(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電極活物質及びリチウムイオン電池を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
[第1の実施形態]
(電極活物質)
図1は、本発明の第1の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質1は、Li
wA
xDO
4(但し、AはMn、Coの群から選択される1種または2種、DはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<w≦4、0<x≦1.5)からなる粒子(以下、Li
wA
xDO
4粒子と略称する)2の表面が、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層3により被覆されている。
【0021】
上記のAについては、Mn、Coの群から選択される1種または2種が、また、Dについては、P、Si、Sの群から選択される1種または2種以上が、高い放電電位、豊富な資源量、安全性等の点から好ましい。
この粒子2の平均粒径は5nm以上かつ500nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上かつ200nm以下である。
その理由は、平均粒径が5nmより小さいと、充放電による体積変化により結晶構造が破壊される虞があるからであり、また、平均粒径が500nmより大きいと、粒子内部への電子の供給量が不足し、利用効率が低下するからである。
【0022】
被覆層3の厚みは0.1nm以上かつ25nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、炭化触媒能が不十分となり、したがって、電子導電性が不十分となり、その結果、電子の供給量が不足するからであり、また、厚みが25nmより厚いと、電極活物質1中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0023】
このように、粒子2の平均粒径及び被覆層3の厚みを勘案すると、この電極活物質1の平均粒径は5nm以上かつ550nm以下、好ましくは20nm以上かつ250nm以下となる。
この電極活物質1は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質1をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0024】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、Li
wA
xDO
4粒子の表面に、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成する方法である。
【0025】
このLi
wA
xDO
4粒子は、Li源、A源及びD源を、これらのモル比(Li源:A源:D源)がw:x:1となるように水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌してLi
wA
xDO
4の前駆体溶液とし、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、120℃以上かつ250℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ24時間以下、水熱処理を行うことにより得ることができる。
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)等のLi化合物が、A源としては、Mn、Coの群から選択される1種または2種の化合物が、D源としては、P、Si、Sの群から選択される1種または2種以上の化合物が、用いられる。
この場合、水熱処理時の温度、圧力及び時間を調整することにより、Li
wA
xDO
4粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0026】
このようにして得られたLi
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とする。
E源としては、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物、例えば、塩化鉄(II)(FeCl
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、塩化ニッケル(II)(NiCl
2)、硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CH
3COO)
2)、及びこれらの水和物、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
この水を主成分とする溶媒としては、例えば、水の他、アルコール類、ケトン類、エーテル類等を含む水溶液等を用いることができるが、使い易さ、安全性の点から水が好ましい。
【0027】
この懸濁液中のE源の濃度は、特に限定されるものではないが、Li
wA
xDO
4粒子の表面に、Li
yE
zGO
4を含む被覆層を均一に形成するためには、0.5質量%以上かつ10質量%以下が好ましい。
【0028】
次いで、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、粒子表面にてAイオンとEイオンとの交換を行わせしめ、懸濁液中のLi
wA
xDO
4粒子の表面に、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成する。この場合、G=Dとなる。
この高温高圧の条件は、Li
yE
zGO
4が生成する温度、圧力及び時間の範囲であればよく、例えば、水熱処理時の温度は120℃以上かつ250℃以下が好ましく、150℃以上かつ220℃以下がより好ましい。また、この水熱処理時の圧力は0.2MPa以上が好ましく、0.4MPa以上がより好ましい。また、水熱処理時間は、水熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましく、3時間以上かつ12時間以下がより好ましい。
【0029】
以上により、Li
wA
xDO
4粒子2の表面が、Li
yE
zGO
4を含む被覆層3により被覆され、平均粒径が5nm以上かつ550nm以下の電極活物質1を、容易に作製することができる。
【0030】
なお、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入する代わりに、Li源、E源及びG源を、モル比でy:z:1の割合となるように、水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、得られた懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施すこととしても、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、Li
yE
zGO
4を含む被覆層3により被覆することができる。
【0031】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩、及びこれらの水和物の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
また、G源としては、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、及びこれらの水和物等のリン酸源、酸化ケイ素(SiO
2)、シリコンテトラメトキシド(Si(OCH
3)
4)等のSi源、硫酸二アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硫酸(H
2SO
4)等のS源、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質1によれば、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、Li
yE
zGO
4を含む被覆層3により被覆したので、オリビン構造を有するLi
wA
xDO
4の表面を、必要最少限の電子導電性を有するLi
yE
zGO
4を含む被覆層により被覆することとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0033】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、Li
wA
xDO
4粒子の表面に、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0034】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質1をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0035】
[第2の実施形態]
(電極活物質)
図2は、本発明の第2の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質11が第1の実施形態の電極活物質1と異なる点は、第1の実施形態の電極活物質1では、Li
wA
xDO
4粒子2の表面をLi
yE
zGO
4を含む被覆層3により被覆しただけであるのに対し、本実施形態の電極活物質11では、被覆層3の表面を、さらに、炭素質を含む(第2の)被覆層12により被覆した点であり、この点以外の構成については、第1の実施形態の電極活物質1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0036】
炭素質を含む被覆層12は、炭素源となる有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより生成した炭素質を含む電子導電性物質からなる導電層である。
この炭素質を含む電子導電性物質としては、炭素を30質量%以上かつ100質量%以下含有することが好ましく、50質量%以上かつ100質量%以下含有することがより好ましい。
この炭素質を含む電子導電性物質は、炭素を30質量%以上かつ100質量%以下含有することで、電極活物質11に所望の電子伝導性を付与することができる。
【0037】
被覆層12の厚みは0.1nm以上かつ25nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、被覆層12自体の電子導電性が不十分となり、その結果、電極活物質11としての電子導電性が大きく低下するからであり、また、厚みが25nmより厚いと、電極活物質11中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0038】
このように、粒子2の平均粒径、被覆層3の厚み及び被覆層12の厚みを勘案すると、この電極活物質11の平均粒径は5nm以上かつ600nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下となる。
この電極活物質11は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質11をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0039】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、Li
wA
xDO
4粒子の表面に、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成し、次いで、この被覆層が形成されたLi
wA
xDO
4粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理する方法である。
なお、この方法では、Li
wA
xDO
4粒子の表面にLi
yE
zGO
4を含む被覆層を形成する工程までは、第1の実施形態の電極活物質の製造方法と全く同様である。
【0040】
ここでは、この被覆層が形成されたLi
wA
xDO
4粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとする。
この炭素源となる有機物としては、非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより炭素を生成する有機物であればよく、特に制限はされないが、例えば、ヘキサノール、オクタノール等の高級一価アルコール、アリルアルコール、プロピノール(プロパルギルアルコール)、テルピネオール等の不飽和一価アルコール、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0041】
このスラリー中の炭素源となる有機物の濃度は、特に限定されるものではないが、被覆層上の表面に、炭素質を含む被覆層12を均一に形成するためには、1質量%以上かつ25質量%以下が好ましい。
【0042】
この炭素源となる有機物を溶解させる溶媒としては、この有機物が溶解するものであればよく、特に制限されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
次いで、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理する。
この熱処理の条件は、炭素源となる有機物から炭素が生成する温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は500℃以上かつ1000℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
【0044】
以上により、Li
wA
xDO
4粒子2の表面が、Li
yE
zGO
4を含む被覆層3及び炭素質を含む被覆層12により被覆され、平均粒径が5nm以上かつ600nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下の電極活物質11を、容易に作製することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質11によれば、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、Li
yE
zGO
4を含む被覆層3及び炭素質を含む被覆層12により被覆したので、オリビン構造を有するLi
wA
xDO
4の表面を、必要最少限の電子導電性を有するLi
yE
zGO
4を含む被覆層3及び導電性に優れた炭素質を含む被覆層12により被覆することとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0046】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、被覆層が形成されたLi
wA
xDO
4粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、次いで、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0047】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質11をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0048】
[第3の実施形態]
(電極活物質)
図3は、本発明の第3の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質21が第1の実施形態の電極活物質1と異なる点は、第1の実施形態の電極活物質1では、Li
wA
xDO
4粒子2の表面をLi
yE
zGO
4を含む被覆層3により被覆したのに対し、本実施形態の電極活物質21では、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)と炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22により被覆した点であり、この点以外の構成については、第1の実施形態の電極活物質1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0049】
Li
yE
zGO
4と炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22は、Li
yE
zGO
4(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)と、炭素源となる有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより生成した炭素質を含む電子導電性物質とを含む導電層である。
【0050】
この被覆層22は、炭素質を含む電子導電性物質を炭素に換算した場合、炭素として30質量%以上かつ99質量%以下含有することが好ましく、50質量%以上かつ95質量%以下含有することがより好ましい。
この炭素質を含む電子導電性物質は、炭素質を炭素換算値で30質量%以上かつ99質量%以下含有することで、電極活物質21に所望の電子伝導性を付与することができる。
【0051】
被覆層22の厚みは0.1nm以上かつ25nm以下が好ましく、より好ましくは2nm以上かつ10nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、被覆層22自体の電子導電性が不十分となり、その結果、電極活物質21としての電子導電性が大きく低下するからであり、また、厚みが25nmより厚いと、電極活物質21中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0052】
このように、粒子2の平均粒径及び被覆層22の厚みを勘案すると、この電極活物質21の平均粒径は5nm以上かつ550nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下となる。
この電極活物質21は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質21をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0053】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、Li
wA
xDO
4粒子を、Li源、E源及びG源をモル比(Li源:E源:G源)でy:z:1の割合で含むとともに炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理する方法である。
【0054】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩、及びこれらの水和物の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
E源としては、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物、例えば、塩化鉄(II)(FeCl
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、塩化ニッケル(II)(NiCl
2)、硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CH
3COO)
2)、及びこれらの水和物、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0055】
G源としては、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、リン酸アンモニウム((NH
4)
3PO
4)、及びこれらの水和物等のリン酸源、酸化ケイ素(SiO
2)、シリコンテトラメトキシド(Si(OCH
3)
4)等のSi源、硫酸二アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硫酸(H
2SO
4)等のS源、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
この炭素源となる有機物、及び炭素源となる有機物を溶解させる溶媒については、第3の実施形態の炭素源となる有機物、及び炭素源となる有機物を溶解させる溶媒と全く同様である。
【0056】
粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理する際の条件は、Li
yE
zGO
4が生成するとともに炭素源となる有機物から炭素が生成する温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は500℃以上かつ1000℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
【0057】
以上により、Li
wA
xDO
4粒子2の表面が、Li
yE
zGO
4と炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22により被覆され、平均粒径が5nm以上かつ550nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下の電極活物質21を、容易に作製することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質21によれば、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、Li
yE
zGO
4と炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22により被覆したので、オリビン構造を有するLi
wA
xDO
4の表面を、必要最少限の電子導電性を有するLi
yE
zGO
4及び導電性に優れた炭素質の電子伝導性物質を含む被覆層22により被覆することとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0059】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、Li
wA
xDO
4粒子を、Li源、E源、G源及び炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0060】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質21をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0061】
[第4の実施形態]
(電極活物質)
図4は、本発明の第4の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質31が第1の実施形態の電極活物質1と異なる点は、第1の実施形態の電極活物質1では、Li
wA
xDO
4粒子2の表面をLi
yE
zGO
4を含む被覆層3により被覆したのに対し、本実施形態の電極活物質31では、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有するとともに、この有機系炭素質の電子伝導性物質がFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなる被覆層32により被覆した点であり、この点以外の構成については、第1の実施形態の電極活物質1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0062】
この被覆層32は、炭素源となる有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより生成した炭素質を含む電子導電性物質と、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質とを含有したものである。
【0063】
この被覆層32は、炭素質を含む電子導電性物質を炭素に換算した場合、炭素として30質量%以上かつ99質量%以下含有することが好ましく、50質量%以上かつ95質量%以下含有することがより好ましい。
この炭素質を含む電子導電性物質は、炭素質を炭素換算値で30質量%以上かつ99質量%以下含有することで、電極活物質31に所望の電子伝導性を付与することができる。
また、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質としては、例えば、酸化鉄(II)(FeO)、塩化鉄(II)(FeCl
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、酸化ニッケル(II)(NiO)、塩化ニッケル(II)(NiCl
2)、硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CH
3COO)
2等が挙げられる。
【0064】
被覆層32の厚みは0.1nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、被覆層32自体の電子導電性が不十分となり、その結果、電極活物質31としての電子導電性が大きく低下するからであり、また、厚みが30nmより厚いと、電極活物質31中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0065】
このように、Li
wA
xDO
4粒子2の平均粒径及び被覆層32の厚みを勘案すると、この電極活物質31の平均粒径は5nm以上かつ600nm以下、好ましくは20nm以上かつ400nm以下となる。
この電極活物質31は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質31をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0066】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液を乾燥後、熱処理して、表面処理Li
wA
xDO
4粒子とし、この表面処理Li
wA
xDO
4粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体とし、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理する方法である。
【0067】
まず、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して、懸濁液とする。
E源としては、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物、例えば、塩化鉄(II)(FeCl
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、塩化ニッケル(II)(NiCl
2)、硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CH
3COO)
2)、及びこれらの水和物、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
この水を主成分とする溶媒としては、例えば、水の他、アルコール類、ケトン類、エーテル類等を含む水溶液等を用いることができるが、使い易さ、安全性の点から水が好ましい。
【0068】
この懸濁液中のE源の濃度は、特に限定されるものではないが、Li
wA
xDO
4粒子の表面を処理するために十分な濃度である必要があり、1質量%以上かつ10質量%以下が好ましい。
【0069】
次いで、この懸濁液を乾燥後、熱処理する。
熱処理する際の条件は、Li
wA
xDO
4粒子の表面を処理するのに十分な温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は400℃以上かつ900℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ48時間以下が好ましい。
このようにして、Li
wA
xDO
4粒子2に表面処理が施された表面処理Li
wA
xDO
4粒子が得られる。
【0070】
次いで、この表面処理Li
wA
xDO
4粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとする。
この炭素源となる有機物としては、非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより炭素を生成する有機物であればよく、特に制限はされないが、例えば、ヘキサノール、オクタノール等の高級一価アルコール、アリルアルコール、プロピノール(プロパルギルアルコール)、テルピネオール等の不飽和一価アルコール、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0071】
このスラリー中の炭素源となる有機物の濃度は、特に限定されるものではないが、表面処理Li
wA
xDO
4粒子の表面に、有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有する被覆層32を均一に形成するためには、1質量%以上かつ25質量%以下が好ましい。
この炭素源となる有機物を溶解させる溶媒は、第2の実施形態の炭素源となる有機物を溶解させる溶媒と全く同様である。
【0072】
次いで、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理する。
この熱処理の条件は、炭素源となる有機物から炭素が生成する温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は500℃以上かつ1000℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
【0073】
この熱処理により、炭素源となる有機物から炭素が生成し、この炭素が表面処理Li
wA
xDO
4粒子の表面を覆うこととなる。この際、生成した炭素は、Li
wA
xDO
4粒子の表面処理された部分に存在するFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触することとなる。
これにより、Li
wA
xDO
4粒子の表面には、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質、すなわち炭素と、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質、すなわちFe化合物あるいはNi化合物と、を含む被覆層32が形成されることとなる。
【0074】
以上により、Li
wA
xDO
4粒子2の表面に、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有するとともに、この有機系炭素質の電子伝導性物質がFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなる被覆層32を形成することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質31によれば、Li
wA
xDO
4粒子2の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有するとともに、この有機系炭素質の電子伝導性物質がFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなる被覆層32により被覆したので、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0076】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、Li
wA
xDO
4粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液を乾燥後、熱処理して、表面処理Li
wA
xDO
4粒子とし、この表面処理Li
wA
xDO
4粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体とし、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0077】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質31をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例1〜9及び比較例1、2により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0079】
(LiMnPO
4粒子の合成)
実施例1〜3、9及び比較例1共通のLiMnPO
4を、以下のようにして作製した。
Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Mn源としてMnSO
4・5H
2Oを用い、これらをモル比でLi:Mn:P=3:1:1となるように純水に溶解して前駆体溶液200mLを作製した。
【0080】
次いで、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、170℃にて24時間、水熱合成を行った。この反応後に室温になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて5回水洗して不純物を洗い流し、その後、乾燥しないように含水率30%に保持し、ケーキ状のLiMnPO
4とした。
このケーキ状のLiMnPO
4から若干量の試料を採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて得られた粉体をX線回折法にて同定したところ、単相のLiMnPO
4が生成していることが確認された。
【0081】
(LiCoPO
4粒子の合成)
実施例4〜6及び比較例2共通のLiCoPO
4を、以下のようにして作製した。
Li源及びP源としてLi
3PO
4を、Co源としてCoSO
4・7H
2Oを用い、これらをモル比でLi:Co:P=3:1:1となるように純水に溶解して前駆体溶液200mLを作製した。
【0082】
次いで、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、170℃にて24時間、水熱合成を行った。この反応後に室温になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて5回水洗して不純物を洗い流し、その後、乾燥しないように含水率30%に保持し、ケーキ状のLiCoPO
4とした。
このケーキ状のLiCoPO
4から若干量の試料を採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて得られた粉体をX線回折法にて同定したところ、単相のLiCoPO
4が生成していることが確認された。
【0083】
(実施例1)
LiMnPO
495質量%に対し、Li源としてLiCH
3COOを、Fe源としてFe(CH
3COO)
2を、リン酸源として(NH
4)
2HPO
4を、LiFePO
4に換算して5質量%含むように、これらの各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、
図2に示す構造の実施例1の電極活物質を得た。
【0084】
(実施例2)
LiMnPO
495質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、さらに、Li源としてLiCH
3COOを、Fe源としてFe(CH
3COO)
2を、リン酸源として(NH
4)
2HPO
4を、LiFePO
4に換算して4質量%含むように、これらの各質量を調整して投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、
図3に示す構造の実施例2の電極活物質を得た。
【0085】
(実施例3)
LiMnPO
495質量%に対し、Fe源として塩化鉄(II)(FeCl
2)を5質量%含むように、これらLiMnPO
4及び塩化鉄(II)(FeCl
2)の各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、この懸濁液を乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、
図4に示す構造の実施例3の電極活物質を得た。
【0086】
(実施例4)
LiCoPO
495質量%に対し、Li源としてLiCH
3COOを、Fe源としてFe(CH
3COO)
2を、リン酸源として(NH
4)
2HPO
4を、LiFePO
4に換算して5質量%含むように、これらの各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、
図2に示す構造の実施例4の電極活物質を得た。
【0087】
(実施例5)
LiCoPO
495質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、さらに、Li源としてLiCH
3COOを、Fe源としてFe(CH
3COO)
2を、リン酸源として(NH
4)
2HPO
4を、LiFePO
4に換算して4質量%含むように、これらの各質量を調整して投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、
図3に示す構造の実施例5の電極活物質を得た。
【0088】
(実施例6)
LiCoPO
495質量%に対し、Fe源として塩化鉄(II)(FeCl
2)を5質量%含むように、これらLiCoPO
4及び塩化鉄(II)(FeCl
2)の各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、この懸濁液を乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、
図4に示す構造の実施例6の電極活物質を得た。
【0089】
(実施例7)
実施例3のLiMnPO
4をLiMn
0.5Co
0.5PO
4に替えた他は、実施例3に準じて、
図4に示す構造の実施例7の電極活物質を得た。
【0090】
(実施例8)
実施例3のLiMnPO
4をLi
2MnSiO
4に替えた他は、実施例3に準じて、
図4に示す構造の実施例7の電極活物質を得た。
【0091】
(実施例9)
実施例3のFe源である塩化鉄(II)(FeCl
2)をNi源である塩化ニッケル(NiCl
2)に替えた他は、実施例3に準じて、
図4に示す構造の実施例9の電極活物質を得た。
【0092】
(比較例1)
LiMnPO
495質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で7質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、比較例1の電極活物質を得た。
【0093】
(比較例2)
LiCoPO
495質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で7質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、比較例2の電極活物質を得た。
【0094】
「リチウムイオン電池の作製」
実施例1〜9及び比較例1、2各々の正電極を作製した。
ここでは、実施例1〜9及び比較例1、2各々にて得られた各電極活物質、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)、溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用い、これらを混合し、実施例1〜9及び比較例1、2各々のペーストを作製した。なお、ペースト中の質量比、LiMnPO
4またはLiCoPO
4:AB:PVdFは85:10:5であった。
次いで、これらのペーストを厚み30μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、40MPaの圧力にて圧密し、正電極とした。
【0095】
次いで、この正電極を成形機を用いて面積が2cm
2の円板状に打ち抜き、真空乾燥後、乾燥Ar雰囲気下にてステンレススチール(SUS)製の2016コイン型セルを用いて、実施例1〜9及び比較例1、2各々のリチウムイオン電池を作製した。なお、負極には金属Liを、セパレーターには多孔質ボリプロピレン膜を、電解質溶液には1MのLiPF
6溶液を、それぞれ用いた。このLiPF
6溶液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの比が1:1のものを用いた。
【0096】
「電池特性試験」
実施例1〜9及び比較例1、2各々のリチウムイオン電池の電池特性試験を、環境温度60℃、充電電流0.1CAで、試験極の電位がLiの平衡電位に対して所定の充電電圧になるまで充電し、1分間休止の後、0.1CA及び1CAの放電電流で2.0Vになるまで放電させて行った。
充電電圧は、実施例1〜3、8、9及び比較例1のMn系のリチウムイオン電池については4.5V、実施例4〜7及び比較例2のCo系のリチウムイオン電池については4.9Vとした。
実施例1〜9及び比較例1、2各々の環境温度60℃における放電容量(1C)を表1に示す。また、
図5〜7に実施例1〜3の0.1CAの充放電曲線を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
なお、実施例1〜9では、電極材料自体の挙動をデータに反映させるために、負極に金属リチウムを用いたが、金属リチウムの代わりに天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の炭素材料、リチウム合金、Li
4Ti
5O
12等の負極材料を用いてもよい。
また、実施例1〜9では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料を用いてもよい。
【0099】
また、電解質溶液にLiPF
6溶液を、このLiPF
6溶液の溶媒として炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの比が1:1のものを、それぞれ用いたが、LiPF
6の代わりにLiBF
4やLiClO
4溶液を用いてもよく、炭酸エチレンの代わりにプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを用いてもよい。
また、電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いてもよい。