【実施例1】
【0016】
本発明の第一の実施例による、電極状態の適否判断方法について説明する。
【0017】
コンディショニング時には電圧印加時間の経過により酸化被膜除去が進んで、電極間に流れる電流が大きくなる。コンディショニング電圧を印加しはじめてから、0.1、0.2、0.3秒後の電圧を測定し記録する。コンディショニング時には、電極状態に大きな変化がなければ数サイクルの間に電流が大きな変動をすることは通常ない。そこで判断対象のサイクルの電流を、そのサイクルの直前から3サイクル前までの電流の平均と比較し、あらかじめ定めた閾値、ここでは±0.5mA以上の乖離があった場合には、電極状態に何らかの異常があったものと判断する。
【0018】
電極状態が正常でなかった場合、定量結果についても正常に得られず間違った結果を報告する可能性があるため、この場合には結果に対して「電流値異常を検知により、測定が正しく行われなかった可能性がある」ことを知らせる警告をつけて、ユーザに対し測定結果の精査を促す。
【0019】
図4にユーザに対する通知方法の一例を示す。ここではある一連の測定結果を一覧表示した場合を例とし、この中で5回目の測定が本特許に記載の方法により、電流異常が検知された場合を想定する。測定値一覧中のNo.5の測定結果表示部の備考欄に「*電流異常」との表示がなされる。また別のアラーム情報の欄に、No.5の測定で「電流異常」が発生したことと、この異常の詳細および測定結果に対する注意喚起が表示される。これにより、ユーザはこの結果が測定の誤りの可能性があり得ることを知ることができ、例えば再測定や他の測定値と比較するなど、必要な対応をとることができる。
【0020】
次に、具体的な判断方法を、
図5を引用して説明する。
図5には判断対象サイクルとその1サイクル前,2サイクル前,3サイクル前の、電圧印加開始から0.1秒後,0.2秒後,0.3秒後の電流を示す。さらにそれぞれのタイミングでの3サイクル分の電流の平均値を示す。また判断対象サイクルの電流値と前記平均値との差を計算し、これと前記あらかじめ定めた閾値とを比較して、判断対象サイクルの適否判断をする。
【0021】
図5の例1aでは、0.1秒後,0.2秒後,0.3秒後のいずれのタイミングでも判断対象サイクルの電流とその前の3サイクルの平均との差は閾値である0.5mA以下であるため、電流値に異常はないと判断される。一方
図5の例1bでは、判断対象サイクルの電流値がその前のサイクルと比較して低下しており、例えば0.1秒後では平均との乖離が0.7mAと閾値である0.5mAを上回っているため、この判断対象サイクルには電流異常があったものと判断される。
【0022】
図5の例2では、別の電気化学測定フローセルと測定装置の組み合わせにより、測定される電流値が例1の場合と比べて低かった場合を想定している。この場合において、判断対象サイクルで4.5mAと例1bでの異常と判断された値と同じ値が出たとする。しかしこの場合は、前3サイクルの電流値の平均が4.7mAであり、判断対象サイクルの電流値との平均値との差は0.2mAである。これはここで定めた閾値である0.5mAを下回るため、この例2の場合には判断対象サイクルは正常と判断される。本発明を適用することで、例2に示したような場合を誤って異常と判断することなく、適切な適否判断が可能となる。
【0023】
ここでは電極状態の判断には電圧を印加しているうちの少なくとも1点を用いる必要があり、ここでは3点(0.1秒後、0.2秒後、0.3秒後)を用いたが、さらに多くの点を用いることも可能である。多くの点を用いることで、電気的なノイズ等により偶然発生した測定異常を反映したものではない電流値の異常を誤って判断する可能性を低くすることができる。実際に測定の異常により電流値が異常となった場合、複数の測定点すべてで正常時と異なる値となることが予測される。一方1点のみを見る場合ではその測定点に偶然異常な電流値が測定された場合に、測定が異常と判断してしまうことになる。さらには電流を測定したすべての点を用いて波形をパターン認識により測定の正常あるいは異常を判断することも可能である。
【0024】
また判断対象サイクルでの電極状態の適否を判定する基準値を算出するサイクルとして、判断対象サイクル前の3サイクルを用いたが、直前1サイクルのみを用いることや、さらに多くのサイクルを用いることも可能である。いずれの場合も判断方法はここに説明した方法と同様である。
【0025】
電流値の経時変化が無視できる程度に小さい場合は、判断に用いる閾値を装置に電気化学測定フローセルを搭載した直後に測定された値から算出することも可能である。この場合、同一の電気化学測定フローセルを使用し続けている間は、各測定ごとにそれ以前の測定電流値に基づいた閾値を算出する必要がなくなり、動作を簡便化できる。
【実施例2】
【0026】
本発明の第二の実施例について説明する。
【0027】
本実施例では、ある一定電圧印加タイミングでの電流値あるいは電圧値が、順序尺度に従い連続的に増加あるいは減少する事象を用いて、電気化学測定フローセルの交換時期を予測する方法について説明する。本実施例の効果によれば、電気化学測定装置の使用者あるいは管理者は、予防保全や定期交換以外の行動計画の見通しを得やすくすることができる。
【0028】
洗浄工程303において電極に正の電圧を印加すると、電極の表面の酸化被膜が除去されると共に電極間に正の電流値が発生する。この電流値は洗浄工程の正の電圧印加に同期して正の大きな値を発生した後に収束しながら、洗浄工程の正の電圧印加の間、継続的に発生する。得られる電流値の波形の一例を
図6中に破線で示す。洗浄工程中に発生する電流値は、一般的にサイクルが異なっても安定した値を示す。しかし電気化学測定フローセルを継続的に使用するに従って、電流値に微小な変動が認められる場合がある。洗浄工程時に発生した電流値のうち、特にサイクル毎の変化を確認し易い電流値発生時間を特定時間とし、当該特定時間に発生した電流値を特定電流値とする。本実施例では、洗浄工程時の電圧印加直後から0.5秒後を特定時間とし、このタイミングで得られる電流値を特定電流値と規定してサイクル毎に電流値測定手段403により計測し、制御・演算・記録手段212により蓄積し、統計的な演算処理を行った。
【0029】
任意の連続したサイクルにおける洗浄工程で発生する特定電流値に対して統計的な演算処理を実施することにより、特定電流値が予め決められた順序尺度に従い継続的に増加あるいは減少した場合に、電極状態が経時的に変化したと判断して、電気化学測定フローセルの交換時期を予測することができる。当該電気化学測定フローセルの交換時期の予測は、これまで電気化学測定フローセルが使用されたサイクル数と組み合わせて実施することもできる。
【0030】
次に、電極の経時的変化を検出するための順序尺度について説明する。順序尺度は、電気化学測定フローセルで連続的に測定が行われる最初の1サイクルから、サイクルが繰り返される度に電流値情報を蓄積することにより設定される。一例として、使用開始初期において、サイクル毎に最も電流値の変化が大きいタイミングの特定電流値を用いる。本実施例では、順序尺度により決められる特定電流値の連続回数の閾値を7回として、入力手段402を介して制御・演算・記録手段212が接続された免疫自動分析装置に設定した。
【0031】
電圧印加・電流測定手段は、計算機および計算機プログラムにより実現される制御・演算・記録手段212によって制御され、印加電圧の制御および電流の測定を行う。本実施例では、電気化学測定フローセルの使用開始直後からの測定サイクル数をカウントし、測定サイクル毎に蓄積される電流値情報とともに測定サイクル数のカウント値を蓄積し、あるいは表示できるよう、当該制御・演算・記録手段を用いる。
【0032】
次に、電気化学測定フローセルの使用開始直後から、任意の測定サイクル数の間までの特定電流値のモニタリングおよび測定サイクル数のカウントについて
図7を用いて説明する。
図7では、特定電流値の一例として、洗浄工程における電圧印加開始から0.5秒後の電流値を時系列に記憶している。
【0033】
電極状態が変化している場合、電気化学フローセルの洗浄工程時に電圧印加で発生する特定電流値は、微小ではあるが連続して徐々に増加あるいは減少する傾向を示す。本実施例では一例として、電流値が7サイクル以上連続して増加あるいは減少した場合に、フローセルの交換が必要であると判定する。電気化学測定フローセル実装時からの電流値を、制御・演算・記録手段212によって定常的にモニタリングし、間隔尺度であるサイクル数のカウント値と共に一画面上に表示する。特定測定値を順序尺度に従って統計的に演算処理した結果、サイクルにして7回以上連続して特定測定値が増加あるいは減少している場合は、そのサイクル及び特定測定値を特定電流値測定特徴404として抽出して装置の使用者あるいは管理者に表示する。
【0034】
次に、電気化学測定フローセルの交換時期を通知するアラームと、その判定方法について
図8を用いて説明する。
【0035】
不具合発生度合に対して、予めに電気化学測定フローセルの交換緊急性の高い順序で、A、B、Cの3つのカテゴリが設けられる。これらのカテゴリは入力手段402により制御・演算・記録特徴212に設定されるように設けられていてもよい。
【0036】
カテゴリAのアラームは、電気化学測定フローセルの微細な不具合発生度合として、特定電流値が7回以上連続して増加あるいは減少したことに加え、当該電気化学フローセルが所定の回数以上使用している場合に発せられるアラームである。アラームAのカテゴリに相当する場合には、2週間後〜1か月後以内にフローセルを交換することを推奨する旨を表示する。
【0037】
カテゴリBのアラームは、電気化学測定フローセルの微細な不具合発生度合として、特定電流値が4回以上7回未満連続して増加あるいは減少したことに加え、当該電気化学フローセルが所定の回数以上使用している場合に発せられるアラームである。アラームBのカテゴリに相当する場合には、1か月後〜3か月以内にフローセルを交換することを推奨する旨を表示する。
【0038】
カテゴリCのアラームは、電気化学測定フローセルの微細な不具合発生度合として、特定電流値の変動が4回未満連続して増加あるいは減少したことに加え、当該電気化学フローセルが所定の回数以上使用している場合に発せられるアラームである。アラームCのカテゴリに相当する場合には、3か月後〜12か月以内にフローセルを交換することを推奨する旨を表示する。
【0039】
アラームA〜Cは、予め設定された電気化学測定装置における順序尺度によって決められた特定電流値の連続回数がいずれかのカテゴリに合致した場合、次のサイクルの開始前までに発せられる。また、発生したアラームは全て、測定サイクル数のカウント値の昇順あるいは降順に電気化学測定装置の制御・演算・記録手段212に記憶され、必要に応じて表示手段401に表示される。なお、本実施例では所定の回数以上使用している場合にアラームを発生するように構成しているが、所定の期間以上使用している場合にアラームを発生するように構成していてもよい。
【0040】
次に、電気化学測定フローセルの交換時期を予測しユーザに通知する方法について
図9、
図10を用いて説明する。
【0041】
電気化学測定フローセルの微細な電極性状の変化と、電気化学測定フローセルの使用回数に基づくアラームA〜Cのカテゴリを制御・演算・記録特徴212に設定する。本実施例では、マトリックス対応形式による予測確率最大化特徴406を用いる。
【0042】
予測確率最大化特徴は、制御・演算・記録手段212によって定常的にモニタリングされる特定電流値と使用回数がアラームA〜Cに相当するか判定し、必要に応じて表示画面401に表示する。
図7はその表示画面の一例である。なお、微細な不具合度合、電気化学測定フローセルの使用回数、およびカテゴリは、オペレータが入力手段402を介して制御・演算・記録手段212に設定変更できるように構成されていてもよい。
【0043】
本実施例では、不具合度合軸として、特定電流値の連続した増加あるいは減少といった変動が1:7回以上、2:4回以上7回未満、3:4回未満、発生した場合を設定した。使用回数軸は、電気化学フローセルを使用した回数に基づきa〜eの五段階に設定した。それぞれの段階を区分けする使用回数は任意に設定可能である。不具合度合軸と使用回数軸に基づいて、A〜Cのカテゴリを相当するマトリックスに設定し、電気化学測定フローセルの交換時期予測確率を最大化する。マトリックス表示を
図9に示す。
【0044】
これらのアラーム表示は、アラーム表示手段405により、表示画面401を介して電気化学測定装置および電気化学測定フローセルの使用者あるいは管理者へと伝達される。アラーム表示画面の一例を
図10に示す。アラーム表示画面は、いずれかのカテゴリに相当する場合は、そのカテゴリ情報を表示手段401に表示する。
【0045】
また、電気化学測定装置の使用者あるいは管理者が必要に応じてアラーム情報を検索できるよう、電気化学測定装置の非表示部である制御・演算・記録手段212に電子情報としてアラーム情報を格納していてもよい。これらの電子情報は、電気化学測定装置に設けられた通信手段により、電気化学測定装置の使用者あるいは管理者が測定装置の外部に接続された外部表示装置407に必要時あるいは自動的に出力することや、外部記録手段408に格納してもよい。そのように構成した場合の測定装置、制御・演算・記録装置212、表示装置401、入力装置402、電流値測定装置403、外部表示装置407、外部記録装置408の相互関係の一例を
図11に示す。
【0046】
本実施例によれば、電気化学測定フローセルを用いた連続測定において、電極の変動傾向を検知することができる。