特許第6056231号(P6056231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6056231液体クロマトグラフィー用カチオン交換体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056231
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィー用カチオン交換体
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20161226BHJP
   G01N 30/96 20060101ALI20161226BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   G01N30/88 101P
   G01N30/88 201G
   G01N30/96 A
   G01N30/88 J
   B01J20/26 L
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-157531(P2012-157531)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-20830(P2014-20830A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村中 和昭
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/081727(WO,A1)
【文献】 特開2001−183356(JP,A)
【文献】 特開2002−306974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非多孔性粒子の表面にあるエポキシ基が、スルホン酸基及びポリビニルスルホン酸共重合体と、開環して結合していることを特徴とする、液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
【請求項2】
前記非多孔性粒子は、単官能性ビニルモノマーと多官能性ビニルモノマーの共重合体であり、その粒径が5μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
【請求項3】
前記ポリビニルスルホン酸共重合体は、分子量が5000以上40000以下であることを特徴とする、請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
【請求項4】
前記ポリビニルスルホン酸共重合体は、多孔性粒子の乾燥重量に対して5重量%以上、非多孔性粒子の表面にある開環したエポキシ基と結合していることを特徴とする、請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体を充填して成る液体クロマトグラフィー用カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に非多孔性粒子の表面に、スルホン酸基が導入されるとともにポリビニルスルホン酸共重合体が固定されていることを特徴とするカチオン交換体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー用のカチオン交換体には、(1)試料中に含まれる塩濃度の影響を受けにくくするために、タンパク質等の対象物質(以下単に「対象」ということがある)に対して高い保持力を有すること、(2)微量成分の分離性能を保つために十分な対象の吸着容量を有すること、(3)分離・分析精度向上のために高い分離能を有すること、(4)分離・分析時間短縮のために速い操作流速で使用できること(速い操作流速に伴う高圧に耐えるための機械強度を有すること)、(5)操作流速の低下を招かないこと(低操作圧であること)、そして(6)交換体と対象との間で、カチオン交換以外の相互作用が小さいこと、が要求される。
【0003】
液体クロマトグラフィー用のカチオン交換体は、交換体を構成する粒子にカチオン交換基(リガンド)を導入したものである。粒子については、上記(3)の改善を目的として、粒子内拡散のない非多孔性の粒子を使用すること(非特許文献1)や粒径が10μm程度の粒子を使用することが提案されている。粒径については更なる微粒子化が進み、粒径5μm以下の粒子を使用することが近年では提案されている。そして、このような微粒子の使用に伴う分離・分析時間の長時間化を防止するためにより高い操作圧を負荷する必要が生じ、粒子に求められる上記(4)の機械的強度は100MPa程度になっている
一方、カチオン交換基としては、従来からスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等が知られている。なかでもスルホン酸基は、pKaが小さく、対象をイオン解離する目的で溶離液のpHを低下した場合にそのpHの変動が生じたとしても対象を安定的に保持し得ることから、カチオン交換基として多用されており、スルホン酸基の粒子への導入方法として、スチレン共重合体粒子に対して三酸化硫黄、クロロ硫酸又は濃硫酸を作用させる方法、粒子に対してエポキシ基やアリル基を導入し更に亜硫酸を作用させる方法、そして水酸基を有する粒子にプロパンスルトン、ブタンスルトン又は三硫化硫黄を作用させる方法が使用されている。
【0004】
合成ポリマーを骨格とする非多孔性の粒子(合成ポリマー粒子)は、上記(3)とともに(4)をも達成し得るものである。そこで非多孔性のポリマー粒子に従来のようなカチオン交換基の導入方法を適用することが考えられるが、合成ポリマー粒子は、一般的に、後に粒子表面にカチオン交換基を導入するための官能基を有したモノマーと、粒子の機械的強度を高めるための多官能不飽和架橋性モノマーの共重合体を用いて製造するため、粒子の機械的強度を高くするために多官能不飽和架橋性モノマーを多く使用すると粒子表面の官能基量が減少し、粒子表面に十分な量のカチオン交換基を導入できずに粒子表面のカチオン交換基密度が下がる。この結果、対象の保持力が不十分となり(上記(1)が達成できない)、さらに非多孔性であるがゆえの小表面積に起因して対象、特にタンパク質や核酸等の生体高分子、に対する吸着容量を大きくできず、上記(2)が損なわれ、対象の溶出ピークがブロード化してしまう。
このため、上記(1)や(2)の改善を目的として、カチオン交換能を有するビニルポリマー鎖を粒子表面にグラフトして固定する方法(特許文献1から4)、細孔内に水溶性ポリマーを固定化する方法(特許文献5)が提案されている。しかし、グラフトによってポリマー鎖を粒子表面に固定すると、操作圧が高くなり、上記(5)に反して操作流速の低下を招いてしまう。また細孔内に水溶性ポリマーを固定する方法は非多孔性粒子には適用することができない。
【0005】
上記(2)及び(5)の改善を目的として、スルホン酸基を有するモノマーとカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体と、カルボン酸基と反応可能な官能基を有するポリマーを、粒子の表面に部分的架橋によって固定する方法も提案されている(特許文献6)。しかしこの方法では、粒子径が5μm程度の微粒子に適用すると上記(5)の要求に反して操作流速の低下を招いてしまう。またこの方法によって(1)及び(6)を改善するためには、部分架橋によって形成されるポリマーはスルホン酸基以外の主鎖及び側鎖の割合が少なく、カチオン交換基密度の高いこと、及び、対象との間で、カチオン交換以外の相互作用(例えば疎水相互作用)を起こしにくいことも要求される。
【0006】
上記方法において(1)及び(6)を改善し得るスルホン酸基を有するモノマーとカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体として、ビニルスルホン酸重合体(特許文献6から10)の使用が考えられるが、ビニルスルホン酸の単独重合体ではこれを粒子表面に固定する方法が限られてしまう。例えば特許文献11では、ビニルスルホン酸を粒子表面の水酸基と反応させて導入することが記載されているが、粒子表面の水酸基1個に対し、1個のビニルスルホン酸を導入するに過ぎず、上記(2)が損なわれてしまう。またビニルスルホン酸は高分子のものを製造することが困難であり(非特許文献2、特許文献12)、分子量2万以上のものとしてわずかに特許文献13がポリビニルスルホン酸重合体(ホモポリマー)を開示しているにすぎず、ホモポリマーであるゆえ、上記したような粒子の表面に部分的架橋によって固定する方法には適用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許5453186
【特許文献2】米国特許3723306
【特許文献3】特公昭57−23694号公報
【特許文献4】特公昭57−58373号公報
【特許文献5】特開2008−232764号公報
【特許文献6】特開2002−306974号公報
【特許文献7】特表2003−512171号公報
【特許文献8】特許3474567号公報
【特許文献9】特表2006−519273号公報
【特許文献10】特開平10−60142号公報
【特許文献11】特表2009−506340号公報
【特許文献12】特開平7−173226号公報
【特許文献13】特開2009−227965号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】High−performance ion−exchange chromatography of proteins on non−porous ionexchangers、 Jouranl of Chromatography A Volumn398、1987、Page 327−334
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,76、6399−6401(1954)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような状況に鑑みて、本願出願人は、実質的に非多孔性の粒子表面に、ポリビニルスルホン酸共重合体が固定されている液体クロマトグラフィー用カチオン交換体を見出している。かかるカチオン交換体は、対象に対して高い保持力を有する、十分な対象の吸着容量を有する、高い分離能を有する、充分な機械強度を有する、低操作圧である、そしてカチオン交換以外の相互作用が小さい、という特徴を有するものであるが、特に吸着容量について、更に改善された液体クロマトグラフィー用カチオン交換体が望まれる。
そこで本発明の目的は、(1)から(6)の要請に応え、更に吸着容量を向上した液体クロマトグラフィー用カチオン交換体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体は、非多孔性粒子の表面に、スルホン酸基が導入されるとともにポリビニルスルホン酸共重合体が固定されていることを特徴とするものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のカチオン交換体は、上記(3)の分離能の向上のため、非多孔性粒子を基材とするものである。本発明における「非多孔性」とは、微孔が一切存在しない粒子はもちろんのこと、カチオン交換体を用いて分離等しようとする対象が入り込めないサイズの孔がある粒子であっても含まれる。なお、粒子の孔のサイズを制御する方法は、例えば米国特許第4382124号等、従来から公知である。
【0012】
非多孔性粒子は、(3)の改善を目的として、粒径を5μm以下とすることが好ましく、例えば無機基材(例えば、シリカ、ジルコニア、アルミナ等)や、有機基材(例えば、架橋多糖や、アクリルアミド、アクリルステル、スチレン等のビニルモノマー架橋体)であれば良い。これら粒子は、例えば特公昭58−58026号や特開昭53−90991号に開示されたような、単官能ビニルモノマー(グリシジルメタクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等)と、多官能ビニルモノマー(エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、グリセンポリメタクリレート、ジビニルベンゼン等)を組み合わせた混合液の懸濁重合により製造する方法、例えば特開2001−2716号に記載されたようなシード重合により製造する方法によって製造することができる。なお、有機基材の非多孔性粒子を使用する場合には、単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーの共重合体、特に単官能性ビニルモノマー由来の構造単位が下記式(1)で示されるものが好ましい(式中、R1は水素原子又はCH3を表す。R2は、ポリオキシアルキレン結合を介して、又は直接導入されたポリビニルスルホン酸共重合体を表す)。また(4)の改善の目的では、多官能ビニルモノマーの割合を5重量%以上としたものが好ましく、(1)から(3)の改善の目的では、充分な量のスルホン酸基の導入及びポリビニルスルホン酸共重合体の固定のための官能基、特に好ましくはエポキシ基、を確保するために、多官能性ビニルモノマーの割合は50重量%以下とすることが好ましい。例えばグリシジルメタクリレート等のエポキシ基を有する単官能性ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーとの共重合体であれば、エポキシ基を直接利用する、エポキシ基を加水分解して開環し水溶性の多価アルコール等で親水化を行うことにより水酸基化する等が可能であり、エポキシ基を有していない共重合体であれば例えばエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の多官能エポキシ化合物等を用いてエポキシ基を導入した後、同様にすることが可能である。
【0013】
【化1】
本発明のカチオン交換体は、その表面に、カチオン交換基としてのスルホン酸基が導入されるとともにポリビニルスルホン酸共重合体が固定されているものであり、例えば、まず表面のエポキシ基を利用してポリビニルスルホン酸共重合体を固定し、当該固定に利用されずに残存しているエポキシ基等にスルホン酸基を導入することによって製造することができる。
固定するポリビニルスルホン酸共重合体としては、特に上記(1)〜(3)及び(5)を改善するために、その分子量が5000から40000の範囲のものが好ましい。分子量が小さいと(1)から(3)の改善効果が小さく、分子量が大すぎると操作圧が上昇して(5)の改善効果が小さくなるからである。ポリビニルスルホン酸共重合体は、ビニルスルホン酸と、粒子への固定化のため、粒子表面の官能基(エポキシ基等)と結合し得る官能基を有するビニルモノマーとを共重合して得ることができる。例えば粒子表面にエポキシ基又はカルボキシル基が存在する場合には、これらと結合し得る水酸基、アミノ基、チオール基等を有するビニルモノマーをビニルスルホン酸と共重合すれば良い。中でもビニルスルホン酸との共重合が容易な水酸基を有するビニルモノマーが好適であり、具体的に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルやグリセロール(メタ)アクリルエステル等のポリオール化合物の(メタ)アクリル酸エステル、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(トリス(ヒドロキシメチル)メチル)(メタ)アクリルアミド等を例示することができる。
【0014】
ポリビニルスルホン酸共重合体を構成するビニルスルホン酸の構造単位は、(1)〜(3)及び(6)の改善を目的として、99.5から50モル%の範囲であることが好ましい。またポリビニルスルホン酸共重合体の粒子表面への固定量については、(5)の改善を目的として、カチオン交換体のカチオン交換容量が5から40meq/Lとなる範囲で調整することが好ましい。このような固定化量の制御により、低操作圧性を備えたカチオン交換体を実現できる。
【0015】
ポリビニルスルホン酸共重合体を粒子表面に固定する方法としては、例えば粒子表面にエポキシ基が存在する場合には、ビニルスルホン酸と水酸基を有するビニルモノマーを共重合してポリビニルスルホン酸共重合体を製造し、該共重合体を溶解した水溶液中に粒子を分散し、溶液を中性からアルカリ性にする、等を例示できる。この場合、ポリビニルスルホン酸共重合体の使用量として5〜50%濃度を選択し、溶液に0.1〜0.5モル濃度の水酸化ナトリウムを添加して30から60度で1から24時間加熱することを具体的に例示できる。また例えば粒子表面にエポキシ基又はカルボキシル基が存在する場合には、ビニルスルホン酸と水酸基を有するビニルモノマーを共重合してポリビニルスルホン酸共重合体を製造し、該共重合体を揮発性溶媒に溶解した状態でエポキシ基又はカルボキシル基を有する粒子を分散し、溶媒を留去した後、90から150度で1から5時間乾燥加熱する、等を例示することができる。この場合、ポリビニルスルホン酸共重合体の使用量としては、乾燥重量で粒子の5重量%以上とすることを具体的に例示できる。
【0016】
ポリビニルスルホン酸共重合体を固定した後に残存する官能基(エポキシ基等)にスルホン酸基を導入するには、従来既知の方法を使用することができる。例えば、上記の操作を終了したカチオン交換体を亜硫酸ナトリウムを含有する水中に分散して加熱する方法、カチオン交換体をアルカリ条件下でプロパンスルトンやブタンスルトン等と反応させる方法を例示することができるが、操作の簡便性から亜硫酸ナトリウムを含有する水中に分散して加熱する方法が好ましい。
【0017】
以上のようにして製造される、実質的に非多孔性粒子の表面に、スルホン酸基が導入されるとともにポリビニルスルホン酸共重合体が固定された本発明のカチオン交換体は、例えば液体クロマトグラフィー用のカラムに充填して、グリコヘモグロビンを含む種々のタンパク質等の生体試料の分離、精製に使用することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカチオン交換体は、実質的に非多孔性粒子の表面に、スルホン酸基が導入するとともにポリビニルスルホン酸共重合体を固定したものであるから、従来のカチオン交換対と比較して(1)から(6)を改善することができ、特に(2)を大きく改善することができる。本発明において、ビニルモノマー共重合体(架橋体)を使用する場合には、100MPaに耐えうる機械強度を実現でき、(4)を改善することができる。また本発明のカチオン交換体は、スルホン酸基をカチオン交換基として使用し、かつ、充分な量のカチオン交換基を粒子に固定できるから、(1)、(3)及び(6)、を改善し、特に(2)を大きく改善し、しかもその固定量を制御することによって(5)をも改善し得るものである。
【0019】
このように本発明のカチオン交換体は、(1)試料中に含まれる塩濃度の影響を受けにくくするために、対象に対して高い保持力を有し、(2)微量成分の分離性能を保つために十分な対象の吸着容量を有し、(3)分離・分析精度向上のために高い分離能を有し、(4)分離・分析時間短縮のために速い操作流速で使用でき(速い操作流速に伴う高圧に耐えるための機械強度を有し)、(5)操作流速の低下を招かず(低操作圧であり)、そして、(6)交換体と対象との間で、カチオン交換以外の相互作用が小さい(小さなカチオン交換以外の相互作用性)という、従来からの要求に応えることのできるカチオン交換体である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1及び比較例1の結果を示す図である。
図2】実施例1及び比較例2の結果を示す図である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明のカチオン交換体を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[非多孔性基材の作成]
特許公開2001−2716号に記載された方法(シード重合法)により、非多孔性粒子を製造した。ベンジルメタクリレート20g及びメルカプト酢酸2−エチルヘキシル0.95gを500mL三つ口フラスコに入れて混合し、イオン交換水を200g投入した。マグネティック撹拌子を入れ、85度に設定したオイルバスに取り付け、窒素導入管を設置し、150rpmで撹拌した。これとは別に50mL容器に過硫酸カリウム0.6g及びイオン交換水20gを計り取り溶解した。30分経過後、三つ口フラスコに設置したゴム栓から、過硫酸カリウム水溶液を注射器で投入した。回転数を300rpmとしてソープフリー乳化重合を実施した。2時間重合を継続後、凝集分を取り除いてシード溶液を回収した。シード溶液の固形分含有率は、6.98%であり、粒子径は電子顕微鏡による測定で0.39μmであった。
メタクリル酸2,3エポキシプロピル64g、二メタクリル酸エチレン16g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名V−65、和光純薬(株)製)0.2g及びドデシル硫酸ナトリウム0.2gを300mLフラスコに計量し、撹拌子を入れ、マグネティックスタラーで混合した。イオン交換水を100mL加え、マグネティックスタラーで撹拌しながら超音波ホモジナイザーで乳化した。前記のように調整したシード溶液7.94g(固形分量0.554g)及び50mLの4%濃度のポリビニルアルコール水溶液を加え、1分間よく撹拌し、静置した。室温下で30分放置後、60度に設定した水浴に静置し、2時間重合を行った。得られた重合液をガラスフィルターでろ過し、温水、アセトン、温水の順で洗浄して、非多孔性粒子を得た。
【0022】
得られた非多孔性粒子を500mLセパラブルフラスコに入れ、イオン交換水を300mL加え、90度に設定したオイルバスに設置し、撹拌しながら24時間加熱することによりエポキシ基の加水分解を行った。エポキシ基を加水分解した後の非多孔性粒子は、電子顕微鏡観察により観察したところ、2.0μmの粒子径の揃った粒子であった。
【0023】
得られた非多孔性粒子100g(水サクションドライ)、エピクロロヒドリン103g及びイオン交換水100gを500mLセパラブルフラスコに入れ、45度に設定した水浴に設置し撹拌した。これとは別に48%水酸化ナトリウム水溶液を88g計量し、ディスポーザブル注射器に入れ、シリンジポンプに設置し、0.5mL/分の速度でセパブルフラスコに撹拌しながら投入した。投入後反応を2時間継続し、反応物をガラスフィルターでろ過し、水、アセトンの順で洗浄し、通風乾燥し、エポキシ化非多孔性粒子(エポキシ当量710μ当量/ドライゲル(g))を得た。
実施例1
ビニルスルホン酸ナトリウム25%水溶液(東京化成工業製)10.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリル酸エステル0.216g(ビニルスルホン酸ナトリウムとの比率で10モル%)及び過硫酸カリウム0.026gを10mLガラス容器に入れ、65度に設定した水浴中で5時間重合した。重合液を少量サンプリングし、共重合体の分子量を下記の条件下、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した結果、重量平均分子量11700、ビニルスルホン酸の重合率は94%であった。
【0024】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの条件
カラム:TSKgel(登録商標) G4000PWXL及び同 G2500PWXL
溶離液:0.1mol/L 硝酸ナトリウム
流速:1.0mL/分
検出:屈折率計
サンプル:10倍希釈し、5uL注入
上記重合液を200mLのメタノールで再沈精製し、窒素気流下通風乾燥しビニルスルホン酸共重合体の白色粉体を得た。
エポキシ化非多孔性粒子5g(乾燥重量)に対し、ビニルスルホン酸共重合体1.0g及び20mLの純水を100mLナス型フラスコに入れ、超音波槽にてよく分散した。ナス型フラスコをエバポレータ―に取り付け、減圧下水を留去した。ナス型フラスコを150度に設定した温風過熱器に入れ、5時間加熱することにより、ビニルスルホン酸共重合体をエポキシ化非多孔性粒子の表面に固定した。ナス型フラスコを冷却後、水を入れ、よく分散し、ガラスフィルターを用いて、水、0.1N塩酸、0.1N水酸化ナトリウム、水の順で洗浄し、カチオン交換体を得た。このカチオン交換体のイオン交換容量は22μ等量/ゲル(mL)であり、また表面に残存するエポキシ基量は495μ当量/ドライゲル(g)であった。
このカチオン交換体を24mLのイオン交換水とともに100mLナスフラスコに投入し、亜硫酸ナトリウム6.6gを加えた後、撹拌しながら80℃のオイルバスに16時間浸漬した。浸漬後、ガラスフィルターを用い、水、0.1N塩酸、0.1N水酸化ナトリウム、水の順で洗浄し、残存エポキシ基がスルホン化したカチオン交換体を得た。このカチオン交換体のイオン交換容量は133μ当量/ゲル(mL)であった。
得られたカチオン交換体は、10%のイオン交換水を分散液として、4.6mm内径x50mm長さの液体クロマトグラフィー用カラムにスラリー充填した。得られたカラムを使用して、下記条件下、液体クロマトグラフィーを実施してタンパク質の分離性能を測定した。カチオン交換体の操作圧は、溶離液Aを流速0.5mL/分で送液した時の操作圧とした。そしてカチオン交換体のカチオン交換容量は、カラムに100mmol/Lのクエン酸溶液を0.4mL/分の流速で10分間通液し、続いてイオン交換水を0.4mL/分の流速でカラム溶出液の電気伝導度が低下するまで通液し、カラムから抽出したカチオン交換体を200mLのビーカー中で0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液で分散後、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpH7を終点として自動滴定することで測定した。
【0025】
液体クロマトグラフィー条件
溶離液A:10mmol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)
溶離液B:0.5mol/LのNaClを含む10mmol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)
グラジエント:5〜100%溶離液B直線グラジエント、9.5分
流速:0.4mL/分
対象:α−キモトリプシノーゲンA(1g/L)
リボヌクレアーゼA(1g/L)
リゾチウム(1g/L)
注入量:3、5、7、10、20、30及び50μL
対象を10μL注入したときのクロマトグラムは図1に示したとおりであり、3種類の対象が良好に分離されていること、及び、全対象について、本発明のカチオン交換体が十分な保持力を有していることが分かる。また、α−キモトリプシノーゲンAの溶出ピーク半値幅結果は図2に示した通りであり、後述する比較例1で製造したカチオン交換体で発生する低注入量時の溶出ピーク半値幅のブロード化が発生していないことが分かる。なお、本実施例で製造したカチオン交換体の操作圧は26.0MPaと低操作圧であった。
比較例1
実施例1において、ビニルスルホン酸共重合体をエポキシ化非多孔性粒子の表面に固定したのみで、その後残存するエポキシ基にスルホン基の導入を行っていないカチオン交換体を用い、実施例1と同様に3種類の対象について分離性能を測定した。得られた結果のうち、α−キモトリプシノーゲンAの溶出ピーク半値幅結果を図2に示す。本比較例で製造したカチオン交換体は、従来のカチオン交換体と比較すると良好な性能を示すものの、α−キモトリプシノーゲンA溶液の注入量が3、5、7及び10μL(α−キモトリプシノーゲンAの注入量としては、それぞれ、3、5、7及び10μg)と少ない場合には溶出ピーク半値幅がブロードになった。これは、対象であるα−キモトリプシノーゲンAがカチオン交換体に非特異的に吸着していることを示すものである。なお、本比較例で製造したカチオン交換体のイオン交換容量は22μ等量/ゲル(mL)であり、操作圧は26MPaであった。
比較例2
実施例1において、ビニルスルホン酸共重合体をエポキシ化非多孔性粒子の表面に固定せず、存在するエポキシ基にスルホン基の導入を行ったのみのカチオン交換体を用い、実施例1と同様に3種類の対象について分離性能を測定した。対象を10μL注入したときのクロマトグラムを図1に示す。図1において、対象の溶出時間が速いことから比較例2のカチオン交換体は保持力が低いこと、α−キモトリプシノーゲンAとリボヌクレアーゼが分離していないことから分離能が低いこと、溶出ピークがブロード化していることからカチオン交換体への非特異的な吸着が生じたこと、が分かる。なお、本比較例で製造したカチオン交換体のイオン交換容量は135μ当量/ゲル(mL)であり、操作圧は22MPaであった。
図1
図2