【0008】
実施形態の熱電変換材料は、下記組成式(1)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体からなる熱電変換材料において、MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体内にTi濃度の異なる領域を有するMgAgAs型結晶粒子を具備することを特徴とするものである。
(A
aTi
b)
cD
dX
e …組成式(1)
(上記組成式(1)中、d=1としたとき、0.2≦a≦0.7、0.3≦b≦0.8、a+b=1、0.93≦c≦1.08、0.93≦e≦1.08である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはNi、CoおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少なくとも一種以上の元素である。)。
組成式(1)中、A元素はZr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)の少なくとも1種以上である。A元素は後述するTi、X元素と共にMgAgAs型結晶構造を有する相を主相とするために必要な元素である。また、熱電変換特性を向上させるためにはZrとHf両方含有していることが好ましい。ZrとHfの両方を含有させる場合はZrとHfの原子比をZr/Hf原子比=0.3〜0.7の範囲が好ましい。また、コスト低減のためにはHf/Zr原子比を0.1以下(Zr/Hf原子比が0.9以上)にすることが好ましい。
また、Ti(チタン)はZrやHfと比べて価格的に安価であることからA元素の一部をTiで置き換えると熱変換材料のコストダウンを図ることができる。また、Tiの含有により熱伝導率低減の効果が得られる。
X元素は、Sn(錫)またはSb(アンチモン)の少なくとも一種以上の元素である。また、熱電変換特性を向上させるためにはSnとSb両方含有していることが好ましい。
D元素は、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)から選ばれる少なくとも1種以上の元素である。D元素はMgAgAs型結晶構造の相安定化のために有効な元素である。これらの元素の中ではNiやCoが好ましく、さらに耐食性も向上する。
各元素の原子比は、d=1としたとき、0.2≦a≦0.7、0.3≦b≦0.8、a+b=1、0.92≦c≦1.08、0.92≦e≦1.08である。この範囲を外れるとMgAgAs型結晶構造の相安定化が図れず、十分な熱電特性が得られない。なお、組成式(1)は熱電変換材料の試料片0.1g以上の組成を調べた時の平均値である。
また、N型熱電変換材料とする場合はD元素をNiリッチかつX元素としてSnリッチ組成とし、P型熱電変換材料とする場合はD元素をCoリッチかつX元素をSbリッチとすることが好ましい。
また、実施形態の熱電変換材料は、MgAgAs型結晶粒子を面積比で92%以上具備していればよい。つまりは、その他の相が8%以下存在していてもよい。また、その他の相は、4a族−Sn相(例えばTi
5Sn
3)が8%以下、Sn相が2%以下、4a族酸化物が1%以下、などが挙げられる。また、原料の溶融工程中に、ルツボから混入する成分との反応相が1.5%以下含まれてもよい。ルツボから混入する成分との反応相としては、Al系ルツボ(アルミナ製)を使った場合のAlNi相、AlCo相などD元素との反応物が挙げられる。
また、上記組成式(1)に示した以外の金属不純物は3000wtppm以下,さらには2500wtppm以下であることが好ましい。D元素にNi及びCoよりなる群から選択される少なくとも1種類を用いる場合、金属不純物は主に鉄(Fe)またはクロム(Cr)が挙げられる。また、金属不純物の一部または全部はMgAgAs型結晶格子の中に含まれていてもよい。
実施形態の熱電変換材料は、組成式(1)で表わされ、MgAgAs型結晶構造を有する多結晶体からなる熱電変換材料において、MgAgAs型結晶粒子内にTi濃度の異なる領域を有する結晶粒子を具備することを特徴とするものである。これは一つのMgAgAs型結晶粒子においてTi濃度の異なる領域が存在している結晶粒子が存在することを意味するものである。実施形態では、結晶粒子内にTi濃度の異なる領域を具備させることにより、ZT値の向上および特性のばらつきを低減させることができるのである。
結晶粒子内にTi濃度の異なる領域の有無はEBSD分析で確認可能である。EBSDは後方散乱電子線回折(Electron Backscatter Diffraction)のことである。EBSDは、SEM試料室内に傾斜してセットした試料に電子線を照射し、蛍光スクリーンに投影された後方散乱電子線回折パターンをCCDカメラで画像を取り込み、得られた結晶情報を指数付けを行い、結晶方位を測定する方法である。結晶情報としては、空間群、格子定数、原子座標(結晶方位)などが挙げられる。また、結晶情報を画像化する際にカラーマッピング機能を使うと、一つの結晶粒子内に色の異なる領域が存在することが分析できる。一つの結晶粒子内に「色の異なる領域」が存在するということは、組成の異なる相構造が存在することを意味するものである。実施形態の熱電変換材料は、組成式(1)におけるTi量を示すb値が0.3≦b≦0.8であることから、組成が異なる相構造はTi濃度が異なる2相以上の相構造であると言える。また、Tiの特性X線を調べたとき、一つの結晶粒子内にTiの特性X線のピーク強度比が異なる領域が存在するため、この点からも分析可能である。
なお、EBSDの分析は、熱電変換材料の任意の焼結面を表面粗さRa5μm以下の平坦面に研磨してから行うものとする。また、EBSDの分析は、加速電圧20kV、倍率1000倍以上で観察するものとする。また、熱電変換材料の任意の焼結面をEBSD(後方散乱電子線回折)にて分析する際に、Tiの特性X線のピーク強度比を15以上の領域と15未満の領域をカラーマッピングすれば、一つのMgAgAs型結晶粒子内にTi濃度の異なる領域があることが分かる。
図2に実施形態の熱電変換材料の結晶組織の一例を示した。図中、7はMgAgAs型結晶粒子、8はTi濃度の異なる領域である。例えば、Tiの特性X線のピーク強度比を15以上の領域と15未満の領域をカラーマッピングを行えば、Ti濃度の高い領域(特性X線が15以上の領域)とTi濃度の低い領域(特性X線が15未満の領域)を区別することができる。また、カラーマッピングの結果、一つの結晶粒子内に2か所以上のTi濃度の異なる領域8を具備してもよい。
また、熱電変換材料の任意の断面をEBSD(後方散乱電子線回折)にて一つのMgAgAs型結晶粒子内を0.2μm間隔でTiの特性X線を測定し、横軸にTiの特性X線の
ピーク強度比、縦軸にTiの特性X線
ピーク強度比毎の頻度をプロットした頻度グラフを作成したとき、頻度グラフはピークが2つ以上存在するMgAgAs型結晶粒子を具備することが好ましい。
図3にTiの特性X線の測定方法の一例を示した。図中、7はMgAgAs型結晶粒子、9はTiの特性X線の測定箇所、である。一つのMgAgAs型結晶において、0.2μm間隔でTiの特性X線を測定する。それぞれ測定したTiの特性X線の
ピーク強度比を求める。
ピーク強度比毎に出現頻度をプロットして頻度グラフを作成する。一つのMgAgAs型結晶粒子を0.2μm間隔で直線的に測定箇所を変えながら測定することにより、結晶粒子内にTi濃度の異なる領域が存在することが分かる。
また、頻度グラフを作成したとき、ピークが2つ以上存在することが好ましい。
図4に実施例7の
ピーク強度比−頻度グラフの一例を示した。
図4は横軸に
ピーク強度比、縦軸にその
ピーク強度比の頻度を示したものである。後述する実施例7では、
ピーク強度比22.5、
ピーク強度比28、
ピーク強度比32、
ピーク強度比37に4つのピークがある。
ピーク強度比22.5のピークをP
1、
ピーク強度比28のピークをP
2、
ピーク強度比32のピークをP
3、
ピーク強度比37のピークをP
4として
図4に示す。
また、熱電変換材料の任意の焼結面をEBSD(後方散乱電子線回折)にて一つのMgAgAs型結晶粒子内を0.2μm間隔でTiの特性X線を測定し、横軸にTiの特性X線の
ピーク強度比、縦軸にTiの特性X線
ピーク強度
比毎の頻度をプロットした頻度グラフを作成したとき、頻度グラフはピークが2つ以上存在するMgAgAs型結晶粒子を具備し、最も大きなピークとなる頻度K1と最も小さなピークとなる頻度K2の比(K1/K2)が1.2以上であることが好ましい。例えば、
図4では、最も高いピークP
1の
ピーク強度比は22.5であり頻度K1=1070、最も低い
ピーク強度比は37であり、頻度K2=283となり、K1/K2=1070/283=3.78となる。
(K1/K2)比が1.2以上であるということは、一つの結晶粒子内のTi濃度差が大きくなっていることを意味するものである。ピークが2つ以上存在し、そのピーク比が1.2以上であるということは、一つの結晶粒子内にTiリッチ領域とTiプアー領域が存在することを意味する。また、ピークとなることにより、Tiリッチ領域の組成はそれぞれTi量の同じ組成であり、Tiプアー領域の組成もTi量が同じ組成になる。このようなTi分布とすることにより、一つの結晶粒子内にTi濃度が異なる領域を具備させつつ、Tiリッチ領域のばらつきを低減させ、Tiプアー領域の組成のばらつきを低減させることができるので特性の安定化に効果がある。
また、K1/K2が1.2以上であるということは、一つのMgAgAs型結晶内にTi濃度の濃い領域が多いことを示す。Ti濃度の濃い領域が多いと、熱伝導率が3.0W/m・K以下、さらには2.0W/m・K以下と低熱伝導化できるので好ましい。
また、ピークが2以上ある頻度グラフにおいて、頻度の最大値と最小値の差が10以上、さらには15以上であることが好ましい。「最大値−最小値≧10」であるということは、頻度グラフが幅の広いブロードなグラフであることを意味する。ブロードなグラフであるということは、MgAgAs型結晶粒子内のTi濃度の差が大きいことを示す。結晶粒子内でのTi濃度差が大きければ、特性向上の効果をより得易くなる。
また、熱電変換材料の任意の焼結面にて、測定面積240μm×80μmをEBSD(後方散乱電子線回折)で、一つのMgAgAs型結晶粒子内を0.2μm間隔でTiの特性X線を測定し、横軸にTiの特性X線の
ピーク強度
比、縦軸にTiの特性X線
ピーク強度
比毎の頻度をプロットした頻度グラフを作成したとき、頻度グラフはピークが2つ以上存在するMgAgAs型結晶粒子が、結晶粒子の個数割合で30%以上100%以下であることが好ましい。
前述のようなTi濃度の異なる領域を持つMgAgAs型結晶粒子は、単位面積あたり30%以上100%以下存在することにより、単位面積当たりの組織ばらつきを低減し、特性の向上を得ることができる。単位面積あたりの個数割合が30%未満と少ないとTi濃度の異なる領域を持つMgAgAs型結晶粒子の存在割合が少ないので特性のばらつきを発生する恐れがある。特に、多結晶体であるために結晶組織として、所定の割合でTi濃度の異なる領域を持つMgAgAs型結晶粒子が存在することが好ましい。そのため、Ti濃度の異なる領域を持つMgAgAs型結晶粒子は、単位面積あたり30%以上100%以下、さらには50%以上100%以下が好ましい。
また、単位面積当たりのTi濃度の異なる領域を持つMgAgAs型結晶粒子の個数の測定方法は、面積240μm×80μm中に存在する結晶粒子の全体個数と、Ti濃度の異なる結晶粒子の個数をカウントする。個数割合=(Ti濃度の異なる結晶粒子の個数/全体個数)×100%にて求めるものとする。この作業を測定面積(240μm×80μm)3か所について行い、個数割合とする。個数割合の測定には、Ti濃度を特性X線の
ピーク強度比15以上の領域と15未満の領域と分けるカラーマッピングを行えばよい。なお、カラーマッピングを行う際は、Tiの特性X線の
ピーク強度比を20以上と20未満など任意の
ピーク強度比で行えばよい。
前述のように、Ti濃度の頻度グラフにおいてピークが2以上あるものが好ましい。同様の特性を得る方法として、熱電変換材料の任意の断面をEBSD(後方散乱電子線回折)にて一つのMgAgAs型結晶粒子内を0.2μm間隔でTiの特性X線を測定し、横軸にTiの特性X線の
ピーク強度比、縦軸にTiの特性X線
ピーク強度
比毎の頻度をプロットした頻度グラフを作成したとき、頻度グラフはピークが1つであり、ピークを示す頻度に対し、頻度グラブの下限値はピークを示す頻度から−5以下かつ頻度グラフの上限値は、ピークを示す頻度から+5以上であることが挙げられる。また、頻度グラフの上限値から下限値を引いた値が15以上、さらには20以上であることが好ましい。
頻度グラフのピークが1つであったとしても、ピークを示す頻度に対し下限値が−5以下、上限値が+5以上、つまりは「上限値−下限値≧10」であれば、MgAgAs型結晶粒子内のTi濃度差が大きくなるため頻度グラフにピークが2以上あるものと同様の効果が得られる。また、MgAgAs型結晶粒子内のTi濃度差を大きくするために、頻度グラフの上限値から下限値を引いた値が15以上、さらには20以上であることが好ましい。
また、前述の頻度グラフにピークが2以上あるもの、ピークが1つであるが「上限値−下限値≧10」のいずれもMgAgAs型結晶粒子内のTi濃度差を大きくしたものである。Ti濃度差をつけた場合、A元素であるZrおよびHfはTi濃度に応じて濃度が低下する。また、D元素であるNiまたはCoは大きな濃度変化は生じない。また、X元素であるSnまたはSbはTi濃度に応じて濃度が高くなる。つまり、Tiリッチな領域はSnリッチな領域、Tiプアな領域はSnプアな領域となる。この理由は、TiCoSb、TiCoSn,ZrCoSb、ZrCoSn,の格子定数をAsTMカードで比較すると、前3者は立方晶構造(ハーフホイスラー相)であり、それぞれa=5.884Å、6.009Å、6.070Åであり、一方ZrCoSnは六方晶(a=7.142Å、c=3.583Å)である。従って、立方晶構造の安定領域範囲の格子定数の場合、TiCoSn相とZrCoSb相の格子定数が比較的近く、金属組織内での歪低減の点から、この2相すなわちTiリッチ相ではSnリッチ、Tiプア相ではSnプアとなることが考えられる。MgAgAs型結晶粒子内のTi濃度差を付けることにより、組成式(1)に示した構成元素に関して、それぞれ濃度差が発生する。このような濃度差が発生することもMgAgAs型結晶粒子の熱伝導率を下げることができる。
また、熱電変換材料の任意の断面にて単位面積240μm×80μmをEBSD(後方散乱電子線回折)分析したとき、単位面積あたりの結晶粒子の全数を1とした場合、(001)面、(101)面、(111)面のいずれの結晶方位を示す結晶粒子の個数割合が0.5未満であることが好ましい。単位面積あたりの結晶粒子の全数を1とした場合、(001)面、(101)面、(111)面のいずれの結晶方位を示す結晶粒子の個数割合が0.5未満であるとうことは、特定の結晶方位に配向した結晶組織ではなく、ランダム配向した結晶組織であることを示す。ランダム配向である方が組織の均一化がはかれ特性が安定化する。
また、平均結晶粒径が2〜40μmであることが好ましい。平均結晶粒径が2μm未満では結晶粒子が小さすぎて一つの結晶粒子内にTi濃度の異なる領域を有する結晶粒子を形成し難くなる。また、平均結晶粒径が40μmを超えて大きいと、結晶組織のばらつきが大きくなる恐れがある。そのため、平均結晶粒径は2〜40μm、さらには5〜20μmが好ましい。なお、平均結晶粒径の測定方法は、面積240μm×80μmをEBSD分析したときの組織写真を用い、個々の結晶粒子の最も長い対角線を粒径とする。この作業を50粒行い、その平均値を平均結晶粒径とする。また、評価する面積240μm×80μmで50粒に到達しないときは、50粒に到達するまで追加分析を行うものとする。
また、多結晶体が焼結体であることが好ましい。後述するように焼結体であれば、歩留まり良く製造することができる。
次に熱電変換モジュールについて説明する。
図1に熱電変換モジュールの一例を示した。
図1中、1はP型熱電変換材料、2はN型熱電変換材料、3aおよび3bは電極、4aおよび4bは絶縁基板、5はホール、6は電子、である。P型熱電変換材料1およびN型熱電変換材料2の下面は、下側の絶縁基板4bに支持された電極3によって接続されている。P型熱電変換材料1およびN型熱電変換材料2のそれぞれの上面には、電極3b、3bが配置され、その外側に上側の絶縁基板4aが設けられている。P型熱電変換材料1とN型熱電変換材料2はペアで配置され、P型とN型の熱電変換材料が交互に複数個配置された構造となっている。
熱電モジュールの熱電変換材料のうちN型もしくはP型のいずれか一方または両方に実施形態の熱電変換材料を用いるものとする。N型またはP型のいずれか一方のみに実施形態の熱電変換材料を用いる場合、他方には、Bi−Te系、Pb−Te系などの材料を用いてもよい。なお、熱電モジュールの特性やPbの有害性を考慮するとP型、N型の両方に実施形態の熱電変換材料を用いることが好ましい。
また、絶縁基板(4a、4b)には、セラミックス基板、例えば3点曲げ強度700MPa以上の窒化珪素基板が好ましい。窒化珪素基板を用いることにより熱電モジュールの耐熱性を向上させることができる。また、電極(3a,3b,3)は、銅板、アルミニウム板など導電性の良いものが好ましい。また、電極と熱電変換材料との接合には高温ろう材を用いることが好ましい。高温ろう材は、融点が600〜900℃の範囲であることが好ましい。また、必要に応じ、接合面に金属メッキ処理を施してもよい。
実施形態の熱電変換材料は高温側が300〜500℃の高温領域であっても使用可能である。例えば、500℃の高温環境下で使う場合、ろう材の融点が600℃以上でないとろう材が溶けてしまいモジュールが破損する。
次に、熱電変換モジュールの原理を説明する。下側の絶縁基板4bを低温に、上側の絶縁基板4aを高温にするように温度差を与える。この場合、P型熱電変換材料1の内部では正の電荷を持ったホール5が高温側(上側)に移動する。一方、N型熱電変換材料2の内部では負の電荷を持った電子6が高温側(上側)に移動する。その結果、P型熱電変換材料1上部の電極3aとN型熱電変換材料2上部の電極3bとの間に電位差が生じる。この現象を利用して、熱を電気に変換したり、電気を熱に変換したりすることができる。
また、前述のろう材や窒化珪素基板を使うことにより、耐熱特性が上がり、500℃近い高温環境や、低温側と高温側の温度差が100℃以上あるような負荷の高い環境でも優れた特性を示すことができる。
また、
図1では、p型とn型の一対のモジュール構造を例示したが、p型とn型の一対の組合せを複数個並べて大型してもよい。実施形態の熱電変換材料は特性の向上と、特性ばらつきを低減してあるので、熱電変換モジュールの特性安定化に有効である。
次に、実施形態の熱電変換材料の製造方法について説明する。実施形態の熱電変換材料の製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく得る方法として次の製造方法が挙げられる。
また、実施形態の第一の熱電変換材料の製造方法は、組成式(1)を満たす原料溶湯を調製する工程と、原料溶湯を冷却速度100℃/s以下で冷却して原料粉末を調製する工程と、得られた原料粉末を成形する工程と、得られた成形体を焼結する工程、を具備することを特徴とするものである。
まず、組成式(1)を満たす原料溶湯を調製する工程を行う。原料溶湯を調製する工程では、A元素、Ti、D元素、X元素を目的とする組成式(1)になるように混合し、溶解して原料溶湯を調製する。原料粉末の溶湯を作製する場合は、アーク溶解や高周波溶解などの溶解法が好ましい。また、溶融するルツボはアルミナ、マグネシア、カルシアであることが好ましい。ルツボで原料を溶融していると、不純物としてルツボを構成する成分が混入する場合がある。前述のように不純物Alが混入したとしても、NiやCoなどのD元素と反応するため不純物混入の影響を低下させることができる。
原料溶湯を冷却速度100℃/s以下で冷却して原料粉末を調製する工程を行う。原料溶湯は、通常1500℃以上の高温になる。ルツボから金型に流し込むと、通常、500℃/s以上の急冷状態となる。第一の製造方法では、この冷却工程を100℃/s以下と比較的ゆっくり冷やすことが必要である。冷却速度を100℃/s以下とすると金型中での原料溶湯の冷え方に差がでるため、Ti濃度の異なる領域のあるMgAgAs型結晶粒子が形成され易い。また、冷却速度を100℃/s以下にする方法としては、金型を予熱しておく方法などが挙げられる。
また、原料粉末を調製する工程が、冷却工程にて作製したインゴットを粉砕処理する工程を具備することが好ましい。前述のように金型に投入された原料溶湯は冷却されてインゴットとなる。粉砕工程は、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。例えば、平均粒径10μm以下に粉砕する場合はジェットミルで、10μmを超える場合はハンマーミル、あるいはピンミルなどを用いればよい。また、これらの粉砕方法を組み合わせてもよい。また、粉砕工程は、不活性雰囲気中で行う事が望ましい。また、原料粉末の平均粒径を1μm以上60μm以下とすることが好ましい。原料粉末の調製を行うことにより、成形性、焼結性が良くなる。
次に、得られた原料粉末を成形する工程を行う。成形工程は、金型成形やシート成形などが挙げられる。また、成型工程では必要に応じPVAなど有機バインダを用いるものとする。
また、成形体のサイズは、実際の熱電変換材料よりも大型化してもよいし、実際の熱電変換材料に近いニアネットシェイプ成形体であってもよい。
次に、得られた成形体を焼結する工程を行う。焼結方法は、常圧焼結、雰囲気加圧焼結法、ホットプレス法、SPS(放電プラズマ焼結)法、HIP(熱間静水圧プレス)法などが挙げられる。ホットプレス法では成形と焼結を同じ金型で行う方法あってもよい。また、焼結工程は焼結体の酸化防止という観点から、例えばArなどの不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
また、焼結温度は950℃以上1600℃以下、焼結時間が0.5h以上50h以下、焼結圧力は常圧以上200MPa以下であることが好ましい。
また、得られた焼結体の密度は相対密度98%以上となるように焼結することが好ましい。なお、焼結体密度は(アルキメデス法による実測値/理論密度)×100%により求めることができる。
なお、焼結体から熱電変換材料(熱電素子)を切断加工で切り出す場合は、きりしろが多くなり、材料の利用効率が低下する。このため、ニアネットシェイププロセスを適用し、ほぼ素子形状に近い寸法に成形し、焼結することが好ましい。また、常圧焼結で若干焼結密度が不足の場合、HIP処理により高密度化することもできる。
また、焼結体形状は、円柱形状、直方体形状など様々な形状が適用できる。また、焼結体は必要に応じ、表面研磨加工を施してもよい。また、焼結体を切断加工して複数の熱電変換材料を切り出す多数個取りを行ってもよい。
また、熱電モジュールに搭載する際の熱電変換材料の寸法としては、例えば、外径0.5〜10mm、厚み1〜30mmの円柱状や、0.5〜10mm角で厚み1〜30mmの直方体状などが挙げられる。
また、この後加工品の寸法精度を上げるために、機械研磨などの方法により公差を小さくすることができる。さらに、加工後の試料に対して、4面に高耐熱の絶縁コーティング、2面にメッキあるいは蒸着により、Ni、Ni/AuあるいはTi/Ni/Auなどの表面処理を行う事ができる。その厚さは、トータルで1〜20μmあればよい。これは、ろう接合時の濡れ性向上による接合部の高信頼性、さらには材料の拡散を防ぐバリア層としての効果がある。
次に、第二の製造方法について説明する。第二の製造方法は、組成式(1)を満たす原料溶湯を調製する工程と、原料溶湯を100℃/sを超える冷却速度で急冷して原料粉末を調製する工程と、得られた原料粉末に熱処理する工程と、熱処理後の原料粉末を成形する工程と、得られた成形体を焼結する工程、を具備することを特徴とするものである。
原料溶湯を調製する工程は第一の製造方法と同じため省略する。第二の製造方法では、原料溶湯を100℃/sを超える冷却速度で急冷して原料粉末を調製する工程を行う。そして、得られた原料粉末に熱処理する工程を行うものである。
100℃/sを超える冷却速度で急冷する工程としては単ロール法、双ロール法、回転ディスク法、ガスアトマイズ法などが挙げられる。溶湯の投入量、ロールやディスクの回転速度、ガスの噴射量を調整することにより、得られる原料粉末の粒径を制御できるので好ましい。また、ガスアトマイズ法は粉砕時の不純物混入を防ぐことができる。
100℃/sを超える冷却速度で急冷する工程で原料粉末を調製した場合、第一の製造方法とは異なり、粉末段階ではTi濃度の異なる領域を有するMgAgAs型結晶粒子が形成され難い。そのため、原料粉末に熱処理を施すことが好ましい。熱処理条件は、800〜1500℃で1〜1000時間、不活性雰囲気中で熱処理することが好ましい。100℃/sを超える冷却速度で調整された原料粉末であったとしても、熱処理を施すことによりTi濃度の異なる領域を有するMgAgAs型結晶粒子を形成することができる。
以後の、成型工程、焼結工程は第一の製造方法と同じである。
次に第三の製造方法について説明する。実施形態の第三の熱電変換材料の製造方法は、組成式(1)を満たす原料溶湯を調製する工程と、原料溶湯を100℃/sを超える冷却速度で急冷して原料粉末を調製する工程と、得られた原料粉末を成形する工程と、得られた成形体を焼結する工程、得られた焼結体に熱処理を施す熱処理工程を具備することを特徴とするものである。
原料溶融を調製する工程は第一の製造方法と同じである。また、原料溶湯を100℃/sを超える冷却速度で急冷して原料粉末を調製する工程は第二の製造方法と同じである。また、成型工程および焼結工程は第一の製造方法と同じである。
第三の製造方法では、焼結体を得た後、熱処理を施すことを特徴とするものである。この熱処理は、800〜1600℃で1〜1000時間、不活性雰囲気中で熱処理することが好ましい。焼結体に熱処理を施しても、Ti濃度の異なる領域を有するMgAgAs型結晶粒子を形成することができる。また、この熱処理は、大型の焼結体から最終の形状となる熱電変換材料を切り出してから熱処理を施してもよい。最終形状の熱電変換材料(熱電素子)にしてから熱処理を施した方が、焼結体へ均一に熱が通り、Ti濃度の異なる領域を有するMgAgAs型結晶粒子を形成することができる。この点からすると、ニアネットシェイプを行い、焼結体を予め最終形状の熱電変換材料(熱電素子)に近い形状とする方法も有効である。
上記第一、第二、第三の製造方法は、Ti濃度の頻度グラフが2つ以上のピークを有する熱電変換材料を製造するのに好適なものである。
以上のような第一の製造方法、第二の製造方法、第三の製造方法であれば、歩留まり良く実施形態の熱電変換材料を製造することができる。また、第一の製造方法、第二の製造方法、第三の製造方法共に、組成式(1)を満たす2種以上の原料粉末を混合して用いる方法も有効である。特に、Ti量の異なる2種以上の原料粉末を用いることにより、Ti濃度の差を付与し易い。
また、第四の製造方法は、Ti濃度の頻度グラフが1つのピークを有し、ピークを示す頻度に対し、下限値が−5以下、上限値が+5以上となる熱電変換材料を製造するのに好適な製法である。
第四の製造方法は、まず、組成式(1)を満たす原料溶湯を調製する工程を行う。原料溶湯を調製する工程では、A元素、Ti、D元素、X元素を目的とする組成式(1)になるように混合し、溶解して原料溶湯を調製する。原料粉末の溶湯を作製する場合は、アーク溶解や高周波溶解などの溶解法が好ましい。また、溶融するルツボはアルミナ、マグネシア、カルシアであることが好ましい。ルツボで原料を溶融していると、不純物としてルツボを構成する成分が混入する場合がある。前述のように不純物Alが混入したとしても、NiやCoなどのD元素と反応するため不純物混入の影響を低下させることができる。
次に、原料溶湯を冷却して原料粉末を調製する。このときの冷却速度は100℃/sを超えてよい。具体的は、通常の炉冷(500℃/s)が挙げられる。また、冷却工程は、原料溶湯を金型に入れて行い原料インゴットを調製する。得られた原料インゴットを粉砕して原料粉末を得るものとする。粉砕工程は、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。例えば、平均粒径10μm以下に粉砕する場合はジェットミルで、10μmを超える場合はハンマーミル、あるいはピンミルなどを用いればよい。また、これらの粉砕方法を組み合わせてもよい。また、粉砕工程は、不活性雰囲気中で行う事が望ましい。また、原料粉末の平均粒径を1μm以上60μm以下とすることが好ましい。原料粉末の調製を行うことにより、成形性、焼結性が良くなる。
次に、得られた原料粉末を成形する工程を行う。成形工程は、金型成形やシート成形などが挙げられる。また、成型工程では必要に応じPVAなど有機バインダを用いるものとする。
また、成形体のサイズは、実際の熱電変換材料よりも大型化してもよいし、実際の熱電変換材料に近いニアネットシェイプ成形体であってもよい。
次に、得られた成形体を焼結する工程を行う。焼結方法は、常圧焼結、雰囲気加圧焼結法、ホットプレス法、SPS(放電プラズマ焼結)法、HIP(熱間静水圧プレス)法などが挙げられる。ホットプレス法では成形と焼結を同じ金型で行う方法あってもよい。また、焼結工程は焼結体の酸化防止という観点から、例えばArなどの不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
また、焼結温度は950℃以上1600℃以下、焼結時間が0.5h以上50h以下、焼結圧力は常圧以上200MPa以下であることが好ましい。また、焼結工程後の冷却速度を100℃/s以下にすることが好ましい。焼結工程後の冷却速度を100℃/s以下とゆっくり冷却することにより、MgAgAs型結晶粒子内のTi濃度が均一であったものが焼結工程の熱で濃度分布が変化し、変化した状態で安定となる。この工程を行うことにより、Tiの頻度グラフはピーク1つであるが幅の広いブロードなものとすることができる。また、冷却工程は焼結工程毎に行うものとする。例えば、常圧焼結とHIP焼結を組合せる場合、常圧焼結後の冷却速度を100℃/s以下およびHIP焼結後の冷却速度を100℃/s以下にするものとする。
また、いずれの製造方法であったとしても、得られた焼結体の密度は相対密度98%以上となるように焼結することが好ましい。なお、焼結体密度は(アルキメデス法による実測値/理論密度)×100%により求めることができる。
なお、焼結体から熱電変換材料(熱電素子)を切断加工で切り出す場合は、きりしろが多くなり、材料の利用効率が低下する。このため、ニアネットシェイププロセスを適用し、ほぼ素子形状に近い寸法に成形し、焼結することが好ましい。また、常圧焼結で若干焼結密度が不足の場合、HIP処理により高密度化することもできる。
【実施例】
【0009】
(実施例1〜2)
アルミナルツボを用いて高周波加熱で原料溶湯を調製した。次に、予め加熱した金型に投入し、冷却速度100℃/s以下で冷却してインゴットを調製した。実施例1および実施例2は冷却速度20℃/sとした。得られたインゴットをハンマーミル法にて粉砕し、平均粒径20μmの原料粉末を得た。その後、HIP焼結(1230℃×4時間×100MPa)を行って大型焼結体を作製した。次に、大型焼結体から、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個切り出した。熱電変換材料の組成は表1に示した通りである。また、いずれも焼結体の相対密度は99%以上あった。また、いずれも金属不純物の含有量は500〜1000wtppmの範囲であった。
【表1】
(実施例3〜4)
アルミナルツボを用いて高周波加熱で原料溶湯を調製後、ガスアトマイズ法を用いて、100℃/sを超える冷却速度にて原料粉末を作製した。実施例3および実施例4の冷却速度は1000℃/sとした。得られた原料粉末は平均粒径30μmであった。この原料粉末に対し、Ar雰囲気中で1200℃×30時間の熱処理を施した。
次に、PVAを1wt%混合し、金型を使ったニアネットシェイプ法により、成形体を調製した。成形体に対して、Ar雰囲気中で1550℃×20時間の条件で焼結を行った。その後、HIP焼結(1200℃×2時間×120MPa)を行って、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個作製した。熱電変換材料の組成は表2に示した通りである。また、いずれも焼結体の相対密度は99%以上あった。また、いずれも金属不純物の含有量は200〜700wtppmの範囲であった。
【表2】
(実施例5〜6)
マグネシアルツボを用いて高周波加熱で原料溶湯を調製後、ガスアトマイズ法を用いて、100℃/sを超える冷却速度にて原料粉末を作製した。実施例5および実施例6の冷却速度は500℃/sとした。得られた原料粉末は平均粒径35μmであった。その後、HIP焼結(1150℃×5時間×150MPa)を行って大型焼結体を作製した。次に、大型焼結体から、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個切り出した。次に、Ar雰囲気中で1200℃×100時間の熱処理を施した。熱電変換材料の組成は表3に示した通りである。また、いずれも焼結体の相対密度は99%以上あった。また、いずれも金属不純物の含有量は200〜700wtppmの範囲であった。
【表3】
(実施例7〜8)
アルミナルツボを用いて高周波加熱で原料溶湯を調製した。次に、予め加熱した金型に投入し、冷却速度100℃/s以下で冷却して表4に示す組成のインゴットを調製した。実施例7は冷却速度100℃/s、実施例8は冷却速度80℃/sとした。得られたインゴットをハンマーミル法にて粉砕し、それぞれ平均粒径20μmの原料粉末を得た。実施例7では原料1と原料2を重量比1:1の割合でボールミルを用いて混合し、焼結体用粉末とした。また、実施例8では原料3と原料4を重量比1:1の割合でボールミルを用いて混合し、焼結体用粉末とした。
その後、HIP焼結(1230℃×4時間×100MPa)を行って大型焼結体を作製した。次に、大型焼結体から、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個切り出した。熱電変換材料の組成は表4に示した通りである。また、いずれも焼結体の相対密度は99%以上あった。また、いずれも金属不純物の含有量は500〜1300wtppmの範囲であった。
【表4】
(実施例9〜10)
アルミナルツボを用いて高周波加熱で原料溶湯を調製した。次に、予め加熱した金型に投入し、冷却速度100℃/s以下で冷却してインゴットを調製した。実施例9は冷却速度20℃/s、実施例10は冷却速度5℃/sとした。こののち、1200℃で10時間、Ar雰囲気下で熱処理を行った。得られたインゴットをハンマーミル法にて粉砕し、実施例9は平均粒径25μm、実施例10は平均粒径42μmの原料粉末を得た。その後、HIP焼結(1200℃×10時間×100MPa)を行って大型焼結体を作製した。次に、大型焼結体から、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個切り出した。熱電変換材料の組成は表5に示した通りである。また、いずれも焼結体の相対密度は99%以上あった。また、いずれも金属不純物の含有量は700〜1500wtppmの範囲であった。
【表5】
(比較例1〜2)
アルミナルツボを用いて原料溶湯を調製した。次に、予め加熱しない金型に投入し、冷却速度500℃以上の急冷処理してインゴットを調製した。比較例1および比較例2は冷却速度600℃/sとした。得られたインゴットをハンマーミルを用いて粉砕し、平均粒径20μmの原料粉末を得た。その後、HIP焼結(1250℃×3.5時間×100MPa)を行って大型焼結体を作製した。次に、大型焼結体から、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個切り出した。熱電変換材料の組成は表6に示した通りである。また、いずれも金属不純物の含有量は800〜1700wtppmの範囲であった。
【表6】
(比較例3〜4)
アルミナルツボを用いて高周波加熱により原料溶湯を調整後、ガスアトマイズ法を用いて表7に示した原料5〜8に係る原料粉末を得た。原料5は平均粒径34μm、原料6は平均粒径37μm、原料7は平均粒径38μm、原料8は平均粒径40μmとした。なお、比較例3および比較例4の冷却速度は1000℃/sとした。
次に、原料5と原料6の質量比を焼結体組成になるように秤量し、ボールミルを用いて混合した。混合した粉末をAr雰囲気中で1200℃×3時間×40MPaにてホットプレスした。また、ホットプレス後の冷却速度は炉冷(600℃/s)とした。この作業により比較例3に係るP型熱電変換材料を調製した。
また、原料7と原料8の質量比を焼結体の組成になるように秤量し、ボールミルを用いて混合した。混合した粉末をAr雰囲気中で1300℃×1時間×40MPaにてホットプレスした。また、ホットプレス後の冷却速度は炉冷(600℃/s)とした。この作業により比較例4に係るN型熱電変換材料を調製した。
なお、比較例3は特許文献2(特開2010−129636号公報)の実施例6、比較例4は実施例1に相当するものである。また、いずれも金属不純物の含有量は500〜1800wtppmの範囲であった。
【表7】
実施例1〜10および比較例1〜4に係る熱電変換材料に関して、任意の断面に対してEBSD分析を行った。EBSD分析により、結晶方位、Tiの特性X線の頻度グラフを求めた。EBSD分析には、熱電界放射型走査電子顕微鏡(TFE−SEM)としてJSM−6500F(日本電子製)、エネルギー分散法X線分析計(EDS)はGenesis−S−UTW(EDAX製)を用いた。また、分析条件は加速電圧20.0kV、照射電流8.7nA、試料傾斜70degで行った。また、各試料は焼結体表面を表面粗さRa1μm以下の平坦面に加工した。
Tiの特性X線の頻度グラフは、一つのMgAgAs型結晶粒子において0.2μm間隔でTiの特性X線を測定し、横軸にTiの特性X線の
ピーク強度比、縦軸にTiの特性X線
ピーク強度
比毎の頻度をプロットした頻度グラフを作成した。この作業を測定面積240μm×80μmに対して行い、ピークが2つ以上存在するMgAgAs型結晶粒子の個数割合を求めた。同様に、面積240μm×80μmを用いて平均結晶粒径、MgAgAs型結晶粒子の面積比を求めた。その結果を表8に示す。
【表8】
なお、いずれの実施例および比較例も結晶方位は、(001)面、(101)面、(111)面ともに0.5未満でありランダム配向であった。また、単位面積240μm×80μmに対し、Tiの特性X線の
ピーク強度比を15以上と15未満の領域でカラーマッピングした結果、頻度グラフはピークが2つ以上存在するMgAgAs型結晶粒子の個数割合は表8の結果と一致した。
また、
図4に実施例7の頻度グラフを示した。
図5に実施例1のEBSDによる結晶方位マップ(カラーマッピング)、
図6に比較例3のEBSDによる結晶方位マップ(カラーマッピング)を示した。
図5および
図6はTiの特性X線の
ピーク強度比を15以上と15未満の領域でカラーマッピングした結果である。
図5に示すカラー写真において、赤、青、緑色はそれぞれの結晶粒子が(001)、(111)、(101)方向の配向を意味し、中間色はそれぞれの中間方向の配向を表わしている。また、1個の結晶粒子内に白色部が見られるのは、例えばTiの
ピーク強度
比を15以上としたときに、それ以下の
ピーク強度
比の部分が白色になる。すなわち、一つのMgAgAs型結晶粒子内に存在する白色領域がTiの
ピーク強度比が異なる領域となる。
図5では、ほとんどのMgAgAs型結晶粒子内に白色領域が存在している。一方、
図6のカラー写真に示す通り、MgAgAs型結晶粒子1個ずつが、赤、ピンク、青色、水色、緑色等の様々な色で区分けされている。
図6には、全体が白色に見える結晶粒子が存在するものの、MgAgAs型結晶粒子内には白色領域は存在していない。このため、比較例3にはMgAgAs型結晶粒子内にTi濃度の異なる領域がないことが分かる。
また、実施例7においてSn濃度の頻度グラフを測定したところ、
図4のTi濃度グラフと同様の挙動を示した。つまり、Ti濃度が濃いところはSn濃度も濃くなっていた。逆にTi濃度が薄いところは、Sn濃度も薄くなっていた。このような傾向は他の実施例でも同様であった。
次に、各実施例および比較例の熱電変換材料に対してZT値を測定した。ZT値の測定はアルバック理工製ZEM−3により電気抵抗とゼーベック係数を、熱伝導率は、熱拡散率をAr雰囲気中レーザーフラッシュ法、比熱をDSC法、密度をアルキメデス法でそれぞれ測定し、算出した。また、それぞれ作製した100個に対して測定を行い、平均値、最大値、最小値を示した。その結果を表9に示す。
【表9】
表から分かる通り、実施例に係る熱電変換材料はZT値の平均値が高く、そのばらつきも小さかった。つまり、特性を安定させる効果があることが分かった。そのため、実施例に係る熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールは特性が安定する。特に、P型とN型のペアを1セットとし、50セット以上の大型の熱電変換モジュールに有効である。
(実施例11〜14)
アルミナルツボを用いて高周波加熱で原料溶湯を調製した。次に、水冷金型に投入し、冷却速度500℃/s以上の速度で冷却してインゴットを調製した。実施例11〜12は冷却速度500℃/s、実施例13〜14は600℃/sとした。
なお、実施例11〜12の合金は、800℃×20時間、Ar雰囲気中で熱処理した。得られたインゴットをハンマーミル法にて粉砕し、実施例11〜14は平均粒径40μmの原料粉末を得た。
次に、PVAを5wt%混合し、金型を使ったニアネットシェイプ法により、成形体を調製した。成形体に対して、Ar雰囲気中で1300℃で3時間の条件で焼結を行った。また、焼結後の冷却速度を実施例11および実施例12は冷却速度40℃/s、実施例13および実施例14は冷却速度70℃/sとした。
その後、HIP焼結(1230℃×3時間×120MPa)を行って、縦2mm×横2mm×高さ4mmの熱電変換材料を100個作製した。また、HIP焼結後の冷却速度は実施例11および実施例12は冷却速度10℃/s、実施例13および実施例14は冷却速度5℃/sとした。
熱電変換材料の組成は表10に示した通りである。また、いずれも焼結体の相対密度は99%以上あった。また、いずれも金属不純物の含有量は500〜1000wtppmの範囲であった。
【表10】
実施例11〜14に対し、実施例1と同様の分析を行った。その結果を表11に示す。また、
図7に実施例11の熱電変換材料について、Tiの特性X線強度の
ピーク強度比と頻度との関係を示す頻度グラフを示した。
【表11】
次に、実施例1と同様の方法で、実施例11〜14に係る熱電変換材料に対してZT値を測定した。その結果を表12に示す。
【表12】
表から分かる通り、実施例に係る熱電変換材料はZT値の平均値が高く、そのばらつきも小さかった。頻度グラフのピークが1つであっても、「最大値−最小値≧10」と幅の広いブロードな頻度グラフを示すものであれば、特性が向上することが分かった。
図7に示す実施例11の頻度グラフには、ピークが1つ現れている。ピークを示す頻度をPとし、頻度グラフの下限値(最小値)をV
1、上限値(最大値)をV
2とする。実施例11では、ピークを示す頻度Pが16.5で、最小値V
1が13.5、最大値V
2が29.5であった。よって、実施例11の最小値V
1はピークを示す頻度Pから「−3」小さく、最大値V
2はピークを示す頻度Pから「13」大きく、最大値V
2と最小値V
1との差が16であった。
そのため、実施例に係る熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールは特性が安定する。特に、P型とN型のペアを1セットとし、50セット以上の大型の熱電変換モジュールに有効である。