特許第6054339号(P6054339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6054339
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】非水電解液リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20161219BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20161219BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20161219BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/0525
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/133
【請求項の数】21
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-128593(P2014-128593)
(22)【出願日】2014年6月23日
(62)【分割の表示】特願2010-520940(P2010-520940)の分割
【原出願日】2008年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-209491(P2014-209491A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】10-2007-0082300
(32)【優先日】2007年8月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ジョン‐ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ジョン‐ジュ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ホ‐チュン
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−080008(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0121356(US,A1)
【文献】 特開2005−267938(JP,A)
【文献】 特開2003−272627(JP,A)
【文献】 特開2005−072003(JP,A)
【文献】 特開2005−228513(JP,A)
【文献】 特開2002−093464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池であって、
負極と、正極と、前記負極と正極間に介在されたセパレーターと、負極用結着剤と、及び非水電解液とを備えてなり、
前記負極が、少なくとも1.5m2/gの比表面積を有してなり、
前記非水電解液が、リチウム塩と、有機溶媒と、反応抑制剤とを含んでなり、
前記有機溶媒が、
(a)エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物からなる環状カーボネイトと、
(b)下記化学式1で表されるプロピオネート系エステルとからなり、
前記(a)環状カーボネイトと前記(b)プロピオネート系エステルとの混合体積が20:80ないし60:40であり、
線状カーボネートを包含しない非線状カーボネイト系混合有機溶媒であり、
前記反応抑制剤が、(b)前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応を抑制し、かつ、前記負極にSEIフィルム層を形成するものであり、
前記反応抑制剤が、アクリレート系化合物と、並びに、ビニル基を持つ環状カーボネイト、フッ素化エチレンカーボネイト、ビニレンカーボネイト、環状酸無水物、及びS=O基を持つ化合物からなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物とであることを特徴とする、リチウム二次電池。
【化1】
[上記化学式1において、
1はCH3CH2基であり、
2は炭素数1〜6であるアルキル基又は炭素数1〜6であるハロアルキル基である。]
【請求項2】
前記ビニル基を持つ環状カーボネイトが、4‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、及び4‐ビニル‐5‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、及び1,3‐ジオキソラン‐2‐オニルメチルアリルスルホネートからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記環状酸無水物が、無水コハク酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、無水シトラコン酸、及び無水フタル酸からなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記S=O基を持つ化合物が、環状サルファイト、飽和スルトン、不飽和スルトン、及び非環状スルホンからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記環状サルファイトが、エチレンサルファイト、メチルエチレンサルファイト、エチルエチレンサルファイト、4,5‐ジメチルエチレンサルファイト、4,5‐ジエチルエチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、4,5‐ジメチルプロピレンサルファイト、4,5‐ジエチルプロピレンサルファイト、4,6‐ジメチルプロピレンサルファイト、4,6‐ジエチルプロピレンサルファイト、及び1,3‐ブチレングリコールサルファイトからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項4に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記飽和スルトンが、1,3‐プロパンスルトン、1,4‐ブタンスルトン、及びこれらの混合物からなる群より選択されたものであることを特徴とする、請求項4又は5に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記不飽和スルトンが、エテンスルトン、1,3‐プロペンスルトン、1,4‐ブテンスルトン、及び1‐メチル‐1,3‐プロペンスルトンからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項4〜6の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記非環状スルホンが、ジビニルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルエチルスルホン、及びメチルビニルスルホンからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項4〜7の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記アクリレート系化合物が、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びトリス[2‐(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレートからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項4〜8の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記反応抑制剤の含有量が、非水電解液の総重量を基準にして、1〜10重量%であることを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記リチウム塩が、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO22、CF3SO3Li、及びLiC(CF3SO23からなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記負極が、リチウムイオンの吸蔵又は放出が可能な炭素材で製造されたことを特徴とする、請求項1〜11の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記正極が、リチウム含有酸化物で製造されたことを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記化学式1で表されるプロピオネート系エステルが、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、及びブチルプロピオネートからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1〜13の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
前記結着剤が、負極用水系結着剤を含んでなり、かつ、前記負極の比表面積が1.5m2/g〜4.5m2/gあることを特徴とする、請求項1〜14の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項16】
前記結着剤が、スチレンブタジエンゴムを含む水系結着剤であることを特徴とする、請求項1〜15の何れか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
二次電池用非水電解液であって、
リチウム塩と、有機溶媒と、反応抑制剤とを含んでなり、
前記有機溶媒が、
(a)エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物からなる環状カーボネイトと、
(b)下記化学式1で表されるプロピオネート系エステルとからなり、
前記(a)環状カーボネイトと前記(b)プロピオネート系エステルとの混合体積が20:80ないし60:40であり、
線状カーボネートを包含しない非線状カーボネイト系混合有機溶媒であり、
前記反応抑制剤が、(b)前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応を抑制し、かつ、前記負極にSEIフィルム層を形成するものであり、
前記反応抑制剤が、アクリレート系化合物と、並びに、ビニル基を持つ環状カーボネイト、フッ素化エチレンカーボネイト、ビニレンカーボネイト、環状酸無水物、及びS=O基を持つ化合物からなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物とであることを特徴とする、二次電池用非水電解液。
【化2】
[上記化学式1において、
1はCH3CH2基であり、
2は炭素数1〜6であるアルキル基、又は炭素数1〜6であるハロアルキル基である。]
【請求項18】
前記化学式1で表されるプロピオネート系エステルが、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、及びブチルプロピオネートからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項17に記載の非水電解液。
【請求項19】
前記ビニル基を持つ環状カーボネイトが、4‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、及び1,3‐ジオキソラン‐2‐オニルメチルアリルスルホネートからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項17又は18に記載の非水電解液。
【請求項20】
前記アクリレート系化合物が、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びトリス[2‐(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレートからなる群より選択された何れか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項17〜19の何れか一項に記載の非水電解液。
【請求項21】
前記反応抑制剤の含有量が、非水電解液の総重量を基準に1重量%〜10重量%であることを特徴とする、請求項17〜20の何れか一項に記載の非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液リチウム二次電池に関し、特に高温における放電特性が向上したリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー保存技術に対する関心が高まりつつある。携帯電話、カムコーダー、及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、このような電子機器の電源として使用される電池の高エネルギー密度化に対する要求が高くなっている。リチウム二次電池は、このような要求に最も応えられる電池であって、それに対する研究が活発に行われている。
【0003】
現在使用されている二次電池のうち1990年代の初めに開発されたリチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる炭素材からなる負極、リチウム含有酸化物からなる正極、及び混合有機溶媒にリチウム塩が適量溶解された非水電解液で構成されている。
【0004】
リチウム二次電池の平均放電電圧は約3.6〜3.7Vであって、他のアルカリ電池、ニッケル‐カドミウム電池などに比べて動作電圧が高いことが長所の1つである。このような高い動作電圧を出すためには、充放電電圧領域である0〜4.2Vで電気化学的に安定した電解液の組成が必要である。そのために、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイトなどの環状カーボネイト化合物とジメチルカーボネイト、エチルメチルカーボネイト、ジエチルカーボネイトなどの線状カーボネイト化合物とが適切に混合された混合溶媒を電解液の溶媒として使用する。電解液の溶質であるリチウム塩としては通常、LiPF、LiBF、LiClOなどを使用するが、これらは電池内でリチウムイオンの供給源として働いてリチウム電池の作動を可能にする。
【0005】
リチウム二次電池の初期充電時、リチウム金属酸化物などの正極活物質から出たリチウムイオンは、グラファイトなどの負極活物質に移動し、負極活物質の層間に挿入される。
このとき、リチウムの高反応性のため、グラファイトなどの負極活物質の表面で電解液と負極活物質を構成する炭素とが反応し、LiCO、LiO、LiOHなどの化合物を生成する。これらの化合物はグラファイトなどの負極活物質の表面に一種のSEI(Solid Electrolyte Interface)フィルムを形成する。
【0006】
SEIフィルムはイオントンネルの役割を果たし、リチウムイオンのみを通過させる。
イオントンネル効果により、SEIフィルムは電解液中でリチウムイオンとともに移動する分子量の大きい有機溶媒分子が負極活物質の層間に挿入されて負極構造を破壊することを防止する。よって、電解液と負極活物質との接触を防止することで電解液が分解せず、電解液中のリチウムイオンの量が可逆的に保持され、安定的な充放電が保障される。
【0007】
しかし、薄い角型電池では、上述したSEIフィルム形成反応中にカーボネイト系溶媒の分解から発生するCO、CO、CH、Cなどの気体により、充電時電池の厚さが膨張する。また、満充電状態で高温に放置されると、時間の経過とともに増加した電気化学的エネルギーと熱エネルギーによってSEIフィルムが徐々に崩壊され、露出した負極表面と周辺の電解液とが反応する副反応が持続的に起きる。このときの継続的な気体の発生により、電池の内圧が上昇し、その結果、角型電池とパウチ電池の場合、電池の厚さが増加する。それにより、携帯電話及びノートパソコンなどの電子機器における高温放置安全性に問題が生じる。また、エチレンカーボネイトを多量含む通常のリチウム二次電池はSEIフィルムが不安定であるため、上記のような電池の内圧上昇がさらに問題になる。さらに、エチレンカーボネイトは凝固点が37〜39℃と高く、室温で固体状態であるため、低温におけるイオン伝導度が低い。したがって、エチレンカーボネイトを多量含む非水系溶媒を使用するリチウム電池は低温導電率が不良である。
【0008】
このような問題点を解決するため、カーボネイト有機溶媒に添加剤を入れてSEIフィルム形成反応の様相を変化させようとする研究が行われてきた。しかし、今まで知られたところでは、電池性能向上のために特定化合物を電解液に添加する場合、一部項目の性能は向上するものの他の項目の性能は減少する場合が多かった。
【0009】
例えば、特許文献1はエチレンカーボネイトとジメチルカーボネイトとの1:1(体積比)混合物にγ‐ブチロラクトンを0.5〜50体積%添加した電解液を使用するリチウム二次電池を開示している。しかし、このようにγ‐ブチロラクトンを添加すれば低温における高率放電特性は改善されるが、電池寿命特性が悪くなる問題点がある。
【0010】
また、特許文献2はエチレンカーボネイト、ジメチルカーボネイト及びメチルプロピオネートからなる3成分系有機溶媒を含む非水電解液二次電池を開示している。しかし、ジメチルカーボネイトのような線状カーボネイトはリチウム二次電池の充放電効率を低下させ、メチルプロピオネートは負極との反応性が比較的高くて放電特性が低下する。
【0011】
また、特許文献3は環状カーボネイト、線状カーボネイト及びエチルプロピオネートからなる3成分系有機溶媒を含む非水電解液二次電池を開示している。しかし、このようなリチウム二次電池では線状カーボネイトによって充放電効率が低下する。また、エチルプロピオネートは常温では負極との反応性が低く放電特性が良好であるが、高温では負極と反応して放電特性が低下するため、特許文献3ではエチルプロピオネートの含有量を5体積%以下にして高温保存時の自己放電現象を最小化したが、このようにエチルプロピオネートを少量添加する場合、良好な低温放電特性が得難い。
【0012】
一方、特許文献4にはプロピレンカーボネイトのような環状カーボネイトと酢酸メチルのような線状炭酸エステル化合物とを混合した混合有機溶媒を使用したリチウム二次電池が開示されている。しかし、酢酸メチルも負極との反応性が比較的高く、放電特性が低下する。
【0013】
このように、高率充放電特性に優れ、且つ、サイクル寿命、低温放電特性、高温放電特性が全て良好なリチウム二次電池を提供できる非水電解液の組成を開発することが至急に求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平07−153486号公報
【特許文献2】特許第3032338号公報
【特許文献3】特開平11‐31527号公報
【特許文献4】特許第3029271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高率充放電特性に優れるとともにサイクル寿命と低温放電特性が改善され、負極と有機溶媒との反応を抑制することで、特に高温における放電特性が向上したリチウム二次電池を提供することをその目的とする。
〔本発明の態様〕
〔1〕 リチウム二次電池であって、
負極と、正極と、前記負極と正極間に介在されたセパレーターと、負極用結着剤と、及び非水電解液を備えてなり、
前記負極が、少なくとも1.5m2/gの比表面積を有してなり、
前記非水電解液が、
リチウム塩と、
(a)エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物を含む環状カーボネイトと、(b)下記化学式1で表されるプロピオネート系エステルとの混合体積比(a:b)が10:90ないし70:30である非線状カーボネイト系混合有機溶媒と、
前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤とを含んでなるものである、リチウム二次電池。
【化1】
[上記化学式1において、
1はCH3CH2基であり、
2は炭素数1〜6であるアルキル基又は炭素数1〜6であるハロアルキル基である。]
〔2〕 前記エチルプロピオネートと負極間の反応抑制剤が、ビニル基を持つ環状カーボネイト、フッ素化エチレンカーボネイト、ビニレンカーボネイト、環状酸無水物、=O基を持つ化合物及びアクリレート系化合物からなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔3〕 前記ビニル基を持つ環状カーボネイトが、4‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、及び4‐ビニル‐5‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、及び1,3‐ジオキソラン‐2‐オニルメチルアリルスルホネートからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔2〕に記載のリチウム二次電池。
〔4〕 前記環状酸無水物が、無水コハク酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、無水シトラコン酸及び無水フタル酸からなる群より選択された何れか1つまたはこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔2〕に記載のリチウム二次電池。
〔5〕 前記=O基を持つ化合物が、環状サルファイト、飽和スルトン、不飽和スルトン及び非環状スルホンからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔2〕に記載のリチウム二次電池。
〔6〕 前記環状サルファイトが、エチレンサルファイト、メチルエチレンサルファイト、エチルエチレンサルファイト、4,5‐ジメチルエチレンサルファイト、4,5‐ジエチルエチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、4,5‐ジメチルプロピレンサルファイト、4,5‐ジエチルプロピレンサルファイト、4,6‐ジメチルプロピレンサルファイト、4,6‐ジエチルプロピレンサルファイト及び1,3‐ブチレングリコールサルファイトからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔5〕に記載のリチウム二次電池。
〔7〕 前記飽和スルトンが、1,3‐プロパンスルトン、1,4‐ブタンスルトン及びこれらの混合物からなる群より選択された何れか1つであることを特徴とする、〔5〕に記載のリチウム二次電池。
〔8〕 前記不飽和スルトンが、エテンスルトン、1,3‐プロペンスルトン、1,4‐ブテンスルトン及び1‐メチル‐1,3‐プロペンスルトンからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔5〕に記載のリチウム二次電池。
〔9〕 前記非環状スルホンが、ジビニルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルエチルスルホン及びメチルビニルスルホンからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔5〕に記載のリチウム二次電池。
〔10〕 前記アクリレート系化合物が、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びトリス[2‐(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレートからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔5〕に記載のリチウム二次電池。
〔11〕 前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤の含有量が、非水電解液の総重量を基準にして、1〜10重量%であることを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔12〕 前記リチウム塩が、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO22、CF3SO3Li及びLiC(CF3SO23からなる群より選択される何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔13〕 前記負極が、リチウムイオンの吸蔵又は放出が可能な炭素材で製造されたことを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔14〕 前記正極が、リチウム含有酸化物で製造されたことを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔15〕 前記化学式1で表されるプロピオネート系エステルが、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート及びブチルプロピオネートからなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔16〕 前記結着剤が、1.5m2/g〜4.5m2/gの比表面積を有する負極用水系結着剤を含むことを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔17〕 前記結着剤が、スチレンブタジエンゴムを含む水系結着剤であることを特徴とする、〔1〕に記載のリチウム二次電池。
〔18〕 リチウム塩と、
(a)エチレンカーボネイト又はエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物を含む環状カーボネイトと(b)下記化学式1で表されるプロピオネート系エステルとの混合体積比(a:b)が10:90ないし70:30である非線状カーボネイト系混合有機溶媒と、
前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤とを含んでなる、二次電池用非水電解液。
【化2】
[上記化学式1において、
1はCH3CH2基であり、
2は炭素数1〜6であるアルキル基、又は炭素数1〜6であるハロアルキル基である。]
〔19〕 前記化学式1で表されるプロピオネート系エステルが、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート及びブチルプロピオネートからなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、〔18〕に記載の非水電解液。
〔20〕 前記エチルプロピオネートと負極間の反応抑制剤が、ビニル基を持つ環状カーボネイト、フッ素化エチレンカーボネイト、ビニレンカーボネイト、環状酸無水物、=O基を持つ化合物及びアクリレート系化合物からなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔18〕に記載の非水電解液。
〔21〕 前記ビニル基を持つ環状カーボネイトが、4‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、及び1,3‐ジオキソラン‐2‐オニルメチルアリルスルホネートからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔20〕に記載の非水電解液。
〔22〕 前記アクリレート系化合物が、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びトリス[2‐(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレートからなる群より選択された何れか1つ又はこれらのうちの二種以上の混合物であることを特徴とする、〔20〕に記載の非水電解液。
〔23〕 前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤の含有量が、非水電解液の総重量を基準に1重量%〜10重量%であることを特徴とする〔18〕に記載の非水電解液。
【化3】
[化学式1]
〔上記式において、
1及びR2は、それぞれ独立して直鎖状または分枝状のC16アルキル基であり、 R1及びR2は、それぞれ少なくとも一種のハロゲンに置換されてなり又は置換されていないものである。〕
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明のリチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる炭素材からなる負極、リチウム含有酸化物からなる正極、及び非水電解液を備えるリチウム二次電池であって、前記非水電解液は、リチウム塩;(a)エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物からなる環状カーボネイトと(b)プロピオネート系エステルとの混合体積比(a:b)が10:90ないし70:30である非線状カーボネイト系混合有機溶媒;及び前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤を含む。
【0017】
本発明のリチウム二次電池において、プロピオネート系エステルと負極間の反応抑制剤は、ビニル基を持つ環状カーボネイト、フッ素化エチレンカーボネイト、ビニレンカーボネイト、環状酸無水物、=O基を持つ化合物及びアクリレート系化合物からなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうちの2種以上の混合物を使用することが望ましい。このようなプロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤は、非水電解液の総重量を基準に1ないし10重量%添加され得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に即して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0019】
前述したように、リチウム二次電池は通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる炭素材からなる負極、リチウム含有酸化物からなる正極、及び非水電解液を備える。
【0020】
本発明のリチウム二次電池において、非水電解液は、リチウム塩;(a)エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物からなる環状カーボネイトと(b)エチルプロピオネートのような線状エステル(プロピオネート系エステル)との混合体積比(a:b)が10:90ないし70:30である非線状カーボネイト系混合有機溶媒;及び前記エチルプロピオネート(プロピオネート系エステル)の負極に対する反応抑制剤を含む。
【0021】
エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物は、誘電率が高く電解質内のリチウム塩を解離させ易いので、電池の充放電容量の向上に寄与する。プロピレンカーボネイトを混合する場合、望ましい混合体積比はエチレンカーボネイトの1/4〜1である。本発明のリチウム二次電池の非水電解液としては、非線状カーボネイト系有機溶媒を使用する。線状カーボネイトはリチウム二次電池の充放電効率の向上のために添加しないが、本発明の目的を阻害しない範囲内で微量添加することもできる。
【0022】
線状エステルとしては、凝固点が低く沸点が比較的高く、優れた低温特性を示すエチルプロピオネートのようなプロピオネート系エステルが使用される。また、エチルプロピオネートは負極に対する反応性が比較的低い。このようなプロピオネート系エステルは前述した環状カーボネイトと混合されてリチウム二次電池の低温放電特性及びサイクル寿命の向上に寄与する。(a)エチレンカーボネイトまたはエチレンカーボネイトとプロピレンカーボネイトとの混合物からなる環状カーボネイトと(b)プロピオネート系エステルとの混合体積比(a:b)は10:90ないし70:30、望ましくは20:80ないし60:40である。
【0023】
本発明において、前記線状エステルは下記化学式1で表され得る。
【化4】
【0024】
化学式1において、R及びRは相互独立的に直鎖状または分枝状のC1〜6のアルキル基であり、前記R及びRは少なくとも1つのハロゲンに置換されるかまたは非置換され得る。Rは望ましくはCHCH基である。
【0025】
前記化学式1で表されるプロピオネート系エステル化合物の非制限的な例は、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート及びブチルプロピオネートからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0026】
プロピオネート系エステルの混合比が前述した範囲未満であれば、リチウム二次電池の低温放電特性が低下する。一方、その混合比が前述した範囲を超過すれば、リチウム二次電池の高率充放電特性が低下する。
【0027】
また、本発明のリチウム二次電池の非水電解液は、前記プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤を含む。
【0028】
前述したように、プロピオネート系エステルは常温では負極との反応性が低く良好な放電特性を示すが、高温では負極と反応して放電特性が低下する。したがって、本発明では高温保存時の自己放電現象による高温放電特性の低下を防止するため、プロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤を添加する。
【0029】
このような反応抑制剤は、リチウム二次電池を初期に充電するとき、前述した環状カーボネイト及びプロピオネート系エステルより先に分解して負極にフィルムを形成する。これにより、高温でもプロピオネート系エステルが負極と反応して放電効率が低下することを防止することができる。
【0030】
プロピオネート系エステルと負極間の反応抑制剤としては、ビニル基を持つ環状カーボネイト、フッ素化エチレンカーボネイト、ビニレンカーボネイト、環状酸無水物、=O基を持つ化合物及びアクリレート系化合物からなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうちの2種以上の混合物を使用することが望ましい。
【0031】
ビニル基を持つ環状カーボネイトとしては、4‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐4‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐メチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐エチル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、4‐ビニル‐5‐n‐プロピル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン、1,3‐ジオキソラン‐2‐オニルメチルアリルスルホネートからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうちの2種以上の混合物が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0032】
環状酸無水物としては、無水コハク酸(succinic anhydride)、無水マレイン酸(maleic anhydride)、イタコン酸無水物(itaconic anhydride)、無水シトラコン酸(citraconic anhydride)、無水フタル酸(phthalic anhydride)からなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうちの2種以上の混合物などが挙げられるが、これに限定されることはない。
【0033】
=O基を持つ化合物としては、環状サルファイト、飽和スルトン、不飽和スルトン及び非環状スルホンが挙げられる。環状サルファイトの非制限的な例としては、エチレンサルファイト、メチルエチレンサルファイト、エチルエチレンサルファイト、4,5‐ジメチルエチレンサルファイト、4,5‐ジエチルエチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、4,5‐ジメチルプロピレンサルファイト、4,5‐ジエチルプロピレンサルファイト、4,6‐ジメチルプロピレンサルファイト、4,6‐ジエチルプロピレンサルファイト、1,3‐ブチレングリコールサルファイトなどが挙げられる。また、飽和スルトンの非制限的な例としては、1,3‐プロパンスルトン、1,4‐ブタンスルトンが挙げられ、不飽和スルトンとしては、エテンスルトン、1,3‐プロペンスルトン、1,4‐ブテンスルトン、1‐メチル‐1,3‐プロペンスルトンなどが挙げられるが、これに限定されることはない。また、非環状スルホンの非制限的な例としては、ジビニルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルエチルスルホン、メチルビニルスルホンなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独でまたは混合して使用することができる。
【0034】
アクリレート系化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス[2‐(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレート(tris[2‐(acryloyloxy)ethyl]isocyanurate)などがあるが、これに限定されない。
【0035】
このようなプロピオネート系エステルの負極に対する反応抑制剤は、非水電解液の総重量を基準に1ないし10重量%添加することができる。
【0036】
本発明のリチウム二次電池の非水電解液において、電解質として含まれるリチウム塩は、リチウム二次電池用電解液として通常使用されるものなどが制限なく使用でき、代表的な例としては、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO、LiN(CSO、LiN(CFSO、CFSOLi、LiC(CFSOなどが挙げられる。この他に、リチウム二次電池の非水電解液には、本発明の目的を阻害しない限度内でラクトン、エーテル、エステル、アセトニトリル、ラクタム、ケトンなどの化合物をさらに添加できることは勿論である。
【0037】
本発明のリチウム二次電池に使用されるリチウムイオンを吸蔵及び放出できる炭素材からなる負極及びリチウム含有酸化物からなる正極は、通常リチウム二次電池の製造に使用されるものなどを全て使用することができる。
【0038】
例えば、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる炭素材としては、低結晶性炭素及び高結晶性炭素などを全て使用することができる。低結晶性炭素としては、軟質炭素及び硬質炭素が代表的であり、高結晶性炭素としては、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、熱分解炭素、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso−carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、及び石油または石炭系コークスなどの高温焼結炭素が代表的であるが、これらに限定されることはない。このとき、負極は結着剤を含むことができ、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF‐co‐HFP)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidenefluoride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)及びポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などのアクリル結着剤、SBR(styrene‐butadiene rubber)共重合体、及び改質されたスチレン‐ブタジエン共重合体のような多種の結着剤高分子を使用することができる。
【0039】
本発明で使用される結着剤の種類は負極の比表面積の大きさに応じて多様であり得る。
特に、ポリフッ化ビニリデン類(PVDFs)のような有機系結着剤は約1.5m/g以下、特に約0.5ないし約1.5m/g範囲の小さい比表面積を持つ負極に適用され得る一方、スチレンブタジエンゴム類(SBRs)のような水系結着剤は約1.5m/g以上、特に約1.5ないし約4.5m/g範囲の大きい比表面積を持つ負極に適用され得る。負極の比表面積が広いほど線状エステル化合物が負極活物質とより多く反応することは当然である。その結果、PVDF系結着剤の使用が負極と線状エステル化合物間の許容可能な還元性副反応を引き起こすこともあり得る。しかし、SBR系結着剤は両者間に過度な還元反応を促す。このような副反応は高温でさらに速く行われ、電池の性能を低下させる。したがって、水系結着剤を使用して製造した二次電池は、このような副反応を防止するために負極抑制剤が必要である。水系SBRがさらに望ましい。
【0040】
また、リチウム含有酸化物からなる正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が望ましく使用でき、例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、LiNi1−yCo、LiCo1−yMn、LiNi1−yMn(0≦y<1)、Li(NiCoMn)O(0<a<2、0<b<2、0<c<2、a+b+c=2)、LiMn2−zNi、LiMn2−zCo(0<z<2)、LiCoPO、LiFePOからなる群より選択されるいずれか1つまたはこれらのうちの2種以上の混合物を使用することができるが、これに限定されることはない。
【0041】
また、正極と負極間には通常セパレーターが介在されるが、従来セパレーターとして使用された通常の多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子から製造した多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができる。この他に通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を使用できるが、これに限定されることはない。
【0042】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限がないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ型、またはコイン型などであり得る。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0044】
実施例1
エチレンカーボネイト(EC):エチルプロピオネート(EP)=3:7(体積比)の組成を持つ混合有機溶媒にLiPFを添加して1MのLiPF溶液を製造した後、負極分解抑制剤としてビニル基を持つ環状カーボネイトの一種である4‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン‐2‐オン(VEC)を非水電解液の総重量を基準に2重量%含有されるように添加して非水電解液を製造した。
【0045】
実施例2
VECの代わりに、下記の1,3‐ジオキソラン‐2‐オニルメチルアリルスルホネート(VSEC)を添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【化5】
【0046】
実施例3
VECの代わりにフッ素化エチレンカーボネイトの一種である3‐フルオロエチレンカーボネイト(FEC)を添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0047】
実施例4
VECの代わりにビニレンカーボネイト(VC)を添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0048】
実施例5
VECの代わりに環状酸無水物の一種である無水コハク酸(SA)を1重量%添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0049】
実施例6
VECの代わりに環状サルファイトの一種であるエチレンサルファイト(ES)を添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0050】
実施例7
VECの代わりに飽和スルトンの一種である1,3‐プロパンスルトン(PS)を添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0051】
実施例8
VECの代わりに不飽和スルトンの一種である1,3‐プロペンスルトン(PRS)を添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0052】
実施例9
VECの代わりにアクリル系化合物の一種であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPEHA)を1重量%添加したことを除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0053】
実施例10
EC:EPの混合比を2:8にしてEPの比率を増加させた点を除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0054】
実施例11
EC:EPの混合比を6:4にしてEPの比率を減少させた点を除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0055】
実施例12
プロピレンカーボネイト(PC)を含むように溶媒の組成をEC:PC:EP=2:1:7に変化させた点を除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0056】
比較例1
VECを添加しないことを除き、実施例1と同様の方法でリチウム二次電池を製造した。
【0057】
比較例2
EC:EPの混合比を8:2にしてEPの比率を減少させた点を除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0058】
比較例3
ジメチルカーボネイト(DMC)を含むように溶媒の組成をEC:DMC:EP=3:4:3に変化させた点を除き、実施例1と同様の方法で非水電解液を製造した。
【0059】
<実験例1:抑制剤添加による負極SEIの形成−負極初期効率及び負極SEIの熱的安定性の比較>
正極として人造黒鉛、正極活物質としてLiCoO、負極活物質としてリチウムホイルを使用し、前述した方法で製造した実施例1〜12及び比較例1〜3の非水電解液、並びに結着剤としてSBRを使用して通常の方法でコイン型半電池を製造した。
【0060】
前記コイン電池を23℃の常温で0.1Cで3回充放電し、1回目及び3回目サイクルの充放電効率を表1に示した。表1から、負極分解抑制剤が添加された実施例1〜12及び比較例2、3が、負極分解抑制剤が添加されていない比較例1と比べて1回目の充放電効率は少し低いものの3回目の効率はより高いことが分かる。これは各添加剤が1回目の充放電時に負極の表面にSEIフィルム層を形成し、以後のサイクルで負極における電解液分解のような副反応を抑制するためである。
【0061】
各添加剤による負極上のSEIフィルムの形成可否を確認するため、下記のような実験を施した。5回の充放電を行った前記コイン型半電池を放電状態で分解して負極を取り出した。その後、取り出された負極に対してDSC(differential scanning calorimetry)分析を行い、発熱開始温度を表1に示した。参照までに、100ないし140℃で観察される発熱反応は負極表面のSEIフィルムの熱的崩壊に起因する。表1から分かるように、電解液添加剤の種類によって負極の発熱反応の様相が相異なる。以上の実験から、実施例の非水電解液に添加されたエチルプロピオネートの負極に対する反応抑制剤が負極SEIフィルム層の形成に関与していることを実験的に明確に確認することができた。
【表1】
【0062】
<実験例2:電池寿命、高率、低温、高温保存特性の比較>
実施例1〜12及び比較例1〜3で製造された電解液、正極活物質としてLiCoO、負極活物質として人造黒鉛、結着剤としてSBRを使用して通常の方法でパウチ型リチウム二次電池を製造した。製造されたパウチ型電池を、電解液を注入し、常温で2日間エイジング(aging)してから0.2Cレートで50分間充電した。次いで、脱ガス/再封止して室温で0.2Cで4.2Vまで定電流/定電圧条件で充電し、0.2Cで3.0Vまで定電流条件で放電することを初期充放電とする。
【0063】
寿命特性
上記のような方法で製造した電池を初期充放電した後、同じ電圧領域で1.0Cレートで充放電を300回施し、初期放電容量対比300回容量保持率を下記表2に示した。
【0064】
高率放電特性
上記のような方法で製造した電池を初期充放電した後、同じ電圧領域で1.0Cレートで充放電を4回施し、1.0Cレートで充電した後0.2Cレートで放電した。そして、1.0Cレートの4回目放電容量と0.2Cレートの放電容量との比を下記表2に示した。
【0065】
低温放電特性
上記のような方法で製造した電池を初期充放電した後、常温で同じ電圧領域で1.0Cレートで充電及び0.2Cレートで放電した。次いで、1.0Cレートで充電した電池を−20℃の低温チャンバーに入れた後、0.2Cレートで放電した。そして、常温と−20℃とにおける放電容量の比を下記表2に示した。
【0066】
高温保存特性
上記のような方法で製造した電池を初期充放電した後、それぞれ4.2Vで充電して80℃で24時間保存し、電池のOCV(open circuit voltage)の変化を測定してOCVの減少幅を表2に示した。
【0067】
下記表2の結果を参照すれば、エチルプロピオネートの負極に対する反応抑制剤が添加されていない比較例1の電池は、劣悪な寿命特性と高温保存特性を見せる。また、エチルプロピオネートの負極に対する反応抑制剤は添加されたものの、溶媒の組成がEC:EP=8:2あるいはEC:DMC:EP=3:4:3であってEPの含有量が少ない比較例2及び比較例3の電池は、比較例1に比べて高温保存時のOCVの減少幅は減少するが、寿命、高率及び低温放電特性において如何なる改善も見せない。一方、本発明に従ってEPの含有量が所定比率以上であって負極分解抑制剤が添加された実施例1〜12の電池は全ての評価項目で優れた特性を示すことが分かる。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のリチウム二次電池は、線状カーボネイトを排除した所定の混合有機溶媒を含むことで、高率充放電特性に優れるとともにサイクル寿命と低温放電特性が改善され、負極と有機溶媒との反応を抑制することで、特に高温における放電特性が向上する。