特許第6057265号(P6057265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057265標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法、ならびに該方法に使用するための試薬助剤およびキット
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  • 特許6057265-標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法、ならびに該方法に使用するための試薬助剤およびキット 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057265
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法、ならびに該方法に使用するための試薬助剤およびキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/566 20060101AFI20161226BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   G01N33/566
   G01N33/53 S
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-532865(P2015-532865)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(86)【国際出願番号】JP2014071682
(87)【国際公開番号】WO2015025856
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2013-171684(P2013-171684)
(32)【優先日】2013年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-13710(P2014-13710)
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22〜27年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(総括実施型 ERATO タイプ)「ERATO 村田脂質活性構造プロジェクト」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】松岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】村田 道雄
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−111713(JP,A)
【文献】 松岳大輔ほか,変異導入によるFABP3‐脂肪酸相互作用形態の変化,日本蛋白質科学会年会プログラム・要旨集,2013年 5月31日,Vol.13th,P.65
【文献】 大塚康平ほか,水溶性脂肪酸ミミックの分子設計とFABP結合活性,日本化学会講演予稿集,2013年 3月 8日,Vol.93rd,No.3,P.973
【文献】 笹倉寛生ほか,脂肪酸導入リポソームの調製と物性,日本油化学会年会講演要旨集,2002年 9月19日,Vol.41st,P.172
【文献】 Peter BRECHER et al.,Fatty acid transfer between multilamellar liposomes and fatty acid-binding proteins,Journal of Biological Chemistry,1984年11月10日,Vol.259,No.21,P.13395-13401
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法であって、
標的物質と脂質集合体を構成し得る物質とを混合して、該標的物質を含有する脂質集合体を形成する工程;
該標的物質を含有する脂質集合体をリガンドと合わせて測定サンプルを調製する工程;および
該測定サンプルの物性変化量を測定する工程;
を包含し、
ここで、該物性変化量が、等温滴定熱測定法により測定される、方法。
【請求項2】
前記脂質集合体が、リポソーム、バイセル、およびデンドリマーからなる群より選択される少なくとも1種の分子群である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂質集合体を構成し得る物質がリン脂質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的物質が疎水性化合物である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記疎水性化合物が、疎水性脂肪酸およびその誘導体ならびにそれらの塩、疎水性タンパク質、疎水性低分子化合物、疎水性DNA、ならびに疎水性RNAからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
脂質集合体を構成し得る物質を含有する、標的物質とリガンドとの結合親和性の等温滴定熱測定に使用するための試薬助剤。
【請求項7】
前記脂質集合体を構成し得る物質がリン脂質である、請求項に記載の試薬助剤。
【請求項8】
標的物質とリガンドとの結合親和性の等温滴定熱測定に使用するためのキットであって、
脂質集合体を構成し得る物質を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法、ならびに該方法に使用するための試薬助剤およびキットに関し、より詳細には、等温滴定熱測定(ITC)などの化学物質間での結合親和性をより効率良く測定することができる方法ならびに該方法に使用するための試薬助剤およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜の疎水部における分子間相互作用は、細胞内外物質移動の障壁だけでなく、膜タンパク質の構造形成・機能発現、細胞膜構成分子の集合分配によるドメイン形成など、細胞膜のダイナミックな生理機能発現を理解するうえで重要な現象である。
【0003】
例えば、「外来性脂肪酸」を「細胞膜」から「ミトコンドリア」に運ぶ機能を有する脂肪酸結合タンパク質FABP3(fatty acid binding protein 3)は、脂肪酸の細胞内輸送に関与する分子量15kDaの可溶性タンパク質であり、一分子の脂肪酸に結合する(非特許文献1)。
【0004】
しかし、このようなFABP3は脂肪酸に対して独特の選択的親和性を示すことが様々な実験から示唆されている(非特許文献2)にすぎない。
【0005】
従来、標的物質とリガンドとの間の選択的親和性(結合親和性)は、例えば、等温滴定熱測定(ITC)法を用いて解析することができるが、一連の脂肪酸について、このような測定方法を用いた同一条件における網羅的な比較を行うことは、特に長鎖脂肪酸が疎水性のため難しい。
【0006】
このように同一条件での結合親和性の比較が困難であることは、例えば、創薬開発の現場において、膨大な数の標的物質の効率的な評価にも多大な影響を及ぼす。
【0007】
標的物質の種類に影響なく、同一条件での結合親和性の比較を可能とする技術が所望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Storch, A. E. Thumser, Biochim. Biophys. Acta, 2000, 1486, 28-44.
【非特許文献2】R.-Z. Liu, R. Mita, M. Beaulieu, Z. Gao, R. Godbout, Int. J. Dev. Biol. 2010, 54, 1229-1239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、標的物質の種類に影響なく、当該標的物質とリガンドとの結合親和性を測定することができ、かつ得られた測定結果について、各標的物質との比較が可能となる、標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法、ならびに該方法に使用するための試薬助剤およびキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法であって、
標的物質と脂質集合体を構成し得る物質とを混合して、該標的物質を含有する脂質集合体を形成する工程;
該標的物質を含有する脂質集合体をリガンドと合わせて測定サンプルを調製する工程;および
該測定サンプルの物性変化量を測定する工程;
を包含する、方法である。
【0011】
1つの実施形態では、上記脂質集合体は、リポソーム、バイセル、およびデンドリマーからなる群より選択される少なくとも1種の分子群である。
【0012】
1つの実施形態では、上記脂質集合体を構成し得る物質はリン脂質である。
【0013】
1つの実施形態では、上記標的物質は疎水性化合物である。
【0014】
さらなる実施形態では、上記疎水性化合物は、疎水性脂肪酸およびその誘導体ならびにそれらの塩、疎水性タンパク質、疎水性ペプチド、疎水性低分子化合物、疎水性DNA、ならびに疎水性RNAからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0015】
1つの実施形態では、上記物性変化量は、等温滴定熱測定法または表面プラズモン共鳴法により測定される。
【0016】
本発明はまた、脂質集合体を構成し得る物質を含有する、標的物質とリガンドとの結合親和性の測定に使用するための試薬助剤である。
【0017】
1つの実施形態では、上記脂質集合体を構成し得る物質がリン脂質である。
【0018】
本発明はまた、標的物質とリガンドとの結合親和性の測定に使用するためのキットであって、
脂質集合体を構成し得る物質を含む、キットである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、標的物質の物性(水溶性の程度など)によらず、標的物質とリガンドとの間の結合親和性を効率的に測定することができる。さらに本発明によれば、得られた測定結果について、当該標的物質の種類を問わず互いに比較することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】標的物質と脂質集合体を構成し得る物質とを混合して、標的物質を含有するリポソームを形成した際の、当該リポソームにおける標的物質分子が局在した状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。
【0022】
(標的物質およびリガンドの結合親和性の測定方法)
本発明の標的物質とリガンドとの結合親和性を測定するための方法では、まず、標的物質と脂質集合体を構成し得る物質とを混合して、該標的物質を含有する脂質集合体が形成される。
【0023】
本発明に用いられる標的物質は、等温滴定熱測定(ITC)法または表面プラズモン共鳴(SPR)法を通じて後述するリガンドとの結合親和性の測定を必要とする化合物全体を指して言う。標的物質は、必ずしも限定されないが、例えば、水溶性化合物または疎水性化合物のいずれであってもよい。ここで、本明細書中に用いられる用語「疎水性」とは、水に対して不溶、あるいは例えば、20℃の水100gに対して1g以下、好ましくは0.1g以下の溶解度を有することを指して言う。また、「疎水性化合物」とは、このような疎水性を示す化合物を指して言う。さらに、水溶性化合物とは、水に対して溶解性を示すもの、すなわち、上記疎水性化合物以外の化合物を指して言う。
【0024】
疎水性化合物としては、特に限定されず、例えば、疎水性脂肪酸およびその誘導体または塩、疎水性タンパク質、疎水性ペプチド、疎水性低分子化合物、疎水性DNA、疎水性RNA、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
疎水性脂肪酸は、フェニル基またはハロゲン置換されたフェニル基のようなアリール基で置換されていてもよい、疎水性の脂肪酸基またはアシル基を有する脂肪酸であり、例えば、炭素数が10以上の長鎖脂肪酸であり、炭素数が、好ましくは12以上、より好ましくは14以上である脂肪酸が挙げられる。なお、当該脂肪酸を構成する炭素数(上記置換されたアリール基部分を除く)の上限は必ずしも限定されないが、例えば、50以下、45以下、40以下および35以下が挙げられる。脂肪酸はまた、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、そして不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸(例えば、ω3脂肪酸およびω6脂肪酸)のいずれをも包含する。疎水性脂肪酸の誘導体としては、上記疎水性脂肪酸のエステル(例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキル(C〜C40)エステル)、脂肪酸アルケニル(C〜C40)エステル、および脂肪酸アルキニル(C〜C40)エステルなどが挙げられる。疎水性脂肪酸の塩としては、上記疎水性脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、鉄塩および銅塩などが挙げられる。
【0026】
なお、本発明では、このような疎水性脂肪酸を包含する任意の脂肪酸を標的物質とすることができる。標的物質とすることができる脂肪酸の例としては、必ずしも限定されないが、例えば、C6:0、C7:0、C8:0、C9:0、C10:0、C12:0、C14:0、C16:0、C18:0、C19:0、C20:0、C22:0、C24:0などの飽和脂肪酸、ならびにC16:1ω7c、C18:1ω12c、C18:1ω11c、C18:1ω9c、C18:1ω9t、C18:1ω7c、C18:1ω7t、C18:2ω6c、C18:3ω3c、C20:4ω6c、C20:5ω3c、C22:1ω9c、C22:6ω3c、C24:1ω9cなどの不飽和脂肪酸が挙げられる。標的物質とすることができる脂肪酸の誘導体および脂肪酸の塩もまた、これらの脂肪酸に由来する誘導体および塩が包含される。
【0027】
疎水性タンパク質としては、特に限定されず、例えば、インテグリンなどの膜タンパク質;コリシンA、αヘモリシン、プリオン、アミロイドβペプチドなどのポリペプチド毒;などが挙げられる。
【0028】
疎水性ペプチドとしては、特に限定されず、例えば、グライコフォリンA、グラミシジンD、M2-TM、およびp24−TMなどが挙げられる。
【0029】
疎水性低分子化合物としては、特に限定されず、例えば、インドメタシン、アセメタシン、スリンダク、マレイン酸プログルメタシン、ピンドロールなどのインドール誘導体;アスピリン、ジフルニサルなどのサリチル酸誘導体;イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェンなどのフェニルプロピオン酸誘導体;メフェナム酸、フルフェナム酸アルミニウムなどのアントラニル酸誘導体;ピロキシカム、アンピロキシカムなどのベンゾチアジン誘導体;チアプロフェン酸などのチオフェン酢酸誘導体;酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸クロルマジノン、ダナゾール、フルオロメトロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンなどのステロイド誘導体;葉酸、メトトレキサートなどの葉酸誘導体;パクリタキセル、ドセタキセル水和物などのタキサン誘導体;メルカプトプリンなどのプリン誘導体;フルオロウラシル、テガフールなどのピリミジン誘導体;シクロスポリンAなどのペプチド系薬剤;エノキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、トシル酸トスフロキサシン、スパルフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、フレロキサシンなどのピリドンカルボン酸誘導体(ニューキノロン系抗生物質);イトラコナゾール、フルコナゾールなどのトリアゾール誘導体;クロフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラートなどのフィブラート系薬剤;ニフェジピンなどのジヒドロピリジン誘導体;トリアゾラム、ジアゼパム、ニトラゼパム、塩酸フルラゼパム、ミダゾラム、エスタゾラムなどのベンゾジアゼピン誘導体;ハロペリドール、ドロペリドールなどのブチロフェノン誘導体;テオフィリンなどのキサンチン誘導体;ジギトキシン、ジゴキシンなどのジギタリス誘導体;フェノバルビタールなどのバルビツール酸誘導体;フェニトインなどのヒダントイン誘導体;シメチジンなどのイミダゾール誘導体;オメプラゾール、ランソプラゾールなどのベンズイミダゾール誘導体;ファモチジンなどのチアゾール誘導体;シンバスタチンなどのスタチン系薬剤のほか、プロブコール、マイトマイシンC、クエン酸タモキシフェン、シスプラチン、タクロリムス水和物、グリセオフルビン、アシクロビル、ジピリダモール、塩酸プラゾシン、レセルピン、塩酸ベラパミル、アテノロール、スルピリド、フマル酸クレマスチン、テルフェナジン、塩酸シプロヘプタジン、オキセサゼイン、スクラルファート、ゲファルナート、レバミピド、メトクロプラミド、パルミチン酸レチノール、酪酸リボフラビン、リン酸ピリドキサール、メコバラミン、酢酸トコフェロール、フィトナジオン、メナテトレノン、フロセミド、インダパミド、スピロノラクトン、トラニラスト、塩酸ブロムヘキシン、ベンズブロマロン、アロプリノール、トルブタミド、レボドパ、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンメチルエステル、カンデサルタン、アトルバスタチンなどの、医薬および/または動物薬して用いられ得る化合物、ならびにジブチルヒドロキシトルエン(抗酸化剤)、11−((5−ジメチルアミノナフタレン−1−イルスルホニル)アミノ)ウンデカン酸、8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸、2−(2−(1−(4−ブロモフェニル)−5−フェニル−1H−ピラゾール−3−イル)フェノキシ)酢酸などの、試薬類が挙げられる。
【0030】
疎水性RNAとしては、例えば、疎水性構造で修飾された、3〜100の塩基で構成されるRNA、tRNAなどが挙げられる。
【0031】
疎水性DNAとしては、例えば、疎水性構造で修飾された、3〜100の塩基で構成されるDNAが挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる脂質集合体を構成し得る物質とは、上記標的物質と一緒になって後述する脂質集合体を形成することができる物質であり、本発明の標的物質とリガンドとの結合親和性の測定における試薬助剤の一成分として機能する。脂質集合体を構成し得る物質(以下、単に「集合体構成物質」ということがある)の例としては、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、ステロール、アーキオール、カルドアーキオールなどが挙げられ、より具体的な例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、コレステロールならびにスフィンゴミエリンが挙げられる。ジミリストイルホスファチジルコリンがより好ましい。
【0033】
本発明において、標的物質と集合体構成物質との混合比は、必ずしも限定されないが、標的物質1モルに対し、集合体構成物質が、例えば、0.5モル〜500モル、好ましくは1モル〜100モル、より好ましくは5モル〜20モルである。集合体構成物質の量が、0.5モルを下回ると、水中で当該標的物質を含有する脂質集合体が適切に形成されず、結果として等温滴下熱測定などの上記結合親和性の実測値が得られなくなるおそれがある。集合体構成物質の量が、500モルを上回ると、水中で構成される脂質集合体に含まれる当該標的物質が僅かとなって、上記結合親和性の検出感度が低下するおそれがある。
【0034】
上記標的物質および集合体構成物質は、試験管などの所定の容器中に入れられる。その後、両物質を均一に混合するための目的で、クロロホルム、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフラン、ならびにそれらの組合せなどの有機溶媒を添加して均一に分散させた後、当業者に周知の手段を用いて当該有機溶媒のみが除去されてもよい。有機溶媒の添加量は特に限定されず、当業者によって任意の量が選択される。
【0035】
なお、当該有機溶媒は、上記集合体構成物質とともに成分の1種として、試薬助剤に予め含有されたものであってもよい。このような場合には、集合体構成物質と有機溶媒とを含有する試薬助剤を上記標的物質とを混合することにより上記と同様に有機溶媒中に標的物質と集合体構成物質とを均一に分散させることができる。
【0036】
このようにして得られた上記標的物質および集合体構成物質の混合物には、水性媒体(例えば、水または緩衝液)が添加される。添加される水性媒体の量は特に限定されず、脂質集合体を形成するに充分な量のものが添加される。
【0037】
水性媒体の添加により、集合体構成物質は、当該標的物質を含有する形態で脂質集合体を形成する。このようにして形成される脂質集合体の例としては、リポソーム、バイセル(平面状脂質二重層)、およびデンドリマー(球状脂質ベシクル)ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0038】
標的物質および集合体構成物質を用いて形成された脂質集合体は、例えば、以下のような形状を有していると考えられる。
【0039】
図1は、標的物質と脂質集合体を構成し得る物質とを混合して、標的物質を含有するリポソームを形成した際の、当該リポソームに標的物質分子が局在した状態を説明するための模式図である。
【0040】
図1に示すように、標的物質含有リポソーム100は、主にリン脂質で構成される略球状の脂質集合体であって、内側層を構成する内皮膜106と、外側層を構成する外皮膜108とを備えるリポソーム部分120が存在する側に標的物質分子110の疎水性基部分104が配向し、親水基部分102が当該リポソーム部分120の外部側に配向する。
【0041】
これにより、リポソーム100は全体として親水性を示す1種の粒子となって、上記水性媒体に対して均一に分散するものと考えられる。
【0042】
次いで、本発明においては、上記標的物質を含有する脂質集合体がリガンドと合わせられ、測定サンプルが調製される。
【0043】
ここで、本明細書中で用いられる用語「リガンド」とは、上記標的物質との結合を期待して選択された物質全体を包含して言い、必ずしも当該標的物質と特異的に結合する物質のみに限定されるものではない。本発明の方法は、特定の標的物質と特定の対象物質との間の結合親和性を評価するために使用され得るものである。そのため、両者の間に必ずしも結合親和性が生じていなければならないわけではなく、結合親和性が生じていない場合であっても、本発明の方法はその評価のために使用することができる。よって、当該評価を行うために採用される全ての対象物質が本明細書中における「リガンド」となり得る。
【0044】
本発明において用いられ得るリガンドは、特に限定されないが、例えば、タンパク質、多糖、低分子化合物、ペプチド、RNAおよびDNAが挙げられる。
【0045】
リガンドとして使用され得るタンパク質の種類もまた、特に限定されないが、例えば、脂肪酸結合タンパク質FABP1〜12(fatty acid binding protein 1-12)、外膜特異的リポタンパク質分子シャペロンLolA、外膜特異的リポタンパク質受容体LolB、リポキシゲナーゼ、およびシクロオキゲナーゼが挙げられる。
【0046】
リガンドとして使用され得る多糖の種類もまた、特に限定されないが、例えば、ヒアルロン酸、デキストリンおよびセルロースが挙げられる。
【0047】
リガンドとして使用され得る低分子化合物の種類もまた、特に限定されないが、例えば、チロフィバン、および2−ピロリジン−1−イル−N−[4−[4−(2−ピロリジン−1−イル−アセチルアミノ)−ベンジル]−フェニル]−アセトアミドが挙げられる。
【0048】
リガンドとして使用され得るペプチドの種類もまた、特に限定されないが、例えば、インスリン、グルカゴン様ペプチド−1、バソプレシン、オキシトシンなどが挙げられる。
【0049】
リガンドとして使用され得るRNAおよびDNAの種類もまた、特に限定されないが、例えば、siRNA、miRNA、および核酸医薬(例えば、サイトメガロウイルス性網膜炎治療薬「ヴィトラ ミューン」、加齢黄斑変性症治療剤「マクジェン」など)が挙げられる。
【0050】
本発明において、標的物質を含有する脂質集合体とリガンドとの混合比は、必ずしも限定されないが、例えば、混合される標的物質とリガンドとのモル比は、好ましくは1:2〜10:1、より好ましくは1:1〜2:1である。
【0051】
なお、標的物質を含有する脂質集合体とリガンドとの混合は、上記水性媒体の存在下で行われる。
【0052】
このようにして測定サンプルが調製される。
【0053】
その後、本発明においては、測定サンプルの物性変化量が測定される。
【0054】
測定サンプルの物性変化量は、所定の物質間(例えば、通常の標的物質とリガンドとの間)の結合親和性を測定するための当業者に公知の方法を用いて測定され得る。このような方法の例としては、等温滴定熱測定(ITC)法および表面プラズモン共鳴(SPR)法が挙げられる。このような測定方法に使用される条件、手段等もまた当業者に公知のものが採用され得る。
【0055】
本発明においては、たとえ疎水性の標的物質を用いたとしても、上記のように当該物質を一旦脂質集合体に取り込ませることにより、水性媒体内で均一に分散させることができる。このため、リガンドとの間の結合親和性を上記のような公知の方法を用いて簡易に測定することができる。さらに、本発明においては、標的物質が疎水性または親水性のいずれを有するかを問わず、同一条件でリガンドとの間の結合親和性を測定することができる。このため、疎水性または親水性のいずれをも問わない複数の標的物質について、同一リガンドに対する結合親和性を対比して評価することも可能である。このような同一条件での結合親和性の対比が可能となることにより、例えば、創薬開発の現場において、膨大な数の標的物質を効率的な評価することができる。
【0056】
(標的物質とリガンドとの結合親和性の測定に使用するためのキット)
本発明のキットは、例えば、標的物質とリガンドとの結合親和性の測定にあたり、当該標的物質の結合親和性の評価だけではなく、他の標的物質との対比も可能とするものである。すなわち、本発明のキットは、脂質集合体を構成し得る物質を含む。
【0057】
本発明のキットに含まれる、脂質集合体を構成し得る物質(集合体構成物質)は、上記と同様である。なお、本発明のキットは、標的物質の添加量、脂質集合体の形成方法、等温滴定熱測定(ITC)法および表面プラズモン共鳴(SPR)法の測定条件等を記載した取扱説明書を備えていてもよい。
【0058】
本発明のキットでは、上記集合体構成物質は、例えば、アンプルなどの所定の容器内に収容されている。1つのアンプル中に収容され得る集合体構成物質の量は、必ずしも限定されないが、使用する標的物質の量を1モルとした場合に、例えば、0.5モル〜500モル、好ましくは1モル〜100モル、より好ましくは5モル〜20モルに相当する割合を満足する量である。1つのアンプル中に収容され得る集合体構成物質の量がこのような範囲を満足することにより、結合親和性の検出感度を一層良好にすることができる。
【0059】
本発明のキットにおいて、上記アンプルは、クロロホルム、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフラン、ならびにそれらの組合せなどの有機溶媒が含まれていてもよい。アンプルにおける有機溶媒の含有量は特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0060】
本発明のキットは、標的物質とリガンドとの結合親和性の測定のために、例えば以下のようにして使用され得る。
【0061】
まず、キットを構成する上記集合体構成物質を含有するアンプル内に、所定量の標的物質が添加される。その後、アンプルには、脂質集合体を形成するに充分な量の水性媒体(例えば、水または緩衝液)が添加される。こうして、アンプル内に当該標的物質を含有する脂質集合体が形成される。
【0062】
なお、例えば、ある標的物質に対し複数のリガンドとの結合親和性を一度に評価するような場合は、このような脂質集合体を形成したアンプルが複数個準備される。脂質集合体を形成したアンプルは、実際の使用まで所定場所に保管してもよい。
【0063】
次いで、各アンプルにリガンドが添加され、上記と同様にして測定サンプルが調製される。
【0064】
この測定サンプルについて、等温滴定熱測定(ITC)法、表面プラズモン共鳴(SPR)法などの当業者に公知の方法を適用することにより、当該標的物質についての結合親和性が測定される。
【0065】
このように、本発明では、脂質集合体を構成し得る物質を予めキット内に含めておくことにより、標的物質とリガンドとの結合親和性の測定にあたり、都度、脂質集合体を形成するための材料を個別に準備することから解消される。このため、測定準備の煩雑さを一層解消することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0067】
(実施例1:リポソームを用いるカプリル酸とFABP3とのITCによる結合親和性の測定)
飽和脂肪酸として0.5mmolのカプリル酸と5.5mmol(3.7mg)のジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)とを4mL容量の試験管内に入れ、さらに1mLのクロロホルム/メタノール(容量比1:1)を添加して、試験管内の内容物を溶解させた。次いで、試験管内の溶媒を、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発させ、さらに試験管内の残留溶媒を減圧下にて6時間以上かけて完全に除去した。その後、36.9℃にて試験管内に500μLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.0),100mM NaCl)を添加して内容物を水和させ、試験管をボルテックスミキサーにかけ、次いで超音波に曝して均一な懸濁物を形成した。
【0068】
試験管内容物を−30℃で凍結し、その後40℃で解凍した。この凍結と解凍の操作を合計3回繰り返した。そして、試験管をボルテックスミキサーにかけて、懸濁物を形成し、試験管内の内容物を小容量押出器(製品名:リポソファスト、株式会社セントラル科学貿易製)により、ポリカーボネートフィルター(製品名:ヌクレポアフィルター(孔径100nm)、日東機器ファインテック株式会社製)で19回濾過した。最数的に、この試験管をボルテックスミキサーにかけて、より均一な懸濁物でなる脂肪酸含有リポソームを形成した。
【0069】
ITC装置(ティー・エー・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を起動し、測定温度を37℃に設定した。次いで、ITC装置の滴定シリンジ(50μL)とサンプルセル(190μL)それぞれに脱気した脂肪酸含有リポソーム50μLと脱気した0.2mMのFABP3(非特許文献2に記載の方法により調製した。)210μLを充填した。ITC装置の測定パラメータ(測定回数:3回;滴下量:2μL;滴定間隔:210秒;測定温度:37℃;攪拌速度:250rpm)を設定し、測定値を得た。得られた結果を表1に示す。
【0070】
(実施例2〜12:リポソームを用いる種々の飽和脂肪酸とFABP3とのITCによる結合親和性の測定)
カプリル酸の代わりに、表1に示す種々の飽和脂肪酸(0.5mmol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして脂肪酸含有リポソームを形成し、当該リポソームとFABP3との等温滴定熱測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0071】
(実施例13〜26:リポソームを用いる種々の不飽和脂肪酸とFABP3とのITCによる結合親和性の測定)
カプリル酸の代わりに、表1に示す種々の不飽和脂肪酸(0.5mmol)を用い、かつクロロホルム/メタノールの蒸発とその後の減圧下での完全除去を窒素雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同様にして脂肪酸含有リポソームを形成し、当該リポソームとFABP3との等温滴定熱測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、水に不溶である炭素数22以上の脂肪酸を含め、実施例1〜26で使用した全ての脂肪酸について、同一条件下にてFABP3に対する結合親和性をITC装置を用いて測定することができたことがわかる。
【0074】
この結果、FABP3との結合親和性には、脂肪酸の不飽和度や二重結合の立体配置よりも、鎖長が大きく影響することが明らかとなった。また、β酸化に関わる酵素群の基質として好まれる脂肪酸の中でも水溶性が低いC10〜C18に対して結合親和性が高く、不飽和度にかかわらず解離定数(K)=10−6M程度の比較的均一な値を示した。このことは、FABP3が脂肪酸の細胞内輸送に関与する分子量15kDaの可溶性タンパク質であり、一分子の脂肪酸に結合するという生物機能を有する点で興味深いとも言える。
【0075】
一方、熱力学パラメータの解析からは、実施例1〜26に記載の全ての脂肪酸において、エンタルピー駆動の分子間相互作用があることが見出された。すなわち、これらの脂肪酸とFABP3の結合では、結合サイトの脱水和による疎水性分子間相互作用の寄与は結果的に小さくなっており、水素結合形成やファンデルワールス力による分子間相互作用が支配的要因であると考察される。
【0076】
このように、上記方法を用いることにより、従来水に不溶または難溶であるとされていた脂肪酸についても、他の水溶性の脂肪酸と同様の条件にて、等温滴定熱測定を行うことができるだけでなく、各脂肪酸の間でのプロフィールの相違も容易に対比することが可能となったことがわかる。
【0077】
(実施例27〜33:リポソームを用いる種々の飽和脂肪酸とFABP3とのITCによる結合親和性の測定)
表2に示す種々の飽和脂肪酸(0.5mmol)を用い、試験管内に500μLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.0),100mM NaCl)を添加して内容物を水和させたこと以外は実施例1と同様にして脂肪酸含有リポソームを形成し、当該リポソームとFABP3との等温滴定熱測定を行った。得られた結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示すように、上記実施例1〜26とは異なるpHで作製したリポソームを用いても、FABP3に対する結合親和性をITC装置を用いて測定することができたことがわかる。
【0080】
(実施例34および35:リポソームを用いる種々の脂肪酸とFABP3とのITCによる結合親和性の測定)
表3に示す種々の飽和脂肪酸(0.5mmol)を用い、試験管内に500μLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.0),100mM NaCl)を添加して内容物を水和させたこと以外は実施例1と同様にして脂肪酸含有リポソームを形成し、当該リポソームとFABP3との等温滴定熱測定を行った。得られた結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、生理活性物質の1種であるプロスタグランジンE2、および植物ホルモン様物質の1種であるジャスモン酸のような脂肪酸を用いて作製したリポソームを用いても、FABP3に対する結合親和性をITC装置を用いて測定することができたことがわかる。
【0083】
(実施例36〜38:リポソームを用いる種々の不飽和脂肪酸とFABP3とのSPRによる結合親和性の測定)
カプリル酸の代わりに、表4に示す種々の不飽和脂肪酸(1.1mmol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして脂肪酸含有リポソームを作製した。
【0084】
こうして得られた脂肪酸含有リポソームを用い、表面プラズモン共鳴(SPR)装置(GEヘルスケア社製BIAcore T200)により、以下のようにしてSPR測定を行った。
【0085】
まず、カルボキシル化デキストランマトリックス(CM5)センサーチップを、50mMのNaOH水溶液を用いて、流速20μL/分にて2分間の洗浄を3回行った。次いで、このCM5センサーチップに、0.1MのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と0.39Mの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)との混合液(1:1 v/v)70μLを、5μL/分の流速で7分間かけて添加することにより、当該チップ上のカルボキシル基をスクシンイミジルエステルに変換して活性化した。非特許文献2に記載の方法により調製したFABP3(100μg/mL)を、2μmL/分の流速で30分間かけてセンサーチップ上に固定化した。センサーチップ上の未反応のスクシンミジルエステルを、1Mのエタノールアミン塩酸塩(pH8.5)で処理し、次いでセンサー表面をバッファ(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4)で3回洗浄した。
【0086】
このセンサーチップに、上記にて作製した脂肪酸含有リポソームを、表2に示すような脂肪酸濃度にてpH7.4のPBS中、10L/分の流速で2分間かけて添加し、SPR測定を行った。
【0087】
得られた結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示すように、実施例36〜38で使用した全ての脂肪酸について、上記ITC装置を用いた場合と同様に、同一条件下にてFABP3に対する結合親和性をSPR装置を用いて測定することができたことがわかる。
【0090】
(実施例39:バイセルを用いるステアリン酸とFABP3とのITCによる結合親和性の測定)
580μLのクロロホルム中に、34mgのジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)および24mgのジヘキサノイルホスファチジルコリン(DHPC)を添加し、これを10個のアンプル(1アンプル当たり58μL)に分け、窒素ガスを通してクロロホルムを除去した。次いで、各アンプルを減圧下で4時間乾燥し、アンプルを窒素ガスで置換してストック用脂質を調製した。
【0091】
上記得られたストック用脂質の各アンプルに、1mLの緩衝液(20mM Tris−HCl(pH8.0),100mM NaCl)を添加して内容物を水和させ、アンプルを3分間超音波処理して、バイセル(10mM DMPC/DHPC)を作製した。
【0092】
バイアル中の1μmolのステアリン酸(C18:0)に、上記で得られた1mLのバイセル(10mM DMPC/DHPC)を添加し、これをボルテックスミキサーにかけ、次いで超音波に曝して均一な懸濁物を形成した。次いで、この懸濁物を液体窒素および40℃の温度下での凍結かつ解凍を3回行って、より均一な懸濁物でなるステアリン酸含有バイセルを形成した。
【0093】
ITC装置(ティー・エー・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を起動し、測定温度を37℃に設定した。次いで、ITC装置の滴定シリンジ(50μL)とサンプルセル(190μL)それぞれに脱気した上記ステアリン酸含有バイセル50μLと脱気した0.2mMのFABP3(非特許文献2に記載の方法により調製した。)210μLを充填した。ITC装置の測定パラメータ(測定回数:3回;滴下量:2μL;滴定間隔:210秒;測定温度:37℃;攪拌速度:250rpm)を設定し、測定値を得た。
【0094】
得られた解離定数(Kd)は7.64μMであり、エンタルピー変化(dH)は−19.58kJ/molであった。
【0095】
このように、水に不溶であるステアリン酸に対し、FABP3に対する結合親和性を上記バイセルの作製を通じて、ITC装置を用いて測定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、例えば、細胞膜の疎水部における分子間相互作用の解明を通じた、膜タンパク質の構造形成・機能発現、細胞膜構成分子の集合分配によるドメイン形成などの、細胞膜のダイナミックな生理機能発現における研究開発において有用である。本発明の方法により測定された結果は、例えば、創薬分野における標的化合物の基礎情報として活用することができる。
【符号の説明】
【0097】
100 標的物質含有リポソーム
102 親水基部分
104 疎水基部分
106 内皮膜
108 外皮膜
110 標的物質分子
120 リポソーム部分
図1