特許第6057820号(P6057820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057820材料塗布方法、太陽電池素子の電極形成方法、および太陽電池素子の拡散層形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057820
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】材料塗布方法、太陽電池素子の電極形成方法、および太陽電池素子の拡散層形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20161226BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20161226BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   B05D1/28
   H01L31/04 182Z
   B05D5/12 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-86990(P2013-86990)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210226(P2014-210226A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】三田 怜
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛之
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−093961(JP,A)
【文献】 特開2002−321176(JP,A)
【文献】 特開2012−071245(JP,A)
【文献】 特開2003−168810(JP,A)
【文献】 特開2003−332606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
H01L 51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物の所定位置に、材料を付着させた線状の材料支持体を、被印刷物に接触させてから離すことで、前記被印刷物の所定位置に前記材料を塗布する材料塗布方法であって、前記材料支持体が、所定の間隔で複数形成され、前記材料支持体と前記被印刷物とを略平行に接触させることにより前記材料を塗布することを特徴とする、材料塗布方法。
【請求項2】
前記材料支持体が、表面に凹凸を有することを特徴とする、請求項1に記載の材料塗布方法。
【請求項3】
前記材料支持体が、複数本撚り合わされた糸から形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の材料塗布方法。
【請求項4】
前記材料が導電性ペーストであり、該導電性ペーストを請求項1からのいずれか1項に記載の材料塗布方法を用いて被印刷物に塗布し、電極を形成する太陽電池素子の電極形成方法。
【請求項5】
前記材料がドーパントを含む塗布剤であり、該ドーパントを含む塗布剤を請求項1からのいずれか1項に記載の材料塗布方法を用いて被印刷物に塗布し、拡散層を形成する太陽電池素子の拡散層形成方法。
【請求項6】
前記材料がエッチャントを含む塗布剤であり、該エッチャントを含む塗布剤を請求項1からのいずれか1項に記載の材料塗布方法を用いて被印刷物に塗布し、選択的なエッチングを行う太陽電池素子の拡散層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料塗布方法および太陽電池素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池素子は、図1に示す構造を有する。図1において、1は、大きさが100〜150mm角、厚みが0.1〜0.3mmの板状で、かつ、多結晶や単結晶シリコン等からなり、ボロン等のp型不純物がドープされたp型の半導体基板である。この基板に、リン等のn型不純物をドープしてn型拡散層2を形成し、SiN(窒化シリコン)等の反射防止膜3を設け、スクリーン印刷法を用いて、裏面に導電性アルミニウムペーストを印刷した後、乾燥・焼成することで裏面電極6とBSF(Back Surface Field)層4を同時に形成し、表面に導電性銀ペーストを印刷後、乾燥して焼成し、表面電極5を形成することで製造される。この表面電極5は、太陽電池素子で生じた光生成電流を外部へ取出すためのバスバー電極と、これらのバスバー電極に接続される集電用のフィンガー電極とからなる。なお、以下、太陽電池の受光面側となる基板の面をオモテ面(表面)、受光面側と反対側になる基板の面をウラ面(裏面)とする。
【0003】
このような方法で製造される太陽電池素子にあっては、上記のように、電極形成にスクリーン印刷法を用いることが一般的である。スクリーン印刷法は、感光性材料を扱うフォトリソグラフィ法等に比べて、厚膜の電極を歩留まりよく大量生産することに向いており、比較的設備費が少なくてすむという利点がある。そのため、スクリーン印刷法は太陽電池素子の電極形成の他、プラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネル等の大面積ディスプレイの電極層、抵抗層、誘電体層、あるいは蛍光体層等のパターン形成を含め、電子工業界で広範囲に使用されている。
【0004】
従来のスクリーン印刷法について、図面を用いて説明する。図2は一般的なスクリーン印刷機の主要部の側面模式図である。一連の印刷動作を、図2を用いて説明する。まず、形成したいパターンが開口されたスクリーン版7の上に、ペーストが載せられる(図2ではペーストは図示されていない)。このペーストの上を、スクレッパ8が上部から圧力をかけられながら一定方向に動くことで、スクリーン版7の開口部のパターンにペーストを充填する。次に、スキージ9が上部から圧力をかけられながら、スクレッパ8とは反対方向に動くことで、スクリーン版7の開口部のパターンに充填されたペーストを、印刷ステージ10上に設置された被印刷物11に転写する。続いて、スクレッパ8がスキージ9とは反対方向に動きながら、残ったペーストを再度スクリーン版7の開口部のパターンに充填する。これらの一連の動作が繰り返し行われる。
【0005】
このようなスクリーン印刷方法においては、スキージ9がスクリーン版7からペーストを押し出す動作が重要な位置を占める。例えば太陽電池受光面のフィンガー電極やバスバー電極を形成するためには、一般に銀粉末と有機ビヒクルとガラスフリットとを含有している導電性ペーストが使用される。この導電性ペーストには、性能向上のために各種の無機酸化物や導電性物質等の固形物が添加されていることもある。この導電性ペーストをスクリーン印刷法により半導体基板に塗布し、焼成することで太陽電池素子の電極を形成するのが一般的な方法である。
【0006】
上記のようなスクリーン印刷法においては、スクリーン版の開口部をフォトリソグラフィ法で形成するのが一般的である。具体的には、適切な線径の糸をメッシュ状に一定のパターンで編みこみ、その上に乳剤を塗布し、必要な開口部をフォトリソグラフィ法で開けるというものである。しかし、この露光技術には乱反射等の限界があるため、一般的に50μm以下の細い開口を形成するのは難しい。それだけではなく、スキージがスクリーン版に圧力をかける際にメッシュが歪むことは避けられず、位置精度の高い印刷を繰り返すことは困難である。また、スキージが圧力をかけることで、被印刷物にダメージを与えて割れてしまうことが多い。その他、メッシュそれ自体がペーストの吐出を妨げるので、印刷されたパターンにメッシュの痕が残ることがよく問題になる。太陽電池素子への材料塗布方法においては、低い圧力で被印刷物に与えるダメージを最小限にし、かつ被印刷物の面内均一で精細な印刷を行う必要がある。
【0007】
この問題を解決するために、スキージの両端に切欠を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしこの方法は、スキージ中央部と両端部の圧力差を完全に無くすことはできず、また、スキージ切欠部から印刷に使用しているペーストが横に逃げ出しやすくなり、頻繁に版上のペーストを寄せなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−284853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上記の問題点を解消するためになされたものであり、被印刷部に極力ダメージを与えずに、微細なパターンを精度良く繰り返し印刷する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明にかかる材料塗布方法では、被印刷物の所定位置に、材料を付着させた線状の材料支持体を、被印刷物に接触させてから離すことで、被印刷物の所定位置に材料を塗布することを特徴とする。
【0011】
また上記の材料塗布方法において、材料支持体が、表面に凹凸を有するとよい。
【0012】
また上記の材料塗布方法において、材料支持体が、複数本撚り合わされた糸から形成されているとよい。
【0013】
また上記の材料塗布方法において、材料支持体が、所定の間隔で複数形成されているとよい。
【0014】
また本発明にかかる太陽電池素子の電極形成方法では、材料が導電性ペーストであり、該導電性ペーストを、上記の材料塗布方法を用いて被印刷物に塗布し、電極を形成することを特徴とする。
【0015】
また本発明にかかる太陽電池素子の拡散層形成方法では、材料がドーパントを含む塗布剤であり、該ドーパントを含む塗布剤を、上記の材料塗布方法を用いてシリコン基板に塗布し、拡散層を形成することを特徴とする。
【0016】
また本発明にかかる太陽電池素子の拡散層形成方法では、材料がエッチャントを含む塗布剤であり、該エッチャントを含む塗布剤を、上記の材料塗布方法を用いて被印刷物に塗布し、選択的なエッチングを行うことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】太陽電池素子の断面図である。
図2】一般的なスクリーン印刷機の主要部の側面模式図である。
図3】本発明によるペースト支持体12と被印刷物13の模式図である。
図4】ペースト支持体12を被印刷物13にペーストを転写する動作を示す側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は下記説明に加えて広範な他の実施形態で実施することが可能であり、本発明の範囲は、下記に制限されるものではなく、特許請求の範囲に記載されるものである。更に、図面は原寸に比例して示されていない。本発明の説明や理解をより明瞭にするために、関連部材によっては寸法が拡大されており、また、重要でない部分については図示されていない。
【0019】
前述したように、図1は太陽電池素子の一般的な構造を示す断面図である。図1において、1は半導体基板、2は拡散層、3は反射防止膜兼パッシベーション膜、4はBSF層、5は表面電極、6は裏面電極を示す。
【0020】
ここで、図1に示す太陽電池素子の製造工程を説明する。まず、半導体基板1を用意する。この半導体基板1は、単結晶または多結晶シリコン等からなり、p型、n型いずれでもよいが、ボロン等のp型の半導体不純物を含み、比抵抗は0.1〜4.0Ω・cmのp型シリコン基板が用いられることが多い。以下、p型シリコン基板を用いた太陽電池素子製造方法を例にとって説明する。大きさは100〜150mm角、厚みは0.05〜0.30mmの板状のものが好適に用いられる。そして、太陽電池素子の受光面となるp型シリコン基板の表面に、例えばフッ化水素酸またはフッ化水素硝酸等の酸性溶液中に浸漬してスライス等による表面のダメージを除去してから、更に水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液で化学エッチングして洗浄、乾燥することで、テクスチャとよばれる凹凸構造を形成する。凹凸構造は、太陽電池素子の受光面において光の多重反射を生じさせる。そのため、凹凸構造を形成することにより、実効的に反射率が低減し、変換効率が向上する。
【0021】
その後、例えばPOCl等を含む、850〜1000℃の高温ガス中にp型シリコン基板を設置し、p型シリコン基板の全面にリン等のn型不純物元素を拡散させる熱拡散法により、シート抵抗が30〜300Ω/□
程度のn型拡散層2をオモテ面に形成する。なお、n型拡散層を熱拡散法により形成する場合には、p型シリコン基板の両面および端面にもn型拡散層が形成されることがあるが、この場合には、必要なn型拡散層のオモテ面を耐酸性樹脂で被覆したp型シリコン基板をフッ硝酸溶液中に浸漬することによって、不要なn型拡散層を除去することができる。その後、例えば希釈したフッ酸溶液等の薬品に浸漬させることにより、拡散時に半導体基板の表面に形成されたガラス層を除去し、純水で洗浄する。
【0022】
更に、上記p型シリコン基板のオモテ面側に反射防止膜兼パッシベーション膜3を形成する。この反射防止膜兼パッシベーション膜3は、例えばSiN等からなり、例えばSiHとNHとの混合ガスをNで希釈し、グロー放電分解でプラズマ化させて堆積させるプラズマCVD法等で形成される。この反射防止膜兼パッシベーション膜3は、p型シリコン基板との屈折率差等を考慮して、屈折率が1.8〜2.3程度になるように形成され、厚み500〜1000Å程度の厚みに形成され、p型シリコン基板の表面で光が反射するのを防止して、p型シリコン基板内に光を有効に取り込むために設けられる。また、このSiNは、形成の際にn型拡散層に対してパッシベーション効果があるパッシベーション膜としても機能し、反射防止の機能と併せて太陽電池素子の電気特性を向上させる効果がある。
【0023】
次に、ウラ面に、例えばアルミニウムとガラスフリットとワニス等を含む導電性ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。しかる後、オモテ面に、例えば銀とガラスフリットとワニス等を含む導電性ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。この後、各電極用ペーストを500℃〜950℃程度の温度で焼成することで、BSF層4と表面電極5と裏面電極6とを形成する。
【0024】
上記のような典型的な結晶シリコン太陽電池素子の製造方法においては、電極形成をスクリーン印刷法にて行っている。従来のスクリーン印刷法では、導電性ペーストをスキージによりスクリーン版開口部から押し出す印刷動作を行うに際して、スキージに印圧をかけると、被印刷物を載せたステージとスキージが接触する際に傾きが生じたり、また、印圧をかけられて押し付けられたスクリーン版自体から、元の形状に戻ろうと反発する力を受けたりするため、スキージが撓んでしまう。このため、スキージがスクリーン版と被印刷物を押し付ける力が均一にならず、版にかかるテンションが不均一になり、被印刷物の印刷パターンを面内均一にするのは困難である。印圧を強くすると全体的なスキージのたわみは小さくできるが、スクリーン版にダメージがかかったり、被印刷物が割れやすくなったりする。このため、スクリーン版や被印刷物が割れるたびに装置の清掃を行う必要があるので、作業性を低下させることからも問題になっていた。スキージの硬度を調節することでたわみを小さくすることもできるが、硬度の小さいスキージを使用すると、塗出するペーストの量が多くなりすぎて精密な印刷ができなくなり、硬度の大きいスキージを使用すると、逆にペーストの充分な吐出が妨げられてしまう。十分に長いスキージを用いることで、スクリーン版のパターンにかかる箇所のみスキージの圧力を均一にすることができるが、その場合、スクリーン版が余分に大きくなり、スクリーン版の価格や印刷機の面積が大きくなってしまうという問題がある。これらの問題は、本発明により解決される。具体的に本発明にかかる太陽電池素子の製造方法は、例えば上記の電極形成時に、スクリーン印刷ではなく、導電性ペーストを浸したペースト支持体を、被印刷物に接触させてから、離すことで、導電性ペーストを転写して塗布することを特徴とする。ここで使用するペースト支持体は、表面に凹凸を有することが望ましい。具体的には、このペースト支持体は、複数本撚り合わされた糸であることが望ましい。本発明による繰り返し印刷精度の改善は、以下の理由によるものである。
【0025】
この問題を解決するための方法を、図3および図4を参照して説明する。本発明の実施の形態における材料塗布方法は、ペースト支持体12が、ペーストを付着させた線状または糸状の物体であることが特徴である。このペースト支持体12にペーストを付着させ、その後被印刷物13に接触させてから離すことで、ペーストを被印刷物13に転写させるというものである。ペースト支持体12は、2本のテンショナー14により両端で支持され、張力をかけられることで、容易に直線性を持たせることができ、更に使用時に被印刷物13に過剰な圧力をかける必要が無いので、歪みが生じにくく、繰り返し精度良くペーストを被印刷物13に塗布することができる。
【0026】
ここで設けられる、ペースト支持体12が表面に凹凸を有していることで、ペーストの転写をより効率よく実行することができる。具体的には、ペースト支持体12の凹凸の間にペーストが浸入するので、ペースト支持体12がペーストをより多く保持することが可能になり、更にペースト支持体12と被印刷物13が接触する際の表面積が大きくなるので、ペーストを被印刷物13へより多く転写することが可能になる。ここで設けられる、ペースト支持体12の表面の凹凸は、凹部同士および凸部同士の間隔が、0.1μm以上50μm以下であることが望ましく、より好適には1μm以上10μm以下であることが望ましい。この距離がこれより短い場合は、凹凸形成が困難になることによるコストの増大を招く。一方この距離がこれより長い場合は、ペースト支持体12におけるペーストの支持量が減少してしまい、この発明の効果を弱めてしまう。
【0027】
また、ここで設けられる、ペースト支持体12が複数本撚り合わされた糸から形成される場合、ペーストの転写をより効率よく実行することができる。具体的には、撚り糸の間にペーストが浸入するので、ペースト支持体12がペーストをより多く保持することが可能になり、更に被印刷物13と接触する際の表面積が大きくなるので、ペーストを被印刷物13へより多く転写することが可能になる。更に、ペースト支持体12が撚り糸である場合、前述のような凹凸を自然に形成することが可能になるので、安価な製造コストでペースト支持体12を形成することが可能になる。ここで設けられる撚り糸は、一本の糸の直径が10μm以上100μm以下であることが望ましく、より好的には18μm以上60μmであることが望ましい。一本の糸の直径がこれより太い場合は、所望の細線を形成することが困難になってしまう。一方、一本の糸の直径がこれより細い場合は、糸形成のコストが増大し、更に糸の強度が低下してしまい、この発明の効果を弱めてしまう。
【0028】
また、ここで設けられる糸の素材は、特に限定されないが、例えばポリエステルやナイロン、ステンレス等、ある程度の強度が保たれるものが望ましい。また、ここで設けられる糸の撚り方は、特に限定されず、右撚りでも左撚りでもよい。また、その撚り数も限定されず、甘撚でも中撚でも強撚でも極強撚でも、いずれでもよい。また、その撚り姿も限定されず、片撚糸や諸撚糸、駒撚糸、壁撚糸等、いずれでもよい。
【0029】
また、ここで設けられるペースト支持体12が、所定の間隔で複数形成されていることにより、一度の転写で被印刷物13に所望のパターンを形成することができる。例えば、簡便な方法で精密かつ安価に太陽電池素子の集電極を形成することが可能になる。この集電極形成に際して、ペースト支持体12の間隔は、太陽電池素子の変換効率を最大化できる範囲であれば特に規定はされないが、一般的には0.5mm以上5mm以下であることが望ましい。
【0030】
また、ここで設けられるペースト支持体12に付着させて被印刷物13に転写するペーストは、特に規定されないが、被印刷物13が半導体基板であり、ペーストが導電性ペーストである場合は太陽電池素子の集電極を形成することが可能になる。またこのペーストがドーパントを含む塗布剤である場合は太陽電池素子の選択エミッタ層を形成することが可能になる。またこのペーストがエッチャントを含む塗布剤である場合は、選択エッチング層を形成することが可能になる。この発明の用途はここに記載されたものに限定されるものではなく、幅広い用途で活用できるものである。
【0031】
以下に本発明の実施例および比較例をあげて更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
まず、ボロンがドープされ、厚さ0.2mmにスライスして作製された比抵抗が約1Ω・cmのp型の単結晶シリコンからなるp型シリコン基板に外径加工を行うことによって、一辺15cmの正方形の板状とした。そして、このp型シリコン基板をフッ硝酸溶液中に15秒間浸漬させてダメージエッチし、更に2%のKOHと2%のIPAを含む70℃の溶液で5分間化学エッチングした後に純水で洗浄し、乾燥させることで、p型シリコン基板表面にテクスチャ構造を形成した。
【0033】
上記p型シリコン基板に対して、POClガス雰囲気中において、850℃の温度で30分間の条件で熱拡散処理を行うことにより、p型シリコン基板にn層を形成した。ここで用意したp型シリコン基板表面の熱処理後のシート抵抗は、一面が約80Ω/□、n層の拡散深さは0.3μmであった。
【0034】
その後、n層上に耐酸性樹脂を形成した後に、p型シリコン基板をフッ硝酸溶液中に10秒間浸漬することによって、耐酸性樹脂が形成されていない部分のn層を除去した。その後、耐酸性樹脂を除去することによって、p型シリコン基板の表面のみにn層を形成した。続いて、SiHとNH、Nを用いたプラズマCVD法により、p型シリコン基板のn層を形成されている表面上に、反射防止膜兼パッシベーション膜となるSiNを厚さ1000Åで形成した。次に、p型シリコン基板のウラ面に、スクリーン印刷法を用いて、導電性アルミペーストを印刷し、150℃で乾燥させた。更に、p型シリコン基板のオモテ面に、スクリーン印刷法を用いて、導電性銀ペーストを印刷し、150℃で乾燥させて集電極を形成した(比較例)。一方、p型シリコン基板のオモテ面に、図3に示されるような、撚り糸によるペースト支持体を用いて導電性銀ペーストを転写し、150℃で乾燥させて集電極を形成した。この際の撚り糸の縒り方は中撚りでの3本撚りとし、一本の糸の直径を30μmとしたものを実施例1、50μmとしたものを実施例2とした。その後、比較例、実施例1、実施例2の全ての条件に対して、集電極と直交するように、バスバー電極を、スクリーン印刷法を用いて、導電性銀ペーストを印刷し、150℃で乾燥させた。最後に、これまでの処理済の基板を、最高温度800℃で導電性ペーストを焼成して電極を形成することで、太陽電池素子を作製した。
【0035】
表1に、上記の比較例と実施例1、実施例2それぞれの方法で、それぞれ1000枚ずつの太陽電池素子の集電極を形成した際の、基板破損率、太陽電池素子の平均変換効率、平均短絡電流、平均開放電圧、平均曲線因子を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、本発明による実施例を用いることで、比較例と比較すると、太陽電池素子の集電極形成時の基板破損率低減が可能な上、太陽電池素子の平均変換効率を高めることができる。基板破損率低減可能な理由は、基板にダメージを与えることなく集電極を形成可能なため、基板が割れにくくなるためであり、変換効率が高くなる理由は、細い集電極のパターンが面内均一に形成できるため、特に受光面電極の直列抵抗が小さくなり、曲線因子と短絡電流が高くなるためである。
【0038】
本発明によれば、ペーストを浸したペースト支持体(撚り糸等)を、被印刷物の上に接触させてから、離すことで、ペーストを被印刷物の上に転写して塗布することができる。ペースト支持体を所定の間隔で配置することで、被印刷物上に目的とするピッチのパターンを形成することができる。ペースト塗布時に被印刷物に圧力をかける必要が無いので、被印刷物にダメージを与えることなく、容易に面内均一なパターンを形成することができる。これにより、太陽電池素子の基板破損率低減が可能な上、太陽電池素子の平均変換効率を高めることができる。将来的には、本発明によりシリコン基板に選択エミッタ層等を形成し、更に変換効率を高めることも可能になると期待される。
【符号の説明】
【0039】
1 半導体基板
2 拡散層
3 反射防止膜兼パッシベーション膜
4 BSF層
5 表面電極
6 裏面電極
7 スクリーン版
8 スクレッパ
9 スキージ
10 印刷ステージ
11 被印刷物
12 ペースト支持体
13 被印刷物
14 テンショナー
図1
図2
図3
図4