【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ポリエステル(A)中にリン酸ジアルキルエステルが共重合されているポリエステル繊維である。
【0015】
本発明におけるポリエステル(A)には、下記式(I)で表される化合物由来の成分(a)、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)及び脂肪族ジカルボン酸成分(c)が共重合されているので、得られるポリエステル繊維は常圧でのカチオン染料に対する染色性に優れる。また、本発明のポリエステル繊維は、染色前の強度は通常のポリエステル繊維と同等で加工性はよいが、ポリエステル(A)中にリン酸ジアルキルエステルが共重合されているので染色等の熱水処理を施すとポリエステル繊維のエステル結合が切断され、強度が低下し優れた抗ピリング性を発揮する。
【0016】
まず、本発明のポリエステル繊維におけるポリエステル(A)について説明する。ポリエステル(A)は、ジカルボン酸成分のうちテレフタル酸成分の他に下記式(I)で表される化合物由来の成分(a)、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)及び脂肪族ジカルボン酸成分(c)の3種が共重合されていることが重要である。原因は明確ではないが、これら3種のジカルボン酸成分の存在によって常圧下での優れた染着率、洗濯堅牢度、耐光堅牢度を確保し、かつ延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合でも、安定な高速曳糸性を得ることができる。
【0018】
[上記式(I)中、Rは水素、炭素数1〜10個のアルキル基又は2−ヒドロキシエチル基を表し、Xは、金属イオン、4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
【0019】
ポリエステル(A)は、カチオン染料可染性を得るために、ジカルボン酸成分のうち、共重合成分として上記化学式(I)で表される化合物由来の成分(a)を1.0〜3.5モル%含有する。
【0020】
上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸等のスルホン酸アルカリ金属塩基を有するジカルボン酸成分;5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、5−エチルトリブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの5−テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸成分などを挙げることができる。上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)は1種類のみをポリエステル中に共重合させても、また2種以上を共重合させてもよい。上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)を共重合させることにより、従来のポリエステル繊維に比べて繊維内部構造に非晶部分を保有させることができる。その結果
、カチオン染料に対して常圧染色が可能で、かつ堅牢度に優れたポリエステル繊維を得ることができる。
【0021】
ジカルボン酸成分のうち上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)の共重合量が1.0モル%未満の場合、カチオン染料で染色したときに鮮明で良好な色調になるポリエステル繊維を得ることができない。一方、上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)の共重合量が3.5モル%を超えると、ポリエステルの増粘が著しくなって紡糸が困難になる。しかもカチオン染料の染着座席の増加により繊維に対するカチオン染料の染着量が過剰になって、色調の鮮明性がむしろ失われる。染色物の鮮明性及び紡糸性等の点から、上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)の共重合量は1.2〜3.0モル%であるのが好ましく、1.5〜2.5モル%であるのがより好ましい。
【0022】
また、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)をポリエチレンテレフタレートに共重合した場合、結晶構造の乱れが小さい特徴を有しているため、高い染着率を確保しながら、耐光堅牢性にも優れた繊維を得ることができる。ここで、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)は、シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を共重合させることによってポリエステルに導入することができる。
【0023】
シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)を共重合することによって、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向は低下する。そのため、カチオン染
料の繊維内部への浸透が容易となり、カチオン染
料の常圧可染性を向上させることが可能となる。更に、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)は他の脂肪族ジカルボン酸成分に比べ結晶構造の乱れが小さいことから、耐光堅牢性にも優れたものとなる。
【0024】
ポリエステル(A)において、ジカルボン酸成分のうちシクロヘキサンジカルボン酸成分(b)の共重合量が2.0〜10.0モル%であり、好ましくは5.0〜10.0モル%である。ジカルボン酸成分のうち、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)の共重合量が2.0モル%未満の場合、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるため、常圧環境下での染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分のうち、シクロヘキサンジカルボン酸成分(b)の共重合量が10.0モル%を超えた場合、染着率、洗濯堅牢度、耐光堅牢度など、染色性に関しては良好な品質を確保できる。しかし、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合、樹脂のガラス転移温度が低いことと繊維内部における非晶部位の配向度が低いことによって、高速捲取中に自発伸長の発生により安定な高速曳糸性を得ることができず、安定な繊維物性が得られない。
【0025】
本発明に用いられるシクロヘキサンジカルボン酸には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の3種類の位置異性体がある。本発明の効果が得られる点からはどの位置異性体が共重合されていても構わないし、また複数の位置異性体が共重合されていても構わない。また、それぞれの位置異性体にはシス/トランスの異性体があるが、いずれの立体異性体が共重合されていても構わないし、シス/トランス双方の異性体が共重合されていても構わない。シクロヘキサンジカルボン酸誘導体についても同様である。
【0026】
脂肪族ジカルボン酸成分(c)についてもシクロヘキサンジカルボン酸成分(b)と同様に、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向が低下するため、カチオン染
料の繊維内部への浸透が容易となり、常圧可染性を向上させることが可能となる。ここで、脂肪族ジカルボン酸成分(c)は、脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を共重合させることによってポリエステルに導入することができる。
【0027】
具体的には、脂肪族ジカルボン酸成分(c)をポリエチレンテレフタレートに2.0〜8.0モル%共重合すると、低温セット性にも効果がある。そのため本発明により得られるポリエステル繊維を織編物にしてから形態安定化のために熱セットする場合、熱セット温度を低くすることが可能となる。ニット用途において低温セット性は好ましい物性であり、本発明のポリエステル繊維をウール、綿、アクリル、ポリウレタン等のポリエステル以外の素材と混合する場合、熱セットに必要な温度をポリエステル以外の素材の物性が低下しない程度に抑えることが可能となる。また、ポリエステル繊維の単独使いにおいても、一般的な現行ニット用設備に対応が可能となり用途拡大が期待できる。
【0028】
ポリエステル(A)は、ジカルボン酸成分のうち脂肪族ジカルボン酸成分(c)の共重合量が2.0〜8.0モル%であり、好ましくは2.5〜7.0モル%であり、より好ましくは3.0〜6.0モル%である
。ジカルボン酸成分のうち、脂肪族ジカルボン酸成分(c)特にアジピン酸成分の共重合量が8.0モル%を超えた場合、染着率は高くなるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合には繊維内部における非晶部位の配向度が低くなる。そのため高速捲取中での顕著な自発伸長により安定な高速紡糸性を得ることができず安定な繊維物性が得られない。
【0029】
脂肪族ジカルボン酸成分(c)として好ましく用いられるものとしては、アジピン酸成分、セバシン酸成分、デカンジカルボン酸成分などの脂肪族ジカルボン酸成分が例示できる。これらは単独又は2種類以上を併用することもできる。
【0030】
本発明のポリエステル繊維の常圧可染性や品位を落とすことのない範囲であれば、テレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、及び脂肪族ジカルボン酸成分以外の他のジカルボン酸成分を共重合しても良い。具体的には、イソフタル酸成分やナフタレンジカルボン酸成分等の芳香族ジカルボン酸成分を単独であるいは複数種、合計10.0モル%以下の範囲で共重合してもよい。
【0031】
しかし、これらの成分を共重合することでエステル交換反応、重縮合反応が煩雑になるばかりでなく、共重合量が適正範囲を超えると洗濯堅牢性を低下させることがある。具体的には、イソフタル酸成分をジカルボン酸成分に対して10モル%を越えて共重合すると、本発明の構成要件を満足させたとしても、洗濯堅牢特性を低下させる恐れがあり、5モル%以下での使用が望ましく、0モル%であること(共重合しないこと)がより望ましい。
【0032】
次に、ポリエステル(A)中に共重合されている下記式(II)で表されるリン酸ジアルキルエステルについて説明する。
【0034】
上記式(II)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して炭素原子数3〜8のアルキル基を表す。ここで、R
1およびR
2はプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基およびオクチル基から選ばれる。上記アルキル基は直鎖状のアルキル基であってもまたは分岐したアルキル基であってもよいが、直鎖状のアルキル基であるのが好ましい。また、R
1およびR
2は互いに同じアルキル基であってもまたは異なるアルキル基であってもよい。
【0035】
上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルの具体例としては、ジ−n−プロピルホスフェート、ジ−n−ブチルホスフェート、ジ−t−ブチルホスフェート、ジ−n−ペンチルホスフェート、ジ−n−ヘキシルホスフェート、ジ−n−ヘプチルホスフェート、ジ−n−オクチルホスフェート、(n−プロピル)(n−ブチル)ホスフェート、(n−プロピル)(n−ペンチル)ホスフェート、(n−プロピル)(n−ヘキシル)ホスフェート、(n−プロピル)(n−ヘプチル)ホスフェート、(n−プロピル)(n−オクチル)ホスフェート、(n−ブチル)(n−ペンチル)ホスフェート、(n−ブチル)(n−ヘキシル)ホスフェート、(n−ブチル)(n−ヘプチル)ホスフェート、(n−ブチル)(n−オクチル)ホスフェート、(n−ペンチル)(n−ヘキシル)ホスフェート、(n−ペンチル)(n−ヘプチル)ホスフェート、(n−ぺンチル)(n−オクチル)ホスフェート、(n−ヘキシル)(n−ヘプチル)ホスフェート、(n−ヘキシル)(n−オクチル)ホスフェート、(n−ヘプチル)(n−オクチル)ホスフェートなどを挙げることができる。また、上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルにおいて、リン酸エステルを形成している2つのアルキル基のうちの一方または両方が、n−アルキル基ではなく分岐したアルキル基であるリン酸ジアルキルエステルも勿論使用できる。そして、ポリエステル(A)は上記したリン酸ジアルキルエステルの1種類によって変性されていても、または2種類以上によって変性されていてもよい。
【0036】
本発明において、R
1およびR
2が炭素原子数3〜8のアルキル基であるリン酸ジアルキルエステルを用いて変性されているポリエステル(A)を使用する理由は、R
1およびR
2がメチル基やエチル基の場合には、リン酸ジアルキルエステルが非常に分解し易く、ポリエステルの変性用として有効に使用することができないためである。一方、R
1およびR
2が炭素原子数9以上のアルキル基であるリン酸ジアルキルエステルを用いてポリエステルを変性した場合には、変性により得られるポリエステルが黄色味を帯びてその色調が不良になり好ましくない。
【0037】
そして、ポリエステル(A)では、上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルに由来するリン原子の含有量がポリエステル(A)を構成する全酸成分に対して0.5〜2.5モル%であることが必要である。上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルに由来するリン原子の含有量が、全酸成分に対して0.5モル%未満であると、抗ピリング性に優れる繊維や布帛等が得られない。上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルに由来するリン原子の含有量が、ポリエステル(A)を構成する全酸成分に対して0.8モル%以上であることが好ましく、0.9モル%以上であることがより好ましい。一方、2.5モル%を超えると、抗ピリング性は付与できるが、ポリエステル(A)を製造する際の重合度の調整が困難になったり、繊維の製造工程中における加水分解が著しくなってロット間の差が大きくなったり、得られる繊維の力学的特性などが低下したりする。その結果、繊維を紡績したり布帛にしたりする工程での損傷が著しくなるため好ましくない。上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルに由来するリン原子の含有量が、ポリエステル(A)を構成する全酸成分に対して1.5モル%以下であることが好ましく、1.3モル%以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明のポリエステル繊維の固有粘度[η]は、フェノールとテトラクロロエタンの等重量混合溶媒中、30℃でウベローデ型粘度計を用いて測定したときの値が0.4〜0.6dl/gであるのが好ましく、0.42〜0.58dl/gであるのがより好ましい。固有粘度[η]が0.40dl/g未満であると溶融紡糸性が悪化するため好ましくない。一方、固有粘度[η]が0.60dl/gを超えると、該繊維より形成された布帛、該布帛より形成された縫製品などの抗ピリング性が低下するため好ましくない。
【0039】
更に、ポリエステル(A)には、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。酸化ケイ素を用いることで、得られる繊維は、減量加工後に繊維表面に微細な凹凸を付与することがでる。更に、熱安定剤を用いることで加熱溶融時やその後の熱処理における熱分解を抑制できる。また、光安定剤を用いることで繊維の使用時の耐光性を高めることができ、表面処理剤を用いることで染色性を高めることも可能である。
【0040】
これら添加剤は、ポリエステル(A)を重合によって得る際に、重合系内にあらかじめ加えておいても良い。ただし、一般に酸化防止剤などは重合末期に添加するほうが好ましく、特に重合系に悪影響を与える場合や、重合条件下で添加剤が失活する場合はそうすることが好ましい。一方、艶消剤、熱安定剤などは重合時に添加するほうが均一に樹脂重合物内に分散しやすいため好ましい。
【0041】
本発明のポリエステル繊維の製造方法は特に限定されず、上記した特許文献2に詳細に記載されている方法にて製造することが出来る。すなわち、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、該ジカルボン酸成分のうち、75モル%以上がテレフタル酸成分であり、1.0〜3.5モル%が上記式(I)で表される化合物由来の成分(a)であり、2.0〜10.0モル%がシクロヘキサンジカルボン酸成分(b)であり、2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸成分(c)である原料を用いてエステル化反応またはエステル交換反応を行ってプレポリマーを製造し(第1段目の反応)、次いで第1段目の反応により得られたプレポリマーを減圧下に加熱して重縮合反応させて最終的なポリエステルを製造する段階の任意の時点にて(第2段目の反応)、上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルを反応系に加えることによって、リン酸ジアルキルエステルによって共重合されたポリエステル(A)を得ることが出来る。
【0042】
このポリエステル(A)を例えば単軸押出機や二軸押出機を用いて溶融混練し、通常の溶融紡糸装置を用いて繊維を得ることが出来る。なお、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0043】
このようにして溶融紡出されたポリエステル繊維を延伸する方法は特に限定されない。一旦未延伸糸を製造してから加熱して延伸しても構わないし、高速で引き取ることによって紡糸と同時に延伸しても構わない。得られる延伸糸は、フィラメントであってもステープルであっても構わないが、抗ピリング性が要求される観点からは、ステープルである場合に本発明のポリエステル繊維を用いる利益が大きい。こうして得られたポリエステル繊維を用いて、織物や編地などの布帛が製造される。
【0044】
本発明のポリエステル繊維を用いて布帛を製造してから該布帛を熱水中で染色することが好ましい。100〜110℃の温度で染色してもよいが、エネルギー消費抑制の観点からは、80〜100℃の熱水中で染色することがより好ましい。熱水の温度が80℃未満であると優れた抗ピリング性が得られないおそれがあるため好ましくない。熱水の温度は90℃以上がさらに好ましい。一方、熱水処理の温度が100℃を超えると常圧下で染色することができず、装置及びエネルギー消費の面からコスト的に不利になるおそれがある。
【0045】
本発明のポリエステル繊維のカチオン染
料の染着率は、90℃での染着率が80%以上であることが好ましく、且つ95℃での染着率が85%以上であることが好ましい。これらの染着率を下回ると、中〜低分子量染料(SE〜Eタイプ)の易染性染料においても十分な染着率が得られないため好ましくない。更にウール、綿、アクリル、ポリウレタンなど、ポリエステル以外の素材と交編、交織しても、常圧環境下で十分な染色性を得ることが困難となるおそれがある。
【0046】
本発明のポリエステル繊維は、変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度が4級以上であることが好ましい。変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度のいずれかが3級以下であった場合、取扱い性の点から好ましくない。
【0047】
また、本発明のポリエステル繊維は、耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。耐光堅牢度が3級以下であった場合、取扱い性の点から好ましくない。
【0048】
本発明によれば、常圧環境下での染色において濃色性と堅牢性に極めて優れた染色が可能で、直接紡糸延伸手法又はその他の一般的な溶融紡糸手法においても安定した品質及び工程性が得られるポリエステル繊維を提供することができる。また、常圧染色性を必要とするポリエステル繊維以外の素材との混繊に対しても良好な染色性・糸品位を確保することができる。さらに、上記式(II)で示されるリン酸ジアルキルエステルが共重合されているので、染色による熱水処理によってエステル結合が切断され、強度が低下し優れた抗ピリング性を発揮する。本発明の常圧可染ポリエステル繊維は、一般衣料全般、例えば紳士婦人向けフォーマル或いはカジュアルファッション衣料用途、スポーツ用途、ユニフォーム用途など、多岐に渡って有効に利用することができる。更に、資材用途全般、例えば自動車や航空機などの内装素材用途、靴や鞄などの生活資材用途、カーテンやカーペットなどの産業資材用途などにも有効に利用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、ジカルボン酸成分及びグリコール成分の共重合量、繊度、固有粘度、紡糸性、染色方法、染着率、染着濃度(K/S)、洗濯堅牢度、耐光堅牢度、抗ピリング性の評価は以下の方法に従った。
【0050】
<ジカルボン酸、グリコール成分の共重合量>
共重合量は、ポリエステル(A)を重トリフロロ酢酸溶媒中に0.5g/Lの濃度で溶解し、50℃で500MHz
1H−NMR(日本電子製核磁気共鳴装置LA−500)装置を用いて測定した。
【0051】
<繊度>
JIS L−1013の測定方法に準拠して測定した。
【0052】
<固有粘度 dl/g>
溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン(体積比1/1)混合溶媒を用い30℃でウベローデ型粘度計(林製作所製HRK−3型)を用いて測定した。
【0053】
<紡糸性>
以下の基準に従って紡糸性評価を行った。
○:24hrの連続紡糸において、断糸が発生せず、紡糸性が良好であった。
△:24hrの連続紡糸において、紡糸時の断糸がわずかに発生した。
×:24hrの連続紡糸において、紡糸時に断糸が多発し紡糸することができなかった。
【0054】
<染色方法>
得られた繊維の筒編地を精練した後、以下の条件でカチオン染
料で染色した。
(カチオン染色)
染料:Cathilon Red CD-FGLH 3.0%omf
助剤:Na
2SO
4 10.0%、CH
3COONa 0.5%、CH
3COOH(50%)
浴比1:50
染色温度×時間:90℃×40分、又は95℃×40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度×時間:80℃×20分
【0055】
<染着率>
上記染色方法において、染色前の原液及び染色後の残液をそれぞれアセトン水(アセトン/水=1/1混合溶液)で任意の同一倍率に希釈し、各々の吸光度を測定した後に、以下に示す式から染着率を求めた。
吸光度測定器:分光光度計 HITACHI
HITACHI Model 100−40
Spectrophotometer
染着率=(A−B)/A×100(%)
ここで、上記式中のA及びBはそれぞれ以下を示す。
A:原液(アセトン水希釈溶液)吸光度
B:染色残液(アセトン水希釈溶液)吸光度
【0056】
<染着濃度(K/S)>
染着濃度(K/S)は、上記染色後(95℃×40分)サンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを測定し、以下に示すKubelka−Munkの式から求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C−2000S Color Analyzer
K/S=(1−R)
2/2R
【0057】
<洗濯堅牢度>
上記染色後サンプル編地を用いてJIS L−0844の測定方法に準拠して測定した。
【0058】
<耐光堅牢度>
上記染色後サンプル編地を用いてJIS L−0842の測定方法に準拠して測定した。
【0059】
<抗ピリング性>
上記染色後サンプル編地の抗ピリング性を、JIS L−1076.6.1.A法(ICI型試験機を用いる方法)に準じて測定した。
【0060】
実施例1
ジカルボン酸成分のうち88.3モル%がテレフタル酸(TA)であり、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1.7モル%、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)を5.0モル%、アジピン酸を5.0モル%、それぞれ含んだ全カルボン酸成分と、エチレングリコールとでエステル交換反応を行った後に、ジ−n−ブチルホスフェートを全酸成分に対して1.2モル%を添加して重縮合反応を行い、表1に示される組成のポリエステル(A)を得た。
【0061】
このポリエステル(A)を40φ押出機にて、溶融紡糸装置に供給し、丸型の紡出孔を有する紡糸口金から紡出させた。得られた原糸を水浴2段延伸方式で2.5倍に延伸した後、機械捲縮を付与し繊維38mmに切断することで単繊度1.5dtexのステープルを作製した。
【0062】
得られたステープルを綿40番手の紡績糸にしタテ糸及びヨコ糸に用いて2/2のツイルの織物を作製した。紡績工程及び製織工程で何らトラブルは発生しなかった。そして、得られた織物をカチオン染色した。得られた織物の物性を表2に示した。得られた織物の染着率は、90℃で96%、95℃で99%、染着濃度(K/S)が28と良好な常圧可染性を示した。洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。また、抗ピリング性も良好であった。
【0064】
実施例3〜8
製糸条件を表1に示すように変更してポリエステル繊維を製造した以外は実施例1と同様の手法で織物を得た。得られた織物の染着率及び染着濃度(K/S)も何ら問題なく良好な常圧可染性を示した。洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。また、抗ピリング性も良好であった。
【0065】
実施例9
ジ−n−ブチルホスフェートをジ−n−ヘキシルホスフェートに変えた以外は実施例1と同様にして織物を作製した。得られた織物の物性を表2に示した。常圧可染性、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。また、抗ピリング性も良好であった。
【0066】
比較例1〜4
製糸条件を表1に示すように変更してポリエステル繊維を製造した以外は実施例1と同様の手法で織物を得た。得られた織物の物性を表2に示した。
【0067】
比較例1では、ポリエステル(A)中にリン酸ジアルキルエステルが共重合されていないので抗ピリング性が劣った。比較例2では、ポリエステル(A)中のリン酸ジアルキルエステルの量が多いため紡糸性が劣った。比較例3及び4では、シクロヘキサンジカルボン酸成分又は脂肪族ジカルボン酸成分が共重合されていないため、染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0068】
比較例5〜8
製糸条件を表1に示すように変更して実施例1と同様の手法で紡糸を試みたが紡糸は不可能であった
【0069】
比較例9
製糸条件を表1に示すように変更してポリエステル繊維を製造した以外は実施例1と同様の手法で織物を得た。得られた織物の物性を表2に示した。比較例9では、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸のいずれもが共重合されていないため染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。さらに、抗ピリング性も劣った。
【0070】
比較例10
ジ−n−ブチルホスフェートをジ−n−エチルホスフェートに変えた以外は実施例1と同様にして織物を作製した。その結果、紡糸工程にてリン酸ジアルキルエステルの分解が激しいためか糸切れが多発し紡糸性が著しく悪かった。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】