特許第6054128号(P6054128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054128
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】視覚再生補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20161219BHJP
   A61F 2/14 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61F9/007 190A
   A61F2/14
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-225996(P2012-225996)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-76193(P2014-76193A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(72)【発明者】
【氏名】不二門 尚
(72)【発明者】
【氏名】神田 寛行
(72)【発明者】
【氏名】大澤 孝治
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 徹
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−236409(JP,A)
【文献】 特開2005−021356(JP,A)
【文献】 特開2009−183365(JP,A)
【文献】 特開2011−160984(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/022773(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0097165(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61F 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者眼に置かれた複数の電極によって網膜を構成する細胞を電気刺激する視覚再生補助装置において、
前記複数の電極が配置されており眼球強膜に形成された切開創へ挿入される先端部と、前記先端部が前記切開創へ挿入される場合に前記切開創の外側に置かれる基端部と、をそれぞれ有する第1基板および第2基板と、
前記第1基板と第2基板とを電気的に接続するケーブルと、を備え、
前記基端部から前記先端部への向きである挿入方向を揃えて前記第1基板および前記第2基板が並列された状態において、前記ケーブルは、
前記第1基板の前記基端部における基板外周のうち、前記第2基板と向き合う辺において、該辺に沿って延出するように前記第1基板と接続され、
前記第2基板の前記基端部における基板外周のうち、前記第1基板と向き合う辺において、該辺に沿って延出するように前記第2基板と接続されていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
前記ケーブルは、前記第1基板の前記基端部における先端部側の位置から前記挿入方向へ向けて延出しており、前記第2基板の前記基端部における後端部側の位置から前記挿入方向とは反対方向へ延出していることを特徴とする請求項1記載の視覚再生補助装置。
【請求項3】
記第1基板および前記第2基板における前記基端部には、刺激電流が出力される電極を前記複数の電極の中で指定するための電子回路がそれぞれ設けられており、
前記第1基板および前記第2基板のうち一方に設けられた前記電子回路は、前記ケーブルを介した電気刺激パルス用データに基づいて駆動されることを特徴とする請求項1又は2記載の視覚再生補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の視覚を再生する視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に埋植された複数の電極から刺激信号を出力し、網膜を構成する細胞を電気刺激して、視覚の再生を促す視覚再生補助装置が研究されている。視覚再生補助装置の体内装置は、複数の電極が配置された基板を持つ。例えば、基板を網膜上又は網膜下に配置して、網膜を直接電気刺激するものがある。また、眼球強膜に切り込みを入れて形成した切開創(フラップ)から基板を挿入し、電極を脈絡膜に位置させる。これにより網膜に電極を直接接触させずに電気刺激を行う脈絡膜上-経網膜刺激型(STS:Suprachoroidal Transretinal Stimulation)のものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで視覚再生補助装置は、眼球の生理的な構造や手術の制約から眼球の限られたスペースにしか基板を設置できない為、基板のサイズの制限によって十分な視野角が得られない場合がある。視野角が不十分であると、患者が対象物を認識するのに時間がかかったり、首を動かす等の動作が必要となる。このように対象物がスムーズに確認できない状況は、患者にとって負担である。そこで、眼球に取り付け可能な複数の電極基板を用いて、視野角を確保することが提案されている(特許文献2参照)。基板の面積が増加すると、電極数を増加させることができ、網膜の広い範囲が電気刺激されて、視野を広げる改善効果によるQOL(quality of life)の向上にも繋がることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】2004‐057628号公報
【特許文献2】2005‐21356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
眼球に複数の基板を取り付けると電極数の増加で網膜の広い範囲が電気刺激され、患者の視力改善の効果等が高められることが期待される。しかし眼球に取り付ける基板の枚数が増えると、基板間を接続するケーブルの取り扱い等、手術の手間が増えることに繋がる。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、複数の基板を眼球に取り付けることで電極数を増加させると共に、眼球への取り付けが容易な視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
例えば、患者眼に置かれた複数の電極によって網膜を構成する細胞を電気刺激する視覚再生補助装置において、前記複数の電極が配置されており眼球強膜に形成された切開創へ挿入される先端部と、前記先端部が前記切開創へ挿入される場合に前記切開創の外側に置かれる基端部と、をそれぞれ有する第1基板および第2基板と、前記第1基板と第2基板とを電気的に接続するケーブルと、を備え、前記基端部から前記先端部への向きである挿入方向を揃えて前記第1基板および前記第2基板が並列された状態において、前記ケーブルは、前記第1基板の前記基端部における基板外周のうち、前記第2基板と向き合う辺において、該辺に沿って延出するように前記第1基板と接続され、前記第2基板の前記基端部における基板外周のうち、前記第1基板と向き合う辺において、該辺に沿って延出するように前記第2基板と接続されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の基板を眼球に取り付けることで電極数を増加させると共に、眼球への取り付けが容易な視覚再生補助装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は視覚再生補助装置の外観図である。図2は体内装置の概略図であり、2枚の基板を持つ例が示されている。図3は刺激部20bの拡大図であり、2つの基板が並列に並べられた状態が示されている。図4は、図3の刺激部20bを矢印A−A断面で切断して見た断面側面図である。
【0011】
視覚再生補助装置1は、外界(被写体)を撮影する体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置20に大別される。
【0012】
体外装置10は、患者が掛ける眼鏡11と、眼鏡に取り付けられるCCDカメラ等の撮影装置12と、撮影装置12で撮影された被写体画像に基づき電気刺激パルス用データを生成するための画像処理部13と、視覚再生補助装置1全体に電力を供給するための電力供給源(電源)14と、電気刺激パルス用データに基づき電源14の電力を変調して電磁波を生成する変調手段16と、変調手段16で生成された電磁波を体内装置20に送信する送信手段(1次コイル)15等で構成されている。送信手段15の中心には磁石(図示を略す)が取り付けられ、磁力で後述する体内装置20側の受信手段21と位置が固定される。
【0013】
体内装置20は、ケーブル50で接続された受信部20aと刺激部20bを持つ。受信部20aは受信手段21、制御部22、対向電極26を備える。受信手段21は、体外装置10から送信された電磁波を受信する。制御部22は、受信手段21で受信された電磁波を復調して電気刺激パルス用データと電力を得る。なお制御部22で抽出された電力は体内装置20の駆動に使用される他、電極27から出力する刺激電流に用いられる。電気刺激パルス用データは、電極27から刺激電流を出力させる電極指定信号を含む。対向電極26は網膜を挟んで電極27に対向する位置に置かれる。
【0014】
刺激部20bは、複数の基板25を持つ。ここでは2枚の基板25a、25bが用意されている。各基板25a、25bはケーブル51で電気的に接続されている。
ケーブル51は、図示を略す内部導線を包む外周の絶縁層が、絶縁性及び生体適合性を持つ樹脂で形成される。またケーブル51は眼球上での取り付け位置を考慮してその長さが決定される。例えば、本実施形態ではケーブル51は10mm〜20mm程度の長さを持つ。また眼球に各基板25を取り付ける手術時に、隣り合う基板25間の距離が変わったとしても、その変化に追従できる強度と柔軟性を持つようにその断面形状(縦横寸法)が決定される。例えば、ケーブル51の断面の形状寸法は1×0.2mm程度である。これ以外にもケーブル51の長さと断面の形状寸法は、基板25の眼球上の取り付け位置やケーブル51の材質特性を考慮して決定されれば良い。
【0015】
基板25は、眼球への取り付け前の状態で、眼球形状に沿う曲面Rを保持できる強度を持ち、眼球への取り付け時に、眼球の形状に沿って撓る柔軟性を持つように樹脂などで所定厚に形成される。例えば、基板25はポリイミド、パリレン等の生体適合性の良い材料で厚さ10〜100μm程度に形成される。
【0016】
また基板25は、眼球に取り付けた際に、強膜に形成された切開創の内側に挿入される先端部28aと、切開創の外側に置かれる基端部28bを持つ。基板25は、基端部28bから先端部28aに向かって延びる長辺29aと、長辺に直交する方向に延びる短辺29bからなる側面を持つ。また本実施形態の先端部28aは、眼球の切開創から挿入しやすいようにその先端が所定の丸みを持つように形成されている。
【0017】
眼球の取り付け時に切開創に入れられる先端部28aには、複数の電極27が設けられている。電極27は、白金等の生体適合性を持つ金属で形成される。電極27の直径は、例えば、50μm〜500μm程度であり、高さは、0.2mm〜0.5mm程度である。基板25上に配置された複数の電極27で多点電極アレイが形成される。なお各電極27とデマルチプレクサ40は配線22で接続される。なお、本実施形態では電極27の表面にポーラス加工(電極27の表面に多数の凹凸を形成する加工)によって、電極27の表面積が増加されている。
【0018】
基端部28bには、刺激電流を各電極27に振り分けるためのデマルチプレクサ40が搭載される。また基端部28bには、ケーブル51の端部を含み所定距離を持つ接続領域52が基板25の外面形状に沿って接続されている。ここでは接続領域52は、基板25の長辺29aの側面に沿って延びるように接続されている。ケーブル51の接続領域52が基板25の外面形状に沿って接続されることで、ケーブル51の向きが一方向に定められる。なお接続領域52は基板25の側面以外の位置に設けられても良い。なお接続領域52の距離(長辺29a方向の距離)は、ケーブル51の延びる方向が一方向に定められるように、ケーブル51の材質、強度等を考慮して決定される。
【0019】
また本実施形態では、図3に示されるように、隣り合う基板25a、25bを並列に並べたときに、ケーブル51の接続領域52の取り付け方向(ケーブル51の先端の向き)を逆向きにしている。つまり一方の基板25aには、ケーブル51が基端部28bに向けて延びるように接続領域を52取り付け、他方の基板25bには、ケーブル51が先端部28aに向けて延びるように接続領域52を取り付ける。つまり一方の基板25bには、基端部28bの先端部28a側から、先端部28b側へとケーブル51が延びるように接続領域25が取り付けられる。他方の基板25aには、先端部28の後端部28b側の位置(近傍)から、基端部28bの後部へとケーブル51が延びるように接続領域52が取り付けられる。
【0020】
このような場合は、手術で基板25aを強膜ポケットに先に埋植するが、その際にケーブル51を直線的な状態に伸ばすことで基板25bは、基板25aから離れた位置に留置することができるので、基板25aを埋植する際に邪魔にならない。その後基板25bを基板25aと隣り合うように埋植するとケーブル51は基板25間で概ね一定の形状に(S字状に)折り曲げられる。
【0021】
一方、従来技術では、基板25間の距離が変わると、ケーブル51は任意の方向に撓んでいた。その為、ケーブル51の撓みの部分が基板25の後方側(基端側)に多くはみ出ると、術者が手術で基板25を取り付ける際の邪魔になるおそれがあった。またケーブル51が眼球から離れる方向に撓むと、ケーブル51を適切に配置するための操作が必要となる。またケーブル51に捻れが生じることも懸念される。
【0022】
一方、本開示では、基板25間の距離が、ケーブル51の長さよりも接近したときに、ケーブル51の撓む方向が一方向に定められる。ここではケーブル51の撓んだ部分が、基板25の間に収められる。その為、ケーブル51が意図しない方向に撓み、手術中の邪魔になることが回避される。またケーブル51の撓む方向が一義的に定められるので、術中の取り回しもしやすくなる。以上から術者は複数の基板25を眼球に簡単に取り付けることができるようになる。
なお基板25の形状は矩形形状に限られない。ケーブル51の接続領域を基板25の外面形状に沿って配置できる形状であれば良く、例えば円形形状等であっても良い。
【0023】
また本実施形態では、眼球の切開創から入れられた基板25を、眼球上に出来るだけ隙間無く配置するために、基板25の先端側の形状を、眼球の取り付け位置の中心に向けて沿うように傾斜させている。例えば、基板25(電極27)を眼球の後極部を中心に取り付ける場合には、基板25を眼球の赤道部から後極部に向かう曲面Rに形成しつつ、眼球に取り付ける基板25の電極27側を、後極部に向かうように斜めに傾斜させている(図4参照)。このようにすると基板25を眼球の形状に沿ってより隙間無く配置できるようになる。
【0024】
また各基板25a、25bは、並列に並べた状態で対称形状となる。また各基板25a、25bを並列に並べて、その先端部28aを眼球の切開創から挿入したときに、各基板25a、25bの先端同士が近づくように、各基板25a、25bの先端部28aは所定の傾斜をもつ形状に形成されている。このようにすると眼球上に基板25がより隙間無く配置される。なお基板25を、眼球の後極部を中心に取り付ける場合には、基板25の先端部28aの幅を次第に細く(狭く)する。このようにすると基板25の先端部28aを後極部に近づけやすくなり、眼球上に基板25を隙間なく配置し易くなる。
【0025】
また上記では2枚の基板25a、25bが用意された例を示したが、基板25は2枚よりも多く設けられても良い。基板25の枚数が増加され網膜により多数の電極27が配置されることで、網膜の広い範囲を精度良く電気刺激でき、患者の視力の改善効果を向上させることができる。
更に基板25の形状は取り付け位置に応じて変形されても良い。例えば、基板25を視神経乳頭や黄斑にかかる位置に置く場合には、視神経乳頭や黄斑の位置に対応する基板25上に開口を形成しても良い。
【0026】
各電極27は基板25の形状に合わせて、基板25上に所要の間隔で配置される。本実施形態では、電極27は、後極部中心へと向かって一定間隔となるように、基板25上に配置されている。これ以外にも。電極27の密度は、眼球上で基板25が置かれる位置に応じて決定されれば良い。例えば、網膜の感度が比較的高いと予想される箇所には、電極を密に配置しても良い。また、基板25の取り付け位置に視神経乳頭等、電気刺激を行う必要が無い部位が含まれる場合は、対応する所定範囲に電極27を設けないようにしても良い。
【0027】
また本実施形態では、各基板25の基端側28bに、基板25を縫合糸で眼球に固定するための開口を持つ複数の固定部41が設けられる。固定部41は、基板25aと基板25bを並列に並べたときに、基板25aと基板25bの境界を軸Lとして線対称の位置に配置される。また固定部41は、基板25の眼球E上での取り付け位置が定められたときに、眼球の血管や、上筋肉等の眼球運動に寄与する部位を避ける位置に設けられる。固定部41が設けられることで、術者は眼球に基板25を容易に固定できる。また本実施形態では、固定部41は、ケーブル51の接続側を避けた位置に設けられる。つまりここでは、ケーブル51(接続領域52)が接続された基板25の長辺29a以外の、長辺29a又は短辺29bの位置に固定部41が設けられる。ケーブル51の接続位置以外に固定部41が設けられることで、固定部41を縫合する際に、ケーブル51が邪魔になりにくくなる。
【0028】
以上のように眼球の形状、眼球での取り付け位置、眼球への取り付け方法を考慮して基板25の形状が決定されるので、術者は複数の基板25を眼球に簡単に取り付けることができる。また手術時間の増加等の影響で患者の負担が増えること等が抑えられる。
【0029】
次に、以上の構成を持つ刺激部20bを眼球に取り付ける。図5に刺激部20bが取り付けられた眼球Eの模式図を示す。なお図5において、赤道ER,前曲部AP、後極部PPとする。
先ず、術者は眼球に基板25a、25bを取り付けるため、強膜に各基板25を取り付け可能な大きさを持つ切開創(フラップ)FPを形成する。なお基板25a、25bの取り付け位置は、眼球運動に寄与する上筋肉等を避けた位置に決定される。フラップFPは基板25a、25b毎に形成される。
【0030】
次に術者は基板25a、25bを順次眼球Eに取り付ける。まず術者は、受信部20aとケーブル51を介して接続されている基板25aの先端部28bを、フラップFPから後極部PPに向けて差し入れる。この時、基板25aは赤道EPから後極部PPに向かい、眼球Eに沿う曲面Rに形成されている。その為、基板25をフラップFPにスムーズに入れることができる。また基板25の先端部28aが先細になっている場合は、フラップFPを介して、基板25a(電極27)をより後極部(目的の部位)に近い位置まで入れることができる。また基板25aの先端部28aが、後極部の中心に向かう傾斜を持つことで、術者は基板25aをフラップFPから入れるだけで、簡単に基板25の向きを後極部中心に合わせることができる。
1枚目の基板25aの眼球E上の位置が定まったら、術者は固定部41を縫合糸で縫合する。この時、固定部41は眼球運動に寄与する部位を避けた位置に設けられているので、術者は基板25を正しく眼球上に固定できる。
【0031】
次に術者は2番目の基板25bを眼球に取り付ける。この時、基板25aと基板25bの間の距離が変わると、ケーブル51は、基板25aと基板25bの間で、所定方向に撓む。ここでは、ケーブル51はS字状に伸縮されるので、撓み部分が基板25の外側へと飛出ることが抑えられている。このように、ケーブル51が基板25の取り付け時に邪魔にならない位置にあると、術者は基板25a、25bの眼球への取り付けをスムーズに行える。
【0032】
以上のようにして、基板25aの場合と同様に、術者は基板25bをフラップFPから差し入れる。この時、基板25bの先端部28aも後極部PPに向くように傾斜されている。また基板25aと基板25bは、並列に並べられたときに対称な形状であるので、各基板25a、25bの先端部28aが後極部付近で接近され、後極部PP付近の基板25aと基板25bの間隔(隙間)を小さくできる。基板25bの取り付け位置が定まったら、固定部41を縫合糸で縫合して、基板25bを眼球Eに固定する。
なおケーブル51は、基板25aと基板25bが眼球Eに取り付けられたときに、眼球の曲面に沿う程度に短いことが好ましい。ケーブル51が短いとより術中の邪魔になりにくくなると共に、眼球に沿ってケーブル51を綺麗に配置し易くなる。
【0033】
なお基板25の枚数が多くなると、複数のフラップを精度良く形成する事が難しくなる。そこで、複数の基板25をまとめて取り付けることのできる大きさのフラップFPを形成し、各基板25の形状に合わせて、フラップFPの一部(途中)を縫合糸で縫合して形を整える。このようにすると、基板25の枚数が多い場合にも、基板25毎に精度良くフラップFPを形作ることができる。またこのようにフラップFPが作られることで、複数の基板25が眼球E上に隙間無く並べられるようになる。以上のようにして、複数の基板25を、眼球Eの所期の位置に簡単にスムーズに取り付けることができる。
【0034】
次に、以上の構成を備える視覚再生補助装置1の動作を説明する。
撮影装置12で被写体が撮影されると、画像処理部13で被写体像の画像処理が行われ、複数の基板25に組み込まれた電極27の配置に対応した電気刺激パルス用データが生成される。変調手段16で電力供給源14から供給された電力が電気刺激パルス用データの情報に基づき変調されると、データが重畳された電力伝送用の電磁波が発生する。電磁波は、送信手段15と受信手段21のコイルリンクで、体内装置20側で受信される。
【0035】
体内装置20では、受信コイル21で電磁波が受信されると、制御部22は電磁波から、電気刺激パルス用データ及び電力を抽出する。制御部22は、抽出された電気刺激パルス用データをケーブル50、51を介して、各基板25a、25bのマルチプレクサ40に送信する。各基板25a、25bのデマルチプレクサ40は、電気刺激パルス用データで指定された各電極27から電気刺激パルスを出力させる。これにより患者の網膜の所定部位が電気刺激される。なお本実施形態では複数の基板25によって、眼球に置かれる電極の数が増加されている。その為、網膜の広い範囲が電気刺激され、高い視力の改善効果が見込まれる。またこれによりQOLの向上も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】視覚再生補助装置の外観図である。
図2】複数の基板を持つ体内装置の概略図である。
図3】刺激部の拡大図である。
図4】刺激部の断面図である。
図5】刺激部が取り付けられた眼球の模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
20a 受信部
20b 刺激部
25 基板
27 電極
40 デマルチプレクサ
41 固定部
50、51 ケーブル
52 接続領域
図1
図2
図3
図4
図5