多孔質フィルムの膜厚が20μm以下であり、前記多孔質フィルムの空隙率が20〜55%であり、直径14.3mm、重さ11.9gの球を前記非水電解液二次電池用積層セパレータ上に落下させるとき、裂けが発生する最低の球の高さが50cm以上であることを特徴としてもよい。
【0011】
また、本発明に係る非水電解液二次電池用部材は、正極と、上記非水電解液二次電池用セパレータ又は上記非水電化液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る非水電解液二次電池は、上記の非水電解液二次電池用セパレータ又は上記非水電化液二次電池用積層セパレータを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピンに対する滑り性および切断加工性に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】落球試験評価で用いる治具を示す図である。
図2】切断加工性の評価方法を示す図である。
図3】ピン抜き抵抗を測定するためのそり部材の下面および側面を示す図である。
図4】ピン抜け抵抗の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0016】
<実施形態1>
〔1.非水電解液二次電池用セパレータ〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータ(以下、セパレータということがある。)は、非水電解液二次電池において正極と負極との間に配置される膜状の多孔質フィルムである。
【0017】
多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質かつ膜状の基材(ポリオレフィン系多孔質基材)であればよく、その内部に連結した細孔を有す構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能なフィルムである。
【0018】
多孔質フィルムは、電池が発熱したときに溶融して、セパレータを無孔化することにより、該セパレータにシャットダウン機能を付与するものである。
【0019】
多孔質フィルムの膜厚は、20μm以下であり、4〜20μmが好ましく、6〜16μmがより好ましく、9〜16μmがさらに好ましい。
【0020】
多孔質フィルムの体積基準の空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、20〜55体積%であり、40〜55体積%であることがより好ましい。
【0021】
多孔質フィルムは、セパレータとして非水電解液二次電池に組み込まれる際に所定サイズに切断される。切断の際に意図しない方向への裂け等が発生すると歩留りが低下する。特に、上記のような膜厚および空隙率を有する多孔質フィルムにおいて切断加工性が望まれる。
【0022】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、直径14.3mm、重さ11.9gの球を多孔質フィルム上に自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さと切断加工性とが相関していることを初めて見出し、本発明を完成させた。具体的には、当該最低高さを50cm以上とすることで、切断時に意図しない方向の裂けの発生を抑制することができる。なお、最低高さは150cm以下であることが好ましい。MD(Machine Direction)とTD(Transverse Direction)のバランスをとったうえで、最低高さが150cmを超えるためには、膜厚を厚くするか、空隙率を低くする必要がある。しかしながら、膜厚を厚くすると電池のエネルギー密度が下がり問題があり、空隙率を低くすると電池特性(特に、レート特性)が悪くなる問題がある。
【0023】
多孔質フィルムは、後述するように圧延工程により得られる。圧延工程の際に表面に硬くて脆いスキン層が形成される。また、圧延工程の条件によっては、MDとTDとの配向差が生じる。また、延伸条件によってもMDとTDとの配向差が生じる。TDにのみ延伸するとTDの配向が強くなり、MDにのみ延伸するとMDの配向が強くなる。多孔質フィルムにおけるスキン層の割合およびMDとTDの配向バランスは、多孔質フィルムの裂けに関係している。つまり、脆いスキン層の割合が多いほど、衝撃に対して弱くなり、意図しない方向に裂けやすくなる。また、MDとTDとのどちらかに配向が偏っていると、配向がそろっている方向に沿った意図しない裂けが発生しやすくなる。よって、スキン層の割合およびMDとTDの配向バランスは、多孔質フィルムの切断加工性に影響を及ぼす。
【0024】
本発明者らは、スキン層の割合およびMDとTDの配向バランスに起因する裂けやすさが直径14.3mm、重さ11.9gの球を多孔質フィルム上に自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さと相関していることを見出した。すなわち、当該最低高さが高いほど、スキン層の割合が小さく、かつ、MDとTDの配向差が小さい。そして、後述する実施例に示されるように、当該最低高さを50cm以上とすることで、多孔質フィルムを切断する際に意図しない方向への裂けの発生を抑制でき、多孔質フィルムの切断加工性が向上する。
【0025】
また、MDとTDとのどちらかに配向が偏っていると、相対的に強く配向している方向に垂直な方向の摩擦が大きくなる。すなわち、MDとTDの配向バランスは、多孔質フィルムが他の部材と接触する際の摩擦力に影響を及ぼす。本発明者らは、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さが50cm以上である多孔質フィルムにおいて、他の部材と接触する際の摩擦力が低減できる程度のMDとTDの配向バランスとなることを見出した。そのため、捲回型の非水電解液二次電池を組み立てる際に、上記の最低高さが50cm以上である多孔質フィルムの表面とピンとが接触するようにして、セパレータおよび電極をピンに捲回することにより、ピンに対するセパレータの滑り性を向上させることができる。その結果、ピンを容易に抜くことができ、ピンを抜く工程における不具合を低減することができる。
【0026】
多孔質フィルムにおけるポリオレフィン成分の割合は、多孔質フィルム全体の、通常50体積%以上であり、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。
【0027】
多孔質フィルムを構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体又は共重合体を挙げることができる。これらの中でもエチレンを主体とする重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンが好ましい。なお、多孔質フィルムは、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含むことを妨げない。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムの製法は、例えば、多孔質フィルムが超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、製造コスト、物性の観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
【0029】
すなわち、(1)超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンと、炭酸カルシウム又は可塑剤等の孔形成剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を圧延ロールにて圧延してシートを成形する工程(圧延工程)、(3)工程(2)で得られたシート中から孔形成剤を除去する工程、(4)工程(3)で得られたシートを延伸して多孔質フィルムを得る工程、を含む方法により得ることができる。
【0030】
上記の圧延工程において、膜厚を従来よりも大きくすることにより、圧延工程で生成されるスキン層を少なくすることができる。また、膜厚が従来よりも大きいために、圧延工程が速く、MDの配向が緩やかとなり、MDとTDの配向差を小さくすることができる。これにより、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さが50cm以上の多孔質フィルムを製造することができる。
【0031】
〔2.非水電解液二次電池〕
本発明に係る非水電解液二次電池は、上記セパレータを備えている。より具体的には、本発明に係る非水電解液二次電池は、正極、セパレータ、および負極がこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材を含んでいる。即ち、当該非水電解液二次電池用部材も本発明の範囲に含まれる。
【0032】
非水電解液二次電池は、負極シートと正極シートとが上述した非水電解液二次電池用セパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。上述した本発明に係る非水二次電解液電池用セパレータを用いて製造された非水電解液二次電池は、セパレータ切断装置の切断刃の交換頻度が少なく、ピン抜け性が良いので、製造歩留まりが高い。
【0033】
以下、非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。尚、セパレータ以外の非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0034】
本発明に係る非水電解液二次電池においては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記リチウム塩のうち、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、およびLiC(CFSOからなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0036】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、上記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0038】
環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0039】
正極としては、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極を用いる。
【0040】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0041】
上記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα−NaFeO型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。
【0042】
さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数と、ニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、上記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1〜20モル%となるように、当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるので特に好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0043】
上記導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電材は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴムを用いてもよい。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0045】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0046】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0047】
シート状の正極の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0048】
負極としては、通常、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極を用いる。シート状の負極は、上記導電材、結着剤を含んでいてもよい。
【0049】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、シリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、MgSi、NiSi)、リチウム窒素化合物(Li-xMN(M:遷移金属))等を用いることができる。上記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましく、黒鉛とシリコンの混合物であって、そのCに対するSiの比率が5%以上のものがより好ましく、10%以上である負極活物質がさらに好ましい。
【0050】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0051】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0052】
シート状の負極の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストに、上記導電助剤、結着剤を含んでいてもよい。
【0053】
上記正極と、上記セパレータと、上記負極とをこの順で配置して非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明に係る非水電解液二次電池を製造することができる。非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【0054】
<実施形態2>
上記実施形態1では、多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータを非水電解液二次電池のセパレータとして用いる形態として説明した。しかしながら、本発明に係るセパレータは、実施形態1に係る多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータと、接着層や耐熱層、保護層等の公知の多孔質層とを備えた非水電解液二次電池用積層セパレータ(以下、積層セパレータということがある。)であってもよい。
【0055】
多孔質フィルムについては実施形態1で説明したとおりであるため、ここでは多孔質層について説明する。なお、非水電解液二次電池用積層セパレータに含まれる多孔質フィルムの膜厚、空隙率、落球試験において破壊が発生する球の最低高さは、多孔質層を積層するまえの状態の多孔質フィルムについて測定されてもよいし、非水電解液二次電池用積層セパレータから多孔質層を剥離した後に残った多孔質フィルムについて測定してもよい。
【0056】
多孔質層は、多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータの片面に積層される。多孔質層は、好ましくは、非水電解液二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層され、より好ましくは正極と接する面に積層される。
【0057】
多孔質層は、好ましくは、樹脂を含んでなる樹脂層である。多孔質層を構成する樹脂は、非水電解液二次電池の電解液に不溶であると共に、その非水電解液二次電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。
【0058】
多孔質層を構成する上記樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびエチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂);スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、およびポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、およびポリエステル等の融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、およびポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー;等が挙げられる。
【0059】
また、上記芳香族ポリアミドとしては、具体的には、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等が挙げられる。このうち、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)がより好ましい。
【0060】
上記樹脂のうち、ポリオレフィン、含フッ素樹脂、芳香族ポリアミド、および水溶性ポリマーがより好ましい。中でも、含フッ素樹脂が特に好ましい。含フッ素樹脂を適用した場合は、非水電解液二次電池作動時の酸性劣化による、非水電解液二次電池のレート特性や抵抗特性(液抵抗)等の各種性能を維持し易い。水溶性ポリマーは、多孔質層を形成するときの溶媒として水を用いることができるため、プロセスや環境負荷の観点からより好ましく、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウムがさらに好ましく、セルロースエーテルが特に好ましい。
【0061】
セルロースエーテルとしては、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、長時間にわたる使用における劣化が少なく、化学的な安定性に優れているCMCおよびHECがより好ましく、CMCが特に好ましい。
【0062】
上記多孔質層は、フィラーを含んでいることがより好ましい。したがって、多孔質層がフィラーを含む場合には、上記樹脂は、バインダー樹脂としての機能を有することとなる。フィラーとしては特に限定されるものではなく、有機物からなるフィラーであってもよく、無機物からなるフィラーであってもよい。
【0063】
有機物からなるフィラーとしては、具体的には、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単量体の単独重合体或いは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;等からなるフィラーが挙げられる。
【0064】
無機物からなるフィラーとしては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。フィラーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
上記フィラーのうち、無機物からなるフィラーが好適であり、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、ベーマイト等の無機酸化物からなるフィラーがより好ましく、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ベーマイトおよびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーがさらに好ましく、アルミナが特に好ましい。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、何れも好適に使用することができる。この中でも、熱的安定性および化学的安定性が特に高いため、α−アルミナが最も好ましい。
【0066】
フィラーの形状は、原料である有機物または無機物の製造方法や、多孔質層を形成するための塗工液を作製するときのフィラーの分散条件等によって変化し、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状、或いは特定の形状を有さない不定形等、何れの形状であってもよい。
【0067】
多孔質層がフィラーを含んでいる場合において、フィラーの含有量は、多孔質層の1〜99体積%であることが好ましく、5〜95体積%であることがより好ましい。フィラーの含有量を上記範囲とすることにより、フィラー同士の接触によって形成される空隙が、樹脂等によって閉塞されることが少なくなり、充分なイオン透過性を得ることができると共に、単位面積当たりの目付を適切な値にすることができる。
【0068】
本発明においては、通常、上記樹脂を溶媒に溶解させると共に、上記フィラーを分散させることにより、多孔質層を形成するための塗工液を作製する。
【0069】
上記溶媒(分散媒)は、多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、上記樹脂を均一かつ安定に溶解し、上記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール;アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド;等が挙げられる。上記溶媒(分散媒)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)やフィラー量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。
【0071】
また、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用してフィラーを溶媒(分散媒)に分散させてもよい。さらに、樹脂を溶解若しくは膨潤させた液、或いは樹脂の乳化液を、所望の平均粒子径を有するフィラーを得るための湿式粉砕時に、湿式粉砕装置内に供給し、フィラーの湿式粉砕と同時に塗工液を調製することもできる。つまり、フィラーの湿式粉砕と塗工液の調製とを一つの工程で同時に行ってもよい。
【0072】
また、上記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂およびフィラー以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0073】
塗工液のセパレータへの塗布方法、つまり、必要に応じて親水化処理が施されたセパレータの表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。
【0074】
多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液をセパレータの表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層とセパレータとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面に多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;および、塗工液中にセパレータを浸漬し、ディップコーティングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。
【0075】
多孔質層の厚さは、塗工後の湿潤状態(ウェット)の塗工膜の厚さ、樹脂と微粒子との重量比、塗工液の固形分濃度(樹脂濃度と微粒子濃度との和)等を調節することによって制御することができる。尚、支持体として、例えば、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、またはドラム等を用いることができる。
【0076】
上記塗工液をセパレータまたは支持体に塗布する方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができる。このような方法として、具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、およびスプレー塗布法等が挙げられる。
【0077】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、および減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。上記乾燥には、通常の乾燥装置を用いることができる。
【0078】
また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれる樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用し、塗工液が塗布されて塗膜が形成されたセパレータまたは支持体を上記溶媒Xに浸漬し、セパレータ上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させる方法が挙げられる。この方法によれば、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。
【0079】
尚、セパレータまたは支持体に形成された塗工液の塗膜から溶媒(分散媒)或いは溶媒Xを除去するために加熱を行う場合には、多孔質フィルムの細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、セパレータの透気度が低下しない温度、具体的には、10〜120℃、より好ましくは20〜80℃で行うことが望ましい。
【0080】
上述した方法により形成される上記多孔質層の膜厚は、0.5〜15μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。
【0081】
多孔質層の膜厚が0.5μm未満であると、積層セパレータを非水電解液二次電池に用いた場合に、非水電解液二次電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができない。また、多孔質層における電解液の保持量が低下する。
【0082】
一方、多孔質層の膜厚が15μmを超えると、積層セパレータを非水電解液二次電池に用いた場合に、当該セパレータ全域におけるリチウムイオンの透過抵抗が増加するので、サイクルを繰り返すと非水電解液二次電池の正極が劣化し、レート特性やサイクル特性が低下する。また、正極および負極間の距離が増加するので非水電解液二次電池が大型化する。
【0083】
多孔質層の単位面積当たりの目付は、積層セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよい。積層セパレータを非水電解液二次電池に用いた場合に、多孔質層の単位面積当たりの目付は、通常、1〜20g/mであることが好ましく、2〜10g/mであることがより好ましい。
【0084】
多孔質層の単位面積当たりの目付をこれらの数値範囲とすることにより、当該多孔質層を備えた非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる。多孔質層の目付が上記範囲を超える場合には、当該積層セパレータを備える非水電解液二次電池が重くなる。
【0085】
多孔質層の空隙率は、充分なイオン透過性を得ることができるように、20〜90体積%であることが好ましく、30〜80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。細孔の孔径をこれらのサイズとすることにより、当該多孔質層を含む積層セパレータを備える非水電解液二次電池は、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0086】
上記積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30〜1000 sec/100mLであることが好ましく、50〜800 sec/100mLであることがより好ましい。積層セパレータが上記透気度を有することにより、上記積層セパレータを非水電解液二次電池用の部材として使用した場合に、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0087】
透気度が上記範囲を超える場合には、積層セパレータの空隙率が高いために積層セパレータの積層構造が粗になっていることを意味し、結果としてセパレータの強度が低下して、特に高温での形状安定性が不充分になるおそれがある。一方、透気度が上記範囲未満の場合には、上記積層セパレータを非水電解液二次電池用の部材として使用した場合に、充分なイオン透過性を得ることができず、非水電解液二次電池の電池特性を低下させることがある。
【0088】
なお、本実施形態の場合、実施形態1と同様にして非水電解液二次電池を組み立てればよい。ただし、実施形態1において非水電解液二次電池用セパレータ(セパレータ)としていたところを本実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータにおきかえる。そして、捲回型の非水電解液二次電池を組み立てる際、多孔質フィルムの表面とピンとが接触するようにして、非水電解液二次電池用積層セパレータおよび電極をピンに捲回する。上述したように、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さが50cm以上である多孔質フィルムは、他の部材と接触する際の摩擦力が低減できる程度のMDとTDの配向バランスとなる。これにより、ピンに対するセパレータの滑り性を向上させることができ、ピンを抜く工程における不具合を低減することができる。
【0089】
<実施形態3>
上記の実施形態2では、非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する多孔質フィルムについて、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さを50cm以上とした。
【0090】
しかしながら、本発明はこれに限定されず、多孔質フィルムではなく、多孔質フィルムと多孔質層とを含む非水電解液二次電池用積層セパレータ自体について、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さを50cm以上としてもよい。つまり、多孔質フィルムについて、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さが50cm以上でなくとも、非水電解液二次電池用積層セパレータ自体について、直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させたときに裂けが発生する球の最低高さを50cm以上であればよい。
【0091】
本実施形態においても、非水電解液二次電池用積層セパレータ自体におけるスキン層の割合およびMDとTDの配向バランスが非水電解液二次電池用積層セパレータの切断加工性およびピンに対する滑り性に適した状態となり、非水電解液二次電池用積層セパレータの切断加工性およびピンに対する滑り性を向上させることができる。
【実施例】
【0092】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
<各種物性の測定方法>
以下の実施例および比較例に係る多孔質フィルム(非水電解液二次電池用セパレータ)または非水電解液二次電池用積層セパレータの各種物性を、以下の方法で測定した。
【0094】
(1)膜厚
多孔質フィルムの膜厚D(μm)を、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。
【0095】
(2)空隙率
多孔質フィルムを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)を測定した。そして、上記膜厚D(μm)および重量W(g)を用いて、
空隙率(体積%)=(1−(W/比重)/(10×10×D/10000))×100
の式に従って多孔質フィルムの空隙率(体積%)を算出した。
【0096】
(3)落球試験評価
図1は、落球試験評価で用いる治具を示す図である。図1の(a)は、測定サンプル(多孔質フィルムまたは非水電解液二次電池用積層セパレータ)1が載置される枠10の上面図である。図示されるように、枠10は、47mm×35mmの穴11を有し、85mm×65mmの矩形状である。枠10の上に85mm×65mmのサイズに切り取られた測定サンプル1を載置する。このとき、測定サンプル1のMDが穴11の長辺と平行になるようにする。次に、図1の(b)に示されるように、測定サンプルの上に、枠10と同形状のSUSプレート12を載置し、各辺の中央付近において、枠10とSUSプレート12とをクランプ(ノンツイストクランプ)で滑らないように固定する。図1の(c)は、測定サンプル1を治具に固定した状態の側面図である。図1の(c)に示されるように、測定サンプル1が枠10とSUSプレート12とで挟持される。
【0097】
図1の(c)に示されるように測定サンプルを治具に固定した状態で、穴の上方から直径14.3mm、重さ11.9gの球を自由落下させ、測定サンプルの破壊(破れ)の有無を確認する落球試験を複数回行う。なお、1回の落球試験が終わるごとに、新たな測定サンプルに付け替える。
【0098】
1回目の落球試験における、測定サンプルから自由落下させる球の高さhは、予め設定される。例えば、予備試験により測定サンプルが破壊しそうな高さを決定し、当該高さをhとすればよい。そして、1回目の落球試験の結果、測定サンプルに破壊が確認された場合、2回目の落球試験における球の高さhを(h−5cm)とし、測定サンプルに破壊が確認されなかった場合、2回目の落球試験における球の高さhを(h+5cm)とする。このようにして、球の高さを変えながら落球試験を繰り返して行う。すなわち、k回目(kは1以上の整数)の落球試験の結果、測定サンプルに破壊が確認された場合、(k+1)回目の落球試験における球の高さhk+1を(h−5cm)とし、測定サンプルに破壊が確認されなかった場合、(k+1)回目の落球試験における球の高さhk+1を(h+5cm)とする。
【0099】
そして、各実施例および各比較例について、破壊が確認された落球試験の回数、および、破壊が確認されなかった落球試験の回数のいずれも5回以上になるまで落球試験を繰り返し、破壊が確認された落球試験の中で最低の球の高さ(最低高さ)を特定した。
【0100】
(4)切断加工性の評価
図2は切断加工性の評価方法を示す図である。図2の(a)に示されるように、MD10cm、TD5cmに切断した測定サンプル(非水電解液二次電池用セパレータ(多孔質フィルム)または非水電解液二次電池用積層セパレータ)1の長辺の一辺をテープ14で固定した。そして、図2の(b)に示されるように、カッターナイフを水平方向に対して80°の角度で立てた状態で、TDに平行に3cm切断した。このとき、カッターナイフを約8cm/sの速度で動かした。その後、切断状態を確認した。具体的には、切断箇所において意図しない方向(MD)への裂けが確認されたものを×、裂けが確認されなかったものを○とした。
【0101】
なお、カッターナイフはNTカッター製の品番A300を、カッター台はコクヨ製の品番マ−44Nを用いた。また、試験ごとに刃を交換し、替刃としてNTカッター製の品番BA−160を使用した。
【0102】
(5)ピン引き抜き試験
各実施例および各比較例に係るセパレータ(非水電解液二次電池用セパレータまたは非水電解液二次電池用積層セパレータ)をTD62mm×MD30cmに短冊状に切断し、MDの一方の端部に300gの重りを付けた状態で、他方の端部をステンレス定規(シンワ株式会社製 品番13131)に5巻した。このとき、セパレータのTDとステンレス定規の長手方向とが平行となるようにして巻いた。その後、ステンレス定規を約8cm/sの速度で引き抜き、抜けやすさの感度(抜け感度)を評価した。具体的には、抵抗を感じることなくスムーズに引き抜けた場合を○、わずかな抵抗を感じた場合を△、抵抗があり、引き抜きにくい感覚があった場合を×とした。なお、ステンレス定規は長手方向の一端に曲げつまみが形成されており、当該曲げつまみが形成されている側に引き抜くものとする。
【0103】
また、ステンレス定規の引き抜く前と引き抜いた後における、5巻した部分のセパレータのTDの幅をノギスで測定し、その変化量(mm)を計算した。当該変化量は、ステンレス定規とセパレータとの摩擦力によって、セパレータの巻はじめの部分がステンレス定規の引き抜き方向に動き、セパレータが螺旋状に変形したときの引き抜き方向への伸び量を示している。
【0104】
(6)ピン抜け抵抗
図3は、セパレータ表面と他の部材との摩擦力の大きさを示すピン抜け抵抗を測定するためのそり部材を示す図である。図3の(a)はそり部材の下面図であり、(b)はそり部材の側面図である。図3に示されるように、そり部材15は、その下面に、先端が曲率3mmの2つの突条を有している。該2つの突条は、28mmの間隔を空けて、互いに平行になるように配置されている。
【0105】
各実施例および各比較例に係るセパレータ(非水電解液二次電池用セパレータ(多孔質フィルム)または非水電解液二次電池用積層セパレータ)をTD6cm、MD5cmに切断し、測定サンプルを準備した。そして、測定サンプルのTDと突条の方向とが一致するようにして、測定サンプルをそり部材にテープに貼り付ける。このとき、2つの突条の下に測定サンプルが位置させる。なお、非水電解液二次電池用積層セパレータの測定サンプルについては、多孔質層がそり部材15に対向するように配置した。
【0106】
次に、図4に示されるように、測定サンプル1が下面に貼り付けられたそり部材15を、フッ素樹脂で加工された板(ここでは、シルバーストーン(登録商標)加工された板16)に載せる。そり部材15の上には、重り17が載せられ、重り17とそり部材15との合計重量を1800gとした。図4に示されるように、測定サンプル1は、そり部材15とシルバーストーン加工された板16との間に配置される。
【0107】
なお、シルバーストーン加工は、高速度工具鋼SKH51の板に株式会社白水産業で実施した。シルバーストーン加工の厚みは20〜30μm、表面粗さRa(ハンディーサーフで測定)は0.8μmである。
【0108】
そして、オートグラフ(株式会社島津製作所 品番AG−I)で20mm/minの速度でそり部材15を引っ張り、その張力を測定した。当該張力は、シルバーストーン加工した板16と測定サンプル1との間の摩擦力を示している。得られた結果から、開始地点から10mm進んだ地点の張力F(N)を用いて、
ピン抜け抵抗=F×1000÷9.80665÷1800
の式に従って、ピン抜け抵抗を算出した。
【0109】
ソリを引く糸には、スーパーキャスト PE 投 2号(SUNLINE製)を使用した。
【0110】
<非水電解液二次電池用セパレータの実施例、比較例>
以下のようにして、実施例1〜4および比較例1〜3に係る多孔質フィルムである非水電解液二次電池用セパレータを作製した。
【0111】
(実施例1)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2024、ティコナ社製)を78重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)32重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の3本の圧延ロールR1、R2、R3を用いて、R1、R2で1回目の圧延、R2、R3で2回目の圧延を行い、速度比を変えた巻取りロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約64μmのシートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100℃で6.2倍に延伸した多孔質フィルムからなる実施例1の非水電解液二次電池用セパレータを得た。
【0112】
(実施例2)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を71.5重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)28.5重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して37体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の3本の圧延ロールR1、R2、R3を用いて、R1、R2で1回目の圧延、R2、R3で2回目の圧延を行い、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約70μmのシートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100℃で7.0倍に延伸した多孔質フィルムからなる実施例2の非水電解液二次電池用セパレータを得た。
【0113】
(実施例3)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約41μmの単層シートを作製した。次に、同様にして、膜厚約44μmの単層シートを作製した。得られた前記単層シート同士を、表面温度が150℃の一対のロールで圧着し、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約67μmの積層シートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で6.2倍に延伸した多孔質フィルムからなる実施例3の非水電解液二次電池用セパレータを得た。
【0114】
(実施例4)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を71.5重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)28.5重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して37体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の3本の圧延ロールR1、R2、R3を用いて、R1、R2で1回目の圧延、R2、R3で2回目の圧延を行い、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約100μmのシートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で5.8倍に延伸した多孔質フィルムからなる実施例4の非水電解液二次電池用セパレータを得た。
【0115】
(比較例1)
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約29μmの単層シートを作製した。次に、同様にして、膜厚約34μmの単層シートを作製した。得られた前記単層シート同士を、表面温度が150℃の一対のロールで圧着し、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約51μmの積層シートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で6.2倍に延伸した多孔質フィルムからなる比較例1の非水電解液二次電池用セパレータを得た。
【0116】
(比較例2)
市販品のポリオレフィン多孔質フィルム(ポリオレフィンセパレータ)を比較例2の非水電解液二次電池用セパレータとして使用した。
【0117】
実施例1〜4および比較例1、2の非水電解液二次電池用セパレータ(多孔質フィルム)の特性評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示されるように、実施例1〜4の非水電解液二次電池用セパレータ(多孔質フィルム)は、膜厚が20μm以下であり、空隙率が20〜55%であった。実施例1〜4では、落球試験における破壊が発生する最低高さが50cm以上であることが確認できた。実施例1,2,4では、多孔質フィルムが単層で形成されており、圧延時の膜厚が大きいために、比較例よりもスキン層の割合が少なくなっていると考えられる。また、厚い膜厚で圧延すること、および、3つの圧延ロールで2回圧延することにより、MDの配向がTDに比べて大きくならず、MDとTDの配向バランスが優れている。そのため、最低高さが50cm以上となっていると考えられる。実施例3は、多孔質フィルムを2つの単層シートで構成しているが、各単層シートの膜厚を厚くしているために、比較例よりも、スキン層の割合が少なく、配向バランスに優れており、これにより最低高さが50cm以上となっていると考えられる。
【0120】
そして、落球試験における破壊が発生する最低高さが50cm以上である実施例1〜4では、切断加工性および抜け感度が良好(○)であり、ステンレス定規の引き抜き前後の幅の変化量が0.04以下と小さいことが確認できた。これは、上述したように、落球試験における破壊が発生する最低高さが50cm未満である比較例1〜3よりも、スキン層の割合が少なく、MDとTDの配向バランスが適切な範囲であるためであると考えられる。
【0121】
また、実施例1〜4ではピン抜け抵抗が0.1以下であるのに対し、比較例1〜3ではピン抜け抵抗が0.1を超えることが確認された。ピン抜け抵抗の値は、ピン引き抜き試験の結果と相関しており、捲回型の非水電解液二次電池を組み立てる際のピンの抜けやすさを示していることがわかる。
【0122】
このように、落球試験における破壊が発生する最低高さを50cm以上とすることで、優れた切断加工性を示すことが確認できた。また、捲回型の非水電解液二次電池を組み立てる際のピンに対する滑り性も優れることが確認できた。
【0123】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの実施例、比較例>
次に、実施例5〜7および比較例3に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを以下のようにして作製した。
【0124】
(塗工液の調整)
攪拌翼、温度計、窒素流入管及び粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを使用して、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。フラスコを十分乾燥し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを仕込み、200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末151.07gを添加し、100℃に昇温して完全に溶解させた。室温に戻して、パラフェニレンジアミン68.23gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド124.97gを10分割して約5分おきに添加した。その後も攪拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成した。1500メッシュのステンレス金網でろ過した。得られた溶液は、パラアラミド濃度6%であった。このパラアラミド溶液100gをフラスコに秤取し、300gのNMPを添加し、パラアラミド濃度が1.5重量%の溶液に調製して60分間攪拌した。上記のパラアラミド濃度が1.5重量%の溶液に、アルミナC(日本アエロジル社製)を6g、アドバンスドアルミナAA−03(住友化学社製)を6g混合し、240分間攪拌した。得られた溶液を1000メッシュの金網でろ過し、その後酸化カルシウム0.73gを添加して240分間攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡してスラリー上の塗工液を調製した。
【0125】
(実施例5)
厚み100μmのPETフィルムの上に実施例2の多孔質フィルムを固定し、バーコーターにより、該多孔質フィルムの片面上にスラリー状塗工液を塗工した。PETフィルム上の該多孔質フィルムおよび塗工膜を一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬させ、パラアラミドの多孔質層(耐熱層)を析出させた後、溶媒を乾燥させ、PETフィルムを除去することで、多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層された実施例5の非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。
【0126】
(実施例6)
厚み100μmのPETフィルムの上に実施例3の多孔質フィルムを固定し、バーコーターにより、該多孔質フィルムの片面上にスラリー状塗工液を塗工した。PETフィルム上の該多孔質フィルムおよび塗工膜を一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬させ、パラアラミドの多孔質層(耐熱層)を析出させた後、溶媒を乾燥させ、PETフィルムを除去することで、多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層された実施例6の非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。
【0127】
(実施例7)
厚み100μmのPETフィルムの上に実施例4の多孔質フィルムを固定し、バーコーターにより、該多孔質フィルムの片面上にスラリー状塗工液を塗工した。PETフィルム上の該多孔質フィルムおよび塗工膜を一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬させ、パラアラミドの多孔質層(耐熱層)を析出させた後、溶媒を乾燥させ、PETフィルムを除去することで、多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層された実施例7の非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。
【0128】
(比較例3)
厚み100μmのPETフィルムの上に比較例1の多孔質フィルムを固定し、バーコーターにより、該多孔質フィルムの片面上にスラリー状塗工液を塗工した。PETフィルム上の該多孔質フィルムおよび塗工膜を一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬させ、パラアラミドの多孔質層(耐熱層)を析出させた後、溶媒を乾燥させ、PETフィルムを除去することで、多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層された比較例4の非水電解液二次電池用積層セパレータを得た。
【0129】
実施例5〜7および比較例3の非水電解液二次電池用積層セパレータの特性評価結果を表2に示す。なお、実施例5〜7および比較例3の非水電解液二次電池用積層セパレータにおけるピン抜け抵抗は、各セパレータに含まれる多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータにおけるピン抜け抵抗(つまり、それぞれ実施例2〜4および比較例1のピン抜け抵抗)と略同様の値であるため、表2において記載を省略している。
【0130】
【表2】
【0131】
表2に示されるように、実施例5〜7の非水電解液二次電池用積層セパレータでは、落球試験における破壊が発生する最低高さが50cm以上であり、優れた切断加工性を示すことが確認できた。また、捲回型の非水電解液二次電池を組み立てる際のピンに対する滑り性も優れることが確認できた。
【要約】
【課題】ピンに対する滑り性および切断加工性に優れた非水電解液二次電池用セパレータを提供する。
【解決手段】非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであって、膜厚が20μm以下であり、空隙率が20〜55%であり、直径14.3mm、重さ11.9gの球を前記多孔質フィルム上に落下させるとき、裂けが発生する最低の球の高さが50cm以上である。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4