(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe(II)の担持量が、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに対して0.001〜0.5mmol/gである請求項1に記載のハイドロカーボンリフォーマトラップ材。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、ベータ型ゼオライトをFe(II)イオンによってイオン交換して得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトを含むハイドロカーボンリフォーマトラップ材に関するものである。ハイドロカーボンリフォーマトラップ材とは、ハイドロカーボンを吸着によって一旦トラップした後に、トラップしたハイドロカーボンを他の物質に改質できる材料のことである。
【0017】
本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトにおいて、Fe(II)イオンは、ベータ型ゼオライトにおける[AlO
2]
-サイトに存在するカチオンとイオン交換されることで、ベータ型ゼオライトに担持される。本発明で重要な点は、ベータ型ゼオライトに含まれるカチオンとイオン交換される鉄イオンがFe(II)イオンであるという点である。カチオンとイオン交換される鉄イオンがFe(III)イオンである場合には、所望とするレベルのガス除去効果を発現することができない。この理由は、ベータ型ゼオライトとして、後述する特定の物性値を有するものを用いることと関連があるのではないかと本発明者は考えている。
【0018】
カチオンとイオン交換される鉄イオンがFe(III)イオンである場合には所望とするレベルのハイドロカーボン除去効果を発現することはできないが、このことは、本発明で用いるFe(II)置換ベータ型ゼオライトがFe(III)イオンを担持することを妨げるものではない。つまりFe(II)置換ベータ型ゼオライトがFe(III)イオンを担持することは許容される。
【0019】
本発明において、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトを用いたリフォーマトラップの対象となるガスは、例えば内燃機関の排気ガスに含まれるガスであるハイドロカーボンガスである。ハイドロカーボンガスに関しては、特にメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、n−ヘプタン及びイソオクタンなどのアルカン類、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン及びメチルヘキセン等のアルケン類、ベンゼン、トルエン、キシレン及びトリメチルベンゼン等の芳香族類などのリフォーマトラップに、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトは有効である。特に、後述する実施例において例証されるとおり、内燃機関の排気ガスに含まれる典型的なハイドロカーボンであるトルエンに関しては、本発明のFe(II)置換ベータ型ゼオライトはトルエンを吸着した後、酸素の存在下、例えば空気中においてこれを二酸化炭素にまで酸化することができる。
【0020】
Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに含まれるFe(II)の量、すなわち担持量は、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに対して0.001〜0.5mmol/gであることが好ましく、0.01〜0.48mmol/gであることが更に好ましく、0.15〜0.45mmol/gであることが好ましい。Fe(II)の担持量をこの範囲に設定することで、ハイドロカーボンの吸着効率、及びハイドロカーボンの酸化を効果的に高めることができる。
【0021】
Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに含まれるFe(II)の担持量は、次の方法で測定される。まず、測定対象となるFe(II)置換ベータ型ゼオライトを秤量する。このFe(II)置換ベータ型ゼオライトをフッ化水素(HF)によって溶解し、溶解液中の鉄の全量を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて定量する。これとは別に、測定対象となるFe(II)置換ベータ型ゼオライト中のFe(III)の量を、H
2−TPR(昇温還元法)によって測定する。そして、鉄の全量からFe(III)の量を差し引くことで、Fe(II)の量を算出する。
【0022】
ベータ型ゼオライトにFe(II)イオンを担持させるには、例えば次の方法を採用することができる。二価の鉄の水溶性化合物水溶液中にベータ型ゼオライトを分散し、撹拌混合する。ベータ型ゼオライトは、前記の水溶液100質量部に対して0.5〜7質量部の割合で混合することが好ましい。二価の鉄の水溶性化合物の添加量は、イオン交換の程度に応じて適切に設定すればよい。
【0023】
混合撹拌は室温で行ってもよく、あるいは加熱下に行ってもよい。加熱下に混合撹拌を行う場合には、液温を10〜30℃に設定することが好ましい。また混合撹拌は大気雰囲気下で行ってもよく、あるいは窒素雰囲気下などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0024】
混合撹拌に際しては、二価の鉄が三価の鉄に酸化されることを防止する化合物を水中に添加してもよい。そのような化合物としては、Fe(II)イオンのイオン交換を妨げず、かつFe(II)イオンがFe(III)イオンに酸化されることを防止し得る化合物であるアスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸の添加量は、添加する二価の鉄のモル数の0.1〜3倍、特に0.2〜2倍とすることが、二価の鉄の酸化を効果的に防止する観点から好ましい。
【0025】
混合撹拌を所定時間行った後、固形分を吸引濾過し、水洗し乾燥させることで、目的とするFe(II)置換ベータ型ゼオライトが得られる。このFe(II)置換ベータ型ゼオライトのX線回折図は、Fe(II)イオンを担持させる前のベータ型ゼオライトのX線回折図とほぼ同じである。つまりゼオライトの結晶構造はイオン交換によっては変化していない。
【0026】
本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトは、構造規定剤を含まない反応混合物を用いて製造されたベータ型ゼオライトをFe(II)イオンでイオン交換して得られたものであることが好ましい。このようなベータ型ゼオライトの好適な製造方法は後述する。
【0027】
本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトは、そのSiO
2/Al
2O
3比が7以上12以下であり、好ましくは8以上11.5以下であり、一層好ましくは8.8以上11以下である。つまり、このFe(II)置換ベータ型ゼオライトは、SiO
2/Al
2O
3比が低いものである。一般にゼオライトにおいてSiO
2/Al
2O
3比が低いことは、イオン交換サイトの数が多いことを意味する。換言すれば、Fe(II)イオンを担持する能力が高いことを意味する。本発明者の検討の結果、意外にも、SiO
2/Al
2O
3比が低いFe(II)置換ベータ型ゼオライトでは、1個のFe(II)イオンが吸着できるハイドロカーボンの分子数を高められることが判明した。したがって本発明のFe(II)置換ベータ型ゼオライトを用いることで、ハイドロカーボンを効率よく吸着することができる。また、トルエン等のハイドロカーボンを吸着した後、これを二酸化炭素にまで酸化することができる。
【0028】
本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトは、上述したSiO
2/Al
2O
3比を有することに加えて、BET比表面積が300〜600m
2/g、特に320〜550m
2/g、とりわけ350〜500m
2/gであることが好ましい。また、ミクロ孔比表面積に関しては、270〜500m
2/g、特に270〜450m
2/g、とりわけ270〜400m
2/gであることが好ましい。更にミクロ孔容積に関しては、0.14〜0.25m
2/g、特に0.14〜0.22m
2/g、とりわけ0.14〜0.21m
2/gであることが好ましい。Fe(II)置換ベータ型ゼオライトとしてこのような物性値を有するものを用いることで、ハイドロカーボンのリフォーマトラップ特性が向上する。特に、トルエン等のハイドロカーボンの酸化を一層確実に行うことができる。なお、後述するように、これらの物性値は、Fe(II)イオンによってイオン交換される前のベータ型ゼオライトにおける対応する物性値と大きく変わらない。
【0029】
本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトは、リチウムを含んでいてもよい。これによっても、低SiO
2/Al
2O
3比を有するFe(II)置換ベータ型ゼオライトを容易に得ることができる。Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに含まれるリチウムの量は、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに対して0.001〜0.4mmol/gであることが好ましく、0.001〜0.3mmol/gであることが更に好ましい。
【0030】
本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトは、内燃機関のコールドスタート時に排出されるハイドロカーボンのトラップ性に特に優れたものである。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのコールドスタート時には三元触媒の温度が十分に高くなっていないので、三元触媒による排気ガスの浄化を効果的に行うことが困難であるところ、この三元触媒とは別に本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトを含む吸着剤(触媒)を用いることで、コールドスタート時の比較的低温(例えば−40℃〜200℃程度)の排気ガスに含まれるハイドロカーボンをトラップすることができ、排気ガスを浄化することができる。コールドスタートから数分が経過して、排気ガスの温度がコールドスタート時よりも上昇して50℃〜400℃程度になると、本発明で用いられるFe(II)置換ベータ型ゼオライトにトラップされていたハイドロカーボンが酸素の存在下に改質されて放出される。改質の程度は、ハイドロカーボンが例えばトルエンである場合には、トルエンが少なくともベンゼンにまで改質され、好ましくは二酸化炭素にまで酸化される。このような酸化が生じる理由は、現在のところ明確ではないが、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに含まれる鉄化学種及び気相酸素の寄与が大きいものと考えられる。ここでいう鉄化学種とは、例えばベータ型ゼオライトのイオン交換サイトに存在するFe(II)イオンや、ゼオライトの表面に存在する酸化鉄(III)などが挙げられる。雰囲気中における酸素の濃度は1vol%以上40vol%以下であることが好ましい。
【0031】
以上のとおり、本発明のリフォーマトラップ材によれば、内燃機関の排気ガスの浄化にこれまで用いられてきた三元触媒を用いなくても排気ガスを浄化することが可能になる。尤も、このことは三元触媒の使用を妨げるものではなく、本発明のリフォーマトラップ材を三元触媒と併用することは何ら差し支えない。三元触媒と併用する場合、本発明のリフォーマトラップ材によって改質された物質は、改質前のハイドロカーボンに比べて低い動作温度で三元触媒によって浄化されるので、三元触媒の動作温度を低くできるという利点がある。
【0032】
Fe(II)イオンによってイオン交換されるゼオライトであるベータ型ゼオライトとして、本発明においては特定の物性値を有するベータ型ゼオライトを用いることが好ましい。詳細には、本発明で用いられるベータ型ゼオライト(以下、このゼオライトのことを、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトとの対比で「置換前ベータ型ゼオライト」という。)は、SiO
2/Al
2O
3比が低いアルミニウムリッチなものである点に特徴の一つを有する。詳細には、置換前ベータ型ゼオライトは、そのSiO
2/Al
2O
3比が、好ましくは7以上12以下、更に好ましくは8以上11.5以下、一層好ましくは8.8以上11以下であるアルミニウムリッチなものである。このようなアルミニウムリッチな置換前ベータ型ゼオライトは、ナトリウム型の状態で測定されたBET比表面積が好ましくは300〜700m
2/g、更に好ましくは350〜600m
2/gである。また、ナトリウム型の状態で測定されたミクロ孔比表面積が好ましくは270〜500m
2/g、更に好ましくは380〜500m
2/gである。更に、ナトリウム型の状態で測定されたミクロ孔容積は好ましくは0.14〜0.25cm
3/g、更に好ましくは0.14〜0.21cm
3/gである。
【0033】
先に述べたとおり、置換前ベータ型ゼオライトにおけるSiO
2/Al
2O
3比、BET比表面積、ミクロ孔比表面積及びミクロ孔容積の値は、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトにおける対応する値と大きく変わらない。
【0034】
置換前ベータ型ゼオライトは、ナトリウム型のものも包含し、更にナトリウムイオンがプロトンとイオン交換されてH
+型になったものも包含する。ベータ型ゼオライトがH
+型のタイプである場合には、上述の比表面積等の測定は、プロトンをナトリウムイオンで置換した後に行う。ナトリウム型のベータ型ゼオライトをH
+型に変換するには、例えば、ナトリウム型のベータ型ゼオライトを硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩水溶液中に分散し、ゼオライト中のナトリウムイオンをアンモニウムイオンと置換する。このアンモニウム型のベータ型ゼオライトを焼成することで、H
+型のベータ型ゼオライトが得られる。
【0035】
上述の比表面積や容積は、後述する実施例で説明されているとおり、BET表面積測定装置を用いて測定される。
【0036】
上述の物性を有するアルミニウムリッチな置換前ベータ型ゼオライトは、後述する製造方法によって好適に製造される。本発明において、置換前ベータ型ゼオライトが上述した物性を達成できた理由は、該製造方法を用いることで、得られる置換前ベータ型ゼオライトの結晶構造中に生じることのある欠陥の発生を抑制できたからではないかと推定されるが、詳細は明らかではない。
【0037】
次に、置換前ベータ型ゼオライトの好適な製造方法について
図1を参照しながら説明する。
図1において、有機SDAを用いる従来のベータ型ゼオライトの合成法は、<1>、<2>、<3>の順で行われる。また、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<9>の順で行われる方法も知られている(例えば中国特許出願公開第101249968A号明細書(以下「従来法」ともいう。))。従来法においては、種結晶の使用が必須であり、種結晶の製造のためにはテトラエチルアンモニウムイオンという有機化合物を構造規定剤(以下「SDA」ともいう。)が必須である。また、従来法で得られたベータ型ゼオライトを種結晶として使用するためには、高温焼成によってテトラエチルアンモニウムイオンを除去する必要がある。
【0038】
この方法に対して、本発明においては構造規定剤を含まない反応混合物を用いて置換前ベータ型ゼオライトを製造することが好ましい。具体的には、以下の六通りの方法で置換前ベータ型ゼオライトを製造することが可能である。一番目の方法は、従来法と同じ<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<9>の順に行われる方法である。ただし反応条件が従来法と異なる。したがって本発明によれば、SiO
2/Al
2O
3比が低い置換前ベータ型ゼオライトを製造することができる。二番目の方法は<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<7>、<6>、<9>の順に行われる方法である。この方法では、熟成を行った後に静置加熱することによって、低SiO
2/Al
2O
3比の種結晶を有効に使用できる。
【0039】
三番目の方法は、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<7>、<8>、<9>の順に行われる方法である。この方法でも反応条件が従来法と異なる。
【0040】
本製造方法では、以下の三通りの順序も可能である。
・<10>、<5>、<6>、<9>
・<10>、<5>、<7>、<6>、<9>
・<10>、<5>、<7>、<8>、<9>
これらの場合も種結晶のSiO
2/Al
2O
3比や、反応混合物の組成などの反応条件が従来法と異なる。その上、これらの三通りの方法では、使用する種結晶として、本発明の方法によって得られた置換前ベータ型ゼオライトを用いている。すなわち、この三通りの製造方法では種結晶が繰り返し使用可能なので、本質的に有機SDAを使用しない。要するに、この三通りの製造方法は、環境負荷が究極的に小さいグリーンプロセスによるベータ型ゼオライトの製造方法ということができる。
【0041】
本発明で用いる置換前ベータ型ゼオライトの方法について更に詳細に説明する。
図1における<1>、<2>、<3>の順の方法については従来の有機SDAを用いる方法と同一である。
図1における<4>の種結晶に関し、従来法においては、種結晶のSiO
2/Al
2O
3比範囲は22〜25の狭い範囲に限定されている。これに対して本製造方法においては、
図1における<4>に示す種結晶のSiO
2/Al
2O
3比が特徴の一つである。本製造方法では、SiO
2/Al
2O
3比=8〜30の範囲の種結晶を使用することが可能である。種結晶のSiO
2/Al
2O
3比が8よりも小さいベータ型ゼオライトは合成することが極めて困難であるため一般に使用することはない。また種結晶のSiO
2/Al
2O
3比が30を超えると、反応混合物の組成に依存せず生成物はZSM−5となり易い。また本製造方法における種結晶の添加量は、反応混合物中に含まれるシリカ成分に対して0.1〜20質量%の範囲である。この添加量は少ない方が好ましいが、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して決められる。好ましい添加量は1〜20質量%であり、更に好ましい添加量は1〜10質量%である。
【0042】
本製造方法で用いるベータ型ゼオライト種結晶の平均粒子径は、150nm以上、好ましくは150〜1000nm、一層好ましくは200〜600nmである。合成によって得られる置換前ベータ型ゼオライトの結晶の大きさは、一般的に均一ではなく、ある程度の粒子径分布を持っている、その中で最大頻度を有する結晶粒子径を求めることは困難ではない。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径を指す。有機SDAを用いるベータ型ゼオライトは一般的に平均粒子径が小さく、100nm〜1000nmの範囲が一般的である。しかし、小さい粒子が凝集しているために粒子径が不明確であるか、又は1000nmを超えるものも存在する。また、100nm以下の結晶を合成するためには特別な工夫が必要であり、高価なものとなってしまう。したがって、本製造方法では平均粒子径が150nm以上のベータ型ゼオライトを種結晶として用いる。本製造方法によって得られる置換前ベータ型ゼオライトもこの範囲の平均粒子径を有するので、種結晶として好適に使用することができる。
【0043】
種結晶を添加する反応混合物は、例えば以下に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合して得られる。反応混合物の組成がこの範囲外であると、目的とする置換前ベータ型ゼオライトを得ることが容易でない。
・SiO
2/Al
2O
3=6〜40
・Na
2O/SiO
2=0.05〜0.25
・Li
2O/SiO
2=0.005〜0.25
・H
2O/SiO
2=5〜50
【0044】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO
2/Al
2O
3=10〜40
・Na
2O/SiO
2=0.1〜0.25
・Li
2O/SiO
2=0.01〜0.15
・H
2O/SiO
2=10〜25
【0045】
前記のモル比を有する反応混合物を得るために用いられるシリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0046】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、アルミン酸ナトリウムや水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0047】
アルカリ源としては、ナトリウムの場合には例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。リチウムの場合には、塩化リチウム及び臭化リチウムなのどのリチウムハロゲン化物や、酢酸リチウムなどのリチウム塩類を用いてもよいし、水酸化リチウムを用いてもよい。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のNa
2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0048】
反応混合物として、以下に示す組成を有するものを用いる場合には、該反応混合物中にリチウムイオンが含まれていなくても、目的とする置換前ベータ型ゼオライトを得ることができる。
・SiO
2/Al
2O
3=40〜200
・Na
2O/SiO
2=0.22〜0.4
・H
2O/SiO
2=10〜50
【0049】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO
2/Al
2O
3=44〜200
・Na
2O/SiO
2=0.24〜0.35
・H
2O/SiO
2=15〜25
【0050】
反応混合物の組成として、以下の範囲を採用することも好ましい。
・SiO
2/Al
2O
3=10〜40
・Na
2O/SiO
2=0.05〜0.25
・H
2O/SiO
2=5〜50
【0051】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO
2/Al
2O
3=12〜40
・Na
2O/SiO
2=0.1〜0.25
・H
2O/SiO
2=10〜25
【0052】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すればよい。例えば、室温下、水酸化ナトリウム水溶液にアルミナ源及びリチウム源を添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して撹拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源と混合しながら加えるか又はシリカ源を添加した後に加える。その後、種結晶が均一に分散するように撹拌混合する。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20〜25℃)で行えばよい。
【0053】
種結晶を含む反応混合物は、密閉容器中に入れて加熱して反応させ、ベータ型ゼオライトを結晶化する。この反応混合物には有機SDAは含まれていない。結晶化を行う一つの方法は、従来法に示されているように、熟成することなく静置法で加熱することである(<4>、<5>、<6>、<9>の手順)。
【0054】
一方、SiO
2/Al
2O
3比の低い種結晶を用いた場合は、熟成をした後に、撹拌することなく加熱する方が、結晶化が進行し易い(<4>、<5>、<7>、<6>、<9>の手順)。熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作をいう。熟成においては、一般的には、撹拌することなしに静置する。熟成を行うことで、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに撹拌下での加熱を可能にすること、反応速度を上げることなどの効果が奏されることが知られているが、作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本製造方法では、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは20〜60℃で、好ましくは2時間から1日の範囲で熟成が行われる。
【0055】
加熱中に反応混合物温度の均一化を図るため撹拌をする場合は、熟成を行った後に加熱撹拌すれば、不純物の副生を防止することができる(<4>、<5>、<7>、<8>、<9>の手順)。撹拌は反応混合物の組成と温度を均一化するために行うものであり、撹拌羽根による混合や、容器の回転による混合などがある。撹拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すればよい。常時撹拌ではなく、間歇撹拌でもよい。このように熟成と撹拌を組み合わせることによって、工業的量産化が可能となる。
【0056】
以下に記載する三通りの方法は、本製造方法の特徴であるグリーンプロセスによる置換前ベータ型ゼオライトの製造法である。この三通りの方法によれば、種結晶として本製造方法によって得られた置換前ベータ型ゼオライトを用いた無限回の自己再生産が可能となり、有機SDAを全く使用しない製造プロセスが可能となる。すなわち、<10>、<5>、<6>、<9>の順の方法、<10>、<5>、<7>、<6>、<9>の順の方法、<10>、<5>、<7>、<8>、<9>の順の方法である。それぞれの工程の特徴は前記のとおりである。撹拌加熱を行う場合は、熟成を行うことが好ましい。
【0057】
静置法及び撹拌法のどちらの場合も、加熱温度は100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲であり、自生圧力下での加熱である。100℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでベータ型ゼオライトの生成効率が悪くなる。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いベータ型ゼオライトが生成するまで加熱すればよい。一般に5〜150時間程度の加熱によって、満足すべき結晶性の置換前ベータ型ゼオライトが得られる。
【0058】
前記の加熱によって置換前ベータ型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末を濾過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。乾燥したままの状態で有機物を含んでいないので焼成の必要はない。
【0059】
このようにして得られた置換前ベータ型ゼオライトは、先に述べたとおりFe(II)イオンでイオン交換されてFe(II)置換ベータ型ゼオライトとなる。Fe(II)置換ベータ型ゼオライトは、このままの状態でハイドロカーボンのリフォーマトラップ材として用いてもよく、あるいは該Fe(II)置換ベータ型ゼオライトを含むリフォーマトラップ材として用いてもよい。Fe(II)置換ベータ型ゼオライトがどのような形態であっても、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトをハイドロカーボンと固気接触させることで、該ガスをFe(II)置換ベータ型ゼオライトに吸着によりトラップすることができ、またトラップしたハイドロカーボンを改質することができる。
【0060】
本発明においては、ハイドロカーボンガスそのものをFe(II)置換ベータ型ゼオライトと接触させてハイドロカーボンガスを除去することに加えて、ハイドロカーボンガスを含むガスをFe(II)置換ベータ型ゼオライトと接触させて、該ガス中からハイドロカーボンガスを除去することもできる。そのようなガスの例としては、ガソリンや軽油等の炭化水素を燃料とする内燃機関の排気ガスや、各種のボイラや焼却炉から発生する排気ガスなどが挙げられる。特にトルエン等のハイドロカーボンに関しては、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトにトルエンを含むハイドロカーボンガスを吸着させ、次いで少なくともトルエンが吸着した該Fe(II)置換ベータ型ゼオライトを酸素の存在下に加熱することでトルエンを改質して、トルエンを少なくともベンゼンに改質し、好ましくは二酸化炭素にまで酸化することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。なお、以下の実施例、比較例及び参考例で用いた分析機器は以下のとおりである。
粉末X線回折装置:マック サイエンス社製、粉末X線回折装置 MO3XHF
22、Cukα線使用、電圧40kV、電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
SiO
2/Al
2O
3比:ベータ型ゼオライトを、フッ化水素(HF)を用いて溶解させ、溶解液を、ICPを用いて分析しAlを定量した。またベータ型ゼオライトを、水酸化カリウム(KOH)を用いて溶解させ、溶解液を、ICPを用いて分析しSiを定量した。定量したSi及びAlの量に基づきSiO
2/Al
2O
3比を算出した。
BET表面積、ミクロ孔比表面積及びミクロ孔容積測定装置:(株)カンタクローム インスツルメンツ社製 AUTOSORB−1
【0062】
〔実施例1〕
(1)置換前ベータ型ゼオライトの製造
SiO
2/Al
2O
3比が9.4であるFe(II)置換ベータ型ゼオライトを製造した例である。純水12.71gに、アルミン酸ナトリウム0.801gと、36%水酸化ナトリウム1.443gとを溶解した。微粉状シリカ3.048gと、SiO
2/Al
2O
3比=24.0のベータ型ゼオライト種結晶0.305gを混合したものを、少しずつ前記の水溶液に添加して撹拌混合し、SiO
2/Al
2O
3=18.0、Na
2O/SiO
2=0.20、H
2O/SiO
2=15の組成の反応混合物を得た。このベータ型ゼオライト種結晶は、SDAを用いて以下に述べる方法で得られたものである。この反応混合物を60ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び撹拌することなしに150℃で60時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物を濾過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物についてXRD測定を行ったところ、この生成物はSDA等の不純物を含まないベータ型ゼオライトであることが確認された。このようにして得られた置換前ベータ型ゼオライトの物性値を表1に示す。
【0063】
〔ベータ型ゼオライト種結晶の製造方法〕
テトラエチルアンモニウムヒドロキシドをSDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、微粉状シリカ(Mizukasil P707)をシリカ源とする従来公知の方法により、165℃、96時間、撹拌加熱を行って、SiO
2/Al
2O
3比が24.0のベータ型ゼオライトを合成した。これを電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、有機物を含まない結晶を製造した。X線回折の結果から、この結晶はベータ型ゼオライトであることが確認された。この結晶を走査型電子顕微鏡により観察した結果、平均粒子径は280nmであった。このベータ型ゼオライトは、SDAを含まないものであった。
【0064】
(2)Fe(II)置換ベータ型ゼオライトの製造
ポリプロピレン容器に60mlの蒸留水、置換前ベータ型ゼオライト1g及び加える鉄化合物の2倍のモル数のアスコルビン酸を加えた後、Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前ベータ型ゼオライトに対して38質量%加え、窒素雰囲気下、室温で1日撹拌した。その後、沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄後、乾燥させFe
2+を0.324mmol/g担持したFe(II)置換ベータ型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は、上述した方法で求めた。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについてXRD測定を行ったところ、ピーク位置及びピーク強度が置換前ベータ型ゼオライトとほぼ変わらないことが観察され、イオン交換後もベータ型ゼオライトの構造を維持していることが確認された。
【0065】
(3)ハイドロカーボンリフォーマトラップ材としての評価
内燃機関から排出される排気ガスに含まれるハイドロカーボンの典型であるトルエンを吸着の対象ガスとして用いた。Fe(II)置換ベータ型ゼオライト20mgを、U字型ガラス反応管に入れ、390℃で1時間加熱処理を行った。次いで50℃でトルエンを飽和状態になるまで吸着させた。その後、10K/minで390℃まで昇温脱離測定(TPD;TCD検出器)を行い、吸着・脱離特性を評価した。同時に四重極型質量分析計(Q−MASS)を用いて脱離後のガス成分を分析した。キャリアガスにはHeガス(トルエンの場合、
図2参照)と、He/10vol%のO
2の混合ガス(ベンゼン及び二酸化炭素の場合、
図3及び
図4参照)を用いた。その結果を、
図2ないし
図4に示す。
図2は、キャリアガスにHeガスを用いたものであり、これらの図から、Fe(II)置換ベータ型ゼオライトに吸着したトルエンは、加熱によって、ごく一部がベンゼンに改質される以外は、二酸化炭素までに完全酸化されることが判る。なお、これらの図には示していないが、Q−MASSによる脱離後のガス成分の分析によれば、キシレン及びメタンの生成は認められなかった。このことは、本発明のFe(II)置換ベータ型ゼオライトをトルエンのリフォーマトラップ材として用いた場合に、改質による生成物が二酸化炭素とベンゼンのみであることを強く示唆している。
更に、Q−MASSの測定結果から、トルエンの吸着量(任意単位)に対する二酸化炭素のピーク面積(任意単位)の割合を計算し、後述する比較例1の数値を1.0としたときの相対強度を求めた。この相対強度をトルエンの改質の程度の指標として用いた。この相対強度はその数値が高い程、トルエンから二酸化炭素までに完全酸化されることを表す。その結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例2〕
(1)置換前ベータ型ゼオライトの製造
SiO
2/Al
2O
3比が10.1であるFe(II)置換ベータ型ゼオライトを製造した例である。純水114.5gに、アルミン酸ナトリウム1.864gと、50%水酸化ナトリウム11.528gとを溶解した。微粉状シリカ16.082gと、SiO
2/Al
2O
3比=24.0のベータ型ゼオライト種結晶1.608gを混合したものを、少しずつ前記の水溶液に添加して撹拌混合し、SiO
2/Al
2O
3=40、Na
2O/SiO
2=0.3、H
2O/SiO
2=25の組成の反応混合物を得た。このベータ型ゼオライト種結晶は、実施例1で用いたものと同じである。この反応混合物を300ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び撹拌することなしに140℃で48時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物を濾過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物についてX線回折測定を行ったところ、SDA等の不純物を含まないベータ型ゼオライトであることが確認された。このようにして得られた置換前ベータ型ゼオライトの物性値を表1に示す。
【0067】
(2)Fe(II)置換ベータ型ゼオライトの製造
ポリプロピレン容器に40mlの蒸留水、置換前ベータ型ゼオライト1g及び加える鉄化合物の2倍のモル数のアスコルビン酸を加えた後、Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前ベータ型ゼオライトに対して37質量%加え、窒素雰囲気下、室温で1日撹拌した。その後、沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄後、乾燥させFe
2+を0.419mmol/g担持したFe(II)置換ベータ型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は、上述した方法で求めた。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについてXRD測定を行ったところ、ピーク位置及びピーク強度が置換前ベータ型ゼオライトとほぼ変わらないことが観察され、イオン交換後もベータ型ゼオライトの構造を維持していることが確認された。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
〔比較例1〕
(1)置換前ベータ型ゼオライトの製造
本比較例は、SiO
2/Al
2O
3比が12.4であるFe(II)置換ベータ型ゼオライトを製造した例である。本比較例では、実施例1で製造した置換前ベータ型ゼオライトに以下の処理を施した。
ベータ型ゼオライトを硝酸アンモニウム水溶液中に分散させた。ベータ型ゼオライトと硝酸アンモニウムと水との質量比は1:2:50とした。この分散液を80℃に加熱した状態下に24時間にわたって静置してイオン交換を行った。その後、濾過を行い、ベータ型ゼオライトを濾別した。イオン交換及び濾過の操作をもう一度繰り返した後、水洗して80℃で乾燥して、アンモニウム型のベータ型ゼオライトを得た。
アンモニウム型のベータ型ゼオライトを700℃に加熱した状態下に、アルゴン−水蒸気の混合ガスを24時間にわたって連続して流通させ、水蒸気により暴露してプロトン型のベータ型ゼオライトを得た。
得られたプロトン型のベータ型ゼオライトを0.1mol/Lの硝酸水溶液で酸処理した。硝酸水溶液の温度は60℃とした。硝酸水溶液は、ベータ型ゼオライト0.1gに対して10mL添加した。マグネチックスターラーで液を撹拌しながら2時間にわたって処理を行った。このようにしてSiO
2/Al
2O
3比が12.4であるプロトン型のベータ型ゼオライトを得た。
該プロトン型のベータ型ゼオライト1gを1mol/L硝酸ナトリウム水溶液15mlに分散させ、80℃に加熱した状態下に24時間にわたって撹拌した後、濾過を行い、水洗して80℃で乾燥して、ナトリウム型のベータ型ゼオライトを得た。このようにして得られた置換前ベータ型ゼオライトの物性値を表1に示す。
【0069】
(2)Fe(II)置換ベータ型ゼオライトの製造
ポリプロピレン容器に40mlの蒸留水、置換前ベータ型ゼオライト1g及び加える鉄化合物の2倍のモル数のアスコルビン酸を加えた後、Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前ベータ型ゼオライトに対して30質量%加え、窒素雰囲気下、室温で1日撹拌した。その後、沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄後、乾燥させFe
2+を0.114mmol/g担持したFe(II)置換ベータ型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は、上述した方法で求めた。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについてXRD測定を行ったところ、ピーク位置及びピーク強度が置換前ベータ型ゼオライトとほぼ変わらないことが観察され、イオン交換後もベータ型ゼオライトの構造を維持していることが確認された。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
〔比較例2〕
(1)置換前ベータ型ゼオライトの製造
本比較例は、SiO
2/Al
2O
3比が25.0であるFe(II)置換ベータ型ゼオライトを製造した例である。本比較例では、実施例1で製造した置換前ベータ型ゼオライトに以下の処理を施した。
ベータ型ゼオライトを硝酸アンモニウム水溶液中に分散させた。ベータ型ゼオライトと硝酸アンモニウムと水との質量比は1:2:50とした。この分散液を80℃に加熱した状態下に24時間にわたって静置してイオン交換を行った。その後、濾過を行い、ベータ型ゼオライトを濾別した。イオン交換及び濾過の操作をもう一度繰り返した後、水洗して80℃で乾燥して、アンモニウム型のベータ型ゼオライトを得た。
アンモニウム型のベータ型ゼオライトを700℃に加熱した状態下に、アルゴン−水蒸気の混合ガスを24時間にわたって連続して流通させ、水蒸気により暴露してプロトン型のベータ型ゼオライトを得た。
得られたプロトン型のベータ型ゼオライトを0.7mol/Lの硝酸水溶液で酸処理した。硝酸水溶液の温度は60℃とした。硝酸水溶液は、ベータ型ゼオライト0.1gに対して10mL添加した。マグネチックスターラーで液を撹拌しながら2時間にわたって処理を行った。このようにしてSiO
2/Al
2O
3比が25.0であるプロトン型のベータ型ゼオライトを得た。
該プロトン型のベータ型ゼオライト1gを1mol/L硝酸ナトリウム水溶液15mlに分散させ、80℃に加熱した状態下に24時間にわたって撹拌した後、濾過を行い、水洗して80℃で乾燥して、ナトリウム型のベータ型ゼオライトを得た。このようにして得られた置換前ベータ型ゼオライトの物性値を表1に示す。
【0071】
(2)Fe(II)置換ベータ型ゼオライトの製造
ポリプロピレン容器に40mlの蒸留水、置換前ベータ型ゼオライト1g及び加える鉄化合物の2倍のモル数のアスコルビン酸を加えた後、Fe(II)SO
4・7H
2Oを、置換前ベータ型ゼオライトに対して17質量%加え、窒素雰囲気下、室温で1日撹拌した。その後、沈殿物を吸引濾過し、蒸留水で洗浄後、乾燥させFe
2+を0.058mmol/g担持したFe(II)置換ベータ型ゼオライトを得た。Fe
2+の担持量は、上述した方法で求めた。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについてXRD測定を行ったところ、ピーク位置及びピーク強度が置換前ベータ型ゼオライトとほぼ変わらないことが観察され、イオン交換後もベータ型ゼオライトの構造を維持していることが確認された。得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトについて実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトを用いると、トルエンを二酸化炭素にまで完全酸化させることが可能であることが判る。これに対して、比較例で得られたFe(II)置換ベータ型ゼオライトを用いた場合には、トルエンを二酸化炭素にまで酸化させられないことが判る。