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特許6057402電極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057402
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】電極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20161226BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161226BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20161226BHJP
【FI】
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/505
   H01M4/58
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-45235(P2010-45235)
(22)【出願日】2010年3月2日
(65)【公開番号】特開2011-181375(P2011-181375A)
(43)【公開日】2011年9月15日
【審査請求日】2013年2月26日
【審判番号】不服2015-7252(P2015-7252/J1)
【審判請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏次
(72)【発明者】
【氏名】忍足 暁
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 土屋 知久
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−504858(JP,A)
【文献】 特開2009−087682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン構造を有し、LiDO(但し、AはMn、Coの群から選択される1種または2種、DはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<w≦4、0<x≦1.5)からなる粒子の表面を被覆層により被覆してなり、
前記被覆層が1nm以上かつ5nm以下であり、
前記被覆層は、前記LiDO粒子を表面処理する前記Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む化合物と、
前記LiDO粒子の表面処理された部分に存在する前記Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む化合物と接触する有機系炭素質の電子伝導性物質と、を有する電極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の電極活物質の製造方法であって、
を主成分とする溶媒中にFe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物を溶解した溶液中に、前記LiDO粒子を投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液を乾燥後、熱処理して、表面処理LiDO粒子とし、この表面処理LiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体とし、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理することを特徴とする電極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電極活物質を用いた電極を備えてなることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池に関し、特に詳しくは、オリビン構造を有するリン酸塩系電極活物質の1種であり、負荷特性、サイクル特性及びエネルギー密度に優れたリチウムイオン電池の電極材料として用いて好適な電極活物質とその製造方法、及び、この電極活物質を用いた電極を備えているリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。
リチウムイオン電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極及び負極と、非水系の電解質とにより構成されている。
リチウムイオン電池は、従来の鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の二次電池と比べて、軽量かつ小型で高エネルギーを有しており、携帯用電話機、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器の電源として用いられているが、近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、電動工具等の高出力電源としても検討されている。これらの高出力電源として用いられる電池の電極活物質には、高速の充放電特性が求められている。また、発電負荷の平滑化、定置用電源、バックアップ電源等の大型電池への応用も検討されており、長期の安全性、信頼性と共に、資源的に豊富で安価であること(資源量の問題が無いこと)も重要視されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極は、正極活物質と称されるリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するリチウム含有金属酸化物、導電助剤及びバインダーを含む電極材料により構成されており、この電極材料を集電体と称される金属箔の表面に塗布することにより正極とされている。
このリチウムイオン電池の正極活物質としては、通常、コバルト酸リチウム(LiCoO)が用いられているが、その他、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウム(Li)化合物が用いられている。
これらのリチウム化合物のうち、コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムは、人体や環境に対する毒性、資源量、充電状態の不安定性等の種々の問題点を有している。また、マンガン酸リチウムは、高温下で電解液中へ溶解するという問題点が指摘されている。
そこで、近年では、長期の安全性、信頼性に優れた、リン酸鉄リチウムに代表されるオリビン構造を有するリン酸塩系電極活物質が注目を集めている。
【0004】
このリン酸塩系電極活物質は電子伝導性が十分ではないために、大電流の充放電を行うためには、粒子の微細化、導電性物質との複合化等さまざまな工夫が必要であり、多くの努力がなされている。
しかしながら、粒子の微細化や導電性物質を多量に用いた複合化を行った場合、電極密度の低下を招き、引いては電池の密度低下、即ち単位容積当たりの容量低下を引き起こしてしまうという問題点がある。そこで、この問題点を解決する方法として、電子導電性物質である炭素前駆体として有機物溶液を用い、この有機物溶液と電極活物質粒子とを混合した後、乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し、有機物を炭化させることにより、電極活物質粒子の表面を炭素で被覆する炭素被覆法が見出された。
【0005】
この炭素被覆法は、電極活物質粒子の表面に、必要最少限の量の炭素を極めて効率良く被覆させることが可能で、電極密度を大きく低下させること無く、導電性の向上を図ることができるという優れた特徴を有することから、様々な提案がなされている。
これらの提案の1つに、LiFePOからなる粒子の表面を、還元糖の熱分解により生成した炭素により被覆した電極材料がある(特許文献1)。
この電極材料は、リチウム成分と、Fe成分と、P成分と、還元糖とを含む溶液または懸濁液を噴霧し、加熱することにより、容易に合成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−190957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の炭素被覆法で得られた多くの電極材料は、LiFePO単体、もしくはLiFePO単体に若干の異種元素を含む化合物を添加したものであり、LiFePO以外の電極材料、例えば、比較的資源量が豊富であり、かつ、より高電圧で動作することから、より高エネルギー密度の電極材料としてLiMnPOやLiCoPOが期待されているが、充分な特性を有するLiMnPOやLiCoPOは、いまだに得られていない。
例えば、LiMnPOの場合、Mnが炭化反応を抑制する負触媒として働くために、LiMnPOにLiFePOで効果的な有機物による炭素被覆法を適用しても、十分な効果を得ることができない。
【0008】
もちろん、LiMnPOにLiFePOを固溶させた電極活物質に同様の炭素被覆を施した例も報告されてはいるが、この炭素被覆電極活物質では、固溶体とすることで粒子表面に炭化触媒であるFeが現れた結果に他ならない。
そこで、負触媒であるMnの作用に勝る十分な量のFeを電極活物質の粒子表面に生じさせるには、少なくともFe/Mn比が10/90を超える程の多量のFeを固溶させる必要があり、その結果、電気化学的な反応電位の低い領域が電極活物質全体の10%を超えることとなってしまい、高電位かつ高エネルギーというLiMnPOの有する効果を十分に発揮することができない。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、高負荷特性、高サイクル特性及び高エネルギー密度を実現することが可能な電極活物質及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、LiDO(但し、AはMn、Coの群から選択される1種または2種、DはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<w≦4、0<x≦1.5)からなる粒子の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の物質と、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質とを含む被覆層により被覆すれば、高負荷特性、高サイクル特性及び高エネルギー密度を有する電極活物質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の請求項1記載の電極活物質は、LiDO(但し、AはMn、Coの群から選択される1種または2種、DはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<w≦4、0<x≦1.5)からなる粒子の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有する被覆層により被覆してなり、前記有機系炭素質の電子伝導性物質は、前記Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2記載の電極活物質は、請求項1記載の電極活物質において、前記Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質は、Fe化合物またはNi化合物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3記載の電極活物質の製造方法は、請求項1または2記載の電極活物質の製造方法であって、前記LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液を乾燥後、熱処理して、表面処理LiDO粒子とし、この表面処理LiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体とし、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4記載の電極活物質の製造方法は、請求項3記載の電極活物質の製造方法において、前記E源は、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5記載のリチウムイオン電池は、請求項1または2記載の電極活物質を用いた電極を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電極活物質によれば、LiDO(但し、AはMn、Coの群から選択される1種または2種、DはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<w≦4、0<x≦1.5)からなる粒子の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の物質と、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質とを含む被覆層により被覆したので、オリビン構造を有するLiDOの表面が必要最少限の電子導電性を有する被覆層により被覆されることとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、長期のサイクル安定性及び安全性にも優れている。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池によれば、本発明の電極活物質を用いた電極を備えたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態の電極活物質を示す断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態の電極活物質を示す断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態の電極活物質を示す断面図である。
図4】本発明の第4の実施形態の電極活物質を示す断面図である。
図5】本発明の実施例1の充放電曲線を示す図である。
図6】本発明の実施例2の充放電曲線を示す図である。
図7】本発明の実施例3の充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電極活物質及びリチウムイオン電池を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
[第1の実施形態]
(電極活物質)
図1は、本発明の第1の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質1は、LiDO(但し、AはMn、Coの群から選択される1種または2種、DはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<w≦4、0<x≦1.5)からなる粒子(以下、LiDO粒子と略称する)2の表面が、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層3により被覆されている。
【0021】
上記のAについては、Mn、Coの群から選択される1種または2種が、また、Dについては、P、Si、Sの群から選択される1種または2種以上が、高い放電電位、豊富な資源量、安全性等の点から好ましい。
この粒子2の平均粒径は5nm以上かつ500nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上かつ200nm以下である。
その理由は、平均粒径が5nmより小さいと、充放電による体積変化により結晶構造が破壊される虞があるからであり、また、平均粒径が500nmより大きいと、粒子内部への電子の供給量が不足し、利用効率が低下するからである。
【0022】
被覆層3の厚みは0.1nm以上かつ25nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、炭化触媒能が不十分となり、したがって、電子導電性が不十分となり、その結果、電子の供給量が不足するからであり、また、厚みが25nmより厚いと、電極活物質1中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0023】
このように、粒子2の平均粒径及び被覆層3の厚みを勘案すると、この電極活物質1の平均粒径は5nm以上かつ550nm以下、好ましくは20nm以上かつ250nm以下となる。
この電極活物質1は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質1をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0024】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、LiDO粒子の表面に、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成する方法である。
【0025】
このLiDO粒子は、Li源、A源及びD源を、これらのモル比(Li源:A源:D源)がw:x:1となるように水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌してLiDOの前駆体溶液とし、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、高温、高圧下、例えば、120℃以上かつ250℃以下、0.2MPa以上にて、1時間以上かつ24時間以下、水熱処理を行うことにより得ることができる。
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)等のLi化合物が、A源としては、Mn、Coの群から選択される1種または2種の化合物が、D源としては、P、Si、Sの群から選択される1種または2種以上の化合物が、用いられる。
この場合、水熱処理時の温度、圧力及び時間を調整することにより、LiDO粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
【0026】
このようにして得られたLiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とする。
E源としては、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))、及びこれらの水和物、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
この水を主成分とする溶媒としては、例えば、水の他、アルコール類、ケトン類、エーテル類等を含む水溶液等を用いることができるが、使い易さ、安全性の点から水が好ましい。
【0027】
この懸濁液中のE源の濃度は、特に限定されるものではないが、LiDO粒子の表面に、LiGOを含む被覆層を均一に形成するためには、0.5質量%以上かつ10質量%以下が好ましい。
【0028】
次いで、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、粒子表面にてAイオンとEイオンとの交換を行わせしめ、懸濁液中のLiDO粒子の表面に、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成する。この場合、G=Dとなる。
この高温高圧の条件は、LiGOが生成する温度、圧力及び時間の範囲であればよく、例えば、水熱処理時の温度は120℃以上かつ250℃以下が好ましく、150℃以上かつ220℃以下がより好ましい。また、この水熱処理時の圧力は0.2MPa以上が好ましく、0.4MPa以上がより好ましい。また、水熱処理時間は、水熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましく、3時間以上かつ12時間以下がより好ましい。
【0029】
以上により、LiDO粒子2の表面が、LiGOを含む被覆層3により被覆され、平均粒径が5nm以上かつ550nm以下の電極活物質1を、容易に作製することができる。
【0030】
なお、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入する代わりに、Li源、E源及びG源を、モル比でy:z:1の割合となるように、水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、得られた懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施すこととしても、LiDO粒子2の表面を、LiGOを含む被覆層3により被覆することができる。
【0031】
この場合、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(LiPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩、及びこれらの水和物の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
また、G源としては、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、及びこれらの水和物等のリン酸源、酸化ケイ素(SiO)、シリコンテトラメトキシド(Si(OCH)等のSi源、硫酸二アンモニウム((NHSO)、硫酸(HSO)等のS源、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質1によれば、LiDO粒子2の表面を、LiGOを含む被覆層3により被覆したので、オリビン構造を有するLiDOの表面を、必要最少限の電子導電性を有するLiGOを含む被覆層により被覆することとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0033】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、LiDO粒子の表面に、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0034】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質1をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0035】
[第2の実施形態]
(電極活物質)
図2は、本発明の第2の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質11が第1の実施形態の電極活物質1と異なる点は、第1の実施形態の電極活物質1では、LiDO粒子2の表面をLiGOを含む被覆層3により被覆しただけであるのに対し、本実施形態の電極活物質11では、被覆層3の表面を、さらに、炭素質を含む(第2の)被覆層12により被覆した点であり、この点以外の構成については、第1の実施形態の電極活物質1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0036】
炭素質を含む被覆層12は、炭素源となる有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより生成した炭素質を含む電子導電性物質からなる導電層である。
この炭素質を含む電子導電性物質としては、炭素を30質量%以上かつ100質量%以下含有することが好ましく、50質量%以上かつ100質量%以下含有することがより好ましい。
この炭素質を含む電子導電性物質は、炭素を30質量%以上かつ100質量%以下含有することで、電極活物質11に所望の電子伝導性を付与することができる。
【0037】
被覆層12の厚みは0.1nm以上かつ25nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、被覆層12自体の電子導電性が不十分となり、その結果、電極活物質11としての電子導電性が大きく低下するからであり、また、厚みが25nmより厚いと、電極活物質11中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0038】
このように、粒子2の平均粒径、被覆層3の厚み及び被覆層12の厚みを勘案すると、この電極活物質11の平均粒径は5nm以上かつ600nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下となる。
この電極活物質11は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質11をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0039】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液に、高温、高圧下にて水熱処理を施し、LiDO粒子の表面に、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)を含む被覆層を形成し、次いで、この被覆層が形成されたLiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理する方法である。
なお、この方法では、LiDO粒子の表面にLiGOを含む被覆層を形成する工程までは、第1の実施形態の電極活物質の製造方法と全く同様である。
【0040】
ここでは、この被覆層が形成されたLiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとする。
この炭素源となる有機物としては、非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより炭素を生成する有機物であればよく、特に制限はされないが、例えば、ヘキサノール、オクタノール等の高級一価アルコール、アリルアルコール、プロピノール(プロパルギルアルコール)、テルピネオール等の不飽和一価アルコール、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0041】
このスラリー中の炭素源となる有機物の濃度は、特に限定されるものではないが、被覆層上の表面に、炭素質を含む被覆層12を均一に形成するためには、1質量%以上かつ25質量%以下が好ましい。
【0042】
この炭素源となる有機物を溶解させる溶媒としては、この有機物が溶解するものであればよく、特に制限されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
次いで、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理する。
この熱処理の条件は、炭素源となる有機物から炭素が生成する温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は500℃以上かつ1000℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
【0044】
以上により、LiDO粒子2の表面が、LiGOを含む被覆層3及び炭素質を含む被覆層12により被覆され、平均粒径が5nm以上かつ600nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下の電極活物質11を、容易に作製することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質11によれば、LiDO粒子2の表面を、LiGOを含む被覆層3及び炭素質を含む被覆層12により被覆したので、オリビン構造を有するLiDOの表面を、必要最少限の電子導電性を有するLiGOを含む被覆層3及び導電性に優れた炭素質を含む被覆層12により被覆することとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0046】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、被覆層が形成されたLiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、次いで、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0047】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質11をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0048】
[第3の実施形態]
(電極活物質)
図3は、本発明の第3の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質21が第1の実施形態の電極活物質1と異なる点は、第1の実施形態の電極活物質1では、LiDO粒子2の表面をLiGOを含む被覆層3により被覆したのに対し、本実施形態の電極活物質21では、LiDO粒子2の表面を、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)と炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22により被覆した点であり、この点以外の構成については、第1の実施形態の電極活物質1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0049】
LiGOと炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22は、LiGO(但し、EはFe、Niの群から選択される1種または2種、GはP、Si、Sの群から選択される1種または2種以上、0<y≦2、0<z≦1.5)と、炭素源となる有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより生成した炭素質を含む電子導電性物質とを含む導電層である。
【0050】
この被覆層22は、炭素質を含む電子導電性物質を炭素に換算した場合、炭素として30質量%以上かつ99質量%以下含有することが好ましく、50質量%以上かつ95質量%以下含有することがより好ましい。
この炭素質を含む電子導電性物質は、炭素質を炭素換算値で30質量%以上かつ99質量%以下含有することで、電極活物質21に所望の電子伝導性を付与することができる。
【0051】
被覆層22の厚みは0.1nm以上かつ25nm以下が好ましく、より好ましくは2nm以上かつ10nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、被覆層22自体の電子導電性が不十分となり、その結果、電極活物質21としての電子導電性が大きく低下するからであり、また、厚みが25nmより厚いと、電極活物質21中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0052】
このように、粒子2の平均粒径及び被覆層22の厚みを勘案すると、この電極活物質21の平均粒径は5nm以上かつ550nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下となる。
この電極活物質21は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質21をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0053】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、LiDO粒子を、Li源、E源及びG源をモル比(Li源:E源:G源)でy:z:1の割合で含むとともに炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理する方法である。
【0054】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、リン酸リチウム(LiPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩、及びこれらの水和物の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
E源としては、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))、及びこれらの水和物、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0055】
G源としては、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、及びこれらの水和物等のリン酸源、酸化ケイ素(SiO)、シリコンテトラメトキシド(Si(OCH)等のSi源、硫酸二アンモニウム((NHSO)、硫酸(HSO)等のS源、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
この炭素源となる有機物、及び炭素源となる有機物を溶解させる溶媒については、第3の実施形態の炭素源となる有機物、及び炭素源となる有機物を溶解させる溶媒と全く同様である。
【0056】
粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理する際の条件は、LiGOが生成するとともに炭素源となる有機物から炭素が生成する温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は500℃以上かつ1000℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
【0057】
以上により、LiDO粒子2の表面が、LiGOと炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22により被覆され、平均粒径が5nm以上かつ550nm以下、好ましくは20nm以上かつ300nm以下の電極活物質21を、容易に作製することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質21によれば、LiDO粒子2の表面を、LiGOと炭素質の電子伝導性物質との複合体からなる被覆層22により被覆したので、オリビン構造を有するLiDOの表面を、必要最少限の電子導電性を有するLiGO及び導電性に優れた炭素質の電子伝導性物質を含む被覆層22により被覆することとなり、したがって、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0059】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、LiDO粒子を、Li源、E源、G源及び炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0060】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質21をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【0061】
[第4の実施形態]
(電極活物質)
図4は、本発明の第4の実施形態の電極活物質を示す断面図であり、この電極活物質31が第1の実施形態の電極活物質1と異なる点は、第1の実施形態の電極活物質1では、LiDO粒子2の表面をLiGOを含む被覆層3により被覆したのに対し、本実施形態の電極活物質31では、LiDO粒子2の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有するとともに、この有機系炭素質の電子伝導性物質がFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなる被覆層32により被覆した点であり、この点以外の構成については、第1の実施形態の電極活物質1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0062】
この被覆層32は、炭素源となる有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより生成した炭素質を含む電子導電性物質と、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質とを含有したものである。
【0063】
この被覆層32は、炭素質を含む電子導電性物質を炭素に換算した場合、炭素として30質量%以上かつ99質量%以下含有することが好ましく、50質量%以上かつ95質量%以下含有することがより好ましい。
この炭素質を含む電子導電性物質は、炭素質を炭素換算値で30質量%以上かつ99質量%以下含有することで、電極活物質31に所望の電子伝導性を付与することができる。
また、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質としては、例えば、酸化鉄(II)(FeO)、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、酸化ニッケル(II)(NiO)、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO)等が挙げられる。
【0064】
被覆層32の厚みは0.1nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
その理由は、厚みが0.1nmより薄いと、被覆層32自体の電子導電性が不十分となり、その結果、電極活物質31としての電子導電性が大きく低下するからであり、また、厚みが30nmより厚いと、電極活物質31中の活物質の割合が減少し、活物質が有効に利用され難くなるからである。
【0065】
このように、LiDO粒子2の平均粒径及び被覆層32の厚みを勘案すると、この電極活物質31の平均粒径は5nm以上かつ600nm以下、好ましくは20nm以上かつ400nm以下となる。
この電極活物質31は、平均粒径の範囲がシャープで単分散性に優れているので、この電極活物質31をリチウムイオン電池の正電極に用いた場合、この正電極の電気的特性が極めて均一なものとなり、特性のバラツキも極めて小さなものとなる。したがって、得られたリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたものとなる。
【0066】
(電極活物質の製造方法)
本実施形態の電極活物質の製造方法は、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液を乾燥後、熱処理して、表面処理LiDO粒子とし、この表面処理LiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体とし、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理する方法である。
【0067】
まず、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して、懸濁液とする。
E源としては、Fe、Niの群から選択される1種または2種を含む化合物、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))、及びこれらの水和物、の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
この水を主成分とする溶媒としては、例えば、水の他、アルコール類、ケトン類、エーテル類等を含む水溶液等を用いることができるが、使い易さ、安全性の点から水が好ましい。
【0068】
この懸濁液中のE源の濃度は、特に限定されるものではないが、LiDO粒子の表面を処理するために十分な濃度である必要があり、1質量%以上かつ10質量%以下が好ましい。
【0069】
次いで、この懸濁液を乾燥後、熱処理する。
熱処理する際の条件は、LiDO粒子の表面を処理するのに十分な温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は400℃以上かつ900℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ48時間以下が好ましい。
このようにして、LiDO粒子2に表面処理が施された表面処理LiDO粒子が得られる。
【0070】
次いで、この表面処理LiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとする。
この炭素源となる有機物としては、非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより炭素を生成する有機物であればよく、特に制限はされないが、例えば、ヘキサノール、オクタノール等の高級一価アルコール、アリルアルコール、プロピノール(プロパルギルアルコール)、テルピネオール等の不飽和一価アルコール、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0071】
このスラリー中の炭素源となる有機物の濃度は、特に限定されるものではないが、表面処理LiDO粒子の表面に、有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有する被覆層32を均一に形成するためには、1質量%以上かつ25質量%以下が好ましい。
この炭素源となる有機物を溶解させる溶媒は、第2の実施形態の炭素源となる有機物を溶解させる溶媒と全く同様である。
【0072】
次いで、このスラリーを乾燥して粉体を得、この粉体を窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気下にて熱処理する。
この熱処理の条件は、炭素源となる有機物から炭素が生成する温度及び時間の範囲であればよく、例えば、温度は500℃以上かつ1000℃以下、時間は、熱処理時の温度にもよるが、1時間以上かつ24時間以下が好ましい。
【0073】
この熱処理により、炭素源となる有機物から炭素が生成し、この炭素が表面処理LiDO粒子の表面を覆うこととなる。この際、生成した炭素は、LiDO粒子の表面処理された部分に存在するFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触することとなる。
これにより、LiDO粒子の表面には、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質、すなわち炭素と、Fe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質、すなわちFe化合物あるいはNi化合物と、を含む被覆層32が形成されることとなる。
【0074】
以上により、LiDO粒子2の表面に、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有するとともに、この有機系炭素質の電子伝導性物質がFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなる被覆層32を形成することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の電極活物質31によれば、LiDO粒子2の表面を、有機物を非酸化性雰囲気下にて熱処理し炭化してなる有機系炭素質の電子伝導性物質及びFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質を含有するとともに、この有機系炭素質の電子伝導性物質がFe及びNiのいずれか1種または2種を含む物質と接触してなる被覆層32により被覆したので、電圧、エネルギー密度、負荷特性を大幅に向上させることができ、さらには、長期のサイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0076】
本実施形態の電極活物質の製造方法によれば、LiDO粒子を、E源を水を主成分とする溶媒中に溶解した溶液中に投入し、撹拌して懸濁液とし、この懸濁液を乾燥後、熱処理して、表面処理LiDO粒子とし、この表面処理LiDO粒子を、炭素源となる有機物を含む溶液中に投入し、撹拌してスラリーとし、このスラリーを乾燥して粉体とし、この粉体を非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電圧、エネルギー密度、負荷特性が大幅に向上した電極活物質を容易に作製することができる。したがって、長期のサイクル安定性及び安全性が大幅に向上した電極活物質を、安定的に供給することができる。
【0077】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極活物質31をリチウムイオン電池の正電極に用いたので、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性を有するとともに、長期のサイクル安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例1〜9及び比較例1、2により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0079】
(LiMnPO粒子の合成)
実施例1〜3、9及び比較例1共通のLiMnPOを、以下のようにして作製した。
Li源及びP源としてLiPOを、Mn源としてMnSO・5HOを用い、これらをモル比でLi:Mn:P=3:1:1となるように純水に溶解して前駆体溶液200mLを作製した。
【0080】
次いで、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、170℃にて24時間、水熱合成を行った。この反応後に室温になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて5回水洗して不純物を洗い流し、その後、乾燥しないように含水率30%に保持し、ケーキ状のLiMnPOとした。
このケーキ状のLiMnPOから若干量の試料を採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて得られた粉体をX線回折法にて同定したところ、単相のLiMnPOが生成していることが確認された。
【0081】
(LiCoPO粒子の合成)
実施例4〜6及び比較例2共通のLiCoPOを、以下のようにして作製した。
Li源及びP源としてLiPOを、Co源としてCoSO・7HOを用い、これらをモル比でLi:Co:P=3:1:1となるように純水に溶解して前駆体溶液200mLを作製した。
【0082】
次いで、この前駆体溶液を耐圧容器に入れ、170℃にて24時間、水熱合成を行った。この反応後に室温になるまで冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。
次いで、この沈殿物を蒸留水にて5回水洗して不純物を洗い流し、その後、乾燥しないように含水率30%に保持し、ケーキ状のLiCoPOとした。
このケーキ状のLiCoPOから若干量の試料を採取し、70℃にて2時間真空乾燥させて得られた粉体をX線回折法にて同定したところ、単相のLiCoPOが生成していることが確認された。
【0083】
(実施例1)
LiMnPO95質量%に対し、Li源としてLiCHCOOを、Fe源としてFe(CHCOO)を、リン酸源として(NHHPOを、LiFePOに換算して5質量%含むように、これらの各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、図2に示す構造の実施例1の電極活物質を得た。
【0084】
(実施例2)
LiMnPO95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、さらに、Li源としてLiCHCOOを、Fe源としてFe(CHCOO)を、リン酸源として(NHHPOを、LiFePOに換算して4質量%含むように、これらの各質量を調整して投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、図3に示す構造の実施例2の電極活物質を得た。
【0085】
(実施例3)
LiMnPO95質量%に対し、Fe源として塩化鉄(II)(FeCl)を5質量%含むように、これらLiMnPO及び塩化鉄(II)(FeCl)の各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、この懸濁液を乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、図4に示す構造の実施例3の電極活物質を得た。
【0086】
(実施例4)
LiCoPO95質量%に対し、Li源としてLiCHCOOを、Fe源としてFe(CHCOO)を、リン酸源として(NHHPOを、LiFePOに換算して5質量%含むように、これらの各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、図2に示す構造の実施例4の電極活物質を得た。
【0087】
(実施例5)
LiCoPO95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、さらに、Li源としてLiCHCOOを、Fe源としてFe(CHCOO)を、リン酸源として(NHHPOを、LiFePOに換算して4質量%含むように、これらの各質量を調整して投入し、撹拌して懸濁させ、得られたスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、図3に示す構造の実施例5の電極活物質を得た。
【0088】
(実施例6)
LiCoPO95質量%に対し、Fe源として塩化鉄(II)(FeCl)を5質量%含むように、これらLiCoPO及び塩化鉄(II)(FeCl)の各質量を調整して純水中に投入し、撹拌して懸濁させ、この懸濁液を乾燥後、600℃にて6時間、熱処理を行い、粉体を得た。
次いで、この粉体95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で5質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、図4に示す構造の実施例6の電極活物質を得た。
【0089】
(実施例7)
実施例3のLiMnPOをLiMn0.5Co0.5POに替えた他は、実施例3に準じて、図4に示す構造の実施例7の電極活物質を得た。
【0090】
(実施例8)
実施例3のLiMnPOをLiMnSiOに替えた他は、実施例3に準じて、図4に示す構造の実施例7の電極活物質を得た。
【0091】
(実施例9)
実施例3のFe源である塩化鉄(II)(FeCl)をNi源である塩化ニッケル(NiCl)に替えた他は、実施例3に準じて、図4に示す構造の実施例9の電極活物質を得た。
【0092】
(比較例1)
LiMnPO95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で7質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、比較例1の電極活物質を得た。
【0093】
(比較例2)
LiCoPO95質量%に対し、ポリビニルアルコール10%水溶液を、ポリビニルアルコール固形分で7質量%となるように添加し、懸濁したスラリーとし、このスラリーを乾燥後、600℃にて1時間、熱処理を行い、比較例2の電極活物質を得た。
【0094】
「リチウムイオン電池の作製」
実施例1〜9及び比較例1、2各々の正電極を作製した。
ここでは、実施例1〜9及び比較例1、2各々にて得られた各電極活物質、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)、溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用い、これらを混合し、実施例1〜9及び比較例1、2各々のペーストを作製した。なお、ペースト中の質量比、LiMnPOまたはLiCoPO:AB:PVdFは85:10:5であった。
次いで、これらのペーストを厚み30μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、40MPaの圧力にて圧密し、正電極とした。
【0095】
次いで、この正電極を成形機を用いて面積が2cmの円板状に打ち抜き、真空乾燥後、乾燥Ar雰囲気下にてステンレススチール(SUS)製の2016コイン型セルを用いて、実施例1〜9及び比較例1、2各々のリチウムイオン電池を作製した。なお、負極には金属Liを、セパレーターには多孔質ボリプロピレン膜を、電解質溶液には1MのLiPF溶液を、それぞれ用いた。このLiPF溶液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの比が1:1のものを用いた。
【0096】
「電池特性試験」
実施例1〜9及び比較例1、2各々のリチウムイオン電池の電池特性試験を、環境温度60℃、充電電流0.1CAで、試験極の電位がLiの平衡電位に対して所定の充電電圧になるまで充電し、1分間休止の後、0.1CA及び1CAの放電電流で2.0Vになるまで放電させて行った。
充電電圧は、実施例1〜3、8、9及び比較例1のMn系のリチウムイオン電池については4.5V、実施例4〜7及び比較例2のCo系のリチウムイオン電池については4.9Vとした。
実施例1〜9及び比較例1、2各々の環境温度60℃における放電容量(1C)を表1に示す。また、図5〜7に実施例1〜3の0.1CAの充放電曲線を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
なお、実施例1〜9では、電極材料自体の挙動をデータに反映させるために、負極に金属リチウムを用いたが、金属リチウムの代わりに天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の炭素材料、リチウム合金、LiTi12等の負極材料を用いてもよい。
また、実施例1〜9では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料を用いてもよい。
【0099】
また、電解質溶液にLiPF溶液を、このLiPF溶液の溶媒として炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの比が1:1のものを、それぞれ用いたが、LiPFの代わりにLiBFやLiClO溶液を用いてもよく、炭酸エチレンの代わりにプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを用いてもよい。
また、電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 電極活物質
2 LiDO粒子
3 被覆層
11 電極活物質
12 (第2の)被覆層
21 電極活物質
22 被覆層
31 電極活物質
32 被覆層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7