特許第6056498号(P6056498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6056498ジチエノベンゾジフラン誘導体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056498
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】ジチエノベンゾジフラン誘導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/22 20060101AFI20161226BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20161226BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20161226BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
   C07D495/22CSP
   H01L29/28 250H
   H01L29/78 618B
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-8365(P2013-8365)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-139146(P2014-139146A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真人
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 斉士
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−526588(JP,A)
【文献】 特開2012−206953(JP,A)
【文献】 特開2012−167031(JP,A)
【文献】 特開2009−209134(JP,A)
【文献】 特開2014−139982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H01L 29/786
H01L 51/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするジチエノベンゾジフラン誘導体。
【化1】
(ここで、置換基R及びRは、同一又は異なって、水素、メチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、p−トリル基、p−(n−ヘキシル)フェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(ノニル)フェニル基、2−チエニル基、5−(n−ブチル)−2−チエニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基、5−(n−オクチル)−2−チエニル基、2−フリル基、5−(n−ブチル)−2−フリル基、5−(n−ヘキシル)−2−フリル基、または5−(n−オクチル)−2−フリル基を示す。)
【請求項2】
上記一般式(1)における置換基R及びRは、同一又は異なって、メチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、またはシクロオクチル基であることを特徴とする請求項1に記載のジチエノベンゾジフラン誘導体。
【請求項3】
少なくとも下記(A)〜(C)の工程を経てなることを特徴とする下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジフラン誘導体の製造方法。
(A)工程;パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジメトキシベンゼンにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンを製造する工程。
(B)工程;3臭化ホウ素の存在下、(A)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンの脱メチル化により1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンを製造する工程。
(C)工程;パラジウム触媒の存在下、(B)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジフランを製造する工程。
【化2】
(ここで、置換基R及びRは、同一又は異なって、水素、メチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、p−トリル基、p−(n−ヘキシル)フェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(ノニル)フェニル基、2−チエニル基、5−(n−ブチル)−2−チエニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基、5−(n−オクチル)−2−チエニル基、2−フリル基、5−(n−ブチル)−2−フリル基、5−(n−ヘキシル)−2−フリル基、または5−(n−オクチル)−2−フリル基を示す。)
【請求項4】
炭素数7〜14の芳香族系炭化水素溶媒に請求項1又は2に記載のジチエノベンゾジフラン誘導体を含んでなる溶液であることを特徴とするドロップキャスト製膜用溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料等の電子材料への展開が期待される新規なジチエノベンゾジフラン誘導体及びその製造方法に関するものであり、特に溶媒への溶解性に優れることから容易に製膜用の有機半導体溶液への展開が期待される新規なジチエノベンゾジフラン誘導体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されている。この有機半導体デバイスは、有機半導体層、基板、絶縁層、電極等の数種類の材料から構成され、中でも電荷のキャリア移動を担う有機半導体層は該デバイスの中心的な役割を有している。そして、有機半導体デバイス性能は、この有機半導体層を構成する有機半導体材料のキャリア移動度により左右されることから、高キャリア移動度を与える有機半導体材料の出現が所望されている。
【0003】
また、有機半導体層を作製する方法としては、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法、有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法、等の方法が一般的に知られている。そして、塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスである。そして、このような塗布法に使用される有機半導体材料は、低分子系、高分子系があるが、1.0cm/Vsを超えるキャリア移動度を得ることができる低分子系材料の方が好ましい。さらに室温で1.5重量%以上の溶解度を持ち、150℃以上の耐熱性も合わせ持つことがデバイス作製のプロセス上の観点から好ましい。しかし、高キャリア移動度、高溶解性、及び高耐熱性を兼ね合わせた低分子系の有機半導体材料は知られていないのが現状である。
【0004】
そして、低分子系材料としては、例えば、ビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン(例えば非特許文献1参照。)、ジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェン(例えば特許文献1参照。)、ジアルキルジチエノベンゾジチオフェン(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2008/047896号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特表2011−526588号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジャーナル オブ ポリマー サイエンス:パートB:ポリマー フィジックス、2006年、44巻、3631〜3641頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載されたビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセンは、塗布膜の移動度が0.3〜1cm/Vsであったものが、120℃の熱処理後には、0.2cm/Vsへ低下することが報告されている。また、特許文献1に記載されたジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェンの場合も、130℃で熱処理を行うとトランジスタ動作が失われることが報告されている。特許文献2に提案のジヘキシルジチエノベンゾジチオフェンは、ドロップキャスト法により0.112cm/Vsの移動度を示すが、室温での溶媒に対する溶解度に課題を有する。
【0008】
そこで、高キャリア移動度で高耐熱性及び高溶解性を示す塗布型の有機半導体材料の出現が所望されており、本発明はこれまでの課題を解決する新規な有機半導体材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、新規なジチエノベンゾジフラン誘導体が高キャリア移動度を与えると共に、高耐熱性及び高溶解性を示す材料として期待されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするジチエノベンゾジフラン誘導体及びその製造方法に関するものである。
【0011】
【化1】
(ここで、置換基R及びRは、同一又は異なって、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数4〜20のアリール基を示す。)
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のジチエノベンゾジフラン誘導体は上記一般式(1)で示される誘導体であり、置換基R及びRは、同一又は異なって、水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数4〜20のアリール基を示す。
【0013】
置換基R及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、例えばメチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のアルキル基である。
【0014】
置換基R及びRにおける炭素数4〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、p−トリル基、p−(n−ヘキシル)フェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(ノニル)フェニル基、2−チエニル基、5−(n−ブチル)−2−チエニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基、5−(n−オクチル)−2−チエニル基、2−フリル基、5−(n−ブチル)−2−フリル基、5−(n−ヘキシル)−2−フリル基、5−(n−オクチル)−2−フリル基等を挙げることができる。
【0015】
そして、その中でも特に高耐熱性及び高溶解性を示すジチエノベンゾジフラン誘導体となることから、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基であることが特に好ましい。
【0016】
本発明のジチエノベンゾジフラン誘導体の具体的例示としては、以下のものを挙げることができる。
【0017】
【化2】
そして、より好ましいものとしては、ジn−ペンチルジチエノベンゾジフラン、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジフラン、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジフラン、ジn−オクチルジチエノベンゾジフラン等を挙げることができる。
【0018】
本発明のジチエノベンゾジフラン誘導体は、溶媒への溶解性に優れ、溶液としての取り扱い性に優れるものとなる。また、該溶液は、ドロップキャスト法、特にインクジェット法による製膜に適したものとなり、その際は、室温で溶媒に対し1.5重量%以上の溶解度を示すものであることが好ましい。そして、その際の溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、オクチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、テトラリン等の炭素数7〜14の芳香族系炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の炭素数6〜14の脂肪族系炭化水素溶媒;o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン等の炭素数1〜7のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン(以下、THFと記す。)、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)等のアミド系溶媒;等が挙げられ、中でも高沸点の溶液を得ることが可能となることから、トルエン、キシレン、メシチレン、ペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の炭素数7〜14の芳香族系炭化水素溶媒であることが好ましく、特にトルエン、キシレン、メシチレン、ペンチルベンゼン、テトラリンであることが好ましい。ここで、室温とは、一般的に常温とも称されるものであり、例えば20〜26℃の温度を挙げることができる
上記に挙げた溶媒と一般式(1)で示されるジチエノベンゾジフラン誘導体を混合し、加熱・攪拌することにより、一般式(1)で示されるジチエノベンゾジフラン誘導体の溶液、ドロップキャスト製膜用溶液を調製することができる。加熱・攪拌する際の温度は15〜70℃が好ましく、特に好ましくは20〜60℃である。加熱・攪拌する際の一般式(1)で示されるジチエノベンゾジフラン誘導体の濃度は、0.1〜10.0重量%であることが好ましい。
【0019】
本発明のジチエノベンゾジフラン誘導体の製造方法としては、該ジチエノベンゾジフラン誘導体を製造することが可能であれば如何なる製造方法を用いることも可能であり、その中でも特に容易に高純度のジチエノベンゾジフラン誘導体を製造することが可能となることから、少なくとも下記(A)〜(C)の工程を経ることによりジチエノベンゾジフランを製造することが好ましく、更に少なくとも下記(A)〜(E)の工程を経ることによりジチエノベンゾジフラン誘導体を製造することが好ましい。
【0020】
(A)工程;パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジメトキシベンゼンにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンを製造する工程。
【0021】
(B)工程;3臭化ホウ素の存在下、(A)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンの脱メチル化により1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンを製造する工程。
【0022】
(C)工程;パラジウム触媒の存在下、(B)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジフランを製造する工程。
【0023】
(D)工程;触媒として塩化アルミニウムの存在下、(C)工程により得られたジチエノベンゾジフランと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジフランのジアシル体を製造する工程。
【0024】
(E)工程;(D)工程により得られたジチエノベンゾジフランのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジフラン誘導体を製造する工程。
【0025】
そして、好ましい製造方法のより具体的な製造スキームを以下に示す。
【0026】
【化3】
ここで、(A)工程は、パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジメトキシベンゼンのクロスカップリングにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンを製造する工程である。
【0027】
3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体は、例えばイソプロピルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムクロライド等の有機金属試薬を用い、2,3−ジブロモチオフェンの2位の臭素をマグネシウムハライドに交換後、塩化亜鉛と金属交換することで調製することができる。また、該有機金属試薬の代わりにマグネシウム金属を用い、2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製することも可能である。2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製する条件としては、例えばTHF又はジエチルエーテル等の溶媒中、−80℃〜70℃の温度範囲内で実施することができる。該グリニャール試薬の溶液に塩化亜鉛を反応させることで3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体を調製することができる。塩化亜鉛はそのままの状態でもよいし、THFあるいはジエチルエーテル溶液であってもかまわない。温度としては、−80℃〜30℃の範囲内で実施できる。
【0028】
パラジウム触媒の存在下、調製された3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジメトキシベンゼンをクロスカップリングすることにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンを合成することができる。その際のパラジウム触媒としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム等を挙げることができ、反応温度としては、20℃〜80℃の範囲内で実施することができる。
【0029】
(B)工程は、3臭化ホウ素の存在下、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンの脱メチル化により1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンを製造する工程である。
【0030】
該脱メチル化反応は、例えばジクロロメタン,クロロホルム等の溶媒中、0℃〜30℃の温度範囲で行うことができる。
【0031】
(C)工程は、パラジウム触媒の存在下、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジフランを製造する工程である。
【0032】
該分子内環化反応は、例えば酢酸パラジウムを触媒とし、2−ジターシャリーブチルホスフィノビフェニル、2−ジターシャリーブチルホスフィノ−2’−メチルビフェニルを配位子とし、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノールを安定剤として使用し、酢酸カリウムの塩基の存在下、トルエン及びジメトキシエタン等の溶媒中、80℃〜120℃の温度範囲内で実施することができる。
【0033】
パラジウム触媒の他の例としてはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム等を挙げることができる。
【0034】
なお、該環化反応は、例えば、ジャーナル オブ オルガニック ケミストリィー(米国)、2007年、72巻、5119−5128頁に記載してある方法を用いて実施することもできる。
【0035】
(D)工程は、触媒として塩化アルミニウムの存在下、ジチエノベンゾジフランと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジフランのジアシル体を製造する工程である。
【0036】
該塩化アシル化合物としては、例えば塩化ペンタノイル、塩化ヘキサノイル、塩化ヘプタノイル、塩化オクタノイル等を挙げることができる。該フリーデルクラフツアシル化反応は、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トルエン等の溶媒中、0℃〜40℃の温度範囲で行うことができる。
【0037】
(E)工程は、ジチエノベンゾジフランのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジフラン誘導体を製造する工程である。
【0038】
ジチエノベンゾジフランのジアシル体の還元反応は、例えば還元剤としてヒドラジンを用い、ジエチレングリコール、エチレングリコール又はトリエチレングリコール中、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム存在下、80℃〜250℃の温度範囲で行うことができる。また、例えば還元剤として水素化ホウ素ナトリウム/塩化アルミニウムを用い、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル又はTHFの溶媒中、−10℃〜80℃の温度範囲で行うこともできる。
【0039】
さらに、製造したジチエノベンゾジフラン誘導体は、カラムクロマトグラフィー等に供することにより精製することができ、その際の分離剤としては、例えばシリカゲル、アルミナ、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、クロロホルム等を挙げることができる。
【0040】
また、製造したジチエノベンゾジフラン誘導体は、さらに再結晶により精製してもよく、再結晶の回数としては好ましくは2〜5回である。再結晶の回数を増やすことで純度を向上させることができる。再結晶に用いる溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができ、これらの任意の割合の混合物であってもよい。再結晶法としては、加熱によりジチエノベンゾジフラン誘導体の溶液を調製し(その際の溶液の濃度は0.01〜10.0重量%の範囲が好ましく、0.05〜5.0重量%の範囲がより好ましい。)、該溶液を冷却することでジチエノベンゾジフラン誘導体の結晶を析出させ単離するが、単離する際の最終的な冷却温度は−20℃から40℃の範囲にあることが好ましい。なお、純度を測定する際には液体クロマトグラフィーにより分析することにより測定することが可能である。
【0041】
本発明のジチエノベンゾジフラン誘導体は、溶媒への高い溶解性を有することからドロップキャスト法、特にインクジェット法、等の方法により容易に効率よく製膜することが可能となり、高いキャリア移動度を与える有機半導体材料として期待されるものである。
【発明の効果】
【0042】
本発明の新規なジチエノベンゾジフラン誘導体は、高耐熱性及び高溶解性を示す塗布型の有機半導体材料であり、本発明はこれまでの課題を解決する新規な有機半導体材料として期待され、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としてその効果は極めて高いものである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
生成物の同定にはマススペクトルを用いた。なお、マススペクトル(MS)は、(商品名)JEOL JMS−700(日本電子製)を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)で測定した。
【0045】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0046】
ガスクロマトグラフィー分析
装置;(商品名)GC14B(島津製作所製)。
カラム;(商品名)DB−1,30m(J&Wサイエンティフィック社製)。
【0047】
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置;(商品名)オートシステムXL(パーキンエルマー製)(MS部;ターボマスゴールド)。
カラム;(商品名)DB−1,30m(J&Wサイエンティフィック社製)。
【0048】
ジチエノベンゾジフラン誘導体の純度測定は液体クロマトグラフィー分析を用いた。
装置;東ソー製(コントローラー;PX−8020、ポンプ;CCPM−II、デガッサー;SD−8022)。
カラム;(商品名)ODS−100V(東ソー製)、5μm、4.6mm×250mm。
カラム温度;23℃。
溶離液;ジクロロメタン:アセトニトリル=4:6(容積比)。
流速;1.0ml/分。
検出器;UV(東ソー製、(商品名)UV−8020、波長;254nm)。
【0049】
実施例1
(1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンの合成((A)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にイソプロピルマグネシウムブロマイド(東京化成工業製、0.80M)のTHF溶液4.5ml(3.6mmol)及びTHF10mlを添加した。この混合物を−75℃に冷却し、2,3−ジブロモチオフェン(和光純薬工業製)873mg(3.61mmol)を滴下した。−75℃で30分間熟成後、塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液3.6ml(3.6mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮し、10mlの軽沸分を留去した。得られた白色スラリー液(3−ブロモチエニル−2−ジンククロライド)に、1,4−ジブロモ−2,5−ジメトキシベンゼン(シグマ−アルドリッチ製)296mg(1.00mmol)、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)116mg(0.0338mmol、1,4−ジブロモ−2,5−ジメトキシベンゼンに対し10モル%)及びTHF10mlを添加した。65℃で30時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンで抽出し、有機相を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサンからヘキサン/ジクロロメタン=5/1)、さらにトルエンから再結晶精製し、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼンの薄黄色固体189mgを得た(収率41%)。
MS m/z:460(M,100%),300(M−2Br,23)。
【0050】
(1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンの合成((B)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジメトキシベンゼン189mg(0.411mmol)及びジクロロメタン6mlを添加した。この混合物を0℃に冷却し、3臭化ホウ素(和光純薬工業製、1.0M)のジクロロメタン溶液1.2ml(1.2mmol)を添加した。得られた混合物を0℃で10時間攪拌後、0℃で水添加により反応を停止させた。トルエンで抽出し、有機相を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をヘキサンで洗浄を2回実施し、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼンの淡黄色固体158mgを得た(収率89%)。
MS m/z:432(M,100%),151(M/2,10)。
【0051】
(ジチエノベンゾジフランの合成((C)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に酢酸カリウム(和光純薬工業製)179mg(1.82mmol)、2−ジターシャリーブチルホスフィノ−2’−メチルビフェニル(シグマ−アルドリッチ製)34.4mg(0.110mmol)、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノール(和光純薬工業製)161mg(0.730mmol)、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジヒドロキシベンゼン158mg(0.365mmol)、トルエン2ml、ジメトキシエタン1ml、及び酢酸パラジウム(和光純薬工業製、有機合成用)16.4mg(0.073mmol)を添加した。100℃で3日間加熱した。得られた反応混合物を室温に冷却し、トルエンと水を添加後、分相し、有機相を2回水洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をヘキサンで洗浄を2回実施し、ジチエノベンゾジフランの淡黄色固体57mgを得た(収率57%)。
MS m/z:270(M,100%),135(M/2,14)。
【0052】
実施例2
(ジヘキサノイルジチエノベンゾジフランの合成((D)工程))
100mlシュレンク反応容器に実施例1で得られたジチエノベンゾジフラン55.0mg(0.203mmol)及びジクロロメタン10mlを添加した。この混合物を氷冷し、塩化アルミニウム(和光純薬工業製)95.3mg(0.715mmol)及び塩化ヘキサノイル(シグマ−アルドリッチ製)76.5mg(0.568mol)を添加した。得られた混合物を室温で30時間攪拌後、氷冷し水を添加することで反応を停止させた。得られたスラリー混合物を加熱し、ジクロロメタンを蒸留で除去した。ここに水を添加し得られた水の分散液を濾過した。得られた黄色固体をさらに水及びメタノールで洗浄した。減圧乾燥した後、ジヘキサノイルジチエノベンゾジフランの黄色固体87.1mgを得た(収率92%)。
MS m/z:466(M,100%),410(M−C+1,49)。
【0053】
(ジn−ヘキシルジチエノベンゾジフランの合成((E)工程))
100mlシュレンク反応容器にジヘキサノイルジチエノベンゾジフラン87.1mg(0.187mmol)、THF10ml、及び塩化アルミニウム(和光純薬工業製)125mg(0.935mmol)を添加した。0℃に冷却後、さらに水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業製)70.7mg(1.87mmol)を添加した。60℃で5時間加熱した後、0℃に冷却し、注意深く水を添加することで反応を停止させた。3N塩酸で水相を酸性とした後、トルエン抽出した。分相後、有機相の水洗浄を3回繰り返した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン/トルエン=10/1、容積比)、トルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から3回再結晶精製し、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジフランの淡黄色結晶33.6mgを得た(収率41%)。
【0054】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジフランの純度は液体クロマトグラフィーより99.7%であった。
MS m/z:438(M,100%),367(M−C11,58),296(M−2C11,43)
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジフラン10.4mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)0.683gを添加し、50℃に加熱溶解後、室温下(25℃)に放冷し、ドロップキャスト製膜用溶液を調製した。25℃で10時間後も溶液状態を維持しており(ジn−ヘキシルジチエノベンゾジフランの濃度は1.50重量%)、ドロップキャスト、インクジェットによる製膜に適した溶液であることを確認した。
【0055】
実施例3
(ジヘプタノイルジチエノベンゾジフランの合成((D)工程))
実施例2で用いた塩化ヘキサノイルの代わりに、塩化ヘプタノイル(シグマ−アルドリッチ製)を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ジヘプタノイルジチエノベンゾジフランの黄色固体を収率90%で得た。
【0056】
(ジn−ヘプチルジチエノベンゾジフランの合成((E)工程))
ジヘプタノイルジチエノベンゾジフランを用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジフランの淡黄色結晶を収率38%で得た。
【0057】
得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジフラン11.6mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)0.763gを添加し、50℃に加熱溶解後、室温下(25℃)に放冷し、ドロップキャスト製膜用溶液を調製した。25℃で10時間後も溶液状態を維持しており(ジn−ヘプチルジチエノベンゾジフランの濃度は1.50重量%)、ドロップキャスト、インクジェットによる製膜に適した溶液であることを確認した。
【0058】
実施例4
(ジオクタノイルジチエノベンゾジフランの合成((D)工程))
実施例2で用いた塩化ヘキサノイルの代わりに、塩化オクタノイル(シグマ−アルドリッチ製)を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ジオクタノイルジチエノベンゾジフランを得た。
【0059】
(ジn−オクチルジチエノベンゾジフランの合成((E)工程))
ジオクタノイルジチエノベンゾジフランを用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ジn−オクチルジチエノベンゾジフランの淡黄色結晶を収率42%で得た。
【0060】
得られたジn−オクチルジチエノベンゾジフラン11.1mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)0.730gを添加し、50℃に加熱溶解後、室温下(25℃)に放冷し、ドロップキャスト製膜用溶液を調製した。25℃で10時間後も溶液状態を維持しており(ジn−オクチルジチエノベンゾジフランの濃度は1.50重量%)、ドロップキャスト、インクジェットによる製膜に適した溶液であることを確認した。
【0061】
比較例1
再公表WO2008/047896号公報に記載の方法に従い、ジn−デシルベンゾチエノベンゾチオフェンを以下の様に合成した。
【0062】
100mlシュレンク反応容器に2,7−ジ(1−デシニル)(1)ベンゾチエノ(3,2−b)(1)ベンゾチオフェン286mg(0.558mmol)、10%Pd/C(和光純薬工業製)62mg、及びトルエン(和光純薬工業製脱水グレード)10mlを添加した。水素バルーンを取り付け、アスピレーターによる減圧−水素置換を3回繰り返した後、10時間室温で攪拌した。溶媒を減圧で留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン)、ヘキサン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から2回再結晶精製し、ジn−デシルベンゾチエノベンゾチオフェンの白色固体227mgを得た(収率78%)。
MS m/z:520(M,100%)。
【0063】
得られたジn−デシルベンゾチエノベンゾチオフェン11.5mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)0.755gを添加し、50℃で加熱溶解後(ジn−デシルベンゾチエノベンゾチオフェンの仕込み濃度は1.50重量%)、室温下(25℃)に放冷したところ、固体の析出が見られ、ドロップキャスト、インクジェットによる製膜には適さない化合物であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の新規なジチエノベンゾジフラン誘導体は、溶媒への溶解性、耐熱性に優れ、高キャリア移動度も期待されることから有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としての適用が期待できる。