(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  プロトン又はカチオンの解離によりチオラートアニオンを生成する化合物及びジスルフィド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の含硫黄化合物(但し、チオシアン酸塩を除く。)からなり、p型半導体の結晶成長を制御する結晶成長制御剤(但し、下記(1)及び(2)の結晶成長制御剤を除く;
(1)Cuを含有した第1のジアルキルジチオカルバミン酸化合物、Znを含有した第2のジアルキルジチオカルバミン酸化合物、及びSnを含有した第3のジアルキルジチオカルバミン酸化合物を、脂肪族アミンと脂肪族チオールとの混合溶媒中で加熱処理し、作製した化合物半導体であるp型半導体の結晶成長を制御する結晶成長制御剤。
(2)銅及び/又は銀と、インジウム、ガリウム、亜鉛、及び錫からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素と、硫黄、セレン及びテルルからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とを含むIb−IIIB−VIB化合物又はIb−IIB−IVB−VIB化合物であるp型半導体の結晶成長を制御する結晶成長制御剤)。
  前記含硫黄化合物が、チオール化合物、ジチオカルボン酸化合物、ジチオカルバミン酸化合物、チオアミド化合物又はその互変異性体、チオ尿素化合物又はその互変異性体、及びジスルフィド化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の結晶成長制御剤。
  空孔を有する多孔質n型半導体における前記空孔内で前記p型半導体を結晶化させて、前記空孔の少なくとも一部を前記p型半導体で充填する請求項3に記載の形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
  以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<結晶成長制御剤>
  本発明に係る結晶成長制御剤は、プロトン又はカチオンの解離によりチオラートアニオン(−S
−)を生成する化合物及びジスルフィド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の含硫黄化合物(但し、チオシアン酸塩を除く。)からなり、p型半導体の結晶成長を制御する。上記のチオラートアニオンは、p型半導体表面に配位し、p型半導体を取り囲むことにより、p型半導体表面では結晶成長が起こりにくくなって、結晶サイズの増大が抑制される。また、ジスルフィド化合物は、ジスルフィド結合の開裂により、チオラートアニオンを生じ、その結果、上記と同様にして、結晶サイズの増大が抑制される。また、結晶成長制御剤が有する官能基を適宜選択することにより、その官能基に応じた化学修飾を、p型半導体表面に配位した結晶成長制御剤を通じて、p型半導体表面に施すことができる。
 
【0014】
  含硫黄化合物は、プロトン又はカチオンの解離によりチオラートアニオンを生成する化合物及びジスルフィド化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、かつ、チオシアン酸塩以外のものであれば、特に限定されない。含硫黄化合物のうち、プロトン又はカチオンの解離によりチオラートアニオンを生成する化合物としては、例えば、チオール化合物、ジチオカルボン酸化合物、ジチオカルバミン酸化合物、チオアミド化合物又はその互変異性体、チオ尿素化合物又はその互変異性体等が挙げられる。含硫黄化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0015】
  チオール化合物としては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。
      R
1−SH      (1)
(式中、R
1は、置換基を有していてもよい1価炭化水素基を表す。)
 
【0016】
  R
1としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数6〜20、好ましくは6〜10、より好ましくは6〜8のアリール基、置換基を有してもよい炭素数7〜20、好ましくは7〜10、より好ましくは7〜8のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数7〜20、好ましくは7〜10、より好ましくは7〜8のアルキルアリール基等が挙げられる。置換基としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。置換基を有する場合、その数は1個でも複数個でもよい。
 
【0017】
  チオール化合物の具体例としては、チオグリセロール、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、1,2−エタンジチオール、シクロヘキサンチオール、オクタンチオール等の脂肪族チオール化合物、チオフェノール、p−トルエンチオール、アミノベンゼンチオール等の芳香族チオール化合物等が挙げられる。
 
【0018】
  ジチオカルボン酸化合物としては、例えば、下記式(2−1)又は(2−2)で表されるものが挙げられる。
      R
2−CS−S
−X
+      (2−1)
      (R
2A)
+−CS−S
−      (2−2)
(式(2−1)中、R
2は、水素原子又は置換基を有していてもよい1価炭化水素基又はアルコキシ基を表し、X
+は、第一族元素のカチオン(例えば、H
+、Li
+、Na
+又はK
+)又は下記式(3)で表されるアンモニウムイオンを表す。式(2−2)中、(R
2A)
+は、N
+を有する1価有機基を表す。)
      N
+R
34      (3)
(式中、R
3は、独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい1価炭化水素基を表す。但し、少なくとも1個のR
3は置換基を有していてもよい1価炭化水素基である。)
 
【0019】
  R
2が置換基を有していてもよい1価炭化水素基である場合、R
2としては、例えば、R
1について例示した基が挙げられる。置換基の例及び数は上記のとおりである。R
2がアルコキシ基の場合、炭素数1〜6のものが挙げられる。
  R
3が置換基を有していてもよい1価炭化水素基である場合、R
3としては、例えば、R
1について例示した基が挙げられる。置換基の例及び数は上記のとおりである。
  (R
2A)
+としては、イミダゾリジニウム環含有1価炭化水素基、キノリニウム環含有1価炭化水素基、ピリジニウム環含有1価炭化水素基、ピペラジニウム基含有1価炭化水素基等、N
+を有する複素環式基が挙げられる。
 
【0020】
  ジチオカルボン酸化合物の具体例としては、2−ジチオナフトエートと上記式(3)のアルキルアンモニウムイオンとの塩、2,6−ジフルオロベンゼンカルボジチオネートと上記式(3)のアルキルアンモニウムイオンとの塩、Nsc160482、Nsc273908、Nsc273909等、R
2がアルコキシ基の化合物としては、エチルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸カリウム、ブチルキサントゲン酸カリウム、アミルキサントゲン酸カリウムが挙げられる。
 
【0021】
  ジチオカルバミン酸化合物としては、例えば、下記式(4)で表されるものが挙げられる。
        (R
22N−CS−S
−)
nX
m+    (4)
(式中、R
2は、上記のとおりであり、R
2は、互いに同一でも異なっていてもよい。n及びmは価数を示しn=mである。X
m+は、価数mのカチオンを表す。)
  式(4)におけるR
2としては、置換基を有していてもよい1価炭化水素基が好ましく、置換基を有していてもよい1価炭化水素基は、上記と同様である。mが1の場合、X
m+(つまりX
+)は上記と同様のものが挙げられる。mが2以上の場合は任意の金属イオンを用いることができる。
 
【0022】
  ジチオカルバミン酸化合物の具体例としては、ジエチルジチオカルバミン酸と上記式(3)のアンモニウムイオンとの塩(特にジエチルジチオカルバミン酸ジエチルアンモニウム)、1−ピロリジンカルボジチオ酸と上記式(3)のアルキルアンモニウムイオンとの塩、ジベンジルジチオカルバミン酸と上記式(3)のアルキルアンモニウムイオンとの塩、ジメチルジチオカルバミン酸と上記式(3)のアルキルアンモニウムイオンとの塩、ジブチルジチオカルバミン酸と上記式(3)のアルキルアンモニウムイオンとの塩等が挙げられる。また、ジチオカルバミン酸化合物としては、1価、2価、又は3価の金属イオンとの塩を用いることもできる。例えば、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸銀、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸鉄、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルを用いることができる。
 
【0023】
  チオアミド化合物としては、例えば、下記式(5)で表されるものが挙げられる。
      R
2−CS−NHR
2      (5)
(式中、R
2は、上記のとおりであり、互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)
  上記式(5)のチオアミド化合物は、脱プロトン化し、生じた脱プロトン化体は、以下に示すとおり、共鳴構造の1つがチオラートアニオンを有する。
 
【0025】
  チオアミド化合物の具体例としては、チオアセトアミド、チオベンズアミド、チオイソニコチンアミド、2−ピペリジンチオン、2−ピロリジンチオン、N−フェニルプロパンチオアミド等が挙げられる。
 
【0026】
  チオアミド化合物の互変異性体としては、例えば、下記式(6)で表されるものが挙げられる。
      R
2−C(SH)=NR
2      (6)
(式中、R
2は、上記のとおりであり、互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)
 
【0027】
  チオ尿素化合物としては、例えば、下記式(7)で表されるものが挙げられる。
      R
2NH−CS−NHR
2      (7)
(式中、R
2は、上記のとおりであり、互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)
  上記式(7)のチオ尿素化合物は、脱プロトン化し、生じた脱プロトン化体は、以下に示すとおり、共鳴構造の1つがチオラートアニオンを有する。
 
【0029】
  チオ尿素化合物の具体例としては、チオ尿素、1,3−ジブチル−2−チオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、1,3−ジイソプロピル−2−チオ尿素、2−イミダゾリヂンチオン、1,3−ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3−ジ(p−トリル)チオ尿素、2−チオウラシル、ジチオピリミジン等が挙げられる。
 
【0030】
  チオ尿素化合物の互変異性体としては、例えば、下記式(8)で表されるものが挙げられる。
      R
2NH−C(SH)=NR
2      (8)
(式中、R
2は、上記のとおりであり、互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。)
 
【0031】
  ジスルフィド化合物としては、例えば、下記式(9)で表されるものが挙げられる。
      R
2−S−S−R
2      (9)
(式中、R
2は、上記のとおりであり、互いに同一でも異なっていてもよい。)
 
【0032】
  ジスルフィド化合物の具体例としては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルジスルフィド、ジアリルジスルフィド、シクロヘキシルジスルフィド、フェニルジスルフィド、ベンジルジスルフィド、p−トリルジスルフィド、p−ジクロロジフェニルスルフィド、ジ(3,4−ジクロロフェニル)ジスルフィド、2,2’−ジチオビス(5−クロロアニリン)、4,4’−ジチオピリジン、2,2’−ジチオピリジン、2,4−キシリルジスルフィド、2,3−キシリルジスルフィド、3,5−キシリルジスルフィド、2,4−キシリル2,6−キシリルジスルフィド、2,2’−ジチオサリチル酸、2,2’−ジチオビス(4−tert−ブチルフェノール)等が挙げられる。
 
【0033】
[p型半導体]
  p型半導体としては、特に限定されないが、例えば、銅を含む化合物半導体が挙げられ、1価の銅を含む化合物半導体であることが好ましい。p型半導体の具体例としては、ヨウ化銅、チオシアン酸銅等が挙げられ、導電率、イオン化ポテンシャル、拡散長等の観点から、ヨウ化銅が好ましい。なお、ここでのヨウ化銅には、ヨウ素の一部を塩素又は臭素に任意の割合で置き換えた固溶体も含まれるものとする。p型半導体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0034】
<p型半導体微粒子又はp型半導体微粒子膜の形成方法>
  本発明に係るp型半導体微粒子又はp型半導体微粒子膜の形成方法は、本発明の結晶成長制御剤の存在下でp型半導体を結晶化させる工程を含む。具体的には、例えば、有機溶媒と、この有機溶媒に溶解した結晶成長制御剤及びp型半導体とを含む溶液から上記有機溶媒を蒸発させることによりp型半導体を結晶化させて、p型半導体微粒子又はp型半導体微粒子膜を形成させることができる。有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ピリジン等の窒素含有溶媒、γ−ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、ジ−n−プロピルスルフィド等のスルフィド系溶媒が挙げられ、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が好ましい。結晶成長制御剤、p型半導体、及び有機溶媒の各々は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0035】
  本発明の形成方法で形成されたp型半導体微粒子又は本発明の形成方法で形成されたp型半導体微粒子膜におけるp型半導体微粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)像から測定した粒子径が、好ましくは1〜3000nm、より好ましくは5〜100nmという非常に小さな値を有する。このp型半導体微粒子は、太陽電池における平坦なp型半導体層の形成、全固体型色素増感型太陽電池、量子ドット増感型太陽電池等の増感型太陽電池に用いられる多孔質n型半導体における空孔の充填等に好適に用いることができ、平坦膜を製膜する場合でも、結晶成長抑制剤の使用により、無添加の場合に比べて表面粗さの小さいヨウ化銅膜を形成できる。なお、本発明の形成方法で形成されたp型半導体微粒子膜におけるp型半導体微粒子も、走査型電子顕微鏡(SEM)像から測定した粒子径が、好ましくは1〜3000nm、より好ましくは5〜100nmという非常に小さな値を有する。
 
【0036】
  上記の形成方法において、空孔を有する多孔質n型半導体における上記空孔内でp型半導体を結晶化させて、上記空孔の少なくとも一部をp型半導体で充填することができる。具体的には、例えば、有機溶媒と、この有機溶媒に溶解した結晶成長制御剤及びp型半導体とを含む溶液を多孔質n型半導体に含浸し、上記溶液から上記有機溶媒を蒸発させることにより上記空孔内でp型半導体を結晶化させて、上記空孔の少なくとも一部をp型半導体で充填することができる。
 
【0037】
[n型半導体]
  n型半導体としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物半導体が挙げられる。n型半導体の具体例としては、TiO
2、SnO
2、ZnO、Nb
2O
5、In
2O
3等が挙げられる。電荷分離の効率性等の観点から、TiO
2又はZnOが好ましい。n型半導体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、全固体型色素増感型太陽電池、量子ドット増感型太陽電池等の増感型太陽電池の場合はn型半導体として多孔質n型半導体を用いることが好ましく、当該多孔質n型半導体が有する空孔の直径は、平均で5nm〜1000nm程度であり、好ましくは10nm〜500nm程度である。
 
【0038】
<正孔輸送層形成用組成物>
  本発明に係る太陽電池の正孔輸送層形成用組成物は、p型半導体と、本発明の結晶成長制御剤とを含有する。本発明の正孔輸送層形成用組成物から太陽電池の正孔輸送層を形成することができる。p型半導体及び結晶成長制御剤の各々は、上記のとおりであり、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0039】
  本発明の組成物において、結晶成長制御剤の含有量は、p型半導体の結晶成長を抑制することができる有効量であれば特に限定されないが、例えば、p型半導体100質量部に対し0.00001〜15質量部が好ましい。
 
【0040】
  本発明の組成物は、通常、有機溶媒を含んだ状態で使用される。有機溶媒としては、例えば、上記で例示したものが挙げられる。有機溶媒を含む本発明の組成物において、結晶成長制御剤の濃度は、好ましくは0.01〜20mM、より好ましくは0.1〜15mMである。なお、有機溶媒を含まない状態で使用する場合、結晶成長制御剤の含有量は、例えば、p型半導体100質量部に対し0.002〜10質量部が好ましい。
 
【0041】
  本発明のp型半導体層形成用組成物は、その他の成分として、有機塩(イオン性液体)等を含有してもよい。p型半導体層形成用組成物全体における有機塩の含有量は0〜10質量%が好ましく、0〜1質量%であることがより好ましく、0質量%であることが更に好ましい。
 
【0042】
<太陽電池>
  本発明の第四の態様に係る太陽電池は、導電性基板と対極層との間に、光電変換層と、上記正孔輸送層形成用組成物から形成された正孔輸送層とを備える太陽電池である。このような太陽電池としては、全固体型色素増感型太陽電池、量子ドット増感型太陽電池等の増感型太陽電池;有機薄膜型太陽電池;ペロブスカイト型太陽電池が挙げられる。これらのうち、まず、有機薄膜型太陽電池及びペロブスカイト型太陽電池について、説明する。増感型太陽電池については、後述する。
 
【0043】
  有機薄膜型太陽電池やペロブスカイト型太陽電池としては、例えば、導電性基板と、上記導電性基板上に設けられるn型半導体を含むn型半導体層と、n型半導体層上に設けられる光電変換層と、光電変換層上に設けられるp型半導体層(正孔輸送層)と、p型半導体層上に設けられる対極層と、を備え、p型半導体層は本発明の正孔輸送層形成用組成物から形成されているものが挙げられる。このような太陽電池は、更に、導電性基板の主面のうち、n型半導体層と接する主面とは反対側の主面上に支持基板を備え、対極層の主面のうち、p型半導体層と接する主面とは反対側の主面上に支持基板を備えていてもよい。これらのうち、導電性基板と対極層と支持基板については、後述する<増感型太陽電池>における説明と同様である。
 
【0044】
[n型半導体層]
  n型半導体層は、上記導電性基板上に設けられ、n型半導体からなる。n型半導体は上記[n型半導体]の項で説明したとおりである。
  n型半導体層の厚さは、10nm〜30μm程度が好ましい。
 
【0045】
[光電変換層]
  光電変換層は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する固体状の層である。ペロブスカイト型太陽電池の場合、光電変換層の材料としては、例えば、有機−無機ハイブリッド系のペロブスカイト(例えば、ハロゲン化鉛ペロブスカイト)が挙げられる。
  光電変換層は、上記n型半導体層上に設けられ、公知の堆積法や溶液法(滴下法又は塗布法)等により形成することができる。光電変換層の厚さは、10〜2000nm程度が好ましい。
 
【0046】
[p型半導体層]
  p型半導体層は、上記光電変換層上に設けられ、かつ、本発明の正孔輸送層形成用組成物から形成されている。p型半導体は上記[p型半導体]の項で説明したとおりである。
  p型半導体層の厚さは、100〜3000nm程度が好ましい。
  p型半導体層は、例えば、本発明の正孔輸送層形成用組成物を用いて、公知の塗布法や堆積法により、上記光電変換層上に形成することができる。塗布法を用いる場合は正孔輸送層形成用組成物は、有機溶媒を含むことが好ましい。
 
【0047】
<増感型太陽電池>
  以下、本発明に係る増感型太陽電池について
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第五の態様に係る増感型太陽電池を示す縦断面図である。本発明の第五の態様に係る増感型太陽電池1は、導電性基板2と、上記導電性基板2上に設けられ、空孔を有する多孔質n型半導体3及び多孔質n型半導体3に吸着した増感材料4を含む光電変換層5と、光電変換層5上に設けられ、かつ、上記空孔の少なくとも一部を充填する正孔輸送層6と、正孔輸送層6上に設けられた対極層7と、を備え、正孔輸送層6は本発明の正孔輸送層形成用組成物から形成されている。増感型太陽電池1は、更に、導電性基板2の主面のうち、光電変換層5と接する主面とは反対側の主面上に支持基板8を備え、対極層7の主面のうち、正孔輸送層6と接する主面とは反対側の主面上に支持基板9を備える。
 
【0048】
[導電性基板]
  導電性基板2は、導電性材料からなる基板である。導電性材料としては、例えば、白金、金等の金属、炭素、及びフッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物が挙げられる。支持基板8としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等が挙げられる。プラスチック基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板等が挙げられる。導電性基板2及び支持基板8はともに透明である。
 
【0049】
  導電性基板2の厚さは、100nm〜2μm程度が好ましい。また、支持基板8の厚さは、1μm〜3mm程度が好ましい。
 
【0050】
  導電性基板2は、導電性材料を平板状に成形することで得ることができる。例えば、支持基板8上に導電性材料を積層することにより、導電性基板2を得ることができる。
  なお、例えば、導電性基板2のみで十分な強度が得られる場合には、支持基板8を設けなくてもよい。
 
【0051】
[光電変換層]
  光電変換層5は、上記導電性基板2上に設けられ、空孔を有する多孔質n型半導体3及び多孔質n型半導体3に吸着した増感材料4を含む。多孔質n型半導体3は上記[n型半導体]の項で説明したとおりである。
  光電変換層5の厚さは、100nm〜30μm程度が好ましい。
 
【0052】
  増感型太陽電池1が全固体型色素増感型太陽電池である場合、多孔質n型半導体3に吸着した増感材料4としては、色素が用いられる。増感材料4として用いられる色素は、色素増感型太陽電池に用いられるものであれば、特に限定されない。色素としては、例えば、特許文献1に記載の有機金属錯体色素、メチン色素、ポルフィリン系色素、及びフタロシアニン系色素、特許文献2に記載のフタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アントラキノン顔料、アゾメチン系顔料、キノフタロン系顔料、イソインドリン系顔料、ニトロソ系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料等の有機顔料、炭素系顔料、クロム酸塩系顔料、硫化物系顔料、酸化物系顔料、水酸化物系顔料、フェロシアン化物系顔料、ケイ酸塩系顔料、リン酸塩系顔料等の無機顔料、シアン系色素、キサンテン系色素、アゾ系色素、ハイビスカス色素、ブラックベリー色素、ラズベリー色素、ザクロ果汁色素、クロロフィル色素、特開2011−204789号公報に記載の下記式で表される有機色素分子が挙げられる。色素は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0053】
【化3】
(式中、R
4は、置換基を有していてもよい1価炭化水素基を表す。)
  R
4としては、例えば、R
1について例示した基が挙げられる。置換基の例及び数は上記のとおりである。
 
【0054】
  増感型太陽電池1が量子ドット増感型太陽電池である場合、多孔質n型半導体3に吸着した増感材料4としては、例えば、硫化アンチモン、硫化カドミウム、硫化鉛等の硫化物や、セレン化鉛、セレン化カドミウム等のセレン化物が挙げられる。量子ドット増感型太陽電池において、増感材料4は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 
【0055】
  増感材料4について、増感型太陽電池1が全固体型色素増感型太陽電池又は量子ドット増感型太陽電池である場合を例にして説明したが、増感機能の異なる太陽電池においては、他の増感材料を適宜選択し、多孔質n型半導体3に吸着させる。
 
【0056】
  光電変換層5は、例えば、多孔質n型半導体3を導電性基板2上に塗布して乾燥及び焼成させた後、得られた積層体を増感材料4溶液に浸漬し、多孔質n型半導体3に増感材料4を吸着させ、次に、余分な増感材料4を除去することにより得ることができる。
 
【0057】
[正孔輸送層]
  正孔輸送層6は、上記光電変換層5上に設けられ、かつ、前記空孔の少なくとも一部を充填するものであり、本発明の正孔輸送層形成用組成物から形成されている。正孔輸送層に含まれるp型半導体は上記[p型半導体]の項で説明したとおりである。
  正孔輸送層6の厚さは、100〜3000nm程度が好ましい。
 
【0058】
  正孔輸送層6は、例えば、有機溶媒を含む本発明の正孔輸送層形成用組成物の所定量を所定回数に分けて光電変換層5上に滴下し乾燥させる操作を繰り返すことにより、光電変換層5上に設けられ、かつ、多孔質n型半導体3の空孔の少なくとも一部を充填する。
 
【0059】
[対極層]
  対極層7は、正孔輸送層6上に設けられる。対極層7の材料としては、例えば、白金、金等の金属、炭素、及びフッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物が挙げられる。対極層7は透明であってもよい。
  対極層7の厚さは、特に限定されないが、例えば、15μm程度が好ましい。
 
【0060】
  対極層7は、対極層7の材料が金属である場合には、それら金属を真空蒸着すること又は金属の箔を正孔輸送層6上に載せて貼り付けることにより形成させることができ、対極層7の材料が導電性金属酸化物である場合には、それら導電性金属酸化物をスパッタリング、MOCVD等で成膜すること、又は導電性金属酸化物を正孔輸送層6上に塗布して乾燥させることにより得ることができる。
 
【0061】
  支持基板9の材質及び厚さは支持基板8と同様である。支持基板9は透明であってもよい。なお、例えば、対極層7のみで十分な強度が得られる場合には、支持基板9を設けなくてもよい。
 
【実施例】
【0062】
  以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[ヨウ化銅塗布液の調製]
  ヨウ化銅をアセトニトリルに0.15Mになるように溶解し、得られた溶液に、表1に示す濃度となるように結晶成長制御剤を添加し混合して、ヨウ化銅塗布液を得た。
【0063】
[ヨウ化銅充填多孔質二酸化チタン基板の作成:多孔質二酸化チタンへのヨウ化銅充填]
  ガラス基板(厚さ:1100μm)とその一方の主面を覆うFTO層(厚さ:0.8μm)とからなる透明導電性支持体のFTO層上に二酸化チタンペーストをスクリーン印刷し、150℃で乾燥した後、電気炉で450℃に加熱して、透明導電性支持体とその上に設けられた多孔質二酸化チタン層とを備える多孔質二酸化チタン基板を作製した。この基板を、市販のインドリン系色素D149を0.4mMになるように溶解したアセトニトリル/tert−ブチルアルコール溶液に浸漬し、多孔質二酸化チタンに色素を吸着させた。この基板をアセトニトリルで洗浄して余分な色素を除去した後、この基板を乾燥させて、色素吸着多孔質二酸化チタン基板を得た。
  この色素吸着二酸化チタン基板を、窒素雰囲気下、ホットプレートで60℃に加熱しながら、ヨウ化銅塗布液を10μL滴下し、乾燥後、次の10μLを滴下した。この工程を繰り返し、計200μLのヨウ化銅塗布液を多孔質二酸化チタン基板に滴下し乾燥させて、多孔質二酸化チタンの細孔にヨウ化銅を充填し、ヨウ化銅充填多孔質二酸化チタン基板を得た。多孔質二酸化チタン層上に積層されたヨウ化銅層の厚さは1μmであった。
【0064】
[多孔質二酸化チタンへのヨウ化銅充填性の評価]
  ヨウ化銅の充填性の評価は、上記で得られたヨウ化銅充填多孔質二酸化チタン基板の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を画像処理することで行った。ヨウ化銅を充填した二酸化チタンを含む多孔質二酸化チタン層断面の二次電子像では、帯電状態の差により、ヨウ化銅部分は白色の像、二酸化チタン部分は黒色の像として得られた。二次電子像の白黒が元素組成の差に由来することは、反射電子像と比較することで確認した。得られた二次電子像(8000倍〜10000倍拡大の像)を画像処理ソフトImage  J(National  Institute  of  Health、アメリカ合衆国)により、白/黒二階調化して白色部及び黒色部のピクセル数を計測し、(白色部のピクセル数)/(白色部のピクセル数+黒色部のピクセル数)の比をヨウ化銅の充填率とした。結果を表1に示す(結晶成長制御剤無添加の場合の充填率を1とした)。なお、二階調化の設定は、上記ソフトの自動設定を用いて行った。
【0065】
[表面結晶の形態]
  上記で得られたヨウ化銅充填多孔質二酸化チタン基板の表面のSEM像から、上記表面におけるヨウ化銅結晶の粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
  表1から分かるように、チオール化合物を用いた実施例1〜8、ジチオカルバミン酸化合物を用いた実施例9、チオアミド化合物を用いた実施例10〜12、及びチオ尿素化合物を用いた実施例13〜14では、結晶成長制御剤無添加(比較例1)の場合に比べて、相対充填率が3.1〜1.6に増加しており、二酸化チタン細孔内へのヨウ化銅の充填率の向上が見られた。これまでヨウ化銅の結晶成長抑制として用いられてきたチオシアン酸系イオン性液体(比較例2)を用いた場合には、相対充填率2.69が得られたが、本発明の結晶成長制御剤を用いた場合でも、同等の値が得られた(実施例1、3、4、7、10、13、及び14)。硫黄を分子内に有する化合物でも、チオエーテル(比較例3及び4)及びイソチオシアネート(比較例5)では、ヨウ化銅の結晶成長抑制効果及び二酸化チタン細孔内への充填率向上は見られなかった。他のソフトな塩基である、ピリジン(比較例6)及びトリフェニルホスフィン(比較例7)でも、結晶成長抑制効果及び二酸化チタン細孔内への充填率向上は見られなかった。
【0068】
  ヨウ化銅充填多孔質二酸化チタン基板では、多孔質二酸化チタン層表面にヨウ化銅層が形成されるが、この層表面のヨウ化銅結晶の形態も、結晶成長制御剤の有無で大きく異なった。結晶成長制御剤無添加の場合、及び、充填率が向上しない添加剤の場合は、5μmを超える大きさのヨウ化銅結晶が成長する傾向が見られたが、充填率が向上した結晶成長制御剤の場合は、表面のヨウ化銅結晶のサイズは50〜100nm程度まで小さくなる傾向が見られた。このことから、ヨウ化銅の充填率向上は、結晶成長制御剤でヨウ化銅結晶のサイズが小さくなることによることがわかった。
【0069】
  以上の結果から、チオール化合物、ジチオカルバミン酸化合物、チオシアン酸塩、チオアミド化合物、及びチオ尿素化合物等の、プロトン若しくはカチオンの解離によりチオラートアニオンを生成する含硫黄化合物が、結晶成長抑制効果を示すことがわかった。
【0070】
[結晶成長制御剤による色素脱離評価]
  色素増感型太陽電池では、色素は、通常、カルボン酸部位で二酸化チタン等のn型半導体表面に吸着しているにすぎない。このため、ヨウ化銅充填の際に、結晶成長制御剤がカルボン酸部位にアタックし、色素が脱離する可能性がある。そこで、各結晶成長制御剤による色素脱離につき評価した。
  上記で得た色素吸着多孔質二酸化チタン基板を1cm角に切り出し、様々な濃度の結晶成長制御剤を含むアセトニトリル液10mLに浸漬して1時間放置した後、色素D149の吸収極大である530nmにおけるアセトニトリル液の吸光度A
530を測定した。700nmにおける同アセトニトリル液の吸光度A
700も測定し、A
700を基準として吸光度の差Δ(A
530−A
700)を算出した。結果を
図2に示す。
【0071】
  結晶成長制御剤無添加の場合は、アセトニトリル液の吸光度はほぼゼロだったが、結晶成長制御剤の濃度が高くなるにつれて、アセトニトリル液の吸光度は増加し、色素が色素吸着多孔質二酸化チタン基板から脱離することがわかった。これまでに用いられてきた10mM  1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアナートを用いた場合、アセトニトリル液の吸光度は0.107であった。結晶成長制御剤としてチオグリセロール、オクタンチオール、又はアミノベンゼンチオールを用いた場合、結晶成長制御剤濃度を1mM以下とすれば、従来法と同程度又はそれ以下の色素脱離に抑えられることがわかった。チオアセトアミドでは、濃度に対する吸光度の傾きが上記3種のチオールに比べて小さい、つまり、色素脱離能が低く、結晶成長制御剤として好適なことがわかった。
【0072】
[太陽電池性能の評価]
  比較例1又は実施例14で得たヨウ化銅充填多孔質二酸化チタン基板を作用極、白金箔(15μm)を対極とし、1  sun、AM  1.5の光照射下の電流−電圧特性をポテンショスタットで測定することにより、太陽電池の性能を評価した。結果を相対値で表2に示す(比較例1で得られた各測定値を1とした)。
【0073】
【表2】
【0074】
  表2から分かるように、結晶成長制御剤を用いた実施例14では、結晶成長制御剤無添加(比較例1)の場合に比べて、効率Effが16.4倍も上昇し、短絡電流J
scが13.6倍も上昇した。このように、結晶成長制御剤を用いたことによる充填率の向上がJscの向上につながり、変換効率の向上に寄与していることが確認できた。