特許第6055470号(P6055470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6055470絶縁ワイヤ、電気機器および絶縁ワイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055470
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】絶縁ワイヤ、電気機器および絶縁ワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20161219BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   H01B7/02 G
   H01B7/02 A
   H01B13/00 517
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-521870(P2014-521870)
(86)(22)【出願日】2013年12月6日
(86)【国際出願番号】JP2013082818
(87)【国際公開番号】WO2014103665
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-287114(P2012-287114)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】大矢 真
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 真
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 恵一
【審査官】 石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−238384(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3040034(JP,U)
【文献】 特開2006−031980(JP,A)
【文献】 特開昭59−040409(JP,A)
【文献】 特開平06−290644(JP,A)
【文献】 特開2005−203334(JP,A)
【文献】 特開2012−113836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の外周面上に間接的に被覆された、気泡を有する熱硬化性樹脂を含む発泡絶縁層と、該発泡絶縁層の外側に結晶性樹脂の場合は融点が240℃以上であって25℃での貯蔵弾性率が1GPa以上である熱可塑性樹脂、または、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度が240℃以上であって25℃での貯蔵弾性率が1GPa以上である熱可塑性樹脂を含む外側絶縁層とを有することを特徴とする絶縁ワイヤ。
【請求項2】
前記発泡絶縁層が、気泡を有さない絶縁層を介して前記導体上に被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項3】
前記気泡を有さない絶縁層が、前記発泡絶縁層に含有する熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする請求項2に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項4】
前記外側絶縁層が、前記発泡絶縁層に接して被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項5】
前記発泡絶縁層と前記外側絶縁層との厚さの比(発泡絶縁層/外側絶縁層)が5/95〜95/5であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であり、かつ融点が270℃以上である熱可塑性樹脂を含んでいることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項7】
前記導体の断面形状が、円形であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項8】
前記発泡層の厚さが、60〜200μmであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項9】
前記絶縁ワイヤの部分放電開始電圧が、1190V以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項10】
モーターコイルに用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
【請求項11】
絶縁ワイヤの製造方法であって、
前記絶縁ワイヤが、導体と、該導体の外周面上に直接または間接的に被覆された、気泡を有する熱硬化性樹脂を含む発泡絶縁層と、該発泡絶縁層の外側に結晶性樹脂の場合は融点が240℃以上である熱可塑性樹脂、または、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度が240℃以上である熱可塑性樹脂を含む外側絶縁層とを有する絶縁ワイヤであり、
導体の外周面に直接または間接的に発泡絶縁層を形成するワニスを塗布し、焼き付ける過程で発泡させて発泡絶縁層を形成する工程と、発泡絶縁層の外周面に外側絶縁層を形成する熱可塑性樹脂組成物を押出成形して外側絶縁層を形成する工程とを有する絶縁ワイヤの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤを用いた電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ワイヤ、電気機器および絶縁ワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータは、効率的な可変速制御装置として、多くの電気機器に取り付けられるようになってきている。しかし、数kHz〜数十kHzでスイッチングが行われ、それらのパルス毎にサージ電圧が発生する。このようなインバータサージは、伝搬系内におけるインピーダンスの不連続点、例えば接続する配線の始端または終端等において反射が発生し、その結果、最大でインバータ出力電圧の2倍の電圧が印加される。特に、IGBT等の高速スイッチング素子により発生する出力パルスは、電圧峻度が高く、それにより接続ケーブルが短くてもサージ電圧が高く、更にその接続ケーブルによる電圧減衰も小さく、その結果、インバータ出力電圧の2倍近い電圧が発生する。
【0003】
インバータ関連機器、例えば高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルには、マグネットワイヤとして主にエナメル線である絶縁ワイヤが用いられている。従って、前述したように、インバータ関連機器では、インバータ出力電圧の2倍近い電圧がかかることから、インバータサージに起因する部分放電劣化を最小限にすることが、絶縁ワイヤに要求されるようになってきている。
【0004】
一般に、部分放電劣化とは、電気絶縁材料の部分放電(微小な空隙状欠陥などがある部分の放電)で発生した荷電粒子の衝突による分子鎖切断劣化、スパッタリング劣化、局部温度上昇による熱溶融もしくは熱分解劣化、または、放電で発生したオゾンによる化学的劣化等が複雑に起こる現象を言う。実際に部分放電劣化した電気絶縁材料は、その厚みの減少が見られる。
【0005】
このような部分放電による絶縁ワイヤの劣化を防ぐため、絶縁皮膜に粒子を配合することにより、耐コロナ放電性を向上させた絶縁ワイヤが提案されている。例えば、絶縁皮膜中に金属酸化物微粒子やケイ素酸化物微粒子を含有させたもの(特許文献1参照)、絶縁皮膜中にシリカを含有させたもの(特許文献2参照)が提案されている。これらの絶縁ワイヤは、粒子を含有する絶縁皮膜により、コロナ放電による侵食劣化を低減するものである。しかし、これらの粒子を含有した絶縁皮膜を有する絶縁電線は、その効果が不十分であり、部分放電開始電圧が低下することや皮膜の可撓性が低下するという問題がある。
【0006】
部分放電が発生しない絶縁ワイヤ、すなわち、部分放電の発生電圧が高い絶縁ワイヤを得る方法もある。これには絶縁ワイヤの絶縁層の厚さを厚くするか、絶縁層に比誘電率が低い樹脂を用いるといった方法が考えられる。
【0007】
しかし、絶縁層を厚くすると絶縁ワイヤが太くなり、その結果、電気機器の大型化を招く。このことは、近年のモーターや変圧器に代表される電気機器における、小型化という要求に逆行する。例えば、具体的には、ステータースロット中に何本の電線を入れられるかにより、モーターなどの回転機の性能が決定するといっても過言ではなく、その結果、ステータースロット断面積に対する導体断面積の比率(占積率)を、近年、特に高くすることが要求されている。従って、絶縁層の厚さを厚くすることは占積率が低くすることになり、要求性能を考慮すると望ましくない。
【0008】
一方、絶縁層の比誘電率に対しては、絶縁層の材料として常用される樹脂のほとんどの比誘電率が3〜4の間にあるように比誘電率が特別低いものがない。また、現実的には、絶縁層に求められる他の特性(耐熱性、耐溶剤性、可撓性等)を考慮した場合、必ずしも比誘電率が低いものを選択できるという訳ではない。
【0009】
絶縁層の実質的な比誘電率を小さくする手段としては、絶縁層を発泡体で形成することが考えられ、従来から、導体と発泡絶縁層とを有する発泡電線が通信電線として広く用いられている。従来は、例えばポリエチレン等のオレフィン系樹脂やフッ素樹脂を発泡させて得られた発泡電線がよく知られ、具体的には、発泡させたポリエチレン絶縁電線(特許文献3参照)、発泡させたフッ素樹脂絶縁電線(特許文献4参照)などが挙げられる。
しかし、これらのような従来の発泡電線では耐傷性の点において劣り、絶縁ワイヤとしての性能を満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3496636号公報
【特許文献2】特許第4584014号公報
【特許文献3】特許第3299552号公報
【特許文献4】特許第3276665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高い部分放電開始電圧、ならびに耐摩耗性(耐傷性)を具備した、優れた絶縁ワイヤとその製造方法を提供することを課題とする。
さらに上記の優れた性能の絶縁ワイヤを用いた電気機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は下記の手段により解決された。
(1)導体と、該導体の外周面上に間接的に被覆された、気泡を有する熱硬化性樹脂を含む発泡絶縁層と、該発泡絶縁層の外側に結晶性樹脂の場合は融点が240℃以上であって25℃での貯蔵弾性率が1GPa以上である熱可塑性樹脂、または、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度が240℃以上であって25℃での貯蔵弾性率が1GPa以上である熱可塑性樹脂を含む外側絶縁層とを有することを特徴とする絶縁ワイヤ。
(2)前記発泡絶縁層が、気泡を有さない絶縁層を介して前記導体上に被覆されていることを特徴とする(1)に記載の絶縁ワイヤ。
(3)前記気泡を有さない絶縁層が、前記発泡絶縁層に含有する熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする(2)に記載の絶縁ワイヤ。
(4)前記外側絶縁層が、前記発泡絶縁層に接して被覆されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
)前記発泡絶縁層と前記外側絶縁層との厚さの比(発泡絶縁層/外側絶縁層)が5/95〜95/5であることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
)前記熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であり、かつ融点が270℃以上である熱可塑性樹脂を含んでいることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
)前記導体の断面形状が、円形であることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
)前記発泡層の厚さが、60〜200μmであることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
)前記絶縁ワイヤの部分放電開始電圧が、1190V以上であることを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
10)モーターコイルに用いられることを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤ。
11)絶縁ワイヤの製造方法であって、
前記絶縁ワイヤが、導体と、該導体の外周面上に直接または間接的に被覆された、気泡を有する熱硬化性樹脂を含む発泡絶縁層と、該発泡絶縁層の外側に結晶性樹脂の場合は融点が240℃以上である熱可塑性樹脂、または、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度が240℃以上である熱可塑性樹脂を含む外側絶縁層とを有する絶縁ワイヤであり、
導体の外周面に直接または間接的に発泡絶縁層を形成するワニスを塗布し、焼き付ける過程で発泡させて発泡絶縁層を形成する工程と、発泡絶縁層の外周面に外側絶縁層を形成する熱可塑性樹脂組成物を押出成形して外側絶縁層を形成する工程とを有する絶縁ワイヤの製造方法。
12)前記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の絶縁ワイヤを用いた電気機器。
【0013】
本発明において、「結晶性」とは結晶化に好都合な環境下で、高分子の鎖の少なくとも一部に規則正しく配列された結晶組織を持つことができる特性をいい、「非晶性」とはほとんど結晶構造を持たない無定形状態を保つことをいい、硬化時に高分子の鎖がランダムな状態になる特性をいう。
また、本発明において、「ガラス転移温度」および「融点」は、熱可塑性樹脂が複数のガラス転移温度または融点を有する場合は最も低いガラス転移温度または融点をいう。
さらに、本発明において、「間接的に被覆」とは発泡絶縁層が他の層を介して導体を被覆していることを意味し、「間接的に塗布」とはワニスが他の層を介して導体上に塗布されることを意味する。ここで、他の層としては、たとえば、発泡絶縁層以外の、気泡をもたない内側絶縁層または密着層(接着層)などが挙げられる。
【0014】
本発明の上記および他の特徴および利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、部分放電開始電圧、耐摩耗性に優れる絶縁ワイヤおよびその製造方法を提供できる。加えて、本発明により、優れた性能の絶縁ワイヤを用いた電気機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は本発明の絶縁ワイヤの一実施態様を示した断面図であり、図1(b)は本発明の絶縁ワイヤの別の実施態様を示した断面図である。
図2図2(a)は本発明の絶縁ワイヤのさらに別の実施態様を示した断面図であり、図2(b)は本発明の絶縁ワイヤのさらにまた別の実施態様を示した断面図である。
図3図3(a)は本発明の絶縁ワイヤのまた別の実施態様を示した断面図であり、図3(b)は本発明の絶縁ワイヤの別の実施態様を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の発泡電線の実施態様について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1(a)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤの一実施態様は、断面が円形の導体1と、導体1の外周面を被覆した、熱硬化性樹脂からなる発泡絶縁層2と、発泡絶縁層2の外周面を被覆した、熱可塑性樹脂からなる外側絶縁層3を有してなる。この一実施態様は、発泡絶縁層2および外側絶縁層3も断面は円形である。
図1(b)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤの別の実施態様は、導体1として断面が矩形のものを用いたもので、それ以外は基本的に図1(a)に示す絶縁ワイヤと同様である。この実施態様は、導体1の断面が矩形であるので、熱硬化性樹脂からなる発泡絶縁層2および熱可塑性樹脂からなる外側絶縁層3も断面が矩形である。
【0019】
図2(a)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤのさらに別の実施態様では、気泡を有する熱硬化性樹脂からなる発泡絶縁層2の内側であって導体1の外周に熱硬化性樹脂からなる内側絶縁層25を設けた以外は図1(a)に示す絶縁ワイヤと同様である。
図2(b)に示した本発明の絶縁ワイヤのさらにまた別の実施態様では、発泡絶縁層2を厚さ方向に2つの層に分割する内部絶縁層26を有する以外は図2(a)に示す絶縁ワイヤと同様である。すなわち、この実施態様では、導体1上に、内側絶縁層25、発泡絶縁層2、内部絶縁層26、発泡絶縁層2および外側絶縁層3がこの順で積層形成されている。
本発明において、「内側絶縁層」は、気泡を有していないこと以外は発泡絶縁層と基本的に同様であり、「内部絶縁層」は形成される位置が異なること以外は内側絶縁層と基本的に同様である。
【0020】
図3(a)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤのまた別の実施態様では、気泡を有する熱硬化性樹脂からなる発泡絶縁層2と外側絶縁層3との間に密着層35を介装した以外は図2(a)に示す絶縁ワイヤと同様である。
図3(b)に示した本発明の絶縁ワイヤの別の実施態様では、気泡を有する熱硬化性樹脂からなる発泡絶縁層2と外側絶縁層3との間に密着層35を介装した以外は図2(b)に示す絶縁ワイヤと同様である。
【0021】
本発明において、密着層35は、気泡を有する発泡絶縁層2と外側絶縁層3との間に設けられ、発泡絶縁層2と外側絶縁層3との層間密着力を向上させる層である。
以上の各図において同符号は同じものを意味し、説明を繰り返さない。
【0022】
導体1は、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金またはそれらの組み合わせ等で作られている。導体1の断面形状は限定されるものではなく、円形、矩形(平角)などが適用できる。
【0023】
内側絶縁層25は、導体1の外周面に形成され、後述する発泡絶縁層2を形成する熱硬化性樹脂で気泡をもたない状態に形成される層である。
また、内部絶縁層26は、発泡絶縁層2の内部に、後述する発泡絶縁層2を形成する熱硬化性樹脂で気泡をもたない状態に形成される層である。
この発明において、内側絶縁層25および内部絶縁層26は所望により形成される。
【0024】
発泡絶縁層2は、気泡を有する熱硬化性樹脂を含む層であって導体1の外周面上に形成されている。発泡絶縁層2を形成する熱硬化性樹脂は、導体1に塗布し焼き付けて絶縁皮膜を形成できるようワニス状にできるものが好ましい。例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEsI)などを用いることができる。
より好ましくは、耐溶剤性に優れるポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)である。本発明において絶縁被膜としては熱硬化性樹脂を用いるが、後述のポリアミドイミド樹脂などが好ましく用いられる。
なお、使用する樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリアミドイミド樹脂としては、市販品(例えば、HI406(日立化成社製、商品名)など)を用いるか、通常の方法により、例えば極性溶媒中でトリカルボン酸無水物とジイソシアネート類を直接反応させて得たものを用いることができる。
ポリイミドとしては、例えば、Uイミド(ユニチカ社製、商品名)、U−ワニス(宇部興産社製、商品名)、HCIシリーズ(日立化成社、商品名)、オーラム(三井化学社製、商品名)などを使用することができる。
【0026】
本発明においては、特性に影響を及ぼさない範囲で、発泡絶縁層2を形成する熱硬化性樹脂に対して、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤、およびエラストマーなどの各種添加剤を配合してもよい。また、得られる絶縁ワイヤに、発泡絶縁層2とは別に、これらの添加剤を含有する樹脂からなる層を積層してもよいし、これらの添加剤を含有する塗料をコーティングしてもよい。
【0027】
また、熱硬化性樹脂にはガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂を混合しても良い。熱可塑性樹脂を含有することで可とう性、伸び特性が改善される。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは180℃以上であり、さらに好ましくは210〜350℃である。このような熱可塑性樹脂の添加量は樹脂固形分の5〜50質量%が好ましい。
【0028】
この目的で使用可能な熱可塑性樹脂としては、非晶性樹脂であればよい。たとえば、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニルスルホン(PPSU)およびポリイミドから選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。ポリエーテルイミドとしては、例えば、ウルテム(GEプラスチック社製、商品名)などを使用することができる。ポリエーテルスルホンとしては、例えば、スミカエクセルPES(住友化学社製、商品名)、PES(三井化学社製、商品名)、ウルトラゾーンE(BASFジャパン社製、商品名)、レーデルA(ソルベイアドバンストポリマーズ社製、商品名)などを使用することができる。ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ザイロン(旭化成ケミカルズ社製、商品名)、ユピエース(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名)などを使用することができる。ポリフェニルスルホンとしては、例えば、レーデルR(ソルベイアドバンストポリマー社製、商品名)などを使用することができる。ポリイミドとしては、例えば、U−ワニス(宇部興産社製、商品名)、HCIシリーズ(日立化成社製、商品名)、Uイミド(ユニチカ社製、商品名)、オーラム(三井化学社製、商品名)などを使用することができる。溶剤に溶けやすい点においてポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミドがより好ましい。
【0029】
気泡を有する熱硬化性樹脂で形成された発泡絶縁層2の比誘電率を低減するために、発泡絶縁層2の発泡倍率は、1.2倍以上が好ましく、1.4倍以上がより好ましい。発泡倍率の上限に制限はないが、通常5.0倍以下とすることが好ましい。発泡倍率は、発泡のために被覆した樹脂の密度(ρf)および発泡前の密度(ρs)を水中置換法により測定し、(ρs/ρf)により算出する。
【0030】
発泡絶縁層2は、平均気泡径が、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。5μmを超えると絶縁破壊電圧が低下することがあり、5μm以下とすると絶縁破壊電圧を良好に維持できる。さらに、3μm以下とすることにより、絶縁破壊電圧をより確実に保持できる。平均気泡径の下限に制限はないが、1nm以上であることが実際的であり、好ましい。平均気泡径は、発泡絶縁層2の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意に選択した20個の気泡の直径を画像寸法計測ソフト(三谷商事社製WinROOF)を用いて径測定モードで測定し、これらを平均して算出した値である。この気泡径は、発泡倍率、樹脂の濃度、粘度、温度、発泡剤の添加量、焼付け炉の温度等によって調整できる。
発泡絶縁層2の厚さに制限はないが、5〜200μmが好ましく、10〜200μmが実際的であり、より好ましい。
【0031】
発泡絶縁層2は空気を含むことで比誘電率を低下させ、電圧が印加された時に線間の空気ギャップに発生する部分放電やコロナ放電を抑制することができる。
【0032】
発泡絶縁層2は、熱硬化性樹脂と、特定の有機溶剤および少なくとも1種類の高沸点溶剤を含む2種類以上、好ましくは3種以上の溶剤とを混合した絶縁ワニスを導体1の周囲に塗布、焼き付けることにより得ることができる。ワニスの塗布は導体1上に、直接、塗布しても、間に別の樹脂層を介在させて行ってもよい。
【0033】
発泡絶縁層2に使用されるワニスの有機溶剤は熱硬化性樹脂を溶解させる溶剤として作用する。この有機溶剤としては熱硬化性樹脂の反応を阻害しない限りは特に制限はなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶剤、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン等のラクトン系溶剤、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム系溶剤、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤、スルホラン等のスルホン系溶剤などが挙げられる。これらのうちでは高溶解性、高反応促進性等の点でアミド系溶剤、尿素系溶剤が好ましく、加熱による架橋反応を阻害しやすい水素原子をもたない等の点で、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素がより好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。この有機溶剤の沸点は、好ましくは160℃〜250℃、より好ましくは165℃〜210℃のものである。
【0034】
気泡形成に使用可能な高沸点溶剤は沸点が好ましくは180℃〜300℃、より好ましくは210℃〜260℃のものである。具体的には、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルなどを用いることができる。気泡径のばらつきが小さい点においてトリエチレングリコールジメチルエーテルがより好ましい。これら以外にも、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが使用できる。
【0035】
高沸点溶剤は、1種であってもよいが、気泡が長い温度範囲で発生する効果が得られる点で、少なくとも2種を組み合わせて用いるのが好ましい。高沸点溶剤の少なくとも2種の好ましい組み合わせは、テトラエチレングリコールジメチルエーテルとジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテル、より好ましくはジエチレングリコールジブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテルの組を含むものである。
【0036】
気泡形成用の高沸点溶剤は熱硬化性樹脂を溶解させる溶剤よりも高沸点であるのが好ましく、1種類でワニスに添加される場合には熱硬化性樹脂の溶剤より10℃以上高いことが好ましい。また、1種類で使用した場合には高沸点溶剤は気泡核剤と発泡剤の両方の役割を有することがわかっている。一方、2種類以上の高沸点溶剤を使用した場合には、最も高い沸点のものが発泡剤、中間の沸点を持つ気泡形成用の高沸点溶剤が気泡核剤として作用する。最も沸点の高い溶剤は特定の有機溶剤より20℃以上高いことが好ましく、30〜60℃高いのがより好ましい。中間の沸点を持つ気泡形成用の高沸点溶剤は、発泡剤として作用する溶剤の沸点と特定の有機溶剤の中間に沸点があればよく、発泡剤の沸点と10℃以上の沸点差を持っていることが好ましい。中間の沸点を持つ気泡形成用の高沸点溶剤は発泡剤として作用する溶剤より熱硬化性の溶解度が高い場合、ワニス焼き付け後に均一な気泡を形成させることができる。2種類以上の高沸点溶剤を使用する場合に、使用比率は、中間の沸点を持つ高沸点溶剤に対する最も高い沸点を持つ高沸点溶剤との使用比率は、たとえば、質量比で99/1〜1/99であるのが好ましく、気泡の生成のしやすさの点において10/1〜1/10であることがより好ましい。
【0037】
外側絶縁層3は、発泡絶縁層2の外側に特定の熱可塑性樹脂で形成される。本発明者らは、発泡絶縁層2に空気が含まれることによって形状を変形させられることを利用し、この発泡絶縁層2の上層に外側絶縁層3として熱可塑性樹脂の層を設けることで空気ギャップを埋めることができ、よって部分放電の発生を抑制する性能に優れることを見出した。
この効果をさらに高めるために、外側絶縁層3に使用される熱可塑性樹脂として、非晶性樹脂である場合には240℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂、または、結晶性樹脂である場合には240℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を用いる。
熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移温度は、好ましくは250℃以上であり、上限は特に限定されないが、例えば、450℃である。
【0038】
本発明の絶縁ワイヤは電気部品用の部材に用いられるので、耐熱性、耐化学薬品性に優れた熱可塑性樹脂を外側絶縁層3の材料として使用することが好ましい。このような熱可塑性樹脂として、本発明においては、例えば、エンジニアリングプラスチックおよびスーパーエンジニアリングプラスチック等の熱可塑性樹脂が好適である。
【0039】
エンジニアリングプラスチックおよびスーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド(PA、ナイロンともいう)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチックの他、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(Uポリマー)、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、ポリアミドイミド(PAI)、液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック、さらに、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)をベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の前記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイが挙げられる。本発明においては、耐熱性と耐ストレスクラック性の点において、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)を特に好ましく用いることができる。また、上記に示した樹脂名によって使用樹脂が限定されるものではなく、先に列挙した樹脂以外にも、それらの樹脂より性能的に優れる樹脂であれば使用可能であるのは勿論である。
【0040】
これらのうち結晶性熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチック、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)(変性PEEKを含む)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)が挙げられる。また、上記結晶性樹脂を用いたポリマーアロイが挙げられる。一方、非晶性熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、非晶性熱可塑性ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0041】
本発明においては、これら熱可塑性樹脂の中から、融点が240℃以上である結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が240℃以上である非晶性樹脂の熱可塑性樹脂を選択する。例えば、融点が240℃以上である結晶性の熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)(mp.388℃)、PPS(mp.275℃)、PEEK(mp.340℃)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)(mp.340℃)等が挙げられる。ガラス転移温度が240℃以上である非晶性樹脂の熱可塑性樹脂としては、非晶性熱可塑性ポリイミド樹脂(Tg.250℃)、ポリアミドイミド(PAI)(Tg.280〜290℃)、ポリアミドイミド(PAI)(Tg.435℃)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)(Tg.280℃)等が挙げられる。融点は、DSC(示差走査熱量分析、島津社製DSC−60(商品名))を用いてサンプル10mg、昇温速度10℃/minのときの融解点を観察することにより測定できる。ガラス転移温度は、融点と同様にDSCを用いてサンプル10mg、昇温速度10℃/minのときのガラス転移温度を観察することにより測定できる。
【0042】
外側絶縁層3は、融点が240℃以上である結晶性の熱可塑性樹脂、または、ガラス転移温度が240℃以上である非晶性樹脂の熱可塑性樹脂を含有していればよいが、これらに代えて、またはこれらに加えて、融点が270℃以上である結晶性の熱可塑性樹脂を含有していると、さらに耐熱性が向上し、そのほか機械強度も上昇する傾向があるためより巻線としての性能が上がるという効果が得られる点で、好ましい。外側絶縁層3における融点が270℃以上である結晶性の熱可塑性樹脂の含有量は、外側絶縁層3を形成する樹脂成分中10質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのが特に好ましい。なお、融点が270℃以上である結晶性の熱可塑性樹脂は前記した通りである。
【0043】
外側絶縁層3に含有される熱可塑性樹脂は、その貯蔵弾性率が25℃において1GPa以上であることがより好ましい。25℃での貯蔵弾性率が1GPa未満の場合には熱可塑性樹脂が変形する効果は高いが、摩耗特性が低下するためコイル成形する際に低負荷の条件にしなければならないなどの問題が発生することがある。1GPa以上の場合には熱可塑性の形状可変の能力を損なうことなく、さらに耐摩耗特性を良好なレベルで維持することが可能である。熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率は25℃において、2GPa以上であるのがさらに好ましい。この貯蔵弾性率の上限値は特に限定されないが、高すぎても巻線として必要な可とう性が低下するという問題があるので、例えば、6GPaであるのがよい。
従って、本発明では、その貯蔵弾性率が25℃において1GPa以上である熱可塑性樹脂を使用する。
【0044】
本発明において、絶縁電線の各絶縁層を形成する熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率は、粘弾性アナライザー(セイコーインスツルメンツ社製:DMS200(商品名))を用いて測定される値である。具体的には、絶縁電線の各絶縁層を形成する熱可塑性樹脂で作製された厚さ0.2mmの試験片を用いて、昇温速度2℃/minおよび周波数10Hzの条件にて、25℃に安定させた状態での貯蔵弾性率の測定値を記録し、この記録値を熱可塑性樹脂の25℃貯蔵弾性率とする。
【0045】
25℃における貯蔵弾性率が1GPa以上である、外側絶縁層3に含有される熱可塑性樹脂は、たとえば、PEEKとしてビクトレックスジャパン社製のPEEK450G(商品名、25℃の貯蔵弾性率:3840MPa、300℃の貯蔵弾性率:187MPa、融点:340℃)、変性PEEKとしてソルベイ社製のアバスパイアAV−650(商品名、25℃の貯蔵弾性率:3700MPa、300℃の貯蔵弾性率:144MPa、融点:345℃)またはAV−651(商品名、25℃の貯蔵弾性率:3500MPa、300℃の貯蔵弾性率:130MPa、融点:345℃)、TPIとして三井化学社のオーラムPL450C(商品名、25℃の貯蔵弾性率:1880MPa、300℃の貯蔵弾性率:18.9MPa、融点:388℃)、PPSとしてポリプラスチックス社製のフォートロン0220A9(商品名、25℃の貯蔵弾性率:2800MPa、300℃の貯蔵弾性率:<10MPa、融点:278℃)またはDIC社製のPPS FZ−2100(商品名、25℃の貯蔵弾性率:1600MPa、300℃の貯蔵弾性率:<10MPa、融点:275℃)、SPSとして出光興産社製:ザレックS105(商品名、25℃の貯蔵弾性率:2200MPa、ガラス転移温度:280℃)、PAとしてナイロン6,6(ユニチカ社製:FDK−1(商品名)、25℃の貯蔵弾性率:1200MPa、300℃の貯蔵弾性率:<10MPa、融点:265℃)、ナイロン4,6(ユニチカ社製:F−5000(商品名)、25℃の貯蔵弾性率:1100MPa、融点:292℃)、ナイロン6,T(三井石油化学社製:アーレンAE−420(商品名)、25℃の貯蔵弾性率:2400MPa、融点:320℃)、ナイロン9,T(クラレ社製:ジェネスタN1006D(商品名)、25℃の貯蔵弾性率:1400MPa、融点:262℃)等の市販品を挙げることができる。
【0046】
外側絶縁層3は、耐部分放電性物質を実質的に含有していない。ここで、耐部分放電性物質は、部分放電劣化を受けにくい絶縁材料で、電線の絶縁皮膜に分散させることで、課電寿命特性を向上させる作用を有する物質を言う。耐部分放電性物質としては、たとえば、酸化物(金属もしくは非金属元素の酸化物)、窒化物、ガラス、マイカなどがあり、具体例としては耐部分放電性物質3は、シリカ、二酸化チタン、アルミナ、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、窒化ガリウムなどの微粒子が挙げられる。また、耐部分放電性物質を「実質的に含有していない」とは耐部分放電性物質を外側絶縁層3に積極的に含有させないことを意味し、完全に含有していないことに加えて、本発明の目的を損なわない程度の含有量で含有されている場合をも包含する。たとえば、本発明の目的を損なわない程度の含有量として、外側絶縁層3を形成する樹脂成分100質量部に対して30質量部以下の含有量が挙げられる。
【0047】
外側絶縁層3を形成する熱可塑性樹脂に対して、特性に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤、およびエラストマーなどの各種添加剤を配合してもよい。
【0048】
外側絶縁層3の厚さに制限はないが、5〜150μmが好ましく、20〜150μmが実際的であり、より好ましい。
また、発泡絶縁層2と外側絶縁層3の厚さの比は、適切であるのがよい。すなわち、発泡絶縁層2が厚いほど比誘電率が低下し、部分放電開始電圧を上昇させることが可能である。一方で、耐摩耗性が低下することがある。強度および可とう性などの機械特性を上昇させたい場合には外側絶縁層3を厚く設計すれば良い。発泡絶縁層2と外側絶縁層3のとの厚さの比(発泡絶縁層2/外側絶縁層3)が5/95〜95/5であれば、強度および放電開始電圧が高くなるという特長を発現することを見出した。特に機械特性が求められる場合には5/95〜60/40が好ましい。
【0049】
さらに本発明のように、発泡絶縁層2中に気泡を形成し、かつこの発泡絶縁層2の外層に気泡をもたない外側絶縁層3を形成した場合にはコイル形成した場合の隙間を自身が若干潰れて変形することによって埋めることが可能である。隙間がない場合には線間で発生する部分放電およびコロナ放電をより効果的に抑制することができる。
本発明において「気泡をもたない」とは完全に気泡のない状態に加えて、本発明の目的を損なわない程度に気泡が存在する状態をも包含する。たとえば、本発明の目的を損なわない程度として、外側絶縁層3の断面において、断面の全面積に対する気泡の合計面積の割合が20%以下であることが挙げられる。
【0050】
外側絶縁層3は、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を、発泡絶縁層2の周囲に押出成形などの成形方法によって成形することにより形成することができる。熱可塑性樹脂組成物の成形は発泡絶縁層2の周囲に直接または間に別の樹脂層を介在させることもできる。この熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に加えて、たとえば、発泡絶縁層2を形成するワニスに添加される各種添加剤または前記有機溶剤などを、特性に影響を及ぼさない範囲で、含有していてもよい。
【0051】
密着層35は、発泡絶縁層2と外側絶縁層3との間に、外側絶縁層3を形成する非晶性熱可塑性樹脂と同様の非晶性熱可塑性樹脂で、形成される。密着層35と外側絶縁層3とは同じ非晶性熱可塑性樹脂で形成されても異なる非晶性熱可塑性樹脂で形成されてもよい。この密着層35は、例えば、5μm未満の薄い皮膜として形成される。なお、外側絶縁層3の成形条件によっては密着層35と外側絶縁層3とが混ざり合って絶縁電線となった時に正確な膜厚を測定できないこともある。
【0052】
本発明の絶縁ワイヤは、導体の外周面に発泡絶縁層を形成し、次いで外側絶縁層を形成することで、製造できる。具体的には、導体1の外周面に、直接または間接的に、すなわち所望により内側絶縁層25などを介して発泡絶縁層2を形成するワニスを塗布し、焼き付ける過程で発泡させて発泡絶縁層2を形成する工程と、発泡絶縁層の外周面に外側絶縁層を形成する熱可塑性樹脂組成物を押出成形して外側絶縁層を形成する工程とを実施することで、製造できる。
ここで、焼き付けは、溶剤の揮発および熱硬化性樹脂の硬化が可能であれば特に限定されず、たとえば、熱風炉または電気炉などで500〜600℃に加熱する方法が挙げられる。
【0053】
内側絶縁層25および内部絶縁層26は、内側絶縁層25または内部絶縁層26を形成するワニスを塗布し、焼付けることによって、または樹脂組成物を成形することによって、それぞれ、形成できる。
密着層35は、発泡絶縁層2上に、外側絶縁層3を形成する非晶性熱可塑性樹脂と同様の非晶性熱可塑性樹脂を溶剤に溶解させた塗料を塗布し、溶剤を蒸発させることによって、形成できる。
【0054】
本発明の絶縁ワイヤは、前記特徴を有しているから、各種電気機器(電子機器ともいう。)など、耐電圧性や耐熱性を必要とする分野に利用可能である。たとえば、本発明の絶縁ワイヤはモーターやトランスなどに用いられ、高性能の電気機器を構成できる。特にHV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)の駆動モーター用の巻線として好適に用いられる。
このように、本発明によれば、絶縁ワイヤを備えた、電気機器、特にHVおよびEVの駆動モーターを提供できる。なお、本発明の絶縁ワイヤがモーターコイルに用いられる場合にはモーターコイル用絶縁ワイヤとも称する。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、これは本発明を制限するものではない。なお、下記の例中、組成を示す%は質量%をいう。
【0056】
実施例および比較例の絶縁ワイヤを以下のようにして作製した。
【0057】
(実施例1)
図2(a)に示す絶縁ワイヤを下記のようにして作成した。
まず、発泡絶縁層2を形成するのに用いる発泡ポリアミドイミドワニスを以下のように作製した。2L容セパラブルフラスコにHI−406シリーズ(樹脂成分32質量%のNMP溶液、NMPの沸点202℃)(商品名、日立化成社製)1000gを入れ、この溶液に気泡形成剤としてトリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)100gとジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点256℃)150gを添加することにより得た。また、内側絶縁層25を形成するのに用いる内側絶縁層25形成用ポリアミドイミドワニスはHI−406シリーズ(樹脂成分32質量%のNMP溶液)を用いた。この樹脂1000gに溶剤としてNMPを用いて30%樹脂溶液として用いた。
各ワニスはディップコーティングにより塗布し、ダイスによって塗布量を調節した。具体的には、1.0mmφの銅導体1に調製した内側絶縁層25形成用ポリアミドイミドワニスを塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて厚さ4μmの内側絶縁層25を形成した。次いで、内側絶縁層25上に調製した発泡ポリアミドイミドワニスを塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて厚さ19μmの発泡絶縁層2を形成した。このようにして内側絶縁層25および発泡絶縁層2が形成された成型体(下引き線ということもある。)を得た。次いで、この下引き線に対して、PPS樹脂(DIC社製FZ−2100、融点275℃、貯蔵弾性率1.6GPa)をダイス温度320℃、樹脂圧30MPaで33μmの厚さとなるように押出機により被覆して、実施例1の絶縁ワイヤを製造した。
【0058】
(実施例2)
図1(a)に示す絶縁ワイヤを次のようにして作成した。1.0mmφの銅導体1の外周面に実施例1で調製した発泡ポリアミドイミドワニスを直接塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて厚さ70μmの発泡絶縁層2が形成された成型体(下引き線)を得た。次いで、この下引き線に対して、TPI樹脂(三井化学社製PL450C、融点388℃、貯蔵弾性率1.9GPa)をダイス温度380℃、樹脂圧30MPaで8μmの厚さとなるように押出機により被覆し、実施例2の絶縁ワイヤを製造した。
【0059】
(実施例3)
図2(a)に示す絶縁ワイヤを下記のようにして作成した。
まず、発泡絶縁層2を形成するのに用いる発泡ポリイミドワニスを以下のように作製した。2L容セパラブルフラスコに、Uイミド(樹脂成分25質量%のNMP溶液)(ユニチカ社製、商品名)1000gを入れ、溶剤としてNMP(沸点202℃)75g、DMAC(沸点165℃)150gおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点275℃)200gを添加することにより得た。内側絶縁層25を形成するのに用いる内側絶縁層25形成用ポリイミドワニスはUイミドを用い、その樹脂1000gに溶剤としてDMAC250gを加えて調製した。
1.0mmφの銅導体1の外周面に内側絶縁層25形成用ポリイミドワニスを塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて厚さ4μmの内側絶縁層25を形成した。次いで、内側絶縁層25上に調製した発泡ポリイミドワニスを塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて厚さ60μmの発泡絶縁層2を形成した。このようにして内側絶縁層25および発泡絶縁層2が形成された成型体(下引き線)を得た。次いで、この引き線に対して、PEEK樹脂(ビクトレックス社製、商品名:PEEK450G、融点340℃、貯蔵弾性率3.8GPa)をダイス温度420℃、樹脂圧30MPaで30μmの厚さとなるように押出機により被覆し、実施例3の絶縁ワイヤを製造した。
【0060】
(実施例4)
図2(a)に示す絶縁ワイヤを下記のようにして作成した。まず、発泡絶縁層2を形成するのに用いる発泡ポリエステルイミドワニス(第1表中、PEsI)を以下のように作製した。2L容セパラブルフラスコに、ポリエステルイミドワニス(Neoheat8600A;東特塗料社製商品名)1000gを入れ、溶剤としてNMP(沸点202℃)75g、DMAC(沸点165℃)50gおよびトリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)200gを添加することにより得た。内側絶縁層25を形成するのに用いる内側絶縁層25形成用ポリエステルイミドワニスはNeoheat8600Aを用い、その樹脂1000gに溶剤としてDMAC250gを加えて調製した。
1.0mmφの銅導体1の外周面に内側絶縁層25形成用ポリエステルイミドワニスを塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて厚さ3μmの内側絶縁層25を形成した。次いで、内側絶縁層25上に調製した発泡ポリエステルイミドワニスを塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて膜厚5μmの発泡絶縁層2を形成した。このようにして内側絶縁層25および発泡絶縁層2が形成された成型体(下引き線)を得た。次いで、この引き線に対して、SPS樹脂(出光興産社製、ザレックS105、ガラス転移温度280℃、貯蔵弾性率2.2GPa)をダイス温度360℃、樹脂圧20MPaで90μmの厚さとなるように押出機により被覆し、実施例4の絶縁ワイヤを製造した。
【0061】
(実施例5)
図3(a)に示す絶縁ワイヤを次のようにして作成した。膜厚が異なること以外は実施例1と同様にして下引き線を作製した。次いで、下引き線の発泡絶縁層2上に、PPSU20g(レーデルR(商品名)、ソルベイ社製)をNMP100gに溶解させた液体を塗布し、発泡絶縁層2と同様にして炉温500℃で焼き付けして膜厚2μmの密着層35を形成した。このようにして密着層35を形成した下引き線上に、膜厚が異なること以外は実施例1と同様にしてPPS樹脂を80μmの厚さとなるように押出し成形して、実施例5の絶縁ワイヤを製造した。
【0062】
(実施例6)
発泡絶縁層2の膜厚を100μmに変更すると共に外側絶縁層3の膜厚を5μmに変更したこと以外は実施例2と同様にして実施例6の絶縁ワイヤを製造した。
【0063】
(比較例1)
発泡絶縁層2の膜厚を80μmに変更すると共に外側絶縁層3を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例1の絶縁ワイヤを製造した。
【0064】
(比較例2)
1.0mmφの銅導体1の外周面にPAI樹脂(日立化成社製、HI−406シリーズ)を塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて、膜厚が19μmの、気泡を含まない絶縁層を形成した。次いで、実施例5と同様にして絶縁層上に密着層35を形成して下引き線を得た。次いで、膜厚が異なること以外は実施例1と同様にしてPPS樹脂を32μmの厚さとなるように押出し成形して、比較例2の絶縁ワイヤを製造した。
【0065】
(比較例3)
1.0mmφの銅導体1の外周面にPAI樹脂(日立化成社製、HI−406シリーズ)を塗布し、これを炉温500℃にて焼き付けて、膜厚が40μmの、気泡を含まない絶縁層を形成し、比較例3の絶縁ワイヤを製造した。
【0066】
(比較例4)
PPSに代えて熱可塑性エラストマー(TPE、東洋紡社製、P−150B(商品名、25℃の貯蔵弾性率:0.1GPa、融点:212℃)を用い、かつ厚さを変更したこと以外は実施例5と同様にして比較例4の絶縁ワイヤを製造した。
【0067】
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた絶縁ワイヤの構成、物性と評価試験結果を第1表に示した。評価方法は以下の通りである。
【0068】
[厚さ、発泡倍率、平均気孔径などの測定]
実施例および比較例における各層の厚さ、絶縁層の合計厚さ、発泡絶縁層2の発泡倍率、外側絶縁層3を形成する各熱可塑性樹脂の融点(第1表においてmpと表記する。)またはガラス転移温度(第1表においてTgと表記する。)を前記のようにして測定した。
また、発泡絶縁層2の平均気泡径は、発泡絶縁層2の厚み方向断面の走査電子顕微鏡(SEM)像において、20個の気泡を無作為に選び、画像寸法計測ソフト(三谷商事社製WinROOF)を用い、径測定モードにて平均の気泡径を算出し、得られた値を気泡径とした。
さらに、発泡絶縁層2と外側絶縁層3との厚さの比(発泡絶縁層2の厚さ/外側絶縁層3の厚さ)を算出した。
これら測定値および算出値を第1表に示した。
【0069】
[比誘電率]
比誘電率は、製造した各絶縁ワイヤの静電容量を測定し、静電容量と発泡絶縁層2の厚さから算出した。静電容量の測定にはLCRハイテスタ(日置電機社製、型式3532−50)を用いた。測定温度を25℃とし、測定周波数を100Hzとして測定した。
【0070】
[部分放電開始電圧]
実施例1〜6および比較例1〜4で製造した絶縁ワイヤそれぞれ2本をツイスト状に撚り合わせた試験片を作製し、2本の導体1間に正弦波50Hzの交流電圧を印加して、連続的に昇圧させながら放電電荷量が10pCのときの電圧(実効値)を測定した。測定温度は常温とした。部分放電開始電圧の測定には部分放電試験機(菊水電子工業製、KPD2050)を用いた。部分放電開始電圧は、850V以上であれば、部分放電が発生しにくく絶縁ワイヤの部分劣化を防止できる。
【0071】
[一方向摩耗性]
一方向摩耗試験はJIS C3216に準じて実施した。試験装置はNEMAスクレープテスター(東洋精機製作所社製)を用いた。この試験は直線状の試験片について連続的に増加する力が針に加わるようにし、その針で試験片の表面を擦っていくものである。針と導体の間で導通が生じたときの力を破壊力とした。
本発明では、破壊力が2500g以上であった場合を摩耗性が良好であるものとして「◎」、破壊力が1500g以上2500g未満で十分に使用可能なレベルのものを「○」、破壊力が1250g以上1500g未満となり、機械特性は製品としての許容レベル内にあって使用可能であるものを「△」、すぐに導通してしまい使用が難しいレベルの1250g未満の破壊力であった場合を「×」で示した。
【0072】
[総合評価]
本発明は、上述の通り、比誘電率の低下および部分放電開始電圧の向上と、機械強度の向上との両立を課題とするため、比誘電率が3.2未満で部分放電開始電圧が850V以上であり、かつ一方向摩耗性が「△」以上の判定を両立したものを合格として「○」で示した。
【0073】
【表1】
【0074】
第1表から分かるように、発泡絶縁層2と外側絶縁層3とを有する実施例1〜6の絶縁ワイヤは、発泡による比誘電率の低下と部分放電開始電圧の向上が認められ、しかも一方向摩耗の特性も良好で、総合評価も合格であった。
【0075】
一方、第1表の比較例1〜4から分かるように、外側絶縁層3を有していない比較例1、および、特定の熱可塑性樹脂で形成されていない外側絶縁層を有している比較例4はいずれも一方向摩耗の特性に劣っていた。
発泡絶縁層2を有していない比較例2は、比誘電率が高く部分放電開始電圧が低くかった。発泡絶縁層2および外側絶縁層3を有していない比較例3は、比誘電率が高く部分放電開始電圧が低く、一方で外側絶縁層3を有していないにもかかわらず、一方向摩耗性には優れていた。
このように、比較例1〜4の絶縁ワイヤは、いずれも、低比誘電率および高部分放電開始電圧と高機械強度とを両立できず、総合評価は不合格であった。
【0076】
実施例1、3および4の絶縁ワイヤは、内側絶縁層25、発泡絶縁層2および外側絶縁層3を有する、図2(a)に示される断面を有している。実施例2および実施例6の絶縁ワイヤは、発泡絶縁層2および外側絶縁層3を有する、図1(a)に示される断面を有している。実施例5の絶縁ワイヤは、内側絶縁層25、発泡絶縁層2、密着層35および外側絶縁層3を有する、図3(a)に示される断面を有している。
本発明の絶縁ワイヤは、これらに限定されず、内側絶縁層25および外側絶縁層3を有する種々の構成を採用でき、たとえば、図1(b)、図2(b)または図3(b)に示されるように矩形の導体1、内部絶縁層26などを採用可能である。
【0077】
本発明は、上記の実施態様に限定されることはなく、本発明の技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、自動車をはじめ、各種電気・電子機器等、耐電圧性や耐熱性を必要とする分野に利用可能である。本発明の絶縁ワイヤはモーターやトランスなどに用いられ、高性能の電気・電子機器を提供できる。特にHV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)の駆動モーター用の巻線として好適である。
【0079】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0080】
本願は、2012年12月28日に日本国で特許出願された特願2012−287114に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0081】
1 導体
2 発泡絶縁層
3 外側絶縁層
25 内側絶縁層
26 内部絶縁層
35 密着層
図1
図2
図3