(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
米国における高血圧症の患者のうち、わずか35%しか適切に血圧をコントロールできていないことが報告されている。このように、高血圧症治療の成績が振るわないのは、患者が医師の指示に従わないこと(即ち、ノンコンプライアンス)が、主要な原因の1つとなっている。このノンコンプライアンスの問題を解決しうる療法として、高血圧症に対するワクチンが注目されている(非特許文献1)。
【0003】
高血圧症に対するワクチンとは、高血圧症の増悪因子、該増悪因子に含まれるエピトープ、或いはこれらをコードする発現ベクターを高血圧症の患者に対して投与し、該増悪因子に対する抗体を該高血圧症の患者の体内に誘導することにより、該増悪因子の機能を中和し、高血圧症の症状を緩和する、高血圧症の治療方法である。レニン、アンギオテンシンII、及びAT−1受容体を含む様々な因子が、ワクチンのターゲットとして提案されている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、レニン、アンギオテンシンII、AT−1受容体等の因子は、そもそも患者自身の成分であるため、通常はこれらの因子に対する免疫寛容が成立している。そのため、これらの因子やその部分ペプチドをそのまま患者に投与しても、これらの因子に対する抗体を患者の体内に誘導することは困難である。そこで、これらの自己抗原を患者の免疫系に認識させ、これに対する抗体産生を誘導するための技術的な工夫が必要である。
【0005】
B型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質は、自己集合して球状のコア粒子を構成する。このコア粒子は非常に免疫原性が高い。このHBc抗原タンパク質の特定の部位に、所望のエピトープを挿入するか、HBc抗原タンパク質の末端に所望のエピトープを連結することにより得られる融合ポリペプチドを用いると、自己集合により形成される粒子の表面に当該エピトープが提示される。そのため、この融合ポリペプチドを用いると、挿入したエピトープが免疫系に認識され易くなり、当該エピトープを認識する抗体産生を効率的に誘導することができる。そこで、HBc抗原タンパク質をワクチンのプラットフォームとして利用して、免疫系に認識されにくい抗原に対する抗体産生を誘導する試みがなされている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
特許文献1には、エピトープを有する外来アミノ酸配列を含むキメラHBc抗原タンパク質から構成される粒子であって、外来アミノ酸配列がHBc抗原のアミノ酸残基80−81の間に挿入された粒子が開示されている。
【0007】
特許文献2及び非特許文献4には、アンギオテンシンIIの部分ペプチド、スペーサー、及びウイルス様粒子(VLP)を含み、アンギオテンシンIIの部分ペプチドがスペーサーを介してVLPに結合した複合体が開示されている。そして該複合体が高血圧症に対するワクチンとして有用であり得ることが記載されている。
【0008】
特許文献3には、コレステリル・エステル転送蛋白(CETP)免疫原をB型肝炎コアタンパク質の特定の領域に挿入することにより得られる免疫原性ポリペプチドが開示されている。
【0009】
非特許文献5には、B型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質に表示させた、26アミノ酸からなるコレステリル・エステル転送蛋白(CETP)のエピトープをコードし、CpG DNAを含む、DNAワクチンを筋肉内に免疫することにより、動脈硬化ウサギモデルにおいて、動脈硬化を抑制したことが開示されている。このDNAワクチンは、HBc抗原タンパク質のアミノ酸残基80−81の間にCETPのエピトープが挿入されるようにデザインされている。
【0010】
非特許文献6には、外来性の抗原をB型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質に挿入する位置が、免疫原性を決定することが開示されている。そして、B型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質のアミノ酸残基75−81の間にエピトープを挿入すると、挿入したエピトープに対する抗体価が上昇し、HBcに対する抗体価が減少したことが開示されている。
【0011】
非特許文献7には、B型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質のアミノ酸残基75−81の間にマラリアのCSタンパク質リピートエピトープが挿入されるようにデザインされた、ハイブリッドHBcAb−CS粒子が、マウスのマラリア感染を防止したことが開示されている。
【0012】
また、免疫効果を増強するために、アジュバントとして免疫刺激配列(ISS)をワクチンに配合し、或いは有効成分の発現ベクターの中に挿入することが提案されている(非特許文献8)。
【0013】
しかしながら、高血圧症等の生活習慣病に対するワクチンの有効性は十分に満足できるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、高血圧症、高脂血症等の生活習慣病に対する優れたワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討の結果、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入した、アンギオテンシンII特異的エピトープをコードする発現ベクターにより、高血圧症を良好に治療し得ることを見出した。発現ベクターの投与態様について詳細に検討したところ、意外にも針無注射器等で皮下に投与することにより良好な治療成績を上げることに成功した。更に、ワクチン投与により誘導されるアンギオテンシンIIに対する抗体価をモニターしたところ、わずか3回の投与により抗体価が極めて高くなった。これらの知見に基づき、更に検討を加えた結果、本発明を完成させた。
【0018】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、当該生活習慣病の治療又は改善剤であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、治療又は改善剤。
[2]生活習慣病が、高血圧症及び高脂血症からなる群から選択された一種である、[1]記載の治療又は改善剤。
[3]生活習慣病関連因子が、アンギオテンシンII(AngII)又はコレステリル・エステル転送蛋白(CETP)である、[1]又は[2]記載の治療又は改善剤。
[4]生活習慣病関連因子が、アンギオテンシンII(AngII)であり、且つ特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、配列番号16で表されるアミノ酸配列である、[3]記載の治療又は改善剤。
[5]配列番号16で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、高血圧症の治療又は改善剤であって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、治療又は改善剤。
[6]生活習慣病関連因子が、コレステリル・エステル転送蛋白(CETP)であり、且つ特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、配列番号17で表されるアミノ酸配列である、[3]記載の治療又は改善剤。
[7]配列番号17で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、高脂血症の治療又は改善剤であって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、治療又は改善剤。
[8]発現ベクター中に、さらに免疫刺激性配列(ISS)が組み込まれている、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の治療又は改善剤。
[9]免疫刺激性配列(ISS)が、配列番号22で表されるヌクレオチド配列からなる、[8]記載の治療又は改善剤。
[10]針無注射器を用い、皮下に投与されることを特徴とする、[1]〜[9]のいずれか1つに記載の治療又は改善剤。
[11]針無注射器が圧力注射器である、[10]記載の治療又は改善剤。
[12]複数回投与されることを特徴とする、[1]〜[11]のいずれか1つに記載の治療又は改善剤。
[13]投与回数が2又は3回である、[12]記載の治療又は改善剤。
[14]投与回数が3回である、[13]記載の治療又は改善剤。
[15]2週間隔で3回投与することを特徴とする、[1]〜[14]記載の治療又は改善剤。
[16]生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクター及び針無注射器を含む、当該生活習慣病の治療又は改善用注射製剤であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されており、該発現ベクターが該針無注射器内に封入されている、注射製剤。
[17]生活習慣病の治療又は改善において使用するための、当該生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターであって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、発現ベクター。
[18]高血圧症の治療又は改善において使用するための、配列番号16で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターであって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、発現ベクター。
[19]高脂血症の治療又は改善において使用するための、配列番号17で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターであって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、発現ベクター。
[20]生活習慣病の治療又は改善において使用するための、当該生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクター及び針無注射器を含む注射製剤であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されており、該発現ベクターが該針無注射器内に封入されている、注射製剤。
[21]生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの有効量を哺乳動物に投与することを含む、当該哺乳動物における当該生活習慣病の治療又は改善方法であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、方法。
[22]配列番号16で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの有効量を哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物における高血圧症の治療又は改善方法であって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、方法。
[23]配列番号17で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの有効量を哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物における高脂血症の治療又は改善方法であって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、方法。
[24]生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの有効量を針無注射器により哺乳動物へ注入することを含む、当該生活習慣病の治療又は改善方法であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、方法。
[25]生活習慣病の治療又は改善剤を製造するための、当該生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの使用であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、使用。
[26]高血圧症の治療又は改善剤を製造するための、配列番号16で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの使用であって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、使用。
[27]高脂血症の治療又は改善剤を製造するための、配列番号17で表されるアミノ酸配列が挿入された、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターの使用であって、該アミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、使用。
[28]生活習慣病の治療又は改善用注射製剤を製造するための、当該生活習慣病関連因子の特異的エピトープを含むアミノ酸配列が挿入されたキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクター及び針無注射器の使用であって、該特異的エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、使用。
【発明の効果】
【0019】
高血圧症、高脂血症等の生活習慣病の治療や予防に対する優れたワクチンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、生活習慣病関連因子のエピトープが挿入されたアミノ酸配列を含むキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、当該生活習慣病の治療又は改善剤であって、該エピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている、治療又は改善剤を提供するものである。
【0022】
本明細書において生活習慣病とは、食生活や運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣によって引き起こされる病気の総称である。生活習慣病としては、高血圧症、高脂血症、糖尿病、動脈硬化症、虚血性疾患(心筋梗塞、脳卒中等)、肥満等を挙げることができる。生活習慣病は、好ましくは、高血圧症又は高脂血症である。特に好ましくは高血圧症である。
【0023】
本明細書において生活習慣病関連因子とは、生活習慣病の増悪に寄与するポリペプチドを意味する。本発明の治療又は改善剤は、生活習慣病関連因子に対する抗体産生を誘導し、その抗体が生活習慣病関連因子を中和することにより生活習慣病を治療又は改善するものである。従って、このメカニズムを考慮すると、生活習慣病関連因子は、患者の体内に誘導された抗体により認識され得るように、細胞外に分泌される因子又は細胞表面に発現する因子であることが好ましい。
高血圧症関連因子としては、例えば、アンギオテンシンII、アンギオテンシンI、ACE、レニン、AT−1受容体等の血圧の上昇に寄与するポリペプチドを挙げることができる。高血圧症関連因子は、好ましくは、アンギオテンシンIIである。
高脂血症関連因子としては、例えば、コレステリル・エステル転送蛋白(CETP)等の血液中の脂質(特に、コレステロール又は中性脂肪)濃度の上昇に寄与するポリペプチドを挙げることができる。
【0024】
本発明においては、本発明の治療又は改善剤の適用対象である哺乳動物と同一種の哺乳動物由来の生活習慣病関連因子の使用が意図される。本発明の治療又は改善剤の適用対象は、哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくはげっ歯類(マウス等)又は霊長類(ヒト等)である。従って、例えば、本発明の治療又は改善剤をヒトへ適用する場合、ヒト由来の生活習慣病関連因子の使用が意図される。また、本発明の治療又は改善剤をマウスへ適用する場合、マウス由来の生活習慣病関連因子の使用が意図される。
【0025】
本明細書において、特定の因子X(ポリペプチド又はポリヌクレオチド)について、「生物Y由来の因子X」又は「生物Y因子X」とは、該因子Xのアミノ酸配列又は核酸配列が、生物Yにおいて天然に発現している該因子Xのアミノ酸配列又は核酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列又は核酸配列を有することを意味する。「実質的に同一」とは、着目したアミノ酸配列又は核酸配列が、生物Xにおいて天然に発現している因子Xのアミノ酸配列又は核酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上)の同一性を有しており、且つ当該因子Xの機能が維持されていることを意味する。
【0026】
本明細書において、「エピトープ」とは、個々の抗体又はT細胞受容体による認識の基本要素又は最小単位であって、前記抗体又はT細胞受容体が結合する特定のドメイン、領域又は分子構造をいう。
【0027】
生活習慣病関連因子のエピトープは、当該生活習慣病関連因子に特異的であることが好ましい。「特異的」とは、当該生活習慣病関連因子が由来する哺乳動物において天然に発現している当該生活習慣病関連因子以外の遺伝子産物が当該エピトープを含まないことを意味する。
【0028】
生活習慣病関連因子のエピトープは、当該エピトープを認識する抗体が該エピトープに結合した場合に、当該生活習慣病関連因子の活性が阻害される位置にあるものが好適に選択される。そのようなエピトープは、例えば、リガンド結合部位、受容体結合部位、基質結合部位、補酵素結合部位、2価イオン結合部位、チャンネル部位、特異的酵素により認識される部位等の機能的部位にあり得る。当業者であれば、生活習慣病関連因子の立体構造等に基づき、適宜エピトープを選択することができる。
【0029】
当該エピトープのアミノ酸配列の長さは、通常5〜30アミノ酸、好ましくは6〜25アミノ酸である。該アミノ酸配列が短すぎるとエピトープとしての抗原性が失われる可能性ある。また該アミノ酸配列が長すぎると、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し難くなり、結果として当該エピトープを特異的に認識する抗体が産生されず、生活習慣病に対する良好な治療又は改善効果が得られなくなる可能性がある。
【0030】
生活習慣病関連因子の好適なエピトープの具体例として、以下のものを挙げることができる。
【0031】
(アンギオテンシンII)(WO2003/031466及びJournal of Hypertension, vol.25, no.1, pp.63-72, 2007)
a)CGGDRVYIHPF(配列番号4)
b)CGGDRVYIHPFHL(配列番号5)
c)DRVYIHPFHLGGC(配列番号6)
d)CDRVYIHPFHL(配列番号7)
e)CHPFHL(配列番号8)
f)CGPFHL(配列番号9)
g)CYIHPF(配列番号10)
h)CGIHPF(配列番号11)
i)CGGHPF(配列番号12)
j)CRVYIGGC(配列番号13)
k)DRVYGGC(配列番号14)
l)DRVGGC(配列番号15)
m)DRVYIHPF(配列番号16)
a)〜l)のエピトープは、特に、ヒト及びマウスの生活習慣病(好ましくは高血圧症)の治療又は改善に有用である。m)のエピトープ配列はヒト及びラットの生活習慣病(好ましくは高血圧症)の治療又は改善に有用である。
アンギオテンシンIIの好適なエピトープは、好ましくはDRVYIHPF(配列番号16)である。該エピトープを用いるとアンギオテンシンIよりもアンギオテンシンIIに特異性の高い抗体が誘導される。
【0032】
(コレステリル・エステル転送蛋白(CETP))(Vaccine, vol.24, pp.4942-4950, 2006)
a)RDGFLLLQMDFGFPEHLLVDFLQSL(配列番号17)
a)のエピトープは、特に、ヒト、マウス及びラビットの生活習慣病(好ましくは高脂血症)の治療又は改善に有用である。
【0033】
本発明において使用されるB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ自己集合によりコア粒子を形成する活性を有するポリペプチド
である。
【0034】
自己集合とは、溶液中に溶けている分子が会合することによって集合体を形成する現象をいう。コア粒子とは、固有の反復性の構成を有する剛性構造をいう。本明細書中のコア粒子は合成工程の産物または生物的工程の産物であってよい。
【0035】
(2)の態様のポリペプチドとして、WO2003/031466に開示された配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの位置48、61、107および185に対応する位置の1つ又は複数のシステイン残基を欠失させた、又は他のアミノ酸残基(例えば、セリン残基)で置換したポリペプチドも、(2)の態様のポリペプチドとして好ましい。当業者が認識しているように、配列番号3に示されているものと異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドにおける同様な位置にあるシステイン残基も欠失させ、又は他のアミノ酸残基で置換することができ、これらの欠失、置換により得られるポリペプチドも(2)の態様のポリペプチドに包含される。
【0036】
また、(2)の態様のポリペプチドには、配列番号3における位置97に対応する位置のイソロイシン残基がロイシン残基又はフェニルアラニン残基で置換されている変異体ポリペプチドが包含される(Yuanら、J.Virol.第73巻、10122〜10128頁(1999))。また、多くのHBcAg変異体ならびに数種のB型肝炎コア抗原前駆変異体のアミノ酸配列がGenBank報告AAF121240、AF121239、X85297、X02496、X85305、X85303、AF151735、X85259、X85286、X85260、X85317、X85298、AF043593、M20706、X85295、X80925、X85284、X85275、X72702、X85291、X65258、X85302、M32138、X85293、X85315、U95551、X85256、X85316、X85296、AB033559、X59795、X8529、X85307、X65257、X85311、X85301、X85314、X85287、X85272、X85319、AB010289、X85285、AB010289、AF121242、M90520、P03153、AF110999およびM95589に開示されており(この開示のそれぞれが参照により本明細書に組込まれる)、これらの変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドも(2)の態様のポリペプチドに包含される。上記変異体は、配列番号3における位置12、13、21、22、24、29、32、33、35、38、40、42、44、45、49、51、57、58、59、64、66、67、69、74、77、80、81、87、92、93、97、98、100、103、105、106、109、113、116、121、126、130、133、135、141、147、149、157、176、178、182および183に存在するアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を含む多くの位置におけるアミノ酸配列が異なっている。
【0037】
更に、全部が参照により本明細書に組込まれる国際公開第01/98333号、国際公開第01/77158号および国際公開第02/14478号に記載されたHBcAg変異体のアミノ酸配列を含むポリペプチドも、(2)の態様のポリペプチドに包含される。
【0038】
本明細書において、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸配列のアミノ酸残基の位置は、特にことわりのない限り、配列番号2で表されるアミノ酸配列を基準として特定される。配列番号2で表されるアミノ酸配列を含まないポリペプチドの場合には、当該ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2で表されるアミノ酸配列と並び合わせ、対応するアミノ酸残基の位置が採用される。
【0039】
本発明において使用されるB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0040】
本発明に用いられるキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドにおいては、上記生活習慣病関連因子のエピトープを含むアミノ酸配列が、B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基80と81の間に挿入されている。即ち、本発明に用いられるキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、以下の(a)〜(c)の構成要素:
(a)B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端部分ポリペプチド残基(B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのN末端からアミノ酸残基80までの連続する部位アミノ酸配列からなる)、
(b)生活習慣病関連因子のエピトープのアミノ酸配列、及び
(c)B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのC末端部分ポリペプチド残基(B型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのアミノ酸残基81からC末端までの連続する部位アミノ酸配列からなる)
をN末端側から(a)、(b)、(c)の順序で含む。
【0041】
本発明に用いられるキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドは、上記構成により、自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に生活習慣病関連因子のエピトープが提示される。
【0042】
構成要素(a)と構成要素(b)とは、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合して形成するコア粒子の外側に、生活習慣病関連因子のエピトープがその構造を維持しながら安定に提示され得るように、構成要素(a)と構成要素(b)とは、スペーサー配列を介して連結されていることが好ましい。スペーサー配列とは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる2つの近接した構成要素の間に挿入される1以上のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を意味する。スペーサー配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に生活習慣病関連因子のエピトープが提示される限り限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸、最も好ましくは2又は3アミノ酸である。スペーサー配列の種類も、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に生活習慣病関連因子のエピトープが提示される限り限定されない。好ましいスペーサー配列として、IT、GAT、CGG等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0043】
構成要素(b)と構成要素(c)とは、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合して形成するコア粒子の外側に、生活習慣病関連因子のエピトープがその構造を維持しながら安定に提示され得るように、構成要素(b)と構成要素(c)とは、スペーサー配列を介して連結されていることが好ましい。スペーサー配列の長さは、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に生活習慣病関連因子のエピトープが提示される限り限定されないが、通常1〜10アミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1〜3アミノ酸、最も好ましくは2又は3アミノ酸である。スペーサー配列の種類も、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドが自己集合によりコア粒子を形成し、その粒子の外側に生活習慣病関連因子のエピトープが提示される限り限定されない。好ましいスペーサー配列として、IT、GAT、CGG等を例示することができるが、これらに限定されない。
【0044】
好ましい態様において、構成要素(a)と構成要素(b)とがスペーサー配列ITを介して連結し、構成要素(b)と構成要素(c)とがスペーサー配列GATを介して連結する。
【0045】
本発明において用いられる発現ベクターは、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組込んだ組換えベクターである。当該発現ベクターを対象哺乳動物に投与すると、当該対象哺乳動物の細胞内に該発現ベクターが取り込まれ、該細胞が上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドを発現する。キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入する発現ベクターとしてはプラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド、及び、当分野において従来用いられるその他のベクターを例示することができる。プラスミドベクターとしては、pCAGGS(Gene 108:193〜199(1991))、pCR-X8(Vaccine 24:4942〜4950(2006))、pcDNA3.1(商品名、Invitrogen)、pZeoSV(商品名、Invitrogen)、およびpBK-CMV(商品名、Stratagene)等を例示することができるがこれらに限定されない。ウイルスベクターは、DNAウイルス又はRNAウイルスである。ウイルスベクターとしては、無毒化レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス(HVJ)、SV40、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)等を例示することができるがこれらに限定されない。さらにセンダイウイルスエンベロープ(HVJ-E)等も利用できる。
【0046】
上記発現ベクターにおいては、キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(好ましくはDNA)が、投与対象である哺乳動物(好ましくはヒト)の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0047】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0048】
上記発現ベクターは、好ましくはキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0049】
一態様において、上記発現ベクターは、免疫効果を増強するため、免疫刺激性配列(ISS)(CpGともいう)を含んでいてもよい。免疫刺激性配列は、細菌の非メチル化CpGモチーフを含むDNAであり、特定の受容体(Toll-like receptor 9)のリガンドとして働くことが知られている(詳細はBiochim. Biophys. Acta 1489, 107-116 (1999) 及び Curr. Opin. Microbiol. 6, 472-477 (2003)参照)。免疫刺激性配列の好適な例として、以下を挙げることができる。
CpG-B1018 22bp
5’-tga ctg tga acg ttc gag atg a-3’(配列番号18)
CpG-A D19 20bp (D type)
5’-ggt gca tcg atg cag ggg gg-3’(配列番号19)
CpG-CC274 21bp
5’-tcg tcg aac gtt cga gat gat-3’(配列番号20)
CpG-CC695 25bp
5’-tcg aac gtt cga acg ttc gaa cgt t-3’(配列番号21)
【0050】
或いはこれらのISSのうちの2、3又は4個を連結して使用してもよい。連結したISS配列の好適な例として以下を挙げることができる。
5’-ggt gca tcg atg cag ggg gg tga ctg tga acg ttc gag atg a tcg tcg aac gtt cgagat gat tcg aac gtt cga acg ttc gaa cgt t-3’(配列番号22)
【0051】
当業者であれば、例えば、“edit.Sambrook et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory(1989)N.Y.”、及び、“edit.Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1987)John Wiley & Sons” 等に記載の周知の遺伝子工学的技術により上述の発現ベクターを構築することが可能である。
【0052】
本発明の治療又は改善剤は、治療的有効量の上記発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含む医薬組成物として提供することができる。
【0053】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0054】
本発明の治療又は改善剤は、その効果を増強するため、アジュバントを更に含有してもよい。アジュバントとしては、水酸化アルミニウム、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント、ポリ(I:C)、CpG−DNA等が挙げられる。
【0055】
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の治療又は改善剤は、核酸導入用試薬を更に含有してもよい。核酸導入用試薬としては、リポフェクチン(商品名、Invitrogen)、リポフェクタミン(商品名、Invitrogen)、トランスフェクタム(商品名、Promega)、DOTAP(商品名、Roche Applied Science)、dioctadecylamidoglycyl spermine(DOGS)、L-dioleoyl phosphatidyl-ethanolamine(DOPE)、dimethyldioctadecyl-ammonium bromide(DDAB)、N,N-di-n-hexadecyl-N,N-dihydroxyethylammonium bromide(DHDEAB)、N-n-hexadecyl-N,N-dihydroxyethylammonium bromide(HDEAB)、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質、を用いることが出来る。また、発現ベクターを静電気的リポソームのような脂質二重層で構成される任意の既知のリポソームに封入してもよい。該リポソームは、不活化センダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan;HVJ)のようなウイルスに融合させてもよい。HVJ-リポソームは、通常のリポソームと比較して細胞膜に対して非常に高い融合活性を有する。また、発現ベクターとしてレトロウイルスを用いる場合には、導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。
【0056】
当該医薬組成物中の上記発現ベクターの含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、医薬組成物全体の約0.00001ないし100重量%である。
【0057】
本発明の治療又は改善剤は、適用対象である哺乳動物の組織(又は細胞)内への上記発現ベクターの導入により、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのin vivo発現を誘導し、該キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる生活習慣病関連因子のエピトープに対する抗体産生を誘導し、誘導された抗体が当該生活習慣病関連因子の活性を中和することにより、該哺乳動物における当該生活習慣病を治療又は改善するものである。発現ベクター等の核酸を生体内へ導入する種々の方法が知られており(T.Friedman,Science 244:1275−1281(1989))、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのin vivo発現を誘導し、該キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる生活習慣病関連因子のエピトープに対する抗体産生を誘導し、生活習慣病を治療又は改善する限り、どのような導入方法を採用することも可能である。
【0058】
in vivoで哺乳動物の組織(又は細胞)内に発現ベクターを導入する方法としては、内部型リポソーム法、静電気型リポソーム法、HVJ-リポソーム法、HVJ-AVEリポソーム法、受容体媒介遺伝子導入、パーティクルガン法、裸のDNA法、陽性荷電ポリマーによる導入法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
或いは、適用対象である哺乳動物から、血液細胞、骨髄細胞等の細胞を単離し、該細胞へex vivoで上記発現ベクターを導入し、その後、得られた上記発現ベクターを含む細胞を適用対象の哺乳動物へ戻してもよい。
【0060】
ex vivoで哺乳動物の細胞内に発現ベクターを導入する方法としては、リポフェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いる直接DNA導入法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明の治療又は改善剤は、投与対象哺乳動物に、上記キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドのin vivo発現を誘導し、該キメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる生活習慣病関連因子のエピトープに対する抗体産生を誘導し、生活習慣病を治療又は改善しうる限り、いかなる方法により投与してもよい。好ましくは、本発明の治療又は改善剤は非経口的に、投与対象哺乳動物にキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる生活習慣病関連因子のエピトープに対する抗体産生を誘導し、生活習慣病を治療又は改善するのに十分な量が投与される。例えば、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、脂肪組織内、乳腺組織内、または筋肉内の経路を介しての注射;ガス誘導性粒子衝撃法(電子銃等による);点鼻薬等の形態での粘膜経路を介する方法等が投与方法として例示される。一態様において、本発明の治療又は改善剤は、皮下又は筋肉内、好ましくは皮下に注射される。
【0062】
一実施態様において、本発明の治療又は改善剤は、針無注射器により皮下に投与される。針無注射器は、好ましくは圧力注射器である。針無注射器としては、シマジェット(商品名、島津製作所)、ツインジェクターEZII(商品名、日本ケミカルリサーチ)、シリジェット(商品名、キーストン)、ZENEO(商品名、クロスジェクト)等を挙げることができるが、これらに限定されない。この場合、本発明の治療又は改善剤は、上記発現ベクター及び針無注射器を含み、該発現ベクターが該針無注射器に封入された、注射製剤として提供することができる。
【0063】
一実施態様において、本発明の治療又は改善剤は、遺伝子銃により皮下、皮内又は筋肉内へ投与される。この場合、上記発現ベクターを、生体内に導入されるコロイド金粒子等の担体粒子上に被覆して、投与に用いることができる。ポリヌクレオチドで担体粒子をコートする技術は公知である(例えば、WO93/17706参照)。最終的に発現ベクターは、生体への投与に適する生理的食塩水等の水溶液中に調製することができる。
【0064】
良好な免疫応答を誘導するため、本発明の治療又は改善剤は、一定の間隔をあけて複数回投与することが好ましい。該回数は、免疫応答の強さをモニターしながら適宜設定することができるが、通常2〜10回、好ましくは2〜6回、より好ましくは2〜4回、最も好ましくは3回である。
【0065】
投与頻度は、通常3日〜3ヶ月に1回、好ましくは1〜4週間に1回、より好ましくは1.5〜3週間に1回、最も好ましくは2週間に1回である。
【0066】
一実施態様において、本発明の治療又は改善剤は2週間隔で3回、対象哺乳動物に対して投与される。
【0067】
本発明の治療又は改善剤の投与量は、有効成分である発現ベクターがコードするキメラB型肝炎ウイルスコア抗原ポリペプチドに含まれる生活習慣病関連因子のエピトープの投与対象哺乳動物における免疫原性に依存するが、一定量の発現ベクターを投与対象である哺乳動物に投与し、ELISA等の検定法により当該エピトープに特異的な抗体価を測定して、免疫応答を観察することにより当業者であれば良好な免疫応答に必要な用量を決定することができる。本発明の治療又は改善剤の免疫原性が、有効成分である発現ベクターで用いるプロモーター等の制御配列の強さにも依存するものであることが当業者には理解される。そして当業者であれば、使用する発現ベクターの種類に応じ本発明の治療又は改善剤の投与量を調節することも容易に行い得る。
【0068】
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
【0069】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
1.方法
1−1.HBc-AngIIを発現するコンストラクトの作製
1−1−1.HBc-AngII, HBc配列の作製とTAクローニング
BCCM/LMBP Plasmid Collectionよりplasmid pPLc3(Accession number LMBP 2470)を購入した。以下のプライマーを設計し、合成した。
HBcF 5’-gcc atg gat atc gat cct tat aaa gaa ttc gga gc-3’(配列番号23)
HBcR 5’-ggc ctc tca cta aca ttg aga ttc ccg aga ttg aga-3’(配列番号24)
H2 5’-ggg gtg gat gta tac gcg gtc agt gat agc tgg atc ttc caa gtt aac-3’ (配列番号25)
H3-II 5’-c cgc gta tac atc cac ccc ttt ggt gct act agc agg gac ctg gta gtc -3’ (配列番号26)
【0071】
それぞれのプライマー配列はB型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質をコードするヌクレオチド配列(配列番号1)の以下の位置に該当する。
HBc F : 第1〜33番目のヌクレオチド。
HBc R : 第527〜556番目のヌクレオチド。
H2 : 第221〜241番目のヌクレオチドに、スペーサーの2アミノ酸(IT)をコードするヌクレオチドとAngII配列の一部を連結。
H3-II : AngII配列の一部とスペーサーの3アミノ酸(GAT)を、第242〜259番目のヌクレオチドに連結。
【0072】
まず、鋳型(plasmid pPLc3)、及びプライマーセット(HBc F及びH2)を用いて、PCRにより、HBcのN末端部分、スペーサー及びAngIIの一部を含む第1のDNA断片を増幅した。更に、鋳型(plasmid pPLc3)、及びプライマーセット(H3-II及びHBc R)を用いて、PCRにより、AngIIの一部、スペーサー、及びHBcのC末端部分を含む第2のDNA断片を増幅した。両増幅産物は、AngII配列の一部が重複するので、その重複部分がアニーリングすることを利用して、3回目のPCR(プライマーセット;HBc F及びHBc R)により、第1のDNA断片と第2のDNA断片とを連結し、増幅産物(HBc-AngII)を得た。即ち、B型肝炎ウイルスコア(HBc)抗原タンパク質をコードするヌクレオチド配列(配列番号1)の第241番目の塩基と第242番目の塩基の間に、スペーサーおよびAngIIの部分配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挿入した。挿入したヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列は、IT-DRVYIHPF-GAT(配列番号27、13アミノ酸)である。pcDNA 3.1/V5-His TOPO TA Expression Kit (Invitrogen)にHBc-AngIIをTAクローニングすることによりHBc-AngII ISS(-)ベクターを得た。同様に、鋳型(plasmid pPLc3)、及びプライマーセット(HBcF及びHBcR)を用いてPCRを行い、HBcの全長ポリペプチドをコードするDNA断片を作製し、これをpcDNA 3.1/V5-His TOPOベクターにTAクローニングすることによりHBc ISS(-)ベクターを得た。
【0073】
1−1−2.HBc-AngII ISS(+), HBc ISS(+)ベクターの作製(ISS配列の作製とベクターへの挿入)
以下のテンプレート(CpG (A+B+C+C)-F及びCpG (A+B+C+C)-R)及びプライマー(DraIII-F及びDraIII-R)を設計し、合成した。
CpG (A+B+C+C)-F
5’-ggt gca tcg atg cag ggg gg tga ctg tga acg ttc gag atg a tcg tcg aac gtt cga gat gat tcg aac gtt cga acg ttc gaa cgt t-3’(配列番号28)
CpG (A+B+C+C)-R
5’-a acg ttc gaa cgt tcg aac gtt cga -atc atc tcg aac gtt cga cga -t cat ctc gaa cgt tca cag tca -cc ccc ctg cat cga tgc acc-3’(配列番号29)
DraIII-F 5’-ttt-cacgtagtg- ggt gca tcg atg cag g-3’(配列番号30)
DraIII-R 5’-ggt-cactacgtg- a acg ttc gaa cgt tcg-3’(配列番号31)
【0074】
CpG (A+B+C+C)-F及びCpG (A+B+C+C)-Rをテンプレートとし、DraIII-F及びDraIII-Rのプライマーセットを使用してPCRを行い、両端にDraIIIサイトを持つISS配列を含むDNA断片(DraIII-ISS)を得た。次にDraIII-ISSとベクターHBc-AngII ISS(-)及びHBc ISS(-)をDraIIIで切断した。ベクターをアルカリフォスファターゼ処理し、DraIII-ISSの酵素消化産物とライゲーション反応を行うことにより、ベクターのDraIII site (1621)にISSを挿入した。
【0075】
1−2.動物実験
10週齢高血圧ラット(SHR)背部皮膚にシマジェット(商品名、島津製作所)を用いて2週間ごとに、各ベクターを3回投与した(100μg/μl×2カ所/回)。
HBc-AngII ISS(+)群:12匹
HBc ISS(+)群:7匹
0週、2週、4週に投与し、投与開始から0週、4週間、8週間、16週間後に血圧測定、血清採取および抗体価測定を行った。
【0076】
1−2−1(a).テイル・カフ法(1)
(テイル・カフ法の測定機器)
メーカー:株式会社ソフトロン
製品名 BP-98A (ラット・マウス非観血自動血圧測定装置)
【0077】
1−2−1(a).テイル・カフ法(2)
(参考文献)
Evaluation of New Tail-cuff Method for Blood Pressure Measurement in Rats with Special Reference to the Effect of Ambient Temperature
EXPERIMENTAL ANIMALS Vol.40 No.3:331-336 (1991)
Antihypertensive Effect of Sesamin.I. Protection against Deoxycorticosterone Acetate-Salt-Induced Hypertension and Cardiovascular Hypertrophy
BIOLOGICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN Vol.18 1016-1019 (1995)
Establishment of an adrenocortical carcinoma xenograft with normotensive hyperaldosteronism in vivo
APMIS 106:1056-1060 (1998)
Endotherin-1 enhances Pressor Responses to Norepinephrine Involvement of Endothelin-B Receptor
JOURNAL OF CARDIOVASCULAR PHARMACOLOGY Vol.13 119-121 (1998)
Effect of dopamine receptor antagonists on the calcium-depenedent central function that reduces blood pressure in spontaneously hypertensive rats.
ELSEVIER NEUROSCIENCE LETTERS Vol.269 133-136 (1999)
Leprosy in Hypertensive Nude Rats(SHR/NCrj-rnu)
INTERNATIONAL JOURNAL OF LEPROSY Vol.67 No.4 435-443 (1999)
Potentiation by endothelin-1 of vasoconstrictor response in stroke-prone spontaneously hypertensive rats.
EUROPEAN JOURNAL OF PHARMACOLOGY Vol.415 45-49 (2001)
【0078】
1−2−1(b).テイル・カフ法による血圧測定
(方法)
血圧測定はテイル・カフ法で行った。一回一個体あたり、5〜15回測定し、その平均値を使用した。
(結果)
HBc ISS(+)群(コントロール)では、SHRラットの血圧が上昇した。一方、HBc-AngII ISS(+)群では、明らかな血圧低下を示した(
図1)。
【0079】
1−2−2(a).ELISA法
(試薬および測定機器)
・Angiotensin II-BSA conjugate, Angiotensin I-BSA conjugate: DSS (Disuccinimidyl suberate)をスペーサーとして作成
・Angiotensinogen (Human) : sigma A2562
・Nunc Maxisorp(Cat.442404)
・3% skim milk (PBS希釈)
・PBS-T(0.05% Tween)
・2次抗体:HRP-conjugated anti-mouse IgG secondary antibody (GE, NA931V), HRP-conjugated anti-rat IgG secondary antibody (GE, NA935V)
・TMB溶液:sigma T0440
・停止液:0.5N H
2SO
4
・マイクロプレートリーダー (InterMed, ImmunoMini NJ-2300)
【0080】
1−2−2(b).ELISA法による血清中のAngiotensin II又はAngiotensin Iに対する抗体価測定
(方法)
10μg/ml の濃度でAngiotensin II-BSA、Angiotensin I-BSA, Angiotensinogenを96 well plateにそれぞれ50μlずつ添加し、4℃で終夜インキュベートした。その後、ウェルの内容物を捨て、3% skim milk(150μl/well)を加え、2時間、室温にてインキュベートすることによりブロッキングした。
ウェル内の内容物を捨て、3% skim milkで希釈したマウス血清を50μlずつ添加し、4℃にて終夜インキュベートした。
各ウェルをPBS-Tで5回洗浄した。3% skim milk で1/1000倍に希釈したHRP-conjugated anti-mouse IgG secondary antibody又はHRP-conjugated anti-rat IgG secondary antibody(50μll/well)を添加し、3時間、室温にてインキュベートした。ウェル内の内容物を捨て、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。TMB溶液(50μl/well)を添加し、30分間、室温にてインキュベートした。0.5N H
2SO
4(50μl/well)の添加により反応を停止し、450nmで吸光度を測定した。
【0081】
(結果)
ワクチン投与前には認められなかったBSA-AngIIに対する抗体価が、計3回のワクチン投与(0週および2、4週)により上昇した。抗体価は、3回投与後の8週の時点で最も上昇しており、16週も減少傾向ながら維持された(
図2)。またHBc-AngIIワクチン投与によって、BSA-AngIに対する抗体価よりもBSA-AngIIに対する抗体価のほうがより強く上昇した(
図3)。
【0082】
2.まとめ
以上、血圧測定および抗体価測定の結果から、HBc-AngII ISS(+)DNAワクチン投与により、AngIIに対する抗体価を上昇させ、高血圧症を予防又は治療し得ることが示された。
【0083】
[実施例2]
1.動物実験
実施例1と同様に、10週齢高血圧ラット(SHR)背部皮膚にシマジェット(商品名、島津製作所)を用いて2週間ごとに、各ベクターを3回投与した(100μg/μl×2カ所/回)。
HBc-AngII ISS(+)群:6匹
HBc ISS(+)群:4匹
生理食塩水群:5匹
0週、2週、4週に投与し、投与開始から0週、4週間、8週間、12週間、16週間、20週間及び24週間後に血圧測定、血清採取および抗体価測定を行った。
【0084】
2.テイル・カフ法による血圧測定
(方法)
実施例1と同様に、血圧測定はテイル・カフ法で行った。一回一個体あたり、5〜15回測定し、その平均値を使用した。
(結果)
HBc ISS(+)群(コントロール)及び生理食塩水群では、SHRラットの血圧が上昇した。一方、HBc-AngII ISS(+)群では、明らかな血圧低下を示した(
図4)。この血圧低下効果は、投与開始から24週後まで持続した。
【0085】
3(a).ELISA法
(試薬および測定機器)
Angiotensin II-BSA conjugate, Angiotensin I-BSA conjugate: DSS (Disuccinimidyl suberate)をスペーサーとして作成
Angiotensinogen (Human) : sigma A2562
Nunc Maxisorp(Cat.442404)
5% skim milk (PBS希釈)
PBS-T(0.05% Tween)
2次抗体:HRP-conjugated anti-mouse IgG secondary antibody (GE, NA931V), HRP-conjugated anti-rat IgG secondary antibody (GE, NA935V)
TMB溶液:sigma T0440
停止液:0.5N H
2SO
4
マイクロプレートリーダー (Bio-Rad Inc, Japan)
【0086】
3(b).ELISA法による血清中のAngiotensin IIに対する抗体価測定
(方法)
10μg/mlの濃度でAngiotensin II-BSA、Angiotensin I-BSA, Angiotensinogenを96 well plateにそれぞれ50μlずつ添加し、4℃で終夜インキュベートした。その後、ウェルの内容物を捨て、5% skim milk(150μl/well)を加え、2時間、室温にてインキュベートすることによりブロッキングした。
ウェル内の内容物を捨て、5% skim milkで希釈したマウス血清を50μlずつ添加し、4℃にて終夜インキュベートした。
各ウェルをPBS-Tで5回洗浄した。5% skim milkで1/1000倍に希釈したHRP-conjugated anti-mouse IgG secondary antibody 又はHRP-conjugated anti-rat IgG secondary antibody (50μll/well)を添加し、3時間、室温にてインキュベートした。ウェル内の内容物を捨て、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。TMB溶液(50μl/well)を添加し、30分間、室温にてインキュベートした。0.5N H
2SO
4(50μl/well)の添加により反応を停止し、450nmで吸光度を測定した。
【0087】
(結果)
ワクチン投与前には認められなかったBSA-AngIIに対する抗体価が、計3回のワクチン投与(0週および2、4週)により上昇した。抗体価の上昇は、投与開始から4週間後には検出された。この抗体価の上昇は投与開始から24週間後も維持された(
図5)。
【0088】
4.まとめ
以上より、HBc-AngII ISS(+)DNAワクチン投与により、AngIIに対する抗体価を上昇させ、高血圧症を予防又は治療し得ることが示された。