特許第6058142号(P6058142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6058142多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法、多孔質ポリイミド系樹脂膜、及びそれを用いたセパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6058142
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法、多孔質ポリイミド系樹脂膜、及びそれを用いたセパレータ
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20161226BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20161226BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C08J9/26 101
   C08J9/36CFG
   H01M2/16 P
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-530925(P2015-530925)
(86)(22)【出願日】2014年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2014070769
(87)【国際公開番号】WO2015020101
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2015年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-165407(P2013-165407)
(32)【優先日】2013年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-73987(P2014-73987)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102530843(CN,A)
【文献】 特開2012−107144(JP,A)
【文献】 特開2009−177071(JP,A)
【文献】 特開平11−144697(JP,A)
【文献】 特開2010−195899(JP,A)
【文献】 特開2004−204119(JP,A)
【文献】 特開2013−109842(JP,A)
【文献】 特開2008−231369(JP,A)
【文献】 WANG et al.,Simple Method for Preparation of Porous Polyimide Film with an Ordered Surface Based on in Situ Self-Assembly of Polyamic Acid and Silica Microspheres,Langmuir,2010年11月10日,26(23),pp.18357-18361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00 − 9/42
H01M 2/14 − 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除いて多孔質ポリイミド系樹脂膜とする微粒子除去工程を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法であって、
前記微粒子除去工程前に、前記ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、前記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の内部の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有し、
前記微粒子の平均直径が100〜2000nmである、多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項2】
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除いて多孔質ポリイミド系樹脂膜とする微粒子除去工程を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法であって
記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有し、
前記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去することにより、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の内部の連通孔(前記微粒子同士が接していた部分に形成される孔)の孔サイズを大きくする、多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項3】
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除いて多孔質ポリイミド系樹脂膜とする微粒子除去工程を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法であって、
前記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有し、
前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去することにより、開孔率を向上する、多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去することにより、又は、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去することにより、開孔率を向上する、請求項1又は2に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項5】
前記微粒子の平均直径が100〜2000nmである、請求項2又は3に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミド系樹脂除去工程後の多孔質ポリイミド系樹脂膜の、厚さを25μmとし、空気の通過量を100mlとした場合におけるガーレー透気度(JIS P 8117)が120秒以内である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミド系樹脂除去工程が、ケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組合せた方法により行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項8】
前記ポリイミド系樹脂除去工程が、ケミカルエッチング法により行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法。
【請求項9】
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子及びポリイミド系樹脂部分の内部の一部を取り除いた、多孔質ポリイミド系樹脂膜。
【請求項10】
厚さを25μmとし、空気の通過量を100mlとした場合におけるガーレー透気度(JIS P 8117)が120秒以内である、請求項に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜。
【請求項11】
請求項又は10に記載の多孔質ポリイミド系樹脂膜からなるセパレータ。
【請求項12】
負極と正極との間に、電解液及び請求項11に記載のセパレータが配置される二次電池。
【請求項13】
多孔質ポリイミド系樹脂膜からなるセパレータの製造方法であって、
前記多孔質ポリイミド系樹脂膜は、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法で製造される、セパレータの製造方法。
【請求項14】
負極と正極との間に、電解液及びセパレータが配置される二次電池の製造方法であって、
前記セパレータは、請求項13に記載の方法で製造される、二次電池の製造方法。
【請求項15】
多孔質ポリイミド系樹脂膜の開孔率を向上する方法であって、
該方法は、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除いて多孔質ポリイミド系樹脂膜とする微粒子除去工程、及び、
前記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有する、方法。
【請求項16】
更に、前記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去することにより、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の内部の連通孔(前記微粒子同士が接していた部分に形成される孔)の孔サイズを大きくする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
多孔質ポリイミド系樹脂膜の内部の連通孔(前記微粒子同士が接していた部分に形成される孔)の孔サイズを大きくする方法であって、
前記方法は、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除いて多孔質ポリイミド系樹脂膜とする微粒子除去工程、及び、
前記微粒子除去工程後に、前記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法、多孔質ポリイミド系樹脂膜、及びそれを用いたセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器の小型化や、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題に対処するためのハイブリッド自動車、電気自動車等の開発に伴い、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。このような二次電池として、種々の二次電池の研究開発が行われている。
【0003】
二次電池の一つであるリチウム電池は、通常、正極(カソード)及び負極(アノード)間を、電解液、例えば、非水性有機溶剤に溶解されたLiPF等のリチウム塩で満たされた構造を有する。正極にはリチウム遷移金属酸化物が、負極には、主にリチウムやカーボン(グラファイト)が用いられている。上記電解液は良好なイオン伝導性と無視できる電気伝導性を有し、充電中には、リチウムイオンは正極から負極へ、放電中には、リチウムイオンは逆方向に移動する。
【0004】
上記リチウム電池の正極及び負極は、多孔性ポリマー膜よりなるセパレータによって隔てられ、電気的な直接的接触を防ぐ構造とされている。従って、二次電池用のセパレータには、膜厚(薄さ)、機械的強度、イオン伝導度(電解液含有時)、電気的絶縁性、耐電解液性、電解液に対する保液性、濡れ性等の種々の特性が要求される。このような性質を有する二次電池用セパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の微多孔膜系セパレータが一般的に用いられている。これらの微多孔膜はランダムな細孔を有し、その空孔率が35〜40%程度で、負極にカーボンを用いたリチウム二次電池用のセパレータとして広く用いられている。
【0005】
しかし、これら従来から知られたセパレータには、充電/放電サイクルの繰り返しによって、黒鉛負極上にリチウム金属が析出することが知られている。そして、電池の充放電を繰り返すとデンドライト状リチウムが成長して、遂には電池の短絡を引き起こすことから、この問題を解決する必要のあることが知られていた(特許文献1)。一方、セパレータに、耐熱性が高く安全性の高いポリイミドを用いる試みが行われている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−537387号公報
【特許文献2】特開2011−111470号公報
【特許文献3】特開2012−107144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のポリイミドの膜に形成された孔は、必ずしも開孔率の点で十分ではなく、リチウムイオンの移動が妨げられることがあり、電池の内部抵抗が高くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い開孔率を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、孔を形成する前のポリイミド系樹脂部分又は孔形成後の多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去することで、多孔質ポリイミド系樹脂膜の開孔率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一の態様は、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除いて多孔質ポリイミド系樹脂膜とする微粒子除去工程を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法であって、上記微粒子除去工程前に、上記ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、上記微粒子除去工程後に、上記多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有する。
【0011】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の方法で製造される多孔質ポリイミド系樹脂膜である。
【0012】
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様の多孔質ポリイミド系樹脂膜からなるセパレータである。
【0013】
本発明の第四の態様は、負極と正極との間に、電解液及び本発明の第三の態様のセパレータが配置される二次電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い開孔率を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜を模式的に示す図である。
図2】ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の一部を除去した例を模式的に示す図である。
図3】ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の一部を除去した例を模式的に示す図である。
図4】ポリイミド系樹脂除去工程を経る前の多孔質ポリイミド系樹脂膜を模式的に示す図である。
図5】多孔質ポリイミド系樹脂膜の一部を除去した例を模式的に示す図である。
図6】多孔質ポリイミド系樹脂膜の一部を除去した例を模式的に示す図である。
図7】ケミカルエッチングによるポリイミド系樹脂除去工程後の多孔質ポリイミド系樹脂膜の表面状態を示す図である。
図8】物理的方法によるポリイミド系樹脂除去工程後の多孔質ポリイミド系樹脂膜の表面状態を示す図である。
図9】本発明のセパレータを使用した二次電池の、充放電試験後の負極表面を示す図である。
図10】汎用のポリエチレン(PE)系セパレータを使用した二次電池の、充放電試験後の負極表面を示す図である。
図11】汎用のセルロース系セパレータを使用した二次電池の、充放電試験後の負極表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
本発明の第一の態様である多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に、多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有する。
【0018】
本明細書におけるポリイミド系樹脂としては、ポリイミド又はポリアミドイミドが挙げられる。
【0019】
[ワニスの製造]
ワニス製造は、予め微粒子が分散した有機溶剤とポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミドを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した有機溶剤中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、更にイミド化してポリイミドとすることで製造でき、最終的に、その粘度を300〜1500cPとすることが好ましく、400〜700cPの範囲がより好ましい。ワニスの粘度がこの範囲内であれば、均一に成膜をすることが可能である。
【0020】
上記ワニスには、微粒子を、焼成(焼成が任意の場合は乾燥)してポリイミド系樹脂−微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミド系樹脂の比率が1〜3.5(質量比)となるように樹脂微粒子とポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを混合でき、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率は1.2〜3(質量比)であることが好ましい。更に、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の体積比率が1.5〜4.5となるように、微粒子とポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを混合するとよい。また、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率を1.8〜3(体積比)とすることが、更に好ましい。微粒子/ポリイミド系樹脂の質量比又は体積比が下限値以上であれば、セパレータとして適切な密度の孔を得ることができ、上限値以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜をすることができる。なお、本明細書において、体積%及び体積比は、25℃における値である。
【0021】
<微粒子>
本発明で用いられる微粒子の材質は、ワニスに使用する有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されること無く使用することができる。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子(樹脂微粒子)が挙げられる。
【0022】
多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造の際使用することの好ましいものとして、無機材料ではコロイダルシリカ等のシリカを挙げることができる。なかでも単分散球状シリカ粒子を選択することが、均一で微小な孔を形成するためには好ましい。
【0023】
本発明で用いられる樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーから、目的に応じ特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーであり、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。いずれも、加熱時に、単量体、低分子量体、あるいは、COまで分解することによって、ポリイミド系樹脂膜から除去可能である。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂の焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃以下であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0024】
これら解重合性ポリマーのうち、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)、あるいはこれを主成分とする共重合ポリマーが孔形成時の取り扱い上好ましい。
【0025】
本発明で用いられる微粒子は、真球率が高く、また、粒径分布指数の小さいものが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の粒径(平均直径)としては、例えば、100〜2000nmのものを用いることができる。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができるため、特にセパレータとして使用した場合に、印加される電界を均一化でき好ましい。
【0026】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスに用いる微粒子(B1)と第二のワニスに用いる微粒子(B2)とは、同じものを用いてもよいし、互いに異なったものを用いてもよい。基材に接する側の孔をより稠密にするには、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。また、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、(B1)が100〜1000nm(より好ましくは100〜600nm)、(B2)が500〜2000nm(より好ましくは700〜2000nm)のものを用いることが好ましい。(B1)の微粒子の粒径に(B2)より小さいものを用いることで、得られる多孔質ポリイミド系樹脂膜表面の孔の開口割合を高く均一にすることができ、且つ、多孔質ポリイミド系樹脂膜全体を(B1)の微粒子の粒径とした場合よりも膜の強度を高めることができる。
【0027】
本発明では、ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、上記微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミドと微粒子とを一層均一に混合でき、更には、成形又は成膜した前駆体膜中の微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質ポリイミド系樹脂の表面に稠密な開口を設け、且つ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、フィルムの透気度が向上する。
【0028】
本発明で用いられる分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0029】
<ポリアミド酸>
本発明に用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0030】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは二種以上混合して用いることもできる。
【0032】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。このジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0033】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0034】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0035】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0036】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1〜6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0037】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ぺンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0038】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0039】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と一つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0040】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0041】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0042】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0043】
カルド型フルオレンジアミン誘導体の例としては、9,9−ビスアニリンフルオレン等を挙げることができる。
【0044】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2〜15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0045】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0046】
本発明で使用されるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0047】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。なかでも、前記含窒素極性溶剤とラクトン系極性溶剤の組み合わせが好ましい。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0049】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。また、成膜性等の観点から、γ−ブチロラクトン等のラクトン系極性溶剤を添加した混合溶剤としてもよく、有機溶剤全体に対し1〜20質量%添加されていることが好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0050】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。また、このような条件下で得られるポリアミド酸溶液の固有粘度は、好ましくは1000〜100000cP(センチポアズ)、より一層好ましくは5000〜70000cPの範囲である。
【0051】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、本発明に係るワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0052】
有機溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチルー1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、有機溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0053】
本発明で用いられる、有機溶剤に溶解可能なポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させ、有機溶剤に溶解させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミドを溶媒に溶解したものでよい。式中Arはアリール基を示す。
【化1】
【化2】
【0054】
<ポリアミドイミド>
本発明に用いるポリアミドイミドは、本発明に係るワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0055】
また、本発明に用いるポリアミドイミドは、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとを反応させて得られるものや、任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるものを特に限定されることなく使用できる。
【0056】
上記任意の無水トリメッと酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0057】
上記任意のジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、4,4’−オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ) フェニル] スルホン、2,2′−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル] プロパン、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0058】
上記任意のジアミンとしては、前記ポリアミド酸の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
<有機溶剤>
ワニスに用いられる有機溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示したものが挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
ワニス中の全成分のうち、混合溶剤(S)の含有量は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜85質量%となる量である。ワニスにおける固形分濃度が好ましくは5〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%となる量である。
【0061】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスにおけるポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド(A1)と微粒子(B1)との体積比を19:81〜45:65とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に65以上であれば、粒子が均一に分散し、また、81以内であれば粒子同士が凝集することもなく分散するため、ポリイミド系樹脂膜の基板側面に孔を均一に形成することができる。また、第二のワニスにおける、ポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド(A2)と微粒子(B2)との体積比を20:80〜50:50とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に50以上であれば、粒子単体が均一に分散し、また、80以内であれば粒子同士が凝集することもなく、また、表面にひび割れ等が生じることもないため、安定して電気特性の良好な多孔質ポリイミド系樹脂膜を形成することができる。
【0062】
上記の体積比については、第二のワニスは、上記第一のワニスよりも微粒子含有比率の低いものであることが好ましく、上記条件を満たすことにより、微粒子がポリアミド酸、ポリイミド又はポリアミドイミド中に高度に充填されていても、未焼成複合膜、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜、及び多孔質ポリイミド系樹脂膜の強度や柔軟性を担保することができる。また、微粒子含有比率の低い層を設けることで、膜製造コストの低減を図ることができる。
【0063】
上記した成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化、離型性、塗布性等を目的とし、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤、離型剤、表面調整剤等、適宜、公知の成分を必要に応じて含有させることができる。
【0064】
[未焼成複合膜の製造]
ポリアミド酸又はポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜の成膜は、基板上へ上記のワニスを塗布し、常圧又は真空下で50〜100℃(好ましくは0〜50℃)、より好ましくは常圧下60〜95℃(更に好ましくは65〜90℃)で乾燥して行う。なお、基板上には必要に応じて離型層を設けてもよい。
【0065】
上記離型層は、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行って作製することができる。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥したポリアミド酸又はポリイミド系樹脂と微粒子とを含有する未焼成複合膜を基板より剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存する。この残存した離型剤は、フィルム表面の濡れ性や電気特性に大きく影響を及ぼすため、これを取り除いておくことが好ましい。
【0066】
そこで、上記基板より剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤等を用いて洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては、洗浄液にフィルムを浸漬した後取り出す方法、シャワー洗浄する方法等の公知の方法から選択することができる。更に、洗浄後の未焼成複合膜を乾燥するために、洗浄後の未焼成複合膜を室温で風乾する、恒温槽中で適切な設定温度まで加温する等、公知の方法が制限されることなく適用できる。例えば、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0067】
一方、未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や未焼成複合膜の洗浄工程を省くことができる。
【0068】
また、2層状の未焼成複合膜として形成する場合、まず、ガラス基板等の基板上にそのまま、上記第一のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃(好ましくは0〜90℃)、より好ましくは常圧10〜100℃(更に好ましくは10〜90℃)で乾燥して、膜厚1〜5μmの第一未焼成複合膜の形成を行う。
【0069】
続いて、形成した第一未焼成複合膜上に、上記第二のワニスを塗布し、同様にして、0〜80℃(好ましくは0〜50℃)、より好ましくは常圧10〜80℃(更に好ましくは10〜30℃)で乾燥を行い、膜厚5〜30μmの第二未焼成複合膜の形成を行い、2層状の未焼成複合膜を得る。
【0070】
[ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の製造(焼成工程)]
上記乾燥後の未焼成複合膜(又は2層状の未焼成複合膜、以下同様)に加熱による後処理(焼成)を行ってポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜)とすることができる。ワニスにポリアミド酸を含む場合、焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。なお、焼成工程は任意の工程である。特にワニスにポリイミド又はポリアミドイミドが用いられる場合、焼成工程は行われなくてもよい。
【0071】
焼成温度は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミド系樹脂の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120〜375℃が好ましく、更に好ましくは150〜350℃である。
【0072】
焼成を行うには、必ずしも乾燥工程と明確に工程を分ける必要はなく、例えば、375℃で焼成を行う場合、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。その際、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ってもよい。
【0073】
できあがったポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均膜厚が好ましいかは、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜又は多孔質ポリイミド系樹脂膜の用途によって異なるが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、1μm以上であればよく、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることが更に好ましい。
【0074】
[微粒子除去工程(ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の多孔化)]
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、微細孔を有する多孔質ポリイミド系樹脂膜を再現性よく製造することができる。例えば、微粒子として、シリカを採用した場合、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水(HF)等によりシリカを溶解除去することで、多孔質とすることが可能である。また、微粒子が樹脂微粒子の場合は、上述のような樹脂微粒子の熱分解温度以上で、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱し、樹脂微粒子を分解させてこれを取り除くことができる。
【0075】
[ポリイミド系樹脂除去工程]
本発明の多孔質ポリイミド系樹脂膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程を有する。
【0076】
まず、微粒子除去工程前に、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程について説明する。
【0077】
図1は、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜を模式的に表す図である。微粒子1がポリイミド系樹脂部分2中に分散し、ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜を形成している。ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜の表面付近では、ポリイミド系樹脂部分2は、微粒子1の一部のみ又は全部を覆っている。なお、図1は模式図であるために、ほぼ同じ粒径の微粒子1が記載されているが、これに限られるものではなく微粒子1の粒径に分布があっても構わない。
【0078】
上記の、微粒子除去工程前に、ポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去するとは、図1におけるポリイミド系樹脂部分2のいずれかの部分を除去することを意味する。例えば、図2図3のような形態とすることを意味するが、これらに限られない。図2は、比較的少量のポリイミド系樹脂部分を除去した場合であり、図3はこれよりも多くのポリイミド系樹脂部分を除去した場合である。また、本ポリイミド系樹脂除去工程において、同時に微粒子の一部が取り除かれても構わない。
【0079】
ポリイミド系樹脂−微粒子複合膜のポリイミド系樹脂部分2の一部を除去することにより、続く微粒子除去工程で微粒子が取り除かれ空孔が形成された場合に、これらのポリイミド系樹脂部分を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質ポリイミド系樹脂膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0080】
続いて、微粒子除去工程後に多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するポリイミド系樹脂除去工程について説明する。
【0081】
図4は、微粒子除去工程直後の多孔質ポリイミド系樹脂膜を模式的に表す図である。微粒子の抜けた空孔3が多孔質ポリイミド系樹脂膜4中に分散している。図4は模式図であるために、ほぼ同じ径の空孔3が記載されているが、これに限られるものではなく、空孔3の粒径に分布があっても構わないのは、図1と同様である。
【0082】
微粒子除去工程後に多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去するとは、図4における多孔質ポリイミド系樹脂膜4のいずれかの部分を除去することを意味する。例えば、図5図6のような形態とすることを意味するが、これらに限られない。図5は、比較的少量の多孔質ポリイミド系樹脂膜を除去した場合であり、図6はこれよりも多くの多孔質ポリイミド系樹脂膜を除去した場合である。また、内部の空孔同士が接する部分の多孔質ポリイミド系樹脂膜を除去して、空孔同士を連通するようしてもよい。
【0083】
多孔質ポリイミド系樹脂膜の一部を除去することにより、除去しないものに比べて、最終製品の多孔質ポリイミド系樹脂膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0084】
上記のポリイミド系樹脂部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質ポリイミド系樹脂膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組合せた方法により行うことができる。
【0085】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0086】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01〜20質量%である。
【0087】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これをポリイミド系樹脂−微粒子複合膜又は多孔質ポリイミド系樹脂膜の表面に30〜100m/sの速度で照射することでポリイミド系樹脂−微粒子複合膜又は多孔質ポリイミド系樹脂膜表面を処理する方法等が使用できる。
【0088】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後のいずれのポリイミド系樹脂除去工程にも適用可能であるので好ましい。なお、微粒子除去工程後にケミカルエッチング法を行う場合は、多孔質ポリイミド系樹脂膜の内部の連通孔(微粒子同士が接していた部分に形成される孔)の孔サイズを大きくすることにより、開孔率を向上させることができる。
【0089】
一方、微粒子除去工程後に行うポリイミド系樹脂除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質ポリイミド系樹脂膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質ポリイミド系樹脂膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質ポリイミド系樹脂膜が台紙フィルムから引きはがされる。この方法では、多孔質ポリイミド系樹脂膜の形態は、図5の模式図で示されるようになる。
【0090】
[多孔質ポリイミド系樹脂膜]
上記本発明の製造方法で製造された多孔質ポリイミド系樹脂膜は、その開孔率がより一層高まるため、例えば、リチウムイオン電池のセパレーターとして使用すると電池の内部を小さくできるため好ましい。
【0091】
多孔質ポリイミド系樹脂膜の開孔率は、JIS P 8117に準拠し、厚さを25μmとして測定した場合のガーレー透気度、すなわち、100mLの空気が膜を透過する秒数を求めることで評価することができる。
【0092】
本発明の多孔質ポリイミド系樹脂膜のガーレー透気度は、120秒以内が好ましく、100秒以内が更に好ましく、80秒以内であることが最も好ましい。低いほど好ましいので下限は特に設定されないが、多孔質ポリイミド系樹脂膜のハンドリング性を考慮すると例えば、30秒以上である。ガーレー透気度が120秒以内であれば、十分高いイオン透過性を示すためリチウムイオン電池のセパレータ用として好適である。
【0093】
[多孔質ポリイミド系樹脂膜の用途]
本発明の多孔質ポリイミド系樹脂膜は、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池等の二次電池用セパレータとして使用することが可能であるが、リチウムイオン二次電池用多孔質セパレータとして使用することが特に好ましい。更に、本発明の製造方法で作製した多孔質ポリイミド系樹脂膜は、二次電池用のセパレータのほか、燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として使用することも可能である。
【0094】
[二次電池]
本発明の第四の態様の二次電池は、負極と正極との間に、電解液及び第三の態様のセパレータが配置されることを特徴とする。
【0095】
本発明の二次電池の種類や構成は、何ら限定されるものではない。正極とセパレータと負極が順に上記条件を満たすように積層された電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となった構成であれば、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の公知の二次電池に、特に限定されることなく使用することができる。
【0096】
本発明における二次電池の負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造をとることができる。例えば、負極活物質として、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化カドミウムを、ニッケル水素電池の場合は水素吸蔵合金を、それぞれ用いることができる。また、リチウムイオン二次電池の場合は、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が採用できる。このような、活物質として、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。
【0097】
負極を構成する導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0098】
また、正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造とすることができる。例えば、正極活物質としては、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化ニッケルを、ニッケル水素電池の場合は水酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルを、それぞれ用いることができる。他方、リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0099】
電解液としては、例えば、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池の場合には、水酸化カリウム水溶液が使用される。リチウムイオン二次電池の電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成とされる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0100】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
実施例及び比較例では、以下に示すテトラカルボン酸二無水物、ジアミン、ポリアミド酸、有機溶剤、分散剤及び微粒子を用いた。なお、各ワニスは最終的な固形分濃度が30質量%となるように調整した。
・テトラカルボン酸二無水物:ピロメリット酸二無水物
・ジアミン:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
・ポリアミド酸:ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの反応物
・ポリアミドイミド:重合成分として無水トリメリット酸及びo−トリジンジイソシアネートを含むポリアミド(Mw:約3万)。
・有機溶剤(1):N,N−ジメチルアセトアミド:ガンマブチロラクトン(質量比90:10)の混合溶剤
・有機溶剤(2):N−メチル−2−ピロリドン:N,N−ジメチルアセトアミド(質量比70:30)の混合溶剤
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・微粒子 :シリカ(1):平均粒径700nmのシリカ
シリカ(2):平均粒径200nmのシリカ
シリカ(3):平均粒径300nmのシリカ
【0103】
[ワニスの調製−1]
ポリアミド酸13.25gと有機溶剤(1)30gとを混合しポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液に、微粒子としてシリカ(2)を、75g添加し撹拌して第一のワニスを調製した。なお、前記第一のワニスにおけるポリアミド酸とシリカ(2)との体積比は22:78(質量比は15:85)である。
【0104】
[ワニスの調製−2]
ポリアミド酸13.25gと有機溶剤(1)30gとを混合しポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液に、微粒子としてシリカ(1)を、53g添加し撹拌して第二のワニスを調製した。なお、前記第二のワニスにおけるポリアミド酸とシリカ(1)との体積比は28:72(質量比は20:80)である。
【0105】
[未焼成複合膜の成膜]
上記の第二のワニスを、ガラス板にアプリケーターを用い成膜した。70℃で5分間プリベークして、膜厚25μmの未焼成複合膜を製造した。基材から未焼成複合膜を剥離乾燥して未焼成複合膜(1)を得た。
【0106】
[未焼成複合膜のイミド化]
上記未焼成複合膜(1)を320℃で15分間加熱処理(ポストべーク)を施し、イミド化を完結させポリイミド−微粒子複合膜(1)を得た。
【0107】
[多孔質ポリイミド膜の形成]
上記で得たポリイミド−微粒子複合膜(1)を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、多孔質ポリイミド膜(1)を得た。
【0108】
[2層状の未焼成複合膜の成膜]
上記の第一のワニスを、ガラス板にアプリケーターを用いて成膜した後、70℃1分間でベーク処理をし、膜厚約2μmの第一未焼成複合膜を得た。続いて、前記第一未焼成複合膜上に、第二のワニスを用いて第二未焼成複合膜を成膜した後、70℃で5分間プリベークして、全体の膜厚が約25μmの2層状の未焼成複合膜(2)を得た。
【0109】
[未焼成複合膜のイミド化]
上記未焼成複合膜(2)を320℃で15分間加熱処理(ポストべーク)を施し、イミド化を完結させポリイミド−微粒子複合膜(2)を得た。
【0110】
[多孔質ポリイミド膜の形成]
上記で得たポリイミド−微粒子複合膜(2)を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、多孔質ポリイミド膜(2)を得た。
【0111】
<実施例1〜8、比較例1〜2>
上記で得た多孔質ポリイミド膜(2)について、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液又はNaOH溶液を用いて下記表1の要領でケミカルエッチングの条件変更による比較を行った。
【0112】
[ケミカルエッチング]
TMAHの2.38質量%水溶液(表1中、TMAHと記載)、又は、NaOHをメタノール50質量%水溶液で1.04%となるように希釈(表1中、NaOHと記載)して、アルカリ性のエッチング液を作成した。このエッチング液で、多孔質ポリイミド膜を表1に示す時間浸漬してポリイミドの一部を除去した。図7に、表1に示す条件で処理した後の多孔質ポリイミド膜の表面状態をSEMにて観察した結果を示す。
【0113】
<実施例9〜12、比較例3〜4>
[ガーレー透気度]
上記実施例1〜8の結果のうち、多孔質ポリイミド膜の一部が取り除かれた際の表面の孔の形状変化が良好だったNaOH含エッチング液を用い、上記で得た多孔質ポリイミド膜(1)(2)に対して、下記表1の要領でケミカルエッチングを行ったうえで、厚さ約25μmのサンプルを、5cm角に切り出した。ガーレー式デンソメーター(東洋精機製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mlの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。その結果を表1に併記する。なお、ケミカルエッチング処理前と処理後の膜厚を接触触針計により測定した結果についても、表1中にそれぞれ処理前膜厚と処理後膜厚として併記する。
【0114】

【表1】
【0115】
図7から、ケミカルエッチングによって多孔質ポリイミド膜の一部が取り除かれ、表面の孔の形状が変化することがわかる。また、表1の多孔質ポリイミド膜のガーレー透気度測定から、100mlの空気を通すのに要する時間は、ケミカルエッチングの進行に伴い大幅に短縮され、多孔質ポリイミド膜の表面と裏面との連通度が向上したことが分かった。透過時間と膜厚変化の関係から、ケミカルエッチング処理による透気度の改善効果は膜厚の減少によるものだけでなく、主に開孔率の拡大であることが考えられる。
【0116】
<実施例13>
上記多孔質ポリイミド膜(2)を得た際の[ワニスの調製]〜[多孔質ポリイミド膜の形成]と同様にして多孔質ポリイミド膜を作成した。HF処理後、水洗した多孔質ポリイミド膜を濡れた状態のままポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に載置してベークした。続いて、乾燥した多孔質ポリイミド膜をPETフィルムから引き剥がすと、多孔質ポリイミド膜がその表面層でPETフィルムに静電吸着しているために、その表面層のみがPETフィルム上に残される。なお、PETフィルムから引き剥がした面は第一のワニスにより形成された膜の方(リチウムイオン電池のセパレーターとして使用する場合負極面側となる方)である。
【0117】
図8は、この処理を行う前のPETフィルム表面、及び処理後のPETフィルム表面である。処理後のPETフィルム表面には、残された多孔質ポリイミド膜表面層の断片が観察できる。
【0118】
一方、処理前の多孔質ポリイミド膜表面と処理後の多孔質ポリイミド膜表面を比較すると、上記に説明した物理的な方法で多孔質ポリイミド膜の表面層が取り除かれ、多孔質ポリイミド膜表面に孔が新たに露出したことが確認できた。
【0119】
<実施例14>
[ワニスの調製−3]
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却機、窒素ガス導入管を備えたセパラブルフラスコに、テトラカルボン酸二無水物6.5gと、ジアミン6.7gと、有機溶剤(1)30gとを投入した。窒素ガス導入管よりフラスコ内に窒素を導入し、フラスコ内を窒素雰囲気とした。次いで、フラスコの内容物を撹拌しながら、50℃で20時間、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させて、ポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液に、平均粒径が300nmのシリカ(3)を、75g添加し撹拌して、ポリアミド酸と微粒子との体積比を22:78(質量比は15:85)とした第一のワニスを調製した。
【0120】
[ワニスの調製−4]
得られたポリアミド酸溶液に、平均粒径が700nmのシリカ(1)を53g添加するほかは、ワニスの調製−3と同様にして体積比を28:72(質量比は20:80)とした第二のワニスを調製した。
【0121】
[ポリイミド−微粒子複合膜の成膜]
上記の第一のワニスを、ガラス板にアプリケーターを用いて成膜した後、70℃1分間でベーク処理をし、膜厚約1μmの第一未焼成複合膜を得た。続いて、第二のワニスを、前記第一未焼成複合膜にアプリケーターを用いて第二未焼成複合膜を成膜した後、70℃で5分間プリベークして、全体の膜厚が約20μmの2層状の未焼成複合膜(2)を得た。
【0122】
基材から上記未焼成複合膜を剥離後、エタノールで剥離剤を除去し、320℃で15分間熱処理を施し、イミド化を完結させポリイミド−微粒子複合膜とした。
【0123】
[多孔質ポリイミド膜の形成]
上記ポリイミド−微粒子複合膜を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した。
【0124】
[ケミカルエッチング]
TMAHの2.38質量%水溶液をメタノール50質量%水溶液で1.04%となるように希釈して、アルカリ性のエッチング液を作成した。このエッチング液に、多孔質ポリイミド膜を浸漬してポリイミド表面の一部を除去した。得られた多孔質ポリイミド膜の透気度は63秒であった。
【0125】
<実施例15>
ワニスの調製の際に、シリカ100重量部に対して10重量部の分散剤を使用したほかは、実施例14と同様にして多孔質ポリイミド膜を形成した。得られた多孔質ポリイミド膜の透気度は60秒であった。
【0126】
上記で得られた多孔質ポリイミド膜の膜特性を評価し、表2にまとめて示した。ガーレー透気度の評価法は上記と同じである。
【0127】
[引張強度]
多孔質ポリイミド膜の強度の評価として、多孔質ポリイミド膜の引張強度を測定した。
上記実施例14、15の多孔質ポリイミド膜のそれぞれについて、1cm×5cmの大きさに切り出して短冊状のサンプルを得た。このサンプルの破断時の応力(MPa)を、RTC−1210A TENSILON(ORIENTEC社製)を用いて評価した。
【0128】
【表2】
【0129】
分散剤を加えた実施例15は、分散剤を加えていない実施例14とくらべて、透過時間が短くなり、孔の連通性が向上したことを示している。また、ケミカルエッチング処理によってもフィルムの強度は低下せず、取り扱い性は良好であった。
【0130】
<評価用コイン電池の作製>
直径20mmのステンレス製コイン外装容器に、炭素負極電極、直径14mmの円形に切断した上記実施例14、15のセパレータ、直径14mmの円形に切断した金属リチウム、更にスペーサとして直径14mmの円形に切断した厚さ200μmの銅箔をこの順番に重ね合わせ、電解液(1mol・dm−3のLiPF:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/1混合溶液(体積比))を溢れない程度に数滴垂らし、ポリプロピレン製のパッキンを介して、ステンレス製のキャップを被せ、コイン電池作製用のかしめ器で密封してセパレータ評価用電池を作製した。製造に際して、第一のワニスを使用して製造した層側表面を負極に接するようにして、セパレータを使用した。この電池を、実施例B1及びB2とする。
【0131】
<コイン電池の充放電特性の評価>
充放電特性は、上記各評価用コイン電池を、恒温槽内で、充電は4.1Vまで2.2mAh(1C)の電流密度にて行った(CC−CV操作)後、放電を2.5Vまで2.2mAh(1C)、3Cの電流密度にて行った(CC操作)。表3にその結果を示す。表3()内の値は、レート3Cにおける静電容量の、1C容量を100%としたとき容量維持率(%)である。
【0132】
<評価用単層ラミネートセル電池の作製>
アルミラミネート外装に20mm×20mmの正極、20mm×20mmの上記実施例のセパレータを順に入れ、電解液(溶媒:エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:7、電解質塩:LiPF 1mol/l)を添加した。更に、20mm×20mmの負極を入れて電池ケースを密閉し、実施例B1及びB2のリチウムイオン二次電池を得た。ここで、電極としては、ニッケル・コバルト・マンガン三元系の正極と、人造黒鉛系の負極を使用し、負極側に、第一のワニスで成膜された層側表面が接するように配置した。
【0133】
更に、市販のポリエチレン(PE)系及びセルロース系セパレータを利用し、上記と同様にして単層ラミネートセル電池を得た。これを、比較例B1及びB2とする。使用したPE系セパレータの平均孔径は80nm、膜厚は20μm、透気度は270秒、空孔率は42%であり、セルロース系セパレータの平均孔径は3000nm、膜厚は25μm、透気度は135秒、空孔率は70%であった。
【0134】
<単層ラミネートセル電池の充放電特性>
作製したリチウムイオン二次電池を用い、充放電測定装置でリチウム吸蔵による電位変化を測定した。温度25℃、充電速度0.2Cで4.2Vになるまで充電し、10分間休止したのち、放電速度2Cで電圧範囲2.7Vまで放電した。放電後は、10分間休止した。その際の、電池のAh利用率及びWh利用率(エネルギー維持率)を評価した。その結果を表3に示す。
【0135】
<セパレータの耐熱性>
各例の電池に使用するセパレータについて、約250℃のはんだごてを用いて以下の基準により耐熱性評価を行った。
○: はんだごての先端をフィルムの中央におしつけてもあとはつくが破れなかった
×: はんだごての先端をフィルムの中央におしつけると突き抜けた
【0136】
<単層ラミネートセル電池の圧壊試験>
圧壊試験としては、単層ラミネートセル電池を電圧4.2Vで充電を行った後、電池を寝かせた状態で長さ方向に対し垂直方向に直径15.8mmの丸棒で圧縮し、電圧が降下した時点で電池の内部短絡が生じたと判断し、その圧力で評価した。また、電圧が降下した時点から5秒後における電圧の降下量をΔV(V)とした。上記圧力は高い値を示すほど好ましく、電圧の降下量は低いほど好ましい。
【0137】
【表3】
【0138】
<単層ラミネートセル電池の充放電特性−低温・充電速度増加−>
実施例B1、比較例B1、B2で作製したリチウムイオン二次電池を用い、充放電測定装置でリチウム吸蔵による電位変化を測定した。温度0℃、充電速度1Cで、充電CCCV:4.2V、CV:1時間、放電:2.7Vとして、5サイクル目のAh効率と容量維持率(1サイクル目の放電容量に対する割合)を求めた。その結果を、表4に示す。
【0139】
<充放電特性評価後の負極表面の観察>
上記充放電特性評価試験終了後の電池から、負極を取り出して、その表面を観察した。表4に、負極面上のデンドライトの発生状況を示す。また、実施例B1、比較例B1及び比較例B2の負極面表面を、光学顕微鏡により500倍に拡大して観察した。その像を図9〜11に示す。
【0140】

【表4】
【0141】
本発明の実施例のセパレータを用いたコイン電池及び単層ラミネートセル電池の動作確認を行った。また、本発明のセパレータを使用した実施例B1の電池の耐熱性及び圧壊試験の性能は、市販のセパレータを用いた比較例B1、B2と比べて優れることを確認した。
【0142】
図9〜11は、上記の充放電特性評価試験終了後の実施例B1及び比較例B1、B2の電池から取り出した、負極の表面の写真である。それぞれ、リチウムデンドライトの発生に基づく白い輝点が観察された。実施例B1の電池において、負極の表面上の輝点はわずかで、充放電によるリチウムデンドライトの発生が効果的に抑えられていることが分かる。これに対し、比較例B1又はB2から取り出した負極面の輝点は大きく、かつ数も多い。すなわち、市販のポリエチレン(PE)系やセルロース系のセパレータを用いた比較例において、リチウムデンドライトの発生が、本発明のセパレータを用いた場合と比べて多発することが確認できる。
【0143】
また、表4及び図9〜11より、本発明の実施例のセパレータを用いた電池では負極面のリチウムデンドライト発生量を抑制することができ、低温時の容量維持率も良好なことから、セパレータに印加される電界を均一化できていることが示唆される。
【0144】
<充放電特性評価後の負極表面の観察>
[ワニスの調製−5]
ポリアミドイミド20g、微粒子としてシリカ(1)80g、分散剤0.4g、及び有機溶剤(2)とを混合・撹拌してワニス(5)を調製した。なお、当該ワニス(5)におけるポリアミドイミドとシリカ(1)との質量比は20:80であり、体積比はおよそ28:72である。
【0145】
[未焼成複合膜の成膜]
上記のワニス(5)を、PETフィルム上にアプリケーターを用い成膜した。100℃で5分間プリベークして、膜厚約28μmの未焼成複合膜を製造した。基材から未焼成複合膜を剥離乾燥して未焼成複合膜(5)、すなわちポリアミドイミド−微粒子複合膜(1)を得た。未焼成複合膜(5)(ポリアミドイミド−微粒子複合膜(1))について、膜中から溶媒は除去されていた。なお、未焼成複合膜の焼成工程は行わなかった。
【0146】
[多孔質ポリアミドイミド膜の形成]
上記で得たポリアミドイミド−微粒子複合膜(1)を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、多孔質ポリアミドイミド膜(1)を得た。
【0147】
<実施例16〜19>
上記で得た多孔質ポリアミドイミド膜(1)について、下記のNaOH溶液を用いて下記表5の要領でケミカルエッチングの条件変更による比較を行った。
・ケミカルエッチング液A:NaOHを30質量%エタノール水溶液(HO:EtOH=70:30)で1.0質量%となるように希釈
・ケミカルエッチング液B:NaOHを30質量%エタノール水溶液(HO:EtOH=70:30)で1.5質量%となるように希釈
・ケミカルエッチング液C:NaOHを30質量%イソプロパノール水溶液(HO:IPOH=70:30)で1.0質量%となるように希釈
・ケミカルエッチング液D:NaOHを30質量%イソプロパノール水溶液(HO:IPOH=70:30)で1.5質量%となるように希釈
【0148】
[ケミカルエッチング]
上記エッチング液A〜Dで、多孔質ポリアミドイミド膜を2分間浸漬して(室温)ポリアミドイミドの一部を除去した。ケミカルエッチング前後の膜厚と、ケミカルエッチング後のガーレー透気度の結果(ただし、比較例5はケミカルエッチング前のガーレー透気度)について、表5に併記する。
【0149】
【表5】
【0150】
表5から、ポリイミド系樹脂としてポリアミドイミドを用いた場合も、多孔質ポリイミド膜の場合と同様、ケミカルエッチングによって、ガーレー透気度が改善され、多孔質ポリアミドイミド膜の表面と裏面との連通度が向上した。透過時間と膜厚変化の関係から、ケミカルエッチング処理による透気度の改善効果は膜厚の減少によるものだけでなく、主に表面の開口と連通孔の拡大による開孔率の拡大であることが考えられる。
【符号の説明】
【0151】
1 微粒子
2 ポリイミド系樹脂部分
3 空孔
4 多孔質ポリイミド系樹脂膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11