特許第6056345号(P6056345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056345
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及びそれを用いた洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/26 20060101AFI20161226BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20161226BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20161226BHJP
   C23G 5/032 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C11D7/26
   C11D7/50
   B08B3/08 Z
   C23G5/032
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-222849(P2012-222849)
(22)【出願日】2012年10月5日
(65)【公開番号】特開2013-129815(P2013-129815A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2015年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-258050(P2011-258050)
(32)【優先日】2011年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】氏田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】石丸 研二
(72)【発明者】
【氏名】岩部 一宏
(72)【発明者】
【氏名】岸 重美
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−049094(JP,A)
【文献】 特開平10−168488(JP,A)
【文献】 特開平07−331287(JP,A)
【文献】 特開平07−109493(JP,A)
【文献】 特開平10−077426(JP,A)
【文献】 特開平08−224740(JP,A)
【文献】 特開平08−269495(JP,A)
【文献】 特開2011−068858(JP,A)
【文献】 特開平06−079852(JP,A)
【文献】 特開2006−233029(JP,A)
【文献】 特開平08−245988(JP,A)
【文献】 特開平10−287896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00−19/00
C23G 1/00− 5/06
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が5容量%以上30容量%以下、ジエチレングリコールジエチルエーテルが40容量%以上、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルから選ばれる1種以上の水溶性溶剤を40容量%以下含み、不揮発性の物質を含まず、曇点が30℃以上100℃未満であることを特徴とする非引火性の洗浄剤組成物。
【請求項2】
加工油、フラックスのいずれかが付着した部品を請求項1に記載の洗浄剤組成物を用いて洗浄することを特徴とする洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、ジエチレングリコールジエチルエーテル及び水溶性溶剤を含んでなる洗浄剤組成物及びそれを用いた洗浄方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、自動車、機械、精密機器、電気、電子等の各種工業分野において扱われる部品等に付着する加工油類やフラックス類等の汚れに対する洗浄力に優れ、且つ良好な乾燥性を有する非引火性の洗浄剤組成物及びそれを用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0003】
各種工業分野において金属部品、電子部品、半導体部品等に付着する汚れを除去するため、ハロゲン系溶剤、炭化水素系洗浄剤、グリコールエーテル系洗浄剤、水系洗浄剤、準水系洗浄剤等の様々な洗浄剤が使用されている。
【0004】
しかし、塩素系溶剤は、人体や環境に対する有害性が高く多くの法規制等を受け、取扱いが難しい問題がある。炭化水素系洗浄剤やグリコールエーテル類は、引火性を有するため洗浄設備を防爆仕様としたり、防火設備を要するなど設備対策が必要であり、さらに、消防法に規程されている様に取扱量が大規模になるほど十分な管理が必要となる。水系洗浄剤や準水系洗浄剤は、引火性がないため、防爆設備とする必要はないが、それらの洗浄剤には界面活性剤等の揮発しない成分が配合されるため、洗浄後に純水等でリンス洗浄を行う必要があり、それらの排水処理等に多大な費用や設備が必要となる。また、蒸留回収等による再使用ができないため、洗浄剤及びリンス剤の液管理や定期交換が煩雑であるなど問題が多い。
【0005】
これらの問題に対して、非塩素系であって界面活性剤を含まない非引火性の洗浄剤が提案されているが(例えば特許文献1〜6参照)、いずれにおいても油分の溶解性が乏しいため洗浄力が不十分であり、また、乾燥性、回収性等の要求される性能をすべて満たすことはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−283973号公報
【特許文献2】特開平9−255995号公報
【特許文献3】特開平11−19986号公報
【特許文献4】特開2004−238442号公報
【特許文献5】特開2004−107561号公報
【特許文献6】特開平7−109493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、加工油やフラックスなどの汚れに対して洗浄性が高く、純水などの他のリンス液が不要で洗浄後にそのまま乾燥ができ、蒸留回収等によって繰り返し再使用が可能であり、且つ、相分離することなく安定な洗浄が可能な非引火性の洗浄剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の問題点を解決すべく種々の検討を重ねた結果、驚いたことにある種の溶剤混合物は、引火性を消失させるため水を配合しても油分溶解性の低下が少なく、非引火性の溶液となる水分濃度においても部品等の洗浄に必要な油分溶解性を保持できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の洗浄剤組成物は、水、ジエチレングリコールジエチルエーテル及び水溶性溶剤を含み曇点が30℃以上100℃未満であることを特徴とする非引火性の洗浄剤組成物である。
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の洗浄剤組成物における水は、洗浄剤組成物の引火点を消失させる作用を有するものであれば特に限定はなく、不純物が少なく部品や洗浄機への影響や洗浄後の仕上がり品質等への影響が少ないもの、例えば蒸留水やイオン交換水等が好ましく使用できる。
【0012】
ここで、非引火性とは、クリーブランド開放式引火点測定法(JIS K 2265)で引火が認められないと判断されるものである。
【0013】
本発明の洗浄剤組成物におけるジエチレングリコールジエチルエーテルは、有害性が低く、乾燥性に優れた溶剤である。これに水を加えると室温においては溶解し均一な溶液となり、加熱すると水が相分離し、水の配合量により概ね30℃未満に曇点を示す。さらに水溶性溶剤を加えると、曇点が上昇するとともに油分の溶解性が増し、良好な洗浄性を示す。なお、水溶性溶剤の添加量が多く曇点が100℃以上となる場合は、油分の溶解性が不十分となり洗浄性も悪化する。ジエチレングリコールジエチルエーテルを含まない溶剤は、水を加えて引火点を消失させた場合に、洗浄性、洗浄ムラなどの問題がある。
【0014】
本発明の洗浄剤組成物における水溶性溶剤は、水溶性溶剤であれば特に制限はなく、概ね30℃以上でも水と相溶する水溶性溶剤である。配合比によっては、乾燥性等の悪化を招くため、沸点が210℃以下であるものが好ましく、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール等のグリコール類;3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール等のメトキシブタノール類;乳酸メチル、乳酸エチル等の乳酸エステル類;テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール等の環状エーテルアルコール類;γ−ブチルラクトン等を例示できる。これらは、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
上記水溶性溶剤の中でも特に、沸点が170℃以上、210℃以下のプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等は、ジエチレングリコールジエチルエーテルとの組成変化が少ないことから好ましく、特に好ましくは、引火点がジエチレングリコールジエチルエーテルより高いプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルである。
【0016】
本発明の洗浄剤組成物は、曇点が30℃以上100℃未満であり、油分の溶解性がより高くなることから特に好ましくは、50℃以上、90℃以下である。
【0017】
なお、本発明における曇点とは、透明であった溶液が温度の変化により曇りを生ずる温度を言い、非イオン活性剤水溶液で生じる現象と同様に、溶液の温度を上昇させた際に、溶剤を主とする相と水を主とする相に分離し、透明の溶液が濁りを生じ始める温度をいう。
【0018】
本発明の洗浄剤組成物の水、ジエチレングリコールジエチルエーテル及び水溶性溶剤は、すべての成分を配合することによって始めて目的の洗浄剤組成物として優れた効果を発揮し、特に加工油等の油分やフラックス等を含む汚れの洗浄用に好適な組成物となる。すなわち、水とジエチレングリコールジエチルエーテル或いは水と水溶性溶剤だけを配合し非引火性とした組成物は、油分の溶解性が低く十分な洗浄性が得られない。また、ジエチレングリコールジエチルエーテルと水溶性溶剤だけを配合した組成物は、引火性の溶液となる。
【0019】
本発明の洗浄剤組成物における割合については、水は洗浄性及び引火性の消失作用の観点から、5容量%以上、30容量%以下が好ましく、特に好ましくは10容量%以上、25容量%以下である。ジエチレングリコールジエチルエーテルは、油分の溶解性及び非引火性の組成物の観点から40容量%以上、90容量%以下が好ましく、特に好ましくは50容量%以上、80容量%以下である。水溶性溶剤は、曇点、油分の溶解性の観点から1容量%以上、40容量%以下が好ましく、特に好ましくは5容量%以上、30容量%以下である。
【0020】
本発明の洗浄剤組成物には、本組成物の性能を損なわない範囲で、他の多価アルコール誘導体、エステル類、エーテル類等をさらに含んでも構わない。また、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)、チモール、ピロカテキン等の酸化防止剤、アミノアルコール類、アルキルアミン類、ベンゾトリアゾール類、ベンゾチアゾール類等の鉄、銅、亜鉛等の腐食防止剤、防錆剤をさらに含んでも構わない。
【0021】
本発明の洗浄剤組成物は、界面活性剤などの不揮発性の物質を含まず、揮発し易い成分から構成されるため、他のリンス液を必要とせず、そのまま乾燥することができる。洗浄後の被洗浄物は、温風乾燥、吸引乾燥、回転乾燥、真空乾燥などの従来の洗浄剤に使用される乾燥方法を実施することができる。
【0022】
また、洗浄後に水やイソプロピルアルコールなどの低沸点溶剤でリンス洗浄を行った後、乾燥することも可能である。本発明の洗浄剤組成物は水溶性であるため、複雑な形状の被洗浄物であっても水でリンスすることができ、乾燥の際に大気に放出する洗浄剤を削減できる。また、それらのリンス液に溶解した洗浄剤は、蒸留や相分離により回収して再度使用することができる。
【0023】
本発明の洗浄剤組成物は、加工油などの汚れ等の洗浄において汚染された液を、組成変化や洗浄性能等の劣化を起こすことなくバッチ式あるいは、連続式の蒸留機で汚れ成分を分離して回収し、繰り返し使用することが可能である。なお、使用される蒸留機は、特に限定されるものではなく、通常、真空(減圧)蒸留機が好ましい。
【0024】
また、本発明の洗浄剤組成物は、水等の汚れに対する貧溶媒を加えて、洗浄によって溶解した汚れを相分離することができ、分離した汚れを油水分離機等により除去することが可能である。油水分離は、比重差を利用して分離する従来の油水分離法、コアレッサーを通し効率的に分離する油水分離法、フィルターや限外ろ過膜等により分離する方法など、油分の分離精度に応じて適宜使用でき、分離後の液は、蒸留や相分離により洗浄剤を回収することができる。
【0025】
本発明の洗浄剤組成物は、加工油や、フラックスなどの汚れのほか、インクやレジスト、バフ等の除去に対して適用することも可能である。
【0026】
本発明の洗浄剤組成物を用いて加工油、フラックスのいずれかが付着した部品等の洗浄を行なう洗浄方法は、特に限定はなく、例えば、超音波洗浄、噴流洗浄、浸漬洗浄、揺動洗浄、回転洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄、真空洗浄方式等が使用でき、要求される清浄度や所要時間等を考慮して、単独もしくは数種類の方式を組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の洗浄用組成物は、自動車、機械、精密機器、電気、電子等の各種工業分野において扱われる部品等に付着する加工油等に対する洗浄力に優れ、他のリンス液が不要で洗浄後にそのまま乾燥ができ、蒸留回収等によって繰り返し再使用が可能であり、且つ、非引火性で安全に洗浄が可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
<曇点測定>
試験液をガラス容器に入れ、撹拌しながら徐々に加熱した。試験液の温度が約1℃上昇するごとに液の外観を観察して、白濁した温度を曇点とした。
<洗浄性試験>
市販の不水溶性切削油剤を付着させたボルト(M8×20)を、温度35℃に保った各種洗浄剤組成物100mlに浸漬して3分間超音波洗浄(周波数38kHz、出力200W)を行なった後、70℃で1時間温風乾燥した。乾燥後、ボルトの残存油分量を測定し、下記評価基準で洗浄性の評価を行なった。
【0029】
評価基準 ◎:残存油分 10μg未満
○:残存油分 10μg以上〜50μg未満
△:残存油分 50μg以上〜100μg未満
×:残存油分 100μg以上
<乾燥性試験>
アルミ板(15cmφ×0.4mmt)を40℃の洗浄剤に浸漬し、引き上げて30秒間静かに吊るして液切りを行い、その後、50℃の温風で乾燥を行い、乾燥する時間を測定した。乾燥性の評価基準は、次のとおりである。
【0030】
評価基準: ◎:70秒未満、○:70秒以上〜80秒未満、
△:80秒〜100秒未満、×:100秒以上
<引火点測定>
JIS K 2265に準拠し、クリーブランド開放式引火点測定器を使用して引火点を測定した。
【0031】
評価基準: ○:引火点なし ×:引火点あり
<総合評価>
下記評価基準で総合評価を行なった。
【0032】
評価基準 ◎:洗浄性、乾燥性の評価がいずれも◎、引火点の評価が○
○:洗浄性、乾燥性、引火性の評価が◎又は○
×:洗浄性、乾燥性、引火性の評価が◎又は○ではない
なお、表中の略号の意味は下記の通りである。
DEGDE: ジエチレングリコールジエチルエーテル
PG : プロピレングリコール
DEGE : ジエチレングリコールモノエチルエーテル
DPGM : ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
MMB : 3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール
MMBA : 3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルアセテート(非水溶性溶剤)
DEGEM: ジエチレングリコールメチルエチルエーテル
PNB : プロピレングリコールモノブチルエーテル(非水溶性溶剤)
DPGB : ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(非水溶性溶剤)
DPGP : ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(非水溶性溶剤)
PNP : プロピレングリコールモノプロピルエーテル
実施例 1〜14
表1に記載の水、ジエチレングリコールジエチルエーテル及び水溶性溶剤を含む洗剤組成物を得、評価を行った。
【0033】
比較例 1〜15
表1に記載の洗浄剤組成物を得、評価を行った。
【0034】
水を用いない比較例2、ジエチレングリコールジエチルエーテルを用いない比較例3〜9、11、12、水溶性溶剤を用いない比較例1、10は、本願の洗浄剤組成物より、劣るものであった。
【0035】
また、比較例13〜15は水、ジエチレングリコールジエチルエーテル及び水溶性溶剤からなる組成物であるものの曇点が100℃以上と高く、本願の洗浄剤組成物より、劣るものであった。
【0036】
【表1】