特許第6057381号(P6057381)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057381船舶推進機コントローラ及びそれを用いた船舶推進システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057381
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】船舶推進機コントローラ及びそれを用いた船舶推進システム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/21 20060101AFI20161226BHJP
   B63H 11/08 20060101ALI20161226BHJP
   B63H 21/14 20060101ALI20161226BHJP
   B63H 21/17 20060101ALI20161226BHJP
   B63H 21/165 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   B63H21/21
   B63H11/08
   B63H21/14
   B63H21/17
   B63H21/165
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-549335(P2013-549335)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2012082557
(87)【国際公開番号】WO2013089244
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-276141(P2011-276141)
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】大 出 剛
(72)【発明者】
【氏名】賞 雅 寛 而
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−217512(JP,A)
【文献】 特開2001−071995(JP,A)
【文献】 特開平11−257071(JP,A)
【文献】 特開昭62−167939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/21
B63H 11/08
B63H 21/14
B63H 21/165
B63H 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進機を回転駆動する推進機駆動手段を制御する船舶推進機コントローラであって、
前記船舶推進機コントローラ全体の処理を制御する処理装置と、
前記推進機の無次元化された運動曲線であって所定の脈動パターンを有する脈動運動曲線を格納した運動曲線テーブルと、
前記脈動運動曲線を有次元化するための脈動運動曲線のサイクル(t1)とデューティ比(d1)とピーク速度(v1)を含む制御ファクタを設定する制御ファクタ設定手段と、
前記推進機の回転速度の指令周期間隔(s1)を決定する速度指令周期間隔決定手段と、
前記指令周期間隔ごとの前記推進機の回転速度の指令値を算出する速度指令値算出手段と、
前記速度指令値算出手段が算出した前記推進機の回転速度の指令値に合致するように前記推進機駆動手段に対して速度指令を出力する速度指令出力手段と、を有し、
前記処理装置は、船舶の低速運航時に、前記運動曲線テーブルから前記脈動運動曲線を呼び出し、前記制御ファクタ設定手段によって脈動運動曲線のサイクル(t1)とデューティ比(d1)とピーク速度(v1)とを設定し、続いて前記速度指令周期間隔決定手段によって前記推進機の回転速度の指令周期間隔(s1)を決定し、次に前記速度指令値算出手段によって、指令周期間隔(s1)ごとに前記推進機の回転速度の指令値を算出し、次に前記速度指令出力手段により、前記算出された前記推進機の回転速度の指令値に合致するように前記推進機駆動手段に対して速度指令を出力する、
ことを特徴とする船舶推進機コントローラ。
【請求項2】
前記運動曲線テーブルに格納された脈動運動曲線が有する各脈動パターンは、躍動(J)が不連続点を有しない連続曲線となっている、ことを特徴とする請求項1記載の船舶推進機コントローラ。
【請求項3】
前記推進機は、プロペラ式推進システムのプロペラ、またはウォータージェットの高圧ポンプに内蔵されたインペラであることを特徴とする請求項2記載の船舶推進機コントローラ。
【請求項4】
前記推進機駆動手段は、同期モータ、誘導モータ、油圧モータまたは内燃機関であることを特徴とする請求項3記載の船舶推進機コントローラ。
【請求項5】
前記推進機駆動手段は、同期モータ、誘導モータ、油圧モータまたは内燃機関であることを特徴とする請求項2記載の船舶推進機コントローラ。
【請求項6】
前記推進機は、プロペラ式推進システムのプロペラ、またはウォータージェットの高圧ポンプに内蔵されたインペラであることを特徴とする請求項1記載の船舶推進機コントローラ。
【請求項7】
前記推進機駆動手段は、同期モータ、誘導モータ、油圧モータまたは内燃機関であることを特徴とする請求項1記載の船舶推進機コントローラ。
【請求項8】
請求項1に記載の船舶推進機コントローラと、
前記推進機を駆動する推進機駆動手段と、
を備えることを特徴とする船舶推進システム。
【請求項9】
前記推進機は、ウォータージェット式推進システムの高圧ポンプに内蔵されたインペラであり、前記推進機駆動手段は、前記インペラに接続されていることを特徴とする請求項8に記載の船舶推進システム。
【請求項10】
前記ウォータージェット式推進システムはリバーサを有しないことを特徴とする請求項9に記載の船舶推進システム。
【請求項11】
前記推進機は、プロペラ式推進システムのプロペラであり、前記推進機駆動手段は前記プロペラに接続されていることを特徴とする請求項8に記載の船舶推進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進機コントローラ及びそれを用いた船舶推進システムに係り、特に、極微速(dead slow)等の低速域において、平滑かつ高効率な操船が可能な船舶推進機コントローラ及びそれを用いた船舶推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は接岸時などの際には最低速で操船する必要があり、このような時は従来の内燃機関の船舶推進システムによれば、内燃機関の回転を断続的にプロペラやウォータージェットのインペラ(羽根車)に伝達し、断続的に推進力を生じるようにし、これによって船を操縦するようにしていた。
【0003】
本発明は、プロペラ式の推進システムとウォータージェット式の推進システムの双方に適用が可能であるが、以下の説明ではウォータージェット式の推進システムを例に説明することにする。
【0004】
従来から船舶の推進システムの一つとしてウォータージェット式推進システムが知られていた。
【0005】
図9は従来の船舶のウォータージェット式推進システムを示している。
【0006】
従来の船舶のウォータージェット式推進システム15は、インペラ16を内蔵する高圧ポンプ17と、インペラ16を駆動する内燃機関18と、内燃機関18の出力を制御するコントロールレバー19と、高圧ポンプ17から吐出される噴射水流の噴射方向を制御して船舶の進路方向を制御するデフレクタ20と、船舶が後進するときにデフレクタ20から噴出される水流を船舶の前方向に偏向させる(逆噴射させる)リバーサ21とを有している。
【0007】
従来の船舶のウォータージェット式推進システムの内燃機関18は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスタービンエンジン等の内燃機関を使用していた。符号22は高圧ポンプ17の吸入口のスクリーンを示している。
【0008】
従来の船舶のウォータージェット式推進システム15は、内燃機関18によって高圧ポンプ17のインペラ16を回転駆動し、インペラの回転によって船底から水をくみ上げ、くみ上げた水を高圧ポンプ17の後方ノズルから吐出させることにより推進力を得ていた。
【0009】
船舶の進路方向を変えるときは、図10に示すように、高圧ポンプからの噴流の方向をデフレクタ20によって変え、推力の方向を変えていた。
【0010】
推力の横方向の成分、すなわち、推力×SINθが船の進路方向を曲げるモーメントになる。
【0011】
ウォータージェット式推進の船舶の特徴として、約50ノットで高速航行をすることができ、また、デフレクタの角度を変えることによって船の進路方向を変えることができるため、舵が不要となる。また、スクリュープロペラを用いないため、水深の浅い水域でも運航が可能となる。
【0012】
図11は従来の船舶のウォータージェット式推進システムにおいて、低速で船舶を運航するときの操作方法を示している。
【0013】
低速域では、推力を小さくしなければならないため内燃機関18の回転数を下げることが必要になるが、一定の回転数以下にすると、内燃機関18の回転が不安定になる。また仮に、減速ギア等を付加することにより内燃機関18の出力軸の回転数を下げられるようにしても、インペラ16は回転が一定数以下に下げられると噴流の圧力が下がり、噴流の圧力不足によって進路方向の制御が不能になる。
【0014】
そのため、従来の船舶のウォータージェット式推進システム15は低速運航するときは、内燃機関18やインペラ17の回転数を過度に下げないようにしておいて、図11に示すように、リバーサ21を下げ、噴流の方向を一部下方向に向けることによって、つまり前進推力の一部を下方向に捨てて低速運転をしていた。
【0015】
なお、従来の船舶は、後進するときは、リバーサ21をさらに下げ、噴流を船首方向に向かせて後進していた。
【0016】
上記したことは、プロペラ式の推進システムでも同様のことが生じる。
【0017】
すなわち、従来の内燃機関によるプロペラ式の推進システムは、内燃機関の回転数を一定の回転数以下にすると回転が不安定になり、また、プロペラの推力も大きく落ちるため、極微速では内燃機関の回転を一定の回転数以上にしておいて、断続的にプロペラに接続してプロペラを断続的に回転させていた。
【0018】
プロペラに接続していない間は、内燃機関は単に回転を維持するために回転させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2005−145439号公報
【特許文献2】特開平11−152088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来の船舶推進システムにおいては、低速で運航する際、内燃機関の回転を一定の回転数以上にしておく。そして、上述したように、プロペラ推進システムにおいては、断続的にプロペラに接続してプロペラを断続的に回転させることによって、一方、ウォータージェット式の推進システムにおいては、リバーサを下げ噴流の方向を一部下方向に向けることによって、前進推力を小さくしていた。
【0021】
いずれにしても、エネルギーの損失が多いためエネルギー効率が悪く、かつ、断続的に内燃機関の回転を推進力に転換するため、振動が大きいという問題があった。
【0022】
そこで、本発明の目的は、上記従来の船舶推進システムが抱える課題を解決し、最低速運転時に、エネルギー損失がなく高効率であり、かつ、振動の少ない平滑な操船が可能な船舶推進機コントローラ及びそれを用いた船舶推進システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様に係る船舶推進機コントローラは、
船舶の推進機を回転駆動する推進機駆動手段を制御する船舶推進機コントローラであって、
前記船舶推進機コントローラ全体の処理を制御する処理装置と、
前記推進機の無次元化された運動曲線であって所定の脈動パターンを有する脈動運動曲線を格納した運動曲線テーブルと、
前記脈動運動曲線を有次元化するための脈動運動曲線のサイクル(t1)とデューティ比(d1)とピーク速度(v1)を含む制御ファクタを設定する制御ファクタ設定手段と、
前記推進機の回転速度の指令周期間隔(s1)を決定する速度指令周期間隔決定手段と、
前記指令周期間隔ごとの前記推進機の回転速度の指令値を算出する速度指令値算出手段と、
前記速度指令値算出手段が算出した前記推進機の回転速度の指令値に合致するように前記推進機駆動手段に対して速度指令を出力する速度指令出力手段と、を有し、
前記処理装置は、船舶の低速運航時に、前記運動曲線テーブルから前記脈動運動曲線を呼び出し、前記制御ファクタ設定手段によって脈動運動曲線のサイクル(t1)とデューティ比(d1)とピーク速度(v1)とを設定し、続いて前記速度指令周期間隔決定手段によって前記推進機の回転速度の指令周期間隔(s1)を決定し、次に前記速度指令値算出手段によって、指令周期間隔(s1)ごとに前記推進機の回転速度の指令値を算出し、次に前記速度指令出力手段により、前記算出された前記推進機の回転速度の指令値に合致するように前記推進機駆動手段に対して速度指令を出力する、
ことを特徴とする。
【0024】
また、前記船舶推進機コントローラにおいて、
前記運動曲線テーブルに格納された脈動運動曲線が有する各脈動パターンは、躍動(J:jerk)が不連続点を有しない連続曲線となっている、ようにしてもよい。
【0025】
また、前記船舶推進機コントローラにおいて、
前記推進機は、プロペラ式推進システムのプロペラ、またはウォータージェットの高圧ポンプに内蔵されたインペラであってもよい。
【0026】
また、前記船舶推進機コントローラにおいて、
前記推進機駆動手段は、同期モータ、誘導モータ、油圧モータまたは内燃機関であってもよい。
【0027】
本発明の一態様に係る船舶推進システムは、
本発明の船舶推進機コントローラと、
前記推進機を駆動する推進機駆動手段と、
を備えることを特徴とする。
【0028】
また、前記船舶推進システムにおいて、
前記推進機は、ウォータージェット式推進システムの高圧ポンプに内蔵されたインペラであり、前記推進機駆動手段は、前記インペラに接続されているようにしてもよい。
【0029】
また、前記船舶推進システムにおいて、
前記ウォータージェット式推進システムはリバーサを有しないようにしてもよい。
【0030】
また、前記船舶推進システムにおいて、
前記推進機は、プロペラ式推進システムのプロペラであり、前記推進機駆動手段は前記プロペラに接続されているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の船舶推進機コントローラによれば、船舶の低速運航時に、プロペラやインペラ等の推進機に一定のサイクル(t1)で脈動的な回転速度指令を出力することができる。
【0032】
スクリューやウォータージェット推進機の噴射圧力は駆動機関の回転数と関係し、一定の回転数以下になると船舶は推進力を失う。一方、本発明によれば、上記脈動の回転速度指令のピーク速度を高くすることにより、十分な推進力を得ることができる。十分な推進力を得ることにより、脈動による推力が発生している間は十分に船舶の舵が効く。この脈動が連続することにより、連続的に船の舵が効くようになる。
【0033】
ウォータージェット推進機による平均速度は、推進機のピーク回転速度にデューティ比(d1)を乗じたものである。このため、デューティ比(d1)を調整することにより、高い推力を得ながら低い平均速度を得ることができ、最低速運転時において相応の低い速度を得ることができる。
【0034】
なお、運動曲線テーブルに格納された脈動運動曲線が有する各脈動パターンは、躍動(J)が不連続点を有しない連続曲線となっていることが好ましい。
【0035】
通常の船舶推進システムでは、脈動パターンを用いて推進機の速度を制御する場合、脈動パターンとしては台形の脈動パターンを用いることとなる。台形の脈動パターンの場合、台形の上辺において等速度になるため、加速度がゼロとなる。よって、速度が上昇して脈動パターンの台形の上辺に移る時と、脈動パターンの台形の上辺から速度が減少する時に、大きな脈動が発生する。
【0036】
これに対して、本発明は、指令周期間隔(s1)ごとに推進機の回転速度を制御して、脈動パターンが全体として、躍動(J)の不連続点を有しない連続曲線となるように制御することができる。
【0037】
これにより、振動がなく、静かで平滑な操船が可能な船舶推進システムを得ることができる。
【0038】
また、本発明によれば、極微速の操船において、小さい推進力でありながら常に推進力を有するため、従来に比してきわめて操船能力が高くなり、極微速における操船能力を端的に評価する指標となる船の回転半径を、従来のものより大幅に小さくすることができる。
【0039】
また、本発明を利用したウォータージェット式推進システムによれば、最低速運転時にリバーサを用いることなく操船することができ、また、噴射水流を下方向に向けることによるエネルギー損失を無くし、高エネルギー効率の船舶推進システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の一実施形態による船舶のウォータージェット式推進システムの平面図。
図2図1の船舶のウォータージェット式推進システムの側面構成図。
図3】矩形波を採った場合における、インペラの回転速度の波形を示すグラフ。
図4】カム曲線を採った場合における、インペラの回転速度の波形を示すグラフ。
図5】船舶の最低速域におけるインペラの運動曲線を示したグラフ。
図6】船舶推進機コントローラの構成を示した構成図。
図7A】船舶推進機コントローラによる制御フローを示したフローチャート。
図7B】制御フローを説明するための回転速度V、加速度Aおよび躍動Jの時間波形。
図8】従来の脈動運動曲線と本発明の脈動運動曲線を比較して示した説明図。
図9】従来の船舶のウォータージェット式推進システムの側面構成図。
図10】デフレクタの動作を示した説明図。
図11】低速運航時の従来の船舶のウォータージェット式推進システムの動作を説明した説明図。
図12】本発明の船舶推進システムによる操船能力を示す実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明はプロペラ式推進システム及びウォータージェット式推進システムの双方に適用することができるが、以下ではウォータージェット式推進システムを例に説明する。
【0042】
図1図2に本発明の一実施形態による船舶のウォータージェット式推進システム(電気推進システム)を示す。
【0043】
図1は該ウォータージェット式推進システムの平面図、図2は該ウォータージェット式推進システムの側面構成図を示している。
【0044】
本実施形態の船舶のウォータージェット式推進システム1は、インペラ(推進機)2を内蔵する高圧ポンプ3と、インペラ2を駆動する同期モータ4と、同期モータ4を制御する船舶推進機コントローラ5と、高圧ポンプ3から吐出される噴射水流の噴射方向を制御するデフレクタ6とを有している。以下の説明において、船舶推進機コントローラ5を、単に「コントローラ5」ともいう。
【0045】
なお、本発明においては、低速運転の目的でリバーサを使用する必要はない。もっとも、ウォータージェット式推進システム1は、低速運転以外の目的でリバーサを備えてもよい。
【0046】
また、船舶推進機コントローラ5は、デフレクタ6を制御する機能を有していてもよい。さらに、ウォータージェット式推進システム1がリバーサを備える場合には、船舶推進機コントローラ5は、該リバーサを制御する機能を有していてもよい。即ち、船舶推進機コントローラ5は、3軸同期制御して、インペラ2、デフレクタ6およびリバーサを制御可能に構成されてもよい。
【0047】
図1および図2において、サーボモータやサーボドライバを示しているが、公知の任意の代替手段がある場合はそれらを使用して良い。
【0048】
同期モータ(同期電動モータ)4は、内燃機関の応答時間の1/100の応答特性、および低回転域で高トルクのT−N特性を有する永久磁石同期モータを用いるのが好ましい。
【0049】
なお、本発明において、インペラ等の推進機を回転駆動する手段(推進機駆動手段)は、同期モータに限らない。即ち、推進機駆動手段は、推進機を所望の回転速度で回転させることができればよく、誘導モータ、油圧モータ、サーボモータなどの各種モータを用いることができる。また、本発明は、例えば推進機が大型プロペラであり回転数が低い場合を想定して、推進機駆動手段として内燃機関を排除するものではない。
【0050】
図3は、横軸に時間軸、縦軸にインペラ2や同期モータ4の回転速度を示し、矩形波でインペラ2や同期モータ4が回転するときの波形を示している。
【0051】
図3に示すように、矩形波でインペラ2や同期モータ4がピーク速度Vsで回転し、デューティ比をTs/Tcとすると、高圧ポンプ3の噴射圧力Hsはピーク速度Vsの2乗に比例する。ここで、Tcは周期であり、Tsはパルス幅である。
【0052】
この波形におけるインペラの平均回転速度Vmはピーク速度Vsにデューティ比Ts/Tcを乗じたものとなる。
【0053】
ピーク速度Vsを高くすることにより、平均速度Vmを低くしつつ、十分な推進力を得ることが可能となる。即ち、低速航行時においても、十分な推進力を得ることができる。これにより、低速航行時における操舵性が確保され、かつ高効率な船舶推進システムを実現することができる。
【0054】
図4のグラフは、カム曲線を採った場合における、インペラの回転速度Vと加速度Aの波形を示す。
【0055】
図4のカム曲線は、以下で述べる指令周期間隔(s1)ごとに制御を行って、図3の矩形波の振幅(パルス高さ)を周期Tcごとに変形させることにより形成することができる。図4のカム曲線では、加速度A(A=dV/dT)が連続系になる。
【0056】
加速度A(A=dV/dT)を連続系とすることにより、躍動J(J=dA/dT)が少なくなり、振動を減少させることができる。
【0057】
なお、加速度A(A=dV/dT)を連続系にし、最適な躍動J(J=dA/dT)を得るためには、図4のカム曲線以外の曲線とすることもできる。例えば、船舶の振動周波数を加味して躍動を0に近づけた曲線とすることができる。
【0058】
図5は、船舶の最低速域におけるインペラの運動曲線の例を示している。なお、図5の下側に、速度V、加速度Aおよび躍動Jの時間波形を示している。加速度Aの運動曲線は回転速度Vの運動曲線を微分したものであり、躍動Jの運動曲線は加速度Aの運動曲線を微分したものである。
【0059】
図3および図4の説明から分かるように、矩形波(パルス状波)の脈動によれば、ピーク速度Vsの2乗に比例して噴射圧力Hsが得られ、ピーク速度Vsにデューティ比Ts/Tcを乗じて平均速度Vmを得ることができる。さらに、矩形波のパルス高さを周期Tcごとに制御することにより、振動を少なくする脈動曲線を得ることができる。
【0060】
すなわち、本発明では、図5に示すように、船舶の最低速域において、適当な脈動パターンを有する運動曲線、例えば、無間欠の脈動パターンを有する運動曲線または間欠の脈動パターンを有する運動曲線を用いてインペラを回転駆動する。これにより、図5に示すように、加速度が連続系になり、振動が少ない駆動を実現できる。また、十分な推力を得つつ、低い速度で船を操作することができるようになる。
【0061】
図6は、本発明の船舶推進機コントローラ5の構成を示している。
【0062】
船舶推進機コントローラ5は、コントローラ5全体の処理を制御する処理装置7と、脈動運動曲線を格納した運動曲線テーブル8と、運動曲線の制御ファクタを設定する制御ファクタ設定手段9と、インペラの回転速度の指令周期間隔を決定する速度指令周期間隔決定手段10と、指令周期間隔ごとのインペラの回転速度の指令値を算出する速度指令値算出手段11と、速度指令値算出手段11が算出したインペラの回転速度の指令値に合致するように同期モータ4に対して速度指令を出力する速度指令出力手段12とを有している。
【0063】
ここで、運動曲線テーブル8に格納される脈動運動曲線は、インペラ(推進機)の無次元化された運動曲線であって、所定の脈動パターンを有する。
【0064】
船舶推進機コントローラ5の各構成手段は、処理装置7によって制御できるように構成されている。
【0065】
図7Aは、コントローラ5の処理装置7の制御による処理フローを示している。図6のコントローラ5の構成を参照しつつ、以下にその処理の流れを説明する。
【0066】
図7Aに示すように、コントローラ5の処理装置7は、船舶が低速で運航する時に操船者の指令(操作)に応じて、所定の脈動パターンを有する無次元化された運動曲線(脈動運動曲線)を運動曲線テーブル8から呼び出す(ステップS1)。ここで、所定の脈動パターンを有する運動曲線とは、例えば図5に示したような無間欠の脈動パターンを有する運動曲線または間欠の脈動パターンを有する運動曲線である。無次元化された運動曲線とは、波形のみが規定され具体的な時間や振幅が規定されていない状態の運動曲線をいう。
【0067】
なお、運動曲線テーブル8から呼び出す運動曲線は、回転速度Vの運動曲線に限らず、加速度Aの運動曲線であってもよいし、躍動Jの運動曲線であってもよい。例えば、推進機駆動手段を加速度Aで制御する場合には、運動曲線テーブル8から加速度Aの運動曲線を呼び出すようにしてもよい。また、推進機駆動手段を回転速度Vで制御する場合であっても、加速度Aの運動曲線または躍動Jの運動曲線を運動曲線テーブル8から呼び出し、呼び出した運動曲線を積分することで、回転速度Vの運動曲線を得るようにしてもよい。
【0068】
次に、処理装置7の制御によって制御ファクタ設定手段9により、呼び出された脈動運動曲線のサイクルt1とデューティ比d1とピーク速度v1とを設定する(ステップS2)。
【0069】
続いて、処理装置7の制御によって速度指令周期間隔決定手段10により、インペラの回転速度の指令周期間隔s1を決定する(ステップS3)。
【0070】
すなわち、上記ステップS2およびステップS3において、図7Bに示すように、無次元化された脈動運動曲線は、各脈動のサイクルの時間t1とピーク速度v1とデューティ比d1が決定されることにより有次元化され、かつ、インペラの回転速度の指令周期間隔s1が設定される。このように設定された脈動運動曲線は、指令周期間隔s1ごとにパルス状の(矩形の)波形指令をインペラの回転速度に対して与えることにより、制御することができる。むろん、振動を少なくするため、運動曲線テーブル8から呼び出された運動曲線は、加速度が連続系になるものであることが好ましい。
【0071】
次に、処理装置7の制御によって速度指令値算出手段11により、指令周期間隔s1ごとにインペラの回転速度の指令値を算出する(ステップS4)。より詳しくは、有次元化された脈動運動曲線に基づいて、インペラの回転速度の指令値を指令周期間隔s1ごとに算出する。
【0072】
次に、ステップS4で指令値を算出した時点が、サイクルt1中の最後の指令周期に該当するか否かを判断する(ステップS5)。即ち、ステップS4で指令値を算出した時点がサイクルt1中の最後の指令周期に達していなければ(ステップS5:N)、次の指令周期間隔におけるインペラの回転速度の指令値を算出し、ステップS4で指令値を算出した時点がサイクルt1中の最後の指令周期に達していれば(ステップS5:Y)、次のサイクルに移行するか否かを判断する。
【0073】
ステップS6においては、最後のサイクルに達したか否かを判断し、最後のサイクルに達していれば(ステップS6:Y)処理を終了し、最後のサイクルに達していなければ(ステップS6:N)、次のサイクルの処理に移る。
【0074】
以上の処理により、船舶の最低速運転において、インペラに脈動の回転速度指令を与え、かつ各脈動の回転速度のピーク速度を高くする。これにより、本発明によれば、十分な噴射圧力を得つつ、十分に船舶の舵が効くような状態にすることができる。また、デューティ比d1を制御することにより十分な低速で船を操作することができる。
【0075】
これにより、従来低速運行に必要だったリバーサを省略して簡単な構造のウォータージェット式推進システムを得られ、且つ、従来リバーサによって下方向に偏向させていた噴流のエネルギー損失を無くし、エネルギー効率の高い船舶のウォータージェット式推進システムを得ることができる。
【0076】
上記のように本発明によればリバーサを省略することができるが、本発明は、操船の性能向上等のために、リバーサを付加的に設けることを排除するものではない。
【0077】
また、上記実施形態では、推進機は高圧ポンプに内蔵されたインペラとしたが、本発明はこれに限らず、推進機は例えばプロペラであってもよい。
【0078】
ここで、本発明による「躍動が小さい脈動運動曲線」について説明する。
【0079】
図8は通常の脈動運動曲線と本発明による脈動運動曲線とを比較して示している。図8(a)は通常の脈動運動曲線、図8(b)は本発明による脈動運動曲線を示している。
【0080】
図8において、Tは時間、Sは位置、Vは速度、Aは加速度、Jは躍動をそれぞれ示している。
【0081】
通常の脈動パターンは、速度と時間のグラフ(V−T)にもっとも分かりやすく示すように、速度と時間の関係がほぼ台形の形状を有している。すなわち、通常の脈動パターンは、一定の加速度で速度が上昇し、一定の速度に達せばその速度を維持し、続いて一定の加速度で速度が減少する。
【0082】
図8(a)から分かるように、このような速度と時間の関係がほぼ台形の形状を有している脈動運動曲線の場合、速度が上昇して一定速度に達する時、及び、速度が一定速度から減少する時、加速度Aが不連続になり、躍動Jは無限大または無限小となる。
【0083】
躍動Jが大きいということは、最大加速度Amが大きい、または、それが発生する周期が小さいかのいずれかである。最大加速度Amが大きいということは、加振力成分が大きいことを意味し、振動を大きくする。周期が小さいということは、加振力成分の振動数が高くなることを意味し、系の固有振動数に近づくなら共振現象となる。
【0084】
また、加速度Aが不連続であることは、周期が無限小であることを意味し、固有振動数がいかに高くてもこれと共振すべき成分波が加振力成分の中に存在することになる。
【0085】
このため、通常の速度と時間の関係がほぼ台形の形状を有している脈動運動曲線の場合、船舶の操船時に不快な振動や騒音を生じることになる。
【0086】
これに対して、本発明は、指令周期間隔s1ごとに推進機(プロペラまたはインペラ)の回転数を制御して、たとえば図8(b)に示すようなサイクロイド曲線のように、加速度Aに不連続点がなく、かつ、躍動Jが連続の曲線となるように、脈動パターンを制御することができる。
【0087】
このような、躍動Jが連続の曲線となる脈動運動曲線によれば、極微速の操船において、静かで平滑な操船を可能とすることができる。
【0088】
なお、本発明の脈動運動曲線は、上記サイクロイド曲線に限られず、躍動Jが連続の曲線となる限り任意の脈動運動曲線とすることができる。
【0089】
本発明の運動曲線テーブルは、かかる脈動運動曲線の無次元化曲線を複数格納し、運転状況に応じて必要な脈動運動曲線を呼び出すようにすることができる。
【実施例】
【0090】
次に、本発明の船舶推進システムの操船能力を測定した実験結果の一例について説明する。
【0091】
実験では、本発明の船舶推進機コントローラを搭載した、ウォータージェット式の船舶に対し、その旋回性能を測定した。比較のために、従来のウォータージェット式の船舶についても、旋回性能の測定を行った。
【0092】
本発明の船舶および従来の船舶のいずれも、全長約8m、全幅約2.2m、全深さ0.85m、総トン数1.3トンである。
【0093】
本発明の船舶および従来の船舶のいずれについても、出力は6kW(船速4ノット)とし、舵角は右舷側20度とした。
【0094】
また、本発明の船舶については、サイクル周期(t1)を1秒とし、デューティ比を50%とした。
【0095】
また、船舶の位置は、船内に搭載されたGPSにより、サンプリング間隔1秒で計測した。
【0096】
実験結果を図12に示す。図12は、本発明の船舶推進システムによる操船能力を示す実験結果である。
【0097】
図12に示すように、本発明の船舶推進機コントローラを搭載した船舶は、従来の船舶に比べて、回転半径が大幅に小さいことが分かる。
【0098】
このように、本発明によれば、低速域において推進力を有するため、従来に比してきわめて操船能力が高くなる。その結果、従来に比べて、船の回転半径を大幅に小さくすることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 船舶のウォータージェット式推進システム
2 インペラ
3 高圧ポンプ
4 同期モータ
5 コントローラ
6 デフレクタ
7 処理装置
8 運動曲線テーブル
9 制御ファクタ設定手段
10 速度指令周期間隔決定手段
11 速度指令値算出手段
12 速度指令出力手段
15 従来の船舶のウォータージェット式推進システム
16 インペラ
17 高圧ポンプ
18 内燃機関
19 コントロールレバー
20 デフレクタ
21 リバーサ
22 スクリーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12